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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】アルミナ担体
(51)【国際特許分類】
   B01J 21/04 20060101AFI20250106BHJP
   B01J 23/78 20060101ALI20250106BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20250106BHJP
   B01J 35/60 20240101ALI20250106BHJP
   B01J 35/61 20240101ALI20250106BHJP
   B01J 35/63 20240101ALI20250106BHJP
   B01J 35/64 20240101ALI20250106BHJP
   B01J 35/69 20240101ALI20250106BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20250106BHJP
   C04B 35/111 20060101ALI20250106BHJP
   C04B 38/00 20060101ALI20250106BHJP
   C07C 19/045 20060101ALI20250106BHJP
   C07C 17/08 20060101ALI20250106BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250106BHJP
【FI】
B01J21/04 Z
B01J23/78 Z
B01J32/00
B01J35/60 G
B01J35/61
B01J35/63
B01J35/64
B01J35/69
B01J37/08
C04B35/111
C04B38/00 303Z
C07C19/045
C07C17/08
C07B61/00 300
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020134207
(22)【出願日】2020-08-06
(65)【公開番号】P2022030305
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100222667
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 聡美
(72)【発明者】
【氏名】丹呉 威
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 哲勅
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-187569(JP,A)
【文献】特開2010-149115(JP,A)
【文献】特開2013-086070(JP,A)
【文献】特開平04-227065(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C04B 35/10-35/119,38/00
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンの気相塩素化反応用の触媒に使用するアルミナ担体において、
貫通する中空孔を少なくとも1つ有する筒状形状を有しており、
BET比表面積が140~280m/gであり、
水銀圧入法で測定した細孔直径15nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.04~0.15cm/gであり、且つ、細孔直径1000nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.02cm/g以下であり、
窒素吸着法で測定した細孔容積から得られた微分細孔分布グラフにおいて、3~9nmの範囲にピーク頂点が位置しており、
タッピング嵩密度が620~780g/Lであることを特徴とする、アルミナ担体。
【請求項2】
平均耐圧強度が18N以上である、請求項1に記載のアルミナ担体。
【請求項3】
形状が、高さ方向に貫通する中空孔を1つ有する円筒形で、円の外径が3~6mm、内径が1.0mm以上、肉厚が1.0~2.5mm、高さが3~6mmである、請求項1又は請求項2に記載のアルミナ担体。
【請求項4】
請求項1~の何れかに記載のアルミナ担体に、金属化合物1種以上が担持された、気相反応触媒。
【請求項5】
前記金属化合物として塩化銅が担持された、請求項に記載の気相反応触媒。
【請求項6】
水銀圧入法で測定した細孔直径15nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.04~0.15cm/gであり、且つ、細孔直径1000nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.02cm/g以下である、請求項またはに記載の気相反応触媒。
【請求項7】
エチレンの気相塩素化反応によってジクロロエタンを製造するための触媒として使用される、請求項の何れかに記載の気相反応触媒。
【請求項8】
粒径が、0.1μm以上1.0μm未満の範囲、1.0μm以上10.0μm以下の範囲、100μm以上300μm以下の範囲の3つの範囲すべてにおいて、少なくとも1つの粒度分布のピーク頂点を有する水和アルミナを用い、
前記水和アルミナを脂肪酸金属塩と混合して、成形用原料を調整し、
前記成形用原料を圧縮成形することにより、貫通する中空孔を少なくとも1つ有する筒状体を得、
前記筒状体を焼成して、前記水和アルミナをアルミナに転換すること、
を特徴とする、請求項1~の何れかに記載のアルミナ担体の製造方法。
【請求項9】
前記水和アルミナは、メジアン径(D50)が45~100μm、D10が1~10μm、D90が180~400μmである、請求項に記載の製造方法。
【請求項10】
請求項の何れかに記載の触媒を用いて、ジクロロエタンを製造する方法。
【請求項11】
請求項の何れかに記載の触媒の存在下、220℃~330℃で、エチレンと塩化水素ガスと酸素の反応を行う、ジクロロエタンの製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載のジクロロエタンの製法方法により得られるジクロロエタンを、熱分解する工程を含む、塩化ビニルモノマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相反応用の触媒に使用するアルミナ担体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ成形体から成る担体は、触媒に使用する担体として広く用いられている。このようなアルミナ担体は、γ構造或いはそれに近い構造を有する活性アルミナから成る。
【0003】
アルミナ担体は、通常、原料となる水和アルミナ(水酸化アルミニウム)を成形、焼成することで得られる。成形体の形状としては、中空の円柱状が、担体に担持した触媒と処理物質との接触面積が大きく、しかも各種操作における圧力損失も小さくなるという観点から好ましい。また、成形方法としては、圧縮成形により行うことが、担体の強度を確保する観点から好ましい。
特許文献1には、圧縮成形により成形された中空の円柱状アルミナ成形体から成る触媒が記載されている。当該触媒は、その形状が円筒形で、円の外径Dが3mm~6mm未満、内径が1.0mm以上、肉厚が1.5mm以下、且つ高さHが3~6mmであり、オキシハロゲン化反応或いはハロゲン化反応用の固定触媒として特に適している。
【0004】
しかし、圧縮成形には概して比表面積や細孔容積が小さくなるという問題がある。即ち、圧縮成形の際の打錠圧を大きく設定すると、得られるアルミナ成形体の強度は増大するが、同時にメソ細孔、マクロ細孔の縮小が生じ、更に比表面積も減少する傾向があり、このため成形体の吸着能力や活性が大幅に低下するという問題を引き起こすのである。
【0005】
そこで、本出願人は、アルミナ粉体の50乃至95重量%がγ構造乃至γ構造に近いアルミナであり、形成されたアルミナ系成形体の単位高さあたりの圧壊強度が0.30kg/mm以上であり且つ窒素吸着法で求めた細孔直径20乃至700オングストロームの範囲における細孔分布のピークが90乃至150オングストロームに位置することを特徴とするアルミナ成形体を提供した(特許文献2参照)。当該アルミナ成形体は、成形体の強度および見掛け密度が大きく、しかも吸着性や表面活性が高いレベルに維持されており、吸着サイトとなるメソ細孔および触媒反応に供する処理物質をメソ細孔へ安定に導入するための導入空間として機能するマクロ細孔の収縮も抑制されている。
【0006】
本出願人による特許文献2にも示されている通り、従来、触媒活性の発現にはメソ細孔およびマクロ細孔の収縮を抑制することが有効であると認識されていた。特に、触媒活性を有効に発揮するためには、直径1000nm以上のマクロ細孔の容積を十分に保持したアルミナ担体を用いることが必要と認識されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭56-141842号公報
【文献】特開2001-226172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の細孔構造が制御されたアルミナ担体は、高い触媒活性を発揮する一方で、副反応等の目的としていない不要な活性についても増大しており、目的とする触媒反応の活性増大と、副生成物の抑制とを両立したアルミナ担体が求められている。
従って、本発明の目的は、気相反応用の触媒に使用され、特に塩化銅等の塩素化触媒を担持した時に、触媒反応が高活性になり、且つ副生成物の収率が低減されるアルミナ担体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、気相反応用の触媒に使用するアルミナ担体において、貫通する中空孔を少なくとも1つ有する筒状形状を有しており、BET比表面積が140~280m/gであり、水銀圧入法で測定した細孔直径15nm以上20000nm以下の細孔の容積(全細孔容積)が0.04~0.15cm/gであり、且つ細孔直径1000nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.02cm/g以下であり、タッピング嵩密度が620~780g/Lであること、を特徴とするアルミナ担体が提供される。
【0010】
本発明のアルミナ担体においては、
(1)平均耐圧強度が18N以上であること、
(2)形状が、高さ方向に貫通する中空孔を1つ有する円筒形で、円の外径が3~6mm、内径が1.0mm以上、肉厚が1.0~2.5mm、高さが3~6mmであること、
(3)エチレンの気相塩素化反応の触媒の担体として使用されること、
が好ましい。
【0011】
本発明によれば、また、前記アルミナ担体に、金属化合物1種以上が担持された気相反応触媒が提供される。
【0012】
本発明の気相反応触媒においては、前記金属化合物として塩化銅が担持することが、好ましい。
【0013】
本発明の気相反応触媒においては、水銀圧入法で測定した細孔直径15nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.04~0.15cm/gであり、且つ、細孔直径1000nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.02cm/g以下であることが、好ましい。
【0014】
本発明の気相反応触媒においては、エチレンの気相塩素化反応によってジクロロエタンを製造するための触媒として使用されることが、好ましい。
【0015】
本発明によれば、さらに、粒径が300μm以下の領域に、少なくとも2つの粒度分布のピーク頂点を有する水和アルミナを用い、前記水和アルミナを脂肪酸金属塩と混合して、成形用原料を調整し、前記成形用原料を圧縮成形することにより、貫通する中空孔を少なくとも1つ有する筒状体を得、前記筒状体を焼成して、前記水和アルミナをアルミナに転換することを特徴とする前記アルミナ担体の製造方法が提供される。
【0016】
本発明のアルミナ担体の製造方法においては、前記水和アルミナは、メジアン径(D50)が45~100μm、D10が1~10μm、D90が180~400μmであることが好ましい。
【0017】
尚、本明細書において、メソ細孔およびマクロ細孔との表現は、細孔直径の相対的な大きさを考慮して、細孔直径が2nm以上50nm未満のメソ細孔、および細孔直径が50nm以上20000nm以下のマクロ細孔を示すものとして、説明の便宜上用いたものである。
【0018】
本発明によれば、本発明の気相反応触媒を用いる、ジクロロエタンの製造方法が提供される。
【0019】
本発明のジクロロエタンの製造方法においては、本発明の触媒の存在下、220℃~330℃で、エチレンと塩化水素ガスと酸素の反応を行うことが好ましい。
【0020】
本発明によれば、前記ジクロロエタンを熱分解する工程を含む、塩化ビニルモノマーの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明のアルミナ担体で特に重要な特徴は、水銀圧入法で測定した全細孔容積が0.04~0.15cm/gであり、且つ細孔直径1000nm以上20000nm以下の細孔の容積が0.02cm/g以下であるという、マクロ細孔の比率が低減された細孔構造を有している点にある。
本発明において、上記のような細孔構造を有するアルミナ担体により、触媒反応が高活性になり、且つ副生成物の収率が低減されるという事実は、多くの実験により現象として見出されたものであり、その理由は明確に解明されるには至っていない。特に、これまで触媒活性を有効に発揮するためには、直径1000nm以上のマクロ細孔の容積を十分に保持したアルミナ担体を用いることが必要という認識に反するものである。しかし、触媒反応を高活性にさせ、且つ副生成物の収率を低減させるためには、触媒活性の高さと反応熱の放出のしやすさを両立する必要がある。これは、副生成物の生成は反応熱が原因のためと考えている。おそらく、上記のような細孔構造は、触媒活性の高さと反応熱の放出のしやすさが高度に両立されているものと考えられる。
【0022】
本発明の気相反応触媒の特徴は、高耐圧強度であるにも関わらず、触媒活性が高く、かつ、非常に高いジクロロエタン(EDC)への選択性を示すことである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明における実施例および比較例に用いた水和アルミナ原料について、レーザー回折・散乱法から得られた粒度分布のグラフである。
図2】本発明における実施例および比較例に用いた水和アルミナ原料について、レーザー回折・散乱法から得られた粒度分布のグラフである。
図3】本発明における実施例1~3および比較例1~3について、水銀圧入法によって測定されたLog微分細孔分布のグラフである。
図4】本発明における実施例1~3および比較例1~3について、水銀圧入法によって測定されたLog微分細孔分布のグラフである。
図5】本発明における実施例1~3および比較例1~3について、水銀圧入法によって測定されたLog微分細孔分布のグラフの拡大図である。
図6】本発明における実施例1~3および比較例1~3について、水銀圧入法によって測定されたLog微分細孔分布のグラフの拡大図である。
図7】本発明における実施例1~3および比較例1について、窒素吸着BJH脱離法によって測定された微分細孔分布のグラフである。
図8】本発明における実施例1~3および比較例1について、窒素吸着BJH脱離法によって測定された微分細孔分布のグラフである。
図9】本発明における実施例1~3および比較例1について、窒素吸着BJH脱離法によって測定された微分細孔分布のグラフである。
図10】本発明における実施例1~3および比較例1について、窒素吸着BJH脱離法によって測定された微分細孔分布のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<アルミナ担体>
本発明のアルミナ担体は、後述する多元細孔構造を有するものであれば、その結晶構造は特に制限されず、γ、θ、δ、η、κ等の結晶構造を有するものであってよいが、特に安定した多元細孔構造を容易に形成できるという点で、γ‐アルミナが好適である。
【0025】
本発明においては、細孔直径が15nm以上20000nm以下の細孔の容積を全細孔容積とする。
本発明のアルミナ担体は、メソ細孔、およびマクロ細孔を有する多元細孔構造を備えるものである。
【0026】
本発明のアルミナ担体は、全細孔容積が0.04~0.15cm/gであり、好ましくは0.06~0.11cm/gである。
全細孔容積が0.04cm/g未満だと、上記のようなメソ細孔およびマクロ細孔を一定の量で形成することが困難となってしまう虞がある。また、全細孔容積が0.15cm/gより大きいと、当該アルミナ担体の耐熱性や圧縮強度が低くなってしまい、触媒活性成分を担持する担体としての性能が損なわれ、熱収縮や崩壊等により細孔構造を安定に保持することができず、触媒性能を安定して発揮させることが困難となってしまう虞がある。
【0027】
本発明のアルミナ担体は、全細孔容積が上記範囲内であることを条件として、1000nm以上20000nm以下のマクロ細孔の容積が0.02cm/g以下、好ましくは0.01cm/g以下であり、特に好ましくは0.008cm/g以下である。本発明のアルミナ担体においては、前記範囲のマクロ細孔の容積が大きくなると、触媒反応が高活性化するものの、副生成物の収率も増大してしまう傾向がある、ゆえに、前記範囲のマクロ細孔の容積が0.02cm/gよりも大きいと、副生成物の低減が不十分になってしまう虞がある。
【0028】
尚、本発明において、上述した全細孔容積およびマクロ細孔の容積は、水銀圧入法によって測定される。
【0029】
また、本発明のアルミナ担体は、水銀圧入法によって測定される全細孔容積および1000nm以上20000nm以下のマクロ細孔の容積が前述した範囲にあることに関連して、高い比表面積を有しており、窒素吸着法によるBET比表面積が140~280m/gであり、好ましくは160~260m/gである。
【0030】
本発明のアルミナ担体は、当該アルミナ担体をリアクターまたはシリンダー等の容器に詰めてタッピングした際の容積および重量から求められたタッピング嵩密度が620~780g/Lであり、好ましくは650~750g/Lである。当該タッピング嵩密度は、圧縮成形時の圧力の増加に伴い増大する。また、焼成条件によっても変動する。
当該タッピング嵩密度が620g/L未満であると、圧縮強度や摩耗強度が上記範囲内にある場合に比して低下するようになる。また当該タッピング嵩密度を780g/Lより大きくすると密度が高くなるため細孔容積が低下し、触媒反応の活性が低下してしまう虞がある。
【0031】
本発明のアルミナ担体は、水銀圧入法によって測定された細孔容積から得られたLog微分細孔分布のグラフにおいて、細孔直径50nm以上の領域におけるピーク頂点が、好ましくは100~1100nmの範囲に、より好ましくは300~1000nmの範囲に位置している。ピーク頂点が当該範囲にない場合、触媒反応の活性低下や副生成物の収率が増大してしまう虞がある。
【0032】
また、本発明のアルミナ担体は、前記Log微分細孔分布のグラフにおいて、細孔直径15~50nm領域にはピーク頂点を有さないことが好ましい。当該領域にピーク頂点を有する場合、触媒反応の活性低下や、副生成物の収率が増大してしまう虞がある。
【0033】
本発明のアルミナ担体は、窒素吸着法によって測定された細孔容積から得られた微分細孔分布のグラフにおいて、好ましくは3~9nmの範囲に、より好ましくは4~7nmの範囲にピーク頂点が位置している。ピーク頂点が当該範囲にない場合、触媒反応の活性低下や、副生成物の収率が増大の虞がある。
【0034】
本発明のアルミナ担体は、平均耐圧強度が18N以上であり、好ましくは20N以上である。本発明における平均耐圧強度は、アルミナ担体の側面を下にして置き、垂直上方向から荷重をかけた時の、アルミナ担体が砕壊されたときの荷重であり、任意に選択して測定された20個のアルミナ担体の強度の平均値を用いる。
アルミナ担体の平均耐圧強度が18N以上であれば、本発明のアルミナ単体から得られる触媒の平均耐圧強度はアルミナ担体と同等あるいは同等以上の強度となる。
【0035】
本発明のアルミナ担体の形状は、高さ方向に貫通する中空孔を1つ有する円筒形である。中空の円筒形にすることで、成形体の耐圧強度が高く、成形体と反応体や処理物質との接触面積が大きく、しかも各種操作における圧力損失も小さくなる。
このような円筒形としては、円の外径が3~6mm、特に4~5.5mm、内径が1.0mm以上、特に1.5mm以上、肉厚が1.0~2.5mm、特に1.0~2.0mm、高さが3~6mm、特に4~5.5mm、そして内径/外径の比が0.17~0.67、特に0.27~0.64であるものが、前述した耐圧強度、接触面積の確保、圧力損失の軽減などの見地から好ましい。
また、本発明のアルミナ担体の好ましい形状としては、用途に応じて、従来公知の筒状形状に成形してもよく、例えば特開2017-154051に開示されたアルミナ担体のように、高さ方向に貫通する中空孔を少なくとも1つ有する形状であれば、特に制限はない。
【0036】
本発明のアルミナ担体は、不純物として水和アルミナ原料に由来するFeを含有することがあるが、担持させる触媒の活性を阻害させないよう、さらには副生成物の生成量を増加させないために、Feの含有量は400ppm以下が好適であり、200ppm以下がより好適である。また、本発明のアルミナ担体は、原料の脂肪酸金属塩に由来する金属成分を一定量で含み、用途に応じて、使用する脂肪酸金属塩の種類と量により適宜調整することができる。一般に、金属成分はアルカリ金属またはアルカリ土類金属の酸化物であり、本発明のアルミナ担体をエチレンの気相塩素化反応の触媒の担体として使用する場合、好ましい金属成分はアルカリ土類金属の酸化物である。また、本発明のアルミナ担体に対する脂肪酸金属塩に由来する金属成分含有量は、0.01~5質量%の範囲であることが好ましい。
【0037】
本発明のアルミナ担体は、気相反応用の触媒に使用するアルミナ担体であるが、エチレンの気相塩素化反応の触媒の担体として使用されることが好ましい。
エチレンの気相塩素化反応としては、エチレンと塩化水素と酸素を反応させるオキシ塩素化反応、および、エチレンと塩素を直接反応させる直接塩素化反応の2種類の反応形態があるが、本発明の担体を用いた触媒は、いずれの反応形態にも使用できる。より好ましい反応形態は、エチレンのオキシ塩素化反応用触媒として使用する場合である。
【0038】
<気相反応触媒>
本発明の気相反応触媒は、本発明のアルミナ担体に、触媒成分として任意の金属化合物を1種以上担持させたものである。そして、本発明の気相反応触媒は、本発明のアルミナ担体の極めて特徴的な細孔分布により、触媒反応が高活性になり、且つ、副生成物の収率が低減される。
【0039】
触媒成分としての金属化合物を担持させる方法としては、本発明のアルミナ担体を触媒活性成分の可溶性塩の溶液に浸漬し、担体中に導入する含浸法等、公知の方法を採用することができるが、操作上容易であり、触媒特性の安定化維持に好都合な含浸法によることが好ましい。例えば、本発明のアルミナ担体を、常温または常温以上で含浸溶液に浸漬して所望の成分が十分担体中に含浸する条件下で保持するのがよい。含浸溶液の濃度、量および温度等は、所望の量の触媒成分が担持されるように適宜調整することができる。
【0040】
このようにして前記金属化合物が担持された気相反応触媒は、適宜リアクター等に充填して使用される。
【0041】
前記金属化合物としては、銅、バナジウム、マンガン、クロム、モリブデン、タングステン、鉄、コバルト、ニッケル、オスミウム、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム又はルテニウム等を含有する金属化合物を担持させることができる。
本発明の気相反応触媒をエチレンの気相オキシ塩素化反応として使用する場合には、これらのうちでも、銅化合物、特に塩化銅を担持させることが好ましく、中でも、塩化第二銅を担持することによって、高い触媒活性と高い保持安定性を有する触媒となる。
さらに、塩化銅に加えて、周期表1族元素の金属化合物(例えば、塩化カリウム、塩化セシウム等)を1種または2種添加することによって、副生成物の生成量を低減する、すなわち、ジクロロエタン(EDC)への選択率を向上させることができる。
【0042】
塩化銅を担持させた本発明の触媒は、エチレンの気相オキシ塩素化反応の触媒として使用されることが好ましい。
エチレンの気相オキシ塩素化反応では、エチレンが塩素化され、ジクロロエタン(以下「EDC」と称す、構造:Cl-CH-CH-Cl)が得られる。この際、副生成物としてモノクロロエタン(以下「EtCl」と称す、構造:CH-CH-Cl)が生成する。
エチレンのオキシ塩素化触媒としては、反応器に適した触媒活性とEDCへの高い選択性が求められる。過度に高い触媒活性を有する触媒は、通常EDCへの選択性が低くなる傾向がある。
塩化銅を担持させた場合のエチレンの気相オキシ塩素化反応の触媒活性は、好ましくは6.0g-EDC/(cm-触媒・Hr)以上、より好ましくは7.0g-EDC/(cm-触媒・Hr)以上である。
なお、触媒活性は、塩化銅の濃度および全細孔(15~20000nm)容積を制御することにより、コントロールすることが可能であり、塩化銅の濃度は10.0~18.0重量%の範囲が好ましい。全細孔(15~20000nm)容積は0.05~0.200cm/gの範囲が好ましい。
また、主な副生成物であるモノクロロエタンの相対的な選択率(以下、「副生成物選択率」と称す)は、EDCの生成量に対するモノクロロエタンの生成量比(EtCl/EDC)で評価し、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.35以下である。
ここで、副生成物であるモノクロロエタンの生成量比は低い方が望ましく、結果としてEDCへの高い選択率につながる。
なお、副生成物選択率は、塩化カリウムなどの添加金属塩の濃度およびマクロ細孔(1000~20000nm)容積を制御することにより、コントロールすることが可能であり、塩化カリウムなどの添加金属塩濃度は1.0~7.0重量%の範囲が好ましい。マクロ細孔(1000~20000nm)容積は0.001~0.02cm/gの範囲が好ましい。
【0043】
オキシ塩素化反応によりEDCを製造する際の反応形式に特に制限はなく、任意の反応形式で行うことが可能であり、例えば、固定床流通式または流動床流通式で行うことができる。これらのうち、装置が簡便なことから、固定床流通式で行うことが好ましい。エチレン、塩化水素および酸素を原料にして、オキシ塩素化反応によるEDCを製造する際の反応形式に特に制限はなく、任意の反応形式で行うことが可能であり、例えば、固定床流通式または流動床流通式で行うことができる。これらのうち、装置が簡便なことから固定床流通式で行うことが好ましい。エチレン、塩化水素および酸素を原料にして、オキシ塩素化反応によるEDCを製造する際の反応形式に特に制限はなく、任意の反応形式で行うことが可能であり、例えば、固定床流通式または流動床流通式で行うことができる。これらのうち、装置が簡便なことから固定床流通式で行うことが好ましい。エチレン、塩化水素および酸素を原料にして、オキシ塩素化反応によるEDCを製造する際の反応形式に特に制限はなく、任意の反応形式で行うことが可能であり、例えば、固定床流通式または流動床流通式で行うことができる。これらのうち、装置が簡便なことから固定床流通式で行うことが好ましい。
【0044】
本発明のオキシ塩素化触媒の特徴は、高耐圧強度であるにも関わらず、非常に高いEDCへの選択性を示すことである。
固定床オキシ塩素化触媒の形状としては、中空円筒形状が、アルミナ担体に関して前述したように、圧力損失の低減だけでなく、EDCへの選択率向上の観点からも、好ましい。
エチレンの気相オキシ塩素化反応は発熱反応である為、触媒における熱の蓄積により、EDC以外の副反応生成物が多く生成しやすくなる。そのことを回避するために、触媒本体の高さをより小さくすることが好ましい。一方、高さを小さくしすぎると、触媒の割れ、粉化につながる為、中空円筒形状で耐圧強度を保ちながら厚みを小さくすることが好ましい。
【0045】
本発明におけるオキシ塩素化触媒の耐圧強度は、平均耐圧強度が18N以上であり、好ましくは20N以上である。耐圧強度が18N以上であれば、反応器へ充填する際に破壊したり、粉化したりすることは殆どない。また、反応器内で運転している最中にも破壊、粉化しにくいことになる。
ここで、反応器内での破壊、粉化しにくいことは、反応器の差圧上昇を抑制するため、触媒特性として望ましいことである。
【0046】
<アルミナ担体の製造方法>
本発明のアルミナ担体の製造方法は、粒径が300μm以下の領域に、少なくとも2つの粒度分布のピーク頂点を有する水和アルミナを用意し、前記水和アルミナを脂肪酸金属塩と混合して、成形用原料を調整し、前記成形用原料を圧縮成形することにより、貫通する中空孔を少なくとも1つ有する筒状体を得、前記筒状体を焼成して、前記水和アルミナ(水酸化アルミニウム)をアルミナ(酸化アルミニウム)に転換することを特徴とする。
【0047】
前記水和アルミナは、粒径が300μm以下の領域に少なくとも2つの粒度分布のピーク頂点を有する。粒径300μm以下の領域における粒度分布のピーク頂点は、3つ以上であることが好ましい。
また、粒度分布のピーク頂点は、0.1μm以上1.0μm未満の範囲、1.0μm以上10.0μm以下の範囲、100μm以上300μm以下の範囲のいずれかの範囲のうち、2つ以上の範囲にあることが好ましく、特に3つの範囲すべてにおいて、少なくとも1つの粒度分布のピーク頂点を有することが好ましい。
本発明のアルミナ担体の製造に用いる水和アルミナが、上記少なくとも2つの粒度分布のピーク頂点を有することは、多元細孔構造を形成するうえで有利である。また、それぞれのピークの幅がブロードであるほど、触媒反応が高活性になり、副生成物の収率が低減される。
【0048】
前記水和アルミナとしては、擬ベーマイトを用いることが好ましい。すなわち、擬ベーマイトを経由して焼成することにより、アルミナ、好ましくはγ型構造或いはγ型構造に近いアルミナとすることで、例えばBET比表面積が140~280m/gといった、BET比表面積が大きなアルミナが得られるためである。
【0049】
前記水和アルミナは、成形機への充填の都合上、粉体であることが好ましい。また、当該粉体のメジアン径(D50)が45~100μm、D10が1~10μm、D90が180~400μmであることが好ましい。当該粉体のメジアン径(D50)およびD10、D90が前記範囲にない場合、本発明のアルミナ担体に独特の細孔分布が得られなくなる虞がある。
【0050】
前記水和アルミナは、水分含有量が20質量%以下、特に15質量%以下であることが好ましい。水分含有量が20質量%を超えると、焼成時にクラックが入りやすくなる虞がある。
【0051】
本発明のアルミナ成形体の原料である脂肪酸金属塩は、圧縮成形時の摩擦を小さくすること、また、焼成時に揮発させることでアルミナ担体に細孔を形成させること、等を目的として配合されている。
当該脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ナトリウムおよびステアリン酸カリウム等が用いられる。本発明では、これらの内でもステアリン酸マグネシウムを用いるのが好ましい。
【0052】
当該脂肪酸金属塩の添加量は、原料の前記水和アルミナに対して2~7質量%であることが好ましく、3~6.5質量%の量であることがより好ましい。
当該脂肪酸金属塩の添加量が2質量%未満であると、水和アルミナによる圧縮成形機への固着(スティッキング)が発生して生産性を著しく低下させる虞がある。また、当該脂肪酸金属塩の添加量が7質量%より多いと、1000nm以上20000nm以下のマクロ細孔が増大して副生成物の低減が不十分になってしまうになる虞がある。
【0053】
また、本発明のアルミナ成形体の原料としては、必要により、無機質の賦形剤、結合剤としてカオリン、ハロイサイト、木節粘土、蛙目粘土等のカオリン族粘土鉱物、モンモリロナイト、ベントナイト、バイデライト等のモンモリロナイト族粘土鉱物、又はサポナイト、スチブンサイト、ヘクトライト等の3-八面体層型粘土鉱物の粉末を、前記水和アルミナに対して50質量%以下、好ましくは2~10質量%の量で使用することもできる。
【0054】
本発明によれば、前述した原料を混合して成形用原料を調整し、この混合物を圧縮成形し、熱処理してアルミナ成形体とする。原料の混合には、それ自体公知の混合機、例えばコニカルブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等を用いることができる。
【0055】
圧縮成形には、成形機として公知のものが使用される。成形機は、一般に、貫通する中空孔の形成に対応する杵を有する金型を備えるものが使用され、例えば、臼(筒状の金型)と上杵(臼に対して上部から原料を加圧するピストン)と下杵(臼に対して下部から原料を加圧するピストン)との組合せからなっており、下記の工程、
(1)充填:上杵が上昇し、下杵が下降している状態で臼内に原料粉体を供給する、
(2)圧縮:上杵が下降し、或いは更に下杵が上昇して臼内の原料粉体を圧縮する、
(3)放出:上杵が上昇し、下杵も上昇して、臼内の圧縮成形体を臼から放出する、
(4)準備:下杵が下降して充填状態に復帰する、
により、圧縮成形が行われるものである。
【0056】
前記(1)充填に際しては、エアー供給などにより、臼内への原料粉体の供給を促進してもよい。
【0057】
圧縮成形における粉体の挙動に着目すると、次第に粉粒体の空隙は減少し粒子が密着して成形が行われるものであるが、この過程には次の四の段階があると言われている。
第一段階:原料粒子が互いにすべり合って空隙を埋め、密度が高くなっていく。
第二段階:さらに圧力が大きくなると、粉体内のブリッジが崩され空隙が埋められ、原料自身も変形していく。
第三段階:粒子の一部が破壊され新しい面が生じ、互いに密着した結合状態がつくられる。
第四段階:原料粒子の加工硬化が極限に達し、さらに圧力を加えても容積変化が生じなくなって成形が終了する。
この四つの段階は、実際にははっきりと区別されず、部分的に同時に起こっている場合もあるが、本発明に用いる原料混合物(成形用原料)は、前記水和アルミナおよび脂肪酸金属塩の混合物であることから、圧縮成形性に優れ、均質かつ高い歩留まりで成形される。
【0058】
本発明に用いる原料混合物(成形用原料)の成形は、単発式の圧縮成形機を用いて行うこともできるが、連続式乃至回転式の圧縮成形機を用いて成形を行うことが好ましい。この連続式乃至回転式の圧縮成形機では、例えば、回転ターレットの周囲に、前記臼と前記上杵と前記下杵との組合せから成る圧縮成形ユニットが多数配置されており、ターレットの回転につれて、前記(1)乃至(4)の行程が順次行われ、圧縮成形が完了する。
【0059】
圧縮成形により得られる貫通する中空孔を有する筒状体(成形体)の形状および寸法は、杵または金型の形状および寸法を変えることにより、自由に選択できる。中空孔の位置は、貫通する中空孔が高さ方向に1つの場合、強度の観点から筒状体の中央を貫通していることが好ましく、また、2つ以上の中空孔を形成する場合は、目的の用途に応じた圧縮強度や摩耗強度となるよう、適宜調整される。
【0060】
本発明のアルミナ担体の製造においては、圧縮成形時の成形体密度を調整することにより、アルミナ担体の細孔構造の制御を行うことが好ましい。圧縮成形時の成形体密度は、充填される原料の量と圧縮の強さ等で調整されるが、一般に前記連続式乃至回転式の圧縮成形機を用いて製造する場合は、成形体の高さ寸法あたりの重量により評価される。即ち、外径および内径は金型のサイズによって固定されているため、高さ寸法あたりの成形体質量を簡易的な指標として用いることができる。また、成形体質量は原料の付着水分量によって変動するため、あらかじめ水分量を求めて150℃乾燥換算質量で成形体密度を管理することが望ましい。
このようにして評価された圧縮成形時の成形体密度は、好ましくは0.016~0.024g/mmであり、より好ましくは0.018~0.022g/mmである。圧縮成形時の成形体密度が0.016g/mm未満であると、圧縮強度や摩耗強度が低下する虞がある。また圧縮成形時の成形体密度が0.024g/mmより大きいと、細孔容積や比表面積が低下して触媒活性が低下する虞がある。
【0061】
本発明によれば、かくして得られた貫通する中空孔を有する筒状体(成形体)を最後に焼成してアルミナ担体を得る。焼成温度は好ましくは450~750℃であり、より好ましくは500~700℃であり、前記温度で30分間~5時間程度熱処理を行うのが適当である。焼成温度が450℃未満であると、アルミナ担体の耐圧強度が不十分となる虞があり、一方、焼成温度が750℃より高いと、本発明のアルミナ担体に独特の細孔分布が得られなくなる虞がある。
【0062】
<気相反応触媒によるジクロロエタンの製造方法>
本発明のオキシ塩素化触媒を用いるジクロロエタンの製造方法としては、エチレン、塩化水素および酸素を原料として、適切な温度、圧力の下、反応を制御することによって製造することができる。酸素の代わりに、空気または、酸素を添加した空気を用いることもできる。
反応温度に特に制限はなく、中でもEDCへの転換が効率的になることから、100℃~400℃が好ましく、特に150℃~350℃であることが好ましい。反応温度に特に制限はなく、中でもEDCへの転換が効率的になることから、100℃~400℃が好ましく、特に150℃~350℃であることが好ましい。反応温度に特に制限はないが、ジクロロエタンの生成が効率的となることから、100~400℃が好ましく、200℃~330℃が特に好ましい。
また、反応圧力にも特に制限はないが、通常、絶対圧で0.01~2MPaであり、好ましくは0.05~1MPaである。
また、固定床流通式反応の際のガス時間空間速度(GHSV)は、EDCへの生成反応を効率的に進行できることから、好ましくは1,000hr-1~10,000hr-1 、さらに好ましくは2,000hr-1 ~8,000hr-1 である。ここで、ガス時間空間速度(GHSV)とは、全供給ガス量(m/h)を触媒充填量(m)で除した値でありその充填触媒の反応量の性能を表す数値である。
ここで、触媒性能としては、GHSVが高い場合でも、十分に反応量を確保できることが望ましい。
【0063】
本発明のオキシ塩素化触媒を用いるジクロロエタンの製造方法により得られるジクロロエタンを、さらに熱分解することにより、塩化ビニルモノマーを得ることができる。
【実施例
【0064】
本発明を下記の実施例で説明をするが、本発明は、当該実施例により何ら限定されるものでない。
尚、以下の実験に用いた各種の測定方法は、次の通りである。
【0065】
(1)原料の粒度測定;
Malvern社製Mastersizer 3000およびHydro LVを用いてレーザー回折・散乱法による測定を行った。分散媒として水を使用し、粒子屈折率1.68、分散媒屈折率1.33、光散乱モデルをMie理論で解析した。
【0066】
(2)比表面積、微分細孔分布;
Micromeritics社製TriStarII 3020を用いて窒素吸着法にて測定した。比表面積は-196℃における比圧が0.05以上0.20以下の吸着側窒素吸着等温線からBET法で解析した。微分細孔分布は脱離側窒素吸着等温線よりBJH法で解析して求めた。
【0067】
(3)細孔容積;
Micromeritics社製AutoPore IV 9500を用いて水銀圧入法にて測定を行った。試料重量およそ1.5gを用い、室温雰囲気下で10psia以上15000psia以下の圧力範囲にて測定することで15nm以上20000nm以下の細孔容積を測定した。上記範囲の累積圧入量を全細孔容積とし、10psia以上220psia以下の累積圧入量を細孔直径1000nm以上20000nm以下のマクロ細孔として求めた。
【0068】
(4)Log微分細孔分布;
Micromeritics社製AutoPore IV 9500を用いて水銀圧入法にて測定を行った。試料重量およそ0.5gを用い、10psia以上60000psia以下の圧力範囲にて測定することで3.6nm以上20000nm以下のLog微分細孔分布を求めた。
【0069】
(5)耐圧強度;
アイコーエンジニアリング製卓上荷重測定機I310D、50N用ロードセルを用いて、アルミナ担体の筒の側面に対して垂直方向の強度を20個測定した。荷重スピード5mm/minで筒の側面から荷重をかけ、アルミナ担体が砕壊されたときの荷重がデジタル表示され、それを読みとった。20個の平均値を耐圧強度とした。
【0070】
(6)タッピング嵩密度;
500cmメスシリンダーに試料200gを入れ、充填容積が変化しなくなるまで振動して体積を読み取り、充填密度を算出した。
【0071】
(7)エチレンの気相オキシ塩素化反応用触媒の調製;
中空円筒形状のアルミナ担体50gを、塩化第二銅二水和物9.76g、塩化カリウム1.94gおよび塩化セジウム1.94gを純水25cmに溶解した溶解液に30分間、室温で浸漬させた。浸漬させたアルミナ担体を取り出し、電気炉を用いて200℃の温度で2時間乾燥させた。その後、350℃で2時間焼成し、触媒を得た。
得られた触媒における金属化合物の担持量は、塩化第二銅12重量%、塩化カリウム3重量%、塩化セシウム3重量%となっていることを確認した。触媒形状は、アルミナ担体の大きさと同じであった。
なお、金属化合物の定量は、オキシ塩素化触媒3gをミルで擦り潰し、濃塩酸で煮沸溶解した後、蒸留水にて100cmまでメスアップしたサンプル液を調製した。サンプル液を原子吸光光度計のフレーム分析装置(島津製作所製、商品名、AA-7000)に噴霧することによって金属成分を定量した。金属成分の定量結果から触媒重量に対する金属化合物の担持量を算出した。
【0072】
(8)活性評価;
ジクロロエタンEDC製造に関する反応試験は、ニッケル製円筒管(内径26mm)の小型反応管内に、高さ約19cmの触媒充填層として得られた触媒約3gおよび不活性ガラスビーズ充填した固定床流通式の反応装置を用いた。
反応器は、シリコンオイルを熱媒とする外部ジャケット温度を240℃に設定・制御して、応器内部の反応温度を220~270℃程度に保って反応を行った。
原料ガスは、反応装置の上部より導入し、触媒層を通過することによって反応させ、反応ガスは反応装置の下部より反応装置外へ排出した。この際、反応器の出口圧力は、ゲージ圧力で0.4MPaGに制御した。
なお、原料ガス流量は、塩化水素ガス150NL/Hr、エチレン81NL/Hr、空気80.3NL/Hrで流通した。ここで、単位NLとは、標準状態(0℃、1atm)での体積L(0.001m)を示すものである。
反応装置より排出されたガスは、-38℃、-45℃の二段冷却した2,2,4-トリメチルペンタン中に凝縮させることで回収した。
EDCの生成量は、凝縮液中のEDC濃度をガスクロマトグラフで測定することによって測定した。また、主な副生成物であるモノクロロエタンの生成量は不凝縮ガス中の濃度をガスクロマトグラフで測定することによって求めた。
凝縮液の分析は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、機種名GC14B)を用い、充填剤としてはジーエルサイエンス社製SE30(商品名)を用いて分析した。
不凝縮ガスの分析は、ガスクロマトグラフ(島津製作所製、機種名GC14B)を用い、充填剤としてはWaters社製PorakQ(商品名)を用いて分析した。
触媒活性値は、触媒1g当たり1時間あたりのジクロロエタンEDCの生成量から算出した。副生成物選択率は、EDCの生成量に対するモノクロロエタンの生成量比(EtCl/EDC)で評価した。
【0073】
<実施例1>
0.7μm、2.9μm、174μmの位置に粒度分布のピーク頂点を有し、メジアン径(D50)が67.7μm、D10が2.43μm、D90が258μmの水和アルミナ(擬ベーマイト)10kgとステアリン酸マグネシウム500gを混合して成形用原料とし、これを外径4.8mm、内径2.2mmとなる金型(臼)に充填して上下の杵で加圧することで、150℃乾燥質量換算の成形体密度が0.0201g/mmとなる圧縮成形品を得た。これを620℃で2時間焼成して結晶構造がγであるアルミナ担体を得た。アルミナ担体の形状は、高さ方向に貫通する中空孔を円の中央部に1つ有する円筒形で、円の外径は4.5mm、内径は2.0mm、肉厚は1.25mm、高さは5.0mmであった。
得られたアルミナ担体から調製したエチレン塩素化反応用触媒のEDC活性は、7.65g-EDC/(cm-触媒・Hr)、副生成物選択率は0.30であった。
【0074】
<実施例2>
150℃乾燥質量換算の成形体密度を0.0208g/mmにした以外は実施例1と同様の操作を行いアルミナ担体を得た。アルミナ担体の形状は、実施例1と同様に円筒形で、円の外径は4.5mm、内径は2.0mm、肉厚は1.25mm、高さは5.0mmであった。
得られたアルミナ担体から調製したエチレン塩素化反応用触媒のEDC活性は、6.65g-EDC/(cm-触媒・Hr)、副生成物選択率は0.31であった。
【0075】
<実施例3>
150℃乾燥質量換算の成形体密度を0.0199g/mmにした以外は実施例1と同様の操作を行いアルミナ担体を得た。アルミナ担体の形状は、実施例1と同様に円筒形で、円の外径は4.5mm、内径は2.0mm、肉厚は1.25mm、高さは5.0mmであった。
得られたアルミナ担体から調製したエチレン塩素化反応用触媒のEDC活性は、7.13g-EDC/(cm-触媒・Hr)、副生成物選択率は0.34であった。
【0076】
<比較例1>
粒径81μmの位置に一つのみ粒度分布のピーク頂点を有し、メジアン径(D50)が67.3μm、D10が21.9、D90が132μmの水和アルミナ(擬ベーマイト)を用い、150℃乾燥質量換算の成形体密度を0.0200g/mmにした以外は実施例1と同様の操作を行い結晶構造がγであるアルミナ担体を得た。アルミナ担体の形状は、実施例1と同様に円筒形で、円の外径は4.6mm、内径は2.0mm、肉厚は1.3mm、高さは5.0mmであった。
得られたアルミナ担体から調製したエチレン塩素化反応用触媒のEDC活性は、7.84g-EDC/(cm-触媒・Hr)、副生成物選択率は0.35であった。
【0077】
<比較例2>
ステアリン酸マグネシウムを800gにし、150℃乾燥質量換算の成形体密度を0.0197g/mmにした以外は実施例1と同様の操作を行いアルミナ担体を得た。アルミナ担体の形状は、実施例1と同様に円筒形で、円の外径は4.5mm、内径は2.0mm、肉厚は1.25mm、高さは5.0mmであった。
得られたアルミナ担体から調製したエチレン塩素化反応用触媒のEDC活性は、7.03g-EDC/(cm-触媒・Hr) 、 副生成物選択率は0.35であった。
【0078】
<比較例3>
150℃乾燥質量換算の成形体密度を0.0196g/mmにした以外は比較例2と同様の操作を行いアルミナ担体を得た。アルミナ担体の形状は、比較例2と同様に円筒形で、円の外径は4.5mm、内径は2.0mm、肉厚は1.25mm、高さは5.0mmであった。
得られたアルミナ担体から調製したエチレン塩素化反応用触媒のEDC活性は、7.86g-EDC/(cm-触媒・Hr)、副生成物選択率は0.42であった。
【0079】
<比較例4>
粒径が0.7μm、2.9μm、48.6μmの位置に粒度分布のピーク頂点を有し、メジアン径(D50)が25.1μm、D10が2.02μm、D90が161μmの水和アルミナ(擬ベーマイト)を用いて150℃乾燥質量換算の成形体密度を0.0151g/mmにした以外は実施例1と同様の操作を行いアルミナ担体を得た。アルミナ担体の形状は、実施例1と同様に円筒形で、円の外径は4.5mm、内径は2.0mm、肉厚は1.25mm、高さは4.6mmであった。
【0080】
各実施例及び比較例で得られた試料について物性測定と触媒性能の評価を行い、結果を表1に記した。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1~3、比較例2、3より300μm以下に3つの粒度分布のピーク頂点を有し、メジアン径が45~100μmの原料を用いることで、耐圧強度が20Nを上回るアルミナ担体を得られることがわかる。さらに実施例1~3より全細孔容積を0.04cm/gから0.15cm/g、細孔直径1000nm以上20000nm以下のマクロ細孔を0.02cm/g以下とすることで、EDC活性が6.6g‐EDC/(cm‐触媒・Hr)以上と高活性を示しながら、副成物選択率が0.35未満と高いEDCへの選択性を有することがわかる。
図1
図2
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図10