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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】磁性コア材および磁性コア
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/26 20060101AFI20241227BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20241227BHJP
   H01F 3/08 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
H01F1/26
H01F27/255
H01F3/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021095071
(22)【出願日】2021-06-07
(65)【公開番号】P2022058148
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2024-05-28
(31)【優先権主張番号】P 2020165712
(32)【優先日】2020-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】尼野 慎也
(72)【発明者】
【氏名】加古 哲隆
(72)【発明者】
【氏名】島津 英一郎
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-522441(JP,A)
【文献】特開2020-167382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/26
H01F 27/255
H01F 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe系軟磁性粒子の表面に無機絶縁被膜を形成したFe系軟磁性粉と、エポキシ樹脂材と、固体潤滑剤とを含有し、前記エポキシ樹脂材が硬化剤およびエポキシ樹脂からなる磁性コア材であって、
前記Fe系軟磁性粒子が純鉄粉もしくは低合金鋼粉であり、
前記エポキシ樹脂材の含有量が2mass%以上、5mass%以下であり、
前記エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂とからなることを特徴とする磁性コア材。
【請求項2】
前記Fe系軟磁性粒子が低合金鋼粉であり、前記低合金鋼粉が、合金成分としてSiまたはCrの何れか一方または双方を含有し、前記低合金鋼粉における前記合金成分の総含有量が6.5mass以下である請求項1に記載の磁性コア材。
【請求項3】
前記Fe系軟磁性粒子が純鉄粉であり、前記エポキシ樹脂材の含有量が3mass%以上、5mass%以下である請求項1に記載の磁性コア材。
【請求項4】
前記Fe系軟磁性粉のメジアン径D50が10μm以上、70μm以下である請求項1~3の何れか1項に記載の磁性コア材。
【請求項5】
請求項1~4の何れか1項に記載の磁性コア材の前記エポキシ樹脂が硬化することで形成された磁性コア。
【請求項6】
比透磁率が17~25である請求項5に記載の磁性コア。
【請求項7】
圧環強さが50MPa以上である請求項5または6に記載の磁性コア。
【請求項8】
体積抵抗率が1×104Ωcm以上である請求項5~7の何れか1項に記載の磁性コア。
【請求項9】
5kHzに対する1000kHzのインダクタンス保持率が80%以上である請求項5~8の何れか1項に記載の磁性コア。
【請求項10】
誘導加熱装置のコイルと組み合わせて配置された請求項5~9の何れか1項に記載の磁性コア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性コア材および磁性コアに関する。
【背景技術】
【0002】
高周波焼入装置の加熱コイル部に取り付けられる磁性コアは、コイルの背面に取り付けてワークに磁カ線を集中させパワーを増強し誘導加熱を促進させる効果や、反対にコイルの前面に取り付けて磁力線を遮蔽(シールド)し焼入れ不要部位の加熱を防ぐ効果があり、高周波焼入れ装置の加熱コイルには欠かせない部品となっている。粉末冶金法により製造される圧粉磁心は、原料ロスが少なく量産性に優れるため、高周波焼入装置の加熱コイルに用いられる磁性コアとして多用されている。
【0003】
高周波焼入装置に用いる磁性コアとして、特許文献1に、粒子表面が無機系絶縁被膜で覆われた鉄粉末粒子97wt%と、硬化剤としてジシアンジアミドを含むエポキシ樹脂粉末3wt%とを混合して、篩目開き106μmの篩を通過し、25μmの篩を通過しない粒子を取り出し、これを110℃15分間加熱混錬して200MPaの成形圧力で圧縮成形した後、窒素雰囲気において180℃の温度で1時間加熱してエポキシ樹脂を硬化させたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開公報WO2016/043295号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
圧粉磁心タイプの誘導加熱装置用磁性コアは、電源周波数が10kHz~500kHz程度の高い周波数域で用いられる。所望の焼入れ深さに合わせて適切な周波数、および磁性コアの比透磁率を選択する必要がある。例えば100kHz以上の高周波では、焼入れ深さにもよるが、使用するコアの比透磁率として25未満、特に20程度のものが必要になる場合が多い。
【0006】
比透磁率を25未満に抑えるためには、樹脂バインダーを含まない一般的な圧粉磁心では、成形圧力を極端に下げて低密度に成形する必要がある。しかしながら、成形可能な範囲で比透磁率25未満を実現することは現実問題として難しく、たとえ成形できたとしても、内部に構造欠陥となる空孔が多くなるため、高周波焼入れ用コアとして使用する場合、強度不足となる問題がある。また、体積抵抗率が低くなるため、渦電流損失が増大して高周波域での損失増大や周波数特性の悪化が起こる点も問題となる。
【0007】
高周波焼入れに用いられる磁性コアは、使用条件によっては高温になる場合がある。高温で使用する場合、磁性コアの寿命が短くなるため、極力コア温度が低くなるように設計することが好ましい。高温になる要因は、主に焼入れワークからの輻射熱と磁性コア自身の鉄損による発熱である。磁性コア自身の発熱は、鉄粉末粒子の材料選定によって抑制することができる。
【0008】
また、特許文献1のように樹脂バインダーを用いた圧粉磁心では、樹脂バインダーの種類によっては、樹脂の熱硬化時に樹脂バインダーが表面に噴出する場合(吹き出し)があることが判明した。このように樹脂が噴出すれば、熱硬化させるための加熱炉内で、成形体を整列させるプレート類に成形体が接着されるため、生産性が低下する要因となる。
【0009】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、低透磁率でありながら、周波数特性が良好で必要な強度および体積抵抗率を満たす磁性コアを得ることができ、かつ熱硬化時の樹脂の吹き出しを抑制できる磁性コア材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る磁性コア材は、Fe系軟磁性粒子の表面に無機絶縁被膜を形成したFe系軟磁性粉と、エポキシ樹脂材とを含有し、前記エポキシ樹脂材が硬化剤およびエポキシ樹脂からなる磁性コア材であって、前記Fe系軟磁性粒子が純鉄粉もしくは低合金鋼粉であり、前記エポキシ樹脂材の含有量が2mass%以上、5mass%以下であり、前記エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂とからなることを特徴とする。
【0011】
以上の磁性コア材を用いた磁性コアであれば、低透磁率でありながら、周波数特性が良好であり、かつ必要とされる圧環強さおよび体積抵抗率を満たす磁性コアを提供することができる。
【0012】
Fe系軟磁性粒子として低合金鋼粉を使用する場合、この低合金鋼粉は、合金成分としてSiまたはCrの何れか一方または双方を含有し、低合金鋼粉における合金成分の総含有量を6.5mass以下とするのが好ましい。これにより低透磁率を達成することができる。
【0013】
Fe系軟磁性粒子として純鉄粉を使用する場合、エポキシ樹脂材の含有量は3mass%以上、5mass%以下とするのが好ましい。
【0014】
前記Fe系軟磁性粉のメジアン径D50は10μm以上、70μm以下が好ましい。これにより、磁性コアでの鉄損を低減して磁性コア自身の発熱を抑制することができる。
【0015】
以上に述べた磁性コア材のエポキシ樹脂を硬化させることにより、磁性コアを形成することができる。
【0016】
この磁性コアの比透磁率は17~25が好ましい。
【0017】
この磁性コアの圧環強さは、50MPa以上が好ましい。
【0018】
この磁性コアの体積抵抗率は1×104Ωcm以上が好ましい。
【0019】
この磁性コアの5kHzに対する1000kHzのインダクタンス保持率は80%以上であるのが好ましい。
【0020】
以上の磁性コアをコイルと組み合わせることで、高周波数領域においても、焼入れ深さの選定自由度が高く、損失が少なく、高強度の磁性コアを備えた誘導加熱装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、低透磁率でありながら、周波数特性が良好で必要な強度および体積抵抗率を満たす磁性コアを得ることができ、かつ熱硬化時の樹脂の吹き出しを抑制できる磁性コア材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】高周波焼入れ装置における磁性コアおよびコイルの概略的な位置関係を示す図である。
図2】高周波焼入れ装置における磁性コアおよびコイルの概略的な位置関係を示す図である。
図3】複合軟磁性粉の粒子の断面図である。
図4】評価試験結果を示す表である。
図5】評価試験結果を示す表である。
図6】評価試験結果を示す表である。
図7】評価試験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る磁性コア材および磁性コアの実施形態を説明する。
【0024】
高周波焼入れ装置等の誘導加熱装置に配置される磁性コアおよびコイルの位置関係を図1および図2に示す。図1および図2に示すように、コイル2は、銅等の導電性金属材料からなるパイプや板などで構成される。加熱効率の向上あるいは加熱部位の調整のために、磁束を制御する磁性コア1がコイル2に近接して配置される。この磁性コア1はコイル2に電流が流れることで発生する磁束をワークへ集中させたり、反対に遮蔽させたりすることで誘導加熱の状態を変化させることができる。図1はコイル2の内側に磁性コア1を嵌め込んで使用する形態を示す図であり、図2はコイル2の外側における巻線方向の一部領域に磁性コア1を配置して使用する形態を示す図である。このように磁性コア1はコイル2と組み合わせた形態で、コイル2の内側もしくは外側に配置される。
【0025】
磁性コア1は、樹脂粉とFe系軟磁性粉とを含む複合軟磁性粉からなる磁性コア材を圧縮成形した後、加熱して樹脂を硬化させることで得られる。複合軟磁性粉の粒子4は、図3に示すように、Fe系軟磁性粒子4aの表面に無機絶縁被膜4bを形成し、さらにこの無機絶縁被膜4b表面に未硬化の樹脂被膜4cを形成した構造を有する。磁性コア1は、複合軟磁性粉4を固体潤滑剤と共に圧縮成形し、次いで樹脂被膜4cを熱硬化させることで製造される。その後、必要に応じて、切削加工、バレル加工および防錆処理などの後処理が行なわれる。高周波コイルの形状、大きさ、場所等により、配置される磁性コア1の形状等は適宜変更できる。
【0026】
Fe系軟磁性粒子4aとしては、純鉄粉が好ましく、その中でもアトマイズ鉄粉、特に水アトマイズ鉄粉が好ましい。水アトマイズ鉄粉は、溶けた鋼を高圧水で粉化、冷却し、その後水素雰囲気で熱処理して製造される鉄粉であり、粒子内に空孔がない中実状で、かつ概ね球形をなすという特徴を有する。鉄粉としては、アトマイズ鉄粉の他に還元鉄粉も知られているが、還元鉄粉は多数の空孔を有する多孔質状であり、表面に多くの凹凸を有する。アトマイズ鉄粉であれば、粒子一つ一つが球形であるため、還元鉄粉に比べて粒子の比表面積を小さくすることができる。これにより磁性コア1の比透磁率を小さくすることができる。また、磁性粉末の間での樹脂バインダーの厚みが厚くなるため、絶縁性を高めて体積抵抗率を高めることができる。さらに樹脂バインダーの厚みが大きくなることで耐食性が増すため、冷却水が直接かかるような環境で使用される高周波焼入れ装置用の磁性コアとして好適に使用することができる。
【0027】
Fe系軟磁性粒子4aとして純鉄粉を使用する他、鉄-シリコン系合金、鉄-クロム系合金、鉄-シリコン-クロム系合金、鉄-窒素系合金、鉄-ニッケル系合金、鉄-炭素系合金、鉄-ホウ素系合金、鉄-コバルト系合金、鉄-リン系合金、鉄-ニッケルーコバルト系合金および鉄-アルミニウムーシリコン系合金(センダスト合金)などの低合金鋼粉を用いることができる。この場合も、Fe系軟磁性粒子4aはアトマイズ鋼粉(特に水アトマイズ鋼粉)で形成するのが好ましい。
【0028】
これら低合金鋼粉の合金成分としては、SiとCrのうちの何れか一方または双方を使用するのが好ましい。この低合金鋼粉は、SiとCrのうちの何れか一方または双方を含有し、残部を鉄および不可避的不純物とするものである。また、低合金鋼粉における合金成分の総含有量は6.5mass%以下が好ましい。合金成分の含有量が多すぎると、圧縮性が悪くなり、必要な磁気特性を確保できず、加工性も低下する。例えばFe-Si系合金としてFe4.5Si、Fe-Cr系合金としてFe2Cr、Fe-Si-Cr合金としてFe4.5Si2Crを使用することができる。
【0029】
Fe系軟磁性粒子4aの全表面は無機絶縁被膜4bで被覆されている。無機絶縁被膜4bの材料としては、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛、リン酸カルシウム、リン酸アルミニウム等のリン酸金属塩を使用するのが好ましい。この他、各種シランカップリング剤を利用してもよい。無機絶縁被膜4bは、1種類の材料で形成してもよいし、2種類以上の材料で形成してもよい。Fe系軟磁性粒子4aの表面を無機絶縁被膜4bで覆ったFe系軟磁性粉の市販品としては、ヘガネス社製商品名;Somaloyが挙げられる。
【0030】
Fe系軟磁性粉としては、コア自身の発熱を抑制するという観点から、メジアン径D50(個数基準で頻度の累積が50%になる粒子径)が10μm以上、70μm以下のものを使用するのが好ましい。Fe系軟磁性粉の粒径が小さすぎると、その表面への樹脂被膜4cの形成が困難になる。また、当該粒径が大きすぎると、鉄損が大きくなる。特にFe系軟磁性粒子4aとして純鉄粉を使用する場合はメジアン径D50を40μm以上、70μm以下とし、Fe系軟磁性粒子4aとして低合金鋼粉を使用する場合はメジアン径D50を10μm以上、30μm以下とするのが好ましい。
【0031】
樹脂被膜4cの材料としては、エポキシ樹脂および硬化剤からなるエポキシ樹脂材が用いられる。エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂と、ノボラック型エポキシ樹脂とを混合することで得られる。ノボラック型エポキシ樹脂は、その官能基数を1分子当たり3個以上としており、1分子当たり2個の官能基を有するビスフェノールA型エポキシ樹脂に比べて、3次元に架橋しやすい性質を有する。エポキシ樹脂として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂のみを使用すると、後述のように熱硬化時に成形体表面に内部からエポキシ樹脂材が吹き出し、成形体の形状を保持できなくなる問題がある。エポキシ樹脂材は、主剤と硬化剤を組み合わせたものを加熱することで、反応が進み硬化する熱硬化型樹脂であるが、高温に上げることで、まだ反応していない部分の粘度が下がるため、流動性が増して吹き出し易くなる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂にノボラック型エポキシ樹脂を加えることで、エポキシ樹脂の粘度が高くなるため、熱硬化時のエポキシ樹脂の吹き出しを防止することができる。ビスフェノールA型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂を混合したエポキシ樹脂として、例えばソマール株式会社の「エピフォームEPX-6136」を使用することができる。
【0032】
なお、ノボラック型エポキシ樹脂のみ使用すると、熱硬化後の成形体の強度が不足する恐れがある。高周波焼入れ装置等の誘導加熱装置に配置される磁性コアは、ワークやコイルの形状に合わせて加工されることから、加工に耐えうる強度を有しておく必要がある。
【0033】
硬化剤の成分として、潜在性エポキシ硬化剤が使用される。潜在性エポキシ硬化剤を用いることにより、軟化温度を100~120℃に、また硬化温度を170~200℃に設定することができ、Fe系軟磁性粉の各粒子への有機絶縁性塗膜(樹脂被膜4c)の形成と、その後の圧縮成形および熱硬化を行なうことが可能となる。潜在性エポキシ硬化剤としては、ジシアンジアミド、三フッ化ホウ素‐アミン錯体、有機酸ヒドラジド等が挙げられる。これらの中では、上記効果条件に適合するジシアンジアミドを使用するのが好ましい。潜在性エポキシ硬化剤と共に、三級アミン、イミダゾール、芳香族アミンなどの硬化促進剤を含むことができる。
【0034】
エポキシ樹脂材に含まれる潜在性硬化剤の量は、加熱温度および加熱時間に応じて定められる。例えば、200℃の加熱温度で1時間加熱することによりエポキシ樹脂が硬化するように潜在性硬化剤の量が選択される。
【0035】
磁性コアの原料となる磁性コア材におけるエポキシ樹脂材(硬化剤を含む)の配合量は2mass%以上、5mass%以下とし、残部をFe系軟磁性粉、無機絶縁被膜および固体潤滑剤とするのが好ましい。エポキシ樹脂材の含有量が2mass%未満であると、有効な絶縁被膜の形成が困難であることに加え強度の低下を招く。エポキシ樹脂材の含有量が5mass%を超えると磁気特性の低下を招き、かつ樹脂リッチな粗大な凝集体が発生する。固体潤滑剤の配合量は0.5mass%~1mass%程度が好ましい。固体潤滑剤としては、例えばヘガネス社製のKenolubeを0.5mass%配合することができる。この他、固体潤滑剤として、金属セッケン系や脂肪酸アミド系を用いてもよい。
【0036】
Fe系軟磁性粒子4aとして純鉄粉を使用する場合は、エポキシ樹脂材の配合量は3mass%以上、5mass%以下とするのが好ましい。また、Fe系軟磁性粒子4aとして低合金鋼粉を使用する場合は、エポキシ樹脂材の配合量は2mass%以上、5mass%以下とするのが好ましい。
【0037】
本実施形態に係る磁性コアの製造過程では、以上に述べたFe系軟磁性体粉と、エポキシ樹脂材とを100~120℃の温度で乾式混合することで、Fe系軟磁性体粒子4aの表面を覆う無機絶縁被膜4b上に未硬化樹脂被膜4cを形成する。この未硬化樹脂被膜も絶縁被膜であり、熱硬化後はFe系軟磁性粒子4aの表面に無機絶縁被膜と樹脂被膜との複合絶縁被膜が形成される。この複合絶縁被膜であれば、被膜の絶縁性が著しく向上するので、高い電気絶縁性を得ることができる。以上に述べた原料(磁性コア材)を金型に供給して圧縮成形により成形体を形成し、その後エポキシ樹脂材の熱硬化開始温度以上の温度で熱硬化させることで、一体化した磁性コア1が得られる。
【0038】
上記磁性コアの製造方法を具体的に説明する。
上述したFe系軟磁性粉と、上述した潜在性硬化剤が既に配合されているエポキシ樹脂材とをそれぞれ準備する。Fe系軟磁性粉は、予め分級機を通して、D50=10~70μmに調製しておく。
【0039】
次に、混合工程によりFe系軟磁性粉とエポキシ樹脂材とを、固体潤滑剤と共にエポキシ樹脂の軟化温度以上、熱硬化開始温度未満の温度で乾式混合する。この混合工程においては、最初にFe系軟磁性粉とエポキシ樹脂材とを室温で十分にブレンダー等を用いて混合する。次に、混合された混合物をニーダー等の混合機に投入してエポキシ樹脂材の軟化温度(100~120℃)にて加熱混合する。この加熱混合の工程により、Fe系軟磁性粉の各粒子の表面にエポキシ樹脂材の絶縁被膜4c(図3参照)が形成される。この段階ではエポキシ樹脂材は未硬化である。
【0040】
ニーダー等の混合機を用いて加熱混合された内容物は、凝集したケーキ状となっている。粉砕工程は、この凝集ケーキを室温で粉砕して篩分けすることにより、表面にエポキシ樹脂材の絶縁被膜が形成された複合軟磁性粉を得る工程である。粉砕はヘンシェルミキサーが好ましく、篩分けは60メッシュ(250μm)の篩を通過する粒子とすることが好ましい。
【0041】
圧縮成形工程において使用される金型は85~294MPaの成形圧力を印加できる金型であればよい。成形圧力が85MPa未満では磁気特性や強度が低く、294MPaを超えるとエポキシ樹脂が金型内壁に固着し、あるいは樹脂被膜の破壊により絶縁性が低下する、等の不具合を招く。Fe系軟磁性粒子4aとして純鉄粉を使用する場合の成形圧力は、85MPa以上150MPa以下が好ましく、Fe系軟磁性粒子4aとして低合金鋼粉を使用する場合の成形圧力は、98MPa以上245MPa以下が好ましい。
【0042】
金型より取り出された成形品は、170~200℃の温度で、45~80分加熱硬化される。170℃未満では硬化に長時間かかり、200℃を超えると劣化が始まるからである。加熱硬化は、窒素雰囲気で行なうことが好ましいが、大気など酸素が含まれる雰囲気でもよい。加熱硬化後、必要に応じて、切削加工、バレル加工、防錆処理などを行うことで、図1および図2に示す磁性コア1が得られる。
【0043】
以下、以上に述べた磁性コア1の特性を評価するために行った評価試験を説明し、その結果を図4図7に基づいて説明する。なお、実施例1~5および比較例1~4は、Fe系軟磁性粒子4aとして純鉄粉を使用した試験片であり(図4参照)、実施例6~8および比較例5は、Fe系軟磁性粒子4aとして低合金鋼粉を使用した試験片である(図5参照)。また、実施例1、実施例4、実施例5、比較例2~4は、それぞれに含有するエポキシ樹脂量を異ならせた試験片である(図4参照)。実施例1~5と比較例1とではエポキシ樹脂の種類が異なり、実施例1~3では成形圧力が異なる(図4参照)。さらに、実施例6~8および比較例5は、それぞれFe系軟磁性粒子4aに含まれる合金成分の種類および量を異ならせた試験片である(図5参照)。なお、図4および図5においては、Fe系軟磁性粒子4a(純鉄粉および低合金鋼粉)を、それぞれ「鉄粉」と称している。
【0044】
[実施例1]
実施例1の試験片は以下の手順で製作される。
(1)リン酸塩被膜付き水アトマイズ純鉄粉95mass%と、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびノボラック型エポキシ樹脂に硬化剤としてのジシアンジアミドを加えたエポキシ樹脂材4.5mass%と、固体潤滑剤として、ワックス系潤滑剤のKenolube(ヘガネス社製)0.5massとをロッキングミキサーにて室温で10分間混合する。水アトマイズ鉄粉としては、個数基準で定めたD50の値が40~70μmとなる粒径のものを使用する。
(2)この混合物をニーダーに投入し、ヒータ温度100℃にて10分間常圧混錬と加圧混錬を併用して加熱混錬する。
(3)ニーダーへの投入後、混錬して得られる凝集したケーキを解砕した後に粉砕機で粉砕する。
(4)粉砕後、目開きがJIS Z8801-1(2006)で30メッシュ(500μm)の篩を通る粒子をコンパウンド粉末(原料粉末)として用いる。
(5)次いで、原料粉末を、金型を用いて118MPaの成形圧力で圧縮成形する。
(6)圧縮成型品を金型より取り出し、大気雰囲気で200℃の温度で1時間加熱し、エポキシ樹脂を硬化させてトロイダル状の磁性コアを製造する。
【0045】
[実施例2]
実施例2の試験片は、成形圧力条件のみを88MPaに変更し、それ以外は実施例1と同じ条件で製作した。
【0046】
[実施例3]
実施例3の試験片は、成形圧力条件のみを147MPaに変更し、それ以外は実施例1と同じ条件で製作した。
【0047】
[実施例4]
実施例4では、実施例1に対し、鉄粉量を96.5mass%に変更し、樹脂量を3mass%に変更した。
【0048】
[実施例5]
実施例5では、実施例1に対し、鉄粉量を94.5mass%に変更し、樹脂量を5mass%に変更した。
【0049】
[実施例6]
実施例6では、実施例1に対し、鉄粉をFe4.5Siに変更し、絶縁被膜をシランカップリング剤に変更し、樹脂量を2mass%に変更した。また、鉄粉の粒径をD50=20μmに変更した。
【0050】
[実施例7]
実施例7では、実施例6に対し、鉄粉をFe2Crに変更した。
【0051】
[実施例8]
実施例8では、実施例6に対し、鉄粉をFe4.5Si2Crに変更した。
【0052】
[比較例1]
比較例1では、実施例4に対し、エポキシ樹脂としてビスフェノールA型エポキシ樹脂のみを使用するように変更した。また、混錬条件は110℃-15分間に変更し、成形圧力を147MPaに変更した。
【0053】
[比較例2]
比較例2では、実施例1に対し、エポキシ樹脂を配合せずに鉄粉末99.5mass%に変更し、成形圧力を196MPaに変更した。
【0054】
[比較例3]
比較例3では、実施例1に対し、鉄粉末98.5mass%に変更し、エポキシ樹脂1.0mass%に変更した。
【0055】
[比較例4]
比較例4では、実施例1に対し、鉄粉末92.5mass%に変更し、エポキシ樹脂7.0mass%に変更した。
【0056】
[比較例5]
比較例5では、実施例6に対し、鉄粉をFe3.5Si4.5Crに変更した。
【0057】
以上の実施例1~8および比較例1~5のそれぞれについて、密度、インダクタンス保持率、比透磁率、圧環強さ、および体積抵抗率をそれぞれ測定した。各評価項目の測定手法は以下のとおりである。なお、インダクタンス保持率、比透磁率、および体積抵抗率の測定に際しては、磁性コアに10μHのインダクタンスとなるように巻線を巻回した。
【0058】
「密度」は、エポキシ樹脂を硬化させた後の試験片の相対密度を意味する。密度は、JIS Z8807:2012に準拠して測定した。
【0059】
「インダクタンス保持率」は、5kHzと1000kHzの電流を流した時のインダクタンスの値をLCRメータで測定することにより算出される。5kHzのインダクタンスの値を100%として、1000kHzの電流を流した時のインダクタンスの値の割合(%)が「インダクタンス保持率」となる。インダクタンス保持率が小さいほど、高周波域での周波数特性が低下することになる。
【0060】
「比透磁率」は、JIS C2560-2:2006に準拠した初透磁率の測定方法にて、LCRメータ(5kHz、10mA、定電流モード)を用いて、φ20.2×φ12.6×t6(mm)のリング状の磁性コアに10μHのインダクタンスとなるように巻線を巻回し、5kHz時の初透磁率を測定することで測定した。既に述べたように、100KHz以上の高周波域で使用される高周波焼入れ装置用の磁性コアでは、比透磁率25以下を実現することが望まれる。「インダクタンス保持率」は、JIS C2560-2:2006に準拠した初透磁率の測定方法にて、LCRメータ(5kHz、10mA、定電流モード)を用いて、φ20.2×φ12.6×t6(mm)のリング状の磁性コアに10μHのインダクタンスとなるように巻線を巻回して、5kHzから1000kHzまでの測定を行った。
【0061】
「体積抵抗率」は、JIS K6911に規定の測定方法に準拠して測定した。体積抵抗率が小さいほど渦電流損失が増し、高周波域での熱損失が増大することになるため、体積抵抗率としては極力大きな値が望まれる。「圧環強さ」の測定は、JIS Z2507:2000の規定に則って行った。
【0062】
試験結果を図4図7に示す。図4および図5は各評価項目の実測値を表し、図6および図7は各評価項目の判定結果を記載している。図6図7において、インダクタンス保持率は、80%以上を〇、80%未満を×として判定した。比透磁率は、19以上23未満のものを◎、17以上19未満または23以上25以下のものを〇とし、それ以外を×と判定した。圧環強さは、61を超えるものを◎とし、50以上60以下を〇、50未満を×として判定した。体積抵抗率は、106オーダー以上を◎、104~105オーダーを〇、103オーダーを△、102オーダー以下を×として判定した。総合判定は、一項目でも×があるものは×とし、それ以外は〇とした。
【0063】
実施例1、実施例4~8、および比較例1~4の各測定結果の対比から、Fe系軟磁性粒子の表面に無機絶縁被膜を形成したFe系軟磁性粉と、硬化剤およびエポキシ樹脂からなるエポキシ樹脂材とを含有し、Fe系軟磁性粒子が純鉄粉もしくは低合金鋼粉であり、エポキシ樹脂材の含有量が2mass%以上、5mass%以下であり、エポキシ樹脂がビスフェノールA型エポキシ樹脂とノボラック型エポキシ樹脂とからなる磁性コア材で磁性コアを製作すれば、低透磁率(25以下)でありながら、周波数特性が良好(インダクタンス保持率が大きい)であり、かつ必要とされる圧環強さおよび体積抵抗率を満たす高周波焼入れ装置用の磁性コアを得られることが理解できる。また、熱硬化時にエポキシ樹脂の吹き出しが生じることもないため、生産性の悪化や、成形体の比透磁率の狙い値からのずれの発生、絶縁性および強度の低下の発生懸念を回避することができる。
【0064】
これに対し、ノボラック型エポキシ樹脂を使用しない比較例1では、エポキシ樹脂の吹き出しが生じた。そのため、成形体の寸法精度が低下し、比透磁率も目標値を超える値(30)となることが判明した。また、エポキシ樹脂を使用しない比較例2では、比透磁率が目標値を超え、強度が目標値よりも低く、かつ体積抵抗率も目標値を下回ることが明らかとなった。さらにエポキシ樹脂量が上記下限値を下回る比較例3では、目標値との対比で、比透磁率が高く、強度が弱く、かつ体積抵抗率も低下することが明らかとなった。また、エポキシ樹脂量が上記上限値を上回る比較例4では、エポキシ樹脂の吹き出しが生じ、評価サンプルの製作自体が不可能となることが明らかとなった。
【0065】
また、実施例6~8と比較例5の各測定結果の対比から、Fe系軟磁性粒子として低合金鋼粉を使用する場合、合金成分の含有量が6.5mass%を超えると、比透磁率が目標値を超えることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0066】
1 磁性コア
2 コイル
3 電流
4 複合軟磁性粉
4a Fe系軟磁性粒子
4b 無機絶縁被膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7