(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】直動ダンパーおよびステアリング装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/023 20060101AFI20250106BHJP
B62D 3/12 20060101ALI20250106BHJP
F16F 9/18 20060101ALI20250106BHJP
F16F 9/32 20060101ALI20250106BHJP
F16F 9/34 20060101ALI20250106BHJP
F16F 9/58 20060101ALI20250106BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
F16F15/023 A
B62D3/12 511
F16F9/18
F16F9/32 J
F16F9/32 L
F16F9/34
F16F9/58 B
F16F15/08 C
(21)【出願番号】P 2021076911
(22)【出願日】2021-04-29
【審査請求日】2024-04-25
(73)【特許権者】
【識別番号】519184930
【氏名又は名称】株式会社ソミックマネージメントホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】中屋 一正
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 晃史
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-128978(JP,U)
【文献】特開2006-138359(JP,A)
【文献】実開平04-125978(JP,U)
【文献】特開2004-069064(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 9/00- 9/58
F16F 15/00- 15/36
B62D 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成されてこの筒状に形成された部分の内側に流体を液密的に収容する内室を有する内室形成体と、
前記内室形成体内に摺動自在に嵌合して前記内室形成体に対して相対変位する相対変位体と、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの少なくとも一方に設けられて前記流体の流動を制限しつつ流動させる流通制御弁とを備えて、互いに直線的に相対変位する2つの取付け対象物体間に配置されてこの相対変位によって受ける外力を前記流体の流動を制限することで減衰させる直動ダンパーであって、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの一方は、
前記2つの取付け対象物体のうちの一方に取り付けられる取付部を有しており、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの他方は、
前記2つの取付け対象物体のうちの他方が突き当たる突当り部を有し、
前記突当り部は、
前記2つの取付け対象物体のうちの前記他方の突き当たりを弾性的に受け止める弾性体を含んで構成されて
おり、
前記内室形成体および前記相対変位体は、
前記相対変位によって互いに突き当たることで前記相対変位の範囲における一方の変位限界および他方の変位限界をそれぞれ規定する変位限界規定部をそれぞれ有し、
前記変位限界規定部は、
前記一方の変位限界および前記他方の変位限界のうちの少なくとも一方の前記変位限界規定部が弾性体を含んで構成されていることを特徴とする直動ダンパー。
【請求項2】
筒状に形成されてこの筒状に形成された部分の内側に流体を液密的に収容する内室を有する内室形成体と、
前記内室形成体内に摺動自在に嵌合して前記内室形成体に対して相対変位する相対変位体と、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの少なくとも一方に設けられて前記流体の流動を制限しつつ流動させる流通制御弁とを備えて、互いに直線的に相対変位する2つの取付け対象物体間に配置されてこの相対変位によって受ける外力を前記流体の流動を制限することで減衰させる直動ダンパーであって、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの一方は、
前記2つの取付け対象物体のうちの一方に取り付けられる取付部を有しており、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの他方は、
前記2つの取付け対象物体のうちの他方が突き当たる突当り部を有し、
前記突当り部は、
前記2つの取付け対象物体のうちの前記他方の突き当たりを弾性的に受け止める弾性体を含んで構成されて
おり、
前記相対変位体は、
前記内室内における前記流体の体積変化を補償する体積変化補償装置を備えていることを特徴とする直動ダンパー。
【請求項3】
請求項
1または請求項2に記載した直動ダンパーにおいて、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの少なくとも一方に弾性力を付与して前記突当り部を有さない前記内室形成体または前記相対変位体を前記突当り部から離隔させる側に弾性的に押圧する復帰用弾性体を備えることを特徴とする直動ダンパー。
【請求項4】
請求項
1ないし請求項3のうちのいずれか1つに記載した直動ダンパーにおいて、
前記突当り部は、環状に形成されていることを特徴とする直動ダンパー。
【請求項5】
請求項
1ないし請求項
4のうちのいずれか1つに記載した直動ダンパーにおいて、
前記突当り部は、
エラストマ材で構成されていることを特徴とする直動ダンパー。
【請求項6】
請求項
5に記載した直動ダンパーにおいて、
前記突当り部は、
有底穴および貫通孔のうちの少なくも一方が形成されていることを特徴とする直動ダンパー。
【請求項7】
棒状に延びて形成されてステアリングホイールの操作によって回転するステアリングシャフトと、
棒状に延びて形成されて前記ステアリングシャフトの回転運動が軸線方向の往復運動に変換されて伝達されるラックバーと、
前記ラックバーの両端部にそれぞれ連結されて同各両端部に対して操舵対象となる車輪を直接的または間接的に連結する中間連結体と、
前記ラックバーを覆うラックハウジングとを備えたステアリング装置において、
請求項
1ないし請求項
6のうちのいずれか1つに記載した直動ダンパーを備え、
前記直動ダンパーは、
前記ラックハウジングと前記ラックバーまたは前記中間連結体との間に設けられて前記車輪からの衝撃および/または前記ステアリングシャフト側からの慣性力による衝撃を減衰することを特徴とするステアリング装置。
【請求項8】
請求項
7に記載したステアリング装置において、
前記相対変位体は、前記中間連結体に繋がっており、
前記内室形成体は、
前記ラックバーの前記往復運動によって前記ラックハウジングに接触または離隔するように形成されていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項9】
請求項
7に記載したステアリング装置において、
前記内室形成体は、前記ラックハウジングの端部に繋がっており、
前記相対変位体は、
内部に前記ラックバーまたは前記中間連結体が貫通しており、前記ラックバーの前記往復運動によって前記ラックバーまたは前記中間連結体が接触または離隔するように形成されていることを特徴とするステアリング装置。
【請求項10】
棒状に延びて形成されてステアリングホイールの操作によって回転するステアリングシャフトと、
棒状に延びて形成されて前記ステアリングシャフトの回転運動が軸線方向の往復運動に変換されて伝達されるラックバーと、
前記ラックバーの両端部にそれぞれ連結されて同各両端部に対して操舵対象となる車輪を直接的または間接的に連結する中間連結体と、
前記ラックバーを覆うラックハウジングとを備えたステアリング装置において、
筒状に形成されてこの筒状に形成された部分の内側に流体を液密的に収容する内室を有する内室形成体と、
前記内室形成体内に摺動自在に嵌合して前記内室形成体に対して相対変位する相対変位体と、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの少なくとも一方に設けられて前記流体の流動を制限しつつ流動させる流通制御弁とを備えて、互いに直線的に相対変位する2つの取付け対象物体間に配置されてこの相対変位によって受ける外力を前記流体の流動を制限することで減衰させる直動ダンパーであって、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの一方は、
前記2つの取付け対象物体のうちの一方に取り付けられる取付部を有しており、
前記内室形成体および前記相対変位体のうちの他方は、
前記2つの取付け対象物体のうちの他方が突き当たる突当り部を有し、
前記突当り部は、
前記2つの取付け対象物体のうちの前記他方の突き当たりを弾性的に受け止める弾性体を含んで構成されている直動ダンパーを備え、
前記直動ダンパーは、
前記ラックハウジングと前記ラックバーまたは前記中間連結体との間に設けられて前記車輪からの衝撃および/または前記ステアリングシャフト側からの慣性力による衝撃を減衰
し、
前記内室形成体は、前記ラックハウジングの端部に繋がっており、
前記相対変位体は、
内部に前記ラックバーまたは前記中間連結体が貫通しており、前記ラックバーの前記往復運動によって前記ラックバーまたは前記中間連結体が接触または離隔するように形成されていることを特徴とするステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直動運動における運動エネルギを減衰する直動ダンパーおよびこの直動ダンパーを備えるステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直動運動における運動エネルギを減衰する直動ダンパーがある。例えば、本願発明者は、下記特許文献1に示すように、自走式車両のステアリング装置におけるラックハウジングに対して相対変位するラックエンドに流体の流動を制限することによって発生する減衰力でラックエンドとラックハウジングとの間に生じる衝撃荷重を低減する直動ダンパーを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に開示された直動ダンパーにおいては、ラックエンドがラックハウジングに急接近して直動ダンパーがラックハウジングに衝突した際に大きな衝突音が発生するとともにステアリング装置に瞬間的に大きな衝撃を与えてしまうという問題がある。
【0005】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、大きな荷重が急激に作用した場合においても大きな衝突音または衝撃が発生することを抑えることができる直動ダンパーおよびこの直動ダンパーを備えたステアリング装置を提供することにある。
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、筒状に形成されてこの筒状に形成された部分の内側に流体を液密的に収容する内室を有する内室形成体と、内室形成体内に摺動自在に嵌合して内室形成体に対して相対変位する相対変位体と、内室形成体および相対変位体のうちの少なくとも一方に設けられて流体の流動を制限しつつ流動させる流通制御弁とを備えて、互いに直線的に相対変位する2つの取付け対象物体間に配置されてこの相対変位によって受ける外力を流体の流動を制限することで減衰させる直動ダンパーであって、内室形成体および相対変位体のうちの一方は、前記2つの取付け対象物体のうちの一方に取り付けられる取付部を有しており、内室形成体および相対変位体のうちの他方は、前記2つの取付け対象物体のうちの他方が突き当たる突当り部を有し、突当り部は、前記2つの取付け対象物体のうちの前記他方の突き当たりを弾性的に受け止める弾性体を含んで構成されており、内室形成体および相対変位体は、相対変位によって互いに突き当たることで相対変位の範囲における一方の変位限界および他方の変位限界をそれぞれ規定する変位限界規定部をそれぞれ有し、変位限界規定部は、一方の変位限界および他方の変位限界のうちの少なくとも一方の変位限界規定部が弾性体を含んで構成されていることにある。
【0007】
これによれば、直動ダンパーは、突当り部が弾性体を含んで構成されているため、直動ダンパーが設置される2つの取付け対象物体のうちの突当り部に対向する取付け対象物体に突当り部が衝突して大きな荷重が急激に作用した場合であっても大きな衝突音または衝撃が発生することを抑えることができる。また、本発明によれば、直動ダンパーは、相対変位体の相対変位範囲における一方の変位限界および他方の変位限界のうちの少なくとも一方の変位限界規定部が弾性体を含んで構成されている。このため、直動ダンパーは、相対変位体の相対変位範囲における一方の変位限界位置に弾性体を含んだ変位限界規定部を設けておくことで相対変位体が前記一方の変位限界位置に達した際の衝撃を緩和することができるとともに外力が更に加えられた場合においてもこの外力を減衰させることができる。また、直動ダンパーは、相対変位体の相対変位範囲における他方の変位限界位置に弾性体を含んだ変位限界規定部を設けておくことで相対変位体が前記他方の変位限界位置に達した際の衝撃を緩和することができるとともに外力が更に加えられた場合においてもこの外力を減衰させることができる。つまり、直動ダンパーは、相対変位体が外力を受けて変位限界位置に達したときおよび/または相対変位体が外力を受ける前の元の位置の変位限界位置に達したときの衝撃または外力を減衰することができる。
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、筒状に形成されてこの筒状に形成された部分の内側に流体を液密的に収容する内室を有する内室形成体と、内室形成体内に摺動自在に嵌合して内室形成体に対して相対変位する相対変位体と、内室形成体および相対変位体のうちの少なくとも一方に設けられて流体の流動を制限しつつ流動させる流通制御弁とを備えて、互いに直線的に相対変位する2つの取付け対象物体間に配置されてこの相対変位によって受ける外力を流体の流動を制限することで減衰させる直動ダンパーであって、内室形成体および相対変位体のうちの一方は、前記2つの取付け対象物体のうちの一方に取り付けられる取付部を有しており、内室形成体および相対変位体のうちの他方は、前記2つの取付け対象物体のうちの他方が突き当たる突当り部を有し、突当り部は、前記2つの取付け対象物体のうちの前記他方の突き当たりを弾性的に受け止める弾性体を含んで構成されており、相対変位体は、内室内における流体の体積変化を補償する体積変化補償装置を備えていることにある。
【0009】
これによれば、直動ダンパーは、突当り部が弾性体を含んで構成されているため、直動ダンパーが設置される2つの取付け対象物体のうちの突当り部に対向する取付け対象物体に突当り部が衝突して大きな荷重が急激に作用した場合であっても大きな衝突音または衝撃が発生することを抑えることができる。また、本発明によれば、直動ダンパーは、相対変位体が内室内における流体の体積変化を補償する体積変化補償装置を備えているため、直動ダンパーの構成をコンパクト化することができる。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、前記直動ダンパーにおいて、内室形成体および相対変位体のうちの少なくとも一方に弾性力を付与して突当り部を有さない内室形成体または相対変位体を突当り部から離隔させる側に弾性的に押圧する復帰用弾性体を備えることにある。これによれば、直動ダンパーは、復帰用弾性体が突当り部を有さない内室形成体または相対変位体に対して弾性力を付与して突当り部から離隔するように弾性的に変位させている。これにより、本発明に係る直動ダンパーは、内室形成体と相対変位体とを相対変位させる外力が作用しない場合においては突当り部を有さない内室形成体または相対変位体が相対変位領域における突当り部から離隔する側の端部、すなわち、流通制御弁の減衰機能を発揮させるための作動開始位置に常に位置させて相対変位体のストロークを最長にすることができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記直動ダンパーにおいて、突当り部は、環状に形成されていることにある。これによれば、直動ダンパーは、突当り部が環状に形成されているため、突当り部の内側に直動ダンパーの構成部品または直動ダンパーが設置される2つの取付け対象物体のうちの少なくとも一方の取付け対象物体の全部または一部を配置することができ、直動ダンパーの構成、設置対象物または設置態様のバリエーションを広げることができる。
【0012】
また、本発明の他の特徴は、前記直動ダンパーにおいて、突当り部は、エラストマ材で構成されていることにある。
【0013】
これによれば、直動ダンパーにおいて、突当り部がエラストマ材で構成されているため、突当り部をコイルスプリングなどの金属材で構成した場合に比べて衝突音または衝撃が発生することをより効果的に抑えることができる。ここで、エラストマ材は、突当り部が物体との衝突時の衝撃を弾性的に受け止めることができるゴム材または樹脂材などであり、より具体的には、熱硬化性エラストマ材(例えば、加硫ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなど)、熱可塑性エラストマ材(例えば、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系またはアミド系の各樹脂など)がある。なお、突当り部は、エラストマ材以外の材料、例えば、金属製の板バネまたはコイルスプリングで構成できることは当然である。
【0014】
また、本発明の他の特徴は、前記直動ダンパーにおいて、突当り部は、有底穴および貫通孔のうちの少なくも一方が形成されていることにある。
【0015】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、直動ダンパーは、突当り部が有底穴および貫通孔のうちの少なくも一方が形成されているため、突当り部による衝撃の減衰力を有底穴または貫通孔の数、大きさまたは位置によって調整することができる。
【0016】
また、本発明は直動ダンパーの発明として実施できるばかりでなく、この直動ダンパーを備えるステアリング装置の発明としても実施できるものである。
【0017】
具体的には、ステアリング装置は、棒状に延びて形成されてステアリングホイールの操作によって回転するステアリングシャフトと、棒状に延びて形成されてステアリングシャフトの回転運動が軸線方向の往復運動に変換されて伝達されるラックバーと、ラックバーの両端部にそれぞれ連結されて同各両端部に対して操舵対象となる車輪を直接的または間接的に連結する中間連結体と、ラックバーを覆うラックハウジングとを備えたステアリング装置において、請求項1ないし請求項6のうちのいずれか1つに記載した直動ダンパーを備え、直動ダンパーは、ラックハウジングとラックバーまたは中間連結体との間に設けられて車輪からの衝撃および/またはステアリングシャフト側からの慣性力による衝撃を減衰する。これによれば、本発明に係るステアリング装置は、上記した直動ダンパーと同様の作用効果が期待できる。
【0018】
この場合、前記ステアリング装置において、相対変位体は、中間連結体に繋がっており、内室形成体は、ラックバーの往復運動によってラックハウジングに接触または離隔するように形成することができる。
【0019】
これによれば、本発明に係るステアリング装置は、相対変位体が中間連結体に繋がって設けられているとともに、内室形成体がラックバーの往復運動によってラックハウジングに接触または離隔するように形成されてダンパーがタイロッドまたはラックエンドなどの中間連結体に設けられているため、直動ダンパーのメンテナンスまたは交換を行い易くすることができる。
【0020】
また、この場合、前記ステアリング装置において、内室形成体は、ラックハウジングの端部に繋がっており、相対変位体は、内部にラックバーまたは中間連結体が貫通しており、ラックバーの往復運動によってラックバーまたは中間連結体が接触または離隔するように形成することができる。
【0021】
これによれば、本発明に係るステアリング装置は、内室形成体がラックハウジングの端部に形成されているとともに、相対変位体の内部にラックバーまたは中間連結体(タイロッドまたはラックエンドなど)が貫通してラックバーの往復運動によってラックバーまたはタイロッドが接触または離隔するように相対変位体が形成されている。これにより、本発明に係るステアリング装置は、直動ダンパーがラックハウジングに設けられているため、ラックバーまたは中間連結体(タイロッドまたはラックエンドなど)を軽量化することができる。
【0022】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、棒状に延びて形成されてステアリングホイールの操作によって回転するステアリングシャフトと、棒状に延びて形成されてステアリングシャフトの回転運動が軸線方向の往復運動に変換されて伝達されるラックバーと、ラックバーの両端部にそれぞれ連結されて同各両端部に対して操舵対象となる車輪を直接的または間接的に連結する中間連結体と、ラックバーを覆うラックハウジングとを備えたステアリング装置において、筒状に形成されてこの筒状に形成された部分の内側に流体を液密的に収容する内室を有する内室形成体と、内室形成体内に摺動自在に嵌合して内室形成体に対して相対変位する相対変位体と、内室形成体および相対変位体のうちの少なくとも一方に設けられて流体の流動を制限しつつ流動させる流通制御弁とを備えて、互いに直線的に相対変位する2つの取付け対象物体間に配置されてこの相対変位によって受ける外力を流体の流動を制限することで減衰させる直動ダンパーであって、内室形成体および相対変位体のうちの一方は、前記2つの取付け対象物体のうちの一方に取り付けられる取付部を有しており、内室形成体および相対変位体のうちの他方は、前記2つの取付け対象物体のうちの他方が突き当たる突当り部を有し、突当り部は、前記2つの取付け対象物体のうちの前記他方の突き当たりを弾性的に受け止める弾性体を含んで構成されている直動ダンパーを備え、直動ダンパーは、ラックハウジングとラックバーまたは中間連結体との間に設けられて車輪からの衝撃および/またはステアリングシャフト側からの慣性力による衝撃を減衰し、内室形成体は、ラックハウジングの端部に繋がっており、相対変位体は、内部にラックバーまたは中間連結体が貫通しており、ラックバーの往復運動によってラックバーまたは中間連結体が接触または離隔するように形成されていることにある。
【0023】
これによれば、本発明に係るステアリング装置を構成する直動ダンパーは、突当り部が弾性体を含んで構成されているため、直動ダンパーが設置される2つの取付け対象物体のうちの突当り部に対向する取付け対象物体に突当り部が衝突して大きな荷重が急激に作用した場合であっても大きな衝突音または衝撃が発生することを抑えることができる。したがって、本発明に係るステアリング装置は、上記した直動ダンパーと同様の作用効果が期待できる。また、本発明によれば、内室形成体がラックハウジングの端部に形成されているとともに、相対変位体の内部にラックバーまたは中間連結体(タイロッドまたはラックエンドなど)が貫通してラックバーの往復運動によってラックバーまたはタイロッドが接触または離隔するように相対変位体が形成されている。これにより、本発明に係るステアリング装置は、直動ダンパーがラックハウジングに設けられているため、ラックバーまたは中間連結体(タイロッドまたはラックエンドなど)を軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の実施形態に係るステアリング装置の全体構成の概略を模式的に示す説明図である。
【
図2】
図1に示すステアリング装置を構成する直動ダンパーの外観構成の概略を示す斜視図である。
【
図3】
図2に示す直動ダンパーの外観構成の概略を示す正面図である。
【
図4】
図3に示す4-4線から見た直動ダンパーの内部構成の概略を示す断面図である。
【
図5】
図4に示す直動ダンパーにおいて内室形成体がラックハウジングに接触した瞬間の状態を示す断面図である。
【
図6】
図4に示す直動ダンパーにおいて内室形成体がラックハウジング側に押圧された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る直動ダンパーを備えたステアリング装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るステアリング装置100の全体構成の概略を模式的に示す説明図である。また、
図2は、
図1に示すステアリング装置100を構成する直動ダンパー120の外観構成の概略を示す斜視図である。また、
図3は、
図2に示す直動ダンパー120の外観構成の概略を示す正面図である。また、
図4は、
図3に示す4-4線から見た直動ダンパー120の内部構成の概略を示す断面図である。
【0028】
このステアリング装置100は、四輪の自走式車両(図示せず)における2つの前輪(または後輪)を左右方向にそれぞれ操舵するための機械装置である。
【0029】
(ステアリング装置100の構成)
ステアリング装置100は、ステアリングホイール101を備えている。ステアリングホイール101は、自走式車両の運転者が進行方向を手動で操作するための操作子(つまり、ハンドル)であり、樹脂材または金属材を円環状に形成して構成されている。このステアリングホイール101には、ステアリングシャフト102が連結されている。
【0030】
ステアリングシャフト102は、棒状に形成されてステアリングホイール101の時計回りまたは反時計回りの回転操作に応じて軸線周りに回転する部品であり、金属製の1つの棒体または複数の棒体を自在継手などを介して連結して構成されている。このステアリングシャフト102は、一方の端部にステアリングホイール101が連結されているとともに、他方の端部にピニオンギア102aが形成されてラックバー103に連結されている。
【0031】
ラックバー103は、棒状に形成されて軸線方向に往復変位することによって2つの車輪112をそれぞれ操舵する力および操舵の量をそれぞれナックルアーム111に伝達する部品であり、金属材で構成されている。この場合、ラックバー103の一部には、ラックギア103aが形成されており、ステアリングシャフト102のピニオンギア102aが噛み合っている。すなわち、ピニオンギア102aとラックギア103aとは、ステアリングシャフト102の回転運動をラックバー103の往復直線運動に変換するラック&ピニオン機構(ステアリングギアボックス)を構成している。
【0032】
このラックバー103は、ラック&ピニオン機構がラックハウジング104によって覆われた状態で軸線方向の両端部がラックハウジング104から露出している。そして、ラックバー103における前記ラックハウジング104からそれぞれ露出した各両端部には直動ダンパー120、中間連結体105およびナックルアーム111をそれぞれ介して車輪112が連結されている。
【0033】
ラックハウジング104は、ラックバー103におけるラック&ピニオン機構などの主要部を覆って保護するための部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。このラックハウジング104は、自走式車両のシャシー(図示せず)に固定的に取り付けられている。
【0034】
中間連結体105は、ラックバー103から伝達される操舵力および操舵量をナックルアーム111に伝達するための部品であり、主として、ラックエンド106およびタイロッド110を備えて構成されている。ラックエンド106は、ラックバー103の先端部に対してタイロッド110を可動的に連結するとともに直動ダンパー120が連結される部品であり、主として、スタッド体107とソケット体108とで構成されている。
【0035】
スタッド体107は、ソケット体108に対してタイロッド110を可動的に連結するための部品であり、金属材を丸棒状に形成して構成されている。このスタッド体107は、一方(図示左側)の端部に球状のボール部107aが形成されるとともに、他方(図示右側)にはタイロッド110の端部にねじ込まれる雄ネジ部(図示せず)が形成さている。
【0036】
ソケット体108は、相対変位体140の先端部に対してスタッド体107を可動的に連結するための部品であり、金属材を丸棒状に形成して構成されている。より具体的には、ソケット体108は、主として、ソケット本体108aと連結部108bとで構成されている。ソケット本体108aは、ボール部107aを摺動可能な状態で保持する部分であり、ボール部107aを覆う凹状の球面形状に形成されている。連結部108bは、相対変位体140に連結される軸状の部分であり、相対変位体140内にねじ込まれる雄ネジが形成さている。
【0037】
タイロッド110は、ラックエンド106の先端部に対してナックルアーム111を可動的に連結する部品であり、棒状に延びるタイロッド本体の先端部にボールジョイントが可動的に取り付けられて構成されている。また、ナックルアーム111は、タイロッド110に対して車輪112を保持してタイロッド110から伝達される操舵力および操舵量を車輪112に伝達するための金属製の部品であり、円筒部の周囲から複数の棒状体が延びた形状に形成されている。また、車輪112は、自走式車両を前方または後方に移動させるために路面上を転動する左右一対の部品であり、金属製のホイールの外側にゴム製のタイヤが取り付けられて構成されている。
【0038】
直動ダンパー120は、ステアリングシャフト102側からの慣性力および/または車輪112から伝達される強い押圧力(衝撃)を吸収するための器具であり、左右の各中間連結体105とラックバー103の両端部との間に設けられている。この直動ダンパー120は、内室形成体121を備えている。
【0039】
内室形成体121は、第1内室125aおよび第2内室125bをそれぞれ形成しつつ相対変位体140を支持する部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。この内室形成体121は、内周面122の軸線方向の中央部に弁支持部123が形成されている。弁支持部123は、第1流通制御弁127、第2流通制御弁128および相対変位体140をそれぞれ支持する部分であり、内周面122から径方向内側に円環状に張り出して形成されている。
【0040】
この弁支持部123には、周方向に沿って等間隔に4つの貫通孔が軸線方向に貫通した状態で形成されており、これらの4つの貫通孔のうちの3つの貫通孔に第1流通制御弁127が嵌合した状態で保持されているとともに残余の1つの貫通孔に第2流通制御弁128が嵌合した状態で保持されている。また、弁支持部123の内周面は、弾性体からなるシールリング124が嵌め込まれた状態で相対変位体140が摺動自在に嵌合している。これにより、弁支持部123における内室形成体121の軸線方向の両側には、第1内室125aおよび第2内室125bがそれぞれ形成されている。
【0041】
第1内室125aおよび第2内室125bは、流体126を液密的に収容する部分であり、相対変位体140の外周部上に軸線方向に延びる円環筒状に形成されている。すなわち、第1内室125aおよび第2内室125bは、相対変位体140と内室形成体121との間の空間領域として形成されている。この場合、第1内室125aは、相対変位体140の第1内室形成壁142と弁支持部123との間に形成されている。
【0042】
また、第2内室125bは、相対変位体140の第2内室形成壁145と弁支持部123との間に形成されている。そして、これらの第1内室125aおよび第2内室125bは、内室形成体121内を往復摺動する相対変位体140の位置によって容積が変化する。これらの第1内室125aおよび第2内室125bが、本発明に係る内室に相当する。
【0043】
流体126は、第1内室125aと第2内室125bとの間に配置される前記3つの第1流通制御弁127内をそれぞれ流動する際の抵抗によって直動ダンパー120にダンパー機能を作用させるための物質であり、第1内室125aと第2内室125bとで形成される空間内に満たされている。この流体126は、直動ダンパー120の仕様に応じた粘性を有する流動性を有する液状、ジェル状または半固体状の物質で構成されている。この場合、流体126の粘度は、直動ダンパー120の仕様に応じて適宜選定される。本実施形態においては、流体126は、油、例えば、鉱物油またはシリコーンオイルなどによって構成されている。なお、流体126は、
図4~
図6において破線円内のハッチングで示している。
【0044】
3つの第1流通制御弁127は、第1内室125aと第2内室125bとの間の流体126の流れを制限しつつ双方向に流通させることができる弁でそれぞれ構成されている。この場合、第1流通制御弁127における流体126の流れを制限しつつとは、第2流通制御弁128における流体126の流通方向での流れ易さに対して同一条件(例えば、圧力および作動液の粘度など)下において流体126が流れ難いことを意味する。
【0045】
第2流通制御弁128は、第2内室125b側から第1内室125a側に流体126を流動させるとともに第1内室125a側から第2内室125b側へは流体126の流れを阻止する弁で構成されている。
【0046】
この内室形成体121の両端部における一方(図示左側)の端部には、支持ベース130を介して突当り部131が設けられている。支持ベース130は、突当り部131を支持するための部品であり、金属材料を円環状に形成して構成されている。この支持ベース130は、内室形成体121側の端部の外周部に内室形成体121の内周面122の端部にネジ嵌合するための雄ネジが形成されているとともに、この端部とは反対側の端部の端面に嵌合部130aが形成されている。嵌合部130aは、突当り部131が嵌合する部分であり、凹状の溝が円環状に形成されて構成されている。
【0047】
突当り部131は、直動ダンパー120がラックハウジング104に衝突した際の衝撃を緩和するための部品であり、弾性変形する弾性体を円環状に形成して構成されている。本実施形態においては、突当り部131は、ゴム材で構成されている。この突当り部131は、軸線方向に貫通した状態で貫通孔131aが形成されている。貫通孔131aは、突当り部131を支持ベース130に取り付けるためのボルト132が貫通させるための孔であり、突当り部131の周方向に沿って均等な間隔を介して3つ形成されている。
【0048】
また、突当り部131には、軸線方向における一方(図示右側)の端部に嵌合部131bが形成されているとともに、他方(図示左側)の端部に有底穴131cが形成されている。嵌合部131bは、支持ベース130の凹状の嵌合部130aに嵌合させて突当り部131の取り付け位置を規定するための部分であり、嵌合部130aに嵌合する凸部が円環状に形成されている。
【0049】
有底穴131cは、突当り部131の弾性力を調整するための有底の穴であり、突当り部131の周方向に沿って前記3つの貫通孔131aの間に3つずつ形成されている。これらの有底穴131cは、突当り部131の軸線方向の長さの半分程度の深さに形成されている。なお、前記3つの貫通孔131aは、有底穴131cと同様に、突当り部131の弾性力を調整する機能も発揮する。
【0050】
相対変位体140は、ラックバー103とラックエンド106とを互いに連結するとともに内室形成体121とともに第1内室125aおよび第2内室125bをそれぞれ形成するための部品であり、金属材料を丸棒状に形成して構成されている。この相対変位体140は、主として、内室対向部141、第1内室形成壁142、第2内室形成壁145、ラックエンド連結部148、ラックバー連結部149および補償装置収容部150をそれぞれ備えて構成されている。
【0051】
内室対向部141は、第1内室125aおよび第2内室125bをそれぞれ形成するとともに弁支持部123が摺動する部分であり、滑らかで断面が円となる曲面で構成されている。この内室対向部141は、相対変位体140の軸線方向の中央部に形成されている。
【0052】
第1内室形成壁142は、第1内室125aを形成するとともに内室形成体121の内周面122を摺動して流体126を押圧する部分であり、内室対向部141における一方(図示右側)の端部にフランジ状に張り出して形成されている。この場合、第1内室形成壁142は、相対変位体140と同一材料で一体的に形成されている。この第1内室形成壁142の外周部は、弾性体からなるシールリング143が嵌め込まれた状態で内室形成体121の内周面122が摺動自在に嵌合している。また、第1内室形成壁142には、第1内室125a側の端面に第1変位限界規定部144が設けられている。
【0053】
第1変位限界規定部144は、第1内室形成壁142が弁支持部123側に変位して突き当たることで相対変位体140の変位範囲の両端における一方の変位限界を規定するとともに突き当り時の衝撃を緩和するための部品であり、弾性変形する弾性体を円環状に形成して構成されている。本実施形態においては、第1変位限界規定部144は、ゴム材で構成されている。また、第1変位限界規定部144は、弁支持部123側よりも第1内室形成壁142側の外径が大きいテーパ状の円錐形に形成されている。
【0054】
第2内室形成壁145は、第2内室125bを形成するとともに内室形成体121の内周面122を摺動して流体126を押圧する部分であり、内室対向部141における他方(図示左側)の端部にフランジ状に張り出して設けられている。この第2内室形成壁145は、相対変位体140と別体の金属材料を円環状に形成して構成されており、相対変位体140の外周部にねじ込まれることで相対変位体140と一体化している。
【0055】
また、第2内室形成壁145の外周部は、弾性体からなるシールリング146が嵌め込まれた状態で内室形成体121の内周面122が摺動自在に嵌合している。さらに、第2内室形成壁145は、第2内室125b側の端面に第2変位限界規定部147が設けられている。
【0056】
第2変位限界規定部147は、第2内室形成壁145が弁支持部123側に変位して突き当たることで相対変位体140の変位範囲の両端における他方の変位限界を規定するとともに突き当り時の衝撃を緩和するための部品であり、弾性変形する弾性体を円環状に形成して構成されている。本実施形態においては、第2変位限界規定部147は、ゴム材で構成されている。
【0057】
ラックエンド連結部148は、ラックエンド106のソケット体108を連結する部分であり、相対変位体140の軸線方向に延びて図示右側の端部に開口する有底穴内に形成されている。この場合、ラックエンド連結部148は、有底穴の内周面にソケット体108の連結部108bの雄ネジがネジ嵌合する雌ネジが形成されている。
【0058】
ラックバー連結部149は、ラックバー103を連結する部分であり、相対変位体140の軸線方向に延びて図示左側の端部に開口する有底穴の内周面にラックバー103の端部に形成された雄ネジがネジ嵌合する雌ネジが形成されて構成されている。これらのラックエンド連結部148およびラックバー連結部149が本発明に係る取付部に相当する。
【0059】
補償装置収容部150は、体積変化補償装置153を液密的に収容するための部分であり、ラックエンド連結部148と一体的に形成された有底穴状に形成されている。この補償装置収容部150は、内室連通路151を介して第2内室125bに連通しているとともに、大気連通路152を介して直動ダンパー120の外側の大気に連通している。
【0060】
体積変化補償装置153は、第1内室125a内および第2内室125b内の流体126の温度変化による膨張または収縮による体積変化を補償する器具である。この体積変化補償装置153は、補償装置収容部150内を往復摺動するピストンをコイルスプリングで内室連通路151側に弾性的に押圧した状態で収容して構成されている。この場合、コイルスプリングが収容された空間が大気連通路152を介して直動ダンパー120の外側の大気に連通している。
【0061】
この相対変位体140におけるラックエンド連結部148が形成された外側の円筒状の部分には、弾性体ホルダ154が取り付けられている。弾性体ホルダ154は、復帰用弾性体155を保持するための部品であり、金属材料を円筒状に形成して構成されている。この弾性体ホルダ154は、外周部に復帰用弾性体155を保持している。この場合、弾性体ホルダ154の外周部には、軸線方向における一方の端部がフランジ状に張り出して受け部154aを形成しており、この受け部154aが復帰用弾性体155の一方の端部を受け止めている。
【0062】
復帰用弾性体155は、相対変位体140における第1内室形成壁142および第2内室形成壁145をそれぞれ第1内室125a内および第2内室125b内における図示右側端部に弾性的に押圧するための部品であり、金属製のウェーブワッシャを弾性体ホルダ154の軸線方向に複数枚重ねて配置して構成されている。この復帰用弾性体155は、一方(図示右側)の端部が弾性体ホルダ154の受け部154aを弾性的に押圧するとともに、他方(図示左側)の端部が内室形成体121における図示右側の端部を弾性的に押圧している。
【0063】
(ステアリング装置100の作動)
次に、このように構成されたステアリング装置100の作動について説明する。このステアリング装置100は、図示しない四輪の自走式車両における操舵輪(例えば、2つの前輪)を左右方向に操舵する機構として自走式車両の内部に組み込まれる。そして、このステアリング装置100は、自走式車両の運転者によるステアリングホイール101の操作に応じて2つの車輪112の各向きを変更して自走式車両の進行方向を決定する。
【0064】
このような自走式車両の運転中において、ステアリング装置100における直動ダンパー120は、ラックバー103がピニオンギア102aとの関係において左右の変位限界近くまで変位した場合に作用する。この場合、ラックバー103の変位限界とは、車輪112の左右の操舵限界であり、自走式車両の運転者がステアリングホイール101を時計回りまたは反時計回りに回動限界近くまで回動させた場合のほか、車輪112が縁石などの障害物に衝突してラックバー103に対して車輪112側から大きな入力が作用した場合がある。
【0065】
まず、直動ダンパー120に外力が作用せず直動ダンパー120が作動しない場合について説明する。この直動ダンパー120は、
図4に示すように、自走式車両の車輪112が操舵限界付近まで操舵されない場合などラックバー103が変位限界付近に達しない範囲においては、内室形成体121がラックハウジング104に衝突しないため作動することはない。この場合、直動ダンパー120は、
図4に示すように、内室形成体121は復帰用弾性体155によって内室形成体121の変位範囲における図示左側に弾性的に押圧されることで変位限界を規定する第2内室形成壁145が弁支持部123に第2変位限界規定部147を介して弾性的に押し付けられている。
【0066】
次に、直動ダンパー120に外力が作用して直動ダンパー120が作動する場合について説明する。この直動ダンパー120は、
図5に示すように、自走式車両の車輪112が操舵限界付近まで操舵された場合などラックバー103が変位限界付近まで達した場合には、内室形成体121の端部がラックハウジング104に接触して作動を開始する。すなわち、ラックハウジング104は、本発明に係る2つの取付け対象物体のうちの他方となる取付け対象物体に相当する。なお、中間連結体105は、本発明に係る2つの取付け対象物体のうちの一方となる取付け対象物体に相当する。
【0067】
この場合、まず、直動ダンパー120は、突当り部131がラックハウジング104に突き当たって圧縮の弾性変形することで突き当り時の衝撃を減衰する。次いで、直動ダンパー120は、
図6に示すように、突当り部131が弾性変形の限界に達した場合には、相対変位体140が内室形成体121内をラックハウジング104側に復帰用弾性体155の弾性力に抗しながら変位する。すなわち、相対変位体140は、第1内室形成壁142が弁支持部123に向かって流体126を押しながら変位する。
【0068】
これにより、直動ダンパー120は、第1内室125a内の流体126が3つの第1流通制御弁127をそれぞれ流動抵抗を伴いながら第2内室125b側に流動することで減衰力を発生させる。そして、直動ダンパー120は、第1内室形成壁142が弁支持部123に突き当たった場合には、第1変位限界規定部144が弁支持部123に突き当たって圧縮の弾性変形によって突き当り時の衝撃および相対変位体140を変位させる外力をそれぞれ減衰させる。
【0069】
次に、自走式車両の車輪112が操舵限界付近まで操舵されてラックバー103が変位限界付近まで達した後、車輪112が元の位置に戻る場合には、直動ダンパー120は相対変位体140が内室形成体121内をラックハウジング104から離隔する方向に変位する。すなわち、相対変位体140は、復帰用弾性体155により第2内室形成壁145が弁支持部123に向かって流体126を押しながら変位する。
【0070】
これにより、直動ダンパー120は、第2内室125b内の流体126が1つの第2流通制御弁128を極めて小さい流動抵抗を伴いながら第1内室125a側に流動する。すなわち、直動ダンパー120は、相対変位体140の復帰時においては外力に対する減衰力を殆ど発生させない。そして、直動ダンパー120は、第2内室形成壁145が弁支持部123に突き当たった場合には、第2変位限界規定部147が弁支持部123に突き当たって圧縮の弾性変形によって突き当り時の衝撃を減衰させる(
図4参照)。
【0071】
次に、直動ダンパー120は、第2変位限界規定部147が弁支持部123に突き当たった後には、内室形成体121がラックハウジング104から離隔する方向に変位することで突当り部131の圧縮変形が解消されながらラックハウジング104から離隔する(
図4参照)。これにより、自走式車両の車輪112は、元の位置に復帰する。
【0072】
上記作動方法の説明からも理解できるように、上記第1実施形態によれば、直動ダンパー120は、突当り部131が弾性体を含んで構成されているため、直動ダンパー120が設置される2つのラックハウジング104と中間連結体105のうちの突当り部131に対向するラックハウジング104に突当り部131が衝突して大きな荷重が急激に作用した場合であっても大きな衝突音または衝撃が発生することを抑えることができる。
【0073】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、各変形例の説明においては、上記実施形態と同様の部分については同じ符号を付して重複する説明は省略する。
【0074】
例えば、上記実施形態においては、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、それぞれゴム材で構成した。しかし、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、外力を弾性的に受け止めることができる弾性体で構成されていればよい。この場合、弾性体としては、外力に対してゆっくり変形して衝撃または振動を吸収する粘弾性体が好ましい。また、粘弾性体としては、反発弾性率が低い粘弾性体、具体的には、反発弾性率が50%以下の粘弾性体が好ましい。
【0075】
したがって、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、ゴム材のほか、熱硬化性エラストマ材(例えば、加硫ゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなど)または熱可塑性エラストマ材(例えば、スチレン系、オレフィン系、塩ビ系、ウレタン系またはアミド系の各樹脂など)などの樹脂材で構成することができる。また、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、エラストマ材以外の材料、例えば、金属製の板バネまたはコイルスプリングのほか、粘性を有する流動体を封入したダンパーでも構成することができる。また、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、弾性体の表面に剛性を有する樹脂板または金属板を貼り付けて構成することもできる。これによれば、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、ラックハウジング104などの突き当たる物体に対する耐摩耗性を向上させることができるとともに損傷を与えることを防止することができる。
【0076】
また、上記実施形態においては、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、円環状に形成した。しかし、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、円形(だ円形を含む)以外の環状、例えば、三角形、四角形、五角形または六角形などの多角形のほか、不規則な異形形状の環状に形成することができる。この場合、突当り部131および第2変位限界規定部147は、第1変位限界規定部144のように円錐形状に形成することもできる。また、突当り部131、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、小片を環状に配置して構成することもできる。
【0077】
また、上記実施形態においては、突当り部131は、貫通孔131aおよび有底穴131cをそれぞれ備えて構成した。これにより、突当り部131は、弾力性を調整することができる。このため、突当り部131は、必要な弾力性に応じて貫通孔131aおよび有底穴131cの形成数、形成位置または大きさを自由に設定することができる。しかし、突当り部131は、有底穴および貫通孔のうちの少なくも一方を備えて構成することで弾力性を調整することができる。また、突当り部131は、貫通孔131aおよび有底穴131cを用いなくても必要な弾力性を有しているなど貫通孔131aおよび有底穴131cが不要である場合には貫通孔131aおよび有底穴131cそれぞれ省略することができる。
【0078】
また、上記実施形態においては、突当り部131は、貫通孔131aにボルト132を貫通させて支持ベース130に取り付けた。しかし、突当り部131は、ボルト132以外の手法、例えば、接着剤または溶着などの手法を用いて支持ベース130に取り付けることができる。
【0079】
また、上記実施形態においては、突当り部131は、嵌合部131bを介して支持ベース130に取り付けた。これにより、突当り部131は、支持ベース130に対して正確な位置に取り付けることができるとともに取り付け後における位置ずれまたは破損を防止することができる。しかし、突当り部131は、嵌合部131bを省略して構成することでもできる。この場合、支持ベース130は、嵌合部130aは不要である。
【0080】
また、上記実施形態においては、直動ダンパー120は、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147をそれぞれ備えて構成した。これにより、直動ダンパー120は、相対変位体140が外力を受けて変位限界位置に達したときおよび相対変位体140が外力を受ける前の元の位置の変位限界位置に達したときの衝撃または外力を減衰することができる。すなわち、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147は、それぞれ本発明に係る変位限界規定部に相当する。しかしながら、直動ダンパー120は、第1変位限界規定部144および第2変位限界規定部147のうちの少なくとも一方を省略して構成することもできる。
【0081】
また、上記実施形態においては、直動ダンパー120は、体積変化補償装置153を備えて構成した。しかし、直動ダンパー120は、流体126の体積変化が無視できるのであれば体積変化補償装置153を省略して構成することができる。また、直動ダンパー120は、体積変化補償装置153を相対変位体140または内室形成体121の外側に設けることもできる。
【0082】
また、上記実施形態においては、直動ダンパー120は、相対変位体140をラックバー103および中間連結体105にそれぞれ連結して内室形成体121がラックハウジング104に接触または離隔するように構成した。しかし、直動ダンパー120は、内室形成体121をラックハウジング104に連結するとともに、相対変位体140に対してラックバー103または中間連結体105が接近または離隔するように構成することもできる。この場合、相対変位体140は、ラックバー103が貫通するように円筒状に形成するとともに、ラックバー103の往復変位によってラックバー103またはこのラックバー103に直接連結する中間連結体105の一部が接近して接触する部分に突当り部131を設けておく。
【0083】
また、上記実施形態においては、直動ダンパー120は、3つの第1流通制御弁127と1つの第2流通制御弁128とからなる4つの流通制御弁を備えて構成した。しかし、流通制御弁は、直動ダンパー120の仕様に応じた数および仕様が適宜設定されるものであることは当然である。また、流通制御弁は、内室形成体121に代えてまたは加えて相対変位体140に設けることもできる。
【0084】
また、上記実施形態においては、直動ダンパー120は、ウェーブワッシャからなる復帰用弾性体155を備えて構成した。しかし、復帰用弾性体155は、ウェーブワッシャ以外の弾性体、例えば、コイルスプリングなどで構成することもできる。また、直動ダンパー120は、相対変位体140に常時押圧する必要がない場合には、復帰用弾性体155を省略して構成することもできる。
【0085】
また、上記各実施形態においては、直動ダンパー120をステアリング装置100に適用した。しかし、直動ダンパー120は、ステアリング装置100以外の装置または器具、具体的には、扉の開閉機構、自走式車両以外の機械装置、電機装置、器具または家具に取り付けて用いることができる。
【符号の説明】
【0086】
100…ステアリング装置、101…ステアリングホイール、102…ステアリングシャフト、102a…ピニオンギア、103…ラックバー、103a…ラックギア、104…ラックハウジング、105…中間連結体、106…ラックエンド、107…スタッド体、107a…ボール部、108…ソケット体、108a…ソケット本体、108b…連結部、
110…タイロッド、111…ナックルアーム、112…車輪、
120…直動ダンパー、121…内室形成体、122…内周面、123…弁支持部、124…シールリング、125a…第1内室、125b…第2内室、126…流体、127…第1流通制御弁、128…第2流通制御弁、
130…支持ベース、130a…嵌合部、131…突当り部、131a…貫通孔、131b…嵌合部、131c…有底穴、132…ボルト、
140…相対変位体、141…内室対向部、142…第1内室形成壁、143…シールリング、144…第1変位限界規定部、145…第2内室形成壁、146…シールリング、147…第2変位限界規定部、148…ラックエンド連結部、149…ラックバー連結部、
150…補償装置収容部、151…内室連通路、152…大気連通路、153…体積変化補償装置、154…弾性体ホルダ、154a…受け部、155…復帰用弾性体。