(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】耐火組成物、防火区画貫通部埋め戻し処理方法
(51)【国際特許分類】
C09K 21/14 20060101AFI20241227BHJP
A62C 2/00 20060101ALI20241227BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
C09K21/14
A62C2/00 X
B05D5/00 E
(21)【出願番号】P 2023159231
(22)【出願日】2023-09-22
【審査請求日】2023-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】高津 知道
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-119067(JP,A)
【文献】特開2001-058878(JP,A)
【文献】特開2003-321276(JP,A)
【文献】特開2018-184315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00 -21/14
A62C 2/00 -99/00
A62D 1/00 - 9/00
E04B 1/62 - 1/99
C04B 2/00 -32/02
C04B 40/00 -40/06
C04B 38/00 -38/10
C04B 35/05
C04B 35/107
C04B 35/622-35/84
C04B 35/42 -35/447
C04B 35/46 -35/515
C04B 35/56 -35/599
B05D 1/00 - 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機化合物系バインダー材料と、
無機化合物と、
有機化合物系減水剤と、を含む、耐火組成物であって、
前記有機化合物系バインダー材料、前記無機化合物、前記有機化合物系減水剤の3成分の合計を100質量%としたときの各成分の割合が、
前記有機化合物系バインダー材料
3.0~20.0質量%、
前記無機化合物60.0~
90.5質量%、
前記有機化合物系減水剤
2.0~20.0質量%、
である、耐火組成物。
【請求項2】
前記有機化合物系バインダー材料が、ナトリウム塩を含有する化合物を含む、請求項1に記載の耐火組成物。
【請求項3】
前記有機化合物系減水剤が、ナトリウム塩を含有する化合物を含む、請求項1又は請求項2に記載の耐火組成物。
【請求項4】
前記無機化合物が、リン酸系化合物を含む、請求項1又は請求項2に記載の耐火組成物。
【請求項5】
前記有機化合物系バインダー材料がナトリウム塩を含有する化合物を含み、
前記無機化合物がリン酸系化合物を含み、
前記有機化合物系減水剤がナトリウム塩を含有する化合物を含む、請求項1に記載の耐火組成物。
【請求項6】
前記耐火組成物100質量%中に、水を10~70質量%含む、請求項1又は請求項2に記載の耐火組成物。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の耐火組成物を用いて施工する施工工程を有する、防火区画貫通部埋め戻し処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火組成物、防火区画貫通部埋め戻し処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の壁や床等に耐火材(耐火組成物)を塗布・充填等を行うことによって耐火処理を施すことが知られている。
このような耐火材として、水と、無機充填剤と、増粘剤と、粘結剤と、を含むパテ状の耐火材が用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術は、梱包にプラスチックフィルムを使用したとしても経時で水が気化した場合には乾燥し、パテ材としての耐火材が硬くなってしまい、加工が困難になるという課題があった。
また、特許文献1の技術は、加熱燃焼後に充填した耐火材が脆く崩れやすくなってしまい、充填性を保てないという課題があった。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、加工性に優れ、保管後も加工性が比較的良好であり、加熱燃焼後の形状安定性に優れる、耐火状組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、有機化合物系バインダー材料と、無機化合物と、有機化合物系減水剤と、を含む、耐火組成物であって、前記有機化合物系バインダー材料、前記無機化合物、前記有機化合物系減水剤の3成分の合計を100質量%としたときの各成分の割合が、前記有機化合物系バインダー材料0.5~20.0質量%、前記無機化合物60.0~98.5質量%、前記有機化合物系減水剤0.1~20.0質量%、である、耐火組成物が提供される。
【0007】
本発明者が鋭意検討を行ったところ、各成分を上記の割合で含有する耐火組成物が上記課題を解決可能であることを見出し、本発明の完成に到った。
【0008】
[1]有機化合物系バインダー材料と、無機化合物と、有機化合物系減水剤と、を含む、耐火組成物であって、前記有機化合物系バインダー材料、前記無機化合物、前記有機化合物系減水剤の3成分の合計を100質量%としたときの各成分の割合が、前記有機化合物系バインダー材料0.5~20.0質量%、前記無機化合物60.0~98.5質量%、前記有機化合物系減水剤0.1~20.0質量%、である、耐火組成物。
[2]前記有機化合物系バインダー材料が、ナトリウム塩を含有する化合物を含む、[1]に記載の耐火組成物。
[3]前記有機化合物系減水剤が、ナトリウム塩を含有する化合物を含む、[1]又は[2]に記載の耐火組成物。
[4]前記無機化合物が、リン酸系化合物を含む、[1]~[3]の何れか1つに記載の耐火組成物。
[5]前記有機化合物系バインダー材料がナトリウム塩を含有する化合物を含み、前記無機化合物がリン酸系化合物を含み、前記有機化合物系減水剤がナトリウム塩を含有する化合物を含む、[1]~[4]の何れか1つに記載の耐火組成物。
[6]前記耐火組成物100質量%中に、水を10~70質量%含む、[1]~[5]の何れか1つに記載の耐火組成物。
[7][1]~[6]の何れか1つに記載の耐火組成物を用いて施工する施工工程を有する、防火区画貫通部埋め戻し処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.耐火組成物の組成
本発明の耐火組成物は、有機化合物系バインダー材料、無機化合物、有機化合物系減水剤を含有する。本発明の耐火組成物は、加工性に優れる組成物であって、形状に合わせて変形させて使用することができるパテとして用いることができる。すなわち、当該組成物はパテ状耐火組成物として提供されうる。
【0010】
<有機化合物系バインダー材料>
有機化合物系バインダー材料とは、耐火組成物の各成分同士を繋ぎ合わせる結合剤的な枠割を果たす材料である。
【0011】
有機化合物系バインダー材料は、有機化合物からなる結合剤であり、適量配合することによって、耐火組成物をパテ状の組成物を施工に適した硬さにすることができる。有機化合物系バインダー材料は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。有機化合物系バインダー材料は、好ましくはナトリウム塩を含有する化合物を含む。
【0012】
有機化合物系バインダー材料は、親水性高分子が好ましい。親水性高分子としては、水に可溶な水溶性高分子や、水を吸収して膨張可能な吸水性高分子が挙げられ、具体的には、例えば、澱粉、セルロース系化合物、ポリビニルアルコール、変性アクリル酸エステル系共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・フェニルグリシジルエーテル共重合体、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド・アリルグリシジルエーテル共重合体、アルギン酸ソーダなどが挙げられる。
【0013】
セルロース系化合物としては、メチルセルロースやカルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロール、及びそれらの塩等の誘導体が挙げられる。
カルボキシメチルセルロースの塩としては、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースアンモニウムなどの塩が挙げられる。
【0014】
変性アクリル酸エステル系共重合体としては、スルホエチルアクリレート-アクリルアミド-アクリル酸共重合体ナトリウム塩の架橋物や、アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物がある。
【0015】
有機化合物系バインダー材料、無機化合物、有機化合物系減水剤(以下、「3成分」)の合計を100質量%としたときの、有機化合物系バインダー材料の割合は、0.5~20.0質量%であって、0.7~14.0質量%が好ましく、1.1~8.0質量%がより好ましい。有機化合物系バインダー材料の割合が小さすぎると、耐火組成物が軟らかすぎて、加工性又は作業性が不十分になる場合がある。有機化合物系バインダー材料の割合が大きすぎると、耐火組成物が硬くなりすぎて、加工性が不十分になる場合がある。上記3成分の合計を100質量%としたときの有機化合物系バインダー材料の割合は、具体的には例えば、0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.1,1.2,1.3,1.4,1.5,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0,6.5,7.0,7.5,8.0,8.5,9.0,9.5,10.0,10.5,11.0,11.5,12.0,12.5,13.0,13.5,14.0,14.5,15.0,15.5,16.0,16.5,17.0,17.5,18.0,18.5,19.0,19.5,20.0質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0016】
<無機化合物>
無機化合物の形状は、例えば、球状、楕円球状、立方体状、直方体状、ランダム形状などが挙げられ、中空であっても中実であってもよい。粒子状無機化合物の平均粒子径は、例えば10~1000μmであり、20~800μmが好ましく、30~500μmがさらに好ましく、40~200μmがさらに好ましい。「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
無機化合物としては、例えば、アルミナ、シリカ、アルミノシリケート、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化錫、酸化アンチモン、フェライト類等の金属酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ハイドロタルサイト等の含水無機物;塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸亜鉛、炭酸ストロンチウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩;硫酸カルシウム、けい酸カルシウム等のカルシウム塩;ガラスビーズ、シリカ系バルン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化けい素、カーボンブラック、グラファイト、炭素バルン、木炭粉末、各種金属粉、チタン酸カリウム、硫酸マグネシウム、チタン酸ジルコン酸鉛、アルミニウムボレート、硫化モリブデン、炭化けい素、ホウ酸亜鉛、各種磁性粉、フライアッシュ、無機中空フィラー、パーライト、黒曜岩、真珠岩、松脂岩、珪藻土、脱水汚泥、ホウ素、四ホウ酸ナトリウム水和物(ホウ砂)、リン酸系化合物などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。無機化合物は、燃焼後形状安定性の観点からは、好ましくは水酸化アルミニウム又はリン酸系化合物を含み、より好ましくは水酸化アルミニウム及びリン酸系化合物を含む。
【0018】
<リン酸系化合物>
リン酸系化合物には、リン酸系化合物以外にも、亜リン酸系化合物、次亜リン酸系化合物、メタリン酸系化合物、ピロリン酸系化合物及びポリリン酸系化合物がある。
【0019】
リン酸系化合物としては、例えば、第1リン酸アルミニウム、第1リン酸ナトリウム、第1リン酸カリウム、第1リン酸カルシウム、第1リン酸亜鉛、第2リン酸アルミニウム、第2リン酸ナトリウム、第2リン酸カリウム、第2リン酸カルシウム、第2リン酸亜鉛、第3リン酸アルミニウム、第3リン酸ナトリウム、第3リン酸カリウム、第3リン酸カルシウム、第3リン酸亜鉛、第3リン酸マグネシウム、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三カルシウム、リン酸アルミニウム等が挙げられる。
【0020】
亜リン酸系化合物としては、例えば、亜リン酸アルミニウム、亜リン酸水素アルミニウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸亜鉛などが挙げられる。
【0021】
次亜リン酸系化合物としては、例えば、次亜リン酸アルミニウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、次亜リン酸カルシウム、次亜リン酸亜鉛などが挙げられる。
【0022】
メタリン酸系化合物としては、例えば、メタリン酸アルミニウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸亜鉛、ヘキサメタリン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0023】
ピロリン酸系化合物としては、例えば、ピロリン酸ナトリウムが挙げられる。
【0024】
ポリリン酸系化合物としては、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム、などが挙げられる。
【0025】
上記3成分の合計を100質量%としたときの、無機化合物の割合は、60.0~98.5質量%であって、84.5~98.3質量%が好ましく、90.5~97.9質量%がより好ましい。無機化合物の割合が小さすぎると、加熱燃焼後の形状安定性が不十分になる場合がある。無機化合物の割合が大きすぎると、加工性が悪くなる場合がある。上記3成分の合計を100質量%としたときの無機化合物の割合は、具体的には例えば、具体的には例えば、60.0,61.0,62.0,63.0,64.0,65.0,66.0,67.0,68.0,69.0,70.0,71.0,72.0,73.0,74.0,75.0,76.0,77.0,78.0,79.0,80.0,81.0,82.0,83.0,84.0,84.5,85.0,86.0,87.0,88.0,89.0,90.0,90.5,91.0,92.0,93.0,94.0,95.0,96.0,97.0,97.9,98.0,98.3,98.5質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0026】
なお、加熱燃焼後の形状安定性の観点から、リン酸系化合物としては亜リン酸水素アルミニウム、ポリリン酸アンモニウム、等が好ましい。
【0027】
<有機化合物系減水剤>
有機化合物系減水剤は、有機化合物からなる化合物であって、他の成分を分散させる効果を有する分散剤である。分散させる効果は、例えば静電気の反発によって得られる。有機化合物系減水剤としては、例えば、リグニン系化合物、ナフタレンスルホン酸系化合物、アミノスルホン酸系化合物、ポリカルボン酸系化合物、ポリエーテル系化合物、などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
リグニン系化合物としては、例えば、リグニンスルホン酸マグネシウム塩、リグニンスルホン酸ナトリウム塩、リグニンスルホン酸カルシウム塩等のリグニンスルホン酸金属塩、およびそれらの変性物、等が挙げられる。
【0029】
ナフタレンスルホン酸系化合物としては、例えば、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ソーダ、ナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩、などが挙げられる。
【0030】
ポリエーテル系化合物としては、例えば、メタクリル酸-メタクリル酸エチレンオキサイドエステル共重合物塩のようなカルボキシル基含有ポリエーテル系化合物等が挙げられる。
【0031】
上記3成分の合計を100質量%としたときの、有機化合物系減水剤の割合は、0.1~20.0質量%であって、0.3~14.0質量%が好ましく、0.7~8.0質量%がより好ましい。有機化合物系減水剤の割合が小さすぎると、経時保管後の加工性が不十分になる場合がある。有機化合物系減水剤の割合が大きすぎると、加工性や作業性、乾燥後強度が悪くなる場合がある。上記3成分の合計を100質量%としたときの有機化合物系減水剤の割合は、具体的には例えば、0.1,0.2,0.3,0.4,0.5,0.6,0.7,0.8,0.9,1.0,1.5,2.0,2.5,3.0,3.5,4.0,4.5,5.0,5.5,6.0,6.5,7.0,7.5,8.0,8.5,9.0,9.5,10.0,10.5,11.0,11.5,12.0,12.5,13.0,13.5,14.0,14.5,15.0,15.5,16.0,16.5,17.0,17.5,18.0,18.5,19.0,19.5,20.0質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0032】
なお、有機化合物系減水剤は、好ましくはナトリウム塩を含有する化合物を含む。有機化合物系減水剤としては、骨格中にナトリウム塩を有する、リグニンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ソーダ、ナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩、等が好ましい。
【0033】
その他、耐火組成物には、物性の損なわれない程度で熱膨張性化合物、繊維状化合物、AE(Air Entraining)剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、軟化剤、粘着付与剤、等の添加剤を適宜添加できる。
【0034】
<熱膨張性化合物>
熱膨張性化合物としては、加熱時に膨張するものであれば特に限定はないが、例えば、マイクロスフェアー、メラミン、アゾ化合物、ニトロソ化合物、ヒドラジン誘導体、重炭酸塩、バーミキュライト、カオリン、マイカ、熱膨張性黒鉛等が挙げられる。これらの中でも熱膨張性の観点から、熱膨張性黒鉛を含むことが好ましい。
【0035】
<熱膨張性黒鉛>
熱膨張性黒鉛とは、天然グラファイト、熱分解グラファイト等のグラファイト粉末を、硫酸や硝酸等の無機酸と、濃硝酸や過マンガン酸塩等の強酸化剤とを用いて表面処理したものであり、かつグラファイト層状構造を維持した結晶化合物である。これらは常圧下で膨張開始温度(200℃程度)以上の温度に曝されると、100倍以上に熱膨張する。なお、前記天然グラファイト、熱分解グラファイト等のグラファイト粉末は、脱酸処理を施したものや、更に中和処理したもの等であってもよい。
【0036】
熱膨張性黒鉛の割合は、上記3成分の合計を100質量部したときに、0.3~30.0質量部が好ましい。この範囲であることで、熱膨張性と熱膨張後の形状安定性の両立化が図れる。
【0037】
<繊維状化合物>
繊維状化合物には、無機繊維化合物と有機繊維化合物があり、無機繊維化合物と有機繊維化合物の両方を含んでも良い。繊維状化合物は、形状が繊維状であればよく、繊維状化合物の断面形状としては、例えば、円形、楕円形、多角形などが挙げられる。繊維状化合物の長さLと直径Dの比L/Dは、例えば、10超であり、50以上が好ましく、100以上がさらに好ましい。L/Dの上限は、特に規定されないが、例えば、10000である。繊維状化合物の直径Dは、例えば、1~100μmであり、2~50μmが好ましく、5~20μmがさらに好ましい。繊維状化合物の長さLは、例えば、0.05~10mmであり、0.1~8mmが好ましく、0.2~5mmがさらに好ましい。
【0038】
無機繊維化合物としては、例えば、ガラス繊維(Eガラス繊維、Cガラス繊維、Sガラス繊維、Dガラス繊維)、岩綿、セラミック繊維(シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、シリカ繊維)、ジルコニア繊維、カーボン繊維、バルクアルカリアースシリケート繊維、石膏繊維、炭素繊維、金属繊維、スラグ繊維、バサルト繊維等を挙げることができる。
【0039】
有機繊維化合物としては、例えば、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維、アミド系繊維、パルプ繊維、セルロース繊維、ポリパラフェニレンベンズビスオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維等を挙げることができる。
【0040】
<AE剤>
AE剤としては、例えば、アニオン(陰イオン)系界面活性剤、ノニオン(非イオン)系界面活性剤、樹脂酸塩系界面活性剤、等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明の耐火組成物は、建築物内の配管類・ケーブル類と防火壁等との間の隙間をふさぐ際には、その作業を容易にする観点から、水を含有することが好ましい。耐火組成物が水を含有する場合、固形分の割合は、30~90質量%であることが好ましく、50~70質量%であることがより好ましい。耐火組成物100質量%中に、水を好ましくは10~70質量%含み、より好ましくは30~50質量%含む。
水の割合が小さい(固形分の含有量が多い)と、ボソボソになりパテとして加工性が悪くなる場合がある。水の割合が大きい(固形分の含有量が少ない)と、柔らかすぎて加工性、作業性が悪くなる場合がある。水の含有量は、具体的には例えば、10,15,20,25,26,30,35,40,45,50,55,60,65,70質量%であり、ここで例示した数値の何れか2つの間の範囲内であってもよい。
【0042】
本発明の耐火組成物は、建築物内の配管類・ケーブル類と防火壁等との間の隙間をふさぐ目地材に用いることができる。
【0043】
2.耐火組成物の製造方法
本発明の耐火組成物は、ミキサーなどを用いて、上記3成分、必要に応じて添加剤、及び水を混合・撹拌することによって製造することができる。
【0044】
3.防火区画貫通部埋め戻し処理方法
本発明の別の側面に係る防火区画貫通部埋め戻し処理方法は、上記耐火組成物を用いて施工する施工工程を有する方法である。
【0045】
上記施工工程では、例えば、建築物内の配管類・ケーブル類が貫通している防火区画としての防火壁等と、配管類・ケーブル類の間の隙間に、上記耐火組成物を充填する。
【実施例】
【0046】
1.耐火組成物の作製
表1~表4に示す各成分を当該表中の組成(単位は質量%)に従って、ミキサーを用いて混合・撹拌して、実施例・比較例のパテ状の耐火組成物を作製した。なお、表中では、バインダー材料、無機化合物、減水剤、及び媒体の合計100質量%(組成物全体)に対する配合量を、バインダー材料、無機化合物、及び減水剤の3成分の合計と媒体とについて示し、さらにバインダー材料、無機化合物、及び減水剤のそれぞれの上記3成分の合計100質量%中の配合量を示している。
【0047】
【0048】
表中の成分の詳細は、以下の通りである。
<有機化合物系バインダー材料>
・カルボキシメチルセルロースナトリウム:林純薬工業株式会社製「カルボキシメチルセルロースナトリウム」
・カルボキシメチルセルロースアンモニウム:ニチリン化学工業株式会社製「キッコレートNA-H」
・アクリル酸重合体部分ナトリウム塩:富士フイルム和光純薬(株)「高吸水性ポリマー (アクリル酸塩系)」
・メチルセルロース:信越化学工業株式会社製「MCE-4000」
<無機化合物系バインダー材料>
・ベントナイト:株式会社ホージュン製「赤城」
【0049】
<無機化合物>
・水酸化アルミニウム:住友化学株式会社製「C-301N」
・亜リン酸水素アルミニウム:太平化学産業株式会社製「NSF」
・ポリリン酸アンモニウム:SCM Industrial Chemical Co.,Ltd.製、HP-APP II
【0050】
<有機化合物系減水剤>
・リグニンスルホン酸ナトリウム塩:日本製紙株式会社製「パールレックスNP」
・リグニンスルホン酸マグネシウム塩:日本製紙株式会社製「サンエキスP321」
・ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物ソーダ:花王株式会社製「マイテイHS」
・ナフタレンスルホン酸・ホルムアルデヒド縮合物ナトリウム塩:花王株式会社製「マイテイ150」
・カルボキシル基含有ポリエーテル系化合物:花王株式会社製「マイテイ1000M」
<無機化合物系減水剤>
・トリポリリン酸ナトリウム:米山化学工業株式会社製
【0051】
<各種評価>
実施例・比較例の耐火組成物について、以下に示す各種評価を行った。その結果を表1~表4に示す。
【0052】
<加工性>
実施例及び比較例の乾燥前の耐火組成物(後述の経時保管前)を、JIS A5752に準拠し荷重150g、温度21℃において軟度(軟度A)の測定を行った。測定は、規定の円錐を試験片に垂直に貫入させ、その貫入深さを0.1mm単位で測定した。そして、貫入深さに基づいて、加工性を以下の評価基準で判定した。
〔評価基準〕
◎:貫入深さが、180[1/10mm]以上220未満[1/10mm]である。
○:貫入深さが、150[1/10mm]以上180[1/10mm]未満、
又は、220[1/10mm]以上250[1/10mm]未満である。
△:貫入深さが、110[1/10mm]以上150[1/10mm]未満、
又は、250[1/10mm]以上280[1/10mm]未満である。
×:貫入深さが、110[1/10mm]未満、又は280[1/10mm]以上である。
【0053】
<経時保管後の加工性(経時加工性)>
実施例及び比較例の乾燥前の耐火組成物(保管前)を、ポリエチレン製80μm厚の袋に入れ密閉し、40℃で90日保管して得た耐火組成物(保管後)。このようにして得た耐火組成物(保管後)について、JIS A5752に準拠し荷重150g、温度21℃において軟度(軟度B)の測定を行った。測定は、規定の円錐を試験片に垂直に貫入させ、その貫入深さを0.1mm単位で測定した。そして、貫入深さに基づいて、経時保管後の加工性を以下の評価基準で判定した。
〔評価基準〕
◎:貫入深さが、150[1/10mm]以上である。
○:貫入深さが、130[1/10mm]以上150[1/10mm]未満である。
△:貫入深さが、90[1/10mm]以上130[1/10mm]未満である。
×:貫入深さが、90[1/10mm]未満、又は280[1/10mm]以上である。
【0054】
<軟度変化率>
軟度変化率は、保管前後の軟度の変化率であって、下記式に基づき算出した値である。
軟度変化率(%)=100×(軟度A-軟度B)/軟度A
〔評価基準〕
◎:25%未満である。
○:25%以上、30%未満である。
△:30%以上、50%未満である。
×:50%以上である。
【0055】
<作業性(手袋非付着性)>
ラテックスゴム手袋を装着し、実施例及び比較例の乾燥前の耐火組成物(前述の経時保管前)100gを10回握った後の手袋の付着物の重量を測定し、以下の式に基づいて付着物重量を算出した。そして、付着物重量に基づいて、手袋非付着性を以下の評価基準で判定した。
付着物重量[g]=(耐火組成物を10回握った後の手袋の重量)-(元の手袋の重量)
〔評価基準〕
◎:付着物重量が、0.1[g]未満である。
○:付着物重量が、0.1[g]以上、0.4[g]未満である。
△:付着物重量が、0.4[g]以上、0.7[g]未満である。
×:付着物重量が、0.7[g]以上である。
【0056】
<乾燥後強度>
実施例及び比較例の乾燥前の耐火組成物(前述の経時保管前)を用いて、縦30mm×横30mm×厚み4mmの試験片を作製し、これを110℃、24時間の条件で乾燥させて乾燥後の耐火組成物の試験片を得た。その試験片を3点曲げ試験治具(上部押し側先端R1mmおよび幅80mm、下部2点支点側R1mm、幅80mm、支点間距離20mm)を用い、試験片を圧縮速度50mm/minの条件にて破壊した際の強度(3点曲げ破壊強度)を測定した。ここで、3点曲げ破壊強度が大きいほど、乾燥後の形状安定性が高いことを示す。そして、3点曲げ破壊強度に基づいて、乾燥後の形状安定性を以下の評価基準で判定した。
〔評価基準〕
◎:3点曲げ破壊強度が、60[N]以上である。
○:3点曲げ破壊強度が、50[N]以上、60[N]未満である。
△:3点曲げ破壊強度が、40[N]以上、50[N]未満である。
×:3点曲げ破壊強度が、40[N]未満である。
【0057】
<加熱燃焼後の形状安定性>
実施例及び比較例の乾燥前の耐火組成物(前述の経時保管前)を用いて、縦30mm×横30mm×厚み4mmの試験片を作製し、これを110℃、24時間の条件で乾燥させて乾燥後の耐火組成物の試験片を得た。乾燥後の試験片を300℃で保持された雰囲気内に0.5時間放置した後、3点曲げ試験治具(上部押し側先端R1mmおよび幅80mm、下部2点支点側R1mm、幅80mm、支点間距離20mm)を用い、試験片を圧縮速度50mm/minの条件にて破壊した際の強度(3点曲げ破壊強度)を測定した。ここで、3点曲げ破壊強度が大きいほど、加熱燃焼後の強度が高いことを示す。そして、3点曲げ破壊強度に基づいて、加熱燃焼後の形状安定性を以下の評価基準で判定した。
〔評価基準〕
◎:3点曲げ破壊強度が、2.0[N]以上である。
○:3点曲げ破壊強度が、1.5[N]以上、2.0[N]未満である。
△:3点曲げ破壊強度が、1.0[N]以上、1.5[N]未満である。
×:3点曲げ破壊強度が、1.0[N]未満である。
【要約】
【課題】加工性に優れ、保管後も加工性が比較的良好であり、加熱燃焼後の形状安定性に優れる、耐火状組成物を提供する。
【解決手段】本発明によれば、有機化合物系バインダー材料と、無機化合物と、有機化合物系減水剤と、を含む、耐火組成物であって、前記有機化合物系バインダー材料、前記無機化合物、前記有機化合物系減水剤の3成分の合計を100質量%としたときの各成分の割合が、前記有機化合物系バインダー材料0.5~20.0質量%、前記無機化合物60.0~98.5質量%、前記有機化合物系減水剤0.1~20.0質量%、である、耐火組成物が提供される。
【選択図】なし