(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】リニア搬送設計支援装置、リニア搬送システム、およびリニア搬送システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
G06F 9/44 20180101AFI20241227BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20241227BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20241227BHJP
G06N 20/00 20190101ALI20241227BHJP
【FI】
G06F9/44
B65G54/02
G06F30/20
G06N20/00
(21)【出願番号】P 2024555411
(86)(22)【出願日】2024-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2024019892
【審査請求日】2024-09-18
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】木全 敏章
(72)【発明者】
【氏名】浅木 恭介
【審査官】児玉 崇晶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2022/0027529(US,A1)
【文献】特開2023-31401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 9/44
B65G 54/02
G06N 20/00
G06F 30/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送経路を移動する1つまたは複数の可動部、互いに連結配置されて前記搬送経路を構成し前記可動部を磁力で駆動する複数の固定部、および前記可動部の動作を制御するコントローラ部を有するリニア搬送装置の設計を支援するリニア搬送設計支援装置であって、
前記固定部の設計情報である固定部設計情報、前記可動部の設計情報である可動部設計情報、および前記可動部の移動の情報である動作指示情報の組合せをパラメータセットとして記憶するパラメータ設定部と、
前記パラメータセットを用いて前記リニア搬送装置の動作をシミュレーションすることで、前記リニア搬送装置の搬送能力を表す指標である搬送効率および前記リニア搬送装置の稼働時に発生するコストを表す指標であるシステム評価情報を計算するシミュレータ部と、
前記搬送効率および
前記システム評価情報と、予め設定された前記システム評価情報の可変範囲を制限する制約範囲とに基づいて、前記システム評価情報が前記制約範囲を満たしつつ前記搬送効率が向上するよう、前記パラメータセットに含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正するパラメータ修正部と、
を備
え、
前記シミュレータ部は、
前記可動部設計情報を用いて、前記可動部の各々についての位置、速度、および推力の時系列情報を計算する可動部状態予測部と、
前記パラメータセット、前記位置および前記推力の時系列情報に基づいて、前記固定部のコイルに通電する電流の時系列情報を計算する固定部状態予測部と、
前記位置、前記速度、前記推力、および前記電流の時系列情報に基づいて前記リニア搬送装置の消費エネルギである搬送エネルギ、前記リニア搬送装置の変動性である搬送変動性、および前記リニア搬送装置のハードウェアの設計コストである搬送設計コストのうちの少なくとも1つを前記システム評価情報として計算するとともに、前記位置または前記速度の少なくとも一方の時系列情報に基づいて前記搬送効率を計算するシステム評価部と、
を有する、
ことを特徴とするリニア搬送設計支援装置。
【請求項2】
前記パラメータ修正部が、前記搬送効率が予め設定された目標範囲内の値に近付くように、または前記システム評価情報が前記制約範囲内の値に近付くように前記パラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータの値を修正する処理と、前記シミュレータ部が、前記搬送効率および前記システム評価情報を計算して前記パラメータ修正部に出力する処理とが繰り返される、
ことを特徴とする請求項
1に記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項3】
前記パラメータ修正部は、
前記システム評価情報、前記制約範囲、前記搬送効率、および前記目標範囲に基づいて、前記パラメータの修正を終了するための終了条件を満たすか否かを判定し、前記終了条件を満たすと判定した場合に、修正したパラメータを修正パラメータとして外部に出力する、
ことを特徴とする請求項
2に記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項4】
前記パラメータ修正部は、
前記シミュレータ部が計算した前記システム評価情報が前記制約範囲内の場合、且つ前記搬送効率が前記目標範囲内または前記搬送効率が目標値に近付いた場合、前記終了条件を満たすと判定し、
前記システム評価情報が前記制約範囲外の場合、前記搬送効率が前記目標範囲外の場合、および前記搬送効率が前記目標値に近付いていない場合のうちの少なくとも1つの場合、前記パラメータ修正部は、前記終了条件を満たしていないと判定する、
ことを特徴とする請求項
3に記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項5】
前記シミュレータ部は、
前記パラメータ修正部が前記終了条件を満たしていないと判定した場合に、前記パラメータ修正部が修正したパラメータの値によって更新された前記パラメータセットを用いて前記搬送効率および前記システム評価情報を計算する、
ことを特徴とする請求項
3に記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項6】
前記固定部設計情報は、
前記固定部の形状と、前記固定部の個数と、前記固定部に含まれるコイルの個数と、前記連結配置された前記固定部の配置順序とのうちの少なくとも1つの情報を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1から
5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項7】
前記可動部設計情報は、
前記可動部の大きさと、前記可動部の形状と、前記可動部の質量と、前記可動部の個数と、前記可動部の最大搭載物質量とのうちの少なくとも1つの情報を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1から
5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項8】
前記動作指示情報は、
前記可動部の移動の目標位置と、前記可動部が移動する際の搭載物の搭載質量と、前記可動部が目標位置まで移動する際の最大速度および最大加速度と、前記可動部が前記目標位置に到達した際の最小停止時間と、前記可動部間の最小距離とのうちの少なくとも1つの情報を含んでいる、
ことを特徴とする請求項1から
5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項9】
前記パラメータ修正部は、
前記可動部設計情報および前記動作指示情報に含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正する、
ことを特徴とする請求項1から
5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項10】
前記搬送効率は、
前記可動部による搬送能力であるスループット、前記可動部の平均速度、前記可動部が移動する際の搭載物の質量の合計を前記可動部の最大搭載物質量の合計に対する割合で示した積載率、および特定の地点を一定時間内に通過した可動部の個数である通過個数の少なくとも1つである、
ことを特徴とする請求項1から
5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項11】
前記システム評価部は、
前記搬送エネルギを、前記固定部での電流負荷、発熱量、消費電力、および消費電力量のうちの少なくとも1つに基づいて算出する、
ことを特徴とする請求項
1から5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項12】
前記システム評価部は、
前記搬送変動性として、前記可動部の振動状態、前記固定部の温度、前記可動部の温度、および前記可動部が前記搬送経路を移動する際の前記可動部間の距離の少なくとも1つを算出する、
ことを特徴とする請求項
1から5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項13】
前記システム評価部は、
前記搬送設計コストとして、前記可動部の個数、前記可動部の形状、前記可動部の質量のうちの少なくとも1つを算出する、
ことを特徴とする請求項
1から5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項14】
前記シミュレータ部は、
前記パラメータセットと、前記搬送効率および前記システム評価情報とのデータセットに基づいて生成され、前記パラメータセットを入力とし、前記搬送効率および前記システム評価情報を出力として予測する予測モデルである、
ことを特徴とする請求項
1から5の何れか1つに記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項15】
前記予測モデルは、数式、状態遷移図、状態遷移表、または学習モデルで表現されている、
ことを特徴とする請求項
14に記載のリニア搬送設計支援装置。
【請求項16】
搬送経路を移動する1つまたは複数の可動部、および互いに連結配置されて前記搬送経路を構成し前記可動部を磁力で駆動する複数の固定部を有するリニア搬送装置と、
前記リニア搬送装置の設計を支援するリニア搬送設計支援装置と、
を有し、
前記リニア搬送設計支援装置は、
前記固定部の設計情報である固定部設計情報、前記可動部の設計情報である可動部設計情報、および前記可動部の移動の情報である動作指示情報の組合せをパラメータセットとして記憶するパラメータ設定部と、
前記パラメータセットを用いて前記リニア搬送装置の動作をシミュレーションすることで、前記リニア搬送装置の搬送能力を表す指標である搬送効率および前記リニア搬送装置の稼働時に発生するコストを表す指標であるシステム評価情報を計算するシミュレータ部と、
前記搬送効率および
前記システム評価情報と、予め設定された前記システム評価情報の可変範囲を制限する制約範囲とに基づいて、前記システム評価情報が前記制約範囲を満たしつつ前記搬送効率が向上するよう、前記パラメータセットに含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正するパラメータ修正部と、
を備
え、
前記シミュレータ部は、
前記可動部設計情報を用いて、前記可動部の各々についての位置、速度、および推力の時系列情報を計算する可動部状態予測部と、
前記パラメータセット、前記位置および前記推力の時系列情報に基づいて、前記固定部のコイルに通電する電流の時系列情報を計算する固定部状態予測部と、
前記位置、前記速度、前記推力、および前記電流の時系列情報に基づいて前記リニア搬送装置の消費エネルギである搬送エネルギ、前記リニア搬送装置の変動性である搬送変動性、および前記リニア搬送装置のハードウェアの設計コストである搬送設計コストのうちの少なくとも1つを前記システム評価情報として計算するとともに、前記位置または前記速度の少なくとも一方の時系列情報に基づいて前記搬送効率を計算するシステム評価部と、
を有する、
ことを特徴とするリニア搬送システム。
【請求項17】
搬送経路を移動する1つまたは複数の可動部、互いに連結配置されて前記搬送経路を構成し前記可動部を磁力で駆動する複数の固定部、および前記可動部の動作を制御するコントローラ部を有するリニア搬送装置の設計を支援するリニア搬送設計支援装置が、前記固定部の設計情報である固定部設計情報、前記可動部の設計情報である可動部設計情報、および前記可動部の移動の情報である動作指示情報の組合せをパラメータセットとして記憶するパラメータ設定部ステップと、
前記リニア搬送設計支援装置が、前記パラメータセットを用いて前記リニア搬送装置の動作をシミュレーションすることで、前記リニア搬送装置の搬送能力を表す指標である搬送効率および前記リニア搬送装置の稼働時に発生するコストを表す指標であるシステム評価情報を計算するシミュレータステップと、
前記リニア搬送設計支援装置が、
前記搬送効率および
前記システム評価情報と、予め設定された前記システム評価情報の可変範囲を制限する制約範囲とに基づいて、前記システム評価情報が前記制約範囲を満たしつつ前記搬送効率が向上するよう、前記パラメータセットに含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正するパラメータ修正ステップと、
前記リニア搬送装置が、修正されたパラメータを用いて前記可動部を移動させる移動ステップと、
を含
み、
前記シミュレータステップは、
前記リニア搬送設計支援装置が、前記可動部設計情報を用いて、前記可動部の各々についての位置、速度、および推力の時系列情報を計算する可動部状態予測ステップと、
前記リニア搬送設計支援装置が、前記パラメータセット、前記位置および前記推力の時系列情報に基づいて、前記固定部のコイルに通電する電流の時系列情報を計算する固定部状態予測ステップと、
前記リニア搬送設計支援装置が、前記位置、前記速度、前記推力、および前記電流の時系列情報に基づいて前記リニア搬送装置の消費エネルギである搬送エネルギ、前記リニア搬送装置の変動性である搬送変動性、および前記リニア搬送装置のハードウェアの設計コストである搬送設計コストのうちの少なくとも1つを前記システム評価情報として計算するとともに、前記位置または前記速度の少なくとも一方の時系列情報に基づいて前記搬送効率を計算するシステム評価部ステップと、
を含む、
ことを特徴とするリニア搬送システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リニア搬送装置の設計を支援するリニア搬送設計支援装置、リニア搬送システム、およびリニア搬送システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場内の生産ラインなどに適用されるリニア搬送装置には、高い搬送能力が求められている。リニア搬送装置において搬送能力を上げる方法としては、例えば、多数の可動部を高速で動かすために固定部に流れる電流を増大させる方法が考えられる。ところが、この方法の場合、電流負荷または発熱が原因で固定部の温度が上昇するので、冷却のための停止時間が増大し、搬送能力を向上させることが難しい。また、可動部を高速で動かす場合、曲線経路の通過時、停止時等において大きな振動が発生した場合、振動収束までの停止時間が長くなり搬送能力を下げる要因になる。このため、リニア搬送装置には、電流負荷、振動などの種々の制約を満たすことが求められる。
【0003】
特許文献1に記載の学習装置は、物流搬送路を形成する複数の搬送ユニットにおける搬送速度を制御する学習エージェントを強化学習させている。この学習装置は、モデル化された物流搬送路を用いて物流搬送路の状態および状態に基づく報酬を算出する搬送路シミュレータと、報酬に基づいた評価が大きくなるように搬送速度に関する学習を行う学習エージェントとを有している。搬送路シミュレータは、物流搬送路でワークの搬送が完了したことで得られる搬送完了報酬と、物流搬送路でワークの受付けができない場合に与えられる受付拒否罰と、搬送速度に関するエネルギ消費量が大きくなることで増加する消費エネルギ増加罰とに基づいて報酬を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、リニア搬送装置における固定部および可動部の各状態を同時に考慮したシミュレーションを実行していないので、リニア搬送装置に課された制約の充足度が低いパラメータしか設定できない。そのため、上記特許文献1の技術では、リニア搬送装置に課された制約の充足度が低い状況でしか搬送能力を向上させることはできないという問題があった。
【0006】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであって、リニア搬送装置に課された制約の充足度が高い状況で搬送能力を向上させることができるリニア搬送設計支援装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本開示のリニア搬送設計支援装置は、搬送経路を移動する1つまたは複数の可動部、互いに連結配置されて搬送経路を構成し可動部を磁力で駆動する複数の固定部、および可動部の動作を制御するコントローラ部を有するリニア搬送装置の設計を支援するリニア搬送設計支援装置であって、固定部の設計情報である固定部設計情報、可動部の設計情報である可動部設計情報、および可動部の移動の情報である動作指示情報の組合せをパラメータセットとして記憶するパラメータ設定部を備える。また、本開示のリニア搬送設計支援装置は、パラメータセットを用いてリニア搬送装置の動作をシミュレーションすることで、リニア搬送装置の搬送能力を表す指標である搬送効率およびリニア搬送装置の稼働時に発生するコストを表す指標であるシステム評価情報を計算するシミュレータ部を備える。また、本開示のリニア搬送設計支援装置は、搬送効率およびシステム評価情報と、予め設定されたシステム評価情報の可変範囲を制限する制約範囲とに基づいて、システム評価情報が制約範囲を満たしつつ搬送効率が向上するよう、パラメータセットに含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正するパラメータ修正部を備える。シミュレータ部は、可動部設計情報を用いて、可動部の各々についての位置、速度、および推力の時系列情報を計算する可動部状態予測部と、パラメータセット、位置および推力の時系列情報に基づいて、固定部のコイルに通電する電流の時系列情報を計算する固定部状態予測部と、位置、速度、推力、および電流の時系列情報に基づいてリニア搬送装置の消費エネルギである搬送エネルギ、リニア搬送装置の変動性である搬送変動性、およびリニア搬送装置のハードウェアの設計コストである搬送設計コストのうちの少なくとも1つをシステム評価情報として計算するとともに、位置または速度の少なくとも一方の時系列情報に基づいて搬送効率を計算するシステム評価部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
本開示にかかるリニア搬送設計支援装置は、リニア搬送装置に課された制約の充足度が高い状況で搬送能力を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置の構成例を示す図
【
図2】実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が備えるシミュレータ部の構成例を示す図
【
図3】実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が実行するパラメータ修正処理の処理手順を示すフローチャート
【
図4】実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置を有したリニア搬送システムの構成例を示す図
【
図5】実施の形態2にかかるリニア搬送設計支援装置の構成例を示す図
【
図6】実施の形態3にかかるリニア搬送設計支援システムの構成例を示す図
【
図7】実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図
【
図8】実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本開示の実施の形態にかかるリニア搬送設計支援装置、リニア搬送システム、およびリニア搬送システムの運転方法を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置の構成例を示す図である。リニア搬送設計支援装置1Aは、リニア搬送装置に設定されるパラメータを修正する装置である。リニア搬送設計支援装置1Aは、リニア搬送装置に課された制約の充足度が高い状況で搬送能力が向上するように、リニア搬送装置に設定されるパラメータを修正する。
【0012】
リニア搬送装置は、永久磁石を有した1つ(1台)以上の可動部(可動子)と、コイルを有した複数(複数台)の固定部(固定子)と、可動部を駆動するためにコイルに通電する電流を制御することで可動子の動作を制御するコントローラ部とを有している。リニア搬送装置は、複数の固定部が連結配置されて構成される搬送経路に沿って、磁力の力で浮上した1つ以上の可動部を移動させることで可動部に搭載された搭載物を搬送する。
【0013】
リニア搬送設計支援装置1Aは、パラメータ設定部2と、シミュレータ部3Aと、パラメータ修正部4とを備えている。パラメータ設定部2は、外部から、固定部設計情報と、可動部設計情報と、動作指示情報とを受付けて記憶する。また、パラメータ設定部2は、パラメータ修正部4から修正するパラメータの値の候補(後述する修正パラメータ候補)を受付けて記憶する。
【0014】
固定部設計情報は、固定部の設計の情報(設計情報)である。具体的には、固定部設計情報は、直線または曲線といった各固定部の形状、リニア搬送装置が用いる固定部の個数、固定部に含まれるコイルの個数、および固定部が連結配置されて搬送経路が構築された際の固定部の配置順序のうちの少なくとも1つの情報を含んでいる。パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際に、固定部設計情報に含まれるパラメータは修正できない。
【0015】
可動部設計情報は、可動部の設計の情報(設計情報)である。具体的には、可動部設計情報は、可動部の大きさ、可動部の形状、可動部単体の質量、リニア搬送装置が用いる可動部の個数、および可動部単体の最大搭載物質量のうちの少なくとも1つの情報を含んでいる。最大搭載物質量は、可動部単体に対して搭載可能な搭載物の最大質量である。
【0016】
パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、可動部設計情報で規定されている可動部の大きさ、形状、質量、および個数を、任意の大きさ、形状、質量、および個数に修正可能である。また、パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、可動部設計情報で規定されている最大搭載物質量を、設定可能な範囲内での値に修正可能である。
【0017】
動作指示情報は、個々の可動部の移動に関する情報である。具体的には、動作指示情報は、可動部の移動の目標位置と、可動部が移動する際の搭載物の搭載物質量と、可動部が目標位置まで移動する際の最大速度および最大加速度と、可動部が目標位置に到達した際の最小停止時間と、可動部間の最小距離とのうちの少なくとも1つの情報を含んでいる。
【0018】
可動部が目標位置まで移動する際の最大速度および最大加速度は、目標位置まで移動する際の可動部に対して設定可能な速度の最大値および加速度の最大値である。可動部が目標位置に到達した際の最小停止時間は、目標位置に到達した可動部に対して設定可能な停止時間の最小時間である。可動部間の最小距離は、可動部間として設定可能な距離の最小値である。
【0019】
パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、動作指示情報で規定されている最大速度を、設定可能な範囲内での値に修正可能である。また、パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、動作指示情報で規定されている最大加速度を、設定可能な範囲内での値に修正可能である。
【0020】
また、パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、動作指示情報で規定されている最小停止時間を、設定可能な範囲内での値に修正可能である。
【0021】
また、パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、動作指示情報で規定されている最小距離を、設定可能な範囲内での値に修正可能である。
【0022】
パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、動作指示情報で規定されている可動部の移動の目標位置を任意の位置に修正可能である。また、パラメータ修正部4は、パラメータを修正する際には、動作指示情報で規定されている搭載物質量を、設定可能な範囲内での値に修正可能である。なお、動作指示情報は、可動部毎に異なっていてもよいし、目的位置までの移動毎に異なっていてもよい。
【0023】
パラメータ設定部2は、固定部設計情報と、可動部設計情報と、動作指示情報との組合せをパラメータセットとして記憶しておく。パラメータ設定部2は、パラメータ修正部4から修正パラメータ候補を受付けた場合には、パラメータセットのうち修正パラメータ候補に対応するパラメータの値を修正パラメータ候補の値に書き換えて記憶しておく。
【0024】
シミュレータ部3Aは、パラメータ設定部2が記憶している最新のパラメータセットを取り込む。シミュレータ部3Aは、取り込んだパラメータセットをシミュレーションに用いるパラメータに設定する。
【0025】
シミュレータ部3Aは、取り込んだパラメータセットのうち設定したパラメータを用いて、リニア搬送装置の物理特性を考慮した計算を実行する。すなわち、シミュレータ部3Aは、取り込んだパラメータセットのうち設定したパラメータを用いて、リニア搬送装置の動作をシミュレーション(模擬)する。
【0026】
シミュレータ部3Aは、リニア搬送装置の動作をシミュレーションすることで、リニア搬送装置の搬送能力を表す搬送効率を計算する。また、シミュレータ部3Aは、リニア搬送装置の動作をシミュレーションすることで、リニア搬送装置の稼働時に発生するコストを表すシステム評価情報を計算する。システム評価情報は、リニア搬送装置の稼働時に発生する発熱、振動などのコストを示す情報である。システム評価情報の詳細については後述する。
【0027】
前述したように、シミュレータ部3Aが用いるパラメータセットの固定部設計情報には、固定部の形状、固定部の個数、固定部に含まれるコイルの個数、および固定部の配置順序のうちの少なくとも1つが含まれている。したがって、シミュレータ部3Aは、固定部の形状、固定部の個数、固定部に含まれるコイルの個数、固定部が連結配置されて搬送経路を構築された際の固定部の配置順序のうちの少なくとも1つの情報に基づいて、搬送効率およびシステム評価情報を計算することができる。
【0028】
また、シミュレータ部3Aが用いるパラメータセットの可動部設計情報には、可動部の大きさ、形状、質量、最大搭載物質量、および個数のうちの少なくとも1つが含まれている。したがって、シミュレータ部3Aは、可動部の、大きさ、形状、質量、最大搭載物質量、および個数のうちの少なくとも1つの情報に基づいて、搬送効率およびシステム評価情報を計算することができる。
【0029】
また、シミュレータ部3Aが用いるパラメータセットの動作指示情報には、可動部の移動の目標位置と、可動部が目標位置まで移動する際の最大速度および最大加速度と、可動部が目標位置に到達した際の停止時間と、可動部が移動する際の搭載物の搭載物質量と、可動部間の最小距離とのうちの少なくとも1つが含まれている。したがって、シミュレータ部3Aは、可動部の移動の目標位置と、可動部が目標位置まで移動する際の最大速度および最大加速度と、可動部が目標位置に到達した際の停止時間と、可動部が移動する際の搭載物の搭載物質量と、可動部間の最小距離とのうちの少なくとも1つの情報に基づいて、搬送効率およびシステム評価情報を計算することができる。
【0030】
シミュレータ部3Aは、搬送効率およびシステム評価情報をパラメータ修正部4に出力する。このように、シミュレータ部3Aは、リニア搬送装置の動作をシミュレーションしてリニア搬送装置の搬送効率およびシステム評価情報を計算し出力する。また、シミュレータ部3Aは、リニア搬送装置の動作をシミュレーションする際に用いたパラメータセットを、搬送効率およびシステム評価情報とともにパラメータ修正部4に出力する。
【0031】
パラメータ修正部4は、外部から制約範囲および目標範囲を受付ける。また、パラメータ修正部4は、パラメータセットのうち修正される対象となるパラメータを指定する情報である修正対象パラメータを外部から受付ける。制約範囲、目標範囲、および修正対象パラメータは、例えば、ユーザによってパラメータ修正部4に入力される。
【0032】
制約範囲は、システム評価情報の可変範囲を制限する情報である。すなわち、制約範囲では、システム評価情報の可変範囲が規定されている。換言すると、制約範囲は、システム評価情報に対する制約の範囲である。目標範囲は、搬送効率の目標の範囲である。目標範囲では、搬送効率の目標の上限値および下限値が規定されている。
【0033】
パラメータ修正部4は、シミュレータ部3Aから、搬送効率、システム評価情報、およびパラメータセットを受付ける。パラメータ修正部4は、搬送効率と、システム評価情報と、パラメータセットとを対応付けて結果データとして記憶する。
【0034】
パラメータ修正部4は、結果データに基づいてパラメータの値を修正する。すなわち、パラメータ修正部4は、結果データに基づいて、搬送効率が予め設定された目標範囲内の値に近付くように、またはシステム評価情報が予め設定された制約範囲内の値に近付くようにパラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータの値を修正する。また、パラメータ修正部4は、搬送効率およびシステム評価情報を評価するための値である評価値が大きくなるようにパラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータの値を修正してもよい。評価値の詳細については後述する。
【0035】
パラメータ修正部4は、後述する探索法を用いてパラメータセットのうちの少なくとも1つのパラメータの値を修正する。リニア搬送設計支援装置1Aでは、パラメータ修正部4が探索法によってパラメータの値を修正する処理と、シミュレータ部3Aが、この修正されたパラメータの値を用いて搬送効率およびシステム評価情報を計算する処理とが繰り返される。これにより、リニア搬送設計支援装置1Aは、システム評価情報が制約範囲内に入り、且つ搬送効率が目標範囲内に入るか近付くようにパラメータを調整する。すなわち、パラメータ修正部4は、搬送効率およびシステム評価情報を用いて、制約範囲内にシステム評価情報が収まっている条件下で、搬送効率が目標範囲に収まるか近付くようにパラメータの値を修正する。
【0036】
パラメータ修正部4は、修正の終了条件を満たさない場合には、修正したパラメータの値(修正パラメータ候補)をパラメータ設定部2に出力する。修正の終了条件は、例えば、全てのシステム評価情報が予め設定された制約範囲内に収まり、且つ搬送効率が予め設定された目標範囲内の値または目標範囲に近い値となることである。パラメータ修正部4は、修正の終了条件を満たす場合に、修正したパラメータの値(修正パラメータ)を表示装置などの外部に出力する。なお、パラメータ修正部4は、修正したパラメータの値を含んだパラメータセット(修正パラメータセット)を表示装置などの外部に出力してもよい。
【0037】
なお、目標範囲の上限値と下限値とが同じ値(目標値)である場合、パラメータ修正部4は、搬送効率が目標値に近付くように少なくとも1つのパラメータの値を修正する。また、目標範囲の設定がされていない場合、パラメータ修正部4は、非常に大きな特定値が目標値に設定されたと仮定し、搬送効率が最大となるように少なくとも1つのパラメータの値を修正する。実際の形態1における搬送効率の最大は、修正の終了条件を満たした時点での搬送効率である。
【0038】
図2は、実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が備えるシミュレータ部の構成例を示す図である。シミュレータ部3Aは、可動部状態予測部5と、固定部状態予測部6と、システム評価部7とを備えている。
【0039】
可動部状態予測部5および固定部状態予測部6は、パラメータ設定部2からパラメータセットを受付ける。可動部状態予測部5は、各可動部が動作指示情報に従って目標位置へと移動する一連の動きを、各可動部の位置および速度の時系列情報として計算する。可動部状態予測部5は、動作指示情報に設定されている目標位置、最大速度、最大加速度、および停止時間を用いて、位置および速度の時系列情報を計算する。具体的には、可動部状態予測部5は、目標位置、最大速度、最大加速度、および停止時間に基づいて、最大加速度で加速して最大速度に到達する動作、最大速度に到達すると最大速度で移動する動作、その後、最大加速度で減速して目標位置に停止する動作、停止後は停止時間分停止してから次の目標位置に移動する動作を計算することで、可動子の位置および速度の時系列情報を計算する。
【0040】
なお、リニア搬送装置では物理的に1つの経路上で可動部が追い越しできないことがある。このため、可動部状態予測部5は、各可動部が衝突しないように、可動部間の距離が動作指示情報で設定された可動部間の最小距離よりも近付いたら減速するような処理を含めて位置および速度の時系列情報を計算する。すなわち、可動部状態予測部5は、各可動部が干渉しないように位置および速度の時系列情報を計算する。
【0041】
可動部状態予測部5は、同時に計算した位置および速度の時系列情報を用いて、その位置および速度になるために可動部にかける必要のある推力の時系列情報を計算する。可動部状態予測部5は、例えば、搭載物を含む可動部の全体を1つの剛体とみなし、この剛体の速度を時間微分した加速度を計算する。また、可動部状態予測部5は、可動部設計情報で設定された可動部単体の質量と、動作指示情報で設定された可動部が移動する際の搭載物質量とに基づいて、搭載物を含む可動部全体の質量を計算する。そして、可動部状態予測部5は、搭載物含む可動部の全体を1つの剛体とみなした場合の加速度と可動部全体の質量との積を推力として計算する。
【0042】
また、可動部状態予測部5は、可動部設計情報で設定された可動部の形状、振動、摩擦、遠心力等の外力などを考慮した力学モデルを用いて推力を計算してもよい。なお、各可動部の位置、速度、および推力の時系列情報の計算方法は、上述した方法に限定されるものではない。
【0043】
可動部状態予測部5は、位置、速度、および推力の時系列情報をシステム評価部7に出力する。また、可動部状態予測部5は、位置および推力の時系列情報を固定部状態予測部6に出力する。
【0044】
固定部状態予測部6は、可動部状態予測部5が計算した各可動部の位置および推力の時系列情報と、パラメータ設定部2から受付けたパラメータセットとに基づいて、可動部が搬送される搬送路(トラック)に配置されている各固定部のコイルに通電する電流の時系列情報を計算する。すなわち、固定部状態予測部6は、コイルに必要な電流の時系列情報を固定部ごとに計算する。
【0045】
具体的には、固定部状態予測部6は、パラメータセットから可動部の形状および大きさを抽出する。また、固定部状態予測部6は、パラメータセットから抽出した可動部の形状および大きさと、可動部の位置の時系列情報とに基づいて、可動部とコイルとの位置関係を計算する。固定部状態予測部6が計算する可動部とコイルとの位置関係には、例えば、可動部の搬送方向の一方の端部とコイルとの位置関係、可動部の搬送方向の中央部とコイルとの位置関係、可動部の搬送方向の他方の端部とコイルとの位置関係などが含まれている。
【0046】
固定部状態予測部6は、可動部の形状、および可動部とコイルとの位置関係を考慮して推力の時系列情報から電流の時系列情報を導出する電流導出モデルを用いる。すなわち、固定部状態予測部6は、電流導出モデルに、抽出した可動部の形状と、計算した可動部とコイルとの位置関係と、推力の時系列情報とを適用することで、推力の時系列情報に対応する電流の時系列情報を計算する。このように、固定部状態予測部6は、通電する電流と移動に必要な推力(必要推力)との関係を、電流導出モデルを用いて計算する。固定部状態予測部6は、計算した電流の時系列情報をシステム評価部7に出力する。
【0047】
システム評価部7は、可動部状態予測部5から計算結果である位置、速度、および推力の時系列情報を受付ける。また、システム評価部7は、固定部状態予測部6から計算結果である電流の時系列情報を受付ける。
【0048】
システム評価部7は、可動部状態予測部5および固定部状態予測部6による計算結果に基づいて、搬送効率およびシステム評価情報を計算する。具体的には、システム評価部7は、可動部の位置、速度、推力、および電流の時系列情報に基づいてシステム評価情報を計算し、可動部の位置および速度の少なくとも一方の時系列情報に基づいて搬送効率を計算する。
【0049】
ここで搬送効率は、リニア搬送装置の能力を表す指標である。実施の形態1では、搬送効率として、例えば、リニア搬送装置内の可動部によって搬送された搭載物の総数を搬送した時間で除した値を示すスループット、または一定時間内に搬送された搭載物の総数を示すスループットを用いる。
【0050】
パラメータセットにおいて、例えば搭載物を搭載した地点と搭載物を下した地点とが目標位置として設定されていれば、システム評価部7は、各可動部の位置の時系列情報から簡単に搭載物の総数および搬送した時間を計算することができる。
【0051】
また、可動部状態予測部5が、各可動部の質量の時系列情報を追加で計算しておいてもよい。この場合、システム評価部7は、可動部の質量の時系列情報を用いて、搭載物の総数および搬送した時間を計算することができる。
【0052】
なお、システム評価部7は、スループットのほかにも、全可動部の速度の平均である平均速度、搭載物の質量の合計を全可動部の最大搭載物質量の合計に対する割合で示した積載率、または特定の地点を一定時間内に通過した可動部の個数(通過個数)を搬送効率としても構わない。すなわち、搬送効率は、スループット、全可動部の平均速度、積載率、および通過個数の少なくとも1つである。これにより、リニア搬送設計支援装置1Aは、スループット、平均速度、積載率、および通過個数の少なくとも1つを搬送効率として算出することができる。
【0053】
システム評価情報は、リニア搬送装置の稼働時に発生するコストを表す指標である。システム評価情報は、搬送効率に影響を与える情報であり、搬送効率の向上に対して制約を加えるように働くことが多い。実施の形態1のシステム評価情報には、リニア搬送装置の消費エネルギ(以下、搬送エネルギという)、リニア搬送装置の変動性(以下、搬送変動性という)、およびリニア搬送装置のハードウェアの設計コスト(以下、搬送設計コストという)が含まれている。
【0054】
搬送エネルギは、リニア搬送装置を動かすために必要なエネルギである。搬送エネルギは、例えば、各固定部での電流負荷、発熱量、消費電力、および消費電力量のうちの少なくとも1つに基づいて算出される。搬送エネルギを大きくすることで搬送効率の向上が予測されるが、搬送エネルギが大きすぎる場合、搬送エネルギがリニア搬送装置のエネルギ効率、電気料金、CO2(二酸化炭素)の排出量などに大きな影響を与えるので、搬送エネルギを小さくしたいという要求もある。搬送エネルギの制約範囲は、予めリニア搬送装置のユーザによって設定される。
【0055】
搬送変動性は、リニア搬送装置が安定的に稼働するために満たすべき状態の情報である。搬送変動性は、例えば、各可動部の振動振幅および振動時間を含めた振動状態、各固定部の温度、各可動部の温度、および可動部が搬送経路を移動する際の可動部間の距離の近さの少なくとも1つである。搬送効率を向上させるために固定部に多くの電流を流し、可動部を早く動かそうとすることで、可動部が振動し始めたりリニア搬送装置の温度が上昇したりして、制御精度の劣化、生産性の悪化などにつながる恐れがあるので、搬送変動性を小さくしたいという要求もある。
【0056】
また、搬送変動性は、経路的に近接する2個の可動部の近さにも相当する。この近さの指標をここでは近接密度または集中度と表現する。近接密度または集中度は、2個の可動部の近さを、可動部の個数を可動部間の距離で除した値とする。この近接密度または集中度の値が大きくなるほど可動部同士が衝突する可能性が高くなるので、近接密度または集中度は小さくしたいという要求もある。
【0057】
なお、近接密度または集中度は、前述の定義に限らず、特定の範囲内に要素(可動子)がどれくらい集まっているか、または近付いているかを表す指標であれば何れの方法で計算されてもよく、例えば、可動部間の距離と負の値との積でもよい。
【0058】
搬送設計コストは、リニア搬送装置の費用(可動部の導入コスト、メンテナンスコストなど)に影響を与える情報である。搬送設計コストは、例えば可動部の個数、可動部の大きさ、可動部の形状、および可動部の質量のうちの少なくとも1つである。多くの搭載物または大重量の搭載物を運ぶためには、可動部の個数または大きさを増やす必要があるが、過剰に増やした場合には、可動部の導入コスト、メンテナンスコストなどが増大するので小さくしたいという要求もある。
【0059】
システム評価部7は、これらの搬送効率およびシステム評価情報を計算し、計算結果をシミュレータ部3Aから出力する。なお、システム評価部7は、搬送効率およびシステム評価情報として、それぞれ少なくとも1種類ずつの情報を計算すればよい。また、システム評価部7は、システム評価情報として、搬送エネルギ、搬送変動性、および搬送設計コストのうちの少なくとも1つを計算すればよく、3つの分類の全てで1つ以上の情報を計算する必要はない。すなわち、システム評価部7は、搬送効率として1種類以上の情報を計算し、システム評価情報として1種類以上の情報を計算すればよい。
【0060】
このように、シミュレータ部3Aは、可動部状態予測部5および固定部状態予測部6を有しているので、物理的なメカニクスに基づいて固定部の状態および可動部の状態をシミュレーションで計算することができる。また、シミュレータ部3Aは、システム評価部7を有しているので、固定部の状態および可動部の状態に基づいて搬送効率およびシステム評価情報を計算することができる。
【0061】
図3は、実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が実行するパラメータ修正処理の処理手順を示すフローチャートである。なお、ここでの搬送経路は一巡する経路とし、搬送経路中においては、経路が分岐する箇所も合流する箇所もないものとする。
【0062】
パラメータ修正部4は、ユーザから修正対象パラメータを受付ける(ステップS10)。修正対象パラメータは、システム評価情報が制約範囲内となり、且つ搬送効率が目標範囲内となるようにリニア搬送設計支援装置1Aが修正するパラメータの種類である。ここでは、修正対象パラメータが、可動部設計情報に含まれる可動部の個数、動作指示情報に含まれる可動部の最大速度、可動部の最大加速度、可動部が目標位置に到達した際の停止時間とする。また、ユーザによって搬送効率の目標範囲、およびシステム評価情報の制約範囲が設定される。目標範囲および制約範囲は、パラメータ修正部4に設定される。
【0063】
なお、目標範囲の上限値と下限値とが同じ値である場合には、パラメータ修正部4は、目標範囲を目標値として扱う。この場合、パラメータ修正部4は、目標値に近付くように少なくとも1つのパラメータの値を修正する。また、目標範囲の設定がされていない場合、パラメータ修正部4は、非常に大きな特定値が目標値として設定されたと仮定し、搬送効率が最大となるように少なくとも1つのパラメータの値を修正する。このため、目標範囲は、必ずしも設定される必要はない。
【0064】
パラメータ設定部2は、外部から、固定部設計情報と、可動部設計情報と、動作指示情報とを受付けて記憶する。シミュレータ部3Aは、パラメータ設定部2が記憶している最新のパラメータセットを取り込む。シミュレータ部3Aが、リニア搬送装置の動作をシミュレーションする際に用いるパラメータを設定する(ステップS20)。すなわち、シミュレータ部3Aは、取り込んだパラメータセットに含まれているパラメータを、シミュレーションに用いるパラメータに設定する。
【0065】
シミュレータ部3Aの可動部状態予測部5が、パラメータセットに基づいて、各可動部の位置、速度、および推力の時系列情報を計算する(ステップS30)。
【0066】
シミュレータ部3Aの固定部状態予測部6が、パラメータセットと、各可動部の位置および推力の時系列情報に基づいて、各固定部に流れる電流の時系列情報を計算する(ステップS40)。
【0067】
シミュレータ部3Aのシステム評価部7が、可動部の位置および速度の少なくとも一方の時系列情報に基づいて搬送効率を計算する(ステップS50)。ここでは、システム評価部7が、搬送効率の一例としてスループットを計算する。
【0068】
システム評価部7が、可動部の位置、速度、推力、および電流の時系列情報に基づいて、システム評価情報を計算する(ステップS60)。ここでのシステム評価部7は、ステップS40で計算された各固定部のコイルに通電する電流の時系列情報に基づいて、システム評価情報の一例である電流負荷を計算する。システム評価部7は、例えば、一定時間内に流れた電流の2乗をこの一定時間で時間積分して時間平均した値(一定時間で除した値)の平方根を取った値であり、便宜上定格電流等の基準となる値の比率で表現する。
【0069】
システム評価部7は、計算した電流負荷の最大値をシステム評価情報に含める。また、システム評価部7は、ステップS30で計算された可動部の位置の時系列情報に基づいて、目標位置到達時点での振動状態(ここでは、振動振幅)を計算し、振動振幅の最大値もシステム評価情報に含める。さらに、システム評価部7は、可動部の個数をシステム評価情報に含める。シミュレータ部3Aは、搬送効率、システム評価情報、およびパラメータセットをパラメータ修正部4に出力する。
【0070】
パラメータ修正部4は、シミュレータ部3Aから出力された搬送効率、システム評価情報、およびパラメータセットを記憶する(ステップS70)。
【0071】
パラメータ修正部4は、記憶した情報に基づいて、修正の終了条件を満たしているか否かを判断する(ステップS80)。すなわち、パラメータ修正部4は、記憶した情報に基づいて、搬送効率が修正の終了条件を満たしているか、または搬送効率を用いて計算した評価値が修正の終了条件を満たしているかを判断する。評価値は、例えば、以下の式(1)の計算式で設定されており、パラメータ修正部4は、この式(1)を用いて評価値を計算する。
【0072】
評価値={スループット×重み}+{(-1)×電流負荷×重み}+{(-1)×振動状態×重み}+{(-1)×可動部の個数×重み}・・・(1)
【0073】
すなわち、ここでの評価値は、搬送効率としてのスループットと、システム評価情報の搬送エネルギとしての電流負荷と、システム評価情報の搬送変動性としての振動状態と、システム評価情報の搬送設計コストとしての可動部の個数との各変数に各々重みを乗じた和である。
【0074】
重みは0以上の値であり、重視したい変数を他の変数よりも相対的に大きくしておく。また、生産性が変わらなければ、搬送エネルギ、搬送変動性、搬送設計コストが小さいほうが良いので、評価値の算出式では、変数に負の値をかけることで評価値が大きくなるほど搬送効率が向上するように設定されている。
【0075】
なお、評価値の算出式では、負の値をかける代わりに例えば変数が逆数にして設定されてもよいし、変数の最大値から変数を減じた値が設定されてもよい。また、評価値の算出方法(設定方法)については、ここに示した限りではない。例えば、ここで説明した評価値の算出例では、評価値が大きくなるほど搬送効率が向上してリニア搬送装置のコストが低減されるが、評価値が小さくなるほど搬送効率が向上してリニア搬送装置のコストが低減されるように評価値が設定されてもよい。
【0076】
修正の終了条件の第1例は、全てのシステム評価情報が予め設定された制約範囲内に収まっているうえで搬送効率が予め設定された目標範囲内の値となることである。
【0077】
また、修正の終了条件の第2例は、全てのシステム評価情報が予め設定された制約範囲内に収まっているうえで搬送効率が目標範囲または目標値に十分近付くことである。搬送効率が目標範囲または評価値に十分近付く場合とは、以下の(N1)~(N6)の場合である。
(N1)搬送効率の方が目標範囲の上限値よりも大きい場合に、搬送効率から目標範囲の上限値を減算した値が基準値以下となる場合
(N2)搬送効率の方が目標範囲の下限値よりも小さい場合に、目標範囲の下限値から搬送効率を減算した値が基準値以下となる場合
(N3)搬送効率の方が目標範囲の上限値よりも大きい場合に、搬送効率と目標範囲の上限値との比が基準値以下となる場合
(N4)搬送効率の方が目標範囲の下限値よりも小さい場合に、搬送効率と目標範囲の下限値との比が基準値以下となる場合
(N5)搬送効率と目標値との差の絶対値が基準値以下となる場合
(N6)搬送効率と目標値との比が基準値以下となる場合
【0078】
また、修正の終了条件の第3例は、評価値が十分に大きくなり、ほぼ一定値に達した場合である。評価値の値が十分に大きくなり、ほぼ一定値に達した場合とは、評価値が第1の特定値よりも大きくなり、且つ評価値の変動値が第2の特定値よりも小さい期間が特定時間続いた場合である。
【0079】
また、修正の終了条件の第4例は、搬送効率およびシステム評価情報の算出処理の実行回数が予め設定された基準回数に達した場合である。なお、パラメータ修正部4は、評価値を用いることなく修正の終了条件を満たすか否かを判断する場合には、評価値を算出しなくてもよい。
【0080】
修正の終了条件を満たしていない場合(ステップS80、No)、パラメータ修正部4は、探索法を用いて修正パラメータの候補である修正パラメータ候補を導出する(ステップS90)。修正パラメータは、リニア搬送設計支援装置1Aが最終的に修正を確定するパラメータの値である。パラメータ修正部4は、システム評価情報が制約範囲内に収まるように、または搬送効率が目標範囲内に収まるように、または搬送効率を含めて計算した評価値が現状の値よりも大きくなるように探索法を用いて修正対象パラメータの値を探索して変更し、変更後の修正対象パラメータの値を修正パラメータ候補として導出する。
【0081】
パラメータ修正部4が用いる探索法には、シミュレーションを用いた最適化手法としてよく知られているCMA-ES(Covariance Matrix Adaptation Evolution Strategy、共分散行列適応進化戦略)、PSO(Particle Swarm Optimization、粒子群最適化)などがあるが、パラメータ修正部4が用いる探索法は、これらの最適化手法(最適化計算)に限らない。パラメータ修正部4が用いる探索法は、ベイズ推定を用いた最適化計算、勾配法などでもよく、使用するアルゴリズムは特に限定されない。
【0082】
パラメータ修正部4は、修正パラメータ候補を導出すると、修正パラメータ候補をパラメータ設定部2に出力する。そして、リニア搬送設計支援装置1Aは、ステップS20~S80の処理を実行する。リニア搬送設計支援装置1Aは、修正の終了条件を満たすまで、ステップS20~S80の処理を繰り返す。
【0083】
修正の終了条件を満たしている場合(ステップS80、Yes)、パラメータ修正部4は、修正の終了条件を満たした場合の修正パラメータ候補を修正パラメータに決定する。パラメータ修正部4は、決定した修正パラメータを表示装置などの外部に出力する(ステップS100)。
【0084】
これにより、リニア搬送設計支援装置1Aは、電流負荷、振動などの種々の制約(制約条件)が制約範囲を満たしつつ搬送効率を最大にする修正対象パラメータ(可動部の個数、可動部が搬送経路を移動する際の運転パターンなど)を求めることができる。すなわち、リニア搬送設計支援装置1Aは、リニア搬送装置の搬送能力を、このリニア搬送装置に課された制約の中で向上させることができる。
【0085】
また、リニア搬送設計支援装置1Aは、設計段階において、必要な搬送能力を得るための可動部の動作を決める速度または加速度といったパラメータを適切に求めることができ、設計および製造にかかるコストの削減およびリードタイムの短縮を実現することができる。
【0086】
このように、リニア搬送設計支援装置1Aは、リニア搬送装置における固定部および可動部の各状態を同時に考慮したシミュレーションを実行しているので、例えばコーナ部分で発生する振動等を考慮したパラメータ設定、可動部の種類(重量、形状、大きさなど)または可動部の個数に応じた搬送効率、搬送エネルギ、搬送変動性、搬送設計コストまで考慮したパラメータ設定を実現できる。
【0087】
また、リニア搬送設計支援装置1Aは、システム評価情報が制約範囲を満たしている場合の搬送効率を向上させるパラメータの値を逐次的に求めていくので、制約範囲内にシステム評価情報が収まっている条件下で、搬送効率が目標範囲に収まるか近付くように短時間でパラメータの値を修正できる。
【0088】
図4は、実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置を有したリニア搬送システムの構成例を示す図である。リニア搬送システム30は、リニア搬送設計支援装置1Aと、リニア搬送装置20とを有している。
【0089】
リニア搬送装置20は、1つまたは複数の可動部21を搬送路に沿って移動させる装置である。リニア搬送装置20は、1つまたは複数の可動部21と、複数の固定部22と、ガイドレール23と、コントローラ部25とを具備している。
【0090】
リニア搬送装置20では、可動部21が移動する経路に固定部22が配置されている。可動部21には永久磁石(図示せず)が配置されており、固定部22にはコイル(図示せず)が配置されている。コントローラ部25は、可動部21を駆動するために固定部22のコイルに流れる電流を制御する。
【0091】
ガイドレール23は、可動部21をレールの方向に滑らかに移動させるための機械部品である。ガイドレール23と固定部22とを組み合わせたリニアトラックモジュールが複数繋ぎ合わされることで、種々の経路を構築することが可能となる。
【0092】
リニア搬送システム30では、リニア搬送設計支援装置1Aが、修正パラメータをコントローラ部25に送信する。コントローラ部25は、パラメータセットのうち修正パラメータに対応するパラメータの値を修正パラメータの値に変更したうえで、パラメータセットを用いて可動部21の動作を制御する。
【0093】
なお、本開示にかかるリニア搬送設計支援装置1Aは、名称を便宜的に、リニア搬送設計支援装置としているに過ぎず、この名称によって、権利範囲を限定解釈してはならない。
【0094】
例えば、修正パラメータ、搬送効率、システム評価情報、その他の分析結果などの、リニア搬送設計支援装置1Aから出力される情報を、直接リニア搬送装置に入力して搬送の制御に用いてもよい。また、出力される情報を表示部などに表示したものを、作業者などが見て設計または制御に使用してもよい。すなわち、リニア搬送設計支援装置1Aから出力される情報は、動作、機能、用途などを自由に選択することができる。言い換えれば、対象がリニア搬送装置であればよく、発明の名称のうちのリニア搬送設計支援装置を、リニア搬送設計装置、リニア搬送制御装置、リニア搬送分析装置などとすることも可能である。
【0095】
また、実施の形態1では、シミュレータ部3Aが、リニア搬送設計支援装置1Aの内部に配置される場合について説明したが、シミュレータ部3Aと同様の動作をするプロセッサ、メモリ、これらの組み合わせなどからなる装置が、リニア搬送設計支援装置1Aの外部に配置され、この装置から、搬送効率およびシステム評価情報を取得する構成とすることもできる。このような構成によっても、上述した実施の形態1の効果を得ることができる。
【0096】
このように、実施の形態1によれば、リニア搬送設計支援装置1Aは、システム評価情報が制約範囲を満たしつつ搬送効率が向上するよう、パラメータセットに含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正するので、リニア搬送装置20に課された制約の充足度が高い状況で搬送能力を向上させることができる。
【0097】
また、リニア搬送設計支援装置1Aは、可動部設計情報および動作指示情報に含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正するので、システム評価情報の値を抑制し、搬送効率を向上させることができる。
【0098】
実施の形態2.
つぎに、
図5を用いて実施の形態2について説明する。実施の形態2では、数式、状態遷移図、状態遷移表、または学習モデルで表現された予測モデルを用いて、パラメータセットに対応する搬送効率およびシステム評価情報を予測する。
【0099】
図5は、実施の形態2にかかるリニア搬送設計支援装置の構成例を示す図である。
図5の各構成要素のうち
図1に示す実施の形態1のリニア搬送設計支援装置1Aと同一機能を達成する構成要素については同一符号を付しており、重複する説明は省略する。
【0100】
実施の形態2のリニア搬送設計支援装置1Bは、リニア搬送設計支援装置1Aと同様に、リニア搬送装置20に設定されるパラメータを修正する。リニア搬送設計支援装置1Bは、リニア搬送設計支援装置1Aと比較して、シミュレータ部3Aの代わりにシミュレータ部3Bを備えている。すなわち、リニア搬送設計支援装置1Bは、パラメータ設定部2と、シミュレータ部3Bと、パラメータ修正部4とを備えている。
【0101】
シミュレータ部3Bは、予測モデル8を具備している。予測モデル8は、予め取得されたパラメータセットと、搬送効率およびシステム評価情報とのデータセットに基づいて、生成されたモデルである。予め取得されるパラメータセットは、例えば、予め実機(リニア搬送装置20)または実機の動作を模擬したシミュレータを動作させることで取得される。また、搬送効率およびシステム評価情報は、パラメータセットに基づいて算出される。予測モデル8は、ユーザから受付けたパラメータセットを入力とし、搬送効率およびシステム評価情報を出力として予測する。
【0102】
予測モデル8は、数式、状態遷移図、状態遷移表、または学習モデルで表現されている。なお、数式、状態遷移図、状態遷移表、または学習モデルで表現される際に用いられる予測のアルゴリズムは、特に限定する必要はなく、何れのアルゴリズムが用いられてもよい。
【0103】
シミュレータ部3Bは、パラメータ設定部2からパラメータセットを受付けると、パラメータセットに基づいて、搬送効率およびシステム評価情報を予測する。すなわち、シミュレータ部3Bの予測モデル8は、パラメータセットが入力されると、このパラメータセットに対応する搬送効率およびシステム評価情報を予測して出力する。以降は実施の形態1と同様の処理によってパラメータ修正部4から搬送効率を向上させる修正パラメータが出力される。
【0104】
このように、実施の形態2によれば、リニア搬送設計支援装置1Bは、予測モデル8を備えているので、時系列のシミュレーションを実行することなく予測モデル8によって搬送効率およびシステム評価情報を短時間で求めることが可能になる。したがって、リニア搬送設計支援装置1Bは、搬送効率を向上させる修正パラメータを、実施の形態1の場合よりも短時間で取得することができる。
【0105】
実施の形態3.
つぎに、
図6を用いて実施の形態3について説明する。実施の形態3では、シミュレータ部3Aが実行する処理と、パラメータ設定部2およびパラメータ修正部4が実行する処理とを異なるコンピュータで実行する。
【0106】
図6は、実施の形態3にかかるリニア搬送設計支援システムの構成例を示す図である。
図6の各構成要素のうち
図1に示す実施の形態1のリニア搬送設計支援装置1Aと同一機能を達成する構成要素については同一符号を付しており、重複する説明は省略する。
【0107】
実施の形態3のリニア搬送設計支援システム10は、リニア搬送設計支援装置1Aと同様に、リニア搬送装置20に設定されるパラメータを修正する。リニア搬送設計支援システム10は、パラメータ設定部2、シミュレータ部3A、およびパラメータ修正部4に加えて、パラメータ送信部11と、パラメータ受信部12と、計算結果送信部13と、計算結果受信部14とを備えている。
【0108】
パラメータ送信部11、パラメータ受信部12、計算結果送信部13、および計算結果受信部14は、パラメータ設定部2およびパラメータ修正部4と、シミュレータ部3Aとの間に接続されている。具体的には、パラメータ設定部2には、パラメータ送信部11が接続され、シミュレータ部3Aには、パラメータ受信部12および計算結果送信部13が接続され、パラメータ修正部4には、計算結果受信部14が接続されている。そして、パラメータ送信部11、パラメータ受信部12、計算結果送信部13、および計算結果受信部14がインターネット15に接続されている。また、パラメータ修正部4とパラメータ設定部2とが接続されている。
【0109】
リニア搬送設計支援システム10では、シミュレータ部3Aを備えるコンピュータと、パラメータ設定部2およびパラメータ修正部4を備えるコンピュータとが別々のコンピュータである。シミュレータ部3Aを備えるコンピュータと、パラメータ設定部2およびパラメータ修正部4を備えるコンピュータとは、インターネット15を介して情報の送受信を行う。
【0110】
パラメータ設定部2は、実施の形態1と同様の処理によってパラメータセットを記憶しておく。パラメータ送信部11は、パラメータ設定部2が記憶しているパラメータセットを、インターネット15を介してパラメータ受信部12に送信する。パラメータ送信部11がパラメータセットを送信するタイミングは、パラメータ設定部2が記憶するパラメータセットが更新された時であってもよいし、外部からの要求をパラメータ送信部11が受信した時であってもよいし、定期的な特定のタイミングであってもよい。
【0111】
パラメータ受信部12は、パラメータ送信部11から、インターネット15を介してパラメータセットを受信する。パラメータ受信部12は、受信したパラメータセットをシミュレータ部3Aに出力する。
【0112】
シミュレータ部3Aは、実施の形態1と同様に、パラメータセットに基づいて、搬送効率およびシステム評価情報を計算する。シミュレータ部3Aは、計算した搬送効率およびシステム評価情報の計算結果と、計算に用いたパラメータセットとを計算結果送信部13に出力する。
【0113】
計算結果送信部13は、シミュレータ部3Aが出力した計算結果およびパラメータセットを受付ける。計算結果送信部13は、シミュレータ部3Aから受付けた計算結果およびパラメータセットを、インターネット15を介して計算結果受信部14に送信する。計算結果送信部13が計算結果およびパラメータセットを送信するタイミングは、シミュレータ部3Aが搬送効率およびシステム評価情報を計算して計算結果送信部13に出力した時であってもよいし、外部からの要求を計算結果送信部13が受信した時であってもよいし、定期的な特定のタイミングであってもよい。
【0114】
計算結果受信部14は、計算結果送信部13から、インターネット15を介して計算結果およびパラメータセットを受信する。計算結果受信部14は、受信した計算結果およびパラメータセットをパラメータ修正部4に出力する。パラメータ修正部4は、実施の形態1のパラメータ修正部4と同様に、計算結果である搬送効率およびシステム評価情報と、パラメータセットとに基づいてパラメータを修正する。
【0115】
パラメータ修正部4は、実施の形態1と同様に、修正の終了条件を満たしていない場合には修正パラメータ候補をパラメータ設定部2に出力する。リニア搬送設計支援システム10では、リニア搬送設計支援装置1Aと同様に、パラメータ設定部2による処理と、シミュレータ部3Aによる処理と、パラメータ修正部4による処理とが繰り返されて、修正パラメータが決定される。パラメータ修正部4は、修正パラメータを決定すると、この修正パラメータを表示装置などの外部に出力する。
【0116】
なお、リニア搬送設計支援システム10は、シミュレータ部3Aの代わりにシミュレータ部3Bを備えていてもよい。
【0117】
このように、実施の形態3によれば、リニア搬送設計支援システム10は、パラメータセットをインターネット15を介してシミュレータ部3Aに送信している。これにより、リニア搬送設計支援システム10は、例えばシミュレータ部3Aだけを、パラメータ設定部2またはパラメータ修正部4よりも高性能なコンピュータ(計算機)で実現することができる。したがって、リニア搬送設計支援システム10は、シミュレータ部3Aによる計算精度および計算速度を容易に向上させることができ、搬送効率を向上させる正確な修正パラメータを実施の形態1の場合よりも短時間で取得することができる。
【0118】
つぎに、リニア搬送設計支援装置1A,1Bのハードウェア構成について説明する。なお、リニア搬送設計支援装置1A,1Bは同様のハードウェア構成を有しているので、ここではリニア搬送設計支援装置1Aのハードウェア構成について説明する。リニア搬送設計支援装置1Aは、処理回路により実現される。処理回路は、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサおよびメモリであってもよいし、専用のハードウェアであってもよい。
【0119】
図7は、実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が備える処理回路をプロセッサおよびメモリで実現する場合の処理回路の構成例を示す図である。
図7に示す処理回路90は、プロセッサ91およびメモリ92を備える。処理回路90がプロセッサ91およびメモリ92で構成される場合、処理回路90の各機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアまたはファームウェアはリニア搬送設計支援プログラムとして記述され、メモリ92に格納される。処理回路90では、メモリ92に記憶されたリニア搬送設計支援プログラムをプロセッサ91が読み出して実行することにより、各機能を実現する。すなわち、処理回路90は、リニア搬送設計支援装置1Aの処理が結果的に実行されることになるリニア搬送設計支援プログラムを格納するためのメモリ92を備える。このリニア搬送設計支援プログラムは、処理回路90により実現される各機能をリニア搬送設計支援装置1Aに実行させるためのプログラムであるともいえる。このリニア搬送設計支援プログラムは、リニア搬送設計支援プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体により提供されてもよいし、通信媒体など他の手段により提供されてもよい。
【0120】
上記リニア搬送設計支援プログラムは、
図3のステップS10~S100の処理をリニア搬送設計支援装置1Aに実行させるプログラムであるとも言える。
【0121】
ここで、プロセッサ91は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、またはDSP(Digital Signal Processor)などである。また、メモリ92は、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、EEPROM(登録商標)(Electrically EPROM)などの、不揮発性または揮発性の半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、またはDVD(Digital Versatile Disc)などが該当する。
【0122】
図8は、実施の形態1にかかるリニア搬送設計支援装置が備える処理回路を専用のハードウェアで構成する場合の処理回路の例を示す図である。
図8に示す処理回路93は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。処理回路93については、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。このように、処理回路93は、専用のハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述の各機能を実現することができる。
【0123】
なお、リニア搬送設計支援システム10のパラメータ設定部2、シミュレータ部3A,3B、パラメータ修正部4の何れかが、上述した処理回路90,93の何れかで実現されてもよい。
【0124】
以上の実施の形態に示した構成は、一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、実施の形態同士を組み合わせることも可能であるし、要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0125】
1A,1B リニア搬送設計支援装置、2 パラメータ設定部、3A,3B シミュレータ部、4 パラメータ修正部、5 可動部状態予測部、6 固定部状態予測部、7 システム評価部、8 予測モデル、10 リニア搬送設計支援システム、11 パラメータ送信部、12 パラメータ受信部、13 計算結果送信部、14 計算結果受信部、15 インターネット、20 リニア搬送装置、21 可動部、22 固定部、23 ガイドレール、25 コントローラ部、30 リニア搬送システム、90,93 処理回路、91 プロセッサ、92 メモリ。
【要約】
リニア搬送設計支援装置(1A)は、搬送経路を移動する1つまたは複数の可動部、可動部を磁力で駆動する複数の固定部を有するリニア搬送装置の設計を支援するリニア搬送設計支援装置であって、固定部設計情報、可動部設計情報、および可動部の移動の情報である動作指示情報の組合せをパラメータセットとして記憶するパラメータ設定部(2)と、パラメータセットを用いてリニア搬送装置の動作がシミュレーションされたことによって計算された、リニア搬送装置の搬送能力を表す指標である搬送効率およびリニア搬送装置の稼働時に発生するコストを表す指標であるシステム評価情報と、予め設定されたシステム評価情報の可変範囲を制限する制約範囲とに基づいて、システム評価情報が制約範囲を満たしつつ搬送効率が向上するよう、パラメータセットに含まれるパラメータのうちの少なくとも1つのパラメータを修正するパラメータ修正部(4)とを備える。