(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】ABCB5のリガンドおよび基質
(51)【国際特許分類】
A61K 31/6615 20060101AFI20241227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241227BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20241227BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
A61K31/6615
A61P43/00 111
A61P17/02
A61P9/00
A61P43/00 107
(21)【出願番号】P 2020560247
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 US2019029235
(87)【国際公開番号】W WO2019210109
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-25
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003971
【氏名又は名称】弁理士法人葛和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】フランク,マークス,エイチ.
【審査官】高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-534191(JP,A)
【文献】米国特許第08288378(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
PIP2または以下の構造:
【化1】
ここで、R1およびR2は、独立した脂肪酸鎖であり;ならびに
ここで、R1およびR2は、R1およびR2のうちの他方の少なくとも2倍の長さを有する、
を有する化合物を含む、合成リン脂質を含む、皮膚の創傷治癒の不全、角膜縁幹細胞欠損、加齢における組織再生不全、および乾癬に関連する疾患において、ABCB5-PIP2経路を増強し、これによってABCB5陽性細胞の機能を増強するための組成物であって、
前記PIP2または合成リン脂質が、22:0~26:0の総脂肪酸鎖を有し、任意に、リン脂質が、24:0の総脂肪酸鎖を有していてもよい、前記組成物。
【請求項2】
リン脂質が、式:C
33H
65O
19P
3を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
リン脂質が、[PIP2(6:0/18:0)-H]
-および薬学的に受入可能なキャリアを含む、請求項1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2018年4月25日に出願された米国仮出願番号62/662,670の35U.S.C.§119(e)の利益を主張し、該仮出願の全内容は、本明細書においてその全体において参考として援用される。
【0002】
発明の分野
本発明は、疾患を処置するために幹細胞の活性を調節するための方法および組成物、ならびに関連するアッセイおよび試薬に向けられている。本発明はまた、ABCB5陽性細胞に関連する創傷治癒および組織工学のための方法および組成物に向けられている。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
腫瘍の発生および進行は、DNAレベルにおいて、がん遺伝子、腫瘍抑制因子、および修復/安定性遺伝子の累積変化に関連づけられている。細胞レベルにおいては、ヒトのがんは、自己複製および腫瘍増殖の多様な能力を有する表現型的に異種性の細胞集団からなると認識されている。この観察は、腫瘍の開始および増殖の癌幹細胞(CSC)モデルの開発をもたらし、これは、メラノーマおよび結腸直腸癌を含む複数の悪性病変において、広く確認されている。CSCは、ヒトのがんが脈管構造に浸潤して新たな解剖学的位置に転移する能力に関連する上皮間葉転換(EMT)を含む、腫瘍の進行および治療耐性をもたらす多様な分子機構を通して悪性腫瘍を一貫して根絶するための既存の治療の失敗に寄与することが示されている。
【0004】
ABCB5は、多様なヒト悪性病変において発現される多剤耐性(MDR)調節因子であって、ここで、それは、CSCを代表することが先に見出されている治療耐性のCD133(+)腫瘍亜集団において、特異的に過剰発現される。ABCB5は、癌細胞に、5-フルオロウラシル(5-FU)などの化学療法剤に対する薬剤耐性を付与する。
【0005】
ABCB5+幹細胞はまた、正常な組織において見出され、組織再生および加齢における役割を有する。再生医療は、スキャフォールドなどの外来材料を用いての、組織および臓器の修復、再生、維持および置き換えを含む。スキャフォールドは、初代細胞または幹細胞などの細胞、および組織の増殖を促進する多様な因子と共に播種することができる。しかし、再生医療および組織工学のための適切な材料の設計においては、多数の問題が残っている。
【発明の概要】
【0006】
発明の要旨
本発明は、いくつかの側面において、ABCB5+幹細胞の活性を調節するための方法および組成物に向けられている。本発明はまた、ABCB5+細胞シグナル伝達を調節する化合物を操作するおよび特徴づけるためのアッセイおよび試薬に関する。
【0007】
本発明の側面は、ABCB5陽性細胞の機能を増強する方法に関し、該方法は、それを必要とする対象に、ABCB5-PIP2経路を増強する組成物の有効量を投与することを含む。
いくつかの態様において、本発明は、組成物の投与の後のABCB5-PIP2結合を評価することをさらに含む。
いくつかの態様において、組成物は、PIP2またはPIP2アゴニストである。
いくつかの態様において、対象は、ヒト、またはヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ラマ、もしくは霊長類、例えばサルを含む非ヒト動物である。
【0008】
いくつかの態様において、組成物は、リン脂質を含む。
いくつかの態様において、組成物は、[PIP2(6:0/18:0)-H]-および薬学的に受入可能なキャリアを含む。
いくつかの態様において、組成物は、本明細書において記載される構造を有する化合物を含む、リン脂質を含む。いくつかの態様において、構造は、R1およびR2基を含む。いくつかの態様において、R1およびR2は、独立した脂肪酸鎖である。いくつかの態様において、構造は、R1およびR2が、R1およびR2のうちの他方の少なくとも2倍の長さを有することを含む。いくつかの態様において、構造は、22:0~26:0の総脂肪酸鎖を有する。いくつかの態様において、構造が、24:0の総脂肪酸鎖を有する。
【0009】
いくつかの態様において、対象は、健康な対象である。いくつかの態様において、組成物は、創傷治癒を促進する。いくつかの態様において、組成物は、組織再生を促進する。いくつかの態様において、組成物は、血管新生を促進する。いくつかの態様において、組成物は、細胞の生存を促進する。いくつかの態様において、組成物は、細胞死を抑制する。いくつかの態様において、組成物は、経口、静脈内、皮下、局所、非経口、腫瘍内、筋肉内、鼻内、頭蓋内、舌下、気管内、眼、または髄腔内経路により投与される。
【0010】
本発明の側面は、ABCB5陽性癌細胞の機能を阻害する方法に関し、該方法は、それを必要とする対象に、ABCB5-PIP2経路を阻害する組成物の有効量を投与することを含み、および組成物の投与の後のABCB5-PIP2結合を評価することをさらに含む。
【0011】
本発明の他の側面は、ABCB5陽性癌細胞の機能を阻害する方法に関し、該方法は、それを必要とする対象に、ABCB5-PIP2結合を阻害する組成物の有効量を投与することを含み、ここで、組成物は、小分子、脂質アナログ、タンパク質の細胞外ポリペプチドの環状形態または直鎖形態に対する特異性を有する抗ABCB5抗体またはフラグメント、酵素、およびABCB5 PIP2結合部位の立体構造を改変する抗ABCB5抗体またはそのフラグメントを含む群より選択される。
【0012】
いくつかの態様において、ABCB5 PIP2結合部位の立体構造を改変する抗ABCB5抗体またはそのフラグメントは、PIP3の生成を阻害する。いくつかの態様において、ABCB5 PIP2結合部位の立体構造を改変する抗ABCB5抗体またはそのフラグメントは、PI3K経路を阻害する。
いくつかの態様において、ABCB5-PIP2結合は、組成物の投与の後に評価される。
【0013】
いくつかの態様において、組成物は、PIP2アンタゴニストである。いくつかの態様において、組成物は、小分子、脂質アナログ、タンパク質の細胞外ポリペプチドの環状形態または直鎖形態に対する特異性を有する抗ABCB5抗体またはフラグメント、および酵素を含む群より選択される。いくつかの態様において、組成物は、小分子である。いくつかの態様において、組成物は、タンパク質の細胞外ポリペプチドの環状形態または直鎖形態に対する特異性を有するABCB5抗体またはフラグメントである。いくつかの態様において、組成物は、ABCB5抗体またはABCB5 PIP2結合部位の立体構造を改変するフラグメントである。いくつかの態様において、組成物は、脂質アナログである。いくつかの態様において、組成物は、酵素である。
【0014】
いくつかの態様において、対象は、ヒト、または、ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ラマ、または霊長類、例えばサルを含む非ヒト動物である。
いくつかの態様において、組成物は、経口、静脈内、皮下、局所、非経口、腫瘍内、筋肉内、鼻内、頭蓋内、舌下、気管内、眼、または髄腔内経路により投与される。
【0015】
本発明の側面は、ABCB5-PIP2経路の賦活剤または阻害剤を同定するための方法に関する。いくつかの態様において、本発明は、ABCB5+細胞を、ABCB5-PIP2結合を調節する推定組成物と接触させること;PIP2経路の生成物である化合物のレベルを決定して、当該レベルを、PIP2経路の生成物である化合物の基線レベルと比較することを含む。いくつかの態様において、レベルが基線レベルよりも高い場合、推定組成物はABCB5-PIP2経路賦活剤であると同定される。いくつかの態様において、PIP2経路の生成物である化合物のレベルが基線レベルより低い場合、推定組成物はABCB5-PIP2経路阻害剤であると同定され、推定組成物はABCB5-PIP2である。
【0016】
いくつかの態様において、ABCB5-PIP2経路を調節する推定組成物は、PIP2またはPIP2アゴニストである。いくつかの態様において、ABCB5-PIP2経路を調節する推定組成物は、小分子である。いくつかの態様において、ABCB5-PIP2経路を調節する推定組成物は、抗ABCB5抗体またはそのフラグメントである。いくつかの態様において、PIP2経路化合物は、PIP3である。いくつかの態様において、PIP2経路化合物は、PI3K経路のメンバーである。いくつかの態様において、ABCB5+細胞は、ABCB5アイソフォーム1を含み、ここで、位置970におけるアミノ酸は、リジンである。いくつかの態様において、ABCB5+細胞は、ABCB5アイソフォーム2を含み、ここで、位置525におけるアミノ酸は、リジンである。
【0017】
いくつかの態様において、アッセイは、ABCB5対立遺伝子の数を決定すること、ならびに次いで、幾つがKについて陽性であるか、および幾つがEについて陽性あるかを試験すること、すなわち、コピー数および対立形質の両方の情報を抽出する対立遺伝子特異的定量の手順を含む。
【0018】
本発明の側面は、本明細書において記載されるような構造を有する化合物を含む、合成リン脂質を含む組成物に関する。いくつかの態様において、構造は、R1およびR2基を含む。いくつかの態様において、R1およびR2は、独立した脂肪酸鎖である。いくつかの態様において、R1およびR2は、R1およびR2のうちの他方の少なくとも2倍の長さを有する。いくつかの態様において、リン脂質は、22:0~26:0の総脂肪酸鎖を有する。いくつかの態様において、リン脂質は、24:0の総脂肪酸鎖を有する。いくつかの態様において、リン脂質は、式:C33H65O19P3を有する。いくつかの態様において、リン脂質は、[PIP2(6:0/18:0)-H]-および薬学的に受入可能なキャリアを含む。
【0019】
いくつかの態様において、組成物は、PIP2アナログを含む。いくつかの態様において、組成物は、ABCB5-PIP2経路を増強する。いくつかの態様において、組成物は、創傷治癒を促進する。いくつかの態様において、組成物は、組織再生を促進する。いくつかの態様において、組成物は、血管新生を促進する。いくつかの態様において、組成物は、細胞の生存を促進する。いくつかの態様において、組成物は、細胞死を抑制する。
いくつかの態様において、リン脂質は、リン酸化されたPIP3(6:0/18:0)-H-(C33H65O19P4)および薬学的に受入可能なキャリアを含む。
【0020】
本発明の側面は、ABCB5-PIP2経路を阻害するヒト抗ABCB5抗体またはそのABCB5結合フラグメントに関し、ここで、抗ABCB5抗体またはそのABCB5結合フラグメントは、ABCB5の三次元立体構造の細胞外ループに結合する。
【0021】
いくつかの態様において、ヒト抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントは、ABCB5の非直鎖形態の細胞外ループに特異的に結合するための親和性成熟を含む方法により、調製可能である。いくつかの態様において、ヒト抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントは、ABCB5の非直鎖形態の細胞外ループに特異的に結合するための親和性成熟を含む方法により調製可能な抗体に対応する配列を有する。
【0022】
本発明の側面は、本明細書において記載されるようなABCB5-PIP2経路を阻害するヒト抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントを調製する方法に関する。いくつかの態様において、抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントは、タンパク質の非直鎖形態の細胞外ループに特異的に結合するための親和性成熟に供される。
【0023】
本発明の側面は、ABCB5-PIP2経路を阻害する抗体またはフラグメントを同定するための方法に関する。いくつかの態様において、ABCB5-PIP2経路を阻害する抗体またはフラグメントは、ABCB5+細胞をABCB5に結合する推定の抗体またはフラグメントと接触させること;抗体またはフラグメントによる処置の後にABCB5-PIP2結合を評価すること;PIP2経路の生成物である化合物のレベルを決定して、当該レベルを、PIP2経路の生成物である化合物の基線レベルと比較することにより同定される。
【0024】
いくつかの態様において、PIP2経路の生成物である化合物のレベルが基線レベルより低い場合、推定の抗体またはフラグメントは、ABCB5-PIP2経路の阻害剤である。いくつかの態様において、PIP2経路化合物は、PIP3である。いくつかの態様において、PIP2経路化合物は、PI3K経路のメンバーである。
【0025】
本発明の側面は、2個の膜貫通ドメイン(TMD)および12個の膜貫通ヘリックス(TM1~12)を含む、ABCB5アイソフォーム1に関する。いくつかの態様において、位置970TM12におけるグルタミン酸はリジンに変異させられているか、または、位置970TM12はグルタミン酸である。
【0026】
本発明の側面は、1個の膜貫通ドメイン(TMD)および6個の膜貫通ヘリックス(TM1~6)を含む、ABCB5アイソフォーム2に関する。いくつかの態様において、位置525TM6におけるグルタミン酸はリジンに変異させられているか、または、位置525TM12はグルタミン酸である。
【0027】
本発明の側面は、ABCB5-PIP2経路を阻害するヒト抗ABCB5アイソフォーム抗体またはそのフラグメントに関する。いくつかの態様において、抗ABCB5抗体またはそのABCB5結合フラグメントは、本明細書において記載されるようなABCB5アイソフォーム1または本明細書において記載されるようなABCB5アイソフォーム2に特異的に結合する。
【0028】
本発明の側面は、ABCB5-PIP2経路を阻害するヒト抗ABCB5アイソフォーム抗体またはそのフラグメントに関する。いくつかの態様において、抗ABCB5抗体またはそのABCB5結合フラグメントは、本明細書において記載されるようなABCB5アイソフォーム1またはABCB5アイソフォーム2に特異的に結合する。
【0029】
本発明の側面は、ABCB5-PIP2経路の賦活剤または阻害剤を同定するための方法に関する。いくつかの態様において、方法は、本明細書において記載されるようなABCB5アイソフォーム1またはABCB5アイソフォーム2を、ABCB5-PIP2結合を調節する推定組成物と接触させること;PIP2経路の生成物である化合物のレベルを決定して、当該レベルをPIP2経路の生成物である化合物の基線レベルと比較することを含む。いくつかの態様において、レベルが基線レベルよりも高い場合、推定組成物はABCB5-PIP2経路賦活剤である。いくつかの態様において、PIP2経路化合物のレベルが基線レベルより低い場合推定組成物はABCB5-PIP2阻害剤である。
【0030】
いくつかの態様において、ABCB5-PIP2経路を調節する推定組成物は、PIP2またはPIP2アゴニストである。いくつかの態様において、ABCB5-PIP2経路を調節する推定組成物は、小分子である。いくつかの態様において、ABCB5-PIP2経路を調節する推定組成物は、抗ABCB5抗体またはそのフラグメントである。いくつかの態様において、PIP2経路化合物は、PIP3である。いくつかの態様において、PIP2経路化合物は、PI3K経路のメンバーである。いくつかの態様において、ABCB5アイソフォームは、組み換えにより発現される。
【0031】
本発明の側面は、対象においてがんを処置するための方法に関する。いくつかの態様において、方法は、遺伝子編集を用いて細胞中の内在ABCB5遺伝子を破壊することを含む。いくつかの態様において、編集は、細胞を、Casタンパク質、内在ABCB5遺伝子にハイブリダイズするCRISPR RNA、およびtracrRNAと接触させることを含む。いくつかの態様において、内在ABCB5遺伝子を、Casタンパク質、CRISPR RNA、およびtracrRNAとの接触の後で、ABCB5遺伝子の末端膜貫通ヘリックスをコードする遺伝子の領域におけるAAA配列が、GAAに置き換えられるように修飾する。いくつかの態様において、遺伝子編集は、対象における癌を処置する。
【0032】
いくつかの態様において、対象は、ABCB5ホモ接合アイソフォーム2 K525/K525である遺伝子編集の前に、癌に関連するABCB+幹細胞を有する。いくつかの態様において、がんは、メラノーマまたは神経膠芽腫である。
【0033】
本発明の側面は、対象においてがんを処置するための方法に関する。いくつかの態様において、方法対象に、対象におけるがんを処置するためにABCB5-PIP2経路の機能を阻害するための有効量において、ABCB1阻害剤を投与することを含む。いくつかの態様において、がんは、癌細胞からなり、当該癌細胞は、無視し得るABCB1を発現するか、またはABCB1を発現しない。いくつかの態様において、方法は、投与ステップの前にABCB5+幹細胞の存在を検出することをさらに含む。いくつかの態様において、ABCB1阻害剤はポンプ阻害剤であり、がんは、化学療法剤と同時には処置されない。いくつかの態様において、方法は、組成物の投与の後のABCB5-PIP2結合を評価することをさらに含む.
【0034】
いくつかの態様において、対象は、ABCB5ホモ接合アイソフォーム2 K525/K525である遺伝子編集の前に、癌に関連するABCB+幹細胞を有する。いくつかの態様において、がんは、メラノーマまたは神経膠芽腫である。
【0035】
本発明の側面は、がんを特徴づけるための方法に関する。いくつかの態様において、方法は、がんを特徴づけるために、癌細胞を対象から単離すること、癌細胞が、ABCB5ホモ接合アイソフォーム2 K525/K525であるか、ABCB5ホモ接合アイソフォーム2 E525/E525であるか、またはABCB5ヘテロ接合アイソフォーム2 K525/E525であるかを決定することを含む。
【0036】
本発明の限定要因の各々は、本発明の多様な態様を包含し得る。したがって、任意の1つの要素または要素の組み合わせを含む本発明の限定要因の各々が、本発明の各々の側面において含まれ得ることが、理解される。本発明は、その適用において、以下の説明において記載されるかまたは図面において説明される構成成分の構成および配置の詳細に限定されない。本発明は、他の態様も可能であり、多様な方法において実施または実行することができる。また、本明細書において用いられる表現法および用語は、説明を目的とするものであり、限定するものとしてみなされるべきではない。「含むこと(including)」、「含むこと(comprising)」、または「有すること(having)」、「含むこと(involving)」、および本明細書におけるこれらのバリエーションは、その後に列記される項目よびそれらの等価物、ならびにさらなる項目を包含することを意図される。
【0037】
添付の図面は、縮尺に合わせて描画されることは意図されていない。図面において、多様な図面において図示される各々の同一またはほぼ同一の構成成分は、同じ数字により表される。明確さを目的として、全ての構成成分が全ての図面において標識されてない場合がある。図面において:
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】
図1A~1C。PIP2およびPIP3は、ABCB5に対する生物学的リガンドであり、これは、PIP2およびPIP3のための受容体として働く。ABCB5モノクローナル抗体を用いるイムノブロット(
図1A、上パネル)は、抗PIP2抗体プルダウンを用いるヒトABCB5発現メラノーマ細胞からのPIP2の免疫沈降が、ABCB5タンパク質の共沈を明らかにしたことを示す。PIP2プルダウンは、PIP2抗体によるイムノブロットを用いて確認された(
図1A、下パネル)。ABCB5モノクローナル抗体を用いるイムノブロット(
図1B)は、抗PIP3抗体プルダウンを用いるヒトABCB5発現メラノーマ細胞からのPIP3の免疫沈降が、ABCB5タンパク質の共沈を明らかにしたことを示す。
図1Cは、PIP1、PIP2およびPIP3の全てが、組み換えヒトABCB5のみならず、マウスAbcb5にも結合し、Abcb5ノックアウトマウス組織においては結合の検出は存在しなかったことを示す。PIP2およびPIP3のABCB5への結合は、これにより、PIP1のABCB5への結合よりも効率的であった。
【0039】
【
図2】
図2。PIP1、PIP2およびPIP3のABCB5への結合は、競合的な薬理学的リガンドにより阻害することができる。データは、PtdIns-(1,2-ジオクタノイル)は、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を競合的に阻害することができ、わずか0.1mMの濃度において、見かけ上の効果の飽和を有することを示す。
【0040】
【
図3-1】
図3。ABCB5モノクローナル抗体は、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を遮断することができる。表面プラズモン共鳴(SPR)分析は、PIP1、PIP2およびPIP3のABCB5への結合を示した。抗ABCB5モノクローナル抗体との競合は、3つ全ての表面において、濃度依存的な様式において(PIP3>PIP2>PIP1)、PIP3表面においては50%までの、シグナル低下をもたらした。
【
図3-2】ABCB5モノクローナル抗体は、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を遮断することができる。表面プラズモン共鳴(SPR)分析は、PIP1、PIP2およびPIP3のABCB5への結合を示した。抗ABCB5モノクローナル抗体との競合は、3つ全ての表面において、濃度依存的な様式において(PIP3>PIP2>PIP1)、PIP3表面においては50%までの、シグナル低下をもたらした。
【
図3-3】ABCB5モノクローナル抗体は、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を遮断することができる。表面プラズモン共鳴(SPR)分析は、PIP1、PIP2およびPIP3のABCB5への結合を示した。抗ABCB5モノクローナル抗体との競合は、3つ全ての表面において、濃度依存的な様式において(PIP3>PIP2>PIP1)、PIP3表面においては50%までの、シグナル低下をもたらした。
【0041】
【
図4】
図4。ABCB5は、より効率的なPIP2からPIP3への転換のために、機能的に必要とされる。ABCB5モノクローナル抗体は、ヒトメラノーマ細胞におけるPIP3/PIP2比を著しく低下させた(左パネル)が、アイソタイプ対照抗体はそうではなかった。さらに、マウスABCB5ノックアウト皮膚組織の試験はまた、存在が、ABCB5野生型皮膚と比較して、PIP3/PIP2比を著しく低下させたことを明らかにした(右パネル)。
【0042】
【
図5】
図5。ABCB5は、悪性腫瘍におけるPIP2/PIP3依存的PI3K/AKTシグナル伝達軸を維持するために必要とされ、ABCB5の阻害は、PI3K/AKTシグナル伝達軸の阻害、ならびに依存的な腫瘍増殖および治療耐性をもたらす。ABCB5 WTまたはABCB5 KOバックグラウンドにおける4-HT処置誘導性Tyr::CreER; BrafCA; Ptenlox/lox遺伝マウスメラノーマモデルの分析は、ABCB5 KO対ABCB5 WT腫瘍において、著しいPI3K/AKTシグナル伝達軸の阻害と、さらなる調節不全の分子の中でも、p-AKT、p-mTORおよびp-S6の発現が減弱化したことを明らかにした。
【0043】
【
図6】
図6。ABCB5 WTの状態に対して、ABCB5 KOの状態は、腫瘍細胞の増殖の低下をもたらし、これは、増殖マーカーであるKi-67について陽性に染色される腫瘍細胞のパーセンテージを決定することにより決定された。
【0044】
【
図7】
図7A~7B。ABCB5 WTの状態に対して、ABCB5 KOの状態は、血管新生促進分子の下方調節をもたらし(
図7A、左パネル)、ならびに、結果として、CD31陽性微小血管密度の低下をもたらした(
図7A、右パネル、および
図7B)。
【0045】
【
図8】
図8。ABCB5(+)CRC細胞は、EMT支持(EMT-sustaining)受容体チロシンキナーゼAXLを発現し、これは、ABCB5依存的な癌の浸潤の調節因子として働く。ABCB5 KD対、対照をトランスフェクトされた細胞株における、AXLタンパク質発現の代表的なフローサイトメトリー分析を表すスキャッタープロットのセットを示す。また示されるのは、ABCB5 KD対、対照をトランスフェクトされたヒトCRC細胞における、AXLのmRNA発現を図示する棒グラフである。抗ABCB5 mAb処置されたまたはアイソタイプ対照で処置されたCRC細胞のいずれかにおけるAXL、AKTおよびホスホ-AKTタンパク質発現のウェスタンブロット分析もまた示される。独立t検定を用いてデータを分析した。エラーバーは、s.e.m.を示す。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001。
【0046】
【
図9】
図9。ABCB5は、ベムラフェニブ耐性のために必要とされる完全なPIP2/PIP3依存的PI3K/pAKTシグナル伝達軸を維持することにおけるその機能を通して、腫瘍のベムラフェニブ耐性において重要な役割を果たす。ABCB5 WTまたはABCB5 KOバックグラウンドにける、4-HT処置誘導性Tyr::CreER; BrafCA; Ptenlox/lox遺伝マウスメラノーマモデルにおいて、ABCB5 WTの状態に対して、ABCB5 KOの状態は、BRAF阻害剤であるベムラフェニブの効果に対する完全感作をもたらし、それに対する耐性は、部分的に機能的PI3K/pAKTシグナル伝達軸により駆動される。ベムラフェニブ耐性腫瘍の100%の形成を示したABCB5 WTマウスに対して、ベムラフェニブ処置されたABCB5 KOマウスにおける遺伝子誘導においては、腫瘍の形成は観察されず(左パネル)、生存は、ABCB5 WTマウスに対してABCB5 KOマウスにおいて著しく延長された(右パネル)。
【0047】
【
図10】
図10。ABCB5野生型マウスと比較して、ABCB5ノックアウトにおけるイミキモド誘導性乾癬のマウスモデルにおいて、乾癬が増悪することが見出された。
【0048】
【
図11】
図11。ABCB5の生理学的リガンド/基質結合の質における重要な分子スイッチとしてのABCB5アイソフォーム2のTM6のアミノ酸残基525。K(リジン、コドンAAA)からE(グルタミン酸、コドンGAA)への分子スイッチを、1つの対立遺伝子において、Crispr/Cas9媒介遺伝子編集を通して、基線においてもっぱらABCB5アイソフォーム2発現野生型K525/K525ヒトメラノーマ細胞において、実験的に誘導し、これは、ABCB5シグナル伝達機能が損なわれたクローナルなヘテロ接合性のメラノーマ細胞のバリアントをもたらし、および結果としての著しく阻害されたABCB5駆動性の腫瘍増殖をもたらした(P<0.05)。
【発明を実施するための形態】
【0049】
発明の詳細な説明
本発明は、いくつかの側面において、ATP結合カセット、サブファミリーB(MDR/TAP)、メンバー5(ABCB5)の発見に関する[Frank, N.Y. et al. Regulation of progenitor cell fusion by ABCB5 P-glycoprotein, a novel human ATP-binding cassette transporter. J Biol Chem 278, 47156-65 (2003)およびSchatton, T. et al. Identification of cells initiating human melanomas. Nature 451, 345-9 (2008)]、これは、癌幹細胞および正常な組織特異的な幹細胞の細胞膜において、優先的に高レベルで発現され、ホスファチジルイノシトール4,5-ビスホスフェート(PtdIns(4,5)P2、また単にPIP2としても知られる)のための容体として、より低い程度までは、PIP1およびPIP3のための受容体として働く。「ABCB5(+)幹細胞」とは、本明細書において用いられる場合、自己再生する能力、および複数の成人の細胞系統の成熟細胞に分化する能力を有する細胞を指し、細胞表面上でのABCB5の発現により特徴づけられる。PIP2は、細胞膜において濃縮される細胞膜のマイナーなホスホイノシトールリン脂質成分であり、多数の重要なシグナル伝達タンパク質のための基質であり、例えば、PI3K経路を通して受容体チロシンキナーゼ(RTK)を通して、またはGタンパク質共役型受容体のIP3/DAG経路を通してのシグナル伝達を制御する。ABCB5の阻害を通してのABCB5-PIP2経路の阻害は、PIP2のABCB5への結合を遮断し、結果として、PIP3を生成するPIP2のリン酸化を阻害する。この経路の妨害は、チロシンキナーゼ受容体(例えば、VEGFR1、EGFRおよびAXL)の下流のPI3Kシグナル伝達の阻害をもたらし、それらの幹細胞特異的機能を抑止する。ABCB5 PIP2結合は、当該分野において公知の多様な方法を用いて、評価することができる。例えば、ABCB5 PIP2結合は、免疫沈降、ウェスタンブロッティング、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、免疫蛍光法、顕微鏡法および分光法を含む方法により評価することができる(
図1~3を参照)。
【0050】
本発明の側面は、ABCB5陽性細胞の機能を増強するための方法に関する。本明細書において用いられる場合、「ABCB5陽性細胞の機能」とは、健康な対象におけるABCB5の活性を指し、対象に対して正の効果を有する。例えば、ABCB5陽性細胞の機能は、創傷治癒、組織再生、血管新生、細胞の生存を促進すること、および細胞死を抑制することを含む。創傷治癒、組織再生、血管新生、細胞の生存、および細胞死は、各々のレベルまたは速度を、対照試料におけるレベルまたは速度と相対的に比較することにより決定されることが、理解されるべきである。「対照試料」とは、本明細書において、ABCB5の機能を欠如する試料を指す。「健康な対象」とは、本明細書において用いられる場合、そのほかの点においては疾患を有さない対象である。
【0051】
句「幹細胞特異的な機能」とは、本明細書において用いられる場合、幹細胞に関連するABCB5の活性に関する。例えば、皮膚に関連する健康なABCB5+幹細胞は、血管新生および抗アポトーシス性シグナル伝達のためにABCB5により増強されるPI3Kシグナル伝達ならびに下流のAKTのリン酸化およびmTORシグナル伝達を用い、他の下流の機能の中でも、正常な創傷治癒のために必要とされる幹細胞の生存および血管の分化をもたらす。ABCB5+角膜縁幹細胞は、この経路を、幹細胞の維持のために必要とされる抗アポトーシス性シグナル伝達のために利用する。例えばメラノーマまたは結腸直腸癌におけるABCB5+癌幹細胞は、この経路を、細胞の生存、血管擬態、薬物耐性、ならびにEMTおよび転移性浸潤のために利用する(
図1において示されるとおり、すなわち、ABCB5遮断によるpAKTのリン酸化およびEMTおよび浸潤性の阻害)。
【0052】
PIP2のABCB5結合は、他の機能の中でも、そのPIP3リン酸化の速度を増大するように働くことができ、したがって、ABCB5を発現しない細胞におけるPIP2のシグナル伝達的役割を増強する、幹細胞特異的な相互作用を代表する。ABCB5-PIP2結合はまた、小分子のABCB5競合的なリガンドもしくは基質、またはこれを含む組成物により阻害することができ、これはまた、下流の重要なABCB5依存的な生物学的幹細胞機能のシグナル伝達を阻害する。したがって、本発明は、いくつかの重要な有用性を有する。
したがって、本明細書において記載される発明は、健康な対象における再生を促進するために有用であり得る。
【0053】
本発明はまた、疾患を有するか、または疾患を有するリスクがある対象、例えばがんを有するか、またはがんを有するリスクがある対象の処置において有用であり得る。
対象は、ヒト、または、ヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ラマおよび霊長類、例えばサルを含むがこれらに限定されない脊椎動物の哺乳動物を意味すべきである。したがって、本発明はまた、非ヒト対象における疾患または状態を処置するために用いることができる。例えば、がんは、愛玩動物(すなわち、ネコおよびイヌ)の死亡の主な原因の1つである。好ましくは、対象は、ヒトである。
【0054】
がんを発症するリスクがある対象とは、がんを発症する高い可能性を有する対象である。これらの対象として、例えば、その存在ががんの発症のより高い可能性と相関関係を有することが示されている遺伝子異常を有する対象、およびタバコ、アスベストまたは他の化学毒素などのがんを引き起こす剤に暴露された対象、または以前にがんのために処置されたことがある対象であって、見かけ上の寛解にある対象が挙げられる。がんを有するリスクがある対象はまた、前がん性病変を有する対象を含む。前がん性病変とは、組織の領域であって特性が変化しており、皮膚癌へ変化するリスクを担持するものである。前がん性病変は、例えば、UV照射、遺伝学、ヒ素、タールまたはX線照射などの発癌物質への暴露により引き起こされ得る。
【0055】
癌を有する対象とは、検出可能な癌性細胞を有する対象である。がんは、悪性または非悪性がんであってよい。がんまたは腫瘍は、これらに限定されないが、以下を含む:胆道癌;脳癌;乳癌;子宮頸癌;絨毛癌;結腸癌;子宮内膜癌;食道癌;胃癌;上皮内腫瘍;リンパ腫;肝臓癌;肺癌(例えば、小細胞および非小細胞);メラノーマ;神経芽腫;口腔癌;卵巣癌;膵臓癌;前立腺癌;直腸癌;肉腫;皮膚癌;精巣癌;甲状腺癌;および腎臓癌、ならびに他の癌腫および肉腫。好ましくは、がんは、ABCB5を発現する癌幹細胞を含む。
【0056】
任意に、処置の前に、ABCB5陽性幹細胞の存在は、本明細書において記載される結合分子を用いて検出することができる。本発明により提供される検出または診断方法は、一般に、本発明の1つ以上の分子を、対象中のまたは対象からの試料と接触させることを含む。好ましくは、試料は、第1に、対象から採取されるが、in vivoでの検出方法もまた想起される。試料は、癌幹細胞を含むことが疑われる任意の身体組織または体液を含み得る。例えば、幹細胞は、一般的に、腫瘍塊において、または腫瘍塊の周囲で見出される。
【0057】
ABCB5またはATP結合カセットサブファミリーBメンバー5
その名称が示すとおり、ABCB5は、ATP結合カセットトランスポーターサブファミリーBのメンバーである。それは、ABCB5遺伝子によりコードされる膜貫通タンパク質である。ATP結合カセット(ABC)トランスポーターは、生理学および病態学において、中枢的な役割を果たす。それらは、小さなイオン、糖、およびペプチドから、より複雑な有機分子に及ぶ、構造的に多様な分子の輸送に関与する(Chen et al. 2005)。
【0058】
「ABCB5+幹細胞」または「ABCB5+細胞」とは、本明細書において用いられる場合、自己再生する能力、および複数の成人の細胞系統の成熟細胞に分化する能力を有する細胞を指す。いくつかの態様において、これらの細胞は、ABCB5の発現により特徴づけられる。本発明のいくつかの態様において、ABCB5+細胞は、癌幹細胞である。本発明のいくつかの態様において、ABCB5+細胞は、健康な幹細胞である。
【0059】
本発明の側面は、がんに関与するABCB5アイソフォームの同定に関する。いくつかの態様において、ABCB5アイソフォームは、メラノーマまたは神経膠芽腫に関与する。本明細書において用いられる場合、「ABCB5アイソフォーム」とは、ABCB5の構造の1つのバリアントを有するABCB5タンパク質である。いくつかの態様において、ABCB5アイソフォームは、ABCB5アイソフォーム1(1257アミノ酸)である。ABCB5アイソフォーム1は、各々6個の膜貫通(TM)ヘリックスを有する2個の膜貫通ドメイン(TMD)を含み、すなわち、それは、全部で12個の膜貫通ヘリックス(TM1~12)を含む。いくつかの態様において、ABCB5アイソフォームは、アイソフォーム2(812アミノ酸)を含む。ABCB5アイソフォーム2は、6個の膜貫通(TM)ヘリックス(TM1~6)を有する1つのTMDを含む。ABCB5アイソフォーム2のTM1~6は、ABCB5アイソフォーム1のTM7~12に対応する。さらなる態様において、2つのアイソフォームにおける特異的位置におけるリジン残基の存在は、がんの有病率と関連する。さらなる態様において、残基は、ABCB5アイソフォーム1のTM12における970、およびABCB5アイソフォーム2のTM6における525である。ABCB5アイソフォーム1のTM12においてAA970E>Kを提供し、ABCB5アイソフォーム2のTM6においてAA525E>Kに対応する、ABCB5のコード領域における非同義一ヌクレオチド多型(SNP)は、癌細胞におけるABCB5の機能のために重要であることが見出された。例えば、ABCB5アイソフォーム1のTM12における970およびABCB5アイソフォーム2のTM6における525は、ABCB5陽性幹細胞の機能のために重要である。さらなる態様において、これらの残基は、ABCB5陽性癌幹細胞の機能のために必要とされる。
【0060】
ABCB5基質結合に関与するさらなる残基は、ABCB5アイソフォーム1のTM7におけるN702およびH706(ABCB5アイソフォーム2のTM1におけるN257およびH261に対応する)、ならびにABCB5アイソフォーム1のTM10における857A>T(rs80123476)(ABCB5アイソフォーム2のTM4における412A>T(rs80123476)に対応する)である。
【0061】
より高機能なABCB5アイソフォーム2-K525タンパク質配列、またはABCB5アイソフォーム2-K525タンパク質自体のいずれかをコードする遺伝子、ならびにより低機能なABCB5アイソフォーム2-E525タンパク質配列、またはABCB5アイソフォーム2-E525タンパク質自体をコードする遺伝子は、有用な組成物である。これらの組成物は、例えば、1.ABCB5アイソフォーム2-K525またはABCB5アイソフォーム2-E525を組み換えにより発現するため;2.ABCB5アイソフォーム2-K525およびABCB5アイソフォーム2-E525を、新規の配列特異的なABCB5のリガンドおよび基質を同定するためのドッキングおよび結合の実験において使用するため;ABCB5アイソフォーム2-K525またはABCB5アイソフォーム2-E525を、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を競合的に阻害し、したがってまたABCB5依存的受容体チロシンキナーゼおよびGタンパク質共役型受容体のシグナル伝達を阻害する合成化合物および天然に存在する物質を同定するための、分子スクリーニングにおいて使用するため;ABCB5アイソフォーム2-K525またはABCB5アイソフォーム2-E525を、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を阻害し、したがってまたABCB5依存的受容体チロシンキナーゼおよびGタンパク質共役型受容体のシグナル伝達を阻害する新規ABCB5モノクローナル抗体を同定するための、分子スクリーニングにおいて使用するために、用いることができる。
【0062】
PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を競合的に阻害し、したがってまたABCB5依存的シグナル伝達を阻害する化合物は、本発明により有用である。いくつかの態様において、これらの化合物は、これらに限定されないが、PtdIns-(1,2-ジオクタノイル)、天然のホスファチジルイノシトール(PtdIns)のsn-1およびsn-2位においてC8:0脂肪酸を含む合成アナログ(CAS登録番号899827-36-2)。これらの化合物は、ABCB5+幹細胞に関連するがんを処置するために有用である。
【0063】
いくつかの側面において、本発明は、ABCB1阻害剤をがんを有する対象に投与することにより、がんを処置する方法である。本明細書において、ABCB1阻害剤がまた、ABCB5+がんを処置するためにも有用であることを見出した。これらの化合物は、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を競合的に阻害し、したがって、ABCB5依存的シグナル伝達を阻害する。
【0064】
ABCB1阻害剤とは、本明細書において用いられる場合、細胞におけるABCB1の機能を低下させるかまたはこれを取り除く化合物である。ABCB1阻害剤は、当該分野において公知であり、抗ABCB1抗体ならびにその機能的フラグメントおよび小分子を含む。いくつかのABCB1阻害剤は、心臓疾患または血管疾患の処置のためのABCB1剤、ABCB1+がんの処置のためのABCB1剤、感染性疾患の処置のためのABCB1剤、胃疾患の処置のためのABCB1剤、および種々の疾患の処置のためのABCB1剤である。いくつかの態様において、ABCB1阻害剤として、例えば、PSC 833(Valspodar)、ゾスキダール、タリキダールおよびラニキダール、すなわち、高度に相同なABCB1分子の関連する基質結合部位の基質および/または阻害剤が挙げられる。
【0065】
ABCB1の基質または阻害剤は、多様な疾患の処置について知られている。PIP1、PIP2またはPIP3のための新規のABCB5アイソフォーム2-AA525基質結合部位の発見に基づいて、これらの化合物は、例えば、ABCB5を発現するがんにおいて、ABCB5により駆動されるヒトのがんの増殖および進行を、機能的ABCB5遮断を通して治療的に阻害するために、したがって、ABCB5依存的PIP1、PIP2またはPIP3の結合、ならびにPIP依存的シグナル伝達およびpAKTリン酸化の小分子阻害剤として用いることができる。
【0066】
いくつかの態様において、がんを処置する方法において有用なABCB1阻害剤は、心臓疾患/血管疾患の処置のためのABCB1剤である。これらの化合物の非限定的な例を、以下のリストにおいて示す。
心臓疾患/血管疾患の処置のためのABCB1剤:
【表1】
【0067】
いくつかの態様において、がんを処置する方法において有用なABCB1阻害剤は、感染性疾患の処置のためのABCB1剤である。これらの化合物の非限定的な例を、以下のリストにおいて示す。
感染性疾患の処置のためのABCB1剤
【表2】
【0068】
いくつかの態様において、がんを処置する方法において有用なABCB1阻害剤は、がんの処置のためのABCB1剤である。いくつかの態様において、がんは、ABCB5+がんであり、がんは、ABCB1を有していないか、または無視し得るABCB1を有している。これらの化合物非限定的な例を、以下のリストにおいて示す。
ABCB5+がんの処置のためのABCB1阻害剤
【表3-1】
【表3-2】
【0069】
いくつかの態様において、がんを処置する方法において有用なABCB1阻害剤は、胃疾患の処置のためのABCB1剤である。これらの化合物の非限定的な例を、以下のリストにおいて示す。
胃疾患のためのABCB1剤:
【表4】
【0070】
本発明の方法において有用な他の種々のABCB1阻害剤として、これらに限定されないが、以下が挙げられる:シクロスポリン、シメチジン、アルドステロン、タクロリムス、フェノバルビタール、デキサメタゾン、カルバマゼピン、コルヒチン、ロペラミド、イミプラミン、ヒドロコルチゾン、シタロプラム、タウロコール酸、フェキソフェナジン、プレドニゾン、エストロン、ジアゼパム、ジギトキシン、メチルプレドニゾロン、クエチアピン、オランザピン、クロザピン、プレドニゾロン、ベタメタゾン、アリトレチノイン、ベクロニウム、スタノロン、エピナスチン、エストリオール、スフィンゴシン、セリバスタチン、レベチラセタム、フェニトイン、ラモトリギン、シタグリプチン、ケタゾラム、シロドシン、リバロキサバン、ダビガトランエテキシレート、フェソテロジン、インダカテロール、クロバザム、リナグリプチン、ミラベグロン、ボスチニブ、フロ酸フルチカゾン、ミコフェノール酸モフェチル、ダパグリフロジン、ウメクリジニウム、エドキサバン、ニンテダニブ、オンビタスビル、エルバスビル、グラゾプレビル、オダナカチブ、バリシチニブ、ユビデカレノン、エルツグリフロジン、酢酸スタノロン、酢酸エストラジオール、安息香酸エストラジオール、シピオン酸エストラジオール、ジエナント酸エストラジオール(Estradiol dienanthate)、吉草酸エストラジオール、プロピオン酸テストステロン、アスナプレビル、ソマトスタチン、アバトロンボパグ(Avatrombopag)、ベンラファキシン、トリミプラミン、タクリン、エレトリプタン、スマトリプタン、シロリムス、パリタプレビル、ダサブビル、エリスロマイシン、グラミシジンD、イトラコナゾール、テトラサイクリン、バリノマイシン、トピラメート、テルフェナジン、アンプレナビル、セリプロロール、タリノロール、フルペンチキソール、トリフルオペラジン、ローダミン6G、シンバスタチン、バルスポダール、セリポナーゼアルファ、クルクミン、アスコルビン酸、クロルプロマジン、フェノチアジン、アトルバスタチン、ブロムペリドール、モルヒネ、ペンタゾシン、プロプラノロール、ネオスチグミン、モキシデクチン、メフロキン、フルチカゾン、プロピオン酸フルチカゾン、エラゴリクス、クロロキン、パリペリドン、ルストロンボパグ、ポサコナゾール、ジピリダモール、キニーネ、インドメタシン、アセトアミノフェン、ハロペリドール、ナロキソン、マンニトール、ベトリキサバン、クロミフェン、オマダサイクリン、グラピプラント、ラトロレクチニブ、レベフェナシン、テノホビルジソプロキシル、テノホビルアラフェナミド、テノホビル、レジパスビル、シルデナフィル、バルデナフィル、カベルゴリン、プルカロプリド、リスペリドン、トラマドール、アジスロマイシン、フルコナゾール、ラノラジン、セチリジン、テガセロドおよびドキセピン。
【0071】
PIP2またはホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸
PIP2は、細胞において低レベルで存在するリン脂質であるが、重要な細胞プロセスに関与する。PIP2の細胞での機能のいくつかとして、エンドサイトーシス、エキソサイトーシス、ファゴサイトーシス、および細胞シグナル伝達の制御が挙げられる(Czech et al., 2000)。
本明細書において用いられる場合、「PIP2」とは、ABCB5に結合するリン脂質を指す。
【0072】
本発明の側面は、正常なABCB5幹細胞の機能を増強するためのABCB5-PIP2結合賦活剤を通しての、正常な幹細胞におけるABCB5/PIP2依存的シグナル伝達の増強のための方法である。かかる方法は、それを必要とする対象に、ABCB5-PIP2経路を増強する組成物の有効量を投与すること、および組成物の投与の後のABCB5-PIP2結合を評価することを含む。いくつかの態様において、組成物は、PIP2、PIP2アゴニスト、リン脂質、および[PIP2(6:0/18:0)-H]
-を含む。いくつかの態様において、組成物は、構造:
【化1】
を有する化合物を含む、リン脂質を含む。
【0073】
いくつかの態様において、R1およびR2は、独立した脂肪酸鎖である。いくつかの態様において、R1およびR2が、R1およびR2のうちの他方の少なくとも2倍の長さを有する。いくつかの態様において、構造は、22:0~26:0の総脂肪酸鎖を有する。いくつかの態様において、構造は。22:0、23:0、24:0、25:0または26:0の総脂肪酸鎖を有する。本発明のいくつかの態様において、組成物は、健康な対象に投与される。対象は、ヒト、またはヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ラマ、もしくは霊長類、例えばサルを含む、非ヒト動物であってよい。いくつかの態様において、組成物は、対象において創傷治癒、組織再生、血管新生および細胞の生存を促進するために、加齢を軽減するために、および細胞死を抑制するために、用いられる。本発明のいくつかの態様において、組成物は、経口、静脈内、皮下、局所、非経口、腫瘍内、筋肉内、鼻内、頭蓋内、舌下、気管内、眼、または髄腔内経路により投与される。いくつかの態様において、組成物は、薬学的に受入可能なキャリアをさらに含む。
【0074】
いくつかの態様において、組成物は、PIP2アゴニストを含む。いくつかの態様において、組成物は、
【化2】
を含む。
【0075】
本発明の方法の1つの利点は、それが、ABCB5を発現する幹細胞を有する組織の選択的ターゲティングを可能にすることである。チロシンキナーゼ経路を標的とする既存の治療は、広範な副作用を有する可能性があり、一方、ABCB5/PIP2結合(賦活剤または阻害剤)を標的とする方法はまた、PI3Kシグナル伝達を調節し、やはりABCB5を発現する細胞のサブセットに対するそれらの効果が限定されるであろう。したがって、方法は、より低い副作用の割合を提供すべきである。ABCB5のターゲティングは、特に、現在難治性の転移性疾患を有する患者において、汎発性の疾患に対する独立型の治療アプローチとして、または化学療法剤に対して癌細胞を感作させるための補助的治療として、使用することができる。
【0076】
本発明の側面は、ABCB5依存的癌幹細胞の機能を阻害するための、組成物において含まれる阻害性分子を通してのABCB5-PIP2結合の阻害のための方法に関する。かかる方法は、ABCB5の機能的遮断を表し、組成物の投与の後のABCB5-PIP2結合を評価することをさらに含む。いくつかの態様において、組成物は、PI3K経路を阻害し、腫瘍発生、転移および/またはPI3Kシグナル伝達を調節する薬物に対する耐性、例えば、PI3Kシグナル伝達により媒介されるベムラフェニブに対して耐性のメラノーマ、またはABCB5により増強されるPI3Kシグナル伝達の上方調節を通して媒介されるEGFR阻害剤に対して耐性のがんを抑制する。
【0077】
いくつかの態様において、組成物は、PIP2アンタゴニストを含む。いくつかの態様において、組成物は、小分子、脂質アナログ、タンパク質の細胞外ポリペプチドの環状形態もしくは直鎖形態に対する特異性を有する、抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメント、および酵素を含む群より選択される。いくつかの態様において、組成物は、ABCB5の細胞外ポリペプチドの環状形態もしくは直鎖形態に対する特異性を有する、ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントを含む。いくつかの態様において、組成物は、ABCB5 PIP2結合部位の立体構造を改変する、ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントを含む。いくつかの態様において、ABCB5抗体は、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ヒト抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、単鎖抗体、F(ab’)2、Fab、Fd、Fvまたは単鎖Fvフラグメントを含むリストから選択される。いくつかの態様において、ABCB5抗体は、ABCB5の三次元立体構造の細胞外ループに結合する、ヒト抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントである。いくつかの態様において、ヒト抗ABCB5抗体は、ABCB5の非直鎖形態の細胞外ループを特異的に認識してこれに結合するように、親和性成熟に供される。本明細書において記載されるヒト抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントは、ABCB5の非直鎖形態の細胞外ループに特異的に結合するための親和性成熟を含む方法により調製可能な抗体に対応する配列を有する。
【0078】
本発明の側面は、ABCB5-PIP2経路を阻害するヒト抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントの作製(例えば、調製)に関する。いくつかの態様において、抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントは、タンパク質の非直鎖形態の細胞外ループに特異的に結合するための親和性成熟に供される。親和性成熟のプロセスは、以下により起こり得る:a.ファージディスプレイ、酵母ディスプレイもしくはリボソームディスプレイ;またはb.パニング技術、例えば、抗体が直鎖状の細胞外ループペプチドに対して産生された後に、ペプチドタンパク質を提示して、抗原提示細胞によるプロセッシングを受けさせ、生じる抗体を、ディスプレイアプローチを用いて成熟させることができる
【0079】
本発明のいくつかの態様において、組成物は、健康な対象に投与される。
いくつかの態様において、対象は、ヒト、またはヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ラマ、もしくは霊長類、例えばサルを含む非ヒト動物であってよい。本発明のいくつかの態様において、組成物は、薬物耐性、細胞の生存、上皮間葉転換(EMT)および転移を阻害し、細胞死を促進する。本発明のいくつかの態様において、組成物は、経口、静脈内、皮下、局所、非経口、腫瘍内、筋肉内、鼻内、頭蓋内、舌下、気管内、眼、または髄腔内経路により投与される。
【0080】
本発明の側面は、それを必要とする対象に、ABCB5-PIP2結合を阻害する組成物の有効量を投与することを通して、ABCB5依存的癌幹細胞の機能を阻害するための方法に関する。かかる方法は、ABCB5の機能的遮断を表し、組成物の投与の後のABCB5-PIP2結合を評価することをさらに含む。いくつかの態様において、組成物は、PI3K経路を阻害し、腫瘍発生、転移および/またはPI3Kシグナル伝達を調節する薬物に対する耐性、例えば、PI3Kシグナル伝達により媒介されるベムラフェニブに対して耐性のメラノーマ、またはABCB5により増強されるPI3Kシグナル伝達の上方調節を通して媒介されるEGFR阻害剤に対して耐性のがんを抑制する。
【0081】
いくつかの態様において、組成物は、PIP2アンタゴニストを含む。いくつかの態様において、組成物は、小分子、脂質アナログ、タンパク質の細胞外ポリペプチドの環状形態または直鎖形態に対する特異性を有する抗ABCB5抗体またはABCB5結合フラグメント、および酵素を含む群より選択される。いくつかの態様において、組成物は、ABCB5の細胞外ポリペプチドの環状形態または直鎖形態に対する特異性を有するABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントを含む。いくつかの態様において、組成物は、ABCB5 PIP2結合部位の立体構造を改変するABCB5抗体またはABCB5結合フラグメントを含む。本発明のいくつかの態様において、組成物は、健康な対象に投与される。
【0082】
いくつかの態様において、対象は、ヒト、またはヤギ、ヒツジ、バイソン、ラクダ、ウシ、ブタ、ウサギ、バッファロー、ウマ、ラット、マウス、ネコ、イヌ、ラマ、もしくは霊長類、例えばサルを含む非ヒト動物であってよい。本発明のいくつかの態様において、組成物は、薬物耐性、細胞の生存、上皮間葉転換(EMT)、および転移を阻害し、細胞死を促進する。本発明のいくつかの態様において、組成物は、経口、静脈内、皮下、局所、非経口、腫瘍内、筋肉内、鼻内、頭蓋内、舌下、気管内、眼、または髄腔内経路により投与される。
【0083】
一側面において、本発明は、ABCB5-PIP2結合を阻害または増強し、したがって機能的ABCB5遮断剤または賦活剤を表す分子化合物の発見のための方法において、スクリーニングツールとして有用である。かかる化合物は、脂質アナログ、PIP2またはPIP2アゴニスト、PSC833などの小分子薬物、ならびにABCB5に結合して、分子の立体変化の誘導を通してPIP2結合を遮断し、pAKTリン酸化および下流のシグナル伝達/エフェクター経路を阻害するABCB5 阻害性モノクローナル抗体の新たなサブセットを含む。本発明の方法は、ABCB5+細胞を、ABCB5-PIP2結合を調節する化合物を含む推定組成物と接触させること、PIP2経路の生成物である化合物のレベルを決定することをさらに含む。レベルが基線レベルより大きい場合、推定組成物はABCB5-PIP2経路賦活剤であり、PIP2経路化合物のレベルが基線レベルより低い場合、推定組成物は、ABCB5-PIP2阻害剤である。いくつかの態様において、PIP2経路の生成物である化合物は、PIP3またはPI3K経路のメンバーである化合物である。「基線レベル」とは、本明細書において用いられる場合、ABCB5-PIP2結合を調節する化合物を含む推定組成物に暴露されていない試料の、PIP2経路の生成物である化合物のレベルを指す。
【0084】
本発明の側面は、PIP2の新規のリン脂質アナログを開示し、これは、質量分析により特徴づけられている。PIP2アナログは、新規の内在PIP2バリアント化合物(式C33H65O19P3、24:0の総脂肪酸鎖を有するPIP2、[PIP2(6:0/18:0)-H]として同定されたもの)を表す、脂肪酸鎖組成物を有する。このアナログは、ABCB5ノックアウト細胞において特異的に濃縮され、このことは、ABCB5が、効率的なPIP2の転換のために機能的に必要とされることを示している。
【0085】
PIP2は、化学式:C
47H
80O
19P
3および以下の構造:
【化3】
を有する。
【0086】
他の側面において、本発明は、PIP2の機能的アナログであって、C33H65O19P3を有する構造[PIP2(6:0/18:0)-H]-および24:0の総脂肪酸鎖を有する、新規化合物である。いくつかの態様において、化合物は、ABCB5-PIP2経路を阻害する。本発明のいくつかの態様において、化合物は、薬物耐性、細胞の生存、上皮間葉転換(EMT)、および転移を阻害し、細胞死を促進する。
【0087】
いくつかの側面において、本発明は、構造:
【化4】
を有する化合物であって、
ここで、R1およびR2は、独立して、その構造が22:0~26:0の総脂肪酸鎖を有し、ならびにここで、R
1およびR
2のうちの一方は、R
1およびR
2のうちの他方の少なくとも2倍の長さを有するような、脂肪酸鎖である。いくつかの態様において、構造は、22:0、23:0、24:0、25:0または26:0の総脂肪酸鎖を有する。いくつかの態様において、化合物は、ABCB5-PIP2経路を阻害する。本発明のいくつかの態様において、化合物は、薬物耐性、細胞の生存、上皮間葉転換(EMT)、および転移を阻害し、細胞死を促進する。
【0088】
いくつかの側面において、本発明は、本発明の新規の組成物またはPIP2または他のPIP2アナログのうちの1つを用いて、ABCB5アンタゴニストおよび賦活剤についてスクリーニングするための方法である。本発明の方法は、ABCB5+細胞を、ABCB5-PIP2結合を調節する推定組成物と接触させること、PIP2経路の生成物である化合物のレベルを決定することを、さらに含む。レベルは、基線レベルより大きい場合、推定組成物は、ABCB5-PIP2経路賦活剤であり、PIP2経路の生成物である化合物のレベルが基線レベルより低い場合、推定組成物は、ABCB5-PIP2阻害剤である。いくつかの態様において、PIP2経路化合物は、PIP3、またはPI3K経路のメンバーである化合物である。
【0089】
いくつかの態様において、ABCB5+細胞は、アミノ酸970においてリジンを有するABCB5アイソフォーム1を含む。いくつかの態様において、ABCB5+細胞は、アミノ酸位置525においてリジンを有するABCB5アイソフォーム2を含む。このSNPを発現するABCB5は、ヒトのがんにおいて最も頻繁に見出される。
【0090】
他の側面において、組成物は、かかるスクリーニングアッセイのためのツールである。
他の側面において、本発明は、外因的に投与された場合にABCB5依存的な幹細胞の機能を増強するための治療用化合物としての新規の組成物またはPIP2または他のPIP2アナログの使用のための方法である。
【0091】
有効量
本明細書において記載される方法において、「有効量」とは、所望される治療効果、例えばABCB5-PIP2経路を増強または抑制することを実現することができる、組成物の量を指す。
【0092】
いくつかの態様において、組成物は、PIP2、PIP2アゴニスト、PIP2アンタゴニスト、リン脂質、または[PIP2(6:0/18:0)-H]-を含む。いくつかの態様において、組成物は、PIP2を含む。いくつかの態様において、組成物中のPIP2の量は、1~100%である。いくつかの態様において、組成物中のPIP2の量は、少なくとも1%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるか、またはそれより多い。いくつかの態様において、組成物は、PIP2アゴニストを含む。いくつかの態様において、組成物中のPIP2アゴニストの量は、1~100%である。いくつかの態様において、組成物中のPIP2アゴニストの量は、少なくとも1%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるか、またはそれより多い。
【0093】
いくつかの態様において、組成物は、PIP2アンタゴニストを含む。いくつかの態様において、組成物中のPIP2アンタゴニストの量は、1~100%である。いくつかの態様において、組成物中のPIP2アンタゴニストの量は、少なくとも1%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるか、またはそれより多い。
【0094】
いくつかの態様において、組成物は、リン脂質を含む。いくつかの態様において、組成物中のリン脂質の量は、1~100%である。いくつかの態様において、組成物中のリン脂質の量は、少なくとも1%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるか、またはそれより多い。いくつかの態様において、組成物は、[PIP2(6:0/18:0)-H]-を含む。いくつかの態様において、組成物中の[PIP2(6:0/18:0)-H]-の量は、1~100%である。いくつかの態様において、組成物中の[PIP2(6:0/18:0)-H]-の量は、少なくとも1%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、または少なくとも95%であるか、またはそれより多い。
【0095】
医薬組成物
本明細書において記載されるような化合物、抗体、ならびにコード核酸または核酸のセット、これを含むベクター、またはベクターを含む宿主細胞は、薬学的に受入可能なキャリア(賦形剤)と混合して、標的疾患を処置することにおける使用のための医薬組成物を形成させることができる。「受入可能」とは、当該キャリアが、組成物の活性成分と適合性でなければならず(および好ましくは活性成分を安定化させることができ)、処置されるべき対象にとって有害であってはならないことを意味する。薬学的に受入可能な賦形剤(キャリア)として、当該分野において周知のバッファーが挙げられる。例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版(2000年)、Lippincott WilliamsおよびWilkins編、K. E. Hooverを参照。
【0096】
本方法において用いられるべき医薬組成は、凍結乾燥処方物または水溶液の形態において、薬学的に受入可能なキャリア、賦形剤、または安定化剤を含んでもよい(Remington:The Science and Practice of Pharmacy第20版(2000年)、Lippincott WilliamsおよびWilkins編、K. E. Hoover)。受入可能なキャリア、賦形剤、または安定化剤は、用いられる投与量および濃度においてレシピエントにとって非毒性であり、以下を含んでもよい:リン酸、クエン酸および他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸およびメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチルまたはベンジルアルコール;メチルまたはプロピルパラベンなどのアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;およびm-クレゾールなど);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンまたは免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニンまたはリジンなどのアミノ酸;単糖、二糖、およびグルコース、マンノースまたはデキストランを含む他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロースまたはソルビトールなどの糖;ナトリウムなどの塩形成性の対イオン;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/あるいはTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)またはポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤。
【0097】
いくつかの例において、本明細書において記載される医薬組成物は、化合物または抗体(またはコード核酸)を含有するリポソームを含み、これは、Epstein, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82:3688 (1985);Hwang, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4030 (1980);および米国特許第4,485,045号および同第4,544,545号において記載されるような当該分野において公知の方法により調製することができる。循環時間が延長されたリポソームは、米国特許第5,013,556号において開示される。特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロールおよびPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を用いた逆相蒸発法により作製することができる。リポソームは、既定の孔サイズのフィルターを通して押し出されて、所望される直径を有するリポソームを生じる。
【0098】
化合物または抗体、またはコード核酸はまた、マイクロカプセル中に封入されていてもよく、これは、例えば、コアセルベーション技術により、または界面重合により調製されたもの、例えば、コロイド状薬物送達系(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)において、またはマクロエマルジョンにおいて、それぞれ、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンマイクロカプセルおよびポリ-(メチルメタクリレート)マイクロカプセルであってよい。かかる技術は、当該分野において公知である;例えば、Remington、The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Mack Publishing(2000年)を参照。
【0099】
他の例において、本明細書において記載される医薬組成物は、持続放出の形式において処方することができる。持続放出調製物の好適な例として、化合物または抗体を含む固体の疎水性ポリマーの半透過性のマトリックス(このマトリックスは、成形された物品、例えばフィルムの形態である)、またはマイクロカプセルが挙げられる。持続放出マトリックスの例として、ポリエステル、ハイドロゲル(例えば、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリレート)、またはポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号)、L-グルタミン酸と7-エチル-L-グルタミン酸とのコポリマー、分解不能なエチレン-ビニル酢酸、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸コポリマーおよび酢酸リュープロリドからなる注射可能なマイクロスフェア)などの分解可能な乳酸-グリコール酸コポリマー、酢酸イソ酪酸スクロース、およびポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。
【0100】
他の例において、本明細書において記載される医薬組成物は、特定のプロテアーゼの生物学技術を実行することにより、例えば、腫瘍微小環境における1つまたは複数のプロテアーゼによる選択的プロテアーゼ切断能を可能にするための、抗体の抗原結合部位のペプチドマスキング(Probody(商標)またはConditionally Active Biologics(商標)など)により、組織または腫瘍への選択的な結合に影響を及ぼす、持続放出の形式において処方することができる。活性化は、正常な微小環境において可逆性となるように、処方してもよい。
【0101】
in vivoでの投与のために用いられるべき医薬組成物は、無菌でなければならない。このことは、例えば、無菌のろ過膜を通したろ過により、容易に達成される。治療用の化合物または抗体組成物は、一般に、無菌のアクセスポートを有する容器、例えば、皮下組織注射針により穿刺することができるストッパーを有する静脈内溶液バッグまたはバイアルの中に入れられる。
【0102】
本明細書において記載される医薬組成物は、経口、非経口もしくは直腸投与、または吸入もしくは吹送法(insufflation)による投与のための、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、顆粒、溶液または懸濁液、または坐剤などの単位投与形態におけるものであってよい。
【0103】
錠剤などの固体組成物を調製するために、主な活性成分を、医薬用キャリア、例えば、コーンスターチ、ラクトース、スクロース、ソルビトールタルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、リン酸二カルシウムまたはガムなどの従来の錠剤成形用材料、および他の医薬用希釈剤、例えば水と混合して、本発明の化合物、またはその非毒性の薬学的に受入可能な塩の均一な混合物を含む、固体の予備処方組成物を形成させることができる。これらの予備処方組成物を均一なものとして言及する場合、それは、活性成分が組成物全体に均等に分散しており、したがって、組成物を、錠剤、丸剤およびカプセルなどの等しく有効な単位投与形態に容易に細分画することができることが意味される。この固体の予備処方組成物を、次いで、0.1~約500mgの本発明の活性成分を含有する、上記の型の単位投与形態に細分画する。新規の組成物の錠剤または丸剤は、より長期の作用を可能にする投与形態を提供するために、コーティングするか、または別段に配合することができる。例えば、錠剤または丸剤は、内側の投与構成成分および外側の投与構成成分を含んでもよく、後者が前者を覆うエンベロープの形態であってもよい。2つの構成成分は、胃中での崩壊に耐えて、内側の構成成分が無傷で十二指腸中へと通過するか、または放出を遅延させるように働く腸溶層により分離されていてもよい。かかる腸溶層またはコーティングのために多様な材料を用いることができ、かかる材料は、多数のポリマー酸およびポリマー酸の混合物を、シェラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースなどの材料と共に含む。
【0104】
好適な表面活性剤として、特に非イオン性の剤、例えばポリオキシエチレンソルビタン(例えば、Tween(商標)20、40、60、80または85)および他のソルビタン(例えば、Span(商標)20、40、60、80または85)が挙げられる。表面活性剤を有する組成物は、便利に、0.05~5%の表面活性剤を含み、これは、0.1~2.5%であってもよい。必要であれば、他の材料、例えばマンニトールまたは他の薬学的に受入可能なビヒクルを添加してもよいことが、理解されるであろう。
【0105】
好適なエマルジョンは、市販の脂質エマルジョン、例えばIntralipid(商標)、Liposyn(商標)、Infonutrol(商標)、Lipofundin(商標)およびLipiphysan(商標)を用いて調製することができる。活性成分は、予め混合されたエマルジョン組成物中に溶解されていても、あるいは油脂(例えば、ダイズ油、ベニバナ油、綿実油、ゴマ油、トウモロコシ油またはアーモンド油)中に溶解されていてもよく、エマルジョンは、リン脂質(例えば、卵リン脂質、ダイズリン脂質または大豆レシチン)と水とを混合することにより形成されてもよい。エマルジョンの浸透圧を調整するために、他の材料、例えば、グリセロールまたはグルコースを添加してもよいことが、理解されるであろう。好適なエマルジョンは、典型的には、20%まで、例えば5~20%の油脂を含有するであろう。脂質エマルジョンは、0.1~1.0.im、特に0.1~0.5.imの脂質液滴を含んでもよく、5.5~8.0の範囲のpHを有していてもよい。
【0106】
エマルジョン組成物は、化合物または抗体を、Intralipid(商標)またはその構成成分(ダイズ油、卵リン脂質、グリセロールおよび水)と混合することにより調製されたものであってもよい。。
【0107】
吸入または吹送法のための医薬組成物として、薬学的に受入可能な水性溶媒または有機溶媒またはこれらの混合物中の溶液および懸濁液、および粉末が挙げられる。液体または固体の組成物は、上記のような好適な薬学的に受入可能な賦形剤を含有していてもよい。いくつかの態様において、組成物は、経口または鼻呼吸経路により、局所または全身性効果のために、投与される。
【0108】
好ましくは無菌の薬学的に受入可能な溶媒中の組成物は、気体の使用により、噴霧してもよい。噴霧された溶液は、噴霧デバイスにより直接的に呼吸されても、または噴霧デバイスが、フェイスマスク、テントまたは間欠的陽圧呼吸機に接着されていていてもよい。溶液、懸濁液または粉末組成物は、好ましくは経口でまたは鼻から、処方物を好適な様式において送達するデバイスから投与されてもよい。
【0109】
治療適用
本明細書において記載される化合物または抗体、ならびにコード核酸または核酸のセット、これを含むベクター、または当該ベクターを含む宿主細胞のいずれかは、がん、炎症、感染性疾患、または他の免疫応答の刺激を必要とする悪性病変を処置するために有用である。
【0110】
本明細書において開示される方法を実施するために、本明細書において記載される医薬組成物の有効量は、処置を必要とする対象(例えばヒト)に、静脈内投与(例えばボーラスとしての、または一定の期間にわたる持続注入による)、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、関節内、滑膜内、髄腔内、経口、吸入または局所経路などによる、好適な経路を介して投与することができる。ジェットネブライザーおよび超音波ネブライザーを含む液体処方物のための市販のネブライザーは、投与のために有用である。液体処方物は、直接噴霧することができ、凍結乾燥粉末は、再構成の後で噴霧することができる。あるいは、本明細書において記載されるような化合物または抗体は、フルオロカーボン処方物および定量噴霧式吸入器を用いてエアロゾル化することができ、または、凍結乾燥物および微細粉末として吸入することもできる。
【0111】
本明細書において記載される方法により処置されるべき対象は、がん、または免疫応答の刺激を必要とする他の悪性病変を有するか、これを有するリスクがあるか、またはこれを有することが疑われる、ヒト患者であってよい。標的疾患または障害を有する対象は、慣用的な医学試験、例えば、臨床検査、臓器機能試験、CTスキャンまたは超音波により同定することができる。かかる標的疾患/障害のいずれかを有することが疑われる対象は、当該疾患/障害1つ以上の症状を示している場合がある。疾患/障害のリスクがある対象は、その疾患/障害についてのリスク因子のうちの1つ以上を有する対象であってよい。
【0112】
本明細書において記載される方法および組成物は、がんを処置するために用いることができる。本明細書において記載される方法および組成物により処置することができるがんの例として、これらに限定されないが、以下が挙げられる:肺癌、メラノーマ、腎臓癌、肝臓癌、骨髄腫、前立腺癌、乳癌、結腸直腸癌、胃癌、膵臓癌、甲状腺癌、血液癌、リンパ腫、白血病、皮膚癌、卵巣癌、膀胱癌、尿路上皮癌、頭部頸部癌、癌の転移性病変、および高い遺伝子変異数について診断される全ての型のがん。特定の態様において、がんは、高い遺伝子変異数を有する。多様ながんを有するか、またはこれについてのリスクがある対象は、慣用的な医学的手法により同定することができる。
【0113】
いくつかの例において、ヒト患者は、軟部組織癌、神経膠芽腫、食道およびEGJ癌、乳癌、非小細胞肺癌、卵巣表面上皮癌、原発不明癌、小細胞肺癌、非上皮性卵巣癌、膵臓腺癌、他の女性器管の悪性病変、ブドウ膜メラノーマ、後腹膜または腹腔の肉腫、甲状腺癌、子宮肉腫、胆管細胞癌、前立腺の腺癌、肝細胞癌、神経内分泌腫瘍、子宮頸癌、大腸腺癌、小腸悪性病変、胃腺癌および子宮内膜癌において見出される、高頻度マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability-high:MSI-H)またはミスマッチ修復欠損(mismatch repair deficient:dMMR)を有する。
【0114】
有効量は、当業者により理解されるとおり、処置されている特定の状態、状態の重篤度、年齢、身体的状態、サイズ、性別および体重を含む個々の患者のパラメーター、処置の機関、併用治療(あれば)の性質、投与の具体的な経路、ならびに健康管理者の知識および専門的知識の範囲内の類似の要因に依存して変化する。半減期などの経験的な考慮点は、一般に、投与量の決定に寄与するであろう。例えば、ヒト化抗体または完全ヒト化抗体などのヒトの免疫系と適合可能な抗体を、抗体の半減期を延長するために、および抗体が宿主の免疫系により攻撃されることを防ぐために、用いることができる。投与の頻度を決定し、治療の経過にわたり調整することができ、一般に、必ずしもではないが、標的疾患/障害の処置および/または抑制および/または寛解および/または遅延に基づく。あるいは、抗体の持続連続放出処方物が適切である場合もある。持続放出を達成するための多様な処方物およびデバイスは、当該分野において公知である。
【0115】
一例において、本明細書において記載されるような化合物または抗体のための投与量は、化合物または抗体の所与の1回以上の投与を受けた個体において、経験的に決定することができる。個体は、増加的な化合物の投与量を与えられる。化合物の効力を評価するために、疾患/障害の指標を追跡することができる。
【0116】
一般に、本明細書において記載される化合物または抗体のいずれかの投与のために、最初の候補の投与量は、約2mg/kgであってもよい。本開示の目的のために、典型的な、日毎の、週毎の、2週間毎の、または3週間毎の投与量は、上述の要因に依存して、約0.1μg/kg~3μg/kg~30μg/kg~100μg/kg~300μg/kg~0.6mg/kg、1mg/kg、3mg/kg、10mg/kgまで、30mg/kg~100mg/kg、またはそれより多くのいずれかの範囲であってよい。数日間、数週間、数か月間、またはそれより長くにわたる繰り返し投与のために、状態に依存して、処置は、所望される症状の抑制が起こるまで、または標的疾患もしくは障害もしくはその症状を緩和するために十分な治療レベルが達成されるまで、持続される。例示的な投与レジメンは、3週間毎に約3mg/kgの初期用量を投与し、その後、6週間に1回の約1mg/kgの化合物または抗体の維持用量、または3週間毎に約1mg/kgの維持用量を投与することを含む。しかし、医師が達成することを望む薬物動態学的減衰のパターンに依存して、他の投与レジメンも有用であり得る。例えば、少なくとも1つのさらなる免疫療法剤による処置と組み合わせた3週間毎に1回の1mg/kgの投与が、企図される。いくつかの態様において、約3μg/mg~約3mg/kgの範囲の投与(約3μg/mg、約10μg/mg、約30μg/mg、約100μg/mg、約300μg/mg、約1mg/kg、および約3mg/kgなど)を用いてもよい。いくつかの態様において、投与頻度は、1週間に1回、2週間毎、3週間毎、4週間毎、5週間毎、6週間毎、7週間毎、8週間毎、9週間毎、もしくは10週間毎に1回;または、1か月毎、2か月ごと、もしくは3か月ごと、もしくはそれより長い間に1回である。この治療の進行は、従来の技術およびアッセイにより、容易にモニタリングされる。投与レジメン(用いられる化合物または抗体を含む)は、経時的に変化することができる。
【0117】
いくつかの態様において、通常の体重の成人患者について、約0.1~5.0mg/kgの範囲の用量を投与してよい。いくつかの例において、本明細書において記載される投与量は、10mg/kgであってよい。特定の投与レジメン、すなわち、用量、タイミングおよび反復は、特定の個体およびその個体の病歴、ならびに個々の剤の特性(剤の半減期、および当該分野において周知の他の考慮点など)に依存するであろう。
【0118】
本開示の目的のために、本明細書において記載されるような化合物または抗体の適切な投与量は、使用される特定の化合物または抗体、抗体、および/または非抗体ペプチド(またはその組成物)、疾患/障害の型および重篤度、化合物または抗体が、予防目的で投与されるか治療目的で投与されるか、先の治療、患者の臨床歴およびアンタゴニストに対する応答、および主治医の慎重さに依存するであろう。典型的には、医師は、投与量が、所望される結果を達成するものに至るまで、化合物または抗体を投与するであろう。いくつかの態様において、所望される結果は、腫瘍のサイズの減少、進行のない生存期間の延長、および/または全体的な生存である。投与量が所望される結果をもたらしたか否かを決定する方法は、当業者には明らかであろう。1つ以上の化合物または抗体の投与は、連続的であっても間欠的であってもよく、例えば、レシピエントの生理学的状態、投与の目的が治療的であるか予防的であるか、および熟練した医師に公知の他の要因に依存する。化合物または抗体の投与は、予め選択された期間にわたり、本質的に連続的であっても、または一連の間隔を空けた用量であってもよく、例えば、標的疾患または障害の発症の前であっても、発症中であっても、または発症の後であってもよい。
【0119】
本明細書において用いられる場合、用語「処置すること」とは、標的疾患もしくは障害、疾患/障害の症状、または疾患/障害に向かう素因を有する対象への、障害、疾患の症状、または疾患もしくは障害に向かう素因を、治癒させる(cure)か、治癒させる(heal)か、緩和する(alleviate)か、軽減する(relieve)か、変化させるか、治療する(remedy)か、寛解させる(ameliorate)か、改善するか、またはこれに影響を及ぼすことを目的とした、適用または投与を指す。標的疾患/障害を緩和することは、疾患の発症もしくは進行を遅延させるか、疾患の重篤度を低下させることを含む。処置は、対象が疾患を発症するであろう可能性を低下させる処置のみならず、治療の不在下におけるものと比較して、疾患と戦うか、疾患が悪化することを予防するか、または疾患の進行を遅延させるための、対象が疾患を発症した後の処置を含む。
【0120】
疾患を緩和することは、必ずしも、治癒的結果を必要としない。本明細書において用いられる場合、標的疾患または障害の発症を「遅延させる(delay)」とは、当該疾患の進行を延期するか、妨げるか、遅くする(slow)か、遅延させる(retard)か、これを安定化するか、および/または延期することを意味する。この遅延は、病歴および/または処置されている個体に依存して、多様な長さの時間のものであってよい。疾患を「遅延させる」かもしくは緩和する、または疾患の発症を遅延させる方法とは、当該方法を用いないものと比較した場合に、所与の時間枠の中で疾患の1つ以上の症状を発症する可能性を低下させるか、または所与の時間枠の中で症状の程度を軽減する方法である。かかる比較は、典型的には、統計学的に有意な結果を得るために十分な数の対象を用いる臨床研究に基づく。
【0121】
疾患の「発症」または「進行」とは、当該疾患の最初の徴候および/または後に続く進行を意味する。疾患の発症は、当該分野において周知であるように、標準的な臨床技術を用いて検出可能であり、評価することができる。しかし、発症はまた、進行を指し、これは、検出不能である場合がある。本開示の目的のために、発症または進行とは、症状の生物学的経過を指す。「発症」は、発生(occurrence)、再発(recurrence)、および開始(onset)を含む。本明細書において用いられる場合、標的疾患または障害の「開始」または「発生」は、最初の開始および/または再発を含む。
【0122】
いくつかの態様において、本明細書において記載される化合物または抗体は、処置を必要とする対象に、ABCB5またはABCB5-PIP2経路における他の生成物の活性を、少なくとも20%(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより多く)in vivoで阻害するために十分な量で、投与される。他の態様において、化合物または抗体は、ABCB5またはABCB5-PIP2経路における他の生成物の活性レベルを、少なくとも20%(例えば、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%またはそれより多く)低下させることにおける有効量で投与される。
【0123】
処置されるべき疾患の型または疾患の部位に依存して、医薬の分野における当業者に公知の従来の方法を用いて、医薬組成物を対象に投与することができる。この組成物はまた、他の慣用的な経路を介して投与することができ、例えば、非経口で、局所的に、経口で、吸入スプレーにより、直腸で、鼻から、頬側で、膣で、または移植されたリザーバを介して、投与される。用語「非経口」とは、本明細書において用いられる場合、皮下、皮内、静脈内、腹腔内、腫瘍内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜内、髄腔内、病変内、および頭蓋内注射または注入技術を含む。加えて、それは、注射可能なデポー経路の投与を介して、例えば、1か月、3か月または6か月のデポーの、注射可能なまたは生分解性の材料および方法を用いて、対象に投与することができる。いくつかの例において、医薬組成物は、眼内でまたは硝子体内で投与される。
【0124】
注射可能な組成物は、植物油、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、乳酸エチル、炭酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、エタノール、およびポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)などの多様なキャリアを含んでもよい。静脈内注射のために、水溶性の化合物または抗体を、化合物または抗体および生理学的に受入可能な賦形剤を含有する医薬処方物が注入される点滴法により投与することができる。生理学的に受入可能な賦形剤として、例えば、5%デキストロース、0.9%食塩水、リンガー溶液、または他の好適な賦形剤を挙げることができる。筋肉内用調製物、例えば、化合物または抗体の好適な可溶性の塩形態の無菌の処方物は、注射用水、0.9%食塩水、または5%グルコース溶液などの医薬用賦形剤中で溶解して、投与することができる。
【0125】
一態様において、化合物または抗体を、部位特異的な、またはターゲティングされた局所送達技術を介して投与する。部位特異的な、またはターゲティングされた局所送達技術の例として、多様な移植可能な化合物または抗体のデポーソースまたは局所送達カテーテル、例えば、注入用カテーテル、留置カテーテル、または針カテーテル、合成移植片、外膜ラップ(adventitial wrap)、シャントおよびステントもしくは他の移植可能なデバイス、部位特異的キャリア、直接注射、または直接適用が挙げられる。例えば、PCT公開番号WO 00/53211および米国特許第5,981,568号を参照。
【0126】
アンチセンスポリヌクレオチド、発現ベクター、またはサブゲノムのポリヌクレオチドを含有する治療用組成物のターゲティングされた送達もまた、用いることができる。受容体により媒介されるDNA送達技術は、例えば、以下において記載される:Findeis et al., Trends Biotechnol. (1993) 11:202;Chiou et al., Gene Therapeutics: Methods and Applications of Direct Gene Transfer (J. A. Wolff, ed.) (1994);Wu et al., J. Biol. Chem. (1988) 263:621;Wu et al., J. Biol. Chem. (1994) 269:542;Zenke et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1990) 87:3655;Wu et al., J. Biol. Chem. (1991) 266:338。
【0127】
ポリヌクレオチド(例えば本明細書において記載される抗体または他のタンパク質をコードするもの)を含有する治療用組成物は、遺伝子治療プロトコルにおける局所投与のために、約100ng~約200mgの範囲のDNAにおいて投与される。いくつかの態様において、約500ng~約50mg、約1μg~約2mg、約5μg~約500μg、および約20μg~約100μgのDNAの濃度範囲またはそれより多くを、遺伝子治療プロトコルの間に用いることができる。
【0128】
本明細書において記載される治療用ポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、遺伝子送達ビヒクルを用いて送達することができる。遺伝子送達ビヒクルは、ウイルス性または非ウイルス性の起源のものであってよい(一般に、Jolly, Cancer Gene Therapy (1994) 1:51;Kimura, Human Gene Therapy (1994) 5:845;Connelly, Human Gene Therapy (1995) 1:185;およびKaplitt, Nature Genetics (1994) 6:148を参照)。かかるコード配列の発現は、内在性の哺乳動物または異種のプロモーターおよび/またはエンハンサーを用いて、誘導することができる。コード配列の発現は、構成的であっても、制御的であってもよい。
【0129】
所望されるポリヌクレオチドの送達および所望される細胞における発現のためのウイルスベースのベクターは、当該分野において周知である。例示的なウイルスベースのビヒクルとして、これらに限定されないが、組み換えレトロウイルス(例えば、PCT公開番号WO 90/07936;WO94/03622;WO93/25698;WO93/25234;WO93/11230;WO93/10218;WO91/02805;米国特許第5,219,740号および同第4,777,127号;GB特許第2,200,651号;およびEP特許第0 345 242号を参照)、アルファウイルスに基づくベクター(例えば、シンドビスウイルスベクター、セムリキ森林ウイルス(ATCC VR-67;ATCC VR-1247)、ロスリバーウイルス(ATCC VR-373;ATCC VR-1246)およびベネズエラウマ脳炎ウイルス(ATCC VR-923;ATCC VR-1250;ATCC VR 1249;ATCC VR-532))、およびアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター(例えば、PCT公開番号WO 94/12649、WO 93/03769;WO93/19191;WO94/28938;WO95/11984およびWO 95/00655を参照)が挙げられる。Curiel, Hum. Gene Ther. (1992) 3:147において記載されるような不活化されたアデノウイルスに連結されたDNAの投与もまた、使用することができる。
【0130】
以下を含む非ウイルス性の送達ビヒクルおよび方法もまた、用いることができる:不活化されたアデノウイルスのみに連結されているか、またはこれに連結されていないポリカチオン性の縮合DNA(例えば、Curiel, Hum. Gene Ther. (1992) 3:147を参照);リガンド連結型DNA(例えば、Wu, J. Biol. Chem. (1989) 264:16985を参照);真核細胞送達ビヒクル細胞(例えば、米国特許第5,814,482号;PCT公開番号WO 95/07994;WO96/17072;WO95/30763;およびWO 97/42338を参照)および核電荷の中和または細胞膜との融合。ネイキッドDNAもまた、用いることができる。例示的なネイキッドDNA導入方法は、PCT公開番号WO 90/11092および米国特許第5,580,859号において記載される。遺伝子送達ビヒクルとして作用することができるリポソームは、米国特許第5,422,120号;PCT公開番号WO 95/13796;WO94/23697;WO91/14445;およびEP特許第0524968号において記載され、さらなるアプローチは、Philip, Mol. Cell. Biol. (1994) 14:2411において、およびWoffendin, Proc. Natl. Acad. Sci. (1994) 91:1581において記載される。
【0131】
本明細書において記載される方法において用いられる特定の投与レジメン、すなわち、用量、タイミングおよび反復は、特定の対象およびその対象の病歴に依存するであろう。
いくつかの態様において、1つより多くの化合物または抗体、または化合物または抗体および別の好適な治療剤の組み合わせを、処置を必要とする対象に投与してもよい。化合物または抗体はまた、剤の有効性を増強するかおよび/またはこれを補完するように働く他の剤と組み合わせて用いることができる。
標的疾患/障害のための処置の効力は、当該分野において周知の方法により評価することができる。
【0132】
本開示において記載されるものなどを含む処置方法は、本明細書において開示される標的疾患または障害のための他の型の治療と組み合わせて利用してもよい。例として、化学療法、免疫療法(例えば、治療用抗体、抗体、CAR T細胞、またはがんワクチンを含む治療)、外科手術、放射線照射、遺伝子治療、など、または抗感染治療が挙げられる。かかる治療は、本開示による処置と同時に、またはこれと連続して(任意の順序において)投与することができる。いくつかの例において、標的疾患は、がん(例えば、本明細書において開示されるもの)であり、組み合わせ治療は、免疫チェックポイント(例えば、阻害性チェックポイント)アンタゴニストを含む。例として、PD-1/PD-L1アンタゴニスト(例えば、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、アベルマブ、デュルバルマブおよびアテゾリズマブ)、LAG3アンタゴニスト、TIM-3アンタゴニスト、VISTAアンタゴニスト、TIGITアンタゴニスト、CSF1Rアンタゴニスト、CD112R(PVRIG)アンタゴニスト、PVR(CD155)アンタゴニスト、PD-L2アンタゴニスト、A2ARアンタゴニスト、B7-H3アンタゴニスト、B7-H4アンタゴニストまたはBTLAアンタゴニストが挙げられる。さらなる例として、刺激性チェックポイントの活性を増強するアクチベーター、例えばCD122(IL2)あごに、4-1BB、ICOSリガンド、GITRおよびOX40が挙げられる。
【0133】
さらなる有用な剤についてはまた、以下を参照:Physician's Desk Reference, 59.sup.th edition, (2005), Thomson P D R, Montvale N.J.;Gennaro et al., Eds. Remington's The Science and Practice of Pharmacy 20th edition, (2000), Lippincott Williams and Wilkins, Baltimore Md.;Braunwald et al., Eds. Harrison's Principles of Internal Medicine, 15.sup.th edition, (2001), McGraw Hill, NY;Berkow et al., Eds. The Merck Manual of Diagnosis and Therapy, (1992), Merck Research Laboratories, Rahway N.J。さらなる治療剤と共に共投与した場合、各々の剤についての好適な治療有効投与量は、相加作用または相乗作用に起因して、低くなる場合がある。
【0134】
本明細書において記載される方法の効力は、当該分野において公知の任意の方法により評価することができ、熟練した医学の専門家にとっては明らかであろう。例えば、抗体に基づく免疫療法の効力は、対象の生存、または対象もしくは組織もしくはその試料における癌負荷により、評価することができる。いくつかの態様において、方法は、対象における安全性または毒性に基づいて、例えば、対象の全体的な健康および/または有害事象もしくは重篤な有害事象の存在により、評価される。
【0135】
本発明は、その適用において、以下の説明において記載されるかまたは図面において説明される構成成分の構築および配置の詳細に限定されない。本発明は、他の態様が可能であり、多様な方法において実施されるかまたは実行されることができる。また、本明細書において用いられる表現法および用語は、説明を目的とするものであり、限定するものとしてみなされるべきではない。「含むこと(including)」、「含むこと(comprising)」、または「有すること(having)」、「含有すること(containing)」、「含むこと(involving)」および本明細書におけるこれらのバリエーションの使用は、その後に列記される項目およびその均等物、ならびにさらなる項目を包含することを意図される。
【0136】
本明細書において別段に定義されない限り、本開示と関連して用いられる科学および技術用語は、当業者により一般的に理解される意味を有するべきである。さらに、文脈により必要とされない限り、単数形の用語は、複数形を含むべきであり、複数形の用語は、単数形を含むべきである。本開示の方法および技術は、一般に、当該分野において周知の従来の方法に従って行われる。一般に、本明細書において記載される生化学、酵素学、分子および細胞生物学、微生物学、遺伝学ならびにタンパク質および核酸の化学およびハイブリダイゼーションに関連して用いられる命名法およびこれらの技術は、当該分野において周知であり、一般的に用いられるものである。本開示の方法および技術は、別段に示されない限り、一般に、当該分野において公知の、ならびに、本明細書全体にわたり引用され議論される多様な一般的およびより具体的な参考文献において記載されるような、従来の方法に従って行われる。
【0137】
本発明は、以下の例によりさらに説明され、これは決してさらに限定するものとして解釈されるべきではない。本願全体にわたり引用される参考文献(学術文献、発酵された特許、公開された特許出願、および同時係属の特許出願を含む)は、本明細書により、明示的に参考として援用される。
【0138】
例
例1:ABCB5は、AXLの制御を通して腫瘍の浸潤を促進する。
最近の研究は、有害な結腸直腸癌(CRC)の予後と相関する受容体チロシンキナーゼAXLが、他の悪性病変におけるEMT誘導の原因であることを示している。本明細書においては、AXLのmRNA発現が、COLO741 ABCB5 KD CRC細胞培養において90%以上減少したこと、およびAXLのタンパク質発現が、これらの細胞において、対照をトランスフェクトされた細胞と比較して、50%以上低下したことを示す(
図8)。さらに、ウェスタンブロット分析により決定されるとおり、mAbにより媒介されるABCB5遮断は、試験された4つのCRC細胞株の全て(9%~27%の範囲のABCB5(+)腫瘍細胞頻度を有する、COLO741、SW620、HT29およびHCT116)において、一貫してAXLの発現を阻害し(
図8)、また、その下流の標的であるホスホ-AKTを、より低い程度まで阻害し、ABCB5+細胞により用いられる重要なシグナル伝達経路を示した。ABCB5とAXLとの間の機能的関係は、4つ全ての細胞株からフローサイトメトリーによりソートされた未処置のABCB5(+)細胞において、mRNAおよびタンパク質の両方のレベルにおいて著しく上方調節されたAXL発現により支持された(
図8)。
【0139】
さらに、AXL発現(mRNAおよびタンパク質の両方のレベルにおいて決定されるもの)ならびに下流のシグナル伝達(p-AKT/AKT比)は、転移により誘導されるCOLO741METにおいて、親COLO741細胞と比較して、増強された(
図8)。
【0140】
例2:PIP2およびPIP3は、ABCB5の天然のin vivoでの結合リガンドであることが、ヒト組織からの免疫沈降により決定された。
抗PIP2抗体プルダウンを用いるヒトABCB5発現メラノーマ細胞からのPIP2の免疫沈降は、
図1A(上パネル)におけるABCB5モノクローナル抗体を用いるイムノブロットにより示されるとおり、ABCB5タンパク質の共沈を明らかにした。PIP2プルダウンは、
図1A(下パネル)において、PIP2抗体によるイムノブロットを用いて確認した。同様に、
図1BにおけるABCB5モノクローナル抗体を用いるイムノブロットにより示されるとおり、抗PIP3抗体プルダウンを用いるヒトABCB5発現メラノーマ細胞からのPIP3の免疫沈降は、ABCB5タンパク質の共沈を明らかにした。これらのデータは、PIP2およびPIP3がABCB5のための生物学的リガンドであり、ABCB5はPIP2およびPIP3のための受容体として働くことを示す。
【0141】
例3:PIP1、PIP2およびPIP3は、ABCB5に結合することが、ELISAにより決定された。
PIP1、PIP2またはPIP3によりコートされたELISAプレートを、精製された組み換えヒトABCB5アイソフォーム2(812aa、NCBI参照配列:NP_848654.3)、野生型マウスAbcb5発現皮膚組織、またはABCB5ノックアウトマウスに由来するAbcb5を発現しない皮膚組織(特異性対照として)のいずれかと共にインキュベートし、その後、マウスABCB5特異的なモノクローナル抗体(Ksander et al Nature 2014)を用いて、結合したABCB5を検出した。
図1Cにおいて示すとおり、PIP1、PIP2およびPIP3の全てが、組み換えヒトABCB5ならびにマウスAbcb5に結合し、Abcb5ノックアウトマウス組織においては結合の検出は不在であった。PIP2およびPIP3のABCB5への結合は、本明細書によっては、PIP1のABCB5への結合よりも効率的であった。これらのデータは、PIP2およびPIP3へのABCB5の結合を確認し、また、見かけ上より低い親和性によるものではあるが、ABCB5のPIP1への能力を明らかにした。検出抗体としてマウスABCB5 mAbクローン3C2-1D12(Frank NY et al. J Biol Chem. 2003)を用いて、類似の結果を得た。
【0142】
例4:PIP1、PIP2およびPIP3のABCB5への結合は、競合的な薬理学的リガンドにより阻害することができる。
PIP1、PIP2またはPIP3によりコートされたELISAプレートを、結合のために、精製組み換えヒトABCB5(P-糖タンパク質ABCB5[Homo sapiens]GenBank:AAO73470.1)と共に、sn-1およびsn-2位においてC8:0の脂肪酸を含む、天然のホスファチジルイノシトール(PtdIns)の合成アナログであるPtdIns-(1,2-ジオクタノイル)(CAS登録番号899827-36-2)の漸増用量の不在または存在下において、インキュベートした。
図2において示されるデータは、この分子は、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を競合的に阻害することができ、わずか0.1mMの濃度において、見かけ上の効果の飽和を有することを示す。
【0143】
これらの結果は、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5の結合と競合するが、PIP1、PIP2またはPIP3とは異なり、多様な受容体チロシンキナーゼ(下の表において列記される)または多様なGタンパク質共役型受容体のシグナル伝達において機能的ではない、PIPのアナログ(生物学的に活性なPIP3へとリン酸化されることができないPIP2アナログおよび化学PIP2バリアントを含む)、またはさらなる合成化学剤および生物学的剤は、ABCB5が機能的である多様な疾患状態、特に、これに限定されないが、ヒトのがんの開始および進行において、かかる受容体のPIP依存的シグナル伝達機構に関連するABCB5/PIP1、ABCB5/PIP2またはABCB5/PIP3の受容体/リガンド相互作用を調節するための治療薬として使用することができることの、原理証明を提供する。
【0144】
【0145】
例5:PIP1、PIP2およびPIP3のABCB5への結合は、ABCB5モノクローナル抗体により阻害することができる。
表面プラズモン共鳴(SPR)分析もまた、PIP1、PIP2およびPIP3のABCB5への結合を示した。抗ABCB5モノクローナル抗体との競合は、3つ全ての表面において(PIP3>PIP2>PIP1)、濃度依存的な様式において、PIP3表面においては50%までのシグナル低下をもたらした(
図3を参照)。アイソタイプ対照モノクローナル抗体は、何らの著しい効果も示さなかった(図示せず)。これらの結果は、ABCB5モノクローナル抗体が、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を遮断することができることを示す。
【0146】
例6:ABCB5は、より効率的なPIP2からPIP3への転換のために必要とされる。
ヒトメラノーマ細胞においてABCB5モノクローナル抗体を用いてのABCB5遮断、またはABCB5ノックアウトマウス由来組織におけるABCB5機能消失を含む機能実験は、ABCB5が、おそらくはPIP2ドッキング受容体としてのその機能を通して、より効率的なPIP2からPIP3への転換のために機能的に必要とされることを明らかにした。
図4において説明されるとおり、ABCB5モノクローナル抗体は、ヒトメラノーマ細胞におけるPIP3/PIP2比を著しく低下させたが、アイソタイプ対照抗体はそうではなかった(左)。さらに、マウスABCB5ノックアウト皮膚組織の検査はまた、ABCB5野生型皮膚と比較して著しく低下したPIP3/PIP2比の存在を明らかにした(右)。
【0147】
ABCB5モノクローナル抗体がABCB5/PIP2受容体/リガンド相互作用を遮断することができることを示すSPR分析からの知見と共に、これらの結果は、ABCB5/PIP2結合相互作用が、より効率的なPIP2のPIP3へのリン酸化のために、機能的に必要とされることを示すことを示し、このことは、ABCB5発現細胞(これは、腫瘍形成、がんの進行、およびメラノーマ、結腸直腸癌、多形神経膠芽腫、メルケル細胞癌、SCCおよび肝細胞癌、その他を含む多様な悪性病変における治療耐性に関与する癌幹細胞を含む)における受容体チロシンキナーゼおよびGタンパク質共役型受容体のシグナル伝達のための、PIP2依存的シグナル伝達におけるABCB5についての重要な役割を関連付けている。さらに、皮膚、眼および腸の幹細胞を含む生理学的組織特異的な幹細胞は、ABCB5を高レベルで発現し、それらの組織再生機能を実行するために、受容体チロシンキナーゼおよびGタンパク質共役型受容体のシグナル伝達に依存する。したがって、現在の発見は、ABCB5依存的PIP2結合、および受容体チロシンキナーゼシグナル伝達におけるPIP3のリン酸化、またはGタンパク質共役型受容体シグナル伝達におけるIP3およびDAGへのプロセッシングを、ABCB5モノクローナル抗体またはABCB5/PIP2結合の小分子/化学阻害剤のいずれかにより遮断する手段を提供し、これは、がんの開始/進行/治療耐性に関連する受容体チロシンキナーゼシグナル伝達(例えば、AXL(Guo et al. J Biol Chem. 2018を参照)、EGFR)の阻害、がんの開始/進行/治療耐性のGタンパク質共役型受容体シグナル伝達依存的機構をもたらす。さらに、例えばABCB5発現/結合の増強を通した、または外来のPIP2添加によるABCB5/PIP2結合相互作用の増強は、幹細胞欠損関連障害を処置するために、生物学的な幹細胞の機能を増強するであろう。
【0148】
例7:ABCB5は、悪性腫瘍におけるPIP2/PIP3依存的PI3K/AKTシグナル伝達軸を維持するために必要とされ、ABCB5の阻害は、PI3K/AKTシグナル伝達軸の阻害、ならびに依存的な腫瘍増殖および治療耐性をもたらす。
ABCB5 WTまたはABCB5 KOバックグラウンドにおける4-HT処置誘導性Tyr::CreER; BrafCA; Ptenlox/lox遺伝マウスメラノーマモデルの分析は、ABCB5 KO対ABCB5 WT腫瘍において、著しいPI3K/AKTシグナル伝達軸の阻害を明らかにし、さらなる調節不全の分子の中でも、p-AKT、p-mTORおよびp-S6の発現が減弱化した(
図5を参照)。
【0149】
さらに、このモデルにおいて、ABCB5 WTの状態に対して、ABCB5 KOの状態は、腫瘍細胞の増殖の低下をもたらし、これは、増殖マーカーであるKi-67について陽性に染色される腫瘍細胞のパーセンテージを決定することにより決定された。(
図6を参照):
加えて、このモデルにおいて、ABCB5 WTの状態に対して、ABCB5 KOの状態は、血管新生促進分子の下方調節をもたらすのみならず(
図7、左パネルを参照)、結果としてCD31陽性微小血管密度の低下をもたらした(
図7、右パネルを参照)。
【0150】
特定のABCB5モノクローナル抗体はまた、結腸直腸癌においてPIP2/PIP3依存的PI3K/pAKTシグナル伝達軸を妨害し(Guo et al. J Biol. Chem 2018を参照)、処置の結果としてpAKT/AKT比が阻害されたことが示され、同様の結果を、ヒトメラノーマ細胞に対するABCB5モノクローナル抗体の効果を調べた場合に得、またPIP2/PIP3のABCB5への結合および/またはPIP2からPIP3への転換をも阻害するこれらのABCB5抗体による処置の結果として、pAKT/AKT比が著しく阻害された。これらのデータは、ABCB5の機能的遮断が、腫瘍増殖および腫瘍血管新生のために重要なPIP2/PIP3依存的PI3K/pAKTシグナル伝達軸を妨害することを示し、ABCB5/PIP2/PIP3受容体/リガンド相互作用の機能的遮断の抗がん治療的有用性についての明らかな証左を提供する。
【0151】
さらに、ABCB5 WTまたはABCB5 KOバックグラウンドにおける、4-HT処置誘導性Tyr::CreER; BrafCA; Ptenlox/lox遺伝マウスメラノーマモデルにおいて、ABCB5 WTの状態に対して、ABCB5 KOの状態は、BRAF阻害剤であるベムラフェニブ(これに対する耐性は、機能的PI3K/pAKTシグナル伝達軸により部分的に駆動される)の効果に対する完全感作をもたらした。ベムラフェニブ処置されたABCB5 KOマウスにおける遺伝子誘導により、腫瘍形成は、観察されず、これは、100%のベムラフェニブ耐性腫瘍の形成を示したABCB5 WTマウスとは逆であり(
図9、左パネルを参照)、ABCB5 WTマウスに対して、ABCB5 KOマウスにおいて、生存は著しく延長された(
図9、右パネルを参照)。これらの結果は、ベムラフェニブ耐性のために必要とされる完全なPIP2/PIP3依存的PI3K/pAKTシグナル伝達軸を維持することにおける、ABCB5の機能を通しての、腫瘍ベムラフェニブ耐性におけるABCB5の重要な役割を明らかにする。これらの結果はまた、ABCB5の機能阻害は、メラノーマのBRAF阻害剤耐性を逆転させるために、治療的に使用することができることを示す。
【0152】
例8:ABCB5ノックアウト組織において蓄積される新規のPIP2の構造の同定は、そのPIP3形態へのABCB5依存的なリン酸化のための好ましい生理学的基質を同定する。
ABCB5野生型(WT)またはABCB5ノックアウト(KO)マウス由来の皮膚組織の定量的脂質質量分析は、ABCB5ノックアウト組織において特異的に存在するが、ABCB5野生型の皮膚においては検出閾値において検出可能ではない(ABCB5 KO平均:7.79E+04+/-1.67E+04;WT平均:検出されず)、新規のPIP2形態(PIP2(6:0/18:0)@29.568051、すなわち、PIP2(6:0/18:0)-H、24:0の総脂肪酸鎖、不飽和度0、式C33H65O19P3)を検出し、このことは、化合物データベースにおいて先には知られていなかったこの新たに発見されたPIP2分子バリアントが、そのPIP3形態、すなわち、ABCB5依存的受容体チロシンキナーゼまたはGタンパク質共役型受容体シグナル伝達に関与する、生物学的に活性なリン酸化されたPIP3形態への、ABCB5依存的なリン酸化のための、好ましい生理学的基質を代表することを示している。この新規のPIP2(6:0/18:0)-H分子(24:0の総脂肪酸鎖、不飽和度0、式C33H65O19P3)の、バイオインフォマティクスにより作製された構造モデルを、説明する。
【0153】
このPIP2(6:0/18:0)-H分子、またはそのリン酸化された形態であるPIP3(6:0/18:0)-H(式C33H65O19P4)は、上で列記される多様な受容体チロシンキナーゼまたはGタンパク質共役型受容体によるシグナル伝達が損なわれるか、またはABCB5の機能もしくはABCB5発現のレベルが減少する疾患状態において、特に、ABCB5+幹細胞欠損に関連する疾患において、例えば、皮膚の創傷治癒の不全、角膜縁幹細胞欠損、加齢における組織再生不全、および例えば乾癬(これは、ABCB5野生型マウスと比較してABCB5ノックアウトにおけるイミキモド誘導性乾癬のマウスモデルにおいて、悪化することが見出されている)などのさらなるABCB5欠損障害において、これらを増強するために、治療剤として用いることができる組成物を代表する(
図10を参照)。
【0154】
例9:ABCB5の一ヌクレオチド多型の機能の精査は、下流の分子エフェクター機能に関連づけられる分子的なABCB5リガンド/基質結合部位を明らかにする。
ABCB5アイソフォーム1(1257aa、NCBI参照配列:NP_001157413.1)の構造は、各々6個の膜貫通(TM)ヘリックスを有する2個の膜貫通ドメイン(TMD)からなり、すなわち、それは、全部で12個の膜貫通ヘリックス(TM1~12)を含む。ABCB5アイソフォーム2(812aa、NCBI参照配列:NP_848654.3)は、6個の膜貫通(TM)ヘリックス(TM1~6)を有する1個のTMDからなる。ABCB5アイソフォーム2のTM1~6は、ABCB5アイソフォーム1のTM7~12に対応する。ABCB5アイソフォーム1のTM12は、ABCB5アイソフォーム2のTM6に対応する。ABCB5アイソフォーム1のTM12においてAA970E>Kを提供し、ABCB5アイソフォーム2のTM6におけるAA525E>Kに対応する、ABCB5のコード領域(rs6461515)における非同義一ヌクレオチド多型(SNP)は、本明細書において、ABCB5の機能のために決定的に必要とされることが明らかとなった。注釈付き参照E SNP(グルタミン酸/E/GAA)は、本明細書により、マウス(mus musculus)を含む多様な種にわたり保存されている。しかし、参照E SNP(グルタミン酸/E/GAA)は、実際に、ヒト(homo sapiens)におけるマイナーなコドンを代表する。個体群の多様性データは、E525をコードする対立遺伝子(グルタミン酸、G遺伝子型、コドンGAA)が、アフリカの個体群において最も高い頻度において見出され、G/Gホモ接合性は希少であり、これはK525をコードする対立遺伝子(リジン、A遺伝子型、コドンAAA)とは逆であった(データは示さず)ことを示す。
【0155】
分析によれば、ヒトのがんは、最も頻繁にK SNP(リジン、コドンAAA)を発現する。重要なことに、基線においてはもっぱらABCB5アイソフォーム2を発現する野生型K525/K525ヒトメラノーマ細胞において、1つの対立遺伝子においてCrispr/Cas9媒介遺伝子編集を通して実験的に誘導された、K(リジン、コドンAAA)からE(グルタミン酸、コドンGAA)への分子スイッチは、ABCB5シグナル伝達機能が損なわれたクローナルなヘテロ接合性のメラノーマ細胞のバリアントをもたらし、および結果としての著しく阻害されたABCB5駆動性の腫瘍増殖をもたらした(P<0.05)(
図11を参照)。
【0156】
これらの結果は、ABCB5アイソフォーム2のTM6のアミノ酸残基525を、ABCB5の生理学的リガンド/基質結合の、特にPIP2、およびそのリン酸化産物であるPIP3(これは、細胞外のRTKにより媒介されるシグナルを伝達して、腫瘍の形成および進行のために必須の下流のPI3K/pAKTシグナル伝達経路を活性化することが知られている)の、質における重要な分子スイッチとして関連づけ、K525(rs6461515)は、より機能的なバリアントを代表している。同様に、ABCB5アイソフォーム1のTM12における残基970もまた、ABCB5の生理学的リガンド/基質結合において関連付けられる。ABCB5アイソフォーム2の2つのバリアントペプチド配列を、それらのコードRNA配列(バリアント残基を赤色に強調している)と共に下に列記し、K525を含有する分子は、PIP基質/リガンド結合および下流のシグナル伝達機能に関して、参照E525を含有する分子(SNP rs6461515)と比較して、より高機能なバリアントである。
【0157】
ABCB5アイソフォーム2-E525タンパク質配列(配列番号1):
【数1-1】
【数1-2】
【0158】
ABCB5アイソフォーム2-E525をコードするRNA配列(配列番号2):
【数2-1】
【数2-2】
【数2-3】
【0159】
ABCB5アイソフォーム2-K525タンパク質配列(配列番号3):
【数3-1】
【数3-2】
【0160】
ABCB5アイソフォーム2-K525をコードするRNA配列(配列番号4):
【数4-1】
【数4-2】
【数4-3】
【0161】
バイオインフォマティクス分析の考察に基づくABCB5の基質結合に関与するさらなる残基は、ABCB5アイソフォーム1のTM7におけるN702およびH706(ABCB5アイソフォーム2のTM1におけるN257およびH261に対応する)、ならびにABCB5アイソフォーム1のTM10における857A>T(rs80123476)(ABCB5アイソフォーム2のTM4における412A>T(rs80123476)に対応する)である。
【0162】
加えて、今日までの結果は、ABCB5特異的なモノクローナル抗体の(細胞外ループの3次元(すなわち、環状形態)に結合する抗体)の(全てではないが)サブセットは、PIP1、PIP2またはPIP3のABCB5への結合を阻害することができ、したがってABCB5により媒介されるPIP依存的シグナル伝達およびpAKTリン酸化を阻害することができることを確立した。したがって、本明細書において示されたABCB5依存的PIP1、PIP2またはPIP3の結合ならびにPIP依存的シグナル伝達およびpAKTリン酸化を阻害することが示されたABCB5モノクローナル抗体は、例えば、機能的ABCB5遮断およびその結果としてのABCB5依存的受容体チロシンキナーゼおよびGタンパク質共役型受容体シグナル伝達の阻害を通して、ABCB5により駆動されるヒトのがんの増殖および進行を治療的に阻害するために、ユニークに有用である、新規組成物を構成する。
【0163】
例10:分子ドッキングのモデリング。
バイオインフォマティクスのアプローチおよびABCB5に相同なABCB1タンパク質について利用可能なデータを用いて、上で列記されるABCB5アイソフォーム2-K525およびABCB5アイソフォーム2-E525の両方のポリペプチド配列について、3D構造モデルを作製した。加えて、以下のABCB5リガンドまたは競合的阻害剤について、分子ドッキング/結合のモデリングを容易にするために、PyMOLソフトウェアプログラムパッケージを用いて3D構造を作製した。
【0164】
(a)PIP2(6:0/18:0)-H、24:0の総脂肪酸鎖、不飽和度0、式C33H65O19P3:
これは、ABCB5 KO マウスの皮膚において蓄積されることが質量分析により初めて同定された新たなPIP2バリアントであり、上記のとおり、このことは、この新規分子が、PIP3へのABCB5依存的リン酸化の生理学的基質であり得ることを示す。この分子は、化合物データベースにおいて先には知られていなかった(モデリングされた構造を上に示す)。
【0165】
(b)PI(4,5)P2、diC8、式C25H49O19P3:このPIP2バリアントは、ABCB5に結合することがSPRにより示された。それは、Echelon Biosciencesから得られた。この分子についてのさらなる情報およびその構造は、CAS登録番号(204858-53-7)にある。
【0166】
(c)ホスファチジルイノシトールC-8:PtdIns-(1,2-ジオクタノイル)は、sn-1およびsn-2位においてC8:0の脂肪酸を含む、天然のホスファチジルイノシトール(PtdIns)の合成アナログである。上記のとおり、この分子は、PIP2のABCB5への結合を競合的に阻害することができることが示された。この分子についてのさらなる情報は、CAS登録番号899827-36-2のとおりである。
【0167】
結果は、試験された分子、すなわち、天然のリガンドPIP2(6:0/18:0)-H、PI(4,5)P2、diC8の全て、および競合的な阻害剤ホスファチジルイノシトールC-8の、ABCB5アイソフォーム2-K525またはABCB5アイソフォーム2-E525のいずれかの、ABCB5分子の決定されたAA525基質結合部位およびTM6のすぐそばの構造への結合を明らかにした。加えて、モデリングの結果は、ABCB5アイソフォーム2-E525とは逆に、ABCB5アイソフォーム2-K525についてのPIP2の高い親和性の結合を明らかにした。これらのデータは、ABCB5のコード領域(rs6461515)における、ABCB5アイソフォーム2のTM6(これはABCB5の機能のために重要であることが本明細書において明らかとなった)におけるK残基に対してAA525Eを決定する非同義一ヌクレオチド多型(SNP)の重要な役割の実験的証左を、ABCB5アイソフォーム2-K525が、PIP2/PIP3結合能力が増強され、その結果シグナル伝達能力が改善された、より機能的なABCB5バリアントであることと共に、さらに支持する。
【0168】
本明細書において引用される全ての参考文献は、完全に参考として援用される。このようにして記載された本発明の少なくとも1つの態様のいくつかの側面を有することにより、多様な改変、修飾および改善が、当業者には容易に想起されるであろうことが理解されるべきである。かかる改変、修飾および改善は、本開示の一部であることが意図され、本発明の精神および範囲の内であることが意図される。したがって、上述の説明および図面は、単なる例である。
【配列表】