(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】特定装置、及び特定方法
(51)【国際特許分類】
F25B 49/02 20060101AFI20250106BHJP
【FI】
F25B49/02 A
F25B49/02 510C
F25B49/02 510F
F25B49/02 520H
(21)【出願番号】P 2020143705
(22)【出願日】2020-08-27
【審査請求日】2023-06-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107582
【氏名又は名称】関根 毅
(74)【代理人】
【識別番号】100118843
【氏名又は名称】赤岡 明
(74)【代理人】
【識別番号】100125151
【氏名又は名称】新畠 弘之
(72)【発明者】
【氏名】小山 泰平
(72)【発明者】
【氏名】橋詰 尚志
(72)【発明者】
【氏名】殿城 賢三
(72)【発明者】
【氏名】岩田 宜之
(72)【発明者】
【氏名】小熊 信
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-297974(JP,A)
【文献】特開2001-133011(JP,A)
【文献】特開2010-151397(JP,A)
【文献】特開2003-050067(JP,A)
【文献】特開2002-081809(JP,A)
【文献】国際公開第2014/064792(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/234824(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220760(WO,A1)
【文献】特開2005-351618(JP,A)
【文献】国際公開第2020/105161(WO,A1)
【文献】特開平6-117737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 49/00-49/04
F24F 11/00-11/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮機と、凝縮器と、減圧装置と、蒸発器とを有する冷凍サイクル装置における前記圧縮機が吸引する冷媒の第1圧力及び第1温度
、及び、前記凝縮器から流出する前記冷媒の第2圧力及び第2温度
のみの情報を取得する取得部と、
前記第1圧力の所定値に対する第1圧力増減状態と、前記第1温度の所定値に対する第1温度増減状態と、前記第2圧力の所定値に対する第2圧力増減状態、前記第2温度の所定値に対する第2温度増減状態と、の組み合わせに応じて、
モルエル線図を生成することなく、前記圧縮機、前記凝縮器、前記減圧装置、及び前記蒸発器の少なくともいずれかの箇所に不具合が発生したか、又は前記少なくともいずれかの箇所に前記不具合が発生するかを特定する特定部と、
を備える、特定装置。
【請求項2】
前記特定部は、前記冷凍サイクル装置の冷房能力が、前記不具合の発生段階の数値範囲である場合に、前記不具合の発生個所を特定し、前記不具合の発生予兆段階の数値範囲である場合に、前記不具合が発生する箇所を特定する、請求項1に記載の特定装置。
【請求項3】
前記特定部は、前記冷凍サイクル装置の循環冷媒量と前記第2圧力と、前記第2温度から算出される物理量に基づき、前記冷房能力を推定する、請求項2に記載の特定装置。
【請求項4】
前記第1圧力増減状態は、所定の時間間隔で測定された前記第1圧力の第1圧力差分値であり、
前記第1温度増減状態は、所定の時間間隔で測定された前記第1温度の第1温度差分値であり、
前記第2圧力増減状態は、所定の時間間隔で測定された前記第2圧力の第2圧力差分値であり、
前記第2温度増減状態は、所定の時間間隔で測定された前記第2温度の第2温度差分値である、請求項3に記載の特定装置。
【請求項5】
前記特定部は、前記第1圧力差分値の減少の程度と、第1温度差分値減少の程度と、前記第2圧力差分値の増加の程度と、第2温度差分値の減少の程度と、の組み合わせに応じて前記不具合の発生個所又は前記不具合が発生する箇所を特定する、請求項4に記載の特定装置。
【請求項6】
前記第1圧力差分値、前記第2圧力差分値、前記第1温度差分値、及び前記第2温度差分値の基準データを不具合発生個所毎に記憶する記憶部を更に備え、
前記特定部は、前記記憶部に記憶される基準データとの比較により、前記圧縮機、前記凝縮器、前記減圧装置、及び前記蒸発器における前記不具合の発生個所又は前記不具合が発生する箇所を特定する、請求項4に記載の特定装置。
【請求項7】
前記取得部は、前記圧縮機から流出する前記冷媒の第3圧力、及び前記圧縮機から流出する前記冷媒の第3温度を取得しており、
前記記憶部は、所定の時間間隔で測定された前記第3圧力の第3圧力差分値、及び所定の時間間隔で測定された前記第3温度の第3温度差分値の基準データを更に記憶しており、
前記特定部は、前記特定部は、前記第3圧力差分値と、前記第3温度差分値と、前記基準データの比較に更に応じて、前記不具合の発生個所又は前記不具合が発生する箇所を特定する、請求項6に記載の特定装置。
【請求項8】
前記記憶部は、外気温に対応した複数の前記基準データを有し、
前記特定部は、前記外気温に応じて用いる前記基準データを変更する、請求項7に記載の特定装置。
【請求項9】
前記特定部は、前記基準データと、前記第1圧力差分値、前記第2圧力差分値、前記第1温度差分値、前記第2温度差分値、前記第3圧力差分値、及び前記第3温度差分値との比較は所定時間ごとに実施され、
前記記憶部は、前記所定時間ごとの比較に関するデータを記憶する、請求項8に記載の特定装置。
【請求項10】
前記冷凍サイクル装置の前記冷房能力が、前記不具合の発生段階の数値範囲である場合に、前記特定部は、前記第1圧力増減状態、前記第1温度増減状態、前記第2圧力増減状態、及び前記第2温度増減状態のそれぞれに関する値に基づき、不具合箇所の特定を行う第1識別器により前記特定を行う、請求項3に記載の特定装置。
【請求項11】
前記冷凍サイクル装置の前記冷房能力が、前記不具合の予兆段階の数値範囲である場合に、前記特定部は、前記第1圧力増減状態、前記第1温度増減状態、前記第2圧力増減状態、及び前記第2温度増減状態のそれぞれに関する値に基づき、前記不具合が発生する箇所の特定を行う第2識別器を更に有する、請求項10に記載の特定装置。
【請求項12】
圧縮機と、凝縮器と、減圧装置と、蒸発器とを有する冷凍サイクル装置における前記圧縮機が吸引する冷媒の第1圧力及び第1温度
、及び、前記凝縮器から流出する冷媒の第2圧力及び第2温度
のみの情報を取得する取得工程と、
前記第1圧力の所定値に対する第1圧力増減状態と、前記第1温度の所定値に対する第1温度増減状態と、前記第2圧力の所定値に対する第2圧力増減状態と、前記第2温度の所定値に対する第2温度増減状態と、の組み合わせに応じて、
モルエル線図を生成することなく、前記圧縮機、前記凝縮器、前記減圧装置、及び前記蒸発器の少なくともいずれかの箇所に不具合が発生したか、又は前記少なくともいずれかの箇所に前記不具合が発生するかを特定する特定工程と、
を備える、特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、特定装置、及び特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍サイクル装置では一般に、熱交換器への塵埃の付着による通風量の低下、配管内、特にキャピラリ―チューブを使った減圧装置の場合は、その内部への付着物による詰まりの発生、冷媒の漏れ等の不具合が生じる。ところが、不具合が発生しても、不具合の発生個所の特定が困難であり、不具合発生個所の特定に時間を要してしまう恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、冷凍サイクル装置の不具合の発生個所又は不具合が発生する箇所を特定可能な特定装置、及び特定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る特定装置は、取得部と、特定部と、を備える。取得部は、圧縮機と、凝縮器と、減圧装置と、蒸発器とを有する冷凍サイクル装置における圧縮機が吸引する冷媒の第1圧力及び第1温度と、凝縮器から流出する冷媒の第2圧力及び第2温度と、を取得する。特定部は、第1圧力の所定値に対する第1圧力増減状態と、第1温度の所定値に対する第1温度増減状態と、第2圧力の所定値に対する第2圧力増減状態と、第2温度の所定値に対する第2温度増減状態と、に基づき、冷凍サイクル装置における不具合の発生個所又は不具合が発生する箇所を特定する。
【発明の効果】
【0006】
冷凍サイクル装置の不具合の発生個所又は不具合が発生する箇所を特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る冷凍サイクルシステムの構成を示すブロック図。
【
図2】冷凍サイクル装置の冷凍サイクル例を示すPh線図。
【
図5】第2実施形態に係る冷凍サイクルシステムの構成を示すブロック図。
【
図6】第2実施形態に係る不具合条件に対応した基準データを示す図。
【
図7】第3実施形態に係る不具合条件に対応した基準データを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態に係る特定装置、及び特定方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本発明の実施形態の一例であって、本発明はこれらの実施形態に限定して解釈されるものではない。また、本実施形態で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号又は類似の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。また、図面の寸法比率は説明の都合上実際の比率とは異なる場合や、構成の一部が図面から省略される場合がある。
【0009】
(第1実施形態)
【0010】
図1は、本実施形態に係る冷凍サイクルシステム1の構成を示すブロック図である。
図1を用いて、冷凍サイクルシステム1の構成例を説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る冷凍サイクルシステム1は、冷凍サイクル装置10の不具合の発生個所又は不具合が発生する箇所を特定可能なシステムである。この冷凍サイクルシステム1は、冷凍サイクル装置10と、特定装置20とを、備えて構成されている。なお、本実施形態に係る不具合が発生する箇所は、まだ不具合までには到っていないが、将来的に不具合が生じる可能性が高い箇所を意味する。
【0011】
冷凍サイクル装置10は、例えば蒸気圧縮式の冷凍サイクル運転を行う冷凍機である。冷凍サイクル装置10は、圧縮機11と、凝縮器12と、減圧装置13と、蒸発器14と、測定器Saと、測定器Sbとを有する。圧縮機11と、凝縮器12と、減圧装置13と、蒸発器14とは冷媒配管(以下では冷媒配管を配管と呼ぶ場合がある)で接続され、冷媒回路を構成する。これらは主要構成部品であり、これ以外にも図示しないドライヤやアキュムレータや弁なども配管接続内に構成される。
【0012】
圧縮機11は、例えば、インバータ圧縮機等で構成され、ガス冷媒を吸入し、圧縮して高温高圧の状態にして吐出する。圧縮機11が1回転で吐出する排除容積は、圧縮機ごとに決まっている。このため、回転周波数によって単位時間あたりに排出される容積が算出できる。
【0013】
凝縮器12は、例えば、伝熱管と多数のフィンとにより構成される熱交換器であり、圧縮機11と減圧装置13とに冷媒配管により接続される。車両用ではプレートフィン型の熱交換器が一般に用いられる。この凝縮器12は、配管内の冷媒と装置外の空気との熱交換を行う。これにより、凝縮器12は、圧縮機11から吐出された高温高圧の冷媒と、空気または水などの熱媒体とを熱交換させて、高温高圧の冷媒を凝縮液化させる。
【0014】
減圧装置13は、例えばキャピラリーチューブで構成され、凝縮器12と蒸発器14とに、冷媒配管により接続される。この減圧装置13は、凝縮器12によって凝縮された冷媒を減圧して膨張させる。より詳細には、減圧装置13は、凝縮器12によって凝縮液化された冷媒配管内の冷媒を蒸発しやすいように減圧し、二相状態にする。特に車両用ではキャピラリ―チューブが用いられることが多いが、これに限定されない。例えば、減圧弁や膨張弁などを用いてもよい。
【0015】
蒸発器14は、例えば、クロスフィン式の熱交換器であり、減圧装置13と圧縮機11とに冷媒配管により接続される。この蒸発器14は、冷媒配管内の冷媒と装置外の空気との熱交換を行い、配管内の冷媒を蒸発させる。冷房運転の場合、冷却された空気が車両内に供給され、車両内の空気を冷却する。なお、冷媒には特に限定はなく、非共沸混合冷媒や単一冷媒などを適宜選択してよい。
【0016】
測定器Saは、例えば圧力センサと、熱電対とで構成される。この測定器Saは、圧縮機11が吸引する冷媒の第1圧力、及び第1温度を測定する。
測定器Sbは、例えば圧力センサと、熱電対とで構成される。この測定器Sbは、凝縮器12から流出する冷媒の第2圧力、及び第2温度を測定する。
【0017】
特定装置20は、冷凍サイクル装置10の具合発生個所を特定する装置であり、取得部22と、記憶部24と、特定部26とを有している。特定装置20は、例えばCPU(Central Processing Unit)を有しており、記憶部24に記憶されるプログラムを実行することにより各機能を実現する。なお、取得部22、記憶部(基準データベース)24、及び特定部26のそれぞれは、回路で構成してもよい。また、特定装置20は、は車両内の制御装置に搭載してもよいし、車両外のデータセンターなどに配置して、通信によって判定するシステムとしてもよい。
【0018】
取得部22は、測定器Saと測定器Sbとに接続され、圧縮機11が吸引する冷媒の第1圧力及び第1温度と、凝縮器12から流出する冷媒の第2圧力及び第2温度と、を取得する。
【0019】
記憶部24は、例えば、ロジック回路におけるレジスタやSRAM、DRAM(Dynamic Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等により実現される。この記憶部は、特定装置20の機能を実現するプログラム、基準データなどを記憶する。なお、記憶部24に記憶される基準データの詳細は
図3を用いて後述する。
【0020】
特定部26は、取得部22が取得したデータを用いて、第1圧力の所定値に対する第1圧力増減状態と、第1温度の所定値に対する第1温度増減状態と、第2圧力の所定値に対する第2圧力増減状態と、第2温度の所定値に対する第2温度増減状態と、に基づき、冷媒回路流路における不具合発生個所、又は不具合が発生する箇所を特定する。より具体的には、この特定部26は、第1圧力増減状態と、第1温度増減状態と、第2圧力増減状態と、第2温度増減状態と、の組み合わせに応じて、圧縮機、凝縮器、減圧装置、蒸発器における不具合発生個所、又は不具合が発生する箇所を特定する。
【0021】
ここで、第1圧力増減状態は、例えば所定の時間間隔毎に測定された第1圧力の第1圧力差分値である。この第1圧力差分値は、例えば、正常時における基準レベルの第1圧力と、現在の第1圧力との差分である。或いは、この第1圧力差分値を、所定の時間前、例えば30秒前の第1圧力と、現在の第1圧力との差分として計算しても良い。
【0022】
同様に、第1温度増減状態は、所定の時間間隔で測定された第1温度の第1温度差分値である。この第1温度差分値は、例えば、正常時における基準レベルの第1温度と、現在の第1温度との差分である。或いは、この第1温度差分値を、所定の時間前、例えば30秒前の第1温度と、現在の第1温度との差分として計算しても良い。
【0023】
同様に、第2圧力増減状態は、所定の時間間隔毎に測定された第2圧力の第2圧力差分値である。この第2圧力差分値は、例えば、正常時における基準レベルの第2圧力と、現在の第2圧力との差分である。或いは、この第2圧力差分値を、所定の時間前、例えば30秒前の第2圧力と、現在の第2圧力との差分として計算しても良い。
【0024】
同様に、第2温度増減状態は、所定の時間間隔で測定された第2温度の第2温度差分値である。この第2温度差分値は、例えば、正常時における基準レベルの第2温度と、現在の第2温度との差分である。或いは、この第2温度差分値を、所定の時間前、例えば30秒前の第2温度と、現在の第2温度との差分として計算しても良い。なお、特定部26の詳細な処理も後述する。
【0025】
ここで、
図2に基づき、冷凍サイクル装置10の動作例を説明する。
図2は、冷凍サイクル装置10の冷凍サイクル例を示すPh線図である。縦軸は圧力を示し、横軸は比エンタルピーを示す。また、s1~s4は、
図1のs1~s4における圧力と温度を示している。すなわち、s1は、測定器Saに測定された第1圧力と第1温度とを示し、s3は、測定器Sbに測定された第2圧力と第2温度とを示している。
【0026】
冷凍サイクル装置10では、低温低圧のガス状態(s1)の冷媒が圧縮機11によって圧縮され、高温高圧の冷媒(s2)となって吐出される。圧縮機11から吐出された高温高圧の冷媒(s2)は、凝縮器12へ流入する。
【0027】
次に、凝縮器12へ流入した高温高圧の冷媒(s2)は、室外空気等に対して放熱し、凝縮されて高圧の液冷媒(s3)となる。次に、凝縮器12を流出した高圧の液冷媒は、減圧装置13に流入し、減圧され液体と気体が混合した低圧の冷媒(s4)に変換される。
【0028】
蒸発器14に流入した冷媒(s4)は、等温のまま液冷媒が蒸発し、全て低温低圧のガス状態(s1)に変換する。この際に、蒸発器14で例えば車両内の空気が熱を奪われ冷却される。そして蒸発器14から流出したガス冷媒(s1)は、圧縮機11へ吸入され、再び圧縮される。
【0029】
次に、
図3に基づき、記憶部24に記憶される基準データを説明する。
図3は、不具合条件に対応した基準データを示す図である。不具合条件は、不具合の箇所を示す。
【0030】
データベース欄の数字の1から15は不具合条件を示している。例えば、1は不具合条件1であり、2は不具合条件2であり、3は不具合条件3であり、4は不具合条件4であり、5は不具合条件1と2が同時に発生している不具合条件5を示し、6は不具合条件1と3が同時に発生している不具合条件6を示している。6と同様に、7~15も同時に発生している複数の不具合条件を示している。
【0031】
例えば、不具合条件には、凝縮器や蒸発器の塵埃による風量低下や、キャピラリーチューブの詰まりや、冷媒漏れのような現象が挙げられる。
【0032】
表中の流出圧力、流出温度が凝縮器12から流出する冷媒の第2圧力と第2温度に対応し、吸引圧力、吸引温度が圧縮機11に吸引される冷媒の第1圧力と第1温度、に対応し、冷媒循環量が、冷凍サイクル装置10の冷媒回路を流れる冷媒の循環量に対応している。
【0033】
すなわち、左欄から順に、凝縮器12から流出する冷媒の流出圧力の増減状態である第2圧力増減状態と、凝縮器12から流出する冷媒の流出温度の増減状態である第2温度増減状態と、圧縮機11に吸引される冷媒の吸引圧力の増減状態である第1圧力増減状態と、圧縮機11に吸引される冷媒の吸引温度の増減状態である第1温度増減状態と、冷凍サイクル装置10の冷媒循環量の増減状態を矢印で示している。
【0034】
表中の矢印は、定常状態、或いは、定常とみなせる程度まで安定した準定常状態からの変化の程度を示している。大幅に変化するものは垂直矢印、中程度の変化は斜め矢印により示している。より具体的には、予備実験、或いはシミュレーションにより予め取得した実験データにより、第1圧力増減状態を示す第1圧力差分値、第1温度増減状態を示す第1温度差分値、第2圧力増減状態を示す第2圧力差分値、第2温度増減状態を示す第2温度差分値、及び冷媒循環量の差分値それぞれを、例えば増加を3段階、減少を3段階に分け各値の範囲を設定する。例えば、第1圧力差分値が0以上100未満であれば第1増加範囲、100以上200未満であれば第2増加範囲、200以上であれば第3増加範囲、0未満-100以上であれば第1減少範囲、-100未満-200以上であれば第2減少範囲、-200未満であれば第3減少範囲に分類する。
【0035】
すなわち、
図3では、第1圧力差分値が、第2増加範囲に対応すれば斜め45度上向きの矢印、第3増加範囲に対応すれば90度上向きの矢印、第2減少範囲に対応すれば斜め45度下向きの矢印、第3減少範囲に対応すれば90度下向きの矢印で示す。第1温度差分値、第2圧力差分値、第2温度差分値、及び冷媒循環量の差分値も同様に6段階に分類されるが、数値の設定範囲が各測定値に応じて異なる。なお、本実施形態では、各差分値を6段階で分類しているがこれに限定されない。例えば、12段階、24段階などに分類してもよい。このように、第1圧力差分値、第2圧力差分値、第1温度差分値、及び第2温度差分値の基準データを不具合発生個所毎に対応させ、記憶部24に記憶する。
【0036】
ここで、冷媒循環量q
mrは、特定部26により(1)式で計算される。
【数1】
q
mr[kg/s]は冷媒循環量、V[m
3/s]は圧縮機の単位時間の排出容積、η
v[-]は圧縮機の体積効率、ν[m
3/kg]は圧縮機への吸入冷媒の比体積を表している。比体積νは圧縮機吸入温度と圧力から求められるため、冷媒循環量が算出される。体積効率η
vは一般的に0.8~1.0程度の値をとる。この冷媒循環量と冷房能力には概ね相関があるため、あらかじめシミュレーションや実験によって、冷房能力を正常時から異常時まで状態を変化させ、各状態に対応する冷媒循環量を求める。これにより、冷媒循環量と冷房能力を対応させることが可能となる。例えば、冷媒循環量と冷房能力との関係をデータベース化したり、(2)式で示すように関数化したり、しておくことにより、冷媒循環量に対応する冷房能力Qを推定することが可能となる。例えば0から100などの数値範囲で冷房能力Qを冷媒循環量q
mrに対応付けることが可能である。0から100などの数値範囲は、任意の範囲に設定可能である。
また、特定部26は、取得部22が取得した第2圧力、及び第2温度を更に用いて冷凍サイクル装置10の冷房能力を演算することもできる。特定部26は、凝縮器12から流出する冷媒の第2圧力と第2温度、圧縮機11へ吸入する冷媒の第1圧力と第1温度を用いて、冷媒の比エンタルピーをそれぞれ求める。これにより、状態s1と状態s3のエンタルピー差を算出可能である。より詳細には、特定部26は、(1)式で示した冷媒循環量q
mrの算出結果と、このエンタルピー差の算出結果とを乗算することにより、冷房能力を算出する。これにより、より精度よく冷房能力を推定できる。
【数2】
【0037】
ここで、例えば冷房能力Qが100から90の範囲であれば異常なしに対応し、90から80の範囲では、不具合が発生する可能性が高い不具合の予兆段階に対応し、80未満であれば、不具合が発生している不具合段階に対応する。例えば、
図3では、90から80の範囲は、斜め下45度向きの矢印に対応し、80未満の範囲は、90度下向きの矢印に対応する。このように、特定部26は、冷凍サイクル装置10の冷凍サイクル装置10の冷媒循環量を演算し、冷凍サイクル装置10の冷房能力を推定する。すなわち、特定部26は、冷凍サイクル装置10の冷媒循環量を演算し、不具合なし、不具合の予兆段階、不具合段階として推定することが可能である。
【0038】
ここで、
図3を参照しつつ、特定部26の詳細な処理例を説明する。
図3に示すように、特定部26は、第1圧力差分値の減少の程度と、第1温度差分値減少の程度と、第2圧力差分値の増加の程度と、第2温度差分値の減少の程度と、の組み合わせに応じて不具合発生個所を特定する。例えば、第1圧力差分値の減少の程度が第2減少範囲であり、第1温度差分値の減少の程度が第3減少範囲であり、第2圧力差分値の増加の程度が第2増加範囲であり、第2温度差分値の増加の程度が第3減少範囲であれば、不具合条件1に対応すると判定し、例えば圧縮機11に不具合があると特定する。このように、特定部26は、記憶部24に記憶される基準データとの比較により、圧縮機11、凝縮器12、減圧装置13、及び蒸発器14における不具合発生個所を特定する。
【0039】
図4は、状態監視の処理例を示すフローチャートである。ここでは、運転の開始後や、運転中のある一定間隔などで、定常状態、定常とみなせる程度まで安定した準定常状態になった後の冷凍サイクル装置10の監視例を説明する。なお、冷凍サイクル装置10自体は、インバータ制御する方式でもよく、その場合は、最大性能運転時が継続するタイミングを定常状態と判定する。或いは、判定前の数分間を定常運転し、準定常状態になった状態と判定する。
【0040】
まず、取得部22は、圧縮機11の周波数、圧縮機11へ吸引される冷媒の第1圧力、第1温度、凝縮器12から流出する冷媒の第2圧力、第2温度を取得する(ステップS100)。
【0041】
次に、特定部26は、(1)、(2)式に従い、冷凍サイクル装置10の冷房能力を推定演算する(ステップS102)。続けて、記憶部(基準データベース)24に記憶される、不具合なし(例えば100~90)、不具合の予兆段階(例えば90~80)、不具合段階(例えば80~0)の数値範囲と推定演算結果を比較する(ステップS104)。
【0042】
次に、特定部26は、不具合なし(例えば100~90)の数値範囲であるか否かを判定する(ステップS106)。不具合なし(例えば100~90)の数値範囲である場合(ステップS106のYes)、特定部26は、ステップS100で取得した状態情報を記憶部24に記憶する(ステップS108)。
【0043】
一方で、不具合なし(例えば100~90)の数値範囲でない場合(ステップS106のNo)、特定部26は、基準値(80)未満であるか否かを判定する(ステップS110)。
【0044】
特定部26は、基準値(80)以下である場合(ステップS110のYes)。特定部26は、第1圧力、第1温度、第2圧力、第2温度を用いて、第1圧力差分値、第1温度差分値、第2圧力差分値、第2温度差分値を演算し、基準データ(
図3)のいずれの不具合条件に対応するかを判定し、特定した不具合箇所を不図示の表示装置に出力する(ステップS112)。
【0045】
一方で、基準値(80)以上である場合(ステップS110のNo)。特定部26は、第1圧力、第1温度、第2圧力、第2温度を用いて、第1圧力差分値、第1温度差分値、第2圧力差分値、第2温度差分値を演算し、基準データ(
図3)のいずれの不具合条件に対応するかを判定し、特定した不具合箇所を予兆(推定)出力する。
【0046】
本実施形態によれば、特定部26が、圧縮機11へ吸引される冷媒の第1圧力、第1温度、凝縮器12から流出する冷媒の第2圧力、第2温度の差分値を演算し、それぞれの増減状態の組み合わせに基づき、冷凍サイクル装置10における不具合発生個所又は不具合発生の予測箇所を特定することした。これにより、不具合が発生してからメンテナンスとなっていた対応が予め不具合の進行箇所を予兆し、定期メンテナンス時に不具合進行箇所のメンテナンスが可能となり、車両に搭載されている場合には、運転への影響を無くすことができる。また、不具合判定となった際にも、不具合箇所が特定されているため、メンテナンス時間の大幅な短縮が可能となり、車両の運転への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0047】
(第2実施形態)
第2実施形態に係る冷凍サイクルシステムは、圧縮機11から流出する冷媒の圧力と温度を加えて冷凍サイクル装置10の不具合状態をより精度よく推定する点で第1実施形態に係る冷凍サイクルシステムと相違する。また、特定部26が、教師有り学習した識別器260、262により不具合発生個所又は不具合が発生する箇所を特定することが可能である点で第1実施形態に係る冷凍サイクルシステムと相違する。以下では、第1実施形態に係る冷凍サイクルシステムと相違する点について説明する。
【0048】
図5は、第2実施形態に係る冷凍サイクルシステム1の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、冷凍サイクル装置10は、測定器Scを更に備える。
【0049】
測定器Scは、例えば圧力センサと、熱電対とで構成される。この測定器Scは、圧縮機11から流出する冷媒の第3圧力、及び第3温度を測定する。
【0050】
特定部26は、第1識別器260、第2識別器262を更に有する。第1識別器260、第2識別器262の詳細は後述する。
【0051】
取得部22は、圧縮機11から流出する冷媒の第3圧力、及び第3温度を測定器Scから更に取得する。
特定部26は、取得部22が取得した第3圧力、及び第3温度を更に用いて実施例1の方法に加えて、冷凍サイクル装置10の冷房能力を演算する。これにより、より精度よく冷房能力を推定できる。
【0052】
図6は、第2実施形態に係る不具合条件に対応した基準データを示す図である。
図6に示すように、不具合条件の判定に、圧縮機11から流出する冷媒の流出圧力の増減状態である第3圧力増減状態と、圧縮機11から流出する冷媒の流出温度の増減状態である第3温度増減状態が追加されている。
【0053】
第3圧力増減状態は、所定の時間間隔毎に測定された第3圧力の第3圧力差分値である。この第3圧力差分値は、例えば、正常時における基準レベルの第3圧力と、現在の第3圧力との差分である。或いは、この第3圧力差分値を、所定の時間前、例えば30秒前の第2圧力と、現在の第2圧力との差分として計算しても良い。
【0054】
同様に、第3温度増減状態は、所定の時間間隔で測定された第3温度の第3温度差分値である。この第3温度差分値は、例えば、正常時における基準レベルの第3温度と、現在の第3温度との差分である。或いは、この第3温度差分値を、所定の時間前、例えば30秒前の第2温度と、現在の第3温度との差分として計算しても良い。
【0055】
特定部26は、これら第3圧力差分値、及び第3温度差分値も演算する。特定部26は、これら第3圧力差分値、及び第3温度差分値も用いて、不具合条件を判定し、不具合の箇所を特定する。これにより、基準データベースの比較対照が増えることから、不具合進行箇所の特定精度や、不具合発生箇所の特定精度をより高めることが可能となる。
【0056】
ここで、第1識別器260、第2識別器262の詳細を説明する。第1識別器260、及び第2識別器262は、例えばニューラルネットを教師あり学習した識別器である。例えば、教師信号を
図6に示す不具合条件1~15とし、学習データを教師信号に対応する第1圧力差分値、第1温度差分値、第2圧力差分値、第2温度差分値、第3圧力差分値、及び第3温度差分値とする。これらのデータを教師ありの学習データとして第1識別器260、及び第2識別器262それぞれを学習する。なお、学習には、1圧力差分値、第1温度差分値、第2圧力差分値、第2温度差分値、第3圧力差分値、及び第3温度差分値それぞれの正規化データを用いてもよい。
【0057】
この際に、第1識別器260の学習には、冷凍サイクル装置10の冷房能力が不具合段階のデータを用いる。一方で、第2識別器262の学習には、冷凍サイクル装置10の冷房能力が不具合の予兆段階のデータを用いる。
【0058】
これにより、未学習の第1圧力差分値、第1温度差分値、第2圧力差分値、第2温度差分値、第3圧力差分値、第3温度差分値が第1識別器260に入力されると、不具合条件1~15のいずれかが出力される。この場合、冷凍サイクル装置10の冷房能力が不具合段階であれば、第1識別器260を用いる。これにより、より高精度に、不具合条件1~15のいずれかに識別可能である。
【0059】
一方で、冷凍サイクル装置10の冷房能力が不具合の予兆段階であれば、第2識別器262を用いる。これにより、より高精度に、不具合の予兆段階の不具合条件1~15のいずれかに識別可能である。
【0060】
また、特定部26は、冷房能力が不具合の予兆段階である場合に、状態情報、例えば第1圧力差分値、第1温度差分値、第2圧力差分値、第2温度差分値、第3圧力差分値、及び第3温度差分値を記憶部24に記憶する。これにより、前回の特定部26による判定から不具合の程度がどの程度進行しているかを判定し、不具合の進行程度を出力することができる。
【0061】
より具体的には、特定部26は、冷房能力の差分を演算し、差分値がより大きく減少している場合に、不具合がより進行していると判定する。例えば、不具合が進行し、その進行が早い場合は、次のメンテナンスで部品の取り換えや清掃を実施し、進行が遅い場合は、次々回の定期メンテナンスまで活用するなど、適切なタイミングでメンテナンスを実施でき、メンテナンス作業を省力化できる。
【0062】
また、記憶部24は、状態監視データを定期的に記憶部24に記憶する。これにより、データが蓄積される。それら蓄積されたデータは車両外部にある基準データベースと比較判定することが可能である。このため、データが蓄積されるに従い、不具合の進行具合と冷房能力の関係などの統計処理や、ニューラルネットなどの機械学習の処理の精度が向上する。これにより、車両が運行される路線ごとの特徴などを考慮した状態監視システムを構成することが可能となる。
【0063】
以上のように、本実施形態によれば、特定部26は、第3圧力差分値、及び第3温度差分値も用いて、冷凍サイクル装置10の冷房能力を演算することとした。これにより、より高精度に冷房能力を算出できる。
【0064】
また、特定部26は、第3圧力差分値、及び第3温度差分値も用いて、不具合の箇所を特定することとした。これにより、基準データベースの比較対照が増えることから、不具合進行箇所の特定精度や、不具合発生箇所の特定精度をより高めることが可能となる。
【0065】
また、第1識別器260、第2識別器262を用いることにより、基準データを用いることなく、不具合が発生する箇所(不具合進行箇所)の特定や、不具合発生箇所の特定が可能となる。
【0066】
(第3実施形態)
第3実施形態に係る冷凍サイクルシステム1は、外部温度に応じた基準データを備える点で第1実施形態に係る冷凍サイクルシステム1と相違する。以下では、第1実施形態に係る冷凍サイクルシステムと相違する点について説明する。
【0067】
図7は、第3実施形態に係る不具合条件に対応した基準データを示す図である。
図7に示すように、温度条件別、例えば外気温度別に基準データを用意することとした。これにより、特定部26は、温度条件にあった基準データを用いることが可能となり、特定精度がより向上する。これにより、運転中のどのタイミングにおいても状態監視を実施可能となる。このため、より迅速かつ高精度に不具合判定、不具合が発生する箇所判定(不具合発生個所の推定)を行うことが可能となる。
【0068】
本実施形態による特定装置20におけるデータ処理方法の少なくとも一部は、ハードウェアで構成してもよいし、ソフトウェアで構成してもよい。ソフトウェアで構成する場合には、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムをフレキシブルディスクやCD-ROM等の記録媒体に収納し、コンピュータに読み込ませて実行させてもよい。記録媒体は、磁気ディスクや光ディスク等の着脱可能なものに限定されず、ハードディスク装置やメモリなどの固定型の記録媒体でもよい。また、データ処理方法の少なくとも一部の機能を実現するプログラムを、インターネット等の通信回線(無線通信も含む)を介して頒布してもよい。さらに、同プログラムを暗号化したり、変調をかけたり、圧縮した状態で、インターネット等の有線回線や無線回線を介して、あるいは記録媒体に収納して頒布してもよい。
【0069】
以上、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例としてのみ提示したものであり、発明の範囲を限定することを意図したものではない。本明細書で説明した新規な装置、方法及びプログラムは、その他の様々な形態で実施することができる。また、本明細書で説明した装置、方法及びプログラムの形態に対し、発明の要旨を逸脱しない範囲内で、種々の省略、置換、変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0070】
1:冷凍サイクルシステム、10:冷凍サイクル装置、11:圧縮機、12:凝縮器12:減圧装置、14:蒸発器、20:特定装置、22:取得部、24:記憶部、26:特定部、260:第1識別器、262:第2識別器、Sa~Sc:測定器。