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  • 特許-積層鉄心およびそれを用いた回転電機 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】積層鉄心およびそれを用いた回転電機
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/02 20060101AFI20241227BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20241227BHJP
   H01F 3/02 20060101ALI20241227BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
H02K1/02
H01F27/245
H01F3/02
H01F27/24 J
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021214262
(22)【出願日】2021-12-28
(65)【公開番号】P2023097890
(43)【公開日】2023-07-10
【審査請求日】2024-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小室 又洋
(72)【発明者】
【氏名】田畑 智弘
(72)【発明者】
【氏名】浅利 裕介
(72)【発明者】
【氏名】寺田 尚平
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-16255(JP,A)
【文献】特開2000-83332(JP,A)
【文献】実開昭62-101349(JP,U)
【文献】実開昭58-77009(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/02
H01F 27/245
H01F 3/02
H01F 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の軟磁性鉄板が積層された積層鉄心であって、
前記複数種の軟磁性鉄板は、第一軟磁性鉄板と第二軟磁性鉄板とを含み、
前記第一軟磁性鉄板と前記第二軟磁性鉄板とが交互に積層され、
前記第一軟磁性鉄板は、前記第二軟磁性鉄板よりも高い窒素含有率および高い飽和磁束密度を有し、
前記第二軟磁性鉄板は、前記第一軟磁性鉄板よりも低い保磁力を有することを特徴とする積層鉄心。
【請求項2】
請求項1に記載の積層鉄心において、
前記第一軟磁性鉄板は、1原子%以上25原子%以下のコバルトと、2原子%以上10原子%以下の窒素と、0原子%以上1原子%以下のバナジウムとを含み、残部が鉄および不純物からなる化学組成を有する鉄-コバルト-窒素系鉄板であることを特徴とする積層鉄心。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の積層鉄心において、
前記第一軟磁性鉄板の飽和磁束密度に対する前記第二軟磁性鉄板の飽和磁束密度の比が0.8以上1未満であることを特徴とする積層鉄心。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の積層鉄心において、
前記第二軟磁性鉄板の飽和磁束密度が2.0 T以上であることを特徴とする積層鉄心。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の積層鉄心において、
前記第一軟磁性鉄板および前記第二軟磁性鉄板の厚さは、それぞれ0.01 mm以上1 mm以下であり、
前記第一軟磁性鉄板の厚さが、前記第二軟磁性鉄板の厚さの1倍以上5倍以下であることを特徴とする積層鉄心。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の積層鉄心において、
最外層の前記軟磁性鉄板は、磁歪定数が他の前記軟磁性鉄板の磁歪定数以下であることを特徴とする積層鉄心。
【請求項7】
請求項6に記載の積層鉄心において、
前記最外層の軟磁性鉄板は、前記第一軟磁性鉄板および前記第二軟磁性鉄板と異なる第三軟磁性鉄板であることを特徴とする積層鉄心。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか一項に記載の積層鉄心において、
隣り合う前記軟磁性鉄板の間に、1×106Ω・cm以上の電気抵抗率を有する電気絶縁層が介在していることを特徴とする積層鉄心。
【請求項9】
積層鉄心を具備する回転電機であって、
前記積層鉄心が請求項1乃至請求項8のいずれか一項に記載の積層鉄心であることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄心の技術に関し、特に、電磁純鉄よりも高い飽和磁束密度を有する積層鉄心、およびそれを用いた回転電機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転電機や変圧器の鉄心として、電磁純鉄板や電磁鋼板(例えば、厚さ0.01~1 mm)を複数枚積層成形した積層鉄心が広く利用されている。鉄心では、電気エネルギーと磁気エネルギーとの変換効率が高いことが重要であり、高い磁束密度および低い鉄損が重要になる。
【0003】
一方、鉄心を利用する機械装置において、鉄心のコスト低減は当然のことながら重要な課題のうちの一つであり、要求される特性を満たしながら安価に安定して製造するための技術開発が従来から活発に行われてきた。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2018-174650)には、複数の磁性材料を積層して形成されるモータ用の鉄心であって、前記複数の磁性材料のうち、第1の磁性材料は、5000A/m励磁下における磁束密度B50が1.7T以上であり、第2の磁性材料は、1.0T、400Hzのときの透磁率が前記第1の磁性材料よりも50%以上高く、かつ1.0T、400Hzのときの鉄損W10/400が前記第1の磁性材料よりも低く、前記第2の磁性材料の体積分率が10~90%である鉄心、が開示されている。また、前記第2の磁性材料は、6.0~7.0%のSiを含有する電磁鋼板が好適であるとされている。
【0005】
特許文献1によると、表層のSi濃度が高くなるように制御された材料を使用することにより、効果的に高周波における損失を低減することが可能になる。また、表層のみSi濃度が高い電磁鋼板を使用することで、飽和磁束密度の低下を抑制することができ、高トルク駆動条件での運転特性を確保することが可能になる。言い換えると、高磁束密度材料である第1の磁性材料と高透磁率・低鉄損材料である第2の磁性材料とを組み合わせることで、高効率でかつ高トルク駆動を可能とする鉄心を得ることができる、とされている。
【0006】
特許文献2(特開2020-132894)には、高飽和磁束密度を有する板状又は箔状である軟磁性材料であって、鉄、炭素及び窒素を含み、炭素及び窒素を含有するマルテンサイト及びγ-Feを含み、前記γ-Feには窒素を含有する相が形成されている軟磁性材料、が開示されている。
【0007】
特許文献2によると、純鉄を超える飽和磁束密度を有しかつ熱安定性を有する軟磁性材料を低コストで製造し、これを用いて電動機等の磁気回路の特性を高め、電動機等の小型化、高トルク化等を実現することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-174650号公報
【文献】特開2020-132894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
回転電機において、高出力化/高トルク化のためには鉄心の飽和磁束密度Bsを高めることが重要であり、高効率化のためには鉄心の損失(鉄損Pi)を抑制することが重要である。鉄損Piはヒステリシス損失と渦電流損失との和であり、ヒステリシス損失の低減には保磁力Hcが小さいことが望ましく、渦電流損失の低減には高電気抵抗化や薄板化が有効である。
【0010】
市販の電磁純鉄板の磁気特性は、Bs≒2.1 Tと言われている。電磁純鉄板を用いた鉄心は、高いBsおよび低い材料コストの利点があるが、Hcが比較的高いためPiが大きくなり易いという弱点がある。特許文献1の鉄心は、電磁純鉄板の鉄心よりもPiが小さい利点があるが、使用する電磁鋼板のBsが電磁純鉄板のBsよりも小さいことから、鉄心全体のBsが電磁純鉄の鉄心を超えないという弱点がある。また、特許文献2の軟磁性材料は、電磁純鉄板よりも高いBsを有する利点があるが、Hcが電磁純鉄板よりも高いという弱点があると思われる。
【0011】
電磁純鉄板よりも高いBsを有する鉄系材料としては、Fe-Co系材料やFe-N系マルテンサイト材料が知られている。
【0012】
Fe-Co系材料では、パーメンジュール(49Fe-49Co-2V 質量%=50Fe-48Co-2V 原子%)が現在商用化されている軟磁性材料の中で最も高いBsを示す材料である。ただし、Coの材料コストは、市況による変動はあるが、Feの材料コストの100~200倍高いことから、パーメンジュールは材料コストが高いという弱点がある。また、パーメンジュールは、加工性にやや難点があり、加工コストが高くなり易いという弱点もある。Co含有率を下げればその分だけ材料コストを下げることができ加工性も改善するが、最大の特長であるBsも低下してしまうという残念さがある。
【0013】
一方、Fe-N系マルテンサイト材料(例えば、Fe8N相(α’相)、Fe16N2相(α”相))は、材料コストがパーメンジュールよりも圧倒的に安く、かつパーメンジュールに匹敵する高いBsを示す魅力的な材料である。しかしながら、N原子侵入による結晶格子の歪の増加やN原子の局所濃度差による結晶格子間の歪差によって、HcおよびPiが増加し易いという弱点がある。
【0014】
近年、回転電機や変圧器における高トルク化/高出力化設計の要求が非常に強くなっており、鉄心のBs向上が強く求められている。言い換えると、鉄心のBs向上がより優先され、Bsの向上度合が大きければ、ある程度のPi増加は許容される傾向にある。
【0015】
そこで、本発明の目的は、電磁純鉄板よりも高いBsを示しながらPiの過度の増加を抑制し、かつパーメンジュールよりも低コスト化が可能な積層鉄心、および該積層鉄心を用いた回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(I)本発明の一態様は、複数種の軟磁性鉄板が積層された積層鉄心であって、
前記複数種の軟磁性鉄板は、第一軟磁性鉄板と第二軟磁性鉄板とを含み、
前記第一軟磁性鉄板と前記第二軟磁性鉄板とが交互に積層され、
前記第一軟磁性鉄板は、前記第二軟磁性鉄板よりも高い窒素含有率および高い飽和磁束密度を有し、
前記第二軟磁性鉄板は、前記第一軟磁性鉄板よりも低い保磁力を有することを特徴とする積層鉄心、を提供するものである。
【0017】
なお、本発明において、軟磁性鉄板とは、純鉄板の他に軟磁性鉄合金板を含むものと定義する。
【0018】
本発明は、上記の本発明に係る積層鉄心(I)において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記第一軟磁性鉄板は、1原子%以上25原子%以下のコバルト(Co)と、2原子%以上10原子%以下の窒素(N)と、0原子%以上1原子%以下のバナジウム(V)とを含み、残部が鉄(Fe)および不純物からなる化学組成を有するFe-Co-N系鉄板である。
(ii)前記第一軟磁性鉄板の飽和磁束密度に対する前記第二軟磁性鉄板の飽和磁束密度の比が0.8以上1未満である。
(iii)前記第二軟磁性鉄板の飽和磁束密度が2.0 T以上である。
(iv)前記第一軟磁性鉄板および前記第二軟磁性鉄板の厚さは、それぞれ0.01 mm以上1 mm以下であり、前記第一軟磁性鉄板の厚さが、前記第二軟磁性鉄板の厚さの1倍以上5倍以下である。
(v)最外層の前記軟磁性鉄板は、磁歪定数が他の前記軟磁性鉄板の磁歪定数以下である。
(vi)前記最外層の軟磁性鉄板は、前記第一軟磁性鉄板および前記第二軟磁性鉄板と異なる第三軟磁性鉄板である。
(vii)隣り合う前記軟磁性鉄板の間に、1×106Ω・cm以上の電気抵抗率を有する電気絶縁層が介在している。
【0019】
(II)本発明の他の一態様は、積層鉄心を具備する回転電機であって、
前記積層鉄心が上記の本発明に係る積層鉄心であることを特徴とする回転電機、を提供するものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、電磁純鉄板よりも高いBsを示しながらPiの過度の増加を抑制し、かつパーメンジュールよりも低コスト化が可能な積層鉄心、および該積層鉄心を用いた回転電機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る積層鉄心の一例を示す断面模式図である。
図2】本発明に係る積層鉄心の他の一例を示す断面模式図である。
図3A】回転電機の固定子の一例を示す斜視模式図である。
図3B】固定子のスロット領域の拡大横断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態について、図面を参照しながらより具体的に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、公知技術と適宜組み合わせたり公知技術に基づいて改良したりすることが可能である。
【0023】
[本発明の積層鉄心]
図1は、本発明に係る積層鉄心の一例を示す断面模式図である。図1に示したように、本発明に係る積層鉄心10は、第一軟磁性鉄板1と第二軟磁性鉄板2とが交互に積層されたものである。また、渦電流損失低減の観点から、隣り合う軟磁性鉄板は電気絶縁層4(例えば、電気絶縁接着層)を介して電気的に絶縁されていることが好ましい。
【0024】
本発明の積層鉄心10は、電磁純鉄板よりも優れたBsを示すことが目的の一つであることから、第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の少なくとも一方は、電磁純鉄板よりも高いBsを有する必要がある。なお、本発明者等の数多くの実験から、比較対象の軟磁性材料よりもBsが0.03 T以上向上すれば、明確な特性向上/有意差と言えることが判明している。このことから、第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の少なくとも一方は、「Bs≧2.17 T」の磁気特性を有することが好ましい。
【0025】
また、本発明の積層鉄心10は、パーメンジュールよりも低コスト化する目的もある。そこで、第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の少なくとも一方において、Co含有率をパーメンジュールよりも低減させて材料コストを低減しながらBsの低下分を補填するためにN成分を含有させている。
【0026】
ただし、N含有鉄板は、前述したようにHcが増加する傾向があることから、積層鉄心10全体のPiが過度に増加することがないように(Piの増加が回転電機を設計する上での許容範囲内となるように)、第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の少なくとも一方のN含有率を低く抑えて、Hcの増加を抑制する。
【0027】
複数種の軟磁性鉄板を積層すると、隣り合う軟磁性鉄板同士に磁気的な作用として静磁結合が生じる。この静磁結合は磁気的なエネルギーを最小にするように軟磁性鉄板間に作用するため、一方の軟磁性鉄板の磁化方向が変化すると他方の軟磁性鉄板の磁化方向も追従するように変化するようになる。第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の少なくとも一方のHcを低く抑えることによって、積層鉄心10全体としてのHcを抑制することができる。
【0028】
より具体的には、第一軟磁性鉄板1は、1原子%以上25原子%以下のCoと、2原子%以上10原子%以下のNと、0原子%以上1原子%以下のVとを含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するFe-Co-N系鉄板を用いることが好ましい。Bsと材料コストとのバランスの観点から、Co含有率は3原子%以上23原子%以下がより好ましく、5原子%以上20原子%以下が更に好ましい。BsとHcとのバランスの観点から、N含有率は3原子%以上8原子%以下がより好ましく、4原子%以上7原子%以下が更に好ましい。Vは、鉄板の加工性向上に寄与する成分であるが、必須成分ではない(含有させてもよいし含有させなくてもよい)。
【0029】
第二軟磁性鉄板2は、Hcの観点から、第一軟磁性鉄板1よりもN含有率が低いことが好ましい。また、積層鉄心10全体のBsの観点から、第二軟磁性鉄板2のBsは、第一軟磁性鉄板1のBsの0.8以上1未満が好ましく、2.0 T以上がより好ましく、2.1 T以上が更に好ましい。より具体的には、第二軟磁性鉄板2は、電磁純鉄板、または第一軟磁性鉄板1よりもCo含有率が高くN成分を含まない鉄板が好ましい。
【0030】
第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の厚さに特段の限定はなく、0.01 mm以上1 mm以下の範囲内で適宜選択できる。N含有率の制御性の観点からは、第一軟磁性鉄板1の厚さは0.03 mm以上0.5 mm以下が好ましく、0.05 mm以上0.3 mm以下がより好ましい。また、積層鉄心10全体のBsおよびHcの観点から、第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の厚さの比は、第一軟磁性鉄板1の厚さが第二軟磁性鉄板2の厚さの1倍以上5倍以下が好ましく、1倍以上4倍以下がより好ましい。
【0031】
電気絶縁層4に関しては、電気的絶縁を確保する観点から、1×106Ω・cm以上の電気抵抗率を有することが好ましい。電気絶縁層4の厚さに特段の限定はないが、積層鉄心の軟磁性鉄板の占積率が90体積%以上となるように、電気絶縁層4の厚さは、1μm以上10μm以下が好ましく、2μm以上5μm以下がより好ましい。また、積層鉄心の軟磁性鉄板の占積率は、95体積%以上がより好ましく、97体積%以上が更に好ましい。
【0032】
図2は、本発明に係る積層鉄心の他の一例を示す断面模式図である。図2に示したように、積層鉄心20は、交互に積層された第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2の最外層に第三軟磁性鉄板3が配置されているものである。第三軟磁性鉄板3としては、積層する軟磁性鉄板のうちで磁歪定数が最も小さいものを使用することが好ましい。
【0033】
より具体的には、積層する軟磁性鉄板が二種類(第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2)のみの場合、第一軟磁性鉄板1および第二軟磁性鉄板2のうちの磁歪定数が小さい方を最外層に配置する。言い換えると、磁歪定数の小さい方が第三軟磁性鉄板3を兼ねることになる。また、積層する軟磁性鉄板が三種類以上の場合、磁歪定数が最も小さい軟磁性鉄板を第三軟磁性鉄板3として最外層に配置する。ただし、積層鉄心20全体のBsの観点から、第三軟磁性鉄板3のBsも第一軟磁性鉄板1のBsの0.8以上1未満が好ましく、2.0 T以上がより好ましく、2.1 T以上が更に好ましい。
【0034】
磁歪定数が最も小さい軟磁性鉄板を積層鉄心の最外層に配置することにより、積層鉄心に外部応力が掛かる環境下(例えば、積層鉄心の組立工程や回転電機部材への組込工程など)にあっても、積層鉄心のPi増加を最小限に抑えることができる。
【0035】
[本発明の積層鉄心を用いた回転電機]
図3Aは回転電機の固定子の一例を示す斜視模式図であり、図3Bは固定子のスロット領域の拡大横断面模式図である。なお、横断面とは、回転軸方向に直交する断面(法線が軸方向と平行の断面)を意味する。回転電機では、図3A図3Bの固定子の径方向内側に回転子(図示せず)が配設される。
【0036】
図3A図3Bに示したように、固定子30は、積層鉄心20の内周側に形成された複数の固定子スロット21に、固定子コイル31が巻装されたものである。固定子スロット21は、積層鉄心20の周方向に所定の周方向ピッチで配列形成されるとともに軸方向に貫通形成された空間であり、最内周部分には軸方向に延びるスリット22が開口形成されている。隣り合う固定子スロット21の仕切る領域は積層鉄心20のティース23と称され、ティース23の内周側先端領域でスリット22を規定する部分はティース爪部24と称される。
【0037】
固定子コイル31は、通常、複数のセグメント導体32から構成される。例えば、図3A図3Bにおいて、固定子コイル31は、三相交流のU相、V相、W相に対応する3本のセグメント導体32から構成されている。また、セグメント導体32と積層鉄心20との間の部分放電、および各相(U相、V相、W相)間の部分放電を防止する観点から、各セグメント導体32は、通常、その外周を電気絶縁材33(例えば、絶縁紙、エナメル被覆)で覆われる。
【0038】
本発明に係る回転電機とは、本発明の積層鉄心21を利用した回転電機である。本発明の積層鉄心21は、前述したように、従来の電磁純鉄板や電磁鋼板からなる積層鉄心よりも高いBsを有することから、回転電機の高トルク化や小型化につながる。また、本発明の積層鉄心21は、パーメンジュール板からなる積層鉄心よりも低コスト化が可能であることから、回転電機の過度なコスト上昇を抑制することができる。
【実施例
【0039】
以下、種々の実験により本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実験に記載された構成・構造に限定されるものではない。
【0040】
[実験1]
(軟磁性鉄板の用意)
市販の純金属原料(Fe、Co、それぞれ純度=99.9%)を混合し、水冷銅ハース上のアーク溶解法(大亜真空株式会社製、自動アーク溶解炉、減圧Ar雰囲気中)により合金塊を作製した。このとき、合金塊均質化のために、試料を反転させながら再溶解を6回繰り返した。得られた合金塊に対してプレス加工、圧延加工を施して、Fe-5原子%Co板(厚さ=0.1 mm、以後Fe-5Co板と呼称する)、Fe-10原子%Co板(厚さ=0.1 mm、以後Fe-10Co板と呼称する)、Fe-20原子%Co板(厚さ=0.1 mm、以後Fe-20Co板と呼称する)、およびFe-50原子%Co板(厚さ=0.1 mm、0.05 mm、0.025 mm、以後Fe-50Co板と呼称する)を用意した。
【0041】
また、市販の電磁純鉄板(厚さ=0.1 mm、以後Fe板と呼称する)、電磁鋼板(厚さ=0.1 mm、以後Fe-3Si板と呼称する)、非晶質鉄板1(厚さ=0.025 mm、以後Fe-12Si-10B板と呼称する)、および非晶質鉄板2(厚さ=0.02 mm、以後Fe-1Cu-3Nb-13Si-9B板と呼称する)を別途用意した。
【0042】
上記で用意したFe板、Fe-5Co板、Fe-10Co板、およびFe-20Co板に対して、N成分を導入する浸窒素熱処理を行った。浸窒素熱処理では、500℃に到達した段階でNH3ガス(1×105 Pa)を導入し、オーステナイト相(γ相)の安定温度である800℃まで昇温した後、該温度に保持しながらNH3ガスとN2ガス(1×105 Pa)とを交互に切り替えてN濃度が5原子%となるようにN成分の導入・拡散を制御した。その後、油焼入れ(60℃)してマルテンサイト変態させた後、液体窒素による超サブゼロ処理を行って残留γ相もマルテンサイト変態させた。これにより、Fe-5原子%N板(以後Fe-5N板と呼称する)、Fe-5原子%Co-5原子%N板(以後Fe-5Co-5N板と呼称する)、Fe-10原子%Co-5原子%N板(以後Fe-10Co-5N板と呼称する)、およびFe-20原子%Co-5原子%N板(以後Fe-20Co-5N板と呼称する)を作製した。
【0043】
[実験2]
(軟磁性鉄板の磁気特性調査)
実験1で用意した各種軟磁性鉄板の磁気特性(Bs、Hc、Pi、磁歪定数)を調査した。測定試料のサイズは、幅20 mm×長さ60 mmとした。
【0044】
振動試料型磁力計(理研電子株式会社製、BHV-525H)を用いて磁界1.6 MA/m、温度20℃の条件下で試料の磁化(単位:emu)測定し、試料体積および試料質量からBs(単位:T)と保磁力Hc(単位:A/m)とを求めた。BHループアナライザ(株式会社IFG製、IF-BH550)および縦型ヨーク単板試験機を用いたHコイル法(JIS C 2556:2015に準拠)により、磁束密度1.0 T、400 Hz、温度20℃の条件下で試料のPi-1.0/400(単位:W/kg)を測定した。また、測定試料の長手方向に交流磁界10 kA/mを印加した時の測定試料の変位を光ヘテロダイン方式レーザ変位計(東英工業株式会社製、TLVM型)により計測し、印加磁界と変位との関係から磁歪定数を求めた。調査結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
表1に示したように、Fe-Co系板は、Fe板に比してBsが高くHcおよびPiが小さいことが確認される。Fe-N系板およびFe-Co-N系板は、Fe板に比してBsが高いがHcおよびPiも大きいことが確認される。Fe-3Si板、Fe-12Si-10B板、およびFe-1Cu-3Nb-13Si-9B板は、Fe板に比してHcおよびPiが小さいがBsも小さいことが確認される。
【0047】
[実験3]
(積層鉄心の作製)
実験1で用意した各種軟磁性鉄板を用いて積層鉄心を作製した。積層鉄心を作製するにあたって、磁歪定数が小さい方の軟磁性鉄板が最外層になるように積層し、軟磁性鉄板間の電気絶縁接着層としてエポキシ樹脂(電気抵抗率=1×107Ω・cm、平均厚さ=5μm)を用い、接着層が硬化するまで積層方向に5~10 MPaの圧縮応力を印加した。軟磁性鉄板の積層・接着後、150℃で24時間保持して加圧接着時の歪を除去した。積層鉄心における軟磁性鉄板の占積率は、約95体積%である。作製した積層鉄心の諸元を後述する表2に示す。
【0048】
[実験4]
(積層鉄心の磁気特性調査)
実験3で作製した各種積層鉄心の磁気特性(Bs、Hc、Pi-1.0/400)を、実験2と同様にして調査した。
【0049】
前述したように、本発明の積層鉄心は、電磁純鉄板よりも優れたBsを示すことが目的の一つであり、Bsの明確な特性向上/有意差と言うためには0.03 T以上の増加が必要である。そこで、Bsに関しては2.17 T以上の場合を「良好」と判定し、2.17 T未満の場合を「不良」と判定した。また、Pi-1.0/400に関しては、2.17 T以上のBsを有する場合の設計許容範囲として40 W/kg未満を設定した。すなわち、Pi-1.0/400が40 W/kg未満の場合を「良好」と判定し、40 W/kg以上の場合を「不良」と判定した。積層鉄心の磁気特性の調査結果を表2に併記する。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示したように、試料1~試料7は、Bsが2.17 T以上であり、Pi-1.0/400が40 W/kg未満であり、共に「良好」と判定される。材料コストに関しては、試料2~試料6の第二軟磁性鉄板がパーメンジュールと同等であるが、試料1~試料7の第一軟磁性鉄板、試料1の第二軟磁性鉄板、および試料7の第二軟磁性鉄板は、Co含有率が低いことからパーメンジュールよりも安くなる。その結果、積層鉄心全体としては、パーメンジュールよりも低コストになると言える。すなわち、試料1~試料7は、本発明の目的を全て達成していると言える。
【0052】
これに対し、試料8および試料9は、BsとPi-1.0/400とが要求レベルを満たしておらず、試料10は、Pi-1.0/400が要求レベルを満たしていない。すなわち、試料8~試料10は、「不良」と判定される。
【0053】
表2の結果を考察する。例えば、試料7と試料8との比較から、第二軟磁性鉄板のBsは、第一軟磁性鉄板のBsの0.8以上が好ましく、2.0 T以上がより好ましいと言える。試料4~試料6の比較から、第一軟磁性鉄板の厚さは第二軟磁性鉄板の厚さの1倍以上5倍以下が好ましいと言える。
【0054】
[実験5]
(積層鉄心の変形例の作製および磁気特性調査)
実験1で用意したFe-20Co-5N板(厚さ=0.1 mm)、Fe-50Co板(厚さ=0.1 mm)、およびFe板(厚さ=0.1 mm)をそれぞれ第一軟磁性鉄板、第二軟磁性鉄板、および第三軟磁性鉄板として用い、実験3と同様にして、図2に示した積層鉄心を作製した。
【0055】
得られた積層鉄心の磁気特性を実験2と同様にして調査した。その結果、Bs=2.30 T、Hc=55 A/m、Pi-1.0/400=17 W/kgの磁気特性が得られ、材料コストの低減と合わせて、本発明の目的を全て達成していることを確認した。
【0056】
上述した実施形態や実験は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、実施形態の構成の一部を当業者の技術常識の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に当業者の技術常識の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態や実験の構成の一部について、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
10,20…積層鉄心、
1…第一軟磁性鉄板、2…第二軟磁性鉄板、3…第三軟磁性鉄板、4…電気絶縁層
21…固定子スロット、22…スリット、23…ティース、24…ティース爪部、
30…固定子、31…固定子コイル、32…セグメント導体、33…電気絶縁材。
図1
図2
図3A
図3B