(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物、複合樹脂コーティング鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 67/00 20060101AFI20241227BHJP
C08L 91/00 20060101ALI20241227BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20241227BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20241227BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20241227BHJP
C09D 5/00 20060101ALI20241227BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20241227BHJP
B32B 3/30 20060101ALI20241227BHJP
B32B 15/09 20060101ALI20241227BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241227BHJP
B32B 15/18 20060101ALI20241227BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20241227BHJP
B05D 1/36 20060101ALI20241227BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20241227BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20241227BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20241227BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L91/00
C08K3/34
C08K3/04
C09D167/00
C09D5/00 D
B32B7/027
B32B3/30
B32B15/09 Z
B32B15/08 H
B32B15/18
B05D7/14 P
B05D1/36 Z
B05D3/02 Z
B05D7/24 302V
B05D7/24 301U
B05D7/24 303Z
B05D5/06 104B
B05D5/00 K
B05D5/00 Z
(21)【出願番号】P 2023515739
(86)(22)【出願日】2021-09-24
(86)【国際出願番号】 KR2021013054
(87)【国際公開番号】W WO2022065922
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-09
(31)【優先権主張番号】10-2020-0125987
(32)【優先日】2020-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ジョ、 デュ-ファン
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ヤン-ジュン
(72)【発明者】
【氏名】ウン、 ヒ-ジャ
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-108049(JP,A)
【文献】特開2013-067159(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03444303(EP,A2)
【文献】特表2010-514886(JP,A)
【文献】特開平10-230566(JP,A)
【文献】特開平09-111183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/00
B32B 1/00-43/00
B05D 1/00-7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体100重量部に対して、
(a)変性ポリエステル樹脂からなる主剤樹脂20~60重量部、
(b)硬化剤3~20重量部、
(c)顔料:防錆顔料1~20重量部、及び熱伝導性顔料1~20重量部、
(d)触媒剤:酸触媒0.05~3.0重量部、及びアミン系触媒0.05~5.0重量部、
(e)
不溶性ワックス0.05~5.0重量部、及び
(f)残部溶媒を含み、
乾燥塗膜の表面に皺模様又は凹凸構造を形成する、耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項2】
前記変性ポリエステル樹脂は、平均分子量(Mw)が5000~50000である、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項3】
前記変性ポリエステル樹脂は、20~60の水酸(OH)基を有し、1~20mgKOH/gの酸価を有する、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項4】
前記硬化剤は、
ヘキサ(N-ブトキシ)メチルメラミン、ヘキサ(Iso-ブトキシ)メチルメラミン、ヘキサ(N-プロピル)メチルメラミン、ヘキサ(Iso-プロピル)メチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサメトキシメチルメラミンのうち選択された1種以上のメラミン系硬化剤である、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項5】
前記防錆顔料はシリケート化合物であって、リチウムポリシリケート、ナトリウムポリシリケート、カリウムポリシリケート及びコロイダルシリカのうちの1種以上であり、
前記熱伝導性顔料は黒色の有機-無機顔料であって、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト(graphite)及びグラフェン(graphene)のうち1種以上である、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項6】
前記酸触媒は有機鎖でブロック(block)化されたスルホン酸であって、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンジスルホン酸、ジノニルトルエンジスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸又はこれらの混合物である、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項7】
前記ブロック(block)化は、エポキシ樹脂系又はアミン系化合物を用いるものである、請求項6に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項8】
前記アミン系触媒は、第一級アミン(NH
2-R
1)、第二級アミン(NH-R
1、-R
2)、第三級アミン(N-R
1、-R
2、-R
3)に区分され、置換された炭化水素(R
1、R
2、R
3)は脂肪族又は芳香族鎖である、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項9】
前記アミン系触媒は、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-第二級-ブチルアミン、ジアリルアミン、ジアミルアミン、N-エチル-1,2-ジメチルプロピルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ピペリジン、2-ピペコリンピペコリン、3-ピぺコリンピペコリン、4-ピぺコリンピペコリン、モルホリン又はこれらの混合物である、請求項8に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項10】
前記
不溶性ワックス
は、
ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリスチレン、ポリスチレン-アクリロニトリル、アクリル高分子及びポリテトラフロロエチレンワックスのうち一つ以上である、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項11】
顔料凝集防止剤、消泡剤及びレベリング剤のうち1種以上をさらに含む、請求項1に記載の耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物。
【請求項12】
めっき鋼板;
前記めっき鋼板の第1面には放熱塗膜層;及び
前記めっき鋼板の第2面には耐候塗膜層を含み、
前記放熱塗膜層は、請求項1に記載の組成物により形成され、表面に皺模様又は凹凸構造が形成され、前記耐候塗膜層は、請求項1に記載の組成物において前記アミン系触媒及び前記
不溶性ワックスを含まない組成物により形成されるものである、複合樹脂コーティング鋼板。
【請求項13】
前記第2面の耐候塗膜層は、太陽光モジュールと接合する面である、請求項12に記載の複合樹脂コーティング鋼板。
【請求項14】
前記放熱塗膜層及び前記耐候塗膜層の乾燥塗膜の厚さはそれぞれ3~40μmである、請求項12に記載の複合樹脂コーティング鋼板。
【請求項15】
前記めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板であり、
前記亜鉛めっき鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、合金化アルミニウムめっき鋼板(Al-Zn、Al-Zn-Si)、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板(Zn-Al-Mg)のうちいずれか一つである、請求項12に記載の複合樹脂コーティング鋼板。
【請求項16】
a)めっき鋼板を準備する段階;
b)前記めっき鋼板の第1面に請求項1に記載の組成物を塗布し、第2面に請求項1に記載の組成物において前記アミン系触媒及び前記
不溶性ワックスを含まない組成物を塗布する段階;及び
c)前記第1面及び前記第2面に塗布された組成物をPMT(Peak Metal Temperature)基準180~260℃で乾燥する段階を含み、
前記第2面は太陽光モジュールと接合する面である、複合樹脂コーティング鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記組成物を塗布する段階は、バーコーター、ロールコーター、スロットダイ(Slot-Die)コーター、及びカーテンコーターのうち一つの方法で行うものである、請求項16に記載の複合樹脂コーティング鋼板の製造方法。
【請求項18】
前記組成物を乾燥する段階は、熱風加熱方式、赤外線加熱方式、又は誘導加熱方式で行うものである、請求項16に記載の複合樹脂コーティング鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物、複合樹脂コーティング鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、化石燃料の過度な使用によるCO2の発生問題及び微細粉塵の発生などの環境問題を克服でき、環境にやさしいエネルギーとして、太陽光を利用した太陽光電池が脚光を浴びている。太陽光電池は、光電効果によって光エネルギーを電気エネルギーに変換する技術である。
【0003】
太陽光技術に最も多く使用される太陽光電池は、シリコン系太陽光電池であって、結晶型と非晶質型がある。最近は、薄膜型技術の発展に伴い、CIGS(CuInGaSe)太陽光電池技術が大きく発展している。
【0004】
特に、CIGS薄膜型太陽光電池を用いて建築物の屋根や壁体に適用するための太陽光一体型モジュール製造技術が大きく発展している。
【0005】
ところが、太陽光モジュール製造技術は、環境にやさしいエネルギー技術として大きな利点を有するのに対し、克服すべき2つの問題点を有している。
【0006】
第一に、構造的な問題である。結晶型シリコン太陽光モジュールは、上部の強化ガラス、封止材、太陽光電池、封止材、下部のバックシート(Backsheet)の順で構成されており、太陽光モジュールの重量が重いだけでなく、環境に対する安全性が不十分である。これにより、建築物に堅牢な構造物を更に設置し、その上にモジュールを設置することになるため、設置コストが高くなるという欠点がある。
【0007】
第二に、熱の問題である。太陽光電池は、半導体の性質を利用して電気を生産するため、日照量に大きく依存するだけでなく、夏季の気温が高くなると、発電効率が大幅に減少するという問題点がある。概して、モジュールの表面温度が45℃以上になると、発電効率が-0.45%/℃に急激に減少するが、大気の気温が最も高い夏季に太陽光モジュールの表面温度が約60~80℃の高い温度を維持する場合、太陽光の平均発電効率が20%の水準から12%の水準にまで低下することになる。
【0008】
このような問題点を補完するために、放熱シート、放熱フィンを取り付けたり、放熱ファンのような追加的な冷却装置を設置する方法が適用されてはいるものの、効率性やコスト的な面では好ましくない。
【0009】
さらに、太陽光モジュールを適用した屋根や壁体などの建築物は、屋外に露出して使用するため、20年以上の環境で安定して使用できるようにバックシートの耐候性が求められている実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】韓国登録特許公報第10-1487962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一側面は、耐候性及び熱放射特性に優れ、太陽光電池用として好適な素材を提供するにあたり、耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物と、これにより得られる複合樹脂コーティング鋼板及びその製造方法を提供しようとするものである。
【0012】
本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全体から理解することができ、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の付加的な課題を理解する上で何ら困難がない。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面は、全体100重量部に対して、(a)変性ポリエステル樹脂からなる主剤樹脂20~60重量部、(b)硬化剤3~20重量部、(c)顔料:防錆顔料1~20重量部、及び熱伝導性顔料1~20重量部、(d)触媒剤:酸触媒0.05~3.0重量部、及びアミン系触媒0.05~5.0重量部、(e)ワックス0.05~5.0重量部、及び(d)残部溶媒を含み、乾燥塗膜の表面に皺模様又は凹凸構造を形成する耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物を提供する。
【0014】
本発明の他の一側面は、めっき鋼板;上記めっき鋼板の第1面には放熱塗膜層;及び上記めっき鋼板の第2面には耐候塗膜層を含み、上記放熱塗膜層は、上述の組成物により形成されて表面に皺模様又は凹凸構造が形成され、上記耐候塗膜層は、上述の組成物から一部の触媒剤及びワックス成分が除外された組成物によって形成されるものである複合樹脂コーティング鋼板を提供する。
【0015】
本発明のさらに他の一側面は、a)めっき鋼板を準備する段階;b)上記めっき鋼板の第1面に上述の組成物を塗布し、第2面に上述の組成物から一部の触媒剤及びワックス成分が除外された組成物を塗布する段階;及びc)上記第1面及び第2面に塗布された組成物をPMT(Peak Metal Temperature)基準180~260℃で乾燥する段階を含み、上記第2面は、太陽光モジュールと接合する面である複合樹脂コーティング鋼板の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る複合樹脂組成物を用いて得られた複合樹脂コーティング鋼板は、耐候性及び熱放射特性に優れるため、太陽光電池用屋根材等に好適であり、これにより太陽光電池の発電効率を向上させる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施例に係る複合樹脂コーティング鋼板の側断面図を示す。
【
図2】本発明の一実施例に係る発明鋼10(a)と比較鋼1(b)の塗膜層(放熱塗膜層)を顕微鏡で観察した結果を示す。
【
図3】本発明の一実施例に係る発明鋼10と比較鋼1の塗膜層の表面粗さを測定した結果を示す。
【
図4】本発明の一実施例に係る放熱温度測定装置を示す。
【
図5】本発明の一実施例に係る発明鋼10、比較鋼1、対比鋼材の放熱特性を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の発明者らは、既存の太陽光一体型モジュール製造技術の問題点を解決するために鋭意研究を行った。特に、本発明者らは、太陽光モジュールが適用される屋根や壁体のような建築物に好適な素材を開発するにあたり、耐食性等に優れると知られているめっき鋼板を活用し、且つ耐候性及び熱放射特性に優れた組成物をコーティング処理することにより、上記素材に好適なコーティング鋼板を提供できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
まず、本発明の一側面に係る耐候性及び熱放射特性に優れた複合樹脂組成物について具体的に説明する。
【0021】
本発明に係る複合樹脂組成物は、主剤樹脂、硬化剤、顔料、触媒剤と残部溶媒で組成されることができ、ここに、ワックス成分をさらに含む組成物と、一部の触媒剤とワックス成分を排除した組成物で構成される特徴がある。本明細書において、上記ワックス成分をさらに含む複合樹脂組成物は組成物1、また別の複合樹脂組成物は組成物2と表すことができることを明らかにする。
【0022】
後述して具体的に説明するが、本発明の組成物1と組成物2は、組成物を塗布できる基材(substrate)面にそれぞれのコーティング層を形成することができ、そのコーティング層は表面形状が互いに区別される特徴を有することができる。言い換えれば、上記組成物1と組成物2は、上記基材の互いに異なる面にそれぞれ塗布されて乾燥塗膜を形成することができる。後述してより具体的に説明するが、本発明において、上記基材(substrate)は金属素材、例えば、めっき鋼板であってもよい。
【0023】
まず、上述した組成物について具体的に説明する。
【0024】
上記組成物1は、(a)変性ポリエステル樹脂からなる主剤樹脂、(b)硬化剤、(c)防錆顔料及び熱伝導性顔料で構成される顔料、(d)酸触媒及びアミン系触媒で構成される触媒剤、(e)ワックスを含むことができる。このような組成物1は、乾燥塗膜の表面に皺模様又は凹凸構造のような一定のパターンを形成することができる。
【0025】
以下、各成分の好ましい含量等について詳細に説明し、各成分の含量は全体100重量部を基準とすることを明らかにする。
【0026】
上記(a)変性ポリエステル樹脂からなる主剤樹脂は、全体100重量部に対して20~60重量部で含むことができる。
【0027】
ポリエステル樹脂は、塗膜(コーティング層)形成のための主要成分であり、本発明では、平均分子量(Mw)5,000~50,000の変性ポリエステル樹脂を用いることができる。上記分子量が5,000未満であると、塗膜の耐化学性及び加工性が不十分となる。一方、50,000を超えると、溶液の貯蔵安定性及び作業性に劣るという問題がある。より有利には、平均分子量が10,000~40,000であってもよい。
【0028】
このような変性ポリエステル樹脂は、水酸基(OH基、ヒドロキシル基)を有することができる。好ましくは、上記樹脂は20~60の水酸価(Hydroxyl Number)を有することができ、より有利には30~50の水酸価を有することができる。上記水酸価が20未満であると、塗膜の架橋結合性が低下する。一方、60を超えると、塗膜の耐化学性が低下するおそれがある。
【0029】
また、上記変性ポリエステル樹脂は、1~20mgKOH/gの酸価、好ましくは5~15mgKOH/gの酸価を有することができる。上記酸価が20mgKOH/gを超えると、塗膜の耐化学性が低下する。一方、1mgKOH/g未満であると、塗膜の架橋結合性が低下するという問題がある。
【0030】
本発明で提供する組成物内に、上述した変性ポリエステル樹脂の含量が20重量部未満であるか、又は60重量部を超えると、塗膜硬化時に乾燥性が低くなるか、架橋結合性又は耐化学性が低下するおそれがある。
【0031】
本発明において、上記変性ポリエステル樹脂は、硬化時に塗膜の表面上に微細なパターン、例えば、皺模様又は凹凸構造を形成するバインダー樹脂であって、加工性及び耐候性に優れた特性を有する。
【0032】
上記(b)硬化剤は、全体100重量部に対して3~20重量部で含むことができ、より有利には5~15重量部で含むことができる。
【0033】
上記硬化剤は、塗膜の物性の観点から、緻密な硬化皮膜を形成するために添加することができ、上記硬化剤はアミン系硬化剤であることが好ましい。
【0034】
より好ましくは、上記アミン系硬化剤はメラミン系硬化剤であってもよい。これに限定されるものではないが、上記メラミン系硬化剤は、ヘキサ(N-ブトキシ)メチルメラミン、ヘキサ(Iso-ブトキシ)メチルメラミン、ヘキサ(N-プロピル)メチルメラミン、ヘキサ(Iso-プロピル)メチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン及びヘキサメトキシメチルメラミンのうちから選択された1種以上であってもよい。すなわち、上記メラミン系硬化剤は、化合物単独でそれぞれ使用されてもよく、2種以上を混合した混合物で使用されてもよい。
【0035】
本発明で提供する組成物内において、上記アミン系硬化剤の含量が3重量部未満であるか、又は20重量部を超えると、緻密な硬化皮膜の形成に不利であり得る。
【0036】
本発明で提供する組成物により塗膜(コーティング層)を形成するにあたり、上記塗膜の耐腐食性等の向上のために、上記組成物内に顔料を含むことができる。
【0037】
本発明において、上記(c)顔料は防錆顔料と熱伝導性顔料とを混合して含むことができ、上記全体100重量部に対してそれぞれの顔料を1~20重量部で含むことができ、より有利には5~15重量部で含むことができる。
【0038】
上記防錆顔料はシリケート化合物であることが好ましく、一つの例として、リチウムポリシリケート、ナトリウムポリシリケート、カリウムポリシリケート、及びコロイダルシリカのうち1種以上であってもよい。但し、これらに限定されるものではない。
【0039】
上記熱伝導性顔料は、塗膜形成時に黒色を具現可能な成分であることが好ましく、本発明では有機-無機熱伝導性顔料であることが好ましい。一つの例として、上記有機-無機熱伝導性顔料は、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト(graphite)及びグラフェン(graphene)のうち1種以上であってもよいが、これに限定されるものではない。
【0040】
本発明で提供する組成物内の防錆顔料の含量が1重量部未満であると、耐腐食性効果が不十分であり、20重量部を超えると、耐腐食性は向上するものの、塗膜の粗さが大きくなり、加工性が悪くなる。上記組成物内の熱伝導性顔料の含量が1重量部未満であると、塗膜形成による素材の隠蔽率と熱放射特性が低くなることがある。一方、その含量が20重量部を超えると、塗布された溶液の粘度が高くなって作業性が低下し、美麗な表面外観を得ることが困難になる。
【0041】
なお、上記熱伝導性顔料としてカーボンブラックを使用する場合、分散性の観点から考慮すると、平均粒径が10~100nmであることが好ましく、より有利には10~30nmであることが好ましい。
【0042】
上記熱伝導性顔料としてグラファイト(graphite)を用いる場合には、その平均粒径が3~30μm、より有利には5~20μmであることが好ましい。上記グラファイトは、粒状、板状、塊状、フレーク(flake)状など、様々な形状を有することができ、これらのうち如何なる形状を有していても適用には問題がない。但し、製造される塗膜の熱伝導性を良好に付与するためには、フレーク(flake)状であることが好ましい。
【0043】
一方、本発明で提供する組成物により塗膜の表面に一定のパターンが形成された場合、そのパターンの内部に顔料粒子が連続的に配列されるほど、塗膜の硬度を増加させ、質感が向上した意匠性を付与する効果がある。このためには、上記顔料粒子の平均粒径が上記組成物の乾燥塗膜の厚さを基準に20±5μmの範囲を満たすことが好ましい。
【0044】
本発明で提供する組成物の主成分であるバインダー樹脂と硬化剤の硬化反応を促進して塗膜の硬度を向上させるために、硬化反応の促進剤として触媒剤を含むことができる。
【0045】
本発明において、上記(d)触媒剤は、酸触媒とアミン系触媒とを混合して含むことができ、上記全体100重量部に対して、それぞれ0.05~3.0重量部、0.05~5.0重量部で含むことができる。
【0046】
上記酸触媒は、熱によって解離できる有機鎖でブロック(block)化された物質であってもよく、好ましくは、スルホン酸を使用してもよいが、これに限定されるものではないことを明らかにする。
【0047】
上記スルホン酸の例としては、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンジスルホン酸、ジノニルトルエンジスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸又はこれらの混合物であってもよく、上記混合物の場合、2つ以上の化合物が混合されたものであってもよい。また、上記ブロック化のための物質としてエポキシ樹脂系又はアミン系化合物を使用することができる。一つの例として、エポキシ樹脂で遮蔽されたジノニルスルホン酸(米国キング(king)社の解離温度160℃以上、活性度30%の物質)を使用することができる。
【0048】
上記アミン系触媒は、第一級アミン(NH2-R1)、第二級アミン(NH-R1、-R2)、第三級アミン(N-R1、-R2、-R3)に区分することができ、このとき、置換された炭化水素(R1、R2、R3)は脂肪族又は芳香族鎖であり得る。上記アミン系触媒は、これに限定されるものではないが、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジ-n-ブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-第二級-ブチルアミン、ジアリルアミン、ジアミルアミン、N-エチル-1,2-ジメチルプロピルアミン、N-メチルヘキシルアミン、ジ-n-オクチルアミン、ピペリジン、2-ピペコリン、3-ピペコリン、4-ピペコリン、モルホリン又はこれらの混合物であってもよい。
【0049】
一方、本発明で提供する組成物により塗膜の表面に一定のパターンを形成することができ、このとき、アミン系触媒が主な役割を果たす。具体的に、組成物を塗布した後、高温での硬化反応時に、塗膜の内部と表面との硬化速度の差によって表面に所定のパターンが形成されることがあるが、これを有利に得るためには、上記アミン系触媒を上記酸触媒に比べて揮発性の高い物質に選定して使用することが好ましい。
【0050】
本発明で提供する組成物内の酸触媒の含量が0.05重量部未満であるか、又はアミン系触媒の含量が0.05重量部未満であると、塗膜の硬化温度が過度に高くなり、塗膜の物性を維持できなくなる。一方、上記酸触媒の3.0重量部を超えるか、又はアミン系触媒の含量が5.0重量部を超えると、硬化が急激に起こるか、又は溶液の経時安定性が悪くなる。
【0051】
一般に、塗料にワックス(wax)を含む場合、これは塗膜の摩擦特性を改善することを目的として使用するが、本発明では、溶液塗布後の塗膜の硬化時に、一定のパターンを形成するための目的で使用することに意義がある。
【0052】
本発明において、上記(e)ワックスは、上記全体100重量部に対して0.05~5.0重量部で含むことができ、より有利には0.1~3.0重量部で含むことができる。
【0053】
具体的に、本発明は、組成物の塗布及び硬化後に得られる乾燥塗膜の表面に皺模様又は凹凸構造のようなパターンを形成するために、有機溶剤に溶けにくい不溶性ワックスを使用することが好ましい。不溶性ワックスは、常温及び低温では固体状態で存在し、塗料内に均一に分布した状態であるが、高温硬化によりワックスが溶けながら塗膜の表面にワックス成分の有無に応じて局所的な表面張力の差が生じ、ワックス分子において皺などのようなパターンが形成される開始点となり得る。
【0054】
上記不溶性ワックスは、これに限定されるものではないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリスチレン、ポリスチレン-アクリロニトリル、アクリル高分子及びポリテトラフロロエチレンワックスのうち一つ以上であってもよい。
【0055】
本発明で提供する組成物内のワックスの含量が0.05重量部未満であると、皺又は凹凸等が広く形成され、一定のパターンで形成することが難しい。一方、その含量が5.0重量部を超えると、皺又は凹凸等の模様が過度に狭くなり、均質な質感が得られなくなる。
【0056】
本発明で提供される組成物において、作業の便宜性及び粘度の調節のために、上記配合される成分以外の残部として溶媒を含むことができる。上記溶媒としては、トルエン、キシレン、イソプロパノール、ソルベントナフサ、セロソルブ、セロソルブアセテート(cellosolve acetate)、ブチルセロソルブなどが使用されてもよく、これらの溶媒単独又は2種以上の混合物で使用されてもよい。
【0057】
上記溶媒の含量に応じて組成物の粘度が調節され、溶媒の量は特に限定されず、この技術分野において通常使用される技術に従ってその含量を調節することができる。溶媒の含量は、組成物のコーティング量(塗布量)の調節及び付着性等を考慮して調節することができ、例えば、DINカップ(DIN、53211)から排出されるのに20~200秒を要する程度の粘度となる量に調節することが生産性の観点から有利である。
【0058】
前述したように、本発明は、上述した成分を全て含有する複合樹脂組成物(組成物1)と、上記成分から一部の触媒剤及びワックス成分を排除した複合樹脂組成物(組成物2)とを提供する。
【0059】
具体的に、上記組成物2は、(a)変性ポリエステル樹脂からなる主剤樹脂、(b)硬化剤、(c)防錆顔料及び熱伝導性顔料で構成される顔料、(d)酸触媒で構成される触媒剤を含むことができる。
【0060】
このような組成物2は、組成物の塗布及び硬化後に得られる乾燥塗膜の表面形状に影響を及ぼすアミン系触媒剤及びワックス成分を排除するため、上記組成物2によって形成される乾燥塗膜は、一定のパターンが形成されていない、すなわち、平坦な表面形状を有することができる。
【0061】
上記各成分は前述した通りであるため、具体的な説明は省略する。また、各成分の含量も前述した通りであり、組成物1に比べて排除された成分の含量は残部成分で代替可能であることを明らかにする。
【0062】
一方、上記組成物において、前述した成分以外の残部としては溶媒を含むことができ、上記溶媒は前述した通りである。
【0063】
本発明で提供する複合樹脂組成物、すなわち、組成物1と組成物2のそれぞれを特定の基材(substrate)に塗布して乾燥塗膜を形成する際に、その基材の物性をさらに改善するための目的で、必要に応じて添加剤をさらに 含むことができる。
【0064】
具体的に、上記組成物1及び組成物2に関係なく、如何なる組成物であっても、顔料凝集防止剤、消泡剤及びレベリング剤のうち1種以上をさらに配合することができる。
【0065】
これらの任意の添加剤は、本発明の技術分野において一般に知られている成分であって、これらの配合比等は特に限定されず、この技術分野における通常の技術者であれば、これらの添加剤を必要に応じて適宜配合して使用することができる。
【0066】
本発明の他の一側面に係る上述の複合樹脂組成物を塗布して、一定の塗膜層(コーティング層)を形成した複合樹脂コーティング鋼板について詳細に説明する。
【0067】
本発明に係る複合樹脂コーティング鋼板は、上述したそれぞれの複合樹脂組成物を互いに異なる面に塗布可能な基材(substrate)としてめっき鋼板を適用することができる。
【0068】
すなわち、上記めっき鋼板の両面にそれぞれの複合樹脂組成物を塗布することができ、これにより、一面(第1面)には放熱塗膜層、他面(第2面)には耐候塗膜層を含むことができる。
【0069】
本発明において、上記めっき鋼板の第1面に形成される放熱塗膜層は、上述した複合樹脂組成物のうち、ワックス成分を含む組成物1から形成されることができ、上記第2面に形成される耐候塗膜層は、上記ワックス成分と一部の触媒成分を排除した組成物2から形成されることができる。
【0070】
本発明で提供する複合樹脂コーティング鋼板は、太陽光電池の屋根又は壁体のような構造物に適用することができる。特に、本発明では、上記第2面の耐候塗膜層が太陽光モジュール(Solar Module)と接合することができる。
【0071】
したがって、上記めっき鋼板において、第1面は下面に該当し、上記第2面は上面に該当し、上記第2面の場合は自然に外部環境に露出することができる。
【0072】
前述したように、本発明は、上記めっき鋼板の第1面に放熱塗膜層、第2面に耐候塗膜層を形成することにより、太陽光電池の熱を効果的に放射して表面の温度を下げる効果を得ることができる。また、太陽光モジュールが直接に取り付けられる面の場合、耐候性に優れ、長期間にわたって外部環境で使用できるという利点を有する。
【0073】
上記放熱塗膜層及び耐候塗膜層は、乾燥塗膜の厚さを基準にそれぞれ3~40μmであってもよく、より有利には5~30μmの厚さを有することが好ましい。
【0074】
各塗膜層の厚さが3μm未満であると、複合樹脂組成物により形成された塗膜の色、隠蔽力、加工性及び耐溶剤性が低調である。一方、その厚さが40μmを超えると、製造コストが上昇し、作業性が低下するという問題がある。
【0075】
なお、上記めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板であってもよい。上記亜鉛めっき鋼板の例として、これに限定されるものではないが、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)、合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、合金化アルミニウムめっき鋼板(Al-Zn、Al-Zn-Si)、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板(Zn-Al-Mg)のうちいずれか一つであってもよい。
【0076】
より具体的な例として、上記合金化アルミニウムめっき鋼板は、Al-55%Zn、Al-8%Zn-0.3%Siで組成されためっき層を有するものであってもよく、上記合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、三元系(Zn-xAl- yMg)めっき鋼板であって、Zn-(1.0~3.0%)Al-(1.0~5.0%)Mgで組成されためっき層を有するものであってもよい。但し、これに限定されるものではない。
【0077】
本発明のさらに他の一側面として、上述した複合樹脂コーティング鋼板を製造する方法について詳細に説明する。
【0078】
本発明の複合樹脂コーティング鋼板を製造するために、まずめっき鋼板を準備することができる。
【0079】
上記めっき鋼板は亜鉛めっき鋼板であってもよく、その種類については前述した通りであるため、ここでは省略する。
【0080】
上記に従って準備されためっき鋼板の両面に複合樹脂組成物を塗布することができ、このとき、上記めっき鋼板の第1面に該当する下面には、ワックス成分を含む組成物1を塗布する一方、上記めっき鋼板の第2面、すなわち、上面には、ワックス成分と一部の触媒剤を排除した組成物2を塗布することが好ましい。ここで、上記めっき鋼板の第2面は、本発明で適用しようとする実質的な物体、すなわち、太陽光モジュールと接合する面であることを明らかにする。
【0081】
上記それぞれの複合樹脂組成物を塗布するにあたり、組成物の塗布方法として周知の如何なる方法を適用しても構わない。但し、その例として、バーコーター、ロールコーター、スロットダイ(Slot-Die)コーター及びカーテンコーターのうち一つの方法を適用することができる。
【0082】
上記により、本発明の複合樹脂組成物が各面に塗布されためっき鋼板を焼付乾燥することにより、最終の複合樹脂コーティング鋼板を製造することができる。
【0083】
このとき、乾燥温度は、上記めっき鋼板のPMT(Peak Metal Temperature)を基準に180~260℃の温度範囲で行うことができる。上記乾燥時に、焼付温度がPMT基準で180℃未満であると、組成物内の無機物と樹脂との反応が不十分となり塗膜層が堅固でない。一方、その温度が260℃を超えると、過硬化反応が起こり、むしろ塗膜の性能に劣るという問題がある。
【0084】
なお、上記塗布された組成物を乾燥するにあたり、この技術分野において一般に知られている如何なる方法で行ってもよい。但し、これに限定されるものではないが、例えば、熱風加熱方式、赤外線加熱方式又は誘導加熱方式で行うことができる。
【0085】
上記乾燥方法が熱風加熱方式の場合、上記塗布された組成物を雰囲気温度で200~340℃で10~50秒間熱風処理して乾燥することができる。また、その方法が誘導加熱方式の場合、周波数範囲5~50MHz、電力3~15KWで5~20秒間乾燥することができる。
【0086】
一方、本発明の複合樹脂コーティング鋼板は、基材(substrate)に該当するめっき鋼板の加工性及び耐食性等を考慮して、追加的にコーティング処理することができ、これに追加のコーティング塗膜を形成することができる。
【0087】
一つの例として、上記めっき鋼板の一面又は両面に、前処理層と下塗り塗膜層を順次形成することができ、このとき、前処理層を除いて下塗り塗膜層のみを形成しても構わない。
【0088】
このような前処理層及び/又は下塗り塗膜層の上に本発明の複合樹脂組成物が塗布されることで、本発明で意図する複合樹脂塗膜層(好ましくは、放熱塗膜層、耐候塗膜層)を形成することができる。このようなコーティング鋼板は、加工性がさらに向上した効果を有することができる。
【0089】
上記前処理層及び/又は下塗り塗膜層は、上記めっき鋼板と本発明において究極的に形成しようとする複合樹脂塗膜層との間に位置することができ、この場合、上記複合樹脂塗膜層は上塗り塗膜と称することができる。
【0090】
図1は、本発明で提供する複合樹脂組成物を用いて形成された複合樹脂コーティング鋼板の側断面図を示したものであり、上記組成物による塗膜層は黒色を有することができる。
【0091】
図1の(a)に示すように、両面に亜鉛系めっき層が形成されためっき鋼板の上面及び下面にさらに形成される前処理層及び/又は下塗り塗膜層は、鋼板と複合樹脂組成物による塗膜層との密着力を増大させ、鋼板の加工性、耐食性などの鋼板において要求される物性を付与することができる。上記前処理層及び下塗り塗膜層を形成するための組成物は特に限定されず、この技術分野において鋼板と複合樹脂塗膜層との間に適用できるものとして知られている如何なる塗膜であっても構わない。
【0092】
一方、
図1の(b)は、複合樹脂コーティング鋼板の一面を太陽光モジュールと接合した場合の側断面図を示すものである。ここで、上記太陽光モジュールと接合する面は、その表面が平坦な耐候塗膜層であり、その反対面は、皺模様又は凹凸構造のような一定のパターンを有する放熱塗膜層である。
【0093】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明する。しかし、このような実施例の記載は、本発明の実施を例示するためのものであり、このような実施例の記載によって本発明が限定されるものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項、及びこれにより合理的に類推される事項によって決定されるものである。
【実施例】
【0094】
(実施例)
複合樹脂組成物は、以下のように製造した。
【0095】
まず、主剤樹脂として、ウレタン変性ポリエステル樹脂(平均分子量:10000~30000、水酸価30、酸価10mgKOH/g)を全組成物100重量部に対して30~50重量部準備し、ここにメラミン硬化型(Hexamethoxymethyl Melamine、HMMM)樹脂5~10重量部とエポキシ樹脂でブロック化された酸触媒(Nacure 1419)0.5~2.0重量部、アミン系触媒(ジブチルアミン)0.5~3.0重量部、防錆顔料5~10重量部(球状シリカ、平均粒径20μm)と熱伝導性顔料(グラファイト、平均粒径20μm)それぞれ0.5~3.0重量部、ワックス(ポリプロピレン、平均粒径10μm)0.5~3.0重量部を添加した後、分散させた。このとき、各成分の配合は、下記表1に示すように行った。
【0096】
一方、太陽光モジュールと接合する塗膜層を形成するための、また別の複合樹脂組成物は、上述した成分からアミン系触媒とワックスを除外し、同様に配合し、上記除外した成分は溶媒でその含量を補充した。
【0097】
上記各組成物の溶媒としては、有機溶媒(ケトン(ketone)及びエステル(ester)系石油化学溶剤)を用いた。
【0098】
【表1】
(表1において各成分は重量部を基準とする。)
【0099】
上記に従って製造されたそれぞれの溶液を用いて塗膜層を形成した複合樹脂コーティング鋼板は、次のように製造した。
【0100】
まず、表2に示すそれぞれのめっき鋼板(片面めっき量60g/m2)を準備した後、上記めっき鋼板の両面に対して前処理層と下塗り塗膜層を順次に形成した。このとき、前処理溶液を乾燥塗膜の付着量100±50mg/m2となるようにロールコーティングし、100℃で熱風乾燥して前処理層を形成し、プライマー溶液を5±2μmの乾燥塗膜の厚さとなるようにロールコーティングしてからPMT=210℃で焼付乾燥した後、冷却して下塗り塗膜層を形成した。
【0101】
上記のように前処理層及び下塗り塗膜層を順次形成しためっき鋼板の上面と下面とを区分し、上面には耐候塗膜層を形成できる組成物、すなわち、アミン系触媒及びワックス成分を排除した組成物溶液を塗布し、下面には放熱塗膜層を形成できる組成物溶液を塗布した。このとき、それぞれの組成物溶液を10~25μmの乾燥塗膜の厚さとなるようにロールコーティング方法で行い、その後、PMT=232℃で硬化及び乾燥してから冷却し、めっき鋼板の両面に塗膜層が形成された複合樹脂コーティング鋼板を製造した。
【0102】
上記のようにして製造されたそれぞれの複合樹脂コーティング鋼板について品質評価を行い、その結果を表2及び表3に示した。
【0103】
まず、上述した組成物溶液を用いて形成した塗膜層の厚さを非破壊式ポータブル(portable)塗膜厚ゲージで測定した。
【0104】
鉛筆硬度は、三菱社の鉛筆(HB~4H)を用いて、1000±10gの荷重で45°の角度で10cmの線を引いた後、スクラッチの発生の有無で評価した。
【0105】
耐食性の評価は、複合塩水噴霧法(Cyclic Corrosion Test、CCT)で評価した。このとき、相対湿度95%の条件で5時間の間塩水噴霧(濃度5%、35℃で1kg/cm2の噴霧圧条件)を行った後、相対湿度30%、温度70℃で2時間乾燥した後、さらに相対湿度95%、温度50℃で3時間処理する工程を1サイクル(cycle)に設定し、100サイクル(cycle)繰り返し実施した後、コーティング鋼板の表面に発生した赤錆(Red Rust)の発生面積で評価した。
【0106】
評価基準は、腐食面積0%:◎、腐食面積5%以下:○、腐食面積5%超~30%:△、腐食面積30%超:×で表した。
【0107】
加工性の評価は、曲げ加工性であって、コーティング鋼板を万力に入れて1kgfの圧力で180°曲げた後、平面になるまで締め付けるOT-ベンディング(bending)で行った。その後、ベンディングされた塗膜の表面にスコッチテープを貼り付けた後、塗膜を剥離させたときにテープが剥離した面におけるクラックの発生及び塗膜の剥離の有無で評価した。
【0108】
評価基準は、塗膜クラック及び剥離無し:◎、塗膜内の微細クラックの発生及び剥離無し:○、クラックの発生が激しく、剥離無し:△、クラックの発生が激しく、塗膜が剥離する:×で表した。
【0109】
表面粗さは、3次元粗さ計(Leica社、DCM8)を用いて測定した。評価基準は、測定された粗さ値に応じて10μm以上:◎、7μm以上~10μm未満:○、5μm以上~7μm未満:△、5μm未満:×と評価することができる。
【0110】
耐酸性は、5%塩酸溶液を塗膜に塗布した後、表面を覆って周辺をワセリンで遮蔽した後、これを25℃で24時間放置させてから塗膜の状態を評価した。
【0111】
評価基準は、痕跡が全くない状態を5、全面剥離した状態を1とし、剥離の程度に応じて1、2、3、4、5と評価した。
【0112】
耐アルカリ性は、5%水酸化ナトリウム溶液を塗膜に塗布した後、表面を覆って周辺をワセリンで遮蔽した後、これを25℃で24時間放置させてから塗膜の状態を評価した。
【0113】
評価基準は、痕跡が全くない状態を5、全面剥離した状態を1とし、剥離程度に応じて1、2、3、4、5と評価した。
【0114】
耐候性は、米国Q-PANEL社のQ.U.V-se機器を用いて測定し、UV波長をAタイプ(340nm)に調整して測定した値をQ.U.V-A、Bタイプ(313nm)に調整して測定した値をQ.U.V-Bで表した。このとき、Aタイプの場合、1サイクル(cycle)基準8時間60℃でUV照射し、4時間の間50℃で1000時間の間維持した後、塗膜の初期光沢と比較してその維持率を評価した。Bタイプの場合には、同一条件でUV照射した後、維持時の温度を40℃に設定して実施した。
【0115】
評価基準は、初期光沢度に対して光沢度が90%以上に維持:◎、85%以上~90%未満に維持:○、80%以上~85%未満に維持:△、80%未満に維持:×で表した。
【0116】
熱拡散度及び熱伝導度は、レーザーフラッシュ法(NETZSCH社のLFA 457)でKS L 1604:2017試験方法に従って測定した。
【0117】
熱放射率は、FT-IR分光機器(DIMAC M4500)を用いてKS L 2514:2011試験方法に従って測定した。
【0118】
放熱性の評価は、
図4に示すように、太陽光モジュールを模擬した試験装置を作製して測定した。試験装置は、厚さ26mm、サイズ340×265×195mmのスチロフォーム(a)(断熱材)で作製し、内部にはアルミニウム箔(b)で被覆処理した。また、試験装置の底部の中央部に赤外線ランプ(c)を設置し、赤外線ランプと試験装置の上端との間の中央部分に温度測定計(d)が位置するように設置した。
【0119】
測定しようとするコーティング鋼板の開口した試験装置の上部に位置させ、ボックスの内部温度(A)と、鋼板の両面(B、C)に熱電対(Thermocouple)を取り付けた後、表面温度の変化を測定した。このとき、コーティング鋼板の試料(e)は、横150cm×縦150cmのサイズに切断して準備し、これを測定装置の赤外線ランプで50mm(α)となるように開口した上面に付着させて封止した。放熱温度は、測定して60分が経過した後にコーティング処理していない状態で太陽光モジュールが模擬された合金めっき鋼板に対するコーティング鋼板の温度差(放熱温度(ΔT)=(測定試験片(コーティング鋼板)の温度)-(未コーティングの合金めっき鋼板の温度))で計算して示した。
【0120】
ここで、コーティング鋼板と対比するための合金めっき鋼板は、表2及び3の「対比鋼材」に該当し、Zn-1.5%Al-1.5%Mgのめっき鋼板であって、めっき層上に前処理のみを施したものであり、下塗り塗膜層及び複合樹脂コーティング層を形成していない合金化溶融めっき鋼板である。
【0121】
【表2】
(表2の物性結果は、放熱塗膜層について測定した結果を示したものである。)
【0122】
【表3】
(表3において、耐候性は放熱塗膜層に対する測定結果であり、耐熱特性は、放熱塗膜層及び耐候塗膜層が形成された素材自体に対する測定結果を示したものである。)
【0123】
表1~3に示すように、本発明で提供する複合樹脂組成物を用いて、めっき鋼板の一面には放熱塗膜層、他面には耐候塗膜層を形成した複合樹脂コーティング鋼板(発明鋼1~28)は耐候性だけでなく、熱放射特性に優れていることが確認できる。
【0124】
特に、本発明の複合樹脂コーティング鋼板は、耐候塗膜層が形成された面を太陽光モジュールと接合する一方、その反対面には放熱塗膜層を形成することにより、モジュール表面の熱を効果的に放射して表面温度を下げることができるとともに耐候性に優れるため、建物一体型の屋根材又は壁体として好適に適用可能であるという効果がある。
【0125】
一方、本発明で提案する成分配合から外れた組成物を用いて製造したコーティング鋼板(比較鋼1~4)は、熱放射率に劣り、放熱温度が発明鋼に比べて著しく低い結果を示した。
【0126】
図2は、発明鋼10と比較鋼1の塗膜層、特に放熱塗膜層の表面と断面を顕微鏡(光学顕微鏡、電子走査顕微鏡(SEM))で測定した写真である。
【0127】
図2に示すように、発明鋼10の場合、放熱塗膜層の表面に皺模様のパターンが一定に形成されたことが確認できるのに対し、比較鋼1の場合は、そのようなパターンが観察されないことが確認できる。
【0128】
上記各塗膜層の断面を観察した写真において、「左側の矢印」はプライマーコーティング層を指し、「中央及び右側の矢印」は放熱コーティング層(放熱塗膜層)を指すものである。
【0129】
図3は、発明鋼10と比較鋼1の表面粗さを測定したグラフである。
図3に示すように、発明鋼10に比べて比較鋼1の表面粗さが非常に低いことが確認できる。
【0130】
図5は、放熱性の評価時に、測定時間による温度変化をグラフ化して示したものである。このとき、無処理試験片(前処理又は下塗り塗膜まで全く処理しなかった純水めっき鋼板)に該当する基準材とともに、発明鋼10、比較鋼1及び対比鋼材を比較した。
【0131】
図5に示すように、本発明に係る組成物による塗膜層が全く形成されていない対比鋼材は、時間が持続しても放熱効果が非常に僅かであることが確認できる。比較鋼1の場合は、放熱効果を確認することはできるものの、その効果が本発明に該当する発明例10の程度には及ばないことが分かる。