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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】検出装置および検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01S 11/14 20060101AFI20250106BHJP
   G01S 3/803 20060101ALI20250106BHJP
   G01S 5/30 20060101ALI20250106BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
G01S11/14
G01S3/803
G01S5/30
G01H17/00 Z
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021545196
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031891
(87)【国際公開番号】W WO2021049285
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2023-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2019167252
(32)【優先日】2019-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100180806
【弁理士】
【氏名又は名称】三浦 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】清水 秀樹
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/001684(WO,A1)
【文献】特開2006-003941(JP,A)
【文献】特開2005-121509(JP,A)
【文献】特開2016-180924(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0317669(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0148467(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S11/00-11/16
G01S 3/80- 3/86
G01S 5/18- 5/30
G01H17/00
G01B17/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音波を検出する検出部と、
前記検出部が検出した音波の周波数スペクトルを求める周波数分析部と、
前記周波数スペクトルにおいてホイッスル音の基本波および複数の高調波の中で最も高い基本波または高調波を決定する判定部と、
前記判定部によって決定された前記最も高い基本波または高調波に応じて、前記検出部が検出したホイッスル音の発音源までの距離を推定する距離推定部と、
を有することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
ホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数、前記基本波に対する前記複数の高調波のレベルならびに検出の下限レベルを示す特性情報を記憶する記憶部を更に有し、
前記判定部は、前記周波数スペクトルにおいて前記基本波および前記複数の高調波のピークが存在するか否かと、前記基本波から何倍の高調波までのピークが前記下限レベルを上回るかを判定し、
前記距離推定部は、音波の伝搬距離と減衰量との関係ならびに前記特性情報に含まれる前記レベルの情報および前記判定部の判定結果に基づき、前記検出部が検出したホイッスル音の発音源までの距離を推定する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
ホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数ならびに前記基本波に対する前記複数の高調波のレベルを示す特性情報を複数種類のホイッスルが発するホイッスル音のそれぞれについて記憶する記憶部と、
前記検出装置は、検出対象のホイッスルを使用者が選択可能な入力部をさらに有し、
前記距離推定部は、前記入力部を介して選択されたホイッスルについての前記特性情報に含まれる前記レベルの情報および前記判定部の判定結果に基づき前記距離を推定する、請求項1に記載の検出装置。
【請求項4】
ホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数ならびに前記基本波に対する前記複数の高調波のレベルを示す特性情報を記憶する記憶部と、
前記検出部が検出したホイッスル音の周波数スペクトルから当該ホイッスル音についての前記特性情報を求めて前記記憶部に記憶させる特性学習部をさらに有する、請求項に記載の検出装置。
【請求項5】
前記検出部が検出した音波に含まれる基本波のレベルを表示する表示部と、
特定の方向からの音波の検出感度を上げるための集音フードと、
をさらに有する、請求項1~の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項6】
前記検出部は、それぞれが指向性を有し互いに異なる方向に向けられた複数の検出部であり、
前記検出装置は、前記複数の検出部がそれぞれ検出した音波に含まれる基本波のレベルの大小関係に基づき自装置に対する前記発音源の方角を推定する方角推定部をさらに有する、請求項1~の何れか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
請求項1~の何れか一項に記載の検出装置である少なくとも一つの検出装置と、
前記検出装置と通信可能であり、前記検出装置の位置および前記検出装置が推定した前記距離に基づき前記発音源の位置を推定する管理端末と、
を有することを特徴とする検出システム。
【請求項8】
前記管理端末は、前記検出装置が有する記憶部にホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数ならびに前記基本波に対する前記複数の高調波のレベルを示す記特性情報を書き込み可能である、請求項に記載の検出システム。
【請求項9】
請求項1~の何れか一項に記載の検出装置と、
前記検出装置を搭載した移動体と、
を有することを特徴とする検出システム。
【請求項10】
請求項1~の何れか一項に記載の検出装置と、
前記検出装置を搭載した移動体と、
前記検出装置と通信可能であり、前記検出装置の位置および前記検出装置が推定した前記距離に基づき前記発音源の位置を推定する管理端末と、
を有することを特徴とする検出システム。
【請求項11】
検出部が、音波を検出し、
記憶部が、ホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数ならびに前記基本波に対する前記複数の高調波のレベルを示す特性情報を記憶し、
周波数分析部が、前記検出部が検出した音波の周波数スペクトルを求め、
判定部が、前記周波数スペクトルにおいてホイッスル音の基本波および複数の高調波の中で最も高い基本波または高調波を決定し、
距離推定部が、前記判定部によって決定された前記最も高い基本波または高調波に応じて、前記検出部が検出したホイッスル音の発音源までの距離を推定する、
ことを特徴とする検出方法。
【請求項12】
ホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数ならびに前記基本波に対する前記複数の高調波のレベルを示す特性情報を複数種類のホイッスルが発するホイッスル音のそれぞれについて記憶部に記憶し、
入力部が、検出対象のホイッスルを使用者が選択するために使われ、
前記距離推定部は、前記入力部を介して選択されたホイッスルについての前記特性情報に含まれる前記レベルの情報および前記判定部の判定結果に基づき前記距離を推定する、
請求項11に記載の検出方法。
【請求項13】
ホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数ならびに前記基本波に対する前記複数の高調波のレベルを示す特性情報を記憶部に記憶する、請求項11に記載の検出方法。
【請求項14】
さらに、表示部が、前記検出部が検出した音波に含まれる基本波のレベルを表示し、
集音フードが、特定の方向からの音波の検出感度を上げる、
請求項1113のいずれか一項に記載の検出方法。
【請求項15】
前記検出部は、それぞれが指向性を有し互いに異なる方向に向けられた複数の検出部であり、
方角推定部が、前記複数の検出部がそれぞれ検出した音波に含まれる基本波のレベルの大小関係に基づき自装置に対する前記発音源の方角を推定する、
請求項1114のいずれか一項に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置および検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
災害時や遭難時に助けを呼ぶための防災ホイッスル(SOSホイッスル)が知られており、例えばライフジャケットに標準装備され、地方自治体などでも導入されている。防災ホイッスルは、軽く吹くだけで大きな音を鳴らすことができ、大声を出す体力のない人でも使うことができる。
【0003】
例えば特許文献1には、発生する高次倍音を増やし、音圧が大きく、音の立ち上がりが早くかつ注意喚起効果の高いビート音を発生させることを目的としたホイッスルの発明が記載されている。例えば特許文献2および3には、ホイッスルから発信される無線信号を受信することでそのホイッスルが吹かれたことを検出する発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-108345号公報
【文献】特開2004-264324号公報
【文献】特開2016-180924号公報
【発明の概要】
【0005】
高齢化に伴い、実際に防災ホイッスルが吹かれたときに遭難者を捜索する人たちの年齢も高くなっている。防災ホイッスルは成人の人が最も聞き分け易い3.5kHzの音を発するが、例えば60代の人の3.5kHz音の聴力感度は20代の人と比べて30dB近く低下するため、捜索者がホイッスル音を聞き逃したり、音源位置を判別できなかったりすることがある。
【0006】
本発明は、ホイッスルの音を検出して音源までの距離を推定する検出装置および検出システムを提供することを目的とする。
【0007】
音波を検出する検出部と、ホイッスル音の基本波および複数の高調波の周波数ならびに基本波に対する複数の高調波のレベルを示す特性情報を記憶する記憶部と、検出部が検出した音波の周波数スペクトルを求める周波数分析部と、周波数スペクトルにおいて基本波および複数の高調波のピークが存在するか否かと、基本波から何倍の高調波までのピークが予め設定された下限レベルを上回るかを判定する判定部と、音波の伝搬距離と減衰量との関係ならびに特性情報に含まれるレベルの情報および判定部の判定結果に基づき、検出部が検出したホイッスル音の発音源までの距離を推定する距離推定部と、を有することを特徴とする検出装置が提供される。
【0008】
記憶部は、複数種類のホイッスルが発するホイッスル音のそれぞれについて特性情報を記憶し、検出装置は、検出対象のホイッスルを使用者が選択可能な入力部をさらに有し、距離推定部は、入力部を介して選択されたホイッスルについての特性情報に含まれるレベルの情報および判定部の判定結果に基づき発音源までの距離を推定してもよい。
【0009】
検出装置は、検出部が検出したホイッスル音の周波数スペクトルからそのホイッスル音についての特性情報を求めて記憶部に記憶させる特性学習部をさらに有してもよい。
【0010】
検出装置は、検出部が検出した音波に含まれる基本波のレベルを表示する表示部と、特定の方向からの音波の検出感度を上げるための集音フードと、をさらに有してもよい。
【0011】
検出部は、それぞれが指向性を有し互いに異なる方向に向けられた複数の検出部であり、検出装置は、複数の検出部がそれぞれ検出した音波に含まれる基本波のレベルの大小関係に基づき自装置に対する発音源の方角を推定する方角推定部をさらに有してもよい。
【0012】
それぞれが上記のいずれかの検出装置である少なくとも1つの検出装置と、検出装置と通信可能であり、検出装置の位置および検出装置が推定した距離に基づき発音源の位置を推定する管理端末と、を有することを特徴とする検出システムが提供される。
【0013】
上記のいずれかの検出装置と、当該検出装置を搭載した移動体と、を有することを特徴とする検出システムが提供される。
【0014】
上記のいずれかの検出装置と、当該検出装置を搭載した移動体と、移動体及び検出装置と通信可能であり、検出装置の位置および検出装置が推定した距離に基づき発音源の位置を推定する管理端末と、を有することを特徴とする検出システムが提供される。
【0015】
管理端末は、検出装置の記憶部に特性情報を書き込み可能であってもよい。
【0016】
上記の検出装置および検出システムによれば、ホイッスルの音を検出して音源までの距離を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】検出装置1の概略構成図である。
図2】検出装置1の機能ブロック図である。
図3】ホイッスル音の周波数スペクトルの例を示すグラフである。
図4】伝搬距離に応じたホイッスル音の強度変化の例を示すグラフである。
図5】(A)~(C)は、ホイッスル音の周波数スペクトルの例を示すグラフである。
図6】記憶部30が記憶する特性情報を説明するための図である。
図7】(A)及び(B)は、変形例に係る検出装置101の概略構成図であって、(A)は正面図であり、(B)は上面図である。
図8】変形例に係る検出装置101の機能ブロック図である。
図9】(A)~(C)は、複数の検出装置2を含む検出システム4を説明するための図である。
図10】検出装置2の機能ブロック図である。
図11】(A)は、変形例1に係る検出システム1000の概略構成図であり、(B)は、変形例1に係る検出システム1000を構成する機内用モニタの正面図である。
図12】変形例1に係る検出システム1000を構成する検出装置102の機能ブロック図である。
図13】変形例2に係る検出システム2000の概略構成図である。
図14】変形例2に係る検出システム2000を構成する検出装置103の機能ブロック図である。
図15】変形例2に係る検出システム2000により遭難者を探索する手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、検出装置および検出システムを説明する。ただし、本発明は図面または以下に記載される実施形態には限定されないことを理解されたい。
【0019】
図1は、検出装置1の概略構成図である。検出装置1は、防災ホイッスルが発する音を検出し、検出されるホイッスル音の高調波の次数に基づき、発音源までのおおよその距離を推定する機能を有する。検出装置1のケース10は、捜索者が手に持って移動可能な程度の大きさであり、集音フード11、表示部12および入力部13を有する。集音フード11は、箱型のケース10に内蔵された音響センサ21(図2を参照)に指向性を与えるためのものであり、ケース10の図中上側の側面に設けられている。
【0020】
表示部12は、液晶表示パネル(LCD)12Aとレベルメータ12Bで構成され、これらはケース10の上面に配置されている。LCD12Aは、ホイッスル音が検出されたか否かと、検出された場合には検出装置1が推定した発音源までの距離を表示する。レベルメータ12Bは、図示した例では表示する値に応じてバーの長さが変化する形態のものであり、検出された音波に含まれる基本波のレベルを表示する。入力部13は、開始/停止ボタン13Aと選択ボタン13Bで構成され、これらはケース10の上面における表示部12の下側に配置されている。開始/停止ボタン13Aは、ホイッスル音の検出の開始および停止を使用者が指示するために使われる。選択ボタン13Bは、入力部の一例であり、複数種類のホイッスルの中から検出対象のものを使用者が選択するために使われる。
【0021】
図2は、検出装置1の機能ブロック図である。検出装置1は、表示部12および入力部13に加えて、検出部20、記憶部30および制御部40を有する。
【0022】
検出部20は、音響センサ21、検出回路22およびA/D変換部23で構成される。音響センサ21は、例えば20Hz~80kHzの周波数域の可聴音および非可聴音を検出可能なマイクロホンであり、検出した音波に応じた検出信号を検出回路22に出力する。一般に、防災ホイッスルの基本波の周波数は3.5kHzであるから、ホイッスル音を検出するためには、音響センサ21は3kHz程度以上の周波数の音波を検出できるものであればよい。音響センサ21は、集音フード11が設けられていることで、特定の方向からの音波を感度よく検出可能である。検出回路22は音響センサ21の検出信号をアナログの音声信号に変換し、A/D変換部23はそれをデジタルの音声信号に変換して制御部40に出力する。
【0023】
図3は、ホイッスル音の周波数スペクトルの例を示すグラフである。横軸は周波数(kHz)を、縦軸は強度を表す。一般的な防災ホイッスルが発する音は、発音源から1m以内の至近距離では、完全な正弦波成分だけではなく、基本波Fと高調波H(大抵は奇数次の高調波)を含む音波となっている。符号P1は基本波Fのピークを、符号P3,P5,P7は3倍、5倍および7倍の高調波Hのピークを表す。
【0024】
一般に、点音源からの距離に応じた音圧の減衰量A(dB)は、基準点での音圧をr0、着目している距離での音圧をrとすると、
A=20log10(r/r0) ・・・式1
で求められる。また、音圧の空気による1m当たりの減衰係数Cは、周波数f(Hz)、気温20~30℃、湿度60~70%の場合、
C≒1×10-11×f2 ・・・式2
となり、周波数に応じて異なる。
【0025】
図4は、伝搬距離に応じたホイッスル音の強度変化の例を示すグラフである。横軸は発音源からの距離(m)を、縦軸は相対強度(dB)を表す。式1および式2を実際の防災ホイッスルの高調波に当てはめると、伝搬距離に応じた基本波と各高調波の強度変化は図4の通りになる。曲線c1は基本波の、曲線c3,c5,c7,c9,c11はそれぞれ3倍、5倍、7倍、9倍および11倍の高調波のグラフである。一般に、ホイッスルの種類に応じてホイッスル音の基本波と高調波とのレベルの関係は異なるため、図示した例のものとは異なる種類のホイッスルでは、各曲線の縦軸方向の位置は変わり得る。しかしながら、周波数と気温と湿度が同じであれば、別の種類のホイッスルであっても、図4に示したものと同様の強度変化を示す。
【0026】
したがって、基本波から何倍の高調波までのピークが検出部20のノイズレベル(周波数スペクトルのピークを判別可能な下限レベル)を上回って検出されるかを調べれば、発音源までのおおよその距離を推定することができる。例えば下限レベルBが-70dBの場合には、図4のグラフから、発音源までの距離は、
・第9高調波まで検出されたときには10m程度(区間a)であり、
・第7高調波まで検出されたときには30m程度(区間b)であり、
・第5高調波まで検出されたときには50m程度(区間c)であり、
・第3高調波まで検出されたときには100~200m程度(区間d)であり、
・基本波のみ検出されたときには250m以上(区間e)であることが分かる。
【0027】
図5(A)~図5(C)は、ホイッスル音の周波数スペクトルの例を示すグラフである。これらの周波数スペクトルは同じホイッスル音のものであるが、発音源までの距離が互いに異なっている。図5(A)の例では、基本波から第7高調波までのピークP1,P3,P5,P7が下限レベルBを上回る(検出される)ので、発音源までの距離は30m程度(図4の区間b)であることが分かる。図5(B)の例では、基本波と第3高調波のピークP1,P3が下限レベルBを上回るので、発音源までの距離は100~200m程度(図4の区間d)であることが分かる。図5(C)の例では、基本波のピークP1のみが下限レベルBを上回るので、発音源までの距離は250m以上(図4の区間e)であることが分かる。
【0028】
記憶部30は、例えば半導体メモリなどで構成され、検出装置1の動作に必要な情報(データ)を記憶する。特に、記憶部30は、対象のホイッスルを鳴らしたときに発音源から例えば1m離れた位置で検出されたホイッスル音の周波数スペクトルの基本データを予め記憶している。この基本データは、基本波の周波数、複数の高調波の周波数、基本波と各高調波とのレベル差(または比)、および検出の下限レベル(ノイズレベル)であり、以下ではこれらのデータのことを特性情報ともいう。例えば自治体ごとに配布される防災ホイッスルの種類は大抵決まっているため、検出装置1では、どのような特性情報を有するホイッスルが吹かれるかが予め分かっていることを前提とする。特性情報を得るときの発音源から検出位置までの距離は1mに限らず任意に定めることができるが、検出位置は発音源の近くであることが好ましい。
【0029】
図6は、記憶部30が記憶する特性情報を説明するための図である。横軸は周波数(kHz)を、縦軸は相対強度(dB)を表す。符号f1は基本波の周波数を、符号f2~f7は2倍~7倍の高調波の周波数を、符号G1は基本波のレベルを、符号dG3,dG5,・・・,dG13はそれぞれ基本波と3倍、5倍、・・・、13倍の高調波とのレベル差を、符号Bは下限レベルを表し、記憶部30はこれらの値を記憶する。ホイッスルによっては奇数倍だけでなく偶数倍の高調波も含まれる可能性があるため、奇数倍と偶数倍の両方の高調波について、周波数fnおよび基本波とのレベル差dGnの値を定義しておく(n=2,3,・・・)。何倍の高調波まで周波数とレベル差のデータを記憶するかは必要に応じて適宜定めればよい。
【0030】
記憶部30は、複数種類のホイッスルが発するホイッスル音のそれぞれについて、上記の特性情報を記憶してもよい。一般に、ホイッスルの種類によって基本波や高調波の周波数は異なるため、記憶部30は、ホイッスルの型番(識別情報)と対応付けて、図6に示した特性情報を記憶してもよい。ただし、下限レベルBはホイッスルの種類によらず同じ値でもよい。
【0031】
制御部40は、CPU、RAMおよびROMを含むマイクロコンピュータの制御回路として構成され、検出装置1の動作を制御する。制御部40は、そのマイクロコンピュータにより実現される機能ブロックとして、周波数分析部41、基本波検出部42、閾値設定部43、検出域設定部44、高調波判定部45、距離推定部46および特性学習部47を有する。
【0032】
周波数分析部41は、A/D変換部23から取得したデジタルの音声信号を高速フーリエ変換(FFT)することで、検出部20が検出した音波の周波数スペクトルを求める。
【0033】
基本波検出部42は、周波数分析部41が求めた周波数スペクトルにおける基本波の周波数f1を中心とする一定範囲、例えば、f1-0.5(kHz)≦f≦f1+0.5(kHz)の範囲を走査して、下限レベルBを上回るピークが存在するか否かを確認する。走査範囲の大きさは上記の例に限らず適宜設定可能である。基本波検出部42は、走査した範囲内にピークが検出された場合には、高調波判定部45に処理を指示するとともに、検出されたピークのレベルをレベルメータ12Bに表示させる。基本波検出部42は、走査した範囲内にピークが検出されない場合には、対象のホイッスルが検出されない旨をLCD12Aに表示させる。
【0034】
閾値設定部43は、使用者が選択ボタン13Bを操作することで選択された(選択操作がない場合には規定の)ホイッスルについての検出の下限レベルBを記憶部30から取得する。検出域設定部44は、選択された(または規定の)ホイッスルについて記憶されている高調波の周波数f2,f3,・・・の値を記憶部30から取得し、例えばfn-0.5(kHz)≦f≦fn+0.5(kHz)(n=2,3,・・・)の範囲を検出域として設定する。この走査範囲の大きさも適宜設定可能であり、高調波の次数ごとに異なってもよい。
【0035】
高調波判定部45は、n=2,3,・・・のそれぞれについて、周波数分析部41が求めた周波数スペクトルにおけるfn-0.5(kHz)≦f≦fn+0.5(kHz)の範囲を走査して、基本波から何倍の高調波までのピークが下限レベルBを上回るかを確認する。基本波検出部42および高調波判定部45は判定部の一例である。
【0036】
距離推定部46は、選択された(または規定の)ホイッスルについて記憶されている基本波のレベルG1および基本波と高調波とのレベル差dGn、ならびに高調波判定部45の判定結果に基づき、発音源までの距離を推定する。基本波のレベルG1とレベル差dGnの値(すなわち、発音源からの距離1mでの基本波と各高調波のレベルの値)から、図4のグラフにおける各曲線の左端の点が決まり、式1および式2により、それらを起点とする基本波と各高調波についての伝搬距離に応じた強度変化の曲線が決まる。このため、距離推定部46は、式1および式2を用いて、対象のホイッスルの基本波と各高調波について図4のグラフと同様の伝搬距離と減衰量との関係を求め、基本波から何倍の高調波までのピークが下限レベルBを上回るかに応じて、発音源までのおおよその距離を求める。そして、距離推定部46は、対象のホイッスルが検出された旨と、推定した距離をLCD12Aに表示させる。
【0037】
特性学習部47は、発音源から例えば1m離れた位置で検出部20が検出したホイッスル音の周波数スペクトルから、そのホイッスル音についての図6の特性情報を求めて(学習して)、記憶部30に記憶させる。ケース10に学習ボタンを設けておき、特性学習部47は、使用者によりそのボタンが操作されたときに、新たなホイッスル音についての特性情報を記憶部30に記憶させてもよい。図6に示した特性情報は、記憶部30に予め記憶されていなくてもよく、検出装置1の使用時に、捜索者が検出対象と同じ種類のホイッスルを鳴らし、検出部20がその音を検出して特性学習部47が学習することで、記憶部30に記憶させてもよい。
【0038】
検出装置1の使用時には、使用者(捜索者)は、まず開始/停止ボタン13Aを押下して検出装置1を起動させ、ケース10を手で水平に持ってゆっくりと360度回転し、レベルメータ12Bが振れるか否かを確認する。レベルメータ12Bが振れる場合には、使用者は、さらに、レベルメータ12Bが最大になる方向に集音フード11(音響センサ21)の向きを合わせる。そして、使用者は、LCD12Aに表示された距離を参考に、集音フード11を向けた方向に移動し、移動中に表示される距離が縮まることを確認して、表示される距離が数m以内になったらその周辺を詳細に捜索する。表示される距離が移動しても縮まらなければ、使用者は、再度、レベルメータ12Bが振れる方向の確認からやり直す。
【0039】
検出装置1によれば、ホイッスル音の発音源の方向と距離を特定することができ、遭難者の場所を特定し易くなる。がれきなどの障害物があっても検出される音波の周波数スペクトルはほとんど変化しないため、障害物の影響を受けずに発音源までの距離を推定することができる。予め記憶部30に複数種類のホイッスルについての特性情報を記憶しておいたり、新たなホイッスル音についての特性情報を学習したりすることで、様々な種類のホイッスル音を検出することが可能である。
【0040】
式2に示した減衰係数Cは気温や湿度により変化するため、ケース10に周囲の温度および湿度を計測する計測部(温度センサや湿度センサ)を搭載してもよい。この場合、計測された温度および湿度における空気中を伝搬する音波の減衰特性に従って図4の強度変化の曲線を補正すれば、発音源までの距離をより正確に推定することができる。
【0041】
防災ホイッスルが発する音は可聴音であるが、検出装置1は、基本波と高調波の周波数f1,f2,・・・を適切に設定すれば、非可聴音の発音源も同様に検出することができる。例えば、検出装置1は、人の耳では聞こえない超音波に近い周波数の音波を発するサイレントホイッスルの音も同様に検出することができる。
【0042】
(変形例)
図7(A)及び(B)に、変形例に係る検出装置101の概略構成図を示す。図7(A)は検出装置101の正面図であり、図7(B)は上面図である。変形例に係る検出装置101が、上記の検出装置1と異なっている点は、検出装置101の周辺の複数の方向からのホイッスル音を検出するための複数の音響センサを有する点である。変形例に係る検出装置101のその他の構成は、上記の検出装置1における構成と同様である。
【0043】
検出装置101は、4個の集音フード(11A、11B、11C、11D)と、箱型のケース10とを有する。4個の集音フード(11A、11B、11C、11D)は、4個の音響センサ21(図8を参照)に指向性を与えるためのものであり、ケース10の図中上側の側面に周辺4方向に向けて開口するように設けられている。図7(A)および(B)には、音響センサを含む集音フードを4個備える例を示したが、このような例には限られず、2個、3個、または5個以上であってもよい。
【0044】
図8は、検出装置101の機能ブロック図である。検出装置101は、表示部12、入力部13、4個の検出部(20A、20B、20C、20D)、記憶部30、および制御部401を有する。検出部(20A、20B、20C、20D)の4個の音響センサ21は、それぞれ検出装置101の周辺4方向からのホイッスル音を検出するために、互いに90度ずつずれて配置されている。
【0045】
制御部401は、方角推定部48を有する点が上記の検出装置1の制御部40とは異なるが、その他の点では制御部40と同様の構成および機能を有する。図示した例では、周波数分析部41は、検出部(20A、20B、20C、20D)のA/D変換部23から取得したデジタルの音声信号を高速フーリエ変換することで、それらの検出部が検出した4つの音波の周波数スペクトルを求める。基本波検出部42、閾値設定部43、検出域設定部44、高調波判定部45および距離推定部46は、上記の検出装置1と同様にして、検出部(20A、20B、20C、20D)が検出した音波の発音源までの距離を推定する。
【0046】
方角推定部48は、周波数分析部41が求めた4つの音波の周波数スペクトルから基本波検出部42が検出した基本波のレベルの大小関係と、検出部(20A、20B、20C、20D)のそれぞれの音響センサの方位とに基づき、検出装置101に対する発音源の方角を推定する。音響センサの方位を決める方法として、例えば、検出部20Dの集音フード11Dが北を向くように設定するか、方位を決めるための磁気センサを有していてもよい。検出された方角が北西であれば、図7(A)に示すように、LCD12Aに方角を矢印で示すと共に、反応があった旨(「反応あり」)及び音源までの推定距離(例えば、「距離100m」)を表示する。また、検出部(20A、20B、20C、20D)が検出した音波に含まれる基本波のレベルの最大値をレベルメータ12Bに表示する。
【0047】
発音源の位置を求める方法は、基本波レベルの大小関係から求める方法には限られず、ビームフォーミング法により求めるようにしてもよい。ビームフォーミング法を用いる場合には、複数個の音響センサを同一方向に向けてアレイ状に配置するようにしてもよい。ビームフォーミング法によれば、音源から音響センサまでの距離が異なる場合に、音波が各音響センサに到達するまでの時間が異なり、各音響センサまでの到達時間差が音源の位置の関数となっていることを利用して、音源の位置を推定することができる。
【0048】
図7(A)には、音響センサを含む集音フード(11A~11D)とケース10とを一体化した例を示したが、音響センサを含む集音フード(11A~11D)はケース10と着脱可能とし、それぞれを有線または無線により接続するようにしてもよい。音響センサを含む集音フード(11A~11D)を着脱可能とすることにより、使用者の侵入が困難な場所に音響センサを配置する等、音響センサを任意の場所に設置することができ、音源の探索範囲を広げることができる。
【0049】
変形例に係る検出装置によれば、周辺の複数の方向に向けて配置された音響センサを有しているため、使用者が音源を探すために音響センサの向きを周辺に向けて回転させる手間を省くことができる。
【0050】
図9(A)は、複数の検出装置2を含む検出システム4の例を示す側面図である。検出システム4は、検出装置2A~2Cおよび管理端末3で構成される。検出装置2A~2Cは、上記の検出装置1と同様の機能を有し、300m~1km間隔で設置されている自治体の防災無線の放送柱91A~91Cにそれぞれ設置されている。破線92A~92Cは、放送柱91A~91Cおよび検出装置2A~2Cがそれぞれカバーするエリアを示しており、これらは、放送柱91A~91Cからの放送が聞こえる範囲および検出装置2A~2Cが検出可能な発音源の範囲であるとする。図示した例では検出装置は3個であるが、検出装置の個数には特に制限はなく、1個でも複数個でもよい。
【0051】
図9(B)および図9(C)は、検出装置2が設置された放送柱91の側面図および上面図である。図10は、検出装置2の機能ブロック図である。検出装置2A~2Cはそれぞれ同じ構成を有しており、これらを互いに区別しないときは単に検出装置2と記載する。放送柱91A~91Cもそれぞれ同じ構成を有しているため、図9(B)および図9(C)では単に符号91で示している。
【0052】
検出装置2は、本体10’および検出部20N,20S,20E,20Wを有し、本体10’は、記憶部30、制御部40’および通信部50を有する。検出装置2は、検出部が4個に増えてそれらが本体10’とは別体になっており、表示部12と入力部13がなく代わりに通信部50を有する点が上記の検出装置1とは異なるが、その他の点では検出装置1と同様の構成を有する。検出装置2(2A~2C)は、それぞれ、防災無線の双方向通信(アンサーバック機能)を利用して、対応する放送柱91の識別情報(ID)およびホイッスル音の検出結果を管理端末3に送信する。
【0053】
例えば、本体10’は、放送柱91の側面に固定されており、検出部20N,20S,20E,20Wは、放送柱91の東西南北に向いたスピーカ内にそれぞれ取り付けられ、スピーカと一体になっている。スピーカに近接しているので、誤検出を防止するために、放送によるスピーカの出力期間中は、検出部20N,20S,20E,20Wの動作を一時停止させてもよい。ただし、図示した例とは異なり、検出部20N,20S,20E,20Wは放送柱91のスピーカとは別体であってもよく、その個数も4個以外でもよい。検出部20N,20S,20E,20Wのそれぞれは、上記の検出部20と同じものであり、放送柱91のスピーカ内に取り付けられることで指向性を有し、互いに異なる方向に向けられている。例えば、検出部20N,20S,20E,20Wは、それぞれ北、南、東および西の方角を向いているものとする。
【0054】
制御部40’は、特性学習部47がなく代わりに方角推定部48を有する点が上記の制御部40とは異なるが、その他の点では制御部40と同様の構成および機能を有する。図示した例では、周波数分析部41は、検出部20N,20S,20E,20WのA/D変換部23から取得したデジタルの音声信号を高速フーリエ変換することで、それらの検出部が検出した4つの音波の周波数スペクトルを求める。ただし、高速フーリエ変換を行うには処理能力を必要とするため、1つの制御部40’で4系統を同時に処理するのが困難な場合には、周波数分析部41の機能は検出部20N,20S,20E,20Wのそれぞれに持たせてもよい。基本波検出部42、閾値設定部43、検出域設定部44、高調波判定部45および距離推定部46は、上記と同様にして、検出部20N,20S,20E,20Wが検出した音波の発音源までの距離を推定する。
【0055】
方角推定部48は、周波数分析部41が求めた4つの音波の周波数スペクトルから基本波検出部42が検出した基本波のレベルの大小関係(順列)に基づき、検出装置2に対する発音源の方角を推定する。検出部20N,20S,20E,20Wが検出した音波に含まれる基本波のレベルをそれぞれVn,Vs,Ve,Vwとすると、方角推定部48は、例えば、Vn>Vw>Ve>Vsであれば発音源は北北西であり、Vn>Vw≒Ve>Vsであれば発音源は北であり、Ve≒Vs>Vn≒Vwであれば発音源は南東であると推定する。その際は、基本波のレベルについてある程度の大きさの判定幅を定義し、レベル差がその範囲内であるか否かに応じて大小を判定してもよい。
【0056】
通信部50は、距離推定部46が推定した発音源までの距離と、方角推定部48が推定した発音源の方角を対応する放送柱91の識別情報とともに管理端末3に送信する。
【0057】
管理端末3は、自治体などの管理センタに設置されたPCなどの装置であり、検出装置2A~2Cからホイッスル音の検出結果を受信して、それらの検出結果と検出装置2A~2Cの設置位置に基づき、ホイッスル音の発音源の位置を推定する。例えば、図9(A)に示すように、検出装置2Aの検出結果が南東に距離dAであり、検出装置2Bの検出結果が西南西に距離dBであり、検出装置2Cの検出結果が北北西に距離dCであったとする(図9(A)では図の上側が北であるとする)。この場合、管理端末3は、検出装置2A~2Cからそれらの方角に伸ばした矢印が交差する符号93の位置に検出対象のホイッスルがあると判定する。これにより、ホイッスル音の発生位置を広域に監視することが可能となる。検出システム4は、例えば女性や子どもが鳴らしたホイッスル音を検出することができ、痴漢防止などの防犯の用途での利用が可能である。
【0058】
自治体ごとに配布されるホイッスルの種類が異なるため、管理端末3は、検出対象のホイッスルについての特性情報、すなわち、基本波および高調波の周波数、基本波と各高調波とのレベル差または比、ならびに検出の下限レベルの情報を各検出装置2に送信してもよい。この場合、各検出装置2の通信部50は、検出対象のホイッスルについての特性情報を管理端末3から受信し、制御部40’は、受信されたデータを記憶部30に記憶させる。このように、管理端末3から各検出装置2の記憶部30に特性情報を書き込めるようにしてもよい。
【0059】
(検出システムの変形例1)
次に、変形例1に係る検出システム1000について説明する。図11(A)は、変形例1に係る検出システム1000の概略構成図であり、図11(B)は、変形例1に係る検出システム1000を構成する機内用モニタ10Bの正面図である。
【0060】
変形例1に係る検出システム1000は、検出装置102と、検出装置102を搭載した移動体であるヘリコプター201と、を有する。検出装置102は、ヘリコプター201の機外(例えば、底面部)に設置される本体ケース10Aと、機内用モニタ10Bとを有する。本体ケース10Aには音響センサを備えた集音フード11が設けられ、集音フード11は開口部が地面側を向くように配置される。遭難者から発せられたホイッスル音は集音フード11により集音して、音響センサにより検出することができる。
【0061】
本体ケース10Aと機内用モニタ10Bとは有線で接続され、集音フード11で集音されたホイッスル音の反応の有無、およびヘリコプター201から音源までの距離はLCD12Aに表示され、検出した音波のレベルはレベルメータ12Bに表示される。本体ケース10Aと機内用モニタ10Bとを有線接続するのは、有人の場合、航空法の関係で無線は使用できないためである。ヘリコプター201の乗員である使用者は、機内用モニタ10Bの表示を確認することにより、遭難者から発せられるホイッスル音の有無をモニタすることができる。
【0062】
図12に、変形例1に係る検出システム1000を構成する検出装置102の機能ブロック図を示す。本体ケース10Aは、検出部202と、記憶部30と、制御部40と、を有する。検出部202は、上記の検出器1の検出部20に加えてノイズフィルタ24を備えている。ヘリコプター201は飛行中に比較的大きな騒音を発生させるが、騒音は主にヘリコプター201のメインローター及びテールローターから発生し、これらの騒音の周波数帯域のうち、音圧レベルが高い周波数帯域は1kHz以下に集中していることが報告されている。そこで、このような低周波のノイズを除去するために、検出部20にノイズフィルタ24を設けることが好ましい。ノイズフィルタ24を用いることにより、音響センサ21が検出した音波から、ヘリコプター201から発せられる騒音のうちの主要な低周波のノイズを除去することができるため、ヘリコプター201の飛行中であってもヘリコプター201に搭載した検出装置102によりホイッスル音の検出を行うことができる。
【0063】
なお、上記のように変形例1に係る検出システム1000を構成する移動体はヘリコプターには限られず、飛行機や飛行船等の飛行体やその他の移動体であってもよい。
【0064】
変形例1に係る検出システム1000によれば、上空から遭難者を捜索することができるため、捜索を効率よく行うことができる。また、遭難者から発せられるホイッスル音に基づいて遭難者を発見すると同時に救助を行うことにより、遭難者の救助を迅速に行うことができる。
【0065】
(検出システムの変形例2)
次に、変形例2に係る検出システム2000について説明する。図13に変形例2に係る検出システム2000の概略構成図を示す。変形例2に係る検出システム2000は、検出装置103と、検出装置103を搭載した移動体であるドローン202と、移動体であるドローン202及び検出装置103と通信可能であり、検出装置103の位置および検出装置103が推定した距離に基づき発音源の位置を推定する管理端末3と、を有することを特徴とする。
【0066】
検出装置103の本体ケース10Cは、ドローン202の下部に配置される。本体ケース10Cには地上側に向かって開口された集音フード11が設けられ、地上側から発せられるホイッスル音Sを検出する。
【0067】
ドローン202はGPS機能を備えており、管理端末3と通信を行い、管理端末3から指示された領域で遭難者が発するホイッスル音の検出を行う。
【0068】
図14に、変形例2に係る検出システム2000を構成する検出装置103の機能ブロック図を示す。検出装置103は、本体ケース10CとGPS受信部60とを備えている。GPS受信部60はドローン202に予め備えられている。本体ケース10Cは、検出部203と、記憶部30と、制御部40と、通信部50と、を有している。
【0069】
検出部203は、変形例1に係る検出システム1000を構成する検出装置102と同様に、ドローン202のローターから発せられるノイズをカットするためのノイズフィルタ24を備えている。ノイズフィルタ24を用いることにより、音響センサ21が検出した音波から、ドローン202から発せられる騒音のうちの主要な低周波のノイズを除去することができるため、ドローン202の飛行中であってもドローン202に搭載した検出装置103によりホイッスル音の検出を行うことができる。
【0070】
通信部50は、距離推定部46が推定した発音源までの距離と、GPS受信部60が受信したドローン202の位置情報を管理端末3に送信する。遭難者が存在する位置はドローン202がホイッスル音を検知した位置の周辺であり、GPS受信部60が受信した位置情報から、遭難者が存在する可能性が高い領域を推定することができる。さらに、ドローン202にカメラ(図示せず)を搭載するようにしてもよい。カメラにより、ホイッスル音が検出されたときの地上の画像を撮像し、その画像データを位置情報と共に管理端末3に送信するようにしてもよい。
【0071】
次に、ドローン202を用いた遭難者の捜索手順について説明する。図15に、変形例2に係る検出システム2000により遭難者を探索する手順を説明するためのフローチャートを示す。ドローン202は管理端末3からの指令を受信して遭難者の捜索を行い、結果を管理端末3に送信する。
【0072】
まず、ステップS101において、ドローン202の通信部50が管理端末3から送信された遭難者の捜索範囲情報を受信し、ドローン202はGPS受信部60が受信した位置情報を参照しながら指定された捜索範囲へ移動する。
【0073】
次に、ステップS102において、ドローン202は捜索範囲を移動しながら、集音フード11で集音される音を音響センサ21で検出し、遭難者から発せられるホイッスル音を検出する。
【0074】
次に、ステップS103において、ドローン202の制御部40がホイッスル音を検出したか否かを判断する。ホイッスル音を検出していないと判断した場合は、ステップS102に戻って、捜索範囲を移動しながらホイッスル音の探索を続行する。
【0075】
次に、ステップS103において、ホイッスル音が検出されたと判断した場合は、基本波検出部42、閾値設定部43、検出域設定部44、高調波判定部45および距離推定部46が、上記の検出装置1と同様にして、検出部202が検出した音波の発音源までの距離を推定する。
【0076】
次に、ステップS104において、ドローン202は、ホイッスル音を検出した時点でのドローン202の位置情報及び音源までの距離情報を管理端末3へ送信する。管理端末3は、ホイッスル音を検出した時点でのドローン202の位置に音源までの距離を考慮した範囲内に遭難者が存在すると推定して遭難者の救助活動を行うことができる。ここで、ドローン202の地上からの高さを推定するための気圧センサをさらに備えていることが好ましい。ホイッスル音を検出した時点でのドローン202の地上における位置座標を(x0,y0)とし、ドローン202が地上h[m]の高さの時に音源までの距離がd[m]であると推定される場合、ドローン202の地上における位置から音源までの距離x[m]はx=√(d2-h2)で算出されるから、遭難者が存在する範囲は座標(x0,y0)から半径x[m]の範囲内であると推定できる。
【0077】
さらに、ドローン202にカメラを搭載させておき、ホイッスル音が検出された時の地上の画像を撮像し、管理端末3へ送信するようにしてもよい。ホイッスル音が検出された時の地上の画像には遭難者の画像が含まれている可能性が高く、遭難者の画像により遭難者の状態を把握することができ、適切な救助活動を行うことができる。
【0078】
なお、上記のように変形例2に係る検出システム2000を構成する移動体はドローンには限られず、山岳等を走破可能な探索ロボット等、他の移動体であってもよい。
【0079】
変形例2に係る検出システム2000によれば、ヘリコプター等が侵入できない領域や危険な環境下においても、上空から遭難者を捜索することができるため、遭難者の捜索を安全かつ効率よく行うことができる。
【0080】
以上の説明において、基本波と高次高調波を発生する器具としてホイッスルを例に挙げたが、犬笛等、基本波と高次高調波を発生する他の器具であっても同様に本発明を適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15