(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】電動機、圧縮機および冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
H02K 1/14 20060101AFI20241227BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20241227BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
H02K1/14 Z
H02K1/22 A
H02K1/18 B
(21)【出願番号】P 2023555941
(86)(22)【出願日】2021-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2021039592
(87)【国際公開番号】W WO2023073820
(87)【国際公開日】2023-05-04
【審査請求日】2023-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116964
【氏名又は名称】山形 洋一
(74)【代理人】
【識別番号】100120477
【氏名又は名称】佐藤 賢改
(74)【代理人】
【識別番号】100135921
【氏名又は名称】篠原 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100203677
【氏名又は名称】山口 力
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 勇二
(72)【発明者】
【氏名】矢部 浩二
(72)【発明者】
【氏名】東 優樹
【審査官】津久井 道夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/126053(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/205590(WO,A1)
【文献】特許第6949282(JP,B1)
【文献】国際公開第2020/110191(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/216168(WO,A1)
【文献】特開2017-204980(JP,A)
【文献】特開2018-186664(JP,A)
【文献】特開2014-107993(JP,A)
【文献】特開2020-174496(JP,A)
【文献】特開2008-172968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/14
H02K 1/22
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機に用いられる電動機であって、
軸線を中心とする環状のロータコアであって、前記軸線の方向に積層され
てカシメにより固定された電磁鋼板で構成されたロータコアと、前記ロータコアに取り付けられた永久磁石とを有するロータと、
前記圧縮機のシェルの内側に固定され、前記ロータコアを囲むステータコアであって、前記軸線の方向に積層され
てカシメにより固定された電磁鋼板で構成されステータコアと、前記ステータコアに巻き付けられ、アルミニウム線で構成された巻線とを有するステータと
を備え、
前記ステータコアは、その外周に、前記シェルの内周面との間で冷媒の通路を構成する凹部を有し、
前記凹部を流れる冷媒は、前記ステータコアの電磁鋼板の隙間を通って前記巻線を通過し、
前記ステータコアの前記電磁鋼板のカシメ深さが、前記ロータコアの前記電磁鋼板のカシメ深さよりも深く、
前記ステータコアの前記電磁鋼板の隙間L1と、前記ロータコアの前記電磁鋼板の隙間L2とが、L1>L2を満足し、
前記ステータコアの前記電磁鋼板の積層占積率O1と、前記ロータコアの前記電磁鋼板の積層占積率O2とが、O1<O2を満足する
電動機。
【請求項2】
前記ステータコアの前記電磁鋼板の厚さT1と、前記ロータコアの前記電磁鋼板の厚さT2とが、T1<T2を満足する
請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記ステータコアの前記電磁鋼板の厚さT1と、前記ロータコアの前記電磁鋼板の厚さT2とが、T1<T2<4×T1を満足する
請求項1または2に記載の電動機。
【請求項4】
前記ロータコアは、前記永久磁石が配置される磁石挿入孔と、前記磁石挿入孔と前記ロータコアの間に形成されるブリッジ部とを有し、
前記ブリッジ部が、前記軸線を中心とする径方向の幅Wを有し、
前記幅Wと、前記ステータコアの前記電磁鋼板の厚さT1とが、W<T1を満足する
請求項1から3までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項5】
エプスタイン試験において、周波数50Hz、最大磁束密度1.5Tの正弦波状の磁束密度変化を誘起した場合に、
前記ステータコアの前記電磁鋼板の単位重量当たりの鉄損密度W1と、前記ロータコアの前記電磁鋼板の単位重量当たりの鉄損密度W2とが、W1<W2を満足する
請求項1から
4までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項6】
前記ステータコアの前記電磁鋼板のシリコン含有量S1と、前記ロータコアの前記電磁鋼板のシリコン含有量S2とが、S1>S2を満足する
請求項1から
5までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項7】
前記ステータコアは、当該ステータコアの軸方向の一端から他端まで形成された貫通穴を有する
請求項1から
6までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項8】
前記ステータコアは、前記軸線を中心とする環状のヨークと、前記ヨークから前記軸線に向けて延在するティースとを有し、
前記貫通穴は、前記ヨークに形成されている
請求項
7に記載の電動機。
【請求項9】
前記巻線は、絶縁部を介して前記ステータコアに巻かれ、
前記貫通穴は、前記ステータコアの前記軸線の方向における端面で露出し、前記絶縁部によって塞がれていない
請求項
7または
8に記載の電動機。
【請求項10】
前記ティースの前記軸線の方向における一端面上で、前記巻線の互いに異なる層のコイルが交差している
請求項
8に記載の電動機。
【請求項11】
前記ステータコアは、前記軸線を中心とする環状のヨークと、前記ヨークから前記軸線に向けて延在するティースとを有し、
前記巻線は、前記ティースに突極集中巻きで巻かれている
請求項1から
10までのいずれか1項に記載の電動機。
【請求項12】
前記巻線は、前記ティースに整列巻きで巻かれている
請求項
11に記載の電動機。
【請求項13】
前記ステータコアは、環状に組み合わせられた複数の分割コアを有する
請求項1から
12までの何れか1項に記載の電動機。
【請求項14】
請求項1から
13までの何れか1項に記載の電動機と、
前記電動機によって駆動される圧縮機構と
を備えた圧縮機。
【請求項15】
請求項
14に記載の圧縮機と、凝縮器と、減圧装置と、蒸発器とを備えた
冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電動機、圧縮機および冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機は、永久磁石を有するロータと、巻線を有するステータとを有する。巻線には一般に銅線が用いられるが、より低コストのアルミニウム線が用いられる場合が増えている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開WO2017/126053(例えば、段落0017~0019参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、アルミニウム線は銅線よりも電気抵抗が高いため、巻線にアルミニウム線を用いると発熱量が増加する。発熱量の増加により巻線の温度が上昇すると、巻線の絶縁被膜等の損傷が生じる可能性がある。そのため、巻線の温度上昇を抑制することが望まれている。
【0005】
本開示は、上記の課題を解決するためになされたものであり、巻線にアルミニウム線を用いた場合の温度上昇を抑えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示による電動機は、圧縮機に用いられる。電動機は、軸線を中心とする環状のロータコアであって、軸線の方向に積層されてカシメにより固定された電磁鋼板で構成されたロータコアと、ロータコアに取り付けられた永久磁石とを有するロータと、圧縮機のシェルの内側に固定され、ロータコアを囲むステータコアであって、軸線の方向に積層されてカシメにより固定された電磁鋼板で構成されたステータコアと、ステータコアに巻き付けられ、アルミニウム線で構成された巻線とを有するステータとを備える。ステータコアは、その外周に、シェルの内周面との間で冷媒の通路を構成する凹部を有する。凹部を流れる冷媒は、ステータコアの電磁鋼板の隙間を通って巻線を通過する。ステータコアの電磁鋼板のカシメ深さは、ロータコアの電磁鋼板のカシメ深さよりも深く、ステータコアの電磁鋼板の隙間L1と、ロータコアの電磁鋼板の隙間L2とは、L1>L2を満足する。ステータコアの電磁鋼板の積層占積率O1と、ロータコアの電磁鋼板の積層占積率O2とは、O1<O2を満足する。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成によれば、ステータコアの電磁鋼板の積層占積率O1と、ロータコアの電磁鋼板の積層占積率O2とがO1<O2を満足するため、ステータコアの電磁鋼板間の空隙を通過する冷媒の量を、ロータコアの電磁鋼板間の空隙を通過する冷媒の量よりも多くすることができる。そのため、ステータコアの電磁鋼板間の空隙を通過した冷媒によって巻線の熱を放熱し、巻線の温度上昇を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1の電動機を示す横断面図である。
【
図2】実施の形態1のステータコアを示す横断面図である。
【
図3】実施の形態1の分割コアを示す横断面図である。
【
図4】実施の形態1のロータの一部を示す横断面図である。
【
図5】実施の形態1の電動機を示す縦断面図である。
【
図6】実施の形態1のステータコアおよびロータコアの電磁鋼板を示す模式図である。
【
図7】実施の形態1のステータコアの構成例を示す図(A),(B)である。
【
図8】実施の形態1の巻線の巻き付け方法を説明するための模式図である。
【
図9】実施の形態1の巻線の巻き付けパターンを示す模式図である。
【
図10】実施の形態1のステータにおけるステータコアと巻線との接触部を示す模式図である。
【
図11】比較例のステータにおけるステータコアと巻線との接触部を示す模式図である。
【
図12】実施の形態2におけるステータコアおよびロータコアの電磁鋼板を示す模式図である。
【
図13】実施の形態2における電磁鋼板の隙間の調整方法を説明するための模式図(A),(B)である。
【
図14】実施の形態2における電磁鋼板の隙間の調整方法を説明するための模式図(A),(B)である。
【
図15】実施の形態2のステータにおけるステータコアと巻線との接触部を示す模式図である。
【
図16】実施の形態3におけるステータコアおよびロータコアの電磁鋼板を示す模式図である。
【
図17】実施の形態3における電磁鋼板の鉄損の測定方法を示す斜視図(A)および平面図(B)である。
【
図18】各実施の形態の電動機が適用可能な圧縮機を示す縦断面図である。
【
図19】
図18の圧縮機を備えた冷凍サイクル装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
<電動機の構成>
まず、実施の形態1の電動機100について説明する。
図1は、実施の形態1の電動機100を示す横断面図である。
図1に示す電動機100は、永久磁石埋込型電動機であり、例えば圧縮機に用いられる。圧縮機については、
図18を参照して後述する。
【0010】
電動機100は、回転軸であるシャフト4を有するロータ5と、ロータ5を囲むように設けられたステータ1とを有する。ステータ1とロータ5との間には、例えば0.3~1.0mmのエアギャップが形成されている。ステータ1は、圧縮機の円筒状のシェル8の内側に組み込まれている。
【0011】
以下では、ロータ5の回転中心軸である軸線Axの方向を「軸方向」とする。軸線Axを中心とする径方向を「径方向」とする。軸線Axを中心とする周方向を「周方向」とする。軸線Axと平行な面における断面図を縦断面図とし、軸線Axに直交する面における断面図を横断面図とする。
【0012】
<ステータの構成>
ステータ1は、ステータコア10と、ステータコア10に巻かれた巻線2とを有する。
図2は、ステータコア10を示す断面図である。ステータコア10は、電磁鋼板101(
図5)を軸方向に積層し、カシメ部17,18(
図3)により固定したものである。電磁鋼板101の表裏面には、図示しない絶縁被膜がコーティングされている。電磁鋼板101の厚さは0.1~0.7[mm]であるが、これについては後述する。
【0013】
ステータコア10は、環状のヨーク11と、ヨーク11から径方向内側に延在する複数のティース12とを有する。ティース12は周方向に等間隔に形成されている。ティース12の数は、ここでは9であるが、9に限定されるものではない。
【0014】
ティース12は、その径方向内側に、周方向幅が他の部分よりも広い歯先部12aを有する。歯先部12aは、ロータ5(
図1)の外周に対向する。ティース12の歯先部12aとヨーク11との間の部分は延伸部12bと称し、周方向幅は一定である。周方向に隣り合うティース12の間には、スロット13が形成される。スロット13は、ティース12に巻かれる巻線2を収容する領域である。
【0015】
ステータコア10は、複数の分割コア9を環状に連結することにより形成される。分割コア9は、それぞれ1つのティース12を含むブロックである。分割コア9は、ヨーク11に形成された分割面15で分割されている。分割コア9の数はティース12の数と同数であり、ここでは9である。
【0016】
なお、ステータコア10は、分割コア9を環状に連結したものには限定されず、環状に打ち抜いた電磁鋼板を積層したものであってもよい。
【0017】
図3は、ステータコア10の1つの分割コア9を示す図である。分割コア9において、ヨーク11の外周11aには、凹部19が形成されている。凹部19により、ステータコア10とシェル8(
図1)との間に冷媒通路が構成される。凹部19は、ここではティース12の幅方向中心を通る径方向の直線E上に配置されているが、この位置には限定されない。
【0018】
ヨーク11には、貫通穴16が形成されている。貫通穴16は、ステータコア10の軸方向の一端から他端まで形成され、圧縮機の冷媒を通過させる。貫通穴16は、ティース12の幅方向中心を通る径方向の直線E上で、凹部19の径方向内側に配置されているが、この位置には限定されない。貫通穴16の断面形状は、ここでは半円形であり、弦の部分が凹部19に対向している。但し、貫通穴16の断面形状は半円形には限定されない。
【0019】
ヨーク11には、電磁鋼板101を互いに固定するカシメ部17およびカシメ部18が形成されている。カシメ部17は、貫通穴16の径方向内側に配置されており、カシメ部18は、貫通穴16の周方向両側に配置されている。但し、カシメ部17,18の配置は、これらの位置に限定されるものではない。カシメ部17は丸カシメであり、カシメ部18はVカシメであるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
図1に示すように、巻線2はマグネットワイヤで形成され、各ティース12に集中巻きで巻かれている。マグネットワイヤはアルミニウム線で構成されている。アルミニウム線は、アルミニウムで構成された導体を絶縁被膜で覆ったものである。
【0021】
巻線2を構成するマグネットワイヤ(ここではアルミニウム線)の線径は、例えば1.0mmである。1つのティース12への巻線2の巻き数は、例えば80ターンである。巻線2の線径および巻き数は、電動機100の要求特性(例えば回転数およびトルク)、供給電圧、およびスロット13の断面積に応じて設定される。
【0022】
ステータコア10と巻線2とを絶縁するため、絶縁部3が設けられている。絶縁部3は、ステータコア10の軸方向の両端に設けられたインシュレータ31と、スロット13の内面に設けられた絶縁フィルム32とを有する。
【0023】
インシュレータ31は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の樹脂で形成される。絶縁フィルム32は、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の樹脂で形成され、厚さは0.1~0.8[mm]である。巻線2は、インシュレータ21および絶縁フィルム32を介して、ティース12に巻き付けられる。
【0024】
<ロータ5の構成>
ロータ5は、軸線Axを中心とする環状のロータコア50と、ロータコア50に取り付けられた永久磁石55とを有する。ロータコア50は、電磁鋼板501(
図5)を軸方向に積層し、カシメ部58(
図4)により固定したものである。電磁鋼板501の表裏面には、図示しない絶縁被膜がコーティングされている。電磁鋼板501の厚さは0.1~0.7[mm]であるが、これについては後述する。
【0025】
ロータコア50の径方向の中心には中心孔54が形成されている。ロータコア50の中心孔54には、上記のシャフト4が、焼嵌めまたは圧入等により固定されている。ロータコア50は、また、円周状の外周50aを有する。
【0026】
ロータコア50の外周50aに沿って、複数の磁石挿入孔51が形成されている。各磁石挿入孔51には、永久磁石55が1つずつ配置されている。1つの磁石挿入孔51は1磁極に相当する。ロータコア50は6つの磁石挿入孔51を有するため、ロータ5の極数は6である。
【0027】
なお、ロータ5の極数は6に限定されるものではなく、2以上であればよい。また、各磁石挿入孔51に、2つ以上の永久磁石55を配置してもよい。各磁石挿入孔51は、V字状に延在していてもよい。
【0028】
永久磁石55は、ロータコア50の軸方向に長い平板状の部材であり、周方向に幅を有し、径方向に厚さを有する。各永久磁石55は、厚さ方向に着磁されている。永久磁石55は、例えば、ネオジウム(Nd)、鉄(Fe)およびボロン(B)を含む希土類磁石で構成されている。
【0029】
希土類磁石は、温度上昇と共に保磁力が低下する性質を有し、低下率は-0.5~-0.6[%/K]である。圧縮機で想定される最大負荷発生時に希土類磁石の減磁が生じないようにするためには、1100~1500[A/m]の保磁力が必要である。この保磁力を150℃の雰囲気温度下で確保するためには、常温すなわち20[℃]での保磁力が1800~2300[A/m]であることが必要である。
【0030】
そのため、希土類磁石には、ディスプロシウム(Dy)を添加してもよい。希土類磁石の常温での保磁力は、Dyを添加していない状態で1800[A/m]であり、2[重量%]のDyを添加することで2300[A/m]となる。但し、Dyの添加は製造コストの増加の原因となり、また残留磁束密度の低下を招くため、Dyの添加量をできるだけ少なくするか、またはDyを添加しないことが望ましい。
【0031】
図4は、ロータ5の一部を拡大して示す図である。磁石挿入孔51は、その周方向中心を通る径方向の直線に直交する方向に直線状に延在している。磁石挿入孔51の周方向の中心は、極中心Pである。極中心Pを通る径方向の直線を、極中心線と称する。隣り合う磁極の間には、極間Mが形成される。
【0032】
磁石挿入孔51の周方向両側には、空隙であるフラックスバリア52が形成される。フラックスバリア52とロータコア50の外周50aとの間には、薄肉部であるブリッジ部53が形成される。ブリッジ部53は径方向の幅Wを有するが、これについては後述する。
【0033】
磁石挿入孔51の径方向外側には、径方向に長いスリット59が形成されている。スリット59は、ロータ5の表面における磁束密度分布を制御するために形成されている。ここでは7つのスリット59が極中心線に対して対称に形成されているが、スリット59の数および配置は任意である。また、ロータコア50には、必ずしもスリット59を設けなくてもよい。
【0034】
磁石挿入孔51の径方向内側には、貫通穴56,57が形成されている。貫通穴56,57は、ロータコア50の軸方向の一端から他端まで形成されており、冷媒通路を構成する。貫通穴56の周方向位置は極中心Pと一致し、貫通穴57の周方向位置は極間Mと一致しているが、これらの位置に限定されるものではない。また、ロータコア50には、必ずしも貫通穴56,57を設けなくてもよい。
【0035】
電磁鋼板501を固定するカシメ部58は、極間Mに対応する周方向位置で、各フラックスバリア52よりも径方向内側に形成されている。但し、カシメ部58の配置は、この位置に限定されるものではない。なお、カシメ部58は、
図1では省略されている。
【0036】
<巻線2の温度上昇を抑制するための構成>
図5は、電動機100を示す縦断面図である。ステータコア10の軸方向両端には、上述したインシュレータ31が設けられている。インシュレータ31は、外周壁31aと、内周壁31cと、胴部31bとを有する。
【0037】
インシュレータ31の外周壁31aはヨーク11(
図3)上に位置し、内周壁31cはティース12の歯先部12a(
図3)上に位置し、胴部31bはティース12の延伸部12b(
図3)上に位置する。巻線2は胴部31bに巻かれ、外周壁31aと内周壁31cによって径方向両側からガイドされている。
【0038】
ステータコア10の軸方向の長さを、H1とする。ロータコア50の軸方向の長さを、H2とする。ここでは、ステータコア10の長さH1がロータコア50の長さH2よりも短い。すなわち、H1<H2が成立する。但し、このような構成に限らず、ステータコア10の長さH1がロータコア50の長さH2と同じか、あるいは長くてもよい。
【0039】
ステータコア10の外周すなわちヨーク11の外周11aは、圧縮機のシェル8の内周に固定される。ステータコア10とシェル8との間には、上述した凹部19(
図3)により冷媒通路が形成される。
【0040】
図6は、ステータコア10およびロータコア50の電磁鋼板101,501を示す模式図である。ステータコア10を構成する電磁鋼板101は、厚さT1を有する。ロータコア50を構成する電磁鋼板501は、厚さT2を有する。実施の形態1では、電磁鋼板101の厚さT1は、電磁鋼板501の厚さT2よりも薄い。すなわち、T1<T2が成立する。
【0041】
一例として、電磁鋼板101の厚さT1は0.35[mm]であり、電磁鋼板501の厚さT2は0.5[mm]である。
【0042】
ステータコア10の電磁鋼板101の積層隙間L1と、ロータコア50の電磁鋼板501の積層隙間L2とは、同じである(すなわちL1=L2)。積層隙間L1は、軸方向に隣り合う電磁鋼板101の隙間である。積層隙間L2は、軸方向に隣り合う電磁鋼板501の隙間である。積層隙間L1,L2はいずれも、10[μm]オーダー、すなわち10-2[mm]オーダーの値である。
【0043】
なお、隣り合う電磁鋼板101の隙間が、軸線Axに直交する面内で一定でない場合には、その平均値を積層隙間L1とする。同様に、隣り合う電磁鋼板501の隙間が、軸線Axに直交する面内で一定でない場合には、その平均値を積層隙間L2とする。
【0044】
実施の形態1では、ステータコア10の電磁鋼板101とロータコア50の電磁鋼板501とは同一の材質で形成されており、従ってシリコン含有量も同一である。電磁鋼板101,501のシリコン含有量が異なる例については、実施の形態3で説明する。
【0045】
ステータコア10の軸方向の単位長さ当たりの電磁鋼板101の占積率を、ステータコア10の積層占積率O1とする。積層占積率O1は、ステータコア10の軸方向の長さH1と、電磁鋼板101の厚さT1および枚数n1とから、O1=(T1×n1)/H1×100[%]で求められる。
【0046】
例えばステータコア10の積層占積率O1が90[%]の場合には、ステータコア10の軸方向長さの10[%]は空隙が占めていることになる。
【0047】
積層占積率O1を求める際には、まず電磁鋼板101の1枚の厚さT1を測定し、その後、n1枚の電磁鋼板101を積層してステータコア10を構成した後にステータコア10の長さH1を測定し、上記の式から積層占積率O1を算出する。
【0048】
また、ロータコア50の軸方向の単位長さ当たりの電磁鋼板501の占積率を、ロータコア50の積層占積率O2とする。積層占積率O2は、ロータコア50の軸方向の長さH2と、電磁鋼板501の厚さT2および枚数n2とから、O2=(T2×n2)/H2×100[%]で求められる。
【0049】
積層占積率O2を求める際には、まず電磁鋼板501の1枚の厚さT2を測定し、その後、n2枚の電磁鋼板501を積層してロータコア50を構成した後にロータコア50の長さH2を測定し、上記の式から積層占積率O2を算出する。
【0050】
ステータコア10の積層占積率O1は、ロータコア50の積層占積率O2よりも小さい。言い換えると、O1<O2を満足する。一例として、積層占積率O1は95[%]であり、積層占積率O2は97[%]である。
【0051】
ステータコア10の積層占積率O1がロータコア50の積層占積率O2よりも小さいため、軸方向の単位長さ当たりのステータコア10の電磁鋼板101間の空隙102の合計は、ロータコア50の電磁鋼板501間の空隙502の合計よりも多い。これにより、後述するようにステータコア10の内部を流れる冷媒の量が多くなり、巻線2の温度上昇を抑制する効果が得られる。
【0052】
なお、「積層隙間」という表現は、軸方向に隣り合う電磁鋼板の隙間[mm]を意味する。これに対し、「電磁鋼板間の空隙」いう表現は、軸方向に隣り合う電磁鋼板に挟まれた領域を意味する。
【0053】
<電動機の製造方法>
次に、実施の形態1の電動機100の製造方法について説明する。まず、プレス加工により、電磁鋼板101を、
図7(A)に示すように分割コア9が直線状に配列された形状に打ち抜く。
図7(A)に示した例では、各分割コア9は分割面15の外周側の連結部Cで互いに連結されている。但し、
図7(B)に示すように、各分割コア9が互いに離間していてもよい。
【0054】
その後、打ち抜かれた電磁鋼板101を軸方向に積層し、カシメ部17,18で固定して積層体を形成する。この積層体に絶縁部3を取り付け、各ティース12に巻線2を巻き付ける。
【0055】
巻線2の巻き付け方法には集中巻きと分布巻きがあるが、ここでは集中巻きを用いる。特に、巻線2を複数本のティース12に跨って巻き付けるのではなく、ティース12の1本ずつに巻き付ける。このような巻き付け方法は、突極集中巻きと呼ばれる。
【0056】
図8は、巻線2の巻き付け方法を説明するための模式図である。
図8は、インシュレータ31を軸方向の一方の側から見た図である。
図8では、周方向を矢印Aで示す。巻線2は、巻線ノズルにより、インシュレータ31および絶縁フィルム32(
図1)を介してティース12に巻かれる。
【0057】
巻線2の1層目は、矢印B1で示すように、インシュレータ31の内周壁31cから外周壁31aに向けて巻き付けられる。また、巻線2の2層目は、矢印B2で示すように、インシュレータ31の外周壁31aから内周壁31cに向けて巻き付けられる。なお、矢印B1,B2の方向は、逆であってもよい。
【0058】
図9は、巻線2の巻き付けパターンを示す、軸線Axに直交する面における断面図である。
図9では、周方向を矢印Aで示し、径方向を矢印Rで示す。また、巻線2の1層目、2層目、3層目、4層目の各コイルを、それぞれ符号C1,C2,C3,C4で示す。
【0059】
巻線2は、整列巻きで巻かれる。すなわち、nを1以上の整数とすると、第n層の2本のコイルCnに接するように、第n+1層の各コイルCn+1が配置される。巻線2が整列巻きで巻かれるため、巻線2とティース12との密着性が高くなる。
【0060】
ティース12の軸方向の一端面上には、巻線2の第n層のコイルCnと第n+1層のコイルCn+1とが交差するクロスポイントCPが存在する。一方、巻線2のうち、スロット13内に位置するコイルは、いずれも軸方向に延在している。そのため、巻線2とティース12の側面すなわちスロット13側の面との密着性が特に高くなる。
【0061】
このように巻線2を各ティース12に巻き付けたのち、分割コア9を環状に組み合わせる。
図7(A)に示したように各分割コア9が連結部Cで
連結されている場合には、配列方向の両端の分割コア9を分割面15で溶接する。また、
図7(B)に示したように各分割コア9が離間している場合には、それぞれの分割コア9を分割面15で互いに溶接する。
【0062】
以上の工程により、ステータコア10に巻線2が巻き付けられたステータ1が完成する。
【0063】
ステータ1の組み立てと平行して、ロータ5の組み立てを行う。具体的には、電磁鋼板501を軸方向に積層し、カシメ部58で固定してロータコア50を形成する。また、ロータコア50の磁石挿入孔51に永久磁石55を挿入する。必要に応じて、ロータコア50にバランスウェイトを取り付けてもよい。これにより、ロータ5が完成する。
【0064】
その後、ステータ1の内側にロータ5を組み込む。これにより、電動機100が完成する。なお、ここでは分割コア9のティース12に巻線2を巻き付け、その後に分割コア9を環状に組み合わせたが、環状のステータコア10のティース12に巻線2を巻き付けてもよい。
【0065】
<作用>
次に、実施の形態1の作用について説明する。
図10は、実施の形態1のステータ1におけるステータコア10と巻線2との接触部を示す模式図である。
図11は、比較例のステータ1Cにおけるステータコア10と巻線2との接触部を示す模式図である。
【0066】
図10,11はいずれも、ステータ1のスロット13(
図3)を径方向に横切る面で切断した断面である。径方向内側すなわちティース12の歯先部12a側を矢印Riで示し、径方向外側すなわちヨーク11側を矢印Roで示す。また、軸線Axの方向を、矢印Axで示す。
【0067】
図10,11のいずれにおいても、軸方向に隣り合う電磁鋼板101の間には、空隙102が形成される。圧縮機では、ステータコア10の凹部19(
図3)とシェル8との間の冷媒通路を冷媒が流れ、その冷媒の一部は矢印Fで示すようにステータコア10の空隙102を通って流れる。
【0068】
ステータコア10の空隙102を流れた冷媒は、径方向内側に流れて巻線2を通過する。この冷媒は、巻線2の熱を放熱する作用を奏する。なお、ステータコア10と巻線2との間には絶縁フィルム32が介在しているが、厚さが薄いため、冷媒による巻線2からの放熱作用への影響は少ない。
【0069】
図11に示す比較例のステータコア10の電磁鋼板101の厚さTcは、実施の形態1のステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1よりも厚い。そのため、実施の形態1では、ステータコア10の軸方向の単位長さ当たりの空隙102の数が、比較例よりも多い。すなわち、実施の形態1のステータコア10の電磁鋼板101の積層占積率O1は、比較例のステータコア10の電磁鋼板101の積層占積率Ocよりも小さい。
【0070】
積層占積率が小さいほど、軸方向の単位長さ当たりの空隙102の合計が大きくなり、従って空隙102を通って流れる冷媒の流量が多くなる。実施の形態1では、電磁鋼板101の厚さT1が薄く、従って積層占積率O1が小さいため、ステータコア10の空隙102を通って流れる冷媒の量が比較例よりも多い。
【0071】
巻線2は、銅線よりも電気抵抗が高いアルミニウム線で構成されているため、通電時の発熱量が多い。実施の形態1では、冷媒によって巻線2の熱を効率よく放熱することができ、これにより巻線2の温度上昇を抑制することができる。
【0072】
また、ステータコア10に貫通穴16(
図3)が形成されており、貫通穴16からも空隙102に冷媒が流入する。そのため、空隙102を流れる冷媒の量を増加させ、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0073】
ステータコア10における貫通穴16の数および配置は任意である。但し、貫通穴16はステータコア10内を流れる磁束の妨げになるため、磁束が集中して流れるティース12よりも、ヨーク11に形成することが望ましい。
【0074】
特に、
図3に示したように、貫通穴16が、ヨーク11においてティース12の周方向中心を通る径方向の直線E上に配置されていれば、冷媒流量を確保しながら、磁束を最も妨げないようにすることができる。
【0075】
また、
図1ではステータコア10の貫通穴16を塞ぐ位置にインシュレータ31が配置されているが、
図3に破線で示すように、貫通穴16を塞がない位置にインシュレータ31が配置されていれば(すなわち、貫通穴16が露出していれば)、冷媒が貫通穴16に流入しやすくなり、巻線2の温度上昇の抑制効果をさらに高めることができる。
【0076】
但し、貫通穴16がインシュレータ31(
図1)によって塞がれていても、凹部19から空隙102を経由して貫通穴16に冷媒が流入するため、冷媒による巻線2の温度上昇の抑制効果は得られる。
【0077】
また、一般に、電磁鋼板の厚さが薄いほど、電磁鋼板で発生する鉄損が小さくなる。実施の形態1では、ステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1がロータコア50の電磁鋼板501の厚さT2よりも薄いため、ステータコア10における鉄損を低減し、ステータコア10での温度上昇を抑えることができる。
【0078】
ステータコア10の温度上昇が抑えられるため、冷媒がステータコア10の空隙102を通過する際に加熱されにくくなる。そのため、冷媒による巻線2の放熱作用を強めることができ、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0079】
ここで、ステータコア10とロータコア50とを比較すると、ステータコア10で発生する鉄損はロータコア50で発生する鉄損よりも大きい。これは、ロータ5の回転時に、永久磁石55の磁束に対するステータコア10の相対位置が大きく変化するためである。
【0080】
一般に、ステータコア10で発生する鉄損は、ロータコア50で発生する鉄損の2倍~4倍であることが知られている。また、鉄損は、電磁鋼板の厚さの1乗~2乗に反比例することも知られている。そのため、ロータコア50の電磁鋼板501の厚さT2をステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1の√2倍~4倍に設定すれば、ステータコア10とロータコア50とで同等の鉄損が発生する。
【0081】
なお、下限値の√2倍は、ステータコア10で発生する鉄損がロータコア50で発生する鉄損の2倍で、且つ鉄損が電磁鋼板の厚さの2乗に反比例する場合の値である。上限値の4倍とは、ステータコア10で発生する鉄損がロータコア50で発生する鉄損の4倍で、且つ鉄損が電磁鋼板の厚さの1乗に反比例する場合の値である。
【0082】
一方、ロータコア50の電磁鋼板501の厚さT2がステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1の4倍を超えると、ロータコア50で発生する鉄損がステータコア10で発生する鉄損を上回る可能性がある。その結果、ロータコア50の熱がステータコア10に移り、巻線2の温度上昇の抑制効果が低下する可能性がある。そのため、厚さT1,T2は、T2<4×T1を満足することが望ましい。
【0083】
また、
図4に示したように、ロータコア50のフラックスバリア52と外周50aとの間のブリッジ部53の径方向幅Wは、ステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1以下であることがより望ましい。すなわち、W<T1が成立することが望ましい。この点について、以下に説明する。
【0084】
電動機100の駆動時には、回転速度に同期した周波数の電流がステータ1の巻線2に供給され、これにより回転磁界が発生し、ロータ5が回転する。このとき、ティース12からロータコア50に流れる磁束の一部は、ロータコア50のブリッジ部53を通って、隣接するティース12に戻る。すなわち、ブリッジ部53を通る短絡経路が形成される。
【0085】
短絡経路を流れる磁束はロータ5の回転に寄与しない上、ティース12の歯先部12aで鉄損を発生させる可能性がある。歯先部12aで鉄損が発生すると、ステータコア10の温度が上昇し、巻線2の温度上昇の抑制効果を低下させる可能性がある。そのため、短絡経路を流れる磁束を低減することが望ましい。
【0086】
ブリッジ部53内を軸方向に流れる磁束の範囲は、ステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1によって規制される。電磁鋼板101,501の表裏面には絶縁被膜がコーティングされており、ある1枚の電磁鋼板501を軸方向に流れた磁束は、軸方向に隣接する電磁鋼板501ではなく、ステータコア10の電磁鋼板101に流れるためである。
【0087】
これに対し、ブリッジ部53内を径方向に流れる磁束は、ブリッジ部53の径方向の幅Wによって規制される。ブリッジ部53の径方向の幅Wを上記の厚さT1よりも狭くすることにより、径方向の磁束の流れを抑制することができる。ステータコア10からロータコア50に向かう磁束が抑制される結果、短絡経路を流れる磁束を抑制し、巻線2の温度上昇の抑制効果の低下を抑えることができる。
【0088】
<実施の形態の効果>
以上説明したように、実施の形態1の電動機100では、ロータコア50と永久磁石55とを有するロータ5と、ステータコア10と巻線2とを有するステータ1とを備え、ステータコア10の電磁鋼板101の積層占積率O1と、ロータコア50の電磁鋼板501の積層占積率O2とが、O1<O2を満足する。そのため、ステータコア10の電磁鋼板101の間の空隙102を流れる冷媒の量を多くし、冷媒で巻線2の熱を奪うことにより、巻線2の温度上昇を抑制することができる。
【0089】
また、ステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1がロータコア50の電磁鋼板501の厚さT2よりも薄いため、軸方向の単位長さ当たりのステータコア10の空隙102の数が多くなり、これにより空隙102を通過する冷媒の量を多くすることができる。また、厚さT1を薄くすることで、ステータコア10における鉄損の発生を抑制することができ、ステータコア10の温度上昇を抑制することができる。その結果、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0090】
また、厚さT1と厚さT2とがT2<4×T1を満足するため、ロータコア50で発生する鉄損による温度上昇を抑制し、ロータコア50からステータコア10への熱移動による巻線2の温度上昇を抑制することができる。
【0091】
また、ロータコア50のブリッジ部53の径方向の幅Wが、ステータコア10の電磁鋼板101の厚さT1よりも薄いため、短絡経路を経由してティース12間を流れる磁束を抑制することができる。これにより、歯先部12aでの鉄損の発生を抑制し、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0092】
また、ステータコア10が、当該ステータコア10の軸方向の一端から他端まで形成された貫通穴16を有するため、圧縮機内の冷媒が貫通穴16を経由して空隙102に流入し易く、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0093】
さらに、ステータコア10が、圧縮機のシェル8の内周面との間で冷媒通路を構成する凹部19を有するため、圧縮機内の冷媒が凹部19を経由して空隙102に流入し易く、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0094】
また、巻線2がティース12に突極集中巻きで巻かれているため、巻線2とティース12との密着度を高めることができる。そのため、空隙102を通過した冷媒が巻線2により多く接するようになり、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0095】
また、ステータコア10が複数の分割コア9で構成されているため、分割コア9を環状に組み合わせる前に、ティース12に巻線2を巻き付けることができる。そのため、巻線ノズルの移動の自由度が大きく、巻線2を高密度に巻き付けることができる。これにより、巻線2とティース12との密着度を高め、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0096】
実施の形態2.
次に、実施の形態2について説明する。
図12は、実施の形態2におけるステータ1Aのステータコア10Aおよびロータ5Aのロータコア50Aを示す模式図である。実施の形態2では、ステータコア10Aの電磁鋼板101の積層隙間L1が、ロータコア50Aの電磁鋼板501の積層隙間L2よりも広い。すなわち、L1>L2が成立する。
【0097】
ステータコア10Aの電磁鋼板101の厚さT1は、ロータコア50Aの電磁鋼板501の厚さT2と同じである。すなわち、T1=T2が成立する。但し、実施の形態1のようにステータコア10Aの電磁鋼板101の厚さT1がロータコア50Aの電磁鋼板501の厚さT2より薄くてもよい。
【0098】
この実施の形態2においても、ステータコア10Aの電磁鋼板101の積層占積率O1は、ロータコア50Aの電磁鋼板501の積層占積率O2よりも小さい。すなわち、O1<O2が成立する。
【0099】
電磁鋼板101の積層隙間L1は、カシメ部17,18(
図3)を形成する際に調整することができる。カシメ部17,18は、いずれも電磁鋼板101をプレス加工することで形成される。
【0100】
図13(A)および(B)は、Vカシメであるカシメ部18を模式的に示す平面図および断面図である。電磁鋼板101の裏面に形成したV字状の凸部18aを、その下側の電磁鋼板101の表面に形成したV字状の凹部18bに嵌合させることで、複数の電磁鋼板101が互いに固定される。プレス加工時に凸部18aの突出量すなわち凹部18bの深さ(カシメ深さDと称する)を調整することにより、電磁鋼板101の積層隙間L1を調整することができる。
【0101】
図14(A)および(B)は、丸カシメであるカシメ部17を模式的に示す平面図および断面図である。電磁鋼板101の裏面に形成した円筒状の凸部17aを、その下側の電磁鋼板101の表面に形成した円筒状の凹部17bに嵌合させることで、複数の電磁鋼板101が互いに固定される。プレス加工時に凸部17aの突出量すなわち凹部17bの深さ(カシメ深さと称する)Dを調整することにより、電磁鋼板101の積層隙間L1を調整することができる。
【0102】
図13(A)~
図14(B)には、ステータコア10Aの電磁鋼板101のカシメ部17,18を示したが、ロータコア50Aの電磁鋼板501の積層隙間L2も同様に調整することができる。
【0103】
実施の形態2では、ステータコア10Aの電磁鋼板101のカシメ深さDを、ロータコア50Aの電磁鋼板501のカシメ深さDよりも深くすることで、電磁鋼板101の積層隙間L1を電磁鋼板501の積層隙間L2よりも広い構成を実現している。
【0104】
図15は、実施の形態2のステータ1
Aにおけるステータコア10Aと巻線2との接触部を示す模式図である。
図15は、スロット13を径方向に横切る面で切断した断面である。径方向内側すなわち歯先部12a側を矢印Riで示し、径方向外側すなわちヨーク11側を矢印Roで示す。また、軸線Axの方向を、矢印Axで示す。
【0105】
上記の通り、実施の形態
2のステータコア10Aの電磁鋼板101の積層隙間L1は、ロータコア50Aの電磁鋼板50
1の積層隙間L2(
図12)よりも広い。そのため、ステータコア10Aの空隙102を通って流れる冷媒の量を多くすることができ、これにより巻線2の温度上昇の抑制効率を高めることができる。
【0106】
上記の点を除き、実施の形態2の電動機は、実施の形態1の電動機100と同様に構成されている。
【0107】
以上説明したように、実施の形態2によれば、ステータコア10Aの積層隙間L1がロータコア50Aの積層隙間L2よりも広いため、ステータコア10Aの空隙102を通過する冷媒の量を多くし、巻線2の温度上昇を抑制することができる。
【0108】
ステータコア10Aの電磁鋼板101の厚さT1および積層隙間L1と、ロータコア50Aの電磁鋼板501の厚さT2および積層隙間L2との間には、実施の形態1ではT1<T2およびL1=L2が成立し、実施の形態2ではT1=T2およびL1>L2が成立した。しかしながら、これらの例には限定されず、T1<T2およびL1>L2の両方が成立してもよい。
【0109】
実施の形態3.
次に、実施の形態3について説明する。
図16は、実施の形態3におけるステータ1Bのステータコア10Bおよびロータ5Bのロータコア50Bを示す模式図である。実施の形態3では、ステータコア10Bの電磁鋼板101のエプスタイン試験による鉄損密度が、ロータコア50Bの電磁鋼板501よりも高い。
【0110】
図16では、実施の形態1と同様、ステータコア10Bの電磁鋼板101の厚さT1がロータコア50Bの電磁鋼板501の厚さT2より薄い。但し、実施の形態2で説明したようにステータコア10Bの積層隙間L1がロータコア50Bの積層隙間L2より広くてもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0111】
エプスタイン試験は、JIS_C2550に規定されている。
図17(A),(B)は、エプスタイン試験を説明するための模式図である。
図17(A)に示すように、エプスタイン試験では、電磁鋼板を短冊状に加工した試料7を用いる。試料7の幅は30mmであり、長さは280mmである。
【0112】
図17(B)に示すように、エプスタイン試験器は、絶縁性の樹脂で形成された巻枠65を有する。巻枠65は、4つの巻枠部66,67,68,69を正方形に組み合わせたものである。巻枠部66~69はいずれも長方形断面を有し、内側に空間を有する。
【0113】
巻枠部66~69の内側には、上述した枚数の試料7が井桁状に挿入され、磁路70が形成される。巻枠部66~69の外周には、コイル6がそれぞれ巻き付けられる。コイル6は、入力側の1次コイル61と、検出側の2次コイル62とを有する。1次コイル61と2次コイル62とは、同じ巻き数である。
【0114】
1次コイル61に入力する1次電流と1次電圧との積と、2次コイル62に入力する2次電流と2次電圧との積との差に基づき、試料7の鉄損を測定する。周波数50Hzで最大磁束密度1.5Tの正弦波状の磁束密度変化を誘起したときの単位重量当たりの鉄損を、鉄損密度[W/kg]と称する。
【0115】
実施の形態3では、ステータコア10Bの電磁鋼板101の鉄損密度W1が、ロータコア50Bの電磁鋼板501の鉄損密度W2よりも低い。すなわち、W1<W2が成立する。一例として、ステータコア10Bの電磁鋼板101の鉄損密度W1は2.0~2.5[W/kg]であり、ロータコア50Bの電磁鋼板501の鉄損密度W2は2.5~5.0[W/kg]である。
【0116】
ステータコア10Bの電磁鋼板101の鉄損密度W1をロータコア50Bの電磁鋼板501の鉄損密度W2よりも低くすることにより、ステータコア10Bで発生する鉄損を低減し、温度上昇を抑制することができる。これにより、ステータコア10Bの空隙102を通過する冷媒の温度上昇が生じにくくなる。その結果、冷媒による巻線2の熱の放熱作用を強めることができ、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0117】
このような鉄損密度W1,W2の差は、例えば、電磁鋼板101のシリコン含有量S1を、電磁鋼板501のシリコン含有量S2よりも多くする(すなわちS1>S2とする)ことで実現することができる。
【0118】
一例として、ステータコア10Bの電磁鋼板101のシリコン含有量S1は3.5[重量%]であり、ロータコア50Bの電磁鋼板501のシリコン含有量S2は3.3[重量%]である。電磁鋼板101,501のシリコン含有量S1,S2はいずれも、2.0~7.0[重量%]の範囲内であることが望ましい。
【0119】
電磁鋼板101,501のそれぞれのシリコン含有量S1,S2は、電磁鋼板101,501のグレードあるいは型番等の選択によって調整することができる。
【0120】
一般に、電磁鋼板のシリコン含有量が多いほど、エプスタイン試験による鉄損密度が低くなり、電磁鋼板で発生する鉄損が低減する。そのため、ステータコア10Bの電磁鋼板101のシリコン含有量S1をロータコア50Bの電磁鋼板501のシリコン含有量S2よりも多くすることにより、ステータコア10Bで発生する鉄損を低減し、温度上昇を抑制することができる。これにより、ステータコア10Bの空隙102を通過する冷媒の温度上昇が生じにくくなり、その結果、冷媒による巻線2の放熱作用を強め、巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0121】
以上説明したように、実施の形態3によれば、ステータコア10Bの電磁鋼板101のエプスタイン試験による鉄損密度W1が、ロータコア50Bの電磁鋼板501のエプスタイン試験による鉄損密度W2よりも低いため、ステータコア10Bで発生する鉄損を低減して温度上昇を抑制することができ、これによりステータコア10Bの空隙102を通過する冷媒による巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0122】
また、ステータコア10Bの電磁鋼板101のシリコン含有量S1が、ロータコア50Bの電磁鋼板501のシリコン含有量S2よりも多いため、ステータコア10Bで発生する鉄損を低減して温度上昇を抑制することができ、これによりステータコア10Bの空隙102を通過する冷媒による巻線2の温度上昇の抑制効果を高めることができる。
【0123】
<圧縮機>
図18は、各実施の形態の電動機が適用可能な圧縮機300を示す縦断面図である。圧縮機300は、ロータリ圧縮機であり、例えば冷凍サイクル装置400(
図19)に用いられる。
【0124】
図18は、圧縮機300を示す断面図である。圧縮機300は、ここではロータリ圧縮機であり、密閉容器307と、密閉容器307内に配設された圧縮機構301と、圧縮機構301を駆動する電動機100とを備えている。
【0125】
圧縮機構301は、シリンダ室303を有するシリンダ302と、電動機100のシャフト4と、シャフト4に固定されたローリングピストン304と、シリンダ室303内を吸入側と圧縮側に分けるベーン(図示せず)と、シャフト4が挿入されてシリンダ室303の軸方向端面を閉鎖する上部フレーム305および下部フレーム306とを有する。上部フレーム305および下部フレーム306には、上部吐出マフラ308および下部吐出マフラ309がそれぞれ装着されている。
【0126】
密閉容器307は円筒状の容器であり、
図1に示したシェル8を含む。密閉容器307の底部には、圧縮機構301の各摺動部を潤滑する冷凍機油(図示せず)が貯留されている。シャフト4は、軸受部としての上部フレーム305および下部フレーム306によって回転可能に保持されている。
【0127】
シリンダ302は、内部にシリンダ室303を備えており、ローリングピストン304は、シリンダ室303内で偏心回転する。シャフト4は偏心軸部を有し、その偏心軸部にローリングピストン304が嵌合している。
【0128】
電動機100のステータ1は、焼き嵌め、圧入または溶接等の方法により、密閉容器307のシェル8の内側に組み込まれている。ステータ1の巻線2には、密閉容器307に固定されたガラス端子311から電力が供給される。シャフト4は、ロータ5の中心孔54に固定されている。
【0129】
密閉容器307の外部には、アキュムレータ310が取り付けられている。アキュムレータ310には、吸入管314を介して冷媒回路から冷媒ガスが流入する。吸入管314から冷媒ガスと共に液冷媒が流入した場合には、液冷媒がアキュムレータ310内に貯留され、冷媒ガスが圧縮機300に供給される。
【0130】
密閉容器307には吸入パイプ313が固定され、この吸入パイプ313を介してアキュムレータ310からシリンダ302に冷媒ガスが供給される。また、密閉容器307の上部には、冷媒を外部に吐出する吐出パイプ312が設けられている。
【0131】
圧縮機300の冷媒としては、例えば、R410A、R407CまたはR22等を用いてもよいが、地球温暖化防止の観点からは、GWP(地球温暖化係数)の低い冷媒を用いることが望ましい。GWPの低い冷媒としては、例えば、以下の冷媒を用いることができる。
【0132】
(1)まず、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素、例えばHFO(Hydro-Fluoro-Orefin)-1234yf(CF3CF=CH2)を用いることができる。HFO-1234yfのGWPは4である。
(2)また、組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素、例えばR1270(プロピレン)を用いてもよい。R1270のGWPは3であり、HFO-1234yfより低いが、可燃性はHFO-1234yfより高い。
(3)また、組成中に炭素の二重結合を有するハロゲン化炭化水素または組成中に炭素の二重結合を有する炭化水素の少なくとも何れかを含む混合物、例えばHFO-1234yfとR32との混合物を用いてもよい。上述したHFO-1234yfは低圧冷媒のため圧損が大きくなる傾向があり、冷凍サイクル(特に蒸発器)の性能低下を招く可能性がある。そのため、HFO-1234yfよりも高圧冷媒であるR32またはR41との混合物を用いることが実用上は望ましい。
【0133】
圧縮機300の動作は、以下の通りである。アキュムレータ310から供給された冷媒ガスは、吸入パイプ313を通ってシリンダ302のシリンダ室303内に供給される。巻線2への電流供給によって電動機100が駆動されると、ロータ5と共にシャフト4が回転する。そして、シャフト4に嵌合するローリングピストン304がシリンダ室303内で偏心回転し、シリンダ室303内で冷媒が圧縮される。
【0134】
シリンダ室303で圧縮された冷媒は、吐出マフラ308,309を通り、さらにロータ5の貫通穴56,57(
図1)、並びにステータ1の貫通穴16および凹部19(
図3)を通って密閉容器307内を上昇する。密閉容器307内を上昇した冷媒は、吐出パイプ312から吐出され、冷凍サイクルの高圧側に供給される。
【0135】
なお、シリンダ室303で圧縮された冷媒には冷凍機油が混入しているが、ロータ5の貫通穴56,57あるいはステータ1の貫通穴16および凹部19を通過する際に、冷媒と冷凍機油との分離が促進され、冷凍機油の吐出パイプ312への流入が防止される。
【0136】
各実施の形態で説明した電動機100は、巻線2の温度上昇を抑制することができるため、長期間に亘って圧縮機300の高い信頼性を得ることができる。
【0137】
<冷凍サイクル装置>
次に、各実施の形態の電動機が適用可能な冷凍サイクル装置400について説明する。
図19は、冷凍サイクル装置400の構成を示す図である。冷凍サイクル装置400は、ここでは空気調和装置であるが、例えば冷蔵庫等であってもよい。
【0138】
冷凍サイクル装置400は、圧縮機300と、切り替え弁としての四方弁401と、冷媒を凝縮する凝縮器402と、冷媒を減圧する減圧装置403と、冷媒を蒸発させる蒸発器404とを備える。
【0139】
圧縮機300、凝縮器402、減圧装置403および蒸発器404は、冷媒配管407によって連結され、冷媒回路を構成している。また、圧縮機300は、凝縮器402に対向する室外送風機405と、蒸発器404に対向する室内送風機406とを備える。
【0140】
冷凍サイクル装置400の動作は、次の通りである。圧縮機300は、吸入した冷媒を圧縮して高温高圧の冷媒ガスとして送り出す。四方弁401は、冷媒の流れ方向を切り替えるものであるが、冷房運転時には、
図19に実線で示すように、圧縮機300から送り出された冷媒を凝縮器402に流す。
【0141】
凝縮器402は、圧縮機300から送り出された冷媒と、室外送風機405により送られた室外空気との熱交換を行い、冷媒を凝縮して液冷媒として送り出す。減圧装置403は、凝縮器402から送り出された液冷媒を膨張させて、低温低圧の液冷媒として送り出す。
【0142】
蒸発器404は、減圧装置403から送り出された低温低圧の液冷媒と室内空気との熱交換を行い、冷媒を蒸発させ、冷媒ガスとして送り出す。蒸発器404で熱が奪われた空気は、室内送風機406により室内に供給される。
【0143】
なお、暖房運転時には、四方弁401が、圧縮機300から送り出された冷媒を蒸発器404に送り出す。この場合、蒸発器404が凝縮器として機能し、凝縮器402が蒸発器として機能する。
【0144】
圧縮機300の駆動源として、実施の形態1~3で説明した電動機100を備えることにより、冷凍サイクル装置400の信頼性を向上することができる。なお、実施の形態1~3の電動機100を有する圧縮機は、他の冷凍サイクル装置に使用することもできる。
【0145】
以上、望ましい実施の形態について具体的に説明したが、本開示は上記の実施の形態に限定されるものではなく、各種の改良または変形を行なうことができる。
【符号の説明】
【0146】
1,1A,1B,1C ステータ、 2 巻線、 3 絶縁部、 4 シャフト、 5,5A,5B ロータ、 8 シェル、 9 分割コア、 10,10A,10B ステータコア、 11 ヨーク、 12 ティース、 12a 歯先部、 13 スロット、 16 貫通穴、 17 カシメ部(丸カシメ)、 18 カシメ部(Vカシメ)、 19 凹部、 31 インシュレータ、 50,50A,50B ロータコア、 51 磁石挿入孔、 52 フラックスバリア、 53 ブリッジ部、 55 永久磁石、 100 電動機、 101 電磁鋼板、 102 空隙、 300 圧縮機、 301 圧縮機構、 302 シリンダ、 307 密閉容器、 400 冷凍サイクル装置、 401 四方弁、 402 凝縮器、 403 減圧装置、 404 蒸発器、 501 電磁鋼板、 502 空隙。