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特許7612328フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレン含有のポリマーラテックス
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  • 特許-フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレン含有のポリマーラテックス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデン及びトリフルオロエチレン含有のポリマーラテックス
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/22 20060101AFI20250106BHJP
   C08F 2/26 20060101ALI20250106BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
C08F214/22
C08F2/26 Z
C08F220/18
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019517887
(86)(22)【出願日】2017-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-07
(86)【国際出願番号】 EP2017074767
(87)【国際公開番号】W WO2018065306
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-08-28
【審判番号】
【審判請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】16192408.9
(32)【優先日】2016-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マラーニ, アレッシオ
(72)【発明者】
【氏名】ファルコ, イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】カペリュシュコ, ヴァレーリー
【合議体】
【審判長】▲吉▼澤 英一
【審判官】近野 光知
【審判官】松本 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-527362(JP,A)
【文献】特表2013-514415(JP,A)
【文献】特表2011-522096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F214/00-214/28
C08F2/00-2/60
C08F220/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー粒子[ポリマー(F)]を含む水性ラテックスであって:
前記ポリマー(F)が、
-繰り返し単位の総モルに対して、65~82モル%の量でのフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位;及び
-繰り返し単位の総モルに対して、18~35モル%の量でのトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単
からなり
前記ポリマー(F)が、強誘電性相に熱力学的に秩序化された構造を有し:
(i)以下のように定義されるパラメータXc(%):
[式中、ΔHは、強誘電性相と常誘電性相間のキューリー転移に関連するエンタルピーであり、10℃の昇温速度でのDSC法による第二加熱走査においてJ/gで求められ、及びΔHは、ASTMD3418に従ってJ/gで求められる融解エンタルピーである];と
(ii)繰り返し単位の総モルに対してモル%で表される、VDFとは異なる繰り返し単位の含有量であって、CM(モル%)と称される含有量;と
の関係が、以下の不等式:Xc(%)≧a・CM(モル%)+b(式中、a=-1.10かつb=75.00)
を満たす水性ラテックス。
【請求項2】
ASTM D1238(230℃/5kg)に従って測定される、前記ポリマー(F)のメルトフローインデックス(MFI)が、0.5~500g/10分である請求項1に記載の水性ラテックス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のラテックスを作製する方法であって、前記方法が、フッ化ビニリデン(VDF)及びトリフルオロエチレン(TrFE)を水性エマルション中、ラジカル開始剤及び式(I):
[式中、互いに等しいか又は異なるX、X、Xは、独立して、H、F、及び任意選択で1個又は複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含む、C1~6(パー)フルオロアルキル基の中から選択され;Lは、結合又は二価基を表し;Rは、二価のフッ素化C1~3架橋基であり;Yは、アニオン性官能基である]
を満たすフッ素化界面活性剤[界面活性剤(C)]の存在下、重合する工程を備える、ラテックス作製方法。
【請求項4】
前記式(I)において、アニオン性官能基Yが、式:
(式中、Xは、H、一価の金属又は式-N(R’のアンモニウム基であり、ここで、出現ごとに等しいか若しくは異なる、R’は、水素原子又はC1~6炭化水素基を表す)
のものからなる群から選択される請求項に記載のラテックス作製方法。
【請求項5】
親水性官能基Yが、請求項で詳述した式(3”)のカルボキシレートである請求項に記載のラテックス作製方法。
【請求項6】
環状フルオロ化合物が、以下の式(II):
[式中、互いに等しいか又は異なるX、X、Xは、独立して、H、F、及び任意選択で1個又は複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含む、C1~6(パー)フルオロアルキル基の中から選択され;Rは、二価のフッ素化C1~3架橋基であり;Yは、式(3”)
(式中、Xは、H、一価の金属又は式-N(R’のアンモニウム基であり、ここで、出現ごとに等しいか又は異なる、R’は、水素原子又はC1~6炭化水素基を表す)
のカルボキシレートである]
を満たす請求項に記載のラテックス作製方法。
【請求項7】
環状フルオロ化合物が、以下の式(IV):
[式中、Rは、二価のフッ素化C1~3架橋基であり、Xaは、H、一価の金属又は式-N(R’のアンモニウム基であり、ここで、出現ごとに等しいか若しくは異なる、R’は、水素原子又はC1~6炭化水素基であり;互いに等しいか又は異なるX 、X は、独立してフッ素原子、-R’又は-OR’(ここで、R’は、C1~3パーフルオロアルキル基である)であり;R は、F又はCFであり、kは、1~3の整数である]
を満たす請求項に記載のラテックス作製方法。
【請求項8】
環状フルオロ化合物が、式(V):
(式中、Xは、H、一価の金属又は式-N(R’のアンモニウム基であり、ここで、出現ごとに等しいか若しくは異なる、R’は、水素原子又はC1~6炭化水素基を表す)
を満たす請求項に記載のラテックス作製方法。
【請求項9】
重合圧力が、10~40バールに含まれ、及び/又は重合温度が、60~120℃の範囲で選択される請求項のいずれか1項に記載のラテックス作製方法。
【請求項10】
ラジカル開始剤が、有機ラジカル開始剤からなる群から選択される請求項のいずれか1項に記載のラテックス作製方法。
【請求項11】
ラジカル開始剤が、無機ラジカル開始剤からなる群から選択される請求項のいずれか1項に記載のラテックス作製方法。
【請求項12】
電機機器/電子機器を製造する方法であって、前記方法が、請求項1又は2に記載のラテックスを強誘電性材料、圧電性材料、誘電性材料又は集電性材料として、前記電機機器/電子機器に使用することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年10月5日出願の欧州特許出願第16192408.9号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、改善された強誘電性を有するフッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとのコポリマーの新規のラテックスと、特定のフッ素化乳化剤の存在下、水性エマルション中でそれらを製造するプロセスと、電機機器/電子機器における圧電性、強誘電性、誘電性又は集電性材料としてのそれらの使用とに関する。
【背景技術】
【0003】
フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとのコポリマーは、それらの強誘電性、圧電性、集電性及び誘電性挙動/特性のおかげで、電機機器/電子機器(例えば、変換器、センサー、アクチュエータ、強誘電性メモリ、キャパシタ)における使用を目的として利用され、開発されており、圧電性挙動が特に使用されていることは、よく知られている。
【0004】
周知のように、圧電性という用語は、電気的エネルギーを機械的エネルギーと交換する材料の能力及びその逆の能力を意味し、この電気機械的応答は、変形又は圧力振動中の寸法変化と本質的に関係していると考えられる。直接の圧電効果(応力がかけられるときの電気の発生)を示す材料はまた逆の圧電効果(電場がかけられるときの応力及び/又は歪みの発生)も示すという点において、圧電効果は可逆的である。
【0005】
強誘電性は、材料の特性であって、これによって材料が、その方向を外部電場の印加によって等価状態間で切り替えることができる、自発的電気分極を示す特性である。
【0006】
焦電気性は、加熱又は冷却時に電位を発生させる、特定の材料の能力である。実際に、温度におけるこの変化の結果として、正及び負の電荷は、移行によって反対の端部に移動し(即ち、その材料は分極した状態になり)、それ故に電位が確立される。
【0007】
フッ化ビニリデンとトリフルオロエチレンとのコポリマーにおける圧電性、集電性、強誘電性は、水素及びフッ素原子が、単位セル当たり最大の双極子モーメント与えるように配列されている特定の結晶晶癖、いわゆる強誘電性相又はベータ相に関係すると一般に理解されている。
【0008】
前記VDF-TrFEコポリマーは、当技術分野では既知であり、とりわけ米国特許第4778867号明細書(PRIES SEYMOUR(US))18/10/1988、米国特許第4708989号明細書(THOMSON CSF(FR))24/11/1987、米国特許第4784915号明細書(KUREHA CHEMICAL IND CO LTD(JP))15/11/1988、米国特許第4173033号明細書(DAIKIN IND LTD(JP))30/10/1979に記載されている。
【0009】
一般的に言えば、これらのVDF-TrFEコポリマーを製造する技法は、懸濁重合をベースとしてすることがあり、つまりVDFが超臨界相に存在するような温度及び圧力の条件において、水性相において有機開始剤を用い、生成後直ちに水性重合媒体から析出する粗粒子のスラリーを生成する。それにもかかわらず、懸濁重合法は、高圧力を必要とし、またTrFEがおそらく爆発性挙動をこうむるとする、このように厳しい条件でのTrFEの操作に伴う、安全面の懸念があるので、工業レベルでの取り扱いはかなり厄介である。TrFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)と同様に爆燃/爆発挙動があるとみなされているので、重合圧力を制限する機会は、安全管理においてかなりの利点を示す。
【0010】
従って、水性系乳化重合をベースとする技法は、より穏やかな条件での生成を可能にし、その上、制限されたトリフルオロエチレン(TrFE)の部分圧及び全体圧で、高処理量で、VDF-TrFEポリマー粒子を安定して分散させ、環境懸念が殆どないので、検討されてきた。
【0011】
さらに、VDF-TrFEポリマーのラテックスへの到達は、無溶媒法に基づくコーティング/キャスティング技術への加工/改変の好機を開くことを可能にし、それは、当分野でますます注目を集めている。
【0012】
しかし、先行技術の水性乳化重合プロセスにより生成したラテックスから得られるVDF-TrFEコポリマーは、例えば、懸濁重合したVDF-TrFEコポリマーと比較した場合、とりわけ価値のない圧電性能、焦電性能、強誘電性能をはじめとする特定の欠点を招く問題点がある。
【0013】
ここで、圧電効果、集電効果又は強誘電効果の最適化は、より構造化された結晶ドメインを有して、改善された圧電性能、焦電性能、強誘電性能を達成するために、強誘電性相の熱力学的な秩序を最大にする必要があるが、それは、乳化重合により得られる結果と矛盾する。
【0014】
その反面、フッ素化モノマーの重付加重合のための特定の環状フッ素化界面活性剤を用いる乳化重合技法は、知られている。
【0015】
米国特許出願公開第2011160415号明細書(SOLVAY SOLEXIS SPA)30/06/2011は、1種又は複数種のフッ素化モノマーの水性乳化重合を含むフルオロポリマーの製造方法であって、前記水性乳化重合が、以下の式(I):
[式中、互いに等しいか又は異なる、X、X、Xは独立して、H、F、及び任意選択で1個又は複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含む、C1~6(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択され;Lは、結合又は二価基を表し;Rは、二価のフッ素化C1~3架橋基であり;Yは、アニオン性官能基、カチオン性官能基、及び非イオン性官能基からなる群から選択される親水性官能基である]
の少なくとも1種の環状フルオロ化合物の存在下で行われる方法に関する。式(I)による環状フルオロ化合物を乳化剤として使用して重合できるフッ素化モノマーの例としては、テトラフルオロエチレン(TFE)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、フッ化ビニル(VF)、フッ化ビニリデン(VDF)などのフッ素化オレフィン、部分若しくは完全フッ素化アリルエーテル及び部分若しくは完全フッ素化アルキル又はアルコキシ-ビニルエーテルをはじめとする部分若しくは完全フッ素化ガス状モノマーが挙げられる。
【0016】
さらに米国特許出願公開第2012283382号明細書(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY,S.P.A.)8/11/2012は、フッ化ビニリデン(VDF)熱可塑性ポリマーの分散体の製造プロセスであって、前記プロセスが:400未満の分子量を有する非フッ素化界面活性剤及びフッ素化界面活性剤からなる群から選択される少なくとも1種の界面活性剤と;少なくとも1つの(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖及び少なくとも1つの官能基を含む少なくとも1種の官能性(パー)フルオロポリエーテルとを含む水性相において、VDFを重合する工程を備えるプロセスに関する。フッ化ビニリデンポリマーは、一般的に(a’)少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)と;(b’)任意選択で0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%の、VDFと異なるフッ素化モノマーとからなるポリマーであり;前記フッ素化モノマーは、フッ化ビニル(VF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)及びそれらの混合物からなる群から選択されるのが好ましく、とりわけVDFのホモポリマー、VDF/TFEコポリマー、VDF/TFE/HFPコポリマー、VDF/TFE/CTFEコポリマー、VDF/TFE/TrFEコポリマー、VDF/CTFEコポリマー、VDF/HFPコポリマー、VDF/TFE/HFP/CTFEコポリマーが含まれる。低分子量を有するフッ素化界面活性剤は、式:
[式中、互いに等しいか又は異なる、X、X、Xは独立して、H、F、及び任意選択で1個又は複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含む、C~C(パー)フルオロアルキル基からなる群から選択され;Rは、二価のパーフルオロ化されたC~C架橋基を表し、Lは、結合又は二価基を表し、並びにYは、アニオン性官能基を表す]
を満たす界面活性剤であり得る。
【0017】
従って、平穏な条件で乳化重合により製造され、かつ改善された圧電性能、焦電性能、強誘電性能を有するVDF-TrFE材料に対する必要性が、当技術分野で依然として存在する。
【0018】
ここで、本明細書に記載される本発明は、これらの必要性を満たす材料及び方法を提供する。
【発明の概要】
【0019】
本発明は、従って:
-繰り返し単位の総モルに対して、少なくとも60モル%の量でのフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位;
-繰り返し単位の総モルに対して、少なくとも18モル%の量でのトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位と、
-任意選択でVDF及びTrFEとは異なる少なくとも1種の追加のモノマーに由来する繰り返し単位と
を含むポリマー[ポリマー(F)]の粒子を含む水性ラテックスを提供し、
前記ポリマー(F)が、強誘電性相に熱力学的に秩序化された構造を有し:その結果
(i)以下のように定義されるパラメータXc(%):
[式中、ΔHは、強誘電性相と常誘電性相間のキューリー転移に関連するエンタルピーであり、10℃の昇温速度でのDSC法による第二加熱走査においてJ/gで求められ、及びΔHは、ASTMD3418に従ってJ/gで求められる融解エンタルピーである];と
(ii)VDFとは異なる繰り返し単位の、繰り返し単位の総モルに対してモル%で表し、CM(モル%)と称する含有量;と
の関係が、以下の不等式:Xc(%)≧a・CM(モル%)+b
[式中、a=-1.10かつb=75.00、好ましくは不等式:
Xc(%)≧a’・CM(モル%)+b’
(式中、a’=-0.89かつb’=71.33)を満たす]
を満たす。
【0020】
本発明は、既に詳述したラテックスを作製する方法にさらに関し、前記方法は、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、及び任意選択で、VDF及びTrFEとは異なる少なくとも1種の追加のモノマーを水性エマルション中で、ラジカル開始剤及び式(I)を満たすフッ素化界面活性剤[界面活性剤(C)]の存在下、重合する工程を備える:
[式中、互いに等しいか又は異なるX、X、Xは、独立して、H、F、及び任意選択で1個又は複数個のカテナリー又は非カテナリー酸素原子を含む、C1~6(パー)フルオロアルキル基の中から選択され;Lは、結合又は二価基を表し;Rは、二価のフッ素化C1~3架橋基であり;Yは、アニオン性官能基である]。
【0021】
本願出願人は、驚くべきことに、既に詳述した方法により、平穏な条件及び高処理量において、特に比較的に低いTrFEの部分圧力及び総圧力で、VDF-TrFEのラテックスの強誘電性相におけるそれらの改善された構造/立体配座秩序の結果として、上で定義したXc(%)パラメータを用いて測定した、改善された圧電性能、焦電性能、強誘電性能を有するVDF-TrFEのラテックスに到達できることを判明した。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】ポリマー(F)の格子に対するコモノマー含有量(モル%)の関数としてのパラメータXc(%)、(以下、結晶化度の秩序パラメータとも呼ぶ)のプロットであり;Δは、環状界面活性剤(I)及びラジカル開始剤の存在下で乳化重合から得られる本発明による実施形態の代表例であり;■及び*は、非実用的実施形態の代表例であり、より詳細には、■は、異なるフッ素系界面活性剤及び有機開始剤の存在下で乳化重合から得られるラテックスを指し、一方、*は、異なるフッ素系界面活性剤及び無機開始剤の存在下で乳化重合から得られるラテックスを指す。点線は、不等式を表す。不等式:Xc(%)≧a・CM(モル%)+b(式中、a=-1.10かつb=75.00)、及び不等式:Xc(%)≧a’・CM(モル%)+b’(式中、a’=-0.89かつb’=71.33)。
【0023】
発明の開示
本発明のポリマー(F)は、一般的にTrFEに由来する繰り返し単位を18~40モル%、好ましくは20~35モル%含む。
【0024】
本発明のポリマー(F)は、VDF及びTrFE以外の1種又は複数種のフルオロモノマー、例えば、とりわけヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレンなどに由来する繰り返し単位、又は1種又は複数種の非フッ素化モノマー、例えばとりわけ(メタ)アクリル系モノマーなどに由来する繰り返し単位、より具体的には、下式の少なくとも1種の親水性(メタ)アクリル系モノマー(MA)に由来する繰り返し単位をさらに含んでもよい:
(式中、R1、R2、R3のそれぞれは、互いに等しいか又は異なり、独立して水素原子又はC~C炭化水素基であり、及びROHは、ヒドロキシル基、又は少なくとも1個のヒドロキシル基を含むC~C炭化水素部分である)。
【0025】
親水性(メタ)アクリルモノマー(MA)の非限定的な例は、特に、アクリル酸、メタクリル酸、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート;ヒドロキシエチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
【0026】
モノマー(MA)は、より好ましくは:
式:
のヒドロキシエチルアクリレート(HEA)、
式:
のどちらかの2-ヒドロキシプロピルアクリレー(HPA)、
式:
のアクリル酸(AA)、
-及びそれらの混合物
から選択される。
【0027】
ポリマーは、有利には:
-繰り返し単位の総モルに対して、60モル%~81モル%の量でのフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位;
-繰り返し単位の総モルに対して、18モル%~39モル%の量でのトリフルオロエチレン(TrFE)に由来する繰り返し単位、及び
-任意選択で、0~5モル%の量での、VDF及びTrFEとは異なる少なくとも1種の追加のモノマーに由来する繰り返し単位
を含む。
【0028】
それにもかかわらず、VDF及びTrFEに由来する繰り返し単位から本質的になるポリマーが、一般に好ましい。
【0029】
このようなポリマーは、通常:
-18~35モル%、好ましくは20~32モル%のTrFEに由来する繰り返し単位;及び
-65~82モル%、好ましくは68~80モル%のVDFに由来する繰り返し単位
から本質的になる。
【0030】
ポリマー(F)のメルトフローインデックス(MFI)は、最終部品(例えば、フィルム又はシート)を得るために選択される加工技術に関連して当業者によって選択されることとなる。
【0031】
それにもかかわらず、ポリマー(F)は、有利には0.5~500g/10分の、好ましくは1~200g/10分の、より好ましくは2~10g/10分のASTM D1238(230℃/5Kg)に従って測定されるMFIを有することとなると一般に理解される。
【0032】
前述の通り、本発明のラテックスは、前述の不等式を満たすように、パラメータXc(%)、つまり結晶化度秩序パラメータを有するポリマー(F)の粒子を含む。
【0033】
技術的観点から、この結晶化度秩序パラメータは、強誘電性相の構造及び立体配座秩序の尺度であり、Xcパラメータが高いほど、強誘電性の結晶相は、より構造化及びより秩序化される。
【0034】
結果として、本発明のラテックスからのポリマー(F)は、強誘電性結晶相に由来する改善された強誘電性能を有するものであり、構造秩序が高いほど、先行技術の手法を用いて製造できるラテックスからのポリマーを超えるより良好な強誘電性能となる。
【0035】
既に詳述したラテックス作製方法は、フッ化ビニリデン(VDF)、トリフルオロエチレン(TrFE)、及び任意選択で、VDF及びTrFEとは異なる少なくとも1種の追加のモノマーを水性エマルション中で、ラジカル開始剤及び式(I):
(式中、既に詳述したとおりである)を満たすフッ素化界面活性剤[界面活性剤(C)]の存在下、重合する工程を備える。
【0036】
前記式(I)においては、陰イオン官能基Yは、式:
(式中、Xは、H、一価の金属(好ましくはアルカリ金属)又は式-N(R’のアンモニウム基であり、ここで、出現ごとに等しいか若しくは異なる、R’は、水素原子又はC1~6炭化水素基(好ましくはアルキル基)を表す)
のものからなる群から選択されるのが好ましい。
【0037】
最も好ましくは、親水性官能基Yは、既に詳述した式(3”)のカルボキシレートである。
【0038】
本発明の第1の実施形態によれば、環状フルオロ化合物は、以下の式(II):
(式中、X、X、X、Y及びRは、上で定義したものと同じ意味を有する)
を満たす。
【0039】
より好ましくは、環状フルオロ化合物は、以下の式(III):
(式中、R、X、X、X、及びXは、上で定義したものと同じ意味を有する)
を満たす。
【0040】
本発明の第2の実施形態によれば、環状フルオロ化合物は、以下の式(IV):
[式中、R及びXは、上述したものと同じ意味を有し、;互いに等しいか又は異なるX*、X*は、独立してフッ素原子、-R’又は-OR’、(ここで、R’は、C1~3パーフルオロアルキル基である)であり;R は、F又はCFであり、kは、1~3の整数である]
を満たす。
【0041】
これらの化合物のうちで、式(V)の環状フルオロ化合物は、以下に:
(式中、Xは、上で定義した意味を有する)で略記され、特に、XがNHである環状フルオロ化合物は、本発明のプロセスで特に有用であると判明されている。
【0042】
従って、重合圧力は、一般的には10~40バール、好ましくは15~35バール、より好ましくは20~35バールからなる。
【0043】
当業者は、とりわけ使用されるラジカル開始剤を考慮して重合温度を選ぶことになろう。重合温度は、一般的には、60℃~120℃、好ましくは75℃~120℃の範囲で選択される。
【0044】
ラジカル開始剤の選択は特に限定されない一方で、本発明によるプロセスに好適なものは、重合を開始及び/又は促進できる化合物のうちから選択されることが理解される。
【0045】
当業者ならば、本発明によるプロセスに好適である多くの開始剤に精通していると考えられる。
【0046】
有機ラジカル開始剤が使用でき、これらに限定されないが、以下の:アセチルシクロヘキサンスルホニルパーオキシド;ジアセチルパーオキシジカーボネート;ジエチルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシジカーボネート;tert-ブチルパーネオデカノエート;2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル;tert-ブチルパーピバレート;ジオクタノイルパーオキシド;ジラウロイル-パーオキシド;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル);tert-ブチルアゾ-2-シアノブタン;ジベンゾイルパーオキシド;tert-ブチル-パー-2エチルヘキサノエート;tert-ブチルパーマレエート;2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル);ビス(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン;tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート;tert-ブチルパーアセテート;2,2’-ビス(tert-ブチルパーオキシ)ブタン;ジクミルパーオキシド;ジ-tert-アミルパーオキシド;ジ-tert-ブチルパーオキシド;p-メタンヒドロパーオキシド;ピナンヒドロパーオキシド;クメンヒドロパーオキシド;及びtert-ブチルヒドロパーオキシドが挙げられる。その他の好適なラジカル開始剤としては、クロロカーボン系及びフルオロカーボン系アシルパーオキシド、例えばトリクロロアセチルパーオキシド、ビス(パーフルオロ-2-プロポキシプロピオニル)パーオキシド、[CFCFCFOCF(CF)COO]、パーフルオロプロピオニルパーオキシド、(CFCFCFCOO)、(CFCFCOO)、{(CFCFCF)-[CF(CF)CFO]-CF(CF)-COO}(式中、m=0~8である)、[ClCF(CFCOO]、及び[HCF(CFCOO](式中、n=0~8である);パーフルオロアルキルアゾ化合物、例えばパーフルオロアゾイソプロパン、[(CFCFN=]、RN=NR(式中、Rは、1~8個の炭素を有する鎖状又は分岐のパーフルオロカーボン基である);安定な又はヒンダードパーフルオロアルカンラジカル、例えばヘキサフルオロプロピレン三量体ラジカル、[(CFCF](CFCF)Cラジカル及びパーフルオロアルカンなどのハロゲン化フリーラジカル開始剤が挙げられる。
【0047】
レドックス対を形成する少なくとも2種の成分を含むレドックス系、例えば、ジメチルアニリン-ベンゾイルパーオキシド、ジエチルアニリン-ベンゾイルパーオキシド及びジフェニルアミン-ベンゾイルパーオキシドも、重合を開始するのに用いることができる。
【0048】
また、無機ラジカル開始剤を用いることができ、それらには、限定されるものではないが、以下、すなわち、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム又は過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩、過マンガン酸カリウムなどの過マンガン酸塩が含まれる。
【0049】
上に詳述した無機ラジカル開始剤が、好ましい。
【0050】
ラジカル開始剤は、有利には重合媒体の0.001~20重量パーセントの範囲の濃度で含まれる。
【0051】
重合は、連鎖移動剤の存在下で行うことができる。連鎖移動剤は、ケトン、エステル、エーテル又は3~10個の炭素原子を有する脂肪族アルコール、例えば、アセトン、酢酸エチル、ジエチルエーテル、メチル-ter-ブチルエーテル、イソプロピルアルコールなど;1~6個の炭素原子を有し、場合によって水素を含むクロロ(フルオロ)カーボン、例えば、クロロホルム、トリクロロフルオロメタン;ビス(アルキル)カーボネート(ここで、アルキルは、1~5個の炭素原子を有する)、例えば、ビス(エチル)カーボネート、ビス(イソブチル)カーボネートなどのフッ素化モノマーの重合で知られたものから選択される。連鎖移動剤は、開始時に、重合中に連続的に又は個別的な量で(段階的に)重合媒体に供給できるが、連続的又は段階的供給が好ましい。
【0052】
本発明はまた、電機機器/電子機器における、強誘電性、圧電性、誘電性又は集電性材料としての上述のポリマー(F)の使用にも関する。
【0053】
前記機器の非限定的な例は、とりわけ変換器、センサー、アクチュエータ、強誘電性メモリ、キャパシタである。
【0054】
ポリマー(F)は、一般に実質的に二次元部品(例えばフィルム又はシート)の形態下で前記機器に含まれる。
【0055】
前記フィルム又はシートは、押出成形、射出成形、圧縮成形及び溶媒キャスト法のような標準の技術により製造できる。
【0056】
前記二次元物品は、特に、例えば、アニーリング、延伸、二配向などのような、強誘電性、圧電性、誘電性又は集電性挙動を高めるために、後加工処理にさらにかけることができる。
【0057】
二次元物品は、とりわけ、高電圧及びデータ取得コンピュータ制御システムによってリアルタイムで、保磁力場で測定される分極、残留分極及び最大変位電流を調整するために分極サイクルによって得られる高いポーリング電場にかけることができる。このプロセスの実施形態は、ISNER-BROM,P.,et al.Intrinsic Piezoelectric Characterization of PVDF copolymers:determination of elastic constants.Ferroelectrics.1995,vol.171,p.271-279.、BAUER,F.,et al.Very high pressure behaviour of precisely-poled PVDF.Ferroelectrics.1995,vol.171,p.95-102.並びに米国特許第4611260号明細書(DEUTSCH FRANZ FORSCH INST(FR))9/09/1986及び米国特許第4684337号明細書(DEUTSCH FRANZ FORSCH INST(FR))4/08/1987に記載されており、それらの開示は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0058】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合は、本記載が優先するものとする。
【0059】
本発明は、その目的が例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない、次の実施例に関連してより詳細に今説明される。
【実施例
【0060】
式(V)(X=NH)の環状界面活性剤及びラジカル開始剤(本発明による)の存在下での乳化重合の実施例-方法I1
実施例1-コポリマーVDF-TrFE70/30(モル比)
バッフル及び570rpmで作動する撹拌機を備えたAISI316スチール製垂直オートクレーブ中に、3.5Lの脱塩水を導入した。次に、温度を85℃の反応温度にし、この温度に達したら、上に詳述したX=NHである式(V)の環状界面活性剤を蒸留水に溶かした34重量/重量%の溶液50gと、圧力が6.9絶対バールに達する量のVDFとを導入した。次に、70/30の名目モル比でのVDF-TrFEのガス状混合物を、30絶対バールの圧力に到達するまで圧縮機を介して加えた。オートクレーブ頭部に存在するガス状混合物の組成を、G.C.によって分析した。重合開始時に、ガス相が:75.9モル%のVDF、24.1モル%のTrFEからなることがわかった。次に、過硫酸ナトリウム(NaPS)を3体積%の濃度で脱塩水に溶かした溶液50mlを、供給した。上述のVDF-TrFE混合物を供給することにより、重合圧力を一定に維持し、混合物を500g供給した時点で、混合物の供給を中断し、反応温度を一定に保ちながら、放置して圧力を15絶対バールまで降下させた。次に、反応器を室温で冷却させ、ラテックスを排出し、48時間凍結させ、凝固したポリマーを解凍後、脱塩水で洗浄し、80℃で48時間乾燥させた。
【0061】
実施例5--79/21(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
実施例1と同じ手順に従ったが、最初に7.75絶対バールのVDFを導入し、30絶対バールの設定圧力値に達するまで、名目モル比79/21でのVDF-TrFEのガス状混合物を補充し、全体にわたって初期の組成:80.9モル%のVDF、19.1モル%のTrFEを提供し、設定圧力値を維持するために、前記混合物の供給を続けた。
【0062】
実施例6--80/20(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
実施例1と同じ手順に従ったが、最初に7.8絶対バールのVDFを導入し、30絶対バールの設定圧力値に達するまで、名目モル比80/20でのVDF-TrFEのガス状混合物を補充し、全体にわたって初期の組成:81.9モル%のVDF、18.1モル%のTrFEを提供し、設定圧力値を維持するために、前記混合物の供給を続けた。
【0063】
実施例8--75/25(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
実施例1と同じ手順に従ったが、最初に6.9絶対バールのVDFを導入し、30絶対バールの設定圧力値に達するまで、名目モル比75/25でのVDF-TrFEのガス状混合物を補充し、設定圧力値を維持するために、前記混合物の供給を続けた。
【0064】
PFPE界面活性剤及び(比較の)有機開始剤の存在下での乳化重合実施例-方法CM1
実施例2C--70/30(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
バッフル及び570rpmで作動する撹拌機を備えたAISI316スチール製垂直オートクレーブ中に、3.5リットルの脱塩水を導入した。120℃の反応温度まで温度を上昇させた。この温度に達した際に、米国特許第7122608号明細書(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)の実施例1に従って調製したマイクロエマルジョン32.5gと、6.9絶対バールの圧力に達するような量のVDFとを導入した。次に、70/30の名目モル比でのVDF-TrFEのガス状混合物を、30絶対バールの設定圧力値に到達するまで圧縮機を介して加えた。重合開始時に、ガス相は、GC分析により、77.7モル%のVDF、22.3モル%のTrFEからなることがわかった。次に、計量により、純粋なジ-tert-ブチルパーオキシド(DTBP)を22cc導入し、上述のVDF-TrFE混合物を供給することにより、設定圧力値を一定に維持し、2%の混合物(目標を288gに設定)を供給し、温度を105℃まで下げた。288gを供給した時点で、モノマーの供給を中断し、温度を維持しながら、放置して圧力を15絶対バールまで降下させた。次に、反応器を室温で冷却させ、ラテックスを排出し、48時間凍結させ、凝固したポリマーを解凍後、脱塩水で洗浄し、80℃で48時間乾燥させた。
【0065】
実施例3C--69.5/30/0.5(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE-AA
実施例2Cと同じ手順に従ったが、30絶対バールの設定圧力値に達するまで、名目モル比70/30でのVDF-TrFEのガス状混合物を補充し、全体にわたって初期の組成76.1モル%のVDF、23.9モル%のTrFEを提供し、19mLのDTBPを2.5体積/体積の濃度のアクリル酸水溶液4mLに等しい初期量との組み合わせで供給し、29gのモノマー混合物の消費毎に、2.5体積/体積の濃度のアクリル酸水溶液4mLの量を段階的に供給することにより、実施例2Cで詳述したように、設定圧力値を維持するために、前記VDF-TrFE混合物を供給し続けながら重合を実行した。
【0066】
実施例7c--80/20(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
実施例2Cと同じ手順に従ったが、最初に7.85絶対バールのVDFを導入し、30絶対バールの設定圧力値に達するまで、名目モル比80/20でのVDF-TrFEのガス状混合物を補充し、全体にわたって初期の組成::86.5モル%のVDF、13.5モル%のTrFEを提供し、設定圧力値を維持するために、24mLのDTBPを供給し、前記VDF-TrFE混合物の供給を続けた。
【0067】
実施例9c--74.55/25/0.5(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE-AA
実施例2Cと同じ手順に従ったが、最初に7.35絶対バールのVDFを導入し、30絶対バールの設定圧力値に達するまで、名目モル比75/25でのVDF-TrFEのガス状混合物を補充し、全体にわたって初期の組成:82.5モル%のVDF、17.5モル%のTrFEを提供し、30mLのDTBPを上述と同じアクリル酸溶液4mLとの組み合わせで供給し、実施例3Cで詳述したように、設定圧力値を維持するために、前記VDF-TrFE混合物、前記アクリル酸溶液の供給を続けた。
【0068】
実施例11c--75/25(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
実施例2Cと同じ手順に従ったが、最初に7.35絶対バールのVDFを導入し、30絶対バールの設定圧力値に達するまで、名目モル比75/25でのVDF-TrFEのガス状混合物を補充し、全体にわたって初期の組成:82.5モル%のVDF、17.5モル%のTrFEを提供し、設定圧力値を維持するために、27mLのDTBPを供給し、前記VDF-TrFE混合物の供給を続けた。
【0069】
PFPE界面活性剤及び(比較の)無機開始剤の存在下での乳化重合実施例-方法CM2
実施例10c--75/25(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
バッフル、及び570rpmで作動する撹拌機を備えたAISI316スチール水平オートクレーブに、3.5Lの脱塩水を導入した。85℃の反応温度まで温度を上昇させた。この温度に達した際に、米国特許第7122608号明細書(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)の実施例1に従って調製したマイクロエマルジョン32.5gと、7.35絶対バールのフッ化ビニリデンとを導入した。75/25の名目モル比でのVDF-TrFEのガス状混合物を、30絶対バールの設定圧力値に到達するまで圧縮機を介して加えた。ガス相は、GCにより:82.2モル%のVDF、17.8モル%のTrFEからなることがわかった。次に、計量システムにより、60mLの過硫酸アンモニウム水溶液(1重量%)を導入した。上述のモノマー混合物を供給することによって、重合圧を一定に維持し;2%の混合物(目標を288gに設定)を供給した際に、温度を105℃まで下げた。288gを供給した時点で、供給を中断し、温度を一定に維持しながら、放置して圧力を15絶対バールまで降下させた。反応器を室温で冷却させ、ラテックスを排出し、48時間凍結させ、凝固したポリマーを解凍後、脱塩水で洗浄し、80℃で48時間乾燥させた。
【0070】
懸濁重合の(比較の)実施例-方法CM3
実施例4C--70/30(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
AISI316スチール製垂直オートクレーブ、及び880rpmで作動する撹拌機中に、1406gの脱塩水を導入した。14℃の温度に達した時点で、VDFを664g、TrFEを358g、及び濃度0.12重量/重量%濃度を有するCa(OH)水溶液を713g、20g/kgの濃度を有するBermocoll(登録商標)E230G水溶液を26.5g、米国特許第6255520号明細書(SOLVAY SA)3/07/2001の実施例1に記載されるように調整したジエチルパーオキシジカーボネート溶液を3.11g、及びジエチレンカーボネートを8.3g導入した。次に、温度を40℃まで上昇させ、80絶対バールの圧力に到達した。圧力が44絶対バールまで低下するまで、40℃で反応を続行した後、温度を55℃まで上昇させ、圧力が29絶対バールまで降下するまでこの設定値を保った;温度を60℃まで再び上昇させ、圧力が8絶対バールまで降下するまで、この設定値を維持した。この時点で、反応器を室温で冷却させ、排気した。取得したポリマーを、脱塩水で洗浄し、100℃で16時間乾燥させた。
【0071】
実施例12C--75/25(モル比)でのコポリマーVDF-TrFE
実施例4Cと同じ手順に従ったが、最初に767gのVDFと255gのTrFEを装入し、圧力が7絶対バールまで降下するまで、最終の工程において60℃で重合を続行した。
【0072】
モノマーの組成及び取得したポリマーの基本特性を以下の表に要約する。
【0073】
【0074】
【0075】
(*)T、ΔH、T及びΔHは、それぞれ、ASTM D3418及びASTM D3418に従って示差走査熱量測定により求めた、キューリー転移温度、キューリー転移に関連するエンタルピー、溶融温度及び融解エンタルピーである。
(§)Xcは、パラメータであり:
(#)Mwは、溶媒としてジメチルアセトアミドを用いて、GPCにより標準としてのポリスチレンに対して求められる重量平均分子量である。
【0076】
熱的特性の測定
(j)キューリー転移温度(T)及びキューリー転移に関連するエンタルピー(ΔH)の測定
又はキューリー転移温度は、強誘電性相と常誘電性相間の転移が強誘電性材料に起こる際の温度を表す。キューリー転移温度は、第二加熱サイクル中にDSCサーモグラムに現れる第一吸熱ピークとして求められ、或いは、ASTM D 3418標準に従って理解される。ΔHは、この1次転移(キューリー転移)に関連するエンタルピーであり、既に詳述したようにDSCサーモグラムの第二加熱サイクルにおいて求められ、ASTM D 3418標準に含まれる指示を必要により修正を加えて、前記第二加熱サイクルに現れる第一吸熱ピークに準用する。Perkin Elmer Diamond DSC装置を用いて、ASTM D 1238に規定される第二加熱サイクルにおける10℃/分の昇温速度を採用して、DSC分析を実施した。
【0077】
(jj)融解エンタルピー(ΔH)及び溶融温度(T)の測定
Perkin Elmer Diamond DSC装置を用いて、ASTM D 3418に従って示差走査熱量測定(DSC)により、融解エンタルピー(ΔH)及び溶融温度(T)を求める。
【0078】
圧電性の測定
(i)フィルムの調製
メチルエチルケトンに溶かした濃度20重量/重量%のポリマー溶液を調製し、Elcometer自動フィルムアプリケーター、モデル4380を用いて、ドクターブレード法により、ガラス基材上にフィルムをキャストした。
【0079】
そのようにキャストしたポリマー層を真空下、100℃で2時間乾燥させた。そのように取得して、乾燥させたフィルムに関して、インクジェット印刷技術により、商標名ORGACON(登録商標)で、Agfa-Gevaertにより購入したポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホネート(PEDOT:PSS)を導電性材料として使用して、ポリマーフィルムの両側に、1cm×1cmの12のパターンを、電極として印刷した。試料の厚さを、Mitutoyoマイクロメーターを用いて測定した。
【0080】
(ii)フィルムのアニーリング
上に詳述したように取得したフィルムを、内部温度135℃に設定したガス抜きしたオーブンに入れた。1時間後、オーブンのスイッチを切り、室温に達するまで、5時間、冷却した。
【0081】
(iii)フィルムのポーリング
RADIANTによって最大10KVの電場が発生するHigh Volate Interfaceを組み合わせたLCPrecisionポーリング装置を使用して、フィルムをポーリングした。150V/ミクロン又は200V/ミクロンの電場がアニーリング済みの試験片を介して印加される分極セル内にアニーリング済フィルムを入れた。
【0082】
(iv)圧電係数(d33)の測定
110Hzの振動下、室温でフィルムを誘導する装置のひずみグージ溝(gouges)に上述のように取得したポーリング処理した試料を入れたPIEZOMETER PM300装置を用いて、圧電係数(d33)の値を測定した。d33をμC/Nとして報告する。
【0083】
(v)100V/μmでの漏洩の測定
漏洩は、充電済みのキャパシタからエネルギーが徐々に損失することを指す。漏洩の測定は、キャパシタの電極に100V/ミクロンを印加する分極セルで実施し、5秒後に前記エネルギー損失を測定する。
【0084】
(vi)フィルムの誘電率の測定
誘電率[k]の値は、ピエゾテスト(Piezotest)によって提供されたピエゾメーターシステムによる誘電容量の直接測定から導いた。容量値は、全て110Hzで測定した。
【0085】
(vi)強誘電性ヒステリシスの測定(P、Pmax
ヒステリシス測定は、アニーリング済みのフィルムに、80V/ミクロン~250V/ミクロンの電場でポーリング処理を施し、ヒステリシス曲線を得て、その曲線で最大分極及び残留分極を判断することにより、実施した。Pmaxは、印加される最大電場で実現できる最大分極であり、Pは、印加電場を除去した後の試料中の残留分極(レムナント分極とも呼ばれる)である。
【0086】
結果を下の表に要約する。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
有意な比較のために、ほぼ同様なモノマーの組成を有するが、その作製方法が異なるVDF-TrFEコポリマーの群の間で即比較できるように、表4において収集したデータを整理する。
【0091】
従って、実質的に70/30モル/モルの組成を有するVDF/TrFEコポリマーの圧電性を比較すると(実施例1;2c;(3c);4cを参照)、ここで実施例1は、本発明によるラテックスから取得したコポリマーであり、2c及び3cは、代替の界面活性剤の存在下で重合したラテックスから得られるが、請求項の秩序化結晶構造を達成していない;及び実施例4Cは、懸濁重合からのコポリマーであり、より大きなレムナント分極の値(P)は、実施例2c及び3cに対して実施例1で達成され、懸濁重合した4cでは、ほぼ接近した値を得た。
【0092】
事実、レムナント分極(P)は、ポーリング後にその結晶を延伸し続ける材料の能力を識別するパラメータであり、圧電性能を測定するのに最も重要な測定可能な特性のひとつである。
【0093】
同様に、実施例5及び実施例6(環状化合物の存在下で本発明によるラテックスから重合した)と、同様の組成物であるが、代替の界面活性剤の存在下で重合したラテックスから得られ、本明細書に主張する結晶相における構造秩序を達成していない実施例7Cとの比較によって、より高いP、より高いPmax及びより高いd33値を提供する効果が実証される。
【0094】
本発明によるラテックスから得られる実施例8の性能を考察すると、同じ結論を再び得ることができる。実施例10c、11c(本発明によるのではなく、乳化重合したラテックスから得られ)及び実施例12C(懸濁重合した材料から)の性能を超える:この場合においては、75/25モル/モルの組成に対して、本発明によるラテックスから得られるポリマーで達成するそのレムナント分極値P及びd33値は、他の乳化重合したコポリマーで達成される性能よりも優れているだけでなく、懸濁重合により達成される性能を超えている。
図1