(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】高分子電解質複合体を含む、フルオロカーボンフリーかつ生物由来の油及び水バリア材料
(51)【国際特許分類】
D21H 19/12 20060101AFI20250106BHJP
D06M 15/01 20060101ALI20250106BHJP
D06M 15/03 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
D21H19/12
D06M15/01
D06M15/03
(21)【出願番号】P 2022523439
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 SE2020051003
(87)【国際公開番号】W WO2021086247
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2023-09-27
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】519058594
【氏名又は名称】オルガノクリック アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アイディン、ユハネス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンマン、マリア
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-526716(JP,A)
【文献】特表2019-526717(JP,A)
【文献】特表2019-532189(JP,A)
【文献】特開平09-239903(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119891(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第01918456(EP,A1)
【文献】米国特許第06060410(US,A)
【文献】国際公開第2010/037906(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0236582(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0293957(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
D06M 13/00 - 15/715
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとの高分子電解質複合体(PEC)、及び酸と塩基を有する緩衝系を含むpH調整剤、を含む少なくとも1つの組成物から形成される少なくとも2つの層によるバリアを備える、油及び水に対するバリアコーティングを有する繊維系材料であって、
第1のpH値を有する組成物で第1層が形成され、第2のpH値を有する組成物で第2層が形成されており、
前記2つの層によって、前記少なくとも1つの組成物の単層を備える同じ材料と比べて、油耐性及び水耐性の両方が向上している、前記繊維系材料。
【請求項2】
前記カチオン性バイオポリマーが、カチオン性デンプン(CS)及びキトサンから選択され、前記アニオン性バイオポリマーが、リグニンアルカリ、リグニンスルホン酸、又は多糖類(polysaccharide)のうちの少なくとも1つから選ば
れる、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記アニオン性バイオポリマーが、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸、ペクチン、カラゲナン(carrageenan)、アラビアゴム(gum arabic)、ヘミセルロース、及びナノ結晶性セルロース(NCC)から選択される、請求項2に記載の材料。
【請求項4】
前記2つの層が、CSとCMCとの高分子電解質複合体(PEC)を含む2種の組成物で形成される、請求項2に記載の材料。
【請求項5】
前記2種の組成物が、0.1~20%(重量/重量)のCMC及び0.1~20%のC
Sを含む、請求項
4に記載の材料。
【請求項6】
前記2種の組成物が、0.5~10%(重量/重量)のCMC及び0.5~20%のCSを含む、請求項4に記載の材料。
【請求項7】
前記緩衝系が、前記組成物に0.01~30%(重量/重量)の2~9のpHを許容する対応する酸-塩基ペアを供給する、請求項1に記載の材料。
【請求項8】
前記2種の組成物が、同じCS-CMC相対量を有するPECsを含む、請求項
4に記載の材料。
【請求項9】
層を形成する前記組成物の少なくとも1つが可塑剤を含み、前記可塑剤はポリオール型可塑剤である、請求項1に記載の材料。
【請求項10】
前記バリアの、T 999 pm-96に沿って測定したKITの値が5以上であり、ISO 536:191(E)に沿って測定したCOBB60の値が50以下である、請求項
1に記載の材料。
【請求項11】
前記第1層が前記バリアにおける内側の層であり、前記第2層が前記バリアにおける外側の層である、請求項1に記載の材料。
【請求項12】
カチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとの高分子電解質複合体(PEC)を含む第1の組成物を用いて第1層を材料に付与するステップ、
任意で(optionally)15~90℃の温度で材料を乾燥するステップ、
第1層上に、第2の組成物を用いて第2層を付与するステップ、及び、
15~90℃の温度で材料を硬化させるステップ、
を含む、請求項1~
11のいずれか1項に記載の材料を製造する方法。
【請求項13】
前記硬化が20℃~200℃で行われる、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の組成物が前記第2の組成物とは異なるpH値を有する、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記第1の組成物が前記第2の組成物よりも高いpH値を有する、請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、繊維系材料上にバリアを形成することが可能な、アニオン性バイオポリマー及びカチオン性バイオポリマーの高分子電解質複合体(polyelectrolytes complexes)(PECs)を含む組成物に関わる。
【背景技術】
【0002】
例えば、包装紙用の紙などの繊維系材料上における油及び水に対する抵抗性を高める(油及び水に対するバリアを形成する)ためには、それらを別のポリマー性材料でコートすることがよく行われる。現在、ポリエチレンなどの化石材料から作られるポリマーがもっぱら使われている。ある場合には、アルミニウムホイルにプラスチックを組み合わせてより強いバリアを得ることも行われている。フルオロカーボンもまた、撥油撥水性の繊維状の材料を作成する上で非常に効率の良い化学品であるが、より多くのフッ化化合物が、その毒性及び生体蓄積性のため、世界中で禁止されてきている。現在、特に包装/紙産業は、毒性がなく、生物由来で、生分解性という条件に合う、新たな、油及び水へのバリアを形成する持続可能な解決法(solutions)を求めている。
【0003】
生物由来の材料に対する注目及び需要が増すにつれて、化石材料によるバリアの代替品の発見への興味も増している。食品産業においては、包装材の再利用可能性について特に注目されているため、従来のバリアに代わる生物由来の代替品を見つけることは特に重要である。さらに、包装産業においては、使い捨て品については堆肥化可能性が重要な課題であるため、生分解性バリアへの需要がある。
【0004】
PECsは、例えばポリマー-ポリマー、ポリマー-薬物、ポリマー-薬物-ポリマーなどの、反対に帯電した粒子同士によって形成される会合複合体である。これらの複合体は、反対に帯電した粒子同士の静電気相互作用によって形成され、それゆえに化学的な架橋剤の使用を避けている。高分子電解質(polyelectrolytes)は、その起源に基づいて、天然、合成、及び化学修飾されたバイオポリマーに分類される。
【0005】
国際公開第2015/119891号は、例えばコートされた物品の粘着性の抗力(drag)を減らすための、粗いコーティングを形成する方法を記載している。コーティングは、1種以上のカチオン性高分子電解質と1種以上のアニオン性高分子電解質との高分子電解質複合体を含む。しかしながら、この文献に記載のコーティングは、油及び水に対するバリアとはみなされない。
【0006】
Schnell,C.他「Films from xylan/chitosan complexes: preparation and characterization」Cellulose,2017,vol.24,4393~4403ページ、は、キシラン及びキトサンを含むカチオン性高分子電解質複合体で形成されるバリアを開示している。開示されているバリアは、水蒸気及び酸素に対するバリア性を示している。しかしながら、油などの脂質性の化合物に対するバリア性も示すバリア組成物を提供すれば、有利であると考えられる。
【0007】
米国特許第8,747,955号は、合成ポリアクリレートとポリ酸などの、アニオン性ポリマーとカチオン性ポリマーとからなる高分子電解質複合体を含むコーティングによって、脂質バリア性のある食品包装物を製造する方法を開示している。しかしながら、高分子電解質組成物から同様に有用なバリアコーティングを形成することが可能な適切な生物由来の材料を発見することが有利であると考えられる。
【0008】
国際公開第2018/038671号は、反対に帯電した生物由来のポリマーからなる高分子電解質複合体の組成物を開示しており、それは、繊維系材料、繊維製品(textiles)、織性又は不織性材料のバインダーとして有用であり、材料の強度の向上をもたらすものである。
【0009】
Chi,K & Catchmark,M「Improved eco-friendly barrier materials based on crystalline nanocellulose/chitosan/carboxymethyl cellulose polyelectrolyte complexes」Food Hydrocolloids,2018,vol.80,195~205ページ、は、油及び水に対する単層バリアコーティングを有する繊維系材料を開示している。前記バリアは、カチオン性バイオポリマー及びアニオン性バイオポリマーから形成される高分子電解質複合体の組成物から形成されている。
【0010】
生物由来の荷電ポリマーに由来するPEC組成物をさらに開発して、この目的に限られるものではないが特に食品を保護するという目的のために、脂質、グリース、若しくは油と、水系材料との両方に対する生分解性繊維材料による制御されたバリアを得るのに用いることができる組成物を得ることは、望ましいであろう。当業者にとって、撥水撥油性バリア材料は、該当する状況においては撥汚れ(dirt)にも有用であることは、通常の知識から明らかである。さらに、これらの種類のバリア材料により、酸素バリアの増加が実現することが理解される。
【0011】
多くの理由で、油及び水に対する持続可能で効率の高いバリアを作製するためには、デンプンを用いること、特にカチオン性のデンプンを用いることが望ましい。以下に示す本発明は、高分子電解質複合体(PEC)が、さまざまな状況において、カチオン性及びアニオン性ポリマーからの相乗効果をもたらすという全般的な見識によるものである。
【発明の概要】
【0012】
油性の製品と水若しくは水性の製品との両方に対して有用なバリア構造を形成するために、親水性バイオ材料を用いることが、本発明の全般的な目的である。
【0013】
本発明の目的の1つは、繊維系材料の上にいくつかの(several)層を形成することが可能であり、それらの層により油及び水に対する材料のバリア能を向上させるようにそれらの層が相乗的に働くことが可能な、親水性バイオ材料の組成物を提供することである。
【0014】
本発明の特定の目的は、食品と接触しての使用が一般に認められている成分及び添加剤のみを含むカチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとによる生分解性高分子電解質複合体の組成物による油及び水に対するバリアを有する繊維系材料を提供することである。
【0015】
また、熱シーリング性を依然として制御しつつも、付与されたバリアの制御された粘着性、またそれによるバリアの分解又は溶解に対する高い耐性を有する、油及び水に対するバリアを得ることも、本発明の目的の一つである。
【0016】
一つの、一般的である、第1の態様(aspect)において、本発明は、油及び水に対するバリアコーティングを伴う繊維系材料に関わるものであり、前記材料は、カチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとの高分子電解質複合体(PEC)を含む少なくとも1つの組成物から形成される少なくとも2層による(from)バリアを備えるものとして提供される。2層の存在は相乗的なものであり、前記少なくとも1つの組成物の単層を備える同じ材料と比較して、耐油性及び耐水性の両方の向上をもたらすものである。好ましくは、前記の2層のそれぞれは、前記少なくとも1つの組成物から前記繊維系材料に対して付与する際に、前記少なくとも1つの組成物の単層が適用された場合の付加量(add-on)よりも、低い付加量(add-on)(g/m2単位で)を有する。
【0017】
本態様における改善(improvement)という語の意味は、材料について、油及び水への耐性の増加が顕著であり、油についてはT 999pm-96に沿ったKIT試験、及び水についてはISO 536:191(E)に沿ったCOBB法などの、標準的な試験で観測できる、ということである。
【0018】
本願での意味によれば、繊維系材料は、様々な種類の紙、板紙(paperboard)、段ボール(corrugated board)、包装紙、その他の特殊紙、容器、成型されたパルプ又は他の用途、厚紙(cardboard)、布地、並びに織物材料及び不織材料に含まれる、セルロースの繊維、ポリマー繊維及びその混合物などの、合成繊維又はバイオ繊維を全般的に含んでもよく、前記不織材料としては、エアレイド(airlaid)不織布、ドライレイド(drylaid)不織布、スパンボンド(spunbond)不織布、スパンレース(spunlace)不織布、ウエットレース(wetlace)不織布、メルトブローン(meltblown)不織布及びウェットレイド(wetlaid)不織布が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0019】
本発明の文意において、油又はグリースバリアとは、油、グリース、脂肪、あるいはその他の親油剤又は有機溶剤に対する材料の撥き(repellency)又は抗ウィッキング(antiwicking)性、例えば、KIT試験により一般的に用いられている前記性質、を意味する。多くのそのような試験が、例えば応用紙技術における当業者には周知であり、非限定的な例として、グリース耐性についてのTAPPI T559がある。
【0020】
本発明の一つの態様において、少なくとも1つの組成物のPECは、カチオン性デンプン(CS)及び/又はキトサンから選ばれるカチオン性バイオポリマー、及び、リグニンアルカリ、リグニンスルホン酸、又は多糖類(polysaccharide)のうち少なくとも1つから、特に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸、ペクチン、カラゲナン(carrageenan)、アラビアゴム(gum arabic)、ヘミセルロース、キサンタンガム(xanthan gum)、及び、ナノ結晶性セルロース(NCC)から選ばれるアニオン性バイオポリマーを含むものであり、この場合、アルギン酸及びリグニンスルホン酸は、ナトリウム塩として存在していることが好ましい。
【0021】
本発明の一つの態様において、前記材料は、CSとCMCとの高分子電解質複合体(PEC)を含む2種の組成物から形成される2層を含むバリアを含んでいる。前記2種の組成物は、CMCを0.1~20%(重量/重量)、及び、CSを0.1~20%含むことができ、好ましくは、CMCを0.5~10%(重量/重量)、及び、CSを0.5~20%含む。
【0022】
本発明の一つの態様において、多層バリアの少なくとも1つの組成物は、指定のpH値を有し、酸、緩衝系、及び塩基からなるpH調整剤を含む。本態様によれば、前記酸は、有機酸及び無機酸のうち1つ又は複数である。前記有機酸は、酢酸、アセチルサリチル酸、アジピン酸、アスコルビン酸、アスパラギン酸、ベンゼンスルホン酸、カンファースルホン酸、クエン酸、ジヒドロキシフマル酸、エタンスルホン酸(esylic acid)、ギ酸、グリコール酸、グルタミン酸、グリオキシル酸、塩酸、乳酸、リンゴ酸、マロン酸、マレイン酸、マンデル酸、メシル酸、シュウ酸、パラ-トルエンスルホン酸、ペンタン酸、フタル酸、プロピオン酸、ピルビン酸、サリチル酸、硫酸、酒石酸、トリフル(triflic)酸、任意のアミノ酸、レブリン酸、及びコハク酸のうち1つ又は複数から選ばれる。前記無機酸は、例えば、ハロゲン化水素:塩酸(HCl)、臭化水素酸(HBr)、ヨウ化水素酸(HI)、又はハロゲンオキソ酸:次亜塩素酸、塩素酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、並びに臭素及びヨウ素についての対応する化合物のうち任意のものから選ばれる、又は硫酸(H2SO4)、スルファミン酸、フルオロ硫酸、硝酸(HNO3)、リン酸(H3PO4)、フルオロアンチモン酸、フルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、クロム酸(H2CrO4)、又はホウ酸(H3BO3)のうち任意のものから選ばれる鉱酸である。好ましくは、前記酸は、層を構成する組成物中に0.01~30%(重量/重量)の量で存在しており、好ましくは、前記酸は、クエン酸、乳酸、シュウ酸、及び酒石酸から選択され、より好ましくは、前記酸は、5~15%(重量/重量)のクエン酸及び/又は乳酸である。前記酸は好ましくは2~4のpHをもたらす。
【0023】
本発明の前記態様におけるpH調整剤は、緩衝系であってもよく、そのため少なくとも1つの組成物は、0.01~30%(重量/重量)の酸-塩基ペアを含み、好ましくは対応する酸-塩基ペアは2と9の間のpHを許容し、より好ましくは前記酸-塩基ペアは1~15%(重量/重量)である。ある実施形態において、前記組成物は、クエン酸を1~10%(重量/重量)及び三塩基性クエン酸を1~10%(重量/重量)含んでおり、それらを同量含むことが好ましい。
【0024】
本発明の前記態様におけるpH調整剤は、代替として塩基でもよく、前記塩基は炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)が好ましく、8~9のpH値を与えることが好ましい。
【0025】
本発明の一つの態様において、前記2種の組成物は、同じCS-CMC相対量を有するPECsを含む、すなわち、CS及びCMCは、2種の組成物内で同じパーセント(重量)で存在している。
【0026】
本発明の一つの態様において、多層バリアの組成物のうち少なくとも1つは、可塑剤を含み、好ましくは前記可塑剤はポリオール型の可塑剤であり、より好ましくは前記可塑剤は1~20%(重量/重量)の量で存在するグリセロール及び/又はソルビトールである。
【0027】
本発明の一つの態様において、多層バリアの組成物のうち少なくとも1つは、アンモニウムジルコニウムカーボネート;保存剤;消泡剤;発泡剤;湿潤剤;合一剤(coalescent agents);触媒;界面活性剤;乳化剤;架橋剤;エピクロロヒドリンなどの湿潤強度添加剤(wet strength additives);レオロジー調節剤;フィラー;非イオン性ポリマー;染料及び顔料、から選ばれる添加剤を含む。
【0028】
本発明の一つの態様において、前記材料は、T 999 pm-96に沿って測定したKIT値が5以上であり、ISO 536:191(E)に沿って測定したCOBB60の値が50以下である、少なくとも2つの付与された層によるバリアを有する。
【0029】
本発明の一つの態様において、前記材料は、第1の層が第1のpH値を有する組成物からなり、第2の層が第2のpH値を有する組成物からなるバリアを有し、好ましくは、第2の層は、第1の層を形成する組成物よりも低いpH値を有する組成物からなる。一つの実施形態において、第1層用の組成物は上記の概要説明に係る緩衝系を含み、第2層用の組成物は上記の概要説明に係る酸を含む。また別の特定実施形態において、第1層は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び緩衝系を含み、pH値が3~6である組成物から形成されており、前記緩衝系は、クエン酸及びクエン酸の対応カルボキシレート、及び乳酸及び乳酸の対応カルボキシレートから選択される酸-塩基対を含み、第2層は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、並びに、クエン酸及び乳酸から選ばれる酸を含み、pH値が2~3である組成物から形成されている。第1層及び第2層は、例えば、同じCS-CMC相対量(重量/重量)を有する2種の組成物から形成されている。この実施形態における一つの例において、第1層を形成する組成物は、5~15%(重量/重量)のクエン酸及び三塩基性クエン酸を含み、第2層を形成する組成物は、5~15%(重量/重量)のクエン酸を含む。この実施形態において、第1層はバリアにおける内側の層であり、第2層はバリアにおける外側の層であることが好ましい。
【0030】
本発明の一つの態様において、少なくとも一つの組成物のPECは1以下の電荷比(charge ratio)を有する。電荷比は、カチオン性及びアニオン性バイオポリマーから形成されるPECの総体的な電荷を表し、本明細書における例示部分でさらに定義されるものである。
【0031】
本発明の他の態様において、少なくとも一つの組成物におけるPECの電荷比は、約1あるいは1より大きい。当業者は、PECの中性に近い正味電荷又はアニオン性電荷を得るように、カチオン性バイオポリマー及びイオン性バイオポリマーの関係性を選択することができる。例えば、アニオン性バイオポリマーCMCの濃度は、例としてCSが挙げられるカチオン性バイオポリマーとの関係で増加させることができる。また、得られるPECsの電荷比を制御するために、様々な電荷密度を有する様々なブランドのカチオン性バイオポリマーを選択することも可能と考えられる。以下の本発明についての詳細及び例示部分は、当業者に対して、本発明のPEC組成物の電荷密度を制御するためのさらなるガイダンスを与えるものである。
【0032】
本発明の一つの態様において、前記材料は、カチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとの高分子電解質複合体(polyelectrolytes complex:PEC)を含む少なくとも1つの組成物からなる少なくとも1つの層、及び、アミノ官能性シロキサンを含む少なくとも1つの層、又は、ワックスなどの疎水剤を含む層、を含むバリアを有する。アミノ官能性シロキサンを含む層を形成するのに適した組成物は、国際公開第2018/048342号(参照により本願に取り込まれる)に開示されている乳化組成物であり、該乳化組成物には従来の層形成用添加剤を任意で(optionally)添加できる。国際公開第2018/038670号(参照により本願に取り込まれる)には、疎水性材料を含む層のための、アミノ官能基を有するシロキサン、加水分解性のアルキルシラン及び水を含む好適な酸性乳化組成物が見られる。そのような組成物は、電荷比が1以下のカチオン性バイオポリマー及びアニオン性バイオポリマーによるPECs、並びに、油、ワックス及びその他の脂質又は疎水剤から選ばれる1種又は複数種の脂質性(fatty)化合物を含む。この態様(aspect)における一つの実施形態において、前記材料は、上記の任意の箇所に概説した2層、及びここで記載したアミノ官能性シロキサンを含む追加的層、又は疎水剤を含む層、を有するバリアを含む。
【0033】
また別の態様によれば、本発明は、油及び水に耐性のバリアコーティングを得るのに使用するための、繊維系材料への付与(application)用の水性の高分子電解質(PEC)組成物に関わるものであり、前記組成物は、(a)電荷比が1以下のPECsを与える、0.1~20%(重量/重量)のCMC、及び0.1~20%のCS、好ましくは、0.5~10%(重量/重量)のCMC、及び0.5~20%のCS、(b)1~20%(重量/重量)の可塑剤、好ましくはソルビトール、及び、(c)1~15%(重量/重量)の酸、緩衝系、及び塩基から選ばれるpH調整剤、からなる。
【0034】
一つの実施形態において、前記組成物は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び1~15%(重量/重量)の、酸-塩基ペアからなる緩衝系を含み、好ましくは、対応する酸-塩基ペアは有機酸由来であり、より好ましくは、前記緩衝系は、クエン酸/クエン酸の対応するカルボキシレート、及び乳酸/乳酸の対応するカルボキシレート、から選ばれる。好ましくは、前記組成物のpHは3~6である。また、好ましくは、前記組成物は、等量(重量/重量)のクエン酸と三塩基性クエン酸を含む。
【0035】
また別の実施形態において、前記組成物は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び組成物のpHを1~3にする有機又は無機の酸を含み、好ましくは、前記酸は0.01~30%(重量/重量)の量で存在し、より好ましくは、前記酸は、クエン酸、乳酸、シュウ酸及び酒石酸から選ばれ、より好ましくは、前記酸は5~15%(重量/重量)のクエン酸及び/又は乳酸である。
【0036】
さらに別の実施形態において、前記組成物は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び組成物のpHを8~9にする塩基を含み、好ましくは、前記塩基は炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)である。
【0037】
上記具体的に示した組成物は、さらに、アンモニウムジルコニウムカーボネート;保存剤;消泡剤;発泡剤;湿潤剤;合一剤(coalescent agents);触媒;界面活性剤;乳化剤;架橋剤;レオロジー調節剤;フィラー;非イオン性ポリマー;染料及び顔料、から選ばれる添加剤を含むことができる。
【0038】
さらに本発明の別の態様は、(a)電荷比が1以下のPECsを与える、0.1~20%(重量/重量)のCMC、及び0.1~20%のCS、好ましくは、0.5~10%(重量/重量)のCMC、及び5~20%のCS、(b)1~20%(重量/重量)の可塑剤、好ましくはソルビトール、及び、(c)1~15%(重量/重量)の酸、緩衝系、及び塩基から選ばれるpH調整剤、を含む少なくとも2種の組成物を有するキットに関わる。前記キットは、繊維系材料上にバリアを形成するために有用であり、油及び水に耐性のバリアコーティングを得るために有用であって、緩衝系を有する第1の組成物を含む第1の区画(compartment)、及び第1の組成物よりも低いpHである、酸を含む第2の組成物を有する第2の区画(compartment)を含む。前記第1の組成物は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び1~15%(重量/重量)の酸-塩基ペアからなる緩衝系、を含み、好ましくは、対応する酸-塩基ペアは有機酸由来であり、より好ましくは、前記緩衝系は、クエン酸/クエン酸の対応するカルボキシレート、及び乳酸/乳酸の対応するカルボキシレート、から選ばれ、さらに好ましくは、前記組成物は、等量(重量/重量)のクエン酸と三塩基性クエン酸を含み、3~6のpHを有する。前記第2の組成物は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び組成物のpHを1~3にする有機又は無機の酸を含み、好ましくは、前記酸は0.01~30%(重量/重量)の量で存在し、好ましくは、前記酸は、クエン酸、乳酸、シュウ酸及び酒石酸から選ばれ、より好ましくは、前記酸は5~15%(重量/重量)のクエン酸及び/又は乳酸である。
【0039】
本発明による前記少なくとも2種の組成物を有するキットは、通常、改善されたバリアを有する本発明の材料を製造するため、輸送時及び保管時に組成物を別々のままに維持するために、及び組成物の簡便な産業上の適用を支持するために、組立てられている。この目的で、前記組成物は、キットの別々の区画(compartments)中に別々に保管されており、該区画は、当業者に入手可能な従来の又は適切な別個の容器であってもよい。また、前記キットは、明細書中の以下の部分に概説されている用途及び製造法をサポートするために、ユーザーズマニュアルを含んでいてもよい。
【0040】
さらに別の態様においては、本発明は、上記に開示したいずれかの態様(aspect)又は実施形態に記載の材料を製造する方法に関わり、該方法は、カチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとの高分子電解質複合体(PEC)を含む組成物を用いて材料に第1層を付与するステップ、任意で(optionally)15~90℃の温度で実質的に乾燥状態になる(essentially dry)まで材料を乾燥するステップ、続いて第2の組成物又は再度同じ組成物を用いて第1層上に第2層を付与するステップ、及び、任意で(optionally)材料を硬化させるステップ、を含む。一つの実施形態において、硬化は20℃~200℃で、より好ましくは50℃~200℃で、最も好ましくは90℃~180℃で行われる。
【0041】
前記方法は、以下のプロセス技術のうちの少なくとも1つによって、第1及び第2の組成物を付与することによって、行われる;スプレーイング、ロールコーティング;フーラードコーティング(foulard coating);ディップコーティング;スクリーンコーティング;パディング(padding)、含侵(impregnation)、又はサイズプレスを用いること;ナイフコーティング、ブレードコーティング、ワイヤー巻きバーコーティング、ラウンドバーコーティング及びクラッシュドフォームコーティング(crushed foam coating)などの直接コーティング法;メーヤロッドコーティング(mayer rod coating)、ダイレクトロールコーティング、キスコーティング(kiss coating)、グラビアコーティング、及びリバースロールコーティングなどの間接コーティング法;好ましくは、前記付与はロールコーティング又はフーラードコーティングによって行われる。
【0042】
本発明の一つの実施形態において、前記方法が行われる際に、付与される第2の組成物は第1の組成物と同じである。
【0043】
本発明の別の実施形態において、第1の組成物は第2の組成物とは異なるpH値を有する。好ましくは、第1の組成物のpHは第2の組成物よりも高い。また好ましくは、第1の組成物は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び1~15%(重量/重量)の酸-塩基ペアからなる緩衝系を含み、好ましくは、対応する酸-塩基ペアは有機酸由来であり、より好ましくは、前記緩衝系は、クエン酸/クエン酸の対応するカルボキシレート、及び乳酸/乳酸の対応するカルボキシレート、から選ばれ、さらに好ましくは、前記組成物は、等量(重量/重量)のクエン酸と三塩基性クエン酸を含み、3~6のpHを有する。また好ましくは、前記第2の組成物は、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び組成物のpHを1~3にする有機又は無機の酸を含み、好ましくは、前記酸は0.01~30%(重量/重量)の量で存在し、好ましくは、前記酸は、クエン酸、乳酸、シュウ酸及び酒石酸から選ばれ、より好ましくは、前記酸は5~15%(重量/重量)のクエン酸及び/又は乳酸である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
手法、装置、化学薬品および 処方
【0045】
実験で使用した装置:
・pHは、Hamilton Polilyte Lab Temp BNC電極(pH4、7及び10の緩衝液にて校正)を有するVWR社のpHenomenal pH1000Hを用いて測定した。
・粒子の電荷は、Mutek PCD 02デバイスを用いて測定した。
・調製物及びパルプ懸濁液の攪拌は、IKA社のオーバーヘッド型撹拌機(Eurostar digital IKA-Werke 又はIKA RW28 basicのいずれか)を、プロペラ撹拌子とともに使用して行った。
・調製物の均質化は、IKA T25 digital Ultra-Turraxを用いて行った。
・材料への塗布は、鉄製のロッドを用いたベンチコーター(「コーター」と称する)、又はWichelhaus WI-MU 505 A水平パッダー(「パッダー」と称する)を用いて行った。
・重量測定は、XT 220A Precica swissmade balanceを用いて行った。
【0046】
方法:
[方法1] 固形分(Solid content:SC)
粉体5g又は調製物10gをアルミニウムのカップに入れて、105℃のオーブン中に一晩置いた。固形分は式(4)を用いて算出した。
【数1】
ここで、W
0はカップの重量、
W
1は元々の試料の重量、
W
2はカップと最終的な試料の重量。
【0047】
[方法2] 電荷密度及び電荷比
電荷密度は、Mutek PCD 02デバイスを用いて測定した。電荷(記号:q、単位:meqv)は式(1)を用いて算出した。
【数2】
ここで、カウンターイオンは、コロイドの電荷に応じて、ポリエチレンサルフェートナトリウム(PES-Na,アニオン性)又はポリジアリルジメチルアンモニウム塩化物(poly-dadmac,カチオン性)のいずれかである。もし、現コロイドの質量に対して様々な濃度の電荷がプロットされる場合は、電荷密度(単位:meqv/g)は、線形カーブの勾配である。コロイドの質量は、式(2)を用いて算出できる。
【数3】
すべての電荷密度は、完全乾燥物(totally dry matter)について算出する。1つのポリカチオン(例えばカチオン性デンプン)及び1つのポリアニオン(例えばカルボキシメチルセルロース)についての電荷密度が既知の場合、電荷比は、複合体の総体的電荷が正(positive)(すなわち、電荷比<1)になるように、高分子電解質間で計算される。式(3)を参照。
【数4】
【0048】
[方法3] 調製物の調製
カチオン性デンプンは、殺生物剤の存在下で均質機にて60~70℃で水に溶解させた、又は予備加熱済み(pre-cooked)のデンプン濃縮物として用いた。溶解したカチオン性デンプンにCMCを加えて、均質機で溶解させた。添加剤を用いる場合には、それらは最終ステップで添加されて混合された。
【0049】
[方法4] ロールによる紙への塗布
材料のシートに対して、円柱状の鉄製ロッドを用いて組成物を手動で付加した。処理後の紙は、150℃のオーブンで2~3分間乾燥させた。
【0050】
[方法5] KIT試験/T 599 pm-96
T 559 pm-96に沿って、紙及び板紙のグリース耐性試験を測定し、ランクは1(悪いバリア)から12(可能な最高のバリア)とした。
【0051】
[方法6] COBB method/ISO 536:191(E)
60秒間又は1800秒間の水の吸収(COBB60又はCOBB1800)は、ISO 536:191(E)に沿って測定した。
【0052】
[方法7] パッダーを用いた紙の含浸
調製物をパッダーのロールの間に注ぎ、圧力は0.1MPa、速度は11.6rpmに設定した。処理後の紙は、150℃のオーブンで2~3分間乾燥させた。
【0053】
[方法8] スプレーテスト
布の表面濡れに対する耐性の測定(スプレーテスト):欧州規格 EN 24 920(ISO 4920:1981)。原則:リング上に据え付けた繊維品試料(a textile specimen)上に指定量の水をスプレーする。試料は、ノズルに対して45°の角度に配置される。標準化されたノズルの中心が試料の中心から所定距離に配置される。所定量の水が、ノズル上方に配置され、且つノズルと連通している貯留容器に注入される。スプレーのレーティングは目視または写真によって測定される。ISO 1~5の段階的なスプレーレーティングは、試料50~100%が濡れに抵抗したことに相当する。
【0054】
化学薬品、材料及び組成物:
実験で用いた化学薬品を表1及び2に挙げる。
【表1】
【表2】
【0055】
実験で用いた紙及び板紙を表3及び4に挙げる。
【表3】
【表4】
【0056】
実験で用いた組成物を表5に挙げる。表5の組成物におけるバイオポリマーの重量パーセントは、表1におけるそれぞれの固形分を考慮して算出している。表5において、CS及びCMCが単独で参考として用いられている場合は常に、その処方は、少量の殺生物剤とともに10~15重量%のバイオポリマーを水道水に溶解させたものを基本としている。
【表5】
【0057】
[本発明の実施例]
実施例1.PECと比較したバイオポリマーのみのバリア性能比較試験
カチオン性デンプン及びカルボキシメチルセルロースのそれぞれがバリア性能をもたらすか否か、またその性能はそれらを組み合わせてPECとした場合と比べてどのようなものか、ということを解明にするために、以下の試験を行った。タイプ2の紙を方法4に沿ってコーティングした。2つの層が付与され、結果を表6に示す。
【表6】
【0058】
実施例2.層数の重要性
タイプ2の紙を、1層及び高付加量(high add-on)、又は12.5g/m2若しくは14.2g/m2を有する2層で、方法4に沿って組成物8でコーティングした。表7を参照せよ。
【表7】
【0059】
この結果は、性能が付加量に依存することのみならず、十分な付加量の2層を付加することが、1層の場合と比べて、KIT数により示される高いグリース耐性を達成するために非常に有利であることを強調している。
【0060】
実施例3.様々な電荷のPEC組成物の付与
PECは様々な電荷を有することができるので、種々の電荷がグリース耐性に対してどのような効果を有するのかを評価することにした。表8を参照せよ。タイプ2の紙に方法4に沿って各組成物の2層を付与した。その後、KIT値を方法5を用いて記録した。
【表8】
【0061】
実施例4.異なるPEC組成物層の組み合わせ
カチオン性デンプンを含むいくつかの組成物は、対象材料に粘着性の/べとつく表面を与えるが、このことが求められる場合も求められない場合もある。本実施例では、粘着性を減らし、かつKIT値及び/又はCOBB値を向上させるために、第1層及び第2層にどのような異なる組成物を選択すればよいか、ということを示す。塗布方法4がタイプ2の紙に対して適用された。結果は表9に見られる。OC-Biobinder 5401と称する、より疎水性の高い市販のバインダーを、本発明の組成物1と組み合わせるために選択した。
【表9】
【0062】
付与の順序が、処理後の材料の粘着性/べとつき、COBB及びKIT値に影響すると結論づけられる。求められる材料特性に応じて付加の順序を選択することができる。
【0063】
実施例5.KIT及びCOBB値に対する可塑剤を添加することの効果
炭水化物系のポリマーは、構造的に剛性であることが知られており、それゆえに、処理後の材料の手触りや外観も剛性であると予測される。処理後の材料の折り畳み特性を向上させ、こわさを抑制し、乾燥後の紙のしわを抑制し、バリアコーティングの柔らかさを増加させるために、通常の生物由来の可塑剤を使用して、その量を最適化した。表10を参照せよ。タイプ2の紙を、表10に指定される組成物で方法4によってコーティングした。
【表10】
【0064】
バリアコーティングに対する柔軟化の効果に加えて、ある量のソルビトールは、処理後の材料のKIT及びCOBBの値に好ましい影響を与えることがわかった。
【0065】
実施例6.異なったpHのバリア特性への効果
添加剤としてpH調整剤(酸及び塩基)を用いて、KITバリア特性を維持したまま粘着性を制御することができるかを見るために、試験を行った。表11に示すように、グレード2の紙を、方法4によって2層でコーティングした。表11を参照せよ。
【表11】
【0066】
元の組成物と比べて低いpHに調整された調製物で処理された紙は、元の組成物と比べて高いpHに調整された組成物に対して、粘着性がずっと低いことがわかる。粘着性は、例えば熱シールプロセスのように、いくつかの場合においては重要な特徴である。
【0067】
組成物6にクエン酸一水和物を加えた際に、もう一点観察されたことは、調製物に水が加えられたときにPEC組成物が大きな沈殿物を形成しなかったという意味で、希釈性がずっと良くなった、ということである。
【0068】
実施例7.様々なセルロース系材料上の可塑化されpH調整された組成物
さらなる実施例では、可塑剤とpH調整添加剤との組み合わせについて調べた。タイプ2の紙、成型パルプ紙、及びタイプ1及び2の板紙、上で組成物12及び13を評価した。全ての材料は、方法4によって各組成物の2層でコーティングした。
【表12】
【0069】
可塑剤及びpH調整添加剤とPECとの組み合わせは、COBB値及びKIT値の両方について非常に有望な結果をもたらし、それゆえコートされた材料上に良好な水及びグリースへのバリアをもたらした。また、組成物12の付与が良好なグリースバリアを生み出し、一方で、組成物13は良好な水バリアを生じたこと、そして最も重要なこととして、それらのコーティングが互いの妨げにはならないように見受けられ、相乗的に働くこと、が明らかであった。
【0070】
実施例8.様々な材料上でのPECコーティング及び非PECコーティングの組み合わせ
本発明の利用をさらに広げるために、繊維品材料をコーティングした。坪量150g/m2の白色ポリエステル布を、方法4によってPEC組成物1及び2のそれぞれでコーティングして、それから市販の疎水化剤製品(hydrofobizing products)であるOC-aquasil Tex 310又はOC-aquasil Tex 303を用いて方法7によってさらにコーティングした。結果を表13に示す。
【表13】
【0071】
本発明は、例えば紙と比べてずっと低密度の繊維製品に対しても、水及びグリースへの良好なバリアを形成することが可能である、と結論できる。
[付記]
本発明には以下の態様<1>~<38>も含まれる。
<1>
カチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとの高分子電界質複合体(PEC)、及び緩衝系を含むpH調整剤、を含む少なくとも1つの組成物から形成される少なくとも2つの層によるバリアを備える、油及び水に対するバリアコーティングを有する繊維系材料であって、
前記2つの層によって、前記少なくとも1つの組成物の単層を備える同じ材料と比べて、油耐性及び水耐性の両方が向上している、前記繊維系材料。
<2>
前記カチオン性バイオポリマーが、カチオン性デンプン(CS)及びキトサンから選択され、前記アニオン性バイオポリマーが、リグニンアルカリ、リグニンスルホン酸、又は多糖類(polysaccharide)のうちの少なくとも1つから選ばれ、特には、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)、アルギン酸、ペクチン、カラゲナン(carrageenan
)、アラビアゴム(gum arabic)、ヘミセルロース、及びナノ結晶性セルロース(NCC)から選択され、ここで、アルギン酸及びリグニンスルホン酸は、ナトリウム塩として存在していることが好ましい、<1>に記載の材料。
<3>
前記2つの層が、CSとCMCとの高分子電界質複合体(PEC)を含む2種の組成物で形成される、<2>に記載の材料。
<4>
前記2種の組成物が、0.1~20%(重量/重量)のCMC及び0.1~20%のCS、好ましくは、0.5~10%(重量/重量)のCMC及び0.5~20%のCSを含む、<3>に記載の材料。
<5>
少なくとも1つの組成物が、酸と塩基から選ばれるpH調整剤を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の材料。
<6>
前記酸が、1種又は複数種の有機又は無機の酸であり、層を形成する前記組成物中に0.01~30%(重量/重量)の量で存在し、好ましくは、前記酸はクエン酸、乳酸、シュウ酸及び酒石酸から選ばれ、より好ましくは、前記酸は5~15%(重量/重量)のクエン酸及び/又は乳酸である、<5>に記載の材料。
<7>
前記緩衝系が、前記組成物に0.01~30%(重量/重量)の酸-塩基ペアを供給し、好ましくは、対応する酸-塩基ペアは2~9のpHを許容する、<5>に記載の材料。
<8>
前記組成物が1~10%(重量/重量)のクエン酸、及び1~10%(重量/重量)の三塩基性クエン酸を含み、好ましくは、それらが等量である、<7>に記載の材料。
<9>
前記塩基が炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3
)である、<5>に記載の材料。
<10>
前記2種の組成物が、同じCS-CMC相対量を有するPECsを含む、<3>~<9>のいずれか1つに記載の材料。
<11>
層を形成する前記組成物の少なくとも1つが可塑剤を含み、好ましくは前記可塑剤はポリオール型可塑剤であり、より好ましくは前記可塑剤は1~20%(重量/重量)の量で存在するソルビトールである、<1>~<10>のいずれか1つに記載の材料。
<12>
少なくとも1種の層形成組成物が、アンモニウムジルコニウムカーボネート;保存剤;消泡剤;発泡剤;湿潤剤;合一剤(coalescent agents);触媒;界面活性剤;乳化剤;架橋剤;レオロジー調節剤;フィラー;非イオン性ポリマー;染料及び顔料、から選ばれる添加剤を含む、<1>~<11>のいずれか1つに記載の材料。
<13>
前記バリアの、T 999 pm-96に沿って測定したKITの値が5以上であり、ISO 536:191(E)に沿って測定したCOBB60の値が50以下である、<1>~<12>のいずれか1つに記載の材料。
<14>
第1のpH値を有する組成物で第1層が形成され、第2のpH値を有する組成物で第2層が形成され、好ましくは、第2層は第1層を与える組成物よりもpH値が低い組成物で形成される、<1>~<13>のいずれか1つに記載の材料。
<15>
前記第1層用の組成物が、<7>又は<8>に記載の緩衝系を含み、前記第2層用の組成物が、<6>に記載の酸を含む、<14>に記載の材料。
<16>
5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、並びに、クエン酸及びクエン酸のカルボキシレート、乳酸及び乳酸の対応するカルボキシレートから選ばれる酸-塩基ペアを含む緩衝系を含む、pH値が3~6の組成物から第1層が形成され、5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、並びに、クエン酸及び乳酸から選ばれる酸を含む、pH値が1~3の組成物から第2層が形成される、<15>に記載の材料。
<17>
前記第1層及び第2層が、同じCS-CMC相対量(重量/重量)を有する2種の組成物から形成される、<14>~<16>のいずれか1つに記載の材料。
<18>
第1層を形成する組成物が、5~15%(重量/重量)のクエン酸及び三塩基性クエン酸を含み、第2層を形成する組成物が、5~15%(重量/重量)のクエン酸を含む、<16>又は<17>に記載の材料。
<19>
前記第1層が前記バリアにおける内側の層であり、前記第2層が前記バリアにおける外側の層である、<14>~<18>のいずれか1つに記載の材料。
<20>
前記PECの電荷比が1以下である、<1>~<19>のいずれか1つに記載の材料。
<21>
アミノ官能性シロキサンを含む少なくとも1つの層、又はワックスや油などの疎水剤を含む層、を含むバリアを有する、<1>~<20>のいずれか1つに記載の材料。
<22>
<14>~<21>のいずれか1つに記載の2つの層、及び<21>に記載の付加的な層を含む、<21>に記載の材料。
<23>
(a)電荷比が1以下のPECsを与える、0.1~20%(重量/重量)のCMC、及び0.1~20%のCS、好ましくは、0.5~10%(重量/重量)のCMC、及び10~20%のCS、
(b)1~20%(重量/重量)の可塑剤、好ましくはソルビトール、及び、
(c)1~15%(重量/重量)の酸、緩衝系、及び塩基から選ばれるpH調整剤、を含み、油及び水に耐性のバリアコーティングを得るのに使用するための、繊維系材料への付与用の水性の高分子電界質複合体(PEC)組成物。
<24>
5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び1~15%(重量/重量)の酸-塩基ペアからなる緩衝系を含み、好ましくは、対応する酸-塩基ペアは有機酸由来であり、より好ましくは、前記緩衝系は、クエン酸及びクエン酸の対応するカルボキシレート、並びに乳酸及び乳酸の対応するカルボキシレート、から選ばれる、<23>に記載の組成物。
<25>
等量(重量/重量)のクエン酸及び三塩基性クエン酸を含む、<24>に記載の組成物。
<26>
pH値が3~6である、<24>又は<25>に記載の組成物。
<27>
5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び組成物のpHを1~3にする有機又は無機の酸を含み、好ましくは、前記酸は0.01~30%(重量/重量)の量で存在し、好ましくは、前記酸は、クエン酸、乳酸、シュウ酸及び酒石酸から選ばれ、より好ましくは、前記酸は5~15%(重量/重量)のクエン酸及び/又は乳酸である、<23>に記載の組成物。
<28>
5~20%(重量/重量)のCS、1~5%(重量/重量)のCMC、及び組成物のpHを8~9にする塩基を含み、好ましくは、前記塩基は炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3
)である、<23>に記載の組成物。
<29>
アンモニウムジルコニウムカーボネート;保存剤;消泡剤;発泡剤;湿潤剤;合一剤(coalescent agents);触媒;界面活性剤;乳化剤;架橋剤;レオロジー調節剤;フィラー;非イオン性ポリマー;染料及び顔料、のうちの少なくとも1種から選ばれる添加剤を含む、<23>~<28>のいずれか1つに記載の組成物。
<30>
油及び水に耐性のバリアコーティングを得る使用のための、繊維系材料への付与用の、<23>に記載の組成物を少なくとも2種有するキットであって、
緩衝系を有する第1の組成物を有する第1の区画(compartment)、及び第1の組成物よりも低いpHである酸を含む第2の組成物を有する第2の区画(compartment)を含む、前記キット。
<31>
前記第1の組成物が<24>~<26>のいずれか1つに記載の組成物であり、前記第2の組成物が<27>に記載の組成物である、<30>に記載のキット。
<32>
カチオン性バイオポリマーとアニオン性バイオポリマーとの高分子電解質複合体(PEC)を含む第1の組成物を用いて第1層を材料に付与するステップ、
任意で(optionally)15~90℃の温度で材料を乾燥するステップ、
第1層上に、第2の組成物を用いて第2層を付与するステップ、及び、
15~90℃の温度で材料を硬化させるステップ、
を含む、<1>~<22>のいずれか1つに記載の材料を製造する方法。
<33>
前記硬化が20℃~200℃、より好ましくは90℃~200℃、最も好ましくは90℃~180℃で行われる、<32>に記載の方法。
<34>
スプレーイング、ロールコーティング;フーラードコーティング(foulard coating);ディップコーティング;スクリーンコーティング;パディング(padding)、含侵(impregnation)、サイズプレッシング;ナイフコーティング、ブレードコーティング、ワイヤー巻きバーコーティング、ラウンドバーコーティング及びクラッシュドフォームコーティング(crushed foam coating)などの直接コーティング法;メーヤロッドコーティング(mayer rod coating)、ダイレクトロールコーティング、キスコーティング(kiss coating)、グラビアコーティング、及びリバースロールコーティングなどの間接的なコーティング法からなる方法群のうち少なくとも1つによって前記第1及び第2の組成物を付与することを含み;好ましくは、前記付与はロールコーティング又はフーラードコーティングによって行われる、<32>又は<33>に記載の方法。
<35>
前記第2の組成物が前記第1の組成物と同じである、<32>~<34>のいずれか1つに記載の方法。
<36>
前記第1の組成物が前記第2の組成物とは異なるpH値を有する、<32>~<34>のいずれか1つに記載の方法。
<37>
前記第1の組成物が前記第2の組成物よりも高いpH値を有する、<36>に記載の方法。
<38>
前記第1の組成物が<24>~<26>のいずれか1つに記載の組成物であり、前記第2の組成物が<27>に記載の組成物である、<37>に記載の方法。