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特許7612011制御装置および車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法
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  • 特許-制御装置および車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法 図1
  • 特許-制御装置および車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法 図2a
  • 特許-制御装置および車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法 図2
  • 特許-制御装置および車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】制御装置および車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20241227BHJP
   B60T 13/138 20060101ALI20241227BHJP
   B60T 17/22 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
B60T8/00 Z
B60T13/138 A
B60T17/22 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023524321
(86)(22)【出願日】2021-10-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-09
(86)【国際出願番号】 EP2021079483
(87)【国際公開番号】W WO2022096299
(87)【国際公開日】2022-05-12
【審査請求日】2023-04-20
(31)【優先権主張番号】102020213860.5
(32)【優先日】2020-11-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(74)【代理人】
【識別番号】100182626
【弁理士】
【氏名又は名称】八島 剛
(72)【発明者】
【氏名】ミュラー,ニコライ
(72)【発明者】
【氏名】グルーナゲル,ロビン
(72)【発明者】
【氏名】サイレル,マリオ
(72)【発明者】
【氏名】プリューガー,ニコ
(72)【発明者】
【氏名】フェルヒ,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】ルカ,マキシミリアン
【審査官】久米 伸一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-286271(JP,A)
【文献】特表2013-501671(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0166024(US,A1)
【文献】国際公開第2014/157327(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/076820(WO,A1)
【文献】独国特許出願公開第102013203189(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102012210429(DE,A1)
【文献】独国特許出願公開第102015204764(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00
B60T 13/138
B60T 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)のp-V特性を決定するための方法であって、
前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の上流側に配置されている前記ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪吸込弁(30a)および/または前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の上流側に配置されている前記ブレーキシステムの少なくとも1つの仕切弁(28a)を介してブレーキ液を前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内へ移動させることによって、前記ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内にある圧力(p)を測定時間インターバル(Δtmeasure)の間に上昇させ、その際に前記測定時間インターバル(Δtmeasure)の間に少なくとも1回、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内の現在の体積を表す体積量(x)を検出するとともに、これと同時に前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内の現在の圧力(p)を表す圧力量(p)を検出するステップと、
前記少なくとも1つの体積量(x)と前記少なくとも1つの圧力量(p)とを考慮して前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の前記p-V特性を確定するステップと、
を含んでいる前記方法において、
前記測定時間インターバル(Δtmeasure)の前にして少なくとも1つの圧力上昇インターバル(Δtincrease1,Δtincrease2)の間に、少なくとも、前記少なくとも1つの閉じている車輪吸込弁(30a)および/または前記少なくとも1つの閉じている仕切弁(28a)に作用させる圧力を、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配で25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力まで上昇させるステップ、
を設けたことを特徴とする方法。
【請求項2】
第1の圧力上昇インターバル(Δtincrease1)の間に、前記少なくとも1つの閉じている仕切弁(28a)によって画成された前記ブレーキシステムの部分体積部(48)内にある部分体積部圧力を、電動式ブレーキ増圧装置(12)の作動により、少なくとも25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力へ上昇させ、そして第2の圧力上昇インターバル(Δtincrease2)の開始時に、前記少なくとも1つの仕切弁(28a)を開き、これによってブレーキ液を50バール/秒よりも大きいかこれに等しい前記平均増圧勾配で前記部分体積部(48)から前記少なくとも1つの仕切弁(28a)を介して前記少なくとも1つの車輪吸込弁(30a)内へ移動させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも1つの圧力上昇インターバル(Δtincrease1,Δtincrease2)の後にして前記測定時間インターバル(Δtmeasure)の前に、ブレーキ液を前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)から前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の下流側に配置されている前記ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪排出弁(32a)を介して排出することによって、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内にある前記圧力(p)を圧力降下インターバル(Δtdecrease)の間に降下させる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内にある前記圧力(p)を、前記測定時間インターバル(Δtmeasure)の間に、35バール/秒よりも小さいかこれに等しい前記平均増圧勾配で上昇させる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも、前記少なくとも1つの閉じている車輪吸込弁(30a)および/または前記少なくとも1つの閉じている仕切弁(28a)に作用させる圧力を、前記少なくとも1つの圧力上昇インターバル(Δtincrease1,Δtincrease2)の間に、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい前記平均増圧勾配で25バールよりも大きいかこれに等しい前記限界圧力まで上昇させ、前記限界圧力は、前記少なくとも1つの車輪吸込弁(30a)に対し並列に配置されている少なくとも1つの逆止弁(46a)を密封するために十分であり、および/または、前記少なくとも1つの仕切弁(28a)を密封するために十分である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの圧力上昇インターバル(Δtincrease1,Δtincrease2)の前に、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内にある前記圧力(p)を、エアクリアランスクローズインターバル(Δtclearance)の間に40バールよりも大きいかこれに等しいエアクリアランス閉鎖圧力まで上昇させ、続いて前記少なくとも1つの圧力上昇インターバル(Δtincrease1,Δtincrease2)の前に、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内にある前記圧力(p)を、5バールよりも小さいかこれに等しい出発圧力へ減少させる、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
車両のブレーキシステム用制御装置(52)であって、
以下のために構成および/またはプログラミングされている電子機構(54)を備え、すなわち
-少なくとも、前記ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の上流側に配置される前記ブレーキシステムの車輪吸込弁(30a)および/または前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の上流側に配置される前記ブレーキシステムの少なくとも1つの仕切弁(28a)を切換えるために、
-ブレーキ液を前記少なくとも1つの車輪吸込弁(30a)および/または前記少なくとも1つの仕切弁(28a)を介して前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内へ移動させることによって、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内にある圧力(p)を測定時間インターバル(Δtmeasure)の間に上昇させるために、および
-前記測定時間インターバル(Δtmeasure)の間に決定される、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内の現在の体積を表す少なくとも1つの体積量(x)と、同時に決定される、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)内の現在の圧力(p)を表す少なくとも1つの圧力量(p)とを考慮して、前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)のp-V特性を確定するために、
構成および/またはプログラミングされている前記電子機構(54)を備えた前記車両のブレーキシステム用制御装置(52)において、
前記電子機構(54)がさらに以下のために構成および/またはプログラミングされ、すなわち前記測定時間インターバル(Δtmeasure)の前にして少なくとも1つの圧力上昇インターバル(Δtincrease1,Δtincrease2)の間に、少なくとも、前記少なくとも1つの閉じている車輪吸込弁(30a)および/または前記少なくとも1つの閉じている仕切弁(28a)に作用させる圧力を、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配で25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力まで上昇させるために、前記電子機構(54)が構成および/またはプログラミングされていることを特徴とする車両のブレーキシステム用制御装置(52)。
【請求項8】
前記電子機構(54)がさらに以下のために構成および/またはプログラミングされ、すなわち前記少なくとも1つの閉じている仕切弁(28a)によって画成された前記ブレーキシステムの部分体積部(48)内にある部分体積部圧力が、少なくとも第1の圧力上昇インターバル(Δtincrease1)の終了時に、電動式ブレーキ増圧装置(12)の作動により、少なくとも25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力へ上昇していることを、前記第1の圧力上昇インターバル(Δtincrease1)の間に生じさせるために、または、少なくとも1つの供給されたセンサ信号を用いて認知するために、そしてブレーキ液が50バール/秒よりも大きいかこれに等しい前記平均増圧勾配で前記部分体積部(48)から前記少なくとも1つの仕切弁(28a)を介して前記少なくとも1つの閉じている車輪吸込弁(30a)内へ移動させるように第2の圧力上昇インターバル(Δtincrease2)の開始時に前記少なくとも1つの仕切弁(28a)を開くために、前記電子機構(54)が構成および/またはプログラミングされている、請求項7に記載の制御装置(52)。
【請求項9】
前記電子機構(54)が以下のために構成および/またはプログラミングされ、すなわち前記部分体積部圧力が起動した前記電動式ブレーキ増圧装置(12)により少なくとも前記第1の圧力上昇インターバル(Δtincrease1)の終了時に少なくとも25バールよりも大きいかこれに等しい前記限界圧力まで上昇しているように、前記第1の圧力上昇インターバル(Δtincrease1)の間に前記電動式ブレーキ増圧装置(12)として、前記ブレーキシステム内に統合されている電動式プランジャー装置(12)、または、前記ブレーキシステムの少なくとも1つのポンプのポンプモータを起動させるために、前記電子機構(54)が構成および/またはプログラミングされている、請求項8に記載の制御装置(52)。
【請求項10】
請求項7~9のいずれか一項に記載の制御装置(52)と、
前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)と、
前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の上流側に配置されている前記少なくとも1つの車輪吸込弁(30a)および/または前記少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ(10a)の上流側に配置されている前記少なくとも1つの仕切弁(30a)と、を備えた車両用ブレーキシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法に関するものである。また、本発明は車両のブレーキシステム用制御装置および車両用ブレーキシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
図1aないし図1eは、車両固有のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定するための従来の処置態様を説明する座標系を示している。以下に説明する従来の処置態様は、国内の従来技術として本出願人に既知のものである。
【0003】
図1aないし図1eの座標系において、横軸はそれぞれ時間軸tである。図1aの座標系の縦軸により、車両固有のブレーキシステムの第1の車輪ブレーキシリンダ内にある圧力pが表されている(しかし、車両固有のブレーキシステムはさらに別の3つの車輪ブレーキシリンダを有している)。図1bの座標系の縦軸は、(第1の車輪ブレーキシリンダの上流側に配置されている)第1の車輪吸込弁に提供される制御信号の電流強さIinput1を示し、他方図1cの座標系の縦軸により、他の3つの車輪ブレーキシリンダの他の3つの車輪吸込弁に出力される制御信号の電流強さIinput2-4が表されている。対応的に、図1dの座標系の縦軸は、(第1の車輪ブレーキシリンダの下流側に配置されている)第1の車輪排出弁に提供される制御信号の電流強さIoutput1を示し、他方図1eの座標系の縦軸により、他の3つの車輪ブレーキシリンダの他の3つの車輪排出弁に出力される制御信号の電流強さIoutput2-4が表されている。車輪吸込弁は無電流で開いている弁であるのに対し、車輪排出弁は無電流で閉じている弁である。
【0004】
図1aの座標系で認められるように、ここで説明する従来の処置態様の場合、第1の車輪ブレーキシリンダ内にある圧力pは、測定時間インターバルΔtの間上昇する。第1の車輪ブレーキシリンダ内でのブレーキ圧上昇は、ブレーキ液が開弁制御されている第1の車輪吸込弁を介して第1の車輪ブレーキシリンダ内へ移動することによって生じ、他方他の3つの車輪吸込弁とすべての4つの車輪排出弁とは、測定時間インターバルΔtの間閉弁制御されている。測定時間インターバルΔtの間に少なくとも1回、第1の車輪ブレーキシリンダ内の現在の体積を表す体積量が検出されるとともに、これと同時に、第1の車輪ブレーキシリンダ内の現在の圧力pを表す圧力量が検出される。続いて、少なくとも1つの体積量と少なくとも1つの圧力量とに基づいて第1の車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定することができる。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、請求項1の構成要件を備えた、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための方法、請求項7の構成要件を備えた、車両のブレーキシステム用制御装置、請求項10の構成要件を備えた車両用ブレーキシステムを提供する。
【0006】
本発明は、たとえば少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの弾性および/または少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの剛性のような、車両のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を正確に誤差がないように決定するための改善された可能性を提供する。特に個々の車輪ブレーキシリンダ(その圧力伝達機構/ブレーキ管を含む)の車輪ごとの/車輪ブレーキシリンダごとのp-V特性は、本発明により(それぞれのブレーキシステムのすべての車輪ブレーキシリンダに対し)正確に確実に決定できる。本発明により提供される可能性により、p-V特性を自動的に決定/測定でき、または、p-V特性としてファイルされている値を少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの実際のp-V特性に対し自動的に適合させることができる。もし望ましければ、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの決定したまたは適合させたp-V特性を、その後ダイレクトに制御器または記憶ユニットに記憶させることができる。上述した従来の処置態様によれば、このような工程は、ブレーキシステムの個々の車輪ブレーキ管をねじ止めしなければならないため、および/または、特殊な高価な器具を必要とするため、確実に実施するにはそれぞれのブレーキシステムの開発・アプリケーションプロセスの間に工場内でしか可能でなかったが、本発明は工場外でも少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性の確実な決定を可能にする。本発明により提供される少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための可能性を利用する場合、車輪配管を開く必要がないので、従来の処置態様を実施している間にブレーキシステム内へ侵入する空気を何らかの脱気方式によって可能な限り除去するために、従来の脱気する必要性もなくなる。さらに、これにより、脱気方式を実施しているにもかかわらず、ブレーキシステム内にまだ空気の残留成分が留まるという従来のリスクもなくなる。なお、本発明により提供される少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための可能性の利用は高価な機器を必要としないことも指摘しておく。
【0007】
したがって、本発明により提供される少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するための可能性を利用すれば、工場内で自由な期限を使用できるまでの時間ロスも発生しない。上述した従来の処置態様を実施すると、それぞれの測定に対し6時間までの時間を必要とすることがあり、その間車両を他のテストに使用できないので、関連する時間ロスも頻繁に多くなる。これに対し、本発明による可能性は、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するために5分以下で済むことが多い。また、本発明は、車両に組付けられているブレーキシステムの少なくとも車輪ブレーキシリンダの品質と公差位置とをルーチンの実施によってコントロールするための可能性を提供する。
【0008】
本発明の更なる特別な利点は、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を、それを利用することにより、それぞれのブレーキシステムの作動中に何度も再決定/再補正することができ、しかもそのために工場を訪れる必要がないことにある。これはかなりのコスト節減を伴うものでもあり、この場合少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性の知識を何度も認証または補正することにより、それぞれのブレーキシステムのパフォーマンスを高レベルで保持することができる。したがって、本発明により、「真実の」p-V関係を何度も新たに求めることができ、これによってブレーキシステムでの老化作用の影響に対抗することができる(特に、それぞれのブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダにおいて新たに脱気を行う必要はない)。
【0009】
本方法の有利な実施形態では、第1の圧力上昇インターバルの間に、少なくとも1つの閉じている仕切弁によって画成されたブレーキシステムの部分体積部内にある部分体積部圧力を、ブレーキシステムのブレーキペダルに作用させるドライバーブレーキ力により、および/または、電動式ブレーキ増圧装置の作動により、少なくとも25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力へ上昇させ、第2の圧力上昇インターバルの開始時に、少なくとも1つの仕切弁を開き、これによってブレーキ液を50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配で部分体積部(48)から少なくとも1つの仕切弁(28a)を介して少なくとも1つの車輪吸込弁(30a)内へ移動させる。次の説明により明らかになるように、この段落で説明している処置態様は、圧力上昇インターバルの間に所望の圧力を順次少なくとも1つの仕切弁と少なくとも1つの車輪吸込弁とにおいて可能にさせ、この場合少なくとも1つの車輪吸込弁と、少なくとも1つの車輪吸込弁に対し並列に配置された少なくとも1つの逆止弁と、少なくとも1つの仕切弁とは、測定インターバルの間に少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内での圧力の上昇に影響しないように、確実に密封される。これは、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性のより正確でより確実な確定を可能にさせる。
【0010】
好ましくは、少なくとも1つの圧力上昇インターバルの後にして測定時間インターバルの前に、ブレーキ液を少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダから少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの下流側に配置されているブレーキシステムの少なくとも1つの車輪排出弁を介して排出することによって、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内にある圧力を圧力降下インターバルの間に降下させる。ブレーキ液を少なくとも1つの車輪排出弁を介して排出することは、圧力上昇インターバルの間に生じる少なくとも1つの車輪吸込弁、少なくとも1つの逆止弁および/または少なくとも1つの仕切弁の確実な密封に影響しない。
【0011】
特に、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内にある圧力を、測定時間インターバルの間に、35バール/秒よりも小さいかこれに等しい平均増圧勾配で上昇させることが可能である。このような「緩速な」圧力上昇は、少なくとも1つの体積量および同時に少なくとも1つの圧力量の正確な決定を可能にさせ、その結果p-V特性を非常に正確に確定可能である。
【0012】
本方法の更なる有利な実施形態では、少なくとも、少なくとも1つの閉じている車輪吸込弁および/または少なくとも1つの閉じている仕切弁に作用させる圧力を、少なくとも1つの圧力上昇インターバルの間に、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配で25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力まで上昇させ、この場合限界圧力は、少なくとも1つの車輪吸込弁に対し並列に配置されている少なくとも1つの逆止弁を密封するために十分であり、および/または、少なくとも1つの仕切弁を密封するために十分である。したがって、少なくとも1つの車輪吸込弁、少なくとも1つの逆止弁および/または少なくとも1つの仕切弁は、すでに測定時間インターバルの前にそのそれぞれの閉弁位置にあり、その結果測定時間インターバルで実施される少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へのブレーキ液の移動の間に、少なくとも1つの車輪吸込弁、少なくとも1つの逆止弁および/または少なくとも1つの仕切弁の不十分な密封のためにブレーキ液体積は「失われ」ない。これは、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ移動したブレーキ液体積のより正確な認知を可能にし、よってp-V特性のより正確でより確実な確定をも可能にする。
【0013】
本方法の有利な更なる構成として、少なくとも1つの圧力上昇インターバルの前に、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内にある圧力を、エアクリアランスクローズインターバルの間に40バールよりも大きいかこれに等しいエアクリアランス閉鎖圧力まで上昇させてよく、続いて少なくとも1つの圧力上昇インターバルの前に、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内にある圧力を、5バールよりも小さいかこれに等しい出発圧力へ減少させてよい。ここに記載した段落で説明している工程により、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのエアクリアランスがすでに測定時間インターバルの前に閉鎖されていることを保障可能であり、これによって画定したp-V特性の精度および正確性がさらに改善可能である。
【0014】
前述した利点は、対応する車両のブレーキシステム用制御装置を用いても保証可能である。この制御装置は、上述した方法の実施形態に従ってさらに構成を付加することができる。たとえば、電子機構はさらに以下のために構成および/またはプログラミングされていてよく、すなわち少なくとも1つの閉じている仕切弁によって画成されたブレーキシステムの部分体積部内にある部分体積部圧力が、少なくとも第1の圧力上昇インターバルの終了時に、ブレーキシステムのブレーキペダルに作用させるドライバーブレーキ力により、および/または、電動式ブレーキ増圧装置の作動により、少なくとも25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力へ上昇していることを、第1の圧力上昇インターバルの間に生じさせるために、または、少なくとも1つの供給されたセンサ信号を用いて認知するために、そしてブレーキ液が50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配で部分体積部から少なくとも1つの仕切弁を介して少なくとも1つの閉鎖した車輪吸込弁へ移動させるように第2の圧力上昇インターバルの開始時に少なくとも1つの仕切弁を開くために、電子機構は構成および/またはプログラミングされていてよい。特に、電子機構はさらに以下のために構成および/またはプログラミングされていてよく、すなわち部分体積部圧力が起動した電動式ブレーキ増圧装置により少なくとも第1の圧力上昇インターバルの終了時に少なくとも25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力まで上昇しているように、第1の圧力上昇インターバルの間に、電動式ブレーキ増圧装置として、ブレーキシステム内に統合されている電動式プランジャー装置、ブレーキシステムのブレーキマスタシリンダの上流側に配置されている電気機械式ブレーキ倍力装置、または、ブレーキシステムの少なくとも1つのポンプのポンプモータを起動させるために、電子機構は構成および/またはプログラミングされていてよい。
【0015】
さらに、上述した利点は、この種の制御装置と、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダと、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの上流側に配置されている少なくとも1つの車輪吸込弁および/または少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの上流側に配置されている少なくとも1つの仕切弁とを備えた対応する車両用ブレーキシステムの場合にも保証されている。ブレーキシステムも、上述した本方法の実施形態に従ってさらに構成を付加してよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
次に、図面を用いて本発明の更なる構成要件および利点を説明する。
図1a】車両固有のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定するための従来の処置態様を説明する座標系を示している。
図1b】車両固有のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定するための従来の処置態様を説明する座標系を示している。
図1c】車両固有のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定するための従来の処置態様を説明する座標系を示している。
図1d】車両固有のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定するための従来の処置態様を説明する座標系を示している。
図1e】車両固有のブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定するための従来の処置態様を説明する座標系を示している。
図2a】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するためのブレーキシステムの概略図である。
図2b】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2c】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2d】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2e】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2f】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2g】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2h】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2i】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2j】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図2k】ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
図3】制御装置の一実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図2aないし図2kは、ブレーキシステムの概略図およびブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定する方法の一実施形態を説明するための座標系を示している。
【0018】
図2aは、以下に述べる少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ10aのp-V特性を決定する方法を利用することができる、車両のブレーキシステムの一例を示している。しかしながら、以下に述べる方法の実施可能性は、図2aに概要を図示したタイプのブレーキシステムにも、それぞれのブレーキシステムを備えた車両/自動車の特殊な車両タイプ/自動車タイプにも限定されているものでないことを指摘しておく。すなわち、たとえば図2aに図示した、ブレーキシステムのちょうど4つの車輪ブレーキシリンダ10aないし10dの総数は、単に例示として解釈されるべきである。ブレーキシステムの第1のブレーキ回路には、第1の車輪ブレーキシリンダ10aと第2の車輪ブレーキシリンダ10bとが結合され、他方第3の車輪ブレーキシリンダ10cと第4の車輪ブレーキシリンダ10dとはブレーキシステムの第2のブレーキ回路に結合されている。
【0019】
以下に述べる方法では、第1の車輪ブレーキシリンダ10aの車輪ごとの/車輪ブレーキシリンダごとのp-V特性が決定される。しかしながら、以下に述べる方法は、他の3つの車輪ブレーキシリンダ10bないし10dに対しても対応的に実施することができる。もし望ましければ、以下に述べる処理手順を用いて、車輪ブレーキシリンダ10aないし10dのうちの1つ以上のp-V特性も決定してよい。このことは、もちろん、たとえば3軸車両のような4つの車輪ブレーキシリンダ10aないし10dよりも少ないまたは多い車輪ブレーキシリンダを備えた車両/自動車に対しても適用される。
【0020】
図2aないし図2kにより再現した本方法の実施形態は、たとえば、少なくとも第1の車輪ブレーキシリンダ10aのエアクリアランスを閉じることをもって開始するが、このため、いわゆるエアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの間に、少なくとも第1の車輪ブレーキシリンダ10a内にある圧力を、40バールよりも大きいかこれに等しいエアクリアランス閉鎖圧力まで上昇させる。もし望ましければ、エアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの間に、すべての車輪ブレーキシリンダ10aないし10dのブレーキライニング全部を、車輪ブレーキシリンダ10aないし10d内に生じた圧力上昇によって完全に印加させてよく、これによって車輪ブレーキシリンダ10aないし10dのエアクリアランスが以下に述べる方法ステップに影響しないことが保証される。エアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの間に少なくとも第1の車輪ブレーキシリンダ10a内に生じた圧力上昇は、特に80バールよりも大きいかこれに等しくてよく、たとえば120バールより大きいかこれに等しくてよく、殊に180バールよりも大きいかこれに等しくてよい。ただし、ここに挙げた数値は例示としてのみ解釈されるべきである。
【0021】
図2aに概要を図示したブレーキシステムは、エアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの間に少なくとも第1の車輪ブレーキシリンダ10a内でブレーキ増圧を生じさせるための電動式ブレーキ増圧装置として、たとえば電動式プランジャー装置12を有している。電動式プランジャー装置12は、殊にIPB装置(Integrated Power Brake)のような、特にブレーキシステム内に統合されたピストン・シリンダ装置であってよい。しかしながら、電動式プランジャー装置12の代わりに、または、これを補完するものとして、たとえばブレーキシステムのブレーキマスタシリンダ14の上流側に支持されている電気機械式ブレーキ倍力装置またはブレーキシステムの少なくとも1つのポンプのポンプモータのような他のタイプの電動式ブレーキ増圧装置を、エアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの間に少なくとも第1の車輪ブレーキシリンダ10a内でブレーキ増圧を生じさせるために利用または併用してよいことを指摘しておく。仮にブレーキシステムが電動式ブレーキ増圧装置を有していなくても、ブレーキシステムのブレーキペダル16に作用し、特にロッド距離センサ18を用いておよび/または距離差センサ20を用いて検出可能なドライバーブレーキ力を、少なくとも第1の車輪ブレーキシリンダ10a内で増圧を生じさせるために利用または併用してもよい。このとき、ドライバーブレーキ力から、通常コンピュータにファイルされている特性曲線を用いて、ドライバーブレーキ力により少なくともブレーキマスタシリンダ14内に生じた増圧を、および/または、ドライバーブレーキ力により移動した体積を、確実に査定することができる。したがって、ドライバーブレーキ力により移動した体積を測定するためのセンサの使用は必ずしも必要でないことが多い。場合によっては、それぞれの車両のドライバー或いは操作者または整備工は、光信号を用いて、音信号を用いて、および/または、画像表示を用いて、相応に大きなドライバーブレーキ力をその車両のブレーキペダル16に作用させるよう要求されることもある。
【0022】
図2bないし図2kの座標系は、横軸としてそれぞれ時間軸tを有している。図2bの座標系は縦軸として電動式プランジャー装置12の側部/内部にある圧力p12を有し、他方図2cの座標系の縦軸は電動式プランジャー装置12のピストンのその出発位置からの変位距離xを表示している。変位距離xは、たとえば電動式プランジャー装置12のモータ24のロータ位置センサ22を用いて決定することができる。オプションの態様では、電動式プランジャー装置12のモータ24は付加的にさらにモータ電流センサ26を備えていてよい。
【0023】
図2aの例では、電動式プランジャー装置12は第1の仕切弁28aを介してブレーキシステムの第1のブレーキ回路と結合され、且つ第2の仕切弁28bを介してブレーキシステムの第2のブレーキ回路と結合されている。図2dと図2eの座標系は、その縦軸を用いて、第1の仕切弁28aに出力される制御信号の電流強さI28aと、第2の仕切弁28bに出力される制御信号の電流強さI28bとを示している。図2aで認められるように、仕切弁28aと28bはそれぞれ無電流で閉じている弁である。
【0024】
さらに、図2aのブレーキシステムでは、各車輪ブレーキシリンダ10aないし10dの上流側にそれぞれ1つの車輪吸込弁30aないし30dが配置され、下流側にはそれぞれ1つの車輪排出弁32aないし32dが配置されている。車輪吸込弁30aないし30dが無電流で開いている弁であるのに対し、車輪排出弁32aないし32dは無電流で閉じている弁である。図2fの座標系の縦軸を用いて、第1の車輪ブレーキシリンダ10aの上流側に配置されている第1の車輪吸込弁30aに出力される制御信号の電流強さI30aが示されている。他の車輪吸込弁30bないし30dに提供される制御信号の電流強さI30b-30dは、図2gの座標系の縦軸を用いて再現されている。第1の車輪ブレーキシリンダ10aの下流側に配置されている第1の車輪排出弁32aは、図2hの座標系の縦軸を用いて電流強さI32aが図示されている制御信号により起動される。他の車輪排出弁32bないし32dの制御信号の電流強さI32b-32dは、図2iの座標系の縦軸を用いて示されている。
【0025】
図2aのブレーキシステムの第1のブレーキ回路は、さらに、第1の連結解除弁34aを介してブレーキマスタシリンダ10に結合され、他方その第2のブレーキ回路は、第2の連結解除弁34bを介してブレーキマスタシリンダ10に結合されている。図2aで認められるように、連結解除弁34aと34bはそれぞれ無電流で開いている弁である。図2jの座標系の縦軸は、第1の連結解除弁34aに出力される制御信号の電流強さI34aを示し、図2kの座標系の縦軸は、第2の連結解除弁34bに出力される制御信号の電流強さI34bを示している。両連結解除弁34aと34bを閉じることによって、すべての車輪ブレーキシリンダ10aないし10dがブレーキマスタシリンダ10から切り離され、この場合ブレーキペダル16を操作するドライバーは、場合によっては、シミュレータ結合弁36を介してシミュレータ38に介入して減速させることができる。オプションの態様では、ブレーキマスタシリンダ14はさらにリザーバー連結解除弁40を介してブレーキ液リザーバー42に結合されていてよい。予圧センサ44が同様にブレーキマスタシリンダ14に結合されていてよい。
【0026】
弁28a,28b,30aないし30d,32aないし32d,34a,34bを備えた図2のブレーキシステムの前述した構成に基づいて、エアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの間に電動式プランジャー装置12を用いてすべての車輪ブレーキシリンダ10aないし10dのエアクリアランスを閉じるため、ブレーキ液を、開いている仕切弁28aおよび28bと、開いている車輪吸込弁30aないし30dとを介して、車輪ブレーキシリンダ10aないし10d内へ移動させ、他方車輪排出弁32aないし32dおよび連結解除弁34aと34bは閉弁状態に保持または制御する。これは、図2dないし図2kの座標系を用いて再現されている。車輪ブレーキシリンダ10aないし10dのエアクリアランスを閉鎖することは、以下に述べる方法ステップを実施するうえで有利に再現可能な前提を提供するものの、しかしながら、ここで説明している方法の実施形態の1つのオプショナルな方法ステップでしかない。エアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの後、第1の車輪ブレーキシリンダ10a内の圧力を5バール以下かこれに等しい出発圧力へ低下させ、好ましくは大気圧に等しい出発圧力へ低下させる。
【0027】
ここで説明している方法の場合、少なくとも閉じている第1の車輪吸込弁30aおよび/または閉じている第1の仕切弁28aに作用させる圧力を、少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配により、25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力まで上昇させるのが特に有利である。限界圧力は特に40バールよりも大きいかこれに等しく、たとえば60バールよりも大きいかこれに等しく、殊に80バールよりも大きいかこれに等しくてよい。少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間での第1の車輪ブレーキシリンダ10a内における圧力上昇の平均増圧勾配は、60バール/秒よりも大きいかこれに等しく、たとえば70バール/秒よりも大きいかこれに等しく、殊に80バール/秒よりも大きいかこれに等しくてよい。特に、平均増圧勾配は、それぞれの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間にそれぞれの弁28aまたは30aで生じた圧力上昇を、それぞれの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の期間で割った商であってよい。
【0028】
少なくとも閉じている第1の車輪吸込弁30aおよび/または閉じている第1の仕切弁28aに作用させる圧力であって、25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力までの、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配を持った前記圧力により、少なくとも、第1の車輪吸込弁30aと、第1の車輪吸込弁30aに対し並列に配置されている第1の逆止弁46aと、第1の仕切弁28aとに対し、少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間に圧力付勢が発生し、その結果それらの弁体はそれぞれの弁座に対し押圧される。これにより、少なくとも第1の車輪吸込弁30aと第1の逆止弁46aと第1の仕切弁28aの(実質的に)液密な密封が生じる。その利点に関し以下でさらに立ち入ることにする。
【0029】
特に、25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力までの、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配を持った圧力は、閉じているすべての仕切弁28aと28bおよび閉じているすべての車輪吸込弁30aないし30dに対し、少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間作用させてよい。このケースでは、これにより、仕切弁28aと28bの圧力付勢と、車輪吸込弁30aないし30dおよびそれぞれの車輪吸込弁30aないし30dに対し並列に配置されているその逆止弁46aないし46dの圧力付勢との双方が発生し、これによってそれぞれの弁28aと28b,30aないし30d,46aないし46dの弁体がそのそれぞれの弁座に対し押圧され、このようにして弁28aと28b,30aないし30d,46aないし46dが密封される。特に、逆止弁46aないし46dの弁体がそのそれぞれの弁座に対し押圧されて、逆止弁46aないし46dは最適に閉弁する。この、特に比較的大きな増圧勾配により生じる弁28aと28b,30aないし30d,46aないし46dの密封は、その後に実施される第1の車輪ブレーキシリンダ10a内での増圧(以下でさらに説明する)の間、特に逆止弁46aないし46dでの製造公差のような製造公差により、確実に密封されなかった弁での漏れが発生し、これによって体積が「喪失」し得ることを阻止する。したがって、少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間に実施される複数の方法ステップは、p-V特性を正確に誤差なしに決定するための弁28aと28b,30aないし30d,46aないし46dの有利なプレコンディショニングを生じさせる。
【0030】
有利な態様では、ここで説明している方法の場合、まず第1の圧力上昇インターバルΔtincrese1の間に、ブレーキシステムの部分体積部48内にある部分体積部圧力を、少なくとも25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力まで上昇させる。部分体積部48とは、少なくとも閉じている第1の仕切弁28aによって(およびオプションの態様では、閉じている第2の仕切弁28bによっても)画成されている、ブレーキシステムの体積部と理解すべきであり、その結果少なくとも第1の仕切弁28aを開くことにより、部分体積部48から閉じている第1の車輪吸込弁30aへのブレーキ液の移動を生じさせることが可能である。したがって、上述した50バール/秒よりも大きいかこれに等しい比較的大きな平均増圧勾配は、第2の圧力上昇インターバルΔtincrese2の開始時に少なくとも第1の仕切弁28aと場合によっては第2の仕切弁28bをも開弁させることによって生じさせることができる。特に、このようにして比較的大きな平均圧力上昇勾配を持つ「急激な増圧」をすべての車輪吸込弁30aないし30dにおいて引き起こすことができる。ここで説明している処置態様により、電動式プランジャー装置12、使用される別タイプの電動式ブレーキ増圧装置、および/または、ブレーキペダル16に実際に作用するドライバーブレーキ力が、このように大きな勾配を生じさせるために適していない場合でも、比較的大きな平均圧力上昇勾配を持つ「急激な増圧」を発生させることができる。したがって、比較的パワーが小さなモータ24を備えた比較的コスト上好ましい電動式プランジャー装置12、或いは、コスト上好ましい別タイプの電動式ブレーキ増圧装置も、ここで説明している方法を実施するために有利に使用できる。ブレーキペダル16に作用するドライバーブレーキ力でさえも、ここで説明している有利な処置態様により、比較的大きな平均増圧勾配を生じさせるために利用することができ、このためにそれぞれの車両のドライバーは、場合によっては光信号を用いて、音信号を用いて、および、画像表示を用いて、ブレーキペダル16を操作するよう要求される。
【0031】
図2dないし図2kの座標系に基づいて認められるように、弁28a,28b,30aないし30d,32aないし32d,34a,34bを、少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の前に閉弁させる。その後、ここで説明している方法の場合、第2の圧力上昇インターバルΔtincrease2の開始時に仕切弁28aと28bをまず「急激に」開弁させ、このため車輪吸込弁30aないし30dとその逆止弁46aないし46dにおいて「急速な」増圧が生じ、これによって弁28a,28b,30aないし30d,32aないし32dを確実に密封させる。続いて、第1の車輪吸込弁30aも開弁させる。
【0032】
少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の後にして以下に説明する測定時間インターバルΔtmeasureの前に、第1の車輪ブレーキシリンダ10a内の圧力を圧力降下インターバルΔtdecreaseの間に降下させる。これは、ブレーキ液を第1の車輪ブレーキシリンダ10aから第1の車輪排出弁32aを介して排出させることによって行う。さらに、第1の連結解除弁34aを短時間開弁させてよい。これにより、圧力降下インターバルΔtdecreaseの間に閉じたままになっている弁28a,28b,30aないし30d,32aないし32dの密封は、圧力降下インターバルΔtdecreaseの間に実施される第1の車輪ブレーキシリンダ10a内での減圧によって影響を受けない。さらに、ブレーキ液を第1の車輪ブレーキシリンダ10aから第1の車輪排出弁32aを介して排出させることによって生じる第1の車輪ブレーキシリンダ10a内での減圧は、電動式プランジャー装置12の復帰を要求せず、その結果この時点で、電動式プランジャー装置12の漏らし孔が閉じている/閉じたままになっていることが保証されている。
【0033】
ここで述べている工程を実施した後、測定時間インターバルΔtmeasureの間に実施される第1の車輪ブレーキシリンダ10aのp-V特性の決定に対する最適な出発条件が得られている。エアクリアランスクローズインターバルΔtclearanceの間に実施される少なくとも第1の車輪ブレーキシリンダ10aのエアクリアランス閉鎖と、少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間に生じる少なくとも第1の車輪吸込弁30aと第1の逆止弁46aと第1の仕切弁28aとの密封とにより、エアクリアランス作用も漏出作用も、測定時間インターバルΔtmeasureの間に実施される第1の車輪ブレーキシリンダ10aのp-V特性の決定を阻害できないことが達成されている。
【0034】
特に、少なくとも第1の車輪吸込弁30aと第1の逆止弁46aと第1の仕切弁28aとは、低い圧力の印加時でもそれらに漏出が懸念されないように「しっかりと」密封されている。
【0035】
第1の車輪ブレーキシリンダ10aのp-V特性を決定するため、第1の車輪ブレーキシリンダ10a内にある圧力を、測定時間インターバルΔtmeasureの間に、電動式プランジャー装置12を用いてブレーキ液を第1の仕切弁28aと第1の車輪吸込弁30aとを介して第1の車輪ブレーキシリンダ10a内へ移動させることによって上昇させる。測定時間インターバルΔtmeasureの間に少なくとも1回、第1の車輪ブレーキシリンダ10a内の現在の体積を表す体積量xを検出するとともに、これと同時に第1の車輪ブレーキシリンダ10a内の現在の圧力を表す圧力量pを検出する。好ましくは、第1の車輪ブレーキシリンダ10a内にある圧力を、測定時間インターバルΔtmeasureの間に、35バール/秒よりも小さいかこれに等しい平均増圧勾配で上昇させる。これにより、第1の車輪ブレーキシリンダ10a内にある圧力のp-V経過を、圧力量pと体積量xとを同時に決定するための多数の測定ステップを用いて支障なく存続させることができる。
【0036】
圧力量pとして、たとえば第1の車輪ブレーキシリンダ10a内の圧力を圧力センサ50を用いて測定することができる。体積量xとして、電動式プランジャー装置12のピストンの出発位置からの変位距離xをたとえばモータ24のロータ位置センサ22を用いて決定することができる。第1の車輪ブレーキシリンダ10a内の現在の体積は、変位距離xと電動式プランジャー装置12のピストンの半径rとに基づいて算出することができる。したがって、体積流測定は必要ない。加えて、特に少なくとも1つの圧力上昇インターバルΔtincrease1およびΔtincrease2の間に生じる、少なくとも第1の車輪吸込弁30aと第1の逆止弁46aと第1の仕切弁28aとの密封により、変位距離xが(実質的に)第1の車輪ブレーキシリンダ10a内の現在の体積に対応することが保証されている。
【0037】
続いて、第1の車輪ブレーキシリンダ10aのp-V特性を、少なくとも1つの体積量xと少なくとも1つの圧力量pとを考慮して確定する。p-V特性として、個別値またはp-V特性曲線を選択的に確定してよい。ここでもう一度指摘しておくと、決定したp-V特性は車輪ごとの/車輪ブレーキシリンダごとのp-V特性であってよい。p-V特性として、たとえば第1の車輪ブレーキシリンダ10aの弾性Eを方程式(Gl.1)に従って、または、第1の車輪ブレーキシリンダ10aの剛性Σを方程式(Gl.2)に従って確定することができる。
【0038】
(Gl.1) E=(π*x*r/p)-K
【0039】
(Gl.2) Σ=(p/π*x*rΔV)-K’
【0040】
KとK’は、それぞれブレーキシステムの内部弾性によって定義づけされる補正値またはブレーキシステムの内部剛性によって定義づけされる補正値を表している。
【0041】
図3は、制御装置の一実施形態の概略図である。
【0042】
以下に説明する制御装置52の使用可能性は、特定のタイプのブレーキシステムにも、それぞれのブレーキシステムを備えた車両/自動車の特殊な車両タイプ/自動車タイプにも限定されていない。
【0043】
制御装置52は電子機構54を有し、その第1の従属ユニット56は、ブレーキシステムの少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの上流側に配置されているブレーキシステムの少なくとも1つの車輪吸込弁を切換えるために、および/または、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの上流側に配置されているそれぞれのブレーキシステムの少なくとも1つの仕切弁を切換えるために、構成および/またはプログラミングされている。第1の従属ユニット56は、特にそれぞれのブレーキシステムの圧力制御器起動部および弁起動部として形成/プログラミングされていてよい。第1の従属ユニット56は、とりわけ、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を決定するために実施される少なくとも1つの測定の前に、まず少なくとも1つの圧力上昇インターバルの間に、少なくとも、少なくとも1つの閉じている車輪吸込弁および/または少なくとも1つの閉じている仕切弁に作用する圧力を、50バール/秒よりも大きいかこれに等しい平均増圧勾配で、25バールよりも大きいかこれに等しい限界圧力まで上昇させるために構成および/またはプログラミングされている。ブレーキ液を少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ有利に移動させるための可能性についてはすでに上記に列挙した。この工程の後に初めて、第1の従属ユニット56は、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内にある圧力を、測定時間インターバルの間に、ブレーキ液を少なくとも1つの車輪吸込弁および/または少なくとも1つの仕切弁を介して少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内へ移動させることによって上昇させる。
【0044】
さらに、電子機構54の第2の従属ユニット58は、測定時間インターバルの間に決定されて少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内の現在の体積を表す少なくとも1つの体積量と、同時に決定されて少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダ内の現在の圧力を表す少なくとも1つの圧力量とを考慮して、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのp-V特性を確定するために構成および/またはプログラミングされている。体積量、圧力量、p-V特性に対する例はすでに上記した。たとえば記録した圧力信号および体積信号の処理は、たとえばMatlabまたはPytonのような適当なデータ評価プログラムを用いて行う。場合によっては、さらに電子機構54の第3の従属ユニット60が確定したp-V特性の妥当性チェックおよびデータ処理のために構成/プログラミングされていてよい。たとえば、第3の従属ユニット60を用いて、フィッティング曲線を使用することにより、p-V特性の曲線を算定することができる。最終的に得られたp-V特性および/またはさらに必要とされる中間値およびパラメータは、揮発性メモリ62か非揮発性メモリ64に選択的に記憶させることができる。
【0045】
少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダのP-V特性の決定は、手動トリガー66か無線トリガー68によって選択的に始動されていてよい。このとき、対応する始動信号70が制御装置52のすべての従属ユニット56,58,60へ出力される。
【0046】
特に車両が停止状態にあれば、ドライバーを刺激することなく、p-V特性の決定を行うことができる。続いて、少なくとも1つの車輪ブレーキシリンダの決定されたp-V特性を少なくとも1つのブレーキシステム制御部72へ出力することができる。場合によっては、決定されたp-V特性を車両内に表示させてもよいし、または、無線で工場へ送ってもよい。
【0047】
上述したプロセスは、p-V特性を再較正するために、ブレーキシステムの使用開始後さらに複数年実施することもできる。これは、ブレーキシステムのブレーキパフォーマンスおよび耐久性限界に対しポジティブに影響する。
【0048】
もし望ましければ、上述したプロセスの終了時に、さらに、4つのすべての車輪ブレーキシリンダ10aないし10dにおいて共通の増圧を発生させてよく、このためブレーキ液を、少なくとも開いている車輪吸込弁30aないし30dを介して、車輪排出弁32aないし32dが閉じているときに、4つの車輪ブレーキシリンダ10aないし10d内へ移送する。続いて、4つの車輪ブレーキシリンダ10aないし10dのp-V特性の総和を、4つのすべての車輪ブレーキシリンダ10aないし10dの1つの特定のp-V特性と比較し、これによって、ずれがあれば、個々の車輪測定の1つに漏れがあると認定することができる。
【符号の説明】
【0049】
10a-10d 車輪ブレーキシリンダ
12 ブレーキ増圧装置、電動式プランジャー装置
14 ブレーキマスタシリンダ
16 ブレーキペダル
28a-28b 仕切弁
30a-30d 車輪吸込弁
32a-32d 車輪排出弁
46a-46d 逆止弁
48 部分体積部
52 制御装置
54 電子機構
p 圧力量
x 体積量
Δtincrease1 第1の圧力上昇インターバル
Δtincrease2 第2の圧力上昇インターバル
Δtmeasure 測定時間インターバル
Δtdecrease 圧力降下インターバル
Δtclearance エアクリアランスクローズインターバル
図1
図2a
図2
図3