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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】レーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/11 20230101AFI20241227BHJP
   H01S 3/16 20060101ALI20241227BHJP
【FI】
H01S3/11
H01S3/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024543067
(86)(22)【出願日】2024-04-08
(86)【国際出願番号】 JP2024014196
【審査請求日】2024-07-19
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003166
【氏名又は名称】弁理士法人山王内外特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大畠 伸夫
【審査官】高椋 健司
(56)【参考文献】
【文献】特表平11-500577(JP,A)
【文献】特開2004-342770(JP,A)
【文献】特開平04-290279(JP,A)
【文献】米国特許第05802086(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00 -3/02
H01S 3/04 -3/0959
H01S 3/10 -3/102
H01S 3/105-3/131
H01S 3/136-3/213
H01S 3/23 -4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励起光を吸収して発振光を放出するレーザ媒質を有するレーザ共振器と、
前記レーザ共振器の光学長を調整する光学長調整部と、
前記レーザ共振器から放出される発振光の発振タイミングに同期した制御信号を前記光学長調整部に送信する制御部とを備え
前記レーザ共振器の光学長は、前記光学長に基づいた定在波条件を満たす波長の間隔が、前記レーザ媒質の誘導放出断面積の幅よりも広くなる、光学長である
ことを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記レーザ共振器から放出される発振光の発振タイミングを測定する測定器を備え、
前記制御部は、前記測定器の測定結果に応じて、前記光学長調整部を制御する
ことを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記レーザ共振器の光学長の設計からのずれを補正する光学長補正部を備え、
前記制御部は、前記測定器の測定結果に応じて、前記光学長補正部を制御する
ことを特徴とする請求項2記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記光学長調整部は、前記レーザ共振器の外部に設けられる
ことを特徴とする請求項2記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記レーザ共振器は、
前記レーザ媒質の一端側に設けられ、発振光を全反射する第1のミラーと、
前記レーザ媒質の他端側に設けられ、発振光を部分反射する第2のミラーとを有し、
前記レーザ媒質に吸収された励起光は、前記第2のミラーで部分的に反射され、当該励起光を放射する励起光源に再結合されて、共振器内励起を行う
ことを特徴とする請求項1記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記レーザ媒質は、Nd3+イオンを添加したYAG、又は、Nd3+イオンを添加したYVOであり、
前記レーザ共振器の光学長は、往復1mm以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記レーザ媒質は、Nd3+イオンを添加したFluorapatiteであり、
前記レーザ共振器の光学長は、往復1.9mm以下である
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載のレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、レーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型で、且つ、高ピークパワーが出力可能なパルスレーザとして、非特許文献1に開示されたマイクロチップレーザがある。このマイクロチップレーザは、レーザ結晶に直接コーティングするなどの工夫により、共振器内から不要な構成要素及び空間を排している。このため、マイクロチップレーザは、レーザ共振器の光学長を短くすることで、短パルスを出力し、結果として、高ピークパワーのレーザパルスを得ることができる。
【0003】
短パルスを得るためには、レーザ共振器の光学長を短くすることが重要である。レーザ共振器には、光の供給が無くなったときに、共振器内の光がどの程度の時間保持されるかという、共振器寿命というパラメータがある。このため、レーザ共振器は、共振器寿命より短いレーザパルスを出力することは原則できない。この場合、モードロックレーザを除く。
【0004】
共振器寿命τは、ファブリペロー型のレーザ共振器を仮定した場合、光がレーザ共振器を1周伝搬するのに要する時間τと、レーザ共振器を構成する2枚のミラーの反射率R1,R2とを用いて、以下の式(1)で表すことができる。なお、レーザ共振器内における光学素子の損失は、無視できる程、小さいものと仮定する。レーザ共振器の光学長が長くなることで、時間τが長くなり、共振器寿命τも長くなることがわかる。即ち、短パルスを得るためには、共振器寿命τを短くすることが重要であり、レーザ共振器の光学長を短くする必要がある。
τ=-τ/ln(R1・R2)・・・(1)
【0005】
パルスレーザには、一般に、Qスイッチと呼ばれる素子が使用される。このQスイッチは、レーザ共振器の閉じ込めの強さを表すQ値を変えられる素子である。レーザ共振器のQ値が低い場合、レーザ共振器は、レーザを発振しにくくなるため、レーザ媒質には、エネルギーが蓄積される。エネルギーが十分にレーザ媒質に蓄積された後、レーザ共振器のQ値を高めることで、レーザの発振条件が満たされ、レーザ媒質に蓄えられたエネルギーが、一度に放出される。このため、パルスレーザは、パルス状のレーザを放出することができる。
【0006】
マイクロチップレーザにおいては、レーザ共振器の光学長を短くするため、受動Qスイッチと呼ばれる素子を用いることが多い。受動Qスイッチは、例えば、Cr:YAG結晶又は半導体による可飽和吸収ミラーといった可飽和吸収特性を持つ素子である。可飽和吸収特性とは、光子を吸収することで素子の光子に対する吸収が低下する性質である。可飽和吸収特性を持つ受動Qスイッチを内蔵したレーザ共振器においては、エネルギーがレーザ媒質に蓄えられることで放出される自然放出光が、ある程度以上の強さになると、受動Qスイッチの吸収率が大幅に低下する。このため、マイクロチップレーザは、レーザの発振条件が満たされ、パルス状のレーザを放出することができる。
【0007】
受動Qスイッチを用いたマイクロチップレーザには、パルスエネルギーが設計で決まってしまうため、狙ったタイミングでパルスを発振させることが困難であるという課題がある。これは、受動Qスイッチが作動する条件が物性で決まっているためである。例えば、励起光を強くした場合、一般的なQスイッチにおいては、パルスエネルギーが増大する。これに対して、受動Qスイッチレーザにおいては、パルスエネルギーは変わらず、繰り返し周波数が増加する。このため、特許文献1には、出力パルスの一部をモニタして、励起光強度を調整し、タイミング制御を行う手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】H. Sakai他, “>1 MW peak power single-mode high-brightness passively Q-switched Nd3+: YAG microchip laser,” Opt. Express 16, 19891-19899 (2008).
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2012-142523
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に開示された受動Qスイッチレーザ装置は、繰り返しパルスを前提としたものであって、完全に狙ったタイミングで、パルス発振ができない。また、特許文献1に開示された受動Qスイッチレーザ装置は、パルスエネルギーを制御することもできない。
【0011】
本開示は、上記のような課題を解決するためになされたもので、任意のタイミングでレーザパルスを発振させることができ、パルスエネルギーとパルス発振タイミングとを独立して制御することができるレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示に係るレーザ装置は、励起光を吸収して発振光を放出するレーザ媒質を有するレーザ共振器と、レーザ共振器の光学長を調整する光学長調整部と、レーザ共振器から放出される発振光の発振タイミングに同期した制御信号を光学長調整部に送信する制御部とを備え、レーザ共振器の光学長は、光学長に基づいた定在波条件を満たす波長の間隔が、レーザ媒質の誘導放出断面積の幅よりも広くなる、光学長である
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、任意のタイミングでレーザパルスを発振させることができ、パルスエネルギーとパルス発振タイミングとを独立して制御することができる
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態1に係るレーザ装置の構成を示す概略構成図である。
図2】実施の形態1に係るレーザ装置の他の構成を示す概略構成図である。
図3】レーザ共振器の往復光学長と定在波波長間隔との関係を示す図である。
図4】レーザ共振器の往復光学長と発振波長との関係を示す図である。
図5】実施の形態2に係るレーザ装置の構成を示す概略構成図である。
図6図6A及び図6Bは、レーザ共振器の光学長における時間経過の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示をより詳細に説明するために、本開示を実施するための形態について、添付の図面に従って説明する。
【0016】
実施の形態1.
実施の形態1に係るレーザ装置について、図1から図4を用いて説明する。
【0017】
図1は、実施の形態1に係るレーザ装置の概略構成図である。図1に示すように、実施の形態1に係るレーザ装置は、励起光源10、制御部60、及び、レーザ共振器100を備えている。
【0018】
励起光源10は、励起光11をレーザ共振器100に向けて放射する。レーザ共振器100は、放射された励起光11のエネルギーを発振光101に変換し、この変換した発振光101を放出する。
【0019】
レーザ共振器100は、第1のミラー20、レーザ媒質30、光学長調整部40、及び、第2のミラー50を有している。第1のミラー20は、励起光11の入射側に配置されている。第2のミラー50は、発振光101の放出側に配置されている。第1のミラー20、レーザ媒質30、及び、第2のミラー50は、レーザ共振器100の光路上に設けられている。
【0020】
レーザ媒質30及び光学長調整部40は、第1のミラー20と第2のミラー50との間に設けられている。レーザ媒質30は、第1のミラー20側に配置されており、光学長調整部40は、第2のミラー50側に配置されている。なお、レーザ媒質30と光学長調整部40とは、第1のミラー20と第2のミラー50との間に配置されていれば、それらの設置位置を、適宜、調整可能である。光学長調整部40は、第1のミラー20と第2のミラー50との間の光学長を調整する。
【0021】
制御部60は、光学長調整部40に対して、制御信号61を送信することで、当該光学長調整部40を、レーザ共振器100から放出される発振光101におけるレーザパルスの周期又は発振タイミングと同期させて制御する。
【0022】
励起光11には、レーザ媒質30に吸収される波長の光が用いられる。レーザ媒質30の吸収スペクトルが細い場合、励起光源10は、励起光11の波長安定化のため、温度調整されることがある。また、励起光11は、連続光でもパルス光でもよい。パルス光の場合、パルス発振タイミングを制御するため、制御部60からの制御信号61が、励起光源10に送信されていてもよい。更に、励起光11は、励起光源10から直接第1のミラー20に放射されてもよいし、光ファイバ等を通過してもよいし、レンズ等の光学素子を透過してもよい。
【0023】
第1のミラー20は、励起光源10とレーザ媒質30との間に設けられている。第1のミラー20は、発振波長に対しては高反射機能を有し、励起波長に対しては反射防止機能を有している。第1のミラー20は、例えば、誘電体多層膜によって形成されている。第1のミラー20は、レーザ媒質30の表面にコーティングされてもよいし、別体のガラス基板(図示なし)に付着されてもよい。第1のミラー20は、励起光11に対して、高い透過率を持ち、発振光101に対して、高い反射率を持っている。なお、第1のミラー20においては、現実には、100%の透過率、又は、100%の反射率を実現することは困難であるが、設計としてできる限り高い透過率、又は、高い反射率を目指して作られた第1のミラー20を、高い透過率、又は、高い反射率と呼称する。現実的には、99%以上のものを指す。
【0024】
レーザ媒質30は、励起光11を吸収し、発振光101の波長の光を放出、もしくは、増幅することが可能なものである。レーザ媒質30には、例えば、Nd3+イオンを添加したYttrium Aluminum Garnet (YAG)又はYVO、Fluorapatite (FAP)の結晶又はセラミック、Yb3+イオンを添加した同様の結晶又はセラミック、Er3+イオンを添加した同様の結晶又はセラミック、ガラス等が用いられる。
【0025】
第2のミラー50は、レーザ媒質30及び光学長調整部40に対して、第1のミラー20の反対側に設けられている。第2のミラー50は、発振波長に対して、所定の反射率を有する部分反射機能を有している。第2のミラー50は、例えば、誘電体多層膜によって形成されている。第2のミラー50は、レーザ媒質30の表面にコーティングされてもよいし、別体のガラス基板(図示なし)に付着されてもよい。第2のミラー50は、発振光101に対して、部分的な反射率を持っている。励起光11に対して、レーザ媒質30の吸収率が十分でない場合、第2のミラー50は、高い反射率とし、励起光11を往復させることで、吸収率を稼ぐことが望ましい。また、励起光11に対して、レーザ媒質30の吸収率が十分である場合は、第2のミラー50は、励起光11に対してどのような反射率であってもよい。
【0026】
励起光11に対して高反射の第2のミラー50を用い、励起光11を往復させても、レーザ媒質30の吸収率が十分ではない場合、実施の形態1に係るレーザ装置は、励起光11を共振させて、レーザ媒質30を複数回往復させる。このため、実施の形態1に係るレーザ装置は、レーザ媒質30における励起光11の吸収を高めることができる。この場合、励起光源10から放射された励起光11が、第2のミラー50で部分的に反射して励起光源10へ向かう際、その光軸がずれないように、第2のミラー50が励起光11の光軸に垂直となるように配置される。このため、レーザ媒質30で吸収されなかった励起光11が、励起光源10へ戻る。
【0027】
励起光11は、励起光源10の端面で反射されるか、或いは、励起光源10内部に再結合し、再びレーザ媒質30に向かって放出される。このため、実施の形態1に係るレーザ装置は、励起光11をレーザ媒質30に複数回通過させることで、励起光11を十分にレーザ媒質30に吸収させることができる。励起光源10内部に励起光11の反射光が再結合した場合は、共振器内励起と呼ばれ、レーザ媒質30の吸収率が低い場合でも、高い効率でレーザ媒質30を励起することができる。実施の形態1に係るレーザ装置では、薄いレーザ媒質30を使用するので、共振器内励起が有効である。
【0028】
レーザ共振器100は、第1のミラー20と第2のミラー50との間に、レーザ媒質30を備える。光学長調整部40は、レーザ共振器100の光学長、即ち、第1のミラー20と第2のミラー50との間の光学長を調整する。光学長は、光が移動する時間に真空中の光速を掛けたもので、実際の長さに光の屈折率を乗じることで計算される。
【0029】
したがって、光学長調整部40は、実際の長さを調整できるものでもよいし、屈折率を変化させられる機構であってもよい。光学長調整部40の例としては、電気光学素子(EO素子)、磁気光学素子(MO素子)、温調素子、圧電素子、MEMS等が考えられる。
【0030】
電気光学素子のように、屈折率を用いてレーザ共振器100の光学長を調整する光学長調整部40を用いる場合、図1に示すように、光学長調整部40は、レーザ共振器100の内部に配置される。
【0031】
図2は、実施の形態1に係るレーザ装置の他の構成を示す概略構成図である。圧電素子等のように、物理長でレーザ共振器100の長さを調整する光学長調整部40を用い、且つ、当該光学長調整部40が発振光101に対して不透明である場合、図2に示すように、光学長調整部40は、レーザ共振器100の外部に配置される。また、光学長調整部40が温度による熱膨張又は屈折率の温度依存性を利用する場合、光学長調整部40は、ヒーター又はペルチェ素子となり、レーザ共振器100の外部に配置される。この場合、光学長調整部40は、レーザ媒質30の温度を調整することで、レーザ共振器100の長さを制御する。
【0032】
図2に示すように、光学長調整部40が圧電素子である場合、第2のミラー50もしくはその保持具が、レーザ共振器100の外部まで伸び、その伸びた部分に、光学長調整部40が設けられている。
【0033】
ここで、レーザ共振器100には、光学長に基づいた定在波条件が存在しており、この条件を満たす波長λ以外の光を効率よく蓄積することができない。レーザ共振器100の光学長をLとし、任意の整数をmとすると、定在波条件を満たす波長λは、以下の式(2)で表すことができる。なお、波長は真空中での波長を指す。
2L=mλ・・・(2)
【0034】
式(2)から明らかなように、定在波条件を満たす波長λの間隔は、レーザ共振器100の光学長Lが小さい程広くなる。この間隔は、Free Spectral Range (FSR)といい、周波数域において一定の間隔となる。この周波数間隔νFSRは、以下の式(3)で表すことができる。なお、波長λと周波数νとの間には、λ=c/νの関係性がある。
νFSR=c/2L・・・(3)
【0035】
一方、レーザ媒質30の中でも、例えば、市販のレーザで良く使用される、Nd3+イオンを添加したYAI12(Nd:YAG)は、誘導放出のスペクトル幅が狭いことで知られている。非特許文献2によれば、Nd:YAGで使用される1064nmのピーク幅は、1.1nmである。レーザ媒質30は、Nd:YAG結晶、もしくは、誘導放出のスペクトル幅が狭いレーザ媒質であればよい。例えば、非特許文献2によれば、Nd:YVOも、Nd:YAGと同様に、1.1nmのピーク幅を持つ。また、Nd:FAPは、0.6nmのピーク幅を持つ。Nd:YVO及びNd:FAPは、複屈折性を持つため、直線偏光のレーザ出力が得られることから、直線偏光の出力を得たい場合には適している。
【0036】
【文献】T. Taira, “RE3+-Ion-Doped YAG Ceramic Lasers,” IEEE J. Sel. Top. Quant. Electron. 13, 798 (2007).
【0037】
図3は、レーザ共振器100の往復光学長と定在波波長間隔との関係を示す図である。この図3は、式(2)から波長1064nm前後における、定在波条件を満たす波長λの間隔と往復光学長との関係を示している。図3の横軸は、レーザ共振器100の往復光学長を示し、図3の縦軸は、定在波波長間隔を示している。図3に示すように、レーザ共振器100の往復長が、1mm以下になると、定在波条件を満たす波長λの間隔は、1.1nm以下となることがわかる。
【0038】
図4は、レーザ共振器100の往復光学長と発振波長との関係を示す図である。この図4は、1mm前後で往復光学長が変化したときの変化量と、定在波条件を満たす波長λとの関係を示している。図4の横軸は、レーザ共振器100の往復光学長を示し、図4の縦軸は、発振波長を示している。非特許文献2によれば、Nd:YAGの波長1064nm付近における誘導放出断面積のピーク幅は、1064.2nmであるため、共振器の光学長が1.00035mmのとき、丁度、定在波条件と誘導放出断面積のピーク幅とが一致する。一方、共振器の光学長が0.9998mmになると、波長λが1064.75nm又は1063.62nmで定在波条件を満たすことから、定在波条件を満たす波長λが、誘導放出断面積のピーク波長と、1.1nmの半分に相当する0.55nm分離してしまう。このため、共振器の光学長が1.00035mmのときと比較して、ゲインが大きく低下することになる。
【0039】
実施の形態1に係るレーザ装置は、レーザ共振器100の往復光学長を約1mmとすることで、その光学長を0.55μm(1.00035mm-0.9998mm=0.00055mm)というわずかな変化により大きくゲインを変化させている。このため、実施の形態1に係るレーザ装置は、任意のタイミングでレーザパルスを発振させることができる。即ち、レーザ共振器100の光学長が0.9998mmの状態においては、定在波条件を満たす波長λの光のゲインが小さいため、Nd:YAG結晶にエネルギーを十分蓄えることが可能となる。エネルギーを十分蓄えた後、光学長調整部40が、レーザ共振器100の光学長を1.00035mmとすることで、定在波条件を満たす波長λの光のゲインが高まり、レーザパルスが発振する。
【0040】
このレーザパルスが発振されるタイミングは、制御部60から光学長調整部40に送信される制御信号61によって、任意に設定されるタイミングで、レーザ発振させることが可能である。実施の形態1に係るレーザ装置は、レーザ共振器100の外部に設けられる制御部60によって、ゲインを変化させることで、レーザをパルス発振させることから、ゲインスイッチレーザと考えることができる。このため、実施の形態1に係るレーザ装置は、程度はあるものの、励起光11の強度でパルスエネルギーも調整することができ、パルスエネルギーとレーザパルス発振タイミングとを独立して制御することができる。したがって、制御部60から送信される制御信号61は、発振光101のレーザパルス発振タイミングに合わせて変動する信号となる。
【0041】
なお、レーザ共振器100の光学長は、往復1mmに限定されるものではなく、式(2)で計算できる定在波条件を満たす波長λの間隔と、使用するレーザ媒質30の誘導放出断面積のピーク幅とで決まる。即ち、レーザ媒質30のピーク幅が狭ければ、レーザ共振器100の光学長は長くてもよく、レーザ媒質30のピーク幅が広ければ、レーザ共振器100の光学長を短くする必要がある。ここでは、レーザ媒質30の誘導放出断面積のピーク幅よりも、定在波条件を満たす波長λの間隔が広くなるように、レーザ共振器100の光学長を設定する。例えば、非特許文献2によれば、Nd:FAPのピーク幅は、0.6nmであるが、この場合、1.9mm以下の光学長であれば、この条件を満たす。
【0042】
また、一般に、レーザ媒質30は、誘導放出断面積に複数のピーク波長を持つ。どの波長で発振するのかについては、ゲインと、第1のミラー20及び第2のミラー50の反射率との関係で決まる。
【0043】
更に、FSRは、周波数域では一定間隔となるが、波長に直すと中心波長で異なる波長間隔となる。「定在波条件を満たす波長λの間隔」とは、発振光101の波長付近における波長間隔を指す。
【0044】
以上、実施の形態1に係るレーザ装置は、レーザ共振器100の光学長を制御することにより、任意のタイミングでレーザパルスを発振させることができる。また、実施の形態1に係るレーザ装置は、レーザ共振器100内のゲインを大きく変化させることができるため、低ゲイン状態で、レーザ媒質30にエネルギーを貯め、その低ゲイン状態から高ゲイン状態に移行することで、レーザパルスを発振することができる。更に、実施の形態1に係るレーザ装置は、パルスエネルギーを、励起光11の強度で、ある程度調整可能とすることができるため、パルスエネルギーとレーザパルス発振タイミングとを、それぞれ独立して制御することができる。
【0045】
実施の形態2.
実施の形態2に係るレーザ装置について、図5及び図6を用いて説明する。なお、上述した実施の形態1で説明した構成と同様の機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
図5は、実施の形態2に係るレーザ装置の構成を示す概略構成図である。実施の形態2に係るレーザ装置は、実施の形態1に係るレーザ装置のレーザ共振器100に替えて、レーザ共振器200を備えている。また、実施の形態2に係るレーザ装置は、実施の形態1に係るレーザ装置に、測定器70及び光学長補正部80を加えた構成となっている。
【0047】
図5に示すように、実施の形態2に係るレーザ装置は、励起光源10、光学長調整部40、制御部60、測定器70、及び、レーザ共振器200を備えている。
【0048】
レーザ共振器200は、発振光201を放出する。レーザ共振器200は、第1のミラー20、レーザ媒質30、第2のミラー50、及び、光学長補正部80を備えている。レーザ媒質30は、第1のミラー20側に配置されている。光学長補正部80は、レーザ媒質30に接触している。この光学長補正部80は、制御部60の制御信号62が入力されることで制御される。このとき、光学長調整部40が圧電素子である場合、第2のミラー50もしくはその保持具が、レーザ共振器200の外部まで伸び、その伸びた部分に、光学長調整部40が設けられている。
【0049】
測定器70は、レーザ共振器100から放出されるレーザパルスの発振タイミングを測定する。また、測定器70は、その測定結果を、測定信号71として、制御部60に送信する。測定器70は、例えば、発振光201の散乱光から当該発振光201のレーザパルス発振タイミングを測定する。なお、測定器70は、反射率数%のミラーを用いて、発振光201の一部を取り出すことで、レーザパルス発振タイミングを測定してもよい。
【0050】
制御部60は、測定器70の測定結果に応じて、光学長調整部40及び光学長補正部80を制御する。
【0051】
光学長補正部80は、光学長調整部40と同様に、EO素子、MO素子、温調素子、圧電素子、MEMS等であって、物理長を変化させる、又は、光の屈折率を変化させることにより、レーザ共振器200の光学長を調整する。
【0052】
但し、光学長調整部40は、発振光201のレーザパルス発振タイミングに合わせて変動させるのに対して、光学長補正部80は、より長い時間スケールでの光学長を補正するためのものである。したがって、温調素子のような、比較的応答速度が遅い機構で問題ない。このため、実施の形態2に係るレーザ装置においては、光学長補正部80を、温調素子であるペルチェ素子と想定する。
【0053】
実施の形態2に係るレーザ装置は、例えば、約1mmの光学長に対して、0.5nmの光学長変化によって、ゲインを制御することになる。したがって,周囲の温度又は経年変化等により動作点が変わってしまうことが考えられる。動作点が変化すると、レーザパルスが発振するタイミングが想定とずれてしまう。このため、実施の形態2に係るレーザ装置は、測定器70からの測定信号71と、想定するレーザパルスタイミング信号との比較を、制御部60で行い、当該制御部60から、レーザパルス発振タイミングのずれを補正することを示す制御信号62を、光学長補正部80に送信する。
【0054】
図6は、レーザ共振器200の光学長における時間経過の変化を示す図である。図6の縦軸は、レーザ共振器200の光学長を示している。図6の横軸は、時間経過を示している。例えば、図6(A)に示すように、レーザ共振器200の光学長を制御し、レーザパルスを発振させている状態において、周囲の温度又は経年変化によって、その光学長が当初設計よりも長くなってしまった場合、図6(B)に示すようなタイミングで、レーザパルスを発振する。図6(B)に示す矢印は、レーザパルス発振タイミングがずれた方向を表している。
【0055】
レーザ共振器200の光学長が長くなるタイミングにおいては、想定よりも早いタイミングで、レーザパルスが発振する。また、レーザ共振器200の光学長を短くするタイミングにおいては、想定よりも遅いタイミングで、レーザパルスが発振する。実施の形態2に係るレーザ装置は、このようなずれを検知し、光学長補正部80を用いて、レーザ共振器200の光学長が短くなるように制御する。レーザ共振器200の光学長が当初設計よりも短くなった場合も、実施の形態2に係るレーザ装置は、同様の理屈で検知することができ、光学長補正部80を用いて、レーザ共振器200の光学長が短くなるように制御する。
【0056】
実施の形態2に係るレーザ装置は、光学長調整部40と光学長補正部80とを別体として備えているが、光学長調整部40に光学長補正部80の機能を持たせてもよい。この場合、実施の形態2に係るレーザ装置は、測定器70からの信号と、想定するレーザパルスタイミング信号との比較を、制御部60で行い、動作点を補正して、制御信号61のみを調整することになる。
【0057】
以上、実施の形態2に係るレーザ装置は、レーザ共振器200の光学長を制御することにより、任意のタイミングでレーザパルスを発振させることができる。
【0058】
なお、本開示は、その開示の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、或いは、各実施の形態における任意の構成要素の変形、若しくは、各実施の形態における任意の構成要素の省略が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示に係るレーザ装置は、レーザ共振器から放出される発振光の発振タイミングに同期した制御信号を光学長調整部に送信することで、任意のタイミングでレーザパルスを発振させることができ、パルスエネルギーとパルス発振タイミングとを独立して制御することができるレーザ装置等に用いるのに適している。
【符号の説明】
【0060】
10 励起光源、11 励起光、20 第1のミラー、30 レーザ媒質、40 光学長調整部、50 第2のミラー、60 制御部、61,62 制御信号、70 測定器、71 測定信号、80 光学長補正部、100,200 レーザ共振器、101,201 発振光。
【要約】
レーザ装置は、励起光(11)を吸収して発振光(101)を放出するレーザ媒質(30)を有するレーザ共振器(100)と、レーザ共振器(100)の光学長を調整する光学長調整部(40)と、レーザ共振器(100)から放出される発振光の発振タイミングに同期した制御信号(61)を光学長調整部(40)に送信する制御部(60)とを備える。
図1
図2
図3
図4
図5
図6