(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】数値制御装置および数値制御方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/4093 20060101AFI20241227BHJP
【FI】
G05B19/4093 J
(21)【出願番号】P 2023518588
(86)(22)【出願日】2021-05-07
(86)【国際出願番号】 JP2021017515
(87)【国際公開番号】W WO2022234658
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】魚住 誠二
(72)【発明者】
【氏名】鷲見 信行
(72)【発明者】
【氏名】萱島 駿
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-006269(JP,A)
【文献】特開2002-115004(JP,A)
【文献】特開2006-124733(JP,A)
【文献】特開2017-194942(JP,A)
【文献】特開2008-307895(JP,A)
【文献】特開2016-098411(JP,A)
【文献】特開2018-176582(JP,A)
【文献】特開2021-064128(JP,A)
【文献】特開2005-335203(JP,A)
【文献】特開2008-291315(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0161105(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0061170(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/4062-19/4093
B22F 3/105- 3/11
B25J 13/08
B29C 45/18-67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の加工ヘッドからビームを照射することによって溶融させた材料を積層することで造形物を製造する付加製造工程を実行する付加製造装置を制御する付加製造実行部と、
第2の加工ヘッドに配置された工具を用いて前記造形物を切削する除去製造工程を実行する除去製造装置を制御する除去製造実行部と、
前記付加製造工程と前記除去製造工程との2つの生産工程が組み合わされて製造される前記造形物の
製造中の加工状態を監視して得られるセンサデータを受け付けるとともに、前記センサデータに基づいて、前記造形物の加工状態を解析する状態解析部と、
前記加工状態の解析結果に基づいて、2つの前記生産工程のうちの何れを実行させるかの切替えを指示する切替指令を生成し、前記切替指令を前記付加製造実行部および前記除去製造実行部に出力する生産工程変更部と、
2つの前記生産工程が切替えられる際には、2つの前記生産工程のうちの切替え前の生産工程である
前記付加製造工程において使用された第1の工程条件に基づいて、2つの前記生産工程のうちの切替え後の生産工程である
前記除去製造工程において使用される第2の工程条件を決定する工程条件生成部と、
を備え、
前記
除去製造工程で用いられる加工経路での移動方向と、
前記造形物の製造中に前記
付加製造工程で用いられ
た加工経路での移動方向とは、逆方向である、
ことを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
前記
除去製造工程で用いられる加工経路は、前記
付加製造工程で用いられ
た加工経路を3次元空間上でオフセットした経路であるオフセット部分を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【請求項3】
前記工程条件生成部は、
前記オフセット部分として、前記
付加製造工程における前記造形物の高さまたは幅の所望値からのずれ量を除去できるオフセット量を設定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の数値制御装置。
【請求項4】
前記第2の工程条件は、前記第2の加工ヘッドの走査速度および主軸回転数を含み、
前記工程条件生成部は、前記
除去製造工程において除去される前記造形物の体積に基づいて、前記第2の加工ヘッドの前記走査速度および前記主軸回転数を決定する、
ことを特徴とする請求項1から3の何れか1つに記載の数値制御装置。
【請求項5】
前記状態解析部は、
前記センサデータに基づいて前記造形物の溶着状態または形状状態を推定し、
前記生産工程変更部は、
前記状態解析部が推定した結果に基づいて前記
付加製造工程を継続するか切替指令出力するかの判定を行う、
ことを特徴とする請求項1から
4の何れか1つに記載の数値制御装置。
【請求項6】
前記センサデータには、前記造形物の特定層における高さ、幅、および温度の少なくとも1つのデータを含んでいる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項7】
前記センサデータには、前記除去製造装置
が有する前記第2の加工ヘッドの走査軸にかかる負荷トルクが含まれている、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の数値制御装置。
【請求項8】
数値制御装置が、第1の加工ヘッドからビームを照射することによって溶融させた材料を積層することで造形物を製造する付加製造工程を実行する付加製造装置を制御する付加製造実行ステップと、
数値制御装置が、第2の加工ヘッドに配置された工具を用いて前記造形物を切削する除去製造工程を実行する除去製造装置を制御する除去製造実行ステップと、
数値制御装置が、前記付加製造工程と前記除去製造工程との2つの生産工程が組み合わされて製造される前記造形物の
製造中の加工状態を監視して得られるセンサデータを受け付けるとともに、前記センサデータに基づいて、前記造形物の加工状態を解析する状態解析ステップと、
数値制御装置が、前記加工状態の解析結果に基づいて、2つの前記生産工程のうちの何れを実行するかの切替えを行う生産工程変更ステップと、
数値制御装置が、2つの前記生産工程を切替える際には、2つの前記生産工程のうちの切替え前の生産工程である
前記付加製造工程において使用された第1の工程条件に基づいて、2つの前記生産工程のうちの切替え後の生産工程である
前記除去製造工程において使用される第2の工程条件を決定する工程条件生成ステップと、
を含み、
前記
除去製造工程で用いられる加工経路での移動方向と、
前記造形物の製造中に前記
付加製造工程で用いられ
た加工経路での移動方向とは、逆方向である、
ことを特徴とする数値制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、付加製造装置および除去製造装置を制御する数値制御装置および数値制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
指向性エネルギ堆積(Direct Energy Deposition:DED)方式によって立体形状の造形物を製造する付加製造装置が知られている。付加製造装置の1つに、加工ヘッドから出射されるビームによって局所的に材料を溶融させ、溶融させた材料を被加工物へ付加する装置がある。付加製造装置は、中空構造、一体成型などの複雑な形状を造形可能な一方で、造形精度が低いので、切削製造装置によって所望しない箇所の除去処理が必要となる。切削製造装置は、加工ヘッドに取り付けられたドリル、フライスなどの様々な切削工具を使って被加工物を切り削ることで所望の形状を製造する装置である。切削製造装置は、付加製造と比較して高精度な造形物を造形可能である。
【0003】
数値制御装置によって付加製造装置および切削製造装置を制御する場合において、数値制御装置へ入力される加工プログラムは、一般に、コンピュータ支援製造(Computer Aided Manufacturing:CAM)装置によって作成される。数値制御装置は、加工プログラムの解析によって、加工ヘッドを移動させる移動経路を求め、移動経路上の単位時間ごとの補間点群である位置指令を生成する。数値制御装置は、位置指令にしたがって、付加製造装置および切削製造装置が有する動作機構を制御する。また、数値制御装置は、加工プログラムによって指定される工程条件に従った指令を生成する。
【0004】
数値制御装置は、付加製造装置に対しては、ビーム出力の条件に従った指令を生成することによって、ビーム源を制御する。また、数値制御装置は、付加製造装置に対しては、材料の供給量の条件に従った指令を生成することによって、金属粉末あるいは金属線条といった材料の供給源を制御する。付加製造の際には、材料および被加工物へのビームの照射によって被加工物の一部が溶融するとともに、被加工物上には溶融している材料が溜められた溶融池が形成される。溶融させた材料が溶融池へ供給されてから材料が凝固することによって、被加工物には、溶融させた材料の凝固物からなる層が形成される。
【0005】
また、数値制御装置は、切削製造装置に対しては、工具回転数の条件に従った指令を生成することによって、切削工具の刃先を制御する。切削製造装置は、切削工具の刃先によって被加工物を物理的に切り込んで、被加工物の一部を切り屑として削り出し排除することで切削加工面を形成する。
【0006】
特許文献1に記載の制御データの生成方法は、付加製造技術によって生成する予定の形状を工具で切削するための切削パスと、切削パスを時間的に遡る向きに再生するように、材料を供給するノズルのパスとを決定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、切削工程および付加製造工程の工程切替えのタイミングは、付加製造工程における金属材料の溶着状態および被加工部の蓄熱状態を考慮せず、ユーザのノウハウに基づいて予めCAMを用いて決定されている。このため、上記特許文献1の技術では、溶着状態または蓄熱状態によって造形物に歪みまたは崩れが発生した場合であっても、付加製造工程を中断できず造形物に歪みまたは崩れが発生したまま付加製造工程が継続される。したがって、上記特許文献1の技術では、所望の造形物を正確に製造することができないという問題点があった。
【0009】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、所望の造形物を正確に製造することができる数値制御装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示の数値制御装置は、第1の加工ヘッドからビームを照射することによって溶融させた材料を積層することで造形物を製造する付加製造工程を実行する付加製造装置を制御する付加製造実行部と、第2の加工ヘッドに配置された工具を用いて造形物を切削する除去製造工程を実行する除去製造装置を制御する除去製造実行部と、を備える。また、本開示の数値制御装置は、付加製造工程と除去製造工程との2つの生産工程が組み合わされて製造される造形物の製造中の加工状態を監視して得られるセンサデータを受け付けるとともに、センサデータに基づいて、造形物の加工状態を解析する状態解析部と、加工状態の解析結果に基づいて、2つの生産工程のうちの何れを実行させるかの切替えを指示する切替指令を生成し、切替指令を付加製造実行部および除去製造実行部に出力する生産工程変更部と、を備える。また、本開示の数値制御装置は、2つの生産工程が切替えられる際には、2つの生産工程のうちの切替え前の生産工程である付加製造工程において使用された第1の工程条件に基づいて、2つの生産工程のうちの切替え後の生産工程である除去製造工程において使用される第2の工程条件を決定する工程条件生成部を備える。除去製造工程で用いられる加工経路での移動方向と、造形物の製造中に付加製造工程で用いられた加工経路での移動方向とは、逆方向である。
【発明の効果】
【0011】
本開示にかかる数値制御装置は、所望の造形物を正確に製造することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1にかかるNC装置によって制御される付加製造装置および除去製造装置を示す図
【
図2】実施の形態1にかかるNC装置の機能構成を示す図
【
図3】実施の形態1にかかるNC装置による動作の手順を示すフローチャート
【
図4】
図1に示す付加製造装置の造形時における溶着状態について説明するための図
【
図5】実施の形態1にかかるNC装置が用いる加工プログラムの一例を示す図
【
図6】実施の形態1にかかるNC装置が
図5に示した加工プログラムを用いて付加製造装置に積層造形させた造形物の例を示す図
【
図7】実施の形態1にかかるNC装置が、付加製造工程中における特徴量として抽出した被加工部の温度データとビード幅の変化との関係を説明するための図
【
図8】実施の形態1にかかるNC装置が、付加製造工程中における特徴量として抽出した被加工部の溶融池データとビード高さの変化との関係を説明するための図
【
図9】実施の形態1にかかるNC装置が蓄熱の影響が生じた場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第1例を示す図
【
図10】実施の形態1にかかるNC装置が蓄熱の影響が生じた場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第2例を示す図
【
図11】実施の形態1にかかるNC装置が溶着量不足状態となった場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第1例を示す図
【
図12】実施の形態1にかかるNC装置が溶着量不足状態となった場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第2例を示す図
【
図13】実施の形態2にかかるNC装置の機能構成を示す図
【
図14】実施の形態2にかかるNC装置による動作の手順を示すフローチャート
【
図15】実施の形態2にかかるNC装置が除去製造装置に除去製造させた造形物の例を示す図
【
図16】実施の形態1,2に係るNC装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図
【
図17】実施の形態1,2に係るNC装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本開示の実施の形態にかかる数値制御装置および数値制御方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の説明では、数値制御装置をNC(Numerical Control)装置と称する。
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかるNC装置によって制御される付加製造装置および除去製造装置を示す図である。加工システム60は、3次元造形物である造形物15を作製するシステムである。加工システム60は、付加製造装置100と、除去製造装置102と、NC装置1と、自動搬送装置101とを備えている。
【0015】
付加製造装置100は、指向性エネルギ堆積方式によって立体形状の造形物15を製造する付加装置である。付加製造装置100は、加工ヘッド8から出射されるビームによって溶融させた材料5を被加工物16へ付加することによって造形物15を製造する工作機械である。付加製造装置100は、レーザ発振器2と、ガス供給装置6と、加工ヘッド8と、ヘッド駆動装置12と、材料供給装置4と、ステージ13とを有している。
【0016】
除去製造装置である除去製造装置102は、造形物15の一部を除去することで造形物15を所望の形状に成形する工作機械である。除去製造装置102の例は、切削製造装置である。除去製造装置102は、主軸駆動装置22と、加工ヘッド21と、ヘッド駆動装置20と、ステージ18とを有している。加工ヘッド8が第1の加工ヘッドであり、加工ヘッド21が第2の加工ヘッドである。
【0017】
実施の形態1において、付加製造装置100が用いるビームはレーザビームであり、材料5は金属線条などの金属材料である。付加製造装置100において使用される材料5は、金属線条に限られず、金属粉末であってもよい。
【0018】
付加製造装置100は、溶融させた材料5が凝固することにより形成される層を積み重ねることによって、ベース材14の表面に造形物15を形成する。ベース材14は、ステージ13に置かれる。以下の説明において、被加工物16とは、溶融させた材料5が付加される物体であり、ベース材14と造形物15とを指すものとする。
図1に示すベース材14は板材である。なお、ベース材14は、板材以外のものであってもよい。
【0019】
付加製造装置100の加工ヘッド8は、被加工物16に対して移動する。加工ヘッド8は、ビームノズル9と材料ノズル10とガスノズル11とを有する。ビームノズル9は、被加工物16へ向けてレーザビームを出射する。材料ノズル10は、被加工物16におけるレーザビームの照射位置へ向けて材料5を進行させる。ガスノズル11は、被加工物16へ向けてガスを噴射する。付加製造装置100は、ガスの噴射によって、造形物15の酸化を抑制するとともに、被加工物16に形成された層を冷却する。
【0020】
ビーム源であるレーザ発振器2は、レーザビームを発振する。レーザ発振器2からのレーザビームは、光伝送路であるファイバーケーブル3を通ってビームノズル9へ伝搬する。ガス供給装置6は、配管7を通じてガスノズル11へガスを供給する。
【0021】
材料供給装置4は、材料5の供給源である。材料供給装置4は、金属線条である材料5を送り出すための駆動部を有する。材料供給装置4から送り出された材料5は、材料ノズル10を介して、レーザビームの照射位置へ供給される。
【0022】
ヘッド駆動装置12は、加工ヘッド8の移動のための動作機構を構成するサーボモータを有している。ヘッド駆動装置12は、X軸方向、Y軸方向およびZ軸方向の各方向へ加工ヘッド8を移動させる。X軸、Y軸およびZ軸は、互いに垂直な3軸である。X軸およびY軸は、水平方向に平行な軸である。Z軸方向は、鉛直方向である。
図1では、ヘッド駆動装置12が有している各サーボモータの図示を省略している。付加製造装置100では、ヘッド駆動装置12が加工ヘッド8を移動させることによって、被加工物16におけるレーザビームの照射位置を移動させる。
【0023】
付加製造装置100は、被加工物16に対して加工ヘッド8を移動させることによって、被加工物16におけるレーザビームの照射位置を移動させる。なお、付加製造装置100は、加工ヘッド8に対して被加工物16を移動させることによって、被加工物16におけるレーザビームの照射位置を移動させてもよい。なお、以下の説明にて、レーザビームの照射位置を、単に「照射位置」と称することがある。
【0024】
NC装置1は、加工プログラムに従って付加製造装置100を制御する。NC装置1は、ヘッド駆動装置12へ位置指令を出力することによって、ヘッド駆動装置12が駆動する加工ヘッド8の位置を制御する。NC装置1は、ビーム出力の条件に応じた指令である出力指令をレーザ発振器2へ出力することによって、レーザ発振器2によるレーザ発振を制御する。
【0025】
NC装置1は、材料5の供給量(以下、金属供給量という場合がある)の条件に応じた指令である供給指令を材料供給装置4へ出力することによって、材料供給装置4を制御する。材料5が金属線条である場合、NC装置1が出力する供給指令は、材料5の供給速度の条件に応じた指令であってもよい。供給速度は、材料供給装置4から照射位置へ向かう材料5の速度である。供給速度は、単位時間当たりの材料5の供給量を表す。
【0026】
NC装置1は、ガスの供給量の条件に応じた指令をガス供給装置6へ出力することによって、ガス供給装置6からガスノズル11へ供給されるガスの量を制御する。なお、NC装置1は、付加製造装置100の構成要素の1つであっても良く、付加製造装置100の外部の装置であってもよい。
【0027】
自動搬送装置101は、造形物15を付加製造装置100のステージ13から取り外し、除去製造装置102のステージ18に設置する。また、自動搬送装置101は、造形物15を除去製造装置102のステージ18から取り外し、付加製造装置100のステージ13に設置する。
【0028】
自動搬送装置101は、ハンド駆動装置25とハンド機構17とを備えている。ハンド駆動装置25は、図示しない治具に、ベース材14を介して固定された造形物15を、ハンド機構17で把持してX軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の各方向へ移動させる動作機構を構成するサーボモータを有している。なお、
図1では、各サーボモータの図示を省略している。NC装置1は、自動搬送装置101に対して移動指令を出力することでハンド駆動装置25およびハンド機構17の位置を制御する。なお、NC装置1は、自動搬送装置101の構成要素の1つであってもよいし、自動搬送装置101の外部の装置であってもよい。
【0029】
除去製造装置102は、回転させた工具19を造形物15に押し当てて、造形物15の一部を削り取ることによって、造形物15を所望の形状に成形する。ヘッド駆動装置20は、加工ヘッド21を移動させる動作機構を構成するサーボモータを有している。ヘッド駆動装置20は、X軸方向、Y軸方向、およびZ軸方向の各方向へ加工ヘッド21を移動させる。
図1では、ヘッド駆動装置20が有する各サーボモータの図示を省略している。
【0030】
除去製造装置102は、ヘッド駆動装置20が加工ヘッド21を移動させることによって、被加工物16に対する工具19の先端位置を移動させる。主軸駆動装置22は、加工ヘッド21の内部に配置されてもよいし、加工ヘッド21の外部に配置されてもよい。主軸駆動装置22は、工具19を回転させる動作機構を構成するサーボモータを有している。
図1では、主軸駆動装置22が有する各サーボモータの図示を省略している。
【0031】
除去製造装置102は、主軸駆動装置22が工具19を回転させることによって、付加製造後の造形物15の不要な部分を削り取る。除去製造装置102は、被加工物16に対して加工ヘッド21を移動させることによって、工具19の先端位置を被加工物16に対して移動させる。なお、除去製造装置102は、加工ヘッド21に対して被加工物16を移動させることによって、被加工物16に対する工具19の先端位置を移動させてもよい。また、除去製造装置102は、工具19の代わりに被加工物16を回転させてもよい。除去製造装置102が工具19を回転させる場合は工具19の回転軸が主軸となり、被加工物16を回転させる場合は被加工物16の回転軸が主軸となる。
【0032】
NC装置1は、加工プログラムに従って除去製造装置102を制御する。NC装置1は、ヘッド駆動装置20へ位置指令を出力することによって、ヘッド駆動装置20が駆動する加工ヘッド21の位置を制御する。NC装置1は、加工プログラムに設定されている工具回転数(主軸回転数)の条件に応じた指令である出力指令を主軸駆動装置22へ出力することによって、工具回転数を制御する。工具回転数は、単位時間あたりの工具19の回転数である。
【0033】
なお、NC装置1は、除去製造装置102の構成要素の1つであっても良く、除去製造装置102の外部の装置であってもよい。
【0034】
また、実施の形態1では、付加製造装置100および除去製造装置102を異なる構成要素として記載しているが、付加製造装置100および除去製造装置102は、付加製造機能および除去製造機能の両方を有する複合製造装置であってもよい。
【0035】
図2は、実施の形態1にかかるNC装置の機能構成を示す図である。NC装置1は、付加製造実行部103と、状態解析部104と、生産工程変更部105と、工程条件生成部106と、除去製造実行部107とを備えている。
【0036】
付加製造実行部103は、外部入力される加工プログラム23を受け付ける。加工プログラム23は、加工ヘッド8から出射されるビームによって材料5を溶融させ、溶融させた材料5を被加工物16へ付加することによって造形物15を製造する際に用いられるプログラムである。
【0037】
加工プログラム23には、被加工物16または加工ヘッド8を予め設定された経路に移動させるために必要な移動指令および速度指令と、所望の積層高さおよび積層幅で積層造形を行うために必要なレーザビームの出力指令と、金属粉または金属線条の供給指令とが記述されている。積層高さおよび積層幅は、1層あたりの積層高さおよび積層幅である。移動指令は、移動指令値で表され、速度指令は、速度指令値で表される。出力指令は、出力指令値で表され、供給指令は、供給量指令値で表される。なお、以下の説明では、金属粉または金属線条の供給を金属供給という場合がある。
【0038】
付加製造実行部103での移動指令および速度指令は、被加工物16と加工ヘッド8との相対位置および相対速度が規定された指令である。したがって、付加製造実行部103における加工ヘッド8の位置および速度は、被加工物16と加工ヘッド8との相対位置および相対速度である。以下の説明では、被加工物16と加工ヘッド8との相対位置および相対速度を制御する際に、加工ヘッド8が制御される場合について説明する。
【0039】
また、付加製造実行部103は、生産工程変更部105から、生産工程の切替指令を受け付ける。生産工程の切替指令は、付加製造工程(付加加工工程)から除去製造工程(除去加工工程)への切替指令、または除去製造工程から付加製造工程への切替指令である。
【0040】
付加製造実行部103は、加工プログラム23に基づいて、加工ヘッド8のヘッド位置の移動経路(以下、ヘッド移動経路HR8という)と、ヘッド移動経路HR8上でのレーザビームの出力値および材料5の供給量(金属供給量)とを制御する。ヘッド移動経路HR8は、加工ヘッド8による加工経路である。これにより、付加製造実行部103は、付加製造装置100に造形物15を付加製造させる。
【0041】
付加製造実行部103は、付加製造工程から除去製造工程への切替指令を受け付けると、付加製造を停止する。付加製造実行部103は、除去製造工程から付加製造工程への切替指令を受け付けると、付加製造を再開する。
【0042】
状態解析部104は、付加製造装置100から取得されたセンサデータ24を受け付ける。状態解析部104は、センサデータ24に基づいて、造形物15の加工状態を解析する。センサデータ24には、後述する、画像データ、温度データ、および溶融池データが含まれている。
【0043】
状態解析部104は、解析結果である加工状態を生産工程変更部105および工程条件生成部106に送る。状態解析部104が工程条件生成部106に送る加工状態には、安定した造形加工が継続可能か否かの判定結果が含まれている。
【0044】
付加製造装置100から取得されたセンサデータ24は、記憶装置などに格納されてもよい。この場合において、記憶装置は、NC装置1内に配置されてもよいし、NC装置1の外部に配置されてもよい。また、記憶装置は、付加製造装置100内に配置されてもよいし、付加製造装置100の外部に配置されてもよい。
【0045】
生産工程変更部105は、造形物15の加工状態に応じて付加製造工程と除去製造工程とを自動で変更する。生産工程変更部105は、状態解析部104が、安定した造形加工の継続が不可能であると判定した場合に、付加製造工程から除去製造工程へ変更する。また、生産工程変更部105は、除去製造実行部107から、除去製造工程が完了したことを示す通知を受け付けた場合に、除去製造工程から付加製造工程へ変更する。
【0046】
生産工程変更部105は、付加製造工程から除去製造工程への切替指令、および除去製造工程から付加製造工程への切替指令を、付加製造実行部103に送る。また、生産工程変更部105は、付加製造工程から除去製造工程への切替指令を、除去製造実行部107に送る。また、生産工程変更部105は、切替指令を付加製造実行部103または除去製造実行部107に送る際には、造形物15の搬送指令を自動搬送装置101に送る。
【0047】
工程条件生成部106は、状態解析部104から加工状態を受け付ける。工程条件生成部106は、状態解析部104が、安定した造形加工の継続が不可能であると判定した場合に、生産工程変更後に除去製造装置102が用いる工程条件を算出する。この場合において、工程条件生成部106は、生産工程の変更前に付加製造装置100が使用した工程条件および加工状態に基づいて、生産工程変更後に除去製造装置102が用いる工程条件を算出する。
【0048】
生産工程の変更前に使用した工程条件には、ヘッド移動経路HR8などが含まれている。工程条件生成部106は、生産工程の変更前に使用した工程条件を、付加製造実行部103から取得してもよいし、加工プログラム23から算出してもよい。工程条件生成部106は、算出した工程条件を除去製造実行部107に送る。工程条件生成部106が算出する工程条件には、加工ヘッド21のヘッド位置の移動経路(以下、ヘッド移動経路HR21という)などが含まれている。ヘッド移動経路HR21は、加工ヘッド21による加工経路である。
【0049】
除去製造実行部107は、生産工程変更部105から、生産工程の切替指令を受け付ける。また、除去製造実行部107は、工程条件生成部106から工程条件を受け付ける。除去製造実行部107は、工程条件生成部106から受け付けた工程条件に基づいて、ヘッド移動経路HR21と、ヘッド移動経路HR21上での工具回転数とを制御する。これにより、除去製造実行部107は、除去製造装置102に造形物15の一部を除去製造させる。
【0050】
除去製造実行部107での移動指令および速度指令は、被加工物16と加工ヘッド21との相対位置および相対速度が規定された指令である。したがって、除去製造実行部107における加工ヘッド21の位置および速度は、被加工物16と加工ヘッド21との相対位置および相対速度である。以下の説明では、被加工物16と加工ヘッド21との相対位置および相対速度を制御する際に、加工ヘッド21が制御される場合について説明する。
【0051】
つぎに、NC装置1の動作の一例について説明する。
図3は、実施の形態1にかかるNC装置による動作の手順を示すフローチャートである。
【0052】
(ステップS10)
ステップS10では、付加製造実行部103に、加工プログラム23が外部入力される。これにより、付加製造実行部103は、加工プログラム23を受け付ける。前述したように、加工プログラム23には、レーザビームの出力指令と、金属粉または金属線条の供給指令とが含まれている。また、加工プログラム23には、被加工物16と加工ヘッド8との相対位置を制御するための移動指令、および被加工物16と加工ヘッド8との相対速度を制御するための速度指令が含まれている。加工ヘッド8の速度指令は、レーザ照射位置での走査速度指令である。
【0053】
加工ヘッド8の移動指令では、移動指令の内容が、座標値と、この座標値の時の移動モードを表すGコード(例えば、G0,G1等)とによって指定される。また、加工ヘッド8の速度指令では、速度指令の内容が、速度値が記載されたFコードによって指令される。
【0054】
積層造形が行なわれるためには、ユーザに設定された所望の積層高さおよび積層幅と、このときのレーザビームの出力指令値と、このときの金属粉または金属線条の供給量指令値とが必要となる。すなわち、積層造形が行なわれるためには、所望の積層高さおよび積層幅に対応する、レーザビームの出力指令値と、金属供給の供給量指令値とが必要となる。付加製造装置100は、積層高さおよび積層幅と、レーザビームの出力値と、金属供給量と、加工ヘッド8の走査速度(移動速度)とが対応付けされた情報を、一括りのデータとして少なくとも1つ以上記憶している。これらの一括りのデータを、以下では積層条件データという。実施の形態1では、X軸方向が積層幅であり、Z軸方向が積層高さである。
【0055】
加工プログラム23では、所望の積層高さおよび積層幅となるように、レーザビームの出力指令値および金属供給の供給量指令値が、積層条件データに基づいて、GコードまたはMコードを用いて設定されている。すなわち、加工プログラム23では、積層条件データに含まれている情報がGコード、Mコードなどを用いて設定されている。
【0056】
なお、所望の積層高さおよび積層幅となるように、レーザビームの出力指令値、金属供給の供給量指令値が、加工プログラム23上に直接記載されていてもよい。NC装置1は、ステップS10の実行後、ステップS20に手順を進める。
【0057】
(ステップS20)
ステップS20では、付加製造実行部103が、外部入力された加工プログラム23に記述されている処理の内容に基づいて、付加製造装置100における加工ヘッド8を移動させる移動経路を解析し移動経路を決定する。また、付加製造実行部103は、加工プログラム23に基づいて、加工ヘッド8の移動速度である走査速度を決定する。また、付加製造実行部103は、加工プログラム23に基づいて、付加製造工程に必要なレーザ出力値および金属供給量を決定する。そして、付加製造実行部103は、決定した移動経路、走査速度、レーザ出力値、および金属供給量を用いて、付加製造装置100に付加製造を実施させる。NC装置1は、ステップS20の実行後、ステップS30に手順を進める。
【0058】
(ステップS30)
ステップS30では、付加製造装置100の加工状態を監視するためのセンサデータ24が付加製造装置100から収集されて、状態解析部104に入力される。これにより、状態解析部104が、センサデータ24を取得する。
【0059】
センサ情報であるセンサデータ24には、例えば、実際の積層高さおよび積層幅を計測(解析)するための画像データと、造形物15の蓄熱状態を計測(解析)するための温度データと、金属粉または金属線条の溶着状態を計測(解析)するための溶融池データとが含まれている。画像データは、造形物15の画像を示すデータであり、カメラおよびレーザ変位計の少なくとも一方を用いて取得される。温度データは、造形物15の温度を示すデータであり、放射温度計および赤外線サーモグラフィの少なくとも一方を用いて取得される。溶融池データは、溶融池の情報を示すデータであり、カメラと、材料供給装置4が備えるモータ検出器との少なくとも一方を用いて取得される。材料供給装置4が備えるモータ検出器は、材料供給装置4にかかる負荷トルクを検出する装置である。したがって、溶融池データは、カメラによって撮像された画像のデータ、およびモータ検出器によって検出された負荷トルクの少なくとも一方を用いて取得される。
【0060】
なお、金属粉または金属線条の溶着状態には、溶着量不足状態、溶着量安定状態、および溶着量過剰状態の3種類の状態が存在する。
図4は、
図1に示す付加製造装置の造形時における溶着状態について説明するための図である。
【0061】
図4には、溶着量不足状態、溶着量安定状態、および溶着量過剰状態の3つの溶着状態の各々について、ビード形状の例を示している。ビード形状は、造形物15の1層分の3次元形状である。
【0062】
図4の上段は、3つの溶着状態の積層形状をレーザビームの走査方向であるY方向から見た場合におけるビード形状を示している。
図4の下段は、3つの溶着状態の積層形状をレーザビームの照射方向であるZ方向から見た場合におけるビード形状を示している。
【0063】
図4において、溶着量不足状態は、溶着量が不足しているため部分的にしか溶着されておらず目標とする形状の層が形成されていない状態である。溶着量安定状態は、溶着量が適切であるため目標とする形状の層が形成されている状態である。溶着量過剰状態は、溶着量が多すぎるため溶着した材料5が流れてしまい目標とする形状の層が形成されていない状態である。溶着量過剰状態では、目標形状よりも平らな形状となっている。
【0064】
溶着量不足状態における形状の積層幅は、溶着量安定状態における形状の積層幅よりも小さい。また、溶着量不足状態における形状の高さは、溶着量安定状態における形状の高さよりも高い。
【0065】
溶着量過剰状態における形状の積層幅は、溶着量安定状態における形状の積層幅よりも大きい。また、溶着量過剰状態における形状の高さは、溶着量安定状態における形状の高さよりも低い。NC装置1は、ステップS30の実行後、ステップS40に手順を進める。
【0066】
(ステップS40)
ステップS40では、状態解析部104が、センサデータ24に含まれる画像データ、温度データ、および溶融池データに基づいて、安定して付加造形(付加製造)可能か否かを判定する。すなわち、状態解析部104は、付加製造装置100における付加製造工程が安定的に継続可能か否かを判定する。
【0067】
センサデータ24に含まれる画像データは、付加製造されたビードの高さおよび幅にばらつきがなく均一に誤差なく付加製造できているか否かを示すデータである。センサデータ24に含まれる温度データは、造形物15の蓄熱温度によって溶融材料の凝固に要する時間が増加しているか否かを示すデータである。センサデータ24に含まれる溶融池データは、金属粉または金属線条の溶着状態が溶着量安定状態を維持できているか否かを示すデータである。
【0068】
状態解析部104は、蓄熱の影響によって溶融材料の凝固に要する時間が増加し、重力の影響で造形物15の被加工部周辺に歪みまたは崩れが発生するか否かを、画像データおよび温度データに基づいて事前に解析する。
【0069】
状態解析部104は、溶着状態が適切な工程条件の範囲内から外れて所望のビード形状に造形できないことによって、造形物15の被加工部周辺に歪みまたは崩れが発生するか否かを、画像データおよび溶融池データに基づいて事前に解析する。
【0070】
NC装置1の状態解析部104は、溶着量安定状態を維持できると判定した場合、すなわち安定した付加造形が可能であると判定した場合(ステップS40、Yes)、ステップS30に手順を進める。
【0071】
一方、状態解析部104は、溶着量安定状態を維持できないと判定した場合、すなわち安定した付加造形が不可能であると判定した場合(ステップS40、No)、ステップS50に手順を進める。
【0072】
(ステップS50)
ステップS50では、状態解析部104が、生産工程変更部105および工程条件生成部106に、安定した造形加工が継続できないことを通知する。これにより、生産工程変更部105は、付加製造を中断して除去製造に工程変更させる、すなわち生産工程の切替動作を実行する。この場合の付加製造工程が第1の生産工程であり、除去製造工程が第2の生産工程である。また、付加製造工程で用いられた工程条件が第1の工程条件であり、除去製造工程で用いられる工程条件が第2の工程条件である。
【0073】
生産工程の切替動作には、生産工程変更部105が、付加製造実行部103に付加製造工程の中断信号(切替指令)を送信して付加製造工程を一時的に中断させる動作が含まれている。また、生産工程の切替動作には、生産工程変更部105が、付加製造工程の中断完了後に、造形物15の搬送動作を自動搬送装置101に実行させる動作が含まれている。ここでの造形物15の搬送動作では、生産工程変更部105が、自動搬送装置101に、付加製造装置100から造形物15を取り出して除去製造装置102のステージ18にセットさせる。また、生産工程の切替動作には、生産工程変更部105が、除去製造実行部107に除去製造工程の開始信号(切替指令)を送信して除去製造工程を準備させる動作が含まれている。このように、生産工程変更部105は、付加製造工程から除去製造工程への切替指令を、付加製造実行部103および除去製造実行部107に送る。
【0074】
なお、付加製造装置100および除去製造装置102が、付加製造機能および除去製造機能の両方を有する複合製造装置である場合、生産工程の切替動作における付加製造実行部103と除去製造実行部107との切替え処理は、加工ヘッド8,21の交換処理と同義となる。すなわち、付加製造装置100および除去製造装置102が、複合製造装置である場合、生産工程変更部105は、切替指令の代わりに、加工ヘッド8,21の交換指令(交換信号)を出力する。NC装置1は、ステップS50の実行後、ステップS60に手順を進める。
【0075】
(ステップS60)
ステップS60では、工程条件生成部106は、除去製造実行部107が除去製造工程で使用する工程条件を生成する。具体的には、工程条件生成部106は、除去製造装置102における加工ヘッド21の移動経路、走査速度、および加工ヘッド21の工具回転数を決定し、除去製造工程の工程条件に設定する。
【0076】
工程条件生成部106は、除去製造装置102におけるヘッド移動経路HR21を、付加製造装置100に入力された加工プログラム23に基づいて設定する。具体的には、工程条件生成部106は、造形物15の蓄熱温度および溶着状態の影響によって発生する被加工部周辺の形状の歪みまたは崩れが生じる可能性がある箇所を全て除去できるように、ヘッド移動経路HR21を抽出する。この場合において、工程条件生成部106は、付加製造装置100において一時中断した指令箇所から加工プログラム23を3次元空間上にオフセットして遡るように、除去製造工程におけるヘッド移動経路HR21を抽出する。すなわち、工程条件生成部106は、付加製造装置100が付加製造を中断した位置から、加工プログラム23に設定されているヘッド移動経路HR8にオフセット部分を与えて逆方向に辿るように、除去製造工程におけるヘッド移動経路HR21を設定する。これにより、除去製造工程における加工ヘッド21の始点および終点の設定が容易になる。また、この後の付加工程における加工ヘッド8の始点の設定が容易になる。
【0077】
また、工程条件生成部106は、除去製造装置102に用いられる加工プログラム(後述する加工プログラム33)に設定されている、加工ヘッド21の走査速度を、除去製造工程の工程条件に設定する。また、工程条件生成部106は、ヘッド移動経路HR21における加工ヘッド21の工具回転数を、除去製造実行部107における除去量の最大値に基づいて決定する。すなわち、工程条件生成部106は、ヘッド移動経路HR21のうち、最も除去量が多い箇所に対して所望量を除去できる工具回転数を設定する。工程条件生成部106は、ヘッド移動経路HR21と、ヘッド移動経路HR21上での工具回転数とを、除去製造実行部107に送る。NC装置1は、ステップS60の実行後、ステップS70に手順を進める。
【0078】
(ステップS70)
ステップS70では、除去製造実行部107が、工程条件生成部106が生成したヘッド移動経路HR21と、走査速度と、ヘッド移動経路HR21上での工具回転数とを受け付ける。これにより、除去製造実行部107は、除去製造装置102に対して出力する加工ヘッド21の移動経路、走査速度、および除去製造に必要な工具回転数の指令値を決定する。除去製造実行部107は、決定した移動経路、走査速度、および工具回転数を用いて、除去製造装置102に除去製造を開始させる。NC装置1は、ステップS70の実行後、ステップS80に手順を進める。
【0079】
(ステップS80)
ステップS80では、除去製造実行部107による除去製造の完了後に、生産工程変更部105が、生産工程の復帰動作を実行する。生産工程の復帰動作には、生産工程変更部105が、除去製造実行部107から除去製造の完了通知を受け付ける動作が含まれている。また、生産工程の復帰動作には、生産工程変更部105が、造形物15の搬送動作を自動搬送装置101に実行させる動作が含まれている。ここでの造形物15の搬送動作では、生産工程変更部105が、自動搬送装置101に、除去製造装置102から造形物15を取り出させて付加製造装置100のステージ13にセットさせる。また、生産工程の復帰動作には、生産工程変更部105が、付加製造実行部103に付加製造工程の開始信号(切替指令)を送信して付加製造工程を準備させる動作が含まれている。NC装置1は、ステップS80の実行後、ステップS90に手順を進める。
【0080】
(ステップS90)
ステップS90では、付加製造実行部103が、付加製造装置100に付加製造を再開させる。すなわち、付加製造実行部103が、加工プログラム23に記述されている処理の内容に基づいて、除去製造実行部107での除去製造の終了位置から加工ヘッド8を移動させるヘッド移動経路HR8の解析を再開しヘッド移動経路HR8および走査速度を決定する。また、付加製造実行部103は、加工プログラム23に基づいて、付加製造工程に必要なレーザ出力値および金属供給量を決定する。そして、付加製造実行部103は、決定した移動経路、走査速度、レーザ出力値、および金属供給量を用いて、付加製造装置100に付加製造を再開させる。NC装置1は、ステップS90の実行後、ステップS100に手順を進める。
【0081】
(ステップS100)
ステップS100では、NC装置1が、加工プログラム23に記述されている処理が全て完了したか否かを判定する。加工プログラム23に記述されている処理が全て完了していない場合(ステップS100、No)、NC装置1は、ステップS30からS100までの処理を繰り返す。NC装置1は、加工プログラム23に記述されている処理が全て完了するまで、ステップS30からS100までの処理を繰り返す。加工プログラム23に記述されている処理が全て完了した場合(ステップS100、Yes)、NC装置1は、造形物15の製造を制御する処理を完了する。
【0082】
このように、NC装置1は、付加製造工程中における蓄熱状態または溶着状態の変化が原因として発生する造形物15の完成品としての歪みまたは崩れを事前に検知して付加製造工程から除去製造工程に変更することができる。これにより、NC装置1は、生産プロセスを中断することなく効率良く所望の形状を有した造形物15を正確に生産することが可能となる。
【0083】
ここで、加工プログラム23の一例について説明する。
図5は、実施の形態1にかかるNC装置が用いる加工プログラムの一例を示す図である。加工プログラム23には、絶対値指令で指令を出すこと、H1(H1は自然数)番目の補正量で工具長補正を実行すること、走査速度とレーザ出力値と金属供給量を決定することなどが規定されている。NC装置1には、工具長補正の補正量として、複数の補正量が設定されている。加工プログラム23では、これらの複数の補正量のうちの何番目の補正量を用いるかが設定されている。
【0084】
また、加工プログラム23には、造形物15の1層目の座標値群、2~(N-1)層目の座標値群、N層目の座標値群などが設定されている。以下では、造形物15がZ軸方向から見て円弧形状である場合について説明する。造形物15がZ軸方向から見て円弧形状である場合、加工プログラム23には、円弧形状の1からN層目までの座標値群が設定されている。加工プログラム23は、NC装置1の外部から付加製造実行部103に入力される。
【0085】
図6は、実施の形態1にかかるNC装置が
図5に示した加工プログラムを用いて付加製造装置に積層造形させた造形物の例を示す図である。
図6に示す造形物50は、付加製造装置100が製造する造形物15の一例である。
【0086】
付加製造装置100は、ベース材14上に供給した金属粉または金属線条といった金属材料である材料5を、レーザビームによって加熱溶融し、母材表面の被加工部の上に指定された積層高さおよび積層幅で材料5を積層する。
【0087】
付加製造装置100は、母材上のレーザ照射領域がZ軸方向から見て円弧形状となるように加工ヘッド8を移動させて材料5を積層する処理を繰り返す。このような、材料5の層をZ軸方向にN(Nは自然数)層分重ねたものが、
図6に示した造形物50である。
【0088】
実施の形態1では、
図5に示す加工プログラム23に含まれる、N
1(N
1は、1からNの何れかの自然数)層目の付加製造工程での指令中に、造形物50の表面の蓄熱の増加または溶着状態の不安定化によって造形物50に形状の歪みまたは崩れが発生する場合について説明する。以下、この場合の、NC装置1の各構成要素の動作を詳細に説明する。
【0089】
(付加製造実行部103)
NC装置1の付加製造実行部103は、加工プログラム23を解析し、付加製造装置100を用いて付加製造を実施する。付加製造実行部103は、
図5に示す加工プログラム23のうち、現在行われている処理よりも後に行われる処理についての解析を行う。
【0090】
付加製造実行部103は、加工プログラム23に記述されている加工ヘッド8の移動経路および走査速度Fc(t)を解析して、単位時間当たりの加工ヘッド8の位置を決定する。具体的には、付加製造実行部103は、予め設定された加速度で加減速するための速度波形を生成する加減速処理と、加減速処理によって生成した速度波形を滑らかにするスムージング処理とを行うことで、加工ヘッド8の位置を決定する。なお、スムージング処理は、移動平均フィルタ処理とも称呼される。
【0091】
また、付加製造実行部103は、スムージング処理後の走査速度で移動した場合の単位時間毎の加工ヘッド位置である補間点を演算する補間処理を行うことで、加工ヘッド8への指令位置を生成する。付加製造実行部103は、この指令位置を、単位時間毎にヘッド駆動装置12に出力する。これにより、加工ヘッド8が、加工プログラム23に設定されている所望の位置へと制御される。
【0092】
また、付加製造実行部103は、加工プログラム23に記述されている材料5の供給速度、およびレーザビームの強度を解析して、単位時間当たりの材料5の供給速度、およびレーザビームの強度を決定する。
【0093】
付加製造実行部103は、レーザ照射位置におけるレーザ出力値Pc(t)と、金属供給量Wc(t)とを、以下の式(1)および式(2)を用いて、レーザ照射位置の走査速度Fc(t)に応じた調整を行う。
【0094】
【0095】
【0096】
ここで、P、V、およびFは、それぞれ加工プログラム23に記述されているレーザ出力、金属供給量、および走査速度を表している。付加製造実行部103は、レーザ照射位置の走査速度に応じたレーザ出力値Pc(t)をレーザ発振器2に出力する。また、付加製造実行部103は、金属粉または金属線条の金属供給量Wc(t)を材料供給装置4に出力する。これにより、付加製造実行部103は、レーザ出力および金属供給量を、加工プログラム23で指定されたユーザ所望の値に制御する。なお、付加製造実行部103による1層目からN層目までのプログラム解析処理と、状態解析部104による解析処理とは、同時進行で行われる。
【0097】
付加製造実行部103は、付加製造工程の再開時に、除去製造工程の終了位置から加工プログラム23に記述されている加工ヘッド8の移動経路および走査速度Fc(t)を解析し、単位時間当たりの加工ヘッド位置を決定する。
【0098】
(状態解析部104)
NC装置1の状態解析部104は、付加製造装置100に設置されたセンサからセンサデータ24を収集し、センサデータ24に基づいて、付加製造中の状態を推定する。具体的には、状態解析部104は、付加製造装置100によって形成される造形形状を観測した画像データをセンサデータ24から取得する。さらに、状態解析部104は、付加製造装置100によって形成される造形形状が観測された画像データから造形形状の特徴量を抽出する。ここで抽出される造形形状の特徴量は、積層高さおよび積層幅の少なくとも一方を含んでいる。状態解析部104は、積層高さおよび積層幅の少なくとも一方を含んだ特徴量を、エッジ検出、二値化などの画像解析手法を用いて計算する。
【0099】
状態解析部104は、付加製造工程における被加工部分の表面温度を観測した温度データを取得する。温度データは、1つの赤外線サーモグラフィから取得された被加工部が表面温度に応じて色分け表示されたヒートマップであってもよいし、造形物15の座標位置に応じ表面温度が数値として記載されたデータであってもよい。また、状態解析部104は、複数のセンサを用いて複数の方向から検出されたヒートマップを取得してもよい。
【0100】
また、状態解析部104は、付加製造装置100によって形成される溶融池を観測した溶融池データを取得する。状態解析部104は、溶融池が計測された画像データから形状の特徴量を抽出することで溶融池データを取得する。ここで抽出される形状の特徴量は、溶融池サイズおよび溶融池中心から材料5までの距離の少なくとも一方を含んでいる。状態解析部104は、溶融池サイズおよび溶融池中心から材料5までの距離の少なくとも一方を含んだ特徴量を、エッジ検出、二値化などの画像解析手法を用いて計算する。
【0101】
また、状態解析部104は、画像データから溶融池を直接観測する場合に限らず、材料供給装置4にかかる負荷データ(負荷トルク)等を利用して溶融状態を推定してもよい。状態解析部104は、画像データ、温度データ、および溶融池データに基づいて、蓄熱状態および溶着状態の変化による造形物15の被加工部周辺に歪みまたは崩れが発生することを事前に解析する。
【0102】
ここで、温度データとビード幅の変化との関係を説明する。また、溶融池データとビード高さの変化との関係を説明する。ビード幅およびビード高さが、造形物15の形状を示す形状状態の一例である。
【0103】
図7は、実施の形態1にかかるNC装置が、付加製造工程中における特徴量として抽出した被加工部の温度データとビード幅の変化との関係を説明するための図である。
【0104】
図7では、造形物50が製造される場合において10層目まで積層された造形物51Aと、N
1層目まで積層された造形物51Bとを示している。ここでのN
1は、10よりも大きな自然数である。
図7に示すように、10層目まで積層された造形物51Aは、所望の積層が行われており、N
1層目まで積層された造形物51Bは、所望の積層が行われていない。
【0105】
積層造形時間が経過していくと、レーザビームが母材に照射され続ける影響で造形物51Bにおける蓄熱が大きくなる。これにより、溶融材料の凝固に要する時間が変化するので、溶融材料の重力の影響で積層幅が所望値よりも大きくなり、積層高さが所望値よりも低くなっていき、形状の崩れが発生しやすくなる。すなわち、造形物51Bでの蓄熱が大きくなると、溶融材料の凝固に要する時間が長くなるので、溶融材料が広がりすぎる。このため、状態解析部104は、蓄熱の影響によって溶融材料の凝固に要する時間が増加して、重力の影響で造形物51Bの被加工部周辺に歪みまたは崩れが発生することを事前に検知する。状態解析部104は、被加工部における温度データの蓄熱が蓄熱の閾値よりも大きく、積層幅が積層幅の閾値よりも大きい場合に、造形異常信号を生成する。
【0106】
図8は、実施の形態1にかかるNC装置が、付加製造工程中における特徴量として抽出した被加工部の溶融池データとビード高さの変化との関係を説明するための図である。
【0107】
図8では、造形物50が製造される場合において10層目まで積層された造形物51Aと、N
2層目まで積層された造形物51Cとを示している。ここでのN
2は、10よりも大きな自然数である。
図8に示すように、10層目まで積層された造形物51Aは、所望の積層が行われており、N
2層目まで積層された造形物51Cは、所望の積層が行われていない。
【0108】
造形開始時はレーザビームに対して材料5の溶融量が最適に指令されていても、積層造形時間が経過していくと、レーザビームの熱源によって、材料5が溶融しやすくなり、供給されてくる材料5と、溶融された材料5によって形成される溶融池との間の距離が大きくなる。これにより、溶融池サイズが小さくなって溶着量不足状態となり、積層幅が所望値よりも小さくなり、積層高さが所望値よりも高くなっていく。さらに、積層幅および積層高さのばらつきが増加する。これにより、形状の崩れが発生しやすくなる。このため、積層造形時間が長くなると、溶着状態が最適な条件範囲から外れて、所望のビード形状に造形できなくなり、造形物51Cの被加工部周辺に歪みまたは崩れが発生する。状態解析部104は、このような被加工部周辺における歪みまたは崩れを事前に検知する。状態解析部104は、被加工部における溶融池データの溶融池サイズが溶融池サイズの閾値よりも小さく、積層高さが積層高さの閾値よりも大きい場合に、造形異常信号を生成する。
【0109】
実施の形態1では、加工プログラム23の途中のN1層目において蓄熱状態の影響で形状の歪みまたは崩れが発生し、N2層目において溶着状態の影響で形状の歪みまたは崩れが発生する。このため、状態解析部104は、センサデータ24を解析することで、歪みまたは崩れが発生する前に造形異常信号をN1層目またはN2層目の1度のみ生成しているが、歪みまたは崩れの発生を検知する度に複数回にわたって造形異常信号を生成してもよい。
【0110】
(生産工程変更部105)
NC装置1の生産工程変更部105は、状態解析部104の加工状態の解析結果に基づいて付加製造工程と除去製造工程とを自動で変更する。実施の形態1では、加工プログラム23において1層目から(N1-1)層目までは状態解析部104における造形異常信号は生成されないので、生産工程変更部105は、付加製造装置100における付加製造工程を継続する。一方、加工プログラム23においてN1層目になると、生産工程変更部105は、状態解析部104から造形異常信号が入力されるので、生産工程の変更動作を実行する。
【0111】
生産工程変更部105は、生産工程の変更動作として、付加製造実行部103に付加製造工程の中断信号を送信することで、付加製造工程を一時的に中断する。付加製造装置100による付加製造工程が停止されると、生産工程変更部105は、生産工程の変更動作として、自動搬送装置101に造形物15の搬送開始信号を送信する。これにより、自動搬送装置101は、付加製造装置100から造形物15を取り出し、除去製造装置102のステージ18にセットする。自動搬送装置101が、除去製造装置102のステージ18に造形物15をセットする処理を完了すると、生産工程変更部105は、除去製造装置102に、除去製造工程の開始信号を送信する。これにより、除去製造工程が一時的に開始される。
【0112】
除去製造工程が完了すると、生産工程変更部105は、生産工程の復帰動作を実施する。生産工程変更部105は、除去製造実行部107に除去製造の停止信号を送信することで、除去製造工程を中断させる。また、除去製造装置102による除去製造工程が停止すると、生産工程変更部105は、生産工程の復帰動作として、自動搬送装置101に造形物15の搬送開始信号を送信する。これにより、自動搬送装置101は、除去製造装置102から造形物15を取り出し、付加製造装置100のステージ13にセットする。自動搬送装置101が、付加製造装置100のステージ13に造形物15をセットする処理を完了すると、生産工程変更部105は、付加製造装置100に付加製造工程の再開信号を送信する。これにより、付加製造工程が再開される。
【0113】
ここでは、生産工程変更部105は、加工プログラム23のN
1層目の加工中に1度だけ生産工程変更動作および生産工程復帰動作を実施する場合について説明したが、生産工程変更部105は、
図3で説明したように、状態解析部104から造形異常信号が入力される度に生産工程変更動作および生産工程復帰動作を実行する。
【0114】
(工程条件生成部106)
NC装置1の工程条件生成部106は、付加製造装置100で使用した加工プログラム23、および状態解析部104が推定した加工状態に基づいて、除去製造装置102が使用する工程条件を決定する。
【0115】
工程条件生成部106は、加工プログラム23および加工状態に基づいて、除去製造実行部107でN1層目を除去する加工経路、すなわちヘッド移動経路HR21を生成する。まず、蓄熱の影響が生じた場合に抽出されたN1層目を除去するヘッド移動経路HR21について説明する。
【0116】
図9は、実施の形態1にかかるNC装置が蓄熱の影響が生じた場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第1例を示す図である。
図9では、所望の形状を形状40DFで示し、N
1層目の付加製造の加工経路であるヘッド移動経路HR8を付加製造経路41Aで示している。また、N
1層目の実際の積層形状を積層形状41Fで示している。また、蓄熱の影響が生じた場合に抽出されたN
1層目を除去する場合の加工経路であるヘッド移動経路HR21を除去製造経路46R1で示している。
【0117】
工程条件生成部106は、N1層目が歪みまたは崩れが発生している部分であるので、加工プログラム23のN1層目から(N1-1)層目にかけて時間的に遡るように進行方向から逆再生したヘッド移動経路HR21を抽出する。換言すると、工程条件生成部106は、N1層目の付加製造経路41Aを逆方向に進行するヘッド移動経路HR21を抽出する。
【0118】
また、付加製造工程によって形成されたN1層目のビードの積層幅は、蓄熱の影響で、N1層目より前に形成されたビードの積層幅と比較して幅が大きくなっている。このため、工程条件生成部106は、所望の形状40DFに対して、XY平面に平行な面内で加工方向に垂直な方向である垂線方向にヘッド移動経路HR8をオフセットした除去製造経路46R1を生成する。この場合のオフセット量は、N1層目の形状ばらつき(造形物15の高さまたは幅の所望値からのずれ量)の最大値に該当する箇所に対して、工具19が積層形状41Fの外側を通過するように、形状ばらつきを上回る値に設定される。これにより、工程条件生成部106は、除去製造装置102によってN1層目の全てを除去させてもよいし、形状の歪みまたは崩れにつながる部分のみを除去させてもよい。
【0119】
なお、除去製造装置102がN1層目のビードを1回の除去製造経路で除去することができない場合には、工程条件生成部106は、抽出した付加製造経路41Aを複数回オフセットさせることで複数回の除去製造経路を生成してもよい。
【0120】
図10は、実施の形態1にかかるNC装置が蓄熱の影響が生じた場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第2例を示す図である。
図10では、
図9と同様に、所望の形状を形状40DFで示し、N
1層目の付加製造のヘッド移動経路HR8を付加製造経路41Aで示している。また、N
1層目の実際の積層形状を積層形状41Fで示している。
【0121】
また、
図10では、蓄熱の影響が生じた場合に抽出されたN
1層目を除去する場合の1回目のヘッド移動経路HR21を除去製造経路46R1で示し、2回目のヘッド移動経路HR21を除去製造経路46R2で示している。なお、除去製造装置102は、除去製造経路46R2に沿った除去製造工程を先に実行し、その後、除去製造経路46R1に沿った除去製造工程を実行してもよい。
【0122】
つぎに、溶着量不足状態となった場合に抽出されたN1層目またはN2層目を除去するヘッド移動経路HR21について説明する。N1層目の除去処理とN2層目の除去処理とは同様であるので、ここではN1層目の除去処理について説明する。
【0123】
図11は、実施の形態1にかかるNC装置が溶着量不足状態となった場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第1例を示す図である。
図11では、所望の形状を形状40DFで示し、N
1層目の付加製造のヘッド移動経路HR8を付加製造経路42Aで示している。また、N
1層目の実際の積層形状を積層形状42Fで示している。また、溶着量不足状態の影響が生じた場合に抽出されたN
1層目を除去する場合のヘッド移動経路HR21を除去製造経路47R1で示している。
【0124】
工程条件生成部106は、N1層目が歪みまたは崩れが発生している部分であるので、加工プログラム23のN1層目から(N1-1)層目にかけて進行方向から逆再生したヘッド移動経路HR21を抽出する。換言すると、工程条件生成部106は、N1層目の付加製造経路42Aを逆方向に進行するヘッド移動経路HR21を抽出する。
【0125】
また、付加製造工程によって形成されたN1層目のビードの積層高さは、溶着状態が不足状態となっている影響で、N1層目より前に形成されたビードの積層高さと比較して大きくなっている。このため、工程条件生成部106は、所望の形状40DFに対して、Z軸方向(深さ方向)にヘッド移動経路HR8をオフセットした除去製造経路47R1を生成する。この場合のオフセット量は、N1層目の積層高さの最大値および最小値から計算される形状ばらつきを上回る値に設定される。これにより、工程条件生成部106は、除去製造装置102によってN1層目の全てを除去させてもよいし、形状の歪みまたは崩れにつながる部分のみを除去させてもよい。
【0126】
なお、除去製造装置102が、N1層目のビードを1回の除去製造経路で除去することができない場合には、工程条件生成部106は、抽出した付加製造経路42Aを複数回オフセットさせることで複数回の除去製造経路を生成してもよい。
【0127】
図12は、実施の形態1にかかるNC装置が溶着量不足状態となった場合に生成する除去製造工程のヘッド移動経路の第2例を示す図である。
図12では、
図11と同様に、所望の形状を形状40DFで示し、N
1層目の付加製造のヘッド移動経路
HR8を付加製造経路42Aで示している。また、N
1層目の実際の積層形状を積層形状42Fで示している。
【0128】
また、
図12では、溶着量不足状態となった場合に抽出されたN
1層目を除去する場合の1回目のヘッド移動経路HR21を除去製造経路47R1で示し、2回目のヘッド移動経路HR21を除去製造経路47R2で示している。
【0129】
また、工程条件生成部106は、造形物15の除去量に合わせて除去製造装置102における工具回転数を決定する。造形物15のビード形状は、蓄熱状態および溶着状態の影響で積層幅および積層高さが不均一でありばらつきが存在している。このため、工程条件生成部106は、オフセット量に基づいて、除去製造装置102で使用するヘッド移動経路HR21(除去製造経路47R1,47R2)における最大除去体積を導出する。そして、工程条件生成部106は、最大除去体積に最適な工具回転数、およびこの工具回転数での走査速度を、NC装置1が保有する積層条件データに基づいて決定する。すなわち、工程条件生成部106は、除去製造工程で除去される造形物15の体積のうち除去製造経路47R1,47R2で最大値となる箇所での体積、および積層条件に基づいて、工具回転数、および走査速度を決定する。
【0130】
なお、工程条件生成部106は、第1の工程完了後における造形物15の形状高さまたは形状幅のばらつきと、第2の工程完了後における造形物15の形状高さまたは形状幅のばらつきと、第2の工程における工具経路のオフセット量とを含む状態量を取得する状態量取得部を備えてもよい。そして、工程条件生成部106は、この状態量に基づいて、第2の工程完了後における造形物15の形状高さまたは形状幅のばらつきを小さくする、第2の工程における工具経路のオフセット量を学習する学習部を備えていてもよい。
【0131】
(除去製造実行部107)
NC装置1の除去製造実行部107は、工程条件生成部106が生成したヘッド移動経路HR21を含んだ工程条件を解析し、除去製造を除去製造装置102に実行させる。除去製造実行部107は、工程条件生成部106が生成したヘッド移動経路HR21のうち、現在行われている処理よりも後に行われる処理についての解析を行う。
【0132】
除去製造実行部107は、工程条件生成部106が生成した除去製造装置102におけるヘッド移動経路HR21および走査速度を解析して、単位時間当たりの加工ヘッド21の加工ヘッド位置を決定する。具体的には、除去製造実行部107は、予め設定された加速度で加減速するための速度波形を生成する加減速処理と、加減速処理により生成した速度波形を滑らかにするスムージング処理とを行うことで、加工ヘッド21の加工ヘッド位置を決定する。
【0133】
また、除去製造実行部107は、スムージング処理後の走査速度で移動した場合の単位時間毎の加工ヘッド位置である補間点を演算する補間処理を行うことで、加工ヘッド21の指令位置を生成する。除去製造実行部107は、この指令位置を、単位時間毎にヘッド駆動装置20に出力する。これにより、加工ヘッド21が、所望の位置へと制御される。
【0134】
除去製造実行部107は、工程条件生成部106が生成した工具回転数を解析して、単位時間当たりの工具回転位置を決定する。ヘッド駆動装置20は、決定した単位時間当たりの工具回転位置を、主軸制御装置(図示せず)に出力し、これにより工具回転数を所望の値に制御する。
【0135】
このように実施の形態1によれば、NC装置1は、積層造形中の蓄熱状態または溶着状態の変化が原因で発生する造形物15の歪みまたは崩れを事前に検知して付加製造工程から除去製造工程に変更する。この場合において、NC装置1は、除去製造工程で使用するヘッド移動経路HR21を含んだ工程条件を、付加製造装置100で使用した工程条件に基づいて作成する。これにより、NC装置1は、生産プロセスを中断することなく、造形物15を効率良く所望の形状に正確に生産することが可能となる。
【0136】
また、NC装置1は、オンラインで付加製造装置100と除去製造装置102とを切替えることもできる。これにより、NC装置1は、付加製造工程と除去製造工程との切替えの前後の生産プロセスを継続できるので、工程間の連携が可能となり、生産効率を向上させることができる。
【0137】
実施の形態2.
つぎに、
図13から
図15を用いて実施の形態2について説明する。実施の形態2では、除去製造装置が、造形物15の一部を除去し、仕上げ面に傷などがあった場合に、付加製造装置が付加製造工程を実行する。
【0138】
実施の形態2の加工システム60は、付加製造装置100の代わりに付加製造装置200を備え、除去製造装置102の代わりに除去製造装置202を備えている。また、実施の形態2の加工システム60は、NC装置1の代わりにNC装置1Aを備えている。また、実施の形態2の加工システム60は、実施の形態1の加工システム60と同様に自動搬送装置101を備えている。付加製造装置200は、付加製造装置100と同様の装置であり、除去製造装置202は、除去製造装置102と同様の装置である。
【0139】
図13は、実施の形態2にかかるNC装置の機能構成を示す図である。
図13に示す各構成要素のうち
図2に示す各構成要素と同一機能を達成する構成要素については同一符号を付しており、重複する説明は省略する。
【0140】
実施の形態2のNC装置1Aは、付加製造実行部203と、状態解析部204と、生産工程変更部205と、工程条件生成部206と、除去製造実行部207とを備えている。付加製造実行部203は、付加製造実行部103が実行する処理に対応する処理を実行し、状態解析部204は、状態解析部104が実行する処理に対応する処理を実行する。生産工程変更部205は、生産工程変更部105が実行する処理に対応する処理を実行し、工程条件生成部206は、工程条件生成部106が実行する処理に対応する処理を実行する。除去製造実行部207は、除去製造実行部107が実行する処理に対応する処理を実行する。
【0141】
除去製造実行部207は、外部入力される加工プログラム33を受け付ける。加工プログラム33は、造形物15の一部を除去することで造形物15を所望の形状に成形する際に用いられるプログラムである。
【0142】
加工プログラム33には、被加工物16または加工ヘッド21を予め設定された経路に沿って移動させるために必要な移動指令および速度指令と、所望の表面粗さ除去を行うために必要な工具回転数の回転指令とが記述されている。移動指令は、移動指令値で表され、速度指令は、速度指令値で表される。回転指令は、回転指令値で表される。
【0143】
また、除去製造実行部207は、生産工程変更部205から、生産工程の切替指令を受け付ける。生産工程の切替指令は、除去製造工程から付加製造工程への切替指令、または付加製造工程から除去製造工程への切替指令である。
【0144】
除去製造実行部207は、加工プログラム33に基づいて、ヘッド移動経路HR21と、ヘッド移動経路HR21上での工具回転数とを制御する。これにより、除去製造実行部207は、除去製造装置202に造形物15の一部を除去製造させる。
【0145】
除去製造実行部207は、除去製造工程から付加製造工程への切替指令を受け付けると、除去製造を停止する。付加製造実行部203は、除去製造工程から付加製造工程への切替指令を受け付けると、付加製造を再開する。
【0146】
状態解析部204は、除去製造装置202から取得されたセンサデータ34を受け付ける。状態解析部204は、センサデータ34に基づいて、造形物15の加工状態を解析する。センサデータ34には、画像データ、ヘッド駆動装置20が備えるモータ検出器によって検出される、加工ヘッド21の走査軸にかかる負荷トルクなどが含まれている。
【0147】
状態解析部204は、解析結果である加工状態を生産工程変更部205および工程条件生成部206に送る。状態解析部204が工程条件生成部206に送る加工状態には、除去製造工程における仕上げ面に傷が無いか否かの判定結果が含まれている。
【0148】
除去製造装置202から取得されたセンサデータ34は、記憶装置などに格納されてもよい。この場合において、記憶装置は、NC装置1A内に配置されてもよいし、NC装置1Aの外部に配置されてもよい。また、記憶装置は、付加製造装置200内に配置されてもよいし、付加製造装置200の外部に配置されてもよい。
【0149】
生産工程変更部205は、生産工程変更部105と同様に、造形物15の加工状態に応じて除去製造工程と付加製造工程とを自動で変更する。生産工程変更部205は、状態解析部204が、造形物15の仕上げ面に傷があると判定した場合に、除去製造工程から付加製造工程へ変更する。また、生産工程変更部205は、付加製造実行部203から、付加製造工程が完了したことを示す通知を受け付けた場合に、付加製造工程から除去製造工程へ変更する。
【0150】
生産工程変更部205は、付加製造工程から除去製造工程への切替指令、および除去製造工程から付加製造工程への切替指令を、除去製造実行部207に送る。また、生産工程変更部205は、除去製造工程から付加製造工程への切替指令を、付加製造実行部203に送る。また、生産工程変更部205は、切替指令を付加製造実行部203または除去製造実行部207に送る際には、造形物15の搬送指令を自動搬送装置101に送る。
【0151】
工程条件生成部206は、状態解析部204から加工状態を受け付ける。工程条件生成部206は、状態解析部204が、仕上げ面に傷があると判定した場合に、生産工程変更後に付加製造装置200が用いる工程条件を算出する。この場合において、工程条件生成部206は、生産工程の変更前に除去製造装置202が使用した工程条件および加工状態に基づいて、生産工程変更後に付加製造装置200が用いる工程条件を算出する。
【0152】
生産工程の変更前に使用した工程条件には、ヘッド移動経路HR21などが含まれている。工程条件生成部206は、生産工程の変更前に使用した工程条件を、除去製造実行部207から取得してもよいし、加工プログラム33から算出してもよい。工程条件生成部206は、算出した工程条件を付加製造実行部203に送る。工程条件生成部206が算出する工程条件には、ヘッド移動経路HR8などが含まれている。
【0153】
付加製造実行部203は、生産工程変更部205から、生産工程の切替指令を受け付ける。また、付加製造実行部203は、工程条件生成部206から工程条件を受け付ける。付加製造実行部203は、工程条件生成部206から受け付けた工程条件に基づいて、ヘッド移動経路HR8と、ヘッド移動経路HR8上でのレーザビームの出力値および材料5の供給量とを制御する。これにより、付加製造実行部203は、付加製造装置200に造形物15を付加製造させる。
【0154】
つぎに、NC装置1Aの動作の一例について説明する。
図14は、実施の形態2にかかるNC装置による動作の手順を示すフローチャートである。なお、
図3で説明した処理と同様の処理については、その説明を省略する。
【0155】
(ステップS110)
ステップS110では、除去製造実行部207に、加工プログラム33が外部入力される。これにより、除去製造実行部207は、加工プログラム33を受け付ける。前述したように、加工プログラム33には、被加工物16と加工ヘッド21との相対位置を制御するための移動指令、および被加工物16と加工ヘッド21との相対速度を制御するための速度指令が含まれている。加工ヘッド21の速度指令は、工具19による加工位置での走査速度指令である。
【0156】
加工ヘッド21の移動指令では、移動指令の内容が、座標値と、この座標値の時の移動モードを表すGコード(例えば、G0,G1等)とによって指定される。また、加工ヘッド21の速度指令では、速度指令の内容が、速度値が記載されたFコードによって指令される。
【0157】
除去製造が行なわれるためには、ユーザに設定された所望の表面粗さに基づいた工具回転数指令値が必要となる。工具回転数指令値は、加工プログラム33上でSコードを用いて所望の表面粗さとなるように直接指定されてもよいし、GコードまたはMコードを用いて指令されてもよい。NC装置1Aは、ステップS110の実行後、ステップS120に手順を進める。
【0158】
(ステップS120)
ステップS120では、除去製造実行部207が、外部入力された加工プログラム33に記述されている処理の内容に基づいて、除去製造装置202における加工ヘッド21を移動させる移動経路を解析し移動経路を決定する。また、除去製造実行部207は、加工プログラム33に基づいて、加工ヘッド21の移動速度である走査速度を決定する。また、除去製造実行部207は、加工プログラム33に基づいて、除去製造工程に必要な工具回転数を決定する。そして、除去製造実行部207は、決定した移動経路、走査速度、工具回転数を用いて、除去製造装置202に除去製造を実施させる。NC装置1Aは、ステップS120の実行後、ステップS130に手順を進める。
【0159】
(ステップS130)
ステップS130では、除去製造装置202の加工状態を監視するためのセンサデータ34が除去製造装置202から収集されて、状態解析部204に入力される。これにより、状態解析部204が、センサデータ34を取得する。
【0160】
センサ情報であるセンサデータ34には、例えば、仕上げ加工結果を計測(解析)するための画像データが含まれている。画像データは、造形物15の画像を示すデータであり、カメラおよびレーザ変位計の少なくとも一方を用いて取得される。センサデータ34には、仕上げ加工結果を計測するための画像データの代わりに、ヘッド駆動装置20にかかる負荷データ(加工ヘッド21の走査軸にかかる負荷トルク)および加工ヘッド21の位置データが含まれていてもよい。NC装置1Aは、ステップS130の実行後、ステップS140に手順を進める。
【0161】
(ステップS140)
ステップS140では、状態解析部204が、センサデータ34に含まれる画像データに基づいて、加工の進行方向が切替えられた際に生じた摩擦または機械振動によって発生した傷などを検知する。すなわち、状態解析部204は、除去製造装置202における除去製造工程が安定して実行されたか否かを判定する。センサデータ34に含まれる画像データは、除去製造工程における造形表面にばらつきがなく均一に誤差なく除去製造できているかが観測されたデータである。
【0162】
NC装置1Aの状態解析部204は、造形物15の仕上げ面に傷がないと判定した場合(ステップS140、Yes)、ステップS130に手順を進める。
【0163】
一方、状態解析部204は、造形物15の仕上げ面に傷があると判定した場合(ステップS140、No)、ステップS150に手順を進める。状態解析部204が、造形物15の仕上げ面に傷があると判定した場合、除去製造実行部207は、傷が無くなるよう、除去製造装置202に造形物15の上面への除去製造を実施させてもよい。
【0164】
なお、状態解析部204は、加工の進行方向が切替えられた際に生じる摩擦または機械振動を、ヘッド駆動装置20にかかる負荷データおよび加工ヘッド21の位置データから推定することも可能である。この場合、状態解析部204は、ヘッド駆動装置20にかかる負荷データおよび加工ヘッド21の位置データに基づいて、間接的に仕上げ加工結果を算出する。すなわち、状態解析部204は、負荷データおよび位置データに基づいて、摩擦または機械振動を算出し、摩擦または機械振動に基づいて、仕上げ加工結果(傷の有無など)を算出する。この場合、状態解析部204は、加工の進行方向が切替えられた際に生じる摩擦または機械振動に基づいて、摩擦または機械振動による傷の有無を解析する。
【0165】
(ステップS150)
ステップS150では、状態解析部204が、生産工程変更部205および工程条件生成部206に、造形物15の仕上げ面に傷があることを通知する。これにより、生産工程変更部205は、除去製造を中断して付加製造に工程変更させる、すなわち生産工程の切替動作を実行する。この場合の除去製造工程が第1の生産工程であり、付加製造工程が第2の生産工程である。また、除去製造工程で用いられた工程条件が第1の工程条件であり、付加製造工程で用いられる工程条件が第2の工程条件である。
【0166】
生産工程切替動作には、生産工程変更部205が、除去製造実行部207に除去製造工程の中断信号(切替指令)を送信して除去製造工程を一時的に中断させる動作が含まれている。また、生産工程の切替動作には、生産工程変更部205が、除去製造工程の中断完了後に、造形物15の搬送動作を自動搬送装置101に実行させる動作が含まれている。ここでの造形物15の搬送動作では、生産工程変更部205が、自動搬送装置101に、除去製造装置202から造形物15を取り出して付加製造装置200のステージ13にセットさせる。また、生産工程の切替動作には、生産工程変更部205が、付加製造実行部203に付加製造工程の開始信号(切替指令)を送信して付加製造工程を準備させる動作が含まれている。このように、生産工程変更部205は、除去製造工程から付加製造工程への切替指令を、付加製造実行部203および除去製造実行部207に送る。NC装置1Aは、ステップS150の実行後、ステップS160に手順を進める。
【0167】
(ステップS160)
ステップS160では、工程条件生成部206は、付加製造実行部203が付加製造工程で使用する工程条件を生成する。具体的には、工程条件生成部206は、付加製造装置200における加工ヘッド8の移動経路、走査速度、加工ヘッド8のレーザ出力値、および金属供給量を決定し、付加製造工程の工程条件に設定する。
【0168】
工程条件生成部206は、付加製造装置200におけるヘッド移動経路HR8を、除去製造装置202に入力された加工プログラム33に基づいて設定する。具体的には、工程条件生成部206は、加工の進行方向が切替えられた際に生じる摩擦または機械振動によって発生した傷を全て除去できるように、ヘッド移動経路HR8を抽出し付加製造工程の工程条件に設定する。この場合において、工程条件生成部206は、除去製造装置202において一時中断した指令箇所から加工プログラム33を3次元空間上にオフセットして遡るように、付加製造工程におけるヘッド移動経路HR8を抽出する。すなわち、工程条件生成部206は、除去製造装置202が除去製造を中断した位置から、加工プログラム33に設定されているヘッド移動経路HR21にオフセット部分を与えて逆方向に辿るように、付加製造工程におけるヘッド移動経路HR8を設定する。
【0169】
また、工程条件生成部206は、付加製造装置200に用いられる加工プログラム33に設定されている加工ヘッド8の走査速度を、付加製造工程の工程条件に設定する。また、工程条件生成部206は、発生した傷を全て除去できるように、付加製造工程に必要なレーザ出力値および金属供給量の指令値を決定する。この場合において、工程条件生成部206は、傷の体積、傷を無くすために除去された部分の体積などに基づいて、付加製造実行部203における付加量を算出する。そして、工程条件生成部206は、加工ヘッド位置の指令経路に対するレーザ出力値および金属供給量を、付加製造実行部203における付加量に基づいて決定する。工程条件生成部206は、ヘッド移動経路HR8と、ヘッド移動経路HR8上でのレーザ出力値および金属供給量とを、付加製造実行部203に送る。NC装置1Aは、ステップS160の実行後、ステップS170に手順を進める。
【0170】
(ステップS170)
ステップS170では、付加製造実行部203が、工程条件生成部206が生成したヘッド移動経路HR8と、走査速度と、ヘッド移動経路HR8上でのレーザ出力値と、金属供給量とを受け付ける。これにより、付加製造実行部203は、付加製造装置200に対して出力する加工ヘッド8の移動経路、走査速度、レーザ出力値、および金属供給量を決定する。付加製造実行部203は、決定した移動経路、走査速度、レーザ出力値、および金属供給量を用いて、付加製造装置200に付加製造を開始させる。NC装置1Aは、ステップS170の実行後、ステップS180に手順を進める。
【0171】
(ステップS180)
ステップS180では、付加製造実行部203による付加製造の完了後に、生産工程変更部205が、生産工程の復帰動作を実行する。生産工程の復帰動作には、生産工程変更部205が、付加製造実行部203から付加製造の完了通知を受け付ける動作が含まれている。また、生産工程の復帰動作には、生産工程変更部205が、造形物15の搬送動作を自動搬送装置101に実行させる動作が含まれている。ここでの造形物15の搬送動作では、生産工程変更部205が、自動搬送装置101に、付加製造装置200から造形物15を取り出させて除去製造装置202のステージ18にセットさせる。また、生産工程の復帰動作には、生産工程変更部205が、除去製造実行部207に除去製造工程の開始信号(切替指令)を送信して除去製造工程を準備させる動作が含まれている。NC装置1Aは、ステップS180の実行後、ステップS190に手順を進める。
【0172】
(ステップS190)
ステップS190では、除去製造実行部207が、除去製造装置202に除去製造を再開させる。すなわち、除去製造実行部207が、加工プログラム33に記述されている処理の内容に基づいて、付加製造実行部203での付加製造の終了位置から加工ヘッド21を移動させるヘッド移動経路HR21の解析を再開しヘッド移動経路HR21および走査速度を決定する。また、除去製造実行部207は、加工プログラム33に基づいて、除去製造工程に必要な工具回転数の指令値を決定する。そして、除去製造実行部207は、決定した移動経路、走査速度、および工具回転数を用いて、除去製造装置202に除去製造を再開させる。NC装置1Aは、ステップS190の実行後、ステップS200に手順を進める。
【0173】
(ステップS200)
ステップS200では、NC装置1Aが、加工プログラム33に記述されている処理が全て完了したか否かを判定する。加工プログラム33に記述されている処理が全て完了していない場合(ステップS200、No)、NC装置1Aは、ステップS130からS200までの処理を繰り返す。NC装置1Aは、加工プログラム33に記述されている処理が全て完了するまで、ステップS130からS200までの処理を繰り返す。加工プログラム33に記述されている処理が全て完了した場合(ステップS200、Yes)、NC装置1Aは、造形物15の製造を制御する処理を完了する。
【0174】
このように、NC装置1Aは、除去製造工程における加工の進行方向が切替えられた際に生じる摩擦または機械振動によって発生する傷を検知して除去製造工程から付加製造工程に変更することができる。これにより、NC装置1Aは、除去製造装置202における仕上げ加工に欠陥が発生した場合においても、生産工程を自動で修正して効率良く所望の形状を有した造形物15を正確に生産することが可能となる。
【0175】
ここで、付加製造装置200が製造する造形物15の具体例について説明する。
図15は、実施の形態2にかかるNC装置が除去製造装置に除去製造させた造形物の例を示す図である。
図15に示す造形物53は、除去製造装置202が製造する造形物15の一例である。
【0176】
実施の形態2にかかる除去製造工程に用いられる加工プログラム33には、例えば、実施の形態1において付加製造された造形物50の最上面を仕上げ加工する指令が記載されている。
図15では、加工プログラム23,33を用いて造形された造形物53を示している。加工プログラム23は、材料5の層を1層目からN層目まで積層することで造形物50を作製するプログラムである。加工プログラム33は、造形物50の上面を1ブロック目からM(Mは自然数)まで除去することによって造形物50から造形物53を作製するプログラムである。
【0177】
加工プログラム33は、NC装置1Aの外部から除去製造実行部207に入力される。実施の形態2では、加工プログラム33の実行が開始された後に、除去ブロックであるM1(M1は、1からMの何れかの自然数)ブロック目付近においての製造工程の指令中に、造形物表面に摩擦もしくは機械振動起因の傷が発生する場合について説明する。以下、この場合の、NC装置1Aの各構成要素の動作について、実施の形態1とは異なる動作について説明する。
【0178】
(状態解析部204)
NC装置1Aの状態解析部204は、除去製造装置202に設置されたセンサからセンサデータ34を収集し、センサデータ34に基づいて、除去製造中の加工状態を推定する。具体的には、状態解析部204は、除去製造装置202によって形成される表面形状を観測した画像データをセンサデータ34から取得する。さらに、状態解析部204は、除去製造装置202によって形成される造形形状が計測された画像データから形状特徴量を抽出する。ここで抽出される形状特徴量は、曲率、形状高さ、形状幅等のうちの少なくとも1つを含んでいる。状態解析部204は、曲率、形状高さ、形状幅等のうちの少なくとも1つを含んだ特徴量を、エッジ検出、二値化などの画像解析手法を用いて計算する。
【0179】
状態解析部204は、画像データに基づいて、摩擦または機械振動によって生じる傷を解析する。実施の形態2においては、状態解析部204が、M1ブロック目と、M1ブロック目以外の指定ブロックとを比較すると、M1ブロック目では摩擦や機械振動によって、形状高さを示すZ軸位置がマイナス方向に食い込むので、形状高さが他の領域と比較して低くなる。このため、状態解析部204は、形状高さのばらつきが他の領域と比較して大きい場合に、造形異常信号を生成する。
【0180】
実施の形態2では、状態解析部204が、加工プログラム33の途中のM1ブロック目への指令の一か所における摩擦または機械振動が原因の傷を検知して造形異常信号を生成しているが、1または複数の他の箇所の傷を検知することも可能である。
【0181】
このように実施の形態2によれば、NC装置1Aは、除去製造工程における摩擦または機械振動が原因で発生する表面形状の傷を検知して除去製造工程から付加製造工程に変更する。この場合において、NC装置1Aは、付加製造工程で使用するヘッド移動経路HR8を含んだ工程条件を、除去製造装置202で使用した工程条件に基づいて作成する。これにより、NC装置1Aは、仕上げ加工において造形物15に欠陥が発生した場合においても、生産工程を自動で修正して効率良く所望の形状を有した造形物53を正確に生産することが可能となる。
【0182】
つづいて、NC装置1,1Aのハードウェア構成について説明する。NC装置1,1Aは、処理回路により実現される。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用回路などの専用のハードウェアであってもよい。処理回路は制御回路とも呼ばれる。
【0183】
図16は、実施の形態1,2に係るNC装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図である。
図16に示す処理回路90は制御回路であり、プロセッサ91およびメモリ92を備える。処理回路90がプロセッサ91およびメモリ92で構成される場合、処理回路90の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはプログラムとして記述され、メモリ92に格納される。処理回路90では、メモリ92に記憶されたプログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路90は、NC装置1,1Aの処理が結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリ92を備える。このプログラムは、処理回路90により実現される各機能をNC装置1,1Aに実行させるためのプログラムであるともいえる。このプログラムは、プログラムが記憶された記憶媒体により提供されてもよいし、通信媒体など他の手段により提供されてもよい。上記プログラムは、数値制御処理をNC装置1,1Aに実行させるプログラムであるとも言える。
【0184】
ここで、プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などである。また、メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
【0185】
図17は、実施の形態1,2に係るNC装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図である。
図17に示す処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。処理回路93については、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路93は、専用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0186】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0187】
1,1A NC装置、2 レーザ発振器、3 ファイバーケーブル、4 材料供給装置、5 材料、6 ガス供給装置、7 配管、8,21 加工ヘッド、9 ビームノズル、10 材料ノズル、11 ガスノズル、12,20 ヘッド駆動装置、13,18 ステージ、14 ベース材、15,50,51A~51C,53 造形物、16 被加工物、17 ハンド機構、19 工具、22 主軸駆動装置、23,33 加工プログラム、24,34 センサデータ、25 ハンド駆動装置、41A,42A 付加製造経路、41F,42F 積層形状、46R1,46R2,47R1,47R2 除去製造経路、60 加工システム、90,93 処理回路、91 プロセッサ、92 メモリ、100,200 付加製造装置、101 自動搬送装置、102,202 除去製造装置、103,203 付加製造実行部、104,204 状態解析部、105,205 生産工程変更部、106,206 工程条件生成部、107,207 除去製造実行部。