(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】電力需給制御システム
(51)【国際特許分類】
H02J 13/00 20060101AFI20241227BHJP
H02J 3/32 20060101ALI20241227BHJP
H02J 3/38 20060101ALI20241227BHJP
H02J 3/00 20060101ALI20241227BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241227BHJP
H02J 7/35 20060101ALI20241227BHJP
H02J 50/00 20160101ALI20241227BHJP
B60L 55/00 20190101ALI20241227BHJP
B60L 53/63 20190101ALI20241227BHJP
B60L 53/12 20190101ALI20241227BHJP
B60L 53/53 20190101ALI20241227BHJP
【FI】
H02J13/00 311R
H02J3/32
H02J3/38 130
H02J3/38 160
H02J3/00 130
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
H02J7/00 P
H02J7/35 K
H02J7/00 301D
H02J50/00
B60L55/00
B60L53/63
B60L53/12
B60L53/53
(21)【出願番号】P 2021159017
(22)【出願日】2021-09-29
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000156938
【氏名又は名称】関西電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 正也
(72)【発明者】
【氏名】園田 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆晴
【審査官】三橋 竜太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-161708(JP,A)
【文献】特開2020-145884(JP,A)
【文献】国際公開第2021/020921(WO,A1)
【文献】特表2022-533101(JP,A)
【文献】特開2015-002588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 13/00
H02J 3/00-5/00
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
H02J 50/00-50/90
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が走行する道路に配設され、充放電が可能な蓄電池を搭載した走行中の車両に対して、ワイヤレス方式で充放電が可能なワイヤレス充放電器と、
予め定められた地域区分の単位で、再生可能エネルギーに基づく発電電力を含む電力の供給量に関する情報と、需要設備による電力の需要量に関する情報と、を含む電力需給情報を取得する第1サーバと、
前記車両から、当該車両の位置情報及び前記蓄電池の充電状態情報を含む車両情報を取得する第2サーバと、
前記第1サーバから前記電力需給情報を取得すると共に、前記第2サーバから前記車両情報を取得し、前記ワイヤレス充放電器の動作を制御する制御ユニットと、を備え、
前記制御ユニットは、
前記電力需給情報に基づき、前記地域区分内における前記供給量と前記需要量との関係を把握すると共に、前記車両情報に基づき、前記地域区分内に存在し且つ前記蓄電池の充放電が可能な車両を特定し、
前記供給量が前記需要量を上回る場合、前記ワイヤレス充放電器に、前記地域区分内を走行する前記車両の前記蓄電池に対して充電動作を行わせ、
前記供給量が前記需要量を下回る場合、前記ワイヤレス充放電器に、前記地域区分内を走行する前記車両の蓄電池からの放電を受ける放電動作を行わせる、
電力需給制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電力需給制御システムにおいて、
前記制御ユニットは、一の地域区分内で、前記ワイヤレス充放電器による前記充電動作又は放電動作では前記供給量と前記需要量との調整を行い、前記調整が十分でない場合、当該一の地域区分から他の地域区分への電力融通、若しくは前記他の地域区分から前記一の地域区分への電力融通を実行させる、電力需給制御システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電力需給制御システムにおいて、
前記ワイヤレス充放電器は、交通信号機が付設された道路の交差点付近に敷設され、
前記制御ユニットは、一の路線上で連続する交通信号群であって一の系統制御の対象とされる交通信号機群が設置された複数の信号交差点及びその周辺領域を含む地域を一の地域区分として制御を行う、電力需給制御システム。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の電力需給制御システムにおいて、
前記ワイヤレス充放電器は、交通信号機が付設された道路の交差点付近において当該交差点を形成している道路の各レーンに敷設され、
前記制御ユニットは、前記交通信号機によって同じ時間帯に車両が走行中となる走行レーンと、車両が停止中となる停止レーンとに対して各々配設されている前記ワイヤレス充放電器をペアとして、前記充電動作又は前記放電動作の制御を実行する、電力需給制御システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電力需給制御システムにおいて、
前記制御ユニットは、
過去の一定期間において前記ワイヤレス充放電器と前記車両との間で実行された前記充電動作又は前記放電動作に基づく充電量及び放電量の実績値を収集し、
前記実績値に対して統計処理を施して、将来の一定期間における時間帯毎に必要な充電量及び放電量の予測値を導出して充放電予測データを作成し、
前記将来の一定期間の到来時に、前記充放電予測データを参照して、前記ワイヤレス充放電器の動作を制御する、電力需給制御システム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の電力需給制御システムにおいて、
前記第1サーバは、さらに、前記地域区分内に存在する定置用の蓄電池設備の充電状態情報を取得し、
前記制御ユニットは、さらに、前記蓄電池設備の充電動作若しくは放電動作を制御する、電力需給制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行中の電動車両に対するワイヤレス充放電を利用して地域区分単位の電力需給制御を行うシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
「2050年カーボンニュートラル」が宣言される趨勢下、再生可能エネルギーを用いた発電設備の増設が見込まれる。再生可能エネルギーの最有力は太陽光であるため、太陽光発電設備の増設により昼間に余剰電力が発生することも想定される。従って、余剰電力を有効活用(消費)する仕組みの構築が望まれる。活用法の一つは、定置用蓄電池を設置し、余剰電力の充電とその放電を行うことである。また、特許文献1には、充電設備にケーブル接続された駐車中の電気自動車の蓄電池に対して充放電制御を行い、電力需給を平準化するシステムが開示されている。なお、電動車両の蓄電池に対してワイヤレスで給電を行うシステムも存在する(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2012/017937号
【文献】特開2021-48677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、定置用蓄電池の設置には、設備調達や設置場所の確保、メンテナンス等に多大な費用を要する。このため、再生可能エネルギー発電設備の増設に合わせて定置用蓄電池を増設することは、コスト面で問題がある。特許文献1のシステムは、既存の電気自動車の蓄電池を活用することから、コスト面で有利ではある。しかし、充放電設備に電気自動車が接続されていることが前提であるので、充放電を行うことができる位置と時間が自ずと限定される。このため、再生可能エネルギー発電設備の発電電力を有効に活用して、電力需給の平準化が図り難いという問題が生じる。
【0005】
本発明の目的は、電動車両に搭載された蓄電池をより有効活用した電力需給制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面に係る電力需給制御システムは、車両が走行する道路に配設され、充放電が可能な蓄電池を搭載した走行中の車両に対して、ワイヤレス方式で充放電が可能なワイヤレス充放電器と、予め定められた地域区分の単位で、再生可能エネルギーに基づく発電電力を含む電力の供給量に関する情報と、需要設備による電力の需要量に関する情報と、を含む電力需給情報を取得する第1サーバと、前記車両から、当該車両の位置情報及び前記蓄電池の充電状態情報を含む車両情報を取得する第2サーバと、前記第1サーバから前記電力需給情報を取得すると共に、前記第2サーバから前記車両情報を取得し、前記ワイヤレス充放電器の動作を制御する制御ユニットと、を備え、前記制御ユニットは、前記電力需給情報に基づき、前記地域区分内における前記供給量と前記需要量との関係を把握すると共に、前記車両情報に基づき、前記地域区分内に存在し且つ前記蓄電池の充放電が可能な車両を特定し、前記供給量が前記需要量を上回る場合、前記ワイヤレス充放電器に、前記地域区分内を走行する前記車両の前記蓄電池に対して充電動作を行わせ、前記供給量が前記需要量を下回る場合、前記ワイヤレス充放電器に、前記地域区分内を走行する前記車両の蓄電池からの放電を受ける放電動作を行わせる。
【0007】
この電力需給制御システムによれば、道路に配設されたワイヤレス充放電器を用いて、当該道路を走行中の蓄電池を搭載した車両に対して充放電が行われる。このため、車両蓄電池に対する充放電位置が固定化されず、所定の地域区分単位での電力需給制御を行う事により、より詳細な制御が行える利点がある。第1サーバが取得する電力需給情報に基づき、前記地域区分における再生可能エネルギーに基づく発電電力の余剰又は不足状況が把握できる。また、第2サーバが取得する車両情報に基づき、前記地域区分内に存在する蓄電池搭載車両並びに充電状態情報が把握できる。制御ユニットは、前記電力需給情報から、前記地域区分内における電力の供給量と需要量との関係を把握し、前記ワイヤレス充放電器に当該地域区分内を走行する車両に充電または放電動作を行わせる。従って、本システムによれば、走行中の車両の蓄電池を有効活用して、特定の地域区分の単位で電力需給制御を柔軟に行わせることができる。
【0008】
上記の電力需給制御システムにおいて、前記制御ユニットは、一の地域区分内で、前記ワイヤレス充放電器による前記充電動作又は放電動作では前記供給量と前記需要量との調整を行い、前記調整が十分でない場合、当該一の地域区分から他の地域区分への電力融通、若しくは前記他の地域区分から前記一の地域区分への電力融通を実行させることが望ましい。
【0009】
この電力需給制御システムによれば、一の地域区分内では電力需給の調整が困難な場合に、複数の地域区分間で電力融通が為される。従って、単独の地域区分では需給平準化が難しくとも、他の地域区分との連携により適正な電力需給制御を実行させることができる。
【0010】
上記の電力需給制御システムにおいて、前記ワイヤレス充放電器は、交通信号機が付設された道路の交差点付近に敷設され、前記制御ユニットは、一の路線上で連続する交通信号群であって一の系統制御の対象とされる交通信号機群が設置された複数の信号交差点及びその周辺領域を含む地域を一の地域区分として制御を行うことができる。
【0011】
ワイヤレス充放電器を用いて車両蓄電池に充放電を行う場合、走行車両と停止車両とでは、充放電量に大きな差異が生じる。一の系統制御の対象とされる一連の交通信号機群は、時間的に関連付けられた同期的な信号表示を行う。つまり、前記系統制御のエリアでは、交差点を通過走行する車両群と、交差点で停止する車両群との二群に明確に分かれ易い。このため、ワイヤレス充放電器と車両蓄電池との間の充放電量の想定が行い易くなる。従って、上記の電力需給制御システムのように、一の系統制御の対象地域を一の地域区分として制御することで、適正な電力需給制御の実現性を高めることができる。
【0012】
上記の電力需給制御システムにおいて、前記ワイヤレス充放電器は、交通信号機が付設された道路の交差点付近において当該交差点を形成している道路の各レーンに敷設され、前記制御ユニットは、前記交通信号機によって同じ時間帯に車両が走行中となる走行レーンと、車両が停止中となる停止レーンとに対して各々配設されている前記ワイヤレス充放電器をペアとして、前記充電動作又は前記放電動作の制御を実行することが望ましい。
【0013】
ワイヤレス充放電器が車両から集電する電力、若しくは車両に充電させる電力は、なるべく一定であることが望ましい。しかし、走行レーンのワイヤレス充放電器と、停止レーンのワイヤレス充放電器とでは、充放電量に大きな差異が生じる。上記の電力需給制御システムによれば、走行レーンのワイヤレス充放電器と、停止レーンのワイヤレス充放電器とをペアとして扱うので、充放電量の大小を補完できる。つまり、ワイヤレス充放電器をペア化することで充放電量を安定させ、電力需給制御の実現容易性を高めることができる。
【0014】
上記の電力需給制御システムにおいて、前記制御ユニットは、過去の一定期間において前記ワイヤレス充放電器と前記車両との間で実行された前記充電動作又は前記放電動作に基づく充電量及び放電量の実績値を収集し、前記実績値に対して統計処理を施して、将来の一定期間における時間帯毎に必要な充電量及び放電量の予測値を導出して充放電予測データを作成し、前記将来の一定期間の到来時に、前記充放電予測データを参照して、前記ワイヤレス充放電器の動作を制御することが望ましい。
【0015】
この電力需給制御システムによれば、過去の一定期間の実績値に基づいて、将来の一定期間の充放電予測データが作成される。その後に行う電力需給制御においては、前記充放電予測データをベースとして制御を行うことができる。従って、制御モデルとなるデータが全く存在しない場合に比べて、電力需給制御の容易化を図ることができる。
【0016】
上記の電力需給制御システムにおいて、前記第1サーバは、さらに、前記地域区分内に存在する定置用の蓄電池設備の充電状態情報を取得し、前記制御ユニットは、さらに、前記蓄電池設備の充電動作若しくは放電動作を制御することが望ましい。
【0017】
この電力需給制御システムによれば、定置用蓄電池設備をさらに活用することにより、需給平準化の精度を高めた電力需給制御を実現することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、電動車両に搭載された蓄電池をより有効活用した電力需給制御システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る電力需給制御システムの全体的なハード構成を示す模式図である。
【
図2】
図2は、前記電力需給制御システムの構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、EMSの詳細構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、運行管理サーバの詳細構成を示すブロック図である。
【
図5】
図5は、電力需給制御の地域区分と電力融通の一例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、系統制御の対象となる交通信号機群を地域区分とする例を説明するための模式図である。
【
図7】
図7(A)~(C)は、電力需給制御の具体例を示すグラフである。
【
図8】
図8(A)及び(B)は、充放電予測データの導出例を説明するための模式図である。
【
図9】
図9(A)~(D)は、走行レーン及び停止レーンに配置されたワイヤレス充放電器のペアリングの例を説明するための模式図である。
【
図10】
図10は、本実施形態の電力需給制御システムの制御動作の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[システムのハード構成]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電力需給制御システム1の全体的なハード構成を示す模式図である。電力需給制御システム1は、エネルギー・マネジメント・システム2(第1サーバ;以下、EMS2と略す)と、運行管理サーバ3(第2サーバ)と、ワイヤレス充放電器41を含む路上充放電装置4とを備える。
【0021】
EMS2は、例えばリソース・アグリゲータに所有されるサーバ装置である。EMS2は、電力供給量と電力需要量とを可及的に一致させる電力需給制御に必要な各種の情報を収集する機能と、運行管理サーバ3を介して路上充放電装置4を含む充放電機器の充放電動作をコントロールする機能とを有する。EMS2は、インターネットINなどの通信回線を介して運行管理サーバ3とデータ通信が可能である。
【0022】
運行管理サーバ3は、道路を走行する電気自動車5及び路上充放電装置4、並びに道路の運行管理機器やデータサプライヤ等と、インターネットINを介してデータ通信が可能なサーバ装置である。運行管理サーバ3は、電気自動車5及び路上充放電装置4に関する情報、並びに道路の運行管理に必要な情報を収集する。
【0023】
路上充放電装置4は、例えば各種の車両が走行する道路の適所に配設され、道路上を走行又は停止している電気自動車5(蓄電池を搭載した車両)等に対して充電動作を行う、若しくは、電気自動車5からの放電動作を受ける装置である。路上充放電装置4は、一般道の信号付き交差点付近に配設されることが好ましい。適切な充放電電力(充放電時間)を確保するには、電気自動車5が停止若しくは低速走行状態であることが望ましく、信号付き交差点であれば、そのような電気自動車5の運行状態が期待できるからである。
【0024】
路上充放電装置4は、ワイヤレス充放電器41及び充放電制御装置43を含む。ワイヤレス充放電器41は、充放電が可能な車載蓄電池51を搭載した走行中の電気自動車5に対して、電気ケーブルや接触集電電極を用いることなく、ワイヤレス方式で充放電を行う機器である。
図1で例示しているワイヤレス充放電器41は、磁界共鳴方式などで電力伝送を行う機器であり、前記磁界共鳴による磁界結合を実現する複数個の路上送受電コイル42を備えている。路上送受電コイル42は、複数個が車両走行方向に沿って並ぶように、道路表面に敷設若しくは路中に埋設される。
【0025】
電気自動車5は、車載蓄電池51に電気的に接続された車載送受電コイル52を備えている。車載送受電コイル52も、磁界共鳴方式などで電力伝送を行わせるためのコイルである。この車載送受電コイル52と、路上充放電装置4が備える路上送受電コイル42との2つのコイルが共振器となり、磁界共鳴を実現させる。すなわち、2つのコイル42、52の一方のコイルに周波数fの交流電流が流れることにより発生した磁場の振動が、同じ周波数fで他方のコイルに伝わり、電磁誘導現象により当該他方のコイルに電流が発生する。なお、上掲の磁界共鳴方式に代えて、磁界結合方式で充放電を行うワイヤレス充放電器41を採用しても良い。
【0026】
充放電制御装置43は、ワイヤレス充放電器41の充放電動作を制御する。充放電制御装置43は、車載蓄電池51の端子間電圧や電流に対応させて、ワイヤレス充放電器41が所定の電力で充電又は放電動作を行うよう制御する。つまり、充放電制御装置43は、路上送受電コイル42と車載送受電コイル52との間で、所定の充放電電力(充放電電流)で電力の受け渡しが行われるよう路上送受電コイル42に流れる電流等を制御する。また、充放電制御装置43は、運行管理サーバ3とインターネットINを介してデータ通信を行う通信機能を有する通信器44を備えている。電気自動車5も、運行管理サーバ3とインターネットINを介してデータ通信を行う車載通信器53を備えている。
【0027】
EMS2は、再生可能エネルギー発電設備6、蓄電池設備7及び需要設備8と、インターネットINを介してデータ通信可能とされている。再生可能エネルギー発電設備6は、大規模電力事業者が運営する火力や原子力発電所とは別に、太陽光、風力、地熱などの再生可能エネルギーを用いて発電を行う設備である。ここでは、再生可能エネルギー発電設備6として、太陽光発電設備61及び風力発電設備62を例示している。再生可能エネルギー発電設備6は、EMS2とのデータ通信機能を具備する発電設備コントローラ63を有する。発電設備コントローラ63は、再生可能エネルギー発電設備6の発電電力を制御する。
【0028】
蓄電池設備7は、非常電源用、サブ電源用、自家発電設備の蓄電用などの目的で、個人や事業所などに保有されている設備である。蓄電池設備7は、鉛蓄電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの二次電池を備える。本実施形態では、有線にて電気自動車5に充電を行うコンダクティブ充電器も、蓄電池設備7の一つとして扱う。この場合、前記コンダクティブ充電器に接続された電気自動車5の車載蓄電池51が蓄電池設備となる。蓄電池設備7は、EMS2とのデータ通信機能を具備する蓄電池設備コントローラ71を備える。
【0029】
需要設備8は、ビルディング、工場設備、商業設備、集合住宅、一般家屋など、電力を消費する電力需要設備であって、電力事業者などから電力系統を介して電力が供給される。周知の通り、需要設備8における電力の需要量は、時間、曜日、週などの時間的要因、季節要因、天候要因などにより、場合によっては大きく変動する。
【0030】
[システムの電気的構成]
図2は、電力需給制御システム1の電気的構成を示すブロック図である。
図2の各ブロック間において、電力供給ルートを実線で、通信・制御ルートを点線で各々示している。再生可能エネルギー発電設備6、蓄電池設備7、需要設備8及び路上充放電装置4は、電力事業者などが運営する電力系統PGに接続されている。
【0031】
再生可能エネルギー発電設備6は、第1電力変換器11及び第1スマートメーター13を介して電力系統PGに接続されている。第1電力変換器11は、パワーコンデショナーであり、例えば太陽光発電設備61が発電した直流電力を、商用交流電力に変換して電力系統PGに供給する。第1スマートメーター13は、通信機能を備えた電力量計であり、再生可能エネルギー発電設備6が発電し、電力系統PGに供給した電力量を記録し、その電力量データをEMS2に送信する。同様に、蓄電池設備7は、第2電力変換器12及び第2スマートメーター14を介して電力系統PGに接続されている。第2電力変換器12は、蓄電池設備7から出力される直流電力を、商用交流電力に変換して電力系統PGに供給する。第2スマートメーター14は、蓄電池設備7から電力系統PGに供給された電力量を記録し、その電力量データをEMS2に送信する。需要設備8は、第3スマートメーター15を介して電力系統PGに接続されている。第3スマートメーター15は、需要設備8における電力消費量を記録し、その電力量データをEMS2に送信する。
【0032】
路上充放電装置4は、第4スマートメーター16を介して電力系統PGに接続されている。路上充放電装置4は、ワイヤレス充放電器41を通して電気自動車5に充電を行う一方、電気自動車5からの放電を受ける。つまり、路上充放電装置4は、電力系統PGから電気自動車5への充電電力を供給する一方で、電気自動車5の車載蓄電池51からの放電電力を電力系統PGへ供給するという二面性を持つ。このため、第4スマートメーター16は、前記充電電力の供給により電力系統PGから電気自動車5へ供給した電力と、前記電電力に基づき電力系統PGへ供給した電力とを記録し、その電力値データをEMS2に送信する。
【0033】
EMS2は、予め定められた地域区分の単位で、電力需給情報D1を取得する。電力需給情報D1は、少なくとも再生可能エネルギー発電設備6の発電電力を含む電力の供給量に関する情報と、蓄電池設備7の電力供給可能量ならびに電力消費可能量に関する情報と、需要設備8による電力の需要量に関する情報とを含む。
図3は、EMS2が収集する電力需給情報D1の一例と、EMS2の機能構成を示す図である。ここでは、ある地域Xに存在する再生可能エネルギー発電設備6、蓄電池設備7、定置用蓄電池設備7A、コンダクティブ充電設備7B及び需要設備8と、地域Xを対象とする気象データサプライヤDS1とからデータ収集する例を示している。
【0034】
EMS2は、気象データサプライヤDS1から、当該地域Xの気象情報、太陽光・風力発電予測情報などを取得する。気象情報は、例えば空調機による電力使用量と関連することから、需要設備8における電力需要量の予測に用いられる。太陽光・風力発電予測情報は、晴天状況や風向風力の予測値に基づき作成される情報であり、再生可能エネルギー発電設備6の発電電力の予測に用いられる。
【0035】
再生可能エネルギー発電設備6からは、発電設備ID、位置情報、発電設備容量[kW]、発電電力[kW]などの情報が取得される。発電設備IDは、個々の再生可能エネルギー発電設備6(太陽光発電設備61や風力発電設備62など)に付与されている固有の識別記号である。位置情報は、再生可能エネルギー発電設備6の所在地を示す経度、緯度情報である。EMS2は、当該位置情報に基づき、再生可能エネルギー発電設備6が地域Xに存在する設備であるかを認識する。前記発電設備容量及び前記発電電力は、それぞれ再生可能エネルギー発電設備6の発電可能電力と、現状の発電電力を示す情報である。
【0036】
蓄電池設備7として、定置用蓄電池設備7A及びコンダクティブ充電設備7Bを例示している。これら蓄電池設備7からは、蓄電池ID、位置情報、蓄電池設備容量[kW/kWh]、蓄電池充電量[%]、充放電電力[kW]などの情報が取得される。蓄電池IDは、定置用蓄電池設備7A及びコンダクティブ充電設備7Bなどの蓄電池設備7に各々割り当てられている固有の識別記号である。位置情報は、蓄電池設備7の所在地を示す経度、緯度情報であって、当該蓄電池設備7がどの地域区分に属するかを識別するための情報である。蓄電池設備容量は、蓄電池設備7が具備する蓄電池が蓄電可能な容量である。蓄電池充電量(SOC)は、現状の蓄電池設備7の充電状態を示す情報である。充放電電力は、現状の蓄電池設備7の充電電力または供給(放電)電力である。
【0037】
需要設備8からは、需要設備ID、位置情報、需要設備容量[kW]、消費電力[kW]などの情報が取得される。需要設備IDは、各需要家に割り当てられている固有の識別記号である。位置情報は、需要設備8の所在地を示す経度、緯度情報であって、当該需要設備8がどの地域区分に属するかを識別するための情報である。需要設備容量は、需要設備8が具備する電気機器の総負荷容量である。消費電力は、需要設備8において現状で使用されている電力値である。
【0038】
EMS2は、電力需給情報D1を含む各種情報を収集する機能部として、道路地
図DB21、気象情報DB22、発電設備DB23、需要設備DB24及び蓄電池管理DB25を備える。道路地
図DB21は、EMS2がデータ収集の対象域としてカバーする地域の道路地図情報を記憶する。気象情報DB22は、気象データサプライヤDS1から取得した気象情報および太陽光・風力発電予測情報などを記憶する。発電設備DB23は、再生可能エネルギー発電設備6の発電情報を記憶する。需要設備DB24は、需要設備の電力需要情報を記憶する。蓄電池管理DB25は、定置用蓄電池設備7Aおよびコンダクティブ充電設備7Bの充放電情報などを記憶する。
【0039】
EMS2は、制御機能部として、電力需給制御部26(制御ユニット)、充放電実績DB27及び統計処理部28を備える。電力需給制御部26は、電力供給量と電力需要量とが一致するように、再生可能エネルギー発電設備6を含む発電設備の発電電力と、蓄電池設備7から供給または充電させる電力および需要設備8により消費する電力とを調整する電力需給制御を実行する。本実施形態では、当該電力需給制御において電力需給制御部26は、運行管理サーバ3を通じて、路上充放電装置4の充放電制御も行う。この充放電制御では、EMS2が取得した電力需給情報D1と、次述の運行管理サーバ3が取得するワイヤレス充放電器41の充放電情報D2、電気自動車5の車両情報D3ならびに道路交通情報D4とを参照して、ワイヤレス充放電器41の動作、すなわちワイヤレス充放電器41の充電動作又は放電動作が制御される。
【0040】
充放電実績DB27は、ワイヤレス充放電器41が実行した充電動作又は放電動作の実績、つまり充放電電力の実績値を、日時に関連付けて記憶する。統計処理部28は、充放電実績DB27に記憶された充放電電力の実績値を用いて統計処理を行い、将来の一定期間における時間帯毎に必要な充電電力及び放電電力の予測値を導出して充放電予測データを作成する。この具体例については、
図8に基づいて後述する。
【0041】
運行管理サーバ3は、
図2に示すように、予め定められた地域区分の単位で、路上充放電装置4の充放電制御装置43からワイヤレス充放電器の充放電情報D2を、電気自動車5の車載通信器53から車両情報D3、及び道路交通情報D4を取得する。また、運行管理サーバ3は、交差点に設置される信号機を制御する交通信号制御装置9から、前記信号機に関する情報を取得する。
【0042】
図4は、運行管理サーバ3が収集する各種情報の一例と、運行管理サーバ3の機能構成を示す図である。ここでは、運行管理サーバ3が、ある地域Xに存在する交通信号制御装置9、地域Xを走行中の電気自動車5、及び、地域Xに配設された路上充放電装置4の充放電制御装置43と、地域Xを対象とする交通情報サプライヤDS2とからデータ収集する例を示している。
【0043】
運行管理サーバ3は、交通情報サプライヤDS2から、当該地域Xの道路交通情報D4を取得する。道路交通情報D4は、地域X内の公道における渋滞情報を含む交通量に関する情報、通行止めや工事等による交通規制情報および渋滞情報などである。交通信号制御装置9からは、信号機ID、信号機の現示情報などが取得される。信号機IDは、各信号機に割り当てられている固有の識別記号であって、当該信号機の設置位置を特定する情報でもある。信号機の現示情報は、当該信号機の現状の表示色を示す情報である。現示情報は、電気自動車5が走行中或いは停止中のいずれであるかを推定する際などに用いられる。例えば、信号機が「赤」のレーンに存在する電気自動車5は、より多くの充電電力(又は放電電力)が想定される。
【0044】
電気自動車5からは、車両ID、位置情報、速度情報[km/h]、蓄電池容量[kWh]、蓄電池充電量[%]、電池消費電力・電力量[kW/kWh]を含む車両情報D3が取得される。車両IDは、各々の電気自動車5に割り当てられている固有の識別記号である。位置情報は、電気自動車5が位置認識のために取得しているGPS情報に基づく経度及び緯度の情報であって、電気自動車5の現在位置を示す情報である。蓄電池容量は、車載蓄電池51が蓄電可能な定格容量である。蓄電池充電量は、現状の車載蓄電池51の充電状態情報である。電池消費量は、いわゆる電費であり、電気自動車5の1kWh当たりの走行距離を示す。
【0045】
ワイヤレス充放電器41を制御する充放電制御装置43からは、充放電器ID、位置情報、充放電器容量[kW]、充放電電力[kW]などを含む充放電情報D2が取得される。充放電器IDは、各地の道路に配設されているワイヤレス充放電器41の各々に割り当てられている固有の識別記号である。位置情報は、ワイヤレス充放電器41の所在地を示す経度、緯度情報であって、当該ワイヤレス充放電器41がどの地域区分に属するかを識別するための情報である。充放電器容量は、ワイヤレス充放電器41が電気自動車5に充電可能な電力、若しくは電気自動車5から放電を受けることが可能な電力を示す情報である。充放電電力は、現状におけるワイヤレス充放電器41の電気自動車5への充電電力(消費電力)、又は、現状の電力系統PGへの供給電力である。
【0046】
運行管理サーバ3は、各種情報を収集する機能部として、道路地
図DB31、交通情報DB32、信号情報DB33、車両管理DB34及び充放電器管理DB35を備える。道路地
図DB31は、運行管理サーバ3がデータ収集の対象域としてカバーする地域の道路地図情報を記憶する。交通情報DB32は、交通情報サプライヤDS2から取得した道路交通情報D4等を記憶する。信号情報DB33は、交通信号制御装置9から、信号機IDに関連付けて信号機の現示情報を収集する。車両管理DB34は、電気自動車5の各々から、車両IDに関連付けて車両情報D3を収集する。充放電器管理DB35は、充放電器IDに関連付けて、充放電情報D2を収集する。
【0047】
運行管理サーバ3は、制御機能部として充放電器制御部36を備える。充放電器制御部36は、電力需給制御部26が作成する電力需給制御情報に基づいて、路上充放電装置4の充放電制御装置43の各々に、ワイヤレス充放電器41に充放電の動作指示を送信する。
【0048】
電力需給制御部26は、大略的に次のように電力需給制御を行う。まず、電力需給制御部26は、リアルタイム情報として、EMS2が取得した電力需給情報D1及び運行管理サーバ3が取得した車両情報D3を参照する。電力需給情報D1に基づき、地域X(特定の地域区分)内における電力供給量と電力需要量との関係が把握される。電力供給量は、電力系統PGに対して大規模発電所から供給されている電力に、再生可能エネルギー発電設備6及び蓄電池設備7から供給されている電力を加算して求められる。電力需要量は、需要設備8による電力消費量から求められる。また、車両情報D3に基づき、地域X内に存在し且つ車載蓄電池51の充放電が可能な電気自動車5が特定される。
【0049】
電力供給量が電力需要量を上回る場合、つまり、電力供給量が余剰である場合、ワイヤレス充放電器41に、地域X内を走行する電気自動車5の車載蓄電池51に対してワイヤレス方式で充電動作を行わせる制御指令が出される。これにより、余剰電力が電気自動車5に対する充電電力として活用される。一方、電力供給量が電力需要量を下回る場合、つまり、電力供給量が不足している場合、ワイヤレス充放電器41に、地域X内を走行する電気自動車5の車載蓄電池51からの放電を受ける放電動作を行わせる。これにより、不足電力分が車載蓄電池51からの電力供給により補われる。なお、不足電力が補い切れない場合は、定置用蓄電池設備7A及びコンダクティブ充電設備7Bに接続されている電気自動車5の車載蓄電池51からも電力供給を行わせる。
【0050】
[地域区分と電力融通について]
続いて、電力需給制御の一単位となる地域区分と、地域区分間での電力融通の例について説明する。
図5は、地域区分と電力融通の一例を示す模式図である。
図5では、一つの大地域αを中規模の地域A、B、Cに区分けしている例を示している。例えば行政区分で示すならば、大地域αは都道府県、地域A、B、Cは市町村の規模を想定している。地域A、B、Cは、さらに小規模の地域区分に細分化されている。ここでは地域Aが、区分A-1~区分A-9に区分されている例を示している。区分A-1~区分A-9は、それぞれEMS2及び運行管理サーバ3とインターネットINを介してデータ通信が可能である。
【0051】
区分A-1~区分A-9の一つが、電力需給制御の一単位となる地域区分である。例えば区分A-1が、
図3及び
図4に示した特定の地域Xと同等の地域区分である。区分A-1内には、再生可能エネルギー発電設備6、蓄電池設備7及び需要設備8が存在し、道路にはワイヤレス充放電器41が敷設されている。そして、区分A-1内を走行する電気自動車5を対象としてワイヤレス充放電器41が充放電を行うことで、再生可能エネルギー発電設備6の余剰電力又は不足電力を可及的に打ち消す電力需給制御が実行される。
【0052】
実際の電力需給制御では、一つの区分A-1内で電力需給の調整が完結できないケースが生じ得る。すなわち、ワイヤレス充放電器41による充電動作又は放電動作による電力需給アシスト、さらには蓄電池設備7の充放電動作のアシストを追加して電力供給量と電力需要量との調整を行っても、前記調整が十分でない場合がある。この場合、電力需給制御部26は、一の地域区分から他の地域区分への電力融通、若しくは前記他の地域区分から前記一の地域区分への電力融通を実行させる。
【0053】
例えば、区分A-1では余剰電力を消費し切れていない一方で、区分A-2では再生可能エネルギー発電設備6の発電電力が不足しているような場合、電力需給制御部26は区分A-1から区分A-2へ余剰電力を供給させて融通を図る。このような制御を行うことで、単独の地域区分では需給平準化が難しくとも、他の地域区分との連携により適正な電力需給制御を実行させることができる。なお、電力融通は、中規模の地域A、B、C相互間でも実行することが望ましい。
【0054】
[小区分の例]
次に、
図6を参照して、電力需給制御の一単位となる地域区分をさらに小区分に分けて需給制御を行う例を説明する。ここでは、系統制御の対象となる複数の交通信号機群を一つの地域区分とする例を示す。
図6では、上掲の区分A-1が、さらに小区分(1)~(3)に区分けされている例が示されている。小区分(1)は、交通信号機が付設された道路の交差点である複数の信号交差点A、B、C及びその周辺領域を含む地域である。信号交差点A、B、C付近、具体的には交差する4つの道路の交通信号機を先端とする一定領域に、ワイヤレス充放電器41を備えた路上充放電装置4が配設されている。小区分(2)は、信号交差点D、E、F及びその周辺領域を含む地域、小区分(3)は、信号交差点G、H、I及びその周辺領域を含む地域である。
【0055】
一の路線上で連続する信号交差点A、B、Cに設置されている複数の交通信号機は、一の信号機制御における系統制御方式の対象とされる交通信号機群である。一の系統制御方式の対象とされる一連の交通信号機群は、時間的に関連付けられた同期的な信号表示を行う。具体的には、一連の交通信号機群の現示周期が揃えられると共に、青信号の表示開始タイミングが車両走行方向に応じて信号交差点A、B、Cでオフセットされる。小区分(2)の信号交差点D、E、F、小区分(3)の信号交差点G、H、Iも同様である。
【0056】
図6の例では、電力需給制御部26は、小区分(1)~(3)の単独または複数を組み合せた単位で電力需給制御を行う。すなわち、小区分(1)~(3)の各々のエリア内に存在する再生可能エネルギー発電設備6、蓄電池設備7及び需要設備8と、同エリア内を走行する電気自動車5及び路上充放電装置4とにより、電力の需給調整が行われる。小区分(1)~(3)について各々単独で需給制御を行っても良いし、小区分(1)~(3)を複数組み合わせて需給制御を行っても良い。
【0057】
例えば区分A-1を、数キロ四方程度の地域と想定した場合、都市部などでは電力需給制御部26の制御対象機器及び車両が膨大となり、需給制御が困難となり得る。この場合、さらに小さな地域を一つの制御単位とした方が適正な需給制御を行い易い。上掲の交通信号機の一の系統制御のエリアでは、信号交差点を通過走行する電気自動車5群と、信号交差点で停止する電気自動車5群との二群に明確に分かれ易い。このため、ワイヤレス充放電器41と車載蓄電池51との間の充放電量の見込みが立て易い。従って、一の系統制御の対象地域を、区分A-1を細分化する小区分(1)~(3)として需給制御を行うことで、適正な電力需給制御の実現性を高めることができる。なお、小区分(1)~(3)の相互間では電力融通は行われない。小区分(1)~(3)を包含する区分A-1が、他の区分A-2~A-9と電力融通を行う単位となる。
【0058】
[電力需給制御]
図7(A)~(C)は、電力需給制御部26が実行する電力需給制御をモデル的に示すグラフである。
図7(A)は、ある地域区分内での発電量と電力の需要量との推移を示すグラフである。もちろん、発電量には再生可能エネルギー発電設備6による発電量が含まれている。需要量には、電気自動車5に対してワイヤレス充電を行う電力は含まれていない。
図7(A)では、昼間において発電量が需要量を上回り、夜間において発電量が需要量を下回る例が示されている。このような推移は、現状の再生可能エネルギー発電設備6の主力が太陽光発電設備61であって、昼間に発電が偏在することに鑑みれば、発生可能性の高い推移である。
【0059】
図7(B)は、
図7(A)に示す発電量・需要量推移が生じた場合に、路上充放電装置4のワイヤレス充放電器41が電気自動車5に対して実行する充放電量の推移を示すグラフである。電力需給制御部26は、発電量が余剰となっている昼間時間帯では、ワイヤレス充放電器41から電気自動車5に充電動作を行わせる。また、電力需給制御部26は、発電量が不足となっている夜間時間帯では、電気自動車5からワイヤレス充放電器41へ放電動作を行わせる。このため、充放電量の推移は、
図7(B)に示すように、昼間時間帯では充電量が増え、夜間時間帯では放電量が増えることになる。
【0060】
図7(C)は、ワイヤレス充放電器41の充放電による電力消費・供給アシストが加えられた場合の、発電量・需要量推移を示すグラフである。
図7(C)のグラフに示す通り、ワイヤレス充放電器41の前記アシストにより、発電量と需要量との差がほぼ解消され、両者は概ね一致している。もし、ワイヤレス充放電器41のアシストだけでは発電量と需要量との調整が十分に図れない場合、蓄電池設備7の充放電による電力消費・供給の追加アシストが加えられる。さらには、他の地域区分との電力融通により、発電量と需要量との調整が図られる。
【0061】
ところで、電力需給制御に際しては、単純にリアルタイムデータに基づいて制御を行うよりも、予め大まかな制御傾向となる制御モデルをベースとして制御を行った方が、制御を安定化できる。前記制御モデルは、過去の一定期間のワイヤレス充放電の実績値から導出される充放電予測データに基づいて作成することができる。充放電予測データの作成に際しては、過去の一定期間においてワイヤレス充放電器41と電気自動車5との間で実行された充電動作又は放電動作に基づく充電量及び放電量の実績値が収集される。この実績値に対して所定の統計処理を施して、将来の一定期間における時間帯毎に必要な充電量及び放電量の予測値を導出することで、前記充放電予測データ作成可能である。
【0062】
図8(A)及び(B)は、充放電予測データRMの導出例を説明するための模式図である。
図3に示したように、EMS2は充放電実績DB27及び統計処理部28を備えている。
図8(A)に示すように、充放電実績DB27は、年月日ごとに、ワイヤレス充放電器41と電気自動車5との間で交わされた充電量及び放電量の実績値を、例えば30分ごとの時間帯別に示した充放電実績データR1、R2、R3を収集する。充放電実績データR1、R2、R3は、運行管理サーバ3の車両管理DB34及び充放電器管理DB35が収集する蓄電池充電量等のデータを含む車両情報D3、ワイヤレス充放電器41の充放電情報D2等から求めることができる。
【0063】
統計処理部28は、充放電実績DB27が収集した充放電実績データR1、R2、R3に対して統計処理を施して、将来の一定期間、例えば各月の一週間分の時間帯別の充電量及び放電量の予測値を導出する。統計処理の手法としては、例えば、回帰分析、非線形回帰分析、ニューラルネットワークなどを用いることができる。統計処理部28は、前記充電量及び放電量の予測値に基づき、
図8(B)に示すような充放電予測データRMを作成する。そして、電力需給制御部26は、将来の一定期間の到来時に、充放電予測データRMを制御モデルとして参照し、ワイヤレス充放電器41と電気自動車5との間の充放電動作を制御する。これにより、制御モデルとなるデータが全く存在しない場合に比べて、電力需給制御の安定化を図ることができる。
【0064】
次に、複数のワイヤレス充放電器41を組合せて制御することで充放電電力を安定化させる例を示す。ワイヤレス充放電器41が電気自動車5から供給する電力、若しくは電気自動車5に充電させる電力は、なるべく一定であることが望ましい。しかし、走行レーンの状態の道路のワイヤレス充放電器41と、停止レーンの状態の道路のワイヤレス充放電器41とでは、専ら充放電可能時間の相違から、充放電量に大きな差異が生じる。
【0065】
図9(A)は、先に
図6に示した交通信号の系統制御の範囲に基づき定めた需給制御の小区分(1)を示している。交通信号機が付設された道路の交差点A、B、Cを形成している四つの道路レーンには、それぞれワイヤレス充放電器41を含む路上充放電装置4が配設されている。交通信号機の表示状態により、交差点A、B、Cには、車両が走行中となる走行レーンと、車両が停止中となる停止レーンとが生じる。
図9(A)では、左右方向に延びるメイン道路として系統制御方式による信号制御が行われている例を示しており、この場合、交差点A、B、Cにおいて前記メイン道路及び交差道路の走行レーン及び停止レーンは同一となる。ここでは、前記交差道路のレーンI、IIIが停止レーン、前記メイン道路のレーンII、IVが走行レーンである例を示している。
図9は、簡略化のため、走行方向が反対方向となる車線(レーン)側の電気自動車5は省略している。
【0066】
図9(B)、(C)は、レーンI、レーンIIにおける、ワイヤレス充放電器41から電気自動車5の車載蓄電池51への充電電力の推移を示すグラフである。ある時間帯T1~T2に注目すると、レーンIが停止レーン、レーンIIが走行レーンとなっている。レーンIでは、充電電力が比較的大きい。これは、電気自動車5がワイヤレス充放電器41上で停止しているため、一台当たりの電気自動車5に対して長い充電時間が確保できるからである。一方、レーンIIでは、走行レーンであるため充電電力が比較的小さくなる。レーンIIIとレーンIVとの関係も同様である。
【0067】
このような場合、電力需給制御部26は、同じ時間帯T1~T2において、停止レーンとなっているレーンIと、走行レーンとなっているレーンIIとに対して各々配設されているワイヤレス充放電器41をペアとして、充電動作(又は放電動作)の制御を実行する。ペアの制御とは、出力を合成することである。レーンI、II又はレーンIII、IVをペアとする、或いはレーンI~IVを組合せることにより、
図9(D)に示すように、充電電力の時間変動を抑制することができる。すなわち、走行レーンのワイヤレス充放電器41と、停止レーンのワイヤレス充放電器41とをペアとして扱うので、充電量(放電量)の大小を補完できる。これにより、充放電量を安定させることができる。
【0068】
[制御フロー]
続いて、
図10のフローチャートを参照して、電力需給制御システム1の制御動作の一例を説明する。EMS2の気象情報DB22は、気象データサプライヤDS1から、気象情報及び太陽光・風力発電予測情報を取得する(ステップS1)。電力需給制御部26は、電力需給情報D1を参照して、所定の地域区分の単位(例えば
図5に示した区分A-1~区分A-9の単位、並びに地域A、B、Cの単位)で、現状における電力需給実績を把握する(ステップS2)。電力需給情報D1は、発電設備DB23が取得している再生可能エネルギー発電設備6の発電電力を含む現状の電力供給量に関する情報と、需要設備DB24が取得している需要設備8による電力需要量に関する情報とを含む。
【0069】
続いて、EMS2の電力需給制御部26は、ステップS1で取得した気象情報等と、現状の発電設備の発電可能量および需要予測データ等を参照して、将来の一定期間の電力需給予測データを作成する(ステップS3)。この電力需給予測データは、例えば、13:00の時点で13:30~14:00の間の電力供給量と電力需要量との関係を示すデータである。
【0070】
また、電力需給制御部26は、運行管理サーバ3が取得している道路交通情報D4を参照して、カバーしている地域内で走行している電気自動車5の位置情報、速度情報、車載蓄電池51の蓄電池充電量や蓄電池容量などの蓄電池情報を取得する。これらの情報に基づき、電力需給制御部26は、前記地域区分の単位で、今後の電気自動車5の走行位置を把握および推定する処理を行う(ステップS4)。
【0071】
続いて電力需給制御部26は、ステップS3で取得した電力需給実績に基づき、現状で発電量が需要量を上回った状態(発電量>需要量)であるか否かを判定する(ステップS5)。発電量が需要量を上回っている場合(ステップS5でYES)、電力需給制御部26は、ステップS4で求めた電気自動車5の位置推定情報と、前記蓄電池情報とに基づいて、前記地域区分の単位で、走行中の電気自動車5の群に対して必要なトータルの充電量を算出する処理を行う(ステップS6)。
【0072】
電力需給制御部26は、ステップS5で求めた発電余剰量と、ステップS6で求めたトータル充電量とから、現状の発電量と需要量との乖離を、路上充放電装置4から電気自動車5への走行中ワイヤレス充電が可能か否かを判定する(ステップS7)。例えば、個々の電気自動車5が、走行中ワイヤレス充電が可能な場合は、充電が実行される。否の場合は、電気自動車5の走行中ワイヤレス充電は実施されずに、充電が可能な電気自動車5のみワイヤレス充電が実施される。
【0073】
走行中ワイヤレス充電が可能である場合(ステップS7でYES)、電力需給制御部26は、運行管理サーバ3の充放電器制御部36に走行中ワイヤレス充電の実行を指示する。充放電器制御部36は、各地域区分に配設されている路上充放電装置4のワイヤレス充放電器41及び電気自動車5に、走行中ワイヤレス充電を実行させる(ステップS8)。これに対し、走行中ワイヤレス充電が不可である場合(ステップS7でNO)、電力需給制御部26は、定置用蓄電池設備7Aまたはコンダクティブ充電設備7B(
図3)に接続されている電気自動車5に対して充電動作を実行させる(ステップS9)。
【0074】
続いて電力需給制御部26は、再び電力需給情報D1を参照して、現状における電力需給実績を把握する。そして、電力需給制御部26は、現状で発電量が需要量と同等(発電量=需要量)であるか否かを判定する(ステップS10)。発電量=需要量である場合(ステップS10でYES)、電力需給制御部26は、その時間帯における電力需給制御を終了する。一方、発電量>需要量である場合(ステップS10でNO)、まだ発電余剰量を消費できていないことになる。この場合、電力需給制御部26は、定置用蓄電池設備7A及びコンダクティブ充電設備7Bを含む蓄電池設備7の充電量を増加させて(ステップS11)、需要量が発電量と同等となるように調整する。
【0075】
これに対し、ステップS5において、発電量が需要量を下回っている場合(ステップS5でNO)、電力需給制御部26は、ステップS4で求めた電気自動車5の位置推定情報と、前記蓄電池情報とに基づいて、前記地域区分の単位で、走行中の電気自動車5の群から供給可能なトータルの放電量を算出する処理を行う(ステップS12)。
【0076】
電力需給制御部26は、ステップS5で求めた需要過剰量と、ステップS12で求めたトータル放電量とから、現状の発電量と需要量との乖離を、電気自動車5から路上充放電装置4への走行中ワイヤレス放電が可能か否かを判定する(ステップS13)。例えば、個々の電気自動車5が、走行中ワイヤレス放電が可能な場合は、放電が実行される。否の場合は、電気自動車5の走行中ワイヤレス放電は実施されずに、放電が可能な電気自動車5のみワイヤレス放電が実施される。
【0077】
走行中ワイヤレス放電が可能である場合(ステップS13でYES)、電力需給制御部26は、運行管理サーバ3の充放電器制御部36に走行中ワイヤレス放電の実行を指示する。充放電器制御部36は、各地域区分に配設されている路上充放電装置4のワイヤレス充放電器41及び電気自動車5に、走行中ワイヤレス放電を実行させる(ステップS14)。これに対し、走行中ワイヤレス放電が不可である場合(ステップS13でNO)、電力需給制御部26は、定置用蓄電池設備7Aまたはコンダクティブ充電設備7Bに接続されている電気自動車5に対して放電動作を実行させる(ステップS15)。
【0078】
続いて電力需給制御部26は、再び電力需給情報D1を参照して、現状における電力需給実績を把握する。そして、電力需給制御部26は、現状で発電量が需要量と同等(発電量=需要量)であるか否かを判定する(ステップS16)。発電量=需要量である場合(ステップS16でYES)、電力需給制御部26は、その時間帯における電力需給制御を終了する。一方、発電量<需要量の場合(ステップS16でNO)、まだ不足分を供給できていないことになる。この場合、電力需給制御部26は、定置用蓄電池設備7A及びコンダクティブ充電設備7Bを含む蓄電池設備7からの放電を実施させて(ステップS17)、需要量が発電量と同等となるように調整する。
【0079】
以上説明した本実施形態に係る電力需給制御システム1によれば、道路に配設されたワイヤレス充放電器41を用いて、当該道路を走行中の電気自動車5の車載蓄電池51に対して充放電が行われる。このため、車載蓄電池51に対する充放電位置が固定化されず、所定の地域区分単位での電力需給制御が可能となる。また、統合型のEMS2が取得する電力需給情報D1に基づき、前記地域区分における再生可能エネルギー発電設備6の発電電力の余剰又は不足状況が把握できる。さらに、運行管理サーバ3が取得する車両情報D3に基づき、前記地域区分内を走行する電気自動車5並びに充電状態情報が把握できる。
【0080】
EMS2の電力需給制御部26は、電力需給情報D1から、前記地域区分内における電力の供給量と需要量との関係を把握し、ワイヤレス充放電器41に当該地域区分内を走行する電気自動車5に充電または放電動作を行わせる。従って、本電力需給制御システム1によれば、走行中の電気自動車5の車載蓄電池51を有効活用して、特定の地域区分の単位で電力需給制御を柔軟に行わせることができる。
【0081】
[変形実施形態]
以上、本発明に係る電力需給制御システムの実施形態を説明したが、本発明は上掲の実施形態に何ら限定されない。例えば、次のような変形実施形態を取ることができる。
【0082】
(1)EMS2が、交通信号制御装置9を通して道路の交通信号機を制御して、ワイヤレス充放電器41が電気自動車5に対して充電又は放電を行い易い環境を創出するようにしても良い。例えば、交通量の少ないレーンの赤信号期間を長くして停止車両を増やし、充電電力量を増加させる制御などを行わせることができる。
【0083】
(2)上記実施形態では、ワイヤレス充放電器41の設置箇所として信号交差点の近傍を例示した。これに代えて、大規模商業施設、スポーツ・文化施設、高速道路のSAおよびPA等の大規模駐車場にワイヤレス充放電器41を配置しても良い。
【0084】
(3)電力需給制御の一単位となる地域区分は、固定的なものではなく、需給制御を行う発電電力および需要量の規模やワイヤレス充放電対応の電気自動車5の普及状況ならびに道路環境等によって変更される可変的なものであっても良い。例えば、
図5に例示した区分A-1~区分A-9の境界を変更する、複数の区分を統合する、又は、一つの区分を分割するといった制御を行うようにしても良い。地域A~Cも同様である。
【符号の説明】
【0085】
1 電力需給制御システム
2 EMS(第1サーバ)
26 電力需給制御部(制御ユニット)
28 統計処理部(制御ユニット)
3 運行管理サーバ(第2サーバ)
41 ワイヤレス充放電器
43 充放電制御装置
5 電気自動車
51 車載蓄電池
6 再生可能エネルギー発電設備
61 太陽光発電設備
62 風力発電設備
7 蓄電池設備
8 需要設備
D1 電力需給情報
D3 車両情報
PG 電力系統
RM 充放電予測データ