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特許7612381並列伝送MRIのパルスシーケンスを設計する方法、及びこのようなパルスシーケンスを使用して並列伝送MRIを実行する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】並列伝送MRIのパルスシーケンスを設計する方法、及びこのようなパルスシーケンスを使用して並列伝送MRIを実行する方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20250106BHJP
   G01N 24/08 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
A61B5/055 311
G01N24/08 510D
G01N24/08 510Y
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020183475
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2021090725
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-10-24
(31)【優先権主張番号】19306589
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】311015001
【氏名又は名称】コミサリヤ・ア・レネルジ・アトミク・エ・オ・エネルジ・アルテルナテイブ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バンサン・グラ
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ブラン
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル・ルオン
(72)【発明者】
【氏名】アレクシ・アマドン
【審査官】嵯峨根 多美
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第10151816(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0252788(US,A1)
【文献】特表2012-502683(JP,A)
【文献】特表2013-526361(JP,A)
【文献】Raphael TOMI‐TRICOT et al.,SmartPulse, a machine learning approach for calibration‐free dynamic RF shimming: Preliminary study in a clinical environment,Magnetic Resonance in Medicine,2019年06月30日,Vol. 82,No. 6,p.2016-2031
【文献】Vincent GRAS et al.,Universal pulses: A new concept for calibration‐free parallel transmission,Magnetic Resonance in Medicine,2016年02月17日,Vol. 77,No. 2,p.635-643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01R 33/20-33/64
G01N 24/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列伝送磁気共鳴イメージングのパルスシーケンス(P)であって、少なくとも磁場傾斜波形(H)、及び無線周波数波形(U)の集合であって、それぞれが、並列伝送磁気共鳴イメージング装置のそれぞれの送信チャネル(RFC1~RFC8)に関連付けされている前記無線周波数波形の集合を含む前記パルスシーケンスを設計するコンピュータ実装方法であって、
a)複数の磁気共鳴イメージングの対象の各対象に対し、調整変換(L)と呼ばれる線形変換を推定し、前記対象の身体部分を含む関心領域内に前記磁気共鳴イメージング装置のそれぞれの送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の振幅マップに対して、前記調整変換適用して、それぞれの標準化されたマップを得るステップであって、前記調整変換が、前記対象の前記標準化されたマップと、参照対象のそれぞれの参照振幅マップとの間の平均差を表す第1の費用関数を最小化するようなやり方で選ばれるステップと、
b)核スピンのフリップ角の対象固有の分布と、前記複数の磁気共鳴イメージングの対象全体にわたって平均した目標分布との間の相違を表す第2の費用関数を最小化するようなやり方で、少なくとも前記無線周波数波形(U)を決定するステップであって、前記対象固有の分布が、磁場傾斜波形及び無線周波数磁場の重畳を前記対象に適用することによって実現された前記フリップ角の分布であり、前記無線周波数磁場のそれぞれが、前記無線周波数波形のうちの1つによって記述される時間的プロファイル、及び前記対象に対して決定されたそれぞれの標準化されたマップによって記述される空間的振幅分布を有するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
ステップb)が、前記第2の費用関数を最小化するように前記磁場傾斜波形(H)を決定するステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記磁気共鳴イメージング装置を使用して、前記振幅マップの全部又は一部を取得する事前ステップであって、前記取得された振幅マップが、前記調整変換を推定するために使用される事前ステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
コンピュータを使用して電磁気シミュレーションを実行することによって前記振幅マップの全部又は一部を計算する事前ステップであって、前記計算された振幅マップが、前記調整変換を推定するために使用される事前ステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記並列伝送磁気共鳴イメージング装置の複数の受信チャネルの雑音共分散行列を測定する事前ステップであって、前記測定された雑音共分散行列が、前記調整変換を推定するために使用される事前ステップをさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップa)が前記標準化されたマップの2次統計値を計算するステップをさらに含み、ステップb)が、前記2次統計値から少なくとも前記無線周波数波形を決定するステップを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記目標分布が関心領域全体にわたって均質である、請求項1~6のいずれ一項に記載の方法。
【請求項8】
傾斜コイル(GC)の集合、複数の送信チャネル(RFC1~RFC8)、及び複数の受信チャネルを含む並列伝送磁気共鳴イメージング装置を使用して、対象の並列伝送磁気共鳴イメージングを実行する方法であって、
i)前記対象の身体部分を含む関心領域内にそれぞれの送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の空間分布を表す測定を実行するために、前記装置の前記受信チャネルを使用するステップと、
ii)前記測定の結果を使用し、調整変換と呼ばれる線形変換(L)を推定し、前記磁気共鳴イメージング装置のそれぞれの送信チャネルによって前記関心領域内に生成された無線周波数磁場の振幅マップを、それぞれの標準化されたマップに変換するステップであって、前記調整変換が、前記対象の前記標準化されたマップと、参照対象のそれぞれの参照振幅マップとの間の平均差を表す費用関数を最小化するようなやり方で選ばれるステップと、
iii)前記調整変換を逆にし、前記逆にした調整変換を参照対象の所定の参照無線周波数波形の集合に適用することによって、前記対象固有の無線周波数波形(P’)の集合を計算するステップと、
iv)磁場傾斜波形を前記傾斜コイルに適用しながら、前記対象に固有の各無線周波数波形をそれぞれの送信チャネルに適用し、前記受信チャネルを使用して並列伝送磁気共鳴画像信号を受信するステップと、
を含む方法。
【請求項9】
前記所定の参照無線周波数波形の集合が、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法を使用して得られた請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ステップi)が、ステップiv)の間に取得された前記並列伝送磁気共鳴画像信号の空間的分解能よりも低い空間的分解能で前記無線周波数磁場の振幅マップを取得するステップを含む、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項11】
ステップi)が、前記受信チャネルの雑音共分散行列を測定するステップを含む、請求項8~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
傾斜コイル(GC)の集合、複数の送信チャネル(RFC1~RFC8)、複数の受信チャネル、及びデータ処理装置(CP)を含む並列伝送磁気共鳴イメージング装置において、
-所定の参照無線周波数波形の集合、及び磁場傾斜波形を定義するデータを格納するメモリデバイス(DB)をさらに含むことと、
-前記データ処理装置が、
-前記受信チャネルを駆動して、対象の身体部分を含む関心領域内に前記送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の空間分布を表す測定を実行するようにプログラム又は構成され、
-前記測定の結果を使用し、調整変換と呼ばれる線形変換(L)を推定し、それぞれの送信チャネルによって前記関心領域内に生成された無線周波数磁場の振幅マップを、それぞれの標準化されたマップに変換するようにプログラム又は構成されるとともに、前記調整変換が、前記対象の前記標準化されたマップと、参照対象のそれぞれの参照振幅マップとの間の平均差を表す費用関数を最小化するようなやり方で選ばれ、
-前記調整変換を逆にし、前記逆にした調整変換を所定の参照無線周波数波形の集合に適用することによって、対象固有の無線周波数波形の集合を計算するようにプログラム又は構成され、且つ、
-前記送信チャネルを駆動して、それぞれの対象固有の無線周波数波形を再生し、前記傾斜コイルが磁場傾斜波形を再生し、前記受信チャネルが並列伝送磁気共鳴画像信号を受信するようにプログラム又は構成されることと、
を特徴とする並列伝送磁気共鳴イメージング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列伝送磁気共鳴イメージングのパルスシーケンスを設計する方法、及びこのようなシーケンスを使用して並列伝送磁気共鳴イメージングを実行する方法に関する。パルスシーケンスは、1つ又は複数の無線周波数(RF)波形若しくはパルス、及び少なくとも1つの磁場傾斜波形を含み、核スピンの方向付けに起因する静磁場に浸されたサンプルの核磁化の操作を可能とする。
【背景技術】
【0002】
高磁場磁気共鳴イメージング(MRI)は、それが提供する高い信号対雑音比(SNR)のおかげで、臨床ルーチンでの有用性が証明されており、より精細な時間的及び/又は空間的分解能が可能になっている。しかしながら、高磁場につきもののいくつかの問題が、世界中の病院での高磁場(3T~7T)スキャナの普及を依然として妨げている。これらの中には、RF波長が撮像領域に近づくか、又は撮像領域よりも小さくなると発生する「Bアーチファクト」がある([1])。このような場合、送信無線周波数「B 」磁場は関心領域内で不均質になり、核磁化フリップ角の不均質な分布をもたらす。これは陰影領域の出現及びコントラストの低下につながり、病変の隠蔽により、又は造影剤注入シーケンスにおける観測増感比の変化により診断に影響を及ぼし得る。3Tでは、このアーチクファクトは腹部撮像において特に重大な結果をはらんでおり、超高磁場(UHF-7T以上)での脳の撮像では大いに問題になる。
【0003】
パッシブRFシミングは、B不均質性を補償するために誘電パッドの使用を伴う([2])。その有効性は、なぜか限定的である。
【0004】
アクティブRFシミングは、核スピンを励起するために並列伝送(pTx)、すなわち、複数のRFコイルを利用する。2種類の主要なアクティブRFシミング技法、すなわち、静的及び動的シミングが存在する。
【0005】
静的アクティブRFシミングでは、複数の無線周波数RFコイル素子はすべて、B磁場を均質化するように最適化された、異なる複素重みを有する同じRFパルスを伝送する[3]。3Tでの腹部撮像の場合、この技法は、大抵の患者には満足の行くものであるが、約10~20%の事例で十分に均質な励起を提供できず、容認できない。もっと高い磁場値の場合、静的アクティブRFシミングは通常満足の行くものではない。
【0006】
動的RFシミング[4]は、複数のRFコイルを使用して、通常は複素時変包絡線によって定義される、種々の時間的波形を有するそれぞれのRFパルスを同時に伝送することからなる。この技法は、静的シミングよりも優れた均一性の実現を可能にするが、その複雑性のために本質的に研究ツールになっている。
【0007】
参照文献[5]は、3Tで腹部を非選択的に励起するための臨床ルーチンでのkT点[6]動的RFシミングの優位性を実証している。
【0008】
重み付け係数(静的シミング)又はRF波形(動的シミング)の最適化は、少なくとも各送信チャネルからのB マップの測定からなる較正を必要とする。その上に、最適な動的RFシミングの場合、RFパルスの計算の前にオフレゾナンス周波数△fマップ(脂肪組織のような化学シフトが存在しない場合に静的磁場不均質性△Bマップに対応する)も必要である。これらの計算は時間がかかる。例えば、2チャネルの3Tスキャナの場合、全較正プロセスは、ほぼ2分、すなわち、B マッピングに30秒、△fマッピングに15秒、パルス設計自体に5秒(静的RFシミング)から60秒(kT点)続く場合がある。これは、チャネルの数が増えるとさらに悪化する。
【0009】
[7]で紹介されている「ユニバーサルなパルス」は、較正不要の動的RFシミングを可能にする。すなわち、各対象に固有のパルスを設計する代わりに、対象の母集団の較正データを使用して対象間の変動性にロバストなパルスを一度だけ作成する。ユニバーサルなパルスは、多種多様なシーケンス及び量み付け、並びに種々の基礎となるパルス設計を用いて、7Tで、脳で成功裏に実施された。
【0010】
しかしながら、ユニバーサル性により個々の均質性が損なわれる。ユニバーサルなパルスは、たとえ大半の対象には容認可能な結果を提供するとしても、相当数の事例において十分に均質な励起を提供できない。
【0011】
[8]で提案されている妥協的解決策は、撮像対象の種々のグループに合わせて調整した種々の「セミユニバーサル」なパルスを計算することからなる。より正確には、[8]によれば、対象の集合を形態的特徴-例えば、脳の撮像の場合には頭部のサイズ-に従って複数の群にグループ分けし、群ごとに「セミユニバーサル」なパルスシーケンスを設計する。次に、同じ形態的特徴を使用して、追加の対象に最も適したパルスシーケンスを選択する。このアプローチの欠点は、経験的根拠に基づいて群が形成され、撮像対象の種類分けに使用される特徴の妥当性の保証がないことである。
【0012】
この欠点を克服するために、[9]は、「スマートパルス」と呼ばれる方法を開示しており、この方法では、対象の母集団がクラスタに分けられ、1つの疑似ユニバーサルなパルスシーケンスがクラスタごとに設計されている。次に、機械学習アルゴリズムにより新たな対象を分類して、少なくとも形態的特徴に基づいてそれぞれの対象にとって可能な限り最良なパルスを割り当てる。[8]の「セミユニバーサル」なアプローチとは対照的に、このクラスタは、どこか恣意的な形態的特徴に基づいて経験的に定義されるのではなく、クラスタ化アルゴリズムを使用して系統的に定義される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第2017/060142号
【非特許文献】
【0014】
【文献】1.Bernstein MA,Huston J,Ward HA.Imaging artifacts at 3.0T.J Magn Reson Imaging.2006;24(4):735-746.doi:10.1002/jmri.20698
【文献】2.Franklin Kendra M.,Dale Brian M.,Merkle Elmar M.Improvement in B1-inhomogeneity artifacts in the abdomen at 3T MR imaging using a radiofrequency cushion.J Magn Reson Imaging.2008;27(6):1443-1447.doi:10.1002/jmri.21164
【文献】3.J.V.Hajnal,S.J.Malik,D.J.Larkman,D.O’Regan,K.Nehrke,U.Katscher,I.Graesslin,and P.Boernert,Initial Experience with RF shimming at 3T using a whole body 8 channel RF system,in Proceedings of the 16th Annual Meeting of ISMRM,Toronto,Ontario,Canada,2008.p.496.
【文献】4.Katscher U,Boernert P,Leussler C,van den Brink JS.Transmit SENSE.Magn Reson Med.2003;49(1):144-150.doi:10.1002/mrm.10353
【文献】5.Tomi-Tricot R,Gras V,Mauconduit F,et al.B1 artifact reduction in abdominal DCE-MRI using kT-points:First clinical assessment of dynamic RF shimming at 3T.J Magn Reson Imaging.:n/a-n/a.doi:10.1002/jmri.25908
【文献】6.Cloos MA,Boulant N,Luong M,et al.kT-points:Short three-dimensional tailored RF pulses for flip-angle homogenization over an extended volume.Magnetic Resonance in Medicine 67:72-80(2012).
【文献】7.Gras V,Vignaud A,Amadon A,Bihan DL,Boulant N.Universal pulses:A new concept for calibration-free parallel transmission.Magn Reson Med.2017;77(2):635-643.doi:10.1002/mrm.26148
【文献】9.Raphael Tomi-Tricot,Vincent Gras,Bertrand Thirion,Franck Mauconduit,Nicolas Boulant,et al..SmartPulse,a Machine Learning Approach for Calibration-Free Dynamic RF Shimming:Preliminary Study in a Clinical Environment.Magnetic Resonance in Medicine,Wiley,2019,Magn Reson Med.,82,pp.2016-2031.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、例えば、[4]~[6]のような、セッション固有のパルス工学を必要とせずに、はるかに単純な較正プロセスだけで、目標励起パターンへの忠実度に関して「スマートパルス」アプローチよりも優れた性能を提供するパルス設計方法を提供することを目指している。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、実際の
【数1】
プロファイルのセッション(すなわち、MRI対象)依存性、すなわち、TX(送信)チャネルの散乱行列の仮想変動の結果としてそれを見ることを説明するための種々のアプローチに基づく。
【数2】
によって、1つの「参照」対象で測定された
【数3】
プロファイルを表示しているので、このアプローチは、調整変換と呼ばれる線形変換の存在を前提としており、これは、画像化された物体内のすべての位置rに対して
【数4】
であるような、次元N×N(Nは送信チャネルの数)の、複素のいわゆる調整行列Lで表すことができる。Lが位置rに依存しないことを前提としているので、このモデルは本質的に大域的であることに留意することが重要である。現実には、サンプルの電磁特性、及びTXチャネルと身体との間の電磁結合に複雑に依存するTX磁場分布は、この単純な規則に厳密に従うのではない。それでもなお、実験的には、適切な基準に従って、例えば、ムーア-ペンローズの疑似逆行列計算によって最良の候補行列を推定することがやはり可能である。
【0017】
ここで、調整変換(行列)の計算は対象固有の
【数5】
マップを本質的に使用するため、どうやら
【数6】
の較正ステップを避けて通れないということに言及することが重要である。ただし、疑似逆行列計算は、次元N×M(Mは空間位置の数を表示する)の空間から、はるかに小さい次元N×N(実際にはN≪M)の空間に投影する。この演算は、位置のサブサンプルさえ取得されれば、影響を受けない傾向があることになる。したがって、調整行列は、完全な
【数7】
マッピングに必要とされるよりもはるかに小さい測定値の集合から推定することができる。
【0018】
上記で言及したように、セッション固有の調整行列を知ることは、高速較正技法を用いて容易にアクセス可能であり、その結果、
【数8】
として定義される、いわゆる標準化された共鳴TX磁場分布を計算することができる。
【0019】
本発明者らは、いくつかの異なる個体にわたって測定された標準化されたTX磁場分布の共分散行列が、実際の物理的なTX磁場の共分散行列と比較して、実質的に減少することを実験的に検証した。言いかえれば、調整変換により、仮想空間内のTX磁場分布のマッピングが可能になり、共鳴TX磁場の対象間変動性が低減される。
【0020】
本発明の基礎にある考え方は、ここでは、実際の物理的なTX磁場ではなく標準化された磁場を複数の対象に使用して「ユニバーサルな」パルスシーケンスを設計することである。対象にpTX MRIを実行しなければならない場合、対象の調整変換を推定するために簡易な較正方法が使用され、この対象に適したパルスシーケンスは、次に、対象の逆の調整変換を「ユニバーサルな」シーケンスに適用することによって計算される。特段の記載がない限り、(逆)調整変換により、標準化された磁場から導出されたユニバーサルなシーケンスの「カスタマイズ」が可能になる。
【0021】
そこで本発明の目的は、並列伝送磁気共鳴イメージングのパルスシーケンスであって、少なくとも磁場傾斜波形、及び無線周波数波形の集合であって、それぞれが、並列伝送磁気共鳴イメージング装置のそれぞれの送信チャネルに関連付けされている前記無線周波数波形の集合を含む前記パルスシーケンスを設計するコンピュータ実装方法であって、
a)複数の磁気共鳴イメージングの対象の1つ1つに対し、調整変換と呼ばれる線形変換を推定し、対象の身体部分を含む関心領域内に磁気共鳴イメージング装置のそれぞれの送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の振幅マップを、それぞれの標準化されたマップに変換するステップであって、調整変換が、対象の標準化されたマップと、参照対象のそれぞれの参照振幅マップとの間の平均差を表す第1の費用関数を最小化するようなやり方で選ばれるステップと、
b)対象固有の核スピンのフリップ角の分布と、前記複数の磁気共鳴イメージングの対象全体にわたって平均した目標分布との間の相違を表す第2の費用関数を最小化するようなやり方で、少なくとも前記無線周波数波形を決定するステップであって、フリップ角の分布に対応する対象固有の分布が、磁場傾斜波形及び無線周波数磁場の重畳を適用することによって実現され、前記無線周波数磁場がそれぞれ、前記無線周波数波形のうちの1つによって記述される時間的プロファイル、及び対象に対して決定されたそれぞれの標準化されたマップによって記述される空間的振幅分布を有するステップと、
を含む方法である。
【0022】
本発明の別の目的は、傾斜コイルの集合、複数の送信チャネル、及び複数の受信チャネルを含む並列伝送磁気共鳴イメージング装置を使用して、対象の並列伝送磁気共鳴イメージングを実行する方法であって、
i)対象の身体部分を含む関心領域内にそれぞれの送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の空間分布を表す測定を実行するために、装置の受信チャネルを使用するステップと、
ii)前記測定の結果を使用し、調整変換と呼ばれる線形変換を推定し、磁気共鳴イメージング装置のそれぞれの送信チャネルによって関心領域内に生成された無線周波数磁場の振幅マップを、それぞれの標準化されたマップに変換するステップであって、調整変換が、対象の標準化されたマップと、参照対象のそれぞれの参照振幅マップとの間の平均差を表す費用関数を最小化するようなやり方で選ばれるステップと、
iii)調整変換を逆にし、逆にした調整変換を所定の参照無線周波数波形の集合に適用することによって、対象固有の無線周波数波形の集合を計算するステップと、
iv)磁場傾斜波形を傾斜コイルに適用しながら、各対象固有の無線周波数波形をそれぞれの送信チャネルに適用し、受信チャネルを使用して並列伝送磁気共鳴画像信号を受信するステップと、
を含む方法である。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、傾斜コイルの集合、複数の送信チャネル、複数の受信チャネル、及びデータ処理装置を含む並列伝送磁気共鳴イメージング装置であって、
-所定の参照無線周波数波形の集合、及び磁場傾斜波形を定義するデータを格納するメモリデバイスをさらに含むことと、
-データ処理装置が、
-受信チャネルを駆動して、対象の身体部分を含む関心領域内にそれぞれの送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の空間分布を表す測定を実行するようにプログラム又は構成され、
-前記測定の結果を使用し、調整変換と呼ばれる線形変換を推定し、関心領域内にそれぞれの送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の振幅マップを、それぞれの標準化されたマップに変換するようにプログラム又は構成されるとともに、調整変換が、対象の標準化されたマップと、参照対象のそれぞれの参照振幅マップとの間の平均差を表す費用関数を最小化するようなやり方で選ばれ、
-調整変換を逆にし、逆にした調整変換を所定の参照無線周波数波形の集合に適用することによって、対象固有の無線周波数波形の集合を計算するようにプログラム又は構成され、且つ、
-送信チャネルを駆動して、それぞれの対象固有の無線周波数波形を再生し、傾斜コイルが磁場傾斜波形を再生し、受信コイルが並列伝送磁気共鳴画像信号を受信するようにプログラム又は構成されることと、
を特徴とする並列伝送磁気共鳴イメージング装置である。
【0024】
本発明の追加の特徴及び利点は、添付図面を参照しながら行われる以下の説明から明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】本発明の一実施形態による、「標準化された」パルスシーケンスを設計するための方法のフローチャート及び本発明の一実施形態による、このようなパルスシーケンスをMRIセッションで適用するための方法のフローチャートである。
図1B】本発明の一実施形態による、「標準化された」パルスシーケンスを設計するための方法のフローチャート及び本発明の一実施形態による、このようなパルスシーケンスをMRIセッションで適用するための方法のフローチャートである。
図2A】並列伝送MRI装置の送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の2次統計値である。
図2B】並列伝送MRI装置の送信チャネルによって生成された無線周波数磁場の2次統計値である。
図3A図2A、2Bの無線周波数磁場に対応する標準化された磁場の2次統計値である。
図3B図2A、2Bの無線周波数磁場に対応する標準化された磁場の2次統計値である。
図4A】特定の一対象の調整行列のグラフ表示である。
図4B】特定の一対象の調整行列のグラフ表示である。
図4C】特定の一対象の調整行列のグラフ表示である。
図5】調整行列を推定するために使用される測定値の数の減少の影響を図示するプロットである。
図6】本発明の方法の種々の実施形態の性能を、先行技術と比較して図示するプロットである。
図7】本発明を実施するために適した並列伝送磁気共鳴イメージング装置を概略的に表したものである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
並列伝送磁気共鳴イメージング装置は、独立して駆動される送信チャネルを実装しているN>1個のRFコイル(又はレゾネータ)のアレイを含んでいる。アレイは円筒形である場合が多く、MRI対象の身体部分(例えば、頭部)を挿入することが可能な領域を包囲する。
【0027】
図1Aは、本発明の一実施形態によるパルスシーケンスを設計するための方法の種々のステップを示す。
【0028】
【数9】
(テスラ)は、送信アレイのc番目のレゾネータの空間依存性送信RF磁場を表示し、γ=42.57×10Hz/Tが陽子の磁気回転比であるとする。すると、いわゆる制御磁場成分
【数10】
(rad/s/V)、1≦c≦Nは、制御磁場ベクトルと呼ばれるベクトル
【数11】
に配列することができる。
【0029】
RF磁場の空間分布は、アレイの幾何学形状の関数であるだけでなく、身体部分の存在によっても影響を受けること、したがってMRI対象に左右されることを想起することが重要である。所与の実現、したがって、対象の制御磁場ベクトルは、いくつかの既知の技法を使用して測定することが可能である。例えば、[10]を参照されたい。
【0030】
特定のMRI対象に対応する制御磁場ωの所与の実現の場合-Rは、ω(r)が既知である位置rの集合を指定する。制御磁場の分布は通常MR(磁気共鳴)撮像によって得られるので、実際には、Rは空間内に制限されている(空気中にMR信号がなく、
【数12】
の再構築が信頼できない領域が存在する)ことが一般的である。
【0031】
制御磁場の分布
【数13】
は、Ω(R)によって表されるN×Mの複素行列として便宜的に表すことができ、
ここで
【数14】
は、Rに含まれている位置の数である。より正確には、
【数15】
は、n=1...Nで、n番目のMRI対象の制御磁場を表す。Ω1,refは、「参照制御磁場」を示し、参照として見なされる1つの特定の実現(すなわち特定のMRI対象)の制御磁場分布として定義される。
【0032】
N>1(典型的には少なくとも10、また典型的には数十)の対象に参照対象を加えて測定された制御磁場が、図1Aで図示されているように、本発明の1つの実施形態によるパルス設計方法の入力データを構成する。
【0033】
本発明のいくつかの実施形態では、制御磁場の一部又は全部が、実際の対象又は仮想の対象の解剖学的構造を考慮した完全電磁気シミュレーションを実行することによって計算することができる。
【0034】
refは、参照制御磁場が定義される領域を表示するものとする。L(n)は、次式を満たすN×Nの複素行列(調整変換、又は行列)を表示するものとする。
【数16】
式中、|| ||は、Lノルムである。数式(1)の意味するところは、L(n)がn番目の対象の制御磁場分布を、両方の磁場が定義されている空間領域で参照制御磁場に近似して変換し、この近似が、最小2乗誤差の最小化という意味で最良である、ということである。他の費用関数を「最適な」変換を定義する基準として使用してもよいが、平均2乗誤差は、数学的観点から見て特に好都合である。実際、数式(1)の解は、Ωに(Ω1,ref(R∩Rref))で示されるΩ1,ref(R∩Rref)のムーア-ペンローズ疑似逆行列を右乗算することによって簡単に得られる。
【数17】
【0035】
調節変換により、Ω1,ref-標準化された制御磁場(又は単に「標準化された磁場」)を以下のように定義することが可能になる。
【数18】
【0036】
制御磁場及び標準化された制御磁場のいずれもが、それらの2次統計値によって定義されたガウスの法則に従った確率変数であると仮定する。ω(r)~N(μ(r),C(r))及び
【数19】
なお、上付きの(n)は、不明瞭にならずに可能である場合には、省略される。(参照対象を除く)対象の数NがNよりもはるかに大きい(少なくとも10倍)場合、制御磁場の2次統計値は、以下の式ように計算することができる(式中、「*」は、エルミート共役(Hermitian conjugation)を表す)。
【数20】
【0037】
類似の数式により、標準化された制御磁場の2次統計値(「標準化された制御統計値」)の計算が可能になる。
【0038】
Nが十分に大きくない場合、Ledoit-Wolf推定を分散行列に使用してもよい。
【0039】
次に、標準化された制御磁場の集合-又は単に対応する標準化された制御統計値-を使用して、やはり設計方法への入力として提供される目標制御関数fに従って、パルスシーケンス(もっと単純な用語「パルス」もまた使用される)の統計的にロバストな設計(SRD:statistically robust design)を実行する。
【0040】
特定のSRDアプローチについて説明する前に、いくつかの基本的な理論的結果を想起することは有用である。
【0041】
スピン励起パルスシーケンス(又は単に「パルス」)は、時間離散化無線周波数(RF)波形の集合
【数21】
(ボルト)及び磁場傾斜(MFG)波形の集合
【数22】
(T/m)で構成される。これらの波形の持続時間はTで表示されている。以下では、我々は、陽子の磁気回転比で乗算されたMFG波形もまた利用する。
H(t)=2πγG(t) (6)
【0042】
わかり易くするために、RF波形U及びMFG波形Hの定義により与えられるパルスPは、
【数23】
によって表示される。
【0043】
励起の間の弛緩及びオフレゾナンス(これは、T≪T1,2及びオフレゾナンス
【数24】
を前提とする)を無視すると、パルスの適用の間の磁化の進化を決定する数式
【数25】
(平衡磁化(0 0 M)が、ブロッホの方程式(Bloch’s equation)により与えられる。すなわち、
【数26】
ここで、
【数27】
及び
【数28】
がそれぞれ、zの実数部及び虚数部を表示する場合、
【数29】
である。
【0044】
マッピング
【数30】
は、ω及び
【数31】
に依存するが、これは、スピン方式の動力学を決定する数式を完全に特徴付ける。
【0045】
パルスがP、及び制御磁場分布がωであるとすると、(少なくとも数的に)ブロッホの方程式を解き、時間Tにおける磁化を以下のように表現することができる。
【数32】
なお、
【数33】
は以下の形である。
【数34】
【0046】
パルス設計工学上の問題は、逆に言えば、以下の形の所望の制御目標に条件を設定することにある。
【数35】
【0047】
MRIでは、概して、すべての位置に対して同時に完璧に条件を満たすことができないので、この問題は通常、以下の形のメトリックを最小化することによって解決される。
【数36】
式中、Rdesignは、関心領域(例えば、脳に対応する)を表示し、この領域の外側の任意の点は、この性能メトリックでは無視される。
【0048】
制御磁場ω(r)が確率的である場合、
【数37】
もまた確率的であり、パルス最適化は、いわゆる「統計的にロバストな設計」(SRD)の問題に書き直すことが可能である。このアプローチでは、公差と呼ばれる新たな設計パラメータ0≦θ≦1、及び誤差レベル△が、以下のように定義される。
Δ(P,0)=min{Δ≧0;Π(Δ,r)≦θ∀r∈Rdesign} (14)
式中、Π(△,r)は、
【数38】
が△を超える確率を表示する。
【0049】
すると最適化問題(14)は、以下となる。
【数39】
【0050】
実際には、△(P,θ)の計算は難しく、したがって、問題(14)は、最適条件が上記問題の最適条件に近いと仮定される、より扱い易い最適化問題へと単純化される。例えば、(14)、(15)を参照されたい。
【0051】
1つのこのようなパルス工学上の問題が、次式により与えられる。
【数40】
【0052】
我々は、制御磁場ω(r)の統計的分布が平均値μ(r)及び共分散C(r)を有するガウスであると仮定したので、すべての位置rに対して、数式17の項<FA(r)-FAは、μ(r)及びC(r)の関数である。したがって、数式(17)の興味深い特徴は、最適化には制御磁場を完全に知っている必要はなく、図1Aに図示されているように、2次統計値だけが必要であるということである。制御磁場ωの統計的分布を考慮に入れたパルス工学上の問題
【数41】
のこのような「緩和された(relaxed)」形の解法が、ωの統計値に基づいて設計されていると言われている。
【0053】
通常、所望の制御目的関数fは、核スピンのフリップ角の目標分布FAを表す。常にではないが、ほとんどの場合、この目標分布は、関心領域(例えば、対象の脳)全体にわたって一定のフリップ角に対応する。
【0054】
フリップ角の分布
【数42】
は、数式(10)から以下のように計算される。
【数43】
【0055】
言いかえれば、ここでは局所的な性能メトリック
【数44】
(数式12を参照)は以下の形をとる。
【数45】
【0056】
わかり易くするために、パルスのエネルギー上の制約も、MFGスルーレート上の制約も、ここでは考慮に入れていない。しかしながら、これらの制約は、数式(16)のパルス工学上の問題を制約付き最適化問題で置き換えることにより、パルス工学上の問題にはっきりと加えることができる。
【数46】
Γ(P)≦0を前提とする。
ここで、
【数47】
は、物理的に実現可能なパルスを返すために観察する必要があるすべての制約(Nconstr)を含んでいるベクトルである。
【0057】
数式(16)が「緩和された」最適化問題の単なる1つの例であることを理解されたい。種々の形の問題、さらには真のSRD最適化問題(16)でさえ、本発明の種々の実施形態に適用することができ、場合によっては、制御磁場をより深く知ることが必要とされることになる。
【0058】
その上に、本発明の種々の実施形態によれば、RF波形U及び傾斜波形Hの両方を最適化することができ、又はRF波形だけを最適化することができ、傾斜波形は事前に定義されている。
【0059】
本発明と先行技術とを区別する極めて重要な特徴は、「物理的」磁場
【数48】
ではなく標準化された制御磁場
【数49】
(又はそれらの2次統計値)を使用して、統計的にロバストなパルス設計を行うことが可能であるという観察に由来する。緩和された形のSRD最適化問題(16)の例では、これは
【数50】

【数51】
で置き換えることと等価である。このような設計の結果は「標準化された」パルス
【数52】
と呼ばれる。
【0060】
MRI対象を標準化されたパルスに直接露出しても、期待する結果、すなわち、目標とほぼ一致するスピンフリップ角の分布は得られないであろう。しかしながら、調整行列が「L」である対象の、
【数53】
であるような修正済スピン励起パルス
【数54】
を考えてみることにする。
【0061】
特段の記載がない限り、P’のRF成分は、対象の逆調整行列を右乗算することによって修正される。以下のことを観察することができる。
【数55】
したがって、
【数56】
すなわち、ωに及ぼすP’の作用は、標準化された磁場
【数57】
に及ぼすPの作用と等しい。修正済パルスは、標準化されたパルス及び対象固有の(逆)調整行列から計算され、次に、期待する結果、すなわち、目標とほぼ一致するスピンフリップ角の分布を提供する。
【0062】
対象にスピン励起を実行するためには、次に、その調整行列の推定量
【数58】
を計算し、次に、推定された調整行列の逆を標準化されたパルスに、(むしろ、そのRF成分に)適用して、対象に固有の、且つ、標準化されたパルス設計段階の間に定義された目的に合致する修正済パルスを得ることが必要である。これは図1Bに図示されており、
【数59】
は、UL-1と等価である。
【0063】
上記で論じたように、数式1により与えられた最小2乗問題は大部分が重複決定されるとすると、推定量
【数60】
は、サブサンプルが取得された制御磁場Ω(F(R))すなわち、
【数61】
から十分満足に推定することができ、式中、FはRの位置を削除するサブサンプリング演算子である。したがって、
【数62】
の計算は、対象固有の最適なパルスの計算よりもはるかに効率的である。
【0064】
ここで、図2A図6によって図示されている特定の数値的な例を用いて、本発明によって提供される利点を論じることにする
【0065】
MRIデータは、SC72全身傾斜挿入(200mT/m/ms及び70mT/m最大傾斜スルーレート、並びに最大傾斜振幅)を装備した、並列伝送対応の全身シーメンス7Tシステム(Siemens Healthineers,Erlangen,ドイツ)で取得された。並列伝送システムは、8つの送信機(1チャネル当たり1kWのピーク電力)で構成された。測定は、8Tx-32RxのNovaヘッドコイル(Nova Medical,Wilmington,MA,米国)を用いて行われた。データは、別々の成人の対象(年齢=40±20歳)に対して測定されたN=36個の
【数63】
マップの集合からなる。
【0066】
【数64】
マップの再構築に使用されたプロトコルは、マルチスライスの干渉計によるターボフラシュ撮像([13]~[15]、5mm等方性分解能、行列サイズ40×64×40、TR=20秒、TA=4分40秒)であった。
【0067】
図2A及び図2Bでは、Nova TXアレイ用の制御磁場の2次統計値(平均:図2A;共分散:図2B)が、脳を通る1つの軸方向のスライスについて表示されている。平均制御磁場μは、このように、1つ1つがそれぞれ1つのTXチャネルに対応する8つの軸方向の画像を生じさせる。
【0068】
P←A及びR→Lは、対象の前←後の方向及び右→左の方向を識別する。
【0069】
図3A及び図3Bは、同じ軸方向のスライスについての、標準化された磁場統計値の縮小された統計値
【数65】
及び
【数66】
を表示する(平均:図3A;共分散:図3B)。図2A/2B及び図3A/3Bの目視比較は、標準化手順が制御磁場ベクトルの共分散を効率的に縮小することを明白に示している。
【0070】
上記で説明したように、対象の調整行列は、縮小されたデータの集合を使用して計算することができる。数式(23)のサブサンプリング演算子Fに特に適した選択は、撮像されたスライスの集合体(撮像されたスライスの数を表示するN)の部分集合を選択する演算子である。1≦m≦Nの場合、Fは、最適化領域(この例では、脳の容積)及び
【数67】
全体にわたってm個の均等に分布したスライスを保持する演算を表示する。
【0071】
図4A及び図4Bには、m=40(L40図4A)及びm=3(L図4B)の36個の調整行列(対象ごとに1つの、単位行列である第1の対象の投影行列)が、示されている。行列の実数部及び虚数部は、水平方向に連結され、8x8の単位行列Iがどの行列からも減算されて、視覚化を容易にする。視覚的には、L(3スライスだけが使用される)とL40(全スライスが使用される)との間の差はほとんどない。我々は、
【数68】
(2-ノルム)が、すべての場合(対象2~36)に20%未満であることを発見した。これは、実質的に縮小されたデータセット(40スライスのうちの3スライス)が調整行列の十分満足の行く推定を可能にすることを実証している。
【0072】
2つの調整行列間の大きさの差|L-L40|が図4Cに示されている。
【0073】
図5は、1≦m≦40の場合のd(L,L40)値のプロットである。m≧3の場合,d(L,L40)<0.2であることが見てわかる。しかしながらm<3の場合、推定は分散し始める。これは、3スライスTX磁場マッピングプロトコルなら、投影行列を正しく推定するのに十分満足であることを裏付ける。しかしながら、例えば、中央のスライスだけを採用するなら、不十分であろう(一部の対象ではd(L,L40)>0.5)。
【0074】
上記で説明したSRDアプローチに従って設計されたNova TXアレイのユニバーサルなkT点パルス([6])を最適化して、脳全体にわたって均一な10°のフリップ角励起を作り出した。こうした目的のために、計画空間Rdesignを以下のように定義した。
【数69】
式中、
【数70】
は対象#nの脳の領域を表示し、
【数71】
は、
【数72】
の特性関数である。
【0075】
設計のために、スピンは、頭部全体にわたってどこでもオンレゾナントである(ω=0)と仮定された。最適化は、フリップ角(最初にzに沿って磁化がz軸からどれだけ傾いているかによって測定)分布
【数73】
に関して行われた。
【0076】
わかり易くするために、パルスのエネルギー上の制約も、MFGスルーレート上の制約も、ここでは考慮に入れなかった。しかしながら、問題の解が求められたら、サブパルス及びMFGブリップ持続時間を場合によっては増加させることによって、すべてのハードウェア上の(ピークRF電力、平均RF電力、若しくはMFGスルーレート制限)制約、又は安全上の(特定の吸収率)制約を満たすように解を適合させることができる。この数値的適用では、kT点の数は、5に設定され、k空間内のそれらの位置は、上記で説明したSRDアプローチによって決定された。
【0077】
統計的にロバストな解は、数式(16)(「緩和された」SRD)を使用して、入力統計値としての自然制御磁場統計値(μ、C)及び縮小された制御磁場統計値
【数74】
を用いて、数値的に計算された。自然磁場の2次統計値(μ、C)を使用して計算された解は、[7]に開示されている方法に対応するので、以下では「ユニバーサルなパルス:Universal Pulse」UPと呼ぶことにする。標準化された磁場の2次統計値
【数75】
を使用して計算された解は、以下では「標準化されたユニバーサルなパルス:Standardized Universal Pulses」SUPと呼ぶことにする。
【0078】
対象ごとに、対象に合わせて調整した(ST:subject-tailored)パルスもまた、UP及びSUPに対するのと同じパラメータ化を使用して計算された。最小化する費用関数は、
【数76】
であった。
【0079】
ここで我々は、
【数77】
は、対象#nの対象固有の制御磁場分布を表示することを想起する。
【0080】
m個のスライスから得られた対象に合わせて調整した解は、
【数78】
で表示される。スライスの完全な集合を使用する場合、それは単にPSTと呼ばれる。
【0081】
UP、SUPの性能分析は、対象(36のシミュレーション)ごとにフリップ角分布をシミュレートすることと、目標からの後者の正規化2乗平均(NRMS:Normalized Root Mean Square)偏差、-これは以下でフリップ角NRMS制御誤差(FA-NRMSE)と呼ばれる-を計算することと、で構成された。ここで、どの制御磁場の実現にも(すなわち、どの対象にも)、5つのパルスが試験され、5つのパルスは、i)PUP、ii)PSUP/L40、iii)PSUP/L、iv)PST、及びv)
【数79】
であり、ここで、L40及びLは、全(40)スライス及び3スライスに基づいてそれぞれ計算された対象固有の投影行列である。
【0082】
FA-NRMSE分析の結果が図6に提示されており、パルスの種類ごとに、エラーバーは最低及び最高のNRMSEを識別し、中間の水平なバーは中間値であり、四角い枠に対象の75%が含まれている。プロットは、5-kT点のUPでは平均で8%に等しいFA-NRMSEを表示し、これに対して、等価な5-kT点のSUPでは約5%、すなわちほぼ最高のUP性能を表示している。SUPの最適な調整
【数80】
又は3スライスだけのSUPの調整
【数81】
は、FA-NRMSEに関しては非常に遜色のない性能(対象全体にわたって平均でそれぞれ5.5%及び5.7%)を生み出すことが観察され、図5に報告されている分析を裏付けている。対象に合わせて調整したパルスはFA-NRMSEを返し、全スライスをパルス設計に使用した場合(ST)、平均で2.3%に等しく、3スライスだけを使用した場合(ST)、8.4%に増加した。
【0083】
結論として、本発明の方法(SUPパルス)は、対象固有の調整変換を決定するために必要な較正がかなり単純で(例えば、3スライスMRIだけを使用する)ありながら、ユニバーサルなパルス(UP)アプローチよりも優れた均一性を提供する。対象に合わせて調整した(ST)パルスは、さらに優れた均一性を実現するが、それには、はるかに厳重な較正が必要である(STの例で行われたように、較正ステップの複雑性を低減しようとすると、容認できない結果を生み出す)。
【0084】
較正ステップは、MR撮像以外の測定値からユーザの逆調整変換を導出することによって、さらに単純化してもよい。例えば、MRIスキャナの複数の受信チャネルの測定された雑音共分散行列は、スキャナ内の対象の身体部分によって影響を受ける。次に、機械学習アルゴリズムを使用して、騒音測定値から逆調整マトリクスを推定してもよい。いくつかの異なる種類の測定値(例えば、MR及び雑音)を組み合わせてもまたよい。
【0085】
ユーザのバイオメトリクス及び/又はアナグラフ的データ(例えば、頭部のサイズ、性別、年齢...)もまた、調整変換を推定するために、測定値と組み合わせて考慮に入れてもよい。
【0086】
図7は、本発明の実施に適した並列伝送MRI装置(又はスキャナ)を大幅に単純化して表したものである。参照符号Mは、図7の場合には水平方向である「長手」方向zに沿って方向付けされた、強力な(例えば、3T又さらには7Tの)静的磁場Bを生成するための磁石を示す。この磁石は、対象(典型的には人間)又はその身体部分(例えば、頭部)の挿入を可能にするように円筒形であり、且つ、中空である。傾斜コイル(参照符号GC)と呼ばれる追加の磁石は、主磁石Mの外側に設けられ、且つ、3つの直交空間次元に沿った強度傾斜を示しつつ緩やかに変化する磁場を生成する低速の(すなわち、無線周波数ではない)波形(傾斜波形)を駆動することができる。図では、単一の空間次元に沿った傾斜の生成を可能にする1対の傾斜コイルだけが表されている。複数の無線周波数コイル素子が主コイルMの内容積の周辺に配列されており、図7の例には、これらのうちの8個、すなわち、RFC1、RFC2、RFC3、RFC4、RFC5、RFC6、RFC7、RFC8がある。これらのコイル素子は、それぞれの送信チャネルの一部であり、増幅器など図に表されていないデバイスもまた含み、コンピュータによって独立して駆動されて、概して、(ラーモア周波数において)同じ搬送周波数と、複素包絡線によって定義され得る種々の経時変化する振幅及び位相と、を有するそれぞれのRFパルス(RF波形)を放射する。磁気共鳴信号を検出するための受信チャネル(図に表されていない)もまた提供される。
【0087】
コンピュータは傾斜コイルGCもまた駆動して、傾斜波形を生成する。(不均質な)RF磁場B は、RFコイル素子により生成される。RFコイル素子により形成された集合体は、(RF)コイル又はアレイと呼ばれることがある。
【0088】
本発明によれば、スキャナの各送信チャネルにつき1つのRF波形及び傾斜波形を含む「標準化された」パルスシーケンスの複素包絡線は、コンピュータCPがアクセスを有するメモリデバイスDBに格納される。その上に、コンピュータCPは、スキャナを駆動して、RFアレイによって生成された無線周波数磁場の空間分布を表す測定を実行するように、対象固有の調整行列を推定するために前記測定の結果を使用し、標準化されたパルスに前記調整行列(又は、むしろ、その逆調整行列)を適用して対象固有の修正済パルスを計算し、RFコイル及び傾斜コイルを駆動して修正済パルスの波形を再生するように、プログラムされている。
【0089】
参照文献
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【符号の説明】
【0090】
CP データ処理装置
DB メモリデバイス
GC 傾斜コイル
H 磁場傾斜波形
L 調整変換
P パルスシーケンス
P’ 対象固有の無線周波数波形
RFC1~RFC8 送信チャネル
U 無線周波数波形
Ω (1)-Ω (1) 振幅マップ
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6
図7