(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】高アビディティWT1T細胞受容体とその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/725 20060101AFI20241227BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20241227BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20241227BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20241227BHJP
C12N 15/861 20060101ALI20241227BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20241227BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20241227BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241227BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20241227BHJP
A61K 35/17 20250101ALI20241227BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20241227BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20241227BHJP
C12N 5/0783 20100101ALN20241227BHJP
【FI】
C07K14/725
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/13
C07K19/00
C12N15/861 Z
C12N15/867 Z
C12N5/10
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/17
C07K16/30
C12N15/12
C12N5/0783
(21)【出願番号】P 2021554674
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(86)【国際出願番号】 US2020021916
(87)【国際公開番号】W WO2020185796
(87)【国際公開日】2020-09-17
【審査請求日】2023-03-09
(32)【優先日】2019-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】522256406
【氏名又は名称】フレッド ハッチンソン キャンサー センター
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,トーマス・エム
(72)【発明者】
【氏名】シャピュイ,オード・ジー
(72)【発明者】
【氏名】グリーンバーグ,フィリップ・ディー
【審査官】山本 匡子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/197492(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/112944(WO,A1)
【文献】特表2018-531044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C07K
C12Q
MEDLINE/BIOSIS/REGISTRY/CAPLUS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)α鎖可変(Vα)ドメインと、TCRβ鎖可変(Vβ)ドメイン
を含むT細胞受容体(TCR)であって、前記Vαドメインは、それぞれ、配列番号194、配列番号195、及び配列番号196又は12に示すCDR1α、CDR2α、及びCDR3αアミノ酸配列を含み、前記Vβドメインは、それぞれ、配列番号197、配列番号198、及び配列番号199又は1に示すCDR1β、CDR2β、及びCDR3βを含み、
前記TCRが、VLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と結合する、T細胞受容体。
【請求項2】
前記TCRが、8.5以上のIFNγ産生pEC
50値で、VLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と特異的に結合する、請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
前記TCRが、
さらに、CD8に非依存的に又はCD8の不在下で細胞表面上のVLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と特異的に結合する、請求項1又は2に記載のTCR。
【請求項4】
前記HLAが、HLA-A*201を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項5】
(a)前記Vαドメインが、配列番号34に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む;及び/又は
(b)前記Vβドメインが、配列番号23に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、
請求項1~4のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項6】
(a)Vαドメインが、配列番号253又は34のアミノ酸配列を含む又は配列番号253又は34のアミノ酸配列からなり、
(b)Vβドメインが配列番号242又は23のアミノ酸配列を含む又は配列番号242又は23のアミノ酸配列からなり、
(c)Vαドメインが、配列番号253のアミノ酸配列を含む又は配列番号253のアミノ酸配列からなり、及びVβドメインが配列番号242のアミノ酸配列を含む又は配列番号242のアミノ酸配列からなり、又は
(d)Vαドメインが、配列番号34のアミノ酸配列を含む又は配列番号34のアミノ酸配列からなり、及びVβドメインが配列番号23のアミノ酸配列を含む又は配列番号23のアミノ酸配列からなる、
請求項1~5のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項7】
前記TCRが、配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するTCRα鎖定常ドメインを含む、及び/又は
前記TCRが、配列番号45又は46のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性を有するTCRβ鎖定常ドメインを含む、
請求項1~6のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項8】
前記Vαドメイン及び前記Vβドメインが、
(i)それぞれ配列番号253及び配列番号242、又は
(ii)それぞれ配列番号34及び配列番号23
に記載のアミノ酸配列を含
む、請求項1~7のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項9】
前記Vαドメイン及び前記Vβドメインが、
(i)それぞれ、配列番号253及び配列番号242、又は
(ii)それぞれ、配列番号34及び配列番号23
に記載のアミノ酸配列からなる、請求項1~7のいずれか一項に記載のTCR.
【請求項10】
α鎖定常ドメイン及び/又はβ鎖定常ドメインを
さらに含み、前記α鎖定常ドメインが、配列番号47に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、前記β鎖定常ドメインが、配列番号45又は46に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項8又は9に記載のTCR。
【請求項11】
以下を含む、請求項1~10にいずれか一項に記載のTCR、
(i)Vαドメイン及びα鎖定常ドメインを含む、TCRα鎖であって、
(a)前記V
αドメインが、配列番号34で表されるアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性を有しており、前記α鎖定常ドメインが、配列番号47で表されるアミノ酸配列に対して少なくとも約98%の配列同一性を有する;
(b)前記Vαドメインが、配列番号253で表されるアミノ酸配列を含み、前記α鎖定常ドメインが、配列番号47で表されるアミノ酸配列を含む、又は
(c)前記Vαドメインが、配列番号253で表されるアミノ酸配列からなり、前記α鎖定常ドメインが、配列番号47で表されるアミノ酸配列からなる、及び/又は
(ii)Vβドメイン及びβ鎖定常ドメインを含む、TCRβ鎖であって、
(a)前記Vβドメインが、配列番号23に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%の配列同一性を有しており、前記β鎖定常ドメインが、配列番号45のアミノ酸配列を含むか若しくは配列番号46のアミノ酸配列に対して少なくとも約95%の配列同一性を有する;
(b)前記Vβドメインが、配列番号242で表されるアミノ酸配列を含み、前記β鎖定常ドメインが、配列番号45若しくは46で表されるアミノ酸配列を含む;
(c)前記Vβドメインが、配列番号242で表されるアミノ酸配列からなり、前記β鎖定常ドメインが、配列番号45若しくは46で表されるアミノ酸配列からなる;又は
(d)前記Vβドメインが、配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む、又は配列番号23で表されるアミノ酸配列からなり、前記β鎖定常ドメインが、配列番号46で表されるアミノ酸配列を含む、又は配列番号46で表されるアミノ酸配列からなる。
【請求項12】
(i)配列番号253で表されるアミノ酸配列を含むVαドメイン、及び配列番号47で表されるアミノ酸配列を含むα鎖定常ドメインを含むTCRα鎖、及び
(ii)配列番号242で表されるアミノ酸配列を含むVβドメイン、及び配列番号46で表されるアミノ酸配列を含むβ鎖定常ドメインを含むTCRβ鎖、
を含む、請求項1~11のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項13】
前記TCRがscTCRを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項14】
前記TCRがCARを含む、請求項1~12のいずれか一項に記載のTCR。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか一項に記載のTCRをコードする単離
されたポリヌクレオチド。
【請求項16】
前記ポリヌクレオチドが、配列番号48に記載のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列、又は配列番号48に記載のアミノ酸配列を含むアミノ酸配列、又は配列番号48に記載のアミノ酸配列からなるアミノ酸配列をコードする、請求項15に記載のポリヌクレオチド。
【請求項17】
配列番号64、75、86、97、108、109、111、122、133、144及び155のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド配列を含む、請求項15又は16のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項18】
(i)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、任意選択的に、前記コードされるポリペプチドが、CD8共受容体α鎖であるか若しくはCD8共受容体α鎖を含む、前記ポリヌクレオチド;
(ii)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、任意選択的に、前記コードされるポリペプチドが、CD8共受容体β鎖であるか若しくはCD8共受容体β鎖を含む、前記ポリヌクレオチド;又は
(iii)(i)のポリヌクレオチドと(ii)のポリヌクレオチド
を
さらに含む、請求項15~17のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項19】
(a)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと;
(b)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと;
(c)(a)のポリヌクレオチドと(b)のポリヌクレオチドの間に配置された自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチド
を含む、請求項18に記載のポリヌクレオチド。
【請求項20】
自己切断ペプチドをコードし、
(1)結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの間;及び/又は
(2)結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの間
に配置されたポリヌクレオチドをさらに含む、請求項18又は19に記載のポリヌクレオチド。
【請求項21】
インフレームで機能的に連結された
(i)(pnCD8α)-(pnSCP
1)-(pnCD8β)-(pnSCP
2)-(pnTCR);
(ii)(pnCD8β)-(pnSCP
1)-(pnCD8α)-(pnSCP
2)-(pnTCR);
(iii)(pnTCR)-(pnSCP
1)-(pnCD8α)-(pnSCP
2)-(pnCD8β);
(iv)(pnTCR)-(pnSCP
1)-(pnCD8β)-(pnSCP
2)-(pnCD8α);
(v)(pnCD8α)-(pnSCP
1)-(pnTCR)-(pnSCP
2)-(pnCD8β);又は
(vi)(pnCD8β)-(pnSCP
1)-(pnTCR)-(pnSCP
2)-(pnCD8α)
を含み、上記式中、
pnCD8αは、CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、
pnCD8βは、CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、
pnTCRは、TCRをコードするポリヌクレオチドであり、
pnSCP
1及びpnSCP
2は、各々独立して自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、前記ポリヌクレオチド及び/又は前記コードされる自己切断ペプチドは任意選択的に同一又は異なる、
請求項18~20のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項22】
前記コードされるTCRが、TCRα鎖とTCRβ鎖を含み、前記ポリヌクレオチドが、TCRα鎖をコードするポリヌクレオチドとTCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドの間に配置された自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項15~21のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項23】
前記コードされる自己切断ペプチドが、配列番号60~63のポリペプチドのいずれか1つのアミノ酸配列を含む、請求項22に記載のポリヌクレオチド。
【請求項24】
前記TCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖が、配列番号155に対して少なくとも95%の同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる、請求項22又は23に記載のポリヌクレオチド。
【請求項25】
前記コードされるTCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖が、配列番号48で表されるポリペプチドに対して少なくとも95%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項22~24のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド。
【請求項26】
発現制御配列に機能的に連結された請求項15~25のいずれか一項に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項27】
前記ベクターが、前記ポリヌクレオチドを宿主細胞に送達することが可能であり、任意選択的に、
前記宿主細胞が、造血幹細胞、造血前駆細胞又はヒト免疫系細胞であり、
さらに任意選択的に、前記免疫系細胞は、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞又は任意のその組み合わせであり、
さらに任意選択的に、前記T細胞が、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞又は任意のその組み合わせである、
請求項26に記載の発現ベクター。
【請求項28】
前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項26又は27に記載の発現ベクター。
【請求項29】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、γ-レトロウイルスベクター又はアルファ-ウイルスベクターである、請求項28に記載の発現ベクター。
【請求項30】
プラスミドベクター、コスミドベクター、RNAベクター又は線状若しくは環状のDNA若しくはRNA分子である、請求項26又は27に記載の発現ベクター。
【請求項31】
組換え宿主細胞をインビトロ又はエクスビボで製造する方法であって、請求項15~25のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド及び/又は請求項26~30のいずれか一項に記載の発現ベクターを、宿主細胞に導入することを含み、任意選択的に、宿主細胞は免疫細胞である、方法。
【請求項32】
請求項15~25のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド又は請求項26~30のいずれか一項に記載の発現ベクターを含む、宿主細胞。
【請求項33】
宿主細胞が、前記ポリヌクレオチドによりコードされるTCRをその細胞表面上に発現し、前記ポリヌクレオチドが、宿主細胞に対して異種である、請求項32に記載の宿主細胞。
【請求項34】
前記宿主細胞が、造血幹細胞、造血前駆細胞又はヒト免疫系細胞である、請求項32又は33に記載の宿主細胞。
【請求項35】
前記免疫系細胞が、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、樹状細胞又は任意のその組み合わせであり、任意選択的に、前記組合せが存在する場合には、CD4+T細胞とCD8+T細胞を含む、請求項34に記載の宿主細胞。
【請求項36】
前記免疫系細胞が、T細胞である、請求項34に記載の宿主細胞。
【請求項37】
前記T細胞が、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞又は任意のその組み合わせである、請求項36に記載の宿主細胞。
【請求項38】
(i)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドであって、任意選択的に、前記コードされるポリペプチドがCD8共受容体α鎖であるか若しくはCD8共受容体α鎖を含む、前記異種ポリヌクレオチド;
(ii)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドであって、任意選択的に、前記コードされるポリペプチドがCD8共受容体β鎖であるか若しくはCD8共受容体β鎖を含む、前記異種ポリヌクレオチド;又は
(iii)(i)のポリヌクレオチドと(ii)のポリヌクレオチド
を
さらに含み、任意選択的に、前記宿主細胞がCD4+T細胞を含む、請求項32~37のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項39】
(a)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドと;
(b)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドと;
(c)(a)のポリヌクレオチドと(b)のポリヌクレオチドの間に配置された自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドと
を含む請求項38に記載の宿主細胞。
【請求項40】
前記宿主細胞が、
(i)乳がん細胞株MDA-MB-468の腫瘍細胞;
(ii)膵腺癌細胞株PANC-1の腫瘍細胞;
(iii)乳がん細胞株MDA-MB-231の腫瘍細胞;
(iv)HLA-A2を発現する骨髄性白血病細胞株K562の腫瘍細胞であって、任意選択的に、前記HLA-A2がHLA-A*201を含む、前記腫瘍細胞;
(v)HLA-A2を発現する大腸がん細胞株RKOの腫瘍細胞であって、任意選択的に、前記HLA-A2がHLA-A*201を含む、前記腫瘍細胞;又は
(vi)(i)~(v)の腫瘍細胞の任意の組み合わせ
と同時に試料中に存在するときに、前記腫瘍細胞を殺傷することが可能である、請求項32~39のいずれか一項に記載の宿主細胞。
【請求項41】
前記宿主細胞と前記腫瘍細胞が32:1、16:1、8:1、4:1、2:1又は1.5:1の宿主細胞:腫瘍細胞比で前記試料中に存在するときに、前記宿主細胞が前記腫瘍細胞を殺傷することが可能である、請求項40に記載の宿主細胞。
【請求項42】
請求項32~41のいずれか一項に記載の宿主細胞と、薬学的に許容される基剤、希釈剤又は賦形剤とを含有する組成物。
【請求項43】
宿主CD4+T細胞と宿主CD8+T細胞を含有する、請求項42に記載の組成物。
【請求項44】
請求項1~14のいずれか一項に記載のTCR、及び薬学的に許容される基剤、賦形剤又は希釈剤、
請求項15~25のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、及び薬学的に許容される基剤、賦形剤又は希釈剤、
請求項26~30のいずれか一項に記載の発現ベクター、及び薬学的に許容される基剤、賦形剤又は希釈剤、
請求項32~41のいずれか一項に記載の宿主細胞、及び薬学的に許容される基剤、賦形剤又は希釈剤、又は、
請求項42又は43に記載の組成物
を含む、患者における過剰増殖性若しくは増殖性障害を治療するための医薬組成物。
【請求項45】
前記過剰増殖性又は増殖性障害が、造血器悪性腫瘍又は固形がんである、請求項44に記載の医薬組成物。
【請求項46】
前記造血器悪性腫瘍が、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性好酸球性白血病(CEL)、骨髄異形成症候群(MDS)、非ホジキンリンパ腫(NHL)又は多発性骨髄腫(MM)から選択される、請求項45に記載の医薬組成物。
【請求項47】
前記固形がんが、乳がん、卵巣がん、肺がん、胆道がん、膀胱がん、骨及び軟部組織癌腫、脳腫瘍、子宮頸がん、結腸がん、大腸腺癌、大腸がん、デスモイド腫瘍、胎児性がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、胃腺癌、多形性膠芽腫、婦人科腫瘍、頭頸部扁平上皮癌、肝臓がん、中皮腫、悪性黒色腫、骨肉腫、膵臓がん、膵管腺癌、原発性星細胞系腫瘍、原発性甲状腺がん、前立腺がん、腎臓がん、腎細胞がん、横紋筋肉腫、皮膚がん、軟部組織肉腫、精巣胚細胞腫瘍、尿路上皮がん、子宮肉腫又は子宮がんから選択される、請求項45に記載の医薬組成物。
【請求項48】
患者が医薬組成物を投与される前にリンパ球除去化学療法を受けたことがあり、任意選択的に、前記リンパ球除去化学療法は、シクロホスファミド、フルダラビン、抗胸腺細胞グロブリン又はその組み合わせを含むコンディショニングレジメンを含む、請求項44~47のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項49】
前記宿主細胞が、約10
7個/m
2~約10
11個/m
2の用量である、請求項44~48のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項50】
ウィルムス腫瘍タンパク質1(WT1)発現又は過剰発現に関連する増殖性又は過剰増殖性障害の治療用医薬の製造方法で使用するための、請求項1~14のいずれか一項に記載のTCR、請求項15~25のいずれか一項に記載のポリヌクレオチド、請求項26~30のいずれか一項に記載のベクター、請求項32~41のいずれか一項に記載の宿主細胞、又は請求項42若しくは43に記載の組成物、又は任意のその組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[背景技術]
遺伝子組換えT細胞による養子T細胞免疫療法は、腫瘍関連抗原を標的とするために抗体ベースのキメラ受容体1-3や高親和性TCR4-8等の親和性の十分な抗原受容体を使用した複数の試験で有望であることが分かっている。胸腺において多様性を生み出す自然過程は、長さとアミノ酸組成の異なる高度に多様なCDR3を生成するためにRAGによるTCR遺伝子再構成を利用しているが、中枢性免疫寛容により課せられる親和性限界内で有効な高親和性TCRを単離することは、候補の細胞内自己/腫瘍抗原が同定されている多様な悪性腫瘍に養子T細胞免疫療法を実施する際に依然として難題である9,10。また、TCR養子免疫療法は、MHCクラスIにより細胞表面上に提示される細胞内抗原を検出することができる。
【0002】
WT1タンパク質はその免疫特徴(Cheever et al.,Clin.Cancer Res.15:5323,2009)と、予後不良に至っている多くのアグレッシブな腫瘍タイプで発現されることから、臨床開発の魅力的な標的である。WT1は増殖と発がんを促進する遺伝子発現の調節に関与しており(Oji et al.,Jpn.J.Cancer Res.90:194,1999)、大半の高リスク白血病(Menssen et al.,Leukemia 9:1060,1995)、NSCLCの80%まで(Oji et al.,Int.J.Cancer 100:297,2002)、中皮腫の100%(Tsuta et al.,App.Immunohistochem.Mol.Morphol.17:126,2009)、及び婦人科悪性腫瘍の≧80%(Coosemans and Van Gool,Expert Rev.Clin.Immunol.10:705,2014)で過剰発現される。WT1タンパク質のいくつかのペプチドは、HLA-A*0201拘束性抗原である腫瘍関連抗原ペプチドであることが分かっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Cheever et al.,Clin.Cancer Res.15:5323,2009
【文献】Oji et al.,Jpn.J.Cancer Res.90:194,1999
【文献】Menssen et al.,Leukemia 9:1060,1995
【文献】Oji et al.,Int.J.Cancer 100:297,2002
【文献】Tsuta et al.,App.Immunohistochem.Mol.Morphol.17:126,2009
【文献】Coosemans and Van Gool,Expert Rev.Clin.Immunol.10:705,2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
白血病や腫瘍等の種々のがんに対するTCR免疫療法として、従来の方法に代わる高度にWT1抗原特異的な方法が明らかに必要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願に開示する実施形態は、これらの必要に対処すると共に、他の関連する利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】
図1A及び1Bは、高スループットシーケンシングストラテジーにより、WT1
37特異的TCRをどのように同定したかを示す。(A)WT1
37-45ペプチド/MHC四量体との結合性の高いTCRクロノタイプを同定するための初期シーケンシングストラテジーの模式図。
【
図1B】
図1A及び1Bは、高スループットシーケンシングストラテジーにより、WT1
37特異的TCRをどのように同定したかを示す。(B)全集団の百分率に対する選別集団の濃縮倍率を示し、選択したTCRをハイライト表示する。黒丸により示す全TCRを合成し、抗原特異性について評価した(合計27)。
【
図2】高レベルのCD8非依存的(CD8i)四量体と結合するTCRの機能的評価の結果を示す。内在性TCRα/β鎖を欠損するJurkat細胞でTCRコンストラクトを発現させた。各TCRのCD3発現に対する四量体染色を示す(CD3発現はトランスジェニックTCR表面発現に直接相関する)。
【
図3A】
図3A~3Cは、CD8非依存的(CD8i)四量体を使用した改変型高スループットシーケンシングストラテジーにより、他のWT1
37特異的TCRをどのように同定したかを示す。(A)CD8非依存的WT1
37ペプチド/MHC四量体との結合性の高いTCRクロノタイプを同定するための改変型シーケンシングストラテジーの模式図。
【
図3B】
図3A~3Cは、CD8非依存的(CD8i)四量体を使用した改変型高スループットシーケンシングストラテジーにより、他のWT1
37特異的TCRをどのように同定したかを示す。(B)全集団の百分率に対する初期選別集団の濃縮倍率と、(C)CD8i四量体を使用した場合の同様の解析を比較して示す。表面CD3レベルの低下とCD8i四量体との結合性に基づいて更に14のTCRを選択した。影(斜線パターン)丸により示す全TCRを合成し、抗原特異性について評価した。
【
図3C】
図3A~3Cは、CD8非依存的(CD8i)四量体を使用した改変型高スループットシーケンシングストラテジーにより、他のWT1
37特異的TCRをどのように同定したかを示す。(B)全集団の百分率に対する初期選別集団の濃縮倍率と、(C)CD8i四量体を使用した場合の同様の解析を比較して示す。表面CD3レベルの低下とCD8i四量体との結合性に基づいて更に14のTCRを選択した。影(斜線パターン)丸により示す全TCRを合成し、抗原特異性について評価した。
【
図4】選択したWT1
37TCRのCD8i四量体結合を示す。内在性TCRα/β鎖を欠損するJurkat細胞でTCRコンストラクトを発現させた。各TCRのCD3発現に対する四量体染色を示す(CD3発現はトランスジェニックTCR表面発現に直接相関する)。
【
図5A】
図5A及び5Bは、選択したTCRを初代CD8
+PBMCに形質導入した場合のIFNγアッセイにおけるペプチドEC
50の計算結果を示す。(A)ドナーPMBCから単離したCD8
+T細胞に選択したTCRを形質導入した。1週間後に、細胞から四量体
+CD8
+T細胞を選別し、拡大した。拡大した抗原特異的細胞をペプチドパルスしたT2標的細胞と4~6時間共培養し、フローサイトメトリーによりIFNγ産生を測定した。
【
図5B】
図5A及び5Bは、選択したTCRを初代CD8
+PBMCに形質導入した場合のIFNγアッセイにおけるペプチドEC
50の計算結果を示す。(B)IFNγ産生細胞の百分率を非直線回帰により用量反応曲線にフィットさせ、各TCRのペプチドEC
50を計算した。
【
図6】WT1
37特異的TCRを発現する初代CD8
+T細胞がWT1
+HLA-A2
+乳がん細胞株MDA-MB-468を効率的に殺傷することを示す。CD8+初代T細胞にTCRを形質導入し、四量体との結合性の高さで選別することにより精製し、CytoLight(R)Rapid Red色素で事前に染色しておいた乳がん細胞株MDA-MB-468に対して8:1の比で混合した(3本ずつ)。TCRを形質導入した各T細胞集団について指定時点で(生きた標的細胞の総数に相関する)赤色オブジェクト総面積を72時間にわたって計算した。TCRを形質導入したT細胞の持続性抗原に対する継続的応答性を評価するために、48時間後にMDA-MB-468細胞を追加した。
【
図7】TCR10.1を発現するCD4
+T細胞とCD8
+T細胞はいずれも反復インビトロチャレンジ後にWT1
+A2
+膵腺癌細胞株PANC-1を排除できることを示す。WT1
37TCR10.1を発現するようにCD4
+T細胞とCD8
+T細胞の両方に形質導入した。CD4
+T細胞には更にCD8α遺伝子とCD8β遺伝子を発現するように形質導入した。8日後に、形質導入した細胞を選別し、CD8
+四量体
+T細胞とCD4
+/CD8
+四量体
+T細胞を精製した。NucLight(R)Red色素を発現するように事前に形質導入しておいた膵腺癌細胞株PANC-1に対して8:1の比となるように、CD4+/CD8+、CD8+又はこれらの2集団(CD4とCD8)の混合物である抗原特異的細胞を混合した(3本ずつ)。TCRを形質導入した各T細胞集団について指定時点で(生きた標的細胞の総数に相関する)赤色オブジェクト総面積を計算した。TCRを形質導入したT細胞の持続性抗原に対する継続的応答性を評価するために、48時間後にPANC-1細胞を追加した。
【
図8】
図8A~8Dは、Schmittら(Nat.Biotechnol.35:1188,2017)のWT1p126ペプチド特異的C4TCRを形質導入したT細胞による腫瘍細胞株殺傷と、本開示のWT1p37ペプチド特異的TCR(WT1
37-45TCR15.1)を形質導入したT細胞による殺傷との比較を示す。C4TCRは、本開示のWT1p37ペプチド特異的TCRと比較してペプチド:MHC複合体に対する親和性が低いことに注目されたい。
【発明を実施するための形態】
【0007】
[詳細な説明]
本開示は、主要組織適合性複合体(MHC)(例えばヒト白血球抗原、HLA)に関連するアミノ酸37~45から構成されるWT1由来抗原ペプチド(別称WT137-45ペプチド又はp37ペプチド抗原;例えばVLDFAPPGA、配列番号59)に対して高い機能的アビディティを有するT細胞受容体(TCR)を提供する。このようなp37ペプチド抗原特異的TCRは例えば、WT1を過剰発現するがん等のがんを治療するために養子免疫療法に有用である。
【0008】
背景として、腫瘍は正常であった組織から発生するので、T細胞免疫療法の大半の腫瘍標的は自己抗原である。例えば、このような腫瘍関連抗原(TAA)はがん細胞では高レベルで発現されるが、他の細胞では発現されないか、又は最小限にしか発現されないと思われる。胸腺におけるT細胞発生中に、自己抗原と弱く結合するT細胞は胸腺内で生存することができ、更に発生・成熟することができるが、自己抗原と強く結合するT細胞は望ましくない自己免疫応答を生じるので免疫系により排除される。つまり、T細胞は、抗原と結合して外来侵入物に対して反応するように免疫系に準備させる(即ち、非自己抗原の認識)と同時に、自己免疫反応を防ぐ(即ち、自己抗原の認識)それらの相対能力により選別される。この寛容メカニズムにより、高い親和性で腫瘍(自己)抗原を認識できる天然T細胞は制限されるため、腫瘍細胞を有効に排除するT細胞は排除されてしまう。その結果、腫瘍抗原に特異的な高親和性TCRを有するT細胞は基本的に大半が免疫系により排除されるので、このような細胞を単離するのは困難である。
【0009】
本開示では、約15人の健康なドナーに由来する免疫細胞に高スループットシーケンシングアプローチを適用し、p37:MHC複合体に対して高い機能的アビディティを有するTCRを同定した。このストラテジーは、T細胞表面のTCR発現レベルが低い場合でも、TCRの選択が可能である。親和性と機能的アビディティが高く、p37に特異的な本開示のTCR(即ち、抗腫瘍効果が最大のもの)とその組成物を選択するために、全集団の百分率に対する選別集団の濃縮を使用した。機能的アビディティが高く、p37に特異的なこのようなTCRが同定されたT細胞は、(a)CD8に非依存的にp37ペプチド/MHC四量体と結合したもの、(b)ペプチドによるインビトロ拡大の程度が低いもの、(c)場合によっては、このような特徴をもたないT細胞における他のTCRの発現と比較してこのようなTCRをT細胞表面上に比較的低レベルで発現したものであった。合計27のTCRを合成し、p37抗原特異性について評価した(
図1B参照)。
【0010】
所定の実施形態において、WT1ペプチドに特異的なT細胞受容体(TCR)はTCRα鎖とTCRβ鎖を含み、前記TCRα鎖は、配列番号253~263及び34~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むVαドメインと、配列番号47のアミノ酸配列を有するα鎖定常ドメインを含み、前記TCRβ鎖は、配列番号253~263及び23~33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むVβドメインと、配列番号45又は46のアミノ酸配列を有するβ鎖定常ドメインを含み、このようなTCRは、T細胞表面でVLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と特異的に結合し、pEC50が8.5以上となるようにIFNγ産生を促進する。所定の実施形態において、選択されたTCRは、約10-8M以下のKDでVLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と特異的に結合し、又は前記高親和性TCRは、Schmitt et al.,Nat.Biotechnol.35:1188,2017に開示されているTCRと比較して低いkoff速度でVLDFAPPGA(配列番号59):HLA複合体から解離する。
【0011】
本願に記載する組成物と方法は、所定の実施形態において、WT1発現又は過剰発現(例えば、正常又は非疾患細胞中で検出可能なWT1発現レベルよりも統計的に有意に高いレベルでの検出可能なWT1発現)に関連する疾患及び病態の治療に治療有用性を有するであろう。このような疾患としては、造血器悪性腫瘍や固形がん等の種々の過剰増殖性障害又は増殖性障害が挙げられる。本願にはこれらの用途及び関連する用途の非限定的な例を記載するが、WT1ペプチド(例えばVLDFAPPGA(配列番号59)、別称WT137-45ペプチド又はp37ペプチド)に特異的な高親和性TCRを発現する組換えT細胞の使用などによるWT1抗原特異的T細胞応答のインビトロ、エクスビボ及びインビボ刺激が挙げられる。
【0012】
本開示をより詳細に記載する前に、本願で使用する所定の用語の定義を提供することが本開示の理解に役立つと思われる。その他の定義も本開示の随所に記載する。
【0013】
本願の記載において、全ての濃度範囲、百分率範囲、比の範囲又は整数範囲は、特に指定しない限り、明記する範囲内の全ての整数値を含み、適宜、(整数の10分の1や100分の1等の)その分数を含むものと理解されたい。また、ポリマーサブユニット、サイズ又は厚さ等のあらゆる物理的特徴に関して本願に明記する全ての数値範囲は、特に指定しない限り、明記する範囲内の全ての整数を含むものと理解されたい。本願で使用する「約」なる用語は、特に指定しない限り、指定した範囲、数値又は構造の±10%を意味する。当然のことながら、本願で使用する不定冠詞は列挙する要素の「1以上」を意味する。選択肢(例えば「又は」)の使用はその選択肢の一方、両方又は任意のその組み合わせを意味するものと理解されたい。本願で使用する「包含する」、「有する」及び「含む」なる用語は同義に使用され、これらの用語とその変形は非限定的であると解釈されたい。
【0014】
更に、当然のことながら、本願に記載する構造及び置換基の種々の組み合わせから得られる個々の化合物又は化合物群は、各化合物又は化合物群について個々に記載している場合と同程度まで本願により開示される。従って、特定の構造又は特定の置換基の選択は本開示の範囲内に含まれる。
【0015】
「から本質的に構成される」なる用語は「含む」と同義ではなく、請求項に具体的に記載された材料若しくは工程、又は請求される保護対象の基本的特徴に実質的に影響を与えない範囲で同等の材料若しくは工程を意味する。例えば、ドメイン、領域、モジュール又はタンパク質のアミノ酸配列が(例えばアミノ末端若しくはカルボキシ末端又はドメイン間のアミノ酸の)延長、欠失、突然変異又はその組み合わせを含み、前記延長等が合計でドメイン、領域、モジュール又はタンパク質の長さの最大20%(例えば最大15%、10%、8%、6%、5%、4%、3%、2%又は1%)までに相当し、前記ドメイン、領域、モジュール又はタンパク質の活性(例えば結合タンパク質の標的結合親和性)に実質的に影響を与えない(即ち、活性の低下が50%以内、例えば40%以内、30%以内、25%以内、20%以内、15%以内、10%以内、5%以内又は1%以内である)ときに、タンパク質ドメイン、領域若しくはモジュール(例えば結合ドメイン、ヒンジ領域、リンカーモジュール)又は(1以上のドメイン、領域若しくはモジュールを有していてもよい)タンパク質は特定のアミノ酸配列「から本質的に構成される」。
【0016】
一部の態様において本願で使用する「免疫系細胞」とは、(単球、マクロファージ、樹状細胞、巨核球及び顆粒球等の骨髄系細胞へと分化する)骨髄系前駆細胞と、(T細胞、B細胞及びナチュラルキラー(NK)細胞等のリンパ系細胞へと分化する)リンパ系前駆細胞の主要な2系列に分化する骨髄中の造血幹細胞に由来する免疫系のあらゆる細胞を意味する。代表的な免疫系細胞としては、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、制御性T細胞、幹細胞メモリーT細胞、ナチュラルキラー細胞(例えばNK細胞又はNK-T細胞)、B細胞及び樹状細胞が挙げられる。マクロファージと樹状細胞を「抗原提示細胞」又は「APC」と言う場合もあり、ペプチドと複合体化したAPCの表面の主要組織適合性複合体(MHC)受容体がT細胞の表面のTCRと相互作用するときにT細胞を活性化することができる特殊細胞である。
【0017】
一部の態様における「主要組織適合性複合体(MHC)」とは、ペプチド抗原を細胞表面に送達する糖タンパク質を意味することができる。MHCクラスI分子は、(3個のαドメインを有する)膜貫通α鎖と、非共有的に会合したβ2ミクログロブリンを有するヘテロダイマーである。MHCクラスII分子は、どちらも膜を貫通するα及びβの2種類の膜貫通型糖タンパク質から構成される。各鎖は2個のドメインを有する。MHCクラスI分子はサイトゾルに由来するペプチドを細胞表面に送達し、ペプチド:MHC複合体はCD8+T細胞により認識される。MHCクラスII分子は小胞系に由来するペプチドを細胞表面に送達し、CD4+T細胞により認識される。ヒトMHCをヒト白血球抗原(HLA)と言う。
【0018】
「T細胞」又は「Tリンパ球」は、胸腺内で成熟してT細胞受容体(TCR)を産生する免疫系細胞である。T細胞は、ナイーブT細胞(例えば抗原に曝露されたことがなく、TCMと比較してCD62L、CCR7、CD28、CD3、CD127及びCD45RAの発現が高く、CD45ROの発現が低い)、メモリーT細胞(TM)(例えば抗原に遭遇したことがあり、寿命が長い)、及びエフェクター細胞(抗原に遭遇したことがあり、細胞傷害性である)に関連する表現型又はマーカーを示すことができる。TMは、更にセントラルメモリーT細胞(TCM、例えばナイーブT細胞と比較してCD62L、CCR7、CD28、CD127、CD45RO及びCD95の発現が高く、CD54RAの発現が低い)とエフェクターメモリーT細胞(TEM、例えばナイーブT細胞又はTCMと比較してCD62L、CCR7、CD28、CD45RAの発現が低く、CD127の発現が高い)に関連する表現型又はマーカーを示すサブセットに分けることができる。エフェクターT細胞(TE)とは、抗原に遭遇したことがあるCD8+細胞傷害性Tリンパ球であり、TCMと比較してCD62L、CCR7、CD28の発現が低く、グランザイムとパーフォリンに陽性であるTリンパ球を意味することができる。ヘルパーT細胞(TH)としては、サイトカインを放出することにより他の免疫細胞の活性に影響を与えるCD4+細胞を挙げることができる。CD4+T細胞は適応免疫応答を活性化することと、抑制することができ、そのどちらの機能が誘導されるかは、他の細胞及びシグナルの存在に依存する。T細胞は公知技術を使用して採取することができ、抗体との親和性結合、フローサイトメトリー又は免疫磁気選択法等の公知技術により、種々のサブ集団又はその組み合わせを濃縮又は除去することができる。他の代表的なT細胞としては、CD4+CD25+(Foxp3+)制御性T細胞やTreg17細胞に加え、Tr1、Th3、CD8+CD28-、及びQa-1拘束性T細胞等の制御性T細胞が挙げられる。
【0019】
一部の態様における「T細胞受容体(TCR)」とは、MHC受容体と結合した抗原ペプチドと特異的に結合することが可能な免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーを意味する(可変結合ドメインと、定常ドメインと、膜貫通領域と、短い細胞質テールを有する;例えばJaneway et al.,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,3rd Ed.,Current Biology Publications,p.4:33,1997参照)。一部の態様において、TCRとは、本開示の2個のTCR可変ドメイン(Vα及びVβ)を含む結合タンパク質を意味する。一部の態様において、TCRは1本鎖TCR(即ち、本開示のTCR可変ドメインを含む1本鎖融合タンパク質)、又は(本願に記載する)本開示のTCR可変ドメインを含むCARを含む。一部の態様において、TCRは細胞の表面に存在していてもよいし、可溶形態でもよく、一般にα鎖とβ鎖(それぞれTCRα鎖及びTCRβ鎖とも言う)又はγ鎖とδ鎖(それぞれTCRγ及びTCRδとも言う)を有するヘテロダイマーから構成される。
【0020】
免疫グロブリンと同様に、TCR鎖(例えばα鎖、β鎖)の細胞外部分は、2個の免疫グロブリンドメインと、N末端の可変ドメイン(例えば、α鎖可変ドメイン又はVα、β鎖可変ドメイン又はVβ;一般的にKabat et al.,“Sequences of Proteins of Immunological Interest”,US Dept.Health and Human Services,Public Health Service National Institutes of Health,1991,第5版に記載のKabatナンバリングによるアミノ酸1~116)と、細胞膜に隣接する1個の定常ドメイン(例えば、一般的にKabatによるアミノ酸81~259に相当するα鎖定常ドメイン又はCα、一般的にKabatによるアミノ酸81~295に相当するβ鎖定常ドメイン又はCβ)を含む。更に免疫グロブリンと同様に、可変ドメインはフレームワーク領域(FR)に挟まれた相補性決定領域(CDR)を含む(例えば、Jores et al.,Proc.Nat’l Acad.Sci.U.S.A.87:9138,1990;Chothia et al.,EMBO J.7:3745,1988参照;更にLefranc et al.,Dev.Comp.Immunol.27:55,2003も参照)。所定の実施形態において、TCRはT細胞(又はTリンパ球)の表面に存在し、CD3複合体と会合する。本開示で使用するTCRの起源はヒト、マウス、ラット、ウサギ又は他の哺乳動物等の種々の生物種に由来することができる。
【0021】
「可変領域」又は「可変ドメイン」なる用語は、免疫グロブリンスーパーファミリー結合タンパク質(例えばTCR)と抗原の結合に関与する免疫グロブリンスーパーファミリー結合タンパク質のドメイン(例えばTCRα鎖又はβ鎖(又はγδTCRではγ鎖とδ鎖))を意味する。天然TCRのα鎖及びβ鎖の可変ドメイン(それぞれVα及びVβ)は一般に類似する構造であり、各ドメインは4個のほぼ保存されたフレームワーク領域(FR)と3個のCDRを含む。Vαドメインは可変部遺伝子セグメントと結合部遺伝子セグメント(V-J)の2個の別個のDNAセグメントによりコードされ、Vβドメインは、可変部遺伝子セグメントと多様部遺伝子セグメントと結合部遺伝子セグメント(V-D-J)の3個の別個のDNAセグメントによりコードされる。抗原結合特異性を付与するには1個のVα又はVβドメインで十分であると思われる。更に、それぞれ相補的Vα又はVβドメインのライブラリーをスクリーニングするために、特定の抗原と結合するTCRに由来するVα又はVβドメインを使用して前記抗原と結合するTCRを単離することができる。
【0022】
「相補性決定領域」及び「CDR」なる用語は「超可変領域」又は「HVR」と同義であり、免疫グロブリン(例えばTCR)可変領域内のアミノ酸配列であり、抗原特異性及び/又は結合親和性を付与し、一次アミノ酸配列においてフレームワーク領域により相互に分離されたアミノ酸配列を意味することが当技術分野で知られている。一般に、各TCRα鎖可変領域に3個のCDR(αCDR1、αCDR2、αCDR3)が存在し、各TCRβ鎖可変領域に3個のCDR(βCDR1、βCDR2、βCDR3)が存在する。TCRでは、CDR3がプロセシング後の抗原の認識に関与する主要なCDRであると考えられている。一般に、CDR1とCDR2は主に又は排他的にMHCと相互作用する。
【0023】
CDR1とCDR2はTCR可変領域をコードする配列の可変部遺伝子セグメント内でコードされ、CDR3はVαでは可変部セグメントと結合部セグメントにまたがる領域によりコードされ、Vβでは可変部セグメントと多様部セグメントと結合部セグメントにまたがる領域によりコードされる。従って、Vα又はVβの可変部遺伝子セグメントの種類が分かっているならば、例えば本願に記載するようなナンバリングスキームに従ってそれらの対応するCDR1及びCDR2の配列を推定することができる。CDR1及びCDR2と比較すると、CDR3は組換えプロセス中のヌクレオチドの付加と欠失により、一般的に著しく多様性が高い。
【0024】
TCR可変ドメイン配列をナンバリングスキーム(例えばKabat、Chothia、EU、IMGT、Enhanced Chothia及びAho)に整列させ、等価な残基の位置にアノテーションを付け、例えばANARCIソフトウェアツール(2016,Bioinformatics 15:298-300)を使用して種々の分子を比較することができる。ナンバリングスキームは、TCR可変ドメインにおけるフレームワーク領域とCDRの標準化配置を提供する。所定の実施形態において、本開示のCDRはIMGTナンバリングスキーム(Lefranc et al.,Dev.Comp.Immunol.27:55,2003;imgt.org/IMGTindex/V-QUEST.php)に従って識別される。所定の実施形態において、本開示のCDR3アミノ酸配列は、例えば本願中に記載するRAGによる再構成中に生じ得るような1個以上の結合部アミノ酸を含む。
【0025】
本願で使用する「CD8共受容体」又は「CD8」なる用語は、α-αホモダイマー又はα-βヘテロダイマーとしての細胞表面糖タンパク質CD8を意味する。CD8共受容体は細胞傷害性T細胞(CD8+)の機能を補助し、その細胞内チロシンリン酸化経路を介するシグナル伝達により機能する(Gao and Jakobsen,Immunol.Today 21:630-636,2000;Cole and Gao,Cell.Mol.Immunol.1:81-88,2004)。5種類の公知ヒトCD8β鎖アイソフォーム(UniProtKB識別名P10966参照)と、1種類の公知ヒトCD8α鎖アイソフォーム(UniProtKB識別名P01732参照)が存在する。
【0026】
「CD4」とは、TCRが抗原提示細胞とコミュニケーションをとるのを補助する免疫グロブリン共受容体糖タンパク質である(Campbell & Reece,Biology 909(Benjamin Cummings,Sixth Ed.,2002);UniProtKB識別名P01730参照)。CD4はTヘルパー細胞、単球、マクロファージ及び樹状細胞等の免疫細胞の表面に存在し、細胞表面で発現される4個の免疫グロブリンドメイン(D1~D4)を含む。抗原提示中に、CD4はTCR複合体と共に動員され、MHCII分子の種々の領域と結合する(CD4はMHCIIβ2と結合し、TCR複合体はMHCIIα1/β1と結合する)。理論に拘束する意図はないが、TCR複合体と近接することにより、CD4関連キナーゼ分子はCD3の細胞内ドメインに存在する免疫受容体チロシン活性化モチーフ(ITAM)をリン酸化することができると考えられる。この活性は、Tヘルパー細胞を含む種々の免疫系細胞を産生又は動員して免疫応答を生じるために、活性化されたTCRにより発生されるシグナルを増幅すると考えられる。
【0027】
一部の態様において本願で使用する「D/N/P領域」とは、多様部(D)遺伝子セグメント内に位置すると推定されるヌクレオチド又は前記ヌクレオチドによりコードされるアミノ酸を意味し、T細胞受容体の多様性に繋がるV(D)J組換え過程で挿入(又は欠失)される非鋳型依存的(N)ヌクレオチドとパリンドローム(P)ヌクレオチドを含むことができる。可変部(V)遺伝子セグメント、多様部(D)遺伝子セグメント及び結合部(J)遺伝子セグメントの組換え活性化遺伝子(RAG)による再構成は、(パリンドローム又はPヌクレオチドと称する)ヌクレオチドの変動的付加又は除去をもたらす不正確なプロセスであり、その後、末端デオキシヌクレオチド転移酵素(TdT)活性により、更にランダムな非鋳型依存的(N)ヌクレオチドが付加される。最後に、対合していないヌクレオチドはエキソヌクレアーゼにより除去され、ギャップはDNA合成・修復酵素により埋められる。このようなトリミング・修復機構は結合部多様性に繋がり、異なるTCRが異なる抗原を効率的で特異的に認識し易くなる。D遺伝子セグメントは、the international ImMunoGeneTics information system(IMGT;imgt.org)から提供されるアノテーションシステムを使用して同定することができる。
【0028】
一部の態様において、「CD3」とは6本のタンパク質鎖からなる多タンパク質複合体である(Abbas and Lichtman,2003;Janeway et al.,p172及び178,1999参照)。哺乳動物において、前記複合体はCD3γCD3γ鎖と、CD3δCD3δ鎖と、2本のCD3ε鎖と、CD3ζ鎖のホモダイマーを含む。CD3γ鎖、CD3δ鎖及びCD3ε鎖は、1個の免疫グロブリンドメインを含む免疫グロブリンスーパーファミリーのうちで近縁性の高い細胞表面タンパク質である。CD3γCD3γ鎖、CD3δ鎖及びCD3ε鎖の膜貫通領域は負に帯電しており、この特徴により、これらの鎖はT細胞受容体鎖の正に帯電した領域と会合することができる。CD3γ鎖、CD3δ鎖及びCD3ε鎖の細胞内テールは、各々免疫受容体チロシン活性化モチーフ又はITAMと呼ばれる1個の保存されたモチーフを含み、各CD3ζ鎖は3個のモチーフを有する。理論に拘束する意図はないが、ITAMはTCR複合体のシグナル伝達能に重要であると考えられる。本開示で使用されるCD3は、ヒト、マウス、ラット又は他の哺乳動物を含む種々の動物種に由来することができる。
【0029】
一部の態様において本願で使用する「TCR複合体」とは、CD3とTCRの会合により形成される複合体を意味する。例えば、TCR複合体は、CD3γCD3γ鎖と、CD3δ鎖と、2本のCD3ε鎖と、CD3ζ鎖のホモダイマーと、TCRα鎖と、TCRβ鎖から構成することができる。あるいは、TCR複合体は、CD3γCD3γ鎖と、CD3δ鎖と、2本のCD3ε鎖と、CD3ζ鎖のホモダイマーと、TCRγ鎖と、TCRδ鎖から構成することがきる。
【0030】
一部の態様において、本願で使用する「TCR複合体のコンポーネント」とは、TCR鎖(即ち、TCRα、TCRβ、TCRγ又はTCRδ)、CD3鎖(即ち、CD3γ、CD3δ、CD3ε又はCD3ζ)、又は2本以上のTCR鎖若しくはCD3鎖から形成される複合体(例えばTCRαとTCRβの複合体、TCRγとTCRδの複合体、CD3εとCD3δの複合体、CD3γとCD3εの複合体、又はTCRα、TCRβ、CD3γ、CD3δ及び2本のCD3ε鎖のサブTCR複合体)を意味する。
【0031】
本願で使用する「抗原」又は「Ag」とは、免疫応答を引き起こす免疫原性分子を意味する。この免疫応答は抗体産生、特定の免疫適格細胞(例えばT細胞)の活性化又はその両方を含むことができる。抗原(免疫原性分子)としては、例えばペプチド、糖ペプチド、ポリペプチド、糖ポリペプチド、ポリヌクレオチド、多糖、脂質等が挙げられる。当然のことながら、抗原は合成物でもよいし、組換え生産物でもよいし、生体試料に由来するものでもよい。1つ以上の抗原を含有する代表的な生体試料としては、組織試料、腫瘍試料、細胞、体液又はその組み合わせが挙げられる。抗原を発現するように改変若しくは遺伝子操作された細胞又は免疫原性の突然変異若しくは多形を内因的に(例えば、人為的介入による改変又は遺伝子操作を介さずに)発現する細胞により、抗原を産生させることができる。
【0032】
本願で使用する「ネオ抗原」とは、対象のゲノム内に(即ち、対象に由来する健康な組織の試料中に)従来認められなかった新規抗原若しくは抗原エピトープを生じるか、又は宿主の免疫系により「遭遇」若しくは認識された新規抗原若しくは抗原エピトープを生じる構造変化、変異又は突然変異を含む宿主細胞産物であり、(a)細胞の抗原プロセシング・輸送メカニズムによりプロセシングされ、MHC(例えばHLA)分子と会合した状態で細胞表面に提示され;(b)免疫応答(例えば細胞(T細胞)応答)を引き起こすものを意味する。ネオ抗原は、例えば変異産物又は突然変異産物をもたらす変異(置換、付加、欠失)を有するコーディングポリヌクレオチドに由来する場合や、外来核酸分子又はタンパク質の細胞挿入に由来する場合や、遺伝子変化をもたらす環境因子(例えば化学物質、放射線)への曝露に由来する場合がある。ネオ抗原は腫瘍抗原と別に生じる場合もあるし、腫瘍抗原から生じる場合や、腫瘍抗原と会合している場合もある。「腫瘍ネオ抗原」(又は「腫瘍特異的ネオ抗原」)とは、腫瘍細胞又は腫瘍内の複数の細胞に関連、由来又はその内部に生成するネオ抗原決定基を含むタンパク質を意味する。腫瘍ネオ抗原決定基は、例えば腫瘍細胞(例えば膵臓がん、肺がん、大腸がん)のDNAによりコードされる1か所以上の体細胞突然変異又は染色体再構成を含む抗原性腫瘍タンパク質又はペプチドや、ウイルス関連腫瘍に関連するウイルスオープンリーディングフレームに由来するタンパク質又はペプチドに存在する。
【0033】
「エピトープ」又は「抗原エピトープ」なる用語は、免疫グロブリン、T細胞受容体(TCR)、キメラ抗原受容体又は他の結合分子、ドメイン若しくはタンパク質等のコグネイトな結合分子に認識され、特異的に結合する任意の分子、構造、アミノ酸配列又はタンパク質決定基を含む。エピトープ決定基は一般にアミノ酸又は糖側鎖等の化学的に活性な表面分子群を含み、特定の三次元構造特徴と、特定の電荷特徴を有することができる。
【0034】
一部の態様において本願で使用する「特異的に結合する」又は「~に特異的」とは、見かけの親和性若しくはKA(即ち、1/Mの単位で表した特定の結合相互作用の平衡会合定数であり、この会合反応の会合速度定数[kon]と解離速度定数[koff]の比に等しい)が109M-1以上となり、又は機能的アビディティ若しくはEC50が10-9M以上となるように、T細胞受容体(TCR)又はその結合ドメイン(例えば、scTCR又はその融合タンパク質)が標的分子と会合又は結合し、試料中の他の分子又は成分とは有意に会合又は結合しないことを意味する。TCRは、「高親和性」結合タンパク質若しくは結合ドメイン(又はその融合タンパク質)又は「低親和性」結合タンパク質若しくは結合ドメイン(又はその融合タンパク質)として分類することができる。「高親和性」TCR又は結合ドメインとは、KAが少なくとも109M-1、少なくとも1010M-1、少なくとも1011M-1、少なくとも1012M-1又は少なくとも1013M-1であるTCR又はその結合ドメインを意味する。「低親和性」結合タンパク質又は結合ドメインとは、KAが107M-1まで、106M-1まで、105M-1までである結合タンパク質又は結合ドメインを意味する。あるいは、親和性は、Mの単位で表した特定の結合相互作用の平衡解離定数(KD)として定義することができる(例えば、10-9M~10-13M以下)。
【0035】
「機能的アビディティ」なる用語は、所定濃度のリガンドに対するインビトロT細胞応答の生物学的尺度又は活性化閾値を意味し、前記生物学的尺度としては、サイトカイン産生(例えばIFNγ産生、IL-2産生等)、細胞傷害活性及び増殖が挙げられる。例えば、非常に低い抗原用量に対してサイトカイン産生、細胞傷害性又は増殖によりインビトロで生物学的(免疫学的)に応答するT細胞は機能的アビディティが高いとみなされ、機能的アビディティの低いT細胞は、高アビディティT細胞と同等の免疫応答が誘発されるまでにより多量の抗原を必要とする。当然のことながら、機能的アビディティは親和性及びアビディティとは異なる。親和性とは、結合タンパク質とその抗原/リガンドの間で生じる結合の強さを意味する。結合タンパク質には多価のものもあり、複数の抗原と結合するが、この場合に、全体的な結合の強さがアビディティである。
【0036】
本願で使用する「機能的アビディティ」とは、T細胞により発現されるTCRの活性化閾値の量的因子を意味する。インビボにおいて、T細胞はTCRアビディティ(の高低)に関係なく同等の抗原用量に曝露されるが、機能的アビディティと免疫応答の有効性の間には多数の相関がある。一部のエクスビボ試験は、種々の閾値で異なるT細胞機能(例えば、増殖、サイトカイン産生等)を誘発できることを示している(例えば、Betts et al.,J.Immunol.172:6407,2004;Langenkamp et al.,Eur.J.Immunol.32:2046,2002参照)。機能的アビディティに影響を与える因子としては、(a)pMHC複合体に対するTCRの親和性、即ちTCRとpMHCの相互作用の強さ(Cawthon et al.,J.Immunol.167:2577,2001)、(b)TCRとCD4又はCD8共受容体の発現レベル、及び(c)シグナル伝達分子の分布と組成(Viola and Lanzavecchia,Science 273:104,1996)が挙げられ、更に、T細胞機能とTCRシグナル伝達を低下させる分子の発現レベルも挙げられる。
【0037】
特定の曝露時間後にベースラインと最大応答の間の50%応答を誘導するために必要な抗原濃度を「50%効果濃度」又は「EC
50」と言う。EC
50値は一般にモーラー(モル/リットル)量として表されるが、シグモイドグラフを描く対数値log
10(EC
50)に変換されることが多い(例えば
図5A参照)。例えば、EC
50=1μM(10
-6M)であるならば、log
10(EC
50)値は-6である。別の数値として、EC
50の負の対数(-log
10(EC
50))として定義されるpEC
50も使用される。上記例において、EC
50=1μMであるならば、pEC50値は6である。所定の実施形態において、本開示のTCRの機能的アビディティは、T細胞がIFNγ産生を促進する能力の尺度となり、本願に記載するアッセイを使用して測定することができる。「機能的アビディティの高い」TCR又はその結合ドメインとは、EC
50が少なくとも10
-9M、少なくとも約10
-10M、少なくとも約10
-11M、少なくとも約10
-12M、又は少なくとも約10
-13MであるTCR又はその結合ドメインを意味する。一部の実施形態において、前記応答はIFNγ産生を含み、例えば抗原に応答してTCRを発現する(T細胞、NK細胞又はNK-T細胞等の)免疫細胞によるIFN-γの産生である。
【0038】
一部の態様において、「WT137-45抗原」又は「WT137-45ペプチド」又は「WT137-45ペプチド抗原」又は「p37ペプチド」又は「p37抗原」又は「p37ペプチド抗原」とは、約9アミノ酸~約15アミノ酸長であり、VLDFAPPGA(配列番号59)のアミノ酸配列を含むWT1タンパク質の天然又は合成により生産された部分であり、MHC(例えばHLA)分子と複合体を形成することができるものを各々意味し、このような複合体は、WT1ペプチド:MHC(例えばHLA)複合体に特異的なTCRと結合することができる。WT1は体内宿主タンパク質であるので、WT1抗原ペプチドはクラスI MHCにより提示される。特定の実施形態において、WT1ペプチドVLDFAPPGA(配列番号59)は、ヒトクラスIHLA対立遺伝子HLA-A*201と会合することができる。
【0039】
一部の態様において、「WT137-45ペプチド特異的結合タンパク質」又は「WT137-45ペプチド特異的TCR」又は「WT137-45抗原特異的TCR」又は「WT137-45ペプチド抗原特異的TCR」又は「WT1p37ペプチド特異的結合タンパク質」又は「WT1p37ペプチド特異的TCR」又は「WT1p37抗原特異的TCR」又は「WT1p37ペプチド抗原特異的TCR」なる用語は、本願では同義であり、本願に定義するように、概算値又は少なくとも概算値で特定の親和性又は機能的アビディティ、好ましくは高い機能的アビディティとなるように、MHC又はHLA分子と複合体化したWT1p37ペプチドと例えば細胞表面上で特異的に結合するタンパク質又はポリペプチドを意味する。このような結合タンパク質又はポリペプチドは、本願に記載するようなTCR可変ドメインを含む。所定の実施形態において、WT1特異的結合タンパク質は、機能的アビディティlog[EC50]が約-2.5μM~約-3.75μM(-8.5M~約-9.8Mに等価)となるように、WT1由来ペプチド:HLA複合体(又はWT1由来ペプチド:MHC複合体)と結合する。これらの数値のEC50範囲は、例えば以下の段落及び本願の実施例1に記載するアッセイにより測定した場合に約3.16×10-9M~約1.58×10-10Mに相当する。
【0040】
親和性、見かけの親和性、相対親和性又は機能的アビディティを評価するためのアッセイは公知である。本願に記載するように、本開示のTCRの見かけの親和性又は機能的アビディティは、例えば標識四量体を使用したフローサイトメトリーにより、p37ペプチドと会合した各種濃度の四量体との結合を評価することにより測定される。一部の実施例では、種々の濃度の標識四量体の2倍希釈液を使用した後、非直線回帰により結合曲線を求めることにより、TCRの見かけのKD又はEC50を測定する。例えば、見かけのKDは50%結合を生じるリガンドの濃度として求められ、EC50は例えばサイトカイン(例えばIFNγ、IL-2)の50%産生を生じるリガンドの濃度として求められる。
【0041】
一部の態様における「MHC-ペプチド四量体染色法」とは、各々少なくとも1つの抗原(例えばWT1)に対してコグネイトな(例えば一致又は関連する)アミノ酸配列を有する同一のペプチドを含むMHC分子の四量体を利用して抗原特異的T細胞を検出するために使用されるアッセイを意味し、前記複合体はコグネイト抗原に特異的なT細胞受容体と結合することができる。MHC分子の各々にビオチン分子をタグ付けすることができる。蛍光標識可能なストレプトアビジンを加えることにより、ビオチン化MHC/ペプチドを四量化する。蛍光ラベルを介してフローサイトメトリーにより四量体を検出することができる。所定の実施形態では、本開示の親和性の高い又は機能的アビディティの高いTCRを検出又は選択するためにMHC-ペプチド四量体アッセイを使用する。
【0042】
サイトカインの濃度は、当技術分野で一般的な本願に記載する方法により測定することができ、例えば、ELISA、ELISPOT、細胞内サイトカイン染色法及びフローサイトメトリーとその組み合わせ(例えば細胞内サイトカイン染色法とフローサイトメトリー)が挙げられる。末梢血細胞又はリンパ節由来細胞の試料中の循環リンパ球等のリンパ球を単離し、前記リンパ球を抗原で刺激し、三重水素チミジンの取り込みや、MTTアッセイ等の非放射性アッセイなどによりサイトカイン産生、細胞増殖及び/又は細胞生存率を測定することにより、免疫応答の抗原特異的誘発又は刺激に起因する免疫細胞増殖とクローン拡大を判定することができる。例えば、IFN-γ、IL-12、IL-2及びTNF-β等のTh1サイトカインと、IL-4、IL-5、IL-9、IL-10及びIL-13等の2型サイトカインの濃度を測定することにより、本願に記載する免疫原がTh1免疫応答とTh2免疫応答のバランスに及ぼす影響を試験することができる。
【0043】
一部の態様において、「WT1p37特異的結合ドメイン」又は「WT137-45特異的結合ドメイン」又は「WT1p37特異的結合断片」又は「WT137-45特異的結合断片」なる用語は、MHC又はHLA分子と複合体化したWT1p37抗原との特異的結合に関与するWT1特異的TCRのドメイン又は部分を意味する。TCRに由来するWT1p37抗原特異的結合ドメインは、単独(即ち、WT1特異的TCRの他の部分を含まない場合)では可溶性であり、10-9M未満、約10-10M未満、約10-11M未満、約10-12M未満又は約10-13M未満のKDでWT1p37ペプチド:MHC複合体と結合することができる。他の実施形態において、WT1p37ペプチド特異的TCRは機能的アビディティが高く、T細胞表面上でVLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と特異的に結合し、pEC50が8.5以上(例えば、約9まで、約9.5まで、約10、約10.5、約11、約11.5、約12、約12.5又は約13)となるようにIFNγ産生を促進する。代表的なWT1p37ペプチド特異的結合ドメインとしては、本開示の抗WT1p37ペプチドTCRに由来するか又は由来し得るWT1p37ペプチド特異的scTCRが挙げられる(例えば、Vα-L-Vβ、Vβ-L-Vα、Vα-Cα-L-Vα又はVα-L-Vβ-Cβ等の1本鎖αβTCRタンパク質であり、上記式中、Vα及びVβはそれぞれTCRα及びβ可変ドメインであり、Cα及びCβはそれぞれTCRα及びβ定常ドメインであり、Lはリンカーである。)。
【0044】
(樹状細胞、マクロファージ、リンパ球又は他の細胞種等の)抗原提示細胞(APC)による抗原プロセシングと、(例えば抗原提示に関連するMHC遺伝子の少なくとも1個の対立遺伝子を共有する)免疫適合性APCとT細胞の間の主要組織適合性複合体(MHC)拘束性提示を含むAPCによるT細胞への抗原提示の原理は周知である(例えば、Murphy,Janeway’s Immunobiology(8th Ed.)2011 Garland Science,NY;第6章、9章及び16章参照)。例えば、サイトゾルに由来するプロセシング後の抗原ペプチド(例えば、腫瘍抗原、細胞内病原体)は一般に約7アミノ酸~約11アミノ酸長であり、クラスIMHC分子と会合するであろうし、(例えば、細菌、ウイルス由来)小胞系でプロセシングされたペプチドは約10アミノ酸~約25アミノ酸長となり、クラスIIMHC分子と会合するであろう。
【0045】
本願で使用する「膜貫通ドメイン」とは、細胞膜内で熱力学的に安定であり、一般に約15アミノ酸~約30アミノ酸長の三次元構造を有する任意のアミノ酸配列を意味する。疎水性膜貫通ドメインの構造は、αヘリックス、βバレル、βシート、βヘリックス又は任意のその組み合わせを含むことができる。代表的な膜貫通ドメインはCD4、CD8、CD28又はCD27に由来する膜貫通ドメインである。
【0046】
本願で使用する「免疫エフェクタードメイン」とは、適切なシグナルを受け取ると、細胞内で直接又は間接的に免疫応答を促進することができるscTCR又はCAR融合タンパク質の細胞内部分である。所定の実施形態において、免疫エフェクタードメインは、結合すると、シグナルを受け取るタンパク質若しくはタンパク質複合体の部分であり、又は標的分子と直接結合し、免疫エフェクタードメインからシグナルを誘起する。免疫エフェクタードメインは、免疫受容体チロシン活性化モチーフimmunoreceptor
tyrosine-based activation motif(ITAM)等のシグナル伝達ドメイン又はモチーフを1個以上含む場合には、免疫細胞応答を直接促進することができる。他の実施形態において、エフェクタードメインは、細胞応答を直接促進する1つ以上の他のタンパク質と会合することにより、間接的に細胞応答を促進する。代表的な免疫エフェクタードメインとしては、4-1BB、CD3ε、CD3δ、CD3ζ、CD27、CD28、CD79A、CD79B、CARD11、DAP10、FcRα、FcRβ、FcRγ、Fyn、HVEM、ICOS、Lck、LAG3、LAT、LRP、NOTCH1、Wnt、NKG2D、OX40、ROR2、Ryk、SLAMF1、Slp76、pTα、TCRα、TCRβ、TRIM、Zap70、PTCH2又はこのようなドメインの2つ若しくは3つの任意の組み合わせに由来する細胞内シグナル伝達ドメインが挙げられる。
【0047】
一部の態様における「リンカー」とは、2つのタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、ドメイン、領域又はモチーフを連結するアミノ酸配列を意味する。代表的なリンカーの1例は「可変ドメインリンカー」であり、具体的には、T細胞受容体Vα/β鎖とCα/β鎖(例えばVα-Cα、Vβ-Cβ、Vα-Vβ)を連結するか又はVα-Cα、Vβ-Cβ、Vα-Vβの各対をヒンジ若しくは膜貫通ドメインと連結する5~約35アミノ酸配列であって、得られる1本鎖ポリペプチドがT細胞受容体と同一の標的分子に対して特異的な結合親和性又は機能的アビディティを維持するように、2個のサブ結合ドメインの相互作用に十分なスペーサー機能とフレキシビリティを提供するものを意味する。所定の実施形態において、可変ドメインリンカーは約10~約30アミノ酸又は約15~約25アミノ酸を含む。特定の実施形態において、可変ドメインリンカーペプチドは1~10個のGlyxSeryリピートを含み、上記式中、x及びyは独立して0~10の整数であり、但し、xとyが同時に0になることはなく(例えば、Gly4Ser(配列番号171)、Gly3Ser(配列番号172)、Gly2Ser、若しくは(Gly3Ser)n(Gly4Ser)1(配列番号173)、(Gly3Ser)n(Gly2Ser)n(配列番号174)、(Gly3Ser)n(Gly4Ser)n(配列番号175)、又は(Gly4Ser)n(配列番号171))、nは1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10の整数であり、連結された可変ドメインは機能的結合ドメイン(例えばscTCR)を形成する。
【0048】
一部の態様において、「結合部アミノ酸」又は「結合部アミノ酸残基」とは、結合ドメインとこれに隣接する定常ドメインの間、又はTCR鎖とこれに隣接する自己切断ペプチドの間等のポリペプチドの2つの隣接するモチーフ、領域又はドメイン間の1個以上(例えば約2~10個)のアミノ酸残基を意味する。結合部アミノ酸は、融合タンパク質のコンストラクト設計に起因する場合(例えば、融合タンパク質をコードする核酸分子の構築中に使用される制限酵素部位に起因するアミノ酸残基)や、遺伝子組換え若しくは再構成イベント(例えばRAGによる再構成)の過程でもたらされる場合がある。
【0049】
一部の態様において、「変異ドメイン」又は「変異タンパク質」とは、野生型モチーフ、領域、ドメイン、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質(例えば、野生型TCRα鎖、TCRβ鎖、TCRα定常ドメイン、TCRβ定常ドメイン)に対して少なくとも85%(例えば86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、99.9%)の配列不同一性を有するモチーフ、領域、ドメイン、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を意味し、TCRα及びβ可変ドメインの各々に由来するCDR3は変異していないか、又は変異していないことが好ましい。
【0050】
本願に開示する実施形態のいずれかでは、目的のTCR鎖の対合を強化するようにTCR定常ドメインを修飾することができる。例えば、宿主T細胞における異種TCRα鎖と異種TCRβ鎖の対合が修飾により強化されると、異種TCR鎖と内在性TCR鎖の望ましくないミスペアリングよりも2本の異種鎖を含むTCRの結合が優先される(例えば、Govers et al.,Trends Mol.Med.16(2):77(2010)が参照され、そのTCR修飾を本願に援用する)。異種TCR鎖の対合を強化するための代表的な修飾としては、異種TCRα鎖及びβ鎖の各々に相補的システイン残基を導入する方法が挙げられる。一部の実施形態において、異種TCRα鎖をコードするポリヌクレオチドはアミノ酸位置48位のシステインをコードし(全長成熟ヒトTCRα鎖配列に対応)、異種TCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドはアミノ酸位置57位のシステインをコードする(全長成熟ヒトTCRβ鎖配列に対応)。
【0051】
「キメラ抗原受容体(CAR)」とは、天然では生じない様式又は宿主細胞中で天然では生じない様式で相互に連結された2個以上の天然アミノ酸配列、ドメイン又はモチーフを含むように構築された融合タンパク質を意味し、このような融合タンパク質は、細胞の表面に存在するときに受容体として機能することができる。CARとしては、(例えば、がん抗原に特異的なTCRから入手若しくは取得されるTCR結合ドメイン、抗体から入手若しくは取得されるscFv、又はNK細胞に由来するキラー免疫受容体から入手若しくは取得される抗原結合ドメインのように、免疫グロブリン又は免疫グロブリン様分子から取得又は入手される)抗原結合ドメインを含む細胞外部分を、膜貫通ドメインと、(任意に共刺激ドメインを含む)1個以上の細胞内シグナル伝達ドメインとに連結したものを挙げることができる(例えば、Sadelain et al.,Cancer Discov.,3(4):388(2013)参照;更にHarris and Kranz,Trends Pharmacol.Sci.,37(3):220(2016)、Stone et al.,Cancer Immunol.Immunother.,63(11):1163(2014)、及びWalseng et al.,Scientific Reports 7:10713(2017)も参照され、そのCARコンストラクトとその作製方法を本願に援用する)。(例えば、ペプチド:HLA複合体の文脈で)WT1抗原と特異的に結合する本開示のCARは、TCRVαドメインとVβドメインを含む。
【0052】
一部の態様において本願で使用する「核酸」又は「核酸分子」又は「ポリヌクレオチド」とは、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、オリゴヌクレオチド、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)又はインビトロ翻訳により作製された断片、及びライゲーション、切断、エンドヌクレアーゼ作用又はエキソヌクレアーゼ作用により作製された断片のいずれかを意味する。所定の実施形態において、本開示の核酸はPCRにより生産される。核酸は、(デオキシリボヌクレオチドやリボヌクレオチド等の)天然ヌクレオチド、天然ヌクレオチドのアナログ(例えば、天然ヌクレオチドのαエナンチオマー)又はその両方の組み合わせである単量体から構成することができる。修飾ヌクレオチドは、糖部又はピリミジン若しくはプリン塩基部に修飾又は置換を有することができる。ホスホジエステル結合又はこのような結合に類似する結合により、核酸単量体を連結することができる。ホスホジエステル結合に類似する結合としては、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホロアニリダート、ホスホロアミダート等が挙げられる。核酸分子は1本鎖でも2本鎖でもよい。
【0053】
一部の態様において、「単離」なる用語は、その材料がその当初の環境(例えば天然に存在する場合には天然環境)から取り出されていることを意味する。例えば、生きた動物の体内に存在する天然核酸又はポリペプチドは単離されていないが、天然系において共存する物質の一部又は全部から分離された同一核酸又はポリペプチドは単離されている。このような核酸をベクターの一部とすることができ、及び/又はこのような核酸若しくはポリペプチドを組成物(例えば細胞溶解液)の一部とすることができるが、このようなベクター又は組成物は前記核酸又はポリペプチドの天然環境の一部ではないので、前記核酸又はポリペプチドはやはり単離されている。「遺伝子」なる用語は、ポリペプチド鎖の産生に関与するDNAセグメントを意味し、コーディング領域の前後の「リーダー及びトレーラー」領域と、個々のコーディングセグメント(エキソン)の間の介在配列(イントロン)を含む。
【0054】
一部の態様において本願で使用する「組換え」なる用語は、人為的介入により遺伝子操作された、即ち外来若しく異種核酸分子の導入により改変された細胞、微生物、核酸分子又はベクターを意味し、あるいは、内在性核酸分子又は遺伝子の発現が制御されるか、制御解除されるか、又は構成的となるように改変されている細胞又は微生物を意味する。人為的に行われる遺伝子改変としては、例えば、1つ以上のタンパク質若しくは酵素をコードする核酸分子(プロモーター等の発現制御因子を含んでいてもよい)を導入する修飾、又は他の核酸分子付加、欠失、置換、又は細胞の遺伝子材料の他の機能的破壊若しくは付加が挙げられる。代表的な修飾としては、参照又は親分子に由来する異種又は同種ポリペプチドのコーディング領域又はその機能的断片の修飾が挙げられる。
【0055】
一部の態様において本願で使用する「突然変異」又は「突然変異された」とは、参照又は野生型核酸分子又はポリペプチド分子とそれぞれ比較して核酸分子又はポリペプチド分子の配列が変異していることを意味する。突然変異の結果として、配列に数種類の異なる種類の変異を生じることもあり、ヌクレオチド又はアミノ酸の置換、挿入又は欠失が挙げられる。所定の実施形態において、突然変異は1~3個のコドン若しくはアミノ酸の置換、1~約5個のコドン若しくはアミノ酸の欠失、又はその組み合わせである。
【0056】
一部の態様における「保存的置換」は、あるアミノ酸が類似する性質をもつ別のアミノ酸に置換することとして当技術分野で認められている。代表的な保存的置換は当技術分野で周知である(例えば、WO97/09433,10頁;Lehninger,Biochemistry,2nd Edition;Worth Publishers,Inc.NY,NY,pp.71-77,1975;Lewin,Genes IV,Oxford University Press,NY and Cell Press,Cambridge,MA,p.8,1990参照)。
【0057】
一部の態様における「コンストラクト」なる用語は、組換え核酸分子を含む任意のポリヌクレオチドを意味する。コンストラクトをベクター(例えば、細菌ベクター、ウイルスベクター)に挿入していてもよいし、ゲノムに組み込んでもよい。「ベクター」は別の核酸分子を輸送することが可能な核酸分子である。ベクターは、例えばプラスミド、コスミド、ウイルス、RNAベクター又は線状若しくは環状DNA若しくはRNA分子とすることができ、前記分子としては、染色体、非染色体、半合成又は合成核酸分子が挙げられる。代表的なベクターは、自律複製が可能なもの(エピソーマルベクター)又は連結した核酸分子の発現が可能なもの(発現ベクター)である。
【0058】
代表的なウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えばアデノ随伴ウイルス)に加え、コロナウイルス、オルトミクソウイルス(例えばインフルエンザウイルス)、ラブドウイルス(例えば狂犬病及び水疱性口内炎ウイルス)、パラミクソウイルス(例えば麻疹及びセンダイ)等のマイナス鎖RNAウイルス、ピコルナウイルスやアルファウイルス等のプラス鎖RNAウイルス、並びにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば単純ヘルペスウイルス1型及び2型、エプスタイン・バールウイルス、サイトメガロウイルス)、及びポックスウイルス(例えばワクシニア、鳥ポックス及びカナリアポックス)等の2本鎖DNAウイルスが挙げられる。他のウイルスとしては、例えば、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス及び肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病肉腫ウイルス、哺乳類C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV-BLV群、レンチウイルス、スプマウイルスが挙げられる(Coffin,J.M.,Retroviridae:The viruses and their replication,In Fundamental Virology,Third Edition,B.N.Fields et al.,Eds.,Lippincott-Raven Publishers,Philadelphia,1996)。
【0059】
一部の態様において、本願で使用する「レンチウイルスベクター」とは、組込み型でも非組込み型でもよく、パッケージング能が比較的高く、種々の細胞種に形質導入することができる遺伝子送達用のHIVベースのレンチウイルスベクターを意味する。レンチウイルスベクターは通常では、3種類(パッケージング、エンベロープ及びトランスファー)又はそれ以上のプラスミドを産生細胞に一過性トランスフェクション後に産生される。HIVと同様に、レンチウイルスベクターはウイルス表面糖タンパク質と細胞表面上の受容体の相互作用により標的細胞に侵入する。侵入すると、ウイルスRNAはウイルス逆転写複合体により逆転写される。逆転写産物は2本鎖線状ウイルスDNAであり、感染細胞のDNAへのウイルス組込みの基盤となる。
【0060】
一部の態様における「機能的に連結」なる用語は、2個以上の核酸分子のうちの1個の機能が他の分子の影響を受けるようにこれらの核酸分子を単一の核酸断片上で会合させることを意味する。例えば、プロモーターがコーディング配列の発現に影響を与えることが可能であるとき、このプロモーターはこのコーディング配列と機能的に連結されている(即ち、このコーディング配列はこのプロモーターの転写制御下にある)。「連結されていない」とは、会合した遺伝子エレメントが相互に緊密に会合しておらず、それぞれの機能が相互に影響しないことを意味する。
【0061】
一部の態様において本願で使用する「発現ベクター」とは、適切な宿主内で核酸分子の発現を行うことが可能な適切な制御配列に前記核酸分子を機能的に連結したDNAコンストラクトを意味する。このような制御配列としては、転写を行うためのプロモーター、このような転写を制御するために任意に使用されるオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写と翻訳の終結を制御する配列が挙げられる。ベクターはプラスミド、ファージ粒子、ウイルス又は単に潜在的ゲノムインサートとすることができる。適切な宿主に導入されると、ベクターは宿主ゲノムに非依存的に複製及び機能することができ、又は場合によってはゲノム自体に組込むことができる。本明細書では、「プラスミド」、「発現プラスミド」、「ウイルス」及び「ベクター」を同義に使用することが多い。
【0062】
一部の態様において本願で使用する「発現」なる用語は、遺伝子等の核酸分子のコーディング配列に基づいてポリペプチドが産生されるプロセスを意味する。前記プロセスとしては、転写、転写後制御、転写後修飾、翻訳、翻訳後制御、翻訳後修飾又は任意のその組み合わせが挙げられる。
【0063】
一部の態様において核酸分子を細胞に挿入する文脈における「導入」なる用語は、「トランスフェクション」又は「形質転換」又は「形質導入」を意味し、核酸分子を真核細胞又は原核細胞に取り込むことを含み、核酸分子を細胞のゲノムに取り込んでもよいし(例えば染色体、プラスミド、プラスチド又はミトコンドリアDNA)、自律型レプリコンに変換してもよいし、一過性発現させてもよい(例えばmRNAトランスフェクション)。
【0064】
一部の態様において本願で使用する「異種」又は「外来」核酸分子、コンストラクト又は配列とは、宿主細胞に天然では存在しないが、宿主細胞に由来する核酸分子又は核酸分子の部分と同種であり得る核酸分子又は核酸分子の部分を意味する。異種又は外来核酸分子、コンストラクト又は配列の起源は異なる属又は種に由来することができる。所定の実施形態では、例えば共役、形質転換、トランスフェクション、エレクトロポレーション等により、異種又は外来核酸分子を宿主細胞又は宿主ゲノムに付加し(即ち、内在的又は天然には存在しない)、付加した分子は宿主ゲノムに組込んでもよいし、染色体外遺伝子材料として(例えば、プラスミド又は他の形態の自己複製ベクターとして)存在させてもよく、複数コピーとして存在することができる。また、「異種」とは、宿主細胞が同種タンパク質又は活性をコードする場合であっても、宿主細胞に外来核酸分子が導入されているときにこの外来核酸分子によりコードされる非天然酵素、タンパク質又は他の活性を意味する。更に、「修飾」又は「異種」ポリヌクレオチド又は結合タンパク質を含む細胞は、子孫自体が形質導入、トランスフェクション、又は他の方法で操作若しくは改変されているか否かに関係なく、この細胞の子孫を含む。
【0065】
本願に記載するように、2つ以上の異種又は外来核酸分子を別個の核酸分子として宿主細胞に導入してもよいし、複数の個々に制御される遺伝子として導入してもよいし、ポリシストロン性核酸分子として導入してもよいし、融合タンパク質をコードする単一核酸分子として導入してもよいし、任意のその組み合わせとして導入してもよい。例えば、本願に開示するように、WT1抗原ペプチドに特異的な目的のTCR(例えば、TCRα及びTCRβ)をコードする2つ以上の異種又は外来核酸分子を発現するように宿主細胞を改変することができる。2つ以上の外来核酸分子を宿主細胞に導入する場合には、当然のことながら、前記2つ以上の外来核酸分子を(例えば単一ベクターで)単一核酸分子として導入してもよいし、別個のベクターで導入してもよいし、宿主染色体の1部位若しくは複数部位に組込んでもよいし、任意のその組み合わせでもよい。言及する異種核酸分子又はタンパク質活性の数は、コーディング核酸分子の数又はタンパク質活性の数を意味し、宿主細胞に導入される個々の核酸分子の数を意味するものではない。
【0066】
一部の態様において本願で使用する「内在性」又は「天然」なる用語は、宿主細胞に通常存在する遺伝子、タンパク質又は活性を意味する。更に、親遺伝子、タンパク質又は活性と比較して突然変異、過剰発現、シャフリング、重複又は他の方法で改変された遺伝子、タンパク質又は活性も、この特定の宿主細胞に対して内在性又は天然であるとみなす。例えば、第2の天然遺伝子又は核酸分子の発現を改変又は調節するために第1の遺伝子に由来する内在性制御配列(例えばプロモーター、翻訳低下配列)を使用することができ、第2の天然遺伝子又は核酸分子の発現又は調節は親細胞における正常な発現又は調節と相違する。
【0067】
一部の態様において、「同種」又は「ホモログ」なる用語は、宿主細胞、生物種又は系列に存在又は由来する分子又は活性を意味する。例えば、異種又は外来核酸分子は天然宿主細胞遺伝子と同種とすることができ、任意に発現レベルの変化、異なる配列、活性変化又は任意のその組み合わせを有することができる。
【0068】
一部の態様において、本願で使用する「配列同一性」とは、第1の配列と別の参照ポリペプチド配列を整列させ、必要に応じて最大の配列同一性百分率に達するようにギャップを導入し、保存的置換を配列同一性から除外した後に、前記第1の配列中のアミノ酸残基のうちで前記別の配列中のアミノ酸残基と一致するアミノ酸残基の百分率を意味する。配列同一性百分率値は、Altschul et al.(1997)“Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs”,Nucleic Acids Res.25:3389-3402に定義されているようなNCBI BLAST2.0ソフトウェアと、デフォルト値に設定されたパラメータを使用して求めることができる。
【0069】
一部の態様において本願で使用する「造血前駆細胞」とは、造血幹細胞又は胎児組織に由来し、成熟細胞種(例えば免疫系細胞)へと更に分化することが可能な細胞とすることができる。代表的な造血前駆細胞としては、CD24LoLin-CD81+表現型を有するものや、胸腺に存在するもの(前駆胸腺細胞と言う)が挙げられる。
【0070】
一部の態様において本願で使用する「宿主」なる用語は、目的のポリペプチド(例えば、高親和性抗WT1TCR)を生産するために異種又は外来核酸分子による遺伝子改変の標的となる細胞(例えばT細胞)又は微生物を意味する。所定の実施形態において、宿主細胞は、任意に異種又は外来タンパク質の生合成に関連するか又は関連しない所望の性質を付与する他の遺伝子改変を既に有するものでもよいし、このような改変を含むように操作してもよい(例えば、検出可能なマーカーの導入;内在性TCRの欠失、変異又は短縮;共刺激因子の発現亢進)。一部の実施形態において、宿主細胞は、例えば改変後の細胞に生存及び/又は拡大の利点を助長するために、宿主細胞内の免疫シグナル伝達を調節するタンパク質又は融合タンパク質を発現するように遺伝子改変されている(例えば、WO2016/141357の免疫調節融合タンパク質が参照され、その全てを本願に援用する)。他の実施形態において、宿主細胞は、本願で提供するようなTCRを導入するように又は細胞内の免疫抑制シグナルをノックダウン若しくは最小限にするように遺伝子改変されており(例えば、チェックポイント阻害剤)、このような改変は、例えばCRISPR/Casシステムを使用して実施することができる(例えば、US2014/0068797、米国特許第8,697,359号;WO2015/071474参照)。所定の実施形態において、宿主細胞はWT1抗原ペプチドに特異的なTCRα鎖をコードする異種又は外来核酸分子を形質導入されたヒト造血前駆細胞である。
【0071】
一部の態様において本願で使用する「過剰増殖性障害」とは、正常又は非疾患細胞と比較して過剰な成長又は増殖を意味する。代表的な過剰増殖性障害としては、腫瘍、がん、新生物組織、癌腫、肉腫、悪性細胞、前悪性細胞、及び非新生物又は非悪性過剰増殖性障害(例えば、腺腫、線維腫、脂肪腫、平滑筋腫、血管腫、線維症、再狭窄に加え、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬、炎症性腸疾患等の自己免疫疾患)が挙げられる。異常又は過剰な増殖が過剰増殖性疾患の場合よりもゆっくりと生じる所定の疾患を「増殖性疾患」と言うことができ、所定の腫瘍、がん、新生物組織、癌腫、肉腫、悪性細胞、前悪性細胞、及び非新生物又は非悪性疾患が挙げられる。
【0072】
更に、「がん」とは、細胞のあらゆる増殖加速を意味することができ、固形腫瘍、腹水腫瘍、血液若しくはリンパ若しくは他の悪性腫瘍;結合組織悪性腫瘍;転移性疾患;臓器若しくは幹細胞移植後の微小残存病変;多剤耐性がん、原発性若しくは続発性悪性腫瘍、悪性腫瘍に関連する血管新生、又は他の形態のがんが挙げられる。
【0073】
WT1p37抗原ペプチドに特異的なTCR
所定の態様において、本開示は、(a)T細胞受容体(TCR)α鎖可変(Vα)ドメインと、配列番号1~11、181、187、193、199、205、211、217、223、229、235及び241のいずれか1つに記載のCDR3アミノ酸配列を有するTCRβ鎖可変(Vβ)ドメイン;(b)配列番号12~22、178、184、190、196、202、208、214、220、226、232及び238のいずれか1つに記載のCDR3アミノ酸配列を有するTCRVαドメインと、TCRVβドメイン;又は(c)配列番号12~22、178、184、190、196、202、208、214、220、226、232及び238のいずれか1つに記載のCDR3アミノ酸配列を有するTCRVαドメインと、配列番号1~11、181、187、193、199、205、211、217、223、229、235及び241のいずれか1つに記載のCDR3アミノ酸配列を有するTCRVβドメインを含むWT1p37ペプチド特異的T細胞受容体(TCR)を提供する。例えば、本開示のTCR又はその結合ドメインのいずれかは、細胞(例えばT細胞)表面上のWT1p37ペプチド:HLA複合体と特異的に結合することができ、及び/又はpEC50値が8.5以上(例えば、約8.6まで、約8.65まで、約8.7まで、約8.72まで、約8.75まで、約8.8まで、約9まで、約9.1まで、約9.2まで、約9.3まで、約9.4まで、約9.5まで、約9.6まで、約9.68まで、約9.7まで、約9.75まで、約10まで、約10.5まで、約11まで、約11.5まで、約12まで、約12.5まで、又は約13まで)となるようにIFNγ産生を促進することができる。所定の実施形態において、本開示のTCRは、VLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と特異的に結合することができ、IFNγ産生pEC50値が9.0以上であり、又はIFNγ産生pEC50値が9.0以上である。所定の実施形態において、本開示のTCR又はその結合ドメイン(例えば、scTCR又はその融合タンパク質)は、WT1p37ペプチド:HLA複合体と特異的に結合することができ、pEC50が8.5~約9.9、又は8.6~約9.8、又は8.7~約9.7、又は8.75~約9.65等となるようにIFNγ産生を促進することができる。EC50は約1.1×10-9M~約3.0×10-10M、又はこの範囲内の任意の数値とすることができる。他の例において、本開示のTCRのいずれかは、CD8に非依存的に又はCD8の不在下で細胞表面上のWT1ペプチド:HLA複合体と特異的に結合することができる。他の実施形態において、TCRは約10-9M以下のKDでVLDFAPPGA(配列番号59):ヒト白血球抗原(HLA)複合体と特異的に結合する。所定の実施形態において、前記HLAはHLA-A*201を含む。前記ペプチド抗原VLDFAPPGA(配列番号59)はWT1ペプチド抗原であり、WT1タンパク質のアミノ酸37~45に相当する。
【0074】
本願に記載する実施形態のいずれかにおいて、本開示はα鎖とβ鎖を含むT細胞受容体(TCR)を提供し、前記TCRはT細胞表面上でWT1:HLA-A*201複合体と結合し、(a)pEC50が8.5以上(例えば、約9まで、約9.5まで、約10まで、約10.5、約11、約11.5、約12、約12.5又は約13)となるようにIFNγ産生を促進する;又は(b)CD8に非依存的に若しくはその不在下で細胞表面と結合する。
【0075】
所定の実施形態において、Vβドメインは、TRBV7-6*01/TRBJ2-7*01、TRBV20-1*02/TRBJ2-7*01、TRBV15*02/TRBJ1-5*01、TRBV13*01/TRBJ2-5*01、TRAJ50*01/TRBJ2-7*01、TRBV11-3*01/TRBJ1-1*01、TRBV19*01/TRBJ1-6*02、TRBV27*01/TRBJ2-7*01、TRBV13*01/TRBJ2-7*01、TRBV11-1*01/TRBJ1-4*01、若しくはTRBV4-3*01/TRBJ1-3*01を含むか又はそれに由来する。他の実施形態において、Vαドメインは、TRAV21*02/TRAJ58*01、TRAV38-1*01/TRAJ40*01、TRAV29/DV5*01/TRAJ6*01、TRAV29/DV5*01/TRAJ20*01、TRAV41*01/TRAJ50*01、TRAV12-2*01/TRAJ11*01、TRAV1-2*01/TRAJ20*01、TRAV20*02/TRAJ8*01、TRAV26-1*02/TRAJ26*01、TRAV24*01/TRAJ48*01、若しくはTRAV20*02/TRAJ37*02を含むか又はそれに由来する。特定の実施形態において、TCRは、(a)TRBV7-6*01/TRBJ2-7*01を含むか若しくはそれに由来するVβドメインと、TRAV21*02/TRAJ58*01を含むか若しくはそれに由来するVαドメイン;(b)TRBV27*01/TRBJ2-7*01を含むか若しくはそれに由来するVβドメインと、TRAV20*02/TRAJ8*01を含むか若しくはそれに由来するVαドメイン;又は(c)TRBV13*01/TRBJ2-5*01を含むか若しくはそれに由来するVβドメインと、TRAV29/DV5*01/TRAJ20*01を含むか若しくはそれに由来するVαドメインを含む。
【0076】
所定の実施形態において、本開示のTCRは更に、(i)配列番号194、176、182、188、200、206、212、218、224、230及び236のいずれか1つに記載のCDR1αアミノ酸配列又は1若しくは2か所のアミノ酸置換を含むその変異体であって、任意に、前記1若しくは2か所のアミノ酸置換が保存的アミノ酸置換を含む、前記変異体;及び/又は(ii)配列番号195、177、183、189、201、207、213、219、225、231及び237のいずれか1つに記載のCDR2αアミノ酸配列又は1若しくは2か所のアミノ酸置換を含むその変異体であって、任意に、前記1若しくは2か所のアミノ酸置換が保存的アミノ酸置換を含む、前記変異体を含む。
【0077】
所定の実施形態において、本開示のTCRは更に、(i)配列番号197、179、185、191、197、203、209、215、221、227、233及び239のいずれか1つに記載のCDR1βアミノ酸配列又は1若しくは2か所のアミノ酸置換を含むその変異体であって、任意に、前記1若しくは2か所のアミノ酸置換が保存的アミノ酸置換を含む、前記変異体;及び/又は(ii)配列番号198、180、186、192、204、210、216、222、228、234及び240のいずれか1つに記載のCDR2βアミノ酸配列又は1若しくは2か所のアミノ酸置換を含むその変異体であって、任意に、前記1若しくは2か所のアミノ酸置換が保存的アミノ酸置換を含む、前記変異体を含む。
【0078】
所定の実施形態において、本開示のTCRは、(i)それぞれ配列番号194、195、196若しくは12、197、198、及び199若しくは1;(ii)それぞれ配列番号176、177、178若しくは18、179、180、及び181若しくは7;(iii)それぞれ配列番号182、183、184若しくは20、185、186、及び187若しくは9;(iv)それぞれ配列番号188、189、190若しくは21、191、192、及び193若しくは10;(v)それぞれ配列番号200、201、202若しくは13、203、204、及び205若しくは2;(vi)それぞれ配列番号206、207、208若しくは14、209、210、及び211若しくは3;(vii)それぞれ配列番号212、213、214若しくは15、215、216、及び217若しくは4;(viii)それぞれ配列番号218、219、220若しくは17、221、222、及び223若しくは6;(ix)それぞれ配列番号224、225、226若しくは19、227、228、及び229若しくは8;(x)それぞれ配列番号230、231、232若しくは22、233、234、及び235若しくは11;又は(xi)それぞれ配列番号236、237、238若しくは16、238、240、及び241若しくは5に記載のCDR1α、CDR2α、CDR3α、CDR1β、CDR2β、及びCDR3βアミノ酸配列を含む。
【0079】
本開示のいずれのポリペプチドも、ポリヌクレオチド配列によりコードされるように、「シグナルペプチド」(別称リーダー配列、リーダーペプチド又はトランジットペプチド)を含むことができる。シグナルペプチドは、新規に合成されたポリペプチドを細胞の内側又は外側のそれらの適切な位置に導く。シグナルペプチドは局在化若しくは分泌中又はその完了後にポリペプチドから除去することができる。シグナルペプチドを有するポリペプチドを本願では「プレタンパク質」と呼び、それらのシグナルペプチドが除去されたポリペプチドを本願では「成熟」タンパク質又はポリペプチドと呼ぶ。本願に開示する実施形態のいずれかにおいて、結合タンパク質又は融合タンパク質は、成熟タンパク質を含むか若しくは成熟タンパク質であり、又はプレタンパク質であるか若しくはプレタンパク質を含む。
【0080】
所定の実施形態において、配列番号23のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号23のアミノ酸配列から配列番号23のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号242に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0081】
所定の実施形態において、配列番号24のアミノ酸残基1~15はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号23のアミノ酸配列から配列番号24のアミノ酸残基1~15を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号243に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0082】
所定の実施形態において、配列番号25のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号25のアミノ酸配列から配列番号25のアミノ酸残基1~15を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号244に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0083】
所定の実施形態において、配列番号26のアミノ酸残基1~29はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号26のアミノ酸配列から配列番号26のアミノ酸残基1~29を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号245に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0084】
所定の実施形態において、配列番号27のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号27のアミノ酸配列から配列番号27のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号246に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0085】
所定の実施形態において、配列番号28のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号28のアミノ酸配列から配列番号28のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号247に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0086】
所定の実施形態において、配列番号29のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号29のアミノ酸配列から配列番号29のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号248に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0087】
所定の実施形態において、配列番号30のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号30のアミノ酸配列から配列番号30のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号249に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0088】
所定の実施形態において、配列番号31のアミノ酸残基1~29はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号31のアミノ酸配列から配列番号31のアミノ酸残基1~29を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号250に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0089】
所定の実施形態において、配列番号32のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号32のアミノ酸配列から配列番号32のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号251に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0090】
所定の実施形態において、配列番号33のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVβドメインは成熟TCRVβドメインであり、配列番号33のアミノ酸配列から配列番号33のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVβドメインは、配列番号252に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0091】
所定の実施形態において、配列番号34のアミノ酸残基1~19はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号34のアミノ酸配列から配列番号34のアミノ酸残基1~19を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号253に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0092】
所定の実施形態において、配列番号35のアミノ酸残基1~20はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号35のアミノ酸配列から配列番号35のアミノ酸残基1~20を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号254に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0093】
所定の実施形態において、配列番号36のアミノ酸残基1~26はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号36のアミノ酸配列から配列番号36のアミノ酸残基1~26を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号255に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0094】
所定の実施形態において、配列番号37のアミノ酸残基1~26はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号37のアミノ酸配列から配列番号37のアミノ酸残基1~26を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号256に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0095】
所定の実施形態において、配列番号38のアミノ酸残基1~22はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号38のアミノ酸配列から配列番号38のアミノ酸残基1~22を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号257に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0096】
所定の実施形態において、配列番号39のアミノ酸残基1~21はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号39のアミノ酸配列から配列番号39のアミノ酸残基1~21を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号258に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0097】
所定の実施形態において、配列番号40のアミノ酸残基1~17はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号40のアミノ酸配列から配列番号40のアミノ酸残基1~17を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号259に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0098】
所定の実施形態において、配列番号41のアミノ酸残基1~21はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号41のアミノ酸配列から配列番号41のアミノ酸残基1~21を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号260に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0099】
所定の実施形態において、配列番号42のアミノ酸残基1~17はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号42のアミノ酸配列から配列番号42のアミノ酸残基1~17を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号261に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0100】
所定の実施形態において、配列番号43のアミノ酸残基1~22はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号43のアミノ酸配列から配列番号43のアミノ酸残基1~22を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号262に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0101】
所定の実施形態において、配列番号44のアミノ酸残基1~21はシグナルペプチドであるか又はシグナルペプチドを含む。一部の実施形態において、TCRVαドメインは成熟TCRVαドメインであり、配列番号44のアミノ酸配列から配列番号44のアミノ酸残基1~21を除去した配列を含むか又はこのような配列から構成される(即ち、前記TCRVαドメインは、配列番号263に記載のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される)。
【0102】
所定の実施形態において、WT1ペプチド:HLA複合体に特異的なT細胞受容体(TCR)は、配列番号253~263及び34~33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成されるVαドメインを有するか、配列番号242~252及び23~33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成されるVβドメインを有するか、又は任意のその組み合わせを有する。特定の実施形態において、Vαドメインは配列番号34のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成され、Vβドメインは配列番号23のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される。他の特定の実施形態において、(a)Vαドメインは配列番号41のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成され、Vβドメインは配列番号30のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成される;(b)Vαドメインは配列番号37のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成され、Vβドメインは配列番号26のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成される;又は(c)Vαドメインは配列番号42のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成され、Vβドメインは配列番号31のアミノ酸配列を含むか若しくはこの配列から構成される。他の特定の実施形態において、Vαドメインは配列番号24のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成され、Vβドメインは配列番号35のアミノ酸配列を含むか又はこの配列から構成される。
【0103】
一部の実施形態において、前記Vαドメイン及び前記Vβドメインは、配列番号(i)それぞれ253及び242;(ii)それぞれ259及び248;(iii)それぞれ261及び250;(iv)それぞれ262及び251;(v)それぞれ257及び246;(vi)それぞれ254及び243;(vii)それぞれ255及び244;(viii)それぞれ256及び245;(ix)それぞれ258及び247;(x)それぞれ260及び249;(xi)それぞれ263及び252;(xii)それぞれ34及び23;(xiii)それぞれ40及び29;(xiv)それぞれ42及び31;(xv)それぞれ43及び32;(xvi)それぞれ35及び24;(xvii)それぞれ36及び25;(xviii)それぞれ37及び26;(xix)それぞれ39及び28;(xx)それぞれ41及び30;(xxi)それぞれ44及び33;又は(xxii)それぞれ38及び27に記載のアミノ酸配列を含むか又はこのような配列から構成される。
【0104】
所定の実施形態において、本願に記載するWT1p37ペプチドに特異的な機能的アビディティの高い組換えTCRは、CDR3が変異せず、TCRがその特異的WT1p37結合機能を維持するか又は実質的に維持するという条件で、本願に記載するように配列番号48~58のいずれか1つ以上のアミノ酸配列に対してアミノ酸配列に1か所以上のアミノ酸置換、挿入又は欠失を有する変異ポリペプチド種を含む。
【0105】
アミノ酸の保存的置換は周知であり、天然に生じる場合もあるし、TCRを組換え生産する際に導入される場合もある。当技術分野で公知の変異導入法を使用してアミノ酸置換、欠失及び付加をタンパク質に導入することができる(例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY,2001参照)。所望される置換、欠失又は挿入に応じて特定のコドンを変異させた変異ポリヌクレオチドを提供するには、オリゴヌクレオチドを用いた部位特異的(又はセグメント特異的)変異導入法を利用することができる。あるいは、免疫原ポリペプチド変異体を作製するには、アラニンスキャニング変異導入法、エラープローンポリメラーゼ連鎖反応変異導入法及びオリゴヌクレオチドを用いた変異導入法等のランダム又は飽和変異導入技術を使用することができる(例えば、Sambrook et al.,前出参照)。
【0106】
ペプチド又はポリペプチドの特定位置で置換されたアミノ酸が保存的(又は類似)であるか否かについては、当業者に公知の種々の基準に示されている。例えば、類似アミノ酸又は保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が類似した側鎖を有するアミノ酸残基で置換されている場合である。類似アミノ酸は以下の分類に分けることができる:塩基性側鎖を有するアミノ酸(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン);酸性側鎖を有するアミノ酸(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸);非荷電極性側鎖を有するアミノ酸(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、ヒスチジン);非極性側鎖を有するアミノ酸(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン);β分岐側鎖を有するアミノ酸(例えばトレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖を有するアミノ酸(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン)。プロリンは分類しにくいとみなされ、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(例えばロイシン、バリン、イソロイシン及びアラニン)の性質ももつ。グルタミンとアスパラギンはそれぞれグルタミン酸とアスパラギン酸のアミド誘導体であるため、状況によっては、グルタミン酸からグルタミン又はアスパラギン酸からアスパラギンへの置換を類似的置換とみなすこともできる。当技術分野で理解されている通り、2種類のポリペプチドの「類似性」は、(例えば、GENEWORKS、Align、BLASTアルゴリズム、又は本願に記載し、当技術分野で一般的な他のアルゴリズムを使用して)ポリペプチドのアミノ酸配列及びその保存置換されたアミノ酸残基を第2のポリペプチドの配列と比較することにより判定される。
【0107】
WT1p37抗原:MHC複合体に特異的な野生型TCR又はその結合ドメインの変異体としては、VβドメインのCDR3とVαドメインのCDR3のどちらも変異を含まず、他の部分の変異により機能的アビディティ(又は相対親和性)が野生型TCRと比較して10%、15%又は20%を超えて低下しないという条件で、本願に開示する代表的なアミノ酸配列(例えば配列番号23~58)のいずれかに対して少なくとも約85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%又は100%のアミノ酸配列同一性を有するTCRが挙げられる。任意に選択される一部の実施形態において、変異体TCRは更に、配列番号34~44のいずれか1つ(親Vαドメイン)又は配列番号23~33のいずれか1つ(親Vβドメイン)に記載するCDR1のVαドメイン、CDR2のVαドメイン、CDR1のVβドメイン、CDR2のVβドメイン又は任意のその組み合わせのアミノ酸配列に変異を含まない。これらの実施形態の各々において、前記TCRはpEC50が8.5、8.6、8.7、8.8、8.9若しくはそれ以上となるようにIFNγ産生を特異的に誘導するその能力を維持し、又は前記TCRは約10-9M以下のKDでペプチド抗原:HLA複合体(例えば、VLDFAPPGA(配列番号59):HLA複合体)と特異的に結合するその能力を維持し、具体的に、配列番号48~58のいずれか1つから構成される野生型TCRよりも1.5倍、2倍、2.5倍、3倍、3.3倍、3.5倍、5倍まで良好に結合する。
【0108】
他の実施形態において、本開示は、(a)配列番号34~35及び38~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するTCRα鎖可変(Vα)ドメインと、配列番号23~25、27、28、30、32及び33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するTCRβ鎖可変(Vβ)ドメイン;(b)配列番号36若しくは37のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号23~25、27、28、30、32及び33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の配列同一性を有するTCRVβドメイン;又は(c)配列番号34~44のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるTCRVαドメインと、配列番号23~25、27、28、30、32及び33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するTCRVβドメインを含む、p37特異的TCR又はその結合ドメインを提供する。
【0109】
更に他の実施形態において、本開示は、(a)配列番号34~35及び38~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号29のアミノ酸配列に対して少なくとも92%(例えば92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の配列同一性を有するVβドメイン;(b)配列番号36若しくは37のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号29のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有するTCRVβドメイン;又は(c)配列番号34~44のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるTCRVαドメインと、配列番号29のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有するTCRVβドメインを含む、p37特異的TCR又はその結合ドメインを提供する。
【0110】
更に他の実施形態において、本開示は、(a)配列番号34~35及び38~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号31のアミノ酸配列に対して少なくとも93%の配列同一性を有するVβドメイン;(b)配列番号36若しくは37のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号31のアミノ酸配列に対して少なくとも93%の配列同一性を有するTCRVβドメイン;又は(c)配列番号34~44のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるTCRVαドメインと、配列番号31のアミノ酸配列に対して少なくとも93%の配列同一性を有するTCRVβドメインを含む、p37特異的TCR又はその結合ドメインを提供する。
【0111】
他の実施形態において、本開示は、(a)配列番号34~35及び38~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号26のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するVβドメイン;(b)配列番号36若しくは37のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号26のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するTCRVβドメイン;又は(c)配列番号34~44のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるTCRVαドメインと、配列番号26のアミノ酸配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するTCRVβドメインを含む、p37特異的TCR又はその結合ドメインを提供する。
【0112】
更に他の実施形態において、本開示は、(a)配列番号34~35及び38~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号23~33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるVβドメイン;(b)配列番号36若しくは37のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有するTCRVαドメインと、配列番号23~33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるTCRVβドメイン;又は(c)配列番号34~44のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるTCRVαドメインと、配列番号23~33のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるTCRVβドメインを含む、p37特異的TCR又はその結合ドメインを提供する。
【0113】
上記実施形態のいずれかにおいて、前記TCRは細胞(例えばT細胞)表面WT1p37ペプチドVLDFAPPGA(配列番号59):HLA複合体と結合し、pEC50が8.5、8.6、8.7、8.8、8.9若しくはそれ以上となるようにIFNγ産生を特異的に誘導することができ、及び/又は前記TCRは、CD8に非依存的に若しくはその不在下でWT1ペプチドVLDFAPPGA(配列番号59):HLA細胞表面複合体と特異的に結合することができる。上記実施形態のいずれかにおいて、前記Vβドメインは、配列番号23~33のいずれか1つに存在するそれぞれCDR1及び/又はCDR2と比較してCDR1及び/又はCDR2のアミノ酸配列に変異を含まない。
【0114】
所定の実施形態において、上記WT1p37ペプチド特異的T細胞受容体(TCR)のいずれかはTCRの抗原結合断片とすることができる。他の実施形態において、前記TCRの抗原結合断片は1本鎖TCR(scTCR)を含み、キメラ抗原受容体(CAR)に加えることができる。一部の実施形態において、WT1p37ペプチド特異的TCRは、例えばVαドメインとα鎖定常ドメインを含むTCRα鎖と、Vβドメインとβ鎖定常ドメインを含むTCRβ鎖を含む多鎖結合タンパク質であり、前記TCRα鎖定常ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも約90%(例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の配列同一性を有しており、前記TCRβ鎖定常ドメインは、配列番号45又は46のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の配列同一性を有する。他の実施形態において、本開示は、配列番号47のアミノ酸配列を有するα鎖定常ドメインを含むか若しくはこのようなドメインから構成される、及び/又は配列番号45若しくは46のアミノ酸配列を有するβ鎖定常ドメインを含むか若しくはこのようなドメインから構成される、WT1p37ペプチド特異的TCRを提供する。
【0115】
他の実施形態において、本開示は、Vαドメインとα鎖定常ドメインTCRα鎖を含むWT1p37ペプチド特異的TCRを提供し、(a)前記Vαドメインは、配列番号34~35及び38~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の配列同一性を有しており、前記α鎖定常ドメインは、配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも約98%の配列同一性を有する;又は(b)前記Vαドメインは、配列番号36又は37のアミノ酸配列に対して少なくとも92%の配列同一性を有しており、前記α鎖定常ドメインは配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも98%の配列同一性を有する。
【0116】
一部の実施形態において、前記TCRは、Vαドメインとα鎖定常ドメインを含むTCRα鎖を含み、(a)前記Vαドメインは配列番号242~252及び34~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列を含み、前記α鎖定常ドメインは配列番号47のアミノ酸配列を含む;又は(b)前記Vαドメインは配列番号242~252及び34~44のいずれか1つに記載のアミノ酸配列から構成され、前記α鎖定常ドメインは配列番号47のアミノ酸配列に対して少なくとも90%(例えば90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の同一性を有するか、このような配列を含むか、若しくはこのような配列から構成される。
【0117】
一部の実施形態では、前記α鎖定常ドメインが存在し、前記Vαドメインと前記α鎖定常ドメインが一緒になってTCRα鎖を形成する。一部の実施形態では、前記β鎖定常ドメインが存在し、前記Vβドメインと前記β鎖定常ドメインが一緒になってTCRβ鎖を形成する。
【0118】
一部の実施形態では、前記TCRはscTCRを含み、又は本願に開示するTCRに由来するscTCRが提供される。一部の実施形態では、前記TCRはCARを含み、又は本願に開示するTCRに由来する(例えば、本願に開示するTCRに由来する1個以上の可変ドメインを含む)CARが提供される。
【0119】
他の実施形態では、上記実施形態のいずれか1つに係る機能的アビディティの高いWT1特異的組換えTCR又はその結合ドメインと、薬学的に許容される基剤、希釈剤又は賦形剤を含有する組成物が提供される。
【0120】
組換え生産された可溶性TCRを単離・精製するのに有用な方法としては、例えば、組換え可溶性TCRを培地に分泌する適切な宿主細胞/ベクターシステムから上清を採取した後、市販フィルターを使用して培地を濃縮する方法が挙げられる。濃縮後、濃縮液をアフィニティマトリックスやイオン交換樹脂等の単一の適切な精製マトリックス又は一連の適切なマトリックスにアプライすればよい。組換えポリペプチドを更に精製するために1回以上の逆相HPLC工程を利用してもよい。免疫原をその天然環境から単離するときにこれらの精製方法を利用してもよい。本願に記載する単離型/組換え可溶性TCRの1つ以上の大規模生産方法はバッチ細胞培養を含み、適切な培養条件を維持するようにモニター・制御される。可溶性TCRの精製は、米国内外規制当局の法律とガイドラインに準じ、本願に記載する当技術分野で公知の方法に従って実施することができる。
【0121】
所定の実施形態では、MHCと複合体化したWT1p37ペプチドに特異的な親和性の高い又は機能的アビディティの高いTCRをコードする核酸分子を使用し、養子移入療法で利用するために宿主細胞(例えばT細胞)にトランスフェクション/形質導入した。TCRシーケンシングの進歩は文献に記載されており(例えば、Robins et al.,Blood 114:4099,2009;Robins et al.,Sci.Translat.Med.2:47ra64,2010;Robins et al.,(Sept.10)J.Imm.Meth.Epub ahead of print,2011;Warren et al.,Genome Res.21:790,2011)、本開示に係る実施形態を実施する過程で利用することができる。同様に、目的の核酸をT細胞にトランスフェクション/形質導入する方法(例えば、米国特許出願公開第US2004/0087025号)や、所望の抗原特異性のT細胞を使用した養子移入法も記載されており(例えば、Schmitt et al.,Hum.Gen.20:1240,2009;Dossett et al.,Mol.Ther.17:742,2009;Till et al.,Blood 112:2261,2008;Wang et al.,Hum.Gene Ther.18:712,2007;Kuball et al.,Blood 109:2331,2007;US2011/0243972;US2011/0189141;Leen et al.,Ann.Rev.Immunol.25:243,2007)、HLA受容体と複合体化したWT1ペプチド抗原に特異的な高親和性TCRに関する教示を含めた本願の教示に基づき、本願に開示する実施形態にこれらの方法を応用することも想定される。
【0122】
本願に記載するWT1特異的TCR又はその結合ドメイン(例えば、配列番号23~58とその非CDR3変異体)は、T細胞活性のアッセイ方法として当技術分野で認められている多数の方法のいずれかに従って機能的に特性決定することができ、T細胞結合、活性化又は誘導の測定や、抗原特異的なT細胞応答の測定が挙げられる。例としては、T細胞増殖、T細胞サイトカイン放出、抗原特異的T細胞刺激、MHC拘束性T細胞刺激、(例えば、標的細胞にプレロードした51Crの排出を検出することにより)細胞傷害性Tリンパ球(CTL)活性、T細胞表現型マーカー発現の変化の測定、及びT細胞機能の他の測定が挙げられる。これらのアッセイ及び同様のアッセイの実施手順については、例えばLefkovits(Immunology Methods Manual:The Comprehensive Sourcebook of Techniques,1998)を参照されたい。更に、Current Protocols in Immunology;Weir,Handbook of Experimental Immunology,Blackwell Scientific,Boston,MA(1986);Mishell and Shigii(eds.)Selected Methods in Cellular Immunology,Freeman Publishing,San Francisco,CA(1979);Green and Reed,Science 281:1309(1998)及びその引用文献も参照されたい。
【0123】
WT1p37抗原ペプチドに特異的なTCRをコードするポリヌクレオチド
本願に記載するWT1p37ペプチドに特異的な親和性の高い又は機能的アビディティの高い組換えT細胞受容体(TCR)又はその結合ドメイン(例えば、scTCR又はその融合タンパク質)をコードする異種、単離又は組換え核酸分子は、本願に記載する種々の方法及び技術により生産・作製することができる(実施例参照)。目的のWT1p37ペプチドに特異的な親和性の高い又は機能的アビディティの高い人工TCR又はその結合ドメインを組換え生産するのに使用される発現ベクターの構築は、当技術分野で公知の任意の適切な分子生物工学技術を使用することにより実施することができ、例えば、Sambrook et al.(1989 and 2001 editions;Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,NY)やAusubel et al.(Current Protocols in Molecular Biology,2003)に記載されているような制限エンドヌクレアーゼ消化、ライゲーション、形質転換、プラスミド精製及びDNAシーケンシングの使用が挙げられる。効率的な転写と翻訳を得るために、各組換え発現コンストラクトにおけるポリヌクレオチドは、リーダー配列や、特に免疫原をコードするヌクレオチド配列に機能的に(即ち、作用し得るように)連結されたプロモーター等の少なくとも1個の適切な発現制御配列(調節配列とも言う)を含む。
【0124】
所定の実施形態は、本願で想定するポリペプチド、例えば、WT1p37ペプチド:MHC複合体に特異的な親和性の高い又は機能的アビディティの高い人工TCR又はその結合ドメインをコードする核酸に関する。当業者に自明の通り、核酸とは、任意形態の1本鎖又は2本鎖DNA、cDNA又はRNAを意味することができ、核酸の相補的なプラス鎖とマイナス鎖を含むことができ、アンチセンスDNA、cDNA及びRNAを含む。siRNA、マイクロRNA、RNA-DNAハイブリッド、リボザイム、及び他の種々の天然又は合成形態のDNA又はRNAも含む。
【0125】
所定の実施形態において、本願では本開示のWT1p37ペプチドに特異的な機能的アビディティの高い人工(例えばコドン最適化)TCR又はその結合ドメインをコードする単離型ポリヌクレオチドが提供され、配列番号97、98及び101~107のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列に少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%又は100%一致するポリヌクレオチドによりVαドメインをコードすることができる。特定の実施形態では、配列番号97~107のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含むか又はこのような配列から構成されるポリヌクレオチドによりVαドメインをコードする。他の実施形態において、本願では本開示のWT1p37ペプチドに特異的な機能的アビディティの高い人工TCR又はその結合ドメインをコードするポリヌクレオチドが提供され、配列番号75~77、79、82、84及び85のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列に少なくとも75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%又は100%一致するポリヌクレオチドによりVβドメインをコードする。特定の実施形態では、配列番号75~85のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含むか又はこのような配列から構成されるポリヌクレオチドによりVβドメインをコードする。
【0126】
一部の実施形態において、本願で提供されるTCR又はその結合ドメインは、配列番号97、98及び101~107のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも75%(75%、76%、77%、78%、79%、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.9%又は100%)の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるVαドメイン、又は配列番号99若しくは100のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも94%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるVαドメイン、又は配列番号97~107のいずれか1つに記載の配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされるVαドメインと;配列番号75~77、79、82、84及び85のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも75%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるVβドメイン、又は配列番号78、80、81及び83のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるVβドメイン、又は配列番号75~85のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含むか若しくはこのような配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされるVβドメインを含む。
【0127】
上記実施形態のいずれかにおいて、Vαドメイン、Vβドメイン又はその両方をコードするポリヌクレオチドは更に、それぞれα鎖定常ドメイン又はβ鎖定常ドメインをコードすることができる。所定の実施形態において、本開示のTCRはTCRα鎖定常ドメインを含み、前記α鎖定常ドメインは配列番号110に対して少なくとも98%~100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる。特定の実施形態において、α鎖定常ドメインは、配列番号110のヌクレオチド配列を含むか又はこのような配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされる。他の実施形態において、本願では配列番号108又は109に対して少なくとも99.9%~100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるβ鎖定常ドメインが提供される。特定の実施形態において、β鎖定常ドメインは、配列番号108又は109のヌクレオチド配列を含むか又はこのような配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされる。
【0128】
上記実施形態のいずれかにおいて、TCRをコードするポリヌクレオチドは、TCRα鎖、TCRβ鎖、又はその両方を含む。所定の実施形態において、本開示のTCRは、TCRα鎖をコードするポリヌクレオチド配列とTCRβ鎖をコードするポリヌクレオチド配列の間に配置された自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされる。代表的な自己切断ペプチドは、配列番号60~63のいずれか1つのアミノ酸配列を含むか、又は配列番号60~63のいずれか1つのアミノ酸配列から構成される。このような自己切断ペプチドは配列番号166~170のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードすることができ、又は配列番号166~170のいずれか1つに記載のポリヌクレオチド配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードすることができる。
【0129】
所定の実施形態において、TCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、配列番号155~165のいずれか1つに対して少なくとも95%(例えば95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる。他の実施形態において、TCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、配列番号155~165のいずれか1つのポリヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドによりコードされるか、又は配列番号155~165のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされる。更に他の実施形態において、前記コードされるTCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、配列番号48~58のポリペプチドのいずれか1つに対して少なくとも95%(例えば95%、96%、97%、98%、99%又は100%)の同一性を有するアミノ酸配列を含み、又は前記コードされるTCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、配列番号48~58のいずれか1つのアミノ酸配列を含むか若しくはこのような配列から構成される。
【0130】
本願に開示する実施形態のいずれかにおいて、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドは更に、(i)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、任意に、コードされるポリペプチドがCD8共受容体α鎖であるか若しくはCD8共受容体α鎖を含む、前記ポリヌクレオチド;(ii)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、任意に、コードされるポリペプチドがCD8共受容体β鎖であるか若しくはCD8共受容体β鎖を含む、前記ポリヌクレオチド;又は(iii)(i)のポリヌクレオチドと(ii)のポリヌクレオチドを含むことができる。理論に拘束する意図はないが、所定の実施形態では、結合タンパク質がCD8共受容体タンパク質又はHLA分子と結合するように機能するその部分と共発現又は並行発現する結果、結合タンパク質単独の発現と比較して宿主細胞(例えば、T細胞、任意にCD4+T細胞等の免疫細胞)の1つ以上の所望の活性が改善されると考えられる。当然のことながら、結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、CD8共受容体ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは(例えば同一の発現ベクター内で)1個の核酸分子上に存在していてもよいし、宿主細胞内で別々の核酸分子上に存在していてもよい。
【0131】
他の所定の実施形態において、ポリヌクレオチドは、(a)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと;(b)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと;(c)(a)のポリヌクレオチドと(b)のポリヌクレオチドの間に配置された自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。他の実施形態において、ポリヌクレオチドは、自己切断ペプチドをコードし、(1)結合タンパク質(例えば本開示のTCR)をコードするポリヌクレオチドと、CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの間;及び/又は(2)結合タンパク質をコードするポリヌクレオチドと、CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの間に配置されたポリヌクレオチドを含む。
【0132】
更に他の実施形態において、ポリヌクレオチドは、インフレームで機能的に連結された(i)(pnCD8α)-(pnSCP1)-(pnCD8β)-(pnSCP2)-(pnTCR);(ii)(pnCD8β)-(pnSCP1)-(pnCD8α)-(pnSCP2)-(pnTCR);(iii)(pnTCR)-(pnSCP1)-(pnCD8α)-(pnSCP2)-(pnCD8β);(iv)(pnTCR)-(pnSCP1)-(pnCD8β)-(pnSCP2)-(pnCD8α);(v)(pnCD8α)-(pnSCP1)-(pnTCR)-(pnSCP2)-(pnCD8β);又は(vi)(pnCD8β)-(pnSCP1)-(pnTCR)-(pnSCP2)-(pnCD8α)を含むことができ、上記式中、pnCD8αはCD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、pnCD8βはCD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、pnTCRはTCRをコードするポリヌクレオチドであり、pnSCP1及びpnSCP2は各々独立して自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、前記ポリヌクレオチド及び/又は前記コードされる自己切断ペプチドは任意に同一又は異なる(例えばP2A、T2A、F2A、E2A)。
【0133】
一部の実施形態において、前記コードされるTCRはTCRα鎖とTCRβ鎖を含み、前記ポリヌクレオチドは、TCRα鎖をコードするポリヌクレオチドとTCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドの間に配置された自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、インフレームで機能的に連結された(i)(pnCD8α)-(pnSCP1)-(pnCD8β)-(pnSCP2)-(pnTCRβ)-(pnSCP3)-(pnTCRα);(ii)(pnCD8β)-(pnSCP1)-(pnCD8α)-(pnSCP2)-(pnTCRβ)-(pnSCP3)-(pnTCRα);(iii)(pnCD8α)-(pnSCP1)-(pnCD8β)-(pnSCP2)-(pnTCRα)-(pnSCP3)-(pnTCRβ);(iv)(pnCD8β)-(pnSCP1)-(pnCD8α)-(pnSCP2)-(pnTCRα)-(pnSCP3)-(pnTCRβ);(v)(pnTCRβ)-(pnSCP1)-(pnTCRα)-(pnSCP2)-(pnCD8α)-(pnSCP3)-(pnCD8β);(vi)(pnTCRβ)-(pnSCP1)-(pnTCRα)-(pnSCP2)-(pnCD8β)-(pnSCP3)-(pnCD8α);(vii)(pnTCRα)-(pnSCP1)-(pnTCRβ)-(pnSCP2)-(pnCD8α)-(pnSCP3)-(pnCD8β);又は(viii)(pnTCRα)-(pnSCP1)-(pnTCRβ)-(pnSCP2)-(pnCD8β)-(pnSCP3)-(pnCD8α)を含み、上記式中、pnCD8αはCD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、pnCD8βはCD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、pnTCRαはTCRα鎖をコードするポリヌクレオチドであり、pnTCRβはTCRβ鎖をコードするポリヌクレオチドであり、pnSCP1、pnSCP2及びpnSCP3は各々独立して自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、前記ポリヌクレオチド及び/又は前記コードされる自己切断ペプチドは任意に同一又は異なる。
【0134】
他の実施形態において、結合タンパク質は、安全スイッチタンパク質、タグ、選択マーカー、CD8共受容体β鎖、CD8共受容体α鎖若しくはその両方、又は任意のその組み合わせ等の1つ以上の他のアクセサリータンパク質をコードするトランスジーンコンストラクトの一部として発現され、及び/又は本開示の宿主細胞は、このような1つ以上の他のアクセサリータンパク質をコードすることができる。結合タンパク質とアクセサリーコンポーネント(例えば、安全スイッチタンパク質、選択マーカー、CD8共受容体β鎖又はCD8共受容体α鎖の1つ以上)をコード・発現させるために有用なポリヌクレオチドとトランスジーンコンストラクトはPCT出願PCT/US2017/053112に記載されており、ヌクレオチド配列とアミノ酸配列を含め、同出願に記載されているポリヌクレオチド、トランスジーンコンストラクト及びアクセサリーコンポーネントを本願に援用する。当然のことながら、本開示の結合タンパク質、安全スイッチタンパク質、タグ、選択マーカー、CD8共受容体β鎖又はCD8共受容体α鎖のいずれか又は全部を1個の核酸分子によりコードすることもできるし、別々の核酸分子であるか又は別々の核酸分子上に存在するポリヌクレオチド配列によりコードすることもできる。
【0135】
代表的な安全スイッチタンパク質としては、例えば、細胞外N末端リガンド結合ドメインと細胞内受容体チロシンキナーゼ活性を欠損するが、その天然アミノ酸配列を維持し、I型膜貫通タンパク質の細胞表面局在を示し、医薬品グレードの抗EGFRモノクローナル抗体が結合する立体配座的に無傷なエピトープを有する短縮型EGF受容体ポリペプチド(huEGFRt)であるセツキシマブ(アービタックス)tEGF受容体(tEGFr;Wang et al.,Blood 118:1255-1263,2011)が挙げられ、更に、カスパーゼポリペプチド(例えばiCasp9;Straathof et al.,Blood 105:4247-4254,2005;Di Stasi et al.,N.Engl.J.Med.365:1673-1683,2011;Zhou and Brenner,Exp.Hematol.pii:S0301-472X(16)30513-6.doi:10.1016/j.exphem.2016.07.011)、RQR8(Philip et al.,Blood 124:1277-1287,2014);ヒトc-mycタンパク質(Myc)に由来する10アミノ酸タグ(Kieback et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 105:623-628,2008);及びRQR(CD20+CD34;Philip et al.,2014)等のマーカー/安全スイッチポリペプチドが挙げられる。
【0136】
本開示の改変型宿主細胞に有用な他のアクセサリーコンポーネントは、細胞を同定、選別、単離、濃縮又は追跡できるようにするタグ又は選択マーカーを含む。例えば、所望の特徴(例えば、抗原特異的TCRや安全スイッチタンパク質)を有する標識宿主細胞を試料中の未標識細胞から選別することができ、所望の純度の製剤に加えるためにより効率的に活性化させ、拡大することができる。
【0137】
本願で使用する「選択マーカー」なる用語は、選択マーカーを含むポリヌクレオチドを形質導入した免疫細胞を検出・ポジティブセレクションできるように、識別可能な変化を細胞に付与する核酸コンストラクト(及びコードされる遺伝子産物)を含む。RQRは、CD20の細胞外大ループと2個の最小CD34結合部位を含む選択マーカーである。一部の実施形態において、RQRをコードするポリヌクレオチドは、16アミノ酸のCD34最小エピトープをコードするポリヌクレオチドを含む。一部の実施形態において、前記CD34最小エピトープはCD8共受容体ストークドメイン(Q8)のアミノ末端位置に組み込まれる。他の実施形態では、前記CD34最小結合部位配列をCD20の標的エピトープと連結し、T細胞用のコンパクトなマーカー/自殺遺伝子(RQR8)を形成することができる(本願に援用するPhilip et al.,2014)。このコンストラクトを用いると、同コンストラクトを発現する宿主細胞を、例えば磁気ビーズ(Miltenyi)に結合させたCD34特異抗体で選択することが可能になり、更に、臨床で許容されている医薬品抗体であるリツキシマブを利用し、トランスジーンを発現する人工T細胞の選択的排除が可能になる(Philip et al.,2014)。
【0138】
他の代表的な選択マーカーとしては、通常ではT細胞上で発現されない数種の短縮型I型膜貫通タンパク質、即ち、短縮型低親和性神経成長因子、短縮型CD19、及び短縮型CD34も挙げられる(例えば、Di Stasi et al.,N.Engl.J.Med.365:1673-1683,2011;Mavilio et al.,Blood 83:1988-1997,1994;Fehse et al.,Mol.Ther.1:448-456,2000が参照され、各々その開示内容全体を本願に援用する)。CD19とCD34の有用な特徴は、これらのマーカーを臨床グレード選別に適用できるオフザシェルフMiltenyi CliniMACs(TM)選択システムを利用できることである。しかし、CD19とCD34は比較的大きな表面タンパク質であり、組み込みベクターのベクターパッケージング能と転写効率が課題となる。細胞外非シグナル伝達ドメイン又は種々のタンパク質(例えばCD19、CD34、LNGFR)を含む表面マーカーも利用できる。どのような選択マーカーを利用してもよく、適正製造規範(Good Manufacturing Practices)に適合すると思われる。所定の実施形態では、目的遺伝子産物(例えば、TCRやCAR等の本開示の結合タンパク質)をコードするポリヌクレオチドと選択マーカーを共発現させる。選択マーカーの他の例としては、例えば、GFP、EGFP、β-gal又はクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)等のレポーターが挙げられる。所定の実施形態では、例えばCD34等の選択マーカーを細胞に発現させ、本願に記載する方法での使用に備えて形質導入した目的細胞を(例えば免疫磁気選択により)選択、濃縮又は単離するためにCD34を使用することができる。本願で使用するCD34マーカーは、抗CD34抗体、又は例えばCD34と結合するscFv、TCR若しくは他の抗原認識部分とは区別される。
【0139】
所定の実施形態において、選択マーカーはRQRポリペプチド、短縮型低親和性神経成長因子(tNGFR)、短縮型CD19(tCD19)、短縮型CD34(tCD34)又は任意のその組み合わせを含む。
【0140】
RQRポリペプチドに関して、理論に拘束する意図はないが、RQRポリペプチドが選択マーカー/安全スイッチとして機能するためには、宿主細胞表面からのエピトープ又は標的配列の距離が重要であると思われる(Philip et al.,2010(前出))。一部の実施形態において、コードされるRQRポリペプチドはコードされるCD8共受容体のβ鎖、α鎖若しくはその両方、又は一方若しくは両方の断片若しくは変異体に組み込まれる。特定の実施形態において、改変型宿主細胞は、iCasp9をコードする異種ポリヌクレオチドと、RQRポリペプチドを組み込んだβ鎖とCD8α鎖を含む組換えCD8共受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む。
【0141】
上記実施形態のいずれかにおいて、例えば本開示のTCR若しくはその結合ドメイン、又はCD8共受容体若しくはその細胞外部分をコードするポリヌクレオチドは、標的宿主細胞で効率的に発現されるようにコドン最適化されている。一部の実施形態において、前記宿主細胞はT細胞、NK細胞又はNK-T細胞等のヒト免疫系細胞を含む(Scholten et al.,Clin.Immunol.119:135,2006)。コドン最適化は公知技術及びツールを使用して実施することができ、例えばGenScript(R)OptimumGene(TM)ツール又はGeneArt(Life Technologies)を使用できる。コドン最適化配列としては、部分的にコドン最適化された(即ち、コドンの全部よりは少ないが、1個以上が宿主細胞での発現に適合するように最適化された)配列と、完全にコドン最適化された配列が挙げられる。当然のことながら、ポリヌクレオチドが2つ以上のポリペプチド(例えば、TCRα鎖、TCRβ鎖、CD8共受容体α鎖、CD8共受容体β鎖、及び1つ以上の自己切断ペプチド)をコードする実施形態では、各ポリペプチドを独立して完全にコドン最適化してもよいし、部分的にコドン最適化してもよいし、コドン最適化しなくてもよい。
【0142】
所定の実施形態において、本開示は、本開示のTCR又はその結合ドメインの任意の1つ以上をコードする異種ポリヌクレオチドを含む宿主細胞を提供し、このような改変型又は組換え宿主細胞は、前記異種ポリヌクレオチドによりコードされるTCR又はその結合ドメインをその細胞表面に発現する。
【0143】
組換え(即ち、人工)DNA、ペプチド及びオリゴヌクレオチド合成、イムノアッセイ及び組織培養と形質転換(例えばエレクトロポレーション、リポフェクション)には種々の技術を使用することができる。酵素反応及び精製技術は製造業者の指示に従って実施してもよいし、当技術分野で広く実施されているように実施してもよいし、本願に記載するように実施してもよい。これらの技術と手順及び関連する技術と手順は、一般に当技術分野で周知の従来方法に従って実施することができ、また、本明細書の随所に引用・論述する微生物学、分子生物学、生化学、分子遺伝学、細胞生物学、ウイルス学及び免疫技術における種々の一般文献及び特殊文献に記載されているように実施することができる。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3d ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.;Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley and Sons,updated July 2008);Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley-Interscience;Glover,DNA Cloning:A Practical Approach,vol.I & II(IRL Press,Oxford Univ.Press USA,1985);Current Protocols in Immunology(Edited by:John E.Coligan,Ada M.Kruisbeek,David H.Margulies,Ethan M.Shevach,Warren Strober 2001 John Wiley & Sons,NY,NY);Real-Time PCR:Current Technology and Applications,Edited by Julie Logan,Kirstin Edwards and Nick Saunders,2009,Caister Academic Press,Norfolk,UK;Anand,Techniques for the Analysis of Complex Genomes,(Academic Press,New York,1992);Guthrie and Fink,Guide to Yeast Genetics and Molecular Biology(Academic Press,New York,1991);Oligonucleotide Synthesis(N.Gait,Ed.,1984);Nucleic Acid Hybridization(B.Hames & S.Higgins,Eds.,1985);Transcription and Translation(B.Hames & S.Higgins,Eds.,1984);Animal Cell Culture(R.Freshney,Ed.,1986);Perbal,A Practical Guide to Molecular Cloning(1984);Next-Generation Genome Sequencing(Janitz,2008 Wiley-VCH);PCR Protocols(Methods in Molecular Biology)(Park,Ed.,3rd Edition,2010 Humana Press);Immobilized Cells And Enzymes(IRL Press,1986);論文,Methods In Enzymology(Academic Press,Inc.,N.Y.);Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells(J.H.Miller and M.P.Calos eds.,1987,Cold Spring Harbor Laboratory);Harlow and Lane,Antibodies,(Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1998);Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology(Mayer and Walker,eds.,Academic Press,London,1987);Handbook Of Experimental Immunology,Volumes I-IV(D.M.Weir and CC Blackwell,eds.,1986);Roitt,Essential Immunology,6th Edition,(Blackwell Scientific Publications,Oxford,1988);Embryonic Stem Cells:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology)(Kurstad Turksen,Ed.,2002);Embryonic Stem Cell Protocols:Volume I:Isolation and Characterization(Methods in Molecular Biology)(Kurstad Turksen,Ed.,2006);Embryonic Stem Cell Protocols:Volume II:Differentiation Models(Methods in Molecular Biology)(Kurstad Turksen,Ed.,2006);Human Embryonic Stem Cell Protocols(Methods in Molecular Biology)(Kursad Turksen Ed.,2006);Mesenchymal Stem Cells:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology)(Darwin J.Prockop,Donald G.Phinney,and Bruce A.Bunnell Eds.,2008);Hematopoietic Stem Cell Protocols(Methods in Molecular Medicine)(Christopher A.Klug,and Craig T.Jordan Eds.,2001);Hematopoietic Stem Cell Protocols(Methods in Molecular Biology)(Kevin D.Bunting Ed.,2008)Neural Stem Cells:Methods and Protocols(Methods in Molecular Biology)(Leslie P.Weiner Ed.,2008)参照。
【0144】
上記実施形態のいずれかでは、本開示のポリヌクレオチドを宿主細胞に取り込ませ、又は所定の実施形態では、ベクターに取り込ませ、前記ポリヌクレオチドを取り込んだ前記ベクターを宿主細胞に導入することができる。従って、本願で提供されるポリヌクレオチドを含むベクターが提供される。一部の実施形態において、前記ポリヌクレオチドは発現制御配列と機能的に連結されている。本願に開示する所定の実施形態で使用するのに適したベクターは公知であり、特定の目的又は細胞に合わせて選択することができる。代表的なベクターの1例は別の核酸分子を連結して輸送することが可能な核酸分子又は宿主生物で複製可能な核酸分子を含むことができる。ベクターの例としては、プラスミド、ウイルスベクター、コスミド等が挙げられる。ベクターには、これらのベクターが導入される宿主細胞で自律複製が可能なもの(例えば、細菌複製起点を有する細菌ベクターや哺乳動物エピソーマルベクター)もあれば、宿主細胞のゲノムに組込むことができるものや、宿主細胞に導入されると、ポリヌクレオチドインサートの組込みを促進し、宿主ゲノムと共存して複製できるものもある(例えばレンチウイルスベクター)。更に、ベクターによっては、これらのベクターが機能的に連結されている遺伝子の発現を誘導することができる(これらのベクターを「発現ベクター」と言う場合もある)。関連する実施形態によると、更に当然のことながら、1つ以上の薬剤(例えば、本願に記載するWT1p37に特異的な親和性の高い又は機能的アビディティの高い組換えTCR又はその結合ドメインをコードするポリヌクレオチド)を対象に共投与する場合には、各薬剤を別々のベクターに搭載してもよいし、同一のベクターに搭載してもよく、(各々異なる薬剤又は同一薬剤を搭載した)複数のベクターを細胞若しくは細胞集団に導入することができ、又は対象に投与することができる。
【0145】
所定の実施形態では、本開示のWT1p37ペプチド:MHCに特異的な親和性の高い又は機能的アビディティの高い組換えTCR又はその結合ドメインをコードするポリヌクレオチドをベクターの所定の発現制御因子に機能的に連結することができる。例えば、コーディング配列にライゲーションされたときにその発現及びプロセシングを生じるために必要なポリヌクレオチド配列を機能的に連結することができる。発現制御配列としては、適切な転写開始、終結、プロモーター及びエンハンサー配列;スプライシングシグナルやポリアデニル化シグナル等の効率的RNAプロセシングシグナル;細胞質mRNAを安定化させる配列;翻訳効率を上げる配列(即ち、コザックコンセンサス配列);タンパク質安定性を強化する配列が挙げられ;更にタンパク質分泌を強化する配列も考えられる。発現制御配列がトランスに作用するように目的遺伝子と隣接して配置されている場合又は目的遺伝子を制御するように距離を空けて配置されている場合に、発現制御配列は機能的に連結されていると言える。所定の実施形態では、レンチウイルスベクター又はγ-レトロウイルスベクター又はアデノウイルスベクター等のウイルスベクターである発現ベクターに本開示のTCR又はその結合ドメインをコードするポリヌクレオチドを搭載する。
【0146】
特定の実施形態では、適切な細胞、例えばT細胞又は抗原提示細胞、即ち、ペプチド/MHC複合体をその細胞表面に提示し(例えば樹状細胞)、CD8を欠損する細胞に前記組換え発現ベクターを送達する。所定の実施形態において、前記宿主細胞は造血前駆細胞又はヒト免疫系細胞である。例えば、前記免疫系細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞又は任意のその組み合わせとすることができ、組み合わせが存在する場合には、CD4+T細胞とCD8+T細胞を含む。前記宿主がT細胞である所定の実施形態において、前記T細胞はナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞又は任意のその組み合わせとすることができる。従って、前記組換え発現ベクターは更に、例えばBリンパ球、Tリンパ球等のリンパ組織特異的転写調節因子(TRE)、又は樹状細胞特異的TREを含むことができる。リンパ組織特異的TREは当技術分野で公知である(例えば、Thompson et al.,Mol.Cell.Biol.12:1043,1992;Todd et al.,J.Exp.Med.177:1663,1993;Penix et al.,J.Exp.Med.178:1483,1993参照)。
【0147】
ベクターに加え、所定の実施形態は本願に開示する異種ポリヌクレオチド又はベクターを含む宿主細胞に関する。所定の実施形態において、前記宿主細胞は前記ポリヌクレオチドによりコードされるTCRをその細胞表面に発現し、前記ポリヌクレオチドは宿主細胞に対して異種である。当業者に自明の通り、多数の適切な宿主細胞が当技術分野で入手可能である。宿主細胞としては、ベクターを導入すること又は核酸及び/若しくはタンパク質を取り込むことが可能な任意の個々の細胞又は細胞培養物と、任意の子孫細胞が挙げられる。この用語は更に、遺伝子型又は表現型が同一であるか又は異なるかに関係なく、宿主細胞の子孫も意味する。適切な宿主細胞はベクターにより異なり、哺乳動物細胞、動物細胞、ヒト細胞、サル細胞、昆虫細胞、酵母細胞及び細菌細胞が挙げられる。ウイルスベクターの使用、リン酸カルシウム沈殿法による形質転換、DEAE-デキストラン、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション又は他の方法により、これらの細胞に前記ベクター又は他の材料を取り込ませることができる。例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual 2d ed.(Cold Spring Harbor Laboratory,1989)参照。
【0148】
所定の実施形態において、前記宿主細胞により発現されるTCRのVαドメインは、配列番号97、98及び101~107のポリヌクレオチドのいずれか1つに対して少なくとも75%(例えば75%、80%、85%、90%、95%、97%、99%又は100%)の配列同一性、又は配列番号99若しくは100に対して少なくとも94%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる。所定の実施形態において、前記Vαドメインは、(a)配列番号97~107のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列を含むか、又は(b)配列番号97~107のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされる。
【0149】
所定の実施形態において、前記宿主細胞のVβドメインは、配列番号75~77、79、82、84及び85のポリヌクレオチドのいずれか1つに対して少なくとも75%の配列同一性、又は配列番号78、80、81及び83のポリヌクレオチドのいずれか1つに対して少なくとも95%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる。所定の実施形態において、前記Vβドメインは、(a)配列番号75~85のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列を含むか、又は(b)配列番号75~85のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされる。
【0150】
所定の実施形態において、前記TCRα鎖は、配列番号110に対して少なくとも98%の同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるα鎖定常ドメインを含む。所定の実施形態において、前記TCRα鎖は、(a)配列番号110のポリヌクレオチド配列を含むか、又は(b)配列番号110のポリヌクレオチド配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされるα鎖定常ドメインを含む。所定の実施形態において、前記TCRβ鎖は、配列番号108又は109に対して少なくとも99.9%の配列同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされるβ鎖定常ドメインを含む。一部の実施形態において、前記TCRβ鎖は、(a)配列番号108若しくは109のポリヌクレオチド配列を含むか、又は(b)配列番号108若しくは109のポリヌクレオチド配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされるβ鎖定常ドメインを含む。
【0151】
一部の実施形態において、前記ポリヌクレオチドは、TCRα鎖をコードするポリヌクレオチド配列とTCRβ鎖をコードするポリヌクレオチド配列の間に配置された自己切断ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0152】
一部の実施形態において、前記コードされる自己切断ペプチドは、(a)配列番号60~63のポリペプチドのいずれか1つのアミノ酸配列を含む;又は(b)配列番号60~63のポリペプチドのいずれか1つの配列から構成される。
【0153】
一部の実施形態において、前記自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドは、(a)配列番号166~170のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列を含む;又は(b)配列番号166~170のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列から構成される。
【0154】
一部の実施形態において、前記TCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、配列番号155~165のいずれか1つに対して少なくとも95%の同一性を有するポリヌクレオチドによりコードされる。
【0155】
一部の実施形態において、前記TCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、(a)配列番号155~165のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列を含む;又は(b)配列番号155~165のポリヌクレオチドのいずれか1つの配列から構成されるポリヌクレオチドによりコードされる。
【0156】
一部の実施形態において、前記コードされるTCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、配列番号48~58のポリペプチドのいずれか1つに対して少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.5%、99,9%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。一部の実施形態において、前記コードされるTCRα鎖、自己切断ペプチド及びTCRβ鎖は、(a)配列番号48~58のポリペプチドのいずれか1つのアミノ酸配列を含む;又は(b)配列番号48~58のポリペプチドのいずれか1つのアミノ酸配列から構成される。
【0157】
一部の実施形態において、宿主細胞は造血前駆細胞又はヒト免疫系細胞である。一部の実施形態において、前記免疫系細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、樹状細胞又は任意のその組み合わせであり、任意に、前記組合せはCD4+T細胞とCD8+T細胞を含む。
【0158】
一部の実施形態において、前記宿主免疫系細胞はT細胞である。一部の実施形態において、前記T細胞はナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞又は任意のその組み合わせである。
【0159】
所定の実施形態において、前記TCRは内在性TCR(例えば、前記内在性TCRが人工的に発現を抑制又は阻害されていないとき)と比較してより高いT細胞上の表面発現を有する。
【0160】
所定の実施形態において、前記宿主細胞は更に、(i)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドであって、任意に、前記コードされるポリペプチドがCD8共受容体α鎖であるか若しくはこれを含む、前記異種ポリヌクレオチド;(ii)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドであって、任意に、前記コードされるポリペプチドがCD8共受容体β鎖であるか若しくはこれを含む、前記異種ポリヌクレオチド;又は(iii)(i)のポリヌクレオチドと(ii)のポリヌクレオチドを含み、任意に、前記宿主細胞はCD4+T細胞を含む。
【0161】
一部の実施形態において、前記宿主細胞は、(a)CD8共受容体α鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドと;(b)CD8共受容体β鎖の細胞外部分を含むポリペプチドをコードする異種ポリヌクレオチドと;(c)(a)のポリヌクレオチドと(b)のポリヌクレオチドの間に配置された自己切断ペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0162】
本願に開示する実施形態のいずれかにおいて、前記宿主細胞(例えば、ヒトT細胞等の免疫細胞)は、(i)乳がん細胞株MDA-MB-468の腫瘍細胞;(ii)膵腺癌細胞株PANC-1の腫瘍細胞;(iii)乳がん細胞株MDA-MB-231の腫瘍細胞;(iv)HLA-A2を発現する骨髄性白血病細胞株K562の腫瘍細胞であって、任意に、前記HLA-A2がHLA-A*201を含む、前記腫瘍細胞;(v)HLA-A2を発現する大腸がん細胞株RKOの腫瘍細胞であって、任意に、前記HLA-A2がHLA-A*201を含む、前記腫瘍細胞;又は(vi)(i)~(v)の腫瘍細胞の任意の組み合わせと試料中に同時に存在するときに、前記腫瘍細胞を殺傷することが可能である。
【0163】
特定の実施形態では、前記宿主細胞と前記腫瘍細胞が32:1、16:1、8:1、4:1、2:1又は1.5:1の宿主細胞:腫瘍細胞比で前記試料中に存在するときに、前記宿主細胞は前記腫瘍細胞を殺傷することが可能である。標的細胞の殺傷は、例えばIncucyte(R)バイオイメージングプラットフォーム(Essen Bioscience)で判定することができる。所定の実施形態において、このプラットフォームはカスパーゼ活性化と腫瘍細胞標識(例えば、RapidRed又はNucRed)シグナルを使用し、オーバーラップを測定し、オーバーラップ面積の増加をアポトーシスによる腫瘍細胞死とみなす。標的細胞をクロム(51Cr)で標識し、本開示の結合タンパク質を発現する免疫細胞と共に4時間コインキュベーション後に上清中の51Crを測定する4時間アッセイを使用して殺傷を測定することもできる。
【0164】
上記実施形態のいずれかでは、免疫シグナル伝達又は他の関連活性に関与するポリペプチドをコードする1つ以上の内在性遺伝子の発現を低下又は停止させるように、宿主細胞(例えば免疫細胞)を改変してもよい。代表的な遺伝子ノックアウトとしては、PD-1、LAG-3、CTLA4、TIM3、TIGIT、FasL、HLA分子、TCR分子等をコードするものが挙げられる。理論に拘束する意図はないが、所定の内在的に発現される免疫細胞タンパク質は、改変型免疫細胞を取り込んだ同種宿主に外来と認識され得るため、改変型免疫細胞が排除されたり(例えばHLA対立遺伝子)、改変型免疫細胞の免疫活性がダウンレギュレートされたり(例えばPD-1、LAG-3、CTLA4、FasL、TIGIT、TIM3)、本開示の異種発現結合タンパク質の結合活性が妨害されたりすると考えられる(例えば、改変型T細胞の内在性TCRは非Ras抗原と結合し、改変型免疫細胞がRas抗原を発現する細胞と結合するのを妨害する)。
【0165】
従って、このような内在性遺伝子又はタンパク質の発現又は活性を低下又は停止させると、自家又は同種宿主条件下で改変型細胞の活性、寛容性又はパーシスタンスを改善することができ、前記細胞を(例えば、HLAタイプに関係なくあらゆるレシピエントに)普遍的に投与することが可能になる。所定の実施形態において、改変型細胞はドナー細胞(例えば同種)又は自家細胞である。所定の実施形態において、本開示の宿主細胞は、PD-1、LAG-3、CTLA4、TIM3、TIGIT、FasL、HLAコンポーネント(例えば、α1マクログロブリン、α2マクログロブリン、α3マクログロブリン、β1ミクログロブリン又はβ2ミクログロブリンをコードする遺伝子)又はTCRコンポーネント(例えば、TCR可変領域又はTCR定常領域をコードする遺伝子)をコードする遺伝子の1つ以上の染色体遺伝子ノックアウトを含む(例えば、Torikai et al.,Nature Sci.Rep.6:21757(2016);Torikai et al.,Blood 119(24):5697(2012);及びTorikai et al.,Blood 122(8):1341(2013)が参照され、その遺伝子編集技術、組成物、及び養子細胞療法の全てを本願に援用する)。
【0166】
本願で使用する「染色体遺伝子ノックアウト」なる用語は、宿主細胞における遺伝子変異又は阻害剤導入により、機能的に活性な内在性ポリペプチド産物が宿主細胞により産生されるのを妨げる(例えば低下、遅延、抑制又は停止させる)ことを意味する。染色体遺伝子ノックアウトをもたらす変異としては、例えば、ナンセンス突然変異(未成熟終止コドンの形成を含む)、ミスセンス突然変異、遺伝子欠失及び鎖切断の導入と、宿主細胞における内在性遺伝子発現を抑制する抑制核酸分子の異種発現を挙げることができる。
【0167】
所定の実施形態では、宿主細胞の染色体編集により染色体遺伝子ノックアウト又は遺伝子ノックインを行う。染色体編集は、例えばエンドヌクレアーゼを使用して実施することができる。本願で使用する「エンドヌクレアーゼ」とは、ポリヌクレオチド鎖内でホスホジエステル結合の切断を触媒することが可能な酵素を意味する。所定の実施形態において、エンドヌクレアーゼは標的遺伝子を切断することにより、この標的遺伝子を不活性化又は「ノックアウト」することができる。エンドヌクレアーゼは天然、組換え、遺伝子改変又は融合エンドヌクレアーゼとすることができる。エンドヌクレアーゼにより生じる核酸鎖切断は、通常では相同組換え又は非相同末端結合(NHEJ)の個々のメカニズムにより修復される。相同組換えの過程では、ドナー遺伝子を「ノックイン」するため、標的遺伝子を「ノックアウト」するため、及び任意に、ドナー遺伝子ノックイン又は標的遺伝子ノックアウトイベントにより標的遺伝子を不活性化するために、ドナー核酸分子を使用することができる。NHEJは、多くの場合には切断部位のDNA配列に変異、例えば少なくとも1塩基の置換、欠失又は付加をもたらすエラープローン修復プロセスである。NHEJは標的遺伝子を「ノックアウト」するために使用することができる。エンドヌクレアーゼの例としては、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、TALEヌクレアーゼ、CRISPR-Casヌクレアーゼ、メガヌクレアーゼ、及びメガTALが挙げられる。
【0168】
本願で使用する「ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)」とは、ジンクフィンガーDNA結合ドメインをFoklエンドヌクレアーゼ等の非特異的DNA切断ドメインと融合させた融合タンパク質を意味する。約30アミノ酸の各ジンクフィンガーモチーフが約3塩基対のDNAと結合し、所定の残基のアミノ酸を変異させて3塩基配列特異性を変化させることができる(例えば、Desjarlais et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.90:2256-2260,1993;Wolfe et al.,J.Mol.Biol.285:1917-1934,1999参照)。約9~約18塩基対長の領域等の所望のDNA配列に対する結合特異性を生じるためには、複数のジンクフィンガーモチーフをタンデムに連結することができる。バックグラウンドとして、ZFNはゲノムにおける部位特異的DNA2本鎖切断(DSB)の形成を触媒することによりゲノム編集に介在し、DSB部位のゲノムに相同のフランキング配列を含むトランスジーンの標的組込みが相同修復により助長される。あるいは、ZFNによりDSBが生じると、切断部位のヌクレオチドの挿入又は欠失をもたらすエラープローン細胞修復経路である非相同末端結合(NHEJ)による修復により、標的遺伝子のノックアウトを引き起こすことができる。所定の実施形態において、遺伝子ノックアウトは、ZFN分子を使用して行われる挿入、欠失、突然変異又はその組み合わせを含む。
【0169】
本願で使用する「転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)」とは、TALE DNA結合ドメインとFokIエンドヌクレアーゼ等のDNA切断ドメインを含む融合タンパク質を意味する。「TALE DNA結合ドメイン」又は「TALE」は、各々一般に12番目と13番目のアミノ酸が可変である以外は高度に保存された33~35アミノ酸配列を有する1以上のTALEリピートドメイン/単位から構成される。TALEリピートドメインはTALEと標的DNA配列の結合に関与している。可変アミノ酸残基は反復可変二残基(Repeat Variable Diresidue)(RVD)と呼ばれ、特異的ヌクレオチド認識に相関する。これらのTALEのDNA認識の天然(カノニカル)コードは、TALEの12位と13位がHD(ヒスチン-アスパラギン酸)配列であればTALEはシトシン(C)と結合し、NG(アスパラギン-グリシン)であればTヌクレオチドと結合し、NI(アスパラギン-イソロイシン)であればAと結合し、NN(アスパラギン-アスパラギン)であればG又はAヌクレオチドと結合し、NG(アスパラギン-グリシン)であればTヌクレオチドと結合するように決定されている。非カノニカル(非定型)RVDも知られている(例えば、米国特許公開第US2011/0301073号が参照され、その非定型RVDの全てを本願に援用する)。TALENはT細胞のゲノムに部位特異的2本鎖切断(DSB)を生じるために使用することができる。非相同末端結合(NHEJ)では、アニールするための末端配列オーバーラップが殆ど又は全くない2本鎖切断の両側からDNAを連結することにより、エラーを導入し、遺伝子発現をノックアウトする。あるいは、トランスジーンに相同フランキング配列が存在する場合には、相同修復によりDSBの部位にトランスジーンを導入することができる。所定の実施形態において、遺伝子ノックアウトは挿入、欠失、突然変異又はその組み合わせを含み、TALEN分子を使用して実施される。
【0170】
本願で使用する「短いパリンドローム様リピートが一定間隔で繰り返し存在する領域(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas(CRISPR/Cas)」ヌクレアーゼシステムとは、CRISPR RNA(crRNA)にガイドされるCasヌクレアーゼを利用し、塩基対合相補性によりゲノム内の標的部位(プロトスペーサーと言う)を認識した後、相補的標的配列の3’の直後に短い保存されたプロトスペーサー関連モチーフ(PAM)が存在する場合にはDNAを切断するシステムを意味する。CRISPR/CasシステムはCasヌクレアーゼの配列と構造に基づいて3種類のタイプ(即ち、I型、II型及びIII型)に分類される。I型とIII型でcrRNAにガイドされる監視複合体は複数のCasサブユニットを必要とする。II型システムは最も研究が進んでおり、RNAにガイドされるCas9ヌクレアーゼと、crRNAと、トランス作用性crRNA(tracrRNA)の少なくとも3コンポーネントを含む。tracrRNAは2本鎖形成領域を含む。crRNAとtracrRNAは2本鎖を形成し、Cas9ヌクレアーゼと相互作用し、crRNA上のスペーサーとPAMの上流の標的DNA上のプロトスペーサーとのワトソン・クリック型塩基対合により標的DNA上の特定部位にCas9/crRNA:tracrRNA複合体を導くことができる。Cas9ヌクレアーゼはcrRNAスペーサーにより規定される領域内の2本鎖切断部位を切断する。NHEJにより修復されると、挿入及び/又は欠失を生じ、標的遺伝子座の発現が停止する。あるいは、相同フランキング配列を含むトランスジーンを相同修復によりDSBの部位に導入することができる。crRNAとtracrRNAを複合体化してシングルガイドRNA(sgRNA又はgRNA)を構築することができる(例えば、Jinek et al.,Science 337:816-21,2012参照)。更に、所望の配列を標的とするように、標的部位に相補的なガイドRNAの領域を改変又はプログラムすることができる(各々本願に援用するXie et al.,PLOS One 9:e100448,2014;米国特許出願公開第US2014/0068797号、米国特許出願公開第US2014/0186843号、米国特許第8,697,359号、及びPCT公開第WO2015/071474号)。所定の実施形態において、遺伝子ノックアウトは挿入、欠失、突然変異又はその組み合わせを含み、CRISPR/Casヌクレアーゼシステムを使用して実施される。代表的なgRNA配列と、免疫細胞タンパク質をコードする内在性遺伝子をノックアウトするためのその使用方法としては、Ren et al.,Clin.Cancer Res.23(9):2255-2266(2017)に記載されているものが挙げられ、そのgRNA、CAS9 DNA、ベクター及び遺伝子ノックアウト技術の全てを本願に援用する。
【0171】
本願で使用する「メガヌクレアーゼ」は、「ホーミングエンドヌクレアーゼ」とも言い、大きな認識部位(約12~約40塩基対の2本鎖DNA配列)を特徴とするエンドデオキシリボヌクレアーゼを意味する。メガヌクレアーゼは配列と構造モチーフに基づき、LAGLIDADG、GIY-YIG、HNH、His-Cysボックス及びPD-(D/E)XKの5種類のファミリーに分類することができる。代表的なメガヌクレアーゼとしては、I-SceI、I-CeuI、PI-PspI、PI-Sce、I-SceIV、I-CsmI、I-PanI、I-SceII、I-PpoI、I-SceIII、I-CreI、I-TevI、I-TevII及びI-TevIIIが挙げられ、その認識配列は公知である(例えば、米国特許第5,420,032号及び6,833,252号;Belfort et al.,Nucleic Acids Res.25:3379-3388,1997;Dujon et al.,Gene 82:115-118,1989;Perler et al.,Nucleic Acids Res.22:1125-1127,1994;Jasin,Trends Genet.12:224-228,1996;Gimble et al.,J.Mol.Biol.263:163-180,1996;Argast et al.,J.Mol.Biol.280:345-353,1998参照)。
【0172】
所定の実施形態では、PD-1、LAG3、TIM3、CTLA4、TIGIT、FasL、HLAをコードする遺伝子又はTCRコンポーネントをコードする遺伝子から選択される標的の部位特異的ゲノム修飾を促進するために、天然メガヌクレアーゼを使用することができる。他の実施形態では、標的遺伝子に対する新規結合特異性を有する人工メガヌクレアーゼを部位特異的ゲノム修飾に使用する(例えば、Porteus et al.,Nat.Biotechnol.23:967-73,2005;Sussman et al.,J.Mol.Biol.342:31-41,2004;Epinat et al.,Nucleic Acids Res.31:2952-62,2003;Chevalier et al.,Molec.Cell 10:895-905,2002;Ashworth et al.,Nature 441:656-659,2006;Paques et al.,Curr.Gene Ther.7:49-66,2007;米国特許公開第US2007/0117128号、US2006/0206949号、US2006/0153826号、US2006/0078552号及びUS2004/0002092号参照)。他の実施形態では、ホーミングエンドヌクレアーゼをTALENのモジュラーDNA結合ドメインで修飾して作製したメガTALと呼ばれる融合タンパク質を使用して染色体遺伝子ノックアウトを生じる。メガTALは、1個以上の標的遺伝子をノックアウトするためだけでなく、目的ポリペプチドをコードする外来ドナーテンプレートと併用する場合には異種又は外来ポリヌクレオチドを導入(ノックイン)するためにも利用できる。
【0173】
所定の実施形態において、染色体遺伝子ノックアウトは、腫瘍関連抗原と特異的に結合する抗原特異的受容体をコードする異種ポリヌクレオチドを含む宿主細胞(例えば免疫細胞)に導入される阻害核酸分子を含み、前記阻害核酸分子は標的特異的阻害剤をコードし、前記コードされる標的特異的阻害剤は、宿主細胞における(例えば、PD-1、TIM3、LAG3、CTLA4、TIGIT、FasL、HLAコンポーネント若しくはTCRコンポーネント又は任意のその組み合わせの)内在性遺伝子発現を阻害する。
【0174】
染色体遺伝子ノックアウトは、ノックアウト法又はノックアウト剤の使用後に宿主免疫細胞のDNAシーケンシングにより直接確認することができる。ノックアウト後の遺伝子発現の不在(例えば、mRNA又はこの遺伝子によりコードされるポリペプチド産物の不在)から染色体遺伝子ノックアウトを推定することもできる。
【0175】
所定の実施形態において、染色体遺伝子ノックアウトは、α1マクログロブリン遺伝子、α2マクログロブリン遺伝子、α3マクログロブリン遺伝子、β1ミクログロブリン遺伝子又はβ2ミクログロブリン遺伝子から選択されるHLAコンポーネント遺伝子のノックアウトを含む。
【0176】
所定の実施形態において、染色体遺伝子ノックアウトは、TCRα可変領域遺伝子、TCRβ可変領域遺伝子、TCR定常領域遺伝子又はその組み合わせから選択されるTCRコンポーネント遺伝子のノックアウトを含む。
【0177】
更に、当然のことながら、本開示のTCRをコードするポリヌクレオチド及び/又はCD8共受容体をコードするポリヌクレオチドを宿主細胞ゲノムに導入するために、本願に開示する遺伝子編集技術及びツールのいずれかを使用してもよい。
【0178】
別の態様において、本願では、本開示の改変型宿主細胞と、薬学的に許容される基剤、希釈剤又は賦形剤を含有する組成物及びユニットドーズ製剤が提供される。
【0179】
所定の実施形態において、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、(i)少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%の改変型CD4+T細胞を含有する組成物と、(ii)少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%の改変型CD8+T細胞を含有する組成物を約1:1の比で含有しており、前記ユニットドーズ製剤はナイーブT細胞の含有量が低いか又は実質的にゼロである(即ち、同等数のPBMCを有する患者試料と比較して1ユニットドーズ中に存在するナイーブT細胞集団が約50%未満、約40%未満、約30%未満、約20%未満、約10%未満、約5%未満又は約1%未満である)。
【0180】
一部の実施形態において、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、(i)少なくとも約50%の改変型CD4+T細胞を含有する組成物と、(ii)少なくとも約50%の改変型CD8+T細胞を含有する組成物を約1:1の比で含有しており、前記宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤はナイーブT細胞の含有量が低いか又は実質的にゼロである。他の実施形態において、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、(i)少なくとも約60%の改変型CD4+T細胞を含有する組成物と、(ii)少なくとも約60%の改変型CD8+T細胞を含有する組成物を約1:1の比で含有しており、前記ユニットドーズ製剤はナイーブT細胞の含有量が低いか又は実質的にゼロである。更に他の実施形態において、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、(i)少なくとも約70%の人工CD4+T細胞を含有する組成物と、(ii)少なくとも約70%の人工CD8+T細胞を含有する組成物を約1:1の比で含有しており、前記ユニットドーズ製剤はナイーブT細胞の含有量が低いか又は実質的にゼロである。一部の実施形態において、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、(i)少なくとも約80%の改変型CD4+T細胞を含有する組成物と、(ii)少なくとも約80%の改変型CD8+T細胞を含有する組成物を約1:1の比で含有しており、前記宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤はナイーブT細胞の含有量が低いか又は実質的にゼロである。一部の実施形態において、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、(i)少なくとも約85%の改変型CD4+T細胞を含有する組成物と、(ii)少なくとも約85%の改変型CD8+T細胞を含有する組成物を約1:1の比で含有しており、前記宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤はナイーブT細胞の含有量が低いか又は実質的にゼロである。一部の実施形態において、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、(i)少なくとも約90%の改変型CD4+T細胞を含有する組成物と、(ii)少なくとも約90%の改変型CD8+T細胞を含有する組成物を約1:1の比で含有しており、前記宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤はナイーブT細胞の含有量が低いか又は実質的にゼロである。
【0181】
当然のことながら、本開示の宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は本願に記載するいずれかの宿主細胞又は宿主細胞の任意の組み合わせを含有することができる。所定の実施形態において、例えば、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、Rasペプチド:HLA-A*02:01複合体に特異的な結合タンパク質をコードするように改変された改変型CD8+T細胞、改変型CD4+T細胞又はその両方を含有しており、更に、WT1ペプチド:HLA-A*02:01複合体に特異的な結合タンパク質をコードするように改変された改変型CD8+T細胞、改変型CD4+T細胞又はその両方を含有している。上記に追加又は代替する構成として、本開示の宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、本願に記載するいずれかの宿主細胞又は宿主細胞の組み合わせを含有することができ、更に、別の抗原(例えば、別のWT1抗原、又は例えばBCMA、CD3、CEACAM6、c-Met、EGFR、EGFRvIII、ErbB2、ErbB3、ErbB4、EphA2、IGF1R、GD2、O-アセチルGD2、O-アセチルGD3、GHRHR、GHR、FLT1、KDR、FLT4、CD44v6、CD151、CA125、CEA、CTLA-4、GITR、BTLA、TGFBR2、TGFBR1、IL6R、gp130、ルイスA、ルイスY、TNFR1、TNFR2、PD1、PD-L1、PD-L2、HVEM、MAGE-A(例えば、MAGE-A1、MAGE-A3及びMAGE-A4)、メソテリン、NY-ESO-1、PSMA、RANK、ROR1、TNFRSF4、CD40、CD137、TWEAK-R、HLA、HLAと結合した腫瘍若しくは病原体関連ペプチド、HLAと結合したhTERTペプチド、HLAと結合したチロシナーゼペプチド、HLAと結合したWT-1ペプチド、LTβR、LIFRβ、LRP5、MUC1、OSMRβ、TCRα、TCRβ、CD19、CD20、CD22、CD25、CD28、CD30、CD33、CD52、CD56、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD86、CD123、CD171、CD276、B7H4、TLR7、TLR9、PTCH1、WT-1、HA1-H、Robo1、αフェトプロテイン(AFP)、フリズルド、OX40、PRAME及びSSX-2等の別のタンパク質若しくは標的に由来する抗原)に特異的な結合タンパク質を発現する改変型細胞(例えば、T細胞等の免疫細胞)を含有することができる。例えば、ユニットドーズ製剤は、WT1-HLA複合体と特異的に結合する結合タンパク質を発現する改変型CD8+T細胞と、HER2抗原と特異的に結合する結合タンパク質(例えばCAR)を発現する改変型CD4+T細胞(及び/又は改変型CD8+T細胞)を含有することができる。同様に当然のことながら、本願に開示する宿主細胞のいずれかを併用療法で投与してもよい。
【0182】
本願に記載する実施形態のいずれかにおいて、宿主細胞組成物又はユニットドーズ製剤は、等量又はほぼ等量の人工CD45RA-CD3+CD8+細胞と改変型CD45RA-CD3+CD4+TM細胞を含有する。
【0183】
使用及び治療方法
所定の態様において、本開示は、治療を必要とするヒト対象に、本願に記載する上記TCRのいずれか若しくはいずれかの結合ドメインに係るヒトWT1に特異的な親和性の高い若しくは機能的アビディティの高い組換えTCR若しくはその結合ドメインを含有する組成物、又は上記TCRを発現するように構築されたT細胞等の宿主細胞、又は本願に記載するTCR若しくはその結合ドメイン若しくは宿主細胞のいずれかを含有する組成物を投与することにより、過剰増殖性若しくは増殖性障害又はウィルムス腫瘍タンパク質1(WT1)発現若しくは過剰発現を特徴とする病態を治療する方法に関する。一部の実施形態において、前記TCRは、造血前駆細胞やヒト免疫系細胞等の宿主細胞により発現される。一部の実施形態において、前記免疫系細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、ナチュラルキラーT細胞、樹状細胞又は任意のその組み合わせである。
【0184】
対象における過剰増殖性障害若しくは増殖性障害又は悪性腫瘍病態の存在とは、異形成細胞、がん性細胞及び/又は形質転換細胞が前記対象に存在することを意味し、例えば新生物細胞、腫瘍細胞、非接触阻害細胞又は発がん性形質転換細胞等(例えば、固形がん;リンパ腫や、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病等の白血病を含む造血器がん)が挙げられ、これらの細胞は当技術分野で公知であり、その診断・分類基準も確立されている(例えば、Hanahan and Weinberg,Cell 144:646,2011;Hanahan and Weinberg,Cell 100:57,2000;Cavallo et al.,Canc.Immunol.Immunother.60:319,2011;Kyrigideis et al.,J.Carcinog.9:3,2010)。所定の実施形態において、このようながん細胞は、急性骨髄性白血病、B細胞性リンパ芽球性白血病、T細胞性リンパ芽球性白血病又は骨髄腫の細胞とすることができ、これらの種類のがんのいずれかを発症させ、逐次移植することが可能ながん幹細胞を含む(例えば、Park et al.,Molec.Therap.17:219,2009参照)。
【0185】
所定の実施形態では、造血器悪性腫瘍や固形がん等の過剰増殖性又は増殖性障害の治療方法が提供される(例えば、Nakatsuka et al.,Modern Pathology 19:804-714(2006)参照)。代表的な造血器悪性腫瘍としては、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性好酸球性白血病(CEL)、骨髄異形成症候群(MDS)、非ホジキンリンパ腫(NHL)又は多発性骨髄腫(MM)が挙げられる。
【0186】
他の実施形態では、胆道がん、膀胱がん、骨及び軟部組織癌腫、脳腫瘍、乳がん、子宮頸がん、結腸がん、大腸腺癌、大腸がん、デスモイド腫瘍、胎児性がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、胃腺癌、多形性膠芽腫、婦人科腫瘍、頭頸部扁平上皮がん、肝臓がん、肺がん、中皮腫、悪性黒色腫、骨肉腫、卵巣がん(例えば、Hylander et al.,Gynecologic Oncology 101:12-17(2006)参照)、膵臓がん、膵管腺癌、原発性星細胞系腫瘍、原発性甲状腺がん、前立腺がん、腎臓がん、腎細胞がん、横紋筋肉腫、皮膚がん、軟部組織肉腫、精巣胚細胞腫瘍、尿路上皮がん、子宮肉腫又は子宮がんから選択される固形がん等の過剰増殖性又は増殖性障害の治療方法が提供される。
【0187】
一部の実施形態において、前記TCRは、ヒトWT1に対する抗原特異的T細胞応答をクラスIHLA拘束的に促進することが可能である。一部の実施形態において、前記クラスIHLA拘束性応答は、抗原処理関連トランスポーター(TAP)に非依存的である。一部の実施形態において、前記抗原特異的T細胞応答は、CD4+ヘルパーTリンパ球(Th)応答と、CD8+細胞傷害性Tリンパ球(CTL)応答の少なくとも一方を含む。一部の実施形態において、前記CTL応答はWT1を過剰発現する細胞に特異的である。
【0188】
ウィルムス腫瘍タンパク質1(WT1)発現又は過剰発現に関連する増殖性又は過剰増殖性障害の治療方法で使用するための、前記TCR、ポリヌクレオチド、組成物、ベクター及び宿主細胞(任意の組み合わせを含む)のいずれかも本願で提供される。
【0189】
ウィルムス腫瘍タンパク質1(WT1)発現又は過剰発現に関連する増殖性又は過剰増殖性障害の治療用医薬の製造方法で使用するための、前記TCR、ポリヌクレオチド、組成物、ベクター及び宿主細胞のいずれか(任意の組み合わせを含む)も本願で提供される。
【0190】
医療分野の当業者に自明の通り、「治療する」及び「治療」なる用語は、対象(即ち、ヒト又は非ヒト動物とすることができる患者、宿主)の疾患、障害又は病態の医学的管理を意味する(例えば、Stedman’s Medical Dictionary参照)。一般に、適切な用量と治療レジメンは、治療又は予防効果を提供するために十分な量で、ヒトWT1に特異的な機能的アビディティの高い組換えTCR若しくはその結合ドメイン(例えば、本願で提供する配列番号23~58とその変異体)又は前記TCR等を発現する宿主細胞の1つ以上と、任意にアジュバント療法(例えば、IL-2、IL-15、IL-21又は任意のその組み合わせ等のサイトカイン)を提供する。治療処置又は予防若しくは防御法により得られる治療又は予防効果としては、例えば臨床転帰の改善が挙げられ、その目的は、望ましくない生理的変化若しくは障害を予防若しくは遅延若しくは他の方法で抑制すること(例えば、未処置対照と比較して統計的に有意に減少させること)、又はこのような疾患若しくは障害の拡大若しくは重症化を予防、遅延若しくは他の方法で抑制することである。対象を処置することにより得られる有益又は望ましい臨床結果としては、処置対象となる疾患又は障害に起因又は関連する症状の抑制、軽減又は緩和;症状の発生低減;クオリティオブライフの改善;無病状態の延長(即ち、対象が疾患の診断の基準となる症状を発現する確率又は傾向の低下);疾患の程度の低減;疾患状態の安定化(即ち非悪化);疾患進行の遅延又は減速;疾患状態の改善又は緩和;及び検出可能であるか検出不能であるかを問わず(部分寛解か完全寛解かを問わず)寛解、又は全生存期間の延長が挙げられる。
【0191】
「治療」とは、対象が治療を受けていなかった場合に予想される生存期間と比較して生存期間を延長することを意味する場合もある。本願に記載の方法及び組成物を必要とする対象としては、既に疾患又は障害に罹患している対象に加え、疾患又は障害を発症する傾向又は危険のある対象も挙げられる。予防処置を必要とする対象としては、疾患、病態又は障害を予防すべき対象が挙げられる(即ち、疾患又は障害の発生又は再発の確率を低下させる)。本願に記載する組成物(及び前記組成物を含有する製剤)及び方法により提供される臨床効果は、実施例に記載するように、前記組成物の投与の恩恵を得ようとする対象におけるインビトロアッセイ、前臨床試験及び臨床実験の設計及び実施により評価することができる。
【0192】
別の態様において、本開示は、治療を必要とするヒト対象に、上記コードされるTCRのいずれか若しくはその結合ドメインに係るヒトWT1に特異的な親和性の高い若しくは機能的アビディティの高い組換えTCR若しくはその結合ドメインをコードする単離型ポリヌクレオチドを含有する組成物、又は前記ポリヌクレオチドを含むT細胞等の宿主細胞、又は本願に記載するTCR若しくはその結合ドメイン若しくは宿主細胞のいずれかを含有する組成物を投与することにより、過剰増殖性障害若しくは増殖性障害又はウィルムス腫瘍タンパク質1(WT1)過剰発現若しくは発現を特徴とする病態を治療する方法に関する。所定の実施形態において、ヒトWT1p37ペプチド:MHCに特異的なTCR又はその結合ドメインをコードするポリヌクレオチドは、目的宿主細胞に合わせてコドン最適化されている。他の実施形態において、上記ポリヌクレオチドのいずれかは発現制御配列と機能的に連結されており、任意にウイルスベクター等の発現ベクターに搭載されている。代表的なウイルスベクターとしては、レンチウイルスベクターとγ-レトロウイルスベクターが挙げられる。関連する実施形態において、前記ベクターは、前記ポリヌクレオチドを造血前駆細胞又は免疫系細胞(例えば、ヒト造血前駆細胞又はヒト免疫系細胞)等の宿主細胞に送達することが可能である。代表的な免疫系細胞としては、CD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞又は任意のその組み合わせ(例えばヒト由来)が挙げられる。所定の実施形態において、前記免疫系細胞は、ナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞又は任意のその組み合わせ等のT細胞であり、任意にその全てがヒト由来である。
【0193】
更に別の態様において、本開示は、治療を必要とするヒト対象に、上記実施形態のいずれか又は本願に記載のいずれかに係る異種ポリヌクレオチド又は発現ベクターを含む宿主細胞を有効量投与することにより、過剰増殖性若しくは増殖性障害又はウィルムス腫瘍タンパク質1(WT1)発現若しくは過剰発現を特徴とする病態を治療する方法に関し、前記人工又は組換え宿主細胞は、ヒトWT1p37:MHCに特異的な異種ポリヌクレオチドによりコードされるTCRをその細胞表面に発現する。所定の実施形態において、本開示は、治療を必要とするヒト対象に、上記実施形態のいずれか又は本願に記載のいずれかに係る異種ポリヌクレオチド又は発現ベクターを含む宿主細胞を有効量投与することにより、過剰増殖性若しくは増殖性障害又はウィルムス腫瘍タンパク質1(WT1)p37ペプチド産生若しくはWT1p37ペプチド:MHC複合体の存在を特徴とする病態を治療する方法に関し、前記人工又は組換え宿主細胞は、ヒトWT1p37:MHCに特異的な異種ポリヌクレオチドによりコードされるTCRをその細胞表面に発現する。
【0194】
過剰増殖性又は増殖性障害をもつ対象の細胞におけるWT1過剰発現を特徴とする病態を治療するための養子免疫療法であって、有効量の本開示の宿主細胞又は組成物を前記対象に投与することを含む方法も提供する。
【0195】
一部の実施形態において、前記宿主細胞はエクスビボで改変されている。一部の実施形態において、前記宿主細胞は前記対象に対して同種細胞、同系細胞又は自家細胞である。一部の実施形態において、前記宿主細胞は造血前駆細胞又はヒト免疫系細胞である。一部の実施形態において、前記免疫系細胞はCD4+T細胞、CD8+T細胞、CD4-CD8-ダブルネガティブT細胞、γδT細胞、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞又は任意のその組み合わせである。
【0196】
一部の実施形態において、前記T細胞はナイーブT細胞、セントラルメモリーT細胞、エフェクターメモリーT細胞又は任意のその組み合わせである。
【0197】
一部の実施形態において、前記過剰増殖性又は増殖性障害は造血器悪性腫瘍又は固形がんである。
【0198】
一部の実施形態において、前記造血器悪性腫瘍は、急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、慢性好酸球性白血病(CEL)、骨髄異形成症候群(MDS)、非ホジキンリンパ腫(NHL)又は多発性骨髄腫(MM)から選択される。
【0199】
一部の実施形態において、前記固形がんは、乳がん、卵巣がん、肺がん、胆道がん、膀胱がん、骨及び軟部組織癌腫、脳腫瘍、子宮頸がん、結腸がん、大腸腺癌、大腸がん、デスモイド腫瘍、胎児性がん、子宮内膜がん、食道がん、胃がん、胃腺癌、多形性膠芽腫、婦人科腫瘍、頭頸部扁平上皮がん、肝臓がん、中皮腫、悪性黒色腫、骨肉腫、膵臓がん、膵管腺癌、原発性星細胞系腫瘍、原発性甲状腺がん、前立腺がん、腎臓がん、腎細胞がん、横紋筋肉腫、皮膚がん、軟部組織肉腫、精巣胚細胞腫瘍、尿路上皮がん、子宮肉腫又は子宮がんから選択される。
【0200】
一部の実施形態では、前記宿主細胞を非経口投与する。
【0201】
一部の実施形態において、前記方法は、複数の用量の前記宿主細胞を前記対象に投与することを含む。一部の実施形態では、約2~約4週間の投与間隔で前記複数の用量を投与する。
【0202】
本願に記載するヒトWT1p37ペプチドに特異的な(例えば、親和性の高い又は機能的アビディティの高い)組換えTCR又はその結合ドメインを発現する細胞を、薬学的又は生理的に許容されるか又は適切な賦形剤又は基剤に配合して対象に投与することができる。薬学的に許容される賦形剤は、ヒト又は他の非ヒト哺乳動物対象に投与するのに適した生体適合性溶媒、例えば生理食塩水であり、本願に詳細に記載する。
【0203】
治療有効量とは、養子移入で使用される(ヒトWT1p37ペプチド:MHCに特異的な親和性の高い又は機能的アビディティの高い組換えTCR又はその結合ドメインを発現する)宿主細胞の量であり、投与後のヒト又は非ヒト哺乳動物に臨床的に望ましい結果を生じることが可能な量(即ち、WT1を過剰発現する細胞又はWT1p37ペプチドを産生する細胞に対して特異的なT細胞免疫応答(例えば、細胞傷害性T細胞応答)を統計的に有意に誘導又は強化するために十分な量)である。医療分野で周知の通り、任意の患者1人の投与量は、患者の体格、体重、体表面積、年齢、投与する特定の療法、性別、投与時間及び経路、一般健康状態、並びに並行して投与される他の薬剤等の多数の因子により異なる。用量は変動するが、本願に記載する組換え発現ベクターを含む宿主細胞の投与に好ましい用量は、細胞約104個/m2、約5×104個/m2、約105個/m2、約5×105個/m2、約106個/m2、約5×106個/m2、約107個/m2、約5×107個/m2、約108個/m2、約5×108個/m2、約109個/m2、約5×109個/m2、約1010個/m2、約5×1010個/m2又は約1011個/m2である。一部の実施形態において、用量は細胞約107個/m2、約5×107個/m2、約108個/m2、約5×108個/m2、約109個/m2、約5×109個/m2、約1010個/m2、約5×1010個/m2又は約1011個/m2を含む。
【0204】
医薬組成物は、医療分野の当業者による判断に基づき、治療(又は予防)しようとする疾患又は病態に適切となるように投与することができる。組成物の適切な用量と適切な投与期間及び頻度は、患者の健康状態、患者の体格(即ち、体重、体質量指数又は体表面積)、患者の疾患の種類と重症度、活性成分の特定の形態、及び投与方法等の因子により決定されよう。一般に、適切な用量と治療レジメンは、治療及び/又は予防効果(本願に記載するような効果であり、完全若しくは部分寛解の頻度上昇、又は無病状態及び/若しくは全生存期間の延長等の臨床転帰の改善や、症状重症度の低下が挙げられる)を生じるために十分な量の前記組成物を提供する。予防用途では、疾患又は障害を予防、発症遅延又は関連する疾患の重症度を低下させるために十分な用量とすべきである。本願に記載する方法に従って投与される免疫原性組成物の予防効果は、(インビトロ及びインビボ動物試験を含む)前臨床及び臨床試験を実施し、得られたデータを適切な統計的、生物学的及び臨床的方法及び技術により解析することにより判定することができ、このような方法及び技術はいずれも当業者が容易に実施可能である。
【0205】
WT1過剰発現(又は、実施形態によっては発現)に関連する病態としては、WT1細胞又は分子イベントの活性不良、活性過剰又は不適切な活性が存在する任意の障害又は病態が挙げられ、一般的には、正常細胞と比較して疾患細胞(例えば白血病細胞)における(統計的に有意な)異常に高レベルのWT1発現に起因する。このような障害又は疾患をもつ対象は、本願に記載する実施形態の組成物又は方法による治療の恩恵を受けるであろう。従って、WT1過剰発現に関連する病態としては、前記対象が特定の障害に罹患し易くなる原因となる病態等の急性及び慢性障害及び疾患が挙げられる。
【0206】
WT1過剰発現に関連する病態の例としては、過剰増殖性障害が挙げられ、一部の態様では対象において細胞が活性化及び/又は増殖している状態(転写活性が過剰な状態でもよい)を意味し、腫瘍、新生物、がん、悪性腫瘍等が挙げられる。細胞活性化又は増殖に加え、過剰増殖性障害としては、ネクローシスによるかアポトーシスによるかを問わず、細胞死プロセスの異常又は調節異常も挙げられる。このような細胞死プロセスの異常は、(原発性、続発性悪性腫瘍及び転移を含む)がんや他の病態を含む種々の病態に関連すると思われる。
【0207】
所定の実施形態によると、本願に開示する組成物と方法の使用により、造血器がん(例えば、急性骨髄性白血病(AML)を含む白血病、T又はB細胞リンパ腫、骨髄腫等)を含めてWT1過剰発現を特徴とするほぼ全種類のがんを治療することができる。更に、「がん」とは、細胞のあらゆる増殖加速を意味する場合もあり、固形腫瘍、腹水腫瘍、血液若しくはリンパ若しくは他の悪性腫瘍;結合組織悪性腫瘍;転移性疾患;臓器若しくは幹細胞移植後の微小残存病変;多剤耐性がん、原発性若しくは続発性悪性腫瘍、悪性腫瘍に関連する血管新生、又は他の形態のがんが挙げられる。本願に開示する実施形態には、上記種類の疾患の1つのみを含む特定の実施形態も含まれ、また、WT1過剰発現を特徴とするか否かに関係なく、特定病態を除外してもよい特定の実施形態も含まれる。
【0208】
本願で想定される所定の治療又は予防方法としては、(自家、同種又は同系とすることができる)宿主細胞の染色体に本願に記載するような目的核酸分子を安定的に組み込み、この宿主細胞を投与する方法が挙げられる。例えば、目的とするWT1標的T細胞組成物を養子免疫療法として対象に投与するために、自家、同種又は同系免疫系細胞(例えばT細胞、抗原提示細胞、ナチュラルキラー細胞)を使用してこのような細胞組成物をエクスビボで生産することができる。
【0209】
一部の態様において本願で使用する組成物又は療法の投与とは、送達経路又は方式に関係なく、前記組成物又は療法を対象に送達することを意味する。投与は連続的又は間欠的で非経口的に実施することができる。投与は、規定の病態、疾患又は疾患状態をもつことが既に確認されている対象を治療するために実施してもよいし、このような病態、疾患又は疾患状態を発症する可能性又は危険のある対象を治療するために実施してもよい。アジュバント療法との併用投与としては、複数の薬剤を任意の投与スケジュールに従って任意の順序で同時及び/又は逐次送達する方法が挙げられる(例えば、1つ以上のサイトカイン;カルシニューリン阻害剤、コルチコステロイド、微小管阻害剤、低用量ミコフェノール酸プロドラッグ又は任意のその組み合わせ等の免疫抑制療法と、WT1特異的改変型(即ち、組換え又は人工)宿主細胞を併用する)。例えば、免疫チェックポイント分子の阻害剤又はモジュレーター(例えば抗PD-1、抗PD-L1又は抗CTLA-4抗体;例えばPardol,Nature Rev.Cancer 12:252,2012;Chen and Mellman,Immunity 39:1,2013参照)等の免疫抑制成分の特定の阻害剤又はモジュレーターと、本開示の療法を併用することができる。
【0210】
一部の実施形態では、前記宿主細胞を約107個/m2~約1011個/m2の用量で前記対象に投与する。一部の実施形態において、前記方法は更にサイトカインを投与することを含む。一部の実施形態において、前記サイトカインはIL-2、IL-15、IL-21又は任意のその組み合わせである。一部の実施形態において、前記サイトカインはIL-2であり、前記宿主細胞と同時又は逐次投与される。一部の実施形態では、サイトカイン投与前に前記対象に前記宿主細胞を少なくとも3回又は4回投与するという条件で、前記サイトカインを逐次投与する。
【0211】
一部の実施形態において、前記サイトカインはIL-2であり、皮下投与される。
【0212】
一部の実施形態において、前記対象は更に免疫抑制療法を実施中である。
【0213】
一部の実施形態において、前記免疫抑制療法は、カルシニューリン阻害剤、コルチコステロイド、微小管阻害剤、低用量ミコフェノール酸プロドラッグ、又は任意のその組み合わせから選択される。
【0214】
一部の実施形態において、前記対象は非骨髄破壊的又は骨髄破壊的造血細胞移植を受けたことがある。
【0215】
一部の実施形態では、非骨髄破壊的造血細胞移植の少なくとも3か月後に前記対象に前記宿主細胞を投与する。
【0216】
一部の実施形態では、骨髄破壊的造血細胞移植の少なくとも2か月後に前記対象に前記宿主細胞を投与する。HCTを実施するための技術及びレジメンは当技術分野で公知であり、臍帯血、骨髄若しくは末梢血に由来する細胞、造血幹細胞、動員幹細胞又は羊水に由来する細胞等の任意の適切なドナー細胞の移植を含むことができる。従って、所定の実施形態では、改変型HCT療法で造血幹細胞と同時又はその直後に本開示の改変型免疫細胞を投与することができる。一部の実施形態において、前記HCTは、HLAコンポーネントをコードする遺伝子の染色体ノックアウト、TCRコンポーネントをコードする遺伝子の染色体ノックアウト、又はその両方を含むドナー造血細胞を含む。
【0217】
他の実施形態において、前記対象は前記組成物又はHCTを投与される前にリンパ球除去化学療法を受けたことがある。所定の実施形態において、リンパ球除去化学療法は、シクロホスファミド、フルダラビン、抗胸腺細胞グロブリン又はその組み合わせを含むコンディショニングレジメンを含む。
【0218】
所定の実施形態では、本願に記載の組換え宿主細胞を前記対象に複数回投与し、約2~約4週間の投与間隔で投与することができる。他の実施形態では、サイトカイン投与前に前記対象に前記宿主細胞を少なくとも3回又は4回投与するという条件で、サイトカインを逐次投与する。所定の実施形態では、前記サイトカインを皮下投与する(例えば、IL-2、IL-15、IL-21)。
【0219】
更に他の実施形態において、前記治療対象は更に、PD-1に特異的な抗体(例えばピジリズマブ、ニボルマブ又はペムブロリズマブ)、PD-L1に特異的な抗体(例えばMDX-1105、BMS-936559、MEDI4736、MPDL3280A又はMSB0010718C)、CTLA4に特異的な抗体(例えばトレメリムマブ又はイピリムマブ)、カルシニューリン阻害剤、コルチコステロイド、微小管阻害剤、低用量ミコフェノール酸プロドラッグ又は任意のその組み合わせ等の免疫抑制療法を実施中である。更に他の実施形態において、前記治療対象は非骨髄破壊的又は骨髄破壊的造血細胞移植を受けたことがあり、非骨髄破壊的造血細胞移植の少なくとも2か月~少なくとも3か月後に前記宿主細胞を投与することができる。
【0220】
一部の態様における治療組成物又は医薬組成物の有効量とは、本願に記載するように、必要な投与量と投与期間で所望の臨床結果又は有益な治療を達成するために十分な量を意味する。1回以上の投与で有効量を送達することができる。疾患又は疾患状態を有することが既に認識又は確認されている対象に投与する場合には、治療に関連して「治療量」なる用語を使用することができ、疾患又は疾患状態を発症(例えば再発)する可能性又は危険のある対象に予防クールとして有効量を投与することを表すためには、「予防有効量」を使用することができる。
【0221】
細胞傷害性Tリンパ球(CTL)免疫応答レベルは、当技術分野で日常的に実施されている本願に記載する多数の免疫学的方法のいずれか1つにより測定することができる。CTL免疫応答レベルは、例えばT細胞により発現される本願に記載のWT1特異的TCRのいずれか1つの投与前後に測定することができる。CTL活性を測定するための細胞傷害性アッセイは、当技術分野で日常的に実施されている数種の技術及び方法のいずれか1つを使用して実施することができる(例えば、Henkart et al.,“Cytotoxic T-Lymphocytes” in Fundamental Immunology,Paul(ed.)(2003 Lippincott Williams & Wilkins,Philadelphia,PA),1127~50頁とその引用文献参照)。
【0222】
抗原特異的T細胞応答は、観測されるT細胞応答を本願に記載するT細胞機能パラメータ(例えば、増殖、サイトカイン放出、CTL活性、細胞表面マーカー表現型の変化等)のいずれかに従って比較することにより一般に測定され、このような比較は、適切な状況におけるコグネイト抗原(例えば、免疫適合性抗原提示細胞により提示されるときにT細胞をプライミング又は活性化させるために使用される抗原)に曝露されるT細胞と、構造的に異なるか又は無関係の対照抗原に曝露される同一起源の集団に由来するT細胞の間で行うことができる。コグネイト抗原に対する応答が対照抗原に対する応答よりも統計的に有意に大きいならば、抗原特異的であると判断される。
【0223】
本願に記載するWT1由来抗原ペプチドに対する免疫応答の存在及びレベルを測定するために、対象から生体試料を取得することができる。本願で使用する「生体試料」は、(血清又は血漿を調製することができる)血液試料、生検検体、体液(例えば、肺洗浄液、腹水、粘膜洗浄液、滑液)、骨髄、リンパ節、組織外植片、臓器培養液、又は前記対象若しくは生体原料に由来する任意の他の組織若しくは細胞調製物とすることができる。免疫原性組成物の投与前に対象から生体試料を取得することもでき、このような生体試料はベースライン(即ち免疫前)データを設定するための対照として有用である。
【0224】
本願に記載する医薬組成物は、密閉アンプル又はバイアル等のユニットドーズ又はマルチドーズ容器の形態とすることができる。使用時まで製剤の安定性を維持するためにこのような容器を凍結させてもよい。所定の実施形態において、ユニットドーズ製剤は、本願に記載する組換え宿主細胞を約107個/m2~約1011個/m2の用量で含有する。本願に記載する特定の組成物を使用するのに適した投与・治療レジメンの開発は種々の治療レジメンを含み、例えば、非経口又は静脈内投与又は製剤が挙げられる。
【0225】
本願の組成物を非経口投与する場合には、前記組成物は更に滅菌水性又は油性溶液又は懸濁液を含むことができる。非経口投与に許容可能な適切な非毒性の希釈剤又は溶媒としては、水、リンゲル液、等張塩類溶液、1,3-ブタンジオール、エタノール、プロピレングリコール又はポリエチレングリコールと水の混液が挙げられる。水溶液又は水性懸濁液は更に、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム又は酒石酸ナトリウム等の1つ以上の緩衝剤を含むことができる。当然のことながら、全ての用量単位製剤の製造に使用される全ての材料は、利用される量で薬学的に純粋且つ実質的に非毒性でなければならない。更に、活性化合物を持続放出製品及び製剤に配合してもよい。本願で使用する用量単位形態とは、治療しようとする対象に単位用量として適切な物理的に不連続な単位を意味し、各単位は、所望の治療効果を生じるように計算された所定量の組換え細胞又は活性化合物を適切な医薬品基剤と共に含有することができる。
【0226】
一般に、適切な投与・治療レジメンは、治療又は予防効果を提供するために十分な量の活性分子又は細胞を提供する。このような応答は、非処置対象と比較して処置後対象における臨床転帰の改善(例えば、完全若しくは部分寛解の頻度上昇、又は無病生存期間の延長)を確認することによりモニターすることができる。腫瘍タンパク質に対する既存免疫応答の増加は一般に臨床転帰の改善に相関する。このような免疫応答は、一般に標準増殖アッセイ、細胞傷害性アッセイ又はサイトカインアッセイを使用して評価することができ、これらのアッセイは当技術分野で日常的に実施されており、処置前後に対象から取得した試料を使用して実施することができる。
【0227】
本開示に係る方法は更に、前記疾患又は障害を併用療法で治療するために1つ以上の他の薬剤を投与することを含むことができる。例えば、所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を免疫チェックポイント阻害剤と(並行、同時又は逐次)併用投与することを含む。一部の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物(例えば、TCR、ポリヌクレオチド、ベクター若しくは宿主細胞又はその組み合わせ)を刺激性免疫チェックポイント剤のアゴニストと併用投与することを含む。他の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を化学療法剤、放射線療法、外科療法、抗体又は任意のその組み合わせ等の二次療法と併用投与することを含む。
【0228】
本願で使用する「免疫抑制剤」なる用語は、免疫応答の制御又は抑制を補助するために抑制シグナルを提供する1つ以上の細胞、タンパク質、分子、化合物又は複合体を意味する。例えば、免疫抑制剤としては、免疫刺激を部分的若しくは完全に阻止する分子;免疫活性化を低下、防止若しくは遅延させる分子;又は免疫抑制を増強、活性化若しくはアップレギュレートする分子が挙げられる。(例えば、免疫チェックポイント阻害剤の)標的とする代表的な免疫抑制剤としては、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、CTLA4、B7-H3、B7-H4、CD244/2B4、HVEM、BTLA、CD160、TIM3、GAL9、KIR、PVR1G(CD112R)、PVRL2、アデノシン、A2aR、免疫抑制性サイトカイン(例えば、IL-10、IL-4、IL-1RA、IL-35)、IDO、アルギナーゼ、VISTA、TIGIT、LAIR1、CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5、Treg細胞、又は任意のその組み合わせが挙げられる。
【0229】
HCTを実施するための技術及びレジメンは当技術分野で公知であり、臍帯血、骨髄若しくは末梢血に由来する細胞、造血幹細胞、動員幹細胞又は羊水に由来する細胞等の任意の適切なドナー細胞の移植を含むことができる。従って、所定の実施形態では、改変型HCT療法で造血幹細胞と同時又はその直後に本開示の改変型免疫細胞を投与することができる。一部の実施形態において、前記HCTは、HLAコンポーネントをコードする遺伝子の染色体ノックアウト、TCRコンポーネントをコードする遺伝子の染色体ノックアウト又はその両方を含むドナー造血細胞を含む。
【0230】
他の実施形態において、前記対象は前記組成物又はHCTを投与される前にリンパ球除去化学療法を受けたことがある。所定の実施形態において、リンパ球除去化学療法は、シクロホスファミド、フルダラビン、抗胸腺細胞グロブリン又はその組み合わせを含むコンディショニングレジメンを含む。
【0231】
本開示に係る方法は更に、前記疾患又は障害を併用療法で治療するために1つ以上の他の薬剤を投与することを含むことができる。例えば、所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を免疫チェックポイント阻害剤と(並行、同時又は逐次)併用投与することを含む。一部の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を刺激性免疫チェックポイント剤のアゴニストと併用投与することを含む。他の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を化学療法剤、放射線療法、外科療法、抗体又は任意のその組み合わせ等の二次療法と併用投与することを含む。
【0232】
本願で使用する「免疫抑制剤」なる用語は、免疫応答の制御又は抑制を補助するために抑制シグナルを提供する1つ以上の細胞、タンパク質、分子、化合物又は複合体を意味する。例えば、免疫抑制剤としては、免疫刺激を部分的若しくは完全に阻止する分子;免疫活性化を低下、防止若しくは遅延させる分子;又は免疫抑制を増強、活性化若しくはアップレギュレートする分子が挙げられる。(例えば、免疫チェックポイント阻害剤の)標的とする代表的な免疫抑制剤としては、PD-1、PD-L1、PD-L2、LAG3、CTLA4、B7-H3、B7-H4、CD244/2B4、HVEM、BTLA、CD160、TIM3、GAL9、KIR、PVR1G(CD112R)、PVRL2、アデノシン、A2aR、免疫抑制性サイトカイン(例えば、IL-10、IL-4、IL-1RA、IL-35)、IDO、アルギナーゼ、VISTA、TIGIT、LAIR1、CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5、Treg細胞、又は任意のその組み合わせが挙げられる。
【0233】
免疫抑制剤阻害剤(別称、免疫チェックポイント阻害剤)は化合物、抗体、抗体断片若しくは融合ポリペプチド(例えば、CTLA4-FcやLAG3-Fc等のFc融合物)、アンチセンス分子、リボザイム若しくはRNAi分子、又は低分子量有機分子とすることができる。本願に開示する実施形態のいずれかにおいて、方法は、以下の免疫抑制成分のいずれか1つを単独又は任意の組み合わせとして含む1つ以上の阻害剤と併用して、本開示の組成物を含むことができる。
【0234】
所定の実施形態では、PD-1阻害剤、例えばピジリズマブ、ニボルマブ、ペムブロリズマブ、MEDI0680(旧名AMP-514)、AMP-224、BMS-936558又は任意のその組み合わせ等のPD-1特異抗体又はその結合断片と、本開示の組成物を併用する。他の実施形態では、BMS-936559、デュルバルマブ(MEDI4736)、アテゾリズマブ(RG7446)、アベルマブ(MSB0010718C)、MPDL3280A又は任意のその組み合わせ等のPD-L1特異抗体又はその結合断片と、本開示の組成物を併用する。この他に考えられるものとしては、セミプリマブ;IBI-308;ニボルマブ+レラトリマブ;BCD-100;カムレリズマブ;JS-001;スパルタリズマブ;チスレリズマブ;AGEN-2034;BGBA-333+チスレリズマブ;CBT-501;ドスタルリマブ;デュルバルマブ+MEDI-0680;JNJ-3283;パゾパニブ塩酸塩+ペムブロリズマブ;ピジリズマブ;REGN-1979+セミプリマブ;ABBV-181;ADUS-100+スパルタリズマブ;AK-104;AK-105;AMP-224;BAT-1306;BI-754091;CC-90006;セミプリマブ+REGN-3767;CS-1003;GLS-010;LZM-009;MEDI-5752;MGD-013;PF-06801591;Sym-021;チスレリズマブ+パミパリブ;XmAb-20717;AK-112;ALPN-202;AM-0001;アルツハイマー病でPD-1に拮抗するための抗体;BH-2922;BH-2941;BH-2950;BH-2954;固形腫瘍でCTLA-4とPD-1に拮抗するためのバイオ医薬品;腫瘍でPD-1とLAG-3を標的とするための二重特異性モノクローナル抗体;BLSM-101;CB-201;CB-213;CBT-103;CBT-107;細胞免疫療法+PD-1阻害剤;CX-188;HAB-21;HEISCOIII-003;IKT-202;JTX-4014;MCLA-134;MD-402;mDX-400;MGD-019;腫瘍でPDCD1に拮抗するためのモノクローナル抗体;腫瘍でPD-1に拮抗するためのモノクローナル抗体;腫瘍でPD-1を抑制するための腫瘍溶解性ウイルス;OT-2;PD-1アンタゴニスト+ロペグインターフェロンα-2b;PEGMP-7;PRS-332;RXI-762;STIA-1110;TSR-075;腫瘍でHER2とPD-1を標的とするためのワクチン;腫瘍と自己免疫疾患でPD-1を標的とするためのワクチン;XmAb-23104;腫瘍でPD-1を抑制するためのアンチセンスオリゴヌクレオチド;AT-16201;腫瘍でPD-1を抑制するための二重特異性モノクローナル抗体;IMM-1802;固形腫瘍と造血器腫瘍でPD-1とCTLA-4に拮抗するためのモノクローナル抗体;ニボルマブバイオシミラー;腫瘍でCD278とCD28にアゴニストとして作用し、PD-1に拮抗するための組換えタンパク質;自己免疫疾患と炎症性疾患でPD-1にアゴニストとして作用するための組換えタンパク質;SNA-01;SSI-361;YBL-006;AK-103;JY-034;AUR-012;BGB-108;固形腫瘍でPD-1、Gal-9及びTIM-3を抑制するための薬剤;ENUM-244C8;ENUM-388D4;MEDI-0680;転移性黒色腫と転移性肺がんでPD-1に拮抗するためのモノクローナル抗体;腫瘍でPD-1を抑制するためのモノクローナル抗体;腫瘍でCTLA-4とPD-1を標的とするためのモノクローナル抗体;NSCLCでPD-1に拮抗するためのモノクローナル抗体;腫瘍でPD-1とTIM-3を抑制するためのモノクローナル抗体;腫瘍でPD-1を抑制するためのモノクローナル抗体;造血器悪性腫瘍と固形腫瘍でPD-1とVEGF-Aを抑制するための組換えタンパク質;腫瘍でPD-1に拮抗するための低分子;Sym-016;イネビリズマブ+MEDI-0680;転移性黒色腫でPDL-1とIDOを標的とするためのワクチン;膠芽腫の治療用として抗PD-1モノクローナル抗体+細胞免疫療法;腫瘍でPD-1に拮抗するための抗体;造血器悪性腫瘍と細菌感染症でPD-1/PD-L1を抑制するためのモノクローナル抗体;HIVでPD-1を抑制するためのモノクローナル抗体;又は固形腫瘍でPD-1を抑制するための低分子も挙げられる。
【0235】
所定の実施形態では、LAG525、IMP321、IMP701、9H12、BMS-986016又は任意のその組み合わせ等のLAG3阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0236】
所定の実施形態では、CTLA4の阻害剤と本開示の組成物を併用する。特定の実施形態では、イピリムマブ、トレメリムマブ、CTLA4-Ig融合タンパク質(例えばアバタセプト、ベラタセプト)又は任意のその組み合わせ等のCTLA4特異抗体又はその結合断片と、本開示の組成物を併用する。
【0237】
所定の実施形態では、エノブリツズマブ(MGA271)、376.96又はその両方等のB7-H3特異抗体又はその結合断片と、本開示の組成物を併用する。B7-H4抗体結合断片は、例えばDangaj et al.,Cancer Res.73:4820,2013に記載されているようなscFv又はその融合タンパク質や、米国特許第9,574,000号とPCT特許公開第WO/201640724A1号及びWO2013/025779A1号に記載されているものとすることができる。
【0238】
所定の実施形態では、CD244の阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0239】
所定の実施形態では、BLTA、HVEM、CD160又は任意のその組み合わせの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。抗CD-160抗体は、例えばPCT公開第WO2010/084158号に記載されている。
【0240】
所定の実施形態では、TIM3の阻害剤と本開示の細胞組成物を併用する。
【0241】
所定の実施形態では、Gal9の阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0242】
所定の実施形態では、おとりアデノシン受容体等のアデノシンシグナル伝達阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0243】
所定の実施形態では、A2aRの阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0244】
所定の実施形態では、リリルマブ(BMS-986015)等のKIRの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0245】
所定の実施形態では、抑制性サイトカイン(一般的には、TGFβ以外のサイトカイン)又はTreg発生若しくは活性の阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0246】
所定の実施形態では、レボ-1-メチルトリプトファン、エパカドスタット(INCB024360;Liu et al.,Blood 115:3520-30,2010)、エブセレン(Terentis et al.,Biochem.49:591-600,2010)、インドキシモド、NLG919(Mautino et al.,American Association for Cancer Research 104th Annual Meeting 2013;Apr 6-10,2013)、1-メチルトリプトファン(1-MT)-チラパザミン又は任意のその組み合わせ等のIDO阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0247】
所定の実施形態では、Nω-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル(L-NAME)、Nω-ヒドロキシノル-l-アルギニン(ノルNOHA)、L-NOHA、2(S)-アミノ-6-ボロノヘキサン酸(ABH)、S-(2-ボロノエチル)-L-システイン(BEC)、又は任意のその組み合わせ等のアルギナーゼ阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0248】
所定の実施形態では、CA-170(Curis,Lexington,Mass.)等のVISTAの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0249】
所定の実施形態では、例えばCOM902(Compugen,Toronto,Ontario,カナダ)等のTIGITの阻害剤、例えばCOM701(Compugen)等のCD155の阻害剤、又はその両方と、本開示の組成物を併用する。
【0250】
所定の実施形態では、PVRIG、PVRL2又はその両方の阻害剤と、本開示の組成物を併用する。抗PVRIG抗体は、例えばPCT公開第WO2016/134333号に記載されている。抗PVRL2抗体は、例えばPCT公開第WO2017/021526号に記載されている。
【0251】
所定の実施形態では、LAIR1阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0252】
所定の実施形態では、CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5又は任意のその組み合わせの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0253】
所定の実施形態では、刺激性免疫チェックポイント分子の活性を増強する物質(即ちアゴニスト)と、本開示の組成物を併用する。例えば、(例えばウレルマブ等の)CD137(4-1BB)アゴニスト、(例えばMEDI6469、MEDI6383又はMEDI0562等の)CD134(OX-40)アゴニスト、レナリドミド、ポマリドミド、(例えばCDX-1127等の)CD27アゴニスト、(例えばTGN1412、CD80又はCD86等の)CD28アゴニスト、(例えばCP-870,893、rhuCD40L又はSGN-40等の)CD40アゴニスト、(例えばIL-2等の)CD122アゴニスト、(例えばPCT特許公開第WO2016/054638号に記載されているヒト化モノクローナル抗体等の)GITRのアゴニスト、(例えばGSK3359609、mAb88.2、JTX-2011、Icos145-1、Icos314-8又は任意のその組み合わせ等の)ICOS(CD278)のアゴニストと、本開示の組成物を併用することができる。本願に開示する実施形態のいずれかにおいて、方法は、上記のいずれかを単独又は任意の組み合わせとして含む刺激性免疫チェックポイント分子の1つ以上のアゴニストと、本開示の組成物を併用投与することを含むことができる。
【0254】
所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物に加え、非炎症性固形腫瘍により発現されるがん抗原に特異的な抗体若しくはその抗原結合断片、放射線治療、外科療法、化学療法剤、サイトカイン、RNAi又は任意のその組み合わせの1つ以上を含む二次療法を含む。
【0255】
所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を投与することと、更に放射線治療又は外科療法を行うことを含む。放射線療法は当技術分野で周知であり、ガンマ線照射等のX線療法と、放射性医薬品療法を含む。対象における所定のがんを治療するのに適した外科療法と外科技術は、当技術分野における通常の知識を有する者に周知である。
【0256】
所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を投与することと、更に化学療法剤を投与することを含む。化学療法剤としては、限定されないが、クロマチン機能の阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、(葉酸拮抗薬、ピリミジンアナログ、プリンアナログ及び糖鎖修飾アナログ等の)代謝拮抗薬、DNA合成阻害剤、(インターカレート剤等の)DNA相互作用物質、及びDNA修復阻害剤が挙げられる。化学療法剤の具体例としては、限定されないが、以下の群が挙げられる:ピリミジンアナログ(5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビン及びシタラビン)及びプリンアナログ、葉酸拮抗薬及び関連する阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン及び2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン))等の代謝拮抗薬/抗がん剤;ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビン)等の天然物質、タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポシロン及びナベルビン等の微小管攪乱物質、エピジポドフィロトキシン(エトポシド、テニポシド)、DNA損傷剤(アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン、イホスファミド、メルファラン、メクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソウレア、プリカマイシン、プロカルバジン、タキソール、タキソテール、テモゾラミド、テニポシド、トリエチレンチオホスホロアミド及びエトポシド(VP16))を含む抗増殖/抗有糸分裂剤;ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)及びマイトマイシン等の抗生物質;酵素(L-アスパラギンを全身で代謝させ、それ自体のアスパラギンを合成する能力をもたない細胞を消滅させるL-アスパラギナーゼ);抗血小板薬;ナイトロジェンマスタード類(メクロレタミン、シクロホスファミド及びアナログ、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミン類及びメチルメラミン類(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、アルキルスルホン酸類(ブスルファン)、ニトロソウレア類(カルムスチン(BCNU)及びアナログ、ストレプトゾシン)、トリアゼン類(ダカルバジン(DTIC))等の抗増殖性/抗有糸分裂性アルキル化剤;葉酸アナログ(メトトレキサート)等の抗増殖性/抗有糸分裂性代謝拮抗薬;白金錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、ミトタン、アミノグルテチミド;ホルモン、ホルモンアナログ(エストロゲン、タモキシフェン、ゴセレリン、ビカルタミド、ニルタミド)及びアロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール);抗凝固薬(ヘパリン、合成ヘパリン塩及び他のトロンビン阻害剤);(組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼ等の)線維素溶解剤、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ;遊走阻害剤;分泌阻害剤(ブレフェルジン);免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);血管新生抑制化合物(TNP470、ゲニステイン)及び増殖因子阻害剤(血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害剤、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤);アンギオテンシン受容体拮抗薬;一酸化窒素供与体;アンチセンスオリゴヌクレオチド;抗体(トラスツズマブ、リツキシマブ);キメラ抗原受容体;細胞周期阻害剤・分化誘導剤(トレチノイン);mTOR阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、イリノテカン(CPT-11)及びミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン)、コルチコステロイド(コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン及びプレドニゾロン);増殖因子シグナル伝達キナーゼ阻害剤;ミトコンドリア機能不全インデューサー、コレラ毒素、リシン、緑膿菌外毒素、百日咳菌由来アデニル酸シクラーゼ毒素又はジフテリア毒素等の毒素、及びカスパーゼ活性化因子;並びにクロマチン攪乱物質。
【0257】
抗がん活性に対する宿主免疫応答を操作するためにサイトカインを使用することができる。例えば、Floros & Tarhini,Semin.Oncol.42(4):539-548,2015参照。免疫抗がん又は抗腫瘍応答を促進するために有用なサイトカインとしては、例えば、IFN-α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-21、IL-24及びGM-CSFが挙げられ、単独又は任意に組み合わせて本開示の組成物と併用する。
【0258】
本願では養子免疫療法の調節方法も提供され、前記方法は、安全スイッチタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む本開示の改変型宿主細胞を事前に投与された対象に、前記事前に投与した改変型宿主細胞を前記対象において消滅させるために有効な量の前記安全スイッチタンパク質のコグネイト化合物を投与することを含む。
【0259】
所定の実施形態において、前記安全スイッチタンパク質はtEGFRを含み、前記コグネイト化合物はセツキシマブであり、又は前記安全スイッチタンパク質はiCasp9を含み、前記コグネイト化合物はAP1903(例えば二量化AP1903)であり、又は前記安全スイッチタンパク質はRQRポリペプチドを含み、前記コグネイト化合物はリツキシマブであり、又は前記安全スイッチタンパク質はmyc結合ドメインを含み、前記コグネイト化合物は前記myc結合ドメインに特異的な抗体である。
【0260】
更に他の態様では、本開示の組成物又はユニットドーズ製剤の製造方法が提供される。所定の実施形態において、前記方法は、(i)本開示のベクターを導入した宿主細胞のアリコートに、(ii)薬学的に許容される基剤を加えることを含む。所定の実施形態において、本開示のベクターは、(例えばがん抗原を標的とする)養子移入療法で使用するために宿主細胞(例えばT細胞)にトランスフェクション/形質導入するために使用される。
【0261】
一部の実施形態において、前記方法は更に、アリコートに分割する前に、前記形質導入宿主細胞を培養し、前記ベクターを取り込んだ(即ち、発現する)前記形質導入細胞を選択することを含む。他の実施形態において、前記方法は、前記培養及び選択後でアリコートに分割する前に、前記形質導入宿主細胞を拡大することを含む。本方法の実施形態のいずれかでは、製造後の組成物又はユニットドーズ製剤を後期使用に備えて凍結させることができる。本方法に従って組成物又はユニットドーズ製剤を製造するには任意の適切な宿主細胞を使用することができ、例えば、造血幹細胞、T細胞、初代T細胞、T細胞株、NK細胞又はNK-T細胞が挙げられる。特定の実施形態において、前記方法は、CD8+T細胞、CD4+T細胞又はその両方である宿主細胞を含む。
【0262】
所定の実施形態では、LAG525、IMP321、IMP701、9H12、BMS-986016又は任意のその組み合わせ等のLAG3阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0263】
所定の実施形態では、CTLA4の阻害剤と本開示の組成物を併用する。特定の実施形態では、イピリムマブ、トレメリムマブ、CTLA4-Ig融合タンパク質(例えばアバタセプト、ベラタセプト)又は任意のその組み合わせ等のCTLA4特異抗体又はその結合断片と、本開示の組成物を併用する。
【0264】
所定の実施形態では、エノブリツズマブ(MGA271)、376.96又はその両方等のB7-H3特異抗体又はその結合断片と、本開示の組成物を併用する。B7-H4抗体結合断片は、例えばDangaj et al.,Cancer Res.73:4820,2013に記載されているようなscFv又はその融合タンパク質や、米国特許第9,574,000号とPCT特許公開第WO/201640724A1号及びWO2013/025779A1号に記載されているものとすることができる。
【0265】
所定の実施形態では、CD244の阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0266】
所定の実施形態では、BLTA、HVEM、CD160又は任意のその組み合わせの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。抗CD-160抗体は、例えばPCT公開第WO2010/084158号に記載されている。
【0267】
所定の実施形態では、TIM3の阻害剤と本開示の細胞組成物を併用する。
【0268】
所定の実施形態では、Gal9の阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0269】
所定の実施形態では、おとりアデノシン受容体等のアデノシンシグナル伝達阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0270】
所定の実施形態では、A2aRの阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0271】
所定の実施形態では、リリルマブ(BMS-986015)等のKIRの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0272】
所定の実施形態では、抑制性サイトカイン(一般的には、TGFβ以外のサイトカイン)又はTreg発生若しくは活性の阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0273】
所定の実施形態では、レボ-1-メチルトリプトファン、エパカドスタット(INCB024360;Liu et al.,Blood 115:3520-30,2010)、エブセレン(Terentis et al.,Biochem.49:591-600,2010)、インドキシモド、NLG919(Mautino et al.,American Association for Cancer Research 104th Annual Meeting 2013;Apr 6-10,2013)、1-メチルトリプトファン(1-MT)-チラパザミン又は任意のその組み合わせ等のIDO阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0274】
所定の実施形態では、Nω-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル(L-NAME)、Nω-ヒドロキシノル-l-アルギニン(ノルNOHA)、L-NOHA、2(S)-アミノ-6-ボロノヘキサン酸(ABH)、S-(2-ボロノエチル)-L-システイン(BEC)、又は任意のその組み合わせ等のアルギナーゼ阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0275】
所定の実施形態では、CA-170(Curis,Lexington,Mass.)等のVISTAの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0276】
所定の実施形態では、例えばCOM902(Compugen,Toronto,Ontario,カナダ)等のTIGITの阻害剤、例えばCOM701(Compugen)等のCD155の阻害剤、又はその両方と、本開示の組成物を併用する。
【0277】
所定の実施形態では、PVRIG、PVRL2又はその両方の阻害剤と、本開示の組成物を併用する。抗PVRIG抗体は、例えばPCT公開第WO2016/134333号に記載されている。抗PVRL2抗体は、例えばPCT公開第WO2017/021526号に記載されている。
【0278】
所定の実施形態では、LAIR1阻害剤と本開示の組成物を併用する。
【0279】
所定の実施形態では、CEACAM-1、CEACAM-3、CEACAM-5又は任意のその組み合わせの阻害剤と、本開示の組成物を併用する。
【0280】
所定の実施形態では、刺激性免疫チェックポイント分子の活性を増強する物質(即ちアゴニスト)と、本開示の組成物を併用する。例えば、(例えばウレルマブ等の)CD137(4-1BB)アゴニスト、(例えばMEDI6469、MEDI6383又はMEDI0562等の)CD134(OX-40)アゴニスト、レナリドミド、ポマリドミド、(例えばCDX-1127等の)CD27アゴニスト、(例えばTGN1412、CD80又はCD86等の)CD28アゴニスト、(例えばCP-870,893、rhuCD40L又はSGN-40等の)CD40アゴニスト、(例えばIL-2等の)CD122アゴニスト(例えばPCT特許公開第WO2016/054638号に記載されているヒト化モノクローナル抗体等の)GITRのアゴニスト、(例えばGSK3359609、mAb88.2、JTX-2011、Icos145-1、Icos314-8又は任意のその組み合わせ等の)ICOS(CD278)のアゴニストと、本開示の組成物を併用することができる。本願に開示する実施形態のいずれかにおいて、方法は、上記のいずれかを単独又は任意の組み合わせとして含む刺激性免疫チェックポイント分子の1つ以上のアゴニストと、本開示の組成物を併用投与することを含むことができる。
【0281】
所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物に加え、非炎症性固形腫瘍により発現されるがん抗原に特異的な抗体若しくはその抗原結合断片、放射線治療、外科療法、化学療法剤、サイトカイン、RNAi又は任意のその組み合わせの1つ以上を含む二次療法を含む。
【0282】
所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を投与することと、更に放射線治療又は外科療法を行うことを含む。放射線療法は当技術分野で周知であり、ガンマ線照射等のX線療法と、放射性医薬品療法を含む。対象における所定のがんを治療するのに適した外科療法と外科技術は、当技術分野における通常の知識を有する者に周知である。
【0283】
所定の実施形態において、併用療法は、本開示の組成物を投与することと、更に化学療法剤を投与することを含む。化学療法剤としては、限定されないが、クロマチン機能の阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管阻害剤、DNA損傷剤、(葉酸拮抗薬、ピリミジンアナログ、プリンアナログ及び糖鎖修飾アナログ等の)代謝拮抗薬、DNA合成阻害剤、(インターカレート剤等の)DNA相互作用物質、及びDNA修復阻害剤が挙げられる。化学療法剤の具体例としては、限定されないが、以下の群が挙げられる:ピリミジンアナログ(5-フルオロウラシル、フロクスウリジン、カペシタビン、ゲムシタビン及びシタラビン)及びプリンアナログ、葉酸拮抗薬及び関連する阻害剤(メルカプトプリン、チオグアニン、ペントスタチン及び2-クロロデオキシアデノシン(クラドリビン))等の代謝拮抗薬/抗がん剤;ビンカアルカロイド(ビンブラスチン、ビンクリスチン及びビノレルビン)等の天然物質、タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル)、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ノコダゾール、エポシロン及びナベルビン等の微小管攪乱物質、エピジポドフィロトキシン(エトポシド、テニポシド)、DNA損傷剤(アクチノマイシン、アムサクリン、アントラサイクリン、ブレオマイシン、ブスルファン、カンプトテシン、カルボプラチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シトキサン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、ドキソルビシン、エピルビシン、ヘキサメチルメラミンオキサリプラチン、イホスファミド、メルファラン、メクロレタミン、マイトマイシン、ミトキサントロン、ニトロソウレア、プリカマイシン、プロカルバジン、タキソール、タキソテール、テモゾラミド、テニポシド、トリエチレンチオホスホロアミド及びエトポシド(VP16))を含む抗増殖/抗有糸分裂剤;ダクチノマイシン(アクチノマイシンD)、ダウノルビシン、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、イダルビシン、アントラサイクリン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、プリカマイシン(ミトラマイシン)及びマイトマイシン等の抗生物質;酵素(L-アスパラギンを全身で代謝させ、それ自体のアスパラギンを合成する能力をもたない細胞を消滅させるL-アスパラギナーゼ);抗血小板薬;ナイトロジェンマスタード類(メクロレタミン、シクロホスファミド及びアナログ、メルファラン、クロラムブシル)、エチレンイミン類及びメチルメラミン類(ヘキサメチルメラミン及びチオテパ)、アルキルスルホン酸類(ブスルファン)、ニトロソウレア類(カルムスチン(BCNU)及びアナログ、ストレプトゾシン)、トリアゼン類(ダカルバジン(DTIC))等の抗増殖性/抗有糸分裂性アルキル化剤;葉酸アナログ(メトトレキサート)等の抗増殖性/抗有糸分裂性代謝拮抗薬;白金錯体(シスプラチン、カルボプラチン)、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、ミトタン、アミノグルテチミド;ホルモン、ホルモンアナログ(エストロゲン、タモキシフェン、ゴセレリン、ビカルタミド、ニルタミド)及びアロマターゼ阻害剤(レトロゾール、アナストロゾール);抗凝固薬(ヘパリン、合成ヘパリン塩及び他のトロンビン阻害剤);(組織プラスミノーゲン活性化因子、ストレプトキナーゼ及びウロキナーゼ等の)線維素溶解剤、アスピリン、ジピリダモール、チクロピジン、クロピドグレル、アブシキシマブ;遊走阻害剤;分泌阻害剤(ブレフェルジン);免疫抑制剤(シクロスポリン、タクロリムス(FK-506)、シロリムス(ラパマイシン)、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル);血管新生抑制化合物(TNP470、ゲニステイン)及び増殖因子阻害剤(血管内皮細胞増殖因子(VEGF)阻害剤、線維芽細胞増殖因子(FGF)阻害剤);アンギオテンシン受容体拮抗薬;一酸化窒素供与体;アンチセンスオリゴヌクレオチド;抗体(トラスツズマブ、リツキシマブ);キメラ抗原受容体;細胞周期阻害剤・分化誘導剤(トレチノイン);mTOR阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤(ドキソルビシン(アドリアマイシン)、アムサクリン、カンプトテシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エニポシド、エピルビシン、エトポシド、イダルビシン、イリノテカン(CPT-11)及びミトキサントロン、トポテカン、イリノテカン)、コルチコステロイド(コルチゾン、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、プレドニゾン及びプレドニゾロン);増殖因子シグナル伝達キナーゼ阻害剤;ミトコンドリア機能不全インデューサー、コレラ毒素、リシン、緑膿菌外毒素、百日咳菌由来アデニル酸シクラーゼ毒素又はジフテリア毒素等の毒素、及びカスパーゼ活性化因子;並びにクロマチン攪乱物質。
【0284】
抗がん活性に対する宿主免疫応答を操作するためにサイトカインを使用することができる。例えば、Floros & Tarhini,Semin.Oncol.42(4):539-548,2015参照。免疫抗がん又は抗腫瘍応答を促進するために有用なサイトカインとしては、例えば、IFN-α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-10、IL-12、IL-13、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-21、IL-24及びGM-CSFが挙げられ、単独又は任意に組み合わせて本開示の組成物と併用する。
【0285】
本願では養子免疫療法の調節方法も提供され、前記方法は、安全スイッチタンパク質をコードする異種ポリヌクレオチドを含む本開示の改変型宿主細胞を事前に投与された対象に、前記事前に投与した改変型宿主細胞を前記対象において消滅させるために有効な量の前記安全スイッチタンパク質のコグネイト化合物を投与することを含む。
【0286】
所定の実施形態において、前記安全スイッチタンパク質はtEGFRを含み、前記コグネイト化合物はセツキシマブであり、又は前記安全スイッチタンパク質はiCasp9を含み、前記コグネイト化合物はAP1903(例えば二量化AP1903)であり、又は前記安全スイッチタンパク質はRQRポリペプチドを含み、前記コグネイト化合物はリツキシマブであり、又は前記安全スイッチタンパク質はmyc結合ドメインを含み、前記コグネイト化合物は前記myc結合ドメインに特異的な抗体である。
【0287】
更に他の態様では、本開示の組成物又はユニットドーズ製剤の製造方法が提供される。所定の実施形態において、前記方法は、(i)本開示のベクターを導入した宿主細胞のアリコートに、(ii)薬学的に許容される基剤を加えることを含む。所定の実施形態において、本開示のベクターは、(例えばがん抗原を標的とする)養子移入療法で使用するために宿主細胞(例えばT細胞)にトランスフェクション/形質導入するために使用される。
【0288】
一部の実施形態において、前記方法は更に、アリコートに分割する前に、前記形質導入宿主細胞を培養し、前記ベクターを取り込んだ(即ち、発現する)前記形質導入細胞を選択することを含む。他の実施形態において、前記方法は、前記培養及び選択後でアリコートに分割する前に、前記形質導入宿主細胞を拡大することを含む。本方法の実施形態のいずれかでは、製造後の組成物又はユニットドーズ製剤を後期使用に備えて凍結させることができる。本方法に従って組成物又はユニットドーズ製剤を製造するには任意の適切な宿主細胞を使用することができ、例えば、造血幹細胞、T細胞、初代T細胞、T細胞株、NK細胞又はNK-T細胞が挙げられる。特定の実施形態において、前記方法は、CD8+T細胞、CD4+T細胞又はその両方である宿主細胞を含む。
【実施例】
【0289】
[実施例1]方法
細胞株
T2はHLA-A*02:01のみを発現するTAP欠損T細胞白血病/B-LCLハイブリッド細胞株11であり、293T/17は高い効率でトランスフェクションが可能な細胞株であり、ATCCから購入した。Jurkat76細胞は親Jurkat細胞株のTCRα/TCRβ欠損誘導体であり、天然ではCD8を発現しない12。CD8αβを発現するようにJurkat76細胞に事前に形質導入した(Jurkat-CD8)。HEPES含有RPMI1640培地(Invitrogen,GIBCO)に10%熱不活化FBS(Hyclone,GE Healthcare Life Sciences)、ペニシリン100U/mL及びストレプトマイシン100μg/mLを添加し、細胞株を維持した。
【0290】
ヒトT細胞培養:
ヘルシンキ宣言に従い、書面によるインフォームドコンセントを得ると共に、プロトコール868.01として治験審査委員会の承認を得た後に、シアトルがんケアアライアンス(Seattle Cancer Care Alliance)で健康なドナーから白血球除去療法試料を採取した。HLAタイピング済みドナーからPBMCを単離し、従来記載されているように13,14、ペプチドWT137-45であるVLDFAPPGAに特異的なHLA-A*02:01拘束性T細胞株をドナー1人当たり10株ずつ作製した(ドナー合計10人)。要約すると、EasySep(TM)ヒトCD8+T細胞単離キット(StemCell Technologies)を使用してCD8+T細胞を精製し、プラスチック基材に接着させ、1000U/mlのIL-4と800U/mlのGMCSFを添加して2日間培養し、回収前の最終日に成熟サイトカインカクテルを添加することにより、自家PBMCからDCを作製した。DCにペプチド1μg/mlを90分間添加した後、洗浄して過剰のペプチドを除去し、4000ラドを照射した。ペプチドパルスしたDCに30ng/mlのIL-21を添加し、これに対して2.5:1の比となるように、CD8+T細胞約5×106個を共培養した。HEPES含有RPMI1640培地(Invitrogen,GIBCO)に5%熱不活化ヒト血清プール(Bloodworks Northwest)、ペニシリン100U/mL、ストレプトマイシン100μg/mL及び2-β-メルカプトエタノール55μMを添加し、T細胞を維持した。2~3日毎に培地の半量を交換し、12.5U/mlのIL-2と2250U/mlのIL-7及びIL-15を添加することにより、培養液に栄養補給した。ペプチドパルスして放射線照射した自家PBMCに対して1:2の比でT細胞を共培養することにより、10日毎に再刺激した。
【0291】
フローサイトメトリーによる細胞選別
抗原特異的拡大後に氷上で全ドナーからのT細胞株を集めた。プール試料を分割し、以下の3つの条件の下にペプチド/HLA-A2四量体で染色した。即ち、(1)「四量体結合と親和性測定」のセクションに記載するように、陽性集団と陰性集団の最大の分離が得られるような野生型四量体濃度を実験により求める;(2)最適な四量体用量を100倍に希釈する;及び(3)HLA-A2分子を突然変異させ、CD8と相互作用するα3ドメインの位置をD227KとT228Aに変異させる15ことにより別の改変型四量体を作製する。この四量体は、親和性の高いCD8非依存的TCRと選択的に結合することが示されている16,17。四量体染色した各試料について、最高レベルの四量体結合を示す細胞(標識細胞の上位~2%)をフローサイトメトリーにより選別した。選別した集団をアダプティブ・バイオテクノロジーズ社(Adaptive Biotechnologies)のimmunoseqアッセイにより解析し、各クロノタイプの相対存在量を定量した。全四量体陽性集団を含む別の試料も最適な四量体染色試料から選別し、アダプティブ・バイオテクノロジーズ社のpairSeqアッセイ18によりTCRαβペアリング情報を求めた。
【0292】
データ解析
濃縮倍率計算
(選別した四量体+集団における頻度)/(未選別プール試料における頻度)として各クロノタイプの濃縮スコアを計算した。プール試料中で検出されなかったクロノタイプについては、濃縮倍率計算のためにプール試料中の細胞1個に対応する頻度を割り当てた。
【0293】
TCRシーケンシング及びα/βペアリング:
アダプティブ・バイオテクノロジーズ社のImmunoSeqアッセイによりTCRレパトア解析を実施した。10xゲノミクス社(10x genomics)のChromiumシングルセル免疫プロファイリングを使用してシングルセルV(D)J解析(TCRα/βペアリング)を実施した。
【0294】
TCR形質導入
TCRβ-p2a-TCRαの順に配置したコドン最適化TCRコンストラクトをBioXp(TM)3200(SGI-DNA)で合成し、ギブソン・アセンブリによりpRRLSIN.cPPT.MSCV.WPREレンチウイルス発現プラスミド(NCIのRichard Morgan博士から寄贈)にクローニングした。次に第3世代レンチウイルスパッケージングシステムを使用して発現ベクターを293T細胞にパッケージングした。48時間後にレンチウイルス上清を回収し、濾過して細胞破片を除去した。レンチウイルス上清2mlにポリブレン5μg/mlを添加し、Jurkat76細胞約5×105個に加えた。細胞を30℃にて1000gで90分間遠心し、形質導入を助長した。初代CD8+T細胞へのTCR形質導入のために、EasySep(TM)ヒトCD8+T細胞単離キット(StemCell Technologies)を使用してHLA-A2+PBMCからCD8+T細胞を濃縮し、Dynabeads(TM)Human T-Expander CD3/CD28(Gibco)で4時間活性化させた。レンチウイルス上清2mlに硫酸プロタミン5μg/mlとIL-2を50U/ml添加し、CD8+T細胞約2×106個に加えた。ペプチド/HLA-A*02:01四量体を使用してトランスジェニックTCR+細胞をFACS選別し、下流アッセイ用の純粋な抗原特異的細胞集団を得た。
【0295】
TCR結合データ
正しいTCRペアリングの評価
Jurkat76細胞に各TCRコンストラクトを導入し、内在性TCRを欠損するこれらの細胞におけるトランスジェニックTCR表面発現総量を反映するCD3表面発現量と比較して四量体結合を解析した。
【0296】
四量体結合と親和性測定
陽性T細胞集団で四量体滴定を実施し、陰性集団のバックグラウンド染色を上昇させずに陽性集団と陰性集団を最良に分離する濃度を選択することにより、最適な四量体用量を決定した。
【0297】
TCR機能データ
IFN-γ産生
レンチウイルスを介して初代CD8+T細胞に各TCR発現コンストラクトを導入し、選別し、均一に四量体陽性を示す細胞集団を得た後、用量を減らしながら(1~10-5μM)ペプチドをパルスしたT2標的細胞と1:1の比で混合した。あるいは、指定する場合には、自家PBMCをAPCとして使用した。ゴルジ体阻害剤(BD GolgiPlug及びGolgiStop)の共存下で4時間インキュベーション後に、細胞を抗CD8で表面染色した後、固定(BD Cytofix/Cytoperm)し、その後、BD Perm/Wash buffer中にて抗IFN-γで細胞内標識を行った。細胞をフローサイトメトリーにより解析し、各試料についてIFN-γ+細胞の百分率を求めた。Graphpad Prismを使用して非直線回帰によりこれらのデータを用量反応曲線にフィットさせた(4パラメータ-可変勾配を選択し、曲線のbottomとtopをそれぞれ0と100に制約した)。
【0298】
図1(A)及び1(B)は、高スループットシーケンシングストラテジーにより、WT1
37-45ペプチド特異的TCRをどのように同定したかを示す。全四量体陽性集団と比較して四量体との結合性の高さで選別することにより濃縮されたTCRクロノタイプは、ペプチド/HLA-A2リガンドに対して高い親和性又は高い機能的アビディティを有する可能性が高いと同定した。(A)WT1
37-45ペプチド/MHC四量体との結合性の高いTCRクロノタイプを同定するための初期シーケンシングストラテジーの模式図。(B)全集団の百分率に対する選別集団の濃縮倍率を示し、選択したTCRをハイライト表示する。黒丸により示す全TCRを合成し、抗原特異性について評価した(合計27)。
【0299】
図2は、選択したTCRの特異性と相対四量体結合親和性を評価する四量体結合試験の結果を示す。内在性TCRα/β鎖を欠損するJurkat細胞でTCRコンストラクトを発現させた。各TCRのCD3発現に対する四量体染色を示す(CD3発現はトランスジェニックTCR表面発現に直接相関する)。
【0300】
[実施例2]機能的アビディティの高いTCRの同定
一部の高親和性TCRはCD8に非依存的に四量体と結合することが分かったので、第2の実験を実施し、CD8非依存的(CD8i)四量体を使用した場合に四量体との結合性の高い選別集団として特異的に濃縮されるTCRを更に同定した。
図3A~3Cは、CD8非依存的(CD8i)四量体を使用した改変型高スループットシーケンシングストラテジーにより、他のWT1
37-45ペプチド特異的TCRをどのように同定したかを示す。CD8非依存的WT1
37ペプチド/MHC四量体との結合性の高いTCRクロノタイプを同定するための改変型シーケンシングストラテジーの模式図を
図3Aに示す。全集団の百分率に対する初期選別集団の濃縮倍率と、CD8i四量体を使用した場合の同様の解析を
図3Bと
図3Cと比較して示す。表面CD3レベルとCD8i四量体との結合性に基づいて更に14のTCRを選択した。
図3B及び
図3Cに名称を記載した全TCRクロノタイプを合成し、抗原特異性について評価した。
図3Cに影(斜線パターン)丸により示す全TCRは、CD8i四量体を使用して更に同定されたTCRを表す。
【0301】
[実施例3]CD3発現に対する四量体染色
CD8i四量体で選択した他のWT1
37-45ペプチド特異的TCRのCD8i四量体結合を
図4に示す。内在性TCRα/β鎖を欠損する(CD8発現も欠損する)Jurkat細胞でTCRコンストラクトを発現させた。各TCRのCD3発現に対する四量体染色を
図4に示す(CD3発現はトランスジェニックTCR表面発現に直接相関する)。四量体に最も強く結合し、抗CD3染色と比較して高レベルの四量体染色を生じたTCRを更に解析するために選択した。
【0302】
[実施例4]機能的アビディティ(EC
50)を測定するためのIFNγアッセイ
本願のTCRを形質導入したT細胞の50%からT細胞応答(例えばIFNγ産生)を誘発するために標的細胞にパルスする必要があるペプチド量であるペプチドEC
50により、TCRが制限的な抗原濃度でT細胞活性化のシグナルを誘導する能力を測定した。この数値は、所定のTCRを発現するT細胞が抗原を発現する標的細胞を殺傷する能力に直接相関する。選択したTCRのペプチドEC
50を求めるために、ドナーPMBCから単離したCD8
+T細胞に各TCRを形質導入した(
図5A)。1週間後に、細胞から四量体
+CD8
+T細胞を選別し、拡大した。拡大した抗原特異的細胞をペプチドパルスしたT2標的細胞と4~6時間共培養し、フローサイトメトリーによりIFNγ産生を測定した(
図5A)。IFNγ産生細胞の百分率を非直線回帰により用量反応曲線にフィットさせ、各TCRのペプチドEC
50を計算した(
図5B)。
【0303】
[実施例5]WT1
37-45ペプチド特異的TCRを発現する初代CD8+T細胞によるHLA-A2
+WT1
+MDA-MB-468細胞のインビトロ殺傷
WT1p37抗原を天然に発現し、HLA-A2上に提示する腫瘍細胞が、TCRを形質導入したCD8
+T細胞により溶解されるか否かを直接評価するために、選択したTCR各1つをドナー由来CD8
+T細胞に形質導入し、四量体との結合性の高さで選別することにより精製した。次に、CytoLight(R)Rapid Red色素で事前に染色しておいた乳がん細胞株MDA-MB-468に対して8:1の比となるように、TCRを形質導入したT細胞を混合した(3本ずつ)。TCRを形質導入した各T細胞集団について指定時点で72時間にわたって(生きた標的細胞の総数に相関する)赤色オブジェクト総面積を計算した。最も強力な腫瘍反応性T細胞は患者にインビボ移入後、長期間にわたって腫瘍抗原に応答性であると思われる。そこで、TCRを導入したT細胞の持続性抗原に対する継続的応答性を評価するために、48時間後にMDA-MB-468細胞を追加した。
図6参照。
【0304】
[実施例6]WT1
37-45ペプチド特異的TCRを発現する初代CD4
+T細胞及びCD8
+T細胞によるHLA-A2
+WT1
+PANC-1細胞のインビトロ殺傷
CD4
+T細胞とCD8
+T細胞はいずれもインビボ腫瘍クリアランスに役割を果たすことができる。従って、CD8
+T細胞しか活性化させることができないTCRよりも、CD4
+T細胞でも抗原特異的応答のシグナルを誘導することができるMHCクラスI拘束性TCRのほうが好ましい。MHCクラスI拘束性TCRがCD4
+T細胞で機能する能力は、一部では、ペプチドMHCに対するTCRの親和性に依存するようである。多くの場合には、CD8αとCD8βをコードする遺伝子をCD4+T細胞に導入すると、抗原特異的応答を効率的に誘発し易くなる。そこで、TCR10.1を発現するCD8T細胞と比較して(CD8α/CD8βを導入した)CD4T細胞がHLA-A2
+WT1
+腫瘍細胞を標的とする能力を評価するために、WT1
37-45TCR10.1を発現するようにCD4
+T細胞とCD8
+T細胞の両方に形質導入した。CD4
+T細胞には更にCD8α遺伝子とCD8β遺伝子を発現するように形質導入した。8日後に、形質導入した細胞を選別し、CD8
+四量体
+T細胞とCD4
+/CD8
+四量体
+T細胞を精製した。NucLight(R)Red色素を発現するように事前に形質導入しておいた膵腺癌細胞株PANC-1に対して8:1となるように、CD4
+、CD8
+又はこれらの2集団(CD4とCD8)の混合物である抗原特異的細胞を混合した(3本ずつ)。TCRを導入した各T細胞集団について指定時点で(生きた標的細胞の総数に相関する)赤色オブジェクト総面積を計算した。TCRを導入したT細胞の持続性抗原に対する継続的応答性を評価するために、48時間後にPANC-1細胞を追加した。
図7は、WT1
37-45TCR10.1を発現するCD4
+T細胞とCD8
+T細胞がいずれも反復反復反復インビトロチャレンジ後にWT1
+A2
+膵腺癌細胞株PANC-1を排除できることを示す。
【0305】
WT1p126エピトープは必ずしもWT1とHLA-A2を発現する細胞により効率的にプロセシング/提示されない(Jaigirdar et al.,J.Immunother.39:105,2017)。特に、免疫プロテアソーム発現をアップレギュレートするためにIFNγと共に前培養するか否かに拘わらず、WT1とHLA-A2を発現する数種の固形腫瘍由来細胞株は、WT1-p126特異的TCRにより効率的に標的化されない。一部の態様において、本開示は一面では、WT1-p37エピトープがWT1-p126エピトープと比較してより広範にプロセシングされ、多様な腫瘍種により提示されるという知見に関する。
図8A~8Dは、WT1-p126ペプチド特異的TCRとWT1p37ペプチド特異的TCRによる種々のWT1+A2+腫瘍細胞株の溶解を比較して示す。これらのデータは、WT1p-37ペプチド特異的TCRが一般に広範なWT1+A2+腫瘍をより確実に標的化できるらしいという事実を裏付けている。
【0306】
本願に記載する各種実施形態を組み合わせて他の実施形態を提供することができる。本明細書中に言及及び/又は出願データシートに列挙する全特許、特許出願公開、特許出願及び非特許文献はその開示内容全体を本願に援用するものであり、限定されないが、米国特許出願第62/816,746号、(出願日2019年3月11日)が挙げられる。一般に、以下の特許請求の範囲で使用する用語は本願に開示する特定の実施形態に制限して解釈すべきではなく、このような特許請求の範囲の権利が及ぶ全範囲の等価物と共に、考えられる全ての実施形態を含めて解釈すべきである。
【0307】
参考文献
1.Kalos,M.et al.T cells with chimeric antigen receptors have potent antitumor effects and can establish memory in patients with advanced Leukemia.Sci.Transl.Med.3,95ra73-95ra73(2011).
2.Porter,D.L.,Levine,B.L.,Kalos,M.,Bagg,A.& June,C.H.Chimeric antigen receptor-modified T cells in chronic lymphoid leukemia.N Engl J Med 365,725-733(2011).
3.Kochenderfer,J.N.et al.Eradication of B-lineage cells and regression of lymphoma in a patient treated with autologous T cells genetically engineered to recognize CD19.Blood 116,4099-4102(2010).
4.Chapuis,A.G.et al.Transferred WT1-reactive CD8+ T cells can mediate antileukemic activity and persist in post-transplant patients.Sci Transl Med 5,174ra27(2013).
5.Chapuis,A.G.et al.Transferred melanoma-specific CD8+ T cells persist,mediate tumor regression,and acquire central memory phenotype.Proc Natl Acad Sci U S A(2012).doi:10.1073/pnas.1113748109
6.Morgan,R.et al.Cancer Regression in Patients After Transfer of Genetically Engineered Lymphocytes.Science 314,126-129(2006).
7.Dudley,M.et al.Adoptive cell therapy for patients with metastatic melanoma:evaluation of intensive myeloablative chemoradiation preparative regimens.J Clin Oncol 26,5233-5239(2008).
8.Robbins,P.F.et al.Tumor regression in patients with metastatic synovial cell sarcoma and melanoma using genetically engineered lymphocytes reactive with NY-ESO-1.Journal of Clinical Oncology 29,917-924(2011).
9.Stromnes,I.M.et al.Abrogation of SRC homology region 2 domain-containing phosphatase 1 in tumor-specific T cells improves efficacy of adoptive immunotherapy by enhancing the effector function and accumulation of short-lived effector T cells in vivo.The Journal of Immunology 189,1812-1825(2012).
10.Schmitt,T.M.,Ragnarsson,G.B.& Greenberg,P.D.T Cell Receptor Gene Therapy for Cancer.Hum Gene Ther 20,1240-1248(2009).
11.Salter,R.D.& Cresswell,P.Impaired assembly and transport of HLA-A and -B antigens in a mutant TxB cell hybrid.EMBO.J.5,943-949(1986).
12.Heemskerk,M.H.et al.Redirection of antileukemic reactivity of peripheral T lymphocytes using gene transfer of minor histocompatibility antigen HA-2-specific T-cell receptor complexes expressing a conserved alpha joining region.Blood 102,3530-3540(2003).
13.Ho,W.Y.,Nguyen,H.N.,Wolfl,M.,Kuball,J.& Greenberg,P.D.In vitro methods for generating CD8+ T-cell clones for immunotherapy from the naive repertoire.J Immunol Methods 310,40-52(2006).
14.Chapuis,A.G.et al.Transferred WT1-reactive CD8+ T cells can mediate antileukemic activity and persist in post-transplant patients.Sci Transl Med 5,174ra127(2013).
15.Luescher,I.F.et al.CD8 modulation of T-cell antigen receptor-ligand interactions on living cytotoxic T lymphocytes.Nature 373,353-356(1995).
16.Stone,J.D.& Kranz,D.M.Role of T cell receptor affinity in the efficacy and specificity of adoptive T cell therapies.Front Immunol 4,244(2013).
17.Pittet,M.J.et al.α3 Domain Mutants of Peptide/MHC Class I Multimers Allow the Selective Isolation of High Avidity Tumor-Reactive CD8 T Cells.The Journal of Immunology 171,1844-1849(2003).
18.Howie,B.et al.High-throughput pairing of T cell receptor alpha and beta sequences.Sci Transl Med 7,301ra131(2015).
【配列表】