(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】細胞膜透過性ペプチドとして使用するためのペプチド
(51)【国際特許分類】
C07K 7/08 20060101AFI20241227BHJP
C12N 15/87 20060101ALI20241227BHJP
A61K 38/10 20060101ALI20241227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241227BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
C07K7/08 ZNA
C12N15/87 Z
A61K38/10
A61P35/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2021502515
(86)(22)【出願日】2019-07-16
(86)【国際出願番号】 EP2019069149
(87)【国際公開番号】W WO2020016242
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2022-06-23
(32)【優先日】2018-07-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】592236245
【氏名又は名称】サントル・ナシオナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シアンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LARECHERCHE SCIENTIFIQUE
(73)【特許権者】
【識別番号】515011944
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モンペリエ
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】セバスチャン・デュシェイェ
(72)【発明者】
【氏名】カリディア・コナテ
(72)【発明者】
【氏名】エリック・ヴィーヴ
(72)【発明者】
【氏名】グドルン・アルドリアン
(72)【発明者】
【氏名】プリスカ・ボワゲラン
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/020188(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/075244(WO,A1)
【文献】Xu W . et al.,J Mater Chem B,2014年,Vol. 2,pp. 6010-6019
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
LLWRLWRLLWRLWRLL(配列番号1)、LLRLLRWWWRLLRLL(配列番号2)、およびLLRLLRWWWWRLLRLL(配列番号4)から選択されるアミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
ペプチドがL-アミノ酸および/またはD-アミノ酸を含む、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
ペプチドが正味の正電荷5を有する、請求項1または2に記載のペプチド。
【請求項4】
ペプチドが、前記アミノ酸配列のC末端に共有結合された
、システアミド、チオール、アミド、カルボキシル、置換されていてもよい直鎖もしくは分枝C
1-C
6アルキル、第1級もしくは第2級アミン、オシド誘導体、脂質、リン脂質、脂肪酸、コレステロール、ポリエチレングリコール、核局在化シグナルおよび/または標的化分子のなかから選択される、1つまたはそれ以上の成分
をさらに含む、および/またはペプチドが、前記アミノ酸配列のN末端に共有結合された
、アミン、アセチル、置換されていてもよい直鎖もしくは分枝C
1-C
6アルキル、第1級もしくは第2級アミン、オシジック誘導体、脂質、リン脂質、脂肪酸、コレステロール、ポリエチレングリコール、核局在化シグナルおよび/または標的化分子のなかから選択される、1つまたはそれ以上の化学成分をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載のペプチド。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載されるペプチドの、細胞膜透過性ペプチド(CPP)としてのエクスビボまたはインビトロでの使用。
【請求項6】
細胞膜透過性ペプチド(CPP)が哺乳動物細胞の形質膜の透過に適当である、請求項5に記載のペプチドのエクスビボまたはインビトロでの使用。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載されるペプチドの、トランスフェクション試薬としての
エクスビボまたはインビトロでの使用。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載されるペプチド、およびカーゴ分子を含む、ナノ粒子。
【請求項9】
カーゴ分子が、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質、低分子、医薬活性物質、およびその任意の混合物からなる群から選択される、請求項8に記載のナノ粒子。
【請求項10】
カーゴ分子が、DNA分子、RNA分子、PNA分子、siRNA分子、PMO分子、アンチセンス分子、LNA分子、mcDNA分子、miRNA分子、CRISPR/Cas9分子、プラスミド、リボザイム、アプタマー、シュピーゲルマー(spiegelmer)およびデコイ分子からなる群から選択される核酸である、請求項9に記載のナノ粒子。
【請求項11】
ナノ粒子の大きさが、50~300nmであり、および/またはカーゴ分子がペプチドと、共有結合もしくは非共有結合により結合している、請求項8~10のいずれかに記載のナノ粒子。
【請求項12】
ナノ粒子の大きさが100~200nmである、請求項11に記載のナノ粒子。
【請求項13】
請求項8~12のいずれかに記載されるナノ粒子、および薬学的に許容しうる担体を含む、医薬組成物。
【請求項14】
カーゴ分子をインビトロで細胞に送達する方法であって、前記細胞を、前記カーゴ分子を含む請求項8~12のいずれかに記載されるナノ粒子と接触させるステップを含む方法。
【請求項15】
カーゴ分子をエクスビボで組織および/または器官に送達する方法であって、前記組織および/または器官を、前記カーゴ分子を含む請求項8~12のいずれかに記載されるナノ粒子と接触させるステップを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜透過性ペプチドとして使用しうる天然に生じないペプチドに関する。より具体的には、本発明のペプチドは、カーゴ分子、例えばsiRNAと自己集合して、カーゴ分子を細胞にトランスフェクトするためのペプチドベースのナノ粒子を形成することができる。本発明は、前記ナノ粒子を含む医薬組成物、およびカーゴ分子を細胞中に送達する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物細胞におけるRNA干渉(RNAi)は、このメカニズムをさまざまな疾患の治療に利用するための新たな研究機会を切り開いた。短鎖干渉RNA(siRNA)は、各3’末端に2ヌクレオチドオーバーハングを含む20~25塩基対の長さを有する二本鎖RNA分子である。標的mRNAに相補的な配列を有するsiRNAのアンチセンス鎖は、配列特異的な遺伝子発現抑制(サイレンシング)を誘導することができる。siRNAは、ウイルス感染および癌のような多くの治療困難な疾患のための潜在的候補薬剤であることが示されている。
【0003】
このようなオリゴヌクレオチドは、そのデザインの融通性および高度の特異性のゆえに、未来の薬剤としての可能性は際立っている。しかしながら、低い細胞膜透過性や、細胞内に入ってからの速いエンド/リソソーム分解といった制限は、特定の担体の使用によって克服されるかもしれない。カチオン性脂質、ポリマー、デンドリマーおよびペプチドをベースとする数多くの送達技術が開発されている。そのような非ウイルス担体材料のなかで、細胞膜透過性ペプチド(CPP)が、その配列および機能の多様性のゆえに関心が高まっている。CPPは通常、後半なソース(例えば、ヒト、マウス、ウイルスまたは純合成物)に由来する短い(30アミノ酸までの)ペプチドである。CPPは、その構造的特性に基づいて、アルギニンリッチCPPと両親媒性CPPの2つのクラスに分類されうる。
【0004】
両親媒性CPPは、細胞インターナリゼーションおよびカーゴとの相互作用のために必要な、親水性および疎水性の両ドメインを含む。初期の両親媒性CPPにおいては、それらドメインは、pVEC(A. Elmquist et al. VE-Cadherin-Derived Cell-Penetrating Peptide, pVEC, with Carrier Functions, Exp. Cell Res. 269 (2001) 237-244)、MPGおよびPep-1(S. Deshayes et al., (2005) Cell-penetrating peptides: tools for intracellular delivery of therapeutics, Cell. Mol. Life Sci. CMLS. 62, 1839-1849)に見られるように、ペプチド鎖に沿ったその位置にしたがって配される。第2期の両親媒性CPPは、親水性および疎水性ドメインの分離がαヘリックスまたはβシートといった二次構造の形成によって生じている、もう1つの大きなペプチドクラスである。最も一般的に用いられるCPPの多くは、このクラスのメンバーで、その例は、ペネトラチン(penetratin)(D. Derossi et al., (1994) The third helix of the Antennapedia homeodomain translocates through biological membranes., J. Biol. Chem. 269(14) 10444-50)、トランスポータン(tansportan)(M. Pooga et al., (1998) Cell penetration by transportan, FASEB J. 12, 67-77)、hCTバリアント(ヒトカルシトニン)(J. Hoyer et al., (2012) Knock-down of a G protein-coupled receptor through efficient peptide-mediated siRNA delivery, J. Control. Release Off. J. Control. Release Soc. 161(3), 826-834)、RICK(A. Vaissiere et al., (2017) A retro-inverso cell-penetrating peptide for siRNA delivery, J Nanobiotechnology. 15(1), 34)、またはC6M1(M. Jafari et al., (2014) Serum stability and physicochemical characterization of a novel amphipathic peptide C6M1 for siRNA delivery, PLoS ONE. 9(5):e97797)である。
【0005】
CPPを用いてオリゴヌクレオチドをベクター化する方法は主に2つある。CPPにオリゴヌクレオチドを直接コンジュゲートすることによる方法(共有コンジュゲーション法)と、CPPとオリゴヌクレオチドの間に非共有結合体を形成することによる方法(ナノ粒子をベースとする方法)である。非共有結合ナノ粒子(NP)の形成は、複数の負電荷を有し、それゆえカチオン性ペプチドと静電複合体を形成することのできるオリゴヌクレオチドのCPP仲介送達において特に効果的である。さらに、ペプチドベースのナノ粒子は、NPの集合を可能にするために化学的修飾を必要としないので、実施が非常に容易なワンステッププロセスである。したがって、静電複合体の形成は、CPP仲介siRNA送達のための最も一般的な方法となっている。
【0006】
しかしながら、これまでに、開発されたNPは、低い安定性、低い膜透過性、低い標的遺伝子の効果的サイレンシング能力、細胞傷害性等を包含する、いくつかの欠点を示している。
【0007】
したがって、前記制限を克服する、改善された細胞膜透過性ペプチドが依然必要とされる。特に、治療剤のような化合物を標的細胞に、顕著な細胞傷害性および/または免疫原性を示すことなく効率的に送達することを可能にする細胞膜透過性ペプチドが必要である。
【発明の概要】
【0008】
既に開発されたCPPおよびその欠点の研究によって、本発明者は、ペプチドの溶解性、二次構造、低い細胞傷害性、および高い取り込み効率に正の影響を及ぼすために配列の特定の位置に存在しなければならない3つの必須のアミノ酸を特定した。より具体的には、本発明者は、従来のCPPの欠点を少なくとも部分的に克服する、専らロイシン(L)、アルギニン(R)およびトリプトファン(W)残基からなる新規なCPPを開発した。W-およびR-リッチ両親媒性ペプチド(W- and R-rich Amphipathic Peptide)を略してWRAPとも称される該新規な短鎖両親媒性ペプチドにおいて、トリプトファン残基は配列全体に分散して存在するか、または配列の1つのドメイン中にクラスターとして存在しうる。本発明のペプチドは全般に、より高い全体的なトランスフェクション効率を示し、かつ、より低い程度の細胞傷害性を示す。
【0009】
したがって、本発明の目的は、アミノ酸配列LL-[X]n-LL(ここで、XはR、LおよびWから選択され、n=10~12であり、[X]nは、4個のR、4個のL、および2~4個のWを含む)を含む天然に生じないペプチドを提供することである。
【0010】
一態様において、ペプチドはアミノ酸配列LL-[X]m-RLLを含み、ここでm=9~11である。
【0011】
一態様において、[X]nまたは[X]mは、アミノ酸配列中にクラスターとして、または分散して存在する2~4個のWを含む。
【0012】
その代わりに、またはそれに加えて、[X]nまたは[X]mは、LLからなるクラスターを少なくとも1つ、好ましくはLLからなるクラスターを2つ含みうる。
【0013】
一態様において、ペプチドは、
LLWRLWRLLWRLWRLL(配列番号1 - CPP1)、
LLRLLRWWWRLLRLL(配列番号2 - CPP2)、
LLRLLRWWRLLRLL(配列番号3 - CPP3)、および
LLRLLRWWWWRLLRLL(配列番号4 - CPP4)
から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0014】
本発明のペプチドは、細胞膜透過性ペプチド(CPP)として特に有用である。本発明のペプチドは、哺乳動物細胞の形質膜の透過のため、およびトランスフェクション試薬としての使用のために適当である。
【0015】
本発明のさらなる目的は、本発明のペプチドおよびカーゴ分子を含むナノ粒子を提供することである。カーゴ分子は、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質、低分子、医薬活性物質、およびその任意の混合物からなる群から選択しうる。好ましくは、カーゴ分子は、DNA分子、RNA分子、PNA分子、siRNA分子、PMO分子、アンチセンス分子、LNA分子、mcDNA分子、miRNA分子、CRISPR/Cas9分子、プラスミド、リボザイム、アプタマー、シュピーゲルマー(spiegelmer)およびデコイ分子からなる群から選択される核酸である。
【0016】
本発明のナノ粒子は、医薬組成物の製造のために使用しうる。本発明は、それと薬学的に許容しうる担体を含む医薬組成物をも提供する。
【0017】
本発明の他の目的は、カーゴ分子を、インビトロで細胞に、および/またはエクスビボで組織および/または器官に送達する方法であって、前記細胞を、前記カーゴ分子を含む本発明のナノ粒子と接触させるステップを含む方法を提供することである。
【0018】
本発明のナノ粒子はまた、カーゴ分子を含む本発明のナノ粒子を動物に投与するステップを含む、動物においてカーゴ分子を送達する方法において使用しうる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】PEPstrMODによる、使用した両親媒性ペプチドの親水性条件での3D構造の予測。ペプチドの、サーフィスおよびリボンによる表示。サーフィス表示では、両親媒性を確認するために、N末端からC末端への軸に沿った図、および90度回転させた図の2つを示す。トリプトファン残基を赤で、アルギニンを青で、それ以外を黄色で示す。
【
図2】siRNAの存在下に複合体を形成する両親媒性ペプチドの能力の評価。(A)予め形成したCPP:siRNA複合体をアガロースゲル(1% wt/vol)上の電気泳動によって、GelRedで染色して分析した。データは、n=3での平均±SDを表す。(B)CPP1およびCPP2ベースのナノ粒子の透過電子顕微鏡(TEM)画像。超純粋中のCPP:siRNAナノ粒子の画像(R=20、40μM CPP)。スケールバーは、拡大画像における500nmおよび100nmに対応する。
【
図3】プラスミドの存在下に複合体を形成する両親媒性ペプチドの能力の評価。A)アガロースゲル中のプラスミドpGL3の移動を示すグラフ。予め形成したCPP:pGL3複合体を、さまざまなチャージ比(CR)で調製し、GelRedで染色するアガロースゲル(0.5% wt/vol)上の電気泳動によって分析した。データは、n=2での平均±SDを表す。MEF細胞(B)またはMCF-7細胞(C)におけるCPP2:pGL3トランスフェクション後の用量依存的なルシフェラーゼ発現。CPP2:pGL3のゲル移動性に基づき、ナノ粒子をCR1で、3つの異なるプラスミド濃度(62.5ng、125ngおよび250ng)で調製した。NT=未処置細胞。データは、n=2での平均±SDを表す。
【
図4】CPP:siRNAナノ粒子のノックダウン効果の、細胞における評価。(A)U87細胞における、一定のsiFLuc濃度20nMでさまざまなモル比RのCPP:siFLuc複合体によりトランスフェクトした後の、相対Luc活性(%FLuc/NLuc)および相対傷害性(LDH量)。(B)U87細胞における全トランスフェクション時間(24時間と36時間)による相対Luc活性(%FLuc/NLuc)。(C)U87細胞において、CPP:siFLucナノ粒子(一定のモル比R=20)により、さまざまなsiFLuc濃度でトランスフェクトした後の、相対Luc活性(%FLuc/NLuc)および相対傷害性(LDH量)。siFLucを20nMで導入するためにLipofectamine(登録商標)RNAiMAXを供給元により指示されるように使用する(「対照」パネルのRNAiのレーン)。略号:R=モル比、siFLuc=siRNA FLuc、siSCR=スクランブルsiRNA、N.T.=未処置細胞、Ctrl=対照、n.d.=測定せず。
【
図5】U87細胞における、アイソフォームL(CPP2[L])またはアイソフォームD(CPP2[D])のCPP2によりベクター化されたsiRNAの濃度に依存するホタルルシフェラーゼ発現の低下を示すグラフ。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。
【
図6】CPP1またはCPP2によりベクター化されたsiRNAの濃度によるホタルルシフェラーゼサイレンシングを示すグラフ。すべてのsiRNAの濃度で、送達方法は10%血清存在下にも有効である(U87細胞)。FLuc/Luc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。
【
図7】異なる実験室で異なる評価方法で行われたホタルルシフェラーゼ発現低下を示すグラフ(U87細胞)。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。
【
図8】CPP:siRNAと、C6M1:siRNAまたは他の誘導したCPPとの比較。(A)U87細胞における、C6M1:siFLucと比較した、CPP:siFlucトランスフェクション後のホタルルシフェラーゼ発現のノックダウン効果を示すグラフ。インキュベーション条件:5000細胞/ウェル、200nMペプチドおよび10nM siRNA(vol:vol構成)のナノ粒子、インキュベーション時間 1時間30。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。n=2の独立した実験を3回。(B)U87細胞における、ロイシン「ダブレット」に変異を有する誘導したCPPナノ粒子(表1参照)と比較した、CPP:siFlucトランスフェクション(vol:vol構成)後のホタルルシフェラーゼ発現のノックダウン効果を示すグラフ。インキュベーション条件:5000細胞/ウェル、示されたsiRNA濃度でCPP:siRNA比=20:1、インキュベーション時間 1時間30。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。n=2の独立した実験を3回。(C)U87細胞における、変異を有する誘導したCPP2ナノ粒子(表1参照)と比較した、siFluc担持CPP:siFlucトランスフェクション(希釈調製)後のホタルルシフェラーゼ発現のノックダウン効果を示すグラフ。インキュベーション条件:5000細胞/ウェル、示されたsiRNA濃度でCPP:siRNA比=20:1、インキュベーション時間 1時間30。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。n=3の独立した実験を3回。
【
図9】CPP1:siRNAおよびCPP2:siRNA PBN活性の評価。(A)さまざまな細胞株における、示されたsiRNA-FLuc濃度でのCPP:siFLuc PBNトランスフェクション後の相対FLuc活性(%)。U87:ヒトグリオブラストーマ細胞株、KB:Hela由来ケラチン形成細胞株、HuH7:ヒト肝癌細胞株)、RM1:マウス前立腺癌細胞株、Neuro2a:マウス神経芽細胞腫細胞株、MCF7:ヒト乳癌細胞株、MDA-MB-231:ヒト乳腺癌細胞株、MEF-RAS:Ras改変マウス胎児線維芽細胞、A549:ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞、HT29:ヒト結腸癌細胞株、CMT93:直腸癌細胞株、GL261:マウスグリオブラストーマ細胞株。(B)U87細胞における、示されたsiRNA-CDK4濃度でのCPP:siRNAナノ粒子トランスフェクション後CDK4サイレンシング。略号:siSCR=スクランブルsiRNA、N.T.=未処置細胞。(C)U87細胞における内因性CDK4タンパク質発現に対する、siRNAトランスフェクション試薬としてのLipofectamine(登録商標)RNAiMAXの活性とのCPP1:siCDK4ナノ粒子活性の比較。黒色の破線=傷害性なし、赤色の破線=用量依存的な傷害性。(D)CPP2ナノ粒子の細胞傷害性をLipofectamine(登録商標)RNAiMAXと比較して評価するためのコロニー形成アッセイ。さまざまなCPP2:siRNAナノ粒子(比20、siRNA濃度50nM)をMEF-Ras細胞と共にインキュベートし(14日間)、CPP2ペプチド単独(100nM)またはRNAi:siRNA(siRNA濃度20nM)条件と比較した。(E)U87細胞における、培養後3日間の、siCDK4の単回投与(20nM)、siCDK4の2回投与(20nM+20nM)、またはsiCDK4の3回投与(20nM+20nM+20nM)後の、CPP:siRNAナノ粒子トランスフェクション後CDK4サイレンシング。略号:siSCR=スクランブルsiRNA、N.T.=未処置細胞。
【
図10】CPPP:siRNAナノ粒子のインターナリゼーション・カイネティック。(A)U87細胞における、さまざまなインキュベーション時間(分)での、20nM siRNA-FLuc濃度でCPP:siFLucナノ粒子トランスフェクション後の相対FLuc活性(%)。(B)U87細胞における、さまざまなインキュベーション時間(分)での、20nM siRNA-CDK4濃度でCPP:siRNAナノ粒子トランスフェクション後のCDK4サイレンシング。(C)U87細胞株の生細胞における、CPP1またはCPP2ナノ粒子(siRNA-Cy5=20nM、R=20)でベクター化したCy5標識siRNAの細胞内分布の画像。核を、Hoechst 33342色素を用いて標識した。白色バーは20μmを表す。(D)スピニングディスクによる、CPP1:siRNA-Cy3bおよびCPP2:siRNA-Cy3bインターナリゼーション・カイネティックの比較(siRNA-Cy3b=20nM、R=20)。1200秒にわたり5秒毎に画像を記録した。その後、平均グレー値のパーセンテージを時間に対してプロットした(平均±SD;2~3の独立した実験からの2~5の個別のカウントされた細胞)。
【
図11】ナノ粒子はインビボで異種移植マウスの腫瘍モデルにおいてホタルルシフェラーゼ発現の低下を誘導した。(A)CPP2ナノ粒子:siFlucの注入後の示される時点における、二重の生物発光(FlucおよびNluc)および腫瘍蛍光を表す画像(U87-CMV-Fluc-CMV-iRFP-IRES)。(B)CPP2ナノ粒子:siFluc(15μg siRNA)の腫瘍内注入後直接のFlucおよびNlucルシフェラーゼの定量分析。統計学的分析(平均±SEM、n=11):0時間(=対照)に対する一元ANOVAとDunnetのポスト検定、
*p<0.05。(C)CPP2ナノ粒子:siFluc(20μgのsiRNA)の腫瘍内注入後直接のFluc mRNAの定量分析。統計学的分析(平均±SD、n=4):0時間(=対照)に対するt検定、
***p=0.0009。Fluc mRNAレベルをGAPDHタンパク質のmRNAに対する比として表す(Fluc/GAPDH)。
【
図12】CPPナノ粒子によるsiRNAカクテルのベクター化。(A)PBNによる2つのsiRNAの同時トランスフェクション:U87細胞において[CPP2:siCDK4/siCycB1]混合物は、内因性CDK4およびサイクリンB1タンパク質の発現の用量依存的低下を示す。(B)PBNによる、さまざまな量の2つのsiRNAのトランスフェクション。[CPP1:siCDK4/siCycB1]混合物は、内因性CDK4およびサイクリンB1(U87細胞)タンパク質発現の、各siRNAの量に対して逆比例的な低下を示す。
【
図13】多重にグラフトされたナノ粒子の開発。(A)RGD-Ahx-CPP2ペプチド(R-CPP2、R=20)によるsiFlucトランスフェクション後の、用量依存的な相対FLuc活性(%)。(B)CPP2:RGD-Ahx-CPP混合物(100%:0%ないし0%:100%のCPP2:R-CPP2比)は、Flucルシフェラーゼ活性のサイレンシングに影響しなかった(20nM siFlucでR=20)。(C)Flucルシフェラーゼ活性に対するCPP1ナノ粒子のペグ化率の影響(20nM siFlucでR=20)。(D)Flucルシフェラーゼ活性に対する多重グラフトCPP2ナノ粒子の影響(20nM siFlucでR=20)。(E)異なる成分の単純な混合によって作製されるペプチドナノ粒子を表す図。
【
図14】適用した調製条件による、U87細胞におけるホタルルシフェラーゼサイレンシングを表す図。U87細胞をP96ウェルプレートに播種した(5000細胞/ウェル)。ナノ粒子を「vol:vol」条件で調製するか(終濃度CPP:siRNA 100nM:5nM;200nM:10nMおよび400nM:20nM)、または高濃度で調製し(CPP[10μM]:siRNA[0.5μM])、その後希釈した(=「希釈」条件)。ナノ粒子のインキュベーション時間は、無血清培地において1時間30であった。血清の添加後、細胞を36時間インキュベートした後、ルシフェラーゼアッセイを行った。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。n=2の独立した実験を3回。
【
図15】細胞懸濁液に対するCPP1:siRNAおよびCPP2:siRNA PBN活性の評価。(A)U87細胞懸濁液におけるCPP:siFLucナノ粒子トランスフェクション後の、用量依存的な相対FLuc活性(%)(siRNA=10nM、20nMおよび50nM)。インキュベーション条件:10000細胞/ウェル、示されるsiRNA濃度でCPP:siRNA比20:1、無血清培地中でインキュベーション時間1.5時間。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。略号:siSCR=スクランブルsiRNA、siFLuc=ホタルルシフェラーゼ特異的siRNA。n=2の独立した実験を3回。(B)U87細胞懸濁液におけるCPP:siFLucナノ粒子トランスフェクション後の、用量依存的な相対FLuc活性(%)(siRNA=10nM、20nMおよび50nM)。インキュベーション条件:10000細胞/ウェル、示されるsiRNA濃度でCPP:siRNA比20:1、10%血清含有培地中でインキュベーション時間1.5時間。FLuc/NLuc値は、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。略号:siSCR=スクランブルsiRNA、siFLuc=ホタルルシフェラーゼ特異的siRNA。n=2の独立した実験を3回。(C)ホタルルシフェラーゼで安定にトランスフェクトされたU937ヒトマクロファージ懸濁液におけるCPP:siFLucナノ粒子トランスフェクション後の、用量依存的な相対FLuc活性(%)(siRNA=10nM、20nMおよび50nM)。インキュベーション条件:10000細胞/ウェル、示されるsiRNA濃度でCPP:siRNA比20:1(またはsiRNA単独)、無血清培地中でインキュベーション時間1.5時間。FLucは、未処置細胞(N.T.)の条件に対して正規化。n=2の独立した実験を3回。
【
図16】嚢胞性線維症の状況におけるMBBOおよびプラスミド同時トランスフェクションの評価。(A)予め形成したCPP1:MBBO複合体を、GelRedで染色するアガロースゲル(1% wt/vol)上の電気泳動によって分析した。データは、n=2での平均±SDを表す。(B)動的光散乱(DLS)によるCPP1:MBBO複合体(R=5、10μM CPP1)の平均サイズの測定。(C)気管支Beas-2b細胞を、Lipofectamin(商標)RNAiMAX、JetPEI(登録商標)(PJ)またはCPP2を用いて1μgのCFTRをコードするプラスミドで、およびRNAiMAXまたはCPP1を用いて100nMのMBBOでトランスフェクトした。CFTR転写物およびハウスキーピング遺伝子GAPDHの量をqPCRによって測定した。CFTR値をまずGAPDHに対して正規化し、次いで3’-UTR結合性を持たないMBBO(MBBO-Ctrl=1)を用いる対照条件に対して正規化した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
本書において使用する用語「ペプチド」または「ペプチド分子」とは、ペプチド結合で連結された複数の天然または修飾アミノ酸残基を含む、天然に生じるかまたは天然に生じない(例えば化学合成または組換えDNA技術によって生成される)任意の線状高分子をさす。
【0021】
本書において使用する用語「アミノ酸残基」とは、天然にペプチドを構成する20の「標準」アミノ酸の任意のものを意味する。本書においてアミノ酸は、以下の命名法にしたがって1文字または3文字コードで表される:A:アラニン(Ala);C:システイン(Cys);D:アスパラギン酸(Asp);E:グルタミン酸(Glu);F:フェニルアラニン(Phe);G:グリシン(Gly);H:ヒスチジン(His);I:イソロイシン(Ile);K:リジン(Lys);L:ロイシン(Leu);M:メチオニン(Met);N:アスパラギン(Asn);P:プロリン(Pro);Q:グルタミン(Gln);R:アルギニン(Arg);S:セリン(Ser);T:スレオニン(Thr);V:バリン(Val);W:トリプトファン(Trp)、およびY:チロシン(Tyr)。本発明のペプチドのアミノ酸残基は典型的には、L体またはD体として存在する。本書において使用する用語「非天然アミノ酸残基」とは、天然にコードされないか、または生物の遺伝コード中に見られない、非コード化または非タンパク質構成アミノ酸を意味する。本書において使用する用語「修飾アミノ酸残基」とは、翻訳後修飾されたアミノ酸のような、非標準アミノ酸を意味する。翻訳後修飾の例は、リン酸化、グリコシル化、アシル化(例えばアセチル化、ミリストイル化、パルミトイル化)、アルキル化、カルボキシル化、ヒドロキシル化、糖化、ビオチン化、ユビキチン化、化学的性質の変更(例えばβ脱離 脱イミド化、脱アミド化)、および構造変更(例えばジスルフィド架橋の形成)を包含する。
【0022】
細胞膜透過性ペプチド
本発明は、アミノ酸配列LL-[X]n-LL(ここで、XはR、LおよびWから選択され、n=10~12であり、[X]nは、4個のR、4個のL、および2~4個のW、好ましくは3~4個のWを含む)を含む、新規な天然に生じないペプチドに関する。
【0023】
本発明者は驚くべきことに、本書において本発明のペプチドと称される該ペプチドは、細胞膜透過性ペプチド(CPP)として働くのに適当であり、したがって、カーゴ分子を細胞の細胞質に、好ましくは哺乳動物細胞の形質膜を通して送達しうることを見出した。
【0024】
本発明のペプチドは、すべてR、LおよびWから選択される14~16アミノ酸残基の長さを有する。本発明者は、ペプチドのアミノ酸配列中のそのような3種のアミノ酸残基の一定の分布が、CPPとして特に興味深いペプチドをもたらすことを発見した。実際、前記ペプチドは、細胞に取り込まれる能力が高く、インターナリゼーションの後、標的細胞に対する顕著な細胞傷害性および/または免疫原作用を示さない(すなわち、前記ペプチドは、少なくとも細胞のトランスフェクションおよび/または透過を仲介するのに十分な濃度において、細胞の生存性を損なわない)。本書において用いられる「顕著でない」という表現は、本発明のペプチドのインタナリゼーション後、標的細胞の30%未満、特に20%または10%未満が死ぬことと理解される。化合物の細胞傷害性、および/またはそのような化合物が適用された標的細胞の生存性を測定する方法は、当業者に知られている(例えば、Ausubel, F.M. et al. (2001) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons, Hoboken, NJ, USAも参照されたい)。
【0025】
本書において使用される用語「細胞に取り込まれる能力」とは、細胞の膜(すなわち、形質膜)、エンドソーム膜、および小胞体の膜)を通過する、および/またはそのような細胞の膜を通したカーゴ分子の通過(すなわち、そのトランスフェクション可能性)をもたらす、ペプチドの能力をいう。前記の細胞の膜を通過する能力を有するペプチドは、本書において「細胞膜透過性ペプチド」または「CPP」と称される。ペプチドのインターナリゼーション挙動および/またはトランスフェクション能力を決定する数多くの方法が当分野において確立されており、例えば、検出可能な標識(例えば蛍光色素)をペプチド(および/またはトランスフェクトされるカーゴ分子)に結合するか、またはペプチドをレポーター分子と融合させることによって、ペプチドの細胞取り込みが起こった際に例えばFACS分析または特異的抗体による検出を可能にすることによる方法がある(例えば、Ausubel, F.M. et al. (2001) Current Protocols in Molecular Biology, Wiley & Sons, Hoboken, NJ, USA参照)。当業者はまた、そのような方法において用いるペプチド、および適用可能な場合にカーゴの濃度範囲をどのように選択すべきかを認識し、これはペプチドの性質、カーゴの大きさ、使用する細胞の種類等に依存しうる。
【0026】
一態様において、本発明のペプチドはアミノ酸配列LL-[X]m-RLLを含み、ここでm=9~11である。
【0027】
好ましくは、[X]nまたは[X]mは、WW、WWWまたはWWWWからなるクラスターを含む。好ましくは、そのようなクラスターは中央に存在し、すなわち、該トリプトファンクラスターの両端に続いて同数のアミノ酸残基が存在する。
【0028】
一態様において、[X]nまたは[X]mは、LLからなるクラスターを少なくとも1つ、好ましくはLLからなるクラスターを2つ含む。
【0029】
好ましくは、本発明のペプチドは、正味の正電荷5を有する。
【0030】
一態様において、ペプチドは、
LLWRLWRLLWRLWRLL (配列番号1)、
LLRLLRWWWRLLRLL (配列番号2)、
LLRLLRWWRLLRLL (配列番号3)、および
LLRLLRWWWWRLLRLL (配列番号4)
から選択されるアミノ酸配列を含むか、またはそれからなる。
【0031】
一態様において、ペプチドは、前記アミノ酸配列のC末端に共有結合された、L-アミノ酸、D-アミノ酸、非天然アミノ酸、修飾アミノ酸、システアミド、チオール、アミド、カルボキシル、置換されていてもよい直鎖もしくは分枝C1-C6アルキル、第1級もしくは第2級アミン、オシド誘導体、脂質、リン脂質、脂肪酸、コレステロール、ポリエチレングリコール、核局在化シグナルおよび/または標的化分子のなかから選択される、1つまたはそれ以上の成分さらに含む、および/またはペプチドは、前記アミノ酸配列のN末端に共有結合された、L-アミノ酸、D-アミノ酸、非天然アミノ酸、修飾アミノ酸、アミン、アセチル、置換されていてもよい直鎖もしくは分枝C1-C6アルキル、第1級もしくは第2級アミン、オシド誘導体、脂質、リン脂質、脂肪酸、コレステロール、ポリエチレングリコール、核局在化シグナルおよび/または標的化分子のなかから選択される、1つまたはそれ以上の化学成分をさらに含む。
【0032】
ナノ粒子
本発明はさらに、少なくとも1つのカーゴ分子と複合体化された少なくとも1つの本発明のペプチドを含むナノ粒子を提供する。そのようなカーゴ分子は、本書において定義される任意のカーゴ分子でありうる。一態様において、ナノ粒子は、1つより多い本発明のペプチドを含みうる。特に、ナノ粒子は、同じかまたは異なる複数のペプチドを含みうる。また、ナノ粒子は、1つより多いカーゴ分子を含みうる。特に、ナノ粒子は、同じかまたは異なる複数のカーゴ分子を含みうる。
【0033】
好ましくは、ナノ粒子の大きさは、50~300nm、好ましくは100~200nmである。
【0034】
一態様において、ペプチドとカーゴ分子との複合体は、非共有結合に基づいて形成されうる。そのような非共有結合は、イオン結合、水素結合もしくは疎水性相互作用、またはその組み合わせでありうる。
【0035】
あるいは、ペプチドとカーゴ分子との複合体は、共有結合によって形成されうる。そのような共有結合は、好ましくはペプチドの適当な反応性基とカーゴの間、より好ましくは本発明のペプチドの末端とカーゴ分子の間に形成される。化学的性質またはカーゴ分子によって、そのような共有結合を形成する成分または基は異なり、当業者はその技術の範囲内でそのような結合を達成することができる。
【0036】
好ましくは、カーゴ分子は、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質、低分子、医薬活性物質、および任意のその混合物からなる群から選択される。
【0037】
本発明のペプチドは、核酸分子との複合体形成に特に適当である。したがって、本発明の一つの目的は、本発明のペプチド、ならびにDNA分子、RNA分子、PNA分子、siRNA分子、PMO分子、アンチセンス分子、LNA分子、mcDNA分子、miRNA分子、CRISPR/Cas9分子、プラスミド、リボザイム、アプタマー、シュピーゲルマーおよびデコイ分子からなる群から選択される核酸分子または任意のその混合物を含むナノ粒子を提供することである。
【0038】
本書において使用される用語「miRNA分子」(または「miRNA」)とは、局所RNA前駆体miRNA構造を形成することのできる転写物からプロセシングされる遺伝子座に由来する内因性RNA分子をさす。成熟miRNAは通常、20、21、22、23、24または25ヌクレオチドの長さであるが、他のヌクレオチド数、例えば18、19、26または27のヌクレオチドでも存在しうる。
【0039】
本書において使用される用語「shRNA分子」(すなわち、短鎖ヘアピンRNA分子)とは、「siRNA二本鎖」のセンスおよびアンチセンス鎖両方をステムループまたはヘアピン構造中に含む人工の単鎖干渉RNA分子をさす。このヘアピン構造のステムは典型的には19~29ヌクレオチドの長さで、ループは典型的には4~15ヌクレオチドの長さである。
【0040】
用語「siRNA分子」とは、標的分子をコードする標的核酸、好ましくはmRNAに対する短い干渉RNAをさす。siRNAは、典型的には約21~23ヌクレオチドの長さを有する、二本鎖RNAである。2本のRNA鎖の一方の配列が、分解すべき標的核酸の配列に対応する。したがって、標的分子の核酸配列、好ましくはmRNA配列がわかったうえで、2本の鎖の一方が該標的分子のmRNAと相補的である二本鎖RNAをデザインし得、該遺伝子を含む系に前記siRNAを適用すると、対応する標的核酸が分解され、したがって対応するタンパク質のレベルが低下されうる。
【0041】
用語「リボザイム」とは、触媒として活性な核酸を言い、これは好ましくは、基本的に2つの部分を含むRNAからなる。第1の部分は触媒活性を示し、第2の部分は標的核酸との特異的相互作用に与る。
【0042】
用語「アプタマー」とは、標的分子と特異的に相互作用する、一本鎖または二本鎖のD-核酸をさす。アプタマーは現在、治療剤として使用されている。
【0043】
用語「シュピーゲルマー」とは、L-核酸、すなわちL-ヌクレオチドからなるものをさす。シュピーゲルマーは、生物学的系において非常に高い安定性を有し、アプタマーに匹敵して、対象とする標的分子との特異的相互作用を示すという事実によって特徴付けられる。
【0044】
他の一態様において、カーゴ分子は、少なくとも2つのアミノ酸が共有結合、好ましくはペプチド結合により共有結合したものからなるペプチドである。一態様において、ペプチドは、L-アミノ酸、D-アミノ酸、非天然アミノ酸、またはその混合物からなる。あるいはカーゴ分子はタンパク質である。
【0045】
他の一態様において、カーゴ分子は、低分子、好ましくは分子量が1000Da以下の低分子である。特に、低分子は薬剤または候補薬剤である。
【0046】
他の一態様において、カーゴ分子は医薬活性物質である。
【0047】
他の一態様において、カーゴ分子は脂質である。
【0048】
他の一態様において、カーゴ分子は抗体またはタンパク質である。
【0049】
医薬組成物
本発明のさらなる目的は、本発明のナノ粒子(すなわち少なくとも1つのカーゴ分子と結合した少なくとも1つのペプチド)および1つ以上の薬学的に許容しうる担体を含む医薬組成物を提供することである。実際、本発明のナノ粒子は、医薬組成物の製造に有利に使用されうる。
【0050】
本書において使用される用語「医薬組成物」とは、対象、好ましくはヒト患者に投与するための組成物をいう。本発明の医薬組成物は、当分野において確立された任意の医薬投与形態、例えばカプセル、マイクロカプセル、カシェ、丸薬、錠剤、粉末、ペレット、多粒子製剤(例えばビーズ、顆粒または結晶)、エアロゾル、スプレー、泡、溶液、分散液、チンキ、シロップ、エリキシル、懸濁液、油中水型乳剤、例えば軟膏、および水中油型乳剤、例えばクリーム、ローション、バーム、皮膚パッチ、滴剤、ペースト、ならびに坐剤を包含する。
【0051】
本発明の医薬組成物は、経口、直腸、経鼻、局所(口腔内および舌下を包含する)、腹腔および非経口(筋肉内、皮下および静脈内を包含する)投与、または吸入もしくはインサフレーションによる投与に適当な製剤を包含する。投与は局所的または全身的でありうる。
【0052】
本発明の他の一側面は、前記ナノ粒子の、医薬として、およびマーカーまたはイメージング剤としての使用である。
【0053】
本発明は、インビトロで分子を細胞に送達する方法であって、該細胞を前記ナノ粒子または医薬組成物と接触させるステップを含む方法にも関する。本発明は、エクスビボで分子を組織および/または器官に送達する方法であって、該組織および/または器官を前記ナノ粒子または医薬組成物と接触させるステップを含む方法にも関する。
【0054】
インビボでカーゴ分子を送達する、前記カーゴ分子を含む請求項13~17のいずれかに記載されるナノ粒子に前記動物を接触させる投与ステップを含む、本発明の方法。
【0055】
例えば、本開示は下記の実施態様を提供する。
[1]アミノ酸配列LL-[X]n-LLを含み、ここで、XはR、LおよびWから選択され、n=10~12であり、[X]nは、4個のR、4個のL、および2~4個のWを含む、14~16アミノ酸残基の長さを有する天然に生じない細胞膜透過性ペプチド。
[2]アミノ酸配列LL-[X]m-RLLを含み、ここでm=9~11である、前記1に記載のペプチド。
[3][X]nまたは[X]mは、クラスターとして存在するかまたは分散して存在するWモチーフを含む、前記1または2に記載のペプチド。
[4][X]nまたは[X]mが、LLからなるクラスターを少なくとも1つ、好ましくは2つ含む、前記1~3のいずれかに記載のペプチド。
[5]ペプチドが、LLWRLWRLLWRLWRLL(配列番号1)、LLRLLRWWWRLLRLL(配列番号2)、LLRLLRWWRLLRLL(配列番号3)、およびLLRLLRWWWWRLLRLL(配列番号4)から選択されるアミノ酸配列を含む、前記1~4のいずれかに記載のペプチド。
[6]ペプチドがL-アミノ酸および/またはD-アミノ酸を含む、前記1~5のいずれかに記載のペプチド。
[7]ペプチドが正味の正電荷5を有する、前記1~6のいずれかに記載のペプチド。
[8]ペプチドが、前記アミノ酸配列のC末端に共有結合された、L-アミノ酸、D-アミノ酸、非天然アミノ酸、システアミド、チオール、アミド、カルボキシル、置換されていてもよい直鎖もしくは分枝C1-C6アルキル、第1級もしくは第2級アミン、オシジック(osidic)誘導体、脂質、リン脂質、脂肪酸、コレステロール、ポリエチレングリコール、核局在化シグナルおよび/または標的化分子のなかから選択される、1つまたはそれ以上の成分さらに含む、および/またはペプチドが、前記アミノ酸配列のN末端に共有結合された、L-アミノ酸、D-アミノ酸、非天然アミノ酸、アミン、アセチル、置換されていてもよい直鎖もしくは分枝C1-C6アルキル、第1級もしくは第2級アミン、オシジック誘導体、脂質、リン脂質、脂肪酸、コレステロール、ポリエチレングリコール、核局在化シグナルおよび/または標的化分子のなかから選択される、1つまたはそれ以上の化学成分をさらに含む、前記1~7のいずれかに記載のペプチド。
[9]前記1~8のいずれかに記載されるペプチドの、細胞膜透過性ペプチド(CPP)としての使用。
[10]細胞膜透過性ペプチド(CPP)が哺乳動物細胞の形質膜の透過に適当である、前記9に記載のペプチドの使用。
[11]前記1~8のいずれかに記載されるペプチドの、トランスフェクション試薬としての使用。
[12]前記1~8のいずれかに記載されるペプチド、およびカーゴ分子を含む、ナノ粒子。
[13]カーゴ分子が、核酸、ペプチド、タンパク質、脂質、低分子、医薬活性物質、およびその任意の混合物からなる群から選択され、好ましくは、DNA分子、RNA分子、PNA分子、siRNA分子、PMO分子、アンチセンス分子、LNA分子、mcDNA分子、miRNA分子、CRISPR/Cas9分子、プラスミド、リボザイム、アプタマー、シュピーゲルマー(spiegelmer)およびデコイ分子からなる群から選択される核酸である、前記12に記載のナノ粒子。
[14]ナノ粒子の大きさが、50~300nm、好ましくは100~200nmであり、および/またはカーゴ分子がペプチドと、共有結合もしくは非共有結合により結合している、前記12または13に記載のナノ粒子。
[15]前記12~14のいずれかに記載されるナノ粒子、および薬学的に許容しうる担体を含む、医薬組成物。
[16]カーゴ分子をインビトロで細胞に送達する方法であって、前記細胞を、前記カーゴ分子を含む前記12~14のいずれかに記載されるナノ粒子と接触させるステップを含む方法。
[17]カーゴ分子をエクスビボで組織および/または器官に送達する方法であって、前記組織および/または器官を、前記カーゴ分子を含む前記12~14のいずれかに記載されるナノ粒子と接触させるステップを含む方法。
本発明のいくつかの側面を、さらに以下の実施例において明らかにし、図面(実施例において述べられる)によって説明する。
【実施例】
【0056】
材料および方法
材料
ジオレイルホスファチジルグリセロール(DOPG)およびジオレイルホスファチジルコリン(DOPC)リン脂質、コレステロール(Chol)、スフィンゴミエリン(SM)をAvanti Polar Lipidsから購入した。大型単層小胞(LUV)を、過去に報告されているようにDOPC/SM/Chol(2:2:1)の脂質混合物から押出法によって調製した(A. Vaissiere et al., (2017) A retro-inverso cell-penetrating peptide for siRNA delivery, J Nanobiotechnology. 15(1), 34)。
【0057】
さまざまなsiRNA配列(未標識およびCy5標識)をEurogentecから購入した。Cy3b標識siRNAをBioSynthesisから購入した。以下のsiRNAを使用した:抗ホタルルシフェラーゼ(siFLuc):5'-CUU-ACG-CUG-AGU-ACU-UCG-AdTdT-3'(配列番号5)(センス鎖)および抗ルシフェラーゼの対応するスクランブルバージョン(siSCR):5'-CAU-CAU-CCC-UGC-CUC-UAC-UdTdT-3'(配列番号6)(センス鎖)、ならびに5'-CAG-AUC-UCG-GUG-AAC-GAU-GdTdT-3'(配列番号7)(アンチセンス鎖)に基づく抗サイクリン依存性キナーゼ4(siCDK4)siRNAおよびスクランブルバージョン:5'-AAC-CAC-UCA-ACU-UUU-UCC-CAA-dTdT-3'(配列番号8)(アンチセンス鎖)。
【0058】
siRNAストック溶液をRNアーゼ不含水中に調製し、ペプチドストック溶液およびCPP:siRNA複合体を過去の文献に記載されるように調製した(Konate K, et al. (2016) Optimisation of vectorisation property: a comparative study for a secondary amphipathic peptide. Int J Pharm. 509, 71-84)
【0059】
ペプチドの合成および修飾
ペプチドを、LifeTeinから購入するか、または発明者の実験室で標準的なFmoc化学を用いて合成し、HPLC/MSにより精製した(純度>95%)(配列を表1に示す)。N末端にシステイン残基を有する精製したCPPに、室温で23時間の間に4モル過剰のPEGマレイミド2000(Nanocs)を用いてPEG部分をグラフトした。N末端にリンカーとしてアミノヘキサン酸を有するCPPに、合成中にRGD標的化配列をグラフトした。
【0060】
ペプチド構造予測
WRAPの三次構造を予測するために、PEPstrMODサーバーを使用した(http://osddlinux.osdd.net/raghava/pepstrmod/)(H. Kaur, et al., (2007) Protein Pept. Lett. 14, 626-630; S. Singh, et al., (2015) Biol. Direct. 10, 73)。
【0061】
円二色性(CD)測定
溶液中またはリポソーム小球存在下のペプチドについて、Jasco 810(Japan)円二色計において、石英スプラシル(suprasil)セル(Hellma)中、光路長1mmでCDスペクトルを記録した。ペプチドを各条件で同じ濃度(40μM)で使用した。データピッチ0.5nm、バンド幅1nmおよび標準的感度で、190nm~260nmの間の3積算からスペクトルを得た。
【0062】
アガロースゲルシフトアッセイ
CPP:siRNA複合体をさまざまな比で5%グルコース中に形成し、室温で30分間プレインキュベートした。各サンプルを、文献に記載されるようにUV検出のためにGelRed(Interchim)で染色するアガロースゲル(1% w/v)電気泳動により分析した。
【0063】
動的光散乱(DLS)およびゼータ電位(ZP)
CPP:siRNAナノ粒子を、Zetasizer NanoZS(Malvern)を用いて粒子分布および均一性(PdI)の平均サイズ(Z平均)について評価した。ゼータ電位を、5%グルコース+5mM NaCl中で測定した。すべての結果は3つの独立した測定から得た(各測定を25℃で3回行った)。
【0064】
透過電子顕微鏡法(TEM)
透過電子顕微鏡法(TEM)のために、懸濁液の5μl滴を、カーボンコーティングした300メッシュグリッドに1分間適用し、濾紙を当てることにより液体を除去し、その後2%酢酸ウラン溶液滴を載せた。1分後、濾紙を端に当てることによって余分の染色剤を除去し、グリッドを室温で数分間乾燥させ、Jeol 1200EX2透過電子顕微鏡を100kVの加速電圧で用いて調べた。SIS Olympus Quemesa CCDカメラを用いてデータを取得した。
【0065】
培養条件
ホタルおよびNanolucルシフェラーゼ(FLuc-NLuc)をコードするプラスミドで安定にトランスフェクトされたU87MGヒトグリオブラストーマ(Aldrian G et al., J. Control. Release 2017)を、以下の完全培地中で培養した:GlutaMAX(商標)(Life Technologies)、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies)、10%熱非働化ウシ胎児血清(FBS、PAA)、非必須アミノ酸NEAA 1X(LifeTechnologies)を補充したDMEM。さらに、ヒグロマイシンB(Invitrogen、50μg/ml)を、選択のための抗生物質として加えた。
【0066】
Hela由来ケラチン形成細胞株(KB)、マウス神経芽細胞腫細胞株(Neuro2a)、ヒト肝癌細胞株(HuH7)、ヒト乳癌細胞株(MCF7)、およびヒト肺胞基底上皮腺癌細胞株(A549)を、選択用抗生物質を添加していない同じ完全培地中で培養した。
【0067】
同じ完全培地中でマウス前立腺癌細胞株(RM1)をブラスチシジンS(Invitrogen、10μg/mL)を添加して培養し、ヒト結腸癌細胞株(HT29)、直腸癌細胞株(CMT93)およびマウスグリオブラストーマ細胞株(GL261)をヒグロマイシンB(Invitrogen、それぞれ1400μg/ml、500μg/ml、150μg/ml)を選択用抗生物質として添加して培養した。
【0068】
同じ完全培地中でG418(Invitrogen、100μg/ml)選択用抗生物質を添加してヒト乳腺癌(MDA-MB-231)を培養した。
【0069】
ATCCから入手した不死化ヒト気管支上皮細胞株BEAS-2Bを、5%ウシ胎児血清(FBS)(Eurobio)、1%Ultroser G(Pall BioSepra)、1%抗生物質-抗真菌剤(Life Technologies SAS)および1%L-グルタミン(Life Technologies SAS)を補充したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Fisher Scientific)中で培養した。T-ラージ不死化マウス胚線維芽細胞(MEF)を、ペニシリン/ストレプトマイシン(Life Technologies)および10%熱不働化ウシ胎児血清(FBS、PAA)を補充したDMEM/F12培地(Life Technologies)中で培養した。
【0070】
すべての細胞を5%CO2および37℃の加湿インキュベーター内で維持した。
【0071】
細胞培養および一過性トランスフェクション
文献に記載されるように200000個のBeas-2b細胞を6ウェルプレートに播種した(Viart V et al. Eur Respir J. 2015)。細胞を、JetPEI(登録商標)またはCPP2を用いて1μgのpm-cDNA-CFTR-3’UTRで、およびRNAiMAXまたはCPP1を用いて100nMのMBBOでトランスフェクトした。
【0072】
RNA抽出およびRT-qPCR
文献に記載されるように、トータルRNAを抽出し、逆転写し、増幅した(Viart V et al. Eur J Hum Genet 2012)。逆転写は1μgのトータルRNAおよびMMLV逆転写酵素を用いて行い、qPCRを第1鎖DNAの1:10希釈物を用いて行った。相対発現レベルを、GAPDH mRNAを内在性コントロールとして比較DDCt法によって計算した。
【0073】
コロニー形成アッセイ
MEF細胞を6ウェルプレートに播種した(250細胞/ウェル)。播種から24時間の後、細胞をナノ粒子(R=20、50nM siRNA)と共に14日間インキュベートした。コロニー可視化のために、細胞をメタノール:酢酸(3:1)の溶液で4℃で20分間固定し、ギムザ(Sigma Aldrich)/H2O(3.5:10)の溶液で室温で20分間標識した。残った染色溶液を水で除去し、プレートを数時間乾燥させた。各ウェルの写真を撮影し、全コロニーを計数した。
【0074】
トランスフェクション実験
ルシフェラーゼアッセイのために、実験の24時間前に、さまざまな細胞(5000細胞/ウェル)を、前記の対応する培地を用いて96ウェルプレートに播種した。翌日、5%グルコース水中でsiRNAおよびCPP(等体積)を混合し、次いで37℃で30分間インキュベートすることによって、ナノ粒子を形成した(「siRNA on CPP」)。一方、細胞を覆う増殖培地を、予め加温した70μlの新鮮な無血清DMEMに交換した。30μlのナノ粒子溶液を細胞に直接加え、37℃で1.5時間インキュベートした。20%FBSを補充したDMEM(FBS終濃度=10%)の添加後、細胞をさらに36時間インキュベートし、最後にルシフェラーゼ検出のために溶解した。血清存在下のトランスフェクションのためには、細胞をナノ粒子と、DMEM+10%FBS中で、37℃で1.5時間インキュベートし、次いで10%FBSを補充したDMEMを細胞に加えてさらに36時間インキュベートし、最後にルシフェラーゼ検出のために細胞を溶解した。
【0075】
ウエスタンブロットアッセイのために、実験の24時間前に、前記のような対応する培地を用いて、24ウェルプレートの各ウェルにU87細胞を75000細胞/mlで播種した。標準的なインキュベーションのために、細胞を、175μlの予め加温した新鮮な無血清DMEM+75μlのナノ粒子溶液と共にインキュベートした。1.5時間のインキュベーション後、トランスフェクション試薬を除去することなく250μlのDMEM+20%FBSを各ウェルに加え、細胞をさらに24時間インキュベートした。500μlの終体積中5、10および20nMのsiRNA濃度を含み、R=20のペプチド:siRNAモル比でペプチド:siRNAナノ粒子を試験するために実験手順をデザインした。DMEM+20%FBS(FBS終濃度10%)の添加後、細胞をさらに24時間インキュベートし、最後にCDK4ウエスタンブロット検出のために溶解した。
【0076】
顕微鏡実験のために、イメージングの24時間前に、300000個のU87細胞をガラス底デッシュ(FluoroDish, World Precision Instruments)に播種した。実験前に細胞をD-PBSで2回洗い、1600μlの完全培地で覆った。その後、5%グルコース水溶液中に調製した400μlのNP(ペプチド:siRNA;R=20、siRNA=20nM)を前記細胞に直接加えた。
【0077】
細胞傷害性の測定
ナノ粒子により誘導される細胞傷害性を、50μlの上清においてCytotoxicity Detection KitPlus(LDH, Roche Diagnostics)を製造者の指示にしたがって使用して評価した。
【0078】
ルシフェラーゼレポーター遺伝子サイレンシングアッセイ
さまざまなベクターを用いるsiRNA送達を、細胞溶解物中の残存ホタルルシフェラーゼ(FLuc)活性を測定することによって評価した。簡潔に述べると、36時間後に細胞を覆う培地を注意深く取り除き、50μlの0,5X Passive Lysis Buffer(PLB; Promega)と交換した。4℃で30分間震盪後、細胞の入ったプレートを遠心処理し(10分間、1800rpm、4℃)、5μlの各細胞溶解物上清を最後に白色96ウェルプレートに移した。U87-FLuc-NLuc細胞について、両ルシフェラーゼ活性を、文献に記載されるように半分に希釈したデュアルルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega)を使用してプレートリーディング・ルミノメーター(POLARstar Omega, BMG Labtech)で定量した(G. Aldrian, et al., (2017) J. Control. Release Off. J. Control. Release Soc. 256, 79-91)。結果を、最初に未処置細胞に対して正規化され(%FLucおよび%NLuc)、次に%NLucの値に対して正規化された各ルシフェラーゼについての相対発光量(relative light unit;RLU)のパーセンテージで表して、相対Luc活性(%FLuc/%NLuc)を得た。
【0079】
Fluc発現のみを有する他の細胞株については、半分に希釈したルシフェラーゼアッセイ試薬(Promega)を使用してプレートリーディング・ルミノメーターでルシフェラーゼ活性を定量した。結果を、未処置細胞に対して正規化された相対発光量(RLU)のパーセンテージとして表した(%Fluc)。
【0080】
ウエスタンブロッティング
トランスフェクトされた細胞を、PBSで洗い、RIPAバッファー[50mM Tris pH8.0。150mM塩化ナトリウム、1%Triton X-100、0.1%SDS(ドデシル硫酸ナトリウム, Sigma-Aldrich)、プロテアーゼ阻害剤(SigmaFAST, Sigma-Aldrich)含有]中で溶解した。130μl/24ウェルの溶解バッファーと共に、細胞を氷上で5分間インキュベートした。その後、細胞を掻き取り、1.5mlチューブに移した。氷上で5分後、細胞溶解物を遠心分離し(10分間、13400rpm、4℃)、上清を集め、Pierce BCAタンパク質アッセイ(ThermoFisher)によりタンパク質濃度を測定した。細胞抽出物(0.25~0.38μg/μl)を、4~20%のMini-PROTEAN(登録商標)TGXTMプレキャストゲル(Bio-Rad)によって分離した。電気泳動後、サンプルをTrans-Blot(登録商標)Turbo(商標)Mini PVDF転写膜(Bio-Rad)に転写した。抗体として、抗サイクリンB1マウスmAb V152、抗CDK4ウサギmAb D9G3E、抗ビンキュリン ウサギmAb E1E9V、抗マウスIgG HRP、および抗ウサギIgG HRPを使用した(いずれもCell Signaling)。Amershamイメージャー600(GE Healthcare Life Science)において、ブロットを、Pierce ECL plusウエスタンブロッティング基質(ThermoFisher)を用いて示した。ブロットのシグナル強度をImage Jによって定量化した。
【0081】
共焦点顕微鏡法
共焦点顕微鏡法による細胞イメージングのために、倒立型LSM780多光子顕微鏡(Zeiss)を使用した。NP添加後に細胞を、5%CO2および37℃で加湿インキュベーター内で1時間インキュベートした。インキュベーション終了の10分前に、核標識のためにHoechst 33342色素を細胞に加えた。その後、細胞をD-PBSで2回洗い、FluoroBrite DMEM培地(Life Technologies)で覆った。共焦点画像を映し出し、ImageJソフトウェアで処理した。
【0082】
スピニングディスク実験のために、スピニングディスク(ANDOR)系と組み合わせた倒立型顕微鏡(Nikon Ti Eclipse)を使用して、生細胞内部のNPのインターナリゼーションのカイネティクスを調べた。NPを添加後に細胞をケージインキュベーター(Okolab)で37℃に保ち、EM-CCDカメラ(iXon Ultra)で画像を1200sにわたり5s毎に直接記録し、Andor IQ3ソフトウェアを用いて映し出した。異なるチャネル間で発光ブリードスルーが観察されないことを確実にするためにコントロール実験を行った。すべての画像をImageJソフトウェアで処理した。
【0083】
インビボマウス実験
ボルドー大学動物施設において6~10週齢の免疫不全NOG(NOD/SCID/IL-2Rγnull)マウスを飼育した。特定の病原体のない条件下に維持されたマウスを、水および食餌を自由に摂取させる12時間明暗サイクル下の標準条件で維持した。空気中2%イソフルラン(Belamont, Nicholas Piramal Limited, London, UK)による麻酔を行った。マウスのイメージングする領域を、クリッパーおよび除毛クリームを用いて予め剃毛した。
【0084】
マウス右後肢へのU87-FRT-CMV-Fluc-CMV-Nluc細胞(2×106細胞/100μL PBS)の注入によって皮下腫瘍を生じさせた。移植の4週後に皮下腫瘍をイメージングした。
【0085】
mRNA抽出および定量RT-PCR
Trizol(Thermo Fisher Scientific)を用いてU87細胞からトータルmRNAを単離した。NucleoSpin RNA(Macherey-Nagel)を使用して、1mgのトータルRNAを用いてcDNAの合成を行った。MyIq Quantitative(Bio-Rad)を使用して、Fast SYBR Green Master Mix(Invitrogen)を用いて定量PCRを行った。Fluc増幅用のプライマーは、Fluc-Fw:TCCATTCCATCACGGTTTTGG(配列番号9)、Fluc-Rv:GCTATGTCTCCAGAATGTAGC(配列番号10)、GAPDH-Fw:GCCAAGGTCATCCATGACAAC(配列番号11)、GAPDH-Rv:GAGGAGTGGGTGTCGCTGTTG(配列番号12)であった。
【0086】
反応は、3つの独立した実験において3回行った。発現データは、発現レベルのばらつきをコントロールするためにハウスキーピング遺伝子GAPDHの幾何平均に対して正規化し、2DDCt法を用いて分析した。
【0087】
結果
1.ペプチドの特徴付け
本実験では、複数の両親媒性ペプチドを、処置剤分子を送達するためのペプチドベースのナノ粒子(PBN)を形成する能力について試験し比較した(表1)。ペプチドCPP1~CPP4は本発明のペプチドに属し、3種のアミノ酸ロイシン、アルギニンおよびトリプトファンの残基からなる。ペプチドは15~16アミノ酸の長さで、アミド基(-CONH2)を有するC末端部分およびN末端部分のアミン(-NH2)を有する。本発明のすべてのペプチドは単独で+5(またはN末端部にカップリングする成分がある場合は+4)の正味の正電荷を有する。
【0088】
【表1】
脚注: CPP AA=CPP配列のアミノ酸の数
【0089】
CPPの構造的性質を調べるために、最初に各ペプチドの3D構造のin silico予測を行った。CPP1~CPP4の配列を親水性環境においてPepStrMODサーバに提示した。計算後にPepstrMODにより作製されたペプチドモデルは、すべてのペプチドがαヘリックス構造をとることを示した(
図1)。CPP1およびCPP2はそれ以外のモデルよりも顕著なヘリックス構造をとると予測された。
【0090】
次いで、予測された構造を実験によって調べたものと対比させた。円二色性スペクトルを、溶液中の遊離ペプチドについて、次いでsiRNA存在下のペプチドについて、次いでリポソーム添加後に記録した。表2に示すように、すべてのペプチド(CPP1、CPP2、CPP3およびCPP4)が、siRNA分子存在下に、また、中性のまたは負に荷電した脂質(「大型単ラメラ小胞」(LUV))の存在下にも、αヘリックス構造をとる。
【0091】
【表2】
脚注:ランダムコイル(rc)コンフォメーションは、212nmに正のバンド、および195nm付近に負のバンドを有する。ヘリックスコンフォメーションは、207nmおよび222nmにおける2つの極大、ならびに191nm付近の1つの極大によって特徴付けられる。ターン様構造には、200nmおよび228nmにおいて2つの極大が見られる。R20のCPP:siRNAモル比、およびr10のCPP:脂質で、CPP濃度40μM。
【0092】
2.両親媒性ペプチドのコロイド特性
CDによって示されたコンフォメーション変化は、ほとんどすべてのCPPがsiRNAと相互作用することを示唆した。siRNAの複合体形成を評価するために、CPP:siRNA複合体の形成をアガロースシフトアッセイにより調べた(
図2)。siRNAは単独でアガロースゲル中を移動することができたが(=100%シグナル)、CPPと複合体形成すると、ペプチドがオリゴヌクレオチド移動をモル比依存的に抑制した。明らかにCPP1、CPP2、CPP3およびCPP4は同様の様式でsiRNAと複合体化することができ、複合体化はR=20およびR=40のペプチド:siRNAモル比で最適であった。
【0093】
CPP:siRNA複合体(5%グルコース、R=20)のコロイド特性を、動的光散乱(DLS)によりナノ粒子サイズおよび均一性に関して特徴付けた。強度測定(%)により、CPP1、CPP2、CPP3およびCPP4が直径80nm~200nmのPBNを形成したことが示され、多分散指数(PdI)は約0.3であった(表3)。数に基づくナノ粒子サイズ分布(%)は、強度に基づくサイズ分布によって示されたものに加えて、より小さいナノ粒子が存在することを示唆した。そのようなより小さい粒子の直径は、4種のCPP:siRNAについて20nm~50nmであった(表3)。より重要なことには、両方の測定されたサイズ値は、4℃で72時間貯蔵後にも顕著に変化しなかった(データを示さず)。
【0094】
CPP1:siRNAまたはCPP2:siRNAからなるPBNは、正に荷電した表面(ゼータ電位測定、表3)、および透過電子顕微鏡により示される球形状(
図2B)の両方を有する。
【0095】
【表3】
脚注:すべてのCPP:siRNA複合体を、R=20、siRNA濃度500nMで、平均サイズ取得のためには5%グルコース水溶液中に形成し、ZP評価のためには5mMのNaClを含む5%グルコース水溶液中に形成した。独立した製剤のn≧2(ラン毎に3測定)。n.d.:測定せず。
*1mMのNaClを含む5%グルコース中でZP測定。
【0096】
3.調製に依存するsiRNA担持CPPナノ粒子の効果
調製時の適用濃度に依存するsiRNA担持CPPナノ粒子の効果を評価した。
2つの異なる調製を比較した:
1)希釈条件: 複合体を高濃度(例えばCPP[10μM]:siRNA[0.5μM])で調製し、その後希釈して、細胞培養アッセイのために5nM、10nMおよび20nMのsiRNA終濃度とした。
2)体積:体積条件: CPPおよびsiRNAの溶液を個別に調製し、その後混合して、細胞培養アッセイのために5nM、10nMおよび20nMのsiRNA終濃度とした。
【0097】
CPP2を用いて行った調製によって例示されるように、適用した調製手順に応じてナノ粒子のノックダウン効果が増加され得た(
図14)。希釈条件は、より高いノックダウン効果を誘導するようである(2倍の増加)。このことは、トランスフェクトすることが「困難」であることが知られる細胞のトランスフェクションのために特に興味深い。
【0098】
4.両親媒性ペプチドはプラスミドの調製に使用されうる:
CPP1およびCPP2ペプチドは、プラスミドのようなオリゴヌクレオチドと会合されたとき、複合体を形成した(
図3)。複合体形成を、CPPとsiRNAの複合体形成について前記したようにアガロースゲル(0.5%)を用いて可視化した。CPP(正荷電)およびプラスミド(負荷電)間の中性荷電(CR=1)に相当するチャージ比(CR)において、プラスミドをCPPと複合体化した。すると、嵩高いCPP:プラスミド複合体はもはやアガロースゲル中を移動することができなかった。
【0099】
プラスミドバンド単独の強度を100%と正規化した。CPP:プラスミドチャージ比を連続的に高めることによって、アガロースゲル(0.5%)中の移動が比例的に低下されたpGL3プラスミド(6.56kbp)の複合体化が得られた。
【0100】
プラスミド担持CPPナノ粒子のトランスフェクション能力を分析するために、MCF7(ヒト乳癌)およびMEF(マウス胚線維芽)細胞を、ホタルルシフェラーゼをコードするプラスミド(pGL3)でトランスフェクトした。CPP2:pGL3(CR=1)と24時間インキュベート後、細胞を溶解し、ホタルルシフェラーゼの、その基質の添加による発現を定量した(Promegaのキット)。
図3Bおよび3Cに示すように、未処置細胞と比較して、タンパク質発現の増加に相関するホタルルシフェラーゼ活性増加が用量依存的に見られた。
【0101】
結論として、BPNは、先にsiRNAで示したように、プラスミドをトランスフェクトするためにも使用することができた。
【0102】
5.ルシフェラーゼスクリーニングアッセイによるCPP:siRNAナノ粒子の細胞活性の特徴付け
CPPベースのナノ粒子の細胞活性を、文献に記載されるようにルシフェラーゼスクリーニングアッセイにおいて評価した(L.N. Patel, et al., (2007) Pharm. Res. 24, 1977-1992; A. Elmquist, et al., (2001) Exp. Cell Res. 269, 237-244)。さまざまなCPP:siRNAナノ粒子のノックダウン効果を、FLuc/NLucレポーター遺伝子の構成的発現のために安定にトランスフェクトされたU87細胞株において行った(U87-FRT-CMV/Fluc-CMV/iRFP-IRES-NLuc)。
【0103】
本発明者は初めに、効果的なルシフェラーゼノックダウンのために必要な、ペプチドとsiRNA(20nMの一定濃度)の最適なモル比を調べた(
図4A)。CPP1、CPP2、CPP3およびCPP4について、本発明者は、R=40で少し増加する、R=20で70%を超える顕著なルシフェラーゼノックダウンを観察した。並行して、すべてのナノ粒子処理において、相対的な細胞傷害性は観察されなかった(LDH測定)。
【0104】
非常に有望なホタルルシフェラーゼノックダウン結果が、全トランスフェクションの36時間後、また、24時間後にも、観察可能であったが、これは実験者にとって得るところが大きかった。CPP2:siRNAおよびCPP4:siRNAについてモル比R20およびR40において、適用したトランスフェクション時間に関わらず、すべての条件でルシフェラーゼシグナルの相対的低下が同じであった(約60~80%)(
図4B)。
【0105】
次いで、最適なペプチド:siRNAモル比R=20を用いて、最適なsiRNA濃度を調べた(
図4C)。3種のPBN(CPP1、CPP2およびCPP4)が、約7.5nMのIC50値で、非常に良好な用量依存的相関を示して顕著なノックダウン効果を示した。ここでも、用いたすべての条件で細胞傷害性は観察されなかった。
【0106】
最後に、本発明者は、本発明のナノ粒子は、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX(siRNAトランスフェクション用にThermoFisherから現在市販されている製品)と、同じsiRNA使用濃度において等価なルシフェラーゼノックダウン低下を誘導したことを認識することができた。しかしながら、このような条件下に、本発明者は、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAXベクター化で21%に相当する顕著な細胞傷害性を観察した(
図4C)。
【0107】
ナノ粒子の反復または長期適用のために、CPPは、細胞外または細胞内プロテアーゼによるその分解を低減するためにアイソフォームDのものを使用することが好ましい。これに関連して、CPP2:siRNAナノ粒子の効果を、LまたはD立体配置のペプチドを用いて評価した。
【0108】
コロイド特性の試験によって、アイソフォームDのペプチドCPP2(CPP2[D])は、CPP2[L]と同じ大きさのナノ粒子を形成することが、DLSによる確認で示された(I%=70±11nm、Nb%=31±1nm、PdI=0.302±0.024、CPP2[L]について表3を参照されたい)。
【0109】
並行して、ホタルルシフェラーゼ発現の低下は、R20の一定の比で用量依存的に(1nM~20nMのsiRNA)、したがってペプチドの異性化(CPP2[D]およびCPP2[L])に関わらず、観察された(
図5)。
【0110】
インビボ適用を促進するために、静脈内注射による投与の際に起こり得る血清タンパク質との相互作用を模すために、ナノ粒子を血清の存在下にインキュベートした。血清(10%)の存在は、CPP1の場合15nMおよび20nMのsiRNA、CPP2の場合10nM~20nMのsiRNAでのホタルルシフェラーゼサイレンシングに関して、ナノ粒子の活性に有意な悪影響を及ぼさなかった(
図6)。10%血清存在下に、血清なしの条件に相当する約70%のルシフェラーゼ活性低下が観察された。
【0111】
最後に発明者は、CPPによるsiRNAトランスフェクションは、実験室が変わっても、また、用いる検出方法に関わらず、再現可能であることを示した。この比較において、U87細胞をCPP2:siRNAナノ粒子と、3つのsiRNA濃度(5nM、10nMおよび20nM)でインキュベートした。インキュベーション後、細胞を溶解し、96ウェルプレートに移した(Dual Luciferaseキット, Promega with PolarStar measurement, BMG)、またはチューブ内の(Luciferase Assay Reagent and Nano-Glo Luciferase Assay, Promega with Lumat LB 9507 measurement, Berthold Technologies)細胞溶解物において、ホタルルシフェラーゼおよびNanoLucの活性を定量した。いずれの場合も、ホタルルシフェラーゼ発現の用量依存的低下を示す値は同じであった(
図7)。
【0112】
6.CPP:siRNAの活性の、同様の配列を有する他のCPPとの比較
2つのペプチドCPP1およびCPP2と類似するが異なる配列を、アミノ酸位置の重要性(CPP1とC6M1との対比)、およびロイシン残基の役割(CPP2とCPP2-1~CPP2-3との対比、表1)を示すために合成した。
【0113】
本発明のCPPが、siRNAトランスフェクションに関して、Jafari et al. (2013)に記載されるC6M1ペプチドよりも良好な効果を有することを示すために、直接比較を行った。C6M1アナログで、ペプチド配列のN末端部のロイシンダブレットにおいてロイシンを欠失するC6M1-L配列を含めた(表1および
図8A)。
【0114】
ホタルルシフェラーゼを過剰発現するヒトグリオブラストーマ細胞(U87)を、CPP1、C6M1、C6M1-LおよびCPP2の4つのベクターペプチドを用いて調製したsiRNA封入ナノ粒子(siFlucまたは陰性対照としてのsiSCR)と共にインキュベートした。これらの調製は、すべてのペプチドについて同じ濃度(CPP=200nM、siRNA=10nM)、同じ方法で並行して実施した。その後、インキュベーション間のバイアスを回避するために、すべての溶液を、各ウェルに5000個の細胞を含むP96プレート中で1.5時間インキュベートした。
【0115】
ルシフェラーゼ活性の測定によって、発明者は、CPP1:siRNAおよびCPP2:siRNAはルシフェラーゼ発現の90%低下を誘導できたことを明らかに示した。対照的に、発明者は、C6M1:siRNAによるわずか60%、C6M1-L:siRNAによるわずか40%のルシフェラーゼノックダウンを観察した(
図8A)。
【0116】
結論として、CPP1ペプチドはルシフェラーゼ発現低下に関して、C6M1よりも3倍活性であり、C6M1-Lよりも6倍活性であった(両比較においてp=****、一元ANOVAとTukeyのポスト検定)。さらに、発明者は、CPP2ペプチドがC6M1(2倍)およびC6M1-L(3.5倍)よりも効果的であることも示すことができた。
【0117】
ペプチド配列中のロイシン「ダブレット」の重要性を理解するために、さまざまな位置でロイシン残基を欠失させたアナログを作製した(表1参照)。CPP2配列の中央のみ(CPP2-1)またはすべての「ダブレット」(CPP2-2)を単一のロイシン残基で置き替えた場合、発明者は、ルシフェラーゼアッセイにおいてナノ粒子が完全に不活性であることを観察した(
図8B)。
【0118】
第2のステップにおいて、発明者は、CPP1およびCPP2配列のNおよびC末端部の「ダブレット」の重要性を分析しようと考えた(それぞれ、CPP1-1およびCPP2-3)。この欠失も、in celluloでナノ粒子(siRNA-FLuc)の活性に影響を及ぼした(
図8B):
・ナノ粒子CPP2-3:siFLucは、ルシフェラーゼサイレンシングに関して、CPP2:siFluc PBNによって観察されるものと比較して活性を示さなかった。
・ナノ粒子CPP1-1:siFLucは、特に10nMおよび20nMのsiRNA濃度において、同じ濃度のCPP1:siFLucナノ粒子と比較して3分の1および5分の1のPBN活性に相当する、低い抑制活性を示した。
【0119】
第3のステップにおいて、発明者は、発明者が開発したCPPのコンセンサス配列、およびC6M1およびC6M1-Lと比較したその挙動を確認しようと考えた。したがって、ペプチド配列末端(N末端およびC末端)に追加のアルギニン残基を有するペプチド配列を合成した(表1のCPP1-6RおよびCPP2-6R配列参照)。
【0120】
しかしながら、配列内の2つのアルギニンの付加は、ペプチドの正味総電荷も高めうる。親ペプチドと同じ正味電荷をもたらすために、NおよびC末端アルギニン残基を有するが非末端の2つのアルギニン残基を欠失する2つのさらなるペプチドを設計した(CPP1-4RおよびCPP2-4R、表1)。すべての場合に、ペプチド両端におけるアルギニン付加は、in celluloでナノ粒子(siRNA-FLuc)の活性を低下させた(
図8B):
・ナノ粒子CPP1-4R:siFLucは、ルシフェラーゼサイレンシングに関して、CPP1:siFluc PBNの場合に観察されるものと比較して活性を示さなかった。ナノ粒子CPP1-6R:siFLucは、同じ濃度のCPP1:siFLucナノ粒子と比較してPBNとして4分の1(5nMのsiRNA)および3分の1(10nMおよび20nMのsiRNA)に相当する低い抑制活性を示した。
・ナノ粒子CPP2-4R:siFLucおよびCPP2-6Rは、すべてのsiRNA濃度において、CPP2:siFLucナノ粒子と比較してPBNとして3分の1ないし4分の1に相当する低い抑制活性を示した。さらに、CPP2-4Rは、ルシフェラーゼ活性測定において幾分かのばらつきを示したが、これはナノ粒子インキュベーションのいくらかの細胞傷害効果によるものと考えられる。
・得られた結果はDLS測定によって説明された(表3):CPP1-4R:siRNAは親ナノ粒子よりもよく凝集しており、CPP1-6R:siRNA粒子はCPP1:siRNAよりも大きく、多分散度がより高く、CPP2-4R:siRNAおよびCPP2-6R:siRNAは、CPP2:siRNAよりも小さいナノ粒子を形成するようであったが多分散度がより高いように見えた。
【0121】
結論として、CPP1およびCPP2は両方とも、最高のノックダウン効果を持つ安定なナノ粒子形成を可能にする最良のアミノ酸組み合わせを有する。
【0122】
7.CPP:siRNAナノ粒子のトランスフェクション効果の実施例
最高のトランスフェクション効果を示したので、CPP1およびCPP2をさらなる細胞試験および開発のために選択した。汎用のトランスフェクション剤としての可能性を評価するために、両ペプチドをさまざまな細胞株に対して試験した。20nMのsiRNAを使用して、U87(ヒトグリオブラストーマ)、KB(Hela由来ケラチン形成細胞)、HuH7(ヒト肝癌)およびNeuro2a(マウス神経芽細胞腫)、MCF7(ヒト乳癌)、MDA-MB-231(ヒト乳腺癌)細胞において、50nMのsiRNAを使用して、CMT93(直腸癌)、MEF-RAS:Ras改変マウス胎児線維芽細胞、A549:ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞、HT29(ヒト結腸癌)およびRM1(マウス前立腺癌)細胞において、また、100nMのsiRNAを使用して、GL261(マウスグリオブラストーマ)細胞において、50%~80%のFLuc遺伝子サイレンシングが検出され、同等のノックダウン効果を達成するために、細胞株によっては高いsiRNA用量を必要とすることが示された(
図9A)。
【0123】
また、CPP1およびCPP2ベースのNPを、グリオブラストーマにおいて過剰発現することが知られる内因性タンパク質であるサイクリン依存性キナーゼ4(CDK4)を標的化するよう適用した(D.W. Parsonset al., (2008) An integrated genomic analysis of human glioblastoma multiforme, Science. 321, 1807-1812)。5nM、10nMおよび20nMにおいてそれぞれ30%、60%および80%に相当するCDK4発現抑制という、両ペプチドでの顕著なCDK4ノックダウンが観察された。CPP1:siCDK4は、CPP2:siCDK4よりも少し高いCDKノックダウン効果を示すようであった(
図9B)。
【0124】
Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX(ThermoFisherから市販されている脂質トランスフェクション分子)との直接の比較により、本PBNトランスフェクション系が優れていることが明らかに示された(
図9C)。両方のトランスフェクション系が顕著なCDK4ノックダウンを示して有効であったが、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX条件は低い濃度ですでに顕著な細胞傷害作用を示した。細胞傷害性は、内部標準を用いるウエスタンブロット(ビンキュリン発現:濃灰色のバー)、または総タンパク質濃度(BCAキットで測定、赤色の値)で観察することができた。
【0125】
50nmのsiCDK4濃度において、CPP1は細胞傷害性を示さずに80%を超えるCDK4ノックダウンを誘導した。一方、siRNAをLipofectamine(登録商標)RNAiMAX試薬を用いて導入した場合は、ノックダウンは同じであったが、総細胞タンパク質およびビンキュリンの量の顕著な低下を伴い、このトランスフェクション試薬が顕著に細胞傷害性であることが示された(赤色の破線)。
【0126】
CPP2の細胞傷害性も、コロニー形成アッセイによって、細胞の生存および増殖に対する高い傷害性プロファイルを示した両RNAiMAX条件と比較して観察された(
図9D)。他のCPP2条件はいずれも、未処置細胞との比較で、細胞の生存および増殖に影響しなかった。予想されたように、細胞サイクルに関わるサイクリンD1タンパク質に対するsiRNAを用いる対照条件は、細胞生存の50%の低下を示した。
【0127】
内因性タンパク質CDK4に対するCPP2ベースのNPの効果を、培養後3日間の間のNPの3連続投与後にも評価した(
図9E)。顕著なCDK4ノックダウンがすべての条件で検出されたが、単回投与(投与1)と比較して20nMのsiRNAの3連続投与(投与3)によって明らかに蓄積効果が観察され、CPP2ベースNPの経時的な蓄積効果の可能性が示唆された。
【0128】
8.細胞懸濁液に対するCPP:siRNAナノ粒子のトランスフェクション効果の実施例:
非接着細胞(懸濁液)に対するsiRNA担持CPPナノ粒子のトランスフェクション効果を評価するために、U87細胞に対していわゆる逆トランスフェクションを行った。「標準」トランスフェクション条件においては、細胞をマイクロタイタープレートに所望の濃度で播種し、ウェル底に接着した後(6時間~24時間)、細胞をナノ粒子でトランスフェクトした。「逆」トランスフェクションにおいては、ナノ粒子をマイクロタイタープレートに移し、その後、血清を含むかまたは含まない培地に再懸濁させたトリプシン処理細胞をナノ粒子に加えた(
図15AおよびB参照)。
【0129】
いずれの場合も、CPP1:siFLucおよびCPP2:siFLucは、用量依存的なルシフェラーゼ遺伝子サイレンシングを示し、これは、CPP:siSCRナノ粒子はノックダウン効果を示さなかったことから、特異的であった。このサイレンシング特異性は、血清を含む培地でも含まない培地でも同様に観察された。しかしながら、逆トランスフェクションのサイレンシング効果は、「標準」トランスフェクションと同等の80~90%のノックダウンを達成するために、少し高い用量のsiRNA(20nMの代わりに50nM)を必要とした。
【0130】
次に、ホタルルシフェラーゼで安定にトランスフェクトされたU937ヒトマクロファージといった非接着細胞におけるCPP2:siFLucのトランスフェクション効果を評価した(
図15C)。CPP2:siFLucナノ粒子は、用量依存的なルシフェラーゼ遺伝子サイレンシングを示し、これは、siFLuc単独ではノックダウン効果が示されなかったことから、該トランスフェクションに特異的であった。サイレンシング効果は、10nM、20nMおよび50nMのsiRNA濃度でそれぞれ40%、80%および100%と決定された。
【0131】
9.嚢胞性線維症の状況におけるCPP1:MBBOおよびCPP2:プラスミドの同時トランスフェクション
嚢胞性線維症(CF)は、主として肺を冒し、膵臓、肝臓、腎臓および腸をも冒す遺伝子疾患である。これは、嚢胞性線維症膜コンダクタンス制御因子(CFTR)タンパク質の遺伝子の両コピーにおける変異の存在によって引き起こされる。CFTRは、micorRNA、例えばmiR-145およびmiR-494によって転写後制御されたことが最近わかった(Gillen AE et al. Biochem J. 2011; Megiorni F et al. Plos One, 2011; Ramachandran S et al. PNAS, 2012, Viart V et al. Eur Respir J. 2015)。miR-145を包含するいくつかのmiRNAが、CFTRが抑制されている初代ヒト気道上皮細胞において発現され(Gillen AE et al. Biochem J , 2011)、またはCF患者において脱制御される(Oglesby IK et al. J immunol, 2013; Ramachandran S et al. AJRCMB . 2013)。
【0132】
M. Taulan-Cardars博士のグループは、CFTR遺伝子3’-UTRへのmiR-101、miR-600、miR-145およびmiR-384を包含するいくつかのmiRNAの結合を抑制するターゲットサイトブロッカー(TSB、miRNA結合ブロッカーオリゴヌクレオチド(MBBO)とも称される)を設計した(PCT/EP2014/069522)。このMBBOは、モル比依存的にCPP1で封入することができ、R=5で完全に複合体化した(
図16A)。発明者はこのモル比を用いて、動的光散乱(DLS)により測定された平均サイズ180nmのナノ粒子を得た(
図16B)。
【0133】
その後、発明者は、気管支Beas-2b細胞におけるCFTR転写物量に対するMBBOトランスフェクションの効果を、異なるトランスフェクション試薬と比較して評価した(
図16C)。同時トランスフェクション実験において、CFTRをコードするプラスミド(pm-cDNA-CFTR-3’UTR、11.8kbp)をさまざまなMBBO(19~28pb)と共に導入した。CFTR転写レベルを最初にハウスキーピング遺伝子GAPDH(グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ)に対して正規化し、次いで対照MBBO(3’-UTR結合性を持たないMBP-Ctrl)に対して正規化した。3つの異なるトランスフェクション試薬組み合わせを分析した:
- CFTRプラスミドおよびMBBOでのトランスフェクションの両方においてLipofectamin(商標)RNAiMAX
- CFTRプラスミドでのトランスフェクションにおいてJetPEI(登録商標)、およびMBBOでのトランスフェクションにおいてCPP1
- CFTRプラスミドでのトランスフェクションにおいてCPP2、およびMBBOでのトランスフェクションにおいてCPP1
【0134】
図16Cに示されるように、気管支Beas-2b細胞におけるCPP2:プラスミド/CPP1:MBBOでのトランスフェクション後のCFTR転写物の量は、JetPEI(登録商標):プラスミド/CPP1:MBBOを用いたトランスフェクションと比較して2~3倍多く、JetPEI(登録商標):プラスミド/RNAiMAX:MBBO条件と比較して10~12倍多かった。このCFTR転写増加は、CPP1およびCPP2ペプチドベースのトランスフェクションに基づくプラスミドおよびMBBOによるトランスフェクション効果がより高いことに関係付けられる。
【0135】
10.siRNA担持PBNのインターナリゼーション・カイネティクスの評価
CPP1およびCPP2ベースのナノ粒子は、遺伝子サイレンシングにおいて顕著な効果を示し、最適なsiRNA送達が示唆された。したがって本発明者は、時間に依存するその細胞インターナリゼーションを評価することを試みた。siRNA担持PBN(20nM siFLuc)をヒトU87細胞に、5分間~90分間の範囲のさまざまなインキュベーション時間の間、適用し、次いで、PBN溶液を10%FBS含有培地に36時間の間交換した。結果は、CPP1およびCPP2ナノ粒子は、5分間のインキュベーション後にすでにFLuc活性の40%低下を誘導することができたことを示し、速やか、かつ顕著なタンパク質ノックダウンが示唆された(
図10A)。さらに、両ペプチドにより、細胞傷害性を伴わない最大および飽和FLucサイレンシングが60分のインキュベーション後に観察された。
図4Cと比べて、60分での最大のノックダウン効果は少し低かったが、これは、i)30分間のさらなるインキュベーション時間がなかったこと、およびii)PBN溶液を交換したが、補足培地で満たさなかったことによると考えられる。
【0136】
siCDK4担持PBNを用いて行った同様の時間依存実験により、ウエスタンブロット評価で同様の結果が示され、短時間でのトランスフェクション効果が確認された(
図10B)。この場合も、最初のノックダウン効果は5分間のインキュベーション後に観察することができ、サイレンシング効果は60分で最大となった。
【0137】
CPPベースのナノ粒子のインターナリゼーションについてさらに情報を得るために、共焦点顕微鏡実験を行った。siRNA細胞分布を表す画像は、1時間のインキュベーション後において、他のPBNで観察されたのと同様の区切られたパターンを示した(
図10C)(A. Vaissiere, et al., (2017) A retro-inverso cell-penetrating peptide for siRNA delivery, J. Nanobiotechnology. 15, 34.; G. Aldrian, et al., (2017) PEGylation rate influences peptide-based nanoparticles mediated siRNA delivery in vitro and in vivo, J. Control. Release Off. J. Control. Release Soc. 256, 79-91.; A. Rydstroem, et al., (2011) Direct translocation as major cellular uptake for CADY self-assembling peptide-based nanoparticles, PloS One. 6, e25924.)。その後、発明者は、両CPPベースのナノ粒子のインターナリゼーション・カイネティックをCy3標識siRNAの細胞内蓄積に基づいて評価するためにスピニングディスク実験を行った(
図10D)。グラフに示すように、両PBNによって送達されたsiRNAにより、約15分間(900秒~945秒)のインキュベーション後に蛍光が最大に達したことが観察された(90%±5%)。インターナリゼーション(50%)のIC50値は、CPP1およびCPP2ナノ粒子によって、それぞれ240秒および185秒のインキュベーション後に得られた。このインターナリゼーションは、120分間のインキュベーション後にインターナリゼーションが最大に達したRICK:siRNAまたは20%PEG-RICK:siRNAといった、過去に分析されたPBNと比較して、非常に速かった(A. Vaissiere, et al., (2017) A retro-inverso cell-penetrating peptide for siRNA delivery, J. Nanobiotechnology. 15, 34.; G. Aldrian, et al., (2017) PEGylation rate influences peptide-based nanoparticles mediated siRNA delivery in vitro and in vivo, J. Control. Release Off. J. Control. Release Soc. 256, 79-91.)。まとめると、両CPPベースのナノ粒子で観察された速いsiRNAインターナリゼーション・カイネティックは、5分間のインキュベーション後でも観察されるノックダウン効果の説明となりうる(
図10Aおよび10B)。
【0138】
11.ナノ粒子のインビボ評価(マウス異種移植モデル)
ナノ粒子のインビボにおける効果を評価するために、皮下腫瘍中に注入した(マウスU87-CMV-FLuc-CMV-iRFP-IRES-NLuc細胞)。腫瘍形成のために、U87細胞(2.106細胞/100μl)をB6アルビノマウスの右脚に皮下注入した。腫瘍成長後、CPP2:siFlucナノ粒子(20μl)を腫瘍の中心部に注入した。Lumina LTソフトウェア(Perkin Elmer Inc.)を使用してVivoptic(UMS 3767 - ボルドー大学)で生物発光イメージング(BLI)を行った。麻酔溶液(2%イソフルラン)の投与後、マウスにD-ルシフェリンを腹腔内注射し、注射の8分後の時点の画像を得た。
【0139】
「二重の」生物発光(FlucおよびNluc)および蛍光(iRFP)を示す画像は、24時間の時点における可視ホタルルシフェラーゼの低下を示す(
図11A)。この現象は、より多数の動物の平均において、より顕著であり(n=11)、24時間でルシフェラーゼシグナルの70%の低下を示した(*p<0.05)(15μgのsiFlucでのCPP2:siFluc、R=20)(
図11B)。より重要なことに、CPP2:siFlucナノ粒子注入後48時間でmRNA-Flucの割合は80%低下した(***p=0.0009)(
図11C)。
【0140】
12.CPPナノ粒子によるsiRNA「カクテル」のベクター化
CPPベースのナノ粒子は、サイクリンB1およびCDK4タンパク質を標的とする(同じ割合の)2つのsiRNAのカクテル(
図12A)および(異なる割合の)2つのsiRNAのカクテル(
図12B)について以下例示するように、異なるタンパク質を標的とする複数の異なるsiRNAの「カクテル」の送達も可能にしうる:
【0141】
13.高度にモジュール型のナノ粒子の評価(グラフトPBN):
ナノ粒子の標的化は、治療用分子の健常組織におけるインターナリゼーションを減少させ、望ましくない副作用を防止するための必須条件となっている。数年来、ある種の組織または細胞種における過剰発現受容体を認識するナノ粒子に、ペプチドまたは糖といった標的化分子がグラフトされている(F. Danhier et al., (2012) Mol Pharm. 9(11):2961-73.; 22.; D.M. Copolovici et al., (2014) ACS Nano. 8(3):1972-94.; D. Arosio et al., (2017) Recent Pat Anticancer Drug Discov. 12(2):148-168.)。
【0142】
癌に関しては、3種のアミノ酸からなる標的化配列(RGD)が、単一の治療用分子またはベクターの特異性を高めるために最もよく研究されている(U.K. Marelli UK, et al., (2013) Front Oncol. 3:222.)。このペプチドは、癌細胞表面で過剰発現するαvβ3インテグリン受容体と特異的に相互作用することが知られている。
【0143】
ナノ粒子のモジュレーションに関してプルーフ・オブ・コンセプトを行うために、RGDの線状配列(アミノヘキサン酸リンカーAhxを有する)を、ペプチドCPP2のN末端部にグラフトした。
【0144】
4残基のCPP2ペプチドの伸長は、ルシフェラーゼアッセイによって観察されたように、ナノ粒子の形成に影響しないようであった(
図13A)。ネイキッドPBNの場合と同等に、ルシフェラーゼ発現が約70%低下した(
図4)。使用したグラフトペプチドのパーセンテージ(CPP2単独とRGD-Ahx-CPP2との比)にかかわらず、ルシフェラーゼサイレンシングのレベルは一定に保たれた(
図13B)。
【0145】
ペプチドベースのナノ粒子の使用における主な制約は、血流中におけるその短い寿命である。しかしながら、多くのペプチド化学のおかげで、PBNを、その薬理学的性質を改善するために機能的成分によって修飾することができる(T. Lehto, et al., (2016) Drug Deliv. Rev. 106(Pt A), 172-182)。この方向で、PEG化が、インビボにおける安定性を改善するため、肝臓および脾臓における単核貪食細胞系(MPS)による認識ならびに血液成分との相互作用を防止するために、広く用いられている。例えば、Genexol-PM[メトキシ-PEG-poly(D,L-ラクチド)タキソール]は、米国で第II相臨床試験において実際の成功を収めた最初のポリマーベースのミセルナノ粒子である。
【0146】
このような状況で、プルーフ・オブ・コンセプトによって、本発明のペプチドナノ粒子が、PEG成分をグラフトすることができ、多重にグラフトすることもできることが示された(
図13C)。20%のPEG-CPPの添加は、ナノ粒子の活性に有意な影響を及ぼさなかった。100%PEG-CPPの条件のみが、それを完全に抑制した。このような結果は、PEG-RICKで得られたデータと相関した(G. Aldrian, et al., (2017) J. Control. Release Off. J. Control. Release Soc. 256, 79-91)。
【0147】
さらに、PEG-CPPの添加が20%を超えないとき、標的化RGDペプチド配列の挿入による3成分混合物の形成は(CPP2:20% RGD-Ahx-CPP2:20% PEG-CPP2)、ネイキッドナノ粒子(CPP2)と同じルシフェラーゼ活性低下効果を示した(
図13D)。
【配列表】