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  • 特許-半導体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H10D 84/80 20250101AFI20241227BHJP
   H10D 8/50 20250101ALI20241227BHJP
   H10D 30/66 20250101ALI20241227BHJP
【FI】
H01L29/78 657A
H01L29/91 C
H01L29/91 F
H01L29/78 652T
H01L29/78 657G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021107968
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005788
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 侑佑
(72)【発明者】
【氏名】朽木 克博
(72)【発明者】
【氏名】片岡 恵太
(72)【発明者】
【氏名】三宅 裕樹
【審査官】恩田 和彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-053634(JP,A)
【文献】特開2019-041106(JP,A)
【文献】特開2016-111254(JP,A)
【文献】特開2020-107635(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/861
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御端子と高圧側端子と低圧側端子を有するメイントランジスタと、
前記メイントランジスタの前記制御端子と前記低圧側端子の間に接続されている保護用ダイオードであって、アノードが前記メイントランジスタの前記制御端子に接続されており、カソードが前記メイントランジスタの前記低圧側端子に接続されているとともに、前記メイントランジスタに熱結合するように構成されている、保護用ダイオードと、を備えており、
前記保護用ダイオードは、p型のアノード層と、n型のカソード層と、前記アノード層と前記カソード層の間であって前記カソード層よりもドナー濃度が薄いn型のドリフト層と、を有する半導体基板、を備えており、
前記アノード層のアクセプタ濃度をNaとし、フェルミ準位をEρとし、価電子帯上端エネルギーをEvとし、前記アノード層のアクセプタのエネルギー準位と価電子帯上端のエネルギー差をΔEaとし、前記ドリフト層の電子濃度をnn-としたときに、
動作温度が定常動作温度Tcのときに、
Na/(1+exp(ΔEa/kTc)exp(-(Eρ-Ev)/kTc))<nn-
を満たし、
動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときに、
Na/(1+exp(ΔEa/kTm)exp(-(Eρ-Ev)/kTm))>nn-
を満たす、ように構成されている、半導体装置。
【請求項2】
前記半導体基板は、ワイドバンドギャップ半導体である、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記半導体基板は、酸化ガリウムである、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記アノード層に含まれるアクセプタは、ビスマス又は亜鉛である、請求項3に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置を構成するメイントランジスタに過電流が流れることがある。例えば、メイントランジスタに接続されている負荷が短絡する等の不具合が発生すると、メイントランジスタに電源電圧に相当する過電圧が印加され、メイントランジスタを流れる電流が飽和電流まで増加する。飽和電流が流れる状態が継続すると、メイントランジスタが熱破壊してしまう虞がある。
【0003】
特許文献1は、メイントランジスタの制御端子と低圧側端子の間に、電気抵抗値が負温度特性を有するサーミスタ素子が接続された半導体装置を開示する。サーミスタ素子は、メイントランジスタに熱結合するように配置されている。メイントランジスタに過電流が流れ、メイントランジスタの温度が上昇すると、熱結合しているサーミスタ素子の温度も上昇し、サーミスタ素子の電気抵抗値が低下する。この半導体装置は、メイントランジスタに過電流が流れたときに、サーミスタ素子の電気抵抗値が低下することでメイントランジスタの制御端子と低圧側端子の間が短絡し、メイントランジスタがオフするように構成されている。このように、特許文献1の半導体装置は、メイントランジスタに過電流が流れたときに、メイントランジスタを強制的にオフし、メイントランジスタを熱破壊から保護するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-263459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような半導体装置では、動作温度が定常動作温度のときにメイントランジスタが動作し、動作温度が最大定格動作温度よりも高くなったときにメイントランジスタが速やかに停止するのが望ましい。即ち、このような半導体装置では、最大定格動作温度を閾値として保護動作が働くのが望ましい。一般的に、サーミスタ素子は、温度変化に対する電気抵抗値の変化が小さい。このため、特許文献1の技術では、サーミスタ素子が温度に対して高感度に応答するのが難しいことから、最大定格動作温度を閾値として保護動作を働かせることが難しい。本明細書は、最大定格動作温度を閾値として保護動作を働かせることができる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する半導体装置の一実施形態は、メイントランジスタと、保護用ダイオードと、を備えることができる。前記メイントランジスタは、制御端子と高圧側端子と低圧側端子を有している。前記保護用ダイオードは、前記メイントランジスタの前記制御端子と前記低圧側端子の間に接続されている。前記保護用ダイオードは、アノードが前記メイントランジスタの前記制御端子に接続されており、カソードが前記メイントランジスタの前記低圧側端子に接続されているとともに、前記メイントランジスタに熱結合するように構成されている。前記保護用ダイオードは、p型のアノード層と、n型のカソード層と、前記アノード層と前記カソード層の間であって前記カソード層よりもドナー濃度が薄いn型のドリフト層と、を有する半導体基板、を備えている。この半導体装置は、前記アノード層のアクセプタ濃度をNaとし、フェルミ準位をEρとし、価電子帯上端エネルギーをEvとし、前記アノード層のアクセプタのエネルギー準位と価電子帯上端のエネルギー差をΔEaとし、前記ドリフト層の電子濃度をnn-としたときに、動作温度が定常動作温度Tcのときに、Na/(1+exp(ΔEa/kTc)exp(-(Eρ-Ev)/kTc))<nn-を満たし、動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときに、Na/(1+exp(ΔEa/kTm)exp(-(Eρ-Ev)/kTm))>nn-を満たす、ように構成されている。この半導体装置では、前記保護用ダイオードが前記メイントランジスタの前記制御端子から前記低圧側端子に向けて順方向となるように接続されている。しかしながら、前記保護用ダイオードは、動作温度が定常動作温度Tcのときに、前記アノード層の正孔濃度が前記ドリフト層の電子濃度よりも低くなるように構成されている。このため、前記保護用ダイオードは、動作温度が定常動作温度Tcのときに、正孔注入効率が小さく、電流が実質的に流れないように構成されている。一方、前記保護用ダイオードは、動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときに、前記アノード層の正孔濃度が前記ドリフト層の電子濃度よりも高くなるように構成されている。このため、前記保護用ダイオードは、動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときに、正孔注入効率が大きく、電流が流れるように構成されている。このように、上記半導体装置では、最大定格動作温度Tmを閾値として保護動作を働かせることができる。
【0007】
上記実施形態の半導体装置では、前記半導体基板がワイドバンドギャップ半導体であってもよい。さらに、前記半導体基板が酸化ガリウムであってもよい。前記半導体基板が酸化ガリウムの場合、前記アノード層に含まれるアクセプタはビスマス又は亜鉛であってもよい。前記半導体基板がワイドバンドギャップ半導体であると、前記アノード層のアクセプタのエネルギー準位と価電子帯端のエネルギー差ΔEaが大きい。これにより、この半導体装置は、定常動作温度Tcにおける数式、Na/(1+exp(ΔEa/kTc)exp(-(Eρ-Ev)/kTc))<nn-を満たし易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態の半導体装置の等価回路図を示す。
図2】本実施形態の半導体装置の保護用ダイオードの要部断面図を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示されるように、半導体装置1は、メイントランジスタ2と保護用ダイオード3を備えている。メイントランジスタ2と保護用ダイオード3は、同一の半導体基板内に形成されている。メイントランジスタ2は、nチャンネル型の電界効果型トランジスタであり、具体的にはn型MOSFETである。メイントランジスタ2は、制御端子であるゲート端子Gと、高圧側端子であるドレイン端子Dと、低圧側端子であるソース端子Sと、を有している。なお、メイントランジスタ2は、nチャンネル型のIGBTであってもよい。保護用ダイオード3は、そのアノードがメイントランジスタ2のゲート端子Gに電気的に接続されており、そのカソードがメイントランジスタ2のソース端子Sに電気的に接続されている。このように、保護用ダイオード3は、メイントランジスタ2のゲート端子Gからソース端子Sに向けて順方向となるように接続されている。
【0010】
図2に示されるように、保護用ダイオード3は、半導体基板10と、半導体基板10の裏面を被覆するカソード電極22と、半導体基板10の表面を被覆するアノード電極24と、を有している。
【0011】
半導体基板10は、特に限定されるものではないが、例えば酸化ガリウム(Ga23)であってもよい。この例に代えて、半導体基板10は、窒化物半導体及び炭化珪素等のワイドバンドギャップ半導体であってもよい。半導体基板10は、n+型のカソード層12と、n-型のドリフト層14と、p型のアノード層16と、を有している。
【0012】
カソード層12は、ドナーを含むn型領域である。ドナーは、特に限定されるものではないが、例えばシリコン、スズ又はゲルマニウムであってもよい。カソード層12は、半導体基板10の裏層部に設けられており、半導体基板10の裏面に露出する位置に配置されており、カソード電極22にオーミック接触している。上記したように、カソード電極22は、メイントランジスタ2のソース端子Sに電気的に接続されている。カソード層12のドナー濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1018~1020cm-3であってもよい。カソード層12の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば1~5μmであってもよい。
【0013】
ドリフト層14は、ドナー濃度がカソード層12よりも薄いn型領域である。ドナーは、特に限定されるものではないが、例えばシリコン、スズ又はゲルマニウムであってもよい。ドリフト層14は、カソード層12とアノード層16の間に設けられており、カソード層12とアノード層16を隔てている。ドリフト層14のドナー濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1013~1017cm-3であってもよい。ドリフト層14の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば5~10μmであってもよい。
【0014】
アノード層16は、アクセプタを含むp型領域である。アクセプタは、特に限定されるものではないが、例えばビスマス又は亜鉛であってもよい。アノード層16は、半導体基板10の表層部に設けられており、半導体基板10の表面に露出する位置に配置されており、アノード電極24にオーミック接触している。上記したように、アノード電極24は、メイントランジスタ2のゲート端子Gに電気的に接続されている。アノード層16のアクセプタ濃度は、特に限定されるものではないが、例えば1018~1020cm-3であってもよい。アノード層16の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば1~5μmであってもよい。
【0015】
保護用ダイオード3は、動作温度が定常動作温度Tcのときにアノード層16の正孔濃度がドリフト層14の電子濃度よりも低く、且つ、動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときにアノード層16の正孔濃度がドリフト層14の電子濃度よりも高く、なるように構成されている。具体的には、保護用ダイオード3は、動作温度が定常動作温度Tcのときに以下の数式1が成立し、動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときに以下の数式2が成立する、ように構成されている。
【0016】
【数1】
【数2】
【0017】
ここで、「Na」はアノード層16のアクセプタ濃度であり、「Eρ」はフェルミ準位であり、「Ec」は伝導帯下端エネルギーであり、「Ev」は価電子帯上端エネルギーであり、「ΔEa」はアノード層16のアクセプタのエネルギー準位と価電子帯上端のエネルギー差であり、「Nd」はドリフト層14のドナー濃度であり、「ΔEd」はドリフト層14のドナーのエネルギー準位と伝導帯下端のエネルギー差であり、「k」はボルツマン定数である。
【0018】
ドリフト層14の活性化エネルギーは十分に低く、ドリフト層14のドナー濃度と電子濃度は実質的に等しい。したがって、ドリフト層14の電子濃度を「nn-」とすると、数式1は数式3に、数式2は数式4に書き換えられる。
【0019】
【数3】
【数4】
【0020】
このように、保護用ダイオード3は、アノード層16のアクセプタ濃度Naと、アノード層16のアクセプタのエネルギー準位と価電子帯端のエネルギー差ΔEaと、ドリフト層14のドナー濃度Nd(即ち、電子濃度nn-)と、を調整することにより、上記の数式3及び数式4の双方が成立するように構成されている。
【0021】
次に、半導体装置1の動作を説明する。まず、半導体装置1の通常動作時の挙動を説明する。ドレイン端子Dに正電圧が印加され、ソース端子Sが接地され、ゲート端子Gにソース端子Sよりも正となる駆動電圧が印加されると、メイントランジスタ2はオンとなる。半導体装置1の動作温度が定常動作温度Tcのときは、数式3が成立しており、アノード層16の正孔濃度がドリフト層14の電子濃度よりも低い。このため、半導体装置1の動作温度が定常動作温度Tcのときは、保護用ダイオード3の正孔注入効率が低く、保護用ダイオード3には電流が実質的に流れない。したがって、ゲート端子Gとソース端子Sの間が短絡しないので、メイントランジスタ2は通常動作をすることができる。このように、半導体装置1では、保護用ダイオード3が設けられていても、メイントランジスタ2の通常動作が阻害されることがない。
【0022】
次に、半導体装置1の異常動作時の挙動を説明する。半導体装置1に接続されている負荷が短絡する等の不具合が発生すると、メイントランジスタ2に過電流が流れる。メイントランジスタ2に過電流が流れると、半導体基板10の温度が上昇する。このため、半導体基板10内に形成されている保護用ダイオード3の温度も上昇する。半導体装置1の動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときは、数式4が成立しており、アノード層16の正孔濃度がドリフト層14の電子濃度よりも高い。このため、半導体装置1の動作温度が最大定格動作温度Tmよりも高いときは、保護用ダイオード3の正孔注入効率が高く、保護用ダイオード3には電流が流れる。したがって、ゲート端子Gとソース端子Sの間が短絡するので、メイントランジスタ2は強制的にオフされる。メイントランジスタ2が強制的にオフされることで、半導体基板10の温度上昇が停止し、メイントランジスタ2が熱破壊から保護される。
【0023】
上記したように、半導体装置1は、上記の数式3及び数式4の双方が成立することにより、最大定格動作温度Tmを閾値として保護動作を働かせることができる。
【0024】
保護用ダイオード3は、メイントランジスタ2のゲート端子Gからソース端子Sに向けて順方向に接続されている。しかしながら、保護用ダイオード3は、上記の数式3を満たすことにより、動作温度が定常動作温度Tcのときには、電流が実質的に流れないように構成されている。上記の数式3を満たすためには、アノード層16のアクセプタのエネルギー準位と価電子帯端のエネルギー差ΔEaが大きいのが望ましい。保護用ダイオード3は、半導体基板10がワイドバンドギャップ半導体であることから、エネルギー差ΔEaが大きい。特に、保護用ダイオード3は、半導体基板10が酸化ガリウムであることから、エネルギー差ΔEaが極めて大きい。例えば、酸化ガリウムである半導体基板のアクセプタにビスマスを用いると、エネルギー差ΔEaが0.8eVという大きな値となる。このように、半導体基板10にワイドバンドギャップ半導体を用いることにより、上記の数式3を容易に満たすことが可能となる。このような点から、エネルギー差ΔEaは、特に限定されるものではないが、例えば0.8eV以上であってもよい。
【0025】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0026】
1 :半導体装置
2 :メイントランジスタ
3 :保護用ダイオード
10 :半導体基板
12 :カソード層
14 :ドリフト層
16 :アノード層
22 :カソード電極
24 :アノード電極
D :ドレイン端子
G :ゲート端子
S :ソース端子
図1
図2