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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】強誘電体膜、および電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20250106BHJP
   H10B 51/30 20230101ALI20250106BHJP
   H10B 53/30 20230101ALI20250106BHJP
【FI】
H01L21/316 G
H10B51/30
H10B53/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023548503
(86)(22)【出願日】2022-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2022034579
(87)【国際公開番号】W WO2023042882
(87)【国際公開日】2023-03-23
【審査請求日】2024-02-16
(31)【優先権主張番号】P 2021152238
(32)【優先日】2021-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】米田 真吾
(72)【発明者】
【氏名】宮迫 毅明
(72)【発明者】
【氏名】細倉 匡
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼光 永輔
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/208340(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/218617(WO,A1)
【文献】特開2020-035952(JP,A)
【文献】特開2020-133002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H10B 51/30
H10B 53/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍石構造を有する酸化ハフニウムと、
La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属酸化物と、
含有される量が5mol%未満である炭素と、を含み、
平均粒子径が10nm未満の多結晶体である、強誘電体膜。
【請求項2】
前記金属酸化物は、含有される量が1mol%以上、15mol%以下である、請求項1に記載の強誘電体膜。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の強誘電体膜と、
前記強誘電体膜の表面に形成される電極と、を備える、電子部品。
【請求項4】
前記電極は、前記強誘電体膜の一方の主面に形成される第1電極と、前記強誘電体膜の他方の主面に形成される第2電極と、を含み、
前記第1電極と、前記強誘電体膜と、前記第2電極とでキャパシタを構成する、請求項に記載の電子部品。
【請求項5】
前記電極は、ゲート電極と、ソース電極と、ドレイン電極と、を含み、
前記強誘電体膜は、強誘電体ゲートトランジスタのゲート絶縁膜として前記ゲート電極の上に形成される、請求項に記載の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、強誘電体膜、および電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
IC(Integrated Circuit)カードのメモリ素子などに、強誘電体をゲート絶縁膜に用いた強誘電体ゲートトランジスタ(Fe-FET:Ferroelectric Field-Effect Transistor)が応用されている。一般に、強誘電体は、微細化して薄くするほど強誘電性が弱まる性質が知られており、メモリ素子に強誘電体ゲートトランジスタを応用する場合、当該性質によりメモリ素子としての微細化、高集積化が困難であった。
【0003】
近年、酸化ハフニウム(HfO)の薄膜が強誘電性を示すことが報告され、酸化ハフニウムの薄膜について様々な研究や開発が行われている。具体的に、特許文献1には、酸化ハフニウムの薄膜を用いたキャパシタが開示されている。さらに、非特許文献1には、酸化ハフニウムの薄膜を真空中で熱処理することで強誘電体ゲートトランジスタに応用できる強誘電体が得られたと報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/208340号
【非特許文献】
【0005】
【文献】Mohit, et al. "Indium oxide and indium-tin-oxide channel ferroelectric gate thin film transistors with yttrium doped hafnium-zirconium dioxide gate insulator prepared by chemical solution process", Japanese Journal of Applied Physics, Japan, 15 January 2021. Volume 60, Number SBBM02.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、強誘電体ゲートトランジスタなどの電子部品に酸化ハフニウムの薄膜を用いる場合、強誘電性を示すとともに、高い絶縁性を有する必要がある。例えば、強誘電体ゲートトランジスタのゲート絶縁膜に酸化ハフニウムの薄膜を用いる場合に、当該酸化ハフニウムの薄膜に漏れ電流が生じると信頼性の高いトランジスタ動作を得ることができない。
【0007】
そこで、本開示の目的は、強誘電性を示すとともに、高い絶縁性を有する強誘電体膜、および電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一形態に係る強誘電体膜は、蛍石構造を有する酸化ハフニウムと、La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属酸化物と、含有される量が5mol%未満である炭素と、を含み、
平均粒子径が10nm未満の多結晶体である
【0009】
本開示の一形態に係る電子部品は、上記の強誘電体膜と、強誘電体膜の表面に形成される電極と、を備える。
【0010】
本開示の一形態に係る製造方法は、酸化ハフニウムを含む強誘電体膜を製造する製造方法である。当該製造方法は、成膜対象物を用意する工程と、強誘電体膜の原料となる化学溶液を用意する工程と、化学溶液を前記成膜対象物上にスピンコートする工程と、酸素雰囲気下の熱処理により、成膜対象物上にスピンコートされた化学溶液から、蛍石構造を有する酸化ハフニウムを析出させる工程と、を含む。化学溶液は、Hfを有する金属アルコキシド塩と、La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属アルコキシド塩とを原料塩として含む。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一形態によれば、含有される炭素量が5mol%未満にすることで、強誘電性を示すとともに、高い絶縁性を有する強誘電体膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る強誘電体膜のX線回折スペクトルである。
図2】実施の形態に係る強誘電体膜の分極―電界曲線である。
図3】実施の形態に係る強誘電体膜の漏れ電流―電界曲線である。
図4】比較対象の強誘電体膜の分極-電界曲線である。
図5】実施の形態に係る強誘電体膜を用いたキャパシタを示す図である。
図6】実施の形態に係る強誘電体膜を用いたトランジスタを示す図である。
図7】実施の形態に係る強誘電体膜を用いたトランジスタの電気特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態)
以下に、本実施の形態に係る強誘電体膜、その製造方法、および電子部品について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0014】
[強誘電体膜]
まず、実施の形態に係る強誘電体膜について説明する。強誘電体膜は、酸化ハフニウム(HfO)の薄膜であり、強誘電性を示すため当該酸化ハフニウムが蛍石構造を有している。図1は、実施の形態に係る強誘電体膜のX線回折スペクトルである。図1において、横軸は角度、縦軸は強度である。図1に示す30°および35°付近に現れる回折線は立方晶、正方晶または直方晶の蛍石構造に帰属できるので、本実施の形態に係る強誘電体膜が、蛍石構造を有する酸化ハフニウムを含むことが分かる。
【0015】
純粋なHfO膜では強誘電性が発現しないため、元素置換した金属酸化物を含む必要がある。その中でもハフニウムイオン(Hf4+)よりも大きなイオンでの置換した金属酸化物が望ましく、La,Ce,Biといった元素に置換した金属酸化物を含むことが有効である。本実施の形態に係る強誘電体膜では、La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属酸化物を含んでいる。図1に示すX線回折スペクトルから、Ceを置換した蛍石構造のHfO膜が形成されていることが確認できる。なお、La,Ce,Biといった元素に置換した金属酸化物が含有される量は1mol%以上、15mol%以下であることが好ましい。
【0016】
また、本実施の形態に係る強誘電体膜の分極の電界特性について説明する。図2は、実施の形態に係る強誘電体膜の分極―電界曲線である。図2において、横軸は電界、縦軸は分極である。一般的に、電界に対し分極の履歴が生じるように分極―電界曲線が変化する場合、その絶縁膜は強誘電性を有すると判断できる。具体的に、図2では、電界を0MV/cmから3MV/cm程度まで変化させ、再び0MV/cmにしたときの分極(残留分極)が自発分極Psに相当し、約10μC/cm2の分極が膜に生じている。つまり、図2より、本実施の形態に係る強誘電体膜が強誘電性を有することが分かる。
【0017】
さらに、本実施の形態に係る強誘電体膜では、含有される炭素量が5mol%未満にすることで、漏れ電流を減らすことができる。これまで、強誘電体膜の漏れ電流が大きくなる原因が不明であったが、本開示では、新たに含有される炭素量に着目し、含有される炭素量が強誘電体膜の漏れ電流に影響を与えることを見出した。つまり、本実施の形態に係る強誘電体膜では、含有される炭素量を減らすことで、強誘電体膜の漏れ電流を所望の電流量以下に抑えていることを実現している。
【0018】
強誘電体膜に含有される炭素量は、例えば二次イオン質量分析法(SIMS ; Secondary Ion Mass Spectrometry)で測定することができる。本実施の形態に係る強誘電体膜は、後述するように化学溶液の原料塩として金属アルコキシド塩のみを用いて溶液法で形成し、酸素雰囲気下で焼成している。このように形成した強誘電体膜に含有される炭素量を二次イオン質量分析法で測定すると約1.4mol%と2.0mol%以下の低い炭素量であった。つまり、本実施の形態に係る強誘電体膜では、焼成後に炭素が膜中に残りにくい原料を用いること、さらに酸素雰囲気で長時間焼成することで絶縁性が向上できているものと考えられる。なお、本実施の形態に係る強誘電体膜は、溶液法で形成されるため平均粒子径が約10nm未満の多結晶体となる。
【0019】
含有される炭素量が約1.4mol%である強誘電体膜について、漏れ電流を測定した。図3は、実施の形態に係る強誘電体膜の漏れ電流―電界曲線である。図3において、横軸は電界、縦軸は漏れ電流である。図3に示す漏れ電流―電界曲線では、電界が約1MV/cmにおいて漏れ電流が約9.7×10-8A/cm2以下と大幅に減らせることが分かる。そのため、本実施の形態に係る強誘電体膜は、十分な絶縁性を有している。なお、約1MV/cmの電界が強誘電体膜に加わる状態は、図2に示すように強誘電体膜の分極の方向が切り替わる強誘電スイッチの状態である。
【0020】
ここで、比較のために、化学溶液の原料塩として金属アセチルアセトナート塩を用いて溶液法で形成し、真空中で焼成した強誘電体膜(比較対象)について、分極-電界曲線および漏れ電流を測定した。なお、具体的に、金属アセチルアセトナート塩としてハフニウムアセチルアセトナート、およびセリウムアセチルアセトナートを用い、溶媒としてプロピオン酸を用いた。
【0021】
図4は、比較対象の強誘電体膜の分極-電界曲線である。図4において、横軸は電界、縦軸は分極である。比較対象の強誘電体膜は、図4に示すように0MV/cmの電界において自発分極Psが約4μC/cmの値を示している。しかし、比較対象の強誘電体膜は、絶縁破壊のために3MV/cmの電界まで印加できていない。さらに、比較対象の強誘電体膜の分極-電界曲線は、少し丸みを帯びた曲線となっている。
【0022】
一方、本実施の形態に係る強誘電体膜は、図2に示すように0MV/cmの電界において自発分極Psが約10μC/cmの値を示している。3MV/cmの電界を印加することで分極値が飽和し、分極が約20μC/cmの値を示している。さらに、本実施の形態に係る強誘電体膜の分極-電界曲線は、理想的な履歴曲線となっている。
【0023】
比較対象の強誘電体膜について漏れ電流を測定すると、漏れ電流が約1.0×10-6A/cm以上となり、本実施の形態に係る強誘電体膜に比べて非常に大きい値となっている。また、比較対象の強誘電体膜に含有される炭素量は約5.0mol%以上と大きく、比較対象の強誘電体膜の絶縁性を悪くしている要因であると思われる。このことから、強誘電体膜に含有される炭素量を少なくとも約5mol%未満とすることで、強誘電体膜の漏れ電流を改善できる。
【0024】
比較対象の強誘電体膜では、化学溶液の原料塩として金属アセチルアセトナート塩を用いており、金属アルコキシド塩に比べ分解し難い。そのため、比較対象の強誘電体膜では、原料の分解が不十分で行われずに膜中の炭素量が多く残ることになり、絶縁性を悪くしていると考えられる。
【0025】
一方、本実施の形態に係る強誘電体膜では、化学溶液の原料塩として金属アルコキシド塩を用いており、比較的低温でも分解しやすい。そのため、本実施の形態に係る強誘電体膜では、金属アルコキシド塩が低温で分解が進み、微粒の多結晶体となり含有する炭素量も低くなったと考えられる。本実施の形態に係る強誘電体膜は、原料塩として金属アルコキシド塩を用いることで、酸素雰囲気下で焼成しても良好な強誘電性を有する酸化ハフニウム(HfO)の薄膜となっている。
【0026】
以上のように、本実施の形態に係る強誘電体膜は、蛍石構造を有する酸化ハフニウムと、La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属酸化物と、含有される量が5mol%未満である炭素と、を含む。このように、本実施の形態に係る強誘電体膜は、含有される炭素量が5mol%未満にすることで、強誘電性を示すとともに、高い絶縁性を有する強誘電体膜を得ることができる。なお、強誘電体膜に含有される炭素量をさらに2mol%未満となることが好ましい。これにより、強誘電体膜の漏れ電流をさらに減らせることができ、より高い絶縁性を有する強誘電体膜を得ることができる。
【0027】
平均粒子径が10nm未満の多結晶体であることが好ましい。これにより、スパッタ法やALD(Atomic Layer Deposition)法で形成した柱状の粒子の酸化ハフニウム(HfO)の薄膜に比べて、より強い強誘電性を示す強誘電体膜を得ることができる。
【0028】
金属酸化物は、含有される量が1mol%以上、15mol%以下であることが好ましい。これにより、HfO膜に対して、元素置換した金属酸化物を適切な量を含むことができ、より強い強誘電性を示す強誘電体膜を得ることができる。
【0029】
本実施の形態に係る製造方法は、酸化ハフニウムを含む強誘電体膜を製造する製造方法である。当該製造方法は、成膜対象物を用意する工程と、強誘電体膜の原料となる化学溶液を用意する工程と、化学溶液を前記成膜対象物上にスピンコートする工程と、酸素雰囲気下の熱処理により、成膜対象物上にスピンコートされた化学溶液から、蛍石構造を有する酸化ハフニウムを析出させる工程と、を含む。化学溶液は、Hfを有する金属アルコキシド塩と、La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属アルコキシド塩とを原料塩として含む。これにより、本実施の形態に係る製造方法は、強誘電性を示すとともに、高い絶縁性を有する強誘電体膜を製造することができる。
【0030】
[強誘電体膜を用いたキャパシタ]
次に、本実施の形態に係る強誘電体膜を用いたキャパシタの構成およびその製造方法について説明する。図5は、本実施の形態に係る強誘電体膜を用いたキャパシタ100を示す図である。ただし、図5では、キャパシタ100の断面図を示している。
【0031】
キャパシタ100は、基板1、第1電極2、誘電体層3、第2電極4を備える。基板1の材質、特性、厚みなどは任意である。本実施の形態では、例えば、厚み500μmのSi(100)基板を基板1に使用した。
【0032】
第1電極2は、基板1の上に形成されている。第1電極2の材質、特性、厚みなどは任意である。本実施の形態では、例えば、厚み100nmのPt膜を第1電極2に使用した。
【0033】
誘電体層3は、第1電極2の上に形成されている。誘電体層3には、本実施の形態に係る強誘電体膜を使用した。つまり、誘電体層3は、蛍石構造を有する酸化ハフニウムと、La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属酸化物と、含有される量が5mol%未満である炭素と、を含む。本実施の形態では、例えば、厚み60nmの強誘電体膜を誘電体層3に使用した。
【0034】
誘電体層3は、強誘電性を備えている。したがって、誘電体層3は、電界を印加することによって、分極状態(自発分極の分極方向)を制御することができ信号を記憶することができる。
【0035】
第2電極4は、誘電体層3の上に形成されている。第2電極4の材質、特性、厚みなどは任意である。本実施形態では、例えば、厚み100nmのPt膜を第2電極4に使用した。
【0036】
以上の構造からなるキャパシタ100は、電界を印加することによって分極状態を制御でき、記憶装置として使用することができる。
【0037】
次に、キャパシタ100の製造方法について説明する。まず、基板1を用意する。また、基板1の用意と並行して、化学溶液を作製する。
【0038】
化学溶液の原料塩として、金属アルコキシド塩であるハフニウムイソプロポキシドを0.642g、セリウムイソプロポキシドを0.080g用意する。
【0039】
また、化学溶液の溶媒として、酢酸を2mlと、2-メトキシエタノールを4mlと用意する。
【0040】
容器に、酢酸と、2-メトキシエタノールとを入れて撹拌する。さらに、容器に各原料塩を追加し、撹拌して化学溶液を得る。
【0041】
次に、基板1の上に、スパッタリング法により、Pt膜からなる第1電極2を形成する。
【0042】
次に、第1電極2の上に、スピンコート法により、化学溶液をコーティングする。
具体的には、第1回目のコーティングとして、第1電極2の形成された基板1を回転台に取付け、回転台を3000回転/秒で回転させた状態で、第1電極2上に化学溶液を滴下し、第1電極2上に厚み20nmの化学溶液の膜をコーティングする。なお、滴下する化学溶液は、用意した化学溶液の1/3の量とする。続いて、第1電極2上に化学溶液の膜が形成された基板1を、酸素流量が200ml/分の酸素雰囲気下で、300℃/分の昇温速度で500℃まで加熱し、10分間保持する。この結果、第1電極2上に、第1のHfO膜が形成される。
【0043】
続いて、第1のHfO膜上に、第2回目のコーティングとして、第1回目と同一の条件で、スピンコート法により化学溶液をコーティングし、加熱して、第2のHfO膜を形成する。なお、滴下する化学溶液は、用意した化学溶液の1/3の量とする。
【0044】
続いて、第2のHfO膜上に、第3回目のコーティングとして、第1回目および第2回目と同一の条件で、スピンコート法により化学溶液をコーティングし、加熱して、第3のHfO膜を形成する。なお、滴下する化学溶液は、用意した化学溶液の1/3の量とする。
【0045】
この結果、第1電極2の上に、同じ厚みの、第1のHfO膜、第2のHfO膜、第3のHfO膜が積層された、誘電体層3が形成される。
【0046】
次に、誘電体層3上に、スパッタリング法により、Pt膜からなる第2電極4を形成する。
【0047】
次に、誘電体層3(HfO膜)の結晶性を向上させるために、熱処理をおこなう。具体的には、第1電極2、誘電体層3、第2電極4が形成された基板1を、酸素流量が200ml/分の酸素雰囲気下で、300℃/分の昇温速度で800℃まで加熱し、10分間保持する。以上により、キャパシタ100が完成する。
【0048】
以上のように、本実施の形態に係る強誘電体膜と、強誘電体膜の表面に形成される電極と、を備える、電子部品の一例として、キャパシタ100が考えられる。キャパシタ100は、強誘電体膜である誘電体層3の一方の主面に形成される第1電極2と、強誘電体膜である誘電体層3の他方の主面に形成される第2電極4と、を含み、第1電極2と、強誘電体膜である誘電体層3と、第2電極4とで構成される。これにより、電界の印加によって分極状態を制御できるキャパシタ100を実現することができ、当該キャパシタ100を記憶装置として使用することができる。
【0049】
[強誘電体膜を用いたトランジスタ]
次に、本実施の形態に係る強誘電体膜を用いたトランジスタの構成およびその製造方法について説明する。図6は、本実施の形態に係る強誘電体膜を用いたトランジスタ200を示す図である。ただし、図6では、トランジスタ200の断面図を示している。
【0050】
トランジスタ200は、強誘電体ゲートトランジスタであって、記憶素子として機能する。トランジスタ200は、基板1、ゲート電極20、ゲート絶縁膜30、チャネル形成膜40、ソース電極50、ドレイン電極60を備える。基板1の材質、特性、厚みなどは任意である。本実施の形態では、例えば、厚み500μmのSi(100)基板を基板1に使用した。
【0051】
ゲート電極20は、基板1の上に形成されている。ゲート電極20の材質、特性、厚みなどは任意である。本実施の形態では、例えば、厚み80nmのPt膜をゲート電極20に使用した。
【0052】
ゲート絶縁膜30は、基板1およびゲート電極20の上に形成されている。ゲート絶縁膜30には、本実施の形態に係る強誘電体膜を使用した。つまり、ゲート絶縁膜30は、蛍石構造を有する酸化ハフニウムと、La,Ce,Biの中から選ばれた、1種類または複数種類の元素を有する金属酸化物と、含有される量が5mol%未満である炭素と、を含む。本実施の形態では、例えば、厚み60nmの強誘電体膜をゲート絶縁膜30に使用した。
【0053】
ゲート絶縁膜30は、強誘電性を備えている。したがって、強誘電体膜をゲート絶縁膜30に使用したトランジスタ200は、強誘電体ゲートトランジスタであり、ゲート電極20に印加する電界によって、分極状態(自発分極の分極方向)を制御することができ信号を記憶する記憶素子として機能させることができる。
【0054】
チャネル形成膜40は、ゲート絶縁膜30の上に形成されている。チャネル形成膜40の材質、特性、厚みなどは任意である。本実施の形態では、例えば、厚み10nmのITO膜をチャネル形成膜40に使用した。
【0055】
ソース電極50およびドレイン電極60は、チャネル形成膜40の上に形成されている。ソース電極50およびドレイン電極60の材質、特性、厚みなどは任意である。本実施の形態では、例えば、厚み80nmのPt膜をソース電極50およびドレイン電極60に使用した。ソース電極50およびドレイン電極60は、トランジスタ200の積層方向から平面視した場合に、ゲート電極20を跨ぐ位置に形成されている。
【0056】
次に、トランジスタ200の製造方法について説明する。まず、基板1を用意する。また、基板1の用意と並行して、化学溶液を作製する。なお、化学溶液の原料塩、化学溶液の溶媒、および化学溶液を得る方法は、キャパシタ100の場合と同じであるため詳細な説明を繰り返さない。
【0057】
次に、基板1に、膜厚80nmの白金(Pt)のゲート電極20を形成する。具体的に、ゲート電極20は、基板1にフォトリソグラフィ技術を用いて所定のパターンのフォトレジストを形成し、その後、高周波(RF)スパッタリングで白金(Pt)を成膜して、リフトオフでフォトレジストを取り去ることで形成される。
【0058】
次に、ゲート電極20を形成した基板1の面に重ねて膜厚60nmのゲート絶縁膜30を形成する。具体的に、ゲート絶縁膜30は、化学溶液堆積法(CSD:Chemical Solution Deposition)を用いゲート電極20を形成した基板1の面に用意した化学溶液をスピンコートして成膜し、150℃で乾燥させた後、酸素雰囲気下、800℃で焼成して結晶化することで形成される。
【0059】
次に、ゲート絶縁膜30に重ねて膜厚10nmのチャネル形成膜40を形成する。具体的に、チャネル形成膜40は、化学溶液堆積法(CSD)を用い、ゲート絶縁膜30に重ねてITO溶液をスピンコートして成膜し、150℃で乾燥させた後、酸素雰囲気下、500℃で焼成して結晶化することで形成される。
【0060】
次に、チャネル形成膜40の上に、膜厚80nmの白金(Pt)のソース電極50およびドレイン電極60を形成する。具体的に、ソース電極50およびドレイン電極60は、チャネル形成膜40の上にフォトリソグラフィ技術を用いて所定のパターンのフォトレジストを形成し、その後、高周波(RF)スパッタリングで白金(Pt)を成膜して、リフトオフでフォトレジストを取り去ることで形成される。
【0061】
トランジスタ200は、MFS(Metal-Ferroelectric-Semiconductor)型のゲート絶縁膜30を強誘電体膜とした構造を有する。これにより、トランジスタ200は、ゲート絶縁膜30に不揮発な電荷を蓄え、蓄えた電荷によってチャネル形成膜40の抵抗値を高抵抗状態と低抵抗状態とに切り替えることができる記憶素子として機能させることができる。なお、本実施の形態に係るトランジスタ200には、必ずしもMFS型構造を採用する必要はない。
【0062】
具体的に、トランジスタ200を記憶素子として機能させる場合の動作について説明する。例えば、トランジスタ200への書き込み時に、ソース電極50とゲート電極20との間に電圧を印加して、ゲート絶縁膜30の分極方向を変化させる。記憶素子のキャパシタ電極として機能するゲート電極20およびチャネル形成膜40に蓄えられる電荷は、ゲート絶縁膜30の分極方向に応じて変化する。これにより、ゲート絶縁膜30の分極状態の変化に応じて閾値電圧が変化することになるため、ソース電極50からドレイン電極60に流れる電流(ドレイン電流)が変化する。
【0063】
トランジスタ200は、例えば、チャネル形成膜40がN型の半導体材料を含んでいる場合、閾値電圧が負の方向に変化すると、ゲート電極20に印加する電圧(ゲート電圧)が0(ゼロ)Vのときにドレイン電流が増加する。一方、トランジスタ200は、閾値電圧が正の方向に変化すると、ゲート電圧が0(ゼロ)Vのときにドレイン電流が減少する。これにより、トランジスタ200は、ドレイン電流が高い状態(オン状態)と、ドレイン電流が低い状態(オフ状態)との2つの状態を交互に切り替えることができる。
【0064】
よって、トランジスタ200は、ゲート絶縁膜30の分極状態の変化を利用してオン状態とオフ状態とを交互に切り替え、ソース電極50およびドレイン電極60とゲート電極20との間で信号の記憶または消去を実現している。
【0065】
図7は、実施の形態に係る強誘電体膜を用いたトランジスタ200の電気特性を示す図である。図7では、トランジスタ200のゲート電極20に印加する電圧(ゲート電圧)を走査したときのドレイン電流の変化(伝達特性)を、半導体パラメータアナライザーを用いて測定した。なお、図7に示す伝達特性の測定では、ドレイン電圧を1Vに固定した状態でゲート電圧VGを-10V~+10Vの範囲で走査した。
【0066】
トランジスタ200の伝達特性は、図7に示すようにドレイン電流がゲート絶縁膜30の分極反転に伴い急激に増減して、ゲート電圧に対してドレイン電流が履歴を示している。
【0067】
以上のように、本実施の形態に係る強誘電体膜と、強誘電体膜の表面に形成される電極と、を備える、電子部品の一例として、トランジスタ200が考えられる。トランジスタ200は、ゲート電極20と、ソース電極50と、ドレイン電極60と、を含み、強誘電体膜は、強誘電体ゲートトランジスタのゲート絶縁膜30としてゲート電極20の上に形成される。これにより、電界の印加によって分極状態を制御できるトランジスタ200を実現することができ、当該トランジスタ200を記憶素子として使用することができる。
【0068】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0069】
1 基板、2 第1電極、3 誘電体層、4 第2電極、20 ゲート電極、30 ゲート絶縁膜、40 チャネル形成膜、50 ソース電極、60 ドレイン電極、100 キャパシタ、200 トランジスタ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7