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  • -磁気センサ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】磁気センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/02 20060101AFI20250106BHJP
【FI】
G01R33/02 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020183551
(22)【出願日】2020-11-02
(65)【公開番号】P2022073519
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000173795
【氏名又は名称】公益財団法人電磁材料研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】早坂 淳一
(72)【発明者】
【氏名】荒井 賢一
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-151535(JP,A)
【文献】特開平09-080134(JP,A)
【文献】特開2013-044561(JP,A)
【文献】特開2016-148639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体基板と、前記誘電体基板の主面において延在している導電性材料からなる伝送線路と、前記伝送線路に近接し、かつ、前記伝送線路に沿って延在し、長手方向が磁化困難軸方向である一方、短手方向が磁化容易軸方向である矩形状の軟磁性薄膜と、により構成されているインダクタと、
前記インダクタとともに、LC共振回路を構成するコンデンサと、
前記軟磁性薄膜に対して長手方向にバイアス静磁場を印加するための磁石と、を備え、
前記軟磁性薄膜の前記主面の前後方向の長さの前記主面の左右方向の長さに対する比は10~20の範囲である
ことを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記伝送線路は、信号線と、前記信号線を挟み込むように且つ前記信号線に平行に延在する一対の接地線と、を備えている、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記伝送線路は、信号線と、前記信号線を挟み込むように且つ前記信号線に平行に延在する一対の接地線と、を備え、
前記軟磁性薄膜の短辺長は前記信号線の短辺長よりも大きい、
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項4】
誘電体基板と、前記誘電体基板の主面において延在している導電性材料からなる伝送線路と、前記伝送線路に近接し、かつ、前記伝送線路に沿って延在し、長手方向が磁化困難軸方向である一方、短手方向が磁化容易軸方向である矩形状の軟磁性薄膜と、により構成されているインダクタと、
前記インダクタとともに、LC共振回路を構成するコンデンサと、
前記軟磁性薄膜に対して長手方向にバイアス静磁場を印加するための磁石と、を備え、
前記伝送線路は、信号線と、前記信号線を挟み込むように且つ前記信号線に平行に延在する一対の接地線とからなり、
前記信号線と前記一対の接地線のそれぞれとの間のキャパシタンスに由来する前記LC共振回路の共振周波数が、前記インダクタおよび前記コンデンサに由来する前記LC共振路の共振周波数と比較して高周波数側にずれるように、前記信号線および前記一対の接地線が配置されている
ことを特徴とする磁気センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、周波数変調型に分類される磁性体を利用した磁気センサがある。具体的には、位相シフト型共振回路の帰還回路に、導体層、誘電体層、および磁性体層からなる伝送線路素子を挿入してなる磁気センサが提案されている(例えば、特許文献1参照)。導体層は、渦巻き状の平面パターンで形成されている。また、軟磁性体層は、軟磁性薄帯あるいは軟磁性薄膜からなる略長方形状を有し、かつ、その長手方向に一軸性の磁気異方性が付与されている。当該磁気センサによれば、高周波電流駆動による小型化と高感度化の両立が可能であり、周辺回路を含めた、全体構成の簡素化が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3559459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この磁気センサによれば、センサ部分が渦巻き状の導体層を有し、かつ多層構造の伝送線路素子から構成されているため、センサ構造が複雑になるという問題があった。
【0005】
本発明は、構成のさらなる簡素化を図りながらも磁気感度の向上を図りうる磁気センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の磁気センサは、
誘電体基板と、前記誘電体基板の主面において延在している導電性材料からなる伝送線路と、前記伝送線路に近接し、かつ、前記伝送線路に沿って延在し、長手方向が磁化困難軸方向である一方、短手方向が磁化容易軸方向である矩形状の軟磁性薄膜と、により構成されているインダクタと、
前記インダクタとともに、LC共振回路を構成するコンデンサと、
前記軟磁性薄膜に対して長手方向にバイアス静磁場を印加するための磁石とを備えている。
【発明の効果】
【0007】
当該構成の磁気センサによれば、誘電体基板の主面の上に伝送線路および軟磁性薄膜が形成されているだけであるため、構成のさらなる簡素化が図られながらも、軟磁性薄膜の強磁性共鳴現象を利用することにより外部交流磁場の磁気感度、ひいては検出精度の向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態としての磁気センサの構成に関する説明図。
図2】磁気センサを構成する磁気感知部の斜視図。
図3】磁気センサを構成する磁気感知部の上面図。
図4】磁気センサを構成する磁気感知部の模擬的断面図。
図5】軟磁性薄膜の磁気特性に関する説明図。
図6】軟磁性薄膜の複素透磁率に関する説明図。
図7】磁気センサによる検出信号の例示図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(構成)
図1に示されている本発明の一実施形態としての磁気センサは、LC共振回路2を備えている。LC共振回路2は、インダクタンスLを有する磁気感知部1と、第1コンデンサ21と、第2コンデンサ22と、周波数調節器23と、信号増幅器24と、を備えている。
【0010】
周波数調節器23は、カソード側で対抗する一対のダイオード231および232と、電源230と、により構成されている。一方のダイオード231のアノード側は磁気感知部1に接続されている。他方のダイオード232のアノード側はグラウンドGNDに接続されている。電源230により一対のダイオード231および232の間とグラウンドGNDとの間に印加される静電圧Vadが調節されることにより、当該一対のダイオード231および232の間のキャパシタンスが調節され、LC共振回路2の共振周波数が変更されうる。周波数調節器23は省略されてもよい。
【0011】
信号増幅器24は、トランジスタ242と、電源240と、により構成されている。トランジスタ242のベースが磁気感知部1および第1コンデンサ21の間に接続され、コレクタが電源240に接続され、エミッタが出力端子26に接続され、かつ、抵抗器244を介してグラウンドGNDに接続されている。
【0012】
図1に模擬的に示されているように、磁気センサは、磁気感知部1にバイアス静磁場Hを印加するための永久磁石および/または電磁石により構成されている磁石4をさらに備えている。
【0013】
図2図4のそれぞれに示されているように、磁気感知部1は、誘電体基板10と、伝送線路11と、軟磁性薄膜12と、を備えている。該伝送線路11は、信号線13と一対の接地線141および142を備えている。磁気感知部1の各構成要素の姿勢または延在態様の説明のため、図2図4に右手直交座標系が示されている。
【0014】
誘電体基板10は、略矩形板状の誘電体からなる。誘電体基板10としては、例えば、ガラス、水晶、サファイヤ、半導体単結晶系のシリコン、ゲルマニウム、化合物半導体系のGaAs、GaN、SiC、ZnSe、CdS、ZnO、InP、SiGeの他、セラミックス系のアルミナ、窒化珪素、窒化アルミニウム、ジルコニア、炭化珪素、チタニア、イットリア、またはそれらの複合材料からなる基板が用いられてもよい。誘電体基板10の形状は円板状など、任意の形状に変更されてもよい。
【0015】
伝送線路11の信号線13は、誘電体基板10の主面においてx方向に延在する略矩形状または帯状に形成されている。伝送線路11の一対の接地線141および142は、信号線13をy方向について挟むようにx方向に延在する略矩形状または帯状に形成されている。信号線13、接地線141、142としては、導電性材料からなり、Al、Cu、Au、Pt、Ag、Ti、あるいは、それらの積層薄膜が用いられてもよい。
【0016】
軟磁性薄膜12は、伝送線路11の信号線13の近傍においてx方向を長手方向とし、y方向を短手方向とする略矩形状に形成されている。信号線13にx方向の高周波電流I(ωh)が流れると、図4に示されているように信号線13の周囲にy-z平面において回転する交流磁界H(ωh)が生じる。交流磁界H(ωh)の強さは、ビオ-サバールの法則により信号線13から離れるにしたがって急減する。また、信号線13に流れる順方向の高周波電流I(ωh)と、接地線142および142に流れる逆方向に流れる-I(ωh)によって形成される磁界分布の重ね合わせにより、交流磁界H(ωh)は、信号線13と接地線141および142の間隙に強く集中する。よって、信号線13の近傍に高透磁率の軟磁性薄膜12が配置されることにより、外部交流磁場H(ωs)に敏感なインダクタンスの変化が得られる。インダクタンスの変化が演出されることで、高感度な磁気センサが実現される。
【0017】
本実施形態では、z方向から見たときに軟磁性薄膜12が信号線13の長手方向中央部において部分的に重なるように、誘電体基板10の主面の上に伝送線路11および軟磁性薄膜の順で積層されている。軟磁性薄膜12と、誘電体基板10および/または伝送線路11との間に誘電体からなる層が形成されていてもよい。該誘電体は、低損失の誘電体であることが望ましい。z方向から見たときに軟磁性薄膜12が必ずしも信号線13と重なっていなくてもよい。誘電体基板10に略平行に近接して他の誘電体基板が配置され、当該他の誘電体基板の主面において、当該誘電体基板10に形成された信号線13に対向するように空隙を介して軟磁性薄膜12が形成されていてもよい。
【0018】
軟磁性薄膜12の短辺長bは信号線13の幅よりも大きい。短辺長bは信号線13の幅b0に信号線13と接地線141の間隙b1と、信号線13と接地線142の間隙b2を加えた大きさに略等しいことが望ましい。軟磁性薄膜12のアスペクト比(長辺長a)/(短辺長b)は10~20の範囲であることが好ましい。これは、軟磁性薄膜12のアスペクト比a/bが10未満である場合、交流磁界H(ωs)の検出軸方向である長辺長a方向の反磁界の影響が強くなることにより磁気感度が低下するためであり、アスペクト比a/bが20を超える場合、線路長の伝送損失の増大および軟磁性薄膜12の磁気抵抗の増大により磁気感度が低下するためである。
【0019】
軟磁性薄膜11は、長手方向を磁化困難軸方向とし、短手方向を磁化容易軸方向としている。軟磁性薄膜12が、その長手方向である磁化困難軸方向について、図5に実線で模擬的に示されているような磁化曲線で表わされる磁気特性を有する。その一方、軟磁性薄膜12が、その短手方向である磁化容易軸方向について、図5に点線で模擬的に示されているような磁化曲線で表わされる磁気特性を有する。
【0020】
軟磁性薄膜12としては、Co-Fe-Si-B、Co-Nb-Zr系のアモルファス薄膜、Fe-Si、Fe-Zr-N系の微結晶薄膜、あるいは、それらの薄膜の間にSiOなどの薄い絶縁層を挟んで積層した多層薄膜、Ni-Fe、 Fe-Si-Al系の結晶性薄膜、さらには、Fe-Si合金、Fe-Co-Ni合金、センダスト合金のバルク材料、Co-Fe-Ni-Si-B、Fe-Co-Ni-Zr、 Fe-Ni-B、 Co-Fe-Zr、 Co-Zr系のアモルファス合金薄帯、軟磁性フェライトからなる薄膜が用いられてもよい。
【0021】
伝送線路11の信号線13と一対の接地線141、142のそれぞれとの間の寄生容量に由来するLC共振回路2の共振周波数が、誘電体基板10、伝送線路11および軟磁性薄膜12により構成されるインダクタ、ならびに、第1コンデンサ21および第2コンデンサ22に由来するLC共振回路2の共振周波数ω0と比較して高周波数側(例えば、4GHz帯)にずれるように、伝送線路11の信号線13および一対の接地線141、142が配置されている。これは、信号線13と一対の接地線141、142の間の寄生容量は周辺環境の影響を受け易く、それを避け動作の安定性を維持するためである。
【0022】
(作用効果)
当該構成の磁気センサによれば、磁石4により軟磁性薄膜12に対してその長手方向に、軟磁性薄膜12の異方性磁界Hkに略等しい大きさのバイアス静磁場+Hsあるいは-Hsが印加されることにより、当該軟磁性薄膜12の磁化困難軸方向に磁化Mが飽和する(図5の±Ms参照)。この状態でLC共振回路2が共振角周波数ωrで共振すると、伝送線路11に対して長手方向に交流電流I(ωr)が流れ、軟磁性薄膜12に対してその短手方向、すなわち磁化容易軸方向に振動する交流磁場H(ωr)が形成される(図3および図4参照)。これにより、軟磁性薄膜12の磁化困難軸方向に向きがそろった電子スピンが歳差運動し、強磁性共鳴が誘発される。
【0023】
図6には、軟磁性薄膜12の磁化困難軸方向の複素透磁率μの実部μ’および虚部μ”が示されている。強磁性共鳴が生じる角周波数ωcの近傍において、複素透磁率μの実部μ’および虚部μ”の変化量が最大化する。これに応じて伝送線路11および軟磁性薄膜12により構成されているインダクタンスが大きく変化しうる。この際の磁気感知部1のインダクタンスおよび第1コンデンサ21および第2コンデンサ22のキャパシタンスに応じた共振角周波数ωでLC共振回路2が発振し、当該発振信号がLC共振回路2の出力端子26から検出される。当該発振信号がFFTにより周波数領域fに変換されることにより、図7に示されているようにLC共振回路2の共振周波数ωに応じたピークP0が検出される。
【0024】
ここで、軟磁性薄膜12の長手方向に振動する外部交流磁場H(ωs)が存在する場合、軟磁性薄膜12の磁化困難軸方向に向きがそろった電子スピンの一部の歳差運動の速度または周波数が変化し、これに応じて伝送線路11および軟磁性薄膜12により構成されているインダクタンスに変調成分が生じる。このため、LC共振回路の発振信号にも変調成分が生じ、当該発振信号がFFTにより周波数領域に変換されることにより、図7に示されているようにLC共振回路の共振周波数f=ω/2πに応じたピークP0の高周波数側および低周波数側のそれぞれに当該変調成分に応じたピークP+およびP-のそれぞれが検出される。そして、ピークP+およびP-のそれぞれの高さから外部交流磁場H(ωs)の強度|H(ωs)|が推定される。ピークP+およびP-のそれぞれの、ピークP0を基準とした周波数のずれ量から外部交流磁場H(ω)の周波数f=ω/2πが推定される。
【符号の説明】
【0025】
1‥磁気感知部、2‥LC共振回路、10‥誘電体基板、11‥伝送線路、12‥軟磁性薄膜、13‥信号線、141、142‥接地線、C1、C2‥コンデンサ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7