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特許76125855-ヒドロキシ-2-フラノンの酸化によるマレイン酸エステル生成
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】5-ヒドロキシ-2-フラノンの酸化によるマレイン酸エステル生成
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/25 20060101AFI20250106BHJP
   C07C 57/145 20060101ALI20250106BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20250106BHJP
   C25B 3/23 20210101ALI20250106BHJP
   C25B 3/05 20210101ALI20250106BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20250106BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20250106BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20250106BHJP
【FI】
C07C51/25
C07C57/145
B01J23/44 Z
C25B3/23
C25B3/05
C25B3/07
C25B9/00 G
C07B61/00 300
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021536086
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-15
(86)【国際出願番号】 NL2019050867
(87)【国際公開番号】W WO2020130832
(87)【国際公開日】2020-06-25
【審査請求日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】PCT/NL2018/050881
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】595115802
【氏名又は名称】ネーデルランセ オルハニサチエ フォール トゥーヘパスト-ナツールウェーテンシャッペルック オンデルズク テーエヌオー
【氏名又は名称原語表記】Nederlandse Organisatie voor toegepast-natuurwetenschappelijk onderzoek TNO
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100148633
【弁理士】
【氏名又は名称】桜田 圭
(74)【代理人】
【識別番号】100147924
【弁理士】
【氏名又は名称】美恵 英樹
(72)【発明者】
【氏名】クロキャット、マルク
(72)【発明者】
【氏名】ラツズバイア、ロマン
(72)【発明者】
【氏名】ウルバヌス、ヨハン
(72)【発明者】
【氏名】ゲーテア、アール ローレンス ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】ヴァン ヘック、リシャルト アントーニウス
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-513267(JP,A)
【文献】ALONSO-FAGUNDEZ N; ET AL,AQUEOUS-PHASE CATALYTIC OXIDATION OF FURFURAL WITH H2O2 : HIGH YIELD OF MALEIC ACID BY USING TITANIUM SILICALITE-1,RSC ADVANCES,2014年10月13日,VOL:4, NR:98,PAGE(S):54960-54972,http://dx.doi.org/10.1039/C4RA11563E
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C、C07B、B01J、C25B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸を、触媒の存在下で分子状酸素(O)と接触させることにより、マレイン酸またはその誘導体に酸化させるステップb)を含
前記触媒が、遷移金属、金属塩、金属酸化物またはリン酸塩を含み、
前記触媒に含まれる金属が、コバルト、マンガン、バナジウム、モリブデン、銅、銀、金、パラジウム、白金およびルテニウムからなる群から選択される、
マレイン酸またはその誘導体を調製する方法。
【請求項2】
前記金属が、
金である
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒が、
ジルコニア、シリカ、活性炭、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、および二酸化チタンからなる群から選択される固相担体を含む、
請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸が、Oと接触したときに、液体であるか、または溶媒に溶解している、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記溶媒が、
有機溶媒または水性溶媒を含む、
請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ステップb)が、少なくとも5barの圧力下で行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップb)が、20から200℃の範囲の温度で行われる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記ステップb)が、連続反応器内で行われる、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップb)の前に、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸を単離製剤として供給するステップが先行する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
マレイン酸の誘導体が、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、スクシノニトリル、プトレシン、リンゴ酸、およびこれらの化合物のいずれかの塩、無水物、アミド、イミドまたはエステルからなる群から選択される1つまたは複数である、請求項1~9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸をマレイン酸またはその誘導体へ酸化するステップ(ステップb)の前に、式Iのフラン化合物を5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸へ酸化するステップa)が先行し、
【化1】
は、H、CHOH、COHまたはCHOであり、
は、H、OH、C-CアルキルまたはO(C-Cアルキル)、または、それらのエステル、エーテル、アミド、酸ハロゲン化物、無水物、カルボキシイミデート、ニトリル、および塩である、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
ステップa)が、電解質水溶液中で、フラン化合物を電気化学的に酸化させることを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップa)およびb)が同じ水溶液中で行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ステップa)の後に、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸を有機溶媒で抽出する中間抽出ステップが続き、前記ステップb)が同じ有機溶媒中で行われる、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
マレイン酸を、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、スクシノニトリル、プトレシン、リンゴ酸、およびこれらの化合物のいずれかの塩、無水物、アミド、イミド、またはエステルからなる群から選択される1つまたは複数の誘導体に変換することを含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイン酸およびその誘導体の化学的調製の分野に関する。特に、本発明は、バイオマス由来の出発物質を用いたマレイン酸およびその誘導体の持続可能な化学的調製に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の工業的なマレイン酸生成方法は、一般的には無水マレイン酸の加水分解によるものであり、無水マレイン酸自体はブタンまたはベンゼンなどの石油化学製品の酸化によって生成される。生成による環境フットプリントを削減し、マレイン酸生成のより持続可能な道筋を提供するためには、石油化学製品をバイオマス由来の化学物質に置き換えることが望ましく、例えば、非特許文献1を参照されたい。
【0003】
例えば、非特許文献2では、バイオマス由来の化学物質であるフルフラールを過酸化水素で化学的に酸化することが記載されている。また、フルフラールの酸化によるマレイン酸生成に過酸化水素を使用することは、非特許文献3においても報告されている。このような化学的酸化反応の欠点は、酸化剤として過酸化水素を必要とすることであり、この酸化剤は別の生成方法で準備しなければならず、比較的高価であり、反応で消費される。そのため、バイオマス由来の化学物質を使用する総合的利点が削られる。
【0004】
あるいは、特許文献1、非特許文献4および非特許文献5に記載されているように、フルフラールを電気化学的に酸化させることもできる。しかしながら、マレイン酸を調製するためのこれらの既知の方法の両方の欠点は、出発物質としてフルフラールが使用されることであり、ワンポット酸化方法は時間がかかり、許容できる反応速度を達成するために一般的に媒介物質を必要とする。しかし、媒介物質は費用がかかり、リサイクルも困難なため、一般的に大規模生成では好まれない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】英国特許出願公告第253877号明細書
【文献】中国特許出願公開第108314647号明細書
【非特許文献】
【0006】
【文献】Wojcieszakなど(Sustainable Chemical Processes, 2015, 3:9, 1-11)
【文献】Journal of Organic Chemistry, 1986, 51(4), 567-569;
【文献】Badovskayaなど(Russian Journal of General Chemistry, 2018, 88(8), 1568-1579)
【文献】Mil’manら(Elektrokhimiya, 1978, Volume: 14, Issue: 10, 1555-1558)
【文献】Hellstromなど(Svensk Kemisk Tidskrift, 1948, Volume 60, 214-220)
【文献】Gallesなど(J.AmChem.Soc.2013,135,19143-19146)
【文献】Synthesis 2012,44(16),2560-2566
【文献】Catalysis Communications 2010, 11(13), 1081-1084
【文献】Tetrahedron Letters 2010, 51(26), 3360-3363
【文献】Synthesis 2009, (11), 1791-1796
【文献】Chemistry Letters 2004, 33(9), 1142-1143; 2004
【文献】Bull. Chem. Soc. Japan 2006, 79(12), 1983-1987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
バイオマス、特にバイオマス由来のフラン化合物から、高い原子効率でマレイン酸を調製する方法を提供することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、特定の酸化方法、例えばフラン化合物の電気化学方法において、互変異性体である5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン(本明細書では、HFOとも呼ばれる)およびシス-β-ホルミルアクリル酸(本明細書では、ホルミルアクリル酸とも呼ばれる)が中間体として生成されることを発見した。
【化1】
【0009】
理論に縛られることを望むものではないが、閉環形態(すなわち5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン)では電気化学的に酸化できないか、あるいは非常にゆっくりでしか酸化できないと考えられており、そのため、この酸化が妨げられている。様々な環境や条件において、化学平衡はほぼ完全にフラノンの側にあるため、特に原子効率の高い電気化学的酸化方法においては、ゆっくりとした反応が起こる可能性がある。このゆっくりとした反応は、過酸化水素を用いた化学的酸化反応によって克服できるかもしれないが、この過酸化水素の使用は、とりわけ上述した理由により好ましくない。
【0010】
しかし、本発明者らは、驚くべきことに、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸が、酸素とも呼ばれる分子状酸素(O)によってマレイン酸またはその誘導体に酸化され得ることを発見した。
【0011】
したがって、本発明は、マレイン酸またはその誘導体の調製のための方法を対象とするもので、当該方法は、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸を、触媒の存在下で分子状酸素(O)と接触させることにより、マレイン酸またはその誘導体に酸化させるステップを含み、当該ステップを本明細書ではステップb)と呼ぶ。
【0012】
本発明者らは、複数の金属、特に遷移金属が、ステップb)の酸化反応を好適に触媒できることを見出した。特に、銅、金、パラジウム、白金およびルテニウム、とりわけ金で良好な結果が得られた。
【0013】
触媒は、好ましくは、固相担体をさらに含む。固相担体は、本技術分野で知られている担体であってもよく、酸化反応に悪影響を及ぼさないかぎり、一般的な任意の担体であってもよい。一般的には、固相担体は、ステップb)において不活性である。本発明に適していることがわかった担体の例には、活性炭、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、および二酸化チタンが含まれる。固相担体としての二酸化チタンでは、特に金との組み合わせで、マレイン酸収率の点で特に良好な結果が得られた。
【0014】
本発明のステップb)は、一般的に液相中で行われ、気相中では行われない。フラン化合物およびHFOは、その化合物を気体状に維持するために必要な高温では不安定であるため、気相中での反応条件は本発明には十分に適していない。したがって、HFOおよび/またはホルミルアクリル酸は、Oと接触するときに、液体であるか、または溶媒に溶解していることが好ましい。好ましい溶媒には、有機溶媒と水性溶媒の両方が含まれる。以下に詳述する理由により、水不混和性有機溶媒および酸性水性溶媒が特に好ましい。水、硫酸水溶液、酢酸、酢酸エチル、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、ジクロロメタン、ヘプタン、アセトニトリル、アセトン、ニトロメタンおよびトルエン、好ましくは2-MeTHF、トルエンおよびMTBEにおいて、HFOおよび/またはホルミルアクリル酸の良好な転換が得られた。
【0015】
ステップb)が行われる溶媒は、生成される生成物に影響を与えうる。例えば、有機溶媒中では、無水マレイン酸は、マレイン酸のinsitu脱水反応によって、またはHFOが触媒によって直接酸化されるときに生成されうる。一方、水性溶媒中では、通常酸性条件下では、一般的に、マレイン酸そのものが生成され、塩基性条件下ではマレイン酸塩が生成されうる。また、特定の反応条件下では、マレイン酸は、少なくとも部分的に、フマル酸に異性化することがある。ステップb)が行われる際の反応条件は、一般的に、生成される生成物にも影響を与える。
【0016】
酸化方法は、わずかな温度と圧力の上昇を含む、おだやかな反応条件下で、変換の点において最良の結果をもたらすことがわかった。したがって、ステップb)は、少なくとも5bar、好ましくは少なくとも10barの圧力下で行うことが好ましい。ステップb)を行うための好ましい温度範囲は、20から200℃、より好ましくは50から150℃、最も好ましくは60から100℃である。これらの条件により、好ましくは、管型反応器などで、連続的に反応させることができる。反応器は、適宜、触媒を含む固定触媒床を含んでもよい。
【発明を実施するための形態】
【0017】
出発物質のHFOおよび/またはホルミルアクリル酸は、単離(すなわち、実質的に純粋な)製剤として、または先行方法由来の反応混合物として、ステップb)に供給または提供されうる。単離製剤は、本発明の一部ではない先行方法および単離によって得ることができる。この先行反応は、任意のタイプの反応方法であることができ、例えば、HFOおよび/またはホルミルアクリル酸が主生成物として生成される場合、またはHFOおよび/またはホルミルアクリル酸が副生成物としてそこで生成されてしまう場合がある。本発明の好ましい実施形態では、HFOおよび/またはホルミルアクリル酸は、バイオマス由来の1つまたは複数のフラン化合物に由来する。
【0018】
(ステップa)の詳細)
スキーム2に示す好ましい実施形態においては、ステップb)の前に、式Iのフラン化合物を5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸に酸化するステップa)が先行し、ここでRは、H、CHOH、COHまたはCHOであり、Rは、H、OH、C-CアルキルまたはO(C-Cアルキル)、またはそれらのエステル、エーテル、アミド、酸ハロゲン化物、無水物、カルボキシイミデート、ニトリル、および塩である。
【化2】
【0019】
式Iのフラン化合物の電気化学的酸化は、PCT/NL2018/050881に詳細に記述されており、その全体が本明細書に組み込まれている。電気化学的酸化の好ましいpHにおける、HFOとホルミルアクリル酸との間の平衡は、ほぼ完全にHFOの側にあり、ゆるやかな酸化が起こることが分かっているため、本発明に従って、ステップb)をフラン化合物の電気化学的酸化と組み合わせて行うことは、特に有益であることが分かった。電気化学的酸化の反応速度は、媒介物質を使用することで許容範囲内になり得るが、媒介物質の存在は、特に大規模な場合には、好ましくない。一般的な媒介物質は高価であり、大規模方法では、経済的に実現可能な方法とするために、媒介物質のリサイクルまたは固定化が必要となるであろう。本発明のステップb)は、HFOおよびホルミルアクリル酸の良好な反応を示し、そのため、ステップa)およびb)を含む2ステップの方法が全体的に好ましい。
【0020】
好ましい実施形態では、フラン化合物は、2-フロン酸(2-furoic acid)化合物またはそのエステルを含む。これは、有利なことに、フルフラールよりも安定であり、2,5-フランジカルボン酸(FDCA)の生成における副生成物として得られるか、またはフルフラールを直接酸化してフロン酸とすることによるフルフラールの安定化によって得られうるものであり、これは一般的におだやかな条件(例えば、100℃未満の反応温度)で行われる方法であるためである。そのため、2-フロン酸化合物の使用が好ましい。さらに、現在のところフロン酸の大きな市場が想定されていないと考えられるため、本発明の化学的方法にフロン酸を使用することも有益である。
【0021】
マレイン酸を生成するためにフロン酸を使用し、フルフラールをフロン酸で置き換えることは、電気化学的酸化反応において特に有利であることがわかった。電気化学反応は、熱化学反応に比べて滞留時間が著しく長くなる傾向があり(電極の表面積の制限や、表面への/からの物質移動のため、下記参照)、そのため、化学物質は、それが分解されやすい溶液中にいる時間がずっと長くなることが多い。そのため、マレイン酸を調製するための電気化学的酸化方法は、出発物質の安定性を高めることにより特に恩恵を受ける。したがって、酸化は、電解質溶液中での、一般的にはかかるフロン酸化合物を含む電解質水溶液中での、電気化学的酸化を含む。または第1態様では、好ましくは、酸化は、電解質溶液中での、一般的にはかかるフロン酸化合物を含む電解質水溶液中での、かかる電気化学的酸化からなる。そのため、過酸化水素などの酸化剤の添加を必要としない場合もある。一般的には、かかる方法は、電解質溶液にフロン酸化合物を溶解させ、続いて電気化学的酸化により、かかるフロン酸またはその誘導体をマレイン酸に変換することを含む。
【0022】
さらに別の好ましい実施形態においては、フラン化合物はフルフラールを含む。有利なことに、2-フロン酸へのinsitu電気酸化は、簡素かつ迅速であり、周囲温度で行いうるため、フルフラールの分解を制限できる。また、フルフラールは水への溶解度が高くなった(約83g/L)。さらに、フルフラールから始めることは、全体の反応ステップを1つ減らす。フルフラールから始めることは、本発明の方法を大規模化する上で特に好ましい。
【0023】
本発明の特定の実施形態は、フロン酸の電気化学的酸化を行う前に、フルフラールのフロン酸への化学触媒的酸化を含む。フロン酸化合物とは、2-フロン酸を基礎とし、マレイン酸に酸化され得るようなフロン酸と同じ酸化状態を有する任意の化合物を意味する。好ましいフロン酸化合物の例としては、2-フロン酸、フロン酸エステル、フロン酸アミド、フロニトリル、フロン酸無水物、フロン酸カルボキシイミデート、フロン酸ハロゲン化物、フロン酸塩などが含まれる。特に、水への溶解度が高い(15℃の水に約37.1g/L、50℃の水に約100g/L)ことから、2-フロン酸がフロン酸化合物として好ましく使用される。
【0024】
本発明のステップa)による電気化学的酸化は、酸化鉛、例えばPbOであって、Pb等の金属、活性炭、カーボンナノチューブ(CNT)、網目状ガラス炭素(RVC)、炭素フェルトなどの多孔質黒鉛、またはチタン担体、またはホウ素ドープダイヤモンド(BDD)を任意に担持された、酸化鉛を含む、1つまたは複数の作用電極(本明細書では、アノード電極、アノード、または単に電極と呼ぶ)、を使用して行われるのが好ましい。電極の活性は、(電極または電解質に)ドーパントまたは吸着原子を添加することによって改善することができる。例えば、Fe2+やFe3+などの金属イオンを電解質に添加することで、PbOの安定性を向上させることができる。原理的には、2次元構造や3次元構造などの任意の電極構造体を使用してもよいが、1つまたは複数の多孔質電極、融合電極、メッシュ電極、ナノ構造電極、多孔質炭素/黒鉛電極に担持された金属または金属酸化物粒子、またはそれらの組み合わせを含む、1つまたは複数の電極が好ましい。かかる電極は、より高い変換効率をもたらす。特定の実施形態においては、作用電極は、代替的または追加的に、混合金属酸化物(MMO)、寸法安定性アノード(DSA)、ステンレス鋼、真鍮-炭素ベースの黒鉛電極、ホウ素ドープダイヤモンド(BDD)、Mn(例えばMnO)、Pt、Au、Ag、Cu、Ir、Ru、Pd、Ni、Co、Zn、Cd、In、Sn、Ti、Fe、およびそれらの合金または酸化物のうちの1つまたは複数を含んでもよい。
【0025】
対極(カソード電極またはカソードという)は、Au、Pt、Pd、Ir、Ru、Ni、Co、ステンレス鋼、Cu、炭素、Pb、Tiまたはこれらの合金からなる群から選択された1つまたは複数の材料を含んでもよい。
【0026】
一つの実施形態において、媒介物質を作用電極にドープする。本発明者らは、驚くべきことに、バナジウムドープ電極が本方法を行うのに特に適していることを発見した。したがって、バナジウムドープ電極は、本発明のもう一つの態様である。本実施形態においては、バナジウムの溶出を制限するために、電解質溶液のpHは3から7の範囲、より好ましくは4から5の範囲であることが好ましい。また、VとPbOとの組み合わせも好適に使用でき、Vは電解質に溶解した状態に保たれる。リサイクルのために、触媒であるVは、担体に付着していることが好ましい。さらに、PbO、陽イオン(Fe3+、Co2+、およびNi2+など)、F-、または陽イオンおよびF-の両方によるPbOのドーピングは、高電位で行う方法において、電極の安定性と電気化学的活性を改善する手段であり得る。
【0027】
フラン化合物の酸化は、電極において直接行うことができる。これは、酸化剤または電極からの電子が、反応中のフラン化合物または化学中間体に直接移動することを意味する。あるいは、酸化は、電極表面で還元または酸化される媒介物質を使用することによって行うことができ、その後、電極の大部分で標的化合物と反応する。媒介物質の存在は電極での酸化の可能性を排除しないが、一般的には、媒介物質が存在する場合、酸化は主に媒介物質を介して進行する。媒介物質は、一つまたは複数の、バナジン酸塩、酸化バナジウム(例えば、V、VO)、モリブデン酸塩(MoO 2-)、クロム酸塩(CrO 2-)、重クロム酸塩(Cr 2-)、過マンガン酸塩(MnO )マンガン酸塩(MnO 2-)、マンガン塩(Mn2+)、タングステン酸塩(WO 2-)、ヨウ素酸塩(IO )、塩素酸塩(ClO)、塩化物-塩素対(Cl/Cl)、臭素酸塩(BrO)、臭化物-臭素対Br/Br、ペルオキシ二硫酸(S 2-)、オゾン(O)、コバルト塩(Co2+/Co3+)、セリウム塩(Ce3+/Ce4+)などを含むことが好ましい。最も好ましくは、媒介物質は、酸化バナジウム、モリブデン酸ナトリウム、および/または重クロム酸カリウムを含む。
【0028】
媒介物質は、例えば、近接した場所や作用電極に、固定されてもよい。しかし、固定の欠点は、おそらく、媒介物質の溶出、および固定によって利用可能な媒介物質の量が限定されること(任意の担体の表面積が限定されるため)であり、これはまた、大規模生成の速度を制限することになるということであろう。
【0029】
驚くべきことに、本発明者らは、任意の媒介物質なしで、酸化反応が十分に進行することを発見した。コスト、安全性の問題(媒介物質はしばしば強い毒性/発癌性を有する)、方法の複雑さの増加(媒介物質の回収/リサイクル)、および方法における環境フットプリントの理由から、本方法はかかる媒介物質なしで実施されることが好ましい場合がある。したがって、電解質溶液は、電気化学的酸化の間、かかる媒介物質を実質的に含まないことが好ましい。本発明の文脈において、実質的に含まないとは、電気化学的酸化反応の開始時に存在するフラン化合物出発物質の量を基準として、好ましくは5mol%未満、好ましくは1mol%未満、より好ましくは0.01mol%未満であることを意味する。最も好ましくは、電解質溶液が微量以下の媒介物質しか含まないことである。なお、「電気化学的酸化反応の開始時」とは、最初のフラン化合物量が酸化される直前を意味する。
【0030】
ステップa)の酸化、特に電気化学的な酸化は、特定のpH範囲で特によく進行する。特に好ましいpH範囲は、とりわけ使用する電極や酸化剤に依存するが、フラン化合物のpK値が好ましいpH範囲を部分的に決定することもある。特に、フラン化合物が2-フロン酸を含む場合、電気化学的酸化は、好ましくは少なくとも部分的に、7未満、より好ましくは4未満、さらに好ましくは3未満、最も好ましくは約2以下のpHで行われる。
【0031】
フラン化合物がホルミルアクリル酸に変換されることで、電解質溶液のpHが反応開始時の値よりも低下することがある。したがって、酸化を行う際の最適値を超えるpH値で電気化学的酸化を開始し、フラン化合物の変換中にpH値が最適pH値または上記で定義した好ましいpH値まで低下させることが可能な場合がある。したがって、好ましいpH値は、電気化学的酸化の反応期間の少なくとも一部について定義され(上記参照:「少なくとも部分的に・・・のpHで行われる」)、必ずしも電気化学的酸化の全ての反応期間について定義されるものではない。しかし、ある実施形態においては、電解質として濃硫酸が使用され、pHの変化は一般的に非常に小さいことがある。
【0032】
全反応期間で最適なpHを維持するために、(例えば、適切な酸または塩基の添加によって)反応中に外部からpHを調整することができる。さらに、pHを維持するために緩衝剤の存在下で反応させることもできる。さらに、適切な溶媒または適切な電解質溶液を使用することによって、望ましいpH範囲とすることができる。したがって、溶媒または電解質溶液が存在する場合には、有機酸および/または鉱酸などの酸を含むことが好ましい。鉱酸は、電気化学的酸化反応において、有機酸と比較してより不活性であるため、好ましい。より好ましくは、鉱酸は、塩酸(HCl)、硝酸(HNO)、リン酸(HPO)、硫酸(HSO)、ホウ酸(HBO)、フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、過塩素酸(HClO)、ヨウ化水素酸(HI)からなる群から選択される。PbO電極に酸化電位が印可されると、過硫酸塩がPbO電極に形成される可能性があるため、電解質溶液は硫酸を含むことが最も好ましい。また、過硫酸塩は強い酸化剤でもある。特定の実施形態においては、酸は、混合物に添加され得る樹脂(Amberlyst(登録商標)またはNafion(登録商標)など)に組み込むことによって少なくとも部分的に固定化され得、および/または、酸は、1つまたは複数の電極に構造的に組み込まれ得る。特定の実施形態においては、電解質が、電解質のイオン伝導率を高めるために、無機塩類と組み合わせて酸を含むことが好ましいことがある。例えば、電解質のpHが1であることが望ましい場合、酸の濃度は良好な伝導率を提供するのに十分ではない場合があり、そのため、塩を追加することが好ましいことがある。
【0033】
電解質溶液は、水性でも非水性でもよい。適切な非水性電解質溶液は、アセトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ヘキサメチルホスホリカシド-トリアミド(HMPA)、アセトニトリル(MeCN)、ジクロロメタン(DCM)、プロピレンカーボネート、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)、および陰イオンであるHSO 、CFCO 、HPO 、Cl、NO 、BF 、OTf、PF とのイオン液体(例えば、[C4mim]など)からなる群から選択される1つまたは複数以上の溶媒を含む。特に、溶媒がイオン液体ではない実施形態においては、非水性電解質溶液は、電解質として無機塩または有機塩を含むことが好ましい。
【0034】
フラン化合物からHFOおよび/またはホルミルアクリル酸への変換率を高めるためには、電気化学的酸化を10から100℃の範囲の温度で行うことが好ましく、15から70℃の範囲の温度で行うことがより好ましい。特に電気化学的酸化においては、高温(すなわち室温超)で酸化を行うことは一般的ではない。しかし、本発明の方法では、高温、特に約35から60℃の温度で処理することで、変換率や収率が向上し、溶解性も向上する(すなわち、濃度を多少高めることができる)ことがわかった。フラン化合物がフルフラールを含む場合、かかるフラン化合物からHFOおよび/またはホルミルアクリル酸への電気化学的酸化は、Vなどの媒介物質がある場合、20℃から50℃の範囲で行われることが好ましい。媒介物質がない場合は、室温程度の温度が好ましい(例えば、約17から23℃)。
【0035】
化学的酸化還元反応において、高い変換率を得るためには、反応溶媒中の出発物質の濃度が高い方が一般的には有利であるが、電気化学的酸化反応においては、変換率は電極での電子密度によって制限され、溶液中の反応物質の濃度にはあまり制限されないため、そうではない場合がある。言い換えれば、アクセス可能な電極表面積および電流が、変換率に大きく影響する。化学的酸化還元反応において、高い変換率を得るためには、反応溶媒中の出発物質の濃度が高い方が一般的には有利であるが、電気化学的酸化反応においては、そうではない場合がある。一般に、このような方法では、濃度を高めると、反応電流(kinetic electrical current)の値まで電流が増加し、反応電流の値は、電極の性質、電極の表面積、反応する分子、電極への吸着特性などによって決まる。そうなると、反応はより速くは進まない。電極で生成された生成物が新たな反応物質と交換されることで制限されるようになる。言い換えれば、アクセス可能な電極表面積、電流、および物質移動は、一般的に、変換率に大きな影響を与える。そのため、濃度が高くなっても、必ずしも反応速度が上がるとは限らず、反応時間が長くなるだけで、反応物質、中間体、生成物が分解されてしまう可能性がある。これは、完全に変換されない可能性がある連続フロー反応では、特に望ましくない。したがって、方法が電気化学的酸化を含む実施形態においては、電解質溶液中のフラン化合物の濃度が0.01から5mol/Lの範囲、好ましくは0.1mol/Lから3.5mol/Lの範囲、より好ましくは0.3mol/Lから2mol/Lの範囲で電気化学的酸化を行うことが好ましい。この範囲では特に良好な変換率と収率とが得られた。濃度は、時間の経過とともに低下することがあるので、ここでいう濃度とは、フラン化合物の初期濃度、すなわち反応開始時の濃度を意味する。
【0036】
好ましい実施形態においては、電気化学的酸化は、アノード電解質溶液とカソード電解質溶液とが膜(例えば、方法の特性に応じてカチオン交換膜(CEM)またはアニオン交換膜(AEM)などの半透過性膜)によって分離されている2つの電気化学セル区画で行われる。この実施形態は、反応生成物(すなわち、HFOおよび/またはホルミルアクリル酸)がカソードで還元されるのを防ぐことができるため、また、フラン化合物がカソードに渡るのを防ぐか、少なくとも制限することができるため、大規模に行う場合に特に好ましいが、いずれの場合も効率が低下するであろう。本実施形態に適した膜としては、Nafion(商標)、Fumatech(商標)、Neosepta(商標)および/またはSelemion(商標)などの商品名で入手可能な膜が含まれる。また、多孔質隔膜/ガラスフリットでもよい。
【0037】
有利なことに、本方法は、カソードでの電気化学的還元、例えば水からの水素の生成、酸素から水への還元、またはフルフラールからフルフリルアルコールへの変換、を並行して可能にするために、対電気合成を含んでもよい。また、セル電圧やエネルギー消費を低減するために、酸素を水に還元することも可能な場合がある。
【0038】
本発明の電気化学的酸化は、化学廃棄物の生成を最小限に抑えるために特に好ましいものであることを理解されたい。本発明の方法を、水、フラン化合物、酸(電解質として)、およびHFOおよび/またはホルミルアクリル酸などの考えられる反応中間体および生成物から実質的になる電解質溶液を用いて行うことにより、化学廃棄物の生成をさらに抑制することができる。言い換えれば、可能ではあるが、塩、安定化剤、緩衝剤、界面活性剤などの添加物の存在は好ましくなく、電解質溶液はそのような添加物を含まないことが好ましい。電解質溶液に塩を含まないことのさらなる利点は、HFOおよび/またはホルミルアクリル酸が、必ずしもその塩としてではなく、遊離酸として直接得られることである。ステップb)では、一般的には遊離酸が好ましい。
【0039】
電気化学的酸化に代えて、ステップa)でフラン化合物を光化学反応で酸化することもでき、例えば、Gallesらにより非特許文献6において記載されている。このようなフルフラールの酸化は、例えば、非特許文献7および特許文献2に記載されている。また、2-フロン酸の光化学的酸化は、例えば、非特許文献8、非特許文献9、非特許文献10、非特許文献11および非特許文献12に記載されている。
【0040】
フラン化合物の光化学的酸化は、CHCl、THF、MeOHなどの有機溶媒中で行うことが好ましい。
【0041】
(ステップa)およびb)の溶媒)
ステップa)を電解質水溶液中で行う場合(これが好ましい)、ステップb)は、同じ溶液中、同じ溶液中であるがpHを変更した後、またはHFOおよび/またはホルミルアクリル酸を有機溶媒、好ましくは水非混和性有機溶媒で抽出した後の同じ溶液中において行うことができる。後者の実施形態においては、抽出に使用したのと同じ種類の有機溶媒でステップb)を行うことが好ましい。本実施形態は、有機抽出物を中間的に乾燥させる方法と、さらなる使用の前に乾燥させない方法とを網羅していることを理解されたい。使用可能な水非混和性有機溶媒の例には、ジクロロメタン、トルエン、酢酸エチル、2-メチルテトラヒドロフランなどが含まれる。この特定の実施形態において、無水マレイン酸は、別途、後続の脱水ステップなしの方法から直接得てもよい。また、メタノールやエタノールなどのアルコール溶媒中でステップb)を行い、マレイン酸モノエステルおよび/またはマレイン酸ジエステルを直接得てもよい。
【0042】
ステップa)およびb)が同じ溶液中で行われることを含む本発明の実施形態における方法は、マレイン酸またはその誘導体を単離して、単離されたマレイン酸またはその誘導体と、使用済み電解質溶液とを提供するステップをさらに含む。使用済みの電解質溶液は、方法内へリサイクルされ得る。使用済み電解質溶液には、残存フラン化合物、方法の中間体、マレイン酸、および生成されるその他の不純物および/またはポリマーが含まれることがある。したがって、リサイクルの前に使用済み電解質溶液を精製することが好ましいことがある(例えば、ポリマー物質を除去するためにナノろ過を行う)。精製に代えて、または精製に加えて、電解質の品質を一定に保つために、リサイクルされた電解質の一部を放出し、新しい材料を加えることが好ましいことがある。
【0043】
マレイン酸またはその誘導体の単離は、蒸留などの標準的な単離技術を用いて行い得る。具体的にどのような方法で単離するのが好ましいかは、使用する溶媒による。マレイン酸の単離により、電解質溶液のpHを元のpH、すなわち酸化開始時のpHに戻すこともできる。そのため、添加剤によるpH調整が必要ない場合もある。なお、フラン化合物の酸化やマレイン酸の単離の際に、電解質、酸、溶媒、または水が失われたり消費されたりした場合には、電解質溶液のリサイクルの際に、酸、溶媒、水を補充することができる。
【0044】
電解質溶液のリサイクルは、本方法が連続的であり、例えば、連続反応系で行われる場合に特に好ましい。本方法が行われる反応系は、適宜、電解質溶液のリサイクルループを含むことができる。電解質溶液のリサイクルは、化学廃棄物の生成を最小限に抑え、外部からの流入を減らすという利点をもたらすことがある。
【0045】
本発明のさらなる実施形態は、マレイン酸をさらに反応させるステップを含む。マレイン酸をさらに反応させるステップで得られるマレイン酸の誘導体は、フマル酸、コハク酸、およびそれらの塩、エステル、無水物、アミドまたはイミドを含んでもよい。無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸またはそれらの塩、エステルまたは無水物をそのまま(すなわち、あらかじめフラン化合物の酸化を伴わずに)提供するこの任意選択のさらなる反応ステップは、当技術分野で知られている。例えば、無水マレイン酸、フマル酸およびコハク酸は、マレイン酸からそれぞれ脱水反応、異性化反応、部分水素化反応を経て得られる。フマル酸は、現在、(主として)マレイン酸の触媒的異性化により工業的に生成されている。また、コハク酸は、マレイン酸の部分還元により工業的に生成されているが、これはいくつかの既知経路のうちの1つである。
【0046】
本発明の好ましい実施形態において、方法は、マレイン酸またはその誘導体を単離し、単離されたマレイン酸またはその誘導体を提供するステップをさらに含む。
【0047】
本明細書において、単数形の「a」、「an」、「the」は、文脈上明らかに他を示す場合を除き、複数形も含むことを意図する。また、「および/または」という用語は、関連する記載項目の1つまたは複数の任意およびすべての組み合わせを含む。「含む(comprises)」および/または「含む(comprising)」という用語は、記載された特徴の存在を特定するが、1つまたは複数の他の特徴の存在または追加を排除するものではないことを理解されたい。
【0048】
明確かつ簡潔に記載するために、発明の特徴は、同一または別々の実施形態の一部として本明細書に記載されているが、本発明の範囲には、記載された特徴のすべてまたは一部の組み合わせを有する実施形態が含まれることを理解されたい。本発明は、以下の非限定的な実施例によって説明することができる。
【0049】
(実施例1)フルフラールから5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンへの変換
Hセルのアノード区画に、50mMのフルフラールを含む0.5Mの硫酸水溶液100mLを充填した。20℃で変換した。Hセルのカソード区画に、0.5Mの硫酸水溶液100mLを充填した。10cmのPbO電極をSHEに対して0.5-2.1Vの間でCVし、活性化した。参照電極と作用電極とを準備し、1.85V対SCEの電位をセルに印加した。分析の結果、7時間後には反応中間体であるホルミルアクリル酸:マレイン酸の比率が、約2:1となり、20時間後には、約9:1となった。生成物(マレイン酸および5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン)の最大総収率は、約80%であった。
【0050】
(実施例2)電解質からのシス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよびマレイン酸の抽出
ホルミルアクリル酸:マレイン酸を約1:10の比率で含む電解質と、有機溶媒(酢酸エチル、ジクロロメタン、トルエン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル)とを等量ずつ激しく混合し、相分離させた。水相および有機相の両方をHPLCで分析し、それぞれの相におけるシス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよびマレイン酸の相対的なレベルを測定した。
【0051】
【表1-1】
【0052】
酢酸エチルを用いた条件をスケールアップし、有機相と水相とを分離し、硫酸ナトリウムにより乾燥させた後、減圧下で濃縮し、白色固体の生成物(400mg)を収集した。これをNMRで分析したところ、シス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン:マレイン酸が、約2.7:1の比率であることが確認された。
【0053】
(実施例3)フルフラールから5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンへの変換
別々の反応器に、シス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノン:マレイン酸混合物(50mg)、5%パラジウムカーボン(25mg)、および溶媒(350μL、以下のうちどちらか、0.5M硫酸水溶液またはリン酸一カリウムおよびリン酸二カリウムのpH7水性緩衝液)を充填した。その後、反応器を撹拌しながら70℃に加熱し、混合物中に酸素を吹き込んだ。2時間後、反応物を室温まで冷却し、HPLCで分析した。いずれの場合も、シス-β-ホルミルアクリル酸/5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンからマレイン酸への変換が確認された。
【0054】
(実施例4)HFOからマレイン酸への酸化のための溶媒
オートクレーブ(10ml)に、下記の表1-2にしたがって、HFO、溶媒(1ml)および10%Pd/Cを充填した。
【0055】
反応器を密閉し、その後窒素で洗浄した。その後、反応器に純酸素を10barの圧力で充填した。その後、反応器を85℃に加熱し、15時間撹拌した。周囲温度まで冷却した後、圧力を解放し、反応器を窒素で洗浄した。生成物溶液をろ過して触媒を除去した後、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析し、マレイン酸の収率を表1-2にまとめた。
【0056】
【表1-2】
*MAのTOF/secとは、その条件下でのMAの触媒遷移周波数を意味する
【0057】
(実施例5)トルエン中でのHFOからマレイン酸への酸化のための触媒
オートクレーブ(10ml)に、表2にしたがって、HFO(10.6mg)、トルエン(1ml)、および触媒を充填した。反応器を密閉し、その後窒素で洗浄した。その後、反応器に純酸素を10barの圧力で充填した。その後、反応器を111℃に加熱し、14時間撹拌した。周囲温度まで冷却した後、圧力を解放し、反応器を窒素で洗浄した。生成物溶液をろ過して触媒を除去した後、HPLCで分析し、その結果を表2にまとめた。
【0058】
【表2】
*MAのTOF/secとは、その条件下でのMAの触媒遷移周波数を意味する
【0059】
(付記)
(付記1)
5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸を、触媒の存在下で分子状酸素(O)と接触させることにより、マレイン酸またはその誘導体に酸化させるステップを含む、マレイン酸またはその誘導体を調製する方法。
【0060】
(付記2)
前記触媒が、
遷移金属、金属塩、金属酸化物またはリン酸塩を含み、
好ましくは、前記触媒を構成する金属が、コバルト、マンガン、バナジウム、モリブデン、銅、銀、金、パラジウム、白金およびルテニウムからなる群から選択され、
より好ましくは、前記金属は金である、
付記1に記載の方法。
【0061】
(付記3)
前記触媒が、
固相担体を含み、
好ましくは、ジルコニア、シリカ、活性炭、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、および二酸化チタンからなる群から選択される担体を含み、
より好ましくは二酸化チタンまたはジルコニアである担体を含む、
付記1又は2に記載の方法。
【0062】
(付記4)
5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸が、Oと接触したときに、液体であるか、または溶媒に溶解している、付記1~3のいずれか1つに記載の方法。
【0063】
(付記5)
前記溶媒が、
有機溶媒または水性溶媒を含み、
好ましくは、水不混和性有機溶媒または酸性水性溶媒を含む、
付記4に記載の方法。
【0064】
(付記6)
前記ステップb)が、少なくとも5bar、好ましくは少なくとも10barの圧力下で行われる、付記1~5のいずれか1つに記載の方法。
【0065】
(付記7)
前記ステップb)が、20から200℃、好ましくは50から150℃、より好ましくは60から100℃の範囲の温度で行われる、付記1~6のいずれか1つに記載の方法。
【0066】
(付記8)
前記ステップb)が、連続反応器、好ましくは管状反応器内で行われる、付記1~7のいずれか1つに記載の方法。
【0067】
(付記9)
前記ステップb)の前に、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸を単離製剤として供給するステップが先行する、付記1~8のいずれか1つに記載の方法。
【0068】
(付記10)
マレイン酸の誘導体が、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、スクシノニトリル、プトレシン、リンゴ酸、およびこれらの化合物のいずれかの塩、無水物、アミド、イミドまたはエステルからなる群から選択される1つまたは複数である、付記1~9のいずれか1つに記載の方法。
【0069】
(付記11)
5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸をマレイン酸またはその誘導体へ酸化するステップ(ステップb)の前に、式Iのフラン化合物を5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸へ酸化するステップa)が先行し、
【化3】
は、H、CHOH、COHまたはCHOであり、
は、H、OH、C-CアルキルまたはO(C-Cアルキル)、または、それらのエステル、エーテル、アミド、酸ハロゲン化物、無水物、カルボキシイミデート、ニトリル、および塩である、付記1~10のいずれか1つに記載の方法。
【0070】
(付記12)
ステップa)が、電解質水溶液、好ましくは酸、より好ましくは鉱酸、さらに好ましくは、塩酸(HCl)、硝酸(HNO)、リン酸(HPO)、硫酸(HSO)、ホウ酸(HBO)、フッ化水素酸(HF)、臭化水素酸(HBr)、過塩素酸(HClO)、ヨウ化水素酸(HI)からなる群から選択される鉱酸、最も好ましくは硫酸、を含む電解質水溶液中で、フラン化合物を電気化学的に酸化させることを含む、付記11に記載の方法。
【0071】
(付記13)
ステップa)およびb)が同じ水溶液中で行われる、付記12に記載の方法。
【0072】
(付記14)
ステップa)の後に、5-ヒドロキシ-2(5H)-フラノンおよび/またはシス-β-ホルミルアクリル酸を有機溶媒で抽出する中間抽出ステップが続き、前記ステップb)が同じ有機溶媒中で行われる、付記12に記載の方法。
【0073】
(付記15)
マレイン酸を、無水マレイン酸、フマル酸、コハク酸、スクシノニトリル、プトレシン、リンゴ酸、およびこれらの化合物のいずれかの塩、無水物、アミド、イミド、またはエステルからなる群から選択される1つまたは複数の誘導体に変換することを含む、付記1~14のいずれか1つに記載の方法。