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特許7612172Dowling-Degos病治療用医薬組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】Dowling-Degos病治療用医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7004 20060101AFI20250106BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250106BHJP
   A01K 67/027 20240101ALN20250106BHJP
【FI】
A61K31/7004
A61P17/00
A01K67/027
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023173954
(22)【出願日】2023-10-06
(62)【分割の表示】P 2019090262の分割
【原出願日】2019-05-11
(65)【公開番号】P2024001188
(43)【公開日】2024-01-09
【審査請求日】2023-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】河野 通浩
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真志
(72)【発明者】
【氏名】岡島 徹也
【審査官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特表2006-516605(JP,A)
【文献】Lobine D et al,Fitoterapia,2018年,Vol.124,pp.120-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フコースを有効成分として含む、Dowling-Degos病治療用医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の開示は、ヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス、Dowling-Degos病治療用化合物のスクリーニング方法、および、Dowling-Degos病治療用医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
Dowling-Degos病(Dowling-Degos disease、以下「DDD」と記載することがある。)は、頚部、腋窩や鼠径部等の皮膚が擦れ易い部分に網目状に色素沈着を生じさせる常染色体顕性遺伝形式の遺伝性皮膚疾患である。DDDは生命にかかわる重篤な症状は引き起こさないが、見た目の問題から患者に精神的な負担が生じる。DDDの原因遺伝子は、2006年に報告されたKRT5に続き、2013年にタンパク質の糖鎖修飾を行うPofut1遺伝子が原因遺伝子として報告された。
【0003】
上記のとおり、DDDに関する報告はあるものの、DDDの病態は未だに明らかではなく、現在のところ有効な治療方法もない。疾患治療の研究には、当該疾患を有したマウス等のモデル動物を作製し、当該モデル動物を用いて疾患の病態を調べたり、当該モデル動物に被験化合物を投与し、治療用化合物をスクリーニングすることが、一般的に行われている。Pofut1遺伝子に関しても、ノックアウトマウスは知られている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Okamura Yoshiaki et al.,“Pofut1 is required for the proper localization of the Notch receptor during mouse development”, Mech Dev. 125(8):663-73, 2008.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記非特許文献1に記載のとおり、Pofut1遺伝子をノックアウトしたマウスは知られている。しかしながら、非特許文献1に記載のPofut1ノックアウトマウスは、マウスでのPofut1の働き、特に心循環器系の発生の解析を目的として作製されたものである。そして、非特許文献1に記載のPofut1ノックアウトマウスは、Pofut1遺伝子をノックアウトしているものの、(1)表現型として毛色に変化はなく、皮膚にも色素斑を示さない、(2)皮膚病であるDDDの治療効果を確認する際に邪魔となる体毛を有する、という問題がある。
【0006】
本出願の開示は、上記問題点を解決するためになされたものであり、鋭意研究を行ったところ、(1)Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスと、ヘアレスマウスを交配すると、(2)色素斑を形成することができ、且つ、体毛を有しない(ヘアレス)ノックアウトマウスを作製できること、(3)その結果、DDDの病態研究に用いたり、DDD治療用化合物のスクリーニング方法に使用できること、を新たに見出した。
【0007】
すなわち、本出願の開示の目的は、ヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス、Dowling-Degos病治療用化合物のスクリーニング方法、および、Dowling-Degos病治療用医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の開示は、以下に示す、ヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス、Dowling-Degos病治療用化合物のスクリーニング方法、および、Dowling-Degos病治療用医薬組成物に関する。
【0009】
(1)Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスと、ヘアレスマウスを交配して得られた、ヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス。
(2)前記ヘアレスPofut1ヘテロ接合性ノックアウトマウスが、色素斑を形成する表現型を示す、
上記(1)に記載のヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス。
(3)上記(1)または(2)に記載のヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスに被験化合物を投与する工程と、
色素斑を抑制する被験化合物を選択する被験化合物選択工程と、
を含む、Dowling-Degos病治療用化合物のスクリーニング方法。
(4)フコースを有効成分として含む、Dowling-Degos病治療用医薬組成物。
【発明の効果】
【0010】
本出願で開示するヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスは、DDDの新たなモデル動物である。したがって、DDD治療用化合物のスクリーニング方法等に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は図面代用写真で、図1Aは実施例1で作製したDDDモデルマウスの写真、図1BはDDDモデルマウスの作製に用いたヘアレスマウスの写真である。
図2図2は図面代用写真で、図2Aは実施例1で作製したDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真、図2Bはヘアレスマウス(コントロール)の皮膚の病理組織写真である。
図3図3は図面代用写真で、実施例2において、図3AはDDDモデルマウスにDDD医薬組成物を外用する前の写真、図3BはDDD医薬組成物を8週間外用後の写真である。
図4図4は、図3Aおよび図3Bに示す任意に設定した5カ所について、画像解析ソフトウエアのImageJで皮疹部分の色調を解析した結果を示すグラフである。
図5図5は図面代用写真で、実施例2において、図5AはDDD医薬組成物を外用前のDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真、図5BはDDD医薬組成物を外用した後のDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真である。
図6図6は、実施例2において、DDD医薬組成物がヒト角化細胞の増殖を抑制することを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本出願で開示するヘアレスPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス(以下、「DDDモデルマウス」と記載することもある。)、Dowling-Degos病治療用化合物のスクリーニング方法(以下、単に「スクリーニング方法」と記載することもある。)、および、Dowling-Degos病治療用医薬組成物(以下、「DDD医薬組成物」と記載することもある。)について、詳しく説明する。
【0013】
(DDDモデルマウスの実施形態)
先ず、DDDモデルマウスについて説明する。DDDモデルマウスは、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスと、ヘアレスマウスを交配することで得られる。Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスは公知の方法で作製すればよく、例えば、以下の手順で作製すればよい。
(a)ノックアウトする遺伝子(Pofut1)をマウスのゲノムから分離する。そして、その遺伝子と周辺部分を含む塩基配列を創り出すが、全く同じではなく、不活性化するように一部変更する。一般的には、観察可能な差異(色や蛍光など)をもたらすマーカー遺伝子を組み込むことで、一部変更を行う。
(b)マウスの胚盤胞(初期のマウスの胚であり、球状の未分化細胞が胚体外細胞に囲まれている)由来の胚性幹細胞を分離する。胚性幹細胞は、例えば、白色マウスの胚性幹細胞を用い、in vitroで細胞培養ができる。
(c)上記(b)で得られた胚性幹細胞に、上記(a)で作製した塩基配列を、電気穿孔法等の手段を用いて遺伝子導入する。次に、上記(a)で組み入れたマーカー遺伝子を利用し、実際に新しい塩基配列へ組換えを起こした胚性幹細胞(ヘテロ接合型)を分離する。
(d)上記(c)で分離した相同組換えを起こした胚性幹細胞を、例えば、グレー色のマウスの胚盤胞に注入し、当該胚盤胞は雌マウスの子宮に注入され、子マウスが出産される。この子マウスは、体の一部がオリジナルの胚盤胞に由来し、他の部分は遺伝子操作された細胞に由来する2つの細胞を含んだキメラになる。そのため、毛色は白とグレーのまだらになる。
(e)新たに生まれたマウスのうち、生殖細胞(卵子もしくは精子)が、遺伝子操作された細胞由来のものだけが利用される。これらのマウスを白色マウスと掛け合わせると、全身が白色の、機能的な遺伝子を1個以上持っている(ヘテロ接合型)のDDDモデルマウスが得られる。
【0014】
DDDモデルマウスは、上記の手順や非特許文献1に記載の手順にしたがって作製してもよいし、例えば、国立遺伝学研究所等の機関から入手したものを用いてもよい。
【0015】
ヘアレスマウスも、公知のヘアレスマウスを用いればよい。なお、ヘアレスマウスは、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスと交配することで、DDDモデルマウスが得られれば特に制限はないが、本出願で開示するDDDモデルマウスは、(1)体毛がない、および、(2)色素斑が形成される、という表現型以外は健康なマウスが好ましい。したがって、免疫系が阻害されたヘアレスマウス(ヌードマウス)より、ヘアレス(Hr)遺伝子がノックアウトされたことにより、体毛の無いヘアレスマウスの方が望ましい。ヘアレスマウスは、上記の手順により、ヘアレス遺伝子をノックアウトすることで作製してもよいし、研究機関等から入手したものを用いてもよい。
【0016】
Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスと、ヘアレスマウスとの交配は、一般的な手順で行えばよい。交配により、ヘアレス遺伝子がノックアウトされ、且つ、Pofut1遺伝子がヘテロ接合型(Pofut1wt/ko)にノックアウトされた新規な遺伝子型のDDDモデルマウスが得られる。なお、得られたDDDモデルマウスは、(1)体毛が無い、および、(2)色素斑を形成する、という表現型を示すが、表現型は生後直ぐに示される必要はなく、例えば、色素斑は所定時間育成後に、形成されればよい。なお、以上の説明は、実験動物として一般的に用いられるマウスの例を示したが、ラットやウサギ等、他の動物であってもよい。
【0017】
(スクリーニング方法の実施形態)
スクリーニング方法の実施形態は、
・DDDモデルマウスに被験化合物を投与する工程と、
・色素斑を抑制する被験化合物を選択する被験化合物選択工程と、
を含む。
【0018】
被験化合物としては、例えば、天然化合物、有機化合物、無機化合物、タンパク質、抗体、ペプチドなどの単一化合物、並びに、化合物ライブラリー、遺伝子ライブラリーの発現産物、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物等を挙げることができる。
【0019】
DDDモデルマウスへの被験化合物の投与は、経口投与、皮膚への貼着、又は注射等による体内投与等、DDDモデルマウスの体内に取り込まれる方法であれば特に制限は無い。そして、投与した被験化合物により、DDDモデルマウスの皮膚に形成された色素斑が少なくなる(色素が薄くなる)か否かを判定することで、色素斑を抑制する化合物を選択すればよい。
【0020】
(DDD医薬組成物の実施形態)
DDD医薬組成物は、DDDの治療に有効となる成分を含んでいれば特に制限はない。DDD医薬組成物の剤型としては、例えば、錠剤、丸剤、粉剤、ロゼンジ、サシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液剤、シロップ、エアロゾル剤(固形としてまたは液体媒質中)、軟膏剤、ゼラチン軟および硬カプセル剤、座剤、滅菌注射用溶液および滅菌封入粉剤等が挙げられる。
【0021】
また、DDD医薬組成物は、担体、賦型剤、希釈剤を含んでいてもよい。例えば、ラクトース、デキストロース、シュクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、ガムアカシア、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、シロップ、メチルセルロース、オキシ安息香酸メチル-およびプロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウムおよび鉱油が挙げられる。更に、ビタミン、潤滑剤、湿潤剤、乳化剤および懸濁化剤、保存剤、甘味剤または着香剤を加えてもよい。また、DDD医薬組成物を公知の薬剤と組み合わせてもよい。
【0022】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例
【0023】
<実施例1>
[DDDモデルマウスの作製]
Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスは、国立遺伝学研究所から入手した。なお、本実施例では、全身でPofut1遺伝子がノックアウトされた“Pofut1 null mouse”を用いた。また、ヘアレスマウスは、星野試験動物飼育所から入手した“Hos:HRM-2”を用いた。入手したPofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウス、および、ヘアレスマウスを常法により交配、飼育することで、DDDモデルマウスを作製した。図1Aは、約8カ月飼育後のDDDモデルマウスの写真である。また、図1Bは交配に用いたヘアレスマウスの写真である。
【0024】
ヒトでは、Pofut1遺伝子がヘテロ接合型でノックアウトされると、DDDが発症すると言われている。しかしながら、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスは、Pofut1遺伝子をノックアウトしているにもかかわらず、毛を剃っても色素斑は確認できなかった。一方、実施例1で作製したDDDモデルマウスは、図1Aの矢印に示すように色素斑の形成が確認された。以上の結果から、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスとヘアレスマウスを交配することで、Pofut1ヘテロ接合型ノックアウトマウスを単にヘアレス化したという表現型を示すのみでなく、色素斑が形成できるという予期し得ない表現型を示す新規のマウスを作製することができた。
【0025】
[皮膚の色素細胞の確認]
次に、実施例1で作製したDDDモデルマウスと、ヘアレスマウスの皮膚の色素細胞を調べた。皮膚サンプルは、以下の手順で準備した。
(a)DDDモデルマウスの背部の色素斑と、コントロールであるヘアレスマウスの同じ位置(正常皮膚)からパンチ生検にて皮膚を採取した。
(b)採取した皮膚は5%パラホルムアルデヒドにて固定し、パラフィン包埋、4μmの厚さでスライドガラスに載せた未染標本を作製した。
(c)未染標本をヘマトキシリン・エオジン染色して観察した。
【0026】
図2Aは実施例1で作製したDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真で、写真中の矢印で示す周囲に隙間がある(核の周囲が透明な)細胞が色素細胞である。図2Bはヘアレスマウス(コントロール)の皮膚の病理組織写真で、矢印(黒色)は色素細胞を示している。図2Aおよび図2Bに示すとおり、実施例1で作製した色素斑が形成されたDDDモデルマウスの色素斑部では、比較対象であるヘアレスマウスより、表皮基底層の色素細胞の数が多いこと、および、色素細胞の密度が高い部分と低い部分のばらつきがあることを確認した。また、DDDモデルマウス表皮は、ヘアレスマウスの表皮と比較して、肥厚していた。
【0027】
<実施例2>
[DDD医薬組成物の効果確認]
(1)医薬組成物の調整
0.5gのフコース(fucose;Sigma-Aldrich社製)と、5mLのddw(二回蒸留水)を混合することで、10%フコース溶液を作製した。なお、DDDモデルマウスにフコースを塗付する際には、0.16gの親水クリーム(日興製薬社製、親水クリーム「ニッコー」)と、40μLの10%フコース溶液を混合することで、2%フコースクリームを用事調整し、実施例2のDDD医薬組成物を作製した。
(2)DDD医薬組成物の外用
DDDモデルマウスの背部にみられる色素斑部のおよそ4平方センチメートルに、用事調整したDDD医薬組成物を0.2g、1日1回、1週間に5日間外用し、8週間後に評価した。
【0028】
(3)目視による効果確認
図3AはDDD医薬組成物を外用前の写真、図3Bは8週間外用後の写真である。なお写真中の5カ所の□は、任意に設定した対比部分である。図3Aおよび図3Bに示す写真から明らかなように、DDD医薬組成物を8週間外用後は、目視で色素斑の減少が確認できた。
【0029】
(4)画像解析による効果確認
図3Aおよび図3Bに示す任意に設定した5カ所について、画像解析ソフトウエアのImageJで皮疹部分の色調を解析した。具体的には、DDD医薬組成物の外用前と外用後で、撮像したカラー写真をグレイスケールに変換し、ImageJで白を256、黒を1として明暗を定量した。1点は201x201ポイントの面積の平均値とした。図4は、ImageJによる解析結果を示すグラフである。任意に設定した5カ所とも、DDD医薬組成物の外用後の値が大きくなったことから、DDD医薬組成物の外用により、色素斑が薄くなったことを、画像解析からも確認できた。また、設定した5カ所点の数値をpaired t-testで検定したところ、p=0.006であった。したがって、DDD医薬組成物の外用により、色素斑が有意に改善したことを確認した。
【0030】
(5)切片による効果確認
次に、DDD医薬組成物の外用前と外用後の皮膚切片を、上記[皮膚の色素細胞の確認]と同様の手順で作製した。図5AはDDD医薬組成物の外用前のDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真、図5BはDDD医薬組成物の外用後のDDDモデルマウスの色素斑の病理組織写真である。図5Aおよび図5Bを対比すると、DDD医薬組成物の外用前は、色素細胞(写真の矢印)の数が多く、且つ、色素細胞の分布にばらつきがあった。一方、DDD医薬組成物の外用後は、色素細胞の数が少なくなるとともに、高密度に分布する箇所がなくなった。以上の結果より、DDD医薬組成物の外用により、色素斑が有意に改善したことを、病理組織写真による色素細胞の観察からも確認した。
【0031】
以上の結果より、フコースがDDDの治療に有用であることを確認した。また、実施例で作製したDDDモデルマウスは、DDD治療用化合物のスクリーニング方法に使用できることを確認した。
【0032】
(6)ヒト角化細胞を用いたin vitroでの増殖抑制の確認
上記のとおり、実施例2に示すDDD医薬組成物は、DDDモデルマウスの色素斑を有意に改善することを確認したが、DDD医薬組成物のヒトへの影響を調べるため、以下の手順により、ヒト細胞を用いたin vitroの実験も行った。
(a)ヒト角化細胞には、HaCaT細胞(Cell Lines Service社製)を用いた。DDD患者では病変部の表皮の増殖による表皮の肥厚が著しい。つまり、表皮を構成する細胞である角化細胞の増殖抑制は、治療効果の1つとして有用であると考えられる。HaCaT細胞は、成人男性皮膚から樹立された不死化角化細胞あり、フコースによりHaCaT細胞の増殖抑制が示されたことから、ヒトへの外用により、患者の病変部の表皮肥厚が抑制され、皮膚の正常化が望める可能性がある。
(b)96 well plateに、1500cell/wellでHaCaT細胞を常法により24時間培養した。low dose fucoseは10μg/mLの濃度で、high dose fucoseは100μg/mLの濃度で、培地に加えて、cell counting kit-8(CCK-8)(同仁化学研究所製)を取扱説明書に沿って使用して、増殖能を定量化した。
(c)図6は、増殖能の測定結果を示すグラフである。図6に示すように、実施例2に示すDDD医薬組成物は、ヒトの表皮細胞の増殖能を抑制することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本出願で開示するDDDモデルマウスは、ヘアレスで且つ色素斑を形成するという表現型を示すことから、DDDの病態の解明やDDD治療用の化合物のスクリーニングに用いることができる。したがって、大学、医療機関、製薬会社等におけるDDDの治療用化合物の開発に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6