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特許7612098植物性食材を強力に軟化させる方法、及び、その方法に用いる水溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】植物性食材を強力に軟化させる方法、及び、その方法に用いる水溶液
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20241227BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20241227BHJP
   A23L 11/00 20250101ALI20241227BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23L19/00 A
A23L11/00 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024157754
(22)【出願日】2024-09-11
【審査請求日】2024-09-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】524341719
【氏名又は名称】手塚 雅子
(73)【特許権者】
【識別番号】524339945
【氏名又は名称】森 強
(74)【代理人】
【識別番号】100140567
【弁理士】
【氏名又は名称】猪狩 充
(72)【発明者】
【氏名】手塚 雅子
(72)【発明者】
【氏名】森 強
【審査官】田畑 利幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-340061(JP,A)
【文献】特開2018-000182(JP,A)
【文献】特開2005-058186(JP,A)
【文献】特開2021-114906(JP,A)
【文献】丸田 和彦,特集 介護食品の高機能化に期待される素材開発,BIO INDUSTRY,第33巻 第8号,日本,株式会社シーエムシー出版(吉倉 広志),2016年08月12日,pp.3-10
【文献】ナガセヴィータ株式会社,【料理】トレハ(R) 使用量目安一覧 [online],2024年12月04日,pp.1-4,[retrieved on 2024-12-04], Retrieved from <https://treha.jp/recipe/cooking/amount/>,当該URLは INTERNET ARCHIVE (WayBack Machine) にて、2023年09月21日に公開されていることを確認。
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00- 5/30
A23L 11/00-11/70
A23L 19/00-19/20
A23L 29/00-29/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性食材を強力に軟化させるために使用する水溶液であって、重曹とトレハロースとを溶質とし、これら溶質の分量が、水100重量%に対して、重曹を1.0~2.0重量%、トレハロースを1.0~2.0重量%としたことを特徴とする水溶液。
【請求項2】
水100重量%に対し、1.0~2.0重量%の重曹と、1.0~2.0重量%のトレハロースとを溶かした水溶液を作った後、当該水溶液に植物性食材を浸漬してから加熱することによって、植物性食材を強力に軟化させる方法。
【請求項3】
前記植物性食材が野菜または豆類であることを特徴とする、請求項2に記載の植物性食材を強力に軟化させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性食材を嚥下食や介護食の食材として好適に利用できるようにするため、植物性食材を強力に軟化させる方法、及び、その方法に用いる水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
病院で患者に対して提供される食事、すなわち病院食は、患者の栄養状態を改善させる上で非常に重要であり、治療の一貫であるともされている。そして、病院食は、各患者の摂取機能の状態に合わせた内容での提供が要求されており、特に、嚥下機能が低下している高齢者等に対しては、嚥下食や介護食(以下、これらを「嚥下食等」という。)といった、柔らかく嚥下しやすい食事の提供が必要とされている。
【0003】
入院時に栄養を経口摂取できなかった高齢者等にとって、経管による栄養供与の期間をできるだけ短くし、一食でも早く充分な量の経口摂取を開始してもらうことは、予後の改善を図る上で極めて重要なこととされている。嚥下機能に合わない不適切な食事提供は、誤嚥性肺炎や栄養状態の低下を招き、合併症の併発、入院期間の延長などの問題が生じる要因となる。なお、入院期間の長期化は、医療費の増大や、病床、介護施設の不足を招くことにつながり、社会的問題に発展することも大きく懸念されている。
【0004】
そして今後、超高齢化社会を迎える中で、嚥下食等を必要とする高齢者等が、更に増加する見込みであること、また、嚥下食等は、病院以外にも、障害者施設、介護施設、在宅介護時の食事としても需要があることから、すでに多くの事業者によって、各種各様の嚥下食等が開発・製造され、市場に流通している。また、その市場は、今後も拡大する見込みである。
【0005】
ところが、このような従来の嚥下食等については、主に次のような二つの問題が存在していた。一つ目は、普通食と比べて非常に高価であるため、これらを毎回の食事のために購入し続けるのは、特に年金生活者が大多数である高齢者にとって、経済的な事情から非常に困難であるという問題である。
【0006】
二つ目は、従来の嚥下食等は、特に野菜が有している鮮やかな緑色等の彩りが無く、見た目の美味しさが損なわれているため、嚥下食等を食べる者に充分な食欲を与えることができず、栄養を摂取する上で充分な食事量を確保してもらうことが非常に困難であるという問題である。
【0007】
以上のような問題が存在することから、入院時に嚥下食等を適切に摂取することで栄養状態が改善し、退院出来た患者であっても、在宅での食事準備の負担が大きく、単一的に柔らかい食品に偏った食事を摂取するようになる。その結果、 必要栄養素の不足からの栄養状態低下、体重や筋肉の減少、歩行困難・寝たきりの生活といった要介護状態に陥り、自宅での生活が困難となる事例も多く経験した。そして、この問題は、一人暮らしの高齢者や老老介護の家庭では、特に陥りやすい問題であり、摂取量不足からの低栄養状態は、近年、関心が高まっている、フレイル、サルコペニアといった負の連鎖へと繋がることが示される。
【0008】
本願発明者は、以上で述べたような問題点を解消するため鋭意検討を重ねてきた。その結果、加熱調理の際に、重曹とトレハロースとを溶質とする水溶液を使って、植物性食材を軟化させることによって、以上で述べたような問題点を解決できるという知見を得、これに基づき、本発明を創作するに至った。
【0009】
なお、本願の発明者は、病院食を調理・提供する立場から、以上に述べたような問題を解決するために、以前より、嚥下食等の品質改善等の研究に真摯に取り組んできた。この研究の功績が認められ、2015年の嚥下食コンテストにおいては、グランプリを獲得した実績も有している。そして、本発明は、このグランプリ獲得の経験を踏まえ、「もっと手軽に、もっと安価で、もっと美味しく」というコンセプトのもと、コンテスト時の嚥下食を更に発展させたものとなっている。
【0010】
本発明を出願するにあたって、本願出願人(本願発明者)において過去の特許文献等を調査したところ、本発明の属する技術分野において、下記の文献を発見することができたが、本発明に係る技術的思想等を詳述した特許文献については発見することができなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2003-284522号公報
【文献】特開2013-220043号公報
【文献】特開2016-077256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、植物性食材を嚥下食や介護食の食材として好適に利用できるようにするため、植物性食材を強力に軟化させる方法、及び、その方法に用いる水溶液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そのための手段として、本発明に係る水溶液は、植物性食材を強力に軟化させるために使用する水溶液であって、重曹とトレハロースとを溶質とし、これら溶質の分量が、水100重量%に対して、重曹を1.0~2.0重量%、トレハロースを1.0~2.0重量%としたことを特徴としている。
【0014】
また、本発明に係る植物性食材を強力に軟化させる方法は、水100重量%に対し、1.0~2.0重量%の重曹と、1.0~2.0重量%のトレハロースとを溶かした水溶液を作った後、当該水溶液に植物性食材を浸漬してから加熱することを特徴としている。
【0015】
なお、本発明に係る植物性食材を強力に軟化させる方法は、前記植物性食材が野菜または豆類であることも特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、植物性食材を嚥下食や介護食の食材として好適に利用できるようにするため、植物性食材を強力に軟化させる方法、及び、その方法に用いる水溶液を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る植物性食材を強力に軟化させるために使用する水溶液を実施するための形態、及び、当該水溶液を使用して植物性食材を強力に軟化させる方法について説明する。
【0018】
まず、重曹とトレハロースとを用意し、これらを水に溶かして水溶液を得る。なお、この際の分量は、水100重量%に対して、重曹を1.0~2.0重量%、トレハロースを1.0~2.0重量%とする。
【0019】
次に、軟化をさせたい植物性食材を用意する。本実施形態では冷凍ほうれん草を用意した。この冷凍ほうれん草を容器に入れ、ここに先程得た水溶液を注ぎ入れる。この際、用意した冷凍ほうれん草の全体が浸るように水溶液を注ぎ入れることが好ましい。重量比でいうと、冷凍ほうれん草1に対し、水溶液を2~4程度とすることが好ましい。
【0020】
その後、冷凍ほうれん草を容器ごとスチームコンベクション内に入れ加熱する。この際の加熱条件は、スチーム95℃で30~40分を目安とする。加熱後に、ほうれん草がスプーンや指で潰せる程の柔らかさになったことを確認した後、ほうれん草をその形状が崩れないように容器から取り出し、別の容器に移す。
【0021】
次に、並べ置いたほうれん草を、容器のままブラストチラーに入れ粗熱を取る。こうすることで、ほうれん草の粗熱が取れ、その形状が崩れにくくなる。
【0022】
このようにして、本実施形態に係る水溶液を使用して、ほうれん草を強力に軟化させることができる。本実施形態に係る方法によって得られたほうれん草は、充分に軟化され、舌や歯茎だけも潰すことができ、非常に飲み込みやすくなっており、嚥下食等として好適なものとなっている。
【0023】
なお、以上の実施形態においては、植物性食材として冷凍ほうれん草を使用したが、ほうれん草以外にも、あらゆる植物性食材を使用することが可能である。とりわけ、本発明に係る方法や水溶液が効果を発揮するのは、ゴボウ(冷凍さきがきごぼうを含む)、切り干し大根、ひじき(乾燥ひじきを含む)等、繊維質が多く、長時間加熱をしても、舌や歯茎だけで潰せる程には柔らかくならない野菜に対してである。
【0024】
また、本発明に係る方法や水溶液を使用した場合、加熱調理をしても食材が呈する緑色が失われないという利点も得られる。そのため、本発明は、緑色の野菜や豆類等についても、好適に利用することができる。なお、このような緑色の野菜や豆類等として、例えば、きゅうり、グリーンピース、いんげん、青梗菜、ブロッコリー、小松菜等(これらの冷凍も含む)が挙げられる。
【0025】
さらに、以上の実施形態においては、スチームコンベクションを利用しているが、本発明においては、植物性食材を加熱調理する際に、重曹とトレハロースとを含む水溶液を利用することがもっとも大きな特徴となるので、スチームコンベクションを利用せずとも、加熱調理ができれば、本発明に係る効果を享受することができる。
【0026】
また、以上の実施形態においては、ブラストチラーも利用しているが、これも同様の理由で、利用は必須とはならない。粗熱を取る他の手段によっても、本発明に係る効果を享受することができる。但し、当然ながら、これらの機器を有効に活用することによって、より質の高い嚥下食等を容易に得ることができる。
【0027】
本発明において、特に大きな利点は、重曹とトレハロースという非常に安価で、入手も容易な食品添加物を利用するため、コストを掛けずに嚥下食等を製造することができるという点である。また、これらは、元々自然界に存在するものであって、以前より何ら問題無く使用されているものであるため、安全面での懸念もまったくないという利点も有る。
【実施例
【0028】
次に、以下に示す実施例により、本発明について更に詳細に説明を行う。
【0029】
[水溶液の準備]
重曹4.5gとトレハロース4.5gとを用意し、これらを水300mlに溶かして水溶液を得た。なお、実施例においては、基本的に、食材100gに対して、水溶液300mlを準備した。
【0030】
[実施例1:生きゅうり]
5mm幅にカットした生のきゅうりを100g用意し、これを容器に入れてから、準備した水溶液300mlを容器内に注ぎ入れた。きゅうり全体が水溶液に浸かっていることを確認した後、容器のままスチームコンベクションに入れ、スチーム95℃で、30分間加熱した。
【0031】
きゅうりが指で潰れる程の柔らかさになった事を確認した後、やさしくざるで水を切り、容器に入れ、ブラストチラーに入れて粗熱をとって形状を落ち着かせた。その後、調味液に浸して味を調えた。
【0032】
得られたきゅうりの外観は、綺麗な緑色を残したままであって、とても嚥下食等には見えなかった。また、これを試食したところ、外観からは想像できない柔らかさを有しており、嚥下食等として充分に利用できるものであった。
【0033】
[実施例2:冷凍グリンピース]
凍った状態の冷凍グリンピースを100g用意し、これを容器に入れてから、準備した水溶液300mlを容器内に注ぎ入れた。冷凍グリンピースが水溶液に浸かっていることを確認した後、容器のままスチームコンベクションに入れ、スチーム95℃で、40分間加熱した。
【0034】
冷凍グリンピースが指で潰れる程の柔らかさになった事を確認した後、容器から形状を崩さないように取り出し、調味液に浸して味を調えた。その後、ブラストチラーに入れて粗熱をとって形状を落ち着かせた。
【0035】
得られた冷凍グリンピースの外観は、綺麗な緑色を残したままであって、とても嚥下食等には見えなかった。また、これを試食したところ、外観からは想像できない柔らかさを有しており、嚥下食等として充分に利用できるものであった。
【0036】
[実施例3:冷凍ほうれん草]
凍った状態の冷凍ほうれん草を100g用意し、これを容器に入れてから、準備した水溶液300mlを容器内に注ぎ入れた。冷凍ほうれん草が水溶液に浸かっていることを確認した後、容器のままスチームコンベクションに入れ、スチーム95℃で、40分間加熱した。
【0037】
冷凍ほうれん草が指で潰れる程の柔らかさになった事を確認した後、容器の水分を切ってざるに入れて、ブラストチラーに入れて粗熱をとって形状を落ち着かせた。その後、調味液に浸して味を調えた。
【0038】
得られた冷凍ほうれん草の外観は、綺麗な緑色を残したままであって、とても嚥下食等には見えなかった。また、これを試食したところ、外観からは想像できない柔らかさを有しており、嚥下食等として充分に利用できるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、植物性食材を嚥下食や介護食の食材として好適に利用できるようにするため、植物性食材を強力に軟化させる方法、及び、その方法に用いる水溶液を提供することができる。また、本発明によれば、高価な酵素を使用しなくても、植物性食材を強力に軟化させることができるので、非常に安価に嚥下食等を提供することができる。
【0040】
さらに、本発明は、植物性食材を軟化させるために何日も必要とする含浸凍結法とは異なり、30分~1時間程度の短時間で、植物性食材を強力に軟化させることができる。また、本発明は、実施するための材料等も安価で入手しやすく、誰もが非常に簡単に実施できるという利点もある。
【要約】
【課題】 本発明は、植物性食材を嚥下食や介護食の食材として好適に利用できるようにするため、植物性食材を強力に軟化させる方法、及び、その方法に用いる水溶液を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る水溶液は、重曹とトレハロースとを溶質とし、これら溶質の分量が、水100重量%に対して、重曹を1.0~2.0重量%、トレハロースを1.0~2.0重量%としたことを特徴としている。また、本発明に係る植物性食材を強力に軟化させる方法は、水100重量%に対し、1.0~2.0重量%の重曹と、1.0~2.0重量%のトレハロースとを溶かした水溶液を作った後、当該水溶液に植物性食材を浸漬してから加熱することを特徴としている。
【選択図】 なし