(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】真空劣化推定装置および真空劣化推定方法
(51)【国際特許分類】
H01H 33/668 20060101AFI20250106BHJP
G01R 31/12 20200101ALI20250106BHJP
【FI】
H01H33/668 K
G01R31/12 A
(21)【出願番号】P 2020203363
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長 広明
(72)【発明者】
【氏名】藤井 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】近藤 淳一
(72)【発明者】
【氏名】竪山 智博
【審査官】荒木 崇志
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-184275(JP,A)
【文献】特許第6119985(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第112017907(CN,A)
【文献】特許第6246058(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第111916305(CN,A)
【文献】国際公開第2016/157912(WO,A1)
【文献】特開平06-012949(JP,A)
【文献】特開昭59-175524(JP,A)
【文献】特開2018-151323(JP,A)
【文献】特開2015-210851(JP,A)
【文献】特開2000-113780(JP,A)
【文献】特開2005-302331(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 33/60 - 33/68
G01R 31/12 - 31/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力信号の1周期において真空バルブから発生する電磁波の波形を検出する波形検出部と、
前記電磁波の包絡線の強度が所定の閾値以上となる状態の持続時間を特定する持続時間特定部と、
特定した前記持続時間に基づいて、前記真空バルブの真空劣化に係る劣化状態を推定する推定部と
を備える真空劣化推定装置。
【請求項2】
前記電磁波において、成分の強度が最も大きい周波数である主要周波数を特定する周波数特定部をさらに備え、
前記推定部は、特定した前記持続時間及び前記主要周波数に基づいて、前記真空バルブの劣化状態を推定する
請求項1に記載の真空劣化推定装置。
【請求項3】
前記主要周波数に係る周波数成分における所定強度以上のパルスの発生頻度を特定する信号カウント部をさらに備え、
前記推定部は、特定した前記持続時間、前記主要周波数及び前記発生頻度に基づいて、前記真空バルブの劣化状態を推定する
請求項2に記載の真空劣化推定装置。
【請求項4】
前記推定部は、予め求められた前記真空バルブの劣化状態と電磁波の持続時間、主要周波数及び発生頻度との関係に基づいて、特定した前記持続時間、前記主要周波数及び前記発生頻度が示す劣化状態を特定する
請求項3に記載の真空劣化推定装置。
【請求項5】
前記推定部は、特定した前記持続時間、前記主要周波数及び前記発生頻度のすべてが所定の条件を満たす場合に、前記真空バルブの劣化状態を推定する
請求項3または請求項4に記載の真空劣化推定装置。
【請求項6】
前記電磁波から前記真空バルブの部分放電によって生じる電磁波が現れる第1の周波数帯域を抽出するフィルタを備え、
前記持続時間特定部は、前記第1の周波数帯域に係る前記電磁波の持続時間を特定する 請求項1から請求項5の何れか1項に記載の真空劣化推定装置。
【請求項7】
前記推定部は、前記主要周波数が10MHz以上であり、かつ前記電磁波のうち10MHz以上の周波数帯に係る成分の包絡線において、強度が所定の閾値以上となる2つの部分信号が存在する場合に、真空劣化以外の事由に係る部分放電が生じていると推定する
請求項2から請求項5の何れか1項に記載の真空劣化推定装置。
【請求項8】
前記推定部は、前記主要周波数が10MHz以上であり、かつ前記電磁波のうち10MHz以上の周波数帯に係る成分の包絡線において、強度が所定の閾値以上となる2つの部分信号が存在する場合に、前記
2つの部分信号の比較により、前記
劣化状態を推定する
請求項7に記載の真空劣化推定装置。
【請求項9】
電力信号の1周期において真空バルブから発生する電磁波の波形を検出するステップと、
前記電磁波の包絡線の強度が所定の閾値以上となる状態の持続時間を特定するステップと、
特定した前記持続時間に基づいて、前記真空バルブの真空劣化に係る劣化状態を推定するステップと
を備える真空劣化推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は真空劣化推定装置および真空劣化推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遮断器や断路器の主要な構成品である真空バルブは、バルブ内の真空度が高真空に保たれていることが、絶縁特性を保つうえで重要な要因である。真空バルブの真空度が低下すると、絶縁性能が低下し、電流の遮断ができなくなる。そのため、真空バルブの健全性を確認するために定期的に真空度のチェックが行われる。絶縁性能の低下を検知する手法として、部分放電に起因して生じる電磁波を検出する手法がある。電磁波は電磁波センサを用いて検出されるが、空中に伝搬する放送波等の電磁波も検出され、誤診断の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】岡本 達希、田中 祀捷;“部分放電サイクル平均φ-q特性 -6種類の電極形状による実験-”、電気学会論文誌A、102巻、7号、pp.381-388、1982年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、真空バルブの真空度の劣化を精度よく推定をすることができる真空劣化推定装置および真空劣化推定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の真空劣化推定装置は、波形検出部と、持続時間特定部と、推定部とを持つ。波形検出部は、電力信号の1周期において真空バルブから発生する電磁波の波形を検出する。持続時間特定部は、電磁波の包絡線の強度が所定の閾値以上となる状態の持続時間を特定する。推定部は、特定した持続時間に基づいて、真空バルブの真空劣化に係る劣化状態を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る真空劣化の監視対象であるスイッチギヤの構成図である。
【
図2】真空劣化推定装置1の構成を示す概略図である。
【
図3】真空バルブの真空度と部分放電信号の持続時間との関係の一例を示す図である。
【
図4】真空バルブの真空度と部分放電信号の主要周波数との関係の一例を示す図である。
【
図5】真空バルブの真空度と主要周波数に係るパルスの発生数との関係の一例を示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る演算装置15の動作を示すフローチャートである。
【
図7】第2の実施形態に係る信号処理装置13の構成を示す概略図である。
【
図8】第2の実施形態に係る演算装置15の処理を示すフローチャートである。
【
図9】真空バルブの真空度と部分放電信号の持続時間と第1閾値の関係の一例を示す図である。
【
図10】真空バルブと部分放電信号の主要周波数と第2閾値の関係の一例を示す図である。
【
図11】真空バルブと主要周波数に係るパルスの発生数と第3閾値の関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の真空劣化推定装置を、図面を参照して説明する。
(第1の実施形態)
第1の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、スイッチギヤ5が備える遮断器54及び断路器55に係る真空劣化を監視する。
図1は、第1の実施形態に係る真空劣化の監視対象であるスイッチギヤの構成図である。
図1において、紙面左側がスイッチギヤ5の前面、紙面右側がスイッチギヤ5の背面である。スイッチギヤ5は、ケーブルヘッド51、変流器52、主回路導体53、遮断器54、断路器55、可動側接続導体56、操作機構57、母線58及び筐体59を備える。
【0009】
ケーブルヘッド51は、スイッチギヤ5の背面側に設けられる。ケーブルヘッド51の一端には、変流器52を介して電力ケーブルが接続される。ケーブルヘッド51の他端には、主回路導体53が接続される。主回路導体53は、絶縁樹脂で覆われている。主回路導体53には、遮断器54が接続される。断路器55は、遮断器54と並列に配置される。断路器55は、隣接する盤と接続する母線58が接続される。
【0010】
遮断器54及び断路器55は、それぞれ真空バルブを備える。真空バルブは、アルミナ磁気からなる内部真空の筒状容器を有し、筒状容器の内部に固定電極及び可動電極が封入される。可動電極は、真空バルブの軸線方向に沿って押し込まれることで固定電極と接続され、軸線方向に沿って引かれることで固定電極と切断される。
【0011】
遮断器54の固定電極は、主回路導体53に接続される。断路器55の固定電極は、母線58に接続される。遮断器54の可動電極及び断路器55の可動電極は、可動側接続導体56によって互いに接続される。遮断器54の可動電極及び断路器55の可動電極は操作機構57にから伸びるロッドに接続される。操作機構57は、図示しない制御装置によってロッドを上下動させることにより、遮断器54及び断路器55の可動電極を移動させる。
【0012】
筐体59は、スイッチギヤ5の外殻をなし、ケーブルヘッド51、変流器52、主回路導体53、遮断器54、断路器55、可動側接続導体56、操作機構57及び母線58を収容する。筐体59は、金属で形成される。
【0013】
真空劣化推定装置1は、真空バルブから発生する電磁波を検出し、当該電磁波に基づいて真空バルブの劣化状態を推定する。
図2は、真空劣化推定装置1の構成を示す概略図である。真空劣化推定装置1は、電磁波センサ11、信号処理装置13、演算装置15及び表示装置17を備える。電磁波センサ11は、真空バルブから発生する電磁波、すなわち部分放電信号を検出する。電磁波センサ11は、筐体59の内部に設けられる。また電磁波センサ11は、監視対象の真空バルブの近傍に設けられることが好ましい。電磁波センサ11の接続端子は筐体59の外部に引き出されている。電磁波センサ11は、波形検出部の一例である。
【0014】
信号処理装置13は、電磁波センサ11の接続端子と接続され、電磁波センサ11が検出した信号について信号処理を行い、信号の特徴量を特定する。信号処理装置13は、例えばオシロスコープなどのハードウェアによって構成される。演算装置15は、信号処理装置13が特定した信号の特徴量に基づいて、真空バルブの劣化状態を推定する。演算装置15は、例えばコンピュータによって構成される。表示装置17は、信号処理装置による劣化状態の推定結果を表示する。
【0015】
信号処理装置13は、サンプリング部131、増幅器132、バンドパスフィルタ133、検波回路134、持続時間特定部135、周波数変換部136、周波数特定部137、周波数カウンタ138及び出力部139を備える。サンプリング部131は、電磁波センサ11が出力する信号からスイッチギヤ5に供給される電力信号の周期(例えば、50Hz電源の場合、20ミリ秒)相当の幅を有する波形を切り出す。増幅器132は、サンプリング部131が切り出した波形を所定のゲインで増幅させる。バンドパスフィルタ133は、増幅された波形から所定の周波数帯域の成分を抽出する。第1の実施形態に係るバンドパスフィルタ133は、例えば30kHzから10MHzまでの成分を抽出する。30kHzから10MHzまでの周波数帯域は、真空バルブの部分放電信号が現れる周波数帯域である。
【0016】
検波回路134は、バンドパスフィルタ133が抽出した波形の全波整流及び包絡線検波を行う。持続時間特定部135は、検波回路134が生成する包絡線波形の持続時間を検出する。すなわち、持続時間特定部135は、包絡線波形が第1の強度閾値を超えてから第1の強度閾値未満となるまでの時間を特定する。なお、第1の強度閾値は、例えば包絡線波形の最大強度の10%であってよい。電力信号の1周期において、第1の強度を超えてから第1強度閾値未満となる部分波形は、通常1つ又は2つ含まれる。電力信号の1周期において部分波形が2つ存在する場合、持続時間特定部135は各部分波形についての持続時間を特定する。
【0017】
周波数変換部136は、バンドパスフィルタ133が抽出した波形を周波数変換することで、波形の周波数領域表現を得る。周波数特定部137は、周波数変換部136が生成した周波数領域表現に基づいて強度が最も大きい周波数である主要周波数を特定する。周波数カウンタ138は、バンドパスフィルタ133が抽出した波形から、主要周波数における成分のパルスの発生数を計測する。出力部139は、包絡線波形の持続時間、主要周波数、及びパルスの発生数を示すデータを演算装置15に出力する。周波数カウンタ138は、信号カウント部の一例である。
【0018】
演算装置15は、取得部151、関係記憶部152、推定部153及び出力部154を備える。取得部151は、信号処理装置13から包絡線波形の持続時間、主要周波数、及びパルスの発生数を示すデータを取得する。
【0019】
関係記憶部152は、真空バルブの真空度と信号の持続時間、主要周波数及びパルスの発生数との関係を記憶する。これは、発明者によって見いだされた知見に基づくものである。すなわち、発明者は、真空バルブの真空漏れに関する実験から、真空バルブの真空度に応じて真空バルブの部分放電信号の持続時間が変化すること、真空バルブの真空度と真空バルブの部分放電信号の主要周波数との間に相関があること、及び真空バルブの真空度と真空バルブの部分放電信号の主要周波数に係るパルスの発生数との間に相関があることを見出した。
【0020】
図3は、真空バルブの真空度と部分放電信号の持続時間との関係の一例を示す図である。
図3に示す例においては、真空バルブの真空度が十分に高い場合、部分放電信号は発生しないため、持続時間は短い。真空度が低くなるにつれて持続時間が増加し、第1真空度P1の近傍において持続時間が極大値t1をとる。真空バルブの真空度が第1真空度P1を超えると、部分放電信号の持続時間は減少し、第2真空度P2の近傍において持続時間が極小値t2となる。真空バルブの真空度が第2真空度P2を超えると、部分放電信号の持続時間は増加し、持続時間の極大値t1に漸近する。
【0021】
図4は、真空バルブの真空度と部分放電信号の主要周波数との関係の一例を示す図である。
図4に示す例においては、真空バルブの真空度が十分に高い場合、部分放電信号の主要周波数は第1周波数f1の近傍の値をとる。真空バルブの真空度が低くなるにつれて主要周波数は低下し、第2真空度P2の近傍において主要周波数が極小値f2となる。真空バルブの真空度が第2真空度P2を超えると、主要周波数は増加し、第1周波数f1に漸近する。ただし、真空度が第2真空度P2以上かつ真空バルブの真空度が大気圧以下であるとき、主要周波数は第1周波数f1より低い。
【0022】
図5は、真空バルブの真空度と主要周波数に係るパルスの発生数との関係の一例を示す図である。
図5に示す例においては、真空バルブの真空度が十分に高い場合、部分放電信号は発生しないため、パルスの発生数も少ない。真空度が低くなるにつれてパルスの発生数が増加し、第1真空度P1の近傍においてパルスの発生数が極大値n1をとる。真空バルブの真空度が第1真空度P1を超えると、パルスの発生数は減少し、第2真空度P2の近傍においてパルスの発生数が極小値n2となる。真空バルブの真空度が第2真空度P2を超えると、パルスの発生数は増加し、パルスの発生数の極大値n1に漸近する。
【0023】
なお、
図3及び
図5に示すように、部分放電信号の持続時間及びパルスの発生数は、第1真空度P1の近傍において極大となる。一方で、部分放電信号の持続時間が極大となる真空度と、パルスの発生数が極大となる真空度は、必ずしも一致しない。同様に、
図3、
図4及び
図5に示すように、部分放電信号の持続時間、主要周波数及びパルスの発生数は、第2真空度P2の近傍において極小となる。一方で、部分放電信号の持続時間が極小となる真空度と、主要周波数が極小となる真空度と、パルスの発生数が極小となる真空度は、必ずしも一致しない。なお、
図3から
図5に示す関係は、あくまで特定の真空バルブについて計測して得られた結果を示すものであり、真空バルブの設計によってこれらの関係は変化し得る。例えば、他の真空バルブにおいては、第1真空度P1及び第2真空度P2、並びに極大値及び極小値の関係が異なる可能性がある。
【0024】
推定部153は、関係記憶部152が記憶するデータに基づいて、取得部151が取得した持続時間に対応する真空度の値、主要周波数に対応する真空度の値及びパルスの発生数に対応する真空度の値をそれぞれ特定する。推定部153は、各真空度の値が所定の誤差範囲(例えば±10%)内で一致する場合に、特定した真空度の値の平均値を、真空バルブの真空度として推定する。推定部は、推定した真空度が所定の閾値未満である場合に真空バルブが正常であると判定し、推定した真空度が所定の閾値以上である場合に真空バルブに真空漏れが発生していると判定する。出力部154は、推定部153の推定結果を示す表示信号を、表示装置17に出力する。真空漏れが発生しているか否かの判定結果及び真空度は、いずれも真空劣化に係る劣化状態の一例である。
【0025】
図6は、第1の実施形態に係る演算装置15の動作を示すフローチャートである。信号処理装置13は、電磁波センサ11が検出した電磁波を電力信号の周期で切り出し、電磁波の持続時間、主要周波数、及びパルスの発生数を特定する。演算装置15の取得部151は、信号処理装置13から電磁波の持続時間、主要周波数、及びパルスの発生数を示すデータを取得する(ステップS1)。
【0026】
推定部153は、関係記憶部152が記憶するデータを参照し、電磁波の持続時間から対応する真空度の値を特定する(ステップS2)。推定部153は、電磁波が複数の部分信号を有する場合、それぞれの持続時間について真空度の値を特定する。推定部153は、関係記憶部152が記憶するデータを参照し、電磁波の主要周波数から対応する真空度の値を特定する(ステップS3)。推定部153は、関係記憶部152が記憶するデータを参照し、パルスの発生数から対応する真空度の値を特定する(ステップS4)。
【0027】
推定部153は、ステップS2、S3及びS4で特定した各真空度の値が所定の誤差範囲内に収まるか否かを判定する(ステップS5)。なお、電磁波の特徴量について対応する真空度の値が2以上存在する場合、推定部153は、一の特徴量に対応する複数の真空度の値の少なくとも1つが他の特徴量に対応する真空度の値と誤差範囲に収まるか否かを判定する。各真空度の値が所定の誤差範囲内に収まらない場合(ステップS5:NO)、推定部153は、検出された電磁波に部分放電信号以外のノイズが含まれていると判定する。演算装置15は、処理をステップS1に戻し、新たに電磁波センサ11から検出された電磁波に基づいて処理を行う。
【0028】
各真空度の値が所定の誤差範囲内に収まる場合(ステップS5:YES)、推定部153は、ステップS2、S3及びS4で特定した各真空度の平均値を求める(ステップS6)。推定部153は、真空度の平均値が所定の閾値以上であるか否かを判定する(ステップS7)。真空度の平均値が閾値以上である場合(ステップS7:YES)、推定部153は、真空バルブに真空漏れが生じていると判定する(ステップS8)。他方、真空度の平均値が閾値未満である場合(ステップS7:NO)、推定部153は、真空バルブが正常であると判定する(ステップS9)。出力部154は、推定部153の判定結果を示す表示信号を表示装置17に出力する(ステップS10)。
【0029】
このように、第1の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、電力信号の1周期において真空バルブから発生する電磁波の波形を検出し、電磁波の包絡線の強度が所定の閾値以上となる状態の持続時間に基づいて真空バルブの真空度を推定する。電磁波の持続時間と真空バルブの真空度とに相関があるという発明者の知見から、真空劣化推定装置1は、適切に真空バルブの真空漏れに係る劣化状態を推定することができる。
【0030】
また、第1の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、電磁波における成分の強度が最も大きい周波数である主要周波数、及び主要周波数に係るパルスの発生頻度に基づいて、真空バルブの劣化状態を推定する。これにより、持続時間のみに基づいて真空度を推定するより正確に真空漏れに係る劣化状態を推定することができる。なお、他の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、主要周波数に係るパルスの発生頻度を用いずに、主要周波数と持続時間とに基づいて、真空バルブの劣化状態を推定してもよい。
【0031】
真空劣化推定装置1は、持続時間、主要周波数及び発生頻度のすべてについて、対応する真空度が一定の誤差範囲内であるという条件を満たす場合に、真空バルブの劣化状態を推定する。これにより、電磁波に混入したノイズによる真空バルブの劣化状態の誤判定を防ぐことができる。
【0032】
真空劣化推定装置1は、バンドパスフィルタ133によって真空バルブの部分放電信号が現れる周波数帯域を抽出し、抽出した帯域に係る電磁波の持続時間に基づいて真空バルブの劣化状態を推定する。これにより、電磁波に混入したノイズの影響を低減することができる。
【0033】
(第2の実施形態)
第2の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、真空バルブの真空劣化に係る劣化状態に加え、他の事由に係る劣化状態も推定する。第2の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、第1の実施形態と信号処理装置13の構成が異なり、演算装置15の演算内容が異なる。他の事由に係る劣化の例としては、主回路導体53を覆う絶縁樹脂における気泡の存在や、絶縁樹脂の剥がれなどが挙げられる。
【0034】
図7は、第2の実施形態に係る信号処理装置13の構成を示す概略図である。第2の実施形態に係る信号処理装置13は、第1の実施形態の構成に加え、さらにバンドパスフィルタ140、検波回路141、部分信号特定部142、周波数変換部143及び周波数特定部144を備える。
【0035】
バンドパスフィルタ140は、増幅器132によって増幅された波形から、バンドパスフィルタ133より高い周波数帯に係る成分を抽出する。第2の実施形態に係るバンドパスフィルタ140は、例えば10MHzから100MHzまでの成分を抽出する。10MHzから100MHzまでの周波数帯域は、真空劣化以外の事由による放電に係る周波数帯域である。以下、バンドパスフィルタ133が抽出する周波数帯を第1周波数帯と呼び、バンドパスフィルタ140が抽出する周波数帯を第2周波数帯と呼ぶ。
【0036】
検波回路141は、バンドパスフィルタ140が抽出した波形の全波整流及び包絡線検波を行う。部分信号特定部142は、検波回路141が生成する包絡線波形が第1の強度閾値を超えてから第1の強度閾値未満となるまでの部分信号を特定する。
【0037】
周波数変換部143は、バンドパスフィルタ140が抽出した波形を周波数変換することで、波形の周波数領域表現を得る。周波数特定部144は、周波数変換部143が生成した周波数領域表現に基づいて強度が最も大きい周波数である主要周波数を特定する。
【0038】
第2の実施形態に係る演算装置15は、
図6に示す処理に加え、真空劣化以外の事由に係る劣化状態の判定処理を行う。
図8は、第2の実施形態に係る演算装置15の処理を示すフローチャートである。
図8に示す処理は、
図6に示す処理と平行して行われてもよいし、
図6に示す処理の前又は後に行われてもよい。
【0039】
取得部151は、信号処理装置13から第2周波数帯に係る電磁波の部分信号の波形、主要周波数及びパルスの発生数、並びに第1周波数帯に係る主要周波数を示すデータを取得する(ステップS21)。
【0040】
推定部153は、第2周波数帯に係る主要周波数成分の強度が第1周波数帯に係る主要周波数成分の強度より大きいか否かを判定する(ステップS22)。すなわち、推定部153は、第1周波数帯及び第2周波数帯を含む周波数帯における主要周波数が、10MHz以上であるか否かを判定する。第2周波数帯に係る主要周波数成分の強度が第1周波数帯に係る主要周波数成分の強度以下である場合(ステップS22:NO)、推定部153は、真空劣化以外の事由に係る劣化がないと判定し、処理を終了する。
【0041】
他方、第2周波数帯に係る主要周波数成分の強度が第1周波数帯に係る主要周波数成分の強度より大きい場合(ステップS22:YES)、推定部153は、第2周波数帯に部分信号が2つ存在するか否かを判定する(ステップS23)。つまり、電磁波の第2周波数帯の成分に、電力信号の2倍の周波数に係る成分が含まれるか否かを判定する。第2周波数帯に部分信号が1つだけ存在する場合(ステップS23:NO)、推定部153は、真空劣化以外の事由に係る劣化がないと判定し、処理を終了する。
【0042】
他方、第2周波数帯に2つの部分信号が存在する場合(ステップS23:YES)、推定部153は、真空劣化以外の事由に係る劣化が存在すると判定する。推定部153は、2つの部分信号それぞれの特徴量を抽出する(ステップS24)。具体的には、推定部153は、2つの部分信号それぞれのパルスの発生数、検出電圧値及びパルスの発生位相を抽出する。推定部153は、予め実験等により特定された劣化の種類と部分信号それぞれのパルスの発生数比、検出電圧値比及びパルスの発生位相の分布と、特定した特徴量とを比較し、劣化の種類を推定する(ステップS25)。出力部154は、推定部153の判定結果を示す表示信号を表示装置17に出力する(ステップS26)。
【0043】
(第3の実施形態)
第1、第2の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、スイッチギヤ5が備える真空バルブのうち1つに劣化が生じる場合に、適切に劣化の判定を行うことができる。一方で、2以上の真空バルブに真空度の異なる劣化が生じた場合、それぞれの真空バルブから異なる特徴を有する部分放電信号が発生するため、電磁波センサ11が計測する電磁波に、異なる部分放電信号が含まれる。そのため、第1、第2の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、適切に劣化の判定を行うことができない可能性がある。これに対し、第3の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、スイッチギヤ5が備える真空バルブのうち2以上の真空バルブに劣化が生じる場合にも、適切に劣化の検知を行う。
【0044】
第3の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、信号処理装置13及び演算装置15の処理が第1の実施形態と異なる。第3の実施形態に係る信号処理装置13の周波数特定部137は、1つ以上の主要周波数を特定する。例えば、周波数特定部137は、周波数変換部136が生成する波形の周波数領域表現に含まれるピークの周波数のうち、強度が所定値以上のものを、主要周波数として特定する。信号処理装置13の検波回路134は、周波数特定部137が特定した各主要周波数の近傍の周波数帯に係る成分の包絡線を特定する。持続時間特定部135は、各主要周波数成分ごとの持続時間を特定する。周波数カウンタ138は、周波数特定部137が特定した各主要周波数について、パルスの発生数を計測する。
【0045】
演算装置15の推定部153は、信号処理装置13が特定した主要周波数ごとに、
図6に示す処理を実行する。これにより、真空劣化推定装置1は、スイッチギヤ5が備える真空バルブのうち2以上の真空バルブに劣化が生じる場合にも、適切に劣化の検知を行うことができる。
【0046】
(第4の実施形態)
第1から第3の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、推定部153が真空バルブの真空度を計算し、真空度の計算結果に基づいて真空漏れに係る劣化の有無を判定する。これに対し、第4の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、真空度の計算を行わずに真空漏れに係る劣化の有無を判定する。
【0047】
第4の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、演算装置15の動作が第1の実施形態と異なる。第4の実施形態に係る演算装置15の推定部153は、波形の持続時間が第1閾値以下であり、主要周波数が第2閾値以上であり、かつパルスの発生数が第3閾値以下である場合に、真空漏れが発生していないと推定する。他方、推定部153は、波形の持続時間が第1閾値より長く、主要周波数が第2閾値より小さく、かつパルスの発生数が第3閾値以より少ない場合に、真空漏れが発生していると推定する。
【0048】
以下、上記の閾値の判定によって真空漏れに係る劣化の有無を判定することができる理由を説明する。
図9は、真空バルブの真空度と部分放電信号の持続時間と第1閾値の関係の一例を示す図である。真空劣化の有無の判定の基準となる真空度を真空度閾値Pthとおく。真空度閾値Pthは、第1真空度P1及び第2真空度P2より低い真空度である。
図9に示すように、真空度閾値Pthに対応する持続時間である第1閾値th1は、持続時間の極小値t2より小さく、真空度が真空度閾値Pthを超える場合、持続時間は常に第1閾値th2より大きいことが分かる。
【0049】
図10は、真空バルブと部分放電信号の主要周波数と第2閾値の関係の一例を示す図である。
図10に示すように、真空度が真空度閾値Pthを超える場合、主要周波数は常に第2閾値th2より小さいことが分かる。なお、真空バルブの真空度が第2真空度P2を超えると、主要周波数は第1周波数f1に漸近するが、真空度が大気圧以下である場合、
図10に示すように主要周波数は常に第2閾値th2より低くなる。
【0050】
図11は、真空バルブと主要周波数に係るパルスの発生数と第3閾値の関係の一例を示す図である。
図11に示すように、真空度閾値Pthに対応する持続時間である第3閾値th3は、パルスの発生数の極小値n2より小さく、真空度が真空度閾値Pthを超える場合、パルスの発生数は常に第3閾値th3より大きいことが分かる。
【0051】
このように、第1閾値th1として極小値t2より小さい値を設定し、第2閾値th2として第1周波数の近傍の値を設定し、第3閾値th3として極小値n2より小さい値を設定することで、真空劣化推定装置1は、真空度の計算を行わずに真空漏れに係る劣化の有無を判定することができる。
【0052】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、真空劣化推定装置1は、電力信号の1周期において真空バルブから発生する電磁波の波形を検出する波形検出部と、電磁波の包絡線の強度が所定の閾値以上となる状態の持続時間を取得する持続時間取得部と、取得した前記持続時間に基づいて、前記真空バルブの真空劣化に係る劣化状態を推定する推定部とを持つことにより、真空バルブの真空度の劣化を精度よく推定をすることができる。
【0053】
演算装置15は、バスで接続されたプロセッサ、メモリ、補助記憶装置などを備え、劣化推定プログラムを実行することによって取得部151、関係記憶部152、推定部153、出力部154を備える装置として機能する。プロセッサの例としては、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphic Processing Unit)、マイクロプロセッサなどが挙げられる。
劣化推定プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体とは、例えば磁気ディスク、光磁気ディスク、光ディスク、半導体メモリ等の記憶装置である。劣化推定プログラムは、電気通信回線を介して送信されてもよい。
なお、劣化推定の各機能の全て又は一部は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やPLD(Programmable Logic Device)等のカスタムLSI(Large Scale Integrated Circuit)を用いて実現されてもよい。PLDの例としては、PAL(Programmable Array Logic)、GAL(Generic Array Logic)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、FPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。このような集積回路も、プロセッサの一例に含まれる。
【0054】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。例えば、真空劣化推定装置1は信号処理装置13と演算装置15とを備えるが、信号処理装置13の一部又は全ての構成が演算装置15によって実現されてもよい。また、他の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、スイッチギヤ5でない装置に設けられる真空バルブの劣化を推定するものであってよい。また他の実施形態に係る真空劣化推定装置1は、スイッチギヤ5に内蔵されるものであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
1…真空劣化推定装置 11…電磁波センサ 13…信号処理装置 131…サンプリング部 132…増幅器 133…バンドパスフィルタ 134…検波回路 135…持続時間特定部 136…周波数変換部 137…周波数特定部 138…周波数カウンタ 139…出力部 15…演算装置 151…取得部 152…関係記憶部 153…推定部 154…出力部 17…表示装置 5…スイッチギヤ 51…ケーブルヘッド 52…変流器 53…主回路導体 54…遮断器 55…断路器 56…可動側接続導体 57…操作機構 58…母線 59…筐体