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特許7612417人工授精用射精物の妊孕性を診断する方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】人工授精用射精物の妊孕性を診断する方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/53 20060101AFI20250106BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
G01N33/53 Y
C12Q1/02
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2020566595
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-27
(86)【国際出願番号】 US2019034601
(87)【国際公開番号】W WO2019232178
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】62/678,205
(32)【優先日】2018-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519255953
【氏名又は名称】アレックス・ライフ・サイエンシーズ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】AREX LIFE SCIENCES, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,バーブ・エイ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0252000(US,A1)
【文献】国際公開第2011/041524(WO,A1)
【文献】米国特許第05779363(US,A)
【文献】米国特許第05219729(US,A)
【文献】国際公開第2014/150480(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0209138(US,A1)
【文献】特表2016-519290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
妊娠結果の改善を得るために、射精物の妊孕能力を診断する方法であって、前記方法が
i.雄由来の精液サンプルを提供し、前記サンプルを制御された条件下でインキュベートするステップと、
ii.精子の妊孕の質を示すバイオマーカーを選択するステップであって、前記バイオマーカーの発現が経時的に変化する、選択ステップと、
iii.前記精液サンプルのアリコート中の、複数の時点における前記精液サンプルの精子による前記バイオマーカーの発現レベルを、算定または検出するステップであって、前記精液サンプルの前記アリコート中の前記精子の妊孕状態、受精能獲得状態もしくは成熟状態が、前記アリコートが採取された前記精液サンプルの状態と同等である、算定または検出ステップと、
iv.前記精液サンプルの前記アリコート中の前記精子が最大値にて前記バイオマーカーを発現する回数を算定または検出することによって、前記精子の前記妊孕の質を判別するステップと、を含み、
前記バイオマーカーが精子Fc受容体である、方法。
【請求項2】
雄由来の精液サンプルの妊孕能力を強化させる方法であって、前記方法が、
a.速度論モデルを作成するステップであって、下記:
i.雄由来の精液サンプルを提供し、前記サンプルを制御された条件下でインキュベートすることと、
ii.精子の受精の質を示すバイオマーカーを選択することであって、前記バイオマーカーの発現または量が経時的に変化する、選択することと、
iii.複数の時点にて前記精液サンプルからの精子のアリコート中の前記バイオマーカーの発現のレベルまたは量を算定または検出し、前記バイオマーカーの発現のレベルまたは量に基づいて、精子の成熟状態の速度論モデルを提供することであって、前記精液サンプルの前記アリコート中の前記精子の状態が、前記アリコートが採取された前記精液サンプルの状態と同等である、提供することと、
iv.前記精液サンプルの前記アリコート中の前記精子が最大値および/または最小値にて前記バイオマーカーを発現する回数を算定または検出することによって、前記精液サンプルまたは同じ雄由来の後続精液サンプル中の前記精子の前記妊孕の質を判別することと、を含む、作成ステップと、
b.試験対象となる精液サンプルを提供し、(a)において履行された前記バイオマーカーの発現を検出し、前記精液サンプルによって呈示された前記バイオマーカー発現を、ステップ(a)によるバイオマーカー発現の前記速度論モデルに較正して、精子の成熟中もしくは受精能獲得中の前記バイオマーカーの発現と、妊孕性獲得もしくは妊孕性強化とを相関させるステップと、
c.前記精液サンプルの凍結もしくは調製の所要時間を計算するか、あるいは前記較正による授精に使用する目的で、前記同じ雄由来の後続サンプルを凍結または調製するステップであって、前記時点にて、前記精子を、IUIの受精の質に合わせて最適化する、調製ステップと、
d.ステップ(c)の略前記時点にてIUIまたはIVFにより、前記同じ雄由来の前記精液サンプルもしくは後続サンプルを処理するか、あるいは卵、雌もしくはこれらの組み合わせに対し投与し、それにより、前記精液サンプルが授精した際に、前記同じ雄由来の前記精液サンプルまたは後続精液サンプルの前記強化された妊孕性を最適化するステップと、を含み、
前記バイオマーカーが精子Fc受容体である、方法。
【請求項3】
前記方法が、最大値および/もしくは最小値にて前記バイオマーカーの発現の少なくとも2サイクルを経て進行する前記精子を、処理するか、あるいは雌もしくは卵母細胞に投与するステップを含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法が、前記精子の前記成熟状態もしくは受精能獲得状態の促進または強化を目的に、薬剤を投与するかまたは病態を直すことを更に含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記精液サンプルが哺乳動物由来である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記哺乳動物が、例えば、ヒト、ウシ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ヒツジ、またはヤギである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、前記精液サンプルを凍結するステップまたは前記精液サンプルをガラス固化するステップを更に含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
精子受精能獲得中に前記バイオマーカー発現の速度論モデルが、抗体の定常領域に結合する精子バイオマーカーを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記バイオマーカー発現の最大値がベースラインまたは最小値よりも少なくとも約50%上回る、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
AIに使用される精子細胞含有精液の射精物の妊孕の質を判別するための方法であって、
i) 精子の妊孕状態を示し得るマーカーを選択するステップであって、インキュベーション中に前記マーカーの発現が変化する、選択ステップと、
ii) 前記インキュベーション中の複数の時点にて精液サンプルの精子による前記マーカーの発現レベルを算定するステップであって、前記サンプルのアリコートを、各時点にてアッセイする、算定ステップと、
iii) 前記マーカーの前記発現レベルが前記精子の最大レベルのFcR発現に対応する発現レベルを経て、続いて前記マーカーが前記精子の最小レベルのFcR発現に対応する発現レベルを経た回数を算定し、それにより、前記精液サンプル中コホートのサイクル数を算定し、前記射精物の前記妊孕の質を判別するステップと、を含み、
前記マーカーが精子Fc受容体である、方法。
【請求項11】
インキュベーション中の精液サンプル中の精子のメタボリックステータスの変化をモニターすることにより、前記精液サンプルの妊孕の質を判別または診断する方法であって、
i) 精子の妊孕状態を示し得るマーカーを選択するステップであって、前記インキュベーション中に前記マーカーの発現が変化する、選択ステップと、
ii) 所定の時間にわたって、前記インキュベーション中の複数の時点にて前記精液サンプルの精子による前記マーカーの発現レベルを算定するステップであって、前記サンプルのアリコートを、各時点にてアッセイする、算定ステップと、
iii) 前記所定の時間にわたって前記マーカーの前記発現レベルが前記精子の最大レベルのFc発現に対応する発現レベルを経て、続いて前記マーカーが前記精子の最小レベルのFcR発現に対応する発現レベルを経た回数を算定し、
それにより、授精用の前記精液サンプルの前記妊孕の質を判別し、妊娠結果の改善をもたらすステップと、を含み、
前記マーカーが精子Fc受容体である、方法。
【請求項12】
新規に収集された精液射精物の妊孕の質を診断し、陽性妊娠結果の改善を得るための方法であって、
精液射精物を収集するステップと、
前記射精物の精子のアリコートをアッセイする目的で、前記収集済み精液のごく一部を取り出して、前記精子の妊孕段階を示すFc受容体マーカーの発現を経時的に調べるステップと、
前記Fc受容体マーカーが最大の発現を経た回数を算定し、
それにより、雌の授精用の前記精液の前記妊孕の質を判別し、陽性の妊娠結果の改善を得るステップと、を含む方法。
【請求項13】
前記ステップが、無希釈精液中の精子、増量液中の精子、および洗浄済み精子からなる群から選択される精子を使用して履行される、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記方法が、前記精子または前記精液に対し、精子の成熟、受精能獲得、妊孕の質もしくはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つを調節するための、薬剤もしくは環境刺激を投与するステップを含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記薬剤が、エンドカニビノイド、重炭酸塩8-ブチリルcAMP、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つである、請求項4または14に記載の方法。
【請求項16】
前記環境刺激が、気圧、大気条件または圧力、温度変化および攪拌からなる群から選択される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記大気条件が、一酸化窒素、オゾン、アルゴン、シアン化物、およびCOからなる群から選択されるガスを含む、請求項16に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年5月30日に出願された米国出願第62/678,205号の利益を主張するものであり、該文献はその全体が参照により本明細書において援用されている。
【0002】
本出願は、人工授精(AI)、特に子宮内授精(IUI)用の精子サンプルの妊孕性を診断するための方法を、対象としている。
【背景技術】
【0003】
人工授精において妊孕比率の向上を達成するには、哺乳動物の精液を処理することが、特に自然な手段により子孫を産むことに失敗した夫婦にとって有利であると考えられる。保健社会福祉省(Department of Health and Human Services)によると、米国では夫婦の10~15%に不妊症の影響が及んでおり、人間が苦痛に苛まれているという途方もない犠牲が払われている。アメリカ生殖医学会の実践委員会(Practice Committee of the American Society for Reproductive Medicine)の2015年度の報告Fertility and Sterility vol 103によると、夫婦の不妊症の30~40%に寄与しているのは雄側の要因であり、50%にも達していると言う臨床医もいる(Agarwal,2015)。
これらの困難が悪化する時期の晩年化が進んでおり、人生のなかでも晩年には、ヒトが子供を産むことを選択した場合、母親が高齢であるという問題だけでなく、父親が高齢であるという問題も浮上することになる。
【0004】
ヒトの生殖補助医療において、夫婦は6~12か月間妊娠を試みた後に、不妊症の精密検査に差し向けられるのが、一般的である。
世界保健機関の一般的な定義によれば、不妊症とは、避妊手段を講ずることなしに定期的な性交を12か月経ても、臨床妊娠の達成に失敗していることを指す。
www.babycenter.comによれば、そのようなクリニックでの妊娠達成率は、IUIを使用した場合は約4~5%、IUIおよび妊孕技術を併用した場合は7~16%とされるのが、通例である。胎外受精(IVF)手技のなかでも高コストのものでは、年齢に応じて異なるが、各女性の各サイクルに対し約5~40%の確率で(38~40歳の女性ではサイクル当たり21%の成功率で)肯定的な結果が得られる。陽性妊娠の割合を増強させるうえで所望されるのは、使用するIUI手技を低コストなものとすることである。これにより、外科的リスクへの曝露を防止できるだけでなく、着床前にラボラトリーでヒト胚を培養せずに済むようにもなる。
【0005】
個体から収集された精液サンプルの経時的な変動程度を鑑みた場合、IUIでの精子授精手技を履行するうえで最適な方法が予測困難となる。加えて、診療所におけるヒト精液の処理方法は、リアルタイムモニターを有意に複雑なものとしている。遠心分離中の精子に対しては、アッセイを実施してはならない。このステップを家畜(livestock)に対して使用することは厳禁とされている。ゆえに、いくつかの事例において、遠心分離の前に採取されたアッセイ用アリコートを使用するのが好ましい。したがって、アッセイ対象の精子は、(ウシの場合とは異なり)授精に使用されるものとは別ものである。加えて、ヒト診療所では、IUIに使用されるサンプルを合成培地に洗い流すことによって、子宮内に配置した際の痙攣を予防する。精子に悪影響を及ぼすことで公知の遠心分離を超えた更に人工的な条件(射精物においては見られない条件)に対し、精子を曝露させる。
【0006】
更になお、精子を、臨床ラボラトリー内で温度の上昇および下降の両方に対し曝露させる。これは、精子に対し生物学的に影響を与える条件であり、この条件は、温度制御方法が極度に異なるウシ精液を扱う作業では、遭遇することがない。更になお、ウシドーズは、冷凍授精用に処理されるのが一般的であるのに対し、ヒトドーズは、凍結済みドーズ、および射精後の様々な時間数授精された新鮮なドーズの両方にて処理される。
ウシを扱う作業とは対照的に、ヒト診療所での作業では、時には臨床分析用に別のサンプルが必要になることがある。このサンプル中の精子細胞がそれぞれ異なっているにもかかわらず、直接的にアッセイされないドージング(授精)を意図とした細胞における適切な精子状態を予測することを要件としている。家畜の授精においては、本要件は存在せず、ドーズを作製する際に使用されたのと全く同じ容器からの精子が、ラボラトリーでの試験にも使用される。
【0007】
理解されるところによれば、ヒト生殖補助医療クリニックでは現在、
単一時点での未処理射精物の単一サンプルを評価することによって、精子分析が実施されている。この時点は、精子が卵子を受精できるようになる前に発生するのが通例であり、射精された新鮮な哺乳動物の精子は生殖力を欠く。
したがって、精子の健康状態を正確に判断し、精子が妊娠を生起させるIUIドージングに好適な状態に達しているかどうかを判断するために不可欠な、2つの重要な情報、すなわち、精子の挙動の変化に関するデータと、誘発される可能性のある精子の挙動の変化に関するデータが、欠落している。これらの変化は、精子の質および状態に応じて、低度または高度に発生する。
【0008】
この情報が省略されていることがいかに有害であるかを示す例は、数多く存在する。例えば、未凍結精子ドーズの貯蔵寿命は、豚肉業界において、ならびに、乳牛に適した或る特定の季節および/もしくは世界の地域において測定された試しがない。このことは、何らかの悪質な射精物が使用され、胎芽(conception)に悪影響を及ぼす恐れのあることを意味する。前述したように、ヒトクリニックでは、新鮮な精液ドーズおよび凍結精液ドーズの両方が利用される。医学的決定の基盤となるのは、射精ごとの(ejaculate-to-ejaculate)変動を表さない単一データセットとされ、単回の射精で精子が経時的に生物学的変化を経るか、あるいは胎外(in vitro)にて特定の薬剤による挑発を経る。この単一時点の試験方法では、精子が経時的にどのように変化するか、または正常な精子に典型的な挙動の変化で挑発に反応するのに十分健常であるかどうかに関して、理解が曖昧になる。この分野の著名な専門家は、ヒト診療所における現行の精子評価方法を無用であるとして批難しているだけでなく(Barratt,2011)、また、IUIに比べて技術的に複雑な方法、具体的にはIVFおよび卵細胞質内精子注入法(ICSI)が、IVFおよびICSIによって生誕した乳児に対しリスクをもたらす恐れのあることに対する懸念も表明している(Kobayashi,2009,Alukal,2008)。
【0009】
精子をアッセイして妊孕を生起させる可能性を求める能力は、歴史的に困難または不可能とされてきた。現在の診断試験には、DNAの断片化、運動性、形状、および射精物中の精子数が包含される。ただし、これらの試験は、妊孕を予測するうえで信頼のおけるものではないことが立証されてきた。受精状態に必要な精子の質を判別する診断方法は、妊娠を成功させるうえで極めて有益とされる。精子がIUI妊娠を生起させるのに必要な状態に参入する能力を同定するための診断方法は、決定的な重要性を持つ不妊症検査とされる。この診断方法を使用しない場合、医師は、女性を病的な外科的手技に供し、卵子を回収し、体外受精し、ヒト胚を培養して再移植するか(IVF)、または女性に5分間手技を履行して、洗浄済み精子を子宮に導入する(IUI)かどうかを推測することを義務付けられる。手技のリスク、コスト、およびアクセス性という観点での推測は、実質的とされる。適切な状態にある精子のIUIに実際に妊娠を生起させる場合、夫婦の多くは不必要で且つ極度に高リスクな薬物療法および外科的手技に供されるのが、実状である。
【0010】
精子ドーズの妊孕性を増強する手段と同様に、精子の挙動と受精能との密接な相関関係を提供する方法が必要とされることは、明らかである。本当に欲しかった子供を最終的に授かることができた夫婦が享受する計り知れない利益に対して加味し得るのが、女性の医療費削減および医療リスクに対するプラスの影響である。同じことは、農業に関しても当てはまる。農業において、雌の家畜の妊孕は、農場における収益性の推進力として重要とされ、また、動物(および恐らく疾患)を輸入する代わりに寧ろ農場での分娩によってバイオセキュリティを増強させるものであるからである。
【0011】
射精物中の精子の質を判別するための改良型の方法があれば、雌の哺乳動物に授精したときに妊孕を生起させるうえで、望ましい。
【発明の概要】
【0012】
精子は、受精を達成するためには効率的に克服すべき敵対的環境に直面しているという点で、極めて珍しい細胞である。理論に束縛されるものではないが、卵子を受精させるプールに最適な精子を選択できるため、敵対的な環境は意図的なものであると考えられている。これは、卵管に見られる精子の方が、射精物中の精子と比較して品質が高く、例えば、形態が良好である理由を説明するものである(Ahlgren,1975)。ゆえに、精子は成熟およびライフサイクルの間に様々な妊孕状態を経る。
【0013】
驚くべきことに且つ予期せず発見されてきたように、精液中の精子は成熟パターンを呈し、この成熟パターンにおいて、精子コホートまたは亜集団がバイオマーカーの発現増強(最大値)および低減(最小値)を示す可能性がある。これまでの発見によれば、コホートによるバイオマーカーの発現の変化は、精子の成熟状態および妊孕の質(すなわち、雌もしくは卵母細胞を受精させる能力)に関連している。また、これまでの発見によると、連続的な精子群は、細胞の挙動の変化を通じて、コホートにおいて協調的に作用または成熟する。そのため、本明細書に記載されているように、射精物中の精子コホートの循環は、例えば、不妊症クリニック、産婦人科医(ob-gyn)または泌尿器科医のオフィス、在宅精液分析または精子バンクで使用するための、精液の妊孕の質の予測因子となり得る。驚くべき発見が為されてきた。例えば、レクチンまたはFc受容体のようなバイオマーカー発現の最大値を経て最小値に達した精子コホートでは、妊孕の質が高く、雌もしくは卵母細胞を受精させる能力が強化されたことが実証されている。
【0014】
したがって、一態様において、本説明は、射精物中の精子の妊孕の質を判別して、妊娠結果の形で受精能を増強し得る方法を提供するものである。本明細書に記載の方法は、特定の精液サンプル中の精子のメタボリックステータスの変化をリアルタイムでモニターすることを含む。或る特定の実施形態において、本方法は、不妊症クリニック、産婦人科医院、または精子バンクで使用するための精液の妊孕の質を判別する手段を提供する。
【0015】
或る実施形態では、本開示には、妊娠結果の改善を得るために、射精物の妊孕の質を診断する方法が提供されている。時間ベースのアッセイ法は
i.雄由来の精液サンプルを提供し、サンプルを制御された条件下でインキュベートするステップと、
ii.精子の受精の質を示すマーカーもしくはバイオマーカーを選択するステップであって、マーカーもしくはバイオマーカーの発現が経時的に変化する、選択ステップと、
iii.複数の時点にて精液サンプルからの精子のアリコート中のマーカーもしくはバイオマーカーの発現のレベルまたは量を算定または検出するステップであって、精液サンプルのアリコート中の精子状態が、(バルク)精液サンプルの状態と同等である、算定または検出ステップと、
iv.精液サンプルのアリコート中の精子が最大値(および/または最小値)にてマーカーもしくはバイオマーカーを発現する回数を算定または検出することによって、精子の妊孕の質を判別するステップと、を含む。
【0016】
或る特定の実施形態では、本方法は、最大値(および/もしくは最小値)にてマーカーもしくはバイオマーカーの発現の少なくとも2サイクルを経て進行する精子を、処理するかまたは投与するステップを含む。少なくとも2つのマーカーもしくはバイオマーカーの発現の最大値(および/または最小値)を精子が循環しない或る特定の実施形態では、本方法は、精子の成熟状態もしくは受精能獲得状態を促進または増強するために薬剤を投与するか、培養条件を修正するステップ、および任意選択的に、精子を雌もしくは卵母細胞に投与するステップを含む。
【0017】
追加的な態様において、本開示には、妊娠結果の改善を得るために、射精物の妊孕の質を診断する方法が提供されている。時間ベースのアッセイ法は、
a.速度論モデルを作成するステップであって、下記:
i.雄由来の精液サンプルを提供し、サンプルを制御された条件下でインキュベートすることと、
ii.精子の受精の質を示すマーカーもしくはバイオマーカーを選択することであって、バイオマーカーの発現または量が経時的に変化する、選択することと、
iii.複数の時点にて精液サンプルからの精子のアリコート中のマーカーもしくはバイオマーカーの発現のレベルまたは量を算定または検出し、少なくとも1つのマーカーもしくはバイオマーカーの発現のレベルまたは量に基づいて、精子の成熟状態の速度論モデルを提供することであって、精液サンプルのアリコート中の精子状態が、(バルク)精液サンプルの状態と同等である、提供することと、
iv.精液サンプルのアリコート中の精子が最大値(および/または最小値)にてマーカーもしくはバイオマーカーを発現する回数を算定または検出することによって、精液サンプル(または同じ雄由来の後続精液サンプル)中の精子の妊孕の質を判別することと、
を含むものである、作成ステップと、
b.試験対象となる精液サンプルを提供し、(a)において履行された少なくとも1つのバイオマーカーの発現を検出し、精液サンプルによって呈示された少なくとも1つのバイオマーカー発現を、ステップ(a)によるバイオマーカー発現の前述の速度論モデルに較正して、精子の成熟中もしくは受精能獲得中の少なくとも1つのバイオマーカーの発現と、妊孕性獲得もしくは妊孕性強化とを相関させるステップと、
c.前述の精液サンプルの凍結もしくは調製の所要時間を計算するか、あるいは較正による授精に使用する目的で、同じ雄由来の後続サンプルを凍結または調製するステップであって、前述の時点にて、精子を、使用される手技、例えばIUIの受精の質に合わせて最適化する、調製ステップと、
d.ステップ(c)の前述の略時点にて胎外受精もしくは人工授精法、例えばIUIまたはIVFにより、同じ雄由来の前述の精液サンプルもしくは後続サンプル(すなわち、試験サンプル)を処理するか、あるいは卵、雌もしくはこれらの組み合わせに対し投与し、それにより、前述の精液サンプルが授精した際に、同じ雄由来の前述の精液サンプルまたは後続精液サンプルの前述の強化済み妊孕性を最適化するステップと、を含む。
【0018】
或る特定の実施形態において、速度論モデルは、少なくとも1つのマーカーもしくはバイオマーカーの発現のレベルまたは量に基づいて、精子の変化の速度、時間経過もしくは成熟状態(精子が移行し、射精時に不妊状態から成熟する)を含む。
【0019】
態様または実施形態のいずれかにおいて、本方法は、前述の精液サンプルを、下記:
精子の変化および/もしくは受精能獲得の速度を調節する化学的または生物学的因子、精子の変化および/もしくは受精能獲得の速度を調節する環境刺激、または精子の変化および/もしくは受精能獲得の速度を調節する大気条件のうちの少なくとも1つを用いて処理するステップを含む。
【0020】
本アッセイの実施には、合成培地中の精液のアリコートまたは洗浄済み精子のアリコートが用いられる場合がある。これにより、所望される場合、洗浄培地中の精子をアッセイし、洗浄培地中の精子の成熟サイクルを生成する精子を追跡して、授精時間を算定することが可能である。任意の態様または実施形態では、バイオマーカーまたはリガンドに対し直接的もしくは間接的に結合する検出可能標識によってバイオマーカーのレベルを評価するステップを、本方法に含める場合もある。
【0021】
本履行形態の別の態様では、精液サンプルは、1分、2分、3分、4分、5分、10分、12分、15分、20分、25分、30分もしくはそれを超える時間の範囲の間隔で前述のマーカーに用にアッセイされる。この間隔は、マーカーの発現の変化率、アッセイの履行に必要な時間などに依存する場合がある。更なる態様において、アッセイは、精液サンプルのアリコートまたは精子のアリコートを利用して、その精液サンプルから、もしくは同じ雄由来の後続精液サンプルからのドーズ中の精子に相関する結果をもたらすものであることが、好ましい。更なる態様において、本アッセイは、継続的なモニタリングを利用することが、好ましい。
【0022】
或る特定の実施形態において、ステップ(iii)は、所定の時間、例えば約20分、約25分、約30分、約35分、約40分、約45分、約50分、約55分、約60分、約65分、約70分、約75分、約80分、約85分、約90分、約95分、約100分、約105分、約110分、約115分、約120分、約125分、約130分、約135分、約140分、約145分、約150分、約155分、約160分、約165分、約170分、約175分、約180分もしくはそれ以上にわたって、バイオマーカーの発現レベルを算定または検出することを含む。或る特定の追加的な実施形態において、本方法のステップ(iv)は、(iii)の所定の時間内に最大値もしくはピークにて精液サンプルのアリコート中の精子がバイオマーカーを発現する回数を、算定または検出することを含む。
【0023】
本発明の別の態様において、精液をアッセイするための所定の時間の間は、バイオマーカーの発現の少なくとも2サイクルを検出する時間を与えるように設定され、本サイクルは、最大値の後に最小値が続き、次の最大値まで発現が増強されることを含む。或る特定の実施形態において、本方法の所定の期間は約2.5時間である。
【0024】
バイオマーカー発現レベルの最大値は、ベースラインまたは最小値と比較して約25%超、約30%超、約35%超、約40%超、約45%超、約50%超、約55%超、約60%超、約65%超、約70%超、約75%超、約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、約100%超、約110%超、約120%超、約130%超、約140%超、約150%超もしくはそれ以上とされる。或る特定の実施形態において、バイオマーカー発現レベルの最小値は、ベースラインと同じかそれより少ないか、ピークまたは最大値の発現レベルを約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%もしくは約100%下回る。
【0025】
本実施形態の別の態様において、バイオマーカーは、限定されるものではないが、妊孕性関連抗原、大豆トリプシン阻害剤、リガンド、レクチン、酵素または受容体であって、精子の表面上にもしくは内部的にまたはその両方に発現するものから選択される。一実施形態において、リガンドは、限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、糖脂質、または脂質、例えば脂質ラフトなどの異なる膜領域を区別するため、例えば蛍光偏光測定の緩和時間に反映されるように、脂質分子構造ではなく相対的な膜流動性によって検出されるものを包含することが、好ましい。
別の実施形態において、バイオマーカーは、限定されるものではないが、先体の長さ、先体の形態、先体の波打ち、細胞表面分子の発現、前述の精子の静電荷、精子膜の透過性、脂質、コレステロール、ホスファチジルセリン、糖、ならびにヘパリンのようなタンパク質のほか、フコシル化炭水化物または該炭水化物で修飾されたタンパク質、ルイス抗原、細胞内イオン、および重炭酸塩から選択されることが、好ましい。
【0026】
或る特定の実施形態において、バイオマーカーは、精子の表面上に存在する分子、または精子が精子周辺の培地に放出する分子、例えば、精子Fc受容体(FcR)もしくはFc結合タンパク質、CD46、炭水化物、糖タンパク質、炭水化物結合タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質、脂質、またはレクチンである。使用されるマーカーは、精子の受精能力と相関している限り、本発明に従って使用して差し支えない。或る特定の実施形態において、バイオマーカーは、精子頭部の表面上にある精子Fc受容体である。或る特定の実施形態において、バイオマーカーは精子FcRであり、このFcRは精子の妊孕状態を示唆するものである。
【0027】
別の実施形態では、インキュベーション中の精液サンプル中の精子のメタボリックステータスの変化をモニターすることにより、雌の授精用の精液サンプルの妊孕の質を判別または診断する方法が存在する。本方法は、
i.精子の妊孕状態を示すマーカーを選択するステップであって、前述のインキュベーション中にマーカーの発現が変化する、選択ステップと、
ii.前述のインキュベーション中の複数の時点にて精液サンプルの精子によるマーカーの発現レベルを算定するステップであって、前述のサンプルのアリコートを、各時点にてアッセイする、算定ステップと、
iii 前述の所定の期間中に、前述のマーカーの前述の発現レベルが精子の最大レベルのFc発現に対応する発現レベルを経て、続いて前述のマーカーが精子の最小レベルのFcR発現に対応する発現レベルを経た回数を算定し、それにより、授精用の精液サンプルの妊孕の質を判別し、妊娠結果の改善をもたらすものであるステップと、
を含む。
【0028】
或る実施形態では、新規に収集された精液射精物の妊孕の質を診断し、陽性妊娠結果の改善を得るための方法であって、
i.精液射精物を収集することと、
ii.前述の射精物の精子のアリコートをアッセイする目的で、収集済み精液のごく一部を除去して、前述の精子の妊孕段階を示すFc受容体マーカーの発現を経時的に調べるステップと、
iii.マーカーが最大値の発現を経た回数を算定するステップと、
iv.それにより、雌または卵の授精用の前述の精液の妊孕の質を判別し、陽性の妊娠結果の改善を得て、任意選択的に、妊孕の質が強化された精子を処理または投与するステップと、を含む。
【0029】
任意の態様または実施形態では、メタボリックステータスについてのバイオマーカーの判別または検出(モニタリング)中に、精子サンプルを、一定温度、乃至周囲温度から37°Cの温度範囲にてインキュベートする。
【0030】
一実施形態では、第1のリガンドの結合によって、二次バイオマーカーの出現が誘発される。この出現は、二次マーカーを補足リガンドと接触させることによって検出される。代替的に、精子に対し結合せずに侵入するか、または他の様式により(例えば、精子の脂質二重層の1つへの脂質の挿入により)相互作用する薬剤を使用して、本発明に従ったアッセイを実施することによって、変化を経時的に誘発し、モニターする場合もある。この変化は、明視的な変化であることが好ましい。
【0031】
この実施形態の別の非限定的な態様において、前述の精子もしくはその断片を介した色素の透過性は、精子もしくはその断片中の前述の色素の強度によりモニターすることによって、前述の精子サンプルのアリコート中でアッセイされる。精子は精漿剤を、精子膜に結合させることで公知である。昨今発見されてきたように、精子は事実上、周辺培地から薬剤を吸収し得る。したがって、精子の断片は、精巣または精巣上体に形成された精子だけでなく、カーゴ(cargo)として獲得された薬剤精子も含むものと解釈すべきである。
【0032】
本発明の実施形態の別の態様では、細胞表面バイオマーカーの発現をモニターし、精液サンプルの処理用に選択された時点を、サンプルがバイオマーカーを最大に発現する初期時点に関して判別する。
【0033】
本発明の実施形態の別の態様では、細胞表面バイオマーカーの発現をモニターし、精液サンプルの処理用に選択された時点を、前述のサンプル中の前述のバイオマーカーの発現がピーク発現と比較して低減し、引き続き、発現の最小値から増加し始める初期時点に関して判別する。
【0034】
一実施形態において、記載の方法は、指定されたバイオマーカーを有する精液サンプル中の精子のパーセンテージに基づく。一態様において、指定されたバイオマーカーは、任意選択的に細胞表面に存在する、生化学的マーカーである。とにかく、バイオマーカーは、精子のメタボリック妊孕状態を反映または示唆している。或る特定の実施形態において、マーカーは、精子特異的マーカーに限定されない。
【0035】
別の態様において、本記載は、精子のメタボリック妊孕状態を反映するバイオマーカーを有する精液サンプル中の精子のパーセンテージを算定するための方法を提供する。本アッセイに含まれるステップは、下記の通り:
a)精液サンプルからアリコートを除去するステップと、
b)アリコートを前述のバイオマーカーへの第1のリガンドと接触させるステップと、
c)前述の精子またはその断片を介した前述のリガンドの結合を検出するステップと、
d)リガンドに結合する前述のアリコート中の精子のパーセンテージを算定するステップである。本実施形態の代替的な態様では、ステップd)を、バイオマーカーまたはリガンドに対し直接的もしくは間接的に結合する検出可能標識によってバイオマーカーのレベルを評価するステップで置き換えても差し支えない。
【0036】
別の態様において、本記載は、前述の精液サンプルの精子中に検出された前述のバイオマーカーの濃度を算定する方法を提供するものであり、本方法は、a)精液サンプルからアリコートを除去することと、b)前述のバイオマーカーに対する第1のリガンドに対しアリコートを接触させることと、c)前述の精子もしくはその断片を介した前述のリガンドの結合を検出することと、d)リガンドによるバイオマーカーの結合を定量化することにより、前述のアリコート中の精子によって発現されるバイオマーカーの量を算定し、それにより、前述の精液サンプルの精子で検出された前述のバイオマーカーの濃度を算定することと、を含む。
【0037】
本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、リガンドは、検出可能標識、好ましくは視認可能標識で直接的もしくは間接的に標識される。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、精子を介したリガンドの結合を検出することは、精子または精子の断片に対し直接的もしくは間接的に結合された標識を検出することを含む。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、精子断片は、無傷の精子と会合しているかまたは解離していて、更に後続断片化を経る可能性がある。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、精子を介したリガンドの結合を検出することは、アリコート中の精子を、第1のリガンドに結合する第2のリガンドと接触させることを包含する。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、第1のリガンドおよび/もしくは第2のリガンドは、抗体である。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかであると考えられ、1つ以上の標識を含む可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1A図1A図1Cは、FcR陽性精子対異常精子のサンプル時間の割合を例証したグラフである。
図1B図1A図1Cは、FcR陽性精子対異常精子のサンプル時間の割合を例証したグラフである。
図1C図1A図1Cは、FcR陽性精子対異常精子のサンプル時間の割合を例証したグラフである。
図2A図2A(1)~図2F(2)は、例示的な時間ベースのアッセイについて、FcR陽性精子対時間の割合の対応するプロットを示し、サイトメーター画像および読み取り値を例証している。
図2B図2A(1)~図2F(2)は、例示的な時間ベースのアッセイについて、FcR陽性精子対時間の割合の対応するプロットを示し、サイトメーター画像および読み取り値を例証している。
図2C図2A(1)~図2F(2)は、例示的な時間ベースのアッセイについて、FcR陽性精子対時間の割合の対応するプロットを示し、サイトメーター画像および読み取り値を例証している。
図2D図2A(1)~図2F(2)は、例示的な時間ベースのアッセイについて、FcR陽性精子対時間の割合の対応するプロットを示し、サイトメーター画像および読み取り値を例証している。
図2E図2A(1)~図2F(2)は、例示的な時間ベースのアッセイについて、FcR陽性精子対時間の割合の対応するプロットを示し、サイトメーター画像および読み取り値を例証している。
図2F図2A(1)~図2F(2)は、例示的な時間ベースのアッセイについて、FcR陽性精子対時間の割合の対応するプロットを示し、サイトメーター画像および読み取り値を例証している。
図3A図3A図3Fは、FcRサイクルを通じて同期して精子群が成熟することを例証している。このサイクルは、精子の各群が各サイクルを連続して移動するため、完了するまでに約1時間要する。全ての精子が予備に蓄えられ且つFcR陽性精子がごく少量しか存在しない、新鮮な射精物である。
図3B図3Bは、精子群(コホート)は一斉に、先体の表面上に検出可能なFcRに対して陽性になる。
図3C図3Cは、陽性精子はFcRを放出し始め、精子は表面上のFcRに対する陽性率を低下させる。
図3D図3Dは、使用済み精子は、ほとんど全てのFcRを放出した現在、見かけ上は陰性であると思われる。
図3E図3Eは、新規な精子群(コホート)は、「外来」精子の雌の免疫攻撃を防ぐ既存の放出済みFcRの存在下にて、予備プールから成熟を開始する。
図3F図3Fは、精子の第2コホートは一斉に、アクロソームの表面のFcRに対して陽性になる。
図4A図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4B図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4C図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4D図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4E図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4F図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4G図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4H図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図4I図4A図4Iは、本発明に従ってアッセイされた、循環率がそれぞれ異なる精子群を例証している。
図5A図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5B図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5C図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。。
図5D図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5E図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5F図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5G図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5H図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5I図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
図5J図5A図5Jは、同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことを、例証している。
【発明を実施するための形態】
【0039】
この詳細な説明に従って、下記の略語および定義が適用される。本明細書において単数形「a」、「an」、および「the」が使用されている場合、文脈上別段の意味を示すことが明確でない限り、複数の指示対象を含むことに留意すべきである。ゆえに、例えば、「抗体」に対して言及されている場合、そのような複数の抗体およびその他の抗体が包含される。特に定義されていない限り、本明細書中に使用されている全ての技術的および科学的用語は、(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術および生化学における)当業者に遍く理解されている意味と同じ意味である。標準的な技術は、分子的、遺伝的および生化学的方法(出典・概説書:参照により本明細書において援用されているSambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2d ed.(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.and Ausubel et al.,Short Protocols in Molecular Biology(1999)4th Ed,John Wiley & Sons,Inc. See Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Publications,New York,(1988)、および化学的方法に使用されている。別段明記されていない限り、本明細書に記載されている全ての範囲には、特定の評価項目(endpoint)が含まれる。下記用語は、後述されている通りである。
【0040】
本明細書において、精子に関する「妊孕の質」という用語は、好ましくは限定されるものではないが、予備精子、使用済み精子、および精子群としての精子もしくは精子の亜群で、本明細書に記載のアッセイによって測定されたサイクルを同期して移動し、しばしば同時に存在する精子に特徴的な、生理学的「スイムアップ」または運動性を包含する。所望の形質(例えば、受精可能な生理学的状態であるという形質)は、受精前に発現する場合があり、そのような状態は、使用された受精のタイプに応じて異なる。
【0041】
本明細書において、「精液サンプル」という用語には、任意の哺乳動物の射精物から収集された任意の精液サンプルが包含される。例えば、好ましくは限定されるものではないが、ヒト、ウシ、ヤギ、ヒツジ、バッファロー、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット、マウス、ウサギ、ハムスター、および絶滅危惧種の哺乳動物が挙げられる。好ましいのは、サンプルを、収集直後に比較的一定の温度でインキュベートして本発明の時間ベースのアッセイを実施することである。
【0042】
本明細書において、「メタボリックステータス」または「メタボリック状態」または「メタボリック段階」または「精子状態」という用語は、精子サンプルの潜伏期間中の特定の時点における特定の生化学的および生物物理学的特性に関する精子の生理学的状態である。収集された後の精子は、加齢に伴って経時的に生理機能を変化させるのが、普通である。ゆえに、精液サンプル中の精子の生理機能またはメタボリック状態の変化には、バイオマーカーの発現が含まれる場合がある。この発現は、妊孕状態に相関している。代替的に、精液サンプル中の精子の生理機能またはメタボリック状態の変化は、1つ以上のバイオマーカーの発現に反映される場合がある。本明細書に開示されている方法の一実施形態において、1つ以上のバイオマーカーの発現は、所望の形質、すなわち、雌もしくは卵母細胞の受精能の向上が発現するよりも早期に生起される。
【0043】
ゆえに、「精子のメタボリック妊孕状態を示すバイオマーカー」という語句は、精子および/または精子群の測定可能な属性を指し、この属性には、限定されるものではないが、特定の時点での精子のメタボリックステータスを反映する生理学的、構造的、機能的、生化学的および/または電気化学的属性が包含される。
【0044】
本明細書において、「メーカー」または「バイオマーカー」という用語には、精子の受精状態と相関する属性が含まれる。或る特定の実施形態において、バイオマーカーは、精子のFcR発現と相関する特徴である可能性がある。「マーカー」または「バイオマーカー」という用語は、例えば、好ましくは限定されるものではないが、精子および/もしくはその断片の構造的、物理的、電気物理的、または生化学的属性、例えば、非限定例として、先体の長さ、精子の(波打ち)精子形態、精子上の細胞表面分子の発現、精子の静電荷、ならびに、例えば、限定されるものではないが染料などの分子に対する精子による透過性が挙げられる。「バイオマーカー」という用語は更に、限定されるものではないが、リガンド、レクチン、酵素および受容体であって、精子の表面、内部、またはその両方に発現するものを包含する。いくつかの実施形態において、バイオマーカーは先体の形態学的変化であり、例えば明視野顕微鏡を使用して目視することが可能である。先体の形態に関しては、先体の膜表面における波立った外観が、経時的に顕著になっていく。いくつかの実施形態において、バイオマーカーは、いくつかのメタボリックの段階では隠蔽(cryptic)されてしまい、検出されない場合がある。
【0045】
本明細書において、「抗体」という用語には、限定されるものではないが、免疫グロブリン遺伝子もしくは免疫グロブリン遺伝子、IgG抗体、IgM抗体、またはそれらの一部によって実質的にコードされるポリペプチドであって、検体、抗原もしくは抗体に特異的に結合して認識するかまたはFcフラグメントを介して非特異的に結合するものが包含される。「抗体」はまた、限定されるものではないが、免疫グロブリン遺伝子もしくは免疫グロブリン遺伝子によって実質的にコードされるポリペプチドであって、検体への曝露に応答して宿主によって産生される抗体の抗原特異的結合領域(イディオタイプ)に特異的に結合して認識するものを包含する。本明細書に記載の方法の一実施形態において、抗体は、そのパラトープ以外の抗体上の部位を介して、精子もしくはその断片、または一次抗体に結合する。別の実施形態において、抗体は、精子もしくはその断片、またはそのパラトープを介して一次抗体に結合する。本明細書に記載の方法の別の実施形態において、精子もしくはその断片、または一次抗体に対する抗体の結合は、そのパラトープ、およびそのパラトープ以外の抗体上の部位の両方を介して為される。
【0046】
本明細書において、「抗体」という用語は、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の調製物、ならびに調製物、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ハイブリッド抗体、改変抗体、F(ab’)フラグメント、F(ab)フラグメント、Fフラグメント、Fcフラグメント、シングルドメイン抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、二機能性抗体、一本鎖抗体など、ならびに、それらの機能的断片および多量体であって、検体もしくは抗原に対する特異性を保持するものを包含する。例えば、抗体には、検体もしくは抗原に対する特異性を保持する、可変領域、または可変領域のフラグメント、およびそれらの多量体が含まれる場合がある。例えば、Paul,Fundamental Immunology,3rd Ed.,1993,Raven Press,New York,for antibody structure and terminologyを参照のこと。抗体もしくはその一部は、鳥類または任意の哺乳動物種、例えば、マウス、ヤギ、ヒツジ、ラット、ヒト、ウサギ、またはウシの抗体に由来するものであり得る。抗体もしくはその断片は、合成的に生成される場合があり、その際には、当該技術分野において公知の方法、例えば、抗体全体の改変、またはファージディスプレイライブラリーの使用をはじめとする組換えDNA方法論を使用した合成という手段が用いられる。好ましい実施形態において、「抗体」は精子頭部の表面上にあるFc受容体に結合する。
【0047】
従来のAg/Ab相互作用に対する標準は、下記の通りである。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、抗体の結合は、Ab領域、例えばFc(特に、フコース含有の)領域を介して為される。ゆえに、本発明の実施には、高い親和性は必要とされない。
【0049】
本明細書において、「結合する」という語句は、10-1以上の結合親和性(K)を有するリガンドの抗体、試薬または結合部分の結合を指す。前述のように、本発明の実施には、高親和性結合は必要とされない。ここで重要なのは、リガンドが受容体と複合体を形成するという点である。当業者であれば、(例えば、スキャッチャード分析によって)抗体の結合親和性を容易に判別することができる。特定の抗原に対し特異的に免疫反応する抗体を選択する際に使用されるイムノアッセイフォーマットには、様々な種類があり得る。例えば、検体と特異的に免疫反応するモノクローナル抗体を選択する目的に常法的に使用されているのが、固相ELISAイムノアッセイである。特異的な免疫反応性を判別する目的に使用できるイムノアッセイのフォーマットおよび条件の説明については、Harlow and Lane,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Springs Harbor Publications,New York,(1988)を参照のこと。結合反応は、ノイズに対するバックグラウンド信号の少なくとも2倍であるのが一般的であり、バックグラウンドの10~100倍以上であるのがより一般的である。本発明の実施の場合、第1および第2のリガンドの複合体形成によって、結合親和性が増強される場合がある。
【0050】
本明細書において、「標識」という用語には、検出可能な指標が包含され、例としては、限定されるものではないが、可溶性または粒子状、金属、有機、または無機の標識で、放射性標識(例えば、14C、H、32Pなど)、酵素標識(例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ、ガラクトシダーゼ、および他の酵素共役体)、緑色蛍光タンパク質、蛍光色素などのスペクトル標識、例えば、フルオレセインおよびその誘導体、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC);フルオレセインイソチオシアネートとほぼ同じスペクトル特性と量子収率を持つ緑色蛍光色素コンジュゲートであるAlexaFluor(登録商標)488色素;ローダミン;Invitrogenが販売しているカルボシアニン核酸染色剤であるYo-Pro、すなわちカタログ製品V13243、緑色蛍光YO-PRO(登録商標)-1)のほか、化学発光化合物(例:ルシフェリンおよびルミノール);金コロイドなどのスペクトル比色標識、または炭素粒子、または着色ガラスもしくはプラスチック(ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズ、色素、例えば、細胞透過性pH指示薬、カルボキシSNARF(登録商標)-1、アセトキシメチルエステル、アセテートで、脱エステル化後のpKaが約7.5であって、カタログ番号PPLM63-C1270としてインビトロジェン社(Invitrogen)から販売されているものを挙げることができる。必要な場合または所望される場合は、例えば、粒子に染料を塗布することによって、粒子標識に色を付けてもよい。好ましい実施形態において、「標識」は、視認可能な標識とされる。
【0051】
本明細書において、「着色粒子標識」という用語には、限定されるものではないが、着色ラテックス(ポリスチレン)粒子、金属(例えば金)ゾル、非金属元素(例えばセレン、炭素)ゾルおよび染料ゾルが包含される。一実施形態において、着色粒子標識は、共役対のメンバーを更に具備する着色粒子である。使用できる着色粒子の例としては、限定されるものではないが、有機ポリマーラテックス粒子類、例えば、ポリスチレンラテックスビーズ、コロイド状金粒子、コロイド状硫黄粒子、コロイド状セレン粒子、コロイド状硫酸バリウム粒子、コロイド状硫酸鉄粒子、金属ヨウ素酸塩粒子、ハロゲン化銀粒子、シリカ粒子、コロイド状金属(含水)酸化物粒子、コロイド状金属硫化物粒子、カーボンブラック粒子、コロイド状鉛セレン化物粒子、コロイド状セレン化カドミウム粒子、コロイド状金属リン酸塩粒子、コロイド状金属フェライト粒子、有機もしくは無機層でコーティングされた上記のコロイド状粒子のうちのいずれか、タンパク質もしくはペプチド分子、またはリポソームが挙げられる。例えば、シグマアルドリッチ社(Sigma-Aldrich)から販売されている量子ドットは、本明細書において包含される標識である。
【0052】
本明細書において、文脈上別段の意味が示唆されていない限り、マーカーに関する「発現低減」という用語は、マーカーもしくはバイオマーカーの発現低減(アクセス性の低減、または隠蔽製の増加を含む)、または参照と比較して少なくとも5%の測定可能な活性(例えば、結合活性、膜透過性、静電荷)を意味し得る。或る特定の実施形態において、発現または活性の低下は、少なくとも5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%もしくはそれ以上、乃至最大100%まで、すなわち100%を含む。言い換えれば、所与の発現または活性は皆無である。マーカーの発現率低減の測定は、本明細書の実施例に記載されている通りとして差し支えない。「発現増強」という用語は、マーカーの発現増強、または所与の測定可能な活性(例えば、結合活性、膜透過性、静電荷)における増強が、参照と比較して少なくとも5%、例えば、少なくとも10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%もしくはそれ以上であることを指す。マーカーの発現率または活性増加の測定は、本明細書の実施例に記載されている通りとして差し支えない。
【0053】
本明細書において、精液サンプル中の精子に関して「妊孕」という用語は、精子が卵子を受精させて生存可能な胚を作り出す能力を有するが、該胚が胎児期に達しないうちに死に至る可能性のあることを指す。この能力は、条件および精子の年齢、授精または受精の方法に応じて異なる。非限定的な例として、IUIおよびIVFまたはIVF/ICSI(卵細胞質内精子注入を伴うIVF)が挙げられる。
【0054】
本明細書において、「点状染色」という用語は、精子もしくはその断片の表面全体にわたる均一な染色とは対照的に、別個のスポットまたは点の形での検出可能標識の分布を意味する。点状染色の定量分析は、例えば、Maxim Mokin and Joyce Keifer in”Quantitative analysis of immunofluorescent punctate staining of synaptically localized proteins using confocal microscopy and stereology”,Journal of Neuroscience Methods,Volume 157,Issue 2,30 October 2006,Pages 218-224に記載されているように、当該技術分野において公知である。点状の染色から精子上の染色済み尾根に至るまでの変化は(山脈範囲に類似しており)は、ほとんどの場合、時間と合体する点(puncta)と見なして差し支えない。
【0055】
本明細書において、「妊娠」という用語は、主として臨床的な妊娠結果を指し、6週間目に胎児の心拍が検出されたことを意味する。単一事例において、この用語が指すのは、生物学的な妊娠であり、妊娠マーカーとして血中に存在するヒト絨毛性ゴナドトロピンの量が増強されることを意味する。両方の妊娠形態において、精子は卵子の受精に成功している。
【0056】
妊娠陽性の成果を増強することは、生殖補助医療クリニック、産婦人科医院、および精子バンクが所望する目標であり、生殖補助医療を求める夫婦によっても経済的に所望されている。IUI手技での妊娠陽性の結果は、排卵周期当たり手技の約4~16%であるのが通例であると理解されている。つまり、子孫を待望している夫婦は、カリフォルニアの精子バンクによれば、通常は7つのIUIサイクル以内に妊娠し、各々に経済的および感情的なコストがかかる。次いで、IUIが失敗した場合、夫婦はかなり多額の費用をかけてIVF手技を検討する必要がある。多くの事例において(現在35州において)、保険の適用対象から外されている。
【0057】
上記に示唆されているように、これまでなされてきた驚くべき且つ予期しない発見によれば、射精物中の精子コホートの循環のパターンは、例えば、不妊症クリニック、産婦人科医(ob-gyn)のオフィスもしくは精子バンクで使用するための精液の受精品質(すなわち、雌もしくは卵母細胞を受精させる能力)の予測因子となり得る。また、これまでの発見によると、連続的な精子群は、細胞の挙動の変化を通じて、コホートにおいて協調的に一斉に作用する。
【0058】
精子の処理方法に応じて、投与時の周期状態が異なる場合がある。例えば、精子がFcR最小値にあるかまたはFcR最小値付近にあるときに、その最小値がいつ発生するかを、検出可能な最大値付近で予測することによって、投与することを望んでいる人がいると仮定する。ただし、射精挙動を確認してから、当該の射精物を投与することなしに雄を別の方法で治療した場合でさえも、診断的価値はある。例えば、雄の精子が循環していない場合、治療方法にはIVFによる投与が含まれる。銀行は、IUIで使用するためのプレミアムでラピッドサイクラーを販売する場合があり、診療所に対し凍結ドーズを販売するときに、非サイクラーをIVFの使用に転用する場合がある。
【0059】
自然授精プロセスとヒトが支援するIUI臨床プロセスとの相違点としては、少なくとも下記が挙げられる。自然な過程では、雄は精液を直接的に膣に射精する。IUIプロセスでは、合成培地で洗浄済み精子を、子宮に注入する。自然の過程では、精液と粘液は、精子が膣に堆積していく間に成熟するにつれて保護剤として作用し、子宮頸部を通って泳動して子宮に浸入し、そのようなプールは、子宮頸部の予備精子のプールの貯蔵中に、IUIによって形成されるのを妨げられる可能性がある。IUIプロセスでは、精子の成熟状態は不明であり、精子の成熟と雌の管の位置との調整が、洗浄手技によって妨げられ、精子は、様々な妊孕状態、例えば妊娠と両立しない状態にて子宮に導入される。自然なプロセスでは精液は膣内に授精され、精子の温度は体温(約37°C)で比較的制御されるのに対し、IUIプロセスでは、保持される温度が何度も低下および上昇した後に、精子が子宮に注入される可能性がある。通常のプロセスでは、雌の管内の酸素量が少なめで、しかも精液が存在するのが原因で、精子が酸素分圧の低下に対し曝露される(Fischer,1993)、一方、IUIプロセスでは、精子を比較的長期間周囲の酸素に曝露させた後に、子宮に注入させるため、酸化的損傷の精子に対する既知のリスクを高める恐れがある(Guthrie,2012)。IUIの一部の事例においては、容量が制限されているとう理由から、使用されるのは射精物の一部だけに限られ、自然授精に比べて精子数が少量に抑えられる。ラボラトリーで分析用サンプルが除去されるが、自然授精では射精物全体が堆積していく。自然なプロセスでは、精子のFc受容体が成熟して精液中に存在するのに対し、IUIプロセスでは、授精の処理中に精液のFc受容体が精液で洗い流されて、子宮に流入する。
【0060】
現在使用されている精子の妊孕の質の試験には、DNA断片化(オプション)、運動性、形状、および精液中の精子数を単回評価することが含まれる。これらの現在の標準試験では、一部の精液サンプルが一部のAI手技において受精能に不適切であるという判定を下すことが可能であるが、妊孕の質の予測においては無用とされる。これらの標準試験を通過したからといって、精液が雌に授精されたときに妊孕を生起し得るというわけではない。妊孕を生起する能力は、射精物の精子状態によって付与され、この精子状態の変化は、本発明の実施によって測定される通りである。その結果、同じ射精物が、妊孕を生起可能な時点と生起不能な時点の両方がそれぞれ周期的に交互に起こる可能性がある。出願人らが発見したところによれば、本明細書に記載の時間ベースのアッセイを使用してマーカーの発現のサイクルを計数することによって、精子の妊孕の質を判別する診断に改善が施される。
【0061】
精子の妊孕の質を判別するためのより良い診断法が、出願人らによって発見されてきた。本明細書に記載の時間ベースのアッセイを使用して、マーカーの発現のサイクルを計数することによって、雌に授精されたときに妊孕を生起できる精子の量が、強化される。本開示によれば、収集された射精物のアリコートは、精液が収集された後、事前に選択された時間間隔にてアッセイされるため、精子を介したFc受容体マーカーの発現が最大値、最小値の順に変動した後に発現が増強されることを観察することによって、精子の妊孕の質が判別される場合がある。Fc受容体マーカーの経時的な生物学的発現は、精子の妊孕の質と相関している。
【0062】
特定の理論に束縛されるものではないが、発明者らの仮定によれば、精液サンプルには複数コホート(亜集団)が存在し、精液中の精子コホートは様々な期間に活性化して精子の生殖周期を生ずる。通常は、1つコホートの活性化および加齢の後に、精液中の精子の第2コホートの活性化および加齢が続いた後に第3コホート、ひいては更に多くコホートが続く場合がある。本開示において、時間ベースのアッセイは、FcR展開に相関するマーカーのサイクルによって、精子コホートを連続的に検出し、生殖補助医療用に精子の妊孕の質の診断に対し有意義な改善を施し、転帰を改善する。
【0063】
ドナーの精子を図示した時間ベースのアッセイのグラフは、図1A図1Cに例証されている通りである。同図中の精子の場合、精子が妊娠を生起させる確率が極めて低いという特徴が見られる。この精液が呈しているように、妊孕の質、すなわち受精能力、例えば精子FcRの量と相関するマーカーの検出によって判別されるように、或る特定の期間にわたって精子循環の複数コホートを実証することは不可能とされる。それゆえ、時間ベースのアッセイを使用することによって、精子能力が、妊娠を生起させる質に対応しているかどうかを診断することが可能である。この診断は、とりわけ、雌の排卵誘発剤およびIUIの使用による時限性交など、精子のパフォーマンス向上を要する治療における用途に対応しており、損なわれた精子を扱う外科手術を要しリスクを伴う技術(例えば、IVFおよびIVF/ICSI)とは対照を為している。
【0064】
本開示に従ったアッセイは、自然授精とは異なるIUIによって導入された変更を補償することを可能にしている。精子の妊孕状態を調整しない場合、これらの変化は、別段妊娠の生起とは両立しない状態にあるため、高度に選択的な子宮環境に対し精子が導入される結果につながる可能性がある。
【0065】
射精時に、精子は成熟過程を経る。発明者の観察に基づいて、FcR生化学によって判別されるように、精子は群(コホート)にて成熟する。この精子は、完全に成熟した活性化精子であって、寿命が短く、その生存中に卵子を受精させ得るか、さもなければ死滅する、該活性化精子と一致している(Cohen-Dayag 1995)。本発明に従ったアッセイでは、精子FcRの発現の存在を検出するか、または相関させる。この精子FcRは、精子の成熟中に精子の頭部に出現し、以後に精子から放出されたものである。第2コホートは通例、1~2時間の間隔にて成熟する。ゆえに、FcRマーカーを使用して成熟を判別し、それにより、治療的に使用される精子群の妊孕性を判別する。マーカーはまた、非限定的な例において、正常なコホート数、正常なコホートの曲線の形状、FcR初期発現の正常な動態、精子数の関数としてのFcR発現の平均パーセンテージ、および診断設定で発現している人口のパーセンテージに関して、射精物中の精子が成熟を経る能力を判別し得る。この知識があれば、精液の妊孕の質を診断することが可能となる。ゆえに、精子の妊孕の質に基づいて、患者を、プレART(IUI)またはART(生殖補助医療)手技に階層化してもよい。
【0066】
精子コホートの成熟は個人ごとに有意に異なり、且つ同じ個体由来の射精物もそれぞれ異なる場合があるが、驚くべきことに且つ予期せず発見されてきたように、Fc受容体マーカーの最大値発現によって反映される初期メタボリック状態と、所望される「受精状態特性」(すなわち、受精の質または雌もしくは卵母細胞を受精する能力)の以後の発現と、の間の時間間隔は、個体から比較的近い時間枠(1日から30日未満)で収集され、且つ同じ条件下でインキュベートされた精液サンプルでは、比較的一貫性がある。精子の単一成熟コホートの受精状態間で、このように時間間隔に一貫性があることから、本明細書に記載のリアルタイム方法において使用される1つ以上のマーカーの発現をモニターすることによって、個々の精液サンプルの精子が所望の受精状態特性を発現する時期を特定する。
【0067】
或る特定の実施形態において、本開示は、精液サンプルを収集することを含む方法を提供する。実行可能性に関する検査、視覚的検査サンプルを、未希釈精液としてもよいし、または支持培地中に再懸濁された洗浄済み精子としてもよい。好ましい実施形態では、試薬を22~26°Cで保存し、精液または洗浄済み精子を37°Cで保存し、ラボラトリーの周囲温度に或る程度曝露させて、精液を液化させる。この液化には、製造から約30分要する(現行の手技との一貫性を有する)が、直ちに試験を開始することが好ましい。標準的なラボラトリーでの分析用に予約されている大型アリコートから、アッセイ試験用アリコートのサンプル50μLを除去するか、または試験する。好ましいアッセイ調製順序は、下記の通り:
a.100μLのグリーン1、20μLのレッド2、10μLの無希釈精液(または洗浄済み精液)、5μLのブルー3を、1.5mLチューブに入れる。
b.或る特定の実施形態において、この手技は、15分もしくは30分ごとの定期的な間隔で繰り返し、試薬は周囲温度または略周囲温度とし、アッセイ用に氷冷しないことが好ましい。冷温の試薬(例えば氷上)が温度ショックによってアーチファクトを誘発する恐れがあるからである。ただし、収集後に射精物が冷却された場合に限り、第1の1時点後または2時点後に低温試薬を使用しても差し支えない。この手順が一般的であるかどうかは、用途次第である。
【0068】
ゆえに、例えば、ステップ(a)では、ウシ血清アルブミン(Invitrogen SKU#00-3118)(グリーン1)含有の抗体希釈液100μlを、一次抗体(ウサギ抗サルモネラ属菌;サルモネラ菌H抗血清AZ製品番号224061;ミシガン州デトロイトのディフコ社(Difco)製;製造元の指示に従って、または製造元の所要容量に応じて、洗浄バッファー、マグネシウム不含・カルシウム不含のPBS錠剤(MP Biomedicalsカタログ番号2810305)(レッド2)20μlと混合し、続いて、AlexaFluor(登録商標)488(ヤギ抗ウサギIgG(H+L);カリフォルニア州カールズバッドのインビトロジェン社(Invitrogen)(現在はサーモフィッシャーサイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific))製、カタログ番号A11008(2mg/l)(ブルー3)に共役された二次抗体5μlと混合する。
本発明の実施に有用な他の希釈剤(グリーン1)の例としては、リン酸緩衝生理食塩水(現行のアレックス洗浄緩衝液)、EDTAおよびグルタミン含有のHTF HEPES培地(InVitroCareカタログ番号2002)、Quinns(商標)精子洗浄培地(Origioカタログ番号ART-1006)、および他の支持緩衝細胞支持培地が挙げられる。他の抗体(レッド2)には、アッセイで使用できるFc受容体を有する抗体、例えば、微生物学的検査用のDifco抗血清、例えばBD Difco Salmonella O Antiserum Poly AI&Vi(BD Difcoカタログ番号222641、ChromPure Rabbit IgG、Fc Fragment(Jackson ImmunoResearchカタログ番号011-000-008)、IgM分子が包含される。その他の共役体(ブルー3)にとしては、ヤギ抗ウサギIgG(H+L)、DyLight(商標)サーモフィッシャーサイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific)製カタログ番号35552)、ならびに、FITCまたはサイトメーター励起および発光フィルターが適切であるように選択された他のフルオロフォアと結合した二次抗体が挙げられる。
【0069】
各アリコートについて、約2秒間混合し(ボルテックスを使用可能)、約20分間インキュベートする。約20分後に、バッファーで洗浄し、約30秒間遠心分離する。ペレットを乱すことなしに、できるだけ多くの上澄みを取り除く。更にバッファーを添加し(通例は約200μlとするが、精子数が少ない場合は少量としてもよい)、ペレットを再懸濁し、約5秒間ボルテックスする。サイトメーター上にSIPチューブに置く。SLOWのサイトメーターでサンプルを泳動させる(低速および高速はBD accuri c6サイトメーターの設定に基づく)。これにより、C6ファイルまたはスコアに対しデータポイントが何らかの方法で記録される。1回の射精物の単回アッセイのサイトメーターからのデータは、図2A(1)~図2F(2)に図示されている通りである。右の図は、サイトメトリー画像を示す。左側の対応する図は、サイトメーターの読み取り値から得られた、FcR陽性精子対時間の割合のグラフを示す。この射精は急速に循環し、アッセイ間隔全体でFcR陽性の2つの最小値を生じ、雌が健常であれば、妊孕が高度であるのは必然的である。
【0070】
本発明者らの発見によれば、精子上のマーカーの経時的発現とART手技に対する精子の妊孕の質との間には、関係が存在する。この関係に関する情報、特にベースラインまたは最小値に対するピークまたは最大マーカーの発現のサイクル数を使用して、例えば、精子頭部のFc受容体の発現をモニターすることにより、妊孕の質を判別または診断してもよい。このFcR発現の関係は、同じ条件下でインキュベートまたは保持された同じ種の個々のサンプル間、および個々のサンプル間で比較的一定である。以前の精液サンプルにおける時間関係の確立に基づいて、同じ種/系統の動物の任意のサンプルで使用する目的で、時間関係を確立する場合もある。更に、FcR発現の最大値のサイクルと妊孕の質との相関関係は、後の時点で個体由来の精液サンプルに適用される場合がある。したがって、本明細書に記載のアッセイにより、将来のサンプル、例えば、当初から約1時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、8時間、9時間、10時間、11時間、12時間、13時間、14時間、15時間、16時間、17時間、18時間、19時間、20時間、21時間、22時間、23時間、24時間、25時間、26時間、27時間、28時間、29時間、30時間、32時間、33時間、34時間、35時間、36時間、37時間、38時間、39時間、40時間、41時間、42時間、43時間、44時間、45時間、46時間、47時間、38(38)時間、39(39)時間、50時間もしくはそれを超える時間の範囲内で取得されたサンプルから最適な精子の妊孕の質の時点を診断し予測することが可能である。
或る特定の実施形態において、当該サンプルを第1のサンプルと比較するのは、約1時間~約30日後、約1日~約30日後、約1日~約29日後、約1日~約28日後、約1日~約27日後、約1日~約26日後、約1日~約25日後、約1日~約24日後、約1日~約23日後、約1日~約22日後、約1日~約21日後、約1日~約20日後、約1日~約19日後、約1日~約18日後、約1日~約17日後、約1日~約16日後、約1日~約15日後、約1日~約14日後、約1日~約13日後、約1日~約12日後、約1日~約11日後、約1日~約10日後、約1日~約9日後、約1日~約8日後、約1日~約7日後、約1日~約6日後、約1日~約5日後、約1日~約4日後、約1日~約3日後、約1日~約2日後となる可能性がある。
【0071】
好適な妊孕性を有する精子の診断
或る特定の態様において、本開示は、精液の妊孕の質を判別することを用途とし、精液サンプル中の精子の妊孕段階、受精能獲得状態もしくは成熟段階に関連する1つ以上のマーカーの時間ベースのモニタリングのための方法を提供するものである。マーカーは、レクチンもしくはFc受容体、またはFc受容体に相関させ得る別の生物学的マーカーとすることが好ましい。
【0072】
具体的には、精子の妊孕の質は、モニター対象となるマーカーの時間ベースの発現と、精液中の精子コホートによるベースラインもしくは最小値に対するマーカーの発現最大値のサイクル数の関係に依存する。これまでのIUI研究において、妊娠率が増強される条件は、精子が生成する単位時間当たりマーカー最大発現サイクル数が増えた場合、つまりサイクル頻度が高くなった場合である。マーカー発現が高い発現(すなわち、最大値)を示し、続いてマーカー発現低減(すなわち、最小値)を示し、それ以上の発現増強がない場合(すなわち、追加的な最大値なしの場合)、妊娠率は0%であったのが、実状である。とりわけ、この不在サイクリングの異常な発現は、繁殖を目的に飼育された雄牛由来の射精には見られなかった。
【0073】
得られた精液サンプルのモニタリングに含まれるステップは、下記の通り:
i.様々な時点での収集後のインキュベーション中のメタボリックステータスのマーカー/インジケーターを有する精液サンプル中の精子のパーセンテージを算定し、それによってその精液サンプルのマーカー発現の時間ベースのグラフを提供するステップと、
ii.マーカーが発現の最大値を循環する回数を算定し、精子の妊孕の質を診断するステップである。
【0074】
精液サンプルが最初に収集された時点から開始して、一定の間隔にてインキュベートされた精液サンプルからアリコートを収集してもよい。一実施形態では、アリコートを、5分ごと、10分ごと、15分ごと、20分ごと、または30分ごとに採取する。妥当な最小の時間間隔でアリコートを採取してアッセイすることが好ましい。例えば、そのような並行するFcR発現に適した属性を、アッセイまたは他の形態のモニタリングを実施するのにかかる時間に応じて、継続的にモニタリングするのが、好ましい。アリコートのアッセイ間の時間間隔が短いほど、マーカー発現の最大値のサイクルを判別する処理能力が向上する。
【0075】
精液サンプルのモニタリングは、当業者に公知の任意の手段によって、履行することができる。モニタリング方法として好ましいのは、サイトメーターを使用することである (図2A(1)~図2F(2)を参照)。
【0076】
ここで留意すべき点は、精液サンプルを、射精、針吸引精子などの雄生殖管から回収された精子、または洗浄済み精液とする場合があることである。本発明によれば、妊娠を生起させるには、精子を、マーカー発現の最大値と最小値との間で活発に循環させるべきである。或る特定の実施形態において、マーカーは、精子Fc受容体または精子レクチンとされる。
【0077】
したがって、一態様において、本説明は、射精物中の精子の質を判別して、妊娠結果の形態で受精能を増強し得る方法を提供するものである。本明細書に記載の方法は、特定の精液サンプル中の精子のメタボリックステータスの変化をリアルタイムでモニターすることを含む。或る特定の実施形態において、本方法は、不妊症クリニックで使用するための精液の潜在的な妊孕性を算定する手段を提供するものである。
【0078】
或る実施形態において、本開示には、妊娠結果の改善を得るために、射精物の妊孕能力を診断する方法が提供されている。時間ベースのアッセイ法は
i.雄由来の精液サンプルを提供し、サンプルを制御された条件下でインキュベートすることと、
ii.精子の妊孕の質を示すマーカーもしくはバイオマーカーを選択するステップであって、バイオマーカーの発現が経時的に変化する、選択ステップと、
iii.精液サンプルのアリコート中の、複数の時点における精液サンプルの精子によるマーカーもしくはバイオマーカーの発現レベルを、算定または検出するステップであって、精液サンプルのアリコート中の精子の妊孕状態、受精能獲得状態もしくは成熟状態が、(バルク)精液サンプルの状態と同等である、算定または検出ステップと、
iv.精液サンプルのアリコート中の精子が最大値にてマーカーもしくはバイオマーカーを発現する回数を算定または検出することによって、精子の妊孕の質を判別するステップと、を含む。
【0079】
或る特定の実施形態において、本方法は、同じ雄由来の精子もしくは別の射精物を処理または投与するステップを含む。或る特定の実施形態において、投与の対象となる精子は、最大値もしくは最小値、またはその両方でバイオマーカーの発現の少なくとも2サイクルを経て進行する精子である。
【0080】
或る特定の実施形態において、本方法は、最大値(および/もしくは最小値)にてマーカーもしくはバイオマーカーの発現の少なくとも2サイクルを経て進行する精子を、処理するかまたは投与するステップを含む。少なくとも2つのマーカーもしくはバイオマーカーの発現の最大値(および/または最小値)を精子が循環しない或る特定の実施形態では、本方法は、精子の成熟状態もしくは受精能獲得状態を促進または増強するために薬剤を投与するか、培養条件を修正するステップ、および任意選択的に、精子を雌もしくは卵母細胞に投与するステップを含む。
【0081】
追加的な態様において、本開示には、妊娠結果の改善を得るために、射精物の妊孕の質を診断する方法が提供されている。時間ベースのアッセイ法は、
a.速度論モデルを作成するステップであって、下記:
i.雄由来の精液サンプルを提供し、サンプルを制御された条件下でインキュベートすることと、
ii.精子の受精の質を示すマーカーもしくはバイオマーカーを選択することであって、バイオマーカーの発現または量が経時的に変化する、選択することと、
iii.複数の時点にて精液サンプルからの精子のアリコート中のマーカーもしくはバイオマーカーの発現のレベルまたは量を算定または検出し、少なくとも1つのマーカーもしくはバイオマーカーの発現のレベルまたは量に基づいて、精子の成熟状態の速度論モデルを提供することであって、精液サンプルのアリコート中の精子状態が、(バルク)精液サンプルの状態と同等である、提供することと、
iv.精液サンプルのアリコート中の精子が最大値(および/または最小値)にてマーカーもしくはバイオマーカーを発現する回数を算定または検出することによって、精液サンプル(または同じ雄由来の後続精液サンプル)中の精子の妊孕の質を判別することと、
を含むものである、運動モデル作成ステップと、
b.試験対象となる精液サンプルを提供し、(a)において履行された少なくとも1つのバイオマーカーの発現を検出し、精液サンプルによって呈示された少なくとも1つのバイオマーカー発現を、ステップ(a)によるバイオマーカー発現の前述の速度論モデルに較正して、精子の成熟中もしくは受精能獲得中の少なくとも1つのバイオマーカーの発現と、妊孕性獲得もしくは妊孕性強化とを相関させるステップと、
c.前述の精液サンプルの凍結もしく調製の所要時間を計算するか、あるいは較正による授精に使用する目的で、同じ雄由来の後続サンプ凍結または調製するステップであって、前述の時点にて、前述の精子を、使用される手技、例えばIUIの受精の質に合わせて最適化する、調製ステップと、
d.ステップ(c)の前述の略時点にて胎外受精もしくは人工授精法、例えばIUIまたはIVFにより、同じ雄由来の前述の精液サンプルもしくは後続サンプル(すなわち、試験サンプル)を処理するか、あるいは卵、雌もしくはこれらの組み合わせに対し投与し、
それにより、前述の精液サンプルが授精した際に、同じ雄由来の前述の精液サンプルまたは後続精液サンプルの前述の強化された妊孕性を最適化するステップと、
を含む。
【0082】
態様または実施形態のいずれかにおいて、本方法は、前述の精液サンプルを、下記:
精子の成熟もしくは受精能獲得の速度を調節する化学的因子、精子の成熟もしくは受精能獲得の速度を調節する環境刺激、または精子の成熟もしくは受精能獲得の速度を調節する大気条件のうちの少なくとも1つを用いて処理するステップを含む。
【0083】
合成培地中の精液のアリコートまたは洗浄済み精子のアリコートに対しアッセイを実施してもよい。これにより、所望される場合、洗浄培地中の精子をアッセイし、洗浄培地中の精子の受精周期を移動する精子コホートを生成する精子を追跡して、授精の時間と妊娠が可能かどうかを判断することが可能となる。任意の態様または実施形態では、バイオマーカーまたはリガンドに対し直接的もしくは間接的に結合する検出可能標識によってバイオマーカーのレベルを評価するステップを、本方法に含める場合もある。
【0084】
任意の態様または実施形態において、精液サンプルは哺乳動物由来とされる。態様または実施形態のいずれかにおいて、該哺乳動物は、例えば、ヒト、ウシ、ウマ、ウシ、ブタ、イヌ、ヒツジ、またはヤギである
【0085】
任意の態様または実施形態において、本方法は、前述の精液サンプルを凍結するステップまたは前述の精液サンプルをガラス固化するステップを更に含む。
【0086】
任意の態様または実施形態において、バイオマーカー発現の速度論モデルは、精子受精能獲得中に抗体の定常領域に結合する精子バイオマーカーを具備する。
【0087】
任意の態様または実施形態にでは、精液サンプルの処理に固定化という手段を用いないこともある。
【0088】
任意の態様または実施形態において、バイオマーカー発現の速度論モデルは、精子受精能獲得中に複数のバイオマーカーを具備する。
【0089】
任意の態様または実施形態において、前述の精液サンプルの収集直後に取得されるのは、前述の複数の時点のうちの第1の時点である。
【0090】
任意の態様または実施形態において、精子受精能獲得中のバイオマーカー発現の速度論モデルの開発には、第2の精液サンプルの同じ種由来の射精物が使用される。
【0091】
任意の態様または実施形態において、本方法には、薬剤投与または環境刺激によって、成熟度または容量化率を調整するステップが含まれる。任意の態様または実施形態において、薬剤は、エンドカニビノイド、重炭酸塩8-ブチリルcAMP、またはそれらの組み合わせのうちの少なくとも1つである。任意の態様または実施形態において、記環境刺激は、気圧、大気条件または圧力、温度変化および攪拌からなる群から選択される。任意の態様または実施形態において、大気条件は、一酸化窒素、オゾン、アルゴン、シアン化物、およびCOからなる群から選択されるガスを具備する。任意の態様または実施形態においてCO濃度は、5%を突破する。
【0092】
任意の態様または実施形態において、マーカーもしくはバイオマーカーは、ホスファチジルセリン、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミンおよびスフィンゴミエリンの群から選択される脂質である。任意の態様または実施形態において、細胞内マーカーもしくはバイオマーカーは、細胞内pH、HCO3の細胞内濃度、断片化されたDNAの細胞内濃度、ミトコンドリアのカルシウム、およびカルシウムの細胞内濃度からなる群から選択される。任意の態様または実施形態において、マーカーもしくはバイオマーカーは、糖タンパク質またはアニオン性多糖類に結合する。任意の態様または実施形態において、マーカーまたはバイオマーカーは、グリコサミノグリカン、硫酸化グリコサミノグリカン、硫酸化グリカン、および硫酸化ポリラクトサミノグリカンに結合する。任意の態様または実施形態において、マーカーもしくはバイオマーカーは、ヘパリン、フコイダン、ZP3、卵ベストメント(vestment)に由来する糖タンパク質もしくはその断片、およびルイス抗原からなる群から選択される。任意の態様または実施形態において、マーカーもしくはバイオマーカーは、前述の精子細胞の運動性、運動性グレード、べん毛の鼓動の頻度を呈示する精子の割合、前述の精子細胞が粘液に浸透する能力、前述の精子細胞の接着の喪失、前述の精子細胞の低浸透圧性腫脹、前述の精子細胞の走化性、熱走性およびメタボリックステータスからなる群から選択される、生理学的活性である。任意の態様または実施形態において、バイオマーカーは、前述の精子細胞によって分泌または排出された分子を具備する。
【0093】
任意の態様または実施形態において、マーカーもしくはバイオマーカーは、溶液中のエキソサイトーシス小胞もしくはハイブリッド小胞が出現することを具備する。任意の態様または実施形態において、分泌または排出された分子は、酵素、プロ酵素、薬剤、活性酸素種、エクソソーム小胞、色素、およびDNA断片からなる群から選択される。任意の態様または実施形態において、分泌または排出された薬剤は、抗体に結合したフルオロフォア、フルオロフォア、および酵素からなる群から選択される。任意の態様または実施形態において、マーカーまたはバイオマーカーは、妊孕性関連抗原、大豆トリプシン阻害剤、Fc受容体およびCD46からなる群から選択される。
【0094】
任意の態様または実施形態において、前述の精液サンプルを凍結することは、トレハロース、グリセロール、プロピレングリコール、ジメチルスルホキシド、スクロースおよび卵黄からなる群から選択される凍結防止剤を、添加することを具備する。
【0095】
本履行形態の別の態様では、精液サンプルは、1分、2分、3分、4分、5分、10分、12分、15分、20分、25分、30分もしくはそれを超える時間の範囲内の間隔で前述のマーカー用にアッセイされる。この間隔は、マーカーの発現の変化率、アッセイの履行に必要な時間などに依存する場合がある。更なる態様において、アッセイは、精液サンプルのアリコートまたは精子のアリコートを利用して、ドーズ中の精子に相関する結果をもたらすものであることが、好ましい。
【0096】
或る特定の実施形態において、ステップ(iii)は、所定の時間、例えば約20分、約25分、約30分、約35分、約40分、約45分、約50分、約55分、約60分、約65分、約70分、約75分、約80分、約85分、約90分、約95分、約100分、約105分、約110分、約115分、約120分、約125分、約130分、約135分、約140分、約145分、約150分、約155分、約160分、約165分、約170分、約175分、約180分もしくはそれ以上にわたって、バイオマーカーの発現レベルを算定または検出することを含む。或る特定の追加的な実施形態において、本方法のステップ(iv)は、(iii)の所定の時間内に最大値もしくはピークにて精液サンプルのアリコート中の精子がバイオマーカーを発現する回数を、算定または検出することを含む。
【0097】
本発明の別の態様において、精液をアッセイするための所定の時間の間は、バイオマーカーの発現の少なくとも2サイクルを検出する時間を与えるように設定され、本サイクルは、最大値の後に最小値が続き、次の最大値まで発現が増強されることを含む。或る特定の実施形態において、本方法の所定の期間は約2.5時間である。
【0098】
或る特定の実施形態において、バイオマーカー発現レベルの最大値は、ベースラインまたは最小値と比較して約25%超、約30%超、約35%超、約40%超、約45%超、約50%超、約55%超、約60%超、約65%超、約70%超、約75%超、約80%超、約85%超、約90%超、約95%超、約100%超、約110%超、約120%超、約130%超、約140%超、約150%超もしくはそれ以上とされる。或る特定の実施形態において、バイオマーカーの発現レベルの最大値は、ベースラインまたは最小値と比較して約1倍超、2倍超、3倍超、4倍超、5倍超、6倍超、7倍超、8倍超、9倍超、10倍超、15倍超、20倍超、25倍超、30倍超、35倍超、40倍超、45倍超、50倍超、55倍超、60倍超、65倍超、70倍超、75倍超、80倍超、85倍超、90倍超、95倍超、100倍超、150倍超、200倍超、250倍超、300倍超、350倍超、400倍超、450倍超、500倍超、750倍超、1000倍超、2000倍もしくはそれ以上とされる。
【0099】
或る特定の実施形態において、バイオマーカー発現レベルの最小値は、ベースラインと同じかそれより少ないか、ピークまたは最大値の発現レベルを約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%もしくは約100%下回る。或る特定の実施形態において、バイオマーカーの発現レベルの最小値は、ベースラインと同じかもしくはそれ未満であるか、またはピークもしくは最大の発現レベルを、約1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、25倍、30倍、35倍、40倍、45倍、50倍、55倍、60倍、65倍、70倍、75倍、80倍、85倍、90倍、95倍、100倍もしくはそれを超える値だけ下回り、それらの間の全ての値を含む。
【0100】
該精子が発現の最大値に続いて最小値を有し、次の最大値に向かって発現を増強しないことが、アッセイから明らかである場合、その射精物中の精液は、雌に授精されたときに妊孕をもたらす確率が低い。
【0101】
本実施形態の別の態様において、バイオマーカーは、限定されるものではないが、妊孕性関連抗原、大豆トリプシン阻害剤、リガンド、レクチン、酵素または受容体であって、精子の表面上にもしくは内部的にまたはその両方に発現するものから選択される。一実施形態において、リガンドは、限定されるものではないが、タンパク質、糖タンパク質、炭水化物、糖脂質、または脂質、例えば脂質ラフトなどの異なる膜領域を区別するため、例えば蛍光偏光測定の緩和時間に反映されるように、脂質分子構造ではなく相対的な膜流動性によって検出されたものを包含することが、好ましい。別の実施形態において、バイオマーカーは、限定されるものではないが、先体の長さ、先体の形態、先体の波打ち、細胞表面分子の発現、前述の精子の静電荷、精子膜の透過性、脂質、コレステロール、ホスファチジルセリン、糖、タンパク質、細胞内イオン、および重炭酸塩から選択されることが、好ましい。
【0102】
或る特定の実施形態において、バイオマーカーは、精子の表面上に存在する分子、または精子が精子周辺の培地に放出する分子、例えば、精子Fc受容体(FcR)、CD46、炭水化物、糖タンパク質、炭水化物結合タンパク質、プロテオグリカン、糖脂質、脂質、またはレクチンである。使用されるマーカーは、精子の受精能力と相関している限り、本発明に従って使用して差し支えない。或る特定の実施形態において、バイオマーカーは、精子頭部の表面上にある精子Fc受容体である。或る特定の実施形態において、バイオマーカーは精子FcRであり、このFcRは精子の妊孕状態を示唆するものである。
【0103】
別の実施形態では、インキュベーション中の精液サンプル中の精子のメタボリックステータスの変化をモニターすることにより、雌の授精用の精液サンプルの妊孕の質を判別または診断する方法が存在する。本方法は、
i.精子の妊孕状態を示すマーカーを選択するステップであって、前述のインキュベーション中にマーカーの発現が変化する、選択ステップと、
ii.前述のインキュベーション中の複数の時点にて精液サンプルの精子によるマーカーの発現レベルを算定するステップであって、前述のサンプルのアリコートを、各時点にてアッセイする、算定ステップと、
iii.前述の所定の期間中に、前述のマーカーの前述の発現レベルが精子の最大レベルのFc発現に対応する発現レベルを経て、続いて前述のマーカーが精子の最小レベルのFcR発現に対応する発現レベルを経た回数を算定し、それにより、授精用の精液サンプルの妊孕の質を判別し、妊娠結果の改善をもたらすものであるステップと、
を含む。
【0104】
好ましい実施形態では、新規に収集された精液射精物の妊孕の質を診断し、陽性妊娠結果の改善を得るための方法は、
i.精液射精物を収集するステップと、
ii.前述の射精物の精子のアリコートをアッセイする目的で、収集済み精液のごく一部を除去して、前述の精子の妊孕段階を示すFc受容体マーカーの発現を経時的に調べるステップと、
iii.マーカーが最大値の発現を経た回数を算定するステップと、
iv.それにより、雌の授精用の前述の精液の妊孕の質を判別し、陽性の妊娠結果の改善を得て、任意選択的に、妊孕の質が強化された精子を処理または投与するステップと、
を含む。
【0105】
任意の態様または実施形態では、メタボリックステータスについてのバイオマーカーの判別または検出(モニタリング)中に、精子サンプルを、一定の温度でインキュベートする。
【0106】
一実施形態では、第1のリガンドの結合によって、二次バイオマーカーの出現が誘発される。この出現は、二次マーカーを補足リガンドと接触させることによって検出される。代替的に、精子に対し結合せずに侵入するか、または他の様式により(例えば、精子の脂質二重層の1つへの脂質の挿入、または先体と原形質膜の間の融合イベント中に精子に侵入して細孔を生成するなどにより)相互作用する薬剤を使用して、本発明に従ったアッセイを実施することによって、変化を経時的に誘発し、モニターする場合もある。この変化は、視認可能な変化であることが好ましい。
【0107】
この実施形態の別の非限定的な態様において、前述の精子もしくはその断片を介した色素の透過性は、精子もしくはその断片中の前述の色素の強度によりモニターすることによって、前述の精子サンプルのアリコート中でアッセイされる。精子は精漿剤を、精子膜に結合させることで公知である。昨今発見されてきたように、精子は事実上、周辺培地から薬剤を吸収し得る。したがって、精子の断片は、精巣または精巣上体に形成された精子だけでなく、カーゴ(cargo)として獲得された薬剤精子も含むものと解釈すべきである。
【0108】
本発明の実施形態の別の態様では、細胞表面バイオマーカーの発現をモニターし、精液サンプルの処理用に選択された時点を、サンプルがバイオマーカーを最大に発現する初期時点に関して判別する。
【0109】
本発明の実施形態の別の態様では、細胞表面バイオマーカーの発現をモニターし、精液サンプルの処理用に選択された時点を、前述のサンプル中の前述のバイオマーカーの発現がピーク発現と比較して低減し、引き続き、発現の最小値から増加し始める初期時点に関して判別する。
【0110】
一実施形態において、記載の方法は、指定されたバイオマーカーを有する精液サンプル中の精子のパーセンテージに基づく。一態様において、指定されたバイオマーカーは、任意選択的に細胞表面に存在する、生化学的マーカーである。とにかく、バイオマーカーは、精子のメタボリック妊孕状態を反映または示唆している。或る特定の実施形態において、マーカーは、精子特異的マーカーに限定されない。
【0111】
別の態様において、本記載は、精子のメタボリック妊孕状態を反映するバイオマーカーを有する精液サンプル中の精子のパーセンテージを算定するための方法を提供する。本アッセイに含まれるステップは、下記の通り:
a) 精液サンプルからアリコートを除去するステップと、
b) アリコートを前述のバイオマーカーへの第1のリガンドと接触させるステップと、
c) 前述の精子による前述のリガンドの結合を検出するステップと、
d) リガンドに結合する前述のアリコート中の精子のパーセンテージを算定するステップである。本実施形態の代替的な態様では、ステップd)を、バイオマーカーまたはリガンドに対し直接的もしくは間接的に結合する検出可能標識によってバイオマーカーのレベルを評価するステップで置き換えても差し支えない。
【0112】
別の態様において、本記載は、前述の精液サンプルの精子中に検出された前述のバイオマーカーの濃度を算定する方法を提供するものであり、本方法は、a)精液サンプルからアリコートを除去することと、b)前述のバイオマーカーに対する第1のリガンドに対しアリコートを接触させることと、c)前述の精子を介した前述のリガンドの結合を検出することと、d)リガンドによるバイオマーカーの結合を定量化することにより、前述のアリコート中の精子によって発現されるバイオマーカーの量を算定し、それにより、前述の精液サンプルの精子で検出された前述のバイオマーカーの濃度を算定することと、を含む。
【0113】
本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、リガンドは、検出可能標識、好ましくは視認可能標識で標識される。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、精子を介したリガンドの結合を検出することは、精子または精子の断片に対し直接的もしくは間接的に結合された標識を検出することを含む。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、精子断片は、無傷の精子と会合しているかまたは解離している。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、精子を介したリガンドの結合を検出することは、アリコート中の精子を、第1のリガンドに結合する第2のリガンドと接触させることを包含する。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、第1のリガンドおよび/もしくは第2のリガンドは、抗体である。本明細書に記載の態様または実施形態のいずれかにおいて、抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体のいずれかであると考えられ、1つ以上の標識を含む可能性がある。
【0114】
メタボリックステータスのマーカー
最適な精子の妊孕は、多くの属性、例えば、生存可能な精子の数、精子の運動性(運動性であるパーセンテージと示される運動性のタイプの両方)、精子の形態、先体の完全性などに基づいて定義される場合がある。公知のように、射精が起こり、精子が精嚢からの血漿および他の体液と混合されると、全ての精子は一連のメタボリック変化を経る。精子が受精能力を達成するためには、射精後の「受精能獲得」を含めた精子の「成熟」が必要とされる。これらのプロセスに関連している膜変化が、いくつか存在する(Bearer,1990)。一方、出願人らの発見によれば、Fc受容体は、妊孕状態の好ましいマーカーを提供する。ゆえに、Fc受容体に相関させ得る任意の生物学的マーカーは、本発明の実施において有用である。
【実施例
【0115】
実施例1.
Fc受容体アッセイ
本アッセイを、生精液、合成培地中の解凍済み洗浄精液または合成培地中の洗浄精液の、アリコート10μlに対して直接的に履行する。乏精子症のサンプルには、大量の生精液を使用してもよいが、可能であれば、乏精子症サンプルの細胞カウントの方法としては、100μl程度のサイトメトリー分析用に細胞をより小さなバッファー容量にて再懸濁させ、BD Accuri c6サイトメーターの最速流量に対応するイベントを収集するのが、好ましい。精液を、収集カップに収集する。
【0116】
このアッセイを実行する際に、事前に確認すべき点は、(1)作業例1に記載されているようにして精液を収集しインキュベートして、プロセスの失敗を最小限に抑えるようにすること、および(2)アッセイ試薬が使用前に周囲温度(22~26°C)にあることである。グリーン1、レッド2、およびブルー3については、上述した通りである。
1.アッセイ混合物(予備混合されていないもの)の調製
i.使用直前に、以下を1.5mlチューブにピペッティングする。順序は、下記の通り:
ii.100μlのグリーン1
iii.20μlのレッド2
iv.10μlの無希釈精液
v.5μlのブルー3混合物
vi.本アッセイの場合、繰り返し間隔は30分とされている。ただし、15分間隔で繰り返すのが、理想的である。アッセイの実行中は、試薬を常に周囲に置くこと。
2.アッセイ混合物の調製(試薬の予備混合および予備分注)
i.使用直前に、以下を1.5mlチューブにピペッティングする。順序は、下記の通り:
ii.グリーン1/レッド2混合物120μl(5:1 v/vにて混合)
iii.10μlの無希釈精液
iv.5μlのブルー3混合物
v.本アッセイの場合、繰り返し間隔は30分とされている。ただし、15分間隔で繰り返すのが、理想的である。アッセイの実行中は、試薬を常に周囲に置くこと。
3.インキュベート
a.チューブを周囲温度で20分間インキュベートする。(インキュベーションを15分間とすることは可能であるが、アッセイを過度に短縮した場合、アーチファクトのリスクが高まる。)
4.洗浄
a.周囲温度にて、1mlのバッファー(8g NaCl;0.2g KCl;1.44g NaHPO・7HO;0.24g KHPO;HOからなるPBSバッファー)を、MPバイオメディカル社(MP Biomedicals)から販売されているマグネシウム不含・カルシウム不含のPH7.2またはPBS緩衝液で、前述のように製造元の指示に従って再構成されたもの)1リットルに添加する。
b.2000xg(マイクロフュージ単位:約6,000rpm)にて30秒間マイクロフュージする。
c.上澄みを1mlピペットで注意深く取り除く。少量の液体を残して、ペレットが乱されるのを回避する。
5.スコア
a.バッファー約300μlを細胞ペレットに添加し、穏やかに混合して再懸濁させる。スコアリングのための再懸濁量は、精子濃度に関連している。乏精子症のサンプルの場合、再懸濁量を100μlと低量に抑える必要がある。それ以外の場合、所要イベント数を分析する際の計数時間が長引くことになる。細胞数が少量の場合、最初にサイトメーターの流速を上昇させることが、好ましい。この流速上昇によって、約60秒以内に5,000のイベントを取得することが可能なら、そうした方が望ましい。精子数が少なすぎてこれを可能にできない場合は、再懸濁時の容量を減らす必要がある。
b.再懸濁した細胞を含むチューブをサイトメーターSIPチューブに配置し、「CytometerScoring」テンプレートを使用して、キャリブレーションされたサイトメーターで分析した(詳細については、Cytometer Scoring SOPを参照)。
6.診断結果の分析、および妊孕の質の判別
診断分析
a.FcR初期状態(注:この診断は、凝固済みサンプルを収集直後に、試験した場合に限り、実行して差し支えない。液化済みサンプルの場合、正常なコホートが既に成熟している可能性があり、その結果、スコアは高くなるが、それでも正常である。)第1の時点で陽性精子のパーセンテージを算定する。この割合が35%を超えると、コレクションはFcRの異常な早期展開が見られる。この早期展開は、家畜のIUIの不妊症に関連しており、ヒト雄因子の不妊症の疑いの指標を上昇させてしまう。
b.FcR動力学-FcR%を時間に対して正にプロットする。図2A(1)~図2F(2)を参照のこと。2.5時間にわたる通常の動態には、2つ以上の精子コホートを成熟させることが含まれる。通常の周期は1.5~2時間であるのに対し、一部のコレクションでは、コホートの成熟する間隔が短いことが明らかである。ヒト、ウシおよびブタでは、ウシIUIで公知の妊孕マーカーであるスイムアップ収量は、ピークFcR陽性の1時間後に最大値に達し、FcR動態を予測的アッセイにしている。いくつかの事例において、FcRによる成熟の単一ピークのみを示す射精物には、他の異常もまた存在することが、見出されてきた。繁殖力が選択された家畜には、単一コホートの射精物が見られない。これらの結果および初期のヒトデータによれば、単一コホートの射精物が妊娠の結果を損なう恐れのあるプレART(IUI、雌の排卵誘発剤との時限性交)には、雄要因の問題があるという疑いの指標が上昇している。
c.耐凍害性の向上-膜の流動性の増加は、凍結性の改善と相関することが公知である。本明細書に記載の方法は、FcR受容体の発現を測定し、この測定は、膜の変化を反映し得るものであり、結果として、流動性を増強させる。そのため、記載の方法を使用して、解凍時よりも細胞の損傷を最小限に抑える状態にて凍結することで、凍結済みサンプルの生存率向上を可能としている。凍結のための精子処理条件はラボラトリーによって異なるため、各ラボラトリーで特定のプロセスと併用した場合に、解凍後の生存率を改善するのに最適な精子状態を較正するのが、最善とされる。この較正を行うには、アッセイを実行し、各アッセイ時点の開始時にアリコートを処理/凍結する場合がある。アッセイにより同定された精子状態で、解凍後のアッセイの際に、最高のスイムアップ収量または生存率を生ずる該状態は、その特定のラボラトリーで手技によるドーズ凍結に最も好適な状態である。
IUI用に状態調整された精子による治療
a.陽性細胞のパーセンテージをプロットする。Fc受容体に対し陽性の細胞のパーセンテージは通例、凝固サンプルの収集後30分~2.5時間の時間枠で増加し始め、早期成熟コホートの液化後サンプルの第1のアッセイポイントにて既に上昇していると考えられ、第1コホートピークの解釈を取り違えることになりかねない。時間ゼロ=アッセイ開始時間。
b.ポイントをグラフ化し、30分間隔で少なくとも30%の2つのポイント間の増加を探す。試験間隔を15分とした場合、3ポイント間の増加を少なくとも30%とする必要がある。そのような増加が細胞の陽性において見られる場合、30分待ってから、この目的に合わせて調製されたサンプル部分を用いてIUI授精手技を即座に履行する。時間枠として好ましいのは30~60分以内であり、処理時間は45分での授精を必然的に伴い得る。ただし、可能な場合に好ましいのは、FcRの発現が低下し、最小値に達したときにIUIを介して精子が子宮に導入されることである。これは、最小値を超えて上昇するのとは対照を為す。
実際のサンプル例については、図2A(1)~図2F(2)を参照のこと。注記:正のFcRの%のわずかな増加は、依然として好ましい結果と関連している可能性があるが、精子の妊孕状態の調整に対しては好ましくない。
【0117】
FcRピークおよび所望のIUI時間を識別するための例は、図2A(1)~図2F(2)に図示されている通りである。「C」と表記された図中、注目される点は、FcR陽性精子の集団の増加(多くの場合、低減状態に先行し、次いで最小値自体に先行する)から、精子IUIのタイミングが発生するという点である。ゆえに、図Cは、臨界精子状態に接近してから到達することを、クリニックに対し知らせるプロットの例である。これが重要とされる理由は、クリニックが確認するのは、精子の調製中に曲線全体ではなく、精子状態をIUI互換の状態に調整するうえで必要な領域だけに限定されるからである。
【0118】
サイトマースコアリング
このアッセイをスコアリングする前に、確認すべき点は、次の通り:
プロセスの失敗を最小限に抑えるために、精液を収集して上記と全く同じようにインキュベートし、アッセイを上記と全く同じように実行することである。
【0119】
機器の始動
i.コンピューターの電源を投入する。
ii.サイトメーター(ミシガン州ランシングのアクーリ(Accuri)、現行ではBD製)をオンにする
iii.必要に応じて、廃液ボトルを空にし、シースボトルにDI水を充填する。
【0120】
テンプレートおよび名前ファイルを開く
a.[アッセイ1テンプレート(Assay 1 Template)]をクリックする。
b.[ファイル(File)]→[CFlowファイルを名前を付けて保存(Save CFlow file as...)]を選択する。
c.[ファイル名]で、日付コードを入力して、日付でファイルに名前を付ける。
d.[保存(Save)]をクリックする。
【0121】
データの収集
a.赤い[収集]タブで、所望のサイトメーターグリッドをクリックする。(図1Aは第1のサンプルの第1のドナー用、図1Bは第2のサンプルの第1のドナー用、図2Aは第1のサンプルの第2のドナー用、以下同様。)
b.サイトメーターグリッド(A01など)の横に、サンプル情報およびアッセイ時間(収集物のアッセイ所要時間)を入力する。
c.信号が緑色に表示されていることを確認する。サイトメーターのSIPチューブにサンプルを充填し、チューブ下部にあるプラスチックチューブ支持体を引き出す。
d.[実行(Run)]をクリックする。
e.データが取得された後、陽性精子のパーセンテージ(右側の母集団)の算定が可能になるように、密度プロットのゲートを調整する。この数値を記録する。これには、所望される場合、最初に細胞をゲート制御して精子をゲーティングすることが含まれる(ヒトサンプルには有用とされる反面、ウシサンプルには不必要)。図示されているプロットのようにして、FcR陽性に関して細胞ゲート内の細胞をアッセイするには、図のように、チャネル1のアッセイ蛍光によってネガティブプールの最もポジティブなエッジの上にクワッドゲートを配置し、右上の象限でFcR陽性精子のパーセンテージを算定することが含まれる。本アッセイでは、下象限は使用されないため、垂直ゲートもまた使用可能となる。SIPチューブからサンプルを取り出す。
f.次のサンプルでは、ステップ3aから始まる上記プロセスを繰り返す。
g.そのアッセイ時間のサンプルが終了したら、[バックフラッシュ(Backflush)]をクリックし、信号が緑色に表示されるのを待ってから、[目詰まり解除(Unclog)]をクリックする。
【0122】
機器の清掃、およびシャットダウン
a.全てのサンプル間で、SIP下部にタオルを置き、[バックフラッシュ(Backflush)]または[目詰まり解除(Unclog)]を選択する。
b.1日の終わりに、洗浄液のチューブをサイトメーター上に置き、ウェルH1を選択して、[実行(Run)]をクリックする。実行所要時間は、2分間である。水チューブをサイトメーター上に置き、ウェルH2を選択して、[実行(Run)]をクリックする。実行所要時間は、2分間である。少なくとも2分間かけて、システムを水で洗浄する。
c.サイトメーターをオフに切り替えてから、コンピューターの電源を切る。
d.製造元の機器マニュアルに詳述されているように、操作、クリーニング、および予防保守に関する全ての指示に従う。
【0123】
実施例2
診断:アッセイ循環率と妊娠率との相関
上記実施例1に記載されているようにして、精液サンプルをアッセイした。グラフには、射精物由来の無希釈精液アッセイであり、Y軸に%キネティックス陽性、X軸に時間が、図示されている。第I群には最小値が無く、第II群には最小値が1つあり、第III群には最小値が2つある。これらの群を2.5時間にわたって実行したアッセイのグラフは、図4に図示されている通りである。丸で囲んだ部分は、IUI授精時間の最小値を示す。本発明による周期頻度と妊娠率との関係は、下表に示す通りである。
【0124】
【表1】
【0125】
このデータは、例えばクライオバンクまたはIUIクリニックが、診断目的でサイクリングを使用する例を示したものである。このクライオバンクまたはIUIクリニックが、夫婦の召喚を望むのは、第1の射精でアッセイの最小値が生成されない場合、または同じ排卵サイクル内で翌日2分間の射精を試行したいとき、最小値が1つ生成される場合としている。24時間間隔のIUI手技は、データが収集されたクリニックの臨床医の裁量で実施される。ゆえに、本明細書に記載の任意の態様または実施形態において、本方法は、少なくとも1つのマーカー発現最小値、例えば、精子FcR発現最小値を検出することを含む。
【0126】
クリニックおよびクライオバンクは、記載の方法は、精子状態が均一なIUI用の精液ドーズを作るための製造プロセス制御として使用してもよいし、簡易性を向上させた診断として使用してもよい。理由は、パートナーとのIUI妊娠を生起させ得る男性を同定することが可能であるだけでなく、授精射精もしくは授精射精に近い時期に生成された射精物がIUI妊娠を生起させる確率がどの程度であるかを同定することも可能であり、対照的に、パートナーによるIUI妊娠の達成と両立しない男性因子不妊症が原因で、IVFに直接的に高速トラッキングする必要のある男性を同定することも、可能であるからである。高速サイクリング射精物の繁殖力は、IUIを用いた場合の方が、増強される。第I群または第II群射精物を雄患者が生成する場合、医師は、夫婦の召喚を望み、妊娠達成の確率を上昇させることを期して、24時間後に別の射精物(第1の射精物が最適でなかった場合)を処理することがある。クライオバンクは、IUI用の射精物を、プレミアムラピッドサイクリングで販売することを所望し、射精群Iの非サイクラーに分類される男性、またはその精液をIVF/ICSI専用に販売する男性を、拒否する場合がある。平均速度における射精循環率は、IUI以外の形態の生殖補助医療に対し優先的にルーティングされる場合もあれば、あるいは、IUI用の標準価格で販売される場合もある。本発明の診断アッセイは、凍結前であれば、収集済み精子に対して実行してもよいし、あるいは、解凍時には、以前に凍結しておいた精子に対して実行してもよい。
【0127】
本明細書に記載の方法は、無希釈精液中の精子、伸長希釈剤中の精子(凍結用)、または洗浄済み精子に対して、上記の実施例1に開示されている通りに、実行することが可能である。IUIまたは貯蔵用に精液を処理する目的に使用されるのは、まさしく、クリニックまたはクライオバンクで現在使用されているプロセスである。唯一の変更点は、射精循環率を同定して、精子ドーズのIUI品質を判別することのみ、あるいは、妊娠および患者の層別化を単一IUIに生成する可能性を算定するか、またはIUI手技を繰り返すことのみである。リアルタイムの精子状態の調整に関して他のセクションに記載されているように、精子バンクが、(現在の慣行のように無作為に多かれ少なかれ有用な状態ではなく)均一な特定の状態にてドーズを凍結する場合、該バンクはまた、そのように処理された精子がIUI妊娠と互換性のある状態で子宮に授精されることを期して、正確な下流手技を顧客に配布し得る。
【0128】
特定の精液サンプル中の精子のメタボリックステータスのリアルタイムアッセイにより、クリニックでの使用またはクライオバンクからの販売を用途とする射精物および洗浄済み精子の潜在的妊孕の算定向上および一貫性向上が可能になる。例えば、精子活性化の個々のメタボリック率を進行する際の精液サンプル中の精子のメタボリックステータスのリアルタイムモニタリングを使用して、個々の精液サンプル中の妊孕の発現のリアルタイム発生を算定し、精液の潜在的な妊孕性を評価してもよい。有利には、本明細書に開示されている方法を使用して、肯定的な妊娠結果を増強させ、生殖補助医療の経済性、単純性、安全性および迅速性を現行の慣行に比べて向上させことを可能としている。
【0129】
これまでの発見によれば、妊孕状態のマーカーが、精子の頭部上にあるFc受容体(FcR)であることが、好ましい。精子の頭部にFc受容体を発現している集団内の精子のパーセンテージを経時的にモニターして、Fc受容体の発現と時間との関係をプロットしてもよい。Fc受容体の発現に対するモニターには、Fc受容体に結合する標識リガンドを使用してもよい。そのようなリガンドのうちでも有用なものとしては、精子に対して他の親和性を有さない標識抗体が、挙げられる。Fc受容体発現対時間のプロットから明らかなように、射精物が精子の成熟集団(コホート)を発現し、Fc受容体を放出して最大値に達し、最小値に低減した後、第2の集団(コホート)を生成し得る。Fcを発現する精子の最大値に到達した後に最小値にまで低減し、続いて、恐らく精子の第3の集団(コホート)でさえFcを発現し、最大値に達した後に低減し、各サイクルで低減する精子の予備プールから更に多くコホートを循環させる可能性がある。図3A図3Fを参照のこと。
【0130】
実施例3
同じドナーでサイクル動態が類似していることは、24時間間隔で生成された射精物(図5A図5H)において確認されるが、1か月間隔で生成された射精物(図5I図5J)においては確認されないことは、図5A図5Jに例証されている通りである。
【0131】
本明細書に記載の方法を使用して、射精に関してだけでなく、同じ雄由来の射精間隔も予測するのは、有用である。図5に図示されているように、異なる雄によって連日に生成された射精物で実行されるアッセイは、同じ雄内では類似しているが、雄間では類似していない。図5A図5B図5C図5D図5E図5F、および図5G図5Hは、24時間間隔で取得された様々なドナーによる結果を表している(上のグラフは1日目のもの、下のグラフは2日目のものである)。ゆえに、第1の射精物から第2の射精物のFcR最小値を予測することが可能である。患者1(図5A~5B)は完全に一致する。患者2(図5C図5D)および3(図5E図5F、および図5G図5H)は、連日に互いに30分以内にFcR最小値で射精物を生成する。これにより、第2の射精物がアッセイされていない場合でも、1日目の射精物の精子状態をうまく予測して、第2の射精物による妊娠を可能にし得る。連日に、別の射精物ペアの患者3もまた、片方が循環しなかった射精物ペアを生成した。これは、患者の精密検査における異なる治療アプローチの必要性を示唆している。最後の雄である患者4(図5I図5J)は、1か月間隔で1つずつサンプルを生成し、これらサンプルは第1のFcR最小値のタイミング類似性を欠いていた。
【0132】
IUI妊娠を生起させる目的で、或る日の射精物から次回の射精物までの第2の射精物の最適な状態を予測することは、役立つ。妊娠確率を依然として高めながら、臨床業務およびコストが簡素化される将来性がある。ただし、この将来性は、集約度を高めた授精射精アッセイで見られる程度には到達していない。一方、これらのデータを使用して、患者はアッセイ用の部位で検体を作成した後に、翌日クリニックに来診して、授精に使用される標本を生成することができる。
【0133】
記載の方法に従って、射精物の妊孕の質を診断し、診断用に精液を収集して、定期的な間隔で時間ベースのアッセイ用にアリコートを収集する。アッセイプロファイルを使用して、精液の妊孕の質を診断または判別する。本発明によれば、最大値のサイクルにてFc受容体を発現し、アッセイプロファイルにて最小値にまで低減する精子コホートの数は、精液の妊孕の質と相関している。諸研究では、最大値でFc受容体の発現を示した後に低減し、Fc受容体の発現増強(または連続する最小値)を示す精液コホートのサイクルがそれ以上は存在しないことが、アッセイにて初期に判明した場合、精子がIUI授精に妊孕を提供する可能性は、ほとんどもしくは全くなく、IVFの妊孕を提供しない可能性があるが、IVF/ICSIを要する場合があり、そのアプローチに失敗する恐れがある。精子の追加的なコホートが最大値まで増加してから低減する(すなわち、最小値のサイクル)ことが、アッセイによって明らかにされる場合、精液は、精子コホートのサイクル数が更に最大値に達し、特に特定の期間内に低下することと相関して、妊孕(単位時間当たりコホートの循環割合、すなわち精子の循環頻度)を向上させる。
【0134】
当業者は、妊孕に相関する他のマーカーをアッセイおよびモニターしてもよい。それらのマーカーとして挙げられるのは、例えば、運動性、先体膜もしくはその成分の出現であって、原形質膜の開窓を通して視認可能な点状のパターン、例えば、先体の吻部から始まって、更には頭部にまで延在する該パターンでの出現、精液サンプルの精子の細胞表面分子の発現、精液サンプルの精子の静電荷、精子を囲繞する培地中に流れ込んだ精液サンプルの精子または精子由来の薬剤(FcRなど)の、精子もしくはその断片を介した色素の透過性が、挙げられる。時間ベースのアッセイが精子のFcR発現またはその脱落と相関している限り、妊娠率が上昇するという結果が得られることが、予期される。
【0135】
本明細書中に引用されている全ての特許、特許出願、および公開済み参考文献は、その全体が本明細書において参照により援用されている。本明細書に記載の開示を、その好ましい実施形態を参照しながら、特に図示および記載してきたが、当業者によって理解されるように、添付の特許請求の範囲に包含される範囲から逸脱することなしに、その範囲内で、形態および詳細に様々な変更を施すことが可能である。
参考文献
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