IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ エナジーウィズ株式会社の特許一覧

特許7611828樹脂部材、活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車
<>
  • 特許-樹脂部材、活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車 図1
  • 特許-樹脂部材、活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】樹脂部材、活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/76 20060101AFI20241227BHJP
   H01M 4/14 20060101ALI20241227BHJP
   H01M 4/68 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
H01M4/76 A
H01M4/14 R
H01M4/68 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021536833
(86)(22)【出願日】2020-06-22
(86)【国際出願番号】 JP2020024410
(87)【国際公開番号】W WO2021019958
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/029541
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322013937
【氏名又は名称】エナジーウィズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/003476(WO,A1)
【文献】特開2015-110773(JP,A)
【文献】特開昭52-156340(JP,A)
【文献】特開2002-164063(JP,A)
【文献】特開2011-150819(JP,A)
【文献】特公昭45-029539(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0269451(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/64-4/84
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質保持部材に用いられる樹脂部材であって、
ポリエステルを含む基材と、当該基材上に保持された樹脂と、を備え、
前記樹脂がエポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含み、
前記エポキシ樹脂の含有量が前記エポキシ樹脂及び前記アクリル樹脂の合計量を基準として0質量%を超え70質量%以下である、樹脂部材。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂の含有量が前記エポキシ樹脂及び前記アクリル樹脂の合計量を基準として0質量%を超え40質量%以下である、請求項1に記載の樹脂部材。
【請求項3】
厚さが0.05~1mmである、請求項1又は2に記載の樹脂部材。
【請求項4】
前記エポキシ樹脂及び前記アクリル樹脂の合計量が前記基材の全質量を基準として1~30質量%である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂部材。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の樹脂部材を備える、活物質保持部材。
【請求項6】
前記樹脂部材を含む筒状部を備え、
前記基材が不織布を含み、
前記筒状部の軸方向に対して前記不織布のMD方向及びCD方向が傾斜している、請求項5に記載の活物質保持部材。
【請求項7】
請求項6に記載の活物質保持部材と、当該活物質保持部材に保持された活物質と、を有する、電極。
【請求項8】
正極及び負極を備え、
前記正極及び前記負極からなる群より選ばれる少なくとも一種が、請求項7に記載の電極である、鉛蓄電池。
【請求項9】
前記正極及び前記負極の間に配置されたセパレータを更に備える、請求項8に記載の鉛蓄電池。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の鉛蓄電池を備える、電動車。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂部材、活物質保持部材、電極、鉛蓄電池及び電動車に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、産業用又は民生用の二次電池として広く用いられており、特に、電動車用鉛蓄電池(例えば自動車用鉛蓄電池。いわゆるバッテリー)、又は、UPS(Uninterruptible Power Supply)、防災(非常)無線用電源、電話用電源等のバックアップ用鉛蓄電池の需要が多い。
【0003】
鉛蓄電池では、活物質を保持(収容)可能な活物質保持部材が用いられることがある。例えば、鉛蓄電池は、活物質保持部材と、活物質保持部材内に挿入された芯金(集電体)と、活物質保持部材及び芯金の間に充填された電極材(活物質を含有する電極材)とを有する電極を備えている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-203506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、鉛蓄電池における電解液は硫酸を含む傾向がある。そのため、活物質保持部材を有する電極を用いた場合には、活物質保持部材が硫酸に接触する。しかしながら、従来、活物質保持部材が樹脂材料を含んでいると、活物質保持部材が硫酸に接触した際に活物質保持部材の機械強度(例えば引張強度)が低下する場合がある。活物質保持部材の機械強度が低下すると、充放電サイクルに伴い活物質保持部材が劣化しやすいことから、活物質保持部材から活物質が漏れ出す等して電池寿命が低下しやすい。したがって、活物質保持部材を得るための樹脂部材に対しては、硫酸に接触させたときの機械強度の低下が抑制されることが求められる。
【0006】
本発明の一側面は、硫酸に接触させたときの機械強度の低下を抑制可能な樹脂部材を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記樹脂部材を用いた活物質保持部材を提供することを目的とする。本発明の他の一側面は、前記活物質保持部材を有する電極、当該電極を備える鉛蓄電池、及び、当該鉛蓄電池を備える電動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面は、活物質保持部材に用いられる樹脂部材であって、ポリエステルを含む基材と、当該基材上に保持された樹脂と、を備え、前記樹脂がエポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含み、前記エポキシ樹脂の含有量が前記エポキシ樹脂及び前記アクリル樹脂の合計量を基準として0質量%を超え70質量%以下である、樹脂部材を提供する。
【0008】
このような樹脂部材によれば、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度(例えば引張強度)の低下を抑制できる。このような樹脂部材を用いて活物質保持部材を得ることにより、鉛蓄電池において活物質保持部材が硫酸に接触しても、活物質保持部材の機械強度の低下が抑制され、充放電サイクルに伴い活物質保持部材が劣化することが抑制されることにより電池寿命を充分に確保できる。
【0009】
本発明の他の一側面は、上述の樹脂部材を備える、活物質保持部材を提供する。
【0010】
本発明の他の一側面は、上述の活物質保持部材と、当該活物質保持部材に保持された活物質と、を有する、電極を提供する。
【0011】
本発明の他の一側面は、正極及び負極を備え、前記正極及び前記負極からなる群より選ばれる少なくとも一種が上述の電極である、鉛蓄電池を提供する。
【0012】
本発明の他の一側面は、上述の鉛蓄電池を備える、電動車を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一側面によれば、硫酸に接触させたときの機械強度の低下を抑制可能な樹脂部材を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記樹脂部材を用いた活物質保持部材を提供することができる。本発明の他の一側面によれば、前記活物質保持部材を有する電極、当該電極を備える鉛蓄電池、及び、当該鉛蓄電池を備える電動車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池を示す模式断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る鉛蓄電池を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0016】
比重は、温度によって変化するため、本明細書においては20℃で換算した比重と定義する。本明細書において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値と任意に組み合わせることができる。本明細書に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。本明細書に例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0017】
本実施形態に係る樹脂部材は、活物質保持部材に用いられる樹脂部材である。本実施形態に係る樹脂部材は、ポリエステルを含む基材と、当該基材上に保持された樹脂と、を備え、前記樹脂がエポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含み、前記エポキシ樹脂の含有量が前記エポキシ樹脂及び前記アクリル樹脂の合計量を基準として0質量%を超え70質量%以下である。本実施形態に係る樹脂部材は、シート状、筒状等であってよく、樹脂シート(シート状の樹脂部材)であってよい。
【0018】
本実施形態に係る活物質保持部材は、本実施形態に係る樹脂部材を備える。活物質保持部材は、電池の活物質を保持するための部材である。「活物質」には、化成後の活物質及び化成前の活物質の原料の双方が包含される。本実施形態に係る活物質保持部材は、本実施形態に係る樹脂部材を含む筒状部(例えば円筒状部)を備えてよい。筒状部は、本実施形態に係る樹脂部材により形成できる。活物質保持部材は、筒状部の内部に活物質を保持(収容)することができる。本実施形態に係る活物質保持部材は、複数の筒状部を備えてよい。
【0019】
本実施形態に係る電極は、本実施形態に係る活物質保持部材と、当該活物質保持部材に保持された活物質と、を有する。本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極及び負極を備え、正極及び負極からなる群より選ばれる少なくとも一種が、本実施形態に係る電極である。本実施形態に係る鉛蓄電池は、正極及び負極の間に配置されたセパレータを備えてよく、セパレータを備えていなくてもよい。本実施形態に係る鉛蓄電池は、電解液を備えてよい。電解液は、硫酸を含んでよい。本実施形態に係る鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池、制御弁式鉛蓄電池等であってよく、密閉型鉛蓄電池、開放型鉛蓄電池等であってよい。
【0020】
本実施形態によれば、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度(例えば引張強度)の低下を抑制できる。そのため、このような樹脂部材を用いて活物質保持部材を得ることにより、鉛蓄電池において活物質保持部材が硫酸に接触しても、活物質保持部材の機械強度の低下が抑制され、充放電サイクルに伴い活物質保持部材が劣化することが抑制されることにより電池寿命を充分に確保できる。ポリエステルは、正極から発生する酸素によって分解しづらい特長(耐酸化性)を有するものの、硫酸に対して劣化しやすい傾向がある。一方、本実施形態では、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含む樹脂が基材上に保持されているため、正極から発生する酸素によって分解しづらい特長を維持しつつ機械強度の低下を抑制できる。
【0021】
本実施形態に係る樹脂部材の基材におけるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレートなどが挙げられる。基材は、ポリエステル以外の材料を含んでよい。ポリエステル以外の材料としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネートなどが挙げられる。基材は、これらの材料の少なく一つ(例えばポリオレフィン)を含まなくてよい。
【0022】
ポリエステルの含有量は、基材を構成する樹脂の全量を基準として、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上が極めて好ましく、97質量%以上が非常に好ましく、99質量%以上がより一層好ましい。基材を構成する樹脂は、実質的にポリエステルからなる態様(実質的に、基材を構成する樹脂の100質量%がポリエステルである態様)であってもよい。
【0023】
基材としては、不織布、織布等を用いることができる。基材における繊維は配向していてよい。例えば、不織布は、不織布の製造におけるMD方向(機械方向)と、MD方向と直交するCD方向(幅方向)と、を有してよい。繊維がMD方向に配向しやすいことから、MD方向はCD方向よりも機械強度が高い傾向がある。そのため、CD方向における機械強度が高い不織布では、機械強度が相対的に低い方向(CD方向)においても機械強度が高い。
【0024】
基材は、細孔を有する多孔質体であってよい。基材は、下記範囲の平均細孔径を有する部分を備えることが好ましい。基材の平均細孔径は、電極材の流出を抑制しやすい観点から、60μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、45μm以下が更に好ましく、40μm以下が特に好ましい。基材の平均細孔径は、基材の電気抵抗が減少しやすい観点から、2μmを超えることが好ましく、5μm以上がより好ましく、10μm以上が更に好ましく、20μm以上が特に好ましく、30μm以上が極めて好ましく、35μm以上が非常に好ましい。これらの観点から、基材の平均細孔径は、2μmを超え60μm以下が好ましい。平均細孔径は、細孔分布測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、AUTO PORE IV 9520)により測定できる。
【0025】
基材の目付量は、基材の抵抗が減少しやすい観点から、200g/m以下が好ましく、150g/m以下がより好ましく、130g/m以下が更に好ましく、110g/m以下が特に好ましい。基材の目付量は、電池内における硫酸との接触による劣化、及び、充電時に発生する酸素による劣化に耐えやすい観点から、70g/m以上が好ましく、80g/m以上がより好ましく、90g/m以上が更に好ましく、100g/m以上が特に好ましい。これらの観点から、基材の目付量は、70~200g/mが好ましい。基材の目付量は、JIS L1913に準拠して測定される単位面積当たりの質量を意味する。
【0026】
基材上に保持される樹脂は、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含んでいる。エポキシ樹脂及びアクリル樹脂を用いることにより、硫酸劣化を抑制して機械強度を維持できる。
【0027】
アクリル樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構造単位を有する樹脂である。アクリル樹脂は、1種のモノマーのホモポリマーであってよく、2種以上のモノマーのコポリマーであってもよい。アクリル樹脂において(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構造単位の含有量は、アクリル樹脂を構成する構造単位の全質量を基準として、50質量%以上、70質量%以上又は90質量%以上であってよい。アクリル樹脂は、(メタ)アクリロイル基を有するモノマーに由来する構造単位からなる態様であってよい。
【0028】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリアジン骨格含有エポキシ樹脂、フルオレン骨格含有エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、キシリレン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、多環芳香族類(多官能フェノール類、アントラセン等)のジグリシジルエーテル化合物、これらにリン化合物を導入したリン含有エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0029】
エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量を基準として0質量%を超え70質量%以下である。この場合、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂を用いることにより硫酸劣化が抑制されて機械強度が維持される効果が充分に発現する。エポキシ樹脂の含有量は、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度の低下を抑制しやすい観点、及び、樹脂部材を硫酸に接触させたときの電気抵抗値を低減しやすい観点から、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下が更に好ましく、50質量%以下が特に好ましい。エポキシ樹脂の含有量は、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度の低下を更に抑制しやすい観点から、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましく、30質量%以下が特に好ましい。エポキシ樹脂の含有量は、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度の低下を抑制しやすい観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましく、20質量%以上が特に好ましい。エポキシ樹脂の含有量は、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度の低下を更に抑制しやすい観点、及び、樹脂部材を硫酸に接触させたときの電気抵抗値を低減しやすい観点から、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。エポキシ樹脂の含有量は、樹脂部材を硫酸に接触させたときの電気抵抗値を更に低減しやすい観点から、35質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、45質量%以上が更に好ましく、50質量%以上が特に好ましい。これらの観点から、エポキシ樹脂の含有量は、0質量%を超え65質量%以下が好ましく、0質量%を超え40質量%以下がより好ましい。エポキシ樹脂の含有量は、例えば、TG-DTAで確認することができる。
【0030】
基材上に保持される樹脂の含有量は、TG-DTA測定装置(例えば、株式会社リガク製、TG8120)を用いて以下の手順で測定できる。
まず、樹脂が保持された基材をすり潰したサンプルを熱重量・示差熱測定装置(TG-DTA)用の容器(アルミニウムパン)に5.0mg程度秤量し、その質量W1[mg]を記録する。測定装置において、不活性ガス(ヘリウム)を流量100ml/分で流す。昇温速度10℃/分で室温(例えば25℃)から100℃まで昇温し、100℃で10分間保持し、サンプル中の水分を除去する。その後、昇温速度10℃/分で380℃まで更に昇温し、380℃で20分間保持する。続いて、昇温速度10℃/分で500℃まで更に昇温し、500℃で5分間保持する。以上の昇温過程におけるサンプルの質量減少量W2[mg]を算出する。
一方、参照用サンプルとして、樹脂が保持されていない基材のみについても同様に昇温し、この昇温過程における参照用サンプルの質量減少量W3[mg]を算出する。
樹脂の含有量は、サンプルの質量W1に対する、サンプルの質量減少量W2と参照用サンプルの質量減少量W3との差の割合「(W2-W3)/W1×100(%)」として算出される。
【0031】
エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は、基材の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度の低下を抑制しやすい観点から、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましく、7質量%以上が特に好ましく、10質量%以上が極めて好ましく、12質量%以上が非常に好ましく、15質量%以上がより一層好ましい。エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度の低下を抑制しやすい観点から、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、15質量%以下が特に好ましい。これらの観点から、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は、1~30質量%が好ましい。
【0032】
基材上に保持される樹脂は、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂以外の樹脂を含んでよい。エポキシ樹脂及びアクリル樹脂以外の樹脂としては、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、スチレン樹脂等が挙げられる。
【0033】
エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は、基材上に保持される樹脂の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましく、95質量%以上が極めて好ましく、97質量%以上が非常に好ましく、99質量%以上がより一層好ましい。基材上に保持される樹脂は、実質的にエポキシ樹脂及びアクリル樹脂からなる態様(実質的に、基材上に保持される樹脂の100質量%がエポキシ樹脂及びアクリル樹脂である態様)であってもよい。
【0034】
樹脂は、基材の内表面上若しくは外表面上、又は、基材における細孔内の表面上(これらをまとめて、単に「基材上」ともいう。)に保持されてよく、基材上に付着していてもよい。樹脂は、基材上の一部に保持されていてもよく、基材上の全体に保持されていてもよい。
【0035】
化成後の鉛蓄電池の活物質保持部材における樹脂部材の基材上に保持された樹脂の含有量は、例えば、次の手順により測定することができる。まず、化成後の鉛蓄電池を解体し、電極を流水中で12時間水洗する。次に、電極を45℃で72時間、空気中で乾燥させる。続いて、電極から活物質保持部材を取り出す(例えば、上部連座と活物質保持部材との境界位置、及び、下部連座と活物質保持部材との境界位置を切断して活物質保持部材を取り出す)。そして、活物質保持部材内から芯金及び活物質を除去した後、樹脂部材の基材上に保持された樹脂の含有量を測定する。
【0036】
本実施形態に係る樹脂部材において、水銀圧入法で測定される0.006~0.1μmの範囲の孔は、全孔量のうちの10体積%未満であってよい。
【0037】
本実施形態に係る樹脂部材において、細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積Bに対する、細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積Aの比率A/Bは、1.40を超えてよい。総細孔体積は、細孔分布計(例えば、株式会社島津製作所製の商品名:AUTO PORE IV 9520)により測定することができる。比率A/Bは、基材上に保持された樹脂の種類又は使用量等により調整することができる。
【0038】
樹脂部材(例えば、シート状の樹脂部材)の厚さは、下記の範囲が好ましい。樹脂部材の厚さは、樹脂部材を硫酸に接触させたときの機械強度の低下を抑制しやすい観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.12mm以上が更に好ましく、0.15mm以上が特に好ましく、0.18mm以上が極めて好ましく、0.2mm以上が非常に好ましく、0.23mm以上がより一層好ましい。樹脂部材の厚さは、樹脂部材の電気抵抗が減少しやすい観点から、1mm以下が好ましく、0.8mm以下がより好ましく、0.6mm以下が更に好ましく、0.5mm以下が特に好ましく、0.4mm以下が極めて好ましく、0.3mm以下が非常に好ましく、0.25mm以下がより一層好ましい。これらの観点から、樹脂部材の厚さは、0.05~1mmが好ましい。樹脂部材の厚さとしては、厚さの平均値を用いてよい。厚さの平均値は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0039】
本実施形態に係る活物質保持部材における筒状部は、活物質を収容する内部空間を有している。筒状部の軸方向(長手方向)に垂直な断面形状は、円形、楕円形、角丸四角形等であってよい。筒状部の長さは、例えば160~650mmである。筒状部の外径は、例えば5~12mmである。筒状部の内径は、例えば5~10mmである。本実施形態に係る活物質保持部材は、筒状部からなる態様であってよく、筒状部以外の部分を備える態様であってよい。
【0040】
本実施形態に係る活物質保持部材は、筒状部の軸方向に直交する方向に複数(例えば、2~19本)の活物質保持部材の筒状部が配列されることにより活物質保持用チューブ群を構成してよい。活物質保持用チューブ群において複数の活物質保持部材の筒状部は互いに並設されている。複数の筒状部が互いに並設した構造は、互いに別体である筒状部を並設することにより得られてもよく、互いに対向する基材間に複数の貫通孔を形成することにより得られてもよい。隣接する筒状部間には、縫目(縫合部)等の接続部が配置されていてもよい。活物質保持部材の形式としては、スパイラル型、ガントレット型等が挙げられる。スパイラル型では、樹脂シートが螺旋状に巻き回されることにより筒状部が形成される。ガントレット型では、互いに対向する樹脂シートを接合(例えば縫合)することにより筒状部が形成される。活物質保持部材では、互いに対向する一対の辺を有する樹脂シートの当該一対の辺が筒状部の軸方向に向いた状態で筒状部の周方向に樹脂シートが巻き回されることにより筒状部が形成されてもよい。活物質保持部材では、樹脂シートが渦巻状に巻き回されることにより筒状部が形成されてもよい。
【0041】
「螺旋状」とは、所定方向に延在する中心軸の周囲を周回しながら当該中心軸の延在方向に進行することを意味する。「渦巻状」とは、同一平面内で周回することを意味する。例えば、螺旋状の場合、樹脂シートが巻き回されるに伴い筒状部が伸長するのに対し、渦巻状の場合、樹脂シートが巻き回されるに伴い筒状部が厚くなるものの筒状部は伸長しない。螺旋状の場合における巻き回し方向(反時計回り又は時計回り)は、中心軸に対する樹脂シートの回転方向を意味する。渦巻状の場合における巻き回し方向(反時計回り又は時計回り)は、筒状部の内層から外層に向かって樹脂シートが巻き回される際の巻き回し方向を意味する。樹脂シートは、少なくとも一周巻き回されていればよく、一周を超えて巻き回されていてよく、複数回巻き回されていてよい。
【0042】
筒状部を備える活物質保持部材において基材が不織布を含む場合、筒状部の軸方向に対して不織布のMD方向及びCD方向が傾斜していることが好ましい。筒状部の軸方向に対するMD方向又はCD方向の傾斜角度は、繊維配向に起因する機械強度の影響を抑制しやすいため電池寿命を充分に確保しやすい観点から、下記の範囲が好ましい。傾斜角度は、0°を超えることが好ましく、10°以上がより好ましく、20°以上が更に好ましく、30°以上が特に好ましく、40°以上が極めて好ましく、43°以上が非常に好ましい。傾斜角度は、90°未満が好ましく、80°以下がより好ましく、70°以下が更に好ましく、60°以下が特に好ましく、50°以下が極めて好ましく、47°以下が非常に好ましい。これらの観点から、傾斜角度は、0°を超え90°未満が好ましく、10~80°がより好ましく、43~47°が更に好ましい。傾斜角度が45°である場合には、繊維配向に起因する機械強度の影響を最も抑制しやすいと推測される。
【0043】
本実施形態に係る電極は、活物質保持部材(例えば筒状部)内に挿入された芯金(集電体)を有してよい。本実施形態に係る電極は、筒状部を備える活物質保持部材と、筒状部内に挿入された芯金と、筒状部及び芯金の間に充填された活物質を有してよい。本実施形態に係る電極は、活物質保持用チューブ群を有してよい。
【0044】
芯金は、活物質保持部材(例えば筒状部)内に挿入される棒状部材であり、例えば、筒状部の中心部において筒状部の軸方向に伸びている。芯金は、例えば、加圧鋳造法により鋳造して得ることができる。芯金の構成材料としては、導電性材料であればよく、例えば、鉛-カルシウム-錫系合金、鉛-アンチモン-ヒ素系合金等の鉛合金が挙げられる。鉛合金は、セレン、銀、ビスマス等を含んでいてよい。芯金の軸方向(長手方向)に垂直な断面形状は、円形、楕円形等であってよい。芯金の長さは、例えば160~650mmである。芯金の直径は、例えば2.0~4.0mmである。
【0045】
本実施形態に係る鉛蓄電池は、電極(正極及び負極)を収容する電槽を備えてよい。電極は、電極群を構成していてよい。例えば、電極群では、正極及び負極がセパレータを介して交互に配置されている。正極及び負極の間にシリカ粒子が配置されていなくてよい。電槽内は、電解液で満たされていてよい。電解液は、アルミニウムイオン、ナトリウムイオン、リチウムイオン等を含んでいてよい。電解液は、シリカ粒子を含有しなくてよい。
【0046】
化成後の電極(正極又は負極)は、活物質を含有する電極材(正極材又は負極材)を有している。また、電極(正極又は負極)は、集電体を有してよい。電極材は、活物質保持部材、集電体等により保持することができる。正極材は、例えば、本実施形態に係る活物質保持部材に保持されている。負極材は、活物質保持部材、集電体等のいずれにより保持されてもよい。
【0047】
正極材は、化成後において正極活物質を含有している。化成後の正極材は、例えば、正極活物質の原料を含む未化成の正極材を化成することで得ることができる。化成後の正極材を得る方法としては、正極活物質の原料を活物質保持部材(例えば筒状部)に直接投入した後に化成する方法、正極活物質の原料を含む正極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の正極材を得た後に未化成の正極材を化成する方法等が挙げられる。正極活物質の原料としては、鉛粉、鉛丹等が挙げられる。化成後の正極材における正極活物質としては、二酸化鉛等が挙げられる。
【0048】
正極材は、必要に応じて添加剤を更に含有することができる。正極材の添加剤としては、補強用短繊維等が挙げられる。補強用短繊維としては、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維(PET繊維)等が挙げられる。
【0049】
負極材は、化成後において負極活物質を含有している。化成後の負極材は、例えば、負極活物質の原料を含む未化成の負極材を化成することで得ることができる。化成後の負極材は、例えば、負極活物質の原料を含む負極材ペーストを熟成及び乾燥することにより未化成の負極材を得た後に未化成の負極材を化成することで得ることができる。負極活物質の原料としては、鉛粉等が挙げられる。化成後の負極材における負極活物質としては、多孔質の海綿状鉛(Spongy Lead)等が挙げられる。
【0050】
負極材は、必要に応じて添加剤を更に含有することができる。負極材の添加剤としては、硫酸バリウム、補強用短繊維、炭素材料(炭素質導電材)等が挙げられる。補強用短繊維としては、正極材と同様の補強用短繊維を用いることができる。
【0051】
炭素材料としては、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスブラック(ケッチェンブラック(登録商標)等)、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラックなどが挙げられる。
【0052】
セパレータの材料としては、正極と負極との電気的な接続を阻止し、電解液を透過させる材料であれば特に限定されない。セパレータの材料としては、微多孔性ポリエチレン;ガラス繊維及び合成樹脂の混合物等が挙げられる。
【0053】
本実施形態に係る樹脂部材、活物質保持部材及び電極は、液式鉛蓄電池において用いられること(液式鉛蓄電池用の樹脂部材、活物質保持部材及び電極)が好ましく、本実施形態に係る鉛蓄電池は、液式鉛蓄電池であることが好ましい。一般に、液式鉛蓄電池では、電極の全体が電解液中に浸漬される傾向があり、制御弁式鉛蓄電池等と比較して電解液の量が多い傾向がある。この場合、電解液量によって放電容量が規制されにくいため、放電容量を大きくしやすい傾向がある。しかしながら、液式鉛蓄電池では、電解液の成層化によって電極の下方の領域における硫酸の濃度が高まり、電極における活物質保持部材の下方の樹脂部材が劣化しやすい。また、液式鉛蓄電池では、経年劣化(充放電サイクルに起因する劣化を包含する)が進むことによって活物質(例えば正極活物質)の泥状化が進行し、活物質が漏出しやすい状態となる。これらの場合において、硫酸に接触させたときに樹脂部材の機械強度が低下していると、活物質が顕著に漏出する。一方、本実施形態に係る樹脂部材においては、硫酸に接触させたときに樹脂部材の機械強度が低下することを抑制できることから、活物質の漏出を抑制しつつ液式鉛蓄電池の長所を活かすことができる。
【0054】
図1及び図2を用いて、本実施形態に係る鉛蓄電池の一例を説明する。図1及び図2は、鉛蓄電池の一例を示す模式断面図である。図1では、図面の手前側から奥側にかけて、セパレータを介して正極及び負極が交互に配置されている。図1(b)は、図1(a)の領域Pを示す拡大図である。図1(a)では、チューブ内の詳細、及び、チューブ同士が隣接する部分の詳細の図示を省略している。図1及び図2に示される鉛蓄電池は、鉛直方向に伸びる電槽を備えており、図2は、鉛直方向の上方(電槽の高さ方向の上方)から鉛蓄電池を見た際の正極、負極及びセパレータの積層構造を示している。
【0055】
図1及び図2に示される鉛蓄電池100は、電極群110と、電極群110を収容する電槽120と、電極群110に接続された連結部材130a,130bと、連結部材130a,130bに接続された極柱140a,140bと、電槽120の注液口を閉塞する液口栓150と、電槽120に接続された支持部材160と、を備えている。
【0056】
電極群110は、複数の正極10と、複数の負極20と、複数のセパレータ30とを備えている。正極10及び負極20は、セパレータ30を介して交互に配置されている。セパレータ30間における正極10の周囲の空間には、電解液40が充填されている。
【0057】
正極10は、例えば、板状の電極(正極板)であり、活物質保持用の複数のチューブ(活物質保持部材)10aと、芯金(集電体)10bと、正極材10cと、下部連座10dと、上部連座10eと、耳部10fと、を有している。正極10のチューブ10aは、活物質を含む正極材10cを収容可能な筒状部からなる。
【0058】
複数のチューブ10aは、互いに並設されており、活物質保持用チューブ群50を構成している。すなわち、正極10は、活物質保持用チューブ群50を有している。各チューブ10aは、電槽120の高さ方向(鉛直方向)に伸びている。芯金10bは、チューブ10aの中心部においてチューブ10aの軸方向に伸びている。正極材10cは、チューブ10a及び芯金10bの間に充填されている。
【0059】
下部連座10dは、チューブ10aの一端(図中、下側の端部)に接続されており、上部連座10eは、チューブ10aの他端(図中、上側の端部)に接続されている。下部連座10d及び上部連座10eは、チューブ10aと、チューブ10a内に配置された芯金10b及び正極材10cとに接しており、チューブ10aと芯金10bと正極材10cとを保持している。下部連座10dは、チューブ10aにおける電槽120の底部側の端部(チューブ10aの一端側の末端)に取り付けられている。下部連座10dは、チューブ10aの端部に嵌合しており、チューブ10aの軸方向に直交する方向に伸びる基部と、当該基部に接続されると共にチューブ10aの端部に嵌合する複数の嵌合部とを有している。嵌合部には、芯金10bの端部が差し込まれる凹部が形成されている。上部連座10eは、チューブ10aにおける電槽120の上部側の端部(チューブ10aの他端側の末端)に取り付けられている。
【0060】
耳部10fの一端(図中、下側の端部)は上部連座10eに接続され、耳部10fの他端(図中、上側の端部)は連結部材130aに接続されている。チューブ10a内に収容された芯金10bは、上部連座10e、耳部10f及び連結部材130aを介して極柱140aに電気的に接続されている。
【0061】
支持部材160はチューブ10aの軸方向(長手方向。例えば電槽120の高さ方向)に伸びる複数の突起部160aを有しており、下部連座10dは複数の突起部160aに当接して固定されている。すなわち、支持部材160は、下部連座10dにおける電槽120の底面側の部分を各突起部160aによって支持している。
【0062】
負極20は、例えば板状であり、例えばペースト式負極板である。負極20は、負極集電体と、当該負極集電体に保持された負極材と、を有する。負極集電体としては、板状の集電体を用いることができる。負極集電体、及び、正極10の芯金10bの組成は、互いに同一であってよく、互いに異なっていてよい。負極20は、連結部材130bを介して極柱140bに電気的に接続されている。
【0063】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、活物質保持部材を有する電極を含む構成部材を組み立てて鉛蓄電池を得る組み立て工程を備える。組み立て工程では、例えば、未化成の正極及び未化成の負極を積層すると共に、同極性の電極の集電部をストラップで溶接させて電極群を得る。この電極群を電槽内に配置して未化成の電池を作製する。未化成の正極及び未化成の負極は、セパレータを介して積層してよい。
【0064】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、組み立て工程の前に、樹脂部材を用いて活物質保持部材を作製する活物質保持部材作製工程を備えてよい。活物質保持部材作製工程は、ポリエステルを含む基材を筒状に成形して筒状部を得る成形工程を有してよい。活物質保持部材作製工程における樹脂部材の基材には、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含む樹脂が保持されていてよく、保持されていなくてもよい。第1の態様として、成形工程では、樹脂シートを螺旋状又は渦巻状に巻き回すことにより筒状部を形成してよい。第2の態様として、成形工程では、互いに対向する樹脂シートを接合することにより筒状部を形成してよい。第3の態様として、成形工程では、互いに対向する一対の辺を有する樹脂シートの当該一対の辺が筒状部の軸方向に向いた状態で筒状部の周方向に樹脂シートが巻き回されることにより筒状部が形成されてもよい。活物質保持部材作製工程では、成形工程の後に、筒状部の軸方向に直交する方向に複数の筒状部を配列することにより活物質保持用チューブ群を得てもよい。
【0065】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、組み立て工程の前であって活物質保持部材作製工程の前又は後に、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂を含む樹脂を基材に保持させる樹脂担持工程を備えてよい。樹脂担持工程では、樹脂を水に分散させたエマルジョンを基材に含浸させることにより、樹脂を基材に保持させることができる。エマルジョンを基材に含浸させた後に例えば60~130℃で1~3時間乾燥させてもよい。
【0066】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、活物質保持部材を有する電極を作製する電極作製工程を備えてよい。電極作製工程は、正極作製工程及び負極作製工程を有している。以下では、正極が活物質保持部材を有する場合について説明する。
【0067】
正極作製工程では、活物質保持部材(例えば筒状部)内に挿入された芯金と、活物質保持部材及び芯金の間に充填された正極材と、を有する正極を得る。正極作製工程では、例えば、筒状部内に芯金を配置した後、芯金及び筒状部の間に正極活物質の原料等を充填し、さらに、筒状部の下部末端を下部連座で塞ぐことにより、未化成の正極材を有する正極を得ることができる。正極作製工程では、筒状部の上部末端を上部連座で塞いでもよい。
【0068】
負極作製工程では、例えば、負極活物質の原料等を含む負極材ペーストを負極集電体(例えば集電体格子(鋳造格子体、エキスパンド格子体等))に充填した後に熟成及び乾燥を行うことにより、未化成の負極材を有する負極を得ることができる。
【0069】
本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法は、正極及び負極の化成処理を行う化成処理工程を備えてよい。化成処理工程は、組み立て工程の後に実施されてよく、組み立て工程前の電極作製工程において実施されてもよい(タンク化成)。化成処理工程では、例えば、正極及び負極が電解液に接触した状態で直流電流を通電することにより化成処理を行う。化成後の電解液の比重を適切な比重に調整することにより鉛蓄電池を得ることができる。
【0070】
本実施形態に係る電動車(例えば電気車)又は電源装置は、本実施形態に係る鉛蓄電池を備える。本実施形態に係る電動車又は電源装置の製造方法は、本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法により鉛蓄電池を得る工程を備える。本実施形態に係る電動車又は電源装置の製造方法は、例えば、本実施形態に係る鉛蓄電池の製造方法により鉛蓄電池を得る工程と、前記鉛蓄電池を含む構成部材を組み立てて電動車又は電源装置を得る工程とを備えている。電動車としては、フォークリフト、ゴルフカート等が挙げられる。電源装置としては、UPS、防災(非常)無線用電源、電話用電源等が挙げられる。本実施形態によれば、電動車用の鉛蓄電池(例えば電気車用の鉛蓄電池)が提供され、例えば、フォークリフト用の鉛蓄電池が提供される。本実施形態によれば、電源装置用の鉛蓄電池が提供される。
【0071】
電動車用の鉛蓄電池では、電池の高さ方向に電極の高さを大きく設計されやすい。そのため、電解液中の硫酸が下方に沈降しやすいことから、電解液の成層化によって電極の下方の領域における硫酸の濃度が高まり、電極における活物質保持部材の下方の樹脂部材が劣化しやすい。この場合において、硫酸に接触させたときに樹脂部材の機械強度が低下していると、活物質が顕著に漏出する。一方、本実施形態に係る鉛蓄電池は、硫酸に接触させたときに樹脂部材の機械強度が低下することを抑制できることから、活物質の漏出を抑制できるため、電動車においても好適に用いることができる。
【実施例
【0072】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明の内容を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0073】
<樹脂シートの作製>
(実施例1)
アクリル樹脂(DIC株式会社製、AJ-1800)及びエポキシ樹脂(DIC株式会社製、EN-0270)を含むエマルジョンをポリエステル製の不織布(ポリエチレンテレフタレートを含む。平均細孔径:38μm、目付量:108g/m)に1分間含浸させた。その後、100℃の恒温槽で1時間乾燥させて、基材に保持された樹脂を含む樹脂シートを得た。基材に保持されたエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は基材の全質量を基準として15質量%であり、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の質量比は20:80(エポキシ樹脂:アクリル樹脂)であった。
【0074】
(実施例2)
エマルジョンにおけるエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の使用量を変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂シートを作製した。基材に保持されたエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は基材の全質量を基準として15質量%であり、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の質量比は25:75(エポキシ樹脂:アクリル樹脂)であった。
【0075】
(実施例3)
エマルジョンにおけるエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の使用量を変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂シートを作製した。基材に保持されたエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は基材の全質量を基準として15質量%であり、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の質量比は30:70(エポキシ樹脂:アクリル樹脂)であった。
【0076】
(実施例4)
エマルジョンにおけるエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の使用量を変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂シートを作製した。基材に保持されたエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は基材の全質量を基準として15質量%であり、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の質量比は50:50(エポキシ樹脂:アクリル樹脂)であった。
【0077】
(比較例1)
エマルジョンにおいてエポキシ樹脂を用いることなくアクリル樹脂のみを用いることに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂シートを作製した。基材に保持されたアクリル樹脂の量は基材の全質量を基準として15質量%であり、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の質量比は0:100(エポキシ樹脂:アクリル樹脂)であった。
【0078】
(比較例2)
エマルジョンにおけるエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の使用量を変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂シートを作製した。基材に保持されたエポキシ樹脂及びアクリル樹脂の合計量は基材の全質量を基準として15質量%であり、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の質量比は75:25(エポキシ樹脂:アクリル樹脂)であった。
【0079】
(比較例3)
エマルジョンにおいてアクリル樹脂を用いることなくエポキシ樹脂のみを用いることに変更したこと以外は実施例1と同様にして樹脂シートを作製した。基材に保持されたエポキシ樹脂の量は基材の全質量を基準として15質量%であり、エポキシ樹脂及びアクリル樹脂の質量比は100:0(エポキシ樹脂:アクリル樹脂)であった。
【0080】
<樹脂シートの厚さ>
樹脂シートの厚さをノギスで10か所測定し、10か所の平均値を樹脂シートの厚さとして得た。結果を表1に示す。
【0081】
<細孔の評価>
実施例1~4の樹脂シートにおいて、水銀圧入法で測定される0.006~0.1μmの範囲の孔は、全孔量のうちの10体積%未満であった。
実施例1~4の樹脂シートにおいて、細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積Bに対する、細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積Aの比率A/Bは1.40を超えていた。樹脂シートの細孔体積比は、細孔分布に基づき算出した。樹脂シートの細孔分布は、細孔分布計(株式会社島津製作所製、商品名:AUTO PORE IV 9520)を用いて測定した。樹脂シートの細孔体積比は、細孔分布の測定結果より得られた各細孔の体積を「細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積」と「細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積」とに分離し、「細孔径10μm以上の細孔の総細孔体積」/「細孔径10μm未満の細孔の総細孔体積」に基づき算出した。
【0082】
<硫酸劣化評価>
上述の樹脂シートとしてシートA及びシートBの2枚を準備した。シートBを比重1.330(20℃)の硫酸へ投入した。シート内に硫酸が浸透するように12時間放置した後、70℃の恒温槽内でシートを保持し、3週間放置した。その後、流水でシートを充分に水洗した後、60℃の乾燥器内で24時間乾燥させた。
【0083】
硫酸に浸漬していないシートA、及び、硫酸に浸漬したシートBから20mm×70mmの試験片を切り出した。オートグラフ(EZ-FX、株式会社島津製作所製)を用いて、不織布のCD方向における試験片の引張強度を測定した。チャック間距離は20mm、引張速度は5mm/分に設定した。下記式より強度維持率[%]を測定した。結果を表1に示す。
強度維持率=[(シートBの引張強度)/(シートAの引張強度)]×100
【0084】
<電気抵抗測定>
SBA S0402に記載されている電気抵抗の試験用電槽の電流電極室に、電流電極として70mm×70mm×1mmの鉛板(JIS H 2105に規定する3種以上の板)を入れた。試験片を挿入する場所に、試験片を固定するためのスペーサを入れた後、試験用電槽の上縁から10mmの高さまで比重1.280(20℃)の硫酸を入れた。その後、飽和した硫酸カリウム水溶液を内部溶液とする硫酸第一水銀電極を電圧電極室に入れた後、25℃を保持しながら1時間静止した。その後、電気化学測定装置(北斗電工株式会社製、HZ-5000)を用いて1分間1000mAを通電させ、1分後の電気抵抗値R1を得た。
次に、上述の樹脂シートから70mm×70mmの5枚の試験片を切り出し、この試験片を比重1.280(20℃)の硫酸に25℃で24時間浸漬した。その後、上述の試験片1枚を、当該試験片をスペーサで挟んで固定した状態で、試験片を挿入する場所へ挿入した。この時、試験片における抵抗測定箇所の面積は6cmであった。上述の電気化学測定装置を用いて1分間1000mAを通電させ、1分後の電気抵抗値を得た。この測定を上述の5枚の試験片に対して実施し、5つの電気抵抗値の平均値R2を得た。
そして、下記式により電気抵抗値R(単位:mΩ/cm)を求めた。結果を表1に示す。
R = (R2-R1)/6×1000
【0085】
【表1】
【符号の説明】
【0086】
10…正極(電極)、20…負極(電極)、10a…チューブ(活物質保持部材)、100…鉛蓄電池。

図1
図2