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特許7612597軟組織修復、特にヘルニア修復のための生分解性メッシュ移植片
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】軟組織修復、特にヘルニア修復のための生分解性メッシュ移植片
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/18 20060101AFI20250106BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/50 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/44 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/24 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20250106BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
A61L27/18
A61L27/38 110
A61L27/56
A61L27/54
A61L27/50
A61L27/44
A61L27/20
A61L27/22
A61L27/24
A61L27/34
A61L27/52
A61P17/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021552141
(86)(22)【出願日】2020-03-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-22
(86)【国際出願番号】 EP2020055517
(87)【国際公開番号】W WO2020178274
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-12-07
(31)【優先権主張番号】19160452.9
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515348611
【氏名又は名称】ハンス ウー.ベーア
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(72)【発明者】
【氏名】ハンス ウルリヒ ベーア
【審査官】石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-526090(JP,A)
【文献】特表2016-521614(JP,A)
【文献】特開2008-120787(JP,A)
【文献】特表2002-510523(JP,A)
【文献】特表2010-519996(JP,A)
【文献】Biomaterials,2005年,Vol.26,pp.2559-2566
【文献】日本再生歯科医学会誌,2009年,Vol.7,pp.1-9
【文献】Pediatr Surg Int,2008年,No.24,pp.1041-1045
【文献】Journal of Biomedical Materials Research B : Applied Biomaterials,2014年,Vol.1028,pp.797-805
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-33/18
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の体内の、ヘルニア修復における使用のための生分解性メッシュ移植片であって、前記メッシュ移植片は、
多孔質の、親水性の生分解性ポリマー担体メッシュ(10)、及び
前記ポリマー担体メッシュ上又は内に線維芽細胞(16)を含み、
ここで前記担体メッシュ(10)が異なる大きさの相互接続した孔を有するスポンジ状構造を含み、
75°未満の水接触角を有し、かつ
主成分としてポリ乳酸を含んでいる少なくとも第一のポリマーから作られる生分解性メッシュ移植片。
【請求項2】
前記ポリマー担体メッシュが40°未満の水接触角を有する、請求項1に記載の移植片。
【請求項3】
前記担体メッシュが平板状の形状を有し、かつ弾力的に変形可能であり、その折りたたみ又は回転を可能にする、請求項1又は2に記載の移植片。
【請求項4】
第一のポリマーが少なくとも70%のポリ(乳酸)からなる、請求項1~3のいずれか一項に記載の移植片。
【請求項5】
前記ポリマー担体メッシュが、第一のポリマー単体又は第一のポリマー並びにコラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブリノゲン、アルブミン、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸アルギニン酸塩(hyaluronic acidalginate)及びそれらの混合物の群より選択される少なくとも一つの天然のポリマーからなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の移植片。
【請求項6】
前記ポリマー担体メッシュの前記スポンジ状構造が少なくとも一つの天然ポリマーによって覆われる、請求項5に記載の移植片。
【請求項7】
前記担体メッシュが1~12カ月の生体内の総分解時間を有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の移植片。
【請求項8】
前記線維芽細胞が前記移植片を受けることを意図される患者の自家線維芽細胞である、請求項1~7のいずれか一項に記載の移植片。
【請求項9】
さらに成長因子を含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の移植片。
【請求項10】
前記成長因子が胎盤性の間葉系のセクレトームにおける成長因子である、請求項8に記載の移植片。
【請求項11】
a)75°未満の水接触角を有する、異なるサイズの相互接続される孔を有するスポンジ状構造を含み、かつ主成分としてポリ乳酸を含む少なくとも一つの第一のポリマーから作られる生分解性ポリマー担体メッシュを提供すること;
b)50℃未満の温度での酸化性ガスプラズマによる前記ポリマー担体メッシュのプラズマ処理;そして
c)線維芽細胞を有する前記ポリマー担体メッシュを播種すること
による、請求項1~10に記載のメッシュ移植片を調製する方法。
【請求項12】
a)75°未満の水接触角を有する、異なるサイズの相互接続される孔を有するスポンジ状構造を含み、かつ主成分としてポリ乳酸を含む少なくとも一つの第一のポリマーから作られる生分解性ポリマー担体メッシュを提供すること;
b)天然ポリマーにより前記ポリマー担体メッシュの少なくとも前記表面を覆うこと;
c)50℃未満の温度での酸化性ガスプラズマによって前記ポリマー担体メッシュを処理することによる前記担体メッシュのプラズマ処理;そして
d)線維芽細胞を有する前記ポリマー担体メッシュを播種すること
のステップを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
線維芽細胞による播種の前に、前記ポリマー担体メッシュが50℃未満の温度でHによってそれを処理することにより滅菌される、請求項11及び12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記滅菌ステップが、10-2~10-6 barの範囲内の圧力で、少なくとも1分間、Hプラズマにより前記ポリマー担体メッシュを処理することによって、又は前記担体メッシュをH含有雰囲気に曝露することによって実施される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記担体メッシュ上に成長因子を含むセクレトームを添加することのステップをさらに含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
患者の体内における、ヘルニア修復における使用のための移植キットであって、前記移植キットは、
線維芽細胞を有する生分解性ポリマー担体メッシュを含んでいる、請求項1~10のいずれか一項に記載のメッシュ移植片、及び
ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸)及びそれらの混合物からなる群より選択される一以上の前記ポリマーを含むポリマー支持メッシュを含み、
ここで
前記ポリマー担体メッシュは前記支持メッシュよりもより速い分解速度を有する移植キット。
【請求項17】
腹部筋組織に面し、かつ75°未満の水接触角を有する親水性の層、並びに90°より大きい水接触角を有する疎水性の層からなる2つの個々の又は複合の層を含む抗癒着メッシュをさらに含む、請求項16に記載の移植キット。
【請求項18】
前記支持メッシュが平板状の形状を有し、かつ前記ポリマー担体メッシュが前記線維芽細胞を含むペースト又はヒドロゲルの形態である、請求項16又は17に記載の移植キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に軟組織修復における使用のための、かつ特に請求項1に請求されるような外科的なヘルニア修復のための線維芽細胞により播種されるポリマー担体メッシュを含む生分解性メッシュ移植片に関する。本発明はさらに、そのメッシュ移植片を調製するための方法並びに本発明のメッシュ移植片及び追加のポリマー支持メッシュを含むキットに関する。
【背景技術】
【0002】
創傷治癒は、一連の相互に関係のある細胞的な事象及びサイトカインカスケードの編成を含む複合的なプロセスである。創傷治癒の主なフェーズは、フィブリン血栓形成に続いて、炎症性細胞及び線維芽細胞の浸潤、肉芽組織及び血管形成の発生、並びに上皮再形成を含む。成長因子及びサイトカインは、最初に血小板を脱顆粒させることにより、そして後に線維芽細胞及び炎症性細胞、特に好中球及びマクロファージにより、供給される重要な役割を果たす。また、その複雑な性質のために、その創傷治癒プロセスは、壊れやすく、そして中断又は失敗に敏感であり、治癒が深刻に機能を果たさない慢性創傷の形成に繋がる。それゆえ、その軟組織欠損のサイズ及び型に依存して、外科手術的な修復はその創傷治癒プロセスを補助し、かつ合併症のリスクを下げるために必要とされうる。
【0003】
外科的な軟組織修復の分野において、その組織損傷の領域を覆うために挿入される再吸収可能な又は再吸収不可能な材料からなるメッシュ移植片が往々にして使用される。そのメッシュ移植片は、その欠損の機械的な閉鎖として用いられ、そして、そのメッシュ移植片の周囲に強力な繊維性の瘢痕組織を形成する組織を再生するための、すなわち細胞を成長させるための支持構造を提供する。
【0004】
慢性創傷は別として、メッシュ移植片は、往々にして、ヘルニア欠損の、特に腹壁の外科手術の修復において用いられ、それは、損傷、腫瘍の切除、又は脱出からの結果でありうる。一般用語において、ヘルニアとは、前もって作られた、又は後天的なギャップを通じる天然の体腔の外への器官又は器官の一部の通過として記載されうる。最も頻繁に引き起こされるヘルニアの型は、鼠径ヘルニア又は大腿ヘルニア、裂孔ヘルニア、臍ヘルニア及び瘢痕ヘルニアであり、その後者は、外科手術後の切開又は手術を通じて押し出されるヘルニアである。外科手術のヘルニア修復において、そのメッシュ移植片は挿入され、腹壁内の欠損の領域を覆い、その周囲の筋肉及び筋膜を縫合することの有無に関わらず、伸長強度のない閉鎖をもたらす。これは、局所麻酔下又は全身麻酔下で開腹手術又は低侵襲手法の腹腔鏡を用いて行われうる。
【0005】
ヘルニアが発生する理由は未だに十分に理解されていない。当該分野において示される一つの説は、コラーゲン代謝障害により、ある患者が再発ヘルニアを発生することについて、特に高齢の患者において、遺伝的な素因を有することである。これらの患者におけるI型及びIII型コラーゲンの変化した比率は、III型コラーゲンの増加に伴い、結合組織の機械的強度を減らすと考えられている。III型コラーゲンの減少した伸長強度は、KLINGE,U.et al.Abnormal collagen I to III distribution in the skin of patients with incisional hernia. Eur Surg Res.2000,vol.32,no.1,p.43-48に参照されるように、瘢痕ヘルニアの発生において重要な役割を果たすと見られている。また、コラーゲン産生の障害は慢性創傷、すなわち、特に糖尿病患者及び血管障害を有する患者において、適当に治癒せず、そして何度も開いた傷の発生要因であると考えられている。
【0006】
今日外科的な軟組織修復において用いられる商用利用可能なメッシュは、分解できないものか又は十分に分解でき、そしてある時間の経過後に患者の体内に吸収されるもののいずれかである。
【0007】
再吸収不可能なメッシュ移植片は、ほとんどの場合様々なプラスチックより作られ、移植後数年間生物学的安定性及び安全性を保つことが知られている。しかしながら、異物材料をヒト又は動物の体内に導入することは、メッシュの移動、慢性炎症、感染のリスク等のように副作用を伴いうる。また、体内への比較的大きいプラスチック片の導入は、その体内の免疫防御システムによりもたらされる異物反応を誘導しうる。結果として、そのメッシュ移植片は、機能を支援するその組織を破壊し、かつ緩める。さらなる問題は、そのメッシュのために用いられるプラスチック材料、例えばポリプロピレンが、限定的な細胞増殖刺激効果を示すことである。それゆえ、その欠損部位の細胞の成長は往々にして制限され、かつ創傷治癒は延ばされる。
【0008】
一方で、十分に分解可能な(生分解可能な)メッシュは、体内に残存する異物組織がない利点を有する。ある十分に分解可能な材料、例えばポリ乳酸(PLA)又はコラーゲンは、繊維成長を促進すること、すなわち軟組織欠損内の細胞の成長を示し、それは迅速かつ持続した創傷治癒のために重要である。それにもかかわらず、そのメッシュが分解され、そしてあまりに早く吸収される場合には、その組織欠損にわたり徐々に作り上げられている瘢痕プレートは、日々の活動の間、未だに修復した軟組織へ適用されるストレスに耐えることができないだろう。これは、欠損を覆う瘢痕プレートが腹腔内圧に耐えなければならず、さもなければヘルニアのrelapseがたいてい保証されるので、ヘルニア修復の場合において特に重要である。加えて、例えばPLAより作られるメッシュは、むしろもろく、かつ腹腔鏡ツールを通じてメッシュを導入するために折りたたまれる又は回転される際に壊れる傾向がある欠点を有する。
【発明の概要】
【0009】
本発明によって解決される問題は、それゆえ軟組織欠損の、特に慢性損傷、瘻孔又はヘルニア欠損における、迅速な、安全なかつ安定的な閉鎖を可能にするメッシュ移植片を提供することである。同時に、そのメッシュ移植片の成分は、容易かつ安価に製造でき、かつ慣習の開腹及び腹腔鏡手術方法を用いることによって利用可能であるべきである。
【0010】
この問題は、請求項1に従うメッシュ移植片、請求項11に従う調製方法、及び請求項15に従う移植キットによって解決される。好ましい態様は、従属項の対象である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に従うキットの補助によって修復される軟組織欠損を介する部分の概略図。
【0012】
図2】線維芽細胞を有する担体メッシュ及び追加の支持メッシュを含む本発明のキットによって修復された以前のヘルニア領域を含む腹壁の切除した部分の上面図。
【0013】
図3A】線Aに沿って図2の腹壁を通じる、すなわち以前のヘルニア領域を通じる切片。
【0014】
図3B-C】それぞれ40倍及び200倍の倍率による図3Aの拡大した詳細な切片。
【0015】
図4A】線Bに沿って図2の腹壁を通じる、すなわち以前のヘルニア領域に近い切片。
【0016】
図4B】40倍の倍率による図4Aの拡大した詳細な切片。
【0017】
図5A】線Cに沿う図2の腹壁を通じる、すなわち以前のヘルニア領域と離れた切片。
【0018】
図6A】ヘルニア領域が線維芽細胞を有さないサポートメッシュを用いて修復された比較例の腹壁を通じる40倍の倍率によって拡大した詳細な切片。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に従って、患者の体内の、軟組織修復、特に外科的なヘルニア又は瘻孔修復又は慢性創傷治癒における使用のためのメッシュ移植片は提供される。そのメッシュ移植片は少なくとも主成分としてポリ乳酸を含む第一のポリマーから作られる多孔質の、親水性の生物分解性ポリマー担体メッシュを含む。「主成分」という用語は、それによって第一のポリマーのPLA含量が第一のポリマーが含む任意のさらなるポリマーの含量よりも高いことを意味する。
【0020】
(また「担体メッシュ」として以下に称されうる)ポリマー担体メッシュは、異なるサイズの相互接続した孔及び75°未満の水接触角を有するスポンジ状構造を有し、それは親水性であることを意味する。本発明の(また「移植片」として以下に称される)メッシュ移植片はさらに担体メッシュ上又は担体メッシュ内に存在する線維芽細胞を含む。
【0021】
本発明の一つの重要な要素は、その担体メッシュが、好ましくは主成分として、(一般的に「PLA」として又はポリ-L-乳酸の場合において「PLLA」として略される)ポリ(乳酸)、すなわち、一般的に天然で疎水性である生分解性合成ポリマーを含むことに関わらず、親水性であることである。さらに以下の詳細に記載される、その担体メッシュの調製における特定の加工ステップのおかげで、その担体メッシュは親水性の細胞透過性及び接着を促進するために重要である特性を提供されうる。
【0022】
本発明の別の重要な要素は、担体メッシュが線維芽細胞を有することである。驚くべきことに、軟組織欠損を閉鎖するための、特に組織を瘢痕化する、新たな組織の形成が、その欠損領域内に(任意の起源の、例えば自家の、異種の、異種親和性の(xenophilic))追加の線維芽細胞をもたらすことによって誘発されうることが発見された。それゆえ、例えば、軟組織欠損内、例えば慢性の創傷、瘻孔又はヘルニアに隣接する組織からの平滑筋細胞及び線維芽細胞の組織の内部成長を促進することに焦点を当てる代わりに、本発明の移植片は分解できる担体メッシュを用いて、その損傷領域内に増やされた数の線維芽細胞をもたらす。その線維芽細胞は、細胞外マトリックス組織及び様々な型のコラーゲン繊維を構成し、それによって軟組織欠損を閉鎖する瘢痕プレートを形成することに役立つ。そのように、その瘢痕プレートは分解可能な(そしてそれゆえ一時的な)ポリマー担体メッシュと損傷の周辺との間の堅い連結及び他の周囲の構造(例えば腹部ヘルニアの場合における腹壁)を形成し、追加の瘢痕形成を作ることにより所望される支持機能を保証するだろう。
【0023】
本出願内では、以下の定義を適用する:
「生分解性」という用語は、そのメッシュが生体内で設置され、ここでそれが体液によって取り囲まれる場合に時間と共に吸収されうることを意味する。
【0024】
本適用を通じて用いられるように「メッシュ」という用語は、細胞が定着するために適当である、足場構造又はスポンジ状構造を意味する、三次元的な支持、すなわちマトリックスを意味する。この意味において、そのメッシュは細胞又は組織により定着されうる三次元テンプレートとして寄与する。この定着はin vitro又はin vivoで起こりうる。さらに、そのメッシュは、移植に関連して、移植片を局在化するために、かつ、またin vivoで徐々に形成される組織のためのプレースホルダーとして寄与する。
【0025】
「多孔質の」という用語は、それによって、孔を有する構造、すなわち空洞又はボイド領域を意味する。これらの孔は、2次元の断面図において円形及び/又は角のある形状、並びに3次元で見られる場合に傾いた形状を有しうる。また、その孔の形状は神経細胞の形状と比較されうるように伸長によって特徴づけられうる。一般的に、「多孔質の」という用語は、ボイド領域を含むフィラメントによって形成される空洞を意味するが、本発明の意味における孔は3次元のスポンジ状構造において形成される空洞である。その空洞は、天然の海綿又はサンゴにおけるように、それによって壁により囲い込まれる。また、これらの孔又は空洞は相互に連結されることができ、2つの隣接する孔の間の孔の壁は穴を含みうることを意味し、前記隣接する孔の間の連結を形成する。これに関して、またその孔はハイドロゲルの顆粒の間のボイド領域によって形成されうることを意味している。
【0026】
上述のように、本発明のポリマー担体メッシュは、異なるサイズの孔を含む三次元の、多孔質の、スポンジ状の構造を有する。これは織物の網目構造とは対照的である。その孔の少なくともいくつかは、それによって相互に連結され、それらが流体的に結合される格子状のネットワークに空間を分割する。このように、その線維芽細胞はそのメッシュ構造を通じて広がりうる。
【0027】
本出願の意味において、本発明の文脈において用いられるように、「親水性」又は「親水性の」という本出願の用語は、75°未満である担体メッシュ上の直接の親水性の表面領域の水接触角を意味する。好ましくは、それは60°未満の接触角を意味する。
【0028】
述べられるように、PGA又はPLAのように、生分解性の合成ポリマーは、一般的に疎水性であり、そしてまたこれらのポリマーから調製される多孔質の足場又はメッシュの表面は、それゆえ、たいてい疎水性である。主成分としてPLAを含むポリマーメッシュの親水性の特性は、後処理方法、例えばプラズマ処理(すなわち、イオン化したガスプラズマによる処理)及び/又はその多孔質の足場構造の表面を天然ポリマー、例えばコラーゲン又はゼラチンによって覆うことによって増幅されうる。
【0029】
「生体適合性ポリマー」という用語は、生物学的に耐性のあるポリマーを意味し、かつ生体内にもたらされる場合に拒絶を起こさない。また、本発明について、生体適合性ポリマーは異物であるとして宿主によって認識されるが、それらの拒絶は適当な免疫抑制によって抑制されうるポリマーを含む。
【0030】
「生分解性」という表現は、生体(又は生体から由来した体液又は細胞培養物)において代謝可能な産物に変換されうる材料を意味する。生物学的に分解可能なポリマーは、例えば、生体吸収性及び/又は生体侵食性ポリマーを含む。「生体侵食性」は、生物学的な液体において溶解可能な又は懸濁可能な能力を示す。生体吸収性は、生体の細胞、組織又は液体によって取り込まれることができる能力を意味する。
【0031】
好ましい態様において、そのポリマー担体メッシュは40°未満の、好ましくは25°未満の、より好ましくは15°未満の水接触角を有し、最も好ましくは、その担体メッシュの親水性表面の水接触角は0°~10°の範囲内であり、かつ、それゆえ「超親水性」である。
【0032】
本発明の文脈において用いられるように「接触角」という用語は、表面上の水の接触角、すなわち水が表面に会合する界面で形成される角度に関する。それによって、接触角測定のために用いられる「水」は、純水、特に超純水に関する。特に、その接触角測定は、0.3μLの液滴サイズを用いて、液滴法によって(例えば、EasyDrop DSA20E、Kruss GmbHの装置を用いて)行われる。接触角は、一般的に表面上に置かれる液滴の外形に弓形関数をフィッティングすることによって計算される。
【0033】
親水性の特性を有する担体メッシュが、例えばヘルニア欠損の隣接する組織からの平滑筋細胞及び線維芽細胞の組織の内部成長を促進し、かつメッシュ上の及びメッシュを通じる細胞分布でさえ可能にすることが分かった。加えて、その担体メッシュの多孔質の特性は、細胞外マトリックス組織及び様々な型のコラーゲンファイバーを構築することに役立つ細胞のための成長を刺激する環境を提供し、それによってそのヘルニアを閉鎖する瘢痕プレートを形成する。その瘢痕プレートの形成は、分解可能な(及びそれゆえ一時的な)ポリマー担体メッシュとそのヘルニア欠損の周辺及び腹壁又は他の取り囲んでいる構造との間に堅い結合を確立する。一方で、その担体メッシュの分解が継続すると、その新たに形成した瘢痕組織は、追加の瘢痕化を作ることによって必要な支持機能を提供し、それによって再発するヘルニア形成を予防するだろう。結局、その担体メッシュの完全な分解後、すなわち、そのメッシュのポリマー成分が吸収された際に、永久的な異物材料は、その患者の体内に残されないだろう。
【0034】
好ましい態様において、その担体メッシュは平板状の形状を有し、かつ弾力的に変形可能であり、その折りたたみ又は回転を可能にする。この態様において、それが折りたたまれ又は回転され、かつそれがその元の形に戻りうるように、その担体メッシュは弾力的に変形可能であることが好ましい。これは回転した又は折りたたまれたメッシュの腹腔鏡手術におけるトロカールを通じる挿入を可能にする。
【0035】
その担体メッシュが平板状の形状において提供される場合に、好ましくは少なくとも0.1mmの、より好ましくは少なくとも0.3mmの、さらに好ましくは約1mmから約4mmの厚さを有し、ある場合において、それはより厚く、例えば最大10mmになりうる。
【0036】
シート状の形状において提供される場合に、その担体メッシュの横断図は任意の種類、例えば長方形、正方形、円形、楕円形等であり、そして続いて切断され、ヘルニア欠損の形状に適合しうる。例えば、その横断面の全体の形状は、円形又は楕円形でありうる。
【0037】
その担体メッシュは、一つの単一の連続構造の形態であり、又はまたそれがお互いに離れている多数のより小さいメッシュ片の形態(すなわち、「パッチ」)において提供されうる。これらの小さなメッシュパッチはペースト状、液体又は半液体製剤において含まれうる。
【0038】
別の態様において、その担体メッシュは、すなわち特定の三次元の外形又は横断の形状を有さずに、ヒドロゲルの形態において提供されうる。その一般的に親水性の性質により、ヒドロゲルは、その孔内の組織の成長を補助し、それによって組織へのその担体メッシュの即時の固定がもたらされる。また、そのヒドロゲルをさらなる物質、例えば成長因子又は医薬的に活性な物質と混合しうる。
【0039】
その担体メッシュの材料の組成物に関して、その担体メッシュは、主成分としてPLAを含む第一のポリマーだけで作られるか、又は第一のポリマー及びコラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブリノゲン、アルブミン、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸アルギニン酸塩(hyaluronic acidalginate)及びそれらの混合物からなる群より選択される追加の天然ポリマーで作られ、ここでコラーゲンが好ましい。
【0040】
好ましくは、そのポリマー担体メッシュのスポンジ状構造は、第一のポリマーからなり、そして少なくとも一つの天然ポリマーによって覆われる。その担体メッシュの多孔質の表面が天然ポリマーによってコートされる又は覆われる場合に、その担体メッシュの下部の多孔質の構造がコーティングによって変化されないことが好ましい。特に、その孔のサイズは、例えば担体メッシュの孔内の追加のネットワークを形成することによって好ましくは実質的に変化されない。これはそのコーティングがその担体メッシュ内を浸透し、かつ広がる線維芽細胞の能力に負に影響を与えないことを保証する。この関心におけるさらなる詳細は以下のさらなる実験的なセクションにおいて示される。
【0041】
その天然ポリマーが本質的に(閉鎖した孔内の表面を除く)担体メッシュの全ての接触可能な表面を覆うことはさらに好ましい。このように、細胞は表面上に広がるだけでなく、その担体メッシュの多孔質の構造内にも広がる。
【0042】
好ましくは、第一のポリマーは少なくとも70%のポリ(乳酸)から、さらにより好ましくは少なくとも80%のポリ(乳酸)からなる。PLAは良好な伸長強度及び高い弾性率を有することが分かった。加えて、PLAは、プラズマ処理によって及び/又はコラーゲンのような天然のポリマーによってそのPLA構造を覆うことによって得られる親水性の特性をもたらすことかつ維持することに関して都合がよいと見られた。
【0043】
本出願において、「ポリ乳酸(PLA)」という用語は、例えば、ポリ-L-乳酸(PLLA)又はポリ-D,L-乳酸(L-及びD-ラクチドのラセミ混合物;PDLLA)を含む。好ましい第一のポリマーの特定の例は、Sigma Corporationより商用利用可能である85,000~160,000の分子量を有するポリ(L-ラクチド)(PLLAカタログ番号P1566)である。適当な代替品は、Durect CorporationからのPLLA(Lactel(登録商標)カタログ番号B6002-2)である。
【0044】
より具体的に、高PLA含量を有する材料より作られる担体メッシュについて、特に第一のポリマーが50%より多いPLA、例えば少なくとも70%のPLAからなる場合に、例えばプラズマ処理単体又は天然ポリマーによってメッシュを覆うこととの組み合わせによって、その表面の親水性を大幅に向上させることができるだけでなく、その親水性は長期間にわたって保持されうることが分かった。また、実際に、その親水性は、(以下にさらに記載されるように)担体メッシュを過酸化水素によって滅菌した後に保持されると考えられる。この親水性の増加は、例えばメッシュが主成分としてPGAを有する場合には、プラズマ処理によってもたらされないと考えられる。
【0045】
第一のポリマーが本質的に純粋なPLAからなりうるが、またそれがPLAと他の生分解性材料、例えばPGAとの混合物から作られうる。例えば、第一のポリマーは、(第一のポリマーの重量に対して)75%のPLA及び25%のPGAからなりうる。PLAと他の生分解性材料との混合物を使用することについての一つの理由は、PGAなどの他のポリマーと混合したPLAから作られたメッシュと比較して、純粋なPLAメッシュがより歪み耐性が低いことである。PGAは、ポリグリコール酸の略称である。PLAとPGAとの共重合体は、いわゆる乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA又はPLG)であり、それらの柔軟性及び十分に定義された物理的な性質及び相対的な生体適合性によって、生分解性メッシュを加工するための魅力的な候補である。加えて、それらの分解産物は、通常の代謝経路に入る低分子量化合物である。さらに、PLGA共重合体は、乳酸とグリコール酸との共重合体比率を単純に変化することによって、数日から数年にわたる分解速度の幅広い範囲の利点を提示する。
【0046】
特に、そのメッシュ移植片を腹腔鏡下で低侵襲手術に用いることを意図した場合には、トロカールなどの腹腔鏡ツールを通じて挿入できなければならない。これらの適用について、その担体メッシュは好ましくは、ペースト又はヒドロゲルの形態又は代わりに腹腔鏡ツールを通じる挿入のための弾力的に折りたたまれうる又は回転されうる形状である。弾力性のある性質は、PLGA、すなわちPLAとPGAとの混合物を、第一のポリマーとして用いることによって提供されうる。
【0047】
それゆえ、折りたたみ可能な担体メッシュについて、第一のポリマーは好ましくはPLGA、特に約75モル%の乳酸含量及び約25モル%のグリコール酸含量を有するポリ(乳酸-グリコール酸)混合物から作られる。そのような75:25ポリ(D,L-ラクタイド-co-グリコライド)材料は、例えば、Evonik Industries AG (Essen,Germany)からのRESOMER(登録商標)RG 752として又はSigma Corporation PLGAカタログ番号P1941から購入されうる。さらなる好ましいポリマー混合物は、ポリ(D,L-ラクタイド-co-グリコライド)65:35、例えばRESOMER(登録商標)RG653;ポリ(D,L-ラクタイド-co-グリコライド)75:25、例えばRESOMER(登録商標)RG502又はDurect company(Cupertino,CA,USA);ポリ(D,L-ラクタイド-co-グリコライド)85:15、例えばRESOMER(登録商標)RG858又はLACTEL(登録商標)Absorbable Polymersである。
【0048】
述べられる合成ポリマーから多孔質のメッシュを調製するための調製方法は、当該分野で周知である。例えば、欧州特許番号2256155号に記載されるような塩浸出法の使用が考えられる。
【0049】
好ましい態様において、述べられるように、その担体メッシュは本質的に第一のポリマー単体又は第一のポリマー並びにコラーゲン、ゼラチン、ラミニン、フィブリノゲン、アルブミン、キチン、キトサン、アガロース、ヒアルロン酸アルギニン酸塩(hyaluronic acidalginate)及びそれらの混合物からなる群より選択されるさらなる天然のポリマーからなる。その天然ポリマーは好ましくは、その担体メッシュの全ての表面を覆う。このように、その担体メッシュは、特に、メッシュ上及びメッシュ内で細胞の生存率及び増殖速度を高める、親水性の、細胞フレンドリーな環境を提供する。
【0050】
上述の天然ポリマーから、コラーゲンは最も好ましい。コラーゲンは細胞外マトリックス(ECM)の生体分子であり、かつ皮膚及び骨の主成分である。そのナノ繊維状の構造物のおかげで、コラーゲンは特に細胞接着、成長及び組織培養における分化機能を促進することに有効である。また、しかしながら、その天然ポリマーがコラーゲンを含む場合に、本発明に従う担体メッシュの親水性の特性は特に増大されることが分かった。これに関して、本発明の文脈中に使用されるように「コラーゲン」という用語は、天然由来のコラーゲン及び合成的に産生したコラーゲン及びまたコラーゲン由来の物質、例えば、コラーゲンの加水分解型であるゼラチンを含む。
【0051】
好ましい態様において、その天然ポリマーは本質的にコラーゲンからなる。これに関して、その天然ポリマーは、一つのコラーゲンの型、すなわちI型のみからなりうるか、又はコラーゲンの型の混合物、例えばI型コラーゲン及びIV型コラーゲンの混合物からなりうる。後者の場合において、ほぼ等しい重量パーセントにおいてタンパク質を含む混合物が示されることが好ましい。容易に利用可能であり、高い生体適合性の程度を有し、かつ追加の伸長強度を提供するので、I型コラーゲンが最も好ましい。加えて、それは、天然の血管の主成分の一つであり、かつ創傷治癒プロセスにおいて含まれる細胞の天然の接着部位を提供する。また、最終的に、I~III型コラーゲンの分解産物は、ヒトの線維芽細胞の化学走化性を誘導することを示し、それは線維芽細胞を含む移植片としての担体メッシュの意図した使用について特に都合が良い。
【0052】
本発明の移植片の別の利点は、担体メッシュに物質例えばIV及びV型コラーゲン、フィブロネクチン、ラミニン、ヒアルロン酸、及びプロテオグリカンを取り込ませ、そして続いて細胞増殖に影響を与える創傷部位に送達させる能力である。また、同様に薬理学的に活性な物質、例えば上皮細胞増殖因子、血小板由来増殖因子、形質転換増殖因子β、血管新生因子、抗生物質、抗真菌薬、殺精子剤、ホルモン類、酵素類、及び/又は酵素阻害剤は担体メッシュ内に取り込まれうる。
【0053】
たいていその成分の生体吸収を通じて起こるであろう、体内の担体メッシュの分解に関して、1~12カ月の、好ましくは1~8カ月の、より好ましくは約1~6か月の、最も好ましくは約2~4カ月の生体内での総分解時間を有することが好ましい。
【0054】
瘢痕組織形成を促進するために、それゆえ、その担体メッシュがさらに成長因子、好ましくはインターロイキン、酸性の線維芽細胞増殖因子、塩基性の線維芽細胞増殖因子、上皮細胞増殖因子、インスリン様増殖因子、インスリン様増殖因子結合タンパク質、血小板由来増殖因子、形質転換増殖因子α、形質転換増殖因子β、VEGF、及びHGFからなる群より選択されるものを含むことが好ましい。これらの成長因子は細胞増殖及び分化、タンパク質合成及びECM(細胞外マトリックス)リモデリングを制御するために重要である。特に、β-FGF、PDGF、VEGF、及びHGFは、血管新生サイトカイン分泌を通じて、肉芽、上皮形成、及び毛細管形成を増やすことを示した。また、それらは移動を阻害しかつIL-1α及びIL-1βの両方を抑制する因子を分泌することによって好中球及びマクロファージの創傷部位への移動を阻害し、そしてアポトーシスを防止しかつ創傷治癒を改善する抗炎症性因子を分泌することを示した。
【0055】
好ましくは、その成長因子は、胎盤性の間葉系のセクレトームと共に担体メッシュに加えられた。ある好ましい商用利用可能なセクレトームは、低酸素状態で培養されたヒトワルトンゼリー幹細胞(CM-hWJSC)からの幹細胞を含むセクレトームである。この幹細胞セクレトームはStem Cell and Cancer Institute(PT.Kalbe Farma Tbk.)から入手されうる。そのセクレトームは用いられその担体メッシュ上に移植された細胞の成長を刺激する。医療機器としてのその使用を考慮して、そのセクレトームの追加をインキュベータにおいて体外で用いることができ、細胞の成長を刺激し、移植する。十分な細胞増殖が成し遂げられ次第、そのメッシュは移植前に培地で洗浄されうる。
【0056】
低酸素条件において培養され細胞成長を刺激するヒトワルトンゼリー幹細胞(CM-hWJSC)からの幹細胞を含むセクレトームの使用は、線維芽細胞の刺激についてだけでなく、ほかの細胞、特に操作及び培養により繊細である細胞、例えば肝臓細胞(肝細胞)について高い効率であることが示された。実際に、肝細胞は一般的に膵臓の細胞、特にランゲルハンス島の細胞と、これが肝細胞の生存率及び増殖速度を高めることを示したので、共培養される。培養培地内に肝細胞に述べられたセクレトームを添加する際に、その幹細胞の成長及び増殖が、ランゲルハンス島の細胞との共培養における場合よりもよりさらに良いことが分かった。
【0057】
担体メッシュ上に提供される線維芽細胞は好ましくはその移植を受けることを意図される患者の自家線維芽細胞である。このように、異種細胞の材料の移植のために所望されない免疫反応を示している患者のリスクは非常に減少される。
【0058】
また、本発明は以下のステップにより上記のようなメッシュ移植片を調製するための方法に関する:
a)上記のような生分解性ポリマー担体メッシュを提供すること;
b)50℃未満の温度での酸化性ガスプラズマによってポリマー担体メッシュのプラズマ処理;そして
c)線維芽細胞を有するポリマー担体メッシュを播種すること。
【0059】
そのプラズマ処理は、その担体メッシュの安定性又は構造的なインテグリティに有害な影響をもたらすことなく、その表面の親水性の特性を高めることが分かった。試験は、そのプラズマ処理が、特にそのポリマー担体メッシュが高PLA含量を有した、すなわち主成分としてPLAを含む場合に、親水性の特性を増やす及びまた維持するために効果的であったことを示した。一方で、PGAメッシュのプラズマ処理は、著しくその親水性を増やさなかった。
【0060】
プラズマ処理のために用いられるイオン性ガスプラズマは、好ましくはヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、シラン、水素、酸素及びそれらの混合物からなる群より選択される。好ましい処理ガスは酸素である。
【0061】
そのプラズマ処理は、好ましくは低圧のプラズマ処理を含み、ここでその担体メッシュは50℃未満、好ましくは40℃未満の温度でイオン化したガスプラズマに曝露される。その圧力は、好ましくは10-2~10-6 barの範囲内、好ましくは0.1~1.0 mbarの範囲内である。
【0062】
好ましい処理時間は、少なくとも1分間、好ましくは2~30分間、より好ましくは5~20分間である。
【0063】
「プラズマ」という用語は、それによって一般的に励起した及びラジカル化したガス、すなわち電子及びイオンを含んでいる導電プロセスガスを意味する。プラズマは一般的に真空チャンバー内の電極を用いて発生される(いわゆる「RFプラズマ法」)が、また容量性(capacitive)若しくは誘導性(inductive)の方法、又はマイクロ波放射を用いて発生されうる。
【0064】
より好ましくは、上記のように移植片を調製するための方法は、
a)上記のような生分解性ポリマー担体メッシュを提供すること;
b)少なくともそのポリマー担体メッシュの表面を天然ポリマー、好ましくはコラーゲンによって覆うこと;
c)50℃未満の温度での酸化性ガスプラズマによるポリマー担体メッシュのプラズマ処理;そして
d)線維芽細胞を有するそのポリマー担体を播種すること
のステップを含む。
【0065】
また、天然ポリマー、特にコラーゲンによってポリマー担体メッシュを覆うことは、メッシュの表面の親水性の特性を増やし、かつ細胞の増殖について担体として担体メッシュを用いることを考慮して非常に都合が良いことがわかった。
【0066】
線維芽細胞による播種の前に、そのポリマー担体メッシュは50℃未満の温度でHによってそれを処理することにより滅菌されることが特に好ましい。
【0067】
本発明の調製方法の滅菌ステップは、本発明の移植片の調製について非常に好ましい。驚くべきことに、ポリマー担体メッシュの分子構造の変化又はさらなる分解をもたらし、そしてそれゆえその機械的及び酵素学的な耐性を低下させるだけでなく、その親水性の特性を減らすことが示されていた高熱の蒸気、γ線、電子ビーム照射又は過酷な化学処理を含む任意の慣習の滅菌方法を用いることなく、過酸化水素を用いた滅菌が、担体メッシュの完全な滅菌を可能にすることが分かった。加えて、本発明の過酸化水素滅菌法は、その担体メッシュ状に提供されうる任意のコラーゲン層を保つ。特にコラーゲンのナノサイズの厚さの層の場合において、コラーゲン層の変性に繋がる慣習の滅菌技術と対照的に、上記のようなH処理は、この劣化作用をもたらす。
【0068】
その滅菌時間は、チャンバー内に温度及び圧力及びH溶液の濃度に高く依存する。好ましくは、そのH溶液は、約30容量%以下の量のHを含む。好ましい処理時間は、少なくとも1分間、好ましくは少なくとも5分間、又は少なくとも1時間である。「より高い」圧力(例えば、約10mbar)及び低温(例えば40℃未満)又は30容量%未満のH濃度が適用され、最大10~12時間の処理時間が好都合でありうる。
【0069】
環境を含む過酸化水素は、(一般的に液体の)過酸化水素の供給源と共に、Hプラズマ処理によって又は真空チャンバー内で滅菌される物質を置くことによるいずれかで提供されうる。真空チャンバー内の真空の適用上、その過酸化水素は昇華し、そして過酸化水素を含む雰囲気が作られるだろう。加えて、真空チャンバーにおいて適用される負の圧力は好ましくは10-6~10-2barの範囲内、より好ましくは0.1~20.0mbar、例えば約9mbarである。
【0070】
創傷治癒プロセスを補助するために、上記の方法は好ましくは、成長因子を含むセクレトーム、特に胎盤性のセクレトームが担体メッシュ上又は担体メッシュ内に与えられる追加のステップを含む。
【0071】
また、本発明は、第一の創傷閉鎖における、例えば第一の腹部切開後の、創傷治癒を、特に慢性創傷の場合において補助する、第一の創傷閉鎖、かつ瘢痕化プロセスにおける本発明のメッシュ移植片の使用に関する。加えて、また瘻孔又はヘルニアの閉鎖における使用のために非常に適当である。
【0072】
さらなる側面において、本発明はまた、上記の移植片を用いるヘルニアを閉鎖する方法に関する。一般的に、前記方法の間、播種された線維芽細胞を有する分解可能なポリマー担体メッシュは、その欠損上、例えば腹壁(Lichtensteinに従う鼠径ヘルニア修復)、腹壁の筋層下(sub-lay法)、IPOM修復として、又は外科医が修復に適合すると理解しうる任意の手法で設置される。
【0073】
ヘルニアとは別に、また、本発明のメッシュ移植片は特に、瘻孔の手術的な閉鎖に十分に適当である。瘻孔は、病理学的に腹腔内と皮膚とを結びつける上皮組織で囲まれた結合であり、皮膚のレベルで開口を有し、往々にして皮膚を通じて漏れ出す液体を産生し、又は、病理学的な大腸又は小腸と肛門領域との間の結合である。瘻孔は、外科的に治療することが困難であり、繰り返し再発される傾向がある。今日まで、瘻孔全体の完全な切除が最適な治療である。様々な材料が切除された溝内に挿入され治癒プロセスを改善するために開発された。長期間の成功を保証するものはない。しかしながら、上記のような線維芽細胞を有する担体メッシュの挿入又は移植がその治癒プロセスを実質的に増加することを発見した。また、この効果は慢性創傷及び瘻孔において見られた。これに関して、上記と一致して、その担体メッシュはシート型であるか又は決まった形状を持たないヒドロゲルのペーストの形態でありうる。
【0074】
本発明はさらに、患者の体内で、外科的な軟組織修復、特に瘻孔又はヘルニア修復における使用のためのキットに関し、ここでそのキットは、a)上記のようなポリマー担体メッシュ及びb)ポリマー担体メッシュより遅い分解速度を有する追加の、好ましくは生分解性の、支持メッシュを含む。
【0075】
その支持メッシュが生分解性である場合、それは好ましくは、4~12カ月の範囲内の分解速度を有する。
【0076】
分解不可能な又は分解可能な支持メッシュはポリマー担体メッシュの下に設置されることを意図され、そのポリマー担体メッシュが分解された後、ヘルニアを架橋する。これは、一般的に、その支持メッシュが最初の三カ月後に追加の支持機能を提供するであろうことを意味する。
【0077】
好ましい態様において、その支持メッシュは生分解性でありかつ最大で12カ月後に分解されるだろう。担体メッシュと同様に、その支持メッシュは好ましくは部分的に親水性であり、そしてそれゆえ、ヘルニアを架橋する瘢痕プレートの形成を促進する。
【0078】
最も好ましくは、その支持メッシュは一般的に商用利用可能なメッシュである。
【0079】
好ましい態様において、そのポリマー支持メッシュは、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸-グリコール酸)、及びそれらの混合物からなる群より一以上のポリマーを含む。また、この態様において、ポリマー担体メッシュとその支持メッシュとの両方が生分解性である場合に、その時、その担体メッシュは好ましくは、その支持メッシュよりも好ましくはより速い分解速度を有する。
【0080】
さらに好ましい態様において、そのキットは、支持メッシュとして
i)腹膜又は曝露される腹部の筋組織若しくは筋膜に面する親水性の層であって、かつ75°未満の、好ましくは60°未満の水接触角を有し、かつ
ii)90°より大きい水接触角を有する疎水性の層
からなる二つの個々の又は複合の層を含む追加の二層化した抗癒着メッシュを含む。
【0081】
移植キットのこの態様は、二つの主要な利点を提供する:一方で、そのポリマー担体メッシュは損傷、特にヘルニア又は瘻孔の一時的な閉鎖を提供し、一方で線維芽細胞はその担体メッシュのその分解後に支持機能を引き継ぐ新しい瘢痕組織を形成する。支持メッシュとして機能する二層化した抗癒着メッシュは、一方で、軟組織欠損に面する側の組織成長を、特に段階的にその損傷を閉鎖する瘢痕プレートを形成することに役立つ移植した線維芽細胞の増殖を、促進する親水性の特性を有する上層、及び様々な細胞、とりわけ炎症性細胞、フィブリン又はデブリの腹腔内側、すなわち、炎症の発生及び抗癒着メッシュ又は新たに形成される瘢痕プレートと下部の腹部組織との間の癒着組織成長の形成のような、その損傷から離れて面するその支持メッシュの側から抗癒着メッシュへの付着を予防する疎水性の特性を有する下層を有する。
【0082】
その支持メッシュは一般的に担体メッシュよりもより低い分解速度を有すると述べられているが、また、それは、その支持メッシュの部分が、担体メッシュの一つと同様の分解速度を有することでありうる。例えば、その態様において、その支持メッシュが上の段落に定義されるような上層及び下層を有し、例えば生体内の上層の分解時間が1~3カ月の間、好ましくは約2カ月であり、かつ生体内の下層の分解時間が4~8カ月の間、好ましくは約6か月であるように、その上層はその下層よりもより速い分解速度を有しうる。これは、この二層化した態様において、それがたいてい最初の4~8カ月の間に追加の支持機能を提供する支持メッシュの下層であることを意味する。この時間の後に、その下層は好ましくは同様に分解するだろう。
【0083】
ヘルニア又は瘻孔の修復にそれらの使用を考慮すると、ポリマー担体メッシュと支持メッシュとの少なくとも一方、好ましくは両方が、腹腔鏡ツールを介して患者の体内にそれを/それらを挿入可能である柔軟性を有することが好ましい。
【0084】
ポリマー担体メッシュ、及びサポートメッシュのそれぞれは、任意のいかなる形状、たとえば長方形、正方形、円形、楕円形等において供給でき、そして続いて切断し、ヘルニア欠損の形状に適合させる。一方で、そのメッシュは一般的に正方形又は長方形の形状を有しうる。さらに代わりに、その支持メッシュは平板状の形状であり、かつその担体メッシュは線維芽細胞を含むペースト又はヒドロゲルの代わりである。このように、その支持メッシュは担体メッシュを適所に保持し、一方でその担体メッシュは用いられ、軟組織欠損を塞ぎうる。
【0085】
ヘルニアを閉鎖するために用いられる際に、本発明の移植キットは以下のように用いられうる:
【0086】
第一に、上記のような移植キットが提供される。続いて、切開を患者の皮膚及び組織を通じて行い腹膜内の欠損に近接させる。そのポリマー支持メッシュは続いてその欠損上、例えば腹壁(Lichtensteinに従う鼠径ヘルニア修復)又は代わりに腹壁の筋層下(sub-lay法)又はIPOM(intraperitoneal on lay mesh)として腹膜下のいずれかに設置され、支持メッシュの上部の上にポリマー担体を設置する。平板状の形状において提供される場合に、その担体メッシュは追加で腹部の筋肉に接着されうる。続いて、その切開を閉鎖する。
【0087】
そのヘルニア欠損は、たいてい瘢痕プレートにより、生分解性担体メッシュが段階的にその強度及び堅さを失う3~6か月以内に閉鎖されるだろう。結局、そのメッシュの成分が体内で生体吸着性を有する永続的な異物材料は残存しないだろう。
【実施例
【0088】
担体メッシュの調製
【0089】
塩化ナトリウム(NaCl)微粒子を乳鉢及び乳棒を用いて粉砕し、ふるいにかけて、355~425μmの範囲内のNaCl微粒子を得た。9gのNaCl微粒子を遠心管内に入れて、そしてデシケータ内で乾燥した。そのNaCl粒子を続いてアルミ鍋に入れた。
【0090】
5mLのクロロホルム内に1gのPLLA丸薬を溶解して調製したPLLA溶液をNaCl微粒子と混合して、そしてその混合物を続いてアルミ鍋に均一に拡げて、平たいPLLA層を形成した。その溶媒を20~48時間、好ましくは24~36時間、最も好ましくは28~32時間室温で空気乾燥によって蒸発させた。一方で、その溶媒蒸発を制御した温度のオーブン内で実施し、ドラフト内に設置してクロロホルムの毒性のガスを除いた。
【0091】
そのプレ乾燥したPLLA-NaCl層をアルミ鍋より分離し、そして0.1MPaの陰圧下を有するバキュームチャンバー内で3~4日間乾燥した。
【0092】
その結果として生じた乾燥したPLLA層をビーカー内に設置し、そして脱イオン水によってそのマトリックスを洗浄することによってNaCl微粒子を浸出した。結局、そのマトリックスをddHO(再蒸留水)に浸し、そして25℃(室温)、60rpmで48時間リニアシェイキングバスにおいて保持した。そのビーカー内の水を1~2時間ごとに交換した。それゆえ調製したPLLAメッシュをビーカーから除去して、そしてドラフト内で一晩乾燥した。
【0093】
コラーゲンによる後処理
【0094】
それらのPLLAメッシュを1cmの直径を有する円形に切断した。各PLLAメッシュを続いて真空下でI型コラーゲン酸性溶液(Wakoより購入した、1.0(w/v)%、pH3.0)に浸し、そのメッシュの孔をコラーゲン溶液によって満たした。PLLAメッシュ内の任意の超過したコラーゲン溶液を除去するために、それらを遠心チューブに置き、そしてそのチューブを2000gの遠心加速度で10分間遠心した。600gを超えた加速では、孔内のコラーゲンマイクロスポンジを形成する代わりにコラーゲンによってコートしたPLLAメッシュを提供することが分かった。
【0095】
そのコラーゲン-PLLAメッシュを続いて-80°で12時間凍結し、そして追加の24時間<5Paの減圧下で凍結乾燥し、そのメッシュから任意の溶媒を除去した。
【0096】
(そのメッシュの調製のために必須ではないことが示された)架橋剤を用いた場合に、そのコラーゲンPLLAメッシュをさらに25%グルタルアルデヒド水溶液によって飽和させたグルタルアルデヒド蒸気による37℃で4時間の処理によって架橋した。架橋した後に、そのメッシュを0.1Mのグリシン水溶液によって処理し、未反応のアルデヒド基をブロックした。グリシンの代わりの、他のブロック剤は、例えばカゼイン、アルブミン、ゼラチン又は無水メタノール-酢酸(methanol-acetic anhydride)を用いうる。脱イオン水によって洗浄し、そして凍結乾燥した後に、そのポリマー担体メッシュを最終産物として得た。(またフリーズドライすることとしても知られる)凍結乾燥後、そのコラーゲン-PLLAメッシュをデシケータ内に使用時まで保存した。
【0097】
その担体メッシュを50~900マイクロメートル、好ましくは280~560マイクロメートル、最も好ましくは355~425マイクロメートルの範囲内の直径を有する孔によって調製した。
【0098】
特に、PLLAメッシュにおける孔は、NaCl粒子と本質的に同じ形状を有した。PLLAメッシュのコラーゲンコーティングはそれによって、その表面の水和性(親水性)を変化させただけでなく、その孔の構造を変化させなかった。
【0099】
未コートのPLLAメッシュと比較して、そのコラーゲンコートしたPLLAメッシュは、改善した水和性と高い吸水性との両方を実証した。
【0100】
プラズマ処理
【0101】
コラーゲンによってコートされた、又はされていないいずれかの担体メッシュは、イオン化したガスプラズマを用いて、好ましくはヘリウム、アルゴン、窒素、ネオン、シラン、水素、酸素及びそれらの混合物からなる群より選択される、任意にプラズマ処理にかけられた。好ましくは、イオン化した酸素、水素又は窒素ガスプラズマを用いるプラズマ処理を用いた。
【0102】
そのプラズマ処理をDienerからのプラズマ処理装置(Diener electronics;Plasma-Surface-Technology;Ebhausen,Germany)を用いて5~20分間、好ましくは8~15分間の時間真空チャンバー内で実施した。その処理パラメータを以下のように設定した:真空チャンバー内の圧力:0.40mbar;出力35W;酸素ガス流速:5sccm(分)~60sccm(最大)。
【0103】
滅菌
【0104】
最終的に、その担体メッシュを続いてそれらをH含有雰囲気に担体メッシュを曝露することによるH含有環境にそれらを設置することによって滅菌した。
【0105】
そのH含有環境又は雰囲気を真空チャンバー内で、その担体メッシュをH溶液を含む開いたフラスコと共にチャンバー内に置くことによって、そして続いてそのチャンバーを排気しHを蒸発させることによって作られた。そのH溶液は30容量%の量においてHを含んでいた。その処理時間はチャンバー内の圧力及びH溶液の濃度に高く依存する。好ましくは、その滅菌時間は10~12時間、40℃の温度及び約9mbarの圧力であった。しかしながら、より低圧又は高温で、また、数分の処理時間のみでも効果的であることを示した。
【0106】
静的接触角測定、液滴法
【0107】
接触角測定を実施し、親水性又は疎水性の程度を決定した。たいてい、そのメッシュの接触角を決定した。超純水による液滴試験を用いて、静的接触角測定により決定した(EasyDrop DSA20E,Kruss GmbH)。0.3μLのサイズを有する水滴を自動化したユニットを用いて投与した。表面に置かれた液滴の輪郭への弓形関数をフィッティングすることによって接触角の値を計算した。
【0108】
線維芽細胞の回収、培養及び播種
【0109】
線維芽細胞の回収を約2cm×1cmの厳密な滅菌条件下の完全な厚さの皮膚試料の皮膚科学的な又は外科的な切除によって行った。その試料を滅菌容器内に置き、そして事前に温めた2%抗生物質/抗真菌薬(AB/AM)を含むPBSにより覆った。その試料を実験室に移し、ここでそれを事前に温めた2%AB/AMを含む洗浄/EGTA溶液によって洗浄した。その洗浄した皮膚試料を新たに調製した200Unit/mLのコラーゲン分解酵素、10~20%PBS、2%AB/AM、2mM L-グルタミン及び1mM ピルビン酸ナトリウム溶液を含む完全DMEM培地によって覆い、続いて、それを37℃で5%CO2、3~5時間、真皮側を下にして培養した。全ての真皮側をコラーゲン分解酵素溶液内に溶解するまでその真皮側をセルスクレーパーにより穏やかにこすった。その真皮部分を捨て、そしてその細胞懸濁液を100μmのナイロン細胞シーブを通じてふるいにかけ、そしてそのシーブ内に収集した細胞をPBS(2%AB/AM)により完全にすすぎ、遠心チューブ内に回収した。その細胞を10分間遠心分離し、その上清を捨て、そしてその細胞を10~20%FBS、2%AB/AM、2mM L-グルタミン、1mM ピルビン酸ナトリウム及び10mM HEPESを含む完全DMEM培地中に再懸濁した。その再懸濁した細胞をコラーゲンコートしたフラスコに加え、そして37℃、5%COで30分間培養した。フラスコのコラーゲンコートした表面に付着した線維芽細胞を培養培地中に残存していた線維芽細胞でない細胞から分離した。細胞のカウントをトリパンブルー染色によって実施した。
【0110】
線維芽細胞を所望される場合にDMEM培地中で培養した。その担体メッシュに線維芽細胞を播種した(1cmあたり500,000細胞数)。
【0111】
そのコラーゲンコーティングはその担体メッシュの多孔質の表面の水和性を増やすこと及びその細胞懸濁溶液の浸透を促進することが分かり、それらはその線維芽細胞が容易に担体メッシュの内部の孔に浸透することを可能にした。
【0112】
軟組織修復における患者の体内の本発明の移植片の構造及びその配置に関して好ましい態様は、さらに添付の図に関連して記載され、ここで
【0113】
図1では、本発明に従うキットの補助によって修復される軟組織欠損を介する部分の概略図を示している。
【0114】
図1の概略図では、本発明のメッシュ移植片10によって塞がれる筋組織12の欠損(ギャップ)を示している。具体的に、商用利用可能な支持メッシュ14を欠陥のある筋層12の下に配置し、欠損内に線維芽細胞16を含むポリマー生分解性担体メッシュ10を挿入した。続いて、その下層の皮膚17を修復し、すなわち縫合18によって閉鎖した。その担体メッシュは線維芽細胞を増殖させるための、かつ隣接する組織からの細胞の成長のための一時的な構造を提供する。一般的に、線維芽細胞16を有する担体メッシュ10は、単に欠損内に挿入され又は欠損にわたって設置されるだろう。支持メッシュ14のおかげで、移植部位からの担体メッシュ10の置換は保護される。
【0115】
そのメッシュ移植片の挿入後数日~数週にわたって、筋層組織欠損内の担体メッシュに沈着した線維芽細胞は増殖し、かつ隣接組織内にひろがり続けた。これは、隣接する筋組織内及びその欠損下の支持メッシュ内に広がった線維芽細胞により示された。その外来の線維芽細胞はコラーゲンを産生することが示され、それはその担体メッシュが十分に分解されるまで筋組織内の欠損を堅く閉鎖する瘢痕組織を構築することに役立つ。
【0116】
また、本発明のメッシュ移植片は、以下のセクションにおいて記載されるように、ラットにおいてin vivoで試験された。
【0117】
組織学
【0118】
ラットにおける実験的な腹壁ヘルニアを本発明に従う生分解性メッシュ移植片により、すなわち線維芽細胞を有する担体メッシュを用いて、修復した。この試験において、腹壁の筋組織内のヘルニアはその担体メッシュに添加した多数の線維芽細胞及びセクレトームを有する本発明の支持メッシュによって塞がれた。その移植した担体メッシュを適所に維持するために、筋組織内のヘルニアの上部と下部に1つずつ、上述の発明のキットの一部としての2つの追加の支持メッシュが移植された。皮膚損傷部位の組織学的な分析を図2図6Aに示した:
【0119】
図2では、線維芽細胞を有する担体メッシュ及び追加の支持メッシュを含む本発明のキットによって修復された以前のヘルニア領域を含む腹壁の切除した部分の上面図を示している;
【0120】
図3Aでは、線Aに沿って図2の腹壁を通じる、すなわち以前のヘルニア領域を通じる切片を示している;
【0121】
図3B-Cでは、それぞれ40倍及び200倍の倍率による図3Aの拡大した詳細な切片を示している;
【0122】
図4Aでは、線Bに沿って図2の腹壁を通じる、すなわち以前のヘルニア領域に近い切片を示している;
【0123】
図4Bでは、40倍の倍率による図4Aの拡大した詳細な切片を示している;
【0124】
図5Aでは、線Cに沿う図2の腹壁を通じる、すなわち以前のヘルニア領域と離れた切片を示している;
【0125】
図6Aでは、ヘルニア領域が線維芽細胞を有さないサポートメッシュを用いて修復された比較例の腹壁を通じる40倍の倍率によって拡大した詳細な切片を示している。
【0126】
図2に示されるように、その腹壁は、表皮20、真皮22、脂肪細胞を有する皮下組織24、筋組織26及び、筋肉領域26内、担体メッシュ及び支持メッシュが移植された以前のヘルニア領域28の層を含む。それゆえ、筋組織26内の以前のギャップは担体メッシュ(及び線維芽細胞)によって塞がれた。
【0127】
図3A~3Cでは、以前のヘルニア領域28の拡大した切片を示す。この領域28内で、組織腫瘤29は、以前のヘルニアを塞ぎ、かつ少なくとも一部の部分的に分解した担体メッシュ10からなる組織腫瘤29を可視化した。この腫瘤29において、間葉系様細胞(細長い細胞及び丸い細胞)の集団32が織り込まれた束の中に配置され、かつ、それぞれはっきりとした境界及び細粒状のクロマチンを有する楕円-平らな(oval-flat)核を有する放射状から針状の形の線維芽細胞16も見えうる。その間葉系細胞32は線維芽細胞16と共に担体メッシュ上に付着されたセクレトームから由来すると考えられる。その間葉系細胞32と混合されるものはコラーゲン繊維38である。脂肪組織30は線維芽細胞/コラーゲン/間葉系様細胞の腫瘤29の下に見える。腫瘤29の上の再上皮化領域40は、正角化性過角化及び角膜内の膿疱性再上皮化を有する上皮細胞のいくつかの層から腫瘤29を分離することを可視化する。支持メッシュ14の残存が筋層領域26と脂肪組織30との境界での腫瘤29下に見られうる(図3C)。
【0128】
たいてい、線維芽細胞は、さらに低い数において、かつ皮下領域において主に見られる。同定した細胞の多数及び位置はこれらの放射状から針状の形の線維芽細胞16が移植した担体メッシュ10から生じることを強く意味している。
【0129】
上記の見解の確認を図4A~6Aに示した:図4A及び4Bでは、図3A~Cの修復した腹壁を通じる切片を示しているが、その切断を以前のヘルニア28を通じて行わず、その近くを通じて行った。この近接領域において、ヘルニア領域28を覆うだけでなく、その周囲の近接する領域も覆うので、支持メッシュ14のみが存在する。その支持メッシュ14はいまだにはっきりと筋層26の上部及び下部に見える。図3A~3Cにおいて示される切片と対象に、担体メッシュは存在していない。
【0130】
一方で、図5Aではヘルニア領域から離れた組織を通じる、すなわち腹壁の通常の組織を通じる切片を示す。期待されるように、支持メッシュも担体メッシュも見られなかった。
【0131】
図6Aでは、コントロールの試験からの結果を示し、ここで線維芽細胞を有しない担体メッシュ10を移植し、ラットの腹壁内の軟組織欠損を閉鎖した。このコントロール試験では、図3A~3Cに(及び図6A内ではない)示される組織切片において定義された放射状から針状の形の細胞がその組織からの起源ではない線維芽細胞であることを確認した。それゆえ、本組織学的試験の結果は、線維芽細胞の存在が通常生じる創傷治癒及び炎症プロセスによらず、移植から由来する線維芽細胞であることを確認した。加えて、その線維芽細胞は担体メッシュの部位に留まるだけでなく、隣接する宿主組織内に活動的に移動することをもたらし、ここでそれらはコラーゲン形成をサポートし、それは改善した瘢痕形成へと段階的に導くと考えられる。
【0132】
それゆえ、組織学的な分析は、軟組織欠損内の移植した線維芽細胞の分布を示しただけでなく、内増殖及び隣接する組織内へのその線維芽細胞の移動を示した。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5A
図6A