(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】補強表面処理用コンパウンド
(51)【国際特許分類】
C04B 41/68 20060101AFI20250106BHJP
【FI】
C04B41/68
(21)【出願番号】P 2022506593
(86)(22)【出願日】2020-06-09
(86)【国際出願番号】 CZ2020000024
(87)【国際公開番号】W WO2021023318
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2023-05-31
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CZ
(73)【特許権者】
【識別番号】522006650
【氏名又は名称】ファースト ポイント エー.エス.
【氏名又は名称原語表記】FIRST POINT A.S.
【住所又は居所原語表記】Brnenska 4404/65a, 69501 Hodonin (CZ)
(74)【代理人】
【識別番号】100186060
【氏名又は名称】吉澤 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】100145458
【氏名又は名称】秋元 正哉
(72)【発明者】
【氏名】チャンドヴァ,ガブリエラ
(72)【発明者】
【氏名】スパニエル,ペトル
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-139568(JP,A)
【文献】特開2005-219980(JP,A)
【文献】特開2018-053096(JP,A)
【文献】特開平09-328638(JP,A)
【文献】特表2014-501804(JP,A)
【文献】国際公開第2016/088528(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/111768(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 41/00-41/72
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~10重量%のビス(γートリエトキシシリルプロピルシリルプロピル)テトラスルフィドと、
89.9~98重量%のケイ酸リチウム水溶液と、
0.1~1重量%の水ガラス安定剤と
、を含有することを特徴とする補強表面処理用コンパウンド。
【請求項2】
前記水ガラス安定剤が親水性アルコキシアルキルーアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の補強表面処理用コンパウンド。
【請求項3】
前記ケイ酸リチウム水溶液は、SiO2とLi2Oとのモル比が3.5~4.5であることを特徴とする請求項1または2に記載の補強表面処理用コンパウンド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表面を補強するためのコンパウンドに関し、特に、水ガラスを含有するコンクリート表面を防水補強するためのコンパウンドに関する。
【背景技術】
【0002】
既存の技術から、コンクリートは、結合材、充填剤、水、および混合物から構成される複合材料であることが知られている。最も一般的な種類のコンクリートは、結合材がセメントであり、充填剤が骨材であるセメントコンクリートである。さらに最も使用されるセメントのタイプはアスファルトコンクリートである。セメントの性質および使用は充填剤のタイプならびに結合材によって影響され、例えば耐熱セメントのためには、多量のアルミン酸塩を有するセメントを使用する。
【0003】
その機械的性質を改善するために、鉄補強材、ケーブル、ワイヤ、種々の繊維、例えばカーボンまたはガラスがコンクリートに添加される。また、軽量化したコンクリートは多孔質構造で製造され、混和材は石炭燃焼からのフライアッシュである。
【0004】
コンクリート構造物の耐久性の主な問題点は、進行中のアルカリ-シリカ反応である。これは、アルカリ性の酸化ナトリウムおよび酸化カリウムを含有するコンクリート溶液、水酸化カルシウムからの水酸化物イオンおよびシリカ(それらはコンクリートのための天然および人工骨材の両方を形成する)の間の一連の望ましくない事象である。シリカは存在するセメントからの親水性水酸化物イオンおよび金属カチオンの影響下で溶解および分解し、その後、ポリ金属ケイ酸塩、mCaO.nSiO2.pH2O,mCaO.nAl2O3.pH2O、mCaO.nFe2O3.pH2Oなどから吸湿性多孔質ゲルを形成し、これは湿潤環境で水を吸着し、膨潤することができる。これによりコンクリート中に応力を引き起こし、コンクリートの表面上にアルカリ-ケイ酸塩ゲルの軽量コーティングの形成、亀裂、表面剥離、砕け、および全体的な崩壊をもたらす。
【0005】
コンクリートの耐久性を延ばし、腐食を減らすために、多くの方法が用いられている。例えば、水分がコンクリートに浸透して、コンクリート中のアルカリ、骨材中のシリカ、および水ガラスに基づく水との間での化学反応を引き起こすことを防止するコンクリート補強剤を使用することができる。通常のナトリウムやカリウム水ガラスを使う人もいる。しかしながら、それらは完全に不適切であり、その理由は極めて反対のナトリウムおよびカリウムカチオンが吸湿性ゲルの形成に関与し、その形成を促進するからである。さらに、ナトリウムおよびカリウムカチオンは大きく、密封表面に均一に浸透することができない。ゲル形成と内部圧力のこの不均衡は、分解プロセス全体を強める。ナトリウムおよびカリウム硬化剤は水に非常に高い溶解性を有し、それを吸収し、その結果、アルカリ-シリカ反応が再び促進される。
【0006】
他の使用されるコンクリート保存剤の中ではアルコキシシランが挙げられる。これらは、コンクリート中への水および塩化物の浸透を防止する透明な疎水性調製物である。これがコンクリートの腐食を解消する。例としては、メチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、ドデシルトリメトキシシラン、およびエトキシシランなどから誘導される類似化合物である。
【0007】
ロシア特許文献RU2544854からプラスターおよびコンクリート用断熱コーティングが知られており、スチレンアクリレート分散物と、ジエチレングリコールと、揮発油とを含有し、このコンパウンドは非常に引火性が高く、毒性があり、環境に優しくない。欠点は、コーティングが防水性ではなく、したがって、外壁などに使用できないことである。これはコンクリート表面に薄膜を形成し、ある深さまでは作用しない。
【0008】
さらなる中国特許文献CN109321074から、少量の水ガラスを含有し、その主成分が有毒なアクリロニトリルである建築材料用の防水コーティングが知られている。このコーティングの欠点は、有機的性質を有することと、熱的に不安定であること、また環境に優しくないことである。コンクリート表面に薄膜を形成し、ある深さまでは作用しない。
【0009】
水に対するコンクリートの処理用エポキシコーティングが、韓国特許文献KR101783331から知られている。このコーティングは、コンクリートの深さ方向における強化をせず、アルカリ-シリカ反応も妨げない表面フィルムとしてのみ作用する。
【0010】
ナトリウムおよびカリウムガラスに基づくコンクリート用の公知のコーティングが、チェコ特許出願CZ PV 1991-2211から知られている。上述のように、ナトリウムおよびカリウムガラスは、ナトリウムおよびカリウム原子が大きく、コンクリート構造に浸透することができず、破壊的プロセスを妨げないため、コンクリートコーティングには適していない。
【0011】
さらなる韓国特許文献KR 100820276から、ケイ酸カリウムおよびケイ酸リチウムのコンパウンドが知られている。このコンパウンドの欠点は、有毒なホウ酸が存在することである。
【0012】
韓国特許文献KR 100982229から、ケイ酸ナトリウムおよびケイ酸カリウムを含有するコンパウンドが知られている。このコンパウンドはさらに、10重量%までのリチウム化合物を含有する。このコーティングは、非常に効果的ではない。
【0013】
チェコ特許出願CZ PV 1996-3066から、コンクリート屋根用のコーティング、または場合によっては金属およびガラスが知られており、これは酸化ケイ素を有意に顕著な量で含有し、ならびに酸化ナトリウム、リチウム、カリウムおよび他の酸化物、主にアルミニウムおよび顔料を含有する。充填剤としては、層状ケイ酸塩、マイカを用い、スラグ、砂等を添加することができる。このコーティングの欠点は、それが処理された材料の表面にのみ作用することである。
【0014】
チェコ特許出願CZ PV 2000-2127から、セメント系、木材およびタイル用の防水フィルムの形成のためのコンパウンドが知られている。これは、水中の石灰、スクロースまたはグリセロールおよびメタケイ酸ナトリウムのコンパウンドである。不利な点は、このようにして形成された保護層の寿命が短いことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】ロシア特許第RU2544854号公報
【文献】中国特許第CN109321074号公報
【文献】韓国特許第KR101783331号公報
【文献】チェコ共和国特許出願明細書第CZ PV 1991-2211号公報
【文献】韓国特許第KR 100820276号公報
【文献】韓国特許第KR 100982229号公報
【文献】チェコ共和国特許出願明細書第CZ PV 1996-3066号公報
【文献】チェコ共和国特許出願明細書第CZ PV 2000-2127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記の現在の技術から、既知の現在の技術の主な欠点は、コンクリートの表面を処理するための既知の手段がコンクリートを保護せず、反対にしばしばその破壊を引き起こすことであることが明らかである。別の欠点は、既知の組成物が比較的短い耐用年数しか有さないことである。
【0017】
本発明の目的は処理されたコンクリート構造物の耐用年数を著しく延ばしながら、コンクリート構造物の表面だけでなくその内部にも作用するコンクリート処理コンパウンドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の欠点は大幅に取り除かれ、本発明の目的は補強表面処理用コンパウンド、特に水ガラスを含有するコンクリートの防水補強表面処理用コンパウンドによって達成され、本発明によれば、コンパウンドが、1~10重量%のビス(γートリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドと、89.9~98重量%のケイ酸リチウム水溶液と、0.1~1重量%の水ガラス安定剤とを含有することを特徴とする。このコンパウンドの利点は、コンクリート表面だけでなく、その内部構造も長期間保護することである。非常に有利なことは、シランを使用することであり、シランは最も好ましくはビス(γートリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドである。その疎水化機能に加えて、この有機硫化物は、リチウム水ガラスと組み合わせて、コンクリート基材と水ガラスとの間の架橋を形成する。各分子は、コンクリートおよび水ガラス粒子の両方と同時に反応する。利点は、ビス(γートリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドが2つのタイプの反応性官能基を含有する二官能性分子であることである。四硫化物基は、4個の硫黄原子の鎖である。4つの硫黄原子間のいわゆるジスルフィド結合が分解し、金属カチオン(リチウム)が遊離の硫黄原子に結合してチオラートを形成する。トリエトキシシリル基は加水分解に敏感であり、加水分解されたシロキシ基はシリカ粒子に結合し、架橋をもたらす。この添加剤は、リチウム水ガラス自体の全体的な挙動を根本的に変化させる。それは、コンクリートとの相互接続を増加させ、コンクリートの多孔質表面構造を十分に充填する。柔軟な固体不透過性フィルムがコンクリート表面上に形成される。コンクリートは光沢があるが滑らない。光沢のある表面は光をよく反射するため、部屋の照明の効果が増すと同時に、床の全体的な外観も向上する。
【0019】
有利には、水ガラス安定剤は親水性アルコキシアルキルーアンモニウム塩である。
【0020】
ケイ酸リチウム水溶液は、SiO2とLi2Oとのモル比が3.5~4.5の範囲内であることが有利である。
【0021】
本発明によるコンパウンドの主な利点はリチウム水ガラスを含有することであり、これは、コンクリート中で起こる実質的に全ての遅延プロセスを妨げる。それは、アルカリーシリカ反応、炭酸化および硫酸化、ならびに生物学的攻撃および軟水による浸出を防止する。同時に、硬化後にそれは材料を補強し、その低粘度のおかげで、コンクリートの接合部に浸透し、水の浸透を防止する。同時に、それは蒸気透過性であり、コンクリートからの残留水の蒸発を可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0022】
実施例1
【0023】
コンクリート表面の防水補強処理用コンパウンドは、1.3重量%のビス(γートリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドと、97.8重量%のケイ酸リチウム水溶液と、0.9重量%の水ガラス安定剤とを含有する。
【0024】
水ガラス安定剤は、N、N、N’、N’-テトラキス(2ーヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの98%水溶液の形態の親水性アルコキシアルキルーアンモニウム塩である。
【0025】
ケイ酸リチウム水溶液は、SiO2とLi2Oとのモル比が3.5である。
【0026】
得られたコンパウンドをコンクリート表面上に注ぐ。
【0027】
実施例2
【0028】
コンクリート表面の防水補強処理用コンパウンドは、1重量%のビス(γ-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドと、98重量%のケイ酸リチウム水溶液と、1重量%の水ガラス安定剤とを含有する。
【0029】
水ガラス安定剤は、N、N、N’、N’-テトラキス(2ーヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの98%水溶液の形態の親水性アルコキシアルキルーアンモニウム塩である。
【0030】
ケイ酸リチウム水溶液は、SiO2とLi2Oとのモル比が4.5である。
【0031】
得られたコンパウンドをコンクリート表面上に注ぐ。
【0032】
実施例3
【0033】
コンクリート表面の防水補強処理用コンパウンドは、10重量%のビス(γートリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィドと、89.9重量%のケイ酸リチウム水溶液と、0.1重量%の水ガラス安定剤とを含有する。
【0034】
水ガラス安定剤は、N、N、N’、N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミンの98%水溶液の形態の親水性アルコキシアルキルーアンモニウム塩である。
【0035】
ケイ酸リチウム水溶液は、SiO2とLi2Oとのモル比が4.03である。
【0036】
得られたコンパウンドをコンクリート表面上に注ぐ。
【産業上の利用可能性】
【0037】
補強表面処理用コンパウンドは特に、コンクリートの防水補強表面処理に使用することができるが、任意の表面処理、特にカルシウムを含有する建築材料にも使用することができる。