(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】電池パック構造
(51)【国際特許分類】
H01M 50/204 20210101AFI20250106BHJP
H01M 50/222 20210101ALI20250106BHJP
H01M 50/342 20210101ALI20250106BHJP
【FI】
H01M50/204 401H
H01M50/222
H01M50/342 101
(21)【出願番号】P 2020207758
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】茂田 佑樹
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-102253(JP,A)
【文献】特開2009-021223(JP,A)
【文献】特開2012-018797(JP,A)
【文献】特開2018-206605(JP,A)
【文献】特開2011-023348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20-50/298
H01M 50/30-50/392
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスを放出するガス放出部をそれぞれ有する1以上の電池セルと、
前記1以上の電池セルを収容する筐体と、
を備え、
前記筐体のうち少なくとも前記ガス放出部と対向する対向壁部は、
前記筐体のうち前記1以上の電池セルを取り囲む壁部の少なくとも一部と、
前記対向壁部を補強する繊維強化樹脂層と、
前記対向壁部の最も前記ガス放出部側の層に配設され、前記ガス放出部から放出されたガスの熱を吸収して膨張する熱膨張部と、を含
み、
前記繊維強化樹脂層は、前記壁部と前記熱膨張部との間に配設されている電池パック構造。
【請求項2】
ガスを放出するガス放出部をそれぞれ有する1以上の電池セルと、
前記1以上の電池セルを収容する筐体と、
を備え、
前記筐体のうち少なくとも前記ガス放出部と対向する対向壁部は、
前記筐体のうち前記1以上の電池セルを取り囲む壁部の少なくとも一部と、
前記対向壁部を補強する繊維強化樹脂層と、
前記対向壁部の最も前記ガス放出部側の層に配設され、前記ガス放出部から放出されたガスの熱を吸収して膨張する熱膨張部と、を含み、
前記繊維強化樹脂層は、前記壁部を挟んで前記熱膨張部とは反対側の面に配設されている電池パック構造。
【請求項3】
前記熱膨張部は前記繊維強化樹脂層に積層される樹脂層に含まれる膨張黒鉛であることを特徴とする、請求項1に記載の電池パック構造。
【請求項4】
前記熱膨張部は、前記壁部に配設された樹脂層に含まれる膨張黒鉛であることを特徴とする、請求項
2に記載の電池パック構造。
【請求項5】
前記繊維強化樹脂層に含まれる強化繊維は、前記繊維強化樹脂層の長手方向に向けて配向された連続繊維を含むことを特徴とする、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の電池パック構造。
【請求項6】
前記繊維強化樹脂層に含まれる強化繊維は、炭素繊維からなる強化繊維であることを特徴とする、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の電池パック構造。
【請求項7】
前記繊維強化樹脂層は、前記筐体の前記壁部の一端部から他端部にかけて連続して延在することを特徴とする、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の電池パック構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池パック構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、電池と、電池を収納する筐体と、熱が加えられることに応じて、電池と筐体との間の内部間隙を減少させることが可能な熱膨張部と、を有する電池パックを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、電池パック内の電池セルが高温のガスを放出した場合に、当該ガスの熱が電池パックの筐体に伝達され、筐体の温度が上昇する可能性が有った。さらに、当該ガスが放出されたことにより筐体内部の圧力が上昇し、筐体が内部から圧力を入力され、変形する惧れがある。
【0005】
本発明の目的は、電池セルが高温のガスを放出した際の、筐体の温度の上昇、及び変形を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様にかかる電池パック構造では、筐体のうち少なくともガス放出部と対向する対向壁部は、筐体のうち1以上の電池セルを取り囲む壁部の少なくとも一部と、対向壁部を補強する繊維強化樹脂層と、対向壁部の最もガス放出部側の層に配設され、ガス放出部から放出されたガスの熱を吸収して膨張する熱膨張部と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電池セルが高温のガスを放出した際の、筐体の温度の上昇、及び変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る電池パックを左前上方から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示した電池パックの構造を表す分解斜視図である。
【
図3】実施形態に係る電池パック構造における、電池セルを左前上方から見た斜視図である。
【
図4】第1実施形態に係る電池パック構造における、壁部、繊維強化樹脂層、及び熱膨張部の配設関係を示す、
図2のA-A線に沿った模式的部分断面図である。
【
図5】第1実施形態に係る電池パック構造の作用を説明するための図であり、
図4に示した断面の、電池セルのガス放出部からガスが放出された後の状態を示す模式的部分断面図である。
【
図6】第1実施形態の変形例に係る電池パック構造における、壁部、繊維強化樹脂層、及び熱膨張部の配設関係を示す、
図4に相当する模式的部分断面図である。
【
図7】第2実施形態に係る電池パック構造における、壁部、繊維強化樹脂層、及び熱膨張部の配設関係を示す、
図4に相当する模式的部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、実施形態にかかる電池パック構造について説明する。なお、各図中のFR,RRは、車両前後方向前方、後方をそれぞれ示し、LH,RHは、車幅方向左方、右方を、UP,DNは、車両上下方向上方、下方をそれぞれ示す。なお、以下の説明では、車両前後方向前方、後方、車両上下方向上方、下方、車両左右方向左方、右方を、それぞれ単に「車両前方」「車両後方」「車両上方」「車両下方」「車両左方」「車両右方」と称する。なお、同一の機能を有する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0010】
実施形態にかかる電池パック1は、例えば図示しない電動モータにより駆動する電気自動車(EV)である車両の車両駆動用バッテリに用いられる。
【0011】
実施形態に係る電池パック構造は、
図1乃至2に示すように、筐体10、電池セル22、及び筐体10における対向壁部15を備える。
【0012】
筐体10は内部に電池モジュール20を収納する、方形箱形の中空部材であり、電池パック1の外装をなす。筐体10は、全体として車両上下方向の寸法が車両前後方向又は車両左右方向の寸法に比べて小さい扁平形状を有する。筐体10は電池パック1の外装を構成する壁部10aを備え、また、電池モジュール20は1以上の電池セル22を含む。よって、筐体10は1以上の電池セル22を収容する。図示した例では、筐体10の壁部10aは、電池モジュール20の車両上方、車両下方、及び車両左方、車両右方において電池モジュール20を取り囲む。換言すれば、筐体10は1以上の電池セル22を取り囲む壁部10aを有する。なお、筐体10の形状は、電池パック1の形状、寸法、又は車両における配設方法等に応じて、適宜設定することができる。
【0013】
図2に示すように、筐体10は、アッパーケーシング11、及びロアーケーシング12を含む。アッパーケーシング11とロアーケーシング12とは、その周縁部において図示しないボルト等の締結具を介して締結される。なお、アッパーケーシング11とロアーケーシング12との接触部には、ゴム材料等で構成されたシール部材が介在してもよい。
【0014】
ロアーケーシング12は、車両上方が開口した有底箱形の部材であり、平面視で略矩形の形状を備える。ロアーケーシング12の底部には電池モジュール20が配設される。図示した例では、ロアーケーシング12の車両前方側の領域では電池モジュール20が車幅方向に2列、車両前後方向に4列、計8つ配設されている。また、ロアーケーシング12の車両後方側の領域では電池モジュール20が上下2段に積まれており、2段積みの電池モジュール20が、車幅方向に2列、車両前後方向に2列、計8つ配設されている。
【0015】
また、複数の電池モジュール20を配設する場合には、電池モジュール20同士を離間させるように、ロアーケーシング12の底部を区分する仕切り部50を適宜設けてもよい。このようにすることで、筐体10の内部における電池モジュール20の位置が固定されるため、電池パック1に外力が加わった際の電池モジュール20の移動が規制され、電池モジュール20同士の接触を抑制することができる。なお、図示した例では、車両左方に配設された電池モジュール20と、車両右方に配設された電池モジュール20との間に、電池モジュール同士を電気的に接続するバスバ等の配線部材(図示せず)が配置されている。
【0016】
アッパーケーシング11は、平面視で略矩形の形状を備える板状の部材である。アッパーケーシング11でロアーケーシング12の車両上方の開口を閉じることにより、筐体10の内部が密閉される。図示した例では、ロアーケーシング12に配設された電池モジュール20の段数に応じて、アッパーケーシング11の車両後方側の領域は、車両前方側の領域よりも車両上方に向けて突出するように形成されている。このようにすることで、車両後方側により多くの電池モジュール20を配設するための空間を形成することができる。これにより、電池パック1を全体として薄型化し省スペース化しつつ、より多くの電池容量を確保することができる。
【0017】
アッパーケーシング11又はロアーケーシング12は、例えば成形材料を加圧成形することにより成形される。ある実施形態では、成形材料として、ガラス繊維に樹脂を含侵させてシート状に成型したシートモールディングコンパウンド(SMC)を用いてもよい。例えば、所望の寸法に切断したSMC成形材料を金型内に複数積層して配置し、加熱・加圧成形することにより、アッパーケーシング11又はロアーケーシング12を成形することができる。よって、筐体10の壁部10aはSMCを加圧成形することにより構成されていてもよい。
【0018】
このように、ロアーケーシング12に電池セル22を配設し、アッパーケーシング11で上方から蓋をすることで、電池パック1が構成される。また、このようにして構成された電池パック1は、例えば筐体10の周縁部を車体底部(図示せず)にボルト等の締結具(図示せず)を介して締結され、車両において固定される。
【0019】
なお、
図1乃至2に例示した電池パック1では、筐体10は内部に複数の電池モジュール20を収納するが、これに限定されない。電池パック1の寸法、又は電池モジュール20の寸法、若しくは配設方法等に応じて、電池モジュール20の数量を設定することができる。よって、電池モジュール20の数量は1つでもよく、複数でもよい。
【0020】
図3に示すように、電池モジュール20は、車幅方向の寸法が車両前後方向の寸法よりも短い扁平形状の複数の電池セル22を、車幅方向に並列配置してモジュール化した部品である。また、複数の電池セル22の電極タブ(図示せず)は、バスバユニット(図示せず)等の配線部材によって互いに電気的に接続された状態で配列している。さらに、電池セル22のアノード端子及びカソード端子(いずれも図示せず)は、バスバユニットを介して電池モジュール20の外周面において外部に臨む。
【0021】
図示した例では、電池モジュール20は複数の電池セル22を含むが、1つの電池セル22を含んでいてもよい。換言すれば、電池モジュール20は1以上の電池セルを収容すればよい。また、電池モジュール20は、複数の電池セル22を一体的に収容する、電池モジュール20の外装部材をなすモジュールケースを備えていてもよい。
【0022】
電池セル22は、例えば、正極板と負極板とをセパレータを介して積層した発電要素を、電解質とともにアルミ缶等の外装部材で封止して構成されている。ある実施形態においては、電池セル22はリチウムイオン二次電池である。
【0023】
1以上の電池セル22は、その上面に、車両上方に向けてガスを放出するガス放出部25をそれぞれ有する。ガス放出部25は、電池セル22の内部においてガスが発生した場合に、当該ガスを放出する。ガス放出部25には、例えば電池セル22の内圧が所定の圧力を以上になった場合に、開弁して当該ガスを放出する防爆弁や、破断して当該ガスを放出するシール部材を用いることができる。
【0024】
なお、図示した例ではガス放出部25は平面視で略円形の形状を備えるが、例えば、平面視で略楕円形、略矩形、又は略多角形の形状であってもよい。また、ガス放出部25の位置は、電池パック1の形状、寸法、又は電池セル22の配設方法等に応じて、適宜設定することができる。例えば、電池セル22の下面、又は側面にガス放出部25が設定されていてもよい。
【0025】
図1乃至2に示すように、筐体10のうち少なくともガス放出部25とガス放出方向において対向する領域には、対向壁部15が設定されている。対向壁部15は、アッパーケーシング11(筐体10)の車両上方の壁部10aに複数設けられた、平面視で車幅方向に延在する略矩形の形状を備える領域である。
【0026】
なお、対向壁部15の位置はガス放出部25が設定された位置に応じて設定することができる。例えば、ガス放出部25が電池セル22の側面に設けられている場合には、対向壁部15は筐体10における側方部に設定されてもよい。
【0027】
また、図示した例では、電池セル22が車幅方向に向けて並列配置されているため、ガス放出部25は車幅方向において略線状に並んでいる。そのため、対向壁部15は、略線状に並んだガス放出部25を覆うように、壁部10aの車両左方端部から車両右方端部にかけて車幅方向に延在している。なお、対向壁部15は、壁部10aの車両前方端部から車両後方端部にかけて車両前後方向に延在してもよい。換言すれば、対向壁部15は、筐体10の壁部10aの一端部から他端部にかけて連続して延在してもよい。
【0028】
対向壁部15は、
図4、及び
図6乃至7に示すように、筐体10のうち1以上の電池セル22を取り囲む壁部10aの少なくとも一部と、繊維強化樹脂層30と、熱膨張部45と、を含む。なお、対向壁部15は、壁部10a、繊維強化樹脂層30、及び熱膨張部45の他、例えば壁部10aと繊維強化樹脂層30とを接合するための接着層や、熱膨張部45を含む樹脂層40a等を適宜含んでもよい。
【0029】
繊維強化樹脂層30は、厚さ方向に複数積層した強化繊維層(図示せず)、及び当該強化繊維層に含侵されたマトリックス樹脂40bから構成されるFRP材を、壁部10aに配設することにより形成される。
【0030】
強化繊維層は、強化繊維束を一方向もしくは角度を変えて引き揃え積層しステッチ糸で結束したもの、若しくはステッチ糸を用いずに熱融着により保形したもの、或いは、強化繊維の織物等から構成される。強化繊維には、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、ボロン繊維又はアラミド繊維等の連続繊維を用いることができる。マトリックス樹脂40bとしては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができ、ナイロン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI)などの熱可塑性樹脂が含まれてもよい。
【0031】
対向壁部15に繊維強化樹脂層30が含まれることにより、対向壁部15が補強される。なお、本実施形態では、繊維強化樹脂層30は平面視において対向壁部15と略同一の形状であり、車幅方向に延在する略矩形の形状を有するが、例えば、略楕円形、略矩形、又は略多角形の形状であってもよく、また、対向壁部15よりも大きくてもよい。
【0032】
繊維強化樹脂層30に含まれる強化繊維は、繊維強化樹脂層30の長手方向に向けて配向された連続繊維を含んでもよい。なお、長手方向とは、平面視における繊維強化樹脂層30の長尺方向のことである。例えば、繊維強化樹脂層30の平面視における形状が略矩形である場合には長手方向とは長辺方向のことであり、略楕円形である場合には長手方向とは長軸方向のことである。また、強化繊維としては炭素繊維を用いてもよい。例えば、ポリアクリロニトリル(PAN系)、ピッチ系、セルロース系等の炭素繊維を、単独で、又は組み合わせて用いてもよい。
【0033】
また、
図4、及び
図6乃至7に示す例では、繊維強化樹脂層30は、筐体10の壁部10aの車両左方端部から車両右方端部にかけて、分割されることなく連続して車幅方向に延在している。なお、繊維強化樹脂層30は、壁部10aの車両前方端部から車両後方端部にかけて連続して車両前後方向に延在してもよい。換言すれば、繊維強化樹脂層30は、筐体10の壁部10aの一端部から他端部にかけて連続して延在してもよい。
【0034】
熱膨張部45は、ガス放出部25から放出されたガスの熱を吸収して膨張する性質を備える。また、熱膨張部45は、電池セル22のガス放出部25から放出されたガスを受けるために、対向壁部15の最もガス放出部25側の層に配設される。本実施形態では、
図1乃至3に例示するように、電池セル22の上面にガス放出部25が設けられているため、対向壁部15は電池セル22の車両上方に設定されている。そのため、
図4、及び
図6乃至7に示すように、熱膨張部45は対向壁部15における最も車両下方側の層に配設されている。
【0035】
熱膨張部45には、高い熱膨張性及び難燃性を有する膨張黒鉛を用いることができる。このように、対向壁部15に熱膨張部45が含まれることにより、筐体10の壁部10aに耐熱性、又は難燃性が付与される。
【0036】
膨張黒鉛は、例えば、鱗片状黒鉛の粉末を硫酸、又は硝酸等の無機酸で処理し、さらに濃硝酸、塩素酸カリウム等の酸化剤で処理することにより、炭素結晶の層間に硫酸などの反応分子が保持させた層間化合物であり、結晶全体として炭素結晶の層が積層した層状構造をとる。膨張黒鉛の形状は特に限定されるものではなく、粉末状、鱗片状、又は粒子状あってもよい。このようにして得られた膨張黒鉛は、加熱されると結晶層間の反応分子がガス化し、その圧力によって結晶層の積層方向において数十乃至数百倍に膨張し、繊維状の形態となる性質を有する。後述する樹脂層40aやマトリックス樹脂40bは、このような熱膨張部45としての膨張黒鉛を含む。
【0037】
以下、
図4、及び
図6乃至7を参照し、対向壁部15における筐体10の壁部10a、繊維強化樹脂層30、及び熱膨張部45の配設構造を説明する。
【0038】
(第1実施形態)
図4に示す対向壁部15では、車両上方から順に、壁部10a、繊維強化樹脂層30、及び樹脂層40aに含まれる熱膨張部45が積層して配設されている。換言すれば、繊維強化樹脂層30は、壁部10aと熱膨張部45との間に配設されている。また、熱膨張部45としての膨張黒鉛は繊維強化樹脂層30に積層される樹脂層40aに含まれている。
【0039】
繊維強化樹脂層30は、FRP材を、壁部10aに配設することにより形成されている。FRP材は、シート状、フィルム状、又は板状等の、厚みを有する形状を備える。
【0040】
樹脂層40aは、膨張黒鉛、及び当該膨張黒鉛を含む熱可塑性樹脂から構成された熱膨張性樹脂材を、繊維強化樹脂層30に配設することにより形成される。熱膨張性樹脂材は、例えば、粉末状の膨張黒鉛を添加した溶融状態の熱可塑性樹脂を金型内に注入し、冷却することにより得ることができる。熱膨張性樹脂材は、シート状、フィルム状、又は板状等の、厚みを有する形状を備える。なお、本実施形態では、樹脂層40aは平面視において対向壁部15と略同一の形状であり、車幅方向に延在する略矩形の形状を有するが、例えば、略楕円形、略矩形、又は略多角形の形状であってもよく、また、対向壁部15よりも大きくてもよい。
【0041】
例示された対向壁部15は、壁部10aを加圧成形する際に、繊維強化樹脂層30、又は熱膨張部45を含んだ樹脂層40aを一体成形することにより形成されてもよい。例えば、壁部10aを成形する際に用いる金型の内部に、熱膨張性樹脂材、FRP材の材料となるプリプレグ、及びSMCを積層配置し、加圧成形する。これにより、熱膨張部45を含む樹脂層40a、繊維強化樹脂層30、及び壁部10aが一体成形された対向壁部15が形成される。このようにすることで、簡略な製造工程で本実施形態に係る電池パック構造を構成することができる。なお、対向壁部15は、接着層を介在させることにより、壁部10aの下面にFRP材を接合し、当該FRP材の下面に熱膨張性樹脂材を接合して形成されてもよい。
【0042】
(変形例)
なお、
図6に例示するように、対向壁部15は、車両上方から順に、繊維強化樹脂層30、壁部10a、及び樹脂層40aに含まれる熱膨張部45が積層して配設されていてもよい。換言すれば、繊維強化樹脂層30は、壁部10aを挟んで熱膨張部45を含む樹脂層40aとは反対側の面に配設されてもよい。また、熱膨張部45としての膨張黒鉛は壁部10aに配設された樹脂層40aに含まれている。
【0043】
このような対向壁部15は、
図4に例示した対向壁部15を形成する場合と同様に、壁部10aを加圧成形する際に、繊維強化樹脂層30、及び熱膨張部45を含んだ樹脂層40aを一体成形することにより形成されてもよい。これにより、簡略な製造工程で本実施形態に係る電池パック構造を構成することができる。なお、対向壁部15は、壁部10aと繊維強化樹脂層30との間、又は壁部10aと樹脂層40aとの間に接着層を介在させることにより、形成されてもよい。
【0044】
(第2実施形態)
図7に例示するように、対向壁部15は、車両上方から順に、壁部10a、及び繊維強化樹脂層30が配設されていてもよい。また、熱膨張部45としての膨張黒鉛は、繊維強化樹脂層30のマトリックス樹脂40bに含まれている。換言すれば、熱膨張部45は、繊維強化樹脂層30のマトリックス樹脂40bに含まれる膨張黒鉛である。
【0045】
繊維強化樹脂層30を構成するFRP材のマトリックス樹脂40bには、熱膨張部45としての膨張黒鉛が含まれている。そのようなFRP材は、粉末状の膨張黒鉛を添加した溶融状態のマトリックス樹脂40bを強化繊維層に含侵させることにより得られたプリプレグを硬化させることにより得られる。
【0046】
例示された対向壁部15は、壁部10aを加圧成形する際に、繊維強化樹脂層30を一体成形することにより形成されてもよい。具体的には、壁部10aを成形する際に用いる金型の内部に、膨張黒鉛を含んだマトリックス樹脂40bを備えるFRP材の材料であるプリプレグと、SMCとを積層して配置し、加圧成形する。これにより、壁部10a、及び繊維強化樹脂層30が一体成形された対向壁部15が形成される。これにより、簡略な製造工程で本実施形態に係る電池パック構造を構成することができる。なお、対向壁部15は、接着層を介在させることにより、壁部10aの下面に、膨張黒鉛を含んだマトリックス樹脂40bを備えるFRP材を接合して形成されてもよい。
【0047】
なお、
図1乃至2に示した例では、対向壁部15は平面視で略矩形の形状を有するが、これに限定されない。対向壁部15は、例えば、平面視において切り欠き部、突出部、曲部、又は開口部等を備えていてもよい。また、
図4又は
図6に示した例では、繊維強化樹脂層30と樹脂層40aとは断面寸法が略同一であるが、これに限定されない。例えば、繊維強化樹脂層30の断面寸法は、樹脂層40aの断面寸法よりも大きくてもよく、小さくてもよい。
【0048】
以下、電池セル22のガス放出部25がガスを放出した後の対向壁部15の状態について説明する。
【0049】
図4に示す第1実施形態に係る対向壁部15は、その車両下方に電池セル22が配設されている。電池セル22の上面に設けられたガス放出部25から高温のガスを放出した場合、当該ガスはガス放出部25の車両上方に位置する対向壁部15に向けて放出される。対向壁部15は、対向壁部15の最もガス放出部25側の層として樹脂層40aを有するため、当該ガスは樹脂層40aに当たる。
【0050】
図5は、
図4に示す対向壁部15の、ガス放出部25からガスが放出された後の状態を示す図である。なお、以下の説明において、熱膨張した後の膨張黒鉛を膨張化黒鉛という。
【0051】
樹脂層40aには熱膨張部45としての膨張黒鉛が含まれているため、樹脂層40aにガス放出部25から放出された高温のガスが当たると、当該ガスの熱により樹脂層40aに含まれている膨張黒鉛が加熱される。そして、加熱された膨張黒鉛は樹脂層40aの車両下方側表面の複数の個所において繊維状に膨張し、膨張化黒鉛45aが形成される。膨張化黒鉛45aは、
図5に示すように、互いにもつれ合い膨張化黒鉛45a同士の間に多くの空気層47を形成する。このようにして形成された空気層47は断熱層として機能する。そのため、ガス放出部25から放出された高温ガスの熱は断熱され、壁部10a(筐体10)への当該ガスの熱の伝達が抑制される。よって、筐体10の温度上昇が抑制される。
【0052】
なお、
図6に示す対向壁部15においては、壁部10aの車両下方側表面に、熱膨張部45としての膨張黒鉛を含んだ樹脂層40aが配設されている。
【0053】
このような構成であっても、樹脂層40aにガス放出部25から放出された高温のガスが当たると、
図5に示す例と同様に、樹脂層40aの車両下方側表面において空気層47から構成される断熱層が形成される。そのため、ガス放出部25から放出された高温ガスの熱が断熱され、壁部10a(筐体10)への当該ガスの熱の伝達が抑制される。よって、筐体10の温度上昇が抑制される。
【0054】
なお、
図7に示す第2実施形態に係る対向壁部15は、壁部10aの車両下方側表面に、熱膨張部45としての膨張黒鉛が含まれるマトリックス樹脂40bを備えた繊維強化樹脂層30が配設されている。
【0055】
このような構成では、繊維強化樹脂層30にガス放出部25から放出された高温のガスが当たると、マトリックス樹脂40bに含まれる膨張黒鉛が、当該ガスの熱により加熱される。そして、加熱された膨張黒鉛は繊維状に膨張し、繊維強化樹脂層30の車両下方側表面の複数の個所において、膨張化黒鉛45aを形成する。膨張化黒鉛45aは、
図5に示す例と同様に互いにもつれ合い、膨張化黒鉛45a同士の間に多くの空気層47を形成する。このようにして形成された空気層47は断熱層として機能する。そのため、ガス放出部25から放出された高温ガスの熱が断熱され、壁部10a(筐体10)への当該ガスの熱の伝達が抑制される。
【0056】
また、
図4、及び
図6乃至7に示す対向壁部15は繊維強化樹脂層30により補強されている。より具体的には、筐体10のうち、放出された当該ガスが当たることにより、温度が上昇し強度が低下する可能性のある領域は、強化繊維を含む繊維強化樹脂層30により補強されている。そのため、当該ガスが放出されたことにより筐体10内部の圧力が上昇しても、壁部10a(筐体10)の変形が抑制される。
【0057】
以下、本実施形態に係る作用効果について説明する。
【0058】
(1)実施形態に係る電池パック構造は、ガスを放出するガス放出部25をそれぞれ有する1以上の電池セル22と、1以上の電池セル22を収容する筐体10と、を備える。そして、筐体10のうち少なくともガス放出部25と対向する対向壁部15は、筐体10のうち1以上の電池セル22を取り囲む壁部10aの少なくとも一部と、対向壁部15を補強する繊維強化樹脂層30と、対向壁部15の最もガス放出部25側の層に配設され、ガス放出部25から放出されたガスの熱を吸収して膨張する熱膨張部45と、を含む。
【0059】
これにより、電池セル22が高温のガスを放出した場合に、熱膨張部45が当該ガスの熱を吸収して膨張し、筐体10内部において断熱層を形成する。そのため、当該ガスの熱が断熱層により断熱され、筐体10への当該ガスの熱の伝達が抑制される。これにより、当該ガスの熱が筐体に伝達されることによる筐体の温度の上昇を抑制することができる。さらに、筐体10のうち、放出された当該ガスが当たることにより、温度が上昇し強度が低下する可能性のある領域は、強化繊維を含む繊維強化樹脂層30により補強されている。そのため、当該ガスが放出されたことにより筐体10内部の圧力が上昇し、筐体10が内部から圧力を入力された場合に、繊維強化樹脂層30により筐体の変形が抑制される。
【0060】
(2)第1実施形態に係る電池パック構造では、繊維強化樹脂層30は、壁部10aと熱膨張部45との間に配設され、熱膨張部45は繊維強化樹脂層30に積層される樹脂層40aに含まれる膨張黒鉛である。
【0061】
熱膨張部45が膨張黒鉛であるため、電池セル22が放出した高温のガスが樹脂層40aに当たると、膨張黒鉛が当該ガスの熱を吸収し、数十倍乃至数百倍の大きさに熱膨張し繊維状の形態となる。そして、熱膨張した膨張黒鉛(膨張化黒鉛45a)が互いに絡まり合い、空気層47(断熱層)を形成する。そのため、より確実に当該ガスの熱が断熱され、筐体10への当該ガスの熱の伝達が抑制される。
【0062】
(3)第1実施形態の変形例に係る電池パック構造では、繊維強化樹脂層30は、壁部10aを挟んで熱膨張部45とは反対側の面に配設され、熱膨張部45は、壁部10aに配設された樹脂層40aに含まれる膨張黒鉛である。
【0063】
熱膨張部45が膨張黒鉛であるため、電池セル22が放出した高温のガスが樹脂層40aに当たると、膨張黒鉛が当該ガスの熱を吸収し、数十倍乃至数百倍の大きさに熱膨張し繊維状の膨張化黒鉛45aとなる。そして、膨張化黒鉛45aが互いに絡まり合い、空気層47(断熱層)を形成する。そのため、より確実に当該ガスの熱が断熱され、筐体10への当該ガスの熱の伝達が抑制される。
【0064】
(4)第2実施形態に係る電池パック構造では、熱膨張部45は、繊維強化樹脂層30のマトリックス樹脂40bに含まれる膨張黒鉛である。
【0065】
熱膨張部45が膨張黒鉛であるため、電池セル22が放出した高温のガスが繊維強化樹脂層30に当たると、マトリックス樹脂40bに含まれる膨張黒鉛が当該ガスの熱を吸収し、数十倍乃至数百倍の大きさに熱膨張し繊維状の膨張化黒鉛45aとなる。そして、膨張化黒鉛45aが互いに絡まり合い、空気層47(断熱層)を形成する。そのため、より確実に当該ガスの熱が断熱され、筐体10への当該ガスの熱の伝達が抑制される。さらに、膨張黒鉛が、繊維強化樹脂層30のマトリックス樹脂40bに含まれているため、熱膨張部45と繊維強化樹脂層30とを一体的に取り扱うことができる。そのため、筐体10の壁部10aに、熱膨張部45、及び繊維強化樹脂層30を簡易に配設することができる。これにより、実施形態に係る電池パック構造を簡易に構成することができる。
【0066】
(5)実施形態に係る電池パック構造では、繊維強化樹脂層30に含まれる強化繊維は、繊維強化樹脂層30の長手方向に向けて配向された連続繊維を含む。
【0067】
これにより、繊維強化樹脂層30は長手方向において、より高い引っ張り強度を備える。そのため、繊維強化樹脂層30は、筐体10内部の圧力が上昇したことによる筐体10の変形をより確実に抑制することができる。
【0068】
(6)実施形態に係る電池パック構造では、繊維強化樹脂層30に含まれる強化繊維は、炭素繊維からなる強化繊維である。
【0069】
繊維強化樹脂層30は、炭素繊維からなる強化繊維を含む、炭素繊維強化樹脂(CFRP)である。そのため、繊維強化樹脂層30はより高い引っ張り強度を備える。これにより、繊維強化樹脂層30は、筐体内部の圧力が上昇したことによる筐体の変形をより確実に抑制することができる。
【0070】
(7)実施形態に係る電池パック構造では、繊維強化樹脂層30は、筐体10の壁部10aの一端部から他端部にかけて連続して延在する。
【0071】
これにより、繊維強化樹脂層30は、筐体10の壁部10aの一端部と他端部との間で、より確実に筐体10を補強することができる。そのため、繊維強化樹脂層30は、筐体10内部の圧力が上昇したことによる筐体10の変形をより確実に抑制することができる。
【0072】
なお、上記実施形態では、電気自動車(EV)を例にとって説明したが、電池パック1が、ハイブリッド車(HV)などにも適用できることは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
1 電池パック
10 筐体
10a 壁部
15 対向壁部
20 電池モジュール
22 電池セル
25 ガス放出部
30 繊維強化樹脂層
40a 樹脂層
40b マトリックス樹脂
45 熱膨張部