(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子、及びその利用
(51)【国際特許分類】
C07D 249/04 20060101AFI20241227BHJP
C07K 11/02 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
C07D249/04 503
C07D249/04 CSP
C07K11/02 ZNA
(21)【出願番号】P 2021508238
(86)(22)【出願日】2020-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2020005760
(87)【国際公開番号】W WO2020195302
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019064519
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110004381
【氏名又は名称】弁理士法人ITOH
(72)【発明者】
【氏名】高津 慶士
(72)【発明者】
【氏名】鹿倉 敏裕
(72)【発明者】
【氏名】石場 優佳
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 達也
(72)【発明者】
【氏名】前田 博文
(72)【発明者】
【氏名】北 寛士
(72)【発明者】
【氏名】北野 光昭
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-526830(JP,A)
【文献】国際公開第2018/089648(WO,A1)
【文献】JAFARI,M.R. et al.,Light-responsive bicyclic peptides,Organic & Biomolecular Chemistry,2018年,Vol.16, No.41,pp.7588-7594,DOI 10.1039/c7ob03178e
【文献】ASSEM,N. et al.,Acetone-linked peptides: A convergent approach for peptide macrocyclization and labeling,Angewandte Chemie International Edition,2015年,Vol.54, No.30,pp.8665-8668,DOI 10.1002/anie.201502607
【文献】WERKHOVEN,P.R. et al.,Versatile convergent synthesis of a three peptide loop containing protein mimic of whooping cough pe,Journal of Peptide Science,2014年,Vol.20, No.4,pp.235-239,DOI 10.1002/psc.2624
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C07K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞膜透過性付与基と、ペプチドを環状化させる環状化基と、を有
する細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子であって、
前記細胞膜透過性付与基と、前記ペプチドを環状化させる環状化基とが、連結基を介して連結しており、
前記細胞膜透過性付与基が樹状構造を有し、前記樹状構造の枝の末端にグアニジノ基が3つ導入されており、
前記ペプチドを環状化させる環状化基が、3,5-ビス(クロロメチル)ベンジル基であり、
下記構造式で表されることを特徴とする細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子。
【化1】
【請求項2】
前記ペプチドを環状化させる環状化基は、前記ペプチドを環状化させる環状化基により環状化されるペプチドに含まれるチオール基、アミノ基、及びヒドロキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の基と反応するものである請求項1に記載の細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子。
【請求項3】
ペプチドと、前記ペプチドに導入された請求項1から2のいずれかに記載の細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子と、を有することを特徴とするペプチド複合体。
【請求項4】
請求項3に記載のペプチド複合体を有することを特徴とするペプチドライブラリ。
【請求項5】
ペプチドに、請求項1から2のいずれかに記載の細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子を導入する工程を含むことを特徴とするペプチド複合体の製造方法。
【請求項6】
前記ペプチドが、ペプチドライブラリに含まれるペプチドである請求項5に記載のペプチド複合体の製造方法。
【請求項7】
請求項4に記載のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を含むことを特徴とする機能性ペプチドのスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子、前記リンカー分子が導入されたペプチド複合体及びその製造方法、前記ペプチド複合体を含むペプチドライブラリ、及び前記ペプチドライブラリを用いた機能性ペプチドのスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々なアミノ酸配列のペプチド(ポリペプチド)ライブラリの中から、特定の疾患に対する治療薬や、標的分子に親和性の高い分子などを選択することが行われるようになっている。
【0003】
前記ペプチドライブラリの作製方法として、例えば、in vitro翻訳系の方法として、ペプチド鎖、mRNA分子、及びリボソームを含むリボソームディスプレイ複合体を用いるリボソームディスプレイ法(RD法)が知られている(例えば、特許文献1参照)。前記RD法は、in vitro翻訳系とmRNAさえあれば、それらを混合するだけで、1012種類以上のペプチドライブラリを数分で作製することができる非常に優れた有用なものである。
【0004】
一方で、抗体などのポリペプチドを機能性分子で化学的に修飾してその機能を拡張した医薬品の開発にも注目が集まっている。例えば、ペプチドは、環状化することで生体内での安定性が向上したり、環状化により構造が安定化することで、標的化合物への親和性や選択性が向上したり、分解酵素に対する耐性や細胞膜透過性が発現したりすることもあることが知られている。
【0005】
また、医薬品の開発においては、タンパク質や核酸などの様々な有効成分を細胞内に効率良く取り込めるようにすることも重要である。
【0006】
有効成分を細胞内に取り込む技術としては、例えば、塩基性アミノ酸を多く含む細胞膜透過ペプチドのアミノ酸配列を融合する方法や、中心から規則的に分枝した構造を有する樹状高分子であるデンドリマーを用いる方法(例えば、特許文献2参照)などが知られている。
【0007】
そのため、環状構造を有するペプチドに細胞膜透過性能を付与した分子は、貴重な創薬シーズとなり得ると考えられ、このようなペプチドを含むペプチドライブラリは、その探索に非常に有用な手段となる。
【0008】
これまでに、前記リボソーム複合体におけるペプチド鎖を簡便、容易に環状化(修飾)する技術として、修飾試薬による修飾を特定の時期に行うことで、RNAとそこから翻訳されたペプチドとを結合するリボソームの接着機能について、本来の機能を失うことなく維持することができることが知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
また、ペプチドの環状化と、細胞膜透過性の付与とを行う技術として、これらを段階的に行った例が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0010】
しかしながら、ペプチドの環状化と、細胞膜透過性の付与とを同時に行うことができる技術は未だ開発されておらず、その速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-271903号公報
【文献】米国特許第7,862,807号明細書
【文献】国際公開第2017/213158号
【非特許文献】
【0012】
【文献】Dr. Naila Assem, David J. Ferreira, Prof.Dr. Dennis W. Wolan, Prof.Dr. Philip E. Dawson、Acetone-Linked Peptides: A Convergent Approach for Peptide Macrocyclization and Labeling、Angewandte Chemie International Edition、2015、54、8665-8668
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、ペプチドの環状化と、ペプチドへの細胞膜透過性の付与とを同時に行うことができる細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子、前記リンカー分子が導入されたペプチド複合体及びその製造方法、前記ペプチド複合体を含むペプチドライブラリ、及び前記ペプチドライブラリを用いた機能性ペプチドのスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、本発明者らは鋭意検討した結果、予想外にも、細胞膜透過性付与基と、ペプチドを環状化させる環状化基とが同一分子内に共存する分子を合成することができることを見出し、この分子を用いることで、ペプチドの環状化と、ペプチドへの細胞膜透過性の付与とを同時に行うことができることを知見した。
【0015】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 細胞膜透過性付与基と、ペプチドを環状化させる環状化基と、を有することを特徴とする細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子である。
<2> ペプチドと、前記ペプチドに導入された前記<1>に記載のリンカー分子とを含むことを特徴とするペプチド複合体である。
<3> 前記<2>に記載のペプチド複合体を含むことを特徴とするペプチドライブラリである。
<4> ペプチドに、前記<1>に記載のリンカー分子を導入する工程を含むことを特徴とするペプチド複合体の製造方法である。
<5> 前記<3>に記載のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を含むことを特徴とする機能性ペプチドのスクリーニング方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、ペプチドの環状化と、ペプチドへの細胞膜透過性の付与とを同時に行うことができる細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子、前記リンカー分子が導入されたペプチド複合体及びその製造方法、前記ペプチド複合体を含むペプチドライブラリ、及び前記ペプチドライブラリを用いた機能性ペプチドのスクリーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施例2においてペプチドPの分取HPLCを行った結果を示す図である。
【
図2】
図2は、実施例2において環状ペプチド(ペプチド複合体G3-DCX-P)の分取HPLCを行った結果を示す図である。
【
図3】
図3は、実施例3におけるリボソームディスプレイ複合体を作製するために用いた鋳型DNAの構造の模式図である。
【
図4】
図4は、実施例4におけるMALDI-TOF MSの測定結果を示す図である。
【
図5】
図5は、実施例5におけるMALDI-TOF MSの測定結果を示す図である。
【
図6】
図6は、実施例6におけるMALDI-TOF MSの測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子)
本発明の細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子(以下、「リンカー分子」と称することがある。)は、細胞膜透過性付与基と、ペプチドを環状化させる環状化基とを少なくとも有し、必要に応じて更に連結基などのその他の構成を有する。
【0019】
前記リンカー分子は、下記一般式(1)で表すことができる。
A-B-C ・・・ 一般式(1)
前記一般式(1)中、「A」は環状化基、「B」は連結基又は単結合、「C」は細胞膜透過性付与基を表す。
【0020】
<環状化基>
前記環状化基は、後述するペプチドにおける反応性アミノ酸残基との反応により、前記ペプチドの環状化に寄与する。
前記反応性アミノ酸残基は、前記環状化基と反応するアミノ酸残基であり、前記環状化基と直接反応するアミノ酸残基であってもよいし、前記環状化基と反応できるように修飾されたアミノ酸残基であってもよい。
前記環状化基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、電子吸引基が好ましい。
【0021】
-電子吸引基-
前記電子吸引基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ハロゲンを有することが好ましい。
【0022】
前記ハロゲンの種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0023】
前記ハロゲンの数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2以上が好ましい。
【0024】
前記電子吸引基は、2以上の塩素原子を有することが好ましく、置換基を有していてもよいベンジルクロリドがより好ましく、3,5-ビス(クロロメチル)ベンジル基が特に好ましい。
【0025】
前記環状化基によるペプチドの環状化は、前記環状化基と、ペプチドに含まれるチオール基、アミノ基、及びヒドロキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の基との反応により行われることが好ましい。
【0026】
<細胞膜透過性付与基>
前記細胞膜透過性付与基は、前記ペプチドに細胞膜透過能を付与する基である。
前記細胞膜透過性付与基は、塩基性官能基を有することが好ましい。
【0027】
前記細胞膜透過性付与基の態様としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、樹状構造を有する態様が好ましい。
前記細胞膜透過性付与基における樹状構造単位の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1つであってもよいし、2以上であってもよい。
前記樹状構造単位1つあたりの枝の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、3以上が好ましい。
前記樹状構造の枝の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
-塩基性官能基-
前記塩基性官能基としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グアニジノ基、アミノ基、イミダゾール基などが挙げられる。これらの中でも、グアニジノ基を有することが好ましい。前記塩基性官能基は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記塩基性官能基の数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2以上が好ましい。
前記塩基性官能基は、2以上のグアニジノ基を有する態様が好ましい。
前記塩基性官能基の前記リンカー分子における位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記樹状構造の枝の末端に位置することが好ましい。
【0029】
前記樹状構造を有する細胞膜透過性付与基の具体例としては、例えば、下記一般式(C)で表されるものなどが挙げられる。
【化1】
前記一般式(C)は、枝の数が3である樹状構造を有する細胞膜透過性付与基を表し、式中「Y」は塩基性官能基を表す。
なお、前記塩基性官能基は、全ての枝の末端に形成されていてもよいし、一部の枝の末端に形成されていてもよい。
また、前記細胞膜透過性付与基は、一般式(C)で表される樹状構造を複数有していてもよく、その場合、枝の数は、例えば、6、9などが挙げられる。
【0030】
<その他の構成>
前記リンカー分子におけるその他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、連結基などが挙げられる。
【0031】
<<連結基>>
前記連結基は、前記細胞膜透過性付与基と、前記環状化基とを連結する基である。
前記連結基の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0032】
前記リンカー分子の具体例としては、以下の構造式で表される化合物などが挙げられる。下記構造式で表されるリンカー分子は、環状化基として、3,5-ビス(クロロメチル)ベンジル基を有し、細胞膜透過性付与基として、樹状構造の末端にグアニジノ基を3つ有し、前記環状化基と前記細胞膜透過性付与基とが、連結基を介して連結している例である。
【化2】
【0033】
<リンカー分子の製造方法>
前記リンカー分子の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、細胞膜透過性付与基前駆体形成工程と、前記細胞膜透過性付与基前駆体に連結基を導入する連結基導入工程と、前記連結基に環状化基前駆体を導入する工程と、前記細胞膜透過性付与基前駆体及び前記環状化基前駆体から細胞膜透過性付与基及び環状化基をそれぞれ形成する工程と、を含む方法などが挙げられる。
前記各工程は、公知の化学合成の技術を適宜選択して行うことができる。
例えば、前記細胞膜透過性付与基前駆体形成工程は、米国特許第7,862,807号明細書などに記載の方法により行うことができる。
【0034】
得られたリンカー分子が所望の構造を有するか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、公知の分析方法を適宜選択することができ、例えば、質量分析法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法、紫外分光法、赤外分光法などの分析方法が挙げられる。
【0035】
本発明のリンカー分子によれば、ペプチドの環状化と、ペプチドへの細胞膜透過性の付与とを1工程で行うことができるので、簡易に短時間でこれらを達成することができる。
【0036】
(ペプチド複合体)
本発明のペプチド複合体は、ペプチドと、前記ペプチドに導入された本発明のリンカー分子とを少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含む。
【0037】
<ペプチド>
前記ペプチドとしては、前記リンカー分子を導入することにより環状化される限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記リンカー分子の導入に利用するアミノ酸残基(以下、「反応性アミノ酸残基」と称することがある。)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、システイン残基、リジン残基、セリン残基、スレオニン残基などが挙げられる。前記反応性アミノ酸残基は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記反応性アミノ酸残基のペプチドにおける数としては、前記ペプチドを環状化する点で、2以上が好ましい。前記反応性アミノ酸残基のペプチドにおける数の上限値としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、反応点が多くなるとペプチドに結合する前記リンカー分子の数や位置が安定せず、アミノ酸配列に由来するペプチドの特性を比較し難くなる場合があるので、10以下が好ましい。
なお、例えば、ペプチド中のシステイン残基がジスルフィド結合により前記ペプチドの高次構造の安定化に関与しているような場合には、別途、上記反応性アミノ酸残基を前記ペプチドに導入することが好ましい。
【0038】
前記反応性アミノ酸残基の前記ペプチドにおける位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0039】
例えば、前記ペプチドとして、mRNA分子、その翻訳物であるペプチド鎖(以下、「ポリペプチド鎖」と称することもある。)、及びリボソームを含むリボソームディスプレイ複合体(以下、「RD複合体」と称することがある。)を用いる場合には、例えば、リボソームの出口トンネル(exit tunnel)から外に出ている部分であり、具体的にはN末端から2番目~C末端から30番目の位置(N末端から2番目の位置及びC末端から30番目の位置を含む)の間とすることが、前記リンカー分子による修飾反応がリボソームにより立体的に阻害され難くなり得る点で、好ましい。
前記C末端からの位置としては、C末端から50番目が好ましく、100番目がより好ましい。
また、前記反応性アミノ酸残基の位置をN末端側から数えた場合、その位置は、ペプチドの鎖長に応じて適宜設定できるが、例えば、N末端から2~1,000番目の位置であり、N末端から2~100番目の位置が好ましく、N末端から2~50番目の位置がより好ましい。
【0040】
前記RD複合体の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができ、例えば、国際公開第2017/213158号に記載の方法などが挙げられる。また、市販のキットを利用して製造することもできる。
【0041】
前記ペプチドのアミノ酸配列としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ペプチドライブラリとして有用であるように、特定の位置にランダム配列を含むものが好ましい。かかるランダム配列の中から、所定の目的に応じて有用なアミノ酸配列を特定し得る。
【0042】
前記ランダム配列の前記ペプチドにおける位置としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記反応性アミノ酸残基の位置と同様に、RD複合体を用いる場合には、N末端から2番目~C末端から30番目の位置(N末端から2番目の位置及びC末端から30番目の位置を含む)の間とすることが好ましい。即ち、反応性アミノ酸残基は、ランダム配列内に含まれることが好ましい。従ってランダム配列の好ましい位置は、反応性アミノ酸残基の好ましい位置と同じ範囲から設定できる。
【0043】
前記ランダム配列の前記ペプチドにおける数は、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。前記ランダム配列の数の上限としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10以下が好ましい。
前記ランダム配列1つあたりのアミノ酸残基数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、1以上、30以下とすることができる。
1つのランダム配列が長くなるほど、またランダム配列の数が多くなるほど、ペプチドライブラリの多様性を高めることができる。
【0044】
前記ペプチドは、更に、FLAG(登録商標)配列やポリHis配列等のポリペプチド鎖の精製のための配列、プロテアーゼなどにより選択的に切断される配列、スペーサー配列などを含んでいてもよい。
【0045】
前記ペプチドのアミノ酸残基数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、10以上、5,000以下とすることができる。
前記ペプチドのアミノ酸残基数の下限値としては、150以上が好ましく、200以上がより好ましい。また、ペプチドのアミノ酸残基数の上限値としては、800以下が好ましく、600以下がより好ましく、500以下が特に好ましい。前記下限値と上限値とは、適宜組み合わせて選択することができる。
【0046】
前記ペプチドの合成方法としては、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。
【0047】
<リンカー分子>
前記リンカー分子は、上記した本発明の細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子である。
前記リンカー分子は、前記リンカー分子における環状化基と、前記ペプチドにおける反応性アミノ酸残基とが反応することにより前記ペプチドに導入される。前記反応の際に、前記環状化基の構造は変化する。
【0048】
<その他の構成>
前記ペプチド複合体におけるその他の構成としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蛍光物質などの発光物質、色素、放射性物質、薬剤、毒素、核酸、アミノ酸、糖類、脂質、各種ポリマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記蛍光物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、フルオレセイン類、ローダミン類、クマリン類、ピレン類、シアニン類などの蛍光色素が挙げられる。
前記その他の構成は、例えば、上記したペプチドに、直接又は連結基などを介して結合させることができる。
【0049】
(ペプチド複合体の製造方法)
本発明のペプチド複合体の製造方法は、ペプチドに、本発明のリンカー分子を導入するリンカー分子導入工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
【0050】
<リンカー分子導入工程>
前記リンカー分子導入工程は、ペプチドに、本発明のリンカー分子を導入する(以下、「結合させる」、「挿入する」、「連結する」と称することもある。)工程である。
前記リンカー分子導入工程により、ペプチドの環状化と、ペプチドへの細胞膜透過性の付与とを同時に行うことができる。
前記リンカー分子導入工程では、反応物中における少なくとも1つのペプチドにリンカー分子が導入されればよいが、全てのペプチドにリンカー分子が導入されることが好ましい。
【0051】
-ペプチド-
前記ペプチドは、上記した(ペプチド複合体)の<ペプチド>の項目に記載したものと同様である。なお、前記ペプチドは、ペプチドライブラリの態様であってもよい。
【0052】
-導入-
前記導入の方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、還元剤の存在下で、前記リンカー分子と、前記ペプチドとを反応させる方法などが挙げられる。
前記還元剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩などが挙げられる。
前記反応の温度、時間等の条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0053】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、分取HPLCを用いたペプチド複合体精製工程などが挙げられる。
【0054】
得られたペプチド複合体が所望の構造を有するか否かを確認する方法としては、特に制限はなく、公知の分析方法を適宜選択することができ、例えば、質量分析法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法、紫外分光法、赤外分光法などの分析方法が挙げられる。
【0055】
(ペプチドライブラリ)
本発明のペプチドライブラリは、本発明のペプチド複合体を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の構成を含む。
前記ペプチドライブラリは、本発明のペプチド複合体のみからなるものであってもよいし、環状化されていないペプチドが含まれていてもよい。
【0056】
前記ペプチドライブラリは、上記した(ペプチド複合体の製造方法)と同様にして、製造することができる。
【0057】
(機能性ペプチドのスクリーニング方法)
本発明の機能性ペプチドのスクリーニング方法は、本発明のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を少なくとも含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記スクリーニングの方法としては、本発明のペプチドライブラリを用いる限り、特に制限はなく、公知の方法を適宜選択することができる。例えば、所望の対象物質と、前記ペプチドライブラリとを混合し、結合したペプチド複合体(例えば、RD複合体)を選択し、前記RD複合体からRNAを解離させ、前記RNAからDNAを調製し、増幅した後、mRNAに転写し、再度RD複合体ライブラリを作製するという工程を繰り返し、前記対象物質に対する親和性を有する機能性ペプチドをスクリーニングする方法などが挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に実施例等を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0059】
(調製例1:ペプチドの合成)
マイクロウェーブを用いた固相合成法により、リンクアミド(Rink Amide)樹脂(0.2mmol/g)上で、以下の配列を有するペプチドを合成した。
FITC-Ahx-Cys-Gly-Ser-Gly-Leu-Ala-Ser-Pro-Asn-Gly-Tyr-Cys-NH2
[上記配列中、「FITC」はフルオレセインイソチオシアネートを表し、「Ahx」は6-アミノヘキサン酸を表す。]
【0060】
前記ペプチドを形成した樹脂を、トリフルオロ酢酸(TFA)/水/トリイソプロピルシラン/3,6-ジオキサ-1,8-オクタンジチオール(92.5/2.5/2.5/2.5(容量比))に3時間浸漬し、前記ペプチドを樹脂から切り出した。
得られたペプチドを逆相HPLCで精製し凍結乾燥することにより、上記配列を有するペプチド(以下、「P」と表すことがある。下記構造式参照。)を取得した。
前記ペプチドPのエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)による同定データは、以下のとおりであった。
ESI-MS C
72H
92N
16O
22O
3 計算値(M+2H+)815.295、測定値814.67
【化3】
【0061】
(実施例1:細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの合成)
<化合物C1の合成>
米国特許第7,862,807号明細書に記載の方法と同様の方法により、下記構造式で表される化合物C1を合成した。
なお、構造式中の「Boc」は、「tert-ブトキシカルボニル基」を表す。
【化4】
【0062】
【0063】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C3を合成した。
具体的には、化合物C1(500mg,0.42mmol)の塩化メチレン溶液(15mL)を0℃に冷却し、化合物C2(東京化成工業株式会社製、製品番号A2293)(117.5mg,0.504mmol)と1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)(85.1mg,0.630mmol)と1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC/HCl)(120mg,0.630mmol)を加えて25℃で17時間撹拌した。ここにH2O(20mL)を加え、塩化メチレンで抽出を行い(30mLで3回)、有機層は1N塩酸(20mLで2回)と飽和重曹水(20mLで2回)と水(20mLで2回)で洗浄した。Na2SO4で乾燥しろ過と濃縮を行い、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー精製(メタノール(MeOH)/CH2Cl2=1/10)することにより、化合物C3を白色固体として取得した(533mg,0.379mmol,収率90%)。
前記化合物C3の1H NMRによる同定データは、以下のとおりであった。
1H NMR(CDCl3): δ 11.4(s, 3H), 8.58(t, 3JHH=6.0Hz, 3H), 7.69(t, 3JHH=5.0Hz, 3H), 6.84(s, 1H), 3.89(s, 2H), 3.71-3.65(m, 22H), 3.56-3.53(m, 6H), 3.42-3.38(m, 8H), 2.43(t, 3JHH=6.0Hz, 6H), 1.49(s, 27H), 1.48(s, 27H)
【0064】
<化合物DBXAの合成>
水素化ナトリウム(132mg,3.02mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(6mL)に懸濁させ0℃に冷却した。ここに2-プロピン-1-オール(0.165mL,2.80mmol)を加え0℃で30分間撹拌した。1,3,5-トリス(ブロモメチル)ベンゼン(1.00g,2.80mmol)を加え25℃で20時間撹拌した。酢酸エチル(100mL)を加えてから水(100mL)と飽和食塩水(100mL)で洗浄し、有機層を硫酸マグネシウムで洗浄した。ろ過と濃縮を行い得られた残渣を分取薄層クロマトグラフィー(PTLC)で精製し(塩化メチレン/ヘキサン=1/2)、下記構造式で表される化合物DBXA(416.6mg,1.25mmol,収率45%)を淡黄色油状物として取得した。
前記化合物DBXAの1H NMRによる同定データは、以下のとおりであった。
1H NMR(CDCl
3): δ 7.29(s, 1H), 7.26(s, 2H), 4.53(s, 2H), 4.40(s, 4H), 4.15(
4J
HH=2.5Hz, 2H), 2.43(
4J
HH=2.0Hz, 1H)
【化6】
【0065】
【0066】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される化合物C4を合成した。
具体的には、化合物C3(533mg, 0.379mmol)と化合物DBXA(188mg, 0.568mmol)とTHF(40mL)からなる溶液に窒素ガスバブリングを行い、窒素雰囲気下とした。ここに、硫酸銅水溶液(200mM; 1.89mL,0.379mmol)とアスコルビン酸ナトリウム水溶液(100mM; 7.58mL,0.758mmol)を加え、25℃で3時間撹拌した。反応液に水を加え塩化メチレンで抽出を行い(20mLで3回)、有機層をNa2SO4で乾燥しろ過と濃縮を行い、得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー精製(MeOH/CH2Cl2=1/20)することにより、化合物C4を白色固体として取得した(497mg,0.286mmol,収率76%)。
前記化合物C4の1H NMRによる同定データは、以下のとおりであった。
1H NMR(CDCl3): δ 8.58(t, 3JHH=5.5Hz, 3H), 7.77(s, 1H), 7.74(t, 3JHH=5.0Hz, 3H), 7.34(s, 1H), 7.32(s, 2H), 6.82(s, 1H), 4.69(s, 2H), 4.58(s, 2H), 4.56(t, 3JHH=5.0Hz, 2H), 4.47(s, 4H), 3.89(t, 3JHH=5.0Hz, 2H), 3.87(s, 2H), 3.69(t, 3JHH=6.0Hz, 6H), 3.66(s, 6H), 3.61(s, 8H), 3.56-3.52(m, 6H), 3.41-3.38(m, 6H), 2.42(t, 3JHH=6.0Hz, 6H), 1.49(s, 27H), 1.48(s, 27H)
【0067】
<細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの合成>
【化8】
【0068】
上記反応式のようにして、上記構造式で表される細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを合成した。
具体的には、化合物C4(497mg,0.286mmol)と4N塩酸ジオキサン溶液(30mL)を混合し、25℃で46時間撹拌した。反応後、白色固体が析出した。上清を除去し、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCX粗生成物を取得した。分取HPLC(high performance liquid chromatography)で精製し、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを白色固体として取得した(116mg, 0.110mmol, 収率54%)。
前記化合物G3-DCXのマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間質量分析(MALDI-TOF MS)による同定データは、以下のとおりであった。
MALDI-TOF MS C24H51N14O8 計算値(M+H+)1047.502、測定値1047.953
【0069】
(実施例2:ペプチド複合体G3-DCX-Pの合成)
【化9】
【0070】
上記反応式のようにして、上記構造式で表されるペプチド複合体G3-DCX-Pを合成した。
具体的には、調製例1で合成したペプチドP(4.8mg,3.0μmol)を50mM重炭酸アンモニウム緩衝液(1.0mL)に溶解し、トリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(0.94mg,3.3μmol)を加えて25℃で1時間撹拌した。ここに、実施例1で合成した細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCX(4.7mg,4.5μmol)と水(500μL)からなる溶液を加え、25℃で20時間撹拌した。反応液を分取HPLCで精製することにより、環状ペプチド(ペプチド複合体G3-DCX-P)を取得した(1.01mg,0.388μmol,収率13%)。
前記分取HPLCの分析条件は下記の通りである。前記調製例1で合成したペプチドPの分析チャートを
図1に、前記環状ペプチド(ペプチド複合体G3-DCX-P)の分析チャートを
図2に示す。
[分析条件]
・ カラム : SUPELCO C18 4.7mm×250mm
・ 検出波長 : 220nm
・ 流速 : 1.0mL/分間
・ 溶媒 : A=0.1%TFA含有水溶液、B=0.1%TFA含有アセトニトリル溶液
・ グラジエント : 溶媒Bの濃度(%)=0%→100%(0分→20分)
また、前記ペプチド複合体G3-DCX-PのMALDI-TOF MSによる同定データは、以下のとおりであった。
MALDI-TOF MS C
114H
163N
32O
33O
3 計算値(M+H+)2604.12、測定値2603.575
【0071】
(試験例1:細胞膜透過能評価)
HeLa細胞(Human cervix adenocarcinoma cell)を、調製例1で合成したペプチド又は実施例2で合成したペプチド複合体2μMを含む細胞培養液中、5%(v/v)CO2、37℃の条件下で2時間培養した。HeLa細胞の培養には、FluoroBrite D-MEM(ThermoFisher社製)(10%(v/v)FCS(ウシ胎児血清)、10%(v/v)GlutaMax(ThermoFisher社製)添加)を用いた。
次いで、D-PBS(-)(ヘパリン(20units/mL)添加)で細胞表面を洗浄後、細胞を回収し、D-PBS(-)(0.5%(v/v)BSA(ウシ血清アルブミン)、200mM EDTA(エチレンジアミン四酢酸)、0.2%(v/v)ヨウ化プロピジウム(Sigma-Aldrich社製)添加)に懸濁させ、フローサイトメーター(BD FACS AriaIII)を用いて蛍光強度を測定した。フローサイトメトリー解析時には、ヨウ化プロピジウム陽性の死細胞を除いた生細胞集団に対し、蛍光強度最頻値を算出した。結果を表1に示す。
【0072】
【0073】
表1に示されるとおり、培養2時間後において、調製例1で合成したペプチドはほぼ膜透過しないのに対し、実施例2で合成したペプチド複合体は膜透過していた。このことから、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXをペプチドに導入することにより、ペプチドの環化と同時に細胞膜透過性を獲得したことが実証された。
【0074】
(実施例3:細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXで環化されたペプチドを有するペプチド複合体を含むペプチドライブラリの作製)
<(1)RNAライブラリの作製>
本(1)項では、NNK法によるランダムな塩基配列(NNK)10[式中、NはA、U、G又はCを示し、KはG又はUを示し、NNKはすべてのコドンに対応する]を含むRNAで構成される1012以上の多様性を有するRNAライブラリの作製法について説明する。
【0075】
このRNAライブラリ作製の為に、鋳型DNA(塩基配列:配列番号1、アミノ酸配列:配列番号2)を用いた。具体的には、表2-1に示す組成を有する反応液を用い、表2-2のPCRサイクルでプラスミドを鋳型DNAとして5’フラグメントを調製した。表2-1中、5FragF_150409はフォワードプライマー(配列番号4)であり、Ma5frag_withoutHis_R150310はリバースプライマー(配列番号5)である。
【0076】
【0077】
【0078】
次に、表2-3に示す組成を有する反応液を用い、表2-4のPCRサイクルで鋳型DNAの3’フラグメントを調製した。表2-3中、A1MaNNK10_withoutHis_150531はフォワードプライマー(配列番号6)であり、3FragR_150409はリバースプライマー(配列番号7)である。
【0079】
【0080】
【0081】
次に、表2-5に示す組成を有する反応液を用い、表2-6のPCRサイクルでオーバーラップエクステンション(Overlap Extension)PCRを行い、上記5’フラグメントと3’フラグメントを連結し、全長を増幅して鋳型DNAを得た。なお、表2-5中、X~Zは、1×1012の5’フラグメントと3’フラグメントを用い、反応液にH2Oを加えて総量を60μLに調整したことを示す。また、5FFnew_150409はフォワードプライマー(配列番号8)であり、3F-Rnew_150409はリバースプライマー(配列番号9)である。
【0082】
【0083】
【0084】
得られた上記DNAを鋳型とし、表2-7に示す組成を有する反応液を用い、37℃で2時間反応させることにより、配列番号3の塩基配列を有する10
12以上のmRNAを含むRNAライブラリを得た。このライブラリに含まれるmRNAは、
図3に示す様に5’側から順にFLAG(登録商標)サイト、システイン、ランダム配列、システイン、TEVプロテアーゼサイト、スペーサー配列を有しており、終止コドンを有さない。
【0085】
【0086】
<(2)リボソームディスプレイ(RD)複合体ライブラリの作製>
RD複合体は、再構成型無細胞タンパク質合成キット(ジーンフロンティア社製「PURE frex(登録商標)」)を用い、上記のRNAライブラリを使用して調製した。
このRD複合体反応液と、抗FLAG(登録商標)M2抗体結合アガロースビーズ(Sigma-Aldrich社製,20μL)を混合し、4℃で60分間攪拌した。ペプチド部分にFLAG配列を有するRD複合体が選択的に結合した抗FLAG M2抗体結合アガロースビーズを回収した。
【0087】
<(3)細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを導入したリボソームディスプレイ複合体ライブラリの作製>
上記(2)で回収したアガロースビーズを80μLに希釈した後、還元剤として10mMトリス(2-カルボキシエチル)ホスフィン塩酸塩(4μL)(終濃度0.5mM)と、200mM G3-DCX(実施例1で合成した細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子)(0.8μL)(終濃度2mM)を添加し、4℃で終夜環化反応させた。環化反応後、FLAGペプチドを添加することにより、RD複合体をアガロースビーズから溶出させ、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを導入したリボソームディスプレイ複合体ライブラリを得た。
【0088】
(実施例4:細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXで環化されたペプチドを有するペプチド複合体を含むRD複合体の作製)
<RNAの作製>
実施例3で作製したmRNAにおけるランダム配列(
図3において、システイン残基(C)の間に位置する「(NNK)
10」の部分)をアミノ酸配列「LYRSLPAWRYL」をコードする塩基配列とした以外は、実施例3と同様にして、mRNAを作製した。
【0089】
<RD複合体の作製>
前記<RNAの作製>で作製したmRNAを用いた以外は、実施例3と同様にして、RD複合体を作製した。
【0090】
<細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを導入したリボソームディスプレイ複合体の作製>
前記<RD複合体の作製>で作製したRD複合体を用いた以外は、実施例3と同様にして、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを導入したRD複合体を得た。
【0091】
前記RD複合体を含む反応液からアガロースビーズを分離除去し、Mg
2+を含まないリン酸緩衝生理食塩水(pH7.5、100μL)を加えてRD複合体を解離させ、得られたペプチドをTEVプロテアーゼで切断し、ペプチド断片を得た。
また、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行わなかったRD複合体についても同様にして、ペプチド断片を得た。
得られたペプチドの分子量をMALDI-TOF MSで測定した結果を
図4に示す。
図4中、上段は細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行わなかった場合に得られたペプチド断片の測定結果を示し、下段は細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行った場合に得られたペプチド断片の測定結果を示す。
図4に示されるように、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行うことで、環状化されたペプチド(
図4中の黒の矢印)が得られることが確認された。なお、
図4中の白抜きの矢印は環状化されていないペプチドを示す。
【0092】
(実施例5:細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXで環化されたペプチドを有するペプチド複合体を含むRD複合体の作製)
実施例4におけるアミノ酸配列の「LYRSLPAWRYL」を「PLFPWPSLWHR」に変えた以外は、実施例4と同様にして、mRNA、RD複合体、及び細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを導入したリボソームディスプレイ複合体を作製した。
また、実施例4と同様にして、得られたRD複合体からペプチド断片を取得し、その分子量をMALDI-TOF MSで測定した。結果を
図5に示す。
図5中、上段は細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行わなかった場合に得られたペプチド断片の測定結果を示し、下段は細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行った場合に得られたペプチド断片の測定結果を示す。
図5に示されるように、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行うことで、環状化されたペプチド(
図5中の黒の矢印)が得られることが確認された。なお、
図5中の白抜きの矢印は環状化されていないペプチドを示す。
【0093】
(実施例6:細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXで環化されたペプチドを有するペプチド複合体を含むRD複合体の作製)
実施例4におけるアミノ酸配列の「LYRSLPAWRYL」を「AGRWNVLWRTYTYMH」に変えた以外は、実施例4と同様にして、mRNA、RD複合体、及び細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXを導入したリボソームディスプレイ複合体を作製した。
また、実施例4と同様にして、得られたRD複合体からペプチド断片を取得し、その分子量をMALDI-TOF MSで測定した。結果を
図6に示す。
図6中、上段は細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行わなかった場合に得られたペプチド断片の測定結果を示し、下段は細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行った場合に得られたペプチド断片の測定結果を示す。
図6に示されるように、細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子G3-DCXの導入を行うことで、環状化されたペプチド(
図6中の黒の矢印)が得られることが確認された。なお、
図6中の白抜きの矢印は環状化されていないペプチドを示す。
【0094】
実施例4~6に示したように、ペプチドの長さやペプチドを構成するアミノ酸が異なる場合でも、環状化反応が進行することを確認した。
【0095】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 細胞膜透過性付与基と、ペプチドを環状化させる環状化基と、を有することを特徴とする細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子である。
<2> 前記細胞膜透過性付与基が、塩基性官能基を有する前記<1>に記載のリンカー分子である。
<3> 前記塩基性官能基が、グアニジノ基を有する前記<2>に記載のリンカー分子である。
<4> 前記塩基性官能基が、2以上のグアニジノ基を有する前記<3>に記載のリンカー分子である。
<5> 前記細胞膜透過性付与基が樹状構造を有し、前記塩基性官能基が前記樹状構造の枝の末端に導入されている前記<2>から<4>のいずれかに記載のリンカー分子である。
<6> 前記環状化基が、電子吸引基である前記<1>から<5>のいずれかに記載のリンカー分子である。
<7> 前記電子吸引基が、ハロゲンを有する前記<6>に記載のリンカー分子である。
<8> 前記電子吸引基が、2以上のハロゲンを有する前記<7>に記載のリンカー分子である。
<9> 前記電子吸引基が、2以上の塩素原子を有する前記<8>に記載のリンカー分子である。
<10> 前記電子吸引基が、置換基を有していてもよいベンジルクロリドである前記<9>に記載のリンカー分子である。
<11> 前記電子吸引基が、3,5-ビス(クロロメチル)ベンジル基である前記<10>に記載のリンカー分子である。
<12> 前記環状化基によるペプチドの環状化が、前記環状化基と、ペプチドに含まれるチオール基、アミノ基、及びヒドロキシ基からなる群から選択される少なくとも1種の基との反応により行われる前記<1>から<11>のいずれかに記載のリンカー分子である。
<13> 下記構造式で表されることを特徴とする細胞膜透過性環状ペプチド作製用リンカー分子である。
【化10】
<14> ペプチドと、前記ペプチドに導入された前記<1>から<13>のいずれかに記載のリンカー分子とを含むことを特徴とするペプチド複合体である。
<15> 前記<14>に記載のペプチド複合体を含むことを特徴とするペプチドライブラリである。
<16> ペプチドに、前記<1>から<13>のいずれかに記載のリンカー分子を導入する工程を含むことを特徴とするペプチド複合体の製造方法である。
<17> 前記ペプチドが、ペプチドライブラリに含まれるペプチドである前記<16>に記載のペプチド複合体の製造方法である。
<18> 前記<15>に記載のペプチドライブラリを用いて機能性ペプチドをスクリーニングする工程を含むことを特徴とする機能性ペプチドのスクリーニング方法である。
【配列表】