(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】加工性に優れた冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20241227BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20241227BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20241227BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/00 301T
C21D9/46 G
C21D9/46 J
C22C38/38
C22C38/60
(21)【出願番号】P 2021534703
(86)(22)【出願日】2019-12-17
(86)【国際出願番号】 KR2019017858
(87)【国際公開番号】W WO2020130560
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-08-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-08-03
(31)【優先権主張番号】10-2018-0164379
(32)【優先日】2018-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(74)【代理人】
【識別番号】100134382
【氏名又は名称】加藤 澄恵
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 チャン-ヒョ
(72)【発明者】
【氏名】アン、 ヨン-サン
(72)【発明者】
【氏名】リュ、 ジュ-ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 キュ-ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ウォン-ピョ
【合議体】
【審判長】粟野 正明
【審判官】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.06~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0は除く)、マンガン(Mn):1.7~2.7%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0は除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下、ボロン(B):0.01%以下(0は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、
厚さ1/4t地点の基地組織内のシリコン(Si)、炭素(C)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)の含量が下記関係式1を満たし、微細組織が、面積%で、フェライト10~70%、ベイナイトと残留オーステナイトが合計で10~50%、残部はフレッシュマルテンサイトで構成され
、フレッシュマルテンサイト(Mt)の全体分率とベイナイトに隣接しているフレッシュマルテンサイト(Mb)分率との比(Mb/Mt)が60%以上である、加工性に優れた冷延鋼板。
[関係式1]
([Si]+[C]×3)/([Mn]+[Mo]+[Cr])≧0.18
(ここで、[Si]、[C]、[Mn]、[Mo]、[Cr]は、それぞれ冷延鋼板の厚さ1/4t地点におけるシリコン(Si)、炭素(C)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)の重量%である。)
【請求項2】
重量%で、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0は除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0は除く)をさらに含む、請求項1に記載の加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項3】
フレッシュマルテンサイト(Mt)の全体分率と平均粒度3μm以下の微細なフレッシュマルテンサイト(Msm)の分率との比(Msm/Mt)が60%以上である、請求項1に記載の加工性に優れた冷延鋼板。
【請求項4】
それぞれ4~6%の変形区間で測定した加工硬化指数(n)、伸び率(El)、引張強度(TS)、降伏比(YR)が、下記関係式2を満たす、請求項1に記載の加工性に優れた冷延鋼板。
[関係式2]
n×El×TS/YR≧2500M
Pa%
【請求項5】
請求項1または2に記載の冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層が形成されている、溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項6】
請求項1または2に記載の冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成されている、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の加工性に優れた冷延鋼板の製造方法であって、
重量%で、炭素(C):0.06~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0は除く)、マンガン(Mn):1.7~2.7%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0は除く)、リン(P):0.1%以下、硫黄(S):0.01%以下、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下、ボロン(B):0.01%以下(0は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物からな
る鋼スラブを再加熱した後、仕上げ圧延出口側の温度がAr3~Ar3+50℃となるように熱間圧延する段階;
前記熱間圧延する段階後に、400~700℃で巻き取った後、巻き取り温度から常温まで0.1℃/s以下の平均冷却速度で冷却して熱延鋼板を得る段階;
巻き取られた前記熱延鋼板を40~70%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;
前記冷延鋼板をAc1+20℃~Ac3-20℃の焼鈍温度範囲で焼鈍する段階;
焼鈍された冷延鋼板を、前記焼鈍温度から630~670℃の1次冷却終了温度まで10℃/s以下の平均冷却速度で1次冷却する段階;
前記1次冷却終了温度から400~500℃の2次冷却終了温度の範囲まで急冷設備を用いて5℃/s以上の平均冷却速度で2次冷却する段階;
前記2次冷却の後、2次冷却終了温度で70秒以上保持する段階;及び
前記保持の後、前記保持温度からMs~100℃以下の温度まで5℃/s以上の平均冷却速度で3次冷却する段階;
を含む、加工性に優れた冷延鋼板の製造方法
。
【請求項8】
前記鋼スラブは、重量%で、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0は除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0は除く)をさらに含む、請求項7に記載の加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記焼鈍を760~820℃の温度範囲で実施する、請求項7に記載の加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記3次冷却の後に、1%未満の圧下率で調質圧延を行う段階をさらに含む、請求項7に記載の加工性に優れた冷延鋼板の製造方法。
【請求項11】
請求項7乃至10のいずれか一項に記載の加工性に優れた冷延鋼板の製造方法において、前記保持する段階の後であり、前記3次冷却する前に、430~490℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理する段階をさらに含む
、加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、前記溶融亜鉛めっき処理する段階の後であり、前記3次冷却する前に、合金化熱処理を行う
、加工性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に自動車構造部材用として使用される引張強度980MPa級以上の高強度冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の自動車用鋼板では、各種の環境規制やエネルギー使用規制に伴い、燃費向上や耐久性向上のために、より強度の高い鋼板が求められており、衝撃安全性及び乗客保護の観点から、車体構造用や補強材として、引張強度980MPa級以上の高強度鋼板の使用量が増大している。特に、最近では自動車に対する衝撃安定性の規制が拡大するにつれて、車体の耐衝撃性を向上させるために、メンバー(member)、シートレール(seat rail)及びピラー(pillar)などの構造部材として降伏強度に優れた高強度鋼が採用されている。
【0003】
通常、鋼を強化する方法には、固溶強化、析出強化、結晶粒微細化による強化、変態強化などがある。しかし、上記方法のうち、固溶強化及び結晶粒微細化による強化には、引張強度590MPa級以上の高強度鋼を製造することが非常に難しいという欠点がある。
【0004】
析出強化型高強度鋼は、Cu、Nb、Ti、Vなどの炭窒化物形成元素を添加することによって、炭窒化物を析出させて鋼板を強化したり、微細析出物による結晶粒成長の抑制によって結晶粒を微細化したりすることで強度を確保する技術である。上記技術は、製造コストが低い割に、高い強度を容易に得ることができるという利点を有している。しかし、微細析出物によって再結晶温度が急激に上昇するようになるため、十分な再結晶を生じさせて延性を確保するためには、高温焼鈍を実施しなければならないという欠点がある。また、フェライト基地に炭窒化物を析出させて強化する析出強化鋼には、600MPa級以上の高強度鋼を得ることが困難であるという問題点がある。
【0005】
また、変態強化型高強度鋼としては、フェライト基地に硬質のマルテンサイトを含むフェライト-マルテンサイトの二相組織(Dual Phase)鋼、残留オーステナイトの変態誘起塑性を用いたTRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼、あるいはフェライトと硬質のベイナイトまたはマルテンサイト組織で構成されるCP(Complexed Phase)鋼など、様々な変態強化型高強度鋼が開発されてきた。
【0006】
しかし、一般的に、鋼板の強度が増加するにつれて伸び率が減少するようになることから、成形加工性が低下するという問題点が発生する。そのため、強度が高められるにつれて、自動車部品をプレス成形する過程でクラックやシワが発生し、複雑な部品の製造は限界に達している。
【0007】
上記高張力鋼板において加工性を向上させた従来技術としては、特許文献1に開示された発明が挙げられる。特許文献1には、マルテンサイトを主体とする複合組織からなる鋼板であって、加工性を向上させるために、組織の内部に粒径1~100nmの微細析出銅粒子を分散させた高張力鋼板の製造方法が開示されている。しかし、特許文献1の技術は、良好かつ微細なCu粒子を析出させるためにCuの含量を2~5%と過剰に添加することにより、Cuに起因した赤熱脆性が発生する可能性があり、かつ、製造コストが過剰に上昇するという問題がある。
【0008】
一方、特許文献2では、フェライト(ferrite)を基地組織とし、パーライト(pearlite)2~10面積%を含む微細組織を有し、Nb、Ti、V等のような炭窒化物形成元素の添加による析出強化及び結晶粒微細化により強度を向上させた析出強化型鋼板を提示している。しかし、特許文献2の析出強化型鋼板は、穴拡げ性は良好であるものの、引張強度を高めるには限界があり、降伏強度が高く延性が低いため、プレス成形時にクラックが発生するという問題点がある。
【0009】
また、特許文献3の場合には、焼戻しマルテンサイトを活用して高強度と高延性を同時に得て、連続焼鈍後の板形状にも優れた冷延鋼板の製造方法を提供している。しかし、特許文献3の冷延鋼板は、炭素が0.2%以上と高く、溶接性の低下、及びSiの多量含有に起因した炉内での凹み(dent)が発生し得るという問題点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-264176号公報
【文献】韓国公開特許第2015-0073844号公報
【文献】特開2010-090432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、高強度でありながらも、加工性に優れた冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及びこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の明細書の全般的な事項から、本発明の更なる課題を理解するうえで何ら困難はない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、重量%で、炭素(C):0.06~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0は除く)、マンガン(Mn):1.7~2.7%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0は除く)、リン(P):0.1%以下(0は除く)、硫黄(S):0.01%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下(0は除く)、ボロン(B):0.01%以下(0は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含み、厚さ1/4t地点の基地組織内のシリコン(Si)、炭素(C)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)の含量が下記関係式1を満たし、微細組織が、面積%で、フェライト10~70%、ベイナイトと残留オーステナイトが合計で10~50%、残部はフレッシュマルテンサイトで構成され、フレッシュマルテンサイト(Mt)全体分率とベイナイトに隣接しているフレッシュマルテンサイト(Mb)の分率との比(Mb/Mt)が60%以上である、加工性に優れた冷延鋼板である。
【0014】
[関係式1]
([Si]+[C]×3)/([Mn]+[Mo]+[Cr])≧0.18
(ここで、[Si]、[C]、[Mn]、[Mo]、[Cr]は、それぞれ冷間圧延鋼板の厚さ1/4t地点におけるシリコン(Si)、炭素(C)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、及びクロム(Cr)の重量%である。)
【0015】
上記冷延鋼板は、重量%で、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0は除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0は除く)をさらに含むことができる。
【0016】
上記冷延鋼板は、フレッシュマルテンサイト(Mt)の全体分率と平均粒度3μm以下の微細なフレッシュマルテンサイト(Msm)の分率との比(Msm/Mt)が60%以上であってもよい。
【0017】
上記冷延鋼板は、それぞれ4~6%の変形区間で測定した加工硬化指数(n)、伸び率(El)、引張強度(TS)、降伏比(YR)が下記関係式2を満たすことができる。
[関係式2]
n×El×TS/YR≧2500
【0018】
本発明の他の一側面は、上記冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層が形成されている溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0019】
本発明の他の一側面は、上記冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層が形成されている合金化溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0020】
本発明の他の一側面は、重量%で、炭素(C):0.06~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0は除く)、マンガン(Mn):1.7~2.7%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0は除く)、クロム(Cr):1.0%以下(0は除く)、リン(P):0.1%以下(0は除く)、硫黄(S):0.01%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下(0は除く)、ボロン(B):0.01%以下(0は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む鋼スラブを再加熱した後、仕上げ圧延出口側の温度がAr3~Ar3+50℃となるように熱間圧延する段階;
上記熱間圧延する段階後に400~700℃で巻き取った後、巻き取り温度から常温まで0.1℃/s以下の平均冷却速度で冷却して熱延鋼板を得る段階;
巻き取られた上記熱延鋼板を40~70%の圧下率で冷間圧延して冷延鋼板を得る段階;
上記冷延鋼板をAc1+20℃~Ac3-20℃の焼鈍温度の範囲で焼鈍する段階;
焼鈍された冷延鋼板を上記焼鈍温度から630~670℃の1次冷却終了温度まで10℃/s以下の平均冷却速度で1次冷却する段階;
上記1次冷却終了温度から400~500℃の2次冷却終了温度の範囲まで急冷設備を用いて5℃/s以上の平均冷却速度で2次冷却する段階;
上記2次冷却後に、2次冷却終了温度で70秒以上保持する段階;及び
上記保持の後、上記保持温度からMs~100℃以下の温度まで5℃/s以上の平均冷却速度で3次冷却する段階;
を含む、加工性に優れた冷延鋼板の製造方法である。
【0021】
上記鋼スラブは、重量%で、アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0は除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0は除く)をさらに含むことができる。
【0022】
上記連続焼鈍は760~820℃の温度範囲で実施することができる。
【0023】
上記3次冷却の後に、1%未満の圧下率で調質圧延を行う段階をさらに含むことができる。
【0024】
本発明の他の一側面は、上述した加工性に優れた冷延鋼板の製造方法において、上記保持する段階の後であり、上記3次冷却する前に、430~490℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理する段階をさらに含む、加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0025】
本発明の他の一側面は、上述した加工性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融亜鉛めっき処理する段階の後であり、上記3次冷却する前に、合金化熱処理を実施する段階をさらに含む、加工性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、鋼板の合金組成及び製造工程を最適化することにより、DP鋼の特性である低降伏比を満たしつつ、DP鋼に比べて伸び率(El)及び加工硬化指数(n)に優れた冷延鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板を提供することができるという効果が得られる。
【0027】
本発明による冷延鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板を用いると、プレス成形時に発生するクラックやシワのような加工欠陥を防止することができ、これにより、たくさんの加工性が求められる複雑な形状を有する自動車用構造部品に多様に利用することができ、併せて材質及びめっき特性を同時に確保することができるという利点がある。
【0028】
本発明の多様かつ有益な利点及び効果は、上述した内容に限定されず、本発明の具体的な実施形態を説明する過程で、より容易に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】関係式1((Si+C×3)/(Mn+Mo+Cr))による、全体フレッシュマルテンサイトに対するベイナイトに隣接しているフレッシュマルテンサイトの占有比(Mb/Mt)の変化を示したものである。
【
図2】上記占有比(Mb/Mt)による、全体フレッシュマルテンサイトに対する平均粒度3μm以下の微細なフレッシュマルテンサイトの占有比(Msm/Mt)の変化を示したものである。
【
図3】上記占有比(Mb/Mt)による、関係式2(n×El×TS/YR)の変化を示したものである。
【
図4】上記占有比(Msm/Mt)による、関係式2(n×El×TS/YR)の変化を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施形態を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図していない。ここで使用される単数形は、その語句がこれと明らかに反対の意味を示さない限り、複数形も含む。
【0031】
明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、及び/または成分を具体化し、他の特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素、成分、及び/または群の存在や付加を除外するものではない。
【0032】
別段の指示がない限り、ここで使用される技術用語及び科学用語を含むすべての用語は、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者が一般的に理解する意味と同じ意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有するものと追加解釈され、定義されない限り、理想的又は非常に正式な意味として解釈されない。
【0033】
本発明者らは、高強度鋼の加工性を向上させるための一つの観点として、変態強化型高強度鋼のうち、最も広く使用されているDP鋼の特性のように、抵降伏比(YR)を満たしながらDP鋼に比べて伸び率(El)及び加工硬化指数(n)を向上させることができれば、プレス成形時に発生するクラックやシワのような加工欠陥を防止することができ、複雑な部品に高強度鋼の適用を拡大させることができるという点に注目した。
【0034】
これについて、より鋭意研究した結果、本発明者らは、冷延鋼板または溶融亜鉛めっき鋼板の最終微細組織に少量のベイナイトを導入し、上記ベイナイトに隣接した周辺にフレッシュマルテンサイトを形成させた場合、上記フレッシュマルテンサイトが均一に分散され、その大きさも大幅に微細化されることで、成形初期に変形を効果的に分散させることができ、加工硬化率が大幅に向上することを見出した。また、このような微細組織を備えた場合、局部的な応力集中が緩和され、ボイド(void)の核生成、成長、及び合体が遅延されることによって、延性が大幅に向上することを実験を通じて確認し、この実験結果に基づいて本発明を完成した。
【0035】
以下、本発明の一側面による加工性に優れた冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板について詳細に説明する。本発明において、各元素に対して含量を表すとき、特に断りのない限り、重量%を意味することに留意する必要がある。また、結晶や組織の割合は、特に断りのない限り、面積を基準とする。
【0036】
まず、本発明の一側面による加工性に優れた冷延鋼板の成分系について説明する。本発明の一側面による冷延鋼板は、重量%で、炭素(C):0.06~0.15%、シリコン(Si):1.2%以下(0は除く)、マンガン(Mn):1.7~2.7%、モリブデン(Mo):0.15%以下(0は除く)、クロム(Cr):1.0%以下、リン(P):0.1%以下(0は除く)、硫黄(S):0.01%以下(0は除く)、チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%、窒素(N):0.01%以下(0は除く)、ボロン(B):0.01%以下(0は除く)、残部Fe及びその他の不可避不純物を含む。
【0037】
炭素(C):0.06~0.15%
鋼中の炭素(C)は、変態組織強化のために添加される非常に重要な元素である。Cは、高強度化を図り、複合組織鋼においてマルテンサイトの形成を促進する。Cの含量が増加すると、鋼中のマルテンサイト量が増加するようになる。しかし、その量が0.15%を超えると、マルテンサイトの強度は高くなるものの、炭素濃度の低いフェライトとの強度差が増加するようになる。このような強度差により、応力付加時に相間界面で破壊が発生しやすく、延性と加工硬化率が低下する。また、溶接性が低下するため、部品加工時に溶接欠陥が発生する可能性がある。これに対し、Cの含量が0.06%以下と低くなると、所望の強度を確保することが極めて困難になり得る。したがって、本発明において、Cの含量は0.06~0.15%に制限することが好ましく、場合によっては0.06~0.12%に制限することができる。
【0038】
シリコン(Si):1.2%以下(0は除く)
上記シリコン(Si)は、フェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進させ、未変態オーステナイトへのC濃縮を助長することにより、マルテンサイトの形成に寄与する元素である。また、固溶強化能がよく、フェライトの強度を高めて相間の硬度差を減らすのに効果的であり、鋼板の延性を低下させずに強度を確保することができる有用な元素である。しかし、Siの含量が1.2%を超えると、表面のスケール欠陥を誘発し、めっきの表面品質が低下し、かつ化成処理性が低下する可能性がある。したがって、本発明においてSiの含量は1.2%以下(0は除く)に制限することが好ましく、場合によっては1.0%以下(0は除く)に制限することができる。
【0039】
マンガン(Mn):1.7~2.7%
マンガン(Mn)は、延性の損傷なしに粒子を微細化させ、鋼中の硫黄を完全にMnSとして析出させてFeSの生成による熱間脆性を防止するとともに、鋼を強化させる元素である。また、Mnは、複合組織鋼において、マルテンサイト相が得られる臨界冷却速度を下げる役割を果たし、マルテンサイトをより容易に形成させることができる。上記効果を得て、本発明で目標とする強度を確保するためには、Mnの含量は1.7%以上であることが好ましい。一方、Mnの含量が2.7%を超えると、溶接性、熱間圧延性などの問題が発生する可能性が高く、マルテンサイトが過剰に形成されて材質が不安定であり、組織内のMn酸化物の帯(Mn-Band)が形成されて加工クラック及び板破断が発生する危険性が高くなるという問題がある。また、焼鈍時にMn酸化物が表面に溶出し、めっき性が大きく阻害されるという問題がある。したがって、本発明においてMnの含量は1.7~2.7%に制限することが好ましく、場合によっては1.8~2.5%に制限することができる。
【0040】
モリブデン(Mo):0.15%以下(0は除く)
モリブデン(Mo)は、オーステナイトがパーライトに変態されることを遅延させると同時に、フェライトの微細化及び強度向上のために添加する元素である。このようなMoは、鋼の硬化能を向上させ、マルテンサイトを結晶粒界(grain boundary)に微細に形成させて降伏比の制御が可能であるという利点がある。但し、高価な元素であって、その含量が高くなるほど製造上不利になるという問題があるため、その含量を適切に制御することが好ましい。上述の効果を得るために、最大0.15%で添加することが好ましい。上記Moの含量が0.15%を超えた場合、合金コストの急激な上昇を招き、経済性が低下し、過度な結晶粒微細化効果と固溶強化効果により、むしろ鋼の延性が低下するという問題が生じ得る。したがって、本発明においてMoの含量は0.15%以下(0は除く)に制限することが好ましい。
【0041】
クロム(Cr):1.0%以下(0は除く)
クロム(Cr)は、鋼の硬化能を向上させ、高強度を確保するために添加される成分であり、マルテンサイトの形成に非常に重要な役割を果たす元素であって、強度の上昇に比べて伸び率の低下を最小化させるため、高延性を有する複合組織鋼の製造にも有利である。特にCrは、熱間圧延過程でCr23C6のようなCr系炭化物を形成するが、この炭化物は焼鈍過程で一部は溶解し、一部は溶解せずに残って、冷却後にマルテンサイト内の固溶C量を適正水準以下に制御することがことができ、降伏点伸び(YP-El)の発生を抑制するため、降伏比の低い複合組織鋼の製造に有利な元素である。しかし、Crの含量が1.0%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、過度な熱延強度の増加により冷間圧延性が低下するという問題がある。また、Cr系炭化物の分率が高くなり、粗大化して焼鈍後にマルテンサイトの大きさも粗大化するため、伸び率の低下を招くという問題がある。したがって、本発明においてCrの含量は1.5%以下に制限することが好ましい。
【0042】
リン(P):0.1%以下
鋼中のリン(P)は、固溶強化効果が最も大きい置換型元素であって、面内異方性を改善し、成形性を大きく損なうことなく、強度の確保に最も有利な元素である。しかし、過剰に添加する場合、脆性破壊が発生する可能性が大幅に増加して熱間圧延の途中にスラブの板破断が発生する可能性があり、且つめっき表面の特性を阻害する元素として作用するという問題がある。したがって、本発明ではPの含量を最大0.1%に制御する。
【0043】
硫黄(S):0.01%以下
硫黄(S)は、鋼中に不可避に添加される不純物元素であって、延性及び溶接性を阻害する元素であるため、可能な限り低く管理することが重要である。特に、赤熱脆性を発生させる可能性を高めるという問題があるため、その含量を0.01%以下に制御することが好ましい。
【0044】
チタン(Ti):0.001~0.04%、ニオブ(Nb):0.001~0.04%
鋼中のチタン(Ti)及びニオブ(Nb)は、鋼板の強度上昇及びナノ析出物の形成による結晶粒微細化に有効な元素である。これらの元素を添加すると、炭素と結合して非常に微細なナノ析出物を形成し、このようなナノ析出物は、基地組織を強化させて相間の硬度差を減少させる役割を果たす。上記Ti及びNbの含量がそれぞれ0.001%未満である場合には、このような効果を確保しにくく、その含量がそれぞれ0.04%を超えると、製造コストの上昇及び過度な析出物によって、延性を大きく低下させる可能性がある。したがって、本発明においてTi及びNbの含量は、それぞれ0.001~0.04%に制限することが好ましく、場合によっては、Ti及びNbの含量をそれぞれ0.001~0.03%に制限することができる。
【0045】
窒素(N):0.01%以下
窒素(N)は、オーステナイトを安定化させるのに有効な作用をする成分であるが、0.01%を超える場合、鋼の精錬コストが急激に上昇するという問題がある。また、AlNの形成などにより、連鋳時にクラックが発生する危険性が大幅に増加するため、その上限を0.01%に限定することが好ましい。
【0046】
ボロン(B):0.01%以下(0は除く)
ボロン(B)は、焼鈍中、冷却する過程でオーステナイトがパーライトに変態することを遅延させる成分であって、フェライトの形成を抑制し、マルテンサイトの形成を促進する硬化能元素である。しかし、その含量が0.01%を超えると、表面に過剰なBが濃化してめっき密着性の低下を招く可能性があるため、その含量を0.01%以下に制御する。
【0047】
本発明の一側面による加工性に優れた冷延鋼板は、上述した成分以外に、追加的にアルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0は除く)、アンチモン(Sb):0.05%以下(0は除く)をさらに含むことができる。
【0048】
アルミニウム(sol.Al):1.0%以下(0は除く)
酸可溶アルミニウム(sol.Al)は、鋼の粒度微細化及び脱酸のために添加される元素であって、Siと同様にフェライト安定化元素であり、フェライト内の炭素をオーステナイトに分配してマルテンサイト硬化能を向上させるのに有効な成分である。また、ベイナイト領域で保持時、ベイナイト内炭化物の析出を効果的に抑制させ、鋼板の延性を向上させるのに有用な元素である。しかし、sol.Alの含量が1.0%を超えると、結晶粒微細化効果により強度の上昇には有利であるものの、製鋼の連鋳操業時に介在物の過剰形成によりめっき鋼板の表面不良が発生する可能性が高くなるのみならず、製造コストの上昇を招くという問題がある。したがって、本発明ではsol.Alの含量を1.0%に制御することが好ましい。
【0049】
アンチモン(Sb):0.05%以下(0は除く)
アンチモン(Sb)は、結晶粒界に分布し、Mn、Si、Alなど酸化性元素の結晶粒界を介する拡散を遅延させる元素であって、酸化物の表面濃化を抑制し、且つ、温度上昇及び熱延工程の変化に伴う表面濃化物の粗大化を抑制するのに優れた効果がある。しかし、その含量が0.05%を超えると、その効果が飽和するだけでなく、製造コスト及び加工性が低下するため、その含量を0.05%以下に制限する。
【0050】
上述した合金元素以外の残りは、鉄(Fe)成分である。但し、通常の製造過程では、原料または周囲環境からの意図されない不純物が不可避に混入することがあるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を詳細には言及しない。
【0051】
一方、本発明の一側面による加工性に優れた冷延鋼板は、厚さ1/4t地点の基地組織内のシリコン(Si)、炭素(C)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)の含量が下記関係式1を満たすことができる。
[関係式1]
([Si]+[C]×3)/([Mn]+[Mo]+[Cr])≧0.18
(ここで、[Si]、[C]、[Mn]、[Mo]、[Cr]はそれぞれ、冷延鋼板の厚さ1/4t地点におけるシリコン(Si)、炭素(C)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)の重量%である。)
【0052】
本発明の目的としてDP鋼の特性である低い降伏比を満たすと同時に、既存のDP鋼に比べて加工硬化率及び延性を向上させるためには、組織及び成分の制御が必須であり、まず、微細組織に少量のベイナイトを導入することが重要である。このようなベイナイトはフェライトとマルテンサイトの相間の硬度差を減らし、微細なナノサイズの析出物をフェライト内に析出させることで、更なる相間の硬度差を減らすことができる。
【0053】
Siはフェライト安定化元素であって、フェライト変態を促進させ、未変態オーステナイトへのC濃縮を助長することにより、マルテンサイトの形成に寄与する元素である。Cも未変態オーステナイトにC濃縮を助長することにより、マルテンサイトの形成及び分率の調整に寄与する元素である。一方、Mn、Mo、Crは、硬化能の向上に寄与する元素ではあるが、Si、Cのようにオーステナイト内のC濃縮に寄与する効果は相対的に低い。したがって、Si、C及びその他の硬化能元素であるMn、Mo、Crの割合をうまく調整することが重要であり、本発明では、関係式1によりこれらの成分の適正比率を制御している。
【0054】
また、厚さ1/4t地点の基地組織内のシリコン(Si)、炭素(C)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)の成分に関する関係式1を0.18以上に制御し、熱延及び焼鈍操業条件を最適化する場合、微細組織内に少量のベイナイトを導入することができると同時に、フレッシュマルテンサイトをベイナイトの内部または隣接した周辺に形成させることができる。ここでベイナイトの隣接した周辺とは、ベイナイト相の境界から1μm以内の領域と定義することができる。
図1に見られるように、上記関係式1の値が0.18以上の場合、微細組織内の全体フレッシュマルテンサイトのうちベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの占有比(Mb/Mt、以下「占有比(Mb/Mt)」又は「比(Mb/Mt)」ともいう)を60%以上確保することができる。また、これにより、全体フレッシュマルテンサイトのうち3μm以下の微細なフレッシュマルテンサイトの占有比(Msm/Mt、以下「占有比(Msm/Mt)」又は「比(Msm/Mt)」ともいう)を60%以上形成させることができる。
【0055】
一方、本発明の一側面による冷延鋼板は、微細組織が面積%で、フェライト10~70%、ベイナイト及び残留オーステナイトが合計で10~50%、残部はフレッシュマルテンサイトで構成されることができる。フェライト組織が10%未満であると、伸び率の確保が難しく、その分率が70%を超えると、十分な強度の確保が困難であるという問題がある。また、フレッシュマルテンサイト(Mt)の全体分率とベイナイトに隣接しているフレッシュマルテンサイト(Mb)の分率との比(Mb/Mt)が60%以上であってもよく、フレッシュマルテンサイト(Mt)の全体分率と平均粒度3μm以下の微細なフレッシュマルテンサイト(Msm)の分率との比(Msm/Mt)が60%以上であってもよい。ここで、フレッシュマルテンサイト(Mt)の全体分率は、鋼材の微細組織に占めるフレッシュマルテンサイトの全体分率として定義することができ、ベイナイトに隣接しているフレッシュマルテンサイト(Mb)の分率は、ベイナイトから1μmの距離以内の領域に存在するフレッシュマルテンサイトの分率として定義することができる。
【0056】
上述したように、関係式1を0.18以上に制御し、本発明の製造方法に従って熱延及び焼鈍操業条件を最適化する場合、
図1に示すように、全体フレッシュマルテンサイトのうち、ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの占有比(Mb/Mt)を60%以上確保することができる。そして、
図2に示すように占有比(Mb/Mt)が60%以上である場合、3μm以下の微細なフレッシュマルテンサイトが全体フレッシュマルテンサイトのうち60%以上の占有比(Msm/Mt)で形成され、相を微細かつ均一に分散させることができる。これにより、加工性を低下させるマルテンサイトバンドの形成を抑制することができる。しかし、仮に占有比(Mb/Mt)が60%未満で形成されると、占有比(Msm/Mt)が60%未満と低くなる。これにより、マルテンサイトバンド組織を形成するようになり、微細なフレッシュマルテンサイトの分散効果が消えるようになる。
【0057】
上述したように、占有比(Mb/Mt)を60%以上、占有比(Msm/Mt)を60%以上に精密制御した複合組織は、それぞれの相が微細かつ均一に分散されており、相間の硬度差が減少して、塑性変形の初期段階の低い応力で変形が開始され、降伏比が低くなり、変形を効果的に分散させることで、加工硬化率が高い特性を示すようになる。また、このような微細組織の変化はネッキング(necking)以降の局部的な応力及び変形の集中を緩和させ、延性破壊を起こすボイド(void)の生成及び成長、合体を遅延させるため、鋼材の延性が向上する効果がある。結果的に、
図3に示すように、占有比(Mb/Mt)を60%以上、そして占有比(Msm/Mt)を60%以上に制御した場合、加工硬化指数(n)、伸び率(El)、引張強度(TS)、降伏比(YR)に関する下記関係式2を満たすことができる、DP鋼の特性である低い降伏比を満しながら、既存のDP鋼に比べて加工硬化率及び延性を大幅に向上させた、優れた加工性を有する冷延鋼板を製造することができる。
【0058】
[関係式2]
n×El×TS/YR≧2500
(ここで、n、El、TS、YRは、それぞれ4~6%の変形区間で測定した加工硬化指数(n)、伸び率(El)、引張強度(TS)、降伏比(YR)である。)
【0059】
一方、上述した合金組成及び微細組織を有する冷延鋼板の表面に、溶融亜鉛めっき層が形成されていてもよく、上記溶融亜鉛めっき層を合金化熱処理した合金化溶融亜鉛めっき層が形成されていてもよい。
【0060】
次に、本発明の他の一側面による加工性に優れた冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0061】
本発明の他の一側面による加工性に優れた冷延鋼板の製造方法は、上述した合金組成のスラブを再加熱し熱間圧延した後、巻き取り及び冷却して熱延鋼板を得る段階、冷間圧延して冷延鋼板を得る段階、連続焼鈍する段階、連続焼鈍後に冷却(1次冷却、2次冷却、保持、3次冷却)する段階及び調質圧延を行う段階の過程からなっている。また、溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得るために保持する段階の後、3次冷却の前に溶融亜鉛めっき処理及び必要に応じて合金化熱処理を行うことができる。
【0062】
熱延鋼板を得る段階
まず、上述した合金組成を有する鋼スラブを準備し、一般的な条件で再加熱する。スラブ再加熱は、後続する熱間圧延を円滑に行い、目的とする鋼板の物性を得るために加熱する工程であって、本発明では、このような再加熱条件について特に制限しない。但し、非制限的な一実施形態として、1100~1300℃の温度範囲で再加熱することができる。
【0063】
上記再加熱されたスラブをAr3変態点以上の温度で、通常の条件で仕上げ熱間圧延して熱延鋼板を得ることができる。本発明では、熱間圧延条件について特に制限することなく、通常の熱間圧延条件を適用することができる。但し、非制限的な一実施形態として、仕上げ圧延出口側の温度がAr3~Ar3+50℃となるように熱間圧延することができ、場合によっては800~1000℃の仕上げ圧延出口側の温度範囲となるように熱間圧延することもできる。
【0064】
上記仕上げ熱間圧延された熱延鋼板を400~700℃で巻き取った後、巻き取り温度から常温まで0.1℃/s以下の平均冷却速度で冷却することができる。この時、上記平均冷却速度は、巻き取り温度と常温との間の冷却速度の平均値として定義することができる。上記巻き取り温度と冷却条件を満たすことにより、基地組織内にオーステナイトの核生成サイトとなる炭化物を微細に分散させた熱延鋼板を製造することができる。このように熱延過程で均一に分散された微細な炭化物を形成すると、後続する連続焼鈍時に上記炭化物が溶解しながら、オーステナイトを微細に分散形成させ、結果的に、焼鈍後に微細なマルテンサイトを均一に分散させることができる。
【0065】
冷延鋼板を得る段階
上記巻き取られた熱延鋼板を酸洗した後、40~70%の圧下率で冷間圧延を実施する。上記冷間圧下率が40%未満である場合、目標とする厚さを確保しにくく、さらに、鋼板の形状矯正が困難になり得る。一方、冷間圧下率が70%を超えると、鋼板のエッジ(edge)部のクラックが発生する可能性が高く、冷間圧延の負荷をもたらすという問題点がある。したがって、本発明では、上記冷間圧下率を40~70%に制限することが好ましい。
【0066】
連続焼鈍する段階
上記冷間圧延した鋼板をAc1+20℃~Ac3-20℃の温度範囲で連続焼鈍を実施する。より好ましくは、760~820℃の温度範囲で連続焼鈍を行うこともできる。また、上記連続焼鈍は、連続合金化溶融めっき連続炉にて行うこともできる。上記連続焼鈍は、再結晶と同時にフェライトとオーステナイトを形成し、炭素を分配するためのものである。上記連続焼鈍温度がAc1+20℃未満または760℃未満である場合、十分な再結晶が行われず、さらに、十分なオーステナイトを形成しにくく、焼鈍後に目標とするマルテンサイト及びベイナイト分率を確保することが困難となる。一方、Ac3-20℃または830℃を超えると、生産性が低下して過剰なオーステナイトが形成され、冷却後にベイナイト及びマルテンサイト分率が大幅に増加して降伏強度が増加し、延性が低下してDP鋼の特性である低降伏、高延性の特性を確保しにくい。また、Si、Mn及びBなどの溶融亜鉛めっきの濡れ性を低下させる元素による表面濃化が激しくなり、めっきの表面品質が低下する可能性がある。これを考慮して、本発明では、上記連続焼鈍温度をAc1+20℃~Ac3-20℃の温度範囲に制限することができ、場合によっては760~820℃であってもよい。
【0067】
冷却する段階
上記連続焼鈍された鋼板を連続焼鈍温度から630~670℃の1次冷却終了温度の範囲まで10℃/s以下の平均冷却速度で1次冷却し、急冷設備を用いて、上記1次冷却終了温度から400~500℃の2次冷却終了温度の範囲まで5℃/s以上の平均冷却速度で2次冷却してベイナイトを導入する。
【0068】
上記1次冷却は10℃/s以下の平均冷却速度で徐冷し、その1次冷却終了温度は630~670℃の温度範囲であってもよい。ここで、上記1次冷却終了温度は、1次冷却で適用されていない急冷設備が更に適用されて急冷が開始される時点として定義することができる。
【0069】
上記2次冷却は、5℃/s以上の平均冷却速度で急冷し、その2次冷却終了温度は400~500℃の温度範囲であってもよい。上記2次冷却は、上記1次冷却で適用されていない急冷設備が更に適用されて実施されることができ、好ましくは、H2ガスを用いた水素急冷設備を利用することができる。このとき、2次冷却終了温度は、ベイナイトが効果的に生成される400~500℃に制御されることが重要であるが、500℃を超えたり、400℃未満に下げたりすると、効果的なベイナイト分率が得られにくく、ベイナイトに隣接したフレッシュマルテンサイトの占有比を60%以上得ることができない。そのため、3μm未満の微細なフレッシュマルテンサイトの占有比を60%以上得ることができなくなり、結果的に、フレッシュマルテンサイトの微細化及び均一な分散効果が消えてしまい、目標通りの加工性を向上させることができない。
【0070】
その後、2次冷却終了温度で70秒以上保持してベイナイトに隣接している未変態オーステナイトに炭素を濃縮させた後、保持温度からMs~100℃以下の温度まで5℃/s以上の平均冷却速度で3次冷却することで、ベイナイトに隣接した領域に微細なフレッシュマルテンサイトを導入することができる。ここで、Msはマルテンサイトの変態開始温度(℃)を意味する。
【0071】
また、3次冷却後に鋼板の形状を矯正するための目的で、1%未満の圧下率で調質圧延を行うことができる。
【0072】
溶融亜鉛めっき及び合金化熱処理する段階
一方、2次冷却終了温度で70秒以上保持した後であり、上記3次冷却する前に、430~490℃の温度範囲で溶融亜鉛めっき処理を実施して鋼板上に溶融亜鉛めっき層を形成することができる。また、必要に応じて、合金化熱処理を行って合金化溶融亜鉛めっき層を形成することができる。
【実施例】
【0073】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。但し、下記実施例は、本発明を例示して具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではない点に留意する必要がある。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものであるためである。
【0074】
(実施例)
まず、下記表1の合金組成(単位はwt.%)を有する鋼スラブを準備した後、表2の製造条件によって冷間圧延鋼板及び溶融亜鉛めっき鋼板を製造した。
【0075】
【0076】
【0077】
上記のように製造されたそれぞれの鋼板について、機械的特性及びめっき特性、並びに微細組織の特性を評価し、その結果を下記表3に示した。このとき、それぞれの試験片に対する引張試験は、ASTM規格を用いてL方向に実施して引張物性を評価し、特に加工硬化率はVDA(ドイツ自動車協会)規格に記載されている変形率4~6%の区間での加工硬化率の値を測定した。
【0078】
微細組織の分率は、焼鈍処理された鋼板の板厚1/4t地点で基地組織を分析し、その結果を利用した。具体的に、Nital腐食後、FE-SEMとImage analyzerを用いてフェライト(F)、ベイナイト(B)、フレッシュマルテンサイト(Mt、Mb、Msm)、オーステナイト(A)の分率を測定した。
【0079】
【0080】
上記表3に見られるように、鋼組成の成分比及び製造工程が、本発明の範囲を外れるか、又は鋼の内部組織分率及び占有比が本発明の範疇を外れる比較例1~5の場合、関係式2(n×El×TS/YR)が2500未満と、本発明で目標とする鋼板の加工性を確保することができないことが確認できる。
【0081】
一方、成分の範囲が本発明の要件を満たしており、その微細組織が発明の範囲を満たしている発明例1~6の場合、関係式2(n×El×TS/YR)が2500以上と高く、本発明で目標とする鋼板の加工性を確保することができることが分かり、併せて、めっき特性も良好であることが分かる。
【0082】
以上、実施例を参照して説明したが、当該技術分野における熟練された通常の技術者であれば、下記の特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び領域から逸脱しない範囲内で、本発明を多様に修正及び変更することができることを理解することができる。