(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】ニッケルカソードから二次電池用硫酸ニッケル溶液を製造する方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20250106BHJP
C22B 3/44 20060101ALI20250106BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B3/44 101A
C22B3/08
(21)【出願番号】P 2023545264
(86)(22)【出願日】2023-03-31
(86)【国際出願番号】 KR2023004406
(87)【国際公開番号】W WO2023243832
(87)【国際公開日】2023-12-21
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】10-2023-0004092
(32)【優先日】2023-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519197594
【氏名又は名称】高麗亞鉛株式会社
【氏名又は名称原語表記】KOREA ZINC CO., LTD.
(73)【特許権者】
【識別番号】523282235
【氏名又は名称】ケムコ
(74)【代理人】
【識別番号】100077838
【氏名又は名称】池田 憲保
(74)【代理人】
【識別番号】100129023
【氏名又は名称】佐々木 敬
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ホン シク
(72)【発明者】
【氏名】ジュ,ジェ フン
(72)【発明者】
【氏名】イ,テ ギョン
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-110024(JP,A)
【文献】国際公開第2022/053448(WO,A1)
【文献】特開2021-080124(JP,A)
【文献】特開2021-008654(JP,A)
【文献】国際公開第2020/066262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
170℃~200℃の温度及び8.5bar~16barの圧力下で、ニッケルカソード
を硫酸に浸出する浸出工程、
前記浸出工程における浸出液を
、ニッケルパウダーを投入して中和する中和工程、
前記中和工程における中和液を濾過して濾過液を製造する濾過工程を含む硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項2】
前記浸出工程は酸素ガスを投入することを特徴とする、請求項1に記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項3】
前記浸出工程は窒素ガスを投入することを特徴とする、請求項1または2に記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【請求項4】
前記中和工程後の中和液内のニッケル濃度が120~140g/Lであることを特徴とする、請求項1または2に記載の硫酸ニッケル溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケルカソード(Cathode)から二次電池用の硫酸ニッケル(Nickel Sulfate)溶液を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
IT産業、電気自動車、エネルギー貯蔵システム(ESS)市場が発展しつつ二次電池の需要が増加している。これにより、二次電池の正極材の原料として用いられる硫酸ニッケルの需要も共に増加している。
【0003】
従来は、ニッケル精鉱、ニッケルを含有したMixed Hydroxide Precipitates(MHP) Cake等の原料を用いて浸出及び不純物精製工程を経て硫酸ニッケル溶液を製造した。しかし、常圧条件で酸素ガスあるいはオゾンを酸化剤として投入する方式でニッケル含有原料を浸出して硫酸ニッケル溶液を製造する場合、浸出効率が落ちるという問題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、硫酸と酸素ガス及び/又は窒素ガスのみを投入しながらも、浸出効率が高い、硫酸ニッケル溶液を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明による一実施例によると、170℃~200℃の温度及び8.5bar~16barの圧力下で、ニッケルカソードを硫酸に浸出する浸出工程、前記浸出工程における浸出液を、ニッケルパウダーを投入して中和する中和工程、前記中和工程における中和液を濾過して濾過液を製造する濾過工程を含む硫酸ニッケル溶液の製造方法を提供する。
【0006】
本発明による一実施例によると、前記浸出工程は酸素ガスを投入することを特徴とする。
【0007】
本発明による一実施例によると、前記浸出工程は窒素ガスを投入することを特徴とする。
【0010】
本発明による一実施例によると、前記中和工程後の中和液内のニッケル濃度が120~140g/Lであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高温、高圧下で酸素ガス及び/又は窒素ガスを投入するだけで高い浸出効率を示す硫酸ニッケル溶液を製造する方法を提供できる。
【0012】
本発明によれば、高温、高圧下で窒素ガスを投入することによりさらに安全かつ効率のよい硫酸ニッケル溶液を製造する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ニッケルカソードから二次電池用硫酸ニッケルを製造する工程を示す工程図である。
【
図2】各実施例及び各比較例の浸出工程後のNi溶解率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の実施例は、本開示の技術的思想を説明する目的で例示されたものである。本開示による権利範囲が以下に提示される実施例やこれらの実施例に関する具体的説明により限定されるわけではない。
【0015】
本発明のニッケルカソードから二次電池用硫酸ニッケルを製造する方法は、高温、高圧下でニッケルカソードを水、硫酸(H2SO4)及び酸素ガス(O2)及び/又は窒素ガス(N2)の存在下に投入する浸出工程を含む。
【0016】
本発明のニッケルカソードから二次電池用硫酸ニッケルを製造する方法は、浸出液にニッケルパウダー(Ni Powder)を投入する中和工程を含む。
【0017】
本発明のニッケルカソードから二次電池用硫酸ニッケルを製造する方法は、中和液を濾過して濾過液及びケーキに分離する濾過工程を含む。
【0018】
以下、
図1を参照して本発明の製造工程を詳細に説明する。
【0019】
[浸出工程(S100)]
浸出工程(S100)は、オートクレーブ(Autoclave)に、浸出させるのに適当なサイズに切断したニッケルカソードを目標ニッケル濃度に対して約2当量を投入した後、硫酸約1当量、酸素ガス及び/又は窒素ガスを投入した条件において170℃~200℃の温度、8.5bar~16barの圧力で5~24時間反応させる工程である。ニッケルカソードは、例えば2~10cmのサイズに切断して投入することができる。ここで、目標ニッケル濃度とは、後述する中和工程(S200)を経た後の中和液内のニッケル濃度であってもよい。このような目標ニッケル濃度は、ニッケルの溶解度及び温度による結晶化を考慮して適切な目標濃度に設定することができる。中和後のニッケル濃度が120g/Lより小さければ後続工程である結晶化過程で効率が落ち、140g/Lより大きければ溶液の温度が下がった場合に中和過程でニッケルが結晶化してしまう可能性があるので、これは濾過時の損失になるため、目標ニッケル濃度は120~140g/Lであることが好ましい。
浸出工程(S100)を行うときに、170℃未満で反応させた場合、ニッケルの溶解度が低いため効率が低くなり、200℃超の場合、溶解率の大きな上昇がない。従って、浸出工程(S100)は170℃~200℃の温度で行われることが好ましい。
【0020】
本発明による一実施例において、目標ニッケル濃度が120g/Lである場合、ニッケルカソードを2~10cmのサイズに切断して2当量(240g/L)投入し、硫酸1当量(200g/L)を投入することができる。その後、170℃~180℃の温度で酸素ガスを投入するか、または180℃~200℃の温度で窒素ガスを投入して浸出工程(S100)を行うことができる。
【0021】
酸素ガスを投入する場合、投入されたニッケルは硫酸と反応して硫酸ニッケルになり、水素イオンは酸素気体と反応して水が生成される反応が起こり得る。このとき、水素ガスが発生する反応も同時に起こり得る。酸素ガスを投入すれば、酸素ガスが酸化剤の役割を果たし、窒素ガスを投入した場合に対してニッケル浸出の効率が高くなり得る。酸素ガスを投入する場合の反応式は、下記の式(1)及び式(2)の通りである。
【0022】
Ni+H2SO4+1/2 O2→NiSO4+H2O・・・式(1)
Ni+H2SO4→NiSO4+H2・・・式(2)
【0023】
窒素ガスを投入する場合、投入されたニッケルは硫酸と反応して硫酸ニッケルになり、水素ガスが発生する反応が起こり得る。ただし、この場合、窒素ガスは不活性気体として反応性が非常に低いので、窒素ガスと水素ガスを共に排出する方法で水素ガスを除去することができる。従って、窒素ガスを投入する場合、酸素ガスを投入する場合よりも安全性が図られる。窒素ガスを投入する場合の反応式は、上記式(2)の通りである。
【0024】
浸出工程(S100)において酸素ガスと窒素ガスを共に投入することができる。窒素ガスは、酸素ガスを投入する場合に発生する水素ガスの分圧を減少させることで、さらに安全な作業を可能にする。
【0025】
ニッケルの浸出を促進するためにオートクレーブ内に攪拌機を設置して攪拌しながら溶解することができる。
【0026】
[中和工程(S200)]
中和工程(S200)は、オートクレーブ内で浸出反応が進められた時点で浸出液にニッケルパウダー(Ni Powder)を投入して目標とするpH範囲まで中和させる工程である。
【0027】
後に、硫酸ニッケル溶液を蒸発濃縮するためには、酸度を低くする必要があり、pH区間が6~7以上である場合、これ以上ニッケルが溶液に浸出されないので、目標とするpH範囲はpH5.0~7.0であってもよい。中和工程(S200)を経て溶液をpH6まで中和することが好ましい。中和反応式は、上記式(2)の通りである。
【0028】
中和工程(S200)では、浸出液に存在する硫酸の酸を中和するのが目的なので、目標とするpH範囲に効率よく到達できる適正量のニッケルパウダーを投入することができる。中和工程(S200)において、ニッケルパウダーは、例えば1.5~3当量投入することができ、好ましくは、2当量(例えば、浸出液の最終酸度が10g/Lであればニッケルパウダー12g/L)投入することができる。粉末化されたニッケルパウダーを使用する場合、反応性が高く、中和反応がよく起こるようになるので、ニッケルパウダーを使用するのが好ましいが、中和目的を達成することさえできれば、これに限定されない。
【0029】
浸出液のうち、180℃条件で酸素ガスを用いた場合、最終酸度が約8g/Lであってもよく、180℃条件で窒素ガスを用いた場合、最終酸度が約50g/Lであってもよい。また、200℃条件で窒素ガスを用いた場合、最終酸度が約38g/Lであってもよい。窒素ガスを用いた場合、酸素ガスを用いた場合より最終酸度が高いので、これを中和するのにさらに多くのニッケルパウダーが必要になり得る。ただし、水素ガスの爆発の危険に関しては、酸素ガスを投入する場合に比べて、窒素ガスの投入がさらに安全な方法であり得る。
【0030】
[濾過工程(S300)]
浸出工程(S100)及び中和工程(S200)で溶解しなかった金属ニッケルは固体成分として中和液内に残存しているので、中和液を濾過装置に移して濾過し、濾過液である硫酸ニッケル溶液は精製工程に送り、ケーキは再び中和工程に投入する。濾過液中の硫酸ニッケルは精製工程を経て結晶化される。
【0031】
[実施例1]
本実施例では、ニッケルカソードを硫酸に浸出させて硫酸ニッケル溶液を製造した。目標ニッケル(Ni)濃度120g/Lに対してニッケルカソード2当量、硫酸1当量及び酸素ガスを投入した。170℃(8.5bar)及び180℃(10.5bar)で24時間にわたり反応を進めた。反応時間ごとの溶解率は、表1に示した。
【0032】
中和工程(S200)ではNiパウダー2当量を投入して、90℃、pH6.0でNi120g/Lの溶液を作る。
【0033】
中和溶液を濾過して濾過された硫酸ニッケル溶液は精製工程に送り、ケーキは再び中和工程(S200)に投入する。
【0034】
【0035】
[実施例2]
ニッケルカソード2当量、硫酸1当量と酸素ガスの代わりに窒素ガスを投入した。180℃(10.5bar)及び200℃(16bar)で24時間にわたり反応を進めた。反応時間ごとの溶解率は、表2に示した。
【0036】
中和工程(S200)及び濾過工程(S300)は実施例1と同一である。
【0037】
【0038】
[比較例1]
ニッケルカソード2当量、硫酸1当量及び酸素ガスを投入した。95℃(常圧)で24時間にわたり反応を進めた。反応時間ごとの溶解率は、表3に示した。
【0039】
中和工程及び濾過工程は実施例1と同一である。
【0040】
[比較例2]
ニッケルカソード2当量、硫酸1当量及びオゾンを投入した。
【0041】
95℃(常圧)で24時間のあいだ反応を進めた。反応時間ごとの溶解率は、表3に示した。
【0042】
中和工程及び濾過工程は実施例1と同一である。
【0043】
【0044】
常圧で酸素ガスを投入した比較例1及び常圧でオゾンを投入した比較例2ではNi溶解率が非常に低いことが確認できる。一方、実施例1及び2は、各比較例に比べて溶解率が非常に優れることが確認できる。
【0045】
図2は、各実施例及び各比較例の浸出工程後のNi溶解率を示すグラフである。各実施例と各比較例の溶解率を比較することができる。
【0046】
即ち、実施例1及び2は高温及び高圧下で酸素ガスまたは窒素ガスを投入して効率よく硫酸ニッケル溶液を製造することができる。
【0047】
以上で述べた実施例は、全ての面で例示的なものであり、限定的ではないと理解すべきである。本発明の範囲は、前記詳細な説明よりは特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味及び範囲、並びにその均等概念から導き出される全ての変更または変更された形態が本発明の範囲に含まれると解釈されるべきである。