(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】潤滑剤組成物の耐摩耗特性を改善するためのジエステルの使用
(51)【国際特許分類】
C10M 129/74 20060101AFI20250106BHJP
C10M 137/10 20060101ALI20250106BHJP
C10M 101/02 20060101ALI20250106BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20250106BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20250106BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20250106BHJP
【FI】
C10M129/74
C10M137/10 A
C10M101/02
C10M107/02
C10N40:25
C10N30:06
(21)【出願番号】P 2021523694
(86)(22)【出願日】2019-11-04
(86)【国際出願番号】 EP2019080044
(87)【国際公開番号】W WO2020094546
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-10-03
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】522232558
【氏名又は名称】トタルエナジーズ ワンテク
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・シャンパーニュ
(72)【発明者】
【氏名】ガエル・ロビノー
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104498136(CN,A)
【文献】特表2010-520319(JP,A)
【文献】特開2013-032435(JP,A)
【文献】特開2006-193723(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102660362(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種又は複数の耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物の耐摩耗特性を改善するための添加剤としての、下式(I):
R
a-C(O)-O-([C(R)
2]
n-O)
s-C(O)-R
b (I)
(式中:
- Rは、互いに独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分枝鎖状の(C
1~C
5)アルキル基を表し;
- sは1又は2の値を有し;
- nは1、2、又は3の値を有し;sが1とは異なる場合、nは同じであっても異なっていてもよいと理解され;
- R
a及びR
bは、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、
8~11個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表し;
但し、sが2の値を有し、nが同じであり、2の値を有する場合、R基の少なくとも1つは直鎖状又は分枝鎖状の(C
1~C
5)アルキル基を表し;
但し、sが1の値を有し、nが3の値を有する場合、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の少なくとも1つは水素原子を表す)
のジエステルの使用
であって、
前記1種又は複数の式(I)のジエステルが、前記潤滑剤組成物の全質量に対して1~30wt%の含有量で使用され、
前記耐摩耗添加剤が、ジアルキルジチオリン酸亜鉛から選択され、
前記1種又は複数の前記耐摩耗添加剤が、前記潤滑剤組成物の全質量に対して0.01~2wt%の含有量で存在し、
前記潤滑剤組成物は、その全質量に対して少なくとも50wt%の、式(I)のジエステルとは異なる1種又は複数の基油を更に含む、使用。
【請求項2】
式(I)の前記ジエステルが、式(I'):
R
a-C(O)-O-([C(R)
2]
n-O)-([C(R')
2]
m-O)
s-1-C(O)-R
b (I')
(式中:
- R及びR'は、互いに独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分枝鎖状の(C
1~C
5)アルキル基を表し;
- sは1又は2の値を有し;
- nは2の値を有し;
- mは2の値を有し;
- R
a及びR
bは、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、
8~11個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表し;
但し、sが2の値を有する場合、R基又はR'基の少なくとも1つは直鎖状又は分枝鎖状の(C
1~C
5)アルキル基を表す)のものである、
請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記ジエステルが、
- sが2の値を有し、
- R基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C
1~C
5)アルキル基を表し、その他が水素原子を表し;
- R'基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C
1~C
5)アルキル基を表し、その他が水素原子を表す、式(I')のものである、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
前記ジエステルが、
- sが1の値を有し、
- R基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C
1~C
5)アルキル基を表し、その他が水素原子を表す、式(I')のものである、請求項2に記載の使用。
【請求項5】
前記潤滑剤組成物が、エンジン用の潤滑剤組成物である、請求項1から
4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
前記潤滑剤組成物が、API分類のII群、III群、及びIV群の油から選択される少なくとも1種の基油を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
前記潤滑剤組成物が、式(X)W(Y)(式中、Xは0又は5を表し、Yは整数4~30を表す)で定められる、SAEJ300分類に準じた等級のものである、請求項1から
6のいずれか一項に記載の使用。
【請求項8】
前記潤滑剤組成物が、摩擦調整添加剤、極圧添加剤、洗浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、流動点降下剤、分散剤、消泡剤、増粘剤、及びその混合物から選択される1種又は複数の添加剤を更に含む、請求項1から
7のいずれか一項に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑剤組成物、特に、車両用エンジン用、特に自動車用エンジン用の潤滑剤組成物の分野に関連する。本発明は、より詳細には、有利なことに、含まれる耐摩耗添加剤の含有量を減らしながら、その耐摩耗特性を改善するための、これらの潤滑剤組成物における、添加剤としてのジエステル型の新規の化合物の使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
「滑剤」とも称される潤滑剤組成物は、エンジンにおける、様々な可動の金属製部品間の摩擦力を減らすという主な目的で、エンジンにおいて共通して用いられる。加えて、それらは、これらの部品の、特にその表面の、時期尚早な、摩耗又は損傷を防ぐのに有効である。
【0003】
このために、潤滑剤組成物は、従来から基油でつくられ、詳しくは、例えば摩擦調整添加剤等の、基油の潤滑性能を高めるための、また追加の性能をもたらすための、いくつかの添加剤と一般に組み合わされる。
【0004】
特に、いわゆる「耐摩耗」添加剤は、エンジンの機械的部品の摩耗を減らし、それ故にエンジンの耐久性の劣化を防ぐために考えられる。これらの耐摩耗添加剤の中でも、特に、リン酸アミン、又はやはりチオリン酸添加剤、例えば、アルキルチオリン酸金属、特にアルキルチオリン酸亜鉛、より詳しくはジアルキルジチオリン酸亜鉛又はZnDTPを挙げることができる。こうした化合物は、好ましくは、式Zn((SP(S)(OR')(OR''))2(式中、R'及びR''は、同じであっても異なっていてもよく、独立して、アルキル基、好ましくは、1~18個の炭素原子を含むアルキル基を表す)のものである。
【0005】
タングステン酸アミン型、若しくはリン酸アミン型、又は特定の式の亜鉛系錯体の代替的な耐摩耗添加剤も、出願国際公開第2017/157892号及び国際公開第2017/157979号において、ポリアルキレングリコールと組み合わせて記載されている。
【0006】
残念ながら、「低灰分レベル」(LOW SAPS)に関する仕様を満たすために、灰分を生じる、これらのリン系添加剤及び/又は硫黄系添加剤がエンジン滑剤で使用されるのは望ましくない。欧州自動車工業会(ACEA)によって考案された、これらの仕様は、潤滑剤組成物について、硫酸灰分(金属の存在によって生じる)、硫黄、及びリンの最大含有量を与え、したがって呼称「Low SAPS」(低い硫酸灰分、リン、及び硫黄)である。
【0007】
実際に、硫黄、リン、及び硫酸灰分は、車両に搭載された後処理システムを損傷することがある。灰分は、粒子フィルターに対し有害であり、リンは、触媒系の毒として作用する。
【0008】
これらの要素は、最も共通して使用される添加剤に存在するので、要求される高い性能レベルを維持しながら、エンジン滑剤の、灰分、硫黄、及びリンのレベルを下げることは、依然として挑戦である。
【0009】
特に、時期尚早なエンジンの劣化を防ぐのに必須の、滑剤の耐摩耗特性を維持しながら、又は更に改善しながら、「Low SAPS」滑剤に対して与えられた最大含有量に応じるために、滑剤の耐摩耗添加剤のレベルを下げることが可能であることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】国際公開第2017/157892号
【文献】国際公開第2017/157979号
【非特許文献】
【0011】
【文献】規格ASTM D2670
【文献】規格ASTM D445
【文献】規格ASTM D5296
【文献】標準化法CEC-L-36-A-90
【文献】規格ASTM D4683
【文献】規格ASTM D4741
【文献】規格ASTM D445-97
【文献】規格ASTM D2270-93
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、正確には、特にエンジン用、より詳細には自動車用エンジン用の1種又は複数の従来の耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物の耐摩耗特性を改善するための添加剤としての、新規の化合物を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明は、1種又は複数の耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物の耐摩耗特性を改善するための、添加剤としての、下式(I):
Ra-C(O)-O-([C(R)2]n-O)s-C(O)-Rb (I)
(式中:
- Rは、互いに独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、若しくはプロピル基、特にメチルを表し;
- sは1又は2の値を有し;
- nは1、2、又は3の値を有し;sが1とは異なる場合、nは同じであっても異なっていてもよいと理解され;
- Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表し;
但し、sが2の値を有し、nが同じであり、2の値を有する場合、R基の少なくとも1つは直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基を表し;
但し、sが1の値を有し、nが3の値を有する場合、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の少なくとも1つは水素原子を表す)
のジエステルの使用に関連する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に示された実施例で説明されるように、本発明者らは、式(I)の上記ジエステルを、従来から使用される、1種又は複数の耐摩耗添加剤、例えばZnDTPを含む潤滑剤組成物へ添加することにより、1種又は複数の耐摩耗添加剤のみを用いる潤滑剤組成物で得られたものと比較して、有意に改善された耐摩耗特性を得ることが可能になると見出した。
【0015】
組成物の耐摩耗特性は、より詳細には、規格ASTM D2670に準じて評価することができる。
【0016】
その結果、有利には、本発明による1種又は複数の式(I)のジエステルを用いることによって、本発明によるジエステルを含まない従来の潤滑剤組成物に対して、より少ない量の耐摩耗添加剤を使用しながら、優れた耐摩耗特性、更には改善された耐摩耗特性を有する潤滑剤組成物を製造することができる。
【0017】
1種又は複数の式(I)のジエステルを使用することによって、耐摩耗特性に関して優れた性能を維持しながら、従来の耐摩耗添加剤の含有量、特に灰分、リン、又は硫黄を生じる添加剤の含有量を下げることが可能である。耐摩耗添加剤の含有量を下げることにより、有利なことに、「LOW SAPS」潤滑剤組成物の仕様を満たすことが可能になる。
【0018】
式(I)のジエステルの用途の他の特徴、変形例、及び利点は、説明の目的で示され、本発明を限定することのない、以下の記述及び実施例を読んで、より明らかになるであろう。
【0019】
下文で、表現「…から…までの間」、「…から…まで」、及び「…から…まで変化する」は、同意義であり、別段の指示がない限り、限界値が含まれることを意図する。
【0020】
式(I)のジエステル
上述の通り、本発明に従って使用される添加剤は、以下の一般式(I):
Ra-C(O)-O-([C(R)2]n-O)s-C(O)-Rb (I)
(式中:
- Rは、互いに独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、若しくはプロピル基、特にメチルを表し;
- sは1又は2の値を有し;
- nは1、2、又は3の値を有し;特に、nは2又は3の値を有し、より詳細には、nは2の値を有し、sが1とは異なる場合、nは同じであっても異なっていてもよいと理解され;
- Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表し;
但し、sが2の値を有し、nが同じであり、2の値を有する場合、R基の少なくとも1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基を表し;
但し、sが1の値を有し、nが3の値を有する場合、エステル官能基の酸素原子のベータ位の炭素に結合したR基の、少なくとも1つは水素原子を表す)
のジエステル又はジエステルの混合物である。
【0021】
一実施形態によれば、Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の炭化水素含有基を表す。
【0022】
本発明に従って使用される式(I)のジエステルは、以下で、より単純に、本発明のジエステルとして表記されることになる。
【0023】
好ましくは、本発明の文脈において:
- t及びzが整数である「Ct~z」は、t~z個の炭素原子を有することができる炭素鎖を意味し;例えば、C1~4は、1~4個の炭素原子を有することができる炭素鎖を意味する;
- 「アルキル」は、飽和の、直鎖状又は分枝鎖状の脂肪族基を意味し;例えば、C1~4-アルキル基は、直鎖状又は分枝鎖状の、1~4個の炭素原子の炭素鎖、より詳細には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert-ブチルを表す。
【0024】
好ましくは、前述された式(I)において、sが1とは異なる場合、全てのnは同じである。
【0025】
特に、前述された式(I)におけるnは、2又は3の値を有し、より詳細には、nは2の値を有する。
【0026】
好ましくは、R基の少なくとも1つは、(C1~C5)アルキル基、特に、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C4)アルキル、より好ましくは、メチル、エチル、又はプロピルを表し、有利にはメチルを表す。
【0027】
特定の好ましい一実施形態によれば、本発明に従って使用される式(I)のジエステルは、より詳細には、以下の式(I'):
Ra-C(O)-O-([C(R)2]n-O)-([C(R')2]m-O)s-1-C(O)-Rb (I')
(式中:
- R及びR'は、互いに独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、若しくはプロピル基、特にメチル基を表し;
- sは1又は2の値を有し;
- nは2の値を有し;
- mは2の値を有し;
- Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表し;
但し、sが2の値を有する場合、R基又はR'基の少なくとも1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基を表す)
のジエステルであってもよい。
【0028】
好ましくは、本発明に従って使用されるジエステルは、式(I')のものであり、式中、R又はR'の少なくとも1つは、直鎖状又は分枝鎖状の、(C1~C5)アルキル基、特に(C1~C4)アルキル、より好ましくは、メチル、エチル、又はプロピルを表し、有利にはメチルを表す。
【0029】
ある実施形態の変形例によれば、前述された式(I)又は(I')におけるsは、2の値を有する。
【0030】
特に、本発明に従って使用されるジエステルは、以下の式(I'a):
Ra-C(O)-O-([C(R)2]n-O)-([C(R')2]m-O)-C(O)-Rb (I'a)
(式中:
- R及びR'は、互いに独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、若しくはプロピル基、有利にはメチルを表し;
- nは2の値を有し;
- mは2の値を有し;
- Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表し;
但し、R基又はR'基の少なくとも1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピルを表し、有利にはメチルを表す)
のものであってもよい。
【0031】
好ましくは、R基の少なくとも1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、R'の少なくとも1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表す。
【0032】
更により好ましくは、本発明に従って使用されるジエステルは、R基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、R'基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他のR基及びR'基が水素原子を表す、式(I'a)のものであってもよい。
【0033】
言い換えれば、特定の一実施形態によれば、本発明に従って使用されるジエステルは、以下の式(I''a):
Ra-C(O)-O-CHR1-CHR2-O-CHR3-CHR4-O-C(O)-Rb (I''a)
(式中:
- R1基及びR2基の1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基を表し、その他は水素原子を表し;
- R3基及びR4基の1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基を表し、その他は水素原子を表し;
- Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、上記で定められた通りである)
のものであってもよい。
【0034】
特に、本発明に従って使用されるジエステルは、
- R1基及びR2基の1つが、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表し;
- R3基及びR4基の1つが、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す、式(I''a)のものであってもよい。
【0035】
別の実施形態の変形例によれば、前述された式(I)又は式(I')におけるsは、1の値を有する。
【0036】
言い換えれば、本発明に従って使用されるジエステルは、以下の式(I'b):
Ra-C(O)-O-([C(R)2]n-O)-C(O)-Rb (I'b)
(式中:
- Rは、互いに独立して、水素原子、又は直鎖状若しくは分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し;
- nは2の値を有し;
- 同じであってもなっていてもよいRa及びRbは、互いに独立して、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表す)
のものであってもよい。
【0037】
好ましくは、前述された式(I'b)において、Rの少なくとも1つは、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表す。
【0038】
特に、本発明に従って使用されるジエステルは、R基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す、式(I'b)のものであってもよい。
【0039】
上述の通り、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)における、Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子の直鎖を有する、直鎖状又は分枝鎖状の、飽和又は不飽和の、炭化水素含有基を表す。
【0040】
「炭化水素含有」基は、分子の残部に直接結合した炭素原子を有し、主に脂肪族炭化水素特質を有する、任意の基を意味する。
【0041】
好ましくは、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)におけるRa及びRbは、3~6個の炭素原子の直鎖を有する。
【0042】
ある実施形態の変形例によれば、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)におけるRa及びRbは、8~11個の炭素原子の直鎖を有する。
【0043】
「t~z個の炭素原子の直鎖」は、飽和又は不飽和、好ましくは飽和の、t~z個の炭素原子を続々と含む炭素鎖を意味し、場合により、炭素鎖の分枝レベルで存在する炭素原子は、直鎖を構成する炭素原子の数(t~z)に考慮されていない。
【0044】
特定の一実施形態によれば、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)において、Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、植物、動物、又は石油の起源のものである。
【0045】
特定の一実施形態によれば、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)において、Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、飽和基を表す。
【0046】
別の特に好ましい実施形態によれば、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)において、Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、直鎖状の基を表す。
【0047】
別の特定の実施形態によれば、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)において、Ra及びRbは、飽和の、C8~C11の、特にC8~C10の、直鎖状炭化水素含有基を表す。
【0048】
特に、Ra及びRbは同じである。
【0049】
好ましくは、Ra及びRbはいずれも、n-オクチル基又はn-ウンデシル基、好ましくはn-オクチル基を表す。
【0050】
別の特定の実施形態によれば、前述された式(I)、式(I')、式(I'a)、式(I''a)、又は式(I'b)において、Ra及びRbは、2~11個の炭素原子、好ましくは3~8個の炭素原子を含む分枝鎖状炭化水素含有基を表す。
【0051】
本発明に従って使用される式(I)のジエステルは、市販ものであってもよく、文献に記載の、当業者に既知の合成方法に従って調製してもよい。これらの合成方法は、より詳細には、式HO-([C(R)2]n-O)s-OHのジオール化合物と式Ra-COOH及び式Rb-COOHの化合物(Ra及びRbは、同じであっても異なっていてもよく、上記の通りである)との間のエステル化反応を用いる。
【0052】
勿論、本発明に従って要求されるジエステルを得るための合成条件を調節することは、当業者次第である。
【0053】
例として、前述された式(I)、特に前述された式(I')のジエステルは、モノプロピレングリコール又はポリプロピレングリコール、特に、モノプロピレングリコール(MPG)又はジプロピレングリコール(DPG)と、1種又は複数の好適なカルボン酸Ra-COOH及びカルボン酸Rb-COOHとの間のエステル化反応によって得ることができる。
【0054】
一例として、
- sが2の値を有し、
- R基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表し;
- R'基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す
上記で定められた式(I')のジエステル又はジエステルの混合物は、ジプロピレングリコール(DPG)と、1種又は複数の好適なカルボン酸Ra-COOH及びカルボン酸Rb-COOHとの間のエステル化反応を介して得ることができる。
【0055】
- sが1の値を有し、
- R基の1つが、直鎖状又は分枝鎖状の(C1~C5)アルキル基、特に、メチル、エチル、又はプロピル基、有利にはメチルを表し、その他は水素原子を表す
上記で定められた式(I')のジエステルは、モノプロピレングリコール(MPG)と、1種又は複数の好適なカルボン酸Ra-COOH及びカルボン酸Rb-COOHとの間のエステル化反応を介して得ることができる。
【0056】
特に、Ra及びRbがいずれも、n-オクチル基又はn-ウンデシル基を表す場合、上記のジエステル又はジエステルの混合物は、こうして、モノプロピレングリコール又はジプロピレングリコールと、ノナン酸又はドデカン酸との間のエステル化反応によって得ることができる。
【0057】
本発明の文脈において、上記で定められた式(I)のジエステルは、上記で定められた式(I)のジエステルの混合物の形態であってもよいと理解される。
【0058】
潤滑剤組成物における用途
式(I)のジエステルは、潤滑剤組成物において、特に、車両用エンジン用、より好ましくは自動車用エンジン用の潤滑剤組成物において、添加剤として使用される。
【0059】
一般に、1種又は複数の式(I)の上記ジエステルは、潤滑剤組成物において、潤滑剤組成物の全質量に対して1~30wt%、特に5~30wt%、特に5~25wt%、好ましくは5~20wt%の割合で使用され得る。
【0060】
耐摩耗添加剤
上述の通り、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、1種又は複数の従来の耐摩耗添加剤を含む。
【0061】
「耐摩耗添加剤」は、潤滑剤組成物、特に、車両用エンジン用、特に自動車用エンジン用の潤滑剤組成物において使用される場合、組成物の耐摩耗特性を改善することを可能にする化合物を指す。
【0062】
多種多様な耐摩耗添加剤、例えば、ポリスルフィド添加剤、硫黄含有オレフィン添加剤、又はチオリン酸添加剤、例えば、アルキルチオリン酸金属、特に、アルキルチオリン酸亜鉛、より詳しくはジアルキルジチオリン酸亜鉛又はZnDTPがある。好ましい化合物は、式Zn((SP(S)(OR)(OR'))2(式中、R及びR'は、同じであっても異なっていてもよく、互いに独立して、好ましくは1~18個の炭素原子を含む、直鎖状又は分枝鎖状、好ましくは分枝鎖状のアルキル基を表す)のものである。好ましくは、R基及びR'基の少なくとも1つは、少なくとも6個の炭素原子、特に6~18個の炭素原子を有する、好ましくは分枝鎖状のアルキル基を表す。
【0063】
したがって、特定の一実施形態によれば、本発明による1種又は複数の式(I)のジエステルは、潤滑剤組成物において、ジアルキルジチオリン酸亜鉛型の、特に前述された式Zn((SP(S)(OR)(OR'))2の、1種又は複数の添加剤と組み合わせて使用される。
【0064】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、耐摩耗添加剤を組成物の全質量に対して0.01~6wt%、好ましくは0.05~4wt%、より好ましくは0.1~2wt%含むことができる。
【0065】
前述されたように、本発明による1種又は複数の式(I)のジエステルの使用により、有利なことに、潤滑剤組成物の耐摩耗特性を改善することが可能になる。これにより、本発明に従って、従来から使用される耐摩耗添加剤の含有量を下げながら、優れた耐摩耗特性を有する潤滑剤組成物を得る可能性がもたらされる。
【0066】
したがって、特に有利な一実施形態の変形例によれば、1種又は複数の耐摩耗添加剤、特に、硫黄又はリンの発生元であるものは、潤滑剤組成物において、含有量2wt%以下、特に1wt%以下で存在する。
【0067】
より詳細には、有利なことに、従来の耐摩耗添加剤、例えばジアルキルジチオリン酸亜鉛の含有量を下げて、潤滑剤組成物で要求される「LOW SAPS」仕様を満たすことが可能である。
【0068】
潤滑剤組成物は、典型的には、前述されたように、1種又は複数の式(I)のジエステルの他に、1種又は複数の従来の耐摩耗添加剤と組み合わせて、1種又は複数の基油、及び潤滑剤組成物において従来から考えられる、他の添加剤を含む。
【0069】
この種の潤滑剤組成物の配合に関して、1種又は複数の式(I)のジエステルを、基油又は基油の混合物に添加することができ、次いで、1種又は複数の耐摩耗添加剤を含める、他の補足的な添加剤が添加される。
【0070】
或いは、1種又は複数の式(I)の上記エステルを、特に、1種又は複数の基油及び補足的な添加剤、特に1種又は複数の耐摩耗添加剤を含む、既存の、従来の潤滑剤配合物に添加することができる。
【0071】
例えば、エンジン用の潤滑剤組成物は、事前に従来の潤滑剤配合物で満たした容器に、例えば、1種又は複数の上記ジエステルを直接添加することによって、本発明による1種又は複数の式(I)のジエステルで補充することができる。
【0072】
基油
したがって、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、式(I)のジエステルとは異なる、1種又は複数の基油を更に含むことができる。
【0073】
これらの基油は、潤滑油の分野で従来から使用される基油、例えば、合成油若しくは天然鉱物油、動物油若しくは植物油、又はその混合物から選択することができる。
【0074】
基油は、いくつかの基油の混合物、例えば、2種の基油、3種の基油、又は4種の基油の混合物であってもよい。
【0075】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物の基油は、特に、以下のTable A(表1)に示される、API分類で定められる類に準じたI群~V群(又はATIEL分類に準じたその等価物)に属する鉱物起源若しくは合成起源の油、又はその混合物であってもよく、但し、それらは、本発明のジエステルとは異なる。
【0076】
【0077】
鉱物基油には、粗油の常圧蒸留及び真空蒸留によって、引き続いて、溶媒抽出、脱歴、溶剤脱ロウ、水素精製、水素化分解、水素異性化、及び水素化仕上げ等の精製操作によって得られる、全ての種類の基油を含める。
【0078】
合成基油は、カルボン酸とアルコールとのエステル、ポリアルファオレフィン、又は他に2~8個の炭素原子、特に2~4個の炭素原子を含むアルキレンオキシドの重合又は共重合によって得られるポリアルキレングリコール(PAG)であってもよい。基油として使用されるポリアルファオレフィンは、例えば4~32個の炭素原子を含むモノマー、例えば、デセン、オクテン、又はドデセンから始まって得られ、規格ASTM D445による、100℃でのその粘度が1.5mm2.秒-1から15mm2.秒-1までの間である。その平均分子量は、規格ASTM D5296によれば、一般に250から3000までの間である。
【0079】
生物学的起源であってもよい、合成油及び鉱物油の混合物も使用することができる。
【0080】
一般に、車両用エンジン用の使用に好適な、特に粘度、粘度指数、硫黄含有量、又は耐酸化性の特性を有さねばならないことを除いて、潤滑剤組成物における様々な基油の使用に関して制限はない。
【0081】
好ましくは、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、API分類のII群、III群、及びIV群の油、並びにその混合物から選択される、少なくとも1種の基油を含む。
【0082】
特に、上記潤滑剤組成物は、少なくとも1種のIII群の基油を含むことができる。
【0083】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、その全質量に対して少なくとも50wt%の基油、特に少なくとも60wt%の基油、より特定すると60~99wt%の基油を含むことができる。
【0084】
好ましくは、1種又は複数のIII群の油は、組成物の基油の全質量の少なくとも50wt%、特に少なくとも60wt%に相当する。
【0085】
他の添加剤
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、車両用エンジン用、特に自動車用エンジン用の滑剤における使用に好適な、全ての種類の添加剤を更に含むこともできる。
【0086】
これらの添加剤は、個別で、並びに/又は混合物の形態で、例えば、当業者に周知の、ACEA(欧州自動車工業会)及び/若しくはAPI(アメリカ石油協会)で定められる性能レベルを有する、車両用エンジン用の滑剤の市販配合物で既に販売されているもので導入することができる。
【0087】
これらの添加剤は、特に、摩擦調整添加剤、極圧添加剤、洗浄剤、酸化防止剤、粘度指数(VI)向上剤、流動点降下剤(PPD)、分散剤、消泡剤、増粘剤、及びその混合物から選択することができる。
【0088】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の摩擦調整添加剤を含むことができる。
【0089】
摩擦調整添加剤は、金属元素を供給する化合物及び無灰分化合物から選択することができる。
【0090】
金属元素を供給する化合物の中で、その配位子が、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、又はリン原子を含む炭化水素含有化合物であってもよい、Mo、Sb、Sn、Fe、Cu、Zn等の遷移金属の錯体を挙げることができる。
【0091】
無灰分摩擦調整添加剤は、一般に、有機物起源のものであり、脂肪酸のモノエステル及びポリオール、アルコキシル化アミン、アルコキシル化脂肪族アミン、脂肪族エポキシド、ホウ酸塩脂肪族エポキシド、脂肪族アミン、又は脂肪酸のグリセロールエステルから選択することができる。本発明によれば、脂肪族化合物は、10~24個の炭素原子を含む、少なくとも1種の炭化水素含有基を含む。
【0092】
有利な一実施形態によれば、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の摩擦調整添加剤、特にモリブデン系のものを含む。
【0093】
特に、モリブデン系化合物は、ジチオカルバミン酸モリブデン(Mo-DTC)、ジチオリン酸モリブデン(Mo-DTP)、及びその混合物から選択することができる。
【0094】
特定の一実施形態によれば、潤滑剤組成物は、少なくとも1種のMo-DTC化合物及び少なくとも1種のMo-DTP化合物を含む。潤滑剤組成物は、特に、1000ppmから2500ppmまでの間のモリブデン含有量を含むことができる。
【0095】
有利なことに、こうした組成物により、さらなる燃料節約を成し遂げることが可能になる。
【0096】
有利なことに、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の全質量に対して0.01~5wt%、好ましくは0.01~5wt%、より詳細には0.1~2wt%、更により詳細には0.1~1.5wt%の有利には少なくとも1種のモリブデン系摩擦調整添加剤を含む摩擦調整添加剤を含むことができる。
【0097】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の酸化防止剤を含むことができる。酸化防止剤は、本質的に、使用中の潤滑剤組成物の劣化を遅らせようとする。この劣化は、特に、スラッジの存在による、又は潤滑剤組成物の粘度の増加による、付着物の形成に反映され得る。酸化防止剤は、特に、ラジカル阻害剤又はヒドロペルオキシドの破壊剤として作用する。
【0098】
共通して使用される酸化防止剤には、フェノール型の酸化防止剤、アミン型の酸化防止剤、及びチオリン酸塩酸化防止剤を挙げることができる。これらの酸化防止剤の一部、例えば、チオリン酸塩酸化防止剤は、灰分の発生元であってもよい。フェノール系酸化防止剤は、無灰分ものであっても、中性又は塩基性の金属塩の形態であってもよい。酸化防止剤は、特に、立体障害性フェノール、立体障害性フェノールエステル、及びチオエーテル架橋を含む立体障害性フェノール、ジフェニルアミン、少なくとも1つのC1~C12アルキル基で置換されたジフェニルアミン、N,N'-ジアルカリルジアミン、並びにその混合物から選択することができる。
【0099】
好ましくは、立体障害性フェノールは、アルコール官能基を保有する炭素に近接の、少なくとも1つの炭素が、少なくとも1つのC1~C10アルキル基、好ましくはC1~C6アルキル基、好ましくはC4アルキル基、好ましくはtert-ブチル基で置換された、フェノール基を含む化合物から選択される。
【0100】
アミン化合物は、場合により、フェノール系酸化防止剤と組み合わせて使用することができる、別の類の酸化防止剤である。アミン化合物の例は、芳香族アミン、例えば、式NR5R6R7の芳香族アミン(式中、R5は、場合により置換されている脂肪族基又は芳香族基を表し、R6は、場合により置換されている芳香族基を表し、R7は、水素原子、アルキル基、アリール基、又は式R8S(O)zR9の基(式中、R8は、アルキレン基又はアルケニレン基を表し、R9は、アルキル基、アルケニル基、又はアリール基を表し、zは0、1、又は2を表す)を表す)である。
【0101】
硫化アルキルフェノール又はアルカリ金属及びアルカリ土類の塩もまた、酸化防止剤として使用することができる。
【0102】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、当業者に既知の、全ての種類の酸化防止剤を含むことができる。有利なことに、潤滑剤組成物は、少なくとも1種の無灰分酸化防止剤を含む。
【0103】
また、有利なことに、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、組成物の全質量に対して0.1~2wt%の少なくとも1種の酸化防止剤を含むことができる。
【0104】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の洗浄剤を含むことができる。いわゆる洗浄剤により、一般に、酸化及び燃焼の副生成物を溶解させることによって、金属部品の表面の付着物の形成を減らすことが可能になる。
【0105】
洗浄剤は、一般に、当業者に既知である。洗浄剤は、長い脂溶性炭化水素含有鎖及び親水性ヘッドを含むアニオン性化合物であってもよい。会合したカチオンは、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の金属カチオンであってもよい。
【0106】
洗浄剤は、好ましくは、カルボン酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、スルホン酸塩、サリチル酸塩、ナフテン酸塩、及びフェノラート塩から選択される。アルカリ金属及びアルカリ土類金属は、好ましくはカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、又はバリウムである。これらの金属塩は、一般に、化学量論量の、又は過剰の、すなわち化学量論量を超える量の金属を含む。それらは、過塩基性洗浄剤であり、過塩基性特質を洗浄剤に与える、過剰の金属は、一般に基油に不溶性の金属塩の形態、例えば、炭酸塩、水酸化物、シュウ酸塩、酢酸塩、グルタミン酸塩、好ましくは炭酸塩である。
【0107】
洗浄剤は、一般に、潤滑剤組成物の全質量に対して0.5~8wt%、好ましくは0.5~4wt%の範囲の含有量で使用される。有利なことに、洗浄剤は、4wt%未満、特に2wt%未満、特に1wt%未満の含有量で存在し、又は潤滑剤組成物は洗浄剤を含まない。
【0108】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の流動点降下剤(PPD)を含むことができる。ワックス結晶の形成を遅くすることによって、流動点降下剤は、一般に、潤滑剤組成物の低温挙動を改善する。
【0109】
流動点を低下させる作用剤の例として、ポリメタクリル酸アルキル、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ポリアルキルフェノール、ポリアルキルナフタレン、及びアルキル化ポリスチレンを挙げることができる。
【0110】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の分散剤を含むこともできる。分散剤によって、潤滑剤組成物が使用中であるとき形成される、酸化の副生成物で構成される、不溶性固体混入物が、懸濁状で保たれ、取り除かれることが確実になる。分散剤は、マンニッヒ塩基、スクシンイミド、及びその誘導体から選択することができる。
【0111】
特に、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、組成物の全質量に対して0.2~10wt%の分散剤を含むことができる。
【0112】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、少なくとも1種の粘度指数(VI)向上剤を含むこともできる。粘度指数(VI)向上剤、特に、ポリマー粘度指数向上剤により、高温での良好な低温耐久性及び最低粘度を保証することが可能になる。ポリマー粘度指数向上剤の例として、ポリマーエステル、スチレン、ブタジエン、及びイソプレンの、水素化又は非水素化のホモポリマー又はコポリマー、エチレン又はプロピレン等のオレフィンのホモポリマー又はコポリマー、ポリアクリレート及びポリメタクリレート(PMA)を挙げることができる。
【0113】
特に、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の全質量に対して1~15wt%の粘度指数向上剤を含むことができる。
【0114】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、少なくとも消泡添加剤を含むこともできる。消泡添加剤は、極性ポリマー、例えば、ポリメチルシロキサン又はポリアクリレートから選択することができる。
【0115】
特に、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、潤滑剤組成物の全質量に対して0.01~3wt%の消泡添加剤を含むことができる。
【0116】
上述の通り、添加剤としての、本発明に従って要求される、1種又は複数の式(I)のジエステルの使用により、1種又は複数の従来の耐摩耗添加剤を含む潤滑剤組成物の耐摩耗特性を有意に改善することが可能になる。
【0117】
下文で与えられる実施例で説明されるように、耐摩耗特性は、規格ASTM D2670に基づいた手順に従って、摩擦計を用いて評価することができる。
【0118】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、より詳細には、式(X)W(Y)(式中、Xは0又は5を表し、Yは整数4~30を表す)で定められる、SAEJ300分類に準じた等級の組成物であることができる。この等級により、特別に自動車用エンジン用途用の潤滑剤組成物、且つ特に開始時点の低温粘度、低温ポンプ能力、低せん断速度での動粘度、及び高せん断速度での動的粘度等の様々なパラメーターに関して定量化される、特殊な特性を満足させる潤滑剤組成物の選択が特定される。
【0119】
本発明に従って考えられる潤滑剤組成物の粘度等級は、特に、
- 式(II)又は式(III)で定められる、SAEJ300分類に準じた等級
0W(Y) 5W(Y)
(II) (III)
(式中、Yは4~20、特に4~16又は4~12の整数を表す);又は
- 式(IV)又は式(V)で定められる、SAEJ300分類に準じた等級
(X)W8 (X)W12
(IV) (V)
(式中、Xは0又は5を表す)
から選択することができる。
【0120】
特定の一実施形態によれば、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物のSAEJ300分類に準じた等級は、0W4、0W8、0W12、0W16、0W20、5W4、5W8、5W12、5W16、及び5W20から選択され、好ましくは0W4、0W8、0W12、0W16、0W20、及び5W20から選択される。
【0121】
特に、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物は、0W20又は0W16の、SAEJ300分類に準じた等級を有することができる。
【0122】
有利なことに、本発明に従って考えられる潤滑剤組成物の、規格ASTM D445に準じて、100℃で測定された動粘度は、3mm2.秒-1から15mm2.秒-1までの間、特に、3mm2.秒-1から13mm2.秒-1までの間である。
【0123】
有利なことに、150℃で測定され、高温及び高せん断で測定された粘度(HTHS粘度)は、1.7mPa.秒以上であり、好ましくは1.7mPa.秒から3.7mPa.秒までの間、有利には2.3mPa.秒から3.7mPa.秒までの間である。
【0124】
HTHS測定は、標準化法CEC-L-36-A-90、ASTM D4683、及びASTM D4741に準じて、高せん断(106秒-1)で、且つ150℃で実施される。
【0125】
本発明は、説明の目的において示され、本発明を限定することのない、以下の実施例の助けによってここで説明される。
【実施例】
【0126】
(実施例1)
本発明に従って必要とされるジエステルを含む潤滑剤組成物及び比較組成物の調製
式(I)のジエステルを使用した本発明による潤滑剤組成物(I1及びI2)、並びに式(I)のジエステルを含まない比較組成物(C1及びC2)は、以下のTable1(表2)に示される成分及び量(質量パーセントで表される)で配合された。
【0127】
潤滑剤組成物は、室温で、以下の成分を単純に混合することによって得られる。
- 例えば、商標名Yubase(登録商標)4でSK Lubricants社から市販されている、III群の基油(KV100=4.2mm2/秒、KV40=19.1mm2/秒、VI126)
- 耐摩耗添加剤(例えば、名称OLOA(登録商標)269Rで販売されている、ビス[O,O-ビス(2-エチルヘキシル)]ビス(ジチオリン酸)亜鉛)、酸化防止剤、摩擦調整剤、分散剤、並びに洗浄剤を含む、従来の添加剤パッケージ1
- 耐摩耗添加剤(ビス[O-(1,3-ジメチルブチル)]ビス[O-(イソプロピル)]ビス(ジチオリン酸)亜鉛)、酸化防止剤、摩擦調整剤、分散剤、及び洗浄剤を含む、従来の添加剤パッケージ2
- Evonik社より、商標名Viscoplex(登録商標)V3-200で市販されているポリメタクリレートくし形ポリマー、並びに場合により
- ジプロピレングリコールと、少なくとも2種のノナン脂肪酸(nonanoic fatty acid)とのエステル化反応によって得られる、本発明による式(I)のジエステル
【0128】
【0129】
こうして調製された組成物の特質は、以下のTable2(表3)に表される。
【0130】
【0131】
(実施例2)
耐摩耗特性の評価
評価の方法
この評価は、以下の試験条件において、FALEX摩擦計の使用を必要とする、規格ASTM D2670に準じた手順に基づく。
- 試験試料:FALEXスチール
- 研磨時間:300秒
- 試験時間:180分
- 研磨負荷:445N
- 試験負荷:1335N
- 速さ:290rev/分
- 室温
【0132】
試験結果は、以下のTable3(表4)に表され、より詳しくはμmで表記される。得られる値が低いほど、評価される組成物の耐摩耗特性はより良好である。
【0133】
【0134】
結果によれば、本発明による式(I)のジエステルを潤滑剤組成物へ添加することにより、その耐摩耗特性を有意に改善することが可能になる。