(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】検査装置
(51)【国際特許分類】
G01N 22/02 20060101AFI20250106BHJP
G01N 22/00 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
G01N22/02 B
G01N22/00 J
(21)【出願番号】P 2020190908
(22)【出願日】2020-11-17
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】射庭 彩人
(72)【発明者】
【氏名】池田 誠人
(72)【発明者】
【氏名】白石 雅彦
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-216687(JP,A)
【文献】特開2009-174929(JP,A)
【文献】特開2008-170432(JP,A)
【文献】国際公開第2007/015515(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00-22/04
G01N 21/3581
G01V 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸状体の検査装置であって、
周波数30GHz以上の電磁波を発する発振器と、
一端が前記発振器に接続され、前記電磁波の導波路を形成する第1の導波管と、
前記第1の導波管の他端が接続されて前記電磁波が導入される導入口、前記電磁波が特定の振動モードで共振する空洞部、前記空洞部から電磁波が導出される導出口、前記糸状体を通過させる連通路を形成する連通口、を有する空洞共振器と、
一端が前記導出口に接続され、前記空洞共振器から前記電磁波を導出する第2の導波管と、
前記空洞共振器から導出された電磁波を受信する受信器と、
前記空洞共振器内での前記電磁波の変動に基づいて、前記糸状体の状態を評価する演算部と、
を備え
、
前記空洞共振器は、複数の糸状体を通過させるための複数の連通路が設けられていて、
前記複数の連通路のそれぞれは、前記糸状体が前記空洞部の内部に発生する定在波の腹から所定の範囲の領域を通過するように所定の間隔を開けて設けられている、検査装置。
【請求項2】
糸状体の検査装置であって、
周波数30GHz以上の電磁波を発する発振器と、
一端が前記発振器に接続され、前記電磁波の導波路を形成する第1の導波管と、
前記第1の導波管の他端が接続されて前記電磁波が導入される導入口、前記電磁波が特定の振動モードで共振する空洞部、前記空洞部から電磁波が導出される導出口、前記糸状体を通過させる連通路を形成する連通口、を有する空洞共振器と、
一端が前記導出口に接続され、前記空洞共振器から前記電磁波を導出する第2の導波管と、
前記空洞共振器から導出された電磁波を受信する受信器と、
前記空洞共振器内での前記電磁波の変動に基づいて、前記糸状体の状態を評価する演算部と、
を備え、
前記演算部は、前記発振器が発し、かつ、前記空洞共振器を介して前記受信器が受信した第1のチャープ波と、前記発振器が発したチャープ波とは時間に応じた周波数の変動度合いが異なる第2のチャープ波との周波数の差、及び、信号強度の差、の少なくともいずれか一方に基づいて、前記糸状体の異常の有無を評価する、検査装置。
【請求項3】
前記空洞共振器の内部で、前記空洞部の導入口から導出口にかけて1つ以上の定在波の腹が生じる、請求項1
または2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記空洞共振器は、前記空洞部の内部で生じる定在波が腹の数nが奇数である、請求項
3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記空洞共振器は、前記空洞部の内部で生じる定在波の腹の数nが3以上である、請求項
4に記載の検査装置
【請求項6】
前記連通路は、前記糸状体が、前記振動モードで前記空洞部の内部で生じる定在波の腹から所定の範囲を通過するように形成されている、請求項1
または2に記載の検査装置。
【請求項7】
前記空洞共振器は、直方体状の空洞部を有する、請求項1から
6のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項8】
前記導入口および前記導出口は、アイリスにより形成される、請求項1から
7のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項9】
前記空洞部の内面が金属により構成されている、請求項1から
8のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項10】
前記空洞共振器は、複数の糸状体を通過させるための複数の連通路が設けられている、請求項
2から8のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項11】
前記複数の連通路のそれぞれは、前記糸状体が前記空洞部の内部に発生する定在波の腹から所定の範囲の領域を通過するように所定の間隔を開けて設けられている、請求項
10に記載の検査装置。
【請求項12】
前記演算部は、前記電磁波に含まれる所定の共振周波数の強度の変動、及び、前記電磁波の発生周波数の変動、の少なくともいずれか一方に基づいて、糸状体の状態を評価する、請求項1から
11のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項13】
前記発振器は、所定の共振周波数を中心とした第1の範囲の周波数を含む連続波を発生させる、請求項1から
12のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項14】
前記発振器は、連続して共振周波数を含むチャープ波を発生させる、請求項1から
12のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項15】
前記演算部は、前記発振器が発し、かつ、前記空洞共振器を介して前記受信器が受信した第1のチャープ波と、前記発振器が発したチャープ波とは時間に応じた周波数の変動度合いが異なる第2のチャープ波との周波数の差、及び、信号強度の差、の少なくともいずれか一方に基づいて、前記糸状体の異常の有無を評価する、請求項1
,3から
12および請求項
14のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項16】
前記空洞共振器の内部に配置され、前記連通路と前記空洞共振器の内部の空洞部とを区画する保護管を備える、請求項1から
15のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項17】
前記連通口は、前記導波管のカットオフ周波数により規定される所定の計測範囲の周波数を有する電磁波が、前記空洞部から漏出しない大きさに設定される、請求項1から
16のいずれか一項に記載の検査装置。
【請求項18】
前記導入口の内径及び前記導出口の内径は、前記導入口と前記導出口とを結んだ線分に垂直な方向における前記空洞共振器に設けられる空洞部の断面積の15%よりも小さい、請求項1から
17のいずれか一項に記載の検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査装置および検査システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維のような糸状体の製造ラインにおいて、設備や周囲環境、製造プロセスなどに起因して当該糸状体に金属片などの異物が混入したり付着したりする場合がある。検査対象に含まれる金属片などの異物を検出する方法として、ドップラー効果を利用した金属探知機が用いられる場合がある。また、糸状体に含まれた異物を検出するべく、空洞共振器内で検査対象たる糸状体に電磁波を入射する検査装置が利用されている。かかる検査装置において検波(電磁波)を入射すると、空洞共振器内では内部の媒質と検査対象の誘電率によって決まる周波数で共振が起こるところ、誘電率に差がある異物が検査対象に含まれているとこの周波数に変化が生じるので、この変化を捉えることで異物を検出することができる(たとえば、特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-216687号公報
【文献】特開平6-66735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、ドップラー効果を利用した金属探知の方法を採用する場合、検知精度を確保するためには、検査対象の搬送速度を一定以上に保つ必要がある。このように検査対象の搬送速度を一定以上に保つ場合、検査対象のいずれの位置に異物が存在しているかを精度よく見極めることが困難な場合があった。その結果、検査対象のうち、異物が混入していない部分についてまで廃棄する必要が生じていた。
【0005】
また、ドップラー効果を利用した金属探知の方法や、上記特許文献に記載された従来の検査装置では検出可能な異物のサイズに限界がある。例えば、特許文献1には、検査対象が通過する貫通孔を有する導波路にマイクロ波を供給し、検査対象に異物が含まれる場合には、その反射波が増大することを利用して、金属片などの混入異物を検出することが記載されている。また、特許文献2には、検査対象の糸状体が通過する貫通孔を有する空洞共振器内にマイクロ波を供給し、検査対象に異物が含まれる場合には、空洞共振器内に生じた定在波の波形が変動することを利用して、金属片などの混入異物を検出することが記載されている。
【0006】
ここで、反射波の強度は異物の大きさが小さくなるほど弱まることから、特許文献1に記載の技術では、相対的に小さな異物ほど検出が困難になる。また、検出可能な異物の大きさは、使用する電磁波の周波数帯によって変動するところ、特許文献1および2に記載のマイクロ波が示す周波数帯は、3GHz以上30GHz未満程度であり、この周波数帯の電磁波を用いて検出し得る金属片などの異物の大きさは数ミリメートル、最小でも100ミクロンメートル程度である。よって、このような周波数帯の電磁波を適用して糸状体に混入した異物を検出しようとすると、糸状体の長さ方向に一定以上連続して存在する異物のみしか検出できなかった。このように、前記従来の技術では、その検出精度や検出可能な異物の大きさが大きく満足できるものではなかった。
【0007】
より小さな異物を検出するために、マイクロ波よりも短い波長域の電磁波であり、30GHz以上の周波数を有するミリ波を用いることが想定される。一方で、単に、マイクロ波をミリ波に置き換えて検査装置を実現するだけでは、検査装置として十分な機能を果たさないこともわかった。例えば、より短い波長域の電磁波を用いると、検査対象の糸状体を通過させる空間内で、異物の検出に有効な所定の電磁波を定常的に発生させることが困難になることがわかった。
【0008】
そこで、本発明は、糸状体に混入などした異物のうち従前より小さなものを検出可能な検査装置および検査システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、糸状体の検査装置であって、
周波数30GHz以上の電磁波を発する発振器と、
一端が発振器に接続され、電磁波の導波路を形成する第1の導波管と、
第1の導波管の他端が接続されて電磁波が導入される導入口、電磁波が特定の振動モードで共振する空洞部、空洞部から電磁波が導出される導出口、糸状体を通過させる連通路を形成する連通口、を有する空洞共振器と、
一端が導出口に接続され、空洞共振器から電磁波を導出する第2の導波管と、
空洞共振器から導出された電磁波を受信する受信器と、
空洞共振器内での電磁波の変動に基づいて、糸状体の状態を評価する演算部と、
を備える、検査装置である。
【0010】
前述のように異物の検出可能なサイズは、検波(電磁波)の波長に依存する。この検波としてマイクロ波(波長:数mm~30cm程度)を用いている従来の検査装置では、検出可能な異物のサイズが最小でも数100μm程度にとどまり、これより小さな異物を検出することができない。この点、ミリ波に代表される周波数が30GHz以上の電磁波を用い、発振器と受信器との間に導波管、空洞共振器、導波管を配置して、この空洞共振器内で共振させ、空洞共振器内での電磁波の変動度合いを計測することにより異物の有無を評価する本態様のごとき検査装置によれば、数100μm程度のものよりもさらに小さい異物、例えば数ミクロンメートル(μm)の異物を検出することが可能となる。
【0011】
上記のごとき検査装置における空洞共振器の内部で、空洞部の導入口から導出口にかけて1つ以上の定在波の腹が生じるようになっていてもよい。
【0012】
上記のごとき検査装置における空洞共振器は、空洞部の内部で生じる定在波が腹の数nが奇数であるように構成されていてもよい。
【0013】
上記のごとき検査装置において、空洞共振器は、空洞部の内部で生じる定在波の腹の数nが3以上であるように構成されていてもよい。
【0014】
上記のごとき検査装置において、連通路は、糸状体が、振動モードで空洞部の内部で生じる定在波の腹から所定の範囲を通過する位置に形成されていてもよい。
【0015】
上記のごとき検査装置において、空洞共振器は、直方体状の空洞部を有していてもよい。
【0016】
上記のごとき検査装置において、導入口および導出口は、アイリスにより形成されていてもよい。
【0017】
上記のごとき検査装置において、空洞部の内面が金属により構成されていてもよい。
【0018】
上記のごとき検査装置において、空洞共振器は、複数の糸状体を通過させるための複数の連通路が設けられているものであってもよい。
【0019】
上記のごとき検査装置において、複数の連通路のそれぞれは、糸状体が空洞部の内部に発生する定在波の腹から所定の範囲の領域を通過するように所定の間隔を開けて設けられていてもよい。
【0020】
上記のごとき検査装置において、演算部は、電磁波に含まれる所定の共振周波数の強度の変動、及び、電磁波の発生周波数の変動、の少なくともいずれか一方に基づいて、糸状体の状態を評価するものであってもよい。
【0021】
上記のごとき検査装置において、発振器は、所定の共振周波数を中心とした第1の範囲の周波数を含む連続波を発生させるものであってもよい。
【0022】
上記のごとき検査装置において、発振器は、連続して反復した共振周波数を含むチャープ波を発生させるものであってもよい。
【0023】
上記のごとき検査装置において、演算部は、発振器が発し、かつ、空洞共振器を介して受信器が受信した第1のチャープ波と、発振器が発したチャープ波とは時間に応じた周波数の変動度合いが異なる第2のチャープ波との周波数の差、及び、信号強度の差、の少なくともいずれか一方に基づいて、糸状体の異常の有無を評価してもよい。
【0024】
上記のごとき検査装置は、空洞共振器の内部に配置され、連通路と空洞共振器の内部の空洞部とを区画する保護管を備えていてもよい。
【0025】
上記のごとき検査装置における連通口は、導波管のカットオフ周波数により規定される所定の計測範囲の周波数を有する電磁波が、空洞部から漏出しない大きさに設定されていてもよい。
【0026】
上記のごとき検査装置において、導入口の内径及び導出口の内径は、導入口と導出口とを結んだ線分に垂直な方向における空洞共振器に設けられる空洞部の断面積の15%よりも小さくてもよい。
【0027】
また、本発明の一態様にかかる検査システムは、上記のごとき空洞共振器を複数備え、糸状体が、複数の空洞共振器のうちの2以上の空洞共振器の連通路を通過するように構成されているものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、糸状体に混入などした異物のうち従前より小さなものを検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図3】空洞共振器内の電界強度の一例を示す腹の数n=3の場合の画像である。
【
図4】空洞共振器の連通路に糸状体を通す様子を示す図である。
【
図5】連通口を上から見た場合における電気力線と磁力線を示す図である。
【
図6】TM11の電界強度プロットを示す図である。
【
図7】導波管の半径とTM11モードのカットオフ周波数との関係を示すグラフである。
【
図8】アイリス径を変化させたときのスペクトル比較を示すグラフである。
【
図9】アイリス径とQ値(異物Mに対する感度)との関係を示すグラフである。
【
図10】(A)チャープ波の波形例、(B)チャープ波の周波数の変化例を示すグラフである。
【
図11】2つの異なるチャープ波を別々の発振器から放射する構成の概略を示す図である。
【
図12】(A)2つの異なるチャープ波の例を示すグラフと、(B)2つの異なるチャープ波の周波数差の推移を示すグラフである。
【
図13】(A)2つの異なるチャープ波の周波数の差分(IF周波数)とチャープ波1の強度との関係を示すグラフ、(B)チャープ波1の元の周波数とチャープ波1の強度との関係を示すグラフである。
【
図14】糸状体の通常部分および異物が混入した部分それぞれの共振周波数の変化の例を示すグラフである。
【
図15】本開示の実施例1において、糸状体の通常部分および異物が混入した部分それぞれの検出波形の例を示すグラフである。
【
図16】本開示の実施例2において設計した空洞共振器の概略を示す斜視図とその一部を拡大して示す図である。
【
図17】糸状体の通常部分および異物が混入した部分それぞれの検出波形の例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ本発明にかかる検査装置および検査システムの好適な実施形態を詳細に説明する(
図1~
図13参照)。
【0031】
本開示にかかる検査装置は、各種の製造プロセスを経て製造される、例えばガラス繊維等の糸状体Fを計測対象とし、設備や周囲環境、製造プロセスなどに起因して金属片などの異物Mが混入したり付着したりといった異常が生じていないかどうかを検査するための装置である。かかる検査装置では、空洞共振器内で糸状体Fに電磁波を入射し、内部の媒質と糸状体Fの誘電率によって決まる所定の周波数で共振が起こり、そこに誘電率が異なる異物Mが含まれている場合に生じる周波数の変化を捉えて異物Mを検出するという原理で検査を実施する。
また、本開示にかかる検査装置は、所定の共振周波数を有する電磁波の定在波を空洞共振器内に発生させる。
なお、本開示においては、周波数が3GHz以上かつ30GHz未満であり、波長にしておおよそ10センチメートルから1センチメートル程度の周波数帯を有する電磁波をマイクロ波と称し、周波数が30GHz以上かつ300GHz未満であり、波長がミリメートル台の電磁波をミリ波と称する。ただし、ミリ波とマイクロ波とは、厳密に30GHzを境界として定義されているわけではないことはいうまでもない。
【0032】
本実施形態の検査装置1は、発振器10、第1の導波管20、空洞共振器30、第2の導波管40、受信器50、演算部60を備える装置として構成されている(
図1等参照)。
【0033】
(発振器)
発振器10は、所定の共振周波数を中心とした所定の範囲(第1の範囲)の周波数を含む連続波を発生させる装置である。本実施形態では、主としてミリ波(30GHz以上~300GHz未満)帯に属する電磁波を利用することを想定して発振器10などを構成しているが、周波数300GHz以上の電磁波を適用することももちろん可能である。
【0034】
(導波管)
第1の導波管20は、発振器10において発生した電磁波を空洞共振器30へ導くための部材であり、その一端は発振器10に、他端は空洞共振器30にそれぞれ接続されている(
図1参照)。第2の導波管40は、空洞共振器30から電磁波を導出して受信器50へ導くための部材であり、その一端は空洞共振器30に、他端は受信器50にそれぞれ接続されている(
図1参照)。これら第1の導波管20および第2の導波管40は、それぞれ従前の検査装置において使用されているものと同様の構成であって構わない。なお、
図1として示す模式図ではこれらを簡略化して示している。
第1の導波管20および第2の導波管40の断面積は、空洞共振器30の内部に発生させる電磁波の共振周波数によって決定することができる。本実施の形態において、第1の導波管20および第2の導波管40は、空洞共振器30と同一の寸法aおよび寸法b(
図2参照)を有する矩形状の断面を有する。なお、第1の導波管20および第2の導波管40の断面積およびその断面形状は、空洞共振器30と同一でなくてもよい。また、第1の導波管20および第2の導波管40の長さも特に限定されない。第1の導波管20および第2の導波管40には、例えば、EIA(Electronic Industries Alliance)規格において規定された、所定の周波数帯域の電磁波に対応する寸法を有する形状の導波路(導波管)を適宜選択して用いることができる。
【0035】
(空洞共振器)
空洞共振器30は、その内部に空洞部32を形成した筐体(構造体)39からなる。空洞部32には、共振周波数の帯域の電磁波をよく透過させる媒質が存在し、本実施形態においては、この媒質は空気である。空洞共振器30は、空洞部32内で定在波(定常波)を生じさせるように構成されている。空洞部32内で生じさせる定在波は、所定の共振周波数成分を有する。空洞部32の少なくとも内周面は金属により構成される。本実施形態において、筐体39は金属壁で構成されている。また、
図2に示す各寸法の直方体形状である空洞共振器30を例とした場合の共振周波数fが下記の数式1で表されることからわかるように、空洞共振器30の寸法が小さく、かつ媒質(空洞共振器30の内部空間の例えば空気)の誘電率が低いほど、空洞共振器30内で発生する電磁波は高い周波数fで共振する性質を有するようになる。なお、
図2に示す寸法a、b、cは、それぞれ、空洞部32の寸法、すなわち、所定の共振周波数成分を有する定在波を生じさせる空間の寸法を示す。
【数1】
【0036】
ここで、寸法を小さくして空洞共振器30を小型化すれば、ミリ波を用いた場合においても空洞共振器30の内部で所定の共振周波数を有する定在波を発生させることができ、また、定在波が発生することにより、空洞共振器30の内部における電界強度分布を調整することができる。その結果、所定の共振周波数を有する定在波の振幅を大きく、すなわち、電界強度を、特定の範囲(領域)に絞って強くすることができる。このように構成した空洞共振器30において、電界強度の相対的に強い範囲に、異物Mを含む計測対象の糸状体Fが通過すると、発現する電磁波の周波数または強度の変化の幅が大きくなり検出精度を向上させることができる。
【0037】
一例として、本実施形態では、
図2に示す寸法をa=3.0mm、b=1.5mmとし、また、n=3、すなわち、定在波の腹が奇数である3を採用して、c=7.2mmとした空洞共振器30を用いた。これにより、共振周波数79GHzを有する定在波を空洞共振器30内に発生させることができる。なお、長方形状の空洞共振器30は、EIA規格のWR12に準拠した構造体であって、寸法が、a=1.549mm、b=3.099mmに調整された構造体を用いてもよい。なお、共振周波数として設定した79GHzは、後述する導入口31および導出口33の存在およびその寸法、連通口34の寸法により、数GHz程度の値のずれが生じることはいうまでもない。
【0038】
なお、上記寸法a、b、cはあくまで一例であり、空洞共振器30の寸法を、その内部に発生させるべき所望の電磁波に基づいて適宜調整することが可能である。このような検査装置によれば、従来と比較して、より小さい異物を検出可能であり、検出精度が向上する。
【0039】
以下、検査装置1についてさらに詳述する。従来と比較して高周波帯のミリ波を用いると、糸状体Fに含まれる金属片などの異物Mに対する感度が向上する一方で、糸状体Fが通過する空洞共振器30の内部(空洞部32)で所定の電磁波を発生させることが困難な場合があった。例えば、電磁波の導入方法の精度、空洞共振器30からの電磁波の漏洩等によっては、所定の電磁波を空洞共振器30内に発生させることが困難な場合があった。
【0040】
以上のような観点から、検査対象の糸状体Fを通過させる空間内で所定の電磁波を発生させるために、電磁波を空間(空洞部32)へと適切に導入させることが好ましい。本実施の形態における検査装置1は、発振器10で発生させた電磁波を第1の導波管20、導入口31を介して空洞共振器30の空洞部32に導入し、導出口33、第2の導波管40を介して、受信器50で受信する構成を採用する。上記によれば、発振器10、受信器50、および電磁波の導波路(第1の導波管20および第2の導波管40)を、検査対象を通過させるために所定の振動モードの電磁波を発生させる必要がある空間(空洞共振器30の空洞部32)と機能的に分離することができ、その結果、空洞部32内で、所望の電磁波を発生させることが容易になる。
【0041】
本実施形態では、周波数30GHz以上の電磁波を適用するにあたり、さらに、下記のごとき構成の空洞共振器30を構築し、所定の検出精度の向上を図っている。
【0042】
(空洞共振器の概要)
本実施形態の空洞共振器30は、電磁波が導入される導入口31、空洞部32、空洞部32から電磁波が導出される導出口33、糸状体Fを通過させる連通路35を形成する一対の、すなわち、少なくとも2つの連通口34を有する(
図1等参照)。
【0043】
空洞部32の形状は特に限定されないが例えば直方体状とすることができる。導入口31と導出口33とは、空洞部32の内部で対向するように配置されている。また、空洞部32は、導入口31から導出口33に向かって、1つ以上の腹であってその腹の数nが奇数となる定在波が生じるように構成されている。一例として、本実施形態では、空洞部32の内部で生じる定在波の腹の数nが3となるようにし(
図3参照)、電磁波が特定の振動モードで共振するようにしている。なお、
図3に示す3つの略円形の電界強度の中では、それぞれ、中央部分ほど強度が強くなっている。この
図3についてさらに付言しておくと、もともとカラーで表現されていた電界強度画像を白黒の濃淡で表現している関係上、略円形の外側部分の電界強度が濃く現れているが、実際の電界強度は円の中央から離れるほど弱くなっている。
【0044】
連通口34は、糸状体Fを通すことができる孔として空洞共振器30の筐体39に設けられており、糸状体Fを通過させる連通路35を形成する(
図4等参照)。計測時、糸状体Fは、連通路35内を上方から下方に(あるいは下方から上方に)所定の速度で移動し、通過する(
図1、
図4参照)。すなわち、糸状体Fは、空洞共振器30の空洞部32を、空洞部32で発生する定在波の振幅の向きに通過する。本実施形態では、筐体39のもっとも広い面である幅a、長さcの
図2中における上面(符号39aで示す)およびその対向面である下面のそれぞれに対となる連通口34を設けている。対の連通口34によって形成される連通路35は、空洞共振器30内に形成される定在波のうち電界強度が強い部分を通過するように形成されていることが望ましい。すなわち、一対の連通口34により構成される連通路35は、空洞共振器30内に形成される定在波の腹のピークが発生する箇所に形成されることが好ましい。空洞部32の内部で生じる定在波の腹の数nが3となるようにしている本実施形態では(
図3参照)、電界強度が強い3つの腹のうち真ん中の腹の中央部分を連通路35が通過するよう、筐体39の上面39aおよび下面それぞれの中央部分に対となる連通口34を設けている(
図4参照)。
【0045】
なお、連通路35と空洞共振器30内の空洞部32とを区画する保護管36を設けてもよい。保護管36は、空洞部32に発生させる電磁波の吸収が少ない材料であることが好ましく、その具体例としては例えば、セラミックや、樹脂が挙げられる。また、保護管36は、糸状体Fを破損させない材料であり、また、糸状体Fとの接触が生じた場合でも摩耗が生じないあるいは摩擦抵抗が極力小さい材料であることが好ましい。この点で、多くの種類の糸状体Fに対して左記条件に照らしセラミックがより好ましく、特に検査対象の糸状体Fがガラス繊維である場合には、セラミックであることが最も好ましい。
このように、保護管36を設けることで、外部環境で生じた粉塵等が空洞共振器30の内部に侵入することを防止できる。その結果、検査装置1が製造ラインに実装され、連続的に使用された場合でも、検査精度を高く保つことができる。
【0046】
なお、本実施形態では1対の連通口34からなる1本の連通路35を形成しているがこれは一例にすぎない。たとえば、複数本の連通路35を設け、複数の糸状体Fをそれぞれの連通路35に同時に通過させることができるようにしてもよい。こうする場合、たとえば本実施形態のごとく定在波の腹の数n=3としているのであれば、電界強度が強い3つの腹のそれぞれから所定の範囲の領域内をそれぞれの連通路35が所定の間隔を開けて通るように各連通口34を設けることが好ましい(
図4参照)。これにより、一対の連通口34により構成される複数の連通路35のそれぞれは、空洞共振器30内に形成される定在波の腹のピークが発生する箇所に形成される。
【0047】
(連通口の孔径)
糸状体Fの異物検査を行う場合、空洞共振器30には、糸状体Fを通過させるための連通口34を設ける必要があり、これにより、空洞部32と外部環境とは連通する。連通口34は、その口径が大きいほど糸状体Fを通しやすく操作性はよくなるが、特にミリ波帯の電磁波を用いて異物検査を行う場合、上述の通り、連通口34からの電磁波の漏洩による、空洞共振器30内の電磁波への影響が従来よりも大きく、検査に資する所望の電磁波を発生させることが困難である。よって、連通口34の口径等を含む空洞共振器30の構造に起因した検査精度への影響が、従来よりも顕著になる。そうすると、連通口34は、電磁波の漏れ出しを抑えつつ、なるべく大きな孔径であることが望ましい。これらをふまえた孔径の大きさの決定手順(フロー)の一例を以下に示す。
1.空洞共振器30内で発生させる電磁波(定在波)の共振周波数を決める。
2.上記共振周波数を有する電磁波(定在波)の腹の直上に糸状体Fの連通口34を配置する。
3.連通口34の長さ(別言すれば、連通口34が形成された空洞共振器30の金属壁の厚み)からすれば、糸状体Fの連通口34は、電磁気学的に円形導波管と同様の取扱が可能になることを考慮する。
4.上記の共振周波数、円形導波管の長さから、その内部の伝播モードが特定される。
5.特定された伝播モードにより、カットオフ周波数の式(数式2)に含まれるk値が決まる。
6.fcを空洞共振器30内に発生する電磁波に含まれる周波数の上限値とし、カットオフ周波数の下記数式2により、連通口34の孔径(半径)rを決定する。
【数2】
【0048】
上記の決定手順(フロー)について以下補足する(
図6、
図7参照)。上述の考え方は、連通口34をカットオフ導波管として捉え、空洞部32から漏出する電磁波(電力)を削減する、というものである。連通口34は、上述の通り、空洞共振器30を構成する筐体(金属壁)の厚み分の長さを有する円形導波管として機能する。ここで、円形導波管は、カットオフ導波管との表現の通り、ハイパスフィルタとして動作し、一定の周波数以上の電磁波しか通過させない。したがって、円形導波管(連通口34)の口径を、所定の口径に調整することで、空洞共振器30からの電磁波の漏出を防止し、空洞共振器30の内部に所望の振動モードの電磁波を発生させることができる。
【0049】
上述の通り、カットオフ周波数の式(数式2)中の定数kの値は導波管内の伝播モードで決まる。また、伝播モードは、導波管の半径および長さに応じて決まる。一例として、前述したよう、共振周波数79GHz程度の周波数帯の電磁波を有する定在波を空洞共振器30内に発生させ、連通口34(円形導波管)の長さが1.2mmである場合、その伝播モードは、TMモード(Transverse Magnetic mode)となることが一般的であり、また、
図6に示すように、シミュレーション結果より、連通口34を通過する電磁波のモードは、TM11(連通口34内に電場の腹が二つあるようなモード)が支配的であることを確かめている。
【0050】
本実施の形態においては、一例として、前述したように、空洞共振器30内に共振周波数79GHzの電磁波を発生させる場合において、これに電磁波の発生誤差を考慮して、カットオフ周波数fc(空洞共振器30内に発生する電磁波に含まれる周波数の上限値)を82GHzに設定し、このカットオフ周波数fc以上の周波数を有する電磁波が通過しないような連通口34の半径を、上述した決定手順フローによって導出する。その結果連通口34の半径は、2.23mm以下とすることが必要になる。これにより、糸状体Fを通す連通口34の孔径の上限が求まる。なお、カットオフ周波数fcは、例えば、使用する発振器10が発生することのできる周波数の上限値に基づいて設定するようにしてもよい。
【0051】
(導入口および導出口)
導入口31は、第1の導波管20を経て電磁波が空洞部32へと導入される部分、導出口33は、電磁波が空洞部32から導出される部分である。導入口31および導出口33は、互いに対向するように配置されており、空洞部32にいて電磁波の進行方向に垂直な断面の断面積よりも小さい面積を有する。より具体的には、本実施の形態において、導入口31および導出口33は、直方体状の空洞部32における電磁波の進行方向に垂直な寸法aおよびbで規定される空洞部32の断面積よりも小さい面積を有する。
【0052】
また、導入口31および導出口33は、空洞部32内で所定の共振周波数を有する定在波を発生させるために、所定の周波数の電磁波が漏出しない程度の大きさに構成されていることが好ましい。すなわち、導入口31および導出口33が過大であると、導入口31および導出口33から漏出する電磁波により、空洞部32内に所定の共振周波数を有する定在波を発生させることが困難になる。これは、導入口31および導出口33から漏出する電磁波の量が過大になることにより、第1の導波管20および第2の導波管40が共振器として機能してしまうためである。上記観点から、本実施の形態においては、導入口31および導出口33は、空洞部32の断面積の15%よりも小さい面積を有するように構成されている。導入口31および導出口33の面積の上限値の算出に関する考え方は後述する。
【0053】
導入口31および導出口33は、空洞共振器30に所定の貫通口を形成することで配置されてよく、空洞共振器30と、第1の導波管20または第2の導波管40との間に、所定の面積の貫通口を有するアイリスを配置することで形成されていてもよい。本実施の形態において、これら導入口31および導出口33は、アイリス(小孔)により形成されている。
【0054】
なお、導入口31および導出口33を形成する部材は、電磁波が透過しないように導電体で構成されることが好ましい。また、導入口31および導出口33を形成する部材の厚み(アイリスの厚み)は、電磁波を通過させない程度の長さを確保しつつも薄いことが好ましい。このような長さとしては、例えば、1μm以上100μm未満である。本実施の形態では、厚み50μmの金属板に導入口31および導出口33を形成しアイリスとしている。
【0055】
また、導入口31および導出口33の面積(大きさ)の上限の求め方の一例を示すと以下のとおりである(
図9参照)。前述したように、所定の寸法を有する空洞共振器30の内部に79GHzの共振周波数を有する定在波を発生させた状態で、導入口31および導出口(アイリス)33の面積を変動させると、
図9に示すように、導入口31および導出口33の面積(アイリス径)によってQ値(Quarily factor)が変動する。Q値が大きいことは、共振周波数をピークとした電磁波の波形が相対的に急峻であることを示すことから、異物Mを含む検査対象が通過したときの電磁波の波形の変化が大きく、異物Mに対する感度が大きい。ここで、空洞共振器30を用いた異物の検出には、一般的に、Q値が1000より大きいことが必要である。よって、本実施の形態において、導入口31および導出口33の面積(アイリス径)はφ0.9mm以下であることが好ましく、これは、空洞部32の断面積に対して15%以下であることが好ましい。以上から、空洞共振器30の導入口31の内径と導出口33の内径は、導入口31と導出口33とを結んだ線分に垂直な方向における空洞共振器30に設けられる空洞部32の断面積の15%よりも小さいことが好ましい。
【0056】
なお、導入口31および導出口33の面積(アイリス径)の下限値は、0より大きく、電磁波の測定が可能であれば特に限定されない。一方、受信器50で取得される電磁波の強度を一定のレベル以上とすべく、導入口31および導出口33は所定以上の大きさを有することが好ましい。
上述のとおり、導入口31および導出口33が小さいほど、これら貫通穴を透過した後の電磁波のレベルは低くなる。例えば、前述したような、第1の導波管20、第2の導波管40、空洞共振器30の断面積が寸法a=3.0mm、寸法b=1.5mmであり、共振周波数79GHzを有する電磁波を用いた場合において、導入口31および導出口33の面積を変化させたときの、電磁波のレベルの比較を
図8に示す。
図8の縦軸は、発振器10が発生させた電磁波の強度と、受信器50が受信した電磁波の強度との比をとったもので、導入口31および導出口33を通過する電磁波の透過率を示すし、右上に示す、導入口31および導出口33の大きさ(導入口31および導出口33の口径の直径)毎に、電磁波の透過率を示したものである。
図8に示すように、導入口31および導出口33の面積が小さいほど、これらを透過した後の電磁波の強度は小さい。ここで、一般的に用いられる測定精度が高い計測機器のダイナミックレンジは、おおよそ-110dB程度である(
図8中の-110dBのライン参照)。これに照らすと、仮に導入口31および導出口33の直径が0.3mmを下回ると、受信器50が受信する電磁波の強度が弱く、測定レンジ外となる領域が発生する。以上から、導入口31および導出口33の直径は、φ0.3mm 以上であることが好ましい。これによれば、第1の導波管20、空洞部32、第2の導波管40の断面積に対する導入口31および導出口33の面積は、1.6%以上であることが好ましい。
【0057】
以上説明した、空洞共振器30の空洞部32の断面積に対する導入口31および導出口33の面積の比により決定される口径の上限値と、第1の導波管20、空洞部32、第2の導波管40の断面積に対する導入口31および導出口33の面積の比により決定される口径の下限値とは、第1の導波管20、空洞共振器30、第2の導波管40の形状および寸法が変動しても適用できる。
【0058】
(受信器)
受信器50は、空洞共振器30から導出され、第2の導波管40を通過した電磁波を受信する(
図1参照)。
【0059】
(演算部)
演算部60は、空洞共振器30内での電磁波の変動に基づいて糸状体Fの状態を評価する演算装置で構成されている。演算部60は、受信器50が受信する電磁波に含まれる所定の共振周波数の強度の変動に基づいて糸状体Fの状態を評価することができ、あるいは、電磁波の発生周波数の変動に基づいて糸状体Fの状態を評価することができる。
本実施の形態において、検査装置1は、所定の共振周波数を有する電磁波の定在波を空洞共振器30の空洞部32内に発生させ、空洞部32から導出された電磁波を受信器50で受信し、演算部により、受信器50が受信した電磁波の変動度合い、例えば、共振周波数の周波数、および振幅の少なくともいずれか一つの変動度合いに基づいて、検査対象の糸状体Fの異物の有無を評価する。
【0060】
(チャープ波の利用)
ここで、検査装置1は、発振器10から発生させる電磁波としてチャープ波を採用してもよい。これにより、ミリ波帯のような高周波帯の電磁波を用いる場合、信号処理において、周波数をダウンコンバートすることができ、信号処理を担う演算回路内での損失を低減したり、また、AD変換を実行することが容易な程度まで情報量を圧縮することが可能になる。上記の構成の検査装置1において、時間変化率の異なるチャープ(chirp)波の差を利用して行うスペクトル計測手法の一例を以下に説明する(
図10~
図12参照)。チャープ波は時間に応じて周波数が変化する信号(チャープ信号)に基づく波形のことをいう(
図10参照)。本実施の形態においては、時間に応じて周波数が増大する2つのチャープ波1およびチャープ波2を用いている。
【0061】
本実施の形態においては、発振器10に加え、別の発振器12を用意し、発振器10からチャープ波1、別の発振器12からチャープ波2を放射する(
図11参照)。チャープ波2には、チャープ波1と周波数の変動度合いが異なるチャープ波を採用する。チャープ波1は、空洞共振器30の内部に導入され、共振器の影響を受け、異物Mがあれば当該物により強度が変化した後、導出口33から導出される。一方、チャープ波2は、空洞共振器30の内部に導入されず、すなわち、検出対象から影響を受けることなく、空洞共振器30から導出されたチャープ波1に加えられて乗算に用いられる。
【0062】
これらチャープ波1とチャープ波2とは、ある時点における周波数が異なるように構成されている(ただし、時間と周波数との関係を示すグラフにおけるチャープ波1とチャープ波2との交点を除く)。本実施の形態においては、チャープ波1とチャープ波2とを、発振開始時における初期周波数および周波数の増加率(
図10(B)に示したグラフ中の傾きとして表される)が異なるように構成している。さらに具体的には、本実施の形態において、チャープ波1は、発振開始時の初期周波数がチャープ波2と比較して大きくなるように設定されている。また、チャープ波1は、時間に応じた周波数の増加率がチャープ波2と比較して小さくなるように構成されている。
【0063】
なお、チャープ波1とチャープ波2は放射される周波数の範囲内において一定強度の信号として放射されてよい。すなわち、チャープ波2の強度情報は用いられなくてもよい。本実施の形態においてはチャープ波2の周波数情報を、チャープ波1の周波数をダウンコンバートするために用いている。この手法によれば、空洞共振器30から導出された直後の段階におけるチャープ波1の強度(パワー)をより精度よく計測することが可能となる。
【0064】
一例を挙げつつさらに説明する。空洞共振器30を通過するチャープ波1は、t=0からt=100までの間、その周波数を77.005GHzから91.001GHz へと変化させたとする。また、空洞共振器30を通過しないチャープ波2は、t=0からt=100までの間、その周波数を77GHzから91GHz へと変化させたとする(
図12(A)参照)。この場合における両チャープ波の周波数差の推移は図に示すようになり(
図12(B)参照)、t=0のときの差分が0.005GHz(5MHz) であったのが、t=100のときには差分が0.001GHz(1MHz) になったということになる。
【0065】
ここで、周波数の差分(IF周波数)を横軸、発信器1から出たチャープ波の強度(または、発信器1から出たチャープ波1の強度と発信器2から出たチャープ波2の強度との差)(図示せず)を縦軸としたグラフについて、周波数の差分をフーリエ変換して強度のスペクトルを取得し、周波数の差分(IF周波数)とチャープ波1の強度との関係をとると(
図13(A)参照)、経過時間によって変動する、すなわち経過時間に対応する周波数の差分を横軸とし、空洞共振器30を通過する側のチャープ波(つまりチャープ波1)の強度を縦軸としたグラフが得られることになる。続いて、以上をベースに、チャープ波1の元の周波数とチャープ波1の強度との関係をとると(
図13(B)参照)、この変換の際、本来の周波数よりも低い周波数にすることができる。これにより、受信器50が受信した電磁波をAD変換容易な周波数帯にまでダウンコンバートすることができる。また、従来と比較して高周波帯の電磁波であるミリ波を用いる本開示においては、受信器50が受信した電磁波に対する信号処理を行う際、演算処理を担う電気回路における伝送損失、特に周波数に比例する誘電損による伝送損失が大きくなる。これを解決するためには、電気回路の材質、特に基板の材質を変えることが必要になるが、現状、ミリ波帯の電磁波を用いる場合にその誘電損を大きく低減する材料であって実使用に資する材料はない。一方、上述のように、ダウンコンバートを行った電磁波に対して演算処理を行うことで、伝送損失を低減した状態で演算処理を実行することができる。上記のごとくチャープ波を利用して行うスペクトル計測手法を実施する場合、演算部60は、これらチャープ波1とチャープ波2との周波数の差あるいは信号強度の差に基づいて、糸状体Fの異常の有無を評価する。
【0066】
ここまで説明したごとき本実施形態の検査装置1によれば、周波数が30GHz以上のミリ波などの電磁波を生じさせ空洞共振器30に入射させることで、従前の検査装置による検出可能な限度であった数100μm程度の異物よりもさらに小さな異物Mを検出することができる。なお、空洞共振器30内で検査対象たる糸状体Fに電磁波を入射する検査装置1において周波数30GHz以上の電磁波(ミリ波)を適用するに際し、本実施形態の検査装置1は、単にそれに適した発振器10を採用しただけにとどまらないのは、ここまでの説明、さらには後述する実施例の説明からも明らかである。
【0067】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。たとえば、上述の実施形態では単一の空洞共振器30を備える検査装置1について説明したが、このような空洞共振器30を複数備え、糸状体Fが、これら複数の空洞共振器30のうちの2以上の空洞共振器30の連通路35を通過するようにした検査システムを構成してもよい。
【実施例1】
【0068】
検査装置1の実サンプルを用いて異常検出の原理検証を試みた。検査装置1の形状、寸法、共振周波数を含む仕様をまとめ、表1に示す。ここでは、糸状体Fとしてガラスファイバを用いた。ガラスファイバを空洞共振器30の連通路35に通し、5.0m/minの速度でガラスファイバを通過させたときの、受信器50が計測した電磁波を計測した。
図14は、ガラスファイバのうち、異物を含まない糸状体Fの正常な部分が通過したときの波形と、異物が含まれたガラスファイバの異常部分が通過したときの波形とを示している。
図14に示す通り、正常部分が通過したときには、前述したとおりの79GHz付近に共振周波数のピークが発現している。一方、異物を含む異常部分が空洞共振器30の連通路35を通過したときには、共振周波数のピーク周波数、およびその強度が変動している。上記説明したような本実施形態の検査装置1によれば、糸状体Fの通常部分(正常部分)(regular part)、異物が含まれた異常部分(metal part 1)、のいずれも、ピーク周波数、強度共に大きく変化し、計測誤差以上の変化があることが認められた。
【表1】
また、本開示における検査装置1により(ただし、連通口の直径Φ:1.0mm、アイリス径φ0.7mmの場合)、直径α:0.2μm、長さ100μmの異物(金属球φ2.6μm相当の体積)の検出が可能であることが認められた(
図15参照)。
【実施例2】
【0069】
電磁界シミュレーターを利用し、異常検出の原理検証を試みた。ここでは、共振周波数が76~81GHzの間になるように空洞共振器30を設計し(ただし、連通口の直径Φ:1.5mm、アイリス径φ0.6mmの場合)、異物(金属部)Mを含む糸状体Fを連通路35に通した(
図16参照)。計算の結果、異物Mが空洞共振器30内に入った場合にピーク形状並びにピーク強度、共振周波数、いずれも大きく変化することが認められた(
図17参照)。なお、
図17における条件は
図14におけるものと同じであるにもかかわらず微妙にピーク位置が異なったのは、現実には空洞共振器30の金属部分の熱膨張や、空洞共振器30と導波管20,40との接続部のねじの締め方による影響が敏感に反映されるからであると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、糸状体の検査装置および検査システムに適用して好適である。
【符号の説明】
【0071】
1…検査装置
10…発振器
12…別の発振器
20…第1の導波管
30…空洞共振器
31…導入口
32…空洞部
33…導出口
34…連通口
35…連通路
36…保護管
39…筐体
39a…上面
40…第2の導波管
50…受信器
60…演算部
F…糸状体
M…異物