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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-26
(45)【発行日】2025-01-10
(54)【発明の名称】電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/49 20070101AFI20241227BHJP
【FI】
H02M7/49
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024565355
(86)(22)【出願日】2024-07-12
(86)【国際出願番号】 JP2024025245
【審査請求日】2024-11-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】梶山 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中山 暁斗
(72)【発明者】
【氏名】田中 美和子
【審査官】上野 力
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/216208(WO,A1)
【文献】特開2014-25927(JP,A)
【文献】特開2014-89184(JP,A)
【文献】特開2023-151956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流回路および直流回路との間で電力変換を行なう電力変換装置であって、
前記交流回路の相ごとに複数のアームを含む電力変換器と、
前記電力変換器を制御する制御装置とを備え、
前記複数のアームの各々は、互いにカスケード接続された複数の変換器セルを有し、
前記複数の変換器セルの各々は、複数のスイッチング素子と、前記複数のスイッチング素子に接続されるコンデンサとを有し、
前記制御装置は、
前記電力変換器に対する電圧指令値と、前記変換器セルを含むアームに流れるアーム電流と、前記変換器セルの前記コンデンサの電圧を示すコンデンサ電圧と、前記変換器セルで発生する電力損失とに基づいて、前記変換器セルの前記コンデンサに流入するコンデンサ流入電力を算出する電力算出部と、
前記コンデンサ流入電力と、前記コンデンサ電圧とに基づいて、前記コンデンサの静電容量を推定する静電容量推定部とを含む、電力変換装置。
【請求項2】
前記電力算出部は、
前記電圧指令値と、前記コンデンサ電圧と、前記アーム電流とに基づいて、前記変換器セルに流入するセル流入電力を算出し、
前記セル流入電力から、前記変換器セルで発生する前記電力損失を減算した減算値に基づいて、前記コンデンサ流入電力を算出する、請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記電力算出部は、前記減算値から規定の周波数成分を抽出した値を、前記コンデンサ流入電力として算出する、請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記規定の周波数成分は、前記交流回路の交流電圧の基本波周波数成分、または、前記基本波周波数成分の2倍の周波数成分である、請求項3に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記変換器セルで発生する前記電力損失として、前記変換器セルに含まれる前記複数のスイッチング素子で発生する第1電力損失を算出する電力損失算出部をさらに含む、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記電力損失算出部は、前記変換器セルで発生する前記電力損失として、前記変換器セルに含まれる抵抗要素で発生する第2電力損失をさらに算出する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記電力損失算出部は、前記アーム電流に基づく演算式を用いて前記第1電力損失を算出する、請求項5に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記変換器セルは、前記スイッチング素子を冷却するための冷却フィンを有し、
前記制御装置は、前記冷却フィンに流入する冷却媒体の第1温度と、前記冷却フィンから流出する冷却媒体の第2温度との差分温度と、前記アーム電流とに基づいて、前記演算式の係数を算出する係数算出部をさらに含む、請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記変換器セルは、前記スイッチング素子を冷却するための冷却フィンを有し、
前記制御装置は、前記電力変換器から前記直流回路に出力される有効電力と、前記電力変換器から前記交流回路に出力される有効電力との差分電力と、前記アーム電流とに基づいて、前記演算式の係数を算出する係数算出部をさらに含む、請求項7に記載の電力変換装置。
【請求項10】
前記電圧指令値は、前記変換器セルから出力されるセル電圧に対するセル電圧指令値である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項11】
前記電圧指令値は、前記変換器セルを含む前記アームから出力されるアーム電圧に対するアーム電圧指令値である、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項12】
前記制御装置は、前記複数の変換器セルのうちの少なくとも1つの変換器セルにおける前記コンデンサの静電容量が閾値未満である場合、前記少なくとも1つの変換器セルを識別するための情報を報知する報知部をさらに含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項13】
前記制御装置は、
前記電力変換器から出力される直流電流を直流電流指令値に追従させる制御を実行する直流電流制御部と、
前記複数の変換器セルのうちの少なくとも1つの変換器セルにおける前記コンデンサの静電容量が閾値未満である場合、直流電流リミット値が示す範囲内に前記直流電流指令値を制限する直流電流制限部とをさらに含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項14】
前記制御装置は、
前記電力変換器から出力される交流電流を交流電流指令値に追従させる制御を実行する交流電流制御部と、
前記複数の変換器セルのうちの少なくとも1つの変換器セルにおける前記コンデンサの静電容量が閾値未満である場合、交流電流リミット値が示す範囲内に前記交流電流指令値を制限する交流電流制限部とをさらに含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【請求項15】
前記変換器セルは、前記変換器セルの入出力端子間をバイパスするためのバイパススイッチをさらに有し、
前記制御装置は、前記変換器セルにおける前記コンデンサの静電容量が閾値未満である場合に、前記バイパススイッチを閉じるバイパススイッチ制御部をさらに含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力系統などの高圧系統に適用される高電圧、大容量の電力変換装置として、モジュラーマルチレベル変換器(MMC:Modular Multilevel Converter)が知られている。MMCは、セルと呼ばれる複数の単位変換器がカスケード接続されたアームで構成されている。セルは、複数の半導体スイッチとコンデンサとを備えており、半導体スイッチをオンオフさせることにより、コンデンサの両端電圧またはゼロ電圧を出力する。
【0003】
単位変換器に設けられているコンデンサは、経年劣化等により静電容量が低減する。静電容量の低減はMMC方式の電力変換器の故障につながる可能性があるため、コンデンサの劣化状態を確認するための技術が知られている。
【0004】
例えば、特表2010-511876号公報(特許文献1)に係る電力変換装置は、コンデンサとパワー半導体とを有するサブモジュールからなる直列回路を含む相モジュール分路と、コンデンサのキャパシタンスを時間依存的に判定するためのコンデンサ診断手段とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2010-511876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、コンデンサの充電変化を得るためにサブモジュールのパワー半導体の導通と遮断との間で相モジュール分岐電流が積分され、当該充電変化およびコンデンサの電圧変化に基づいて、相モジュールのコンデンサの静電容量の変化が判定される。しかし、上記構成によると、相モジュール分岐電流の積分を実行する区間において、高いサンプリング周波数でのサンプリングおよび高速な演算が必要となり、処理負荷が大きくなる可能性がある。
【0007】
本開示のある局面における目的は、変換器セルのコンデンサの静電容量を推定する際の処理負荷を軽減することが可能な電力変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ある実施の形態に従うと、交流回路および直流回路との間で電力変換を行なう電力変換装置が提供される。電力変換装置は、交流回路の相ごとに複数のアームを含む電力変換器と、電力変換器を制御する制御装置とを備える。複数のアームの各々は、互いにカスケード接続された複数の変換器セルを有する、複数の変換器セルの各々は、複数のスイッチング素子と、複数のスイッチング素子に接続されるコンデンサとを有する。制御装置は、電力変換器に対する電圧指令値と、変換器セルを含むアームに流れるアーム電流と、変換器セルのコンデンサの電圧を示すコンデンサ電圧と、変換器セルで発生する電力損失とに基づいて、変換器セルのコンデンサに流入するコンデンサ流入電力を算出する電力算出部と、コンデンサ流入電力と、コンデンサ電圧とに基づいて、コンデンサの静電容量を推定する静電容量推定部とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る電力変換装置によると、変換器セルのコンデンサの静電容量を推定する際の処理負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】電力変換装置の構成例を示す図である。
図2】変換器セルの一例を示す回路図である。
図3】制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図4】実施の形態1に従う制御装置の内部構成を表わす図である。
図5】実施の形態1に従う基本制御部の構成例を示す図である。
図6】実施の形態1に従うアーム制御部の構成例を示すブロック図である。
図7】実施の形態1に従う個別セル制御部の構成例を示すブロック図である。
図8】実施の形態1に従う流入電力算出部の構成例を示すブロック図である。
図9】実施の形態1に従う周波数成分抽出部の構成例を示すブロック図である。
図10】実施の形態1に従う静電容量算出部の構成例を示すブロック図である。
図11】実施の形態2に従う基本制御部の構成例を示すブロック図である。
図12】実施の形態2に従う個別セル制御部の構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0012】
[各実施の形態の基礎となる構成]
<全体構成>
図1は、電力変換装置の構成例を示す図である。図1を参照して、電力変換装置100は、交流回路2と直流回路4との間に接続されている。直流回路4は、例えば、直流送電網等を含む直流電力系統、または他の電力変換装置の直流端子である。後者の場合、2台の電力変換器を連結することによって定格周波数などが異なる交流電力系統間を接続するためのBTB(Back To Back)システムが構成される。直流回路4は、電力変換器6の直流端子に接続された蓄電装置を含む構成であってもよい。蓄電装置は、例えば、電気二重層コンデンサ、あるいはリチウムイオン電池等の蓄電池を含む。
【0013】
電力変換装置100は、直流回路4と交流回路2との間で電力変換を行なう自励式の電力変換器6と、電力変換器6を制御するための制御装置5とを含む。典型的には、電力変換器6は、互いに直列接続された複数の変換器セル(図1中の「セル」に対応)1を含むモジュラーマルチレベル変換器によって構成される。「変換器セル」は、「サブモジュール(sub module)」あるいは「単位変換器」とも称される。
【0014】
図1の例では、電力変換器6は、交流回路2の相ごとに複数のアームを含む。具体的には、電力変換器6は、正極直流端子(すなわち、高電位側直流端子)Npと、負極直流端子(すなわち、低電位側直流端子)Nnとの間に互いに並列に接続された複数のレグ回路8u,8v,8w(以下、総称する場合または任意のものを示す場合、「レグ回路8」と記載する)を含む。レグ回路8は、交流回路2と直流回路4との間に接続され、両回路間で電力変換を行なう。
【0015】
交流回路2のU相、V相、W相にそれぞれ対応するレグ回路8u,8v,8wにそれぞれ設けられた交流端子Nu,Nv,Nwは、変圧器3を介して交流回路2に接続される。交流回路2は、例えば、交流電源などを含む三相交流電力系統である。図1では、図解を容易にするために、交流端子Nv,Nwと変圧器3との接続は図示していない。各レグ回路8に共通に設けられた直流端子(すなわち、正極直流端子Np,負極直流端子Nn)は、直流回路4に接続される。
【0016】
図1の変圧器3を用いる代わりに、レグ回路8u,8v,8wは、連系リアクトルを介して交流回路2に接続した構成としてもよい。さらに、交流端子Nu,Nv,Nwに代えてレグ回路8u,8v,8wにそれぞれ一次巻線を設け、この一次巻線と磁気結合する二次巻線を介してレグ回路8u,8v,8wが変圧器3または連系リアクトルに交流的に接続するようにしてもよい。この場合、一次巻線を下記のリアクトル7a,7bとしてもよい。すなわち、レグ回路8は、交流端子Nu,Nv,Nwまたは上記の一次巻線など、各レグ回路8u,8v,8wに設けられた接続部を介して電気的(すなわち、直流的または交流的)に交流回路2に接続される。
【0017】
レグ回路8uは、正極直流端子Npから交流端子Nuまでの正側アーム13puと、負極直流端子Nnから交流端子Nuまでの負側アーム13nuとを含む。正側アーム13puと負側アーム13nuとの接続点が、交流端子Nuとして変圧器3と接続される。正極直流端子Npおよび負極直流端子Nnが直流回路4に接続される。レグ回路8vは正側アーム13pvと負側アーム13nvとを含み、レグ回路8wは正側アーム13pwと負側アーム13nwとを含む。
【0018】
以下では、正側アーム13pu,13pv,13pwについて、総称する場合または任意のものを示す場合、「正側アーム13p」と記載する。負側アーム13nu,13nv,13nwについて、総称する場合または任意のものを示す場合、「負側アーム13n」と記載する。正側アーム13pu,13pv,13pwおよび負側アーム13nu,13nv,13nwについて、総称する場合または任意のものを示す場合、「アーム13」と記載する。
【0019】
レグ回路8v,8wはレグ回路8uと同様の構成を有しているので、以下、レグ回路8uを代表として説明する。レグ回路8uにおいて、正側アーム13puは、互いにカスケード接続された複数の変換器セル1_1~1_Mと、リアクトル7aとを含む。複数の変換器セル1とリアクトル7aとは互いに直列接続されている。負側アーム13nuは、互いにカスケード接続された複数の変換器セル1_1~1_Mと、リアクトル7bとを含む。複数の変換器セル1とリアクトル7bとは互いに直列接続されている。
【0020】
本実施の形態では、例えば、各アーム13に含まれる変換器セルの数をMとする。ただし、M≧2とする。また、変換器セル1_1~1_Mを総称して、変換器セル1と記載する場合もある。変換器セル1_1~1_Mにおけるアンダーバーの後の値および変数は変換器セル1のインデックスを示す。インデックスiを用いて任意の変換器セル1を「変換器セル1_i」と示す場合もある。ただし、インデックスiは、変換器セル1の物理的な配置とは関係しない。
【0021】
リアクトル7aが挿入される位置は、正側アーム13puのいずれの位置であってもよく、リアクトル7bが挿入される位置は、負側アーム13nuのいずれの位置であってもよい。リアクトル7a,7bはそれぞれ複数個あってもよい。各リアクトルのインダクタンス値は互いに異なっていてもよい。さらに、正側アーム13puのリアクトル7aのみ、もしくは、負側アーム13nuのリアクトル7bのみを設けてもよい。
【0022】
電力変換装置100は、さらに、交流電圧検出器10と、交流電流検出器15と、直流電圧検出器11a,11bと、各レグ回路8に設けられたアーム電流検出器9a,9bとを含む。これらの検出器は、電力変換装置100の制御に使用される電気量(すなわち、電流、電圧)を計測する。これらの検出器によって検出された信号は、制御装置5に入力される。
【0023】
交流電圧検出器10は、交流回路2のU相の交流電圧Vacu、V相の交流電圧Vacv、W相の交流電圧Vacw(以下、「交流電圧Vac」とも総称する。)を検出する。交流電流検出器15は、交流回路2のU相の交流電流実測値Isysu、V相の交流電流実測値Isysv、W相の交流電流実測値Isyswを検出する。直流電圧検出器11aは、直流回路4に接続された正極直流端子Npの直流電圧Vdcpを検出する。直流電圧検出器11bは、直流回路4に接続された負極直流端子Nnの直流電圧Vdcnを検出する。
【0024】
U相用のレグ回路8uに設けられたアーム電流検出器9a,9bは、正側アーム13puに流れる正側アーム電流Ipuおよび負側アーム13nuに流れる負側アーム電流Inuをそれぞれ検出する。V相用のレグ回路8vに設けられたアーム電流検出器9a,9bは、正側アーム電流Ipvおよび負側アーム電流Invをそれぞれ検出する。W相用のレグ回路8wに設けられたアーム電流検出器9a,9bは、正側アーム電流Ipwおよび負側アーム電流Inwをそれぞれ検出する。
【0025】
以下の説明では、正側アーム電流Ipu、Ipv、Ipwを総称して正側アーム電流Iarmpと記載する。負側アーム電流Inu、Inv、Inwを総称して負側アーム電流Iarmnと記載する。正側アーム電流Iarmpと負側アーム電流Iarmnとを総称してアーム電流Iarmと記載する。
【0026】
図1に示すように、レグ回路8uの正側アーム13puと負側アーム13nuとの接続点である交流端子Nuは、変圧器3に接続されている。したがって、交流端子Nuから変圧器3に向かって流れる交流電流Iacuは、正側アーム電流Ipuから負側アーム電流Inuを減算した電流値となる。交流電流Iacv,Iacwについても同様である。したがって、“Iacu=Ipu-Inu”、“Iacv=Ipv-Inv”および“Iacw=Ipw-Inw”が成立する。以下、電力変換器6から出力される交流電流Iacu,Iacv,Iacwを「交流電流Iac」とも総称する。
【0027】
各相のレグ回路8u,8v,8wの正極の直流端子は正極直流端子Npとして共通に接続され、負極の直流端子は負極直流端子Nnとして共通に接続されている。この構成から、直流回路4の正側端子から流れ込み、負側端子を介して直流回路4に帰還する直流電流Idcは、“Idc=(Ipu+Ipv+Ipw+Inu+Inv+Inw)/2”として定義される。
【0028】
レグ電流に含まれる直流電流成分は、各相で均等に分担するとセルの電流容量を均等にすることができる。このことを考慮すると、レグ電流と直流電流値の1/3との差分が、直流回路4に流れないが各相のレグ間に流れる循環電流の電流値として演算できる。そのため、U相、V相、W相の循環電流をそれぞれIzu,Izv,Izwとすると、“Izu=(Ipu+Inu)/2-Idc/3”、“Izv=(Ipv+Inv)/2-Idc/3”、および“Izw=(Ipw+Inw)/2-Idc/3”が成立する。以下、循環電流Izu,Izv,Izwを「循環電流Iz」とも総称する。
【0029】
<変換器セルの構成例>
図2は、変換器セルの一例を示す回路図である。図2に示す変換器セル1は、ハーフブリッジ構成と呼ばれる回路構成を有する。変換器セル1は、2つのスイッチング素子31p、31nを直列接続して形成した直列体と、蓄電素子としてのコンデンサ32と、電圧検出器33と、バイパススイッチ34と、スイッチング素子31p,31nを冷却するための冷却フィン35とを含む。直列体とコンデンサ32とは並列接続される。電圧検出器33は、コンデンサ32の両端の電圧であるコンデンサ電圧Vcを検出する。
【0030】
2つのスイッチング素子31p、31nは、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field-Effect Transistor)、GCT(Gate Commutated Turn-off)サイリスタなどの自己消弧型の半導体スイッチング素子に還流ダイオードが逆並列に接続されて構成される。また、コンデンサ32には、フィルムコンデンサ等が主に用いられる。
【0031】
以下の説明では、スイッチング素子31p,31nをスイッチング素子31とも総称する。また、スイッチング素子31内の半導体スイッチング素子のオンオフを、単に「スイッチング素子31のオンオフ」と記載する。スイッチング素子31p,31nは、それぞれ制御装置5から受信したゲート信号Gp,Gnに従ってオン、オフを切り替える。
【0032】
図2を参照して、スイッチング素子31nの両端子を入出力端子G1,G2とする。スイッチング素子31p、31nのスイッチング動作によりコンデンサ32の両端電圧、および零電圧を出力する。例えば、スイッチング素子31pがオン、かつスイッチング素子31nがオフとなったときに、コンデンサ32の両端電圧が出力される。スイッチング素子31pがオフ、かつスイッチング素子31nがオンとなったときに、零電圧が出力される。
【0033】
バイパススイッチ34は、入出力端子G1,G2間に接続される。バイパススイッチ34は、スイッチング素子31nと並列に接続される。バイパススイッチ34は、制御装置5から受信した駆動信号BPに応じてオンとなり、入出力端子G1,G2間がバイパス(すなわち、変換器セル1が短絡)される。例えば、バイパススイッチ34は、変換器セル1の各素子が故障した場合に、当該変換器セル1を短絡させる際に利用される。これにより、任意の変換器セル1が故障しても、他の変換器セル1を利用することにより電力変換器6の運転継続が可能となる。
【0034】
冷却フィン35は、スイッチング素子31p,31nを冷却するための冷却媒体WI,WOと熱的に接続される。冷却媒体WI,WOは、例えば、純水であり、冷却水とも称される。冷却媒体WI,WOは、図示しないポンプによって循環される。冷却媒体WIは冷却フィン35に流入する冷却水であり、冷却媒体WOは冷却フィン35から流出する冷却水である。
【0035】
また、変換器セル1内、または外部には、温度検出器DWI,DWOが設けられる。温度検出器DWIは、冷却フィン35に流入する冷却媒体WIの温度Twiを検出し、温度Twiを制御装置5に出力する。温度検出器DWOは、冷却フィン35から流出する冷却媒体WOの温度Twoを検出し、温度Twoを制御装置5に出力する。
【0036】
なお、図2の例では、変換器セル1ごとに温度検出器DWI,DWOを設ける構成となっている。しかし、各冷却フィン35に入力される冷却媒体WIが、配管の接続点F1から分岐して供給され、各冷却フィン35から出力される冷却媒体WOが、配管の接続点F2に合流するように構成される場合がある。この場合、接続点F1に温度検出器DWIを設け、接続点F2に温度検出器DWOを設けてもよい。なお、接続点F1から分岐して各冷却フィン35に入力される冷却媒体WIの温度はすべて同一とし、接続点F2に合流する各冷却フィン35から出力される冷却媒体WOの温度もすべて同一とする。
【0037】
本実施の形態では、変換器セル1が図2に示すハーフブリッジセル構成を有する場合について説明する。しかし、変換器セル1は、例えば、フルブリッジ構成の回路、クランプトダブルセルと呼ばれる回路などを適用した変換器セルであってもよい。
【0038】
<制御装置のハードウェア構成例>
図3は、制御装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。図3の場合の制御装置5は、コンピュータに基づいて構成される。図3を参照して、制御装置5は、1つ以上の入力変換器70と、1つ以上のS/H(サンプルホールド)回路71と、マルチプレクサ(MUX:multiplexer)72と、A/D変換器73と、1つ以上のCPU(Central Processing Unit)74と、RAM(Random Access Memory)75と、ROM(Read Only Memory)76と、1つ以上の入出力インターフェイス77と、補助記憶装置78と、上記の構成要素間を相互に接続するバス79とを含む。
【0039】
入力変換器70は、入力チャンネルごとに補助変成器を備える。各補助変成器は、図1の各電気量検出器による検出信号を、後続する信号処理に適した電圧レベルの信号に変換する。
【0040】
サンプルホールド回路71は、入力変換器70ごとに設けられる。サンプルホールド回路71は、対応の入力変換器70から受けた電気量を表す信号を規定のサンプリング周波数でサンプリングして保持する。
【0041】
マルチプレクサ72は、複数のサンプルホールド回路71に保持された信号を順次選択する。A/D変換器73は、マルチプレクサ72によって選択された信号をデジタル値に変換する。なお、複数のA/D変換器73を設けることによって、複数の入力チャンネルの検出信号に対して並列的にA/D変換を実行するようにしてもよい。
【0042】
CPU74は、制御装置5の全体を制御し、プログラムに従って演算処理を実行する。揮発性メモリとしてのRAM75および不揮発性メモリとしてのROM76は、CPU74の主記憶として用いられる。ROM76は、プログラムおよび信号処理用の設定値などを収納する。補助記憶装置78は、ROM76に比べて大容量の不揮発性メモリであり、プログラムおよび電気量検出値のデータなどを格納する。
【0043】
入出力インターフェイス77は、CPU74と外部装置との間で通信する際のインターフェイス回路である。
【0044】
なお、制御装置5の少なくとも一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの回路を用いて構成してもよい。もしくは、制御装置5の少なくとも一部は、アナログ回路によって構成することもできる。
【0045】
以下、各実施の形態について具体的に説明する。
実施の形態1.
<制御装置の機能構成>
(内部構成の概要)
図4は、実施の形態1に従う制御装置の内部構成を表わす図である。図4を参照して、制御装置5は、HMI(Human Machine Interface)501と、U相基本制御部502Uと、V相基本制御部502Vと、W相基本制御部502Wと、U相正側アーム制御部503UPと、U相負側アーム制御部503UNと、V相正側アーム制御部503VPと、V相負側アーム制御部503VNと、W相正側アーム制御部503WPと、W相負側アーム制御部503WNとを含む。なお、本明細書では、制御装置5を構成するこれらの制御部において演算に用いられる各種電気量は、PU(Per Unit)法の単位に変換されているものとする。
【0046】
以下の説明では、U相基本制御部502U、V相基本制御部502V、および、W相基本制御部502Wを、「基本制御部502」とも総称する。U相正側アーム制御部503UP、V相正側アーム制御部503VP、およびW相正側アーム制御部503WPを「正側アーム制御部503P」とも総称する。U相負側アーム制御部503UN、V相負側アーム制御部503VN、およびW相負側アーム制御部503WNを「負側アーム制御部503N」とも総称する。正側アーム制御部503Pおよび負側アーム制御部503Nを「アーム制御部503」とも総称する。
【0047】
基本制御部502およびアーム制御部503の構成は、例えば、処理回路により実現される。処理回路は、専用のハードウェアであってもよいし、制御装置5の内部メモリに格納されるプログラムを実行するCPU74であってもよい。処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、FPGA、ASIC、またはこれらを組み合わせたもの等で構成される。
【0048】
各相の基本制御部502は、上記の各検出器により計測された電気量を用いて、正側アーム13p用のアーム電圧指令値Varmprと、負側アーム13n用のVarmnrと、正側アーム13pのコンデンサ電圧指令値Vcprと、負側アーム13nのコンデンサ電圧指令値Vcnrとを生成する。以下の説明において、各アームのうちのいずれのアームであるかを指定しない場合には、単にアーム電圧指令値Varmr、コンデンサ電圧指令値Vcrと記載する。また、基本制御部502は、交流電流Iacから検出される基準位相θpを生成する。アーム電圧指令値Varmrは、変換器セル1を含むアームから出力されるアーム電圧に対する指令値である。
【0049】
アーム制御部503は、各アーム電圧指令値Varmr、コンデンサ電圧指令値Vcrおよび基準位相θpに基づいて、アームを構成する各変換器セル1に設けられたスイッチング素子31p,31nのオンおよびオフを制御するためのゲート信号Gp,Gnを生成し、当該ゲート信号Gp,Gnを各変換器セル1に出力する。
【0050】
(基本制御部の構成例)
図5は、実施の形態1に従う基本制御部の構成例を示す図である。図5を参照して、基本制御部502は、アーム電圧指令生成部601と、コンデンサ電圧指令生成部610と、基準位相検出部620とを含む。
【0051】
アーム電圧指令生成部601は、正側アーム13pに含まれるM個の変換器セル1のためのアーム電圧指令値Varmprと、負側アーム13nに含まれるM個の変換器セル1のためのアーム電圧指令値Varmnrとを生成する。アーム電圧指令生成部601は、アーム電圧指令値Varmprを正側アーム制御部503Pに出力し、アーム電圧指令値Varmnrを負側アーム制御部503Nに出力する。以下では、アーム電圧指令値Varmpr,Varmnrを「アーム電圧指令値Varmr」とも総称する。
【0052】
コンデンサ電圧指令生成部610は、正側アーム13pに含まれるM個の変換器セル1のコンデンサ32のコンデンサ電圧指令値Vcrpを生成し、負側アーム13nに含まれるM個の変換器セル1のコンデンサ32のコンデンサ電圧指令値Vcrnを生成する。コンデンサ電圧指令生成部610は、コンデンサ電圧指令値Vcrpを正側アーム制御部503Pに出力し、コンデンサ電圧指令値Vcrnを負側アーム制御部503Nに出力する。
【0053】
コンデンサ電圧指令値Vcrpは、例えば、正側アーム13pに含まれる各変換器セル1のコンデンサ32の平均電圧に設定され、コンデンサ電圧指令値Vcrnは、例えば、負側アーム13nに含まれる各変換器セル1のコンデンサ32の平均電圧とする。以下では、コンデンサ電圧指令値Vcrp,Vcrnを「コンデンサ電圧指令値Vcr」とも総称する。
【0054】
基準位相検出部620は、各相の交流電流Vacから、電力変換器6から出力される交流電圧Vacに同期した周波数の位相である基準位相θpを検出する。
【0055】
以下、アーム電圧指令生成部601の具体的な構成について説明する。アーム電圧指令生成部601は、交流電流制御部603と、直流電流制御部604と、循環電流制御部605と、指令分配部606と、交流電流リミッタ608と、直流電流リミッタ609とを含む。
【0056】
交流電流リミッタ608は、M個の異常信号Empと、M個の異常信号Emnとに基づいて、交流電流指令値Iacrefを交流電流リミットが示す範囲R1内に制限した交流電流指令値Iacref*を生成する。M個の異常信号Empは、それぞれ、正側アーム13pに含まれるM個の変換器セル1のコンデンサ32の異常を示す。M個の異常信号Emnは、それぞれ、負側アーム13nに含まれるM個の変換器セル1のコンデンサ32の異常を示す。以下、異常信号Emp,Emnを「異常信号Em」とも総称する。
【0057】
具体的には、各アーム13に含まれるM個の変換器セル1のうちの少なくとも1つの変換器セル1におけるコンデンサ32の静電容量が閾値Th未満である場合(例えば、M個の異常信号Emのうちの少なくとも1つが異常を示す場合)、交流電流リミッタ608は、交流電流指令値Iacrefを下限リミット値Imin1以上かつ上限リミット値Imax1以下に(すなわち、範囲R1内に)制限した値を交流電流指令値Iacref*として出力する。一方、各アーム13に含まれるM個の変換器セル1のうちの少なくとも1つの変換器セル1におけるコンデンサ32の静電容量が閾値Th以上である場合、交流電流リミッタ608は、上記制限を実行せずに、交流電流指令値Iacrefをそのまま出力する。この場合、“Iacref*=Iacref”である。
【0058】
交流電流制御部603は、電力変換器6から出力される交流電流Iacを交流電流指令値Iacref(または、交流電流指令値Iacref*)に追従させる制御を実行する。具体的には、交流電流制御部603は、交流電流Iacと交流電流指令値Iacrefとの偏差を0にするためのフィードバック制御と、交流回路2の交流電圧Vacのフィードフォワード制御とにより、交流制御指令値Vacrを生成する。すなわち、交流電流制御部603は、交流電流Iacを交流電流指令値Iacrefに追従させるための交流制御指令値Vacrを生成する。交流電流指令値Iacrefは、例えば、系統運用者等により予め設定される。なお、上記フィードフォワード制御は、交流回路2の電圧変動に対する外乱応答性を向上するために行われる。なお、交流電圧Vacのフィードフォワード制御を実行しない構成であってもよい。
【0059】
直流電流リミッタ609は、M個の異常信号Empと、M個の異常信号Emnとに基づいて、直流電流指令値Idcrefを直流電流リミットが示す範囲R2内に制限した直流電流指令値Idcref*を生成する。
【0060】
具体的には、各アーム13に含まれるM個の変換器セル1のうちの少なくとも1つの変換器セル1におけるコンデンサ32の静電容量が閾値Th未満である場合(例えば、M個の異常信号Emのうちの少なくとも1つが異常を示す場合)、直流電流リミッタ609は、直流電流指令値Idcrefを下限リミット値Imin2以上かつ上限リミット値Imax2以下に(すなわち、範囲R2内に)制限した値を直流電流指令値Idcref*として出力する。一方、各アーム13に含まれるM個の変換器セル1のうちの少なくとも1つの変換器セル1におけるコンデンサ32の静電容量が閾値Th以上である場合、直流電流リミッタ609は、上記制限を実行せずに、直流電流指令値Idcrefをそのまま出力する。この場合、“Idcref*=Idcref”である。
【0061】
直流電流制御部604は、電力変換器6から出力される直流電流Idcを直流電流指令値Idcref(または、直流電流指令値Idcref*)に追従させる制御を実行する。具体的には、直流電流制御部604は、直流電圧指令値Vdcrefと直流電流指令値Idcrefとに基づいて、直流電流Idcと直流電流指令値Idcrefとの偏差を0にするための直流制御指令値Vdcrを生成する。すなわち、直流電流制御部604は、直流電流Idcを直流電流指令値Idcrefに追従させるための直流制御指令値Vdcrを生成する。この際、直流電圧指令値Vdcrefは検出された直流電圧Vdcに基づいて演算されるものでもよい。直流電流指令値Idcrefは、例えば、系統運用者等により予め設定される。
【0062】
循環電流制御部605は、循環電流Izを循環電流指令値Izrefに追従させる制御を実行する。具体的には、循環電流制御部605は、循環電流Izと循環電流指令値Izrefとの偏差を0にするための循環制御指令値Vzrを生成する。ある局面において、循環電流指令値Izrefは、たとえば、0に設定される。他の局面において、循環電流指令値Izrefは、レグ回路8u,8v,8wの各々のコンデンサ電圧の平均値の相違が小さくなるように、さらに、相ごとに正側アーム13pおよび負側アーム13nの各々のコンデンサ電圧の平均値の相違が小さくなるように設定される。
【0063】
上述した交流電流制御部603、直流電流制御部604、および循環電流制御部605は、比例制御器、PI制御器、PID制御器、またはフィードバック制御に用いられる他の制御器として構成され得る。
【0064】
指令分配部606は、交流制御指令値Vacrと、循環制御指令値Vzrと、直流制御指令値Vdcrと、中性点電圧Vsnとの入力を受ける。電力変換器6の交流側が変圧器3を介して交流回路2に接続されているため、中性点電圧Vsnは、直流回路4の直流電源の電圧により求めることができる。直流制御指令値Vdcrは、上記の直流出力制御により決定されてもよいし、一定値であってもよい。
【0065】
指令分配部606は、これらの入力に基づいて、正側アーム13p、および負側アーム13nがそれぞれ出力分担する電圧を算出する。指令分配部606は、算出した電圧から正側アーム13p、負側アーム13n内のインダクタンス成分による電圧降下分をそれぞれ差し引くことによって、正側アーム13pのアーム電圧指令値Varmpr、および負側アーム13nのアーム電圧指令値Varmnrを生成する。
【0066】
生成されたアーム電圧指令値Varmpr,Varmnrは、交流電流Iacを交流電流指令値Iacrefに追従させ、循環電流Izを循環電流指令値Izrefに追従させ、直流電圧Vdcを直流電圧指令値Vdcrefに追従させるとともに、交流電圧Vacをフィードフォワード制御する出力電圧指令値である。
【0067】
(アーム制御部の構成例)
図6は、実施の形態1に従うアーム制御部の構成例を示すブロック図である。図6を参照して、アーム制御部503は、M個の個別セル制御部202_1,・・・,202_M(以下、「個別セル制御部202」とも総称する。)を含む。また、インデックスiを用いて任意の個別セル制御部202を「個別セル制御部202_i」とも示す。
【0068】
個別セル制御部202_iは、対応する変換器セル1_iを個別に制御する。個別セル制御部202_iは、基本制御部502から、アーム電圧指令値Varmr、アーム電流Iarm、コンデンサ電圧指令値Vcr、基準位相θp、キャリア周波数fc、およびキャリア位相θcの入力を受ける。
【0069】
個別セル制御部202_iは、変換器セル1_iのゲート信号Gp(i),Gn(i)およびバイパススイッチ34の駆動信号BP(i)を生成して、変換器セル1_iへ出力する。一方、個別セル制御部202_iは、変換器セル1_iの電圧検出器33からコンデンサ電圧Vc(i)の検出値を受信し、温度検出器DWI,DWOから温度Twi(i),Two(i)を受信する。個別セル制御部202_iは、コンデンサ電圧Vc(i)および温度Twi(i),Two(i)に基づいて生成した異常信号Em(i)と、コンデンサ電圧Vc(i)とを基本制御部502に出力する。
【0070】
<個別セル制御部の構成例>
図7は、実施の形態1に従う個別セル制御部の構成例を示すブロック図である。図7を参照して、個別セル制御部202は、搬送波生成部203と、個別電圧制御部205と、ゲート信号生成部207と、係数算出部210と、電力損失算出部212と、流入電力算出部214と、静電容量推定部216と、異常判定部218と、BPS駆動部220とを含む。
【0071】
(ゲート信号の生成方式)
まず、ゲート信号Gp,Gnの生成方式について説明する。
【0072】
搬送波生成部203は、位相シフトPWM(Pulse Width Modulation)制御で用いられる、ある定められた周波数(すなわち、キャリア周波数)を有するキャリア信号CSを生成する。位相シフトPWM制御とは、同一アーム(例えば、正側アーム13pまたは負側アーム13n)を構成する複数の(例えば、M個の)変換器セル1のそれぞれに対して出力されるPWM信号のタイミングを相互にずらすものである。これによって、各変換器セル1の出力電圧の合成電圧に含まれる高調波成分が削減されることが知られている。
【0073】
搬送波生成部203は、基本制御部502から受信した共通のキャリア位相θcおよびキャリア周波数fcに基づいて、M個の変換器セル1の間で相互に位相のずれたキャリア信号CSを生成する。キャリア信号CSは、例えば、三角波信号等の周期的な信号である。
【0074】
個別電圧制御部205には、対応する変換器セル1が属するアームのアーム電圧指令値Varmrと、当該アームのアーム電流Iarmの検出値と、コンデンサ電圧指令値Vcrと、対応する変換器セル1のコンデンサ電圧Vcとの入力を受ける。コンデンサ電圧指令値Vcrは、電力変換器6の全体のコンデンサ電圧Vcの平均値に設定されてもよいし、同一アームに含まれるM個の変換器セル1のコンデンサ電圧の平均値に設定されてもよい。
【0075】
個別電圧制御部205は、コンデンサ電圧指令値Vcrに対するコンデンサ電圧Vcの偏差に演算を施して、個別電圧制御のための制御出力値を算出する。当該制御出力値を算出ための機能部は、例えば、PI制御またはPID制御等を実行する制御器によって構成される。上記制御器による演算値に対して、アーム電流Iarmの極性に応じて、「+1」または「-1」を乗算することによって、上記偏差を解消する方向にコンデンサ32を充放電するための制御出力値が算出される。もしくは、上記制御器による演算値に対して、アーム電流Iarmを乗算することによって、上記偏差を解消する方向にコンデンサ32を充放電するための制御出力値を算出してもよい。
【0076】
個別電圧制御部205は、アーム電圧指令値Varmrと、制御出力値とを加算することによって、セル電圧指令値Vcellrを出力する。セル電圧指令値Vcellrは、変換器セル1から出力されるセル電圧に対する指令値である。
【0077】
ゲート信号生成部207は、搬送波生成部203からのキャリア信号CSによって、セル電圧指令値VcellrをPWM変調することでゲート信号Gp,Gnを生成する。
【0078】
(静電容量の推定方式)
次に、変換器セル1のコンデンサ32の静電容量の推定方式について説明する。
【0079】
電力損失算出部212は、変換器セル1で発生する電力損失を算出する。具体的には、電力損失算出部212は、変換器セル1に含まれる抵抗素子で発生する瞬時的な電力損失の推定値である電力損失PRestと、変換器セル1に含まれる複数のスイッチング素子31p,31nで発生する瞬時的な電力損失の推定値である電力損失PSCestとを算出する。当該抵抗素子は、コンデンサ32と並列に接続されている抵抗素子である。
【0080】
電力損失PRestは、コンデンサ電圧Vcと、コンデンサ32と並列に接続されている抵抗要素の抵抗値Rとを用いて、以下の式(1)で表される。抵抗値Rは、例えば、予め行なわれた変換器セル1の特性試験の測定等により得られた値とする。なお、以下の式(1)では表示の簡素化の観点からVのように、下付き文字の形式で示すものとする。例えば、「数式中のV」は「本文中のVc」と同一である。これは、後述する式でも同様である。
【0081】
【数1】
【0082】
電力損失算出部212は、対応する変換器セル1が属するアームのアーム電流Iarmに基づく演算式を用いて電力損失PSCestを算出する。具体的には、電力損失PSCestは、以下の式(2)で表される。b0,b1,b2は係数である。式(2)においては、乗算記号は省略されている。これは、以下の式についても同様である。
【0083】
【数2】
【0084】
ここで、係数b0,b1,b2は、係数算出部210により算出される。具体的には、当該算出には、係数b0,b1,b2がジャンクション温度に対して変化することが利用される。係数算出部210は、冷却フィン35に流入する冷却媒体WIの温度Twiと冷却フィン35から流出する冷却媒体WOの温度Twoとの差分温度と、アーム電流Iarmとに基づいて、式(2)の係数b0,b1,b2を算出する。具体的には、係数算出部210は、当該差分温度に基づいて変換器セル1の複数のスイッチング素子31p,31nで発生する電力の時間平均損失Pscavを算出し、時間平均損失Pscavを用いて式(2)の係数b0,b1,b2を算出する。一方、時間平均損失Pscavは、アーム電流Iarmの絶対値の時間平均値|Iarm|avと、アーム電流Iarmの実効値IarmRとを用いて、以下の式(3)で表される。
【0085】
【数3】
【0086】
係数算出部210は、時間平均損失Pscav、時間平均値|Iarm|av、および実効値IarmRと、予め用意したルックアップテーブルとを用いて、式(3)の関係式が成立する適切な係数b0,b1,b2を選択する。
【0087】
温度Twiと温度Twoとの差分から時間平均損失Pscavを算出する算出方式について説明する。具体的には、冷却媒体WI、WOの比熱容量をCp[J/(K・g)]、密度をρ[g/cm]、冷却媒体WI、WOが1つの冷却フィン35に流れる流量をQw[L/s]とすると、変換器セル1の複数のスイッチング素子31p,31nで発生する時間平均損失Pscavは以下の式(4)で表される。
【0088】
【数4】
【0089】
なお、係数算出部210は、電力変換器6から交流回路2に出力される交流有効電力と、電力変換器6から直流回路4に出力される有効電力との差分電力に基づいて、時間平均損失Pscavを算出してもよい。当該時間平均損失Pscavの算出方式について説明する。ここで、交流回路2における交流有効電力をPac、直流回路4における直流有効電力Pdc、電力変換器6に含まれるすべての変換器セル1の個数をNallとする。また、電力変換器6において、変換器セル1以外で発生する損失をPotherとする。変換器セル1において、複数のスイッチング素子31p,31n以外で発生する損失をPsmotherとする。この場合、変換器セル1において発生する損失が一様であると仮定すると、変換器セル1の複数のスイッチング素子31p,31nで発生する時間平均損失Pscavは以下の式(5)で表される。
【0090】
【数5】
【0091】
ここで、損失Pother、損失Psmotherは実測値、あるいは推測値のどちらを用いてもよい。例えば、損失Potherの1つとして、変圧器3で発生する損失Ptrがあるが、損失Ptrを実測するのは難しい。そのため、無負荷損Ptri、変圧器3に流入する電流が最大のときの負荷損Ptrcn、交流電流検出器15で得られた交流電流の実効値と変圧器3に流入する最大電流の実効値との比a、および以下の式(6)を用いて、損失Ptrを算出(推定)してもよい。
【0092】
【数6】
【0093】
また、損失Psmotherの一例としては、コンデンサ32と並列に接続されている抵抗要素の抵抗値Rで発生する電力損失PRestがあり、式(1)を用いて求めることができる。
【0094】
さらに、係数b0,b1,b2は、予め行なわれた変換器セル1の特性試験の測定等で得られた電流に対する損失のデータから近似され、規定の温度条件における値に予め定められていてもよい。この場合、係数算出部210は不要である。
【0095】
図8は、実施の形態1に従う流入電力算出部の構成例を示すブロック図である。図8を参照して、流入電力算出部214は、電力変換器6の変換器セル1に対するセル電圧指令値Vcellrと、変換器セル1を含むアームに流れるアーム電流Iarmと、変換器セル1で発生する電力損失とに基づいて、変換器セル1のコンデンサ32に流入するコンデンサ流入電力を算出する。具体的には、流入電力算出部214は、乗算器251,252と、加算器254と、減算器256と、演算器258,259と、周波数成分抽出部261とを含む。
【0096】
乗算器251は、変換器セル1のセル電圧指令値Vcellrとコンデンサ電圧Vcとの乗算値を出力する。乗算器252は、乗算器251から出力される乗算値と、アーム電流Iarmとの乗算値を、変換器セル1に流入する瞬時電力であるセル流入電力Psmestとして算出する。すなわち、流入電力算出部214は、以下の式(7)に示すように、セル電圧指令値Vcellrと、コンデンサ電圧Vcと、アーム電流Iarmとを乗算することにより、セル流入電力Psmestを算出する。
【0097】
【数7】
【0098】
加算器254は、変換器セル1で発生する電力損失PSCestおよび電力損失PRestの加算値を出力する。減算器256は、セル流入電力Psmestから当該加算値を減算した減算値を、変換器セル1のコンデンサ32に流入する瞬時電力の推定値であるコンデンサ流入電力Pcestとして出力する。すなわち、流入電力算出部214は、以下の式(8)に示すように、セル流入電力Psmestから、電力損失PSCestおよび電力損失PRestを減算することによりコンデンサ流入電力Pcestを算出する。
【0099】
【数8】
【0100】
演算器258は、基準位相θpの正弦(すなわち、sinθp)を出力する。演算器259は、基準位相θpの余弦(すなわち、cosθp)を出力する。周波数成分抽出部261は、コンデンサ流入電力Pcestと、基準位相θpの正弦および余弦とに基づいて、コンデンサ流入電力Pcestから規定周波数成分を抽出した値を、コンデンサ流入電力Pc1festとして算出する。
【0101】
図9は、実施の形態1に従う周波数成分抽出部の構成例を示すブロック図である。図9を参照して、周波数成分抽出部261は、入力値Xinに対して、抽出したい規定周波数で振動する正弦波sinθと余弦波cosθとを乗算し、それぞれの乗算値を2倍した値をフィルタ処理して直流成分を抽出する。周波数成分抽出部261は、各直流成分の二乗和の平方根を算出し、当該平方根を出力値Xoutとして出力する。具体的には、周波数成分抽出部261は、乗算器271,274,281,284と、比例器272,282と、フィルタ273,283と、加算器291と、演算器292とを含む。
【0102】
例えば、基準角周波数を“ω”、時刻を“t”、規定周波数の次数を“k”とすると、位相θは“k*ω*t”で表される。また、入力値Xinを以下の式(9)のように定義する。
【0103】
【数9】
【0104】
“n”は、基準角周波数ωに対する次数、An(ただし、n≧0)は各次数の周波数成分における大きさ、φnは各次数の周波数成分における位相である。乗算器271は、以下の式(10)に示すように、入力値Xinに対して、正弦波sinθ(=sin(kωt))を乗算した値を演算する。乗算器281は、以下の式(11)に示すように、入力値Xinに対して、余弦波cosθ(=cos(kωt))を乗算した値を演算する。
【0105】
【数10】
【0106】
比例器272は、乗算器271で得られた値に“2”をかける。比例器282は、乗算器271で得られた値に“2”をかける。フィルタ273は、比例器272で演算された値から直流成分を抽出した値XoutSを出力する。フィルタ283は、比例器282で演算された値から直流成分を抽出した値XoutCを出力する。フィルタ273,283は、直流成分を抽出可能なフィルタであればよく、例えば、ローパスフィルタである。これにより、“n=k”の周波数成分のみ抽出されることとなるため、値XoutSおよび値XoutCは、それぞれ式(12)および式(13)で表される。
【0107】
【数11】
【0108】
乗算器274は、値XoutSを二乗する。乗算器284は、値XoutCを二乗する。加算器291は、値XoutSの二乗と値XoutCの二乗との加算値を出力する。演算器292は、加算値の平方根である出力値Xoutを出力する。したがって、出力値Xoutに関して、以下の式(14)が得られる。
【0109】
【数12】
【0110】
入力値Xinに含まれる基準角周波数ωを基準としたk次の周波数成分の大きさAk(すなわち、出力値Xout)を抽出することができる。
【0111】
本実施の形態では、交流回路2における交流電圧Vacの周波数と同一の周波数を規定周波数としている。そのため、規定周波数で回転する位相角は“θp”と等しい。そのため、周波数成分抽出部261は、位相θpを用いて、コンデンサ流入電力Pcest(すなわち、入力値Xinに対応)の規定周波数成分であるコンデンサ流入電力Pc1fest(すなわち、出力値Xoutに対応)を抽出する。
【0112】
コンデンサ流入電力Pc1festを抽出する理由は、コンデンサ32に流入する瞬時電力には、交流電圧Vacの周波数と同じ周波数成分が多く含まれるためである。これは、以下よって示される。
【0113】
変換器セル1が出力する電圧を“Vsm”とすると、電圧Vsmは、理想的には直流成分と基本波周波数成分で構成され、その直流成分をVdcsm、その基本波周波数成分をVacsmとする。この場合、電圧Vsmは以下の式(15)で表される。
【0114】
【数13】
【0115】
また、アーム電流Iarmも理想的には直流成分と基本波周波数成分で構成され、その直流成分をIdcarm、その基本波周波数成分をIacarmとする。この場合、アーム電流Iarmは以下の式(16)で表される。
【0116】
【数14】
【0117】
なお、“α”は変換器セル1が出力する電圧Vsmの交流成分に対する位相差である。したがって、理想的には、式(7)で導出されるセル流入電力Psmestは、式(15)および式(16)を掛け合わせた値と等しくなるため、以下の式(17)で表される。
【0118】
【数15】
【0119】
ただし、セル流入電力Psmestの直流成分Psmdcは以下の式(18)で表され、セル流入電力Psmestの基本波周波数成分Psm1fは以下の式(19)で表され、位相φ1fは以下の式(20)で表され、セル流入電力Psmestの基本波周波数の2倍成分Psm2fは以下の式(21)で表され、位相φ2fは以下の式(22)で表される。
【0120】
【数16】
【0121】
これにより、セル流入電力Psmestには、交流電圧Vacの基本波周波数と同じ周波数の成分が多く含まれることが分かる。そのため、セル流入電力Psmestから、電力損失PRestおよび電力損失PSCestを減算したコンデンサ流入電力Pcestにも、交流電圧Vacの基本波周波数と同じ周波数の成分が多く含まれる。
【0122】
規定周波数成分は、コンデンサ流入電力Pcestに多く含まれる周波数成分であれば他の周波数成分であってもよい。例えば、式(17)、式(20)および式(22)よりセル流入電力Psmestには、交流電圧Vacの基本波周波数の2倍の成分も含まれている。そのため、規定周波数成分は、交流電圧Vacの基本波周波数の2倍の成分であってもよい。
【0123】
上記のように、流入電力算出部214は、セル電圧指令値Vcellrと、コンデンサ電圧Vcと、アーム電流Iarmとに基づいて、変換器セル1に流入するセル流入電力Psmestを算出する。流入電力算出部214は、セル流入電力Psmestから、変換器セル1で発生する電力損失PRest,PSCestを減算した減算値(すなわち、コンデンサ流入電力Pcest)に基づいて、コンデンサ流入電力Pc1festを算出する。具体的には、流入電力算出部214は、当該減算値から規定周波数成分(例えば、基本波周波数成分)を抽出した値を、コンデンサ流入電力Pc1festとして算出する。
【0124】
再び、図7を参照して、静電容量推定部216は、コンデンサ流入電力Pc1festと、コンデンサ電圧Vcとに基づいて、コンデンサ32の静電容量の推定値である静電容量Cestを算出する。
【0125】
図10は、実施の形態1に従う静電容量算出部の構成例を示すブロック図である。図10を参照して、静電容量推定部216は、コンデンサ32に流入するコンデンサ電流Icを算出する。コンデンサ32の静電容量をCとすると、以下の式(23)が成立する。
【0126】
【数17】
【0127】
さらに、静電容量推定部216は、コンデンサ電圧Vcおよびコンデンサ電流Icに基づいて、コンデンサ32に流入する瞬時電力Pcを算出する。瞬時電力Pcは、以下の式(24)で表される。これにより、以下の式(25)が得られる。
【0128】
【数18】
【0129】
具体的には、静電容量推定部216は、乗算器301と、微分器302と、演算器304,305と、周波数成分抽出部306と、比例器311と、除算器312とを含む。
【0130】
乗算器301は、コンデンサ電圧Vcの二乗を演算する。微分器302は、コンデンサ電圧Vcの二乗を時間に対して微分することにより、式(25)で示す微分値を演算する。演算器304は、基準位相θpの正弦(すなわち、sinθp)を出力する。演算器305は、基準位相θpの余弦(すなわち、cosθp)を出力する。
【0131】
周波数成分抽出部306は、微分器302による演算値と、基準位相θpの正弦および余弦とに基づいて、コンデンサ電圧Vcの二乗の時間微分値から、当該時間微分値の基本周波数成分Vcsq1fを抽出する。
【0132】
ここで、式(24)に示す瞬時電力Pcと、式(8)に示すコンデンサ流入電力Pcestとは理想的には一致する。したがって、瞬時電力Pcおよびコンデンサ流入電力Pcestの各々を同じ周波数成分で抽出した値も理想的には一致する。したがって、静電容量Cの推定値である静電容量Cestに関して、以下の式(26)が成立する。
【0133】
【数19】
【0134】
これにより、静電容量推定部216は、コンデンサ32の静電容量Cestを算出できる。
【0135】
(異常信号の出力)
再び、図7を参照して、異常判定部218は、変換器セル1のコンデンサ32の静電容量Cestと、閾値Thとに基づいて、変換器セル1の異常を示す異常信号Emを出力する。具体的には、異常判定部218は、静電容量Cestが閾値Th未満である場合には異常信号Emを出力し、静電容量Cestが閾値Th以上である場合には異常信号Emを出力しない。閾値Thは、例えば、電力変換器6に融通される電力が大きい場合にコンデンサ電圧Vcのリプルによって、コンデンサ電圧がハードウェア上の上限値(例えば、絶縁仕様等)を超過するような静電容量値に設定される。
【0136】
異常信号Emが出力された場合、BPS駆動部220は、当該異常信号Emを受信する。ここで、各アームに含まれる変換器セル1の個数Mが運転に必要な個数よりも多いとする。この場合、BPS駆動部220は、異常信号Emの受信に応答して、バイパススイッチ34を閉じるための駆動信号BPを出力する。すなわち、BPS駆動部220は、変換器セル1のコンデンサ32の静電容量Cestが閾値Th未満である場合に、バイパススイッチ34を閉じる。これにより、電力を制限せずに電力変換器6のメンテナンスを継続したり、部品交換による運転停止まで電力変換器6の運転を継続させることができる。
【0137】
また、異常信号Emは、図4に示すHMI501にも送信される。HMI501は、各異常信号Emを受信することにより、電力変換器6内のいずれのコンデンサ32が劣化したのかを監視することができる。ある局面では、HMI501は、複数の変換器セル1のうちの少なくとも1つの変換器セル1におけるコンデンサ32の静電容量Cestが閾値Th未満である場合、当該少なくとも1つの変換器セル1に対応する異常信号Emを受信する。この場合、HMI501は、当該少なくとも1つの変換器セル1を識別するための情報を報知する。例えば、HMI501は、当該情報をディスプレイ等に表示する。
【0138】
これにより、系統運用者は、電力変換器6のメンテナンス、部品交換による運転停止時に、速やかに部品交換が必要な変換器セル1を把握できるため、運転停止の期間を短くできる。また、系統運用者は、予め部品交換する変換器セル1の数も把握できるため、変換器セル1の予備品を必要以上に用意する必要がなくなり、管理コスト等を削減できる。
【0139】
<利点>
実施の形態1によると、複雑な積分演算等を用いることなく、随時得られる、電流および電圧の検出値、電圧指令値等に基づいて静電容量を推定するための演算が実行される。そのため、当該演算の処理負荷を低減できる。
【0140】
実施の形態2.
上述した実施の形態1では、コンデンサ流入電力Pc1festを算出するための機能構成である、係数算出部210、電力損失算出部212および流入電力算出部214が、個別セル制御部202内に設けられる構成について説明した。実施の形態2では、これらの機能構成が、各相の基本制御部502に設けられる構成について説明する。
【0141】
図11は、実施の形態2に従う基本制御部の構成例を示すブロック図である。図11を参照して、基本制御部502Aは、図5に示す基本制御部502に、係数算出部210P,210Nと、電力損失算出部212P,212Nと、流入電力算出部214P,214Nと、コンデンサ電圧平均値算出部230とを追加した構成である。基本制御部502と同様の構成についてはその詳細な説明は行なわない。
【0142】
コンデンサ電圧平均値算出部230は、正側アーム13pのM個のコンデンサ電圧Vcの入力を受け付け、当該M個のコンデンサ電圧Vcの平均値である電圧平均値VcavPを算出する。コンデンサ電圧平均値算出部230は、負側アーム13nのM個のコンデンサ電圧Vcの入力を受け付け、当該M個のコンデンサ電圧Vcの平均値である電圧平均値VcavNを算出する。電圧平均値VcavPは電力損失算出部212Pに入力され、電圧平均値VcavNは電力損失算出部212Nに入力される。
【0143】
係数算出部210P,210Nによる係数算出方式は、上記の係数算出部210による当該方式と概ね同様である。具体的には、係数算出部210Pは、正側アーム13pの正側アーム電流Iarmpと、温度Twiと温度Twoとの差分温度とに基づいて、式(2)の係数b0P,b1P,b2Pを算出する。同様に、係数算出部210Nは、負側アーム13nの負側アーム電流Iarmnと、温度Twiと温度Twoとの差分温度とに基づいて、式(2)の係数b0N,b1N,b2Nを算出する。
【0144】
ただし、この場合、温度Twiは、正側アーム13pおよび負側アーム13nに含まれる各変換器セル1に流入する冷却媒体WIの平均温度であるとする。温度Twoは、正側アーム13pおよび負側アーム13nに含まれる各変換器セル1に流入する冷却媒体WOの平均温度であるとする。
【0145】
以下では、説明の容易化のため、正側アーム13pに含まれる変換器セル1を“変換器セル1p”とも称し、負側アーム13nに含まれる変換器セル1を“変換器セル1n”とも称する。
【0146】
電力損失算出部212Pは、変換器セル1pに含まれる抵抗素子で発生する平均的な電力損失PRPを算出する。この場合、式(1)の“Vc”および“PRest”に代えて、それぞれ“VcavP”および“PRP”が用いられる。また、電力損失算出部212Pは、変換器セル1p内の複数のスイッチング素子31p,31nで発生する平均的な電力損失PSCPを算出する。この場合、式(2)および式(3)の係数b0,b1,b2の代わりに係数b0P,b1P,b2Pが用いられ、アーム電流Iarmの代わりに正側アーム電流Iarmpが用いられる。また、式(2)の“PSCest”の代わりに“PSCP”が用いられる。
【0147】
電力損失算出部212Nは、変換器セル1n内の抵抗素子で発生する平均的な電力損失PRNを算出する。この場合、式(1)の“Vc”および“PRest”に代えて、それぞれ“VcavN”および“PRN”が用いられる。また、電力損失算出部212Nは、変換器セル1n内の複数のスイッチング素子31p,31nで発生する電力損失PSCNを算出する。この場合、式(2)および式(3)の係数b0,b1,b2の代わりに係数b0N,b1N,b2Nが用いられ、アーム電流Iarmの代わりに負側アーム電流Iarmnが用いられる。また、式(2)の“PSCest”の代わりに“PSCN”が用いられる。
【0148】
流入電力算出部214Pは、電力変換器6に対するアーム電圧指令値Varmprと、正側アーム13pに流れる正側アーム電流Iarmpと、各変換器セル1pで発生する平均的な電力損失PRPおよび電力損失PSCPとに基づいて、変換器セル1pのコンデンサ32に流入する平均的なコンデンサ流入電力Pc1favPを算出する。
【0149】
具体的には、流入電力算出部214Pは、アーム電圧指令値Varmprと、電圧平均値VcavPと、正側アーム電流Iarmpとを乗算した乗算値を個数Mで除算することにより、変換器セル1pに流入するセル流入電力PsmPを算出する。すなわち、“PsmP=(Varmpr*VcavP*Iarmp)/M”である。これは、変換器セル1pに流入するセル流入電力が、正側アーム13pに流入するアーム流入電力を“M”で割った値とほぼ等しいことを利用している。
【0150】
続いて、流入電力算出部214Pは、セル流入電力PsmPから、電力損失PRPおよび電力損失PSCPを減算することにより、変換器セル1pのコンデンサ32に流入するコンデンサ流入電力PcavPを算出する。そして、流入電力算出部214Pは、コンデンサ流入電力PcavPから基本波周波数成分を抽出したコンデンサ流入電力Pc1favPを算出する。
【0151】
同様に、流入電力算出部214Nは、電力変換器6に対するアーム電圧指令値Varmnrと、負側アーム13pに流れる負側アーム電流Iarmnと、各変換器セル1nで発生する平均的な電力損失PRNおよび電力損失PSCNとに基づいて、変換器セル1nのコンデンサ32に流入する平均的なコンデンサ流入電力Pc1favNを算出する。
【0152】
具体的には、流入電力算出部214Nは、アーム電圧指令値Varmnrと、電圧平均値VcavNと、負側アーム電流Iarmnとを乗算した乗算値を個数Mで除算することにより、変換器セル1nに流入するセル流入電力PsmNを算出する。すなわち、“PsmN=(Varmnr*VcavN*Iarmn)/M”である。
【0153】
続いて、流入電力算出部214Nは、セル流入電力PsmNから、電力損失PRNおよび電力損失PSCNを減算することにより、変換器セル1nのコンデンサ32に流入するコンデンサ流入電力PcavNを算出する。そして、流入電力算出部214Nは、コンデンサ流入電力PcavNから基本波周波数成分を抽出したコンデンサ流入電力Pc1favNを算出する。以下、コンデンサ流入電力Pc1favP,Pc1favNを“コンデンサ流入電力Pc1fav”とも総称する。
【0154】
図12は、実施の形態2に従う個別セル制御部の構成例を示すブロック図である。図12を参照して、個別セル制御部202Aは、図7に示す個別セル制御部202から、係数算出部210、電力損失算出部212および流入電力算出部214を削除するとともに、静電容量推定部216を静電容量推定部216Aに置き換えたものである。
【0155】
静電容量推定部216Aは、コンデンサ流入電力Pc1festの代わりにコンデンサ流入電力Pc1favの入力を受ける点において、静電容量推定部216と異なる。静電容量推定部216Aは、式(26)において、“Pc1fest”に代えて“Pc1fav”を用いることにより、コンデンサ32の静電容量Cestを算出する。
【0156】
<利点>
実施の形態2によると、変換器セルに流入するセル流入電力が、アームに流入するアーム流入電力を変換器セルの個数で割った値とほぼ等しいことを利用して、コンデンサの静電容量を推定できる。そのため、静電容量を推定するための演算量をより低減することができる。
【0157】
その他の実施の形態.
上述の実施の形態として例示した構成は、本開示の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本開示の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理および構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0158】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0159】
1 変換器セル、2 交流回路、3 変圧器、4 直流回路、5 制御装置、6 電力変換器、7a,7b リアクトル、8u,8v,8w レグ回路、9a,9b アーム電流検出器、10 交流電圧検出器、11a,11b 直流電圧検出器、13nu,13nv,13nw,13p 負側アーム、13pu,13pv,13pw 正側アーム、15 交流電流検出器、31n,31p スイッチング素子、32 コンデンサ、33 電圧検出器、34 バイパススイッチ、35 冷却フィン、70 入力変換器、71 サンプルホールド回路、72 マルチプレクサ、73 A/D変換器、75 RAM、76 ROM、77 入出力インターフェイス、78 補助記憶装置、79 バス、100 電力変換装置、202,202A 個別セル制御部、203 搬送波生成部、205 個別電圧制御部、207 ゲート信号生成部、210,210N,210P 係数算出部、212,212N,212P 電力損失算出部、214,214N,214P 流入電力算出部、216,216A 静電容量推定部、218 異常判定部、220 BPS駆動部、230 コンデンサ電圧平均値算出部、502 基本制御部、503P,503N アーム制御部、601 アーム電圧指令生成部、603 交流電流制御部、604 直流電流制御部、605 循環電流制御部、606 指令分配部、608 交流電流リミッタ、609 直流電流リミッタ、610 コンデンサ電圧指令生成部、620 基準位相検出部。
【要約】
電力変換装置(100)は、複数のアーム(13p,13n)を含む電力変換器(6)と、制御装置(5)とを備える。複数のアーム(13p,13n)の各々は、互いにカスケード接続された複数の変換器セル(1)を有する、複数の変換器セル(1)の各々は、複数のスイッチング素子(31p,31n)と、コンデンサ(32)とを有する。制御装置(5)は、電圧指令値と、アーム電流と、コンデンサ電圧と、変換器セル(1)で発生する電力損失とに基づいて、コンデンサ(32)に流入するコンデンサ流入電力を算出する電力算出部(214)と、コンデンサ流入電力と、コンデンサ電圧とに基づいて、コンデンサ(32)の静電容量を推定する静電容量推定部(216)とを含む。
図1
図2
図3
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図5
図6
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図12