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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】歯科修復用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/889 20200101AFI20241227BHJP
   A61K 6/60 20200101ALI20241227BHJP
   A61K 6/62 20200101ALI20241227BHJP
   A61K 6/64 20200101ALI20241227BHJP
   A61K 6/71 20200101ALI20241227BHJP
【FI】
A61K6/889
A61K6/60
A61K6/62
A61K6/64
A61K6/71
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2021516214
(86)(22)【出願日】2020-04-23
(86)【国際出願番号】 JP2020017553
(87)【国際公開番号】W WO2020218446
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019082971
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019233578
(32)【優先日】2019-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】井上 将史
(72)【発明者】
【氏名】市川 聖也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 憲司
(72)【発明者】
【氏名】宮川 駿人
(72)【発明者】
【氏名】梶川 達也
(72)【発明者】
【氏名】堀口 広敬
【審査官】原口 美和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0224591(US,A1)
【文献】国際公開第2018/230657(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/074605(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0049326(US,A1)
【文献】特開平01-113478(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/889
A61K 6/60
A61K 6/62
A61K 6/64
A61K 6/71
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、平均一次粒子径が0.01~5μmの無機充填材(C)、及び重合開始剤(D)を含有し、前記モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、下記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)
【化1】
[式中、R2は独立して下記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、Xは酸素原子である。
【化2】
【化3】
(式中、R3及びR5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、R4及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数である。)]
を含む、歯科修復用硬化性組成物。
【請求項2】
無機充填材(C)の含有量が、歯科修復用硬化性組成物の全量に対して、50~95質量%である、請求項1に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項3】
k及びlが0又は1である、請求項1又は2に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項4】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が環状構造を有する化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項5】
前記環状構造を有する化合物が芳香環を有する化合物(A-1)である、請求項4に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項6】
前記芳香環を有する化合物(A-1)がビスフェノールA骨格を有する化合物である、請求項5に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項7】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)がヒドロキシ基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、アミド基、ウレア結合、及びウレタン結合を有しない化合物を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項8】
窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物を実質的に含まない、請求項1~7のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項9】
重合開始剤(D)が光重合開始剤を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項10】
重合開始剤(D)が加熱重合開始剤を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項11】
さらにポリマーを含有する、請求項1~10のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項12】
前記ポリマーが未反応の重合性官能基を有するプレポリマーである、請求項11に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項13】
前記プレポリマーが有する1分子当たりの未反応の重合性官能基の数が、5個以上1,000個以下である、請求項12に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項14】
前記プレポリマーの重量平均分子量が1,000以上1,000,000以下である、請求項12又は13に記載の歯科修復用硬化性組成物。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物からなる、歯科用コンポジットレジン。
【請求項16】
請求項1~14のいずれか一項に記載の歯科修復用硬化性組成物からなる、歯科用ミルブランク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科材料、特に歯科用コンポジットレジンとして好適に使用される歯科修復用硬化性組成物、及びその歯科修復用硬化性組成物の硬化物からなる、歯科用ミルブランクに関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体、フィラー及び重合開始剤から構成される歯科修復用硬化性組成物は、歯科用コンポジットレジンと呼ばれ、歯の欠損部や齲蝕を修復するための材料として今日最も多用される歯科材料となっている。歯科用コンポジットレジンは、重合硬化後の硬化物において、天然歯と置換可能な十分な機械的強度、長期の口腔内修復に耐え得る耐水性、天然歯と同等の光沢を得るための研磨性が要求され、重合硬化前のペースト状態では、歯科用インスツルメント等を用いて窩洞への充填操作をするのに適した操作性があることが要求される。
【0003】
一方で、歯科用ミルブランクは、コンピューターによって設計し、ミリング装置により切削加工して作製するCAD/CAMシステムによるインレー、クラウン等の歯科用補綴物の作製に使用される材料であり、近年需要が急増している。歯科用ミルブランクとしては、適当な大きさを有する直方体、円柱、ディスク等の形状のブロック体が供給され、これを切削加工機にセットして削り出すことで歯冠形状や歯列形状の修復物を得る。歯科用ミルブランクの素材としては、ガラスセラミックス、ジルコニア、チタン、アクリル樹脂、ポリマー樹脂と無機充填材を含む複合材料等、種々の材料が提案されている。歯科用ミルブランクもまた、天然歯と置換可能な十分な機械的強度、長期の口腔内修復に耐え得る耐水性、天然歯と同等の光沢を得るための研磨性が要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-126417号公報
【文献】特開2016-8211号公報
【文献】国際公開第2014/021343号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
優れたペーストの操作性及び高い硬化性を実現するために、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基及び芳香環を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物の混合物であって、水酸基含有体と水酸基非含有体とを組合せる技術が提案されている(特許文献1)。しかしながら、本発明者らが検討した結果、研磨性を実現するために微粒子を配合したところペーストの操作性が悪くなり、機械的強度及び耐水性が低いという課題があった。
【0006】
また、優れたペーストの操作性及び硬化後の高い機械的強度、研磨性を実現するために、モノ(メタ)アクリルアミド化合物と(メタ)アクリル酸エステル化合物とを組合せる技術が提案されている(特許文献2)。しかしながら、本発明者らが検討した結果、この技術では機械的強度が低く、やはり耐水性が低いという課題があった。
【0007】
歯科用ミルブランクとしては、例えば、機械的強度及び研磨性を実現するために、無機充填材をプレス成形して成形体を得た後、該成形体に重合性単量体を浸漬して加熱重合する、歯科用ミルブランクの製造方法が記載されている(特許文献3)。この製造方法により、ナノ粒子を高密度に充填することが可能となり、機械的強度及び研磨性に優れた歯科用ミルブランクを得ることができる。しかしながら、本発明者らが検討した結果、高い機械的強度を出すために高い機械的強度を硬化後に示す重合性単量体を使用した場合、重合性単量体の粘度が高く該成形体に浸透しないという問題があった。また、耐水性については言及されておらず改善の余地があった。
【0008】
本発明は、従来技術が抱える上記の課題を解決すべくなされたものであって、硬化物が高い機械的強度を有し、耐水性及び研磨性に優れる歯科修復用硬化性組成物、該歯科修復用硬化性組成物からなる歯科用コンポジットレジン、及び該歯科修復用硬化性組成物の硬化物からなる歯科用ミルブランクを提供することを目的とする。また、本発明は、ペーストの操作性に優れる歯科修復用硬化性組成物及び該歯科修復用硬化性組成物からなる歯科用コンポジットレジンを提供することを目的とする。さらに、本発明は、硬化物に発生する気泡を抑制することができ、外観に優れる歯科用ミルブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、特定のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物、平均一次粒子径が0.01~5μmの無機充填材、及び重合開始剤を含むことで、驚くべきことに、硬化物が高い機械的強度、耐水性及び研磨性を有し、かつ硬化前のペースト性状に優れる歯科修復用硬化性組成物となることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
[1]1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)、平均一次粒子径が0.01~5μmの無機充填材(C)、及び重合開始剤(D)を含有し、前記モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、下記一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)、及び下記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)
【化1】
【化2】
[式中、R1及びR2はそれぞれ独立して下記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子である。
【化3】
【化4】
(式中、R3及びR5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基であり、R4及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数である。)]
からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、歯科修復用硬化性組成物。
[2]無機充填材(C)の含有量が、歯科修復用硬化性組成物の全量に対して、50~95質量%である、[1]の歯科修復用硬化性組成物。
[3]モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含む、[1]又は[2]の歯科修復用硬化性組成物。
[4]Xが酸素原子である、[3]の歯科修復用硬化性組成物。
[5]k及びlが0又は1である、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物。
[6](メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が環状構造を有する化合物を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物。
[7]前記環状構造を有する化合物が芳香環を有する化合物(A-1)である、[6]に記載の歯科修復用硬化性組成物。
[8]前記芳香環を有する化合物(A-1)がビスフェノールA骨格を有する化合物である、[7]の歯科修復用硬化性組成物。
[9](メタ)アクリル酸エステル化合物(A)がヒドロキシ基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、アミド基、ウレア結合、及びウレタン結合を有しない化合物を含む、[1]~[8]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物。
[10]窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物を実質的に含まない、[1]~[9]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物。
[11]重合開始剤(D)が光重合開始剤を含む、[1]~[10]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物。
[12]重合開始剤(D)が加熱重合開始剤を含む、[1]~[11]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物。
[13]さらにポリマーを含有する、[1]~[12]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物。
[14]前記ポリマーが未反応の重合性官能基を有するプレポリマーである、[13]に記載の歯科修復用硬化性組成物。
[15]前記プレポリマーが有する1分子当たりの未反応の重合性官能基の数が、5個以上1,000個以下である、[14]に記載の歯科修復用硬化性組成物。
[16]前記プレポリマーの重量平均分子量が1,000以上1,000,000以下である、[14]又は[15]に記載の歯科修復用硬化性組成物。
[17][1]~[16]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物からなる、歯科用コンポジットレジン。
[18][1]~[16]のいずれかに記載の歯科修復用硬化性組成物からなる、歯科用ミルブランク。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯科修復用硬化性組成物は、硬化物が高い機械的強度を有し、耐水性及び研磨性に優れる。また、本発明の歯科修復用硬化性組成物は、ペーストの操作性に優れる。さらに、本発明の歯科修復用硬化性組成物は、硬化物に発生する気泡を抑制することができ、外観に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の歯科修復用硬化性組成物は、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)と、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と、平均一次粒子径が0.01~5μmの無機充填材(C)と、重合開始剤(D)と、を含有する。前記モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、上記の一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)及び上記の一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが重要である。
【0013】
前記構成により本発明の効果が得られる理由は必ずしも明確ではないが、本発明者らは以下のように推察している。歯科材料に求められる研磨性を実現するために微粒子を配合することが知られているが、前記微粒子と重合性単量体とを混合した歯科修復用硬化性組成物は、粘度が高く、ベタつき易いという問題、すなわち、歯科用インスツルメントにより窩洞へ充填する際に、インスツルメントに歯科修復用硬化性組成物が付着してしまい操作性が悪いという問題がある。一方で、操作性を改善するために低粘度の重合性単量体を用いられることがあるが、得られる硬化物の機械的強度が低くなる傾向にある。上記一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)、及び上記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)を用いることで粘度を低く抑えることができ、得られる歯科修復用硬化性組成物の操作性が向上しながら、かつ、硬化物が高い機械的強度を示した。機械的強度を向上する要因としては、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)中に含まれる芳香環のπ-π相互作用によって、重合後の高分子鎖間の相互作用が強固になり硬化物の機械的強度が向上するものと推察される。また、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)を用いることで粘度を低く抑えることができ、硬化物における気泡の発生を抑制できる。
【0014】
以下、本発明について詳細を説明する。なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。また、本明細書において、式中の各記号の数値も、適宜組み合わせ可能である。
【0015】
[1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)]
1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、本発明の歯科修復用硬化性組成物において、歯科修復用硬化性組成物の硬化物に、耐水性及び機械的強度を付与するために用いられる。本発明における1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)(以下、「(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)」ということがある。)は、本発明の効果を奏し、歯科用コンポジットレジン等に使用される公知の(メタ)アクリル酸エステル化合物であれば特に限定されないが、硬化後の機械的強度を向上させるために、剛直な骨格である環状構造を有する化合物を含むことが好ましい。環状構造を有する化合物としては、芳香環を有する化合物(A-1)、脂環を有する化合物(A-2)、複素環を有する化合物(A-3)が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)(例えば、芳香環を有する化合物(A-1)、脂環を有する化合物(A-2)、及び複素環を有する化合物(A-3))は、1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する限り、2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基以外の1つ以上の他の重合性官能基を有する多官能性重合性化合物であってもよく、1分子中に2つの(メタ)アクリロイルオキシ基のみを有する2官能性重合性化合物であってもよい。本発明において、(メタ)アクリロイルオキシ基と、他の重合性官能基を合わせて「重合性官能基」と総称する。(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が有する重合性官能基としては、後述するプレポリマーと同様のものが例示され、(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。以下、例えば、複素環を有する化合物(A-3)を「複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物(A-3)」等ともいう。ある好適な実施形態としては、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)が有する重合性官能基は(メタ)アクリロイルオキシ基のみである歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。他の好適な実施形態では、芳香環を有する化合物(A-1)又は脂環を有する化合物(A-2)が有する重合性官能基は(メタ)アクリロイルオキシ基のみである歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。
【0016】
さらに、後述のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)とπ-π相互作用することで硬化後の機械的強度をより向上できる点で、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、芳香環を有する化合物(A-1)を含むことがより好ましく、ビスフェノールA骨格を有する化合物を含むことがさらに好ましい。なお、本発明において「(メタ)アクリル」との表記は、メタクリルとアクリルの両者を包含する意味で用いられる。「(メタ)アクリロイル」等の表現も同様である。
【0017】
本発明における(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)の例を以下に示す。
【0018】
芳香環を有する化合物(A-1)の芳香環としては、例えば、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ベンゾフェノン、フェニルエーテル、ビスフェノールA等が挙げられ、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)と組み合わせることで硬化物の機械的強度及び耐水性がより優れる点から、ビスフェノールAが好ましい。芳香環を有する化合物(A-1)としては、例えば、2,2-ビス[4-〔3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス[4-〔2-(アクリロイルオキシ)エトキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-〔2-(メタクリロイルオキシ)エトキシ〕フェニル]プロパン(通称「Bis-MEPP」)、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(例えば、エトキシ基の平均付加モル数2.6のもの)、1,2-ビス〔3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシフェニル〕エタン、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン等が挙げられる。これらの中でも、ビスフェノールA骨格を有する2,2-ビス[4-〔3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2-ビス〔4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(エトキシ基の平均付加モル数2.6のもの(通称「D2.6E」))が硬化後の機械的強度の観点からより好ましい。
【0019】
脂環を有する化合物(A-2)の脂環としては、例えば、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、ジシクロデカン、トリシクロデカン、アダマンタン、イソボルニル等が挙げられる。脂環を有する化合物(A-2)としては、例えば、1,4-シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート及びアダマンチルジ(メタ)アクリレート、アダマンチルトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0020】
複素環を有する化合物(A-3)の複素環としては、例えば、トリアジン、カルバゾール、ピロジリン、ピペリジン等のヘテロ原子として窒素原子のみを含む複素環;テトラヒドロフラン、オキサン、ジオキサン、ジオキソラン等のヘテロ原子として酸素原子のみを含む複素環;モルホリン等のヘテロ原子として酸素原子と窒素原子を含む複素環;テトラヒドロチオフェン、テトラヒドロチオピラン等のヘテロ原子として硫黄原子のみを含む複素環、チアジン、チアゾール等のヘテロ原子として硫黄原子と窒素原子を含む複素環等が挙げられる。複素環を有する化合物(A-3)としては、例えば、エトキシ化イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、ε-カプロラクトン変性トリス(2-(メタ)アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート、ヒドロキシピバルアルデヒド変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。ある好適な実施形態としては、複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物(A-3)を実質的に含まない、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。他の好適な実施形態としては、窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物を実質的に含まない、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。窒素原子を含む複素環は、前記ヘテロ原子として窒素原子のみを含む複素環、ヘテロ原子として酸素原子と窒素原子を含む複素環、ヘテロ原子として硫黄原子と窒素原子を含む複素環を含む。「窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物を実質的に含まない」とは、窒素原子を含む複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物の含有量が、歯科修復用硬化性組成物において0.1質量%未満であり、好ましくは0.05質量%未満であり、より好ましくは、0.01質量%未満であり、さらに好ましくは0質量%未満であることを意味する。「複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物(A-3)を実質的に含まない」も同様の量で、複素環を有し、かつ重合性官能基を有する化合物(A-3)を含まないことを意味する。
【0021】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)は、水素結合を介した吸水による機械的強度の低下を抑制でき、より高い耐水性を有する点から、水素結合部位を有しない化合物を含むことが好ましい。(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)としては、具体的には、ヒドロキシ基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、アミド基、ウレア結合、及びウレタン結合を有する化合物を含むことが好ましく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、アミド基、ウレア結合、及びウレタン結合を有さず、かつ、環状構造を有する化合物を含むことがより好ましく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、アミド基、ウレア結合、及びウレタン結合を有さず、かつ、芳香環を有する化合物を含むことがさらに好ましく、ヒドロキシ基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、アミド基、ウレア結合、及びウレタン結合を有さず、かつ、ビスフェノールA骨格を有する化合物を含むことが特に好ましい。ある好適な実施形態としては、芳香環を有する化合物(A-1)が、ヒドロキシ基、カルボキシ基、1級アミノ基、2級アミノ基、アミド基、ウレア結合、及びウレタン結合を有さず、かつ、芳香環を有する化合物を含む、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。
【0022】
(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)の重量平均分子量(Mw)は、ペーストの操作性及び硬化後の機械的強度の観点から、500~50000が好ましく、750~30000がより好ましく、1000~15000がさらに好ましい。
【0023】
本発明の歯科修復用硬化性組成物における(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量に対して、10~99質量%であることが好ましく、機械的強度、耐水性、及びペーストの操作性により優れる点から、30~95質量%であることがより好ましく、50~90質量%であることがさらに好ましい。
【0024】
[モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)]
モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、本発明の歯科修復用硬化性組成物において、歯科修復用硬化性組成物を低粘度化でき、優れたペーストの操作性を付与し、硬化物に高い機械的強度及び耐水性を付与するために用いられる。モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、上記一般式(I)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)(以下、「モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)」ということがある。)、及び上記一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)(以下、「モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)」ということがある。)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいればよい。以下、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)について説明する。モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)は、上記一般式(I)で表される骨格、及び上記一般式(II)で表される骨格が剛直かつ疎水性を示すため、得られる歯科修復用硬化性組成物の硬化物は吸水性が低く機械的強度の低下を抑制することができる。
【0025】
式(I)の各記号について説明する。式(I)中、R1は上記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、得られる歯科修復用硬化性組成物が硬化性に優れる点から、式(i)又は(ii)中、R4及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。R3及びR5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基である。前記炭化水素基としては、得られる歯科修復用硬化性組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。前記炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基;炭素数3~10のシクロアルキレン基;フェニレン基が挙げられる。k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数であり、得られる歯科修復用硬化性組成物の粘度が低く、硬化物における気泡の発生を抑制でき、硬化性に優れる点から、kは0~4が好ましく、0~3がより好ましく、0~2がさらに好ましく、0又は1が特に好ましい。また、lは0~4が好ましく、0~2がより好ましく、0又は1がさらに好ましい。
【0026】
モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-1)の例としては、o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、メトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-m-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、ブトキシ化-p-フェニルフェノール(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる歯科修復用硬化性組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点で、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、プロポキシ化-p-フェニルフェノールアクリレートがより好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-p-フェニルフェノールアクリレートがさらに好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレート、エトキシ化-m-フェニルフェノールアクリレートが特に好ましく、エトキシ化-o-フェニルフェノールアクリレートが最も好ましい。
【0027】
式(II)の各記号について説明する。式(II)中、Xは炭素数1~6の二価の炭化水素基又は酸素原子であり、得られる歯科修復用硬化性組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、酸素原子が好ましい。また、R2は上記一般式(i)で表される基又は一般式(ii)で表される基であり、得られる歯科修復用硬化性組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、式(i)又は(ii)中、R4及びR6はそれぞれ独立して水素原子又はメチル基である。R3及びR5はそれぞれ独立して炭素数1~10の二価の炭化水素基である。前記炭化水素基としては、得られる歯科修復用硬化性組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、炭素数1~6が好ましく、炭素数1~4がより好ましく、炭素数1~3がさらに好ましい。前記炭化水素基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~10のアルキレン基;炭素数3~10のシクロアルキレン基;フェニレン基が挙げられる。k及びlはそれぞれ独立して0~6の整数であり、得られる歯科修復用硬化性組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点から、kは0~4が好ましく、0~3がより好ましく、0~2がさらに好ましく、0又は1が特に好ましい。また、lは0~4が好ましく、0~2がより好ましく、0又は1がさらに好ましい。ある好適な実施形態としては、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含む、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。他のある好適な実施形態としては、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含み、Xが酸素原子であり、R2は一般式(i)で表される基である、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。さらに、他のある好適な実施形態としては、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)が、一般式(II)で表されるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)を含み、Xが酸素原子であり、R2は一般式(i)で表される基であり、kが0又は1である、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。
【0028】
モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B-2)の例としては、o-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、m-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、p-フェノキシベンジル(メタ)アクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチル(メタ)アクリレート、3-(o-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(m-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(p-フェノキシフェニル)プロピル(メタ)アクリレート、4-(o-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(m-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、4-(p-フェノキシフェニル)ブチル(メタ)アクリレート、5-(o-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(m-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、5-(p-フェノキシフェニル)ペンチル(メタ)アクリレート、6-(o-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(m-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレート、6-(p-フェノキシフェニル)ヘキシル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、得られる歯科修復用硬化性組成物のペーストの操作性が良く、硬化後の機械的強度に優れる点で、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレート、2-(o-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(m-フェノキシフェニル)エチルアクリレート、2-(p-フェノキシフェニル)エチルアクリレートがより好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレート、p-フェノキシベンジルアクリレートがさらに好ましく、o-フェノキシベンジルアクリレート、m-フェノキシベンジルアクリレートが特に好ましく、m-フェノキシベンジルアクリレートが最も好ましい。
【0029】
本発明の歯科修復用硬化性組成物におけるモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の含有量は、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の総量に対して、1.0~90質量%が好ましく、機械的強度及び耐水性、ペーストの操作性により優れる点から、5~80質量%がより好ましく、10~70質量%がさらに好ましい。
【0030】
本発明の歯科修復用硬化性組成物に含まれる重合性単量体は、実質的に(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)のみから構成されていてもよい。重合性単量体が、実質的に(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)のみから構成されるとは、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)以外の他の重合性単量体の含有量が、歯科修復用硬化性組成物に含まれる重合性単量体の総量に対して10.0質量%未満であることを意味し、好ましくは5.0質量%未満であり、より好ましくは1.0質量%未満であり、さらに好ましくは0.1質量%未満であり、特に好ましくは0.01質量%未満であることを意味する。
【0031】
[無機充填材(C)]
本発明における無機充填材(C)としては、本発明の効果を奏する限り、歯科用コンポジットレジンの充填材として用いられている公知の無機粒子を用いることができる。当該無機粒子としては、例えば、各種ガラス類(例えば、二酸化珪素(石英、石英ガラス、シリカゲル等)、珪素を主成分とし各種重金属とともにホウ素及び/又はアルミニウムを含有するものなど)、アルミナ、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、シリカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム(ジルコニア)、二酸化チタン(チタニア)、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。なお、無機充填材は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
歯科材料に望まれる重要な物性として、天然歯と同様の透明性とX線造影性とが挙げられる。このうち透明性は、無機充填材(C)と重合性単量体の重合体の屈折率をできるだけ一致させることにより達成することができる。一方、X線造影性は、無機充填材(C)として、ジルコニウム、バリウム、チタン、ランタン、ストロンチウム等の重金属元素を含む無機充填材(酸化物など)を用いることにより付与することができる。このような重金属元素を含む無機充填材の屈折率は通常高く、1.5~1.6の範囲内にある。本発明において、例えば、重合体を形成する重合性単量体を構成する1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)及びモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)の硬化物の屈折率は通常、1.5~1.6の範囲内にあることから、このようなX線造影性を有する屈折率の高い無機充填材と組み合わせても屈折率差を小さく調節することができ、得られる歯科材料の透明性を向上させることができる。
【0033】
上記したX線造影性を付与することのできる屈折率の高い無機充填材としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(例えば、Esstech社製の「E-3000」やショット社製の「8235」、「GM27884」、「GM39923」等)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(例えば、Esstech社製の「E-4000」やショット社製の「G018-093」、「GM32087」等)、ランタンガラス(例えば、ショット社製の「GM31684」等)、フルオロアルミノシリケートガラス(例えば、ショット社製の「G018-091」、「G018-117」等)、ジルコニアを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-310」、「G018-159」等)、ストロンチウムを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-163」、「G018-093」、「GM32087」等)、酸化亜鉛を含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-161」等)、カルシウムを含有するガラス(例えば、ショット社製の「G018-309」等)などが挙げられる。
【0034】
無機充填材(C)の形状に特に制限はなく、例えば、破砕状、板状、鱗片状、繊維状(短繊維、長繊維等)、針状、ウィスカー、球状など、各種形状のものを用いることができる。無機充填材(C)は、本発明の要件を満たす限り上記の形状の内、異なる形状のものが組み合わさったものであってもよい。
【0035】
本発明における無機充填材(C)の平均一次粒子径は、0.01~5μmであることが重要である。当該範囲の平均一次粒子径を有する無機充填材(C)を用いることで、硬化物の研磨性に優れた歯科修復用硬化性組成物となる。このような観点から、無機充填材(C)の平均一次粒子径は、0.02μm以上であることが好ましく、0.04μm以上であることがより好ましく、また、3μm以下であることが好ましく、2μm以下であることがより好ましい。平均一次粒子径が0.01μmよりも小さいと機械的強度が損なわれやすく、また5μmよりも大きいと研磨性が損なわれるおそれがある。
【0036】
前記無機充填材(C)の平均一次粒子径は、レーザー回折散乱法や粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が簡便であり、0.1μm未満の粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。なお、平均一次粒子径が0.1μm以上であるか否かの判別にはレーザー回折散乱法を採用すればよい。
【0037】
レーザー回折散乱法では、例えば、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製「SALD-2300」等)により、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて測定することで平均一次粒子径を求めることができる。
【0038】
電子顕微鏡観察では、例えば、粒子の走査型電子顕微鏡(SEM;例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「SU3500H-800NA型」等)画像写真を撮り、そのSEM画像写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製「Macview」等)を用いて測定することにより平均一次粒子径を求めることができる。このとき、粒子の粒子径は、その粒子の面積と同一の面積をもつ円の直径である円相当径として求められ、粒子の数とその粒子径より平均一次粒子径が算出される。
【0039】
本発明の歯科修復用硬化性組成物における無機充填材(C)の含有量としては、特に限定されないが、歯科修復用硬化性組成物の全量に対して、50~95質量%が好ましく、55~90質量%がより好ましく、60~85質量%がさらに好ましい。
【0040】
本発明における無機充填材(C)は、表面処理剤によって予め表面処理が施されたものであることが好ましい。表面処理が施された無機充填材(C)を用いることで、得られる歯科修復用硬化性組成物の硬化後の機械的強度をより向上させることができる。なお、2種以上の無機充填材(C)を用いる場合、そのうちのいずれかの1種のみが、表面処理が施されたものであってもよく、全てが、表面処理が施されたものであってもよい。後者の場合、個々に表面処理された無機充填材(C)を混合してもよいし、予め複数の無機充填材を混合し、纏めて表面処理を施してもよい。
【0041】
前記表面処理剤としては、公知の表面処理剤を用いることができ、有機ケイ素化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物などの有機金属化合物、及びリン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する酸性基含有有機化合物を用いることができる。表面処理剤を2種以上使用する場合は、2種以上の表面処理剤の混合物の表面処理層としてもよいし、複数の表面処理層が積層した複層構造の表面処理層としてもよい。また、表面処理方法としては、特に制限なく公知の方法を用いることができる。
【0042】
前記有機ケイ素化合物としては、R7 nSiY(4-n)で表される化合物が挙げられる(式中、R7は炭素数1~12の置換又は無置換の炭化水素基であり、Yは炭素数1~4のアルコキシ基、アセトキシ基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R7及びYが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい)。
【0043】
具体的には、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β-メトキシエトキシ)シラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチル-3,3,3-トリフルオロプロピルジメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、トリメチルシラノール、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、トリメチルブロモシラン、ジエチルシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン等〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数: 3~12、例、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン等〕等が挙げられる。なお、本発明において「(メタ)アクリロイルオキシ」との表記は、メタクリロイルオキシとアクリロイルオキシの両者を包含する意味で用いられる。
【0044】
この中でも、重合性単量体と共重合し得る官能基を有するカップリング剤、例えばω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリメトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ω-(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリエトキシシラン〔(メタ)アクリロイルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3~12〕、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等が好ましく用いられる。
【0045】
前記有機チタン化合物としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラn-ブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート等が挙げられる。
【0046】
前記有機ジルコニウム化合物としては、例えば、ジルコニウムイソプロポキシド、ジルコニウムn-ブトキシド、ジルコニウムアセチルアセトネート、ジルコニウムアセテート等が挙げられる。
【0047】
前記有機アルミニウム化合物としては、例えば、アルミニウムアセチルアセトネート、アルミニウム有機酸塩キレート化合物等が挙げられる。
【0048】
前記リン酸基を含有する酸性基含有有機化合物としては、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2-ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、ビス〔2 -(メタ)アクリロイルオキシ-(1-ヒドロキシメチル)エチル〕ハイドロジェンホスフェート、及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。
【0049】
また、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基、カルボン酸基等の酸性基を有する酸性基含有有機化合物としては、例えば、国際公開第2012/042911号に記載のものを好適に用いることができる。
【0050】
前記表面処理剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、無機充填材(C)と重合性単量体との化学結合性を高めて硬化物の機械的強度を向上させるために、重合性単量体と共重合し得る官能基を有する酸性基含有有機化合物を用いることがより好ましい。
【0051】
表面処理剤の使用量は、特に限定されず、例えば、無機充填材(C)100質量部に対して、0.1~50質量部が好ましい。
【0052】
[重合開始剤(D)]
次に、重合開始剤(D)について説明する。該重合開始剤(D)としては、加熱重合開始剤、光重合開始剤、化学重合開始剤が挙げられる。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
加熱重合開始剤としては、有機過酸化物とアゾ化合物等が挙げられる。
【0054】
前記有機過酸化物としては、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0055】
前記ケトンペルオキシドとしては、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド及びシクロヘキサノンペルオキシド等が挙げられる。
【0056】
前記ヒドロペルオキシドとしては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド及び1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0057】
前記ジアシルペルオキシドとしては、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド及びラウロイルペルオキシド等が挙げられる。
【0058】
前記ジアルキルペルオキシドとしては、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン等が挙げられる。
【0059】
前記ペルオキシケタールとしては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン及び4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリックアシッド-n-ブチルエステル等が挙げられる。
【0060】
前記ペルオキシエステルとしては、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタラート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート及びt-ブチルペルオキシマレイックアシッド等が挙げられる。
【0061】
前記ペルオキシジカーボネートとしては、ジ-3-メトキシペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)ペルオキシジカーボネート及びジアリルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0062】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましく用いられる。
【0063】
前記アゾ化合物としては、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチレート)、2,2’-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。
【0064】
光重合開始剤としては、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、クマリン類等が挙げられる。
【0065】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネート、及びこれらの塩等が挙げられる。ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0066】
これら(ビス)アシルホスフィンオキシド類の中でも、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド及び2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドナトリウム塩が好ましい。
【0067】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノン等が挙げられる。この中でも、カンファーキノンが好適である。
【0068】
前記クマリン類としては、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン等の特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0069】
上述のクマリン類の中でも、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0070】
これらの光重合開始剤の中でも、歯科用途に広く使われている(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。
【0071】
また、前記光重合開始剤は、必要に応じて、さらに重合促進剤と組み合わせることで、光重合をより短時間で効率的に行うことができる場合がある。
【0072】
光重合開始剤に好適な重合促進剤としては、例えば、第3級アミン類、アルデヒド類、チオール基を有する化合物、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、トリアジン化合物等が挙げられる。また、重合促進剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。ある好適な実施形態では、重合開始剤(D)が光重合開始剤を含み、さらに光重合開始剤の重合促進剤を含み、前記重合促進剤が第3級アミン類である、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。
【0073】
第3級アミン類としては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸(2-メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル、N-メチルジエタノールアミン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート等が挙げられる。
【0074】
アルデヒド類としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒド等が挙げられる。チオール基を有する化合物としては、2-メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸等が挙げられる。
【0075】
スルフィン酸及びその塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、p-トルエンスルフィン酸、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸カリウム、p-トルエンスルフィン酸カルシウム、p-トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウム等が挙げられる。
【0076】
化学重合開始剤としては、有機過酸化物及びアミン類;有機過酸化物、アミン類及びスルフィン酸(又はその塩)系等のレドックス系重合開始剤が好ましく用いられる。レドックス系重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された包装形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。レドックス系重合開始剤の酸化剤としては、有機過酸化物が挙げられる。レドックス系重合開始剤の酸化剤として有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。具体的には、前記加熱重合開始剤で例示した有機過酸化物が挙げられる。
【0077】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましく用いられる。
【0078】
レドックス系重合開始剤の還元剤としては、通常、芳香環に電子吸引性基を有しない第3級芳香族アミンが用いられる。芳香環に電子吸引性基を有しない第3級芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリンが挙げられる。
【0079】
化学重合開始剤は、必要に応じて、さらに重合促進剤を組み合わせて使用してもよい。化学重合開始剤の重合促進剤は、一般工業界で使用されている重合促進剤から選択して使用でき、中でも歯科用途に用いられている重合促進剤が好ましく用いられる。また、重合促進剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。化学重合開始剤の重合促進剤としては、具体的には、アミン類、スルフィン酸及びその塩、銅化合物、スズ化合物、バルビツール酸誘導体、バナジウム化合物等が挙げられる。ある好適な実施形態では、重合開始剤(D)が化学重合開始剤を含み、さらに化学重合開始剤の重合促進剤を含み、前記重合促進剤がアミン類である、歯科修復用硬化性組成物が挙げられる。
【0080】
化学重合開始剤の重合促進剤として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香環に電子吸引性基を有する芳香族アミンに分けられる。脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミン等の第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミン等の第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の第3級脂肪族アミン等が挙げられる。これらの中でも、組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
【0081】
また、化学重合開始剤の重合促進剤として用いられる芳香環に電子吸引性基を有する第3級芳香族アミンとしては、例えば、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-N,N-ジメチルアミノ安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチル等が挙げられる。これらの中でも、組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ジ(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ安息香酸)n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0082】
重合促進剤として用いられるスルフィン酸及びその塩としては、上記した光重合開始剤の重合促進剤として例示したものが挙げられ、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p-トルエンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6-トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウムが好ましい。
【0083】
重合促進剤として用いられる銅化合物としては、例えば、アセチルアセトン銅、酢酸第2銅、オレイン酸銅、塩化第2銅、臭化第2銅等が好適に用いられる。
【0084】
重合促進剤として用いられるスズ化合物としては、例えば、ジ-n-ブチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジマレエート、ジ-n-オクチル錫ジラウレート、ジ-n-ブチル錫ジラウレート等が挙げられる。特に好適なスズ化合物は、ジ-n-オクチル錫ジラウレート及びジ-n-ブチル錫ジラウレートである。
【0085】
これらのなかでも、歯科用コンポジットレジンに関しては、口腔内にて硬化させる際の簡便性から、光重合開始剤を使用することが好ましく、一方で、歯科用ミルブランクに関しては、重合度を高めて強度を向上させることから、加熱重合開始剤を使用することが好ましい。
【0086】
本発明における重合開始剤(D)の含有量は、特に限定されないが、得られる組成物の硬化性等の観点から、重合性単量体100質量部に対して、0.001~30質量部が好ましい。重合開始剤(D)の含有量が重合性単量体100質量部に対して、0.001質量部以上の場合、重合が十分に進行して機械的強度の低下を招くおそれがなく、より好適には0.05質量部以上であり、さらに好適には0.1質量部以上である。一方、重合開始剤(D)の含有量が、重合性単量体100質量部に対して、30質量部以下であると、重合開始剤自体の重合性能が低い場合にでも十分な機械的強度が得られ、さらには組成物からの析出を招くおそれがなく、より好適には20質量部以下である。
【0087】
本発明の歯科修復用硬化性組成物は、重合収縮応力を低減させる観点から、ポリマー、とりわけプレポリマーを含んでもよい。また、歯科用コンポジットレジンは、光照射により重合硬化させることが一般的であり、硬化の際には、窩壁とコンポジットレジンの接着界面に重合収縮応力がかかる。この重合収縮応力が大きい場合、接着界面にコントラクションギャップが生じることがあり、二次齲蝕、歯髄刺激、着色、硬化物の脱落などの原因となることから、重合収縮応力をより低減させる効果を合わせ持つと、より好ましい歯科用コンポジットレジンであるといえる。特に、本発明の歯科修復用硬化性組成物を歯科用コンポジットレジンとして用いる場合には、硬化物が高い機械的強度を有し、耐水性及び研磨性等の特性に優れることに加えて、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、本発明の歯科修復用硬化性組成物は、ポリマー、とりわけプレポリマーを含むことが好ましい。プレポリマーとは、重合性単量体の重合を適当なところで止めた中間生成物、又は重合後に重合性官能基を導入したポリマーであり、いずれも、未反応の重合性官能基を有していて、さらなる重合が可能となっている。プレポリマーは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0088】
[プレポリマー]
プレポリマーが有する未反応の重合性官能基の種類に特に制限はない。当該重合性官能基としては、例えば、炭素-炭素二重結合、ビニル基、ビニロキシ基、(メタ)アリル基、(メタ)アクリロイル基、マレオイル基、スチリル基、シンナモイル基などが挙げられる。重合性官能基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリルアミド基がより好ましい。また、プレポリマーが有する未反応の重合性官能基の数は、プレポリマー1分子あたり平均して、1個以上であることが好ましく、2個以上であることがより好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、5個以上であることがさらに好ましく、10個以上であることが特に好ましく、15個以上、20個以上、さらには25個以上であってもよく、また、1,000個以下であることが好ましく、500個以下であることがより好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、100個以下であることがさらに好ましく、50個以下であることが特に好ましい。プレポリマーの有する未反応の重合性官能基の数の測定方法は特に制限がないが、例えば、NMR測定によってプレポリマーが有する未反応の重合性官能基の濃度(mol/g)を求め、これに後述するプレポリマーの重量平均分子量を乗じることにより求めることができ、より具体的には実施例に記載した方法により求めることができる。
【0089】
プレポリマーの分子量に特に制限はないが、本発明の効果がより顕著に奏されることなどから、プレポリマーの重量平均分子量は、1,000以上であることが好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、5,000以上であることがより好ましく、10,000以上であることがさらに好ましく、また、1,000,000以下であることが好ましく、重合収縮応力の低減効果がより優れることから、500,000以下であることがより好ましく、300,000以下であることがさらに好ましく、100,000以下であることが特に好ましく、80,000以下、さらには60,000以下であってもよい。プレポリマーの重量平均分子量の測定方法は特に制限がないが、GPC測定などにより測定することができ、より具体的には実施例において後述する方法により測定することができる。
【0090】
本発明の歯科修復用硬化性組成物におけるプレポリマーの含有量に特に制限はないが、得られる歯科修復用硬化性組成物の稠度安定性、重合収縮応力及び操作性、さらには得られる硬化物の機械的強度などの観点から、歯科修復用硬化性組成物の質量に基づいて、0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、3質量%以上であることがさらに好ましく、また、20質量%以下であることが好ましく、18質量%以下であることがより好ましく、16質量%以下であることがさらに好ましく、12質量%以下、さらには8質量%以下であってもよい。
【0091】
本発明の歯科修復用硬化性組成物には、前記成分以外に、目的に応じて、pH調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤(例えば、顔料)、連鎖移動剤、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤などをさらに添加することも可能である。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0092】
前記顔料としては、歯科用コンポジットレジンに用いられている公知の顔料が何ら制限なく用いられる。前記顔料としては、無機顔料及び/又は有機顔料のいずれでもよく、無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、バリウム黄等のクロム酸塩;紺青等のフェロシアン化物;銀朱、カドミウム黄、硫化亜鉛、カドミウムレッド等の硫化物;硫酸バリウム、硫酸亜鉛、硫酸ストロンチウム等の硫酸塩;アンチモン白、亜鉛華、チタン白、ベンガラ、鉄黒、酸化クロム等の酸化物;水酸化アルミニウム等の水酸化物;ケイ酸カルシウム、群青等のケイ酸塩;カーボンブラック、グラファイト等の炭素等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、ナフトールグリーンB、ナフトールグリーンY等のニトロソ化合物;ナフトールイエローS、リソールファストイエロー2G等のニトロ系顔料;パーマネントレッド4R、ブリリアントファストスカーレット、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー等の不溶性アゾ系顔料;リソールレッド、レーキレッドC、レーキレッドD等の難溶性アゾ系顔料;ブリリアントカーミン6B、パーマネントレッドF5R、ピグメントスカーレット3B、ボルドー10B等の可溶性アゾ系顔料;フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、スカイブルー等のフタロシアニン系顔料;ローダミンレーキ、マラカイトグリーンレーキ、メチルバイオレットレーキ等の塩基性化合物;ピーコックブルーレーキ、エオシンレーキ、キノリンイエローレーキ等の酸性化合物等が挙げられる。前記顔料は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよく、目的とする色調に応じて適宜選択される。
【0093】
歯科修復用硬化性組成物における顔料の含有量は、所望の色調によって適宜調整されるため、特に限定されないが、歯科修復用硬化性組成物100質量部において、好ましくは0.000001質量部以上であり、より好ましくは0.00001質量部以上であり、また、好ましくは5質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下である。また、顔料の含有量は、歯科修復用硬化性組成物100質量部において、好ましくは0.000001~5質量部であり、より好ましくは0.00001~1質量部である。
【0094】
前記連鎖移動剤としては、例えば、メルカプタン系化合物(n-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、ヘキサデシルメルカプタン、n-オクタデシルメルカプタン等)、ハロゲン系化合物(四塩化炭素、塩化メチレン、ブロモホルム等)、不飽和炭化水素化合物(2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン、α-テルピネン、ジペンテン、ターピノーレン等)、チオール類(メルカプト酢酸、メルカプト酢酸2-エチルヘキシル、メルカプト酢酸3-メトキシブチル、β-メルカプトプロピオン酸、β-メルカプトプロピオン酸メチル、β-メルカプトプロピオン酸2-エチルヘキシル、β-メルカプトプロピオン酸3-メトキシブチル、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール等)等が挙げられる。
【0095】
本発明の歯科修復用硬化性組成物の製造方法としては、例えば、以下の工程(1)~(2)を含む。
(1)混練工程
混練工程は混練作業を行う工程であり、混練機容器中に、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)及び重合開始剤(D)を投入して重合性単量体含有組成物を調製した後に、さらに無機充填材(C)を投入し混練を行うことでペースト状の組成物を作製する。混練工程において、本発明の効果を奏する限り特に混練する方法は限定されず、公知の方法を採用することができるが、混練時間を短縮しペーストの特性のバラツキの発生を防止する観点より、加温しながら混練することが好ましい。混練温度としては40~60℃が好ましい。40℃より低温だと、混練時間の短縮効果が十分に得られず、60℃を超えると混練中に重合硬化や組成物の劣化が起こることがある。また、混練中、必要に応じて真空脱泡の処理を行うこともできる。この時、真空度は特に限定されないが、効率よく気泡を抜くために、真空度は5~200Torrであることが好ましい。
(2)脱泡工程
脱泡工程は脱泡作業を行う工程であり、脱泡機容器中に、前記ペースト状の組成物を投入した後に、減圧によってペースト内部の気泡を抜きながら、圧力をかけながら容器外へ押出すことによって脱泡を行う。脱泡条件は特に限定されないが、効率よく気泡を抜くため、(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)及び重合開始剤(D)を含有する重合性単量体含有組成物と無機充填材(C)が分離することを抑制するために、真空度は5~200Torrが好ましい。減圧時間は3~30分間が好ましい。また、押出時の圧力は0.5~5MPaが好ましい。加圧時間は3~30分間が好ましい。また、脱泡中、必要に応じて加熱処理を行うこともできる。この時、温度は特に限定されないが、効率よく気泡を抜くために、温度は40~60℃が好ましい。
【0096】
本発明の歯科修復用硬化性組成物は、ペーストの操作性に優れ、硬化物が高い機械的強度を有し、耐水性、研磨性に優れることから、歯科材料として好適に用いることができる。具体的には、歯科医療の分野において、天然歯の一部分又は全体を代替し得る歯科材料(特に歯科用コンポジットレジン)に好適に用いることができる。また、本発明の歯科修復用硬化性組成物を重合硬化して得られる硬化物は、ミリング装置により切削加工して作製するCAD/CAMシステムに用いられる被切削材料である、歯科用ミルブランクとして好適に用いることができる。歯科修復用硬化性組成物の硬化物の曲げ弾性率は、歯科用コンポジットレジンとして用いる場合、8GPa以上であることが好ましい。歯科修復用硬化性組成物の硬化物の曲げ弾性率は、歯科用ミルブランクとして用いる場合、12GPa以上であることが好ましい。歯科修復用硬化性組成物の硬化物の曲げ弾性率は、特に限定されないが、高すぎると歯質を磨耗、破折等の損傷するおそれがあることから、30GPa以下であってもよい。
【実施例
【0097】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0098】
[1分子中に2つ以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)]
D2.6E:2,2-ビス〔4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン(エトキシ基の平均付加モル数2.6)(新中村化学工業株式会社製)
Bis-MEPP:2,2-ビス[4-〔2-(メタクリロイルオキシ)エトキシ〕フェニル]プロパン(新中村化学工業株式会社製)
Bis-GMA:2,2-ビス〔4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(新中村化学工業株式会社製)
DCP:トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製)
UDMA:[2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレート(共栄社化学株式会社製)
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート(新中村化学工業株式会社製)
【0099】
[モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)]
POBA:m-フェノキシベンジルアクリレート(共栄社化学株式会社製)
POBMA:m-フェノキシベンジルメタクリレート(共栄社化学株式会社製)
EPPA:エトキシ化o-フェニルフェノールアクリレート(新中村化学工業株式会社製)
[モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物]
MMA:メチルメタクリレート(株式会社クラレ製)
IBMA:イソボルニルメタクリレート(共栄社化学株式会社製)
DDMA:ドデシルメタクリレート(共栄社化学株式会社製)
【0100】
[モノ(メタ)アクリルアミド化合物]
HEAA:N-ヒドロキシエチルアクリルアミド
【0101】
[無機充填材(C)]
UF2.0:バリウムガラス(平均一次粒子径2.0μm、ショット社製)
UF1.5:バリウムガラス(平均一次粒子径1.5μm、ショット社製)
UF0.7:バリウムガラス(平均一次粒子径0.7μm、ショット社製)
NF180:バリウムガラス(平均一次粒子径0.180μm、ショット社製)
Ar130:微粒子シリカ(平均一次粒子径0.016μm、日本アエロジル株式会社製)
Ox50:微粒子シリカ(平均一次粒子径0.04μm、日本アエロジル株式会社製)
[表面処理剤]
γ-MPS:γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)
11-MUS:11-メタクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製)
[表面処理無機充填材]
無機充填材(C6):不定形シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物、平均粒径:4.2μm、屈折率:1.54
無機充填材(C7):球状シリカ-ジルコニア、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物、平均粒径:0.1μm、屈折率:1.52
【0102】
[重合開始剤(D)]
CQ:カンファーキノン(光重合開始剤)(東京化成工業株式会社製)
TPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(BASFジャパン株式会社製)
THP:1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド(加熱重合開始剤)(日油株式会社製)
BPO:ベンゾイルペルオキシド(加熱重合開始剤)(日油株式会社製)
【0103】
[重合促進剤]
JJA:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
DEPT:N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン
【0104】
[連鎖移動剤]
DPMP:2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン(東京化成工業株式会社製)
【0105】
〔重合性単量体含有組成物の製造例1〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のPOBAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M1)を調製した。
【0106】
〔重合性単量体含有組成物の製造例2〕
90質量部のD2.6E及び10質量部のPOBAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M2)を調製した。
【0107】
〔重合性単量体含有組成物の製造例3〕
50質量部のD2.6E及び50質量部のPOBAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M3)を調製した。
〔重合性単量体含有組成物の製造例4〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のPOBMAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M4)を調製した。
【0108】
〔重合性単量体含有組成物の製造例5〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のEPPAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M5)を調製した。
【0109】
〔重合性単量体含有組成物の製造例6〕
70質量部のBis-MEPP及び30質量部のPOBAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M6)を調製した。
【0110】
〔重合性単量体含有組成物の製造例7〕
70質量部のBis-GMA及び30質量部のPOBAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M7)を調製した。
【0111】
〔重合性単量体含有組成物の製造例8〕
70質量部のDCP及び30質量部のPOBAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M8)を調製した。
【0112】
〔重合性単量体含有組成物の製造例9〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のTEGDMAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M9)を調製した。
【0113】
〔重合性単量体含有組成物の製造例10〕
40質量部のD2.6E及び30質量部のBis-GMA、30質量部のTEGDMAに、加熱重合開始剤としてBPOを2質量部、重合促進剤としてDEPTを2質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M10)を調製した。
【0114】
〔重合性単量体含有組成物の製造例11〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のTEGDMA、4質量部のHEAAに、光重合開始剤としてCQを1質量部、TPOを1.25質量部、重合促進剤としてJJAを1.5質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M11)を調製した。
【0115】
〔重合性単量体含有組成物の製造例12〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のMMAに、光重合開始剤としてCQを0.2質量部、TPOを0.25質量部、重合促進剤としてJJAを0.3質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M12)を調製した。
【0116】
〔重合性単量体含有組成物の製造例13〕
70質量部のD2.6E及び30質量部のPOBAに、加熱重合開始剤としてTHPを0.5質量部、重合促進剤としてJJAを1.5質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M13)を調製した。
【0117】
〔重合性単量体含有組成物の製造例14〕
70質量部のUDMA及び30質量部のTEGDMAに、加熱重合開始剤としてBPOを1.5質量部、重合促進剤としてJJAを1.5質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M14)を調製した。
【0118】
各重合性単量体含有組成物の組成を下記表1に示す。
【0119】
【表1】
【0120】
〔無機充填材の製造例1〕
100質量部のNF180をエタノール300質量部に分散し、γ-MPS7質量部、酢酸0.15質量部及び水5質量部を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機充填材(C1)を得た。
【0121】
〔無機充填材の製造例2〕
80質量部のUF2.0及び20質量部のNF180の混合物をエタノール300質量部に分散し、γ-MPS2.25質量部、酢酸0.15質量部及び水5質量部を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機充填材(C2)を得た。
【0122】
〔無機充填材の製造例3〕
100質量部のNF180をエタノール300質量部に分散し、11-MUS11質量部、酢酸0.15質量部及び水5質量部を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機充填材(C3)を得た。
【0123】
〔無機充填材の製造例4〕
90質量部のUF0.7及び10質量部のAr130の混合物をエタノール300質量部に分散し、11-MUS4質量部、酢酸0.15質量部及び水5質量部を加えて室温で2時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって表面処理して、無機充填材(C4)を得た。
【0124】
〔無機充填材の製造例5〕
100質量部のUF1.5及び20質量部のOx50の混合物をトルエン300質量部に分散し、γ-MPS4質量部を加えて2時間加熱還流した。溶媒を減圧留去し、さらに90℃で3時間乾燥することによって、表面処理剤で表面処理された無機充填材を有する無機充填材(C5)を得た。
【0125】
無機充填材(C1)~(C5)の組成を下記表2に示す。
【0126】
【表2】
【0127】
〔プレポリマーの製造例1~3〕
重合性単量体として表3に記載された量のモノ(メタ)アクリル酸エステル化合物、モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物(B)及び(メタ)アクリル酸エステル化合物(A)を用い、これらとトルエン(モノ(メタ)アクリル酸エステル化合物及び(メタ)アクリル酸エステル化合物の合計質量の5質量倍)とを三口フラスコに入れて溶解し、30分間窒素バブリングを行った。これに表3に記載された量の連鎖移動剤及び重合開始剤を加えて撹拌し、トルエン溶液を得た。
このトルエン溶液を還流下にオイルバスにて80℃で加熱撹拌した。240分後に加熱を停止し、ヘキサン(前記トルエン溶液の6質量倍)中に滴下し、底に沈殿した沈殿物を得た。これを一晩常温で減圧乾燥して白色粉末状のプレポリマー(P1)~(P3)を得た。
【0128】
プレポリマー(P1)~(P3)の組成を下記表3に示す。
【0129】
【表3】
【0130】
[プレポリマーの重量平均分子量]
プレポリマーの重量平均分子量はGPC測定により求めた。すなわち、溶離液としてテトラヒドロフランを用い、カラムとして東ソー株式会社製の「TSKgel SuperMultipore HZM-M」の2本と「TSKgel SuperHZ4000」とを直列に繋いだものを用いた。またGPC装置として、示差屈折率検出器(RI検出器)を備えた東ソー株式会社製の「HLC-8320GPC」を用いた。測定には、まずプレポリマー4mgをテトラヒドロフラン5mLに溶解させて試料溶液を作製した。次いで、カラムオーブンの温度を40℃に設定し、溶離液流量0.35mL/分で試料溶液20μLを注入してプレポリマーのクロマトグラムを測定した。一方、分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリスチレン10点をGPC測定し、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づき、上記のように測定したプレポリマーのクロマトグラムからプレポリマーの重量平均分子量を求めた(n=1)。
【0131】
[プレポリマーが有する未反応の重合性官能基の数(1分子あたりの平均)]
H-NMR測定にてプレポリマーが有する未反応の重合性官能基の濃度ρ(mol/g)を求め、これに前述の方法で求めた重量平均分子量(M)を乗じた値(ρ×M)を算出し、これをプレポリマーが有する未反応の重合性官能基の数(1分子あたりの平均)とした。
なお、上記H-NMR測定では、プレポリマー約30mg及び内標としてのテレフタル酸ジメチル(分子量:194.19)約2mgを秤量し(プレポリマーの秤量値をW(mg)、テレフタル酸ジメチルの秤量値をW(mg)とする)、重水素化クロロホルム3mLに溶解した。続いて核磁気共鳴装置(Bruker社製「ULTRA SHIELD 400 PLUS」)を用いて、室温、積算回数16回の条件にて測定し、メタクリロイル基由来のプロトンピーク(5.55ppmと6.12ppm)の積分値とテレフタル酸ジメチルの芳香族プロトンピーク(8.10ppm)の積分値とから、以下の式でメタクリロイル基とテレフタル酸ジメチルのモル比(RP/D)を求めた。
P/D=[(I5.55+I6.12)/2]/(I8.10/4)
(ここで、I5.55は5.55ppmのピークの積分値を示し、I6.12は6.12ppmのピークの積分値を示し、I8.10は8.10ppmのピークの積分値を示す。)
そして、得られたメタクリロイル基とテレフタル酸ジメチルのモル比(RP/D)を用いて、以下の式でプレポリマー中の重合性官能基の濃度ρ[mol/g]を求めた(n=1)。
ρ=[RP/D×W/194.19]/W
(ここで、Wはテレフタル酸ジメチルの秤量値(mg)を示し、Wはプレポリマーの秤量値(mg)を示す。)
【0132】
試験例1〔機械的強度(3点曲げ試験)〕
歯科用コンポジットレジンに関しては、製造した各実施例及び比較例の歯科修復用硬化性組成物を真空脱泡後、ステンレス製の金型(寸法:2mm×2mm×25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接し、歯科重合用LED光照射器(商品名「ペンキュアー2000」、株式会社モリタ製)で1点10秒、片面を5点ずつ、両面に光を照射して硬化させた。各実施例及び比較例について、硬化物を試料として5本ずつ作製した。硬化物の試料を金型から取り出した後、万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名「AG-I 100kN」)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の条件下で硬化物の試料の曲げ強さ及び曲げ弾性率を測定し、各試料の測定値の平均値を算出し、曲げ強さ及び曲げ弾性率とした。歯科用ミルブランクに関しては、製造した各実施例及び比較例の歯科修復用硬化性組成物を真空脱泡後、サイズの異なるステンレス製の金型(寸法:1.2mm×4mm×14mm)に充填した点、万能試験機を用いる際の支点間距離を12mmとした点、硬化物を試料として10本ずつ作製した点以外は、上記歯科用コンポジットレジンの試料の測定と同様にして測定した。歯科用コンポジットレジンとしての曲げ強さは150MPa以上を良好と判断し、180MPa以上はさらに良好である。また、歯科用コンポジットレジンの曲げ弾性率は8GPa以上を良好と判断し、10GPa以上はさらに良好である。歯科用ミルブランクとしての曲げ強さは200MPa以上を良好と判断し、240MPa以上はさらに良好である。また、歯科用ミルブランクの曲げ弾性率は12GPa以上を良好と判断し、15GPa以上はさらに良好である。機械的強度としては、前記曲げ強さ及び曲げ弾性率の両方の基準を満たすものを合格とした。
【0133】
試験例2〔耐水性(3点曲げ試験)〕
歯科用コンポジットレジンに関しては、製造した各実施例及び各比較例に係る歯科修復用硬化性組成物の硬化物の試料について、37℃の水中に30日浸漬させた後、上記試験例1と同様に、曲げ強さ及び曲げ弾性率を測定した(n=5)。歯科用ミルブランクに関しては、n=10とした点以外は、歯科用コンポジットレジンと同様にして、測定を行った。試験例1の試験結果を初期の曲げ強さ及び曲げ弾性率として、37℃水中に30日浸漬させた後の曲げ強さ及び曲げ弾性率の変化率(低下率)を下記の式により算出し、該低下率が10%以下であれば耐水性に優れる。
浸漬による曲げ強さの低下率(%)=〔{初期の曲げ強さ(MPa)-水中浸漬後の曲げ強さ(MPa)}/初期の曲げ強さ(MPa)〕×100
浸漬による曲げ弾性率の低下率(%)=〔{初期の曲げ弾性率(GPa)-水中浸漬後の曲げ弾性率(GPa)}/初期の曲げ弾性率(GPa)〕×100
【0134】
試験例3〔研磨性〕
製造した各実施例及び比較例の歯科修復用硬化性組成物を真空脱泡後、テフロン(登録商標)型(直径10mm、厚み2.0mm)に充填した。上下面をスライドガラスで圧接し、上側からのみ歯科重合用LED光照射器(商品名「ペンキュアー2000」、株式会社モリタ製)で、10秒間光照射して硬化させて、試料とした(n=2)。テフロン(登録商標)型から試料を取り出し、綺麗な平滑面を#600研磨紙にて乾燥条件下で研磨した。さらに、技工用エンジンとしてVolvere RX(株式会社ナカニシ製)を使用し、注水条件下、シリコンポイント茶色(株式会社松風製)を用いて回転速度約5000rpmで平滑面を10秒間研磨し、続けてシリコンポイント青色(株式会社松風製)を用いて回転速度約5000rpmで平滑面を10秒間研磨した。得られた研磨面の光沢を、光沢度計(日本電色工業株式会社製、VG 7000)を用い、鏡を100%としたときの割合で示した。測定の角度は60°とした。測定した平均値を表4、5に示す。光沢度80%以上が好ましく、85%以上がより好ましい。
【0135】
試験例4〔ペーストの操作性(付着力)〕
製造した各実施例及び比較例の歯科修復用硬化性組成物を真空脱泡後、シリンジに充填し、25℃に24時間静置したものを付着力試験の試料とした。該ペーストをシリンジから押し出して、下底面Φ11mm×上面Φ13mm×高さ8mmの容量を有するカップに充填した。小型卓上試験機(株式会社島津製作所製、EZ Test)に、Φ10mm×5mmのステンレス製の円柱を先端に有した治具を取り付け、充填したペースト表面に該円柱型治具に取りつけられたステンレス製の円柱の底面をペーストに軽く接触させた後、クロスヘッドスピード50mm/minで引き上げた際の最大応力を、25℃におけるステンレス板に対する付着力とした(n=2)。測定した平均値を表4に示す。ペーストの操作性の評価として、付着力が1.5N以下が好ましく、1.0N以下がより好ましい。一方で、付着力が2.0N以上は歯科用インスツルメントにより充填する際のペーストの操作性が低いと判断される。
【0136】
試験例5〔重合収縮応力〕
厚さ4.0mmのガラス板上に設置したリング状の金型(ステンレス製、内径5.5mm×厚さ0.8mm)内に、各実施例又は比較例で得られた歯科修復用硬化性組成物を充填した。前記ガラス板は、粒径50μmのアルミナパウダーでサンドブラスト処理したものを使用した。充填したペースト上に、万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名「オートグラフAG-I 100kN」)と連結したステンレス製治具(φ5mm)を設置し、前記歯科修復用硬化性組成物を挟み込んだ。次いで、歯科重合用LED光照射器(商品名「ペンキュアー2000」、株式会社モリタ製)を用いて、ガラス板越しに20秒間ペーストに光照射してペーストを硬化させた。この際、かかる光照射によって進行する歯科修復用硬化性組成物の重合反応による硬化に伴う重合収縮応力を、上記万能試験機で測定した(n=3)。測定値の平均値を表4に示した。重合収縮応力は10.0MPa以下が好ましく、9.8MPa以下がより好ましく、9.5MPa以下がさらに好ましく、9.0MPa以下が特に好ましい。
【0137】
試験例6〔硬化物の気泡発生率〕
製造した各実施例及び各比較例に係る歯科修復用硬化性組成物の硬化物について、卓上型マイクロフォーカスX線CTシステム(株式会社島津製作所製、inspeXio SMX-90CT)を用いて、硬化物の内部及び外観の気泡の有無を評価した(n=10)。硬化物の気泡発生率の評価として、気泡のある硬化物の個数が1個以下であることが好ましく、0個であることが最も好ましい。一方で、3個以上であると機械的強度の低下や外観が悪くなる等の観点より品質が悪いと判断される。
【0138】
[実施例1~16、比較例1~4](歯科用コンポジットレジン)
前記製造例で得られた重合性単量体含有組成物(M1)~(M12)、無機充填材(C1)~(C4)、無機充填材(C6)、(C7)、及びプレポリマー(P1)~(P3)を用いて、下記表4に示された組成比率で混練して均一にしたものを真空脱泡し、実施例1~16及び比較例1~4のペースト状の歯科修復用硬化性組成物を調製した。調製した歯科修復用硬化性組成物について前記特性評価試験(試験例1~5)を実施した。結果を下記表4に示す。
【0139】
【表4】
【0140】
表4に示すように、実施例1~16において得られたペーストの操作性は全て良好であった。また、その硬化物は高い機械的強度を有し、口腔内を想定した37℃水中浸漬による強度低下もなく耐水性に優れていることがわかった。さらに、硬化物の研磨性に優れていることがわかった。加えて、実施例12~16で得られたペーストでは、重合収縮応力が低減されていた。これに対して、比較例1で得られたペーストは、機械的強度及び耐水性が低かった。また、比較例2で得られたペーストは少し機械的強度及び耐水性が低かったが、研磨性及び操作性については非常に悪かった。さらに、比較例3及び4で得られたペーストは、機械的強度及び耐水性が非常に悪く、比較例4では研磨性が非常に悪かった。
【0141】
[実施例17~20、比較例5](歯科用ミルブランク)
前記製造例で得られた重合性単量体含有組成物(M13)、(M14)及び、無機充填材(C1)~(C5)を用いて、下記表5に示された組成比率で混練して均一にしたものを真空脱泡し、実施例17~20及び比較例5のペースト状の歯科修復用硬化性組成物を調製した。次いで、該歯科修復用硬化性組成物を20mm×30mm×60mmの長方体型の金型に流し込み、50℃で1時間加熱した。その後、5MPaで加圧しながら、150℃で1時間加熱処理を行い、歯科用ミルブランクとして硬化物を得た。得られた硬化物について前記特性評価試験(試験例1~3、6)を実施した。結果を下記表5に示す。
【0142】
[比較例6]
(1)前記製造例で得た無機充填材(C5)200gを、φ200mmの円形の穴を持つプレス用金型の下パンチ棒の上に敷いた。タッピングにより粉末をならし、上パンチ棒を上にセットし、テーブルプレス機を用いて一軸プレス(プレス圧:300kN(26.5MPa)、プレス時間:5分間)を行った。上パンチ棒と下パンチ棒を金型から外して、無機充填材(C5)が凝集した成形体を取り出した。当該成形体についてCIP工程によりプレス成形(圧力:350MPa、加圧時間:20分間)を行い、無機充填材成形体を得た。
(2)得られた無機充填材成形体を重合性単量体含有組成物(M14)に浸漬し、減圧(10hPa)して脱気し、70℃で48時間静置して、重合性単量体含有組成物が含浸した無機充填材成形体(重合性単量体含浸成形体)を得た。この重合性単量体含浸成形体を取出し、スライドガラスの上に載せてUV光発生装置(株式会社東芝製、ブラックライト蛍光ランプ)で60分間光照射を行って光重合を行った。その後、熱風乾燥機を用いて70℃で24時間加熱した後、110℃で5時間加熱して、歯科用ミルブランクとして硬化物を得た。得られた硬化物について前記特性評価試験(試験例1~3、6)を実施した。結果を下記表5に示す。
【0143】
【表5】
【0144】
実施例17~20において得られた硬化物は全て気泡がなかった。また、高い機械的強度を有し、口腔内を想定した37℃水中浸漬による強度低下もなく耐水性に優れていることがわかった。さらに、硬化物の研磨性に優れていることがわかった。これに対して、比較例5で得られた硬化物は気泡が多数確認され、機械的強度及び耐水性が低かった。また、比較例6で得られた硬化物も耐水性が低く、研磨性も低かった。
【0145】
以上の結果より、本発明の歯科修復用硬化性組成物は、硬化物が高い機械的強度を有し、耐水性、研磨性に優れることがわかった。また、本発明の歯科修復用硬化性組成物はペーストの操作性に優れ、硬化物に発生する気泡を抑制できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明の歯科修復用硬化性組成物は、硬化物が高い機械的強度を有し、耐水性、研磨性に優れる。また、本発明の歯科修復用硬化性組成物はペーストの操作性に優れ、すなわち取り扱いに優れ、天然歯と置換可能な十分な機械的強度を有しており、歯の欠損部や齲蝕を修復するための材料、特に歯科用コンポジットレジンとして好適に用いられる。また、その硬化物は歯科用ミルブランクとして好適に用いられる。