IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社東芝の特許一覧 ▶ 東芝エネルギーシステムズ株式会社の特許一覧

特許7612558電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム
<>
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図1
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図2
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図3
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図4
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図5
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図6
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図7
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図8
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図9
  • 特許-電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20250106BHJP
   G05F 1/70 20060101ALI20250106BHJP
   H02J 3/18 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
H02M7/48 R
H02M7/48 E
G05F1/70 L
H02J3/18 157
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021191239
(22)【出願日】2021-11-25
(65)【公開番号】P2023077795
(43)【公開日】2023-06-06
【審査請求日】2024-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 恭大
(72)【発明者】
【氏名】関口 慧
(72)【発明者】
【氏名】児山 裕史
(72)【発明者】
【氏名】福島 大史
(72)【発明者】
【氏名】田村 裕治
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/211624(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/017517(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0145579(US,A1)
【文献】特開2018-023230(JP,A)
【文献】特開2019-140743(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
G05F 1/70
H02J 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相の電力系統に連系する電力変換装置であって、
前記電力系統のそれぞれの相間に対応する三つの相回路がデルタ結線されたデルタ結線回路を備える電力変換器と、
前記電力変換器の制御を行う制御装置と、
を備え、
前記相回路は、
複数の自己消弧型の半導体スイッチング素子と直流コンデンサとを備えるセルが直列に複数接続されたアームと、インピーダンス成分とが直列に接続され、
前記直列に接続された回路の任意の位置に前記アームに流れるアーム電流を検出する電流検出器を備え、
前記制御装置は、
前記アーム電流に基づいて、前記デルタ結線回路内を流れる循環電流を検出し、検出した前記循環電流に含まれる所定の外乱成分を抑制するように、前記電力変換器を制御する、
電力変換装置。
【請求項2】
前記制御装置は、抑制する対象とする次数の前記循環電流の電流成分をゼロに近づけるように、前記電力変換器をフィードバック制御する、
請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記循環電流と前記循環電流の制御出力量とに基づいて推定した前記デルタ結線回路の電圧に含まれる誤差量に基づいて、前記電力変換器を制御する、
請求項1または請求項2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記循環電流と循環電流指令値との差分をゼロに近づけるように、基本波周期の繰り返し波形情報に基づいて前記電力変換器の制御を繰り返す、
請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記制御装置は、それぞれの相間に対応する前記相回路内の前記セルが備える前記直流コンデンサの電圧をバランスさせる前記循環電流が流れるように、前記電力変換器を制御する、
請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記電力系統に対して逆相無効電力を供給する、または前記逆相無効電力を消費するように、前記電力変換器を制御する、
請求項1から請求項5のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項7】
前記セルは、第1の半導体スイッチング素子および第2の半導体スイッチング素子の二つの前記半導体スイッチング素子が直列接続された直列回路と、前記直流コンデンサとが並列接続されたハーフブリッジ回路である、
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項8】
前記セルは、第1の半導体スイッチング素子および第2の半導体スイッチング素子の二つの前記半導体スイッチング素子が直列接続された第1の直列回路と、第3の半導体スイッチング素子および第4の半導体スイッチング素子の二つの前記半導体スイッチング素子が直列接続された第2の直列回路と、前記直流コンデンサとが並列接続されたフルブリッジ回路である、
請求項1から請求項6のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項9】
前記循環電流に寄与する前記インピーダンス成分は、前記三相の電力系統と前記デルタ結線回路との間に接続される変圧器に含まれる漏れインピーダンス成分である、
請求項1から請求項8のうちいずれか一項に記載の電力変換装置。
【請求項10】
三相の電力系統に連系する電力変換装置であって、
前記電力系統のそれぞれの相間に対応する三つの相回路がデルタ結線されたデルタ結線回路を備える電力変換器と、
前記電力変換器の制御を行う制御装置と、
を備え、
前記相回路は、
複数の自己消弧型の半導体スイッチング素子と直流コンデンサとを備えるセルが直列に複数接続されたアームと、インピーダンス成分とが直列に接続され、
前記直列に接続された回路の任意の位置に前記アームに流れるアーム電流を検出する電流検出器を備えた、前記電力変換装置の制御方法であって、
前記制御装置のコンピュータが、
前記アーム電流に基づいて、前記デルタ結線回路内を流れる循環電流を検出し、
検出した前記循環電流に含まれる所定の外乱成分を抑制するように、前記電力変換器を制御する、
電力変換装置の制御方法。
【請求項11】
三相の電力系統に連系する電力変換装置であって、
前記電力系統のそれぞれの相間に対応する三つの相回路がデルタ結線されたデルタ結線回路を備える電力変換器と、
前記電力変換器の制御を行う制御装置と、
を備え、
前記相回路は、
複数の自己消弧型の半導体スイッチング素子と直流コンデンサとを備えるセルが直列に複数接続されたアームと、インピーダンス成分とが直列に接続され、
前記直列に接続された回路の任意の位置に前記アームに流れるアーム電流を検出する電流検出器を備えた、前記電力変換装置を制御させるプログラムであって、
前記制御装置のコンピュータに、
前記アーム電流に基づいて、前記デルタ結線回路内を流れる循環電流を検出させ、
検出させた前記循環電流に含まれる所定の外乱成分を抑制するように、前記電力変換器を制御させる、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入が拡大している。再生可能エネルギーによる電力供給では、電力系統の電圧が不安定になることが懸念される。このため、電力系統の安定的な運用をするために、静止型無効電力補償装置(STATic synchronous COMpensator:STATCOM)の需要が拡大している。STATCOMは、自励式の変換装置を用いて無効電力を補償するものである。STATCOMは、例えば、変電所に設置される送変電・配電システムなどに導入され、常時運転されている。STATCOMは、通常の運用において連系点の無効電力を制御することによって、系統電圧の安定化に貢献している。
【0003】
近年、STATCOMの回路トポロジーとして、モジュラー・マルチレベル変換器(Modular Multilevel Converter:MMC)が適用される事例が増加している。MMCは、セルと呼ばれる小容量の変換器を多段に接続して構成されるアームを備え、交流側に出力する出力電圧の電圧レベルを、セルの段数に応じて多レベル化することができる電力変換器である。STATCOMにMMCを用いることによって、従来では必要であって交流フィルタを備える必要がなくなるというメリットを得ることができる。
【0004】
STATCOMには、例えば、三相のそれぞれの相間に対応するアームの両端を異なる相に接続したデルタ結線形のMMCが用いられる。デルタ結線形のMMCでは、各相間のアームの出力電圧の零相成分と、デルタ結線された構成内のインピーダンス成分とに応じて、デルタ結線内を循環する循環電流が流れる。一般的に、デルタ結線形のMMCにおいて循環電流は、セルを構成するコンデンサの電圧(充電量)が相対的に均一になるようにバランスさせるために制御される。しかしながら、循環電流は、デルタ結線形のMMCの動作を制御するための演算や通信などによる遅延時間の影響などによって制御誤差を生じてしまった場合、零相成分に外乱成分が重畳されることによって、コンデンサの電圧制御に必要ではない循環電流となってしまうことがある。外乱成分が重畳された循環電流は、セルを構成する半導体素子を流れることによって、デルタ結線形のMMCにおける動作(運転)の電力損失を増加させてしまう要因となり得る。この対策として、デルタ結線内にインピーダンス成分を追加することが考えられる。しかし、この場合には、デルタ結線形のMMCを構成する部品(特に、受動素子)に定格値の高い大型なものを使用する必要が出てくるなど、部品のコストが増加してしまうことになってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/017517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、デルタ結線形のモジュラー・マルチレベル変換器に流れる循環電流に含まれる外乱成分を抑制することができる電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の電力変換装置は、三相の電力系統に連系する電力変換装置であって、電力変換器と、制御装置と、を持つ。電力変換器は、前記電力系統のそれぞれの相間に対応する三つの相回路がデルタ結線されたデルタ結線回路を備える。制御装置は、前記電力変換器の制御を行う。前記相回路は、複数の自己消弧型の半導体スイッチング素子と直流コンデンサとを備えるセルが直列に複数接続されたアームと、インピーダンス成分とが直列に接続され、前記直列に接続された回路の任意の位置に前記アームに流れるアーム電流を検出する電流検出器を備えている。前記制御装置は、前記アーム電流に基づいて、前記デルタ結線回路内を流れる循環電流を検出し、検出した前記循環電流に含まれる所定の外乱成分を抑制するように、前記電力変換器を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図。
図2】MMCが備えるセルの構成の一例を示す図。
図3】MMC内のデルタ結線回路の波形の一例を示す概略波形図。
図4】制御装置における循環電流抑制制御の処理の一例を示すフローチャート。
図5】制御装置において第1の零相外乱電圧補償機能を実現する機能構成の一例を示す図。
図6】制御装置が第1の零相外乱電圧補償機能を実行した場合のMMC内のデルタ結線回路の波形の一例を示す概略波形図。
図7】制御装置において第2の零相外乱電圧補償機能を実現する機能構成の一例を示す図。
図8】制御装置が第2の零相外乱電圧補償機能を実行した場合のMMC内のデルタ結線回路の波形の一例を示す概略波形図。
図9】制御装置において第3の零相外乱電圧補償機能を実現する機能構成の一例を示す図。
図10】第2の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の電力変換装置、電力変換装置の制御方法、およびプログラムを、図面を参照して説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
[電力変換装置の構成]
図1は、第1の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図である。図1には、電力系統に対して並列に設置(接続)され、電力系統に出力(供給)する無効電力を補償(調整)することによって電力系統の交流電力の安定化を図る電力変換装置1の一例を示している。電力系統は、例えば、交流電源や交流負荷などである。電力系統は、例えば、第1相(A相)、第2相(B相)、および第3相(C相)の三相の交流系統である。電力変換装置1は、例えば、静止型無効電力補償装置(STATic synchronous COMpensator:STATCOM)である。以下の説明においては、電力変換装置1と電力系統との接続箇所を連系点という。さらに、以下の説明においては、特に明言しない場合には、三相のそれぞれの相を区別しないものとする。
【0011】
電力変換装置1は、例えば、電力変換器10と、制御装置50と、を備える。電力変換器10は、制御装置50からの制御に応じて、連系点に交流電力(無効電力)を供給する、または連系点の無効電力を消費することによって、電力系統における系統電圧の安定化を図る。電力変換器10が連系点に供給する、または消費する無効電力は、正相の無効電力(正相無効電力)、または逆相の無効電力(逆相無効電力)である。ここで、逆相とは、例えば、電力系統がA相、B相、およびC相の三相である場合において、連系点に供給される交流電力における交流電流の相順が、A相、B相、C相の順番に位相が120°ずつずらされて供給されることを正相とした場合、例えば、A相、C相、B相などのように、交流電圧の相順が、正相とは異なる順番で供給されることである。
【0012】
電力変換器10は、例えば、変圧器11と、モジュラー・マルチレベル変換器(Modular Multilevel Converter:以下、「MMC」という)12と、を備える。変圧器11は、例えば、三相変圧器であってもよいし、三相のそれぞれの相ごとに対応した三つの単相変圧器のそれぞれが接続された構成であってもよい。変圧器レスで電力系統に直接連系する場合もある。電力変換器10は、制御装置50からの制御に応じたMMC12からの交流電圧を出力することにより、制御装置50からの制御に応じた交流電流を流す。
【0013】
MMC12は、デルタ結線形のMMCである。MMC12は、例えば、三相のそれぞれの相間に対応する三つの相回路121(相回路121_a、121_b、および121_c)、を備える。MMC12では、それぞれの相回路121の両端が、変圧器11における異なる相に接続されることによって、三つの相回路121がデルタ結線されたデルタ結線回路が構成されている。
【0014】
それぞれの相回路121は、例えば、電流検出器(図ではCT)122と、バッファリアクトル(図ではBR)123と、アーム124と、を備える。相回路121では、電流検出器122と、バッファリアクトル123と、アーム124とが直列接続されている。図1においては、相回路121、電流検出器122、バッファリアクトル123、およびアーム124のそれぞれの符号の後の「_(アンダーバー)」に続く文字によって、それぞれの構成要素が対応する相を表している。より具体的には、符号の後の「_a」がA相に対応する構成要素であることを表し、「_b」がB相に対応する構成要素であることを表し、「_c」がC相に対応する構成要素であることを表している。
【0015】
電流検出器122は、相回路121に流れる電流を検出する。電流検出器122は、相回路121においてバッファリアクトル123が接続されているが側(言い換えれば、電力変換器10の連系点側(交流側))に配置され、配置された位置で電流(交流電流)を検出する。電流検出器122が検出する電流は、アーム124を流れる電流である。以下の説明においては、電流検出器122が検出する電流を、「アーム電流Iarm」という。電流検出器122は、検出したアーム電流Iarmの検出値(以下、単に「アーム電流Iarm」という)を制御装置50に出力する。電流検出器122は、アーム電流Iarmが検出できる位置であれば、相回路121の任意の位置に接続することができる。
【0016】
バッファリアクトル123は、アーム124に流れる電流の変化を抑制するためのインピーダンス成分を有するインピーダンス素子である。バッファリアクトル123は、特許請求の範囲における「インピーダンス成分」の一例である。
【0017】
アーム124は、例えば、複数のセル125(セル125-1~セル125-n(nは、自然数))が直列に接続されている構成である。つまり、アーム124は、複数段(n段)のセル125で構成されている。セル125のそれぞれは、小容量の変換器である。セル125は、複数の自己消弧型の半導体スイッチング素子と、直流コンデンサと、を備える。半導体スイッチング素子は、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)である。半導体スイッチング素子は、制御装置50からの制御(スイッチング制御)に応じて動作(スイッチング動作)する。
【0018】
図2は、MMC12が備えるセル125の構成の一例を示す図である。図2の(a)に示したセル125aは、ハーフブリッジを適用した構成である。セル125aは、例えば、二つの半導体スイッチ部126(半導体スイッチ部126-1および半導体スイッチ部126-2)と、一つの直流コンデンサ127と、を備える。半導体スイッチ部126は、例えば、半導体スイッチング素子であってもよいし、半導体スイッチング素子とダイオードとが互いに並列に接続された構成であってもよい。セル125aでは、半導体スイッチ部126-1と半導体スイッチ部126-2とが直列に接続され、その両端に直流コンデンサ127が接続されている。セル125aでは、半導体スイッチ部126-1と半導体スイッチ部126-2の接続点と、半導体スイッチ部126-2の一端とのそれぞれが、出力端子である。つまり、セル125aでは、二つの半導体スイッチ部126が接続された直列回路の中点と一端とのそれぞれが、出力端子である。この構成により、セル125aでは、正電圧あるいは負電圧の片極性で、電圧レベルが2レベルの出力電圧が、出力端子から出力される。
【0019】
図2の(b)に示したセル125bは、フルブリッジを適用した構成である。セル125bは、例えば、四つの半導体スイッチ部126(半導体スイッチ部126-1~126-4)と、一つの直流コンデンサ127と、を備える。セル125bでは、半導体スイッチ部126-1と半導体スイッチ部126-2とが直列に接続された直列回路と、半導体スイッチ部126-3と半導体スイッチ部126-4とが直列に接続された直列回路とが並列に接続され、それぞれの直列回路の両端に直流コンデンサ127が接続されている。セル125bでは、半導体スイッチ部126-1と半導体スイッチ部126-2とが接続された直列回路の中点と、半導体スイッチ部126-3と半導体スイッチ部126-4とが接続された直列回路の中点とのそれぞれが、出力端子である。この構成により、セル125bでは、正電圧と負電圧との両極性で、電圧レベルが3レベルの出力電圧が、出力端子から出力される。
【0020】
セル125aは、特許請求の範囲における「ハーフブリッジ回路」の一例である。セル125bは、特許請求の範囲における「フルブリッジ回路」の一例である。半導体スイッチ部126-1は、特許請求の範囲における「半導体スイッチング素子」および「第1の半導体スイッチング素子」の一例であり、半導体スイッチ部126-2は、特許請求の範囲における「半導体スイッチング素子」および「第2の半導体スイッチング素子」の一例である。半導体スイッチ部126-3は、特許請求の範囲における「半導体スイッチング素子」および「第3の半導体スイッチング素子」の一例であり、半導体スイッチ部126-4は、特許請求の範囲における「半導体スイッチング素子」および「第4の半導体スイッチング素子」の一例である。半導体スイッチ部126-1と半導体スイッチ部126-2との直列回路とは、特許請求の範囲における「第1の直列回路」の一例であり、半導体スイッチ部126-3と半導体スイッチ部126-4との直列回路とは、特許請求の範囲における「第2の直列回路」の一例である。
【0021】
図1に戻り、制御装置50は、電力変換器10の動作を制御することによって、電力変換器10に、電力系統との連系点に無効電力を出力(供給)させる。つまり、制御装置50は、MMC12の各アーム124内のセル125が備えるそれぞれの半導体スイッチ部126のスイッチング制御を行う。制御装置50は、例えば、CPU(Central Processing Unit)などのハードウェアプロセッサがプログラム(ソフトウェア)を実行することで電力変換器10の動作を制御する。制御装置50は、LSI(Large Scale Integration)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、GPU(Graphics Processing Unit)などのハードウェア(回路部;circuitryを含む)によって実現されてもよいし、ソフトウェアとハードウェアの協働によって実現されてもよい。制御装置50は、専用のLSIによって実現されてもよい。プログラムは、予め制御装置50あるいは電力変換装置1が備えるHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリなどの記憶装置(非一過性の記憶媒体を備える記憶装置)に格納されていてもよいし、DVDやCD-ROMなどの着脱可能な記憶媒体(非一過性の記憶媒体)に格納されており、記憶媒体が制御装置50あるいは電力変換装置1が備えるドライブ装置に装着されることで制御装置50あるいは電力変換装置1が備えるHDDやフラッシュメモリにインストールされてもよい。
【0022】
制御装置50は、電力変換器10内のMMC12においてデルタ結線されたそれぞれのアーム124内のセル125が備える半導体スイッチ部126をスイッチング制御するための制御信号(ゲート信号Gate)を生成して、それぞれのセル125に出力する。より具体的には、A相のアーム124_a内のセル125が備えるそれぞれの半導体スイッチ部126をスイッチング制御するためのゲート信号Gate_aと、B相のアーム124_b内のセル125が備えるそれぞれの半導体スイッチ部126をスイッチング制御するためのゲート信号Gate_bと、C相のアーム124_c内のセル125が備えるそれぞれの半導体スイッチ部126をスイッチング制御するためのゲート信号Gate_cとのそれぞれを生成して、対応するセル125に出力する。これにより、電力変換装置1では、電力変換器10において連系点側(交流側)に、制御装置50からの制御に応じたMMC12からの交流電圧を出力することにより、制御装置50からの制御に応じた無効電力を連系点に出力(供給)することができる。
【0023】
ところで、制御装置50による半導体スイッチ部126のスイッチング制御によって、MMC12では、デルタ結線回路に、各相のアーム124の出力電圧の零相成分(以下、「アーム零相電圧Vz」という)とバッファリアクトル123のインピーダンス成分とに応じた循環電流(以下、「循環電流Iz」という)が流れる。この循環電流Izは、MMC12内のデルタ結線回路を構成する全てのセル125を順次流れる(循環する)電流である。より具体的には、循環電流Izは、例えば、変圧器11のA相側から相回路121_aが備えるバッファリアクトル123_aおよびアーム124_a内のそれぞれのセル125を通って変圧器11のC相側に流れ、その後、相回路121_cが備えるバッファリアクトル123_cおよびアーム124_c内のそれぞれのセル125を通って変圧器11のB相側に流れ、さらに、相回路121_bが備えるバッファリアクトル123_bおよびアーム124_b内のそれぞれのセル125を通って変圧器11のA相側に流れる(戻る)ように流れる。この循環電流Izによって、MMC12では、それぞれのセル125が備える直流コンデンサ127の電圧(充電量)が相対的に均一になるようにバランスされる。
【0024】
このように制御装置50が電力変換器10の動作を制御する場合、その制御に誤差が生じてしまうことが考えられる。制御装置50による電力変換器10の制御の誤差(以下、「制御誤差」という)の要因としては、制御装置50における演算や通信の遅延時間、制御装置50が制御を行ってから実際に電力変換器10が動作をするまでの遅延時間など、種々の要因が考えられる。例えば、制御装置50がゲート信号Gateを出力してから、対応する半導体スイッチ部126が入力されたゲート信号Gateに応じた動作をするまでの間の遅延時間などの影響が、制御誤差の要因として考えられる。制御装置50における電力変換器10の制御において制御誤差が生じてしまうと、意図しない循環電流IzがMMC12内のデルタ結線回路を流れることによって、MMC12の動作(運転)に電力損失が発生してしまうことが考えられる。これは、制御装置50による電力変換器10の制御に制御誤差が生じたことによって、それぞれのセル125が備える直流コンデンサ127の電圧を制御するために不必要な電圧成分が、外乱成分(以下、「零相外乱電圧Vz_dis」という)としてアーム零相電圧Vzに重畳されてしまうことによるものである。
【0025】
ここで、デルタ結線回路内でのアーム零相電圧Vzと、循環電流Izおよび各相のアーム電流Iarmとの関係の一例について説明する。図3は、MMC12内のデルタ結線回路の波形の一例を示す概略波形図である。図3には、制御装置50による電力変換器10の制御に制御誤差が生じている場合において、後述する対策を講じていない(後述する零相外乱電圧補償機能を実行していない)場合のデルタ結線回路内のアーム零相電圧Vz、循環電流Iz、および各相(A相、B相、C相)のアーム電流Iarmの波形の一例を示している。図3には、上段に、アーム零相電圧Vzの波形の一例を示し、下段に、循環電流Izと、A相のアーム電流Iarm(A相アーム電流Iarm_a)、B相のアーム電流Iarm(B相アーム電流Iarm_b)、およびC相のアーム電流Iarm(C相アーム電流Iarm_c)とのそれぞれの波形の一例を、上段に示したアーム零相電圧Vzの波形に対応付けて示している。図3において横軸は、時間tである。
【0026】
図3に示した電力変換器10の制御に制御誤差が生じている場合の一例では、図3の上段に示したように、電力系統の周波数fsの3倍で脈動している電圧成分が、制御誤差によってアーム零相電圧Vzに重畳されている。この脈動している電圧成分が、零相外乱電圧Vz_disである。この零相外乱電圧Vz_disによって、図3の下段に示したように、循環電流Izも、電力系統の周波数fsの3倍で脈動してしまう。これにより、A相アーム電流Iarm_a、B相アーム電流Iarm_b、およびC相アーム電流Iarm_cのそれぞれは、本来であれば脈動がない周波数fsの正弦波の交流波形であるが、循環電流Izの脈動によって歪みが生じてしまい、交流波形の最大の電流値と最小の電流値との差を大きくしてしまうことがあり得る。つまり、それぞれの相のアーム電流Iarmのピーク値が増加してしまうことがあり得る。このため、MMC12を構成するバッファリアクトル123や、セル125が備える半導体スイッチ部126や直流コンデンサ127(特に、受動素子)は、アーム電流Iarmのピーク値が増加した場合でも、故障してしまったり、動作が不安定になってしまったりすることがないような定格値の高いものを使用する必要ある。これは、MMC12のコストが増加する要因ともなり得る。
【0027】
このため、制御装置50は、MMC12が備えるそれぞれの電流検出器122が検出した各相のアーム電流Iarmに基づいてMMC12における循環電流Izを算出することによって検出する。制御装置50は、電流検出器122_aが検出したA相アーム電流Iarm_a、電流検出器122_bが検出したB相アーム電流Iarm_b、電流検出器122_cが検出したC相アーム電流Iarm_cから、下式(1)によって循環電流Izを算出する。
【0028】
Iz=(Iarm_a+Iarm_b+Iarm_c)/3 ・・・(1)
【0029】
制御装置50は、算出(検出)した循環電流Izに基づいて、アーム零相電圧Vzに含まれる零相外乱電圧Vz_disを抑制するようにそれぞれの半導体スイッチ部126を制御するためのゲート信号Gateを生成する。つまり、制御装置50は、算出した循環電流Izに基づいて、零相外乱電圧Vz_disによる脈動が少ない循環電流Izがデルタ結線回路に流れるようにそれぞれの半導体スイッチ部126を制御する。例えば、制御装置50がゲート信号Gateを出力してからそれぞれの半導体スイッチ部126が入力されたゲート信号Gateに応じた動作をするまでの間の遅延時間がある場合、制御装置50は、遅延時間を考慮したタイミング(例えば、早めのタイミング)でゲート信号Gateを出力する。これを実現するには未来の制御情報が必要になるが、現実には未来の完全な予測は困難であるため、等価的に遅延時間の影響を軽減するように制御する。これにより、制御装置50は、零相外乱電圧Vz_disによって流れる循環電流Izを抑制する。以下の説明においては、制御装置50が行う、零相外乱電圧Vz_disによって流れる循環電流Izを抑制する制御を、「循環電流抑制制御」という。
【0030】
循環電流抑制制御では、制御装置50は、算出した循環電流Izの電流値(以下、「循環電流検出値Iz_det」という)と、MMC12に循環電流Izを流させるための電流指令値(以下、「循環電流指令値Iz_ref」という)とに基づいて、零相外乱電圧Vz_disによって流れる循環電流Izを抑制するための制御電圧値(以下、「循環電流制御出力Vz_ref」という)を算出する。循環電流制御出力Vz_refは、循環電流Izを調整し、それぞれのセル125が備える直流コンデンサ127の電圧(充電量)が相対的に均一になるようにバランスさせるための制御に用いられる。以下の説明においては、制御装置50において、循環電流検出値Iz_detと循環電流指令値Iz_refとに基づいて循環電流制御出力Vz_refを算出する機能を、「零相外乱電圧補償機能」という。制御装置50は、零相外乱電圧補償機能により算出した循環電流制御出力Vz_refに基づく循環電流IzがMMC12内のデルタ結線回路を流れるような制御信号(ゲート信号Gate)を生成して、対応するセル125(対応する半導体スイッチ部126)に出力する。これにより、電力変換装置1では、零相外乱電圧Vz_disによる循環電流Iz(直流コンデンサ127の電圧(充電量)が相対的に均一になるようにバランスさせるための制御に不必要な成分)がデルタ結線回路に流れるのが抑制される。循環電流制御出力Vz_refは、特許請求の範囲における「循環電流の制御出力量」の一例である。
【0031】
[循環電流抑制制御の処理]
図4は、制御装置50における循環電流抑制制御の処理の一例を示すフローチャートである。図4には、制御装置50が、循環電流抑制制御においてゲート信号Gateを出力する際に実行する処理の流れの一例を示している。本フローチャートの処理は、電力変換装置1が動作している間、繰り返し実行されるものであってもよい。以下の説明においては、電力変換器10においてMMC12に循環電流Izを流させるための循環電流指令値Iz_refが予め定められており、制御装置50に入力(設定)されている、もしくは制御装置50の直流コンデンサ127の電圧(充電量)が相対的に均一になるようにバランスさせるための制御によって演算されているものとする。さらに、以下の説明においては、それぞれの電流検出器122からアーム電流Iarmが出力されている、つまり、それぞれの電流検出器122におけるアーム電流Iarmの検出が完了しているものとする。
【0032】
制御装置50は、循環電流抑制制御を開始すると、まず、それぞれの電流検出器122により出力されたアーム電流Iarmを取得する(ステップS1)。制御装置50は、取得したアーム電流Iarmに基づいて、上式(1)によって循環電流検出値Iz_detを算出(検出)する(ステップS2)。制御装置50は、算出した循環電流検出値Iz_detと循環電流指令値Iz_refとに基づいて、循環電流制御出力Vz_refを算出する(ステップS3)。制御装置50は、算出した循環電流制御出力Vz_refに基づいて、それぞれの半導体スイッチ部126をスイッチング制御するためのゲート信号Gateを生成し、生成したゲート信号Gateをそれぞれの半導体スイッチ部126に出力する(ステップS4)。
【0033】
このようにして制御装置50は、算出した循環電流検出値Iz_detと、設定された循環電流指令値Iz_refとに基づいて、循環電流制御出力Vz_refを算出して、電力変換器10に出力するゲート信号Gateを生成し、電力変換器10の動作を制御することによって、電力変換器10に、直流コンデンサ127の電圧(充電量)が相対的に均一になるようにバランスさせ、補償された無効電力を電力系統に出力(供給)させる。
【0034】
[第1の零相外乱電圧補償機能]
ここで、制御装置50において零相外乱電圧補償機能を実現する構成の一例について説明する。図5は、制御装置50において第1の零相外乱電圧補償機能を実現する機能構成の一例を示す図である。制御装置50における第1の零相外乱電圧補償機能では、特定の次数の零相外乱電圧Vz_disの成分を抑制する(ゼロに近づけるようにする)特定次数成分抑制制御を行って、循環電流制御出力Vz_refを算出する。制御装置50は、第1の零相外乱電圧補償機能を実現するための構成として、加算器500と、補償器(図ではGz)510と、加算器520と、加算器530と、特定次数成分抑制制御部540と、を備える。
【0035】
加算器500は、循環電流指令値Iz_refから循環電流検出値Iz_detを減算する。言い換えれば、加算器500は、循環電流指令値Iz_refと循環電流検出値Iz_detとの偏差を取る。加算器500は、減算結果の循環電流差分値ΔIzを出力する。加算器500は、例えば、減算器で構成してもよい。
【0036】
補償器510は、加算器500により出力された循環電流差分値ΔIzに対してフィードバック制御を行う。補償器510におけるフィードバック制御では、例えば、P(比例:Proportional)制御、またはI(積分:Integral)制御、またはD(微分:Differential)制御のいずれかの制御、あるいはこれらの制御を組み合わせた制御(例えば、PID制御)を行うことが考えられる。
【0037】
加算器520は、補償器510によるフィードバック制御の結果に対して所定のフィードフォワード電圧値Vffを加算する。言い換えれば、加算器520は、補償器510によるフィードバック制御の結果に対してフィードフォワード電圧値Vffに基づくフィードフォワード制御を行う。つまり、第1の零相外乱電圧補償機能では、補償器510によるフィードバック制御と加算器520によるフィードフォワード制御を組み合わせた二自由度制御系が構成されている。加算器520は、フィードフォワード制御を行った結果を、アーム零相電圧Vzを二自由度で制御するための二自由度制御出力Vz’として出力する。
【0038】
ここまでの構成、つまり、二自由度制御出力Vz’を出力するための加算器500、補償器510、および加算器520の構成は、零相外乱電圧補償機能を実行しない、つまり、アーム零相電圧Vzに含まれる零相外乱電圧Vz_disの抑制を行わない場合の構成と同様の構成である。すなわち、従来のSTATCOMにおいてMMCを制御するために備える、一般的な制御装置においても行われている、零相外乱電圧Vz_disによって流れる循環電流Izを抑制する制御を含まない循環電流制御を行うための構成である。これに対して、第1の零相外乱電圧補償機能を実現するための構成要素として、加算器530および特定次数成分抑制制御部540を備えている。
【0039】
特定次数成分抑制制御部540は、循環電流検出値Iz_detに基づいて補償電圧Vcmp1を算出する。補償電圧Vcmp1は、後述する二自由度制御出力Vz’に基づくアーム零相電圧Vzに含まれる外乱成分を表すものである。特定次数成分抑制制御部540は、n次調波成分振幅・位相抽出部541と、比例積分(図ではPI)制御器542と、正弦波(図ではsin)生成部543と、を備える。
【0040】
n次調波成分振幅・位相抽出部541は、循環電流検出値Iz_detに含まれるn次調波成分の振幅Iznと位相Φnとを抽出する。例えば、図3に示したように、アーム零相電圧Vzに、電力系統の周波数fsの3倍で脈動している電圧成分が重畳している場合、循環電流Izの3次調波成分が抑制する対象となるため、n=3となる。n次調波成分振幅・位相抽出部541において振幅Iznを抽出する方法は、例えば、n次調波成分を通過するバンドパスフィルタで循環電流検出値Iz_detを処理することによって循環電流n次バンドパスフィルタ値Iz_bpfnを得た後に、循環電流n次バンドパスフィルタ値Iz_bpfnに対して実効値演算した結果に√2を乗じて得られた結果を用いる方法であってもよい。n次調波成分振幅・位相抽出部541において振幅Iznを抽出する方法は、例えば、循環電流検出値Iz_detをn次回転座標系でd-q変換して得られた結果を用いる方法であってもよい。n次調波成分振幅・位相抽出部541において位相Φnを抽出する方法は、例えば、循環電流検出値Iz_det(もしくは循環電流n次バンドパスフィルタ値Iz_bpfn)に対してヒルベルト変換などを用いた単相PLL(Phase Locked Loop)法を適用する方法であってもよい。n次調波成分振幅・位相抽出部541において位相Φnを抽出する方法は、例えば、遅延処理を用いて単相信号である循環電流検出値Iz_det(もしくは循環電流n次バンドパスフィルタ値Iz_bpfn)から擬似的に三相信号を生成し、この三相信号に対して三相PLL法を適用する方法であってもよい。
【0041】
比例積分制御器542は、n次調波成分振幅・位相抽出部541が抽出したn次調波成分の振幅Iznに対して、下式(2)で表される伝達関数Fsで比例積分処理を行って、n次調波成分電圧Vznを算出する。
【0042】
Fs=Kp+Ki/s ・・・(2)
【0043】
上式(2)において、Kpは比例ゲインを表し、Kiは積分ゲインを表し、sはラプラス空間における複素変数を表す。
【0044】
正弦波生成部543は、比例積分制御器542が算出したn次調波成分電圧Vznに対して、n次調波成分振幅・位相抽出部541が抽出したn次調波成分の位相Φnを位相とした正弦波sinΦnを乗算することによって、下式(3)で表される補償電圧Vcmp1を算出する。
【0045】
Vcmp1=Vzn×sinΦn ・・・(3)
【0046】
正弦波生成部543は、算出した補償電圧Vcmp1を特定次数成分抑制制御部540の算出結果として出力する。
【0047】
加算器530は、加算器520により出力された二自由度制御出力Vz’から特定次数成分抑制制御部540により出力された補償電圧Vcmp1を減算する。加算器530は、例えば、減算器で構成してもよい。加算器530は、減算結果を循環電流制御出力Vz_refとして出力する。
【0048】
このような機能構成およびその処理によって制御装置50は、第1の零相外乱電圧補償機能において、抑制する対象とする次数(ここでは、3次調波成分)の循環電流Izの電流成分をゼロに近づけるようにフィードバック制御を行って循環電流制御出力Vz_refを算出し、算出した循環電流制御出力Vz_refに基づいて生成してゲート信号Gateを対応する半導体スイッチ部126に出力して電力変換器10の動作を制御する。これにより、電力変換装置1では、零相外乱電圧Vz_disによる循環電流Izがデルタ結線回路に流れるのが抑制される。より具体的には、例えば、補償電圧Vcmp1が、補償する対象である零相外乱電圧Vz_disと一致している場合、循環電流制御出力Vz_refから零相外乱電圧Vz_disの影響が打ち消されることになる。
【0049】
ここで、制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能によって電力変換器10を制御した場合におけるデルタ結線回路内でのアーム零相電圧Vzと、循環電流Izおよび各相のアーム電流Iarmとの関係の一例について説明する。図6は、制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能を実行した場合のMMC12内のデルタ結線回路の波形の一例を示す概略波形図である。図6にも、図3と同様に、上段にアーム零相電圧Vzの波形の一例を示し、下段に循環電流Izと、A相アーム電流Iarm_a、B相アーム電流Iarm_b、およびC相アーム電流Iarm_cとのそれぞれの波形の一例を、上段に示したアーム零相電圧Vzの波形に対応付けて示している。図6においても、横軸は時間tである。
【0050】
図6の上段に示したように、電力変換器10の制御に制御誤差が生じている場合において制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能を実行すると、制御誤差によってアーム零相電圧Vzに重畳される電力系統の周波数fsの3倍で脈動している電圧成分(零相外乱電圧Vz_dis)が、図3に示した零相外乱電圧補償機能を実行していない場合に比べて抑制されていることがわかる。これにより、図6の下段に示したように、循環電流Izも、零相外乱電圧Vz_disによる電力系統の周波数fsの3倍の脈動が抑制される。これにより、A相アーム電流Iarm_a、B相アーム電流Iarm_b、およびC相アーム電流Iarm_cのそれぞれは、ピーク値の増加が抑制される。つまり、A相アーム電流Iarm_a、B相アーム電流Iarm_b、およびC相アーム電流Iarm_cのそれぞれの交流波形が、本来の正弦波に近い波形になる。これにより、電力変換装置1では、MMC12の動作(運転)の電力損失を抑制することができる。このため、電力変換装置1では、MMC12を構成するバッファリアクトル123や、セル125が備える半導体スイッチ部126や直流コンデンサ127として、定格値の高いものを使用する必要がなくなり、MMC12のコストの増加を抑えることができる。
【0051】
上述した第1の零相外乱電圧補償機能では、n次調波成分振幅・位相抽出部541が、循環電流Izの3次調波成分を抑制する対象とした場合について説明したが、n次調波成分振幅・位相抽出部541は、5次調波成分やそれ以上の周波数成分を抑制する対象にするようにしてもよい。つまり、n次調波成分振幅・位相抽出部541は、n=3に加えて、または代えて、n=5や、n>5の周波数成分の振幅Iznと位相Φnとを抽出するようにしてもよい。この場合のn次調波成分振幅・位相抽出部541の処理、つまり、振幅Iznと位相Φnとの抽出方法は、上述したn次調波成分振幅・位相抽出部541の処理と等価なものになるようにすればよい。そして、特定次数成分抑制制御部540が備える比例積分制御器542や正弦波生成部543、加算器530の処理も、n次調波成分振幅・位相抽出部541が抑制する対象とした次数に応じた等価なものになるようにすればよい。
【0052】
[第2の零相外乱電圧補償機能]
図7は、制御装置50において第2の零相外乱電圧補償機能を実現する機能構成の一例を示す図である。制御装置50における第2の零相外乱電圧補償機能では、外乱オブザーバを用いた推定処理を行って、循環電流制御出力Vz_refに含まれる誤差量を推定し、推定した誤差量を差し引いた循環電流制御出力Vz_refを算出する。この場合の制御装置50(以下、「制御装置50a」という)は、第2の零相外乱電圧補償機能を実現するための構成として、加算器500と、補償器(図ではGz)510と、加算器520と、加算器530と、外乱オブザーバ部550と、を備える。制御装置50aが備える加算器500、補償器510、加算器520、および加算器530は、第1の零相外乱電圧補償機能を実現する制御装置50が備えるそれぞれの構成要素と同様である。つまり、制御装置50aにおいても、補償器510によるフィードバック制御と加算器520によるフィードフォワード制御を組み合わせて二自由度制御出力Vz’を出力する二自由度制御系が構成される。そして、制御装置50aでも、加算器530によって二自由度制御出力Vz’から補償電圧(第2の零相外乱電圧補償機能では、外乱オブザーバ部550により出力されるため、「補償電圧Vcmp2」という)が減算された循環電流制御出力Vz_refを算出する。補償電圧Vcmp2も、補償電圧Vcmp1と同様に、二自由度制御出力Vz’に基づくアーム零相電圧Vzに含まれる外乱成分を表すものである。
【0053】
外乱オブザーバ部550は、循環電流検出値Iz_detと、循環電流制御出力Vz_refとに基づいて、アーム零相電圧Vzに含まれる誤差量を、補償電圧Vcmp2として算出する。外乱オブザーバ部550は、補償器(図ではGdob)551と、加算器552と、ローパスフィルタ(図ではLPF)553と、を備える。
【0054】
補償器551は、循環電流検出値Iz_detに対して伝達関数=1/Gpでの補償(推定)を行う。ここで、Gpは、アーム零相電圧Vzから循環電流Izへの伝達特性を示すものである。
【0055】
加算器552は、補償器551による補償結果から加算器530の減算結果である循環電流制御出力Vz_refを減算する。言い換えれば、加算器552は、補償器551による補償結果と前回の循環電流制御出力Vz_refとの偏差を取ることによって、アーム零相電圧Vzに含まれる誤差量を算出する。加算器552は、例えば、減算器で構成してもよい。
【0056】
ローパスフィルタ553は、加算器552の減算結果に対して所定の周波数(カットオフ周波数)よりも高い周波数の電圧値を抑圧するフィルタ処理を行う。ローパスフィルタ553におけるカットオフ周波数は、零相外乱電圧Vz_disよりも高い値に設定される。ローパスフィルタ553のフィルタ特性は、1次系であってもよいし、2次系あるいはそれ以上の次数であってもよい。ローパスフィルタ553は、フィルタ処理した結果を、外乱オブザーバ部550が算出した補償電圧Vcmp2として出力する。
【0057】
加算器530は、加算器520により出力された二自由度制御出力Vz’から外乱オブザーバ部550により出力された補償電圧Vcmp2を減算した減算結果を循環電流制御出力Vz_refとして出力する。
【0058】
このような機能構成およびその処理によって制御装置50aは、第2の零相外乱電圧補償機能において、外乱オブザーバ部550による推定処理によって推定した誤差量を差し引いた循環電流制御出力Vz_refを算出し、算出した循環電流制御出力Vz_refに基づいて生成してゲート信号Gateを対応する半導体スイッチ部126に出力して電力変換器10の動作を制御する。これにより、電力変換装置1では、制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能を実行した場合と同様に、零相外乱電圧Vz_disによる循環電流Izがデルタ結線回路に流れるのが抑制される。
【0059】
ここで、制御装置50aが第2の零相外乱電圧補償機能によって電力変換器10を制御した場合におけるデルタ結線回路内でのアーム零相電圧Vzと、循環電流Izおよび各相のアーム電流Iarmとの関係の一例について説明する。図8は、制御装置50aが第2の零相外乱電圧補償機能を実行した場合のMMC12内のデルタ結線回路の波形の一例を示す概略波形図である。図8にも、図3図6と同様に、上段にアーム零相電圧Vzの波形の一例を示し、下段に循環電流Izと、A相アーム電流Iarm_a、B相アーム電流Iarm_b、およびC相アーム電流Iarm_cとのそれぞれの波形の一例を、上段に示したアーム零相電圧Vzの波形に対応付けて示している。図8においても、横軸は時間tである。
【0060】
図8の上段に示したように、電力変換器10の制御に制御誤差が生じている場合において制御装置50aが第2の零相外乱電圧補償機能を実行した場合でも、制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能を実行した場合(図6参照)と同様に、制御誤差によってアーム零相電圧Vzに重畳される電力系統の周波数fsの3倍で脈動している電圧成分(零相外乱電圧Vz_dis)が、図3に示した零相外乱電圧補償機能を実行していない場合に比べて抑制されていることがわかる。これにより、図8の下段に示したように、制御装置50aが第2の零相外乱電圧補償機能を実行した場合でも、制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能を実行した場合(図6参照)と同様に、循環電流Izも、零相外乱電圧Vz_disによる電力系統の周波数fsの3倍の脈動が抑制される。これにより、制御装置50aが第2の零相外乱電圧補償機能を実行した場合でも、制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能を実行した場合(図6参照)と同様に、A相アーム電流Iarm_a、B相アーム電流Iarm_b、およびC相アーム電流Iarm_cのそれぞれは、ピーク値の増加が抑制され、交流波形が本来の正弦波に近い波形になる。これにより、電力変換装置1では、第2の零相外乱電圧補償機能でも第1の零相外乱電圧補償機能と同様に、MMC12の動作(運転)の電力損失を抑制することができ、MMC12の構成要素に定格値の高いものを使用する必要がなくなり、MMC12のコストの増加を抑えることができる。
【0061】
上述した第2の零相外乱電圧補償機能では、外乱オブザーバ部550によって補償電圧Vcmp2を算出する場合の構成を示したが、制御装置50は、第1の零相外乱電圧補償機能と第2の零相外乱電圧補償機能とを合わせて、零相外乱電圧補償機能として実行してもよい。つまり、制御装置50は、零相外乱電圧補償機能を実現するための構成として、特定次数成分抑制制御部540と外乱オブザーバ部550とを備えてもよい。そして、2が実行するそれぞれの零相外乱電圧補償機能において、共通する構成要素(つまり、加算器500、補償器510、加算器520、および加算器530)を共用してもよい。この場合、加算器530は、加算器520により出力された二自由度制御出力Vz’から、特定次数成分抑制制御部540により出力された補償電圧Vcmp1と、外乱オブザーバ部550により出力された補償電圧Vcmp2とのそれぞれを減算した減算結果を、循環電流制御出力Vz_refとして出力する。
【0062】
[第3の零相外乱電圧補償機能]
図9は、制御装置50において第3の零相外乱電圧補償機能を実現する機能構成の一例を示す図である。制御装置50における第3の零相外乱電圧補償機能では、繰り返し制御を行って、循環電流検出値Iz_det、つまり、循環電流Izと循環電流指令値Iz_refとの差分をゼロに近づけるようにするための循環電流制御出力Vz_refを算出する。この場合の制御装置50(以下、「制御装置50b」という)は、第3の零相外乱電圧補償機能を実現するための構成として、加算器500と、繰り返し制御部560と、加算器570と、補償器(図ではGz)510と、加算器520と、を備える。制御装置50bが備える加算器500、補償器510、加算器520、および加算器530は、第1の零相外乱電圧補償機能を実現する制御装置50や、第2の零相外乱電圧補償機能を実現する制御装置50aが備えるそれぞれの構成要素と同様である。
【0063】
加算器500は、循環電流指令値Iz_refから循環電流検出値Iz_detを減算した循環電流差分値ΔIzを出力する。
【0064】
繰り返し制御部560は、加算器500により出力された循環電流差分値ΔIzに対して遅延演算を行った補償電流Icmpを算出する。補償電流Icmpは、循環電流差分値ΔIzに含まれる外乱成分を表すものである。繰り返し制御部560は、加算器561と、遅延部(図ではDelay)562と、ローパスフィルタ(図ではLPF)563と、補償器(図ではGrp)564と、を備える。
【0065】
加算器561は、加算器500により出力された循環電流差分値ΔIzにローパスフィルタ563により出力されたフィルタ出力値ΔIz’を加算する。
【0066】
遅延部562は、加算器561の加算結果(下式(4))に対して下式(5)で表される遅延の伝達関数Fdによる遅延演算を行う。
【0067】
ΔIz+ΔIz’ ・・・(4)
【0068】
Fd=exp(-s×Ts) ・・・(5)
【0069】
上式(5)において、Tsには、循環電流指令値Iz_refの基本波周期を選定して設定する。従って、繰り返し制御は、基本波周期の繰り返し波形情報に基づく制御となる。
【0070】
ローパスフィルタ563は、遅延部562の遅延演算結果に対して所定の周波数(カットオフ周波数)でのフィルタ処理を行う。ローパスフィルタ563におけるカットオフ周波数は、繰返し制御による追値効果を期待する周波数よりも十分大きな値に設定される。ローパスフィルタ563には、カットオフ周波数として、例えば、1[kHz]が設定される。ローパスフィルタ563は、フィルタ処理した結果を、フィルタ出力値ΔIz’として出力する。上述したように、ローパスフィルタ563が出力したフィルタ出力値ΔIz’は、加算器561において、循環電流差分値ΔIzに加算される。
【0071】
補償器564は、ローパスフィルタ563により出力されたフィルタ出力値ΔIz’に対して伝達関数=1/Gpでの補償を行う。加算器561における伝達関数は、制御装置50aが備える外乱オブザーバ部550内の補償器551における伝達関数と同様である。従って、Gpは、アーム零相電圧Vzから循環電流Izへの伝達特性を示すものである。補償器564は、フィルタ出力値ΔIz’に対する補償を行った結果を、繰り返し制御部560が算出した補償電流Icmpとして出力する。
【0072】
加算器570は、加算器500により出力された循環電流差分値ΔIzから繰り返し制御部560により出力された補償電流Icmpを減算する。加算器570は、減算結果(下式(6))を出力する。
【0073】
ΔIz-Icmp ・・・(6)
【0074】
制御装置50bは、第3の零相外乱電圧補償機能において、加算器570により出力された上式(6)の減算結果を、従来のSTATCOMにおいてMMCを制御するために備える一般的な制御装置において算出するものと同じ減算結果として扱う。より具体的には、制御装置50bは、上式(6)の減算結果を、従来の制御装置においても備えている加算器500の減算結果として扱う。従って、補償器510は、加算器570により出力された上式(6)の減算結果を、加算器500により出力された循環電流差分値ΔIzとしてフィードバック制御を行う。さらに、加算器520は、補償器510によるフィードバック制御の結果に対して所定のフィードフォワード電圧値Vffを加算することによってフィードフォワード制御を行う。加算器520は、フィードフォワード制御を行った結果である二自由度制御出力Vz’を、循環電流制御出力Vz_refとして出力する。
【0075】
このような機能構成およびその処理によって制御装置50bは、第3の零相外乱電圧補償機能において、繰り返し制御部560による繰り返し制御を行って上式(6)の減算結果を得て、補償器510と加算器520とを組み合わせた二自由度で制御する循環電流制御出力Vz_refを算出し、算出した循環電流制御出力Vz_refに基づいて生成してゲート信号Gateを対応する半導体スイッチ部126に出力して電力変換器10の動作を制御する。これにより、電力変換装置1では、制御装置50が第1の零相外乱電圧補償機能を実行した場合や、制御装置50aが第2の零相外乱電圧補償機能を実行した場合と同様に、零相外乱電圧Vz_disによる循環電流Izがデルタ結線回路に流れるのが抑制される。
【0076】
制御装置50bが第3の零相外乱電圧補償機能によって電力変換器10を制御した場合におけるデルタ結線回路内でのアーム零相電圧Vzと、循環電流Izおよび各相のアーム電流Iarmとの関係は、第1の零相外乱電圧補償機能(図6参照)や第2の零相外乱電圧補償機能(図8参照)と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0077】
上記説明したように、第1の実施形態の電力変換装置1では、制御装置50が、電力変換器10内のMMC12が備える各相に対応する相回路121のアーム電流Iarmに基づいて、MMC12のデルタ結線回路内を流れる循環電流Izを算出する。そして、第1の実施形態の電力変換装置1では、制御装置50が、算出した循環電流Izに基づいて、アーム零相電圧Vzに含まれる零相外乱電圧Vz_disを抑制するようにそれぞれの半導体スイッチ部126を制御する。これにより、第1の実施形態の電力変換装置1では、MMC12が備えるそれぞれのセル125内の直流コンデンサ127の電圧(充電量)をバランスさせるために不必要な零相外乱電圧Vz_disによる循環電流Izがデルタ結線回路に流れるのが抑制され、電力変換器10が電力系統との連系点に出力(供給)する無効電力が補償される。これにより、第1の実施形態の電力変換装置1では、MMC12の動作(運転)の電力損失を抑制することができる。このことにより、第1の実施形態の電力変換装置1では、MMC12を構成するバッファリアクトル123や、セル125が備える半導体スイッチ部126や直流コンデンサ127(特に、受動素子)として、故障してしまったり、動作が不安定になってしまったりすることがないような定格値の高いものを使用する必要がなくなり、MMC12のコストの増加を抑えることができる。
【0078】
(第2の実施形態)
[電力変換装置の構成]
以下、第2の実施形態について説明する。図10は、第2の実施形態に係る電力変換装置の構成の一例を示す図である。図10にも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、電力系統に対して並列に設置(接続)され、電力系統に出力(供給)する無効電力を補償(調整)することによって電力系統の交流電力の安定化を図る電力変換装置2の一例を示している。電力変換装置2も、例えば、静止型無効電力補償装置(STATCOM)である。以下の説明においても、電力変換装置2と電力系統との接続箇所を連系点という。さらに、以下の説明においても、特に明言しない場合には、三相のそれぞれの相を区別しないものとする。図10においては、第1の実施形態の電力変換装置1と同様の機能を有する構成要素については同一の符号を付して、再度の詳細な説明は省略する。
【0079】
電力変換装置2は、例えば、電力変換器20と、制御装置50と、を備える。電力変換器20も、第1の実施形態の電力変換器10と同様に、制御装置50からの制御に応じて、連系点に交流電力(無効電力)を供給する、または連系点の無効電力を消費することによって、電力系統における系統電圧の安定化を図る。電力変換器20が連系点に供給する、または消費する無効電力も、正相の無効電力または逆相の無効電力である。
【0080】
電力変換器20は、例えば、変圧器21と、モジュラー・マルチレベル変換器(MMC)22と、を備える。変圧器21は、例えば、MMC22側の結線がデルタ形とされ、巻線の線間にMMC22が備える後述するアームが直接接続される構成である。電力変換器20も、第1の実施形態の電力変換器10と同様に、制御装置50からの制御に応じたMMC22からの交流電圧を出力することにより、制御装置50からの制御に応じた交流電流を流す。
【0081】
MMC22は、例えば、三相のそれぞれの相間に対応する三つの相回路221(相回路221_a、221_b、および221_c)、を備える。MMC22では、それぞれの相回路221の両端が、変圧器21における対応する相の変換器側端子に接続される。MMC22では、三つの相回路221が変圧器21内で異なる相に接続されることによって、三つの相回路221がデルタ結線されたデルタ結線回路(以下、「デルタ結線回路A」という)が構成されている。図10には、変圧器21内でのそれぞれの相回路221が結線される一例を示している。
【0082】
それぞれの相回路221は、例えば、電流検出器(図ではCT)122と、アーム124と、を備える。図10においても、第1の実施形態と同様に、相回路221、電流検出器122、およびアーム124のそれぞれの符号の後の「_(アンダーバー)」に続く文字によって、それぞれの構成要素が対応する相を表している。
【0083】
相回路221では、第1の実施形態の相回路121からバッファリアクトル123が省略されている。このため、相回路221では、電流検出器122と、アーム124とが直列接続されている。しかし、電力変換器20では、変圧器21に含まれる漏れインピーダンス成分が、バッファリアクトル123の代わりの機能を担っている。このため、電力変換器20でも、制御装置50による半導体スイッチ部126のスイッチング制御によって、MMC22では、デルタ結線回路Aに、各相のアーム124のアーム零相電圧Vzと、バッファリアクトル123に代わる変圧器21内の漏れインピーダンス成分とに応じた循環電流Izが流れる。つまり、電力変換器20では、バッファリアクトル123に代わって、変圧器21内の漏れインピーダンス成分が、デルタ結線回路Aを流れる循環電流Izに寄与している。漏れインピーダンス成分は、特許請求の範囲における「インピーダンス成分」の一例である。
【0084】
このため、電力変換装置2においても、制御装置50が、電力変換器20の動作を制御する(つまり、MMC22の各アーム124内のセル125が備えるそれぞれの半導体スイッチ部126のスイッチング制御を行う)ことによって、電力変換器20に、電力系統との連系点に無効電力を出力(供給)させる。この場合の制御装置50における構成や、動作、処理は、第1の実施形態の制御装置50と等価なものになるようにすればよい。
【0085】
上記説明したように、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、制御装置50が、電力変換器20内のMMC22が備える各相に対応する相回路221のアーム電流Iarmに基づいて、MMC22のデルタ結線回路A内を流れる循環電流Izを算出する。そして、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、制御装置50が、算出した循環電流Izに基づいて、アーム零相電圧Vzに含まれる零相外乱電圧Vz_disを抑制するようにそれぞれの半導体スイッチ部126を制御する。これにより、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、MMC22が備えるそれぞれのセル125内の直流コンデンサ127の電圧(充電量)をバランスさせるために不必要な零相外乱電圧Vz_disによる循環電流Izがデルタ結線回路Aに流れるのが抑制され、電力変換器20が電力系統との連系点に出力(供給)する無効電力が補償される。これにより、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、MMC22の動作(運転)の電力損失を抑制することができる。このことにより、第2の実施形態の電力変換装置2でも、第1の実施形態の電力変換装置1と同様に、MMC22を構成するセル125が備える半導体スイッチ部126や直流コンデンサ127(特に、受動素子)として、故障してしまったり、動作が不安定になってしまったりすることがないような定格値の高いものを使用する必要がなくなり、MMC22のコストの増加を抑えることができる。
【0086】
電力変換装置2では、変圧器21の2次側でMMC22が備えるアーム124が結線されることにより、アーム124内のそれぞれのセル125と、変圧器21内の漏れインピーダンス成分とを通って、循環電流Izがデルタ結線回路Aを流れる構成を示した。しかし、電力変換装置2では、いずれかの箇所でデルタ結線がされていることによって、MMC22内のデルタ結線回路Aに循環電流Izが流れる構成であれば、制御装置50が同様にそれぞれの半導体スイッチ部126をスイッチング制御することによって、同様の効果を得ることができる。
【0087】
さらに、電力変換装置2では、変圧器21内でデルタ形の結線がされているある場合について説明したが、変圧器21内の結線は、デルタ形の結線に限定されるものではない。例えば、変圧器21内でオープンデルタ形の結線がされていたり、その他の結線がされていたりした場合でも、アーム124が備えるそれぞれのセル125内の直流コンデンサ127の電圧(充電量)が相対的に均一になるようにバランスさせるための循環電流Izが流れる構成であれば、変圧器21内でいかなる形式で結線がされていても、制御装置50が同様にそれぞれの半導体スイッチ部126をスイッチング制御することによって、同様の効果を得ることができる。
【0088】
上記に述べたとおり、各実施形態の電力変換装置では、制御装置が、アーム零相電圧に含まれる零相外乱電圧を抑制するように、それぞれのセルが備える半導体スイッチ部を制御する。より具体的には、各実施形態の電力変換装置では、制御装置が、電力変換器内のMMCが備える各相に対応する相回路のアーム電流に基づいて、MMCのデルタ結線回路内を流れる循環電流を算出する。そして、各実施形態の電力変換装置では、制御装置が、算出した循環電流に基づいて零相外乱電圧補償機能を実行し、アーム零相電圧に重畳される零相外乱電圧を抑制するための循環電流制御出力を算出して、それぞれの半導体スイッチ部を制御するためのゲート信号を生成して出力する。これにより、各実施形態の電力変換装置では、MMCが備えるそれぞれのセル内の直流コンデンサの電圧(充電量)をバランスさせるために不必要な零相外乱電圧による循環電流がデルタ結線回路に流れるのが抑制され、電力変換器が電力系統との連系点に出力(供給)する無効電力が補償される。これにより、各実施形態の電力変換装置では、MMCの動作(運転)の電力損失を抑制することができる。このことにより、各実施形態の電力変換装置では、MMCを構成する受動素子として、故障してしまったり、動作が不安定になってしまったりすることがないような定格値の高いものを使用する必要がなくなり、MMCのコストの増加を抑えることができる。
【0089】
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、三相の電力系統に連系する電力変換装置(1)であって、電力系統のそれぞれの相間に対応する三つの相回路(121)がデルタ結線されたデルタ結線回路を備える電力変換器(10)と、電力変換器の制御を行う制御装置(50)と、を備え、相回路は、複数の自己消弧型の半導体スイッチング素子(126)と直流コンデンサ(127)とを備えるセル(125)が直列に複数接続されたアーム(124)と、インピーダンス成分(123)とが直列に接続され、直列に接続された回路の任意の位置にアームに流れるアーム電流(Iarm)を検出する電流検出器(122)を備え、制御装置は、アーム電流に基づいて、デルタ結線回路内を流れる循環電流(Iz)を検出し、検出した循環電流に含まれる所定の外乱成分(Vz_dis)を抑制するように、電力変換器を制御することにより、デルタ結線形のモジュラー・マルチレベル変換器に流れる循環電流に含まれる外乱成分を抑制することができる電力変換装置を実現することができる。
【0090】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0091】
1,2・・・電力変換装置、10,20・・・電力変換器、11,21・・・変圧器、12,22・・・MMC、121,121_a,121_b,121_c,221,221_a,221_b,221_c・・・相回路、122,122_a,122_b,122_c・・・電流検出器、123,123_a,123_b,123_c・・・バッファリアクトル、124,124_a,124_b,124_c・・・アーム、125,125-1,125-n,125a,125b・・・セル、126,126-1,126-2,126-3,126-4・・・半導体スイッチ部、127・・・直流コンデンサ、50,50a,50b・・・制御装置、500・・・加算器、510・・・補償器、520・・・加算器、530・・・加算器、540・・・特定次数成分抑制制御部、541・・・n次調波成分振幅・位相抽出部、542・・・比例積分制御器、543・・・正弦波生成部、550・・・外乱オブザーバ部、551・・・補償器、552・・・加算器、553・・・ローパスフィルタ、560・・・繰り返し制御部、561・・・加算器、562・・・遅延部、563・・・ローパスフィルタ、564・・・補償器、570・・・加算器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10