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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】蒸留装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 3/22 20060101AFI20250106BHJP
   B01D 3/32 20060101ALI20250106BHJP
   B01J 19/32 20060101ALN20250106BHJP
【FI】
B01D3/22 Z
B01D3/32 D
B01D3/32 Z
B01J19/32
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021558429
(86)(22)【出願日】2020-11-18
(86)【国際出願番号】 JP2020043064
(87)【国際公開番号】W WO2021100780
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019208452
(32)【優先日】2019-11-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502369746
【氏名又は名称】住友重機械プロセス機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】阿部 匡悦
【審査官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-161701(JP,A)
【文献】特開昭62-163701(JP,A)
【文献】実公昭48-3638(JP,Y1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0361242(US,A1)
【文献】実開昭58-91422(JP,U)
【文献】特開2003-220328(JP,A)
【文献】特表2000-502608(JP,A)
【文献】特開昭57-140603(JP,A)
【文献】国際公開第2013/043195(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 3/22
B01D 3/32
B01J 19/32
B01J 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液接触装置を含む少なくとも1つの蒸留カラムと、
前記少なくとも1つの蒸留カラムを収容する円筒形状の周壁とを備え、
前記気液接触装置は、前記蒸留カラムの軸方向に沿って流れてきた処理液体を前記周壁の周方向に流して処理気体と気液接触させ
前記気液接触装置は、前記周壁を前記軸方向から見たときに前記周壁の内部空間の一方の側において前記軸方向に重ねられた複数の第1トレイ、及び他方の側において前記軸方向に重ねられた複数の第2トレイと、
前記複数の第1トレイのうち所定の第1トレイからその下段にある前記第2トレイに向けて前記処理液体を流す第1ダウンカマー流路を定める第1ダウンカマープレートと、
前記複数の第2トレイのうち所定の第2トレイからその下段にある前記第1トレイに向けて前記処理液体を流す第2ダウンカマー流路を定める第2ダウンカマープレートとを備え、
前記第1トレイ、及び前記第2トレイは、それぞれ上面と、下面から前記上面に貫通する複数の貫通孔とを備え、
前記処理液体の一部は、前記第1ダウンカマー流路に沿って前記所定の第1トレイからその下段にある前記第2トレイに向けて流れ、前記第2トレイの上で周方向に流れ、前記第2トレイに設けられた前記複数の貫通孔を通過する前記処理気体と接触し、
前記処理液体の残りの一部は、前記第2ダウンカマー流路に沿って前記所定の第2トレイからその下段にある前記第1トレイに向けて流れ、前記第1トレイの上で周方向に流れ、前記第1トレイに設けられた前記複数の貫通孔を通過する前記処理気体と接触する、蒸留装置。
【請求項2】
前記第1ダウンカマープレート及び前記第2ダウンカマープレートは、前記第1ダウンカマー流路と前記第2ダウンカマー流路を前記蒸留装置の側面から見たときに、前記第1ダウンカマー流路と前記第2ダウンカマー流路とが交差するよう配置される、請求項に記載の蒸留装置。
【請求項3】
前記第1トレイは、前記第2ダウンカマー流路から流れてきた前記処理液体を受ける液受け部と、
前記処理液体の流れる方向下流側において前記液受け部に隣接して配置され前記複数の貫通孔が形成された気液接触部と、
前記処理液体の流れる方向下流側において前記気液接触部に隣接して配置され前記第1ダウンカマー流路の入口に接続される排液部と、
前記液受け部と前記排液部との間に配置され、かつ前記第1トレイの前記上面に設けられたバッフルプレートとを備える、請求項又はに記載の蒸留装置。
【請求項4】
前記複数の第1トレイのうち上下方向において隣接する2つの前記第1トレイの間に前記処理液体を追加する処理液体追加部を備える、請求項乃至のいずれか1項に記載の蒸留装置。
【請求項5】
前記処理液体追加部の吐出口は前記処理液体を前記第1ダウンカマープレートに向けて開口する、請求項に記載の蒸留装置。
【請求項6】
少なくとも3つの蒸留カラムであって、各蒸留カラムが気液接触装置を備える蒸留カラムと、
前記少なくとも3つの蒸留カラムを収容する円筒形状の周壁と、
前記周壁を軸方向から見たときに弦方向に延び前記周壁内の空間を仕切る仕切り板とを備え、
前記気液接触装置は、前記仕切り板に沿って前記軸方向に流れてきた処理液体を前記周壁の周方向に流して処理気体と気液接触させる、蒸留装置。
【請求項7】
前記気液接触装置は、前記軸方向に沿って重ねられ略半円形上面を有し、かつ下面から上面に貫通する複数の貫通孔を備える複数のトレイと、
前記仕切り板と共に、前記複数のトレイのうち上段のトレイから下段のトレイに向けて前記処理液体を流すダウンカマー流路を定めるダウンカマープレートとを備え、
前記処理液体は、前記ダウンカマー流路に沿って前記軸方向に流れ、前記略半円形上面の上で周方向に流れ、前記複数の貫通孔を通過する前記処理気体と接触する、請求項に記載の蒸留装置。
【請求項8】
前記ダウンカマープレートは前記複数のトレイの間にそれぞれ配置され、
前記軸方向に沿って配置される複数の前記ダウンカマープレートは、前記仕切り板の面に対して垂直な面を挟んで交互に配置される、請求項に記載の蒸留装置。
【請求項9】
前記気液接触装置に対して、前記仕切り板の反対側に配置された第2気液接触装置を備え、
前記気液接触装置は、前記軸方向に沿って重ねられ略半円形上面を有し、かつ下面から上面に貫通する複数の貫通孔を備える複数の第3トレイと、
前記仕切り板と共に、上段の第3トレイから下段の第3トレイに向けて前記処理液体を流す第3ダウンカマー流路を定める第3ダウンカマープレートとを備え、
前記第2気液接触装置は、前記軸方向に沿って重ねられ略半円形上面を有し、かつ下面から上面に貫通する複数の貫通孔を備える複数の第4トレイと、
前記仕切り板と共に、上段の第4トレイから下段の第4トレイに向けて前記処理液体を流す第4ダウンカマー流路を定める第4ダウンカマープレートとを備え、
前記第3ダウンカマープレートと、前記第4ダウンカマープレートは、前記仕切り板の面方向から見たときに重複しないように配置されている、請求項に記載の蒸留装置。
【請求項10】
前記トレイは、前記ダウンカマー流路から流れてきた液体を受ける液受け部と、
前記液受け部に隣接して配置され前記複数の貫通孔が形成された気液接触部と、
前記気液接触部に隣接して配置され前記ダウンカマー流路の入口に接続される排液部と、前記トレイの前記上面に、かつ前記液受け部と前記排液部との間に配置されたバッフルプレートとを備える、請求項又はに記載の蒸留装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸留装置及び気液接触装置用のトレイに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の成分を含有する原液から各成分を分離するための蒸留装置が知られている。蒸留装置は、装置内部で原液と、高温の気体とを接触させることで原液から所望の成分を分離する(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平09-299701号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような蒸溜装置において成分の分離効率を従来技術よりも高められる蒸溜装置を提供することを目的とする。
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は、気液接触装置を含む少なくとも1つの蒸留カラムと、少なくとも1つの蒸留カラムを収容する円筒形状の周壁とを備え、気液接触装置は、蒸留カラムの軸方向に沿って流れてきた処理液体を周壁の周方向に流して処理気体と気液接触させる。
【発明の効果】
【0006】
この構成によれば、成分の分離効率を従来技術よりも高められる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態による蒸留装置の概略構成図である。
図2】同蒸留装置の斜視図である。
図3】同蒸留装置の断面図である。
図4】同蒸留装置の断面図である。
図5】同蒸留装置の断面図である。
図6】同蒸留装置の断面図である。
図7】第1実施形態の変形例による蒸留装置の断面図である。
図8】第1実施形態の変形例による蒸留装置の断面図である。
図9】第1実施形態の案内蓋の形状を例示的に示す斜視図である。
図10】第1実施形態の更なる変形例による蒸留装置の断面図である。
図11】第2実施形態による蒸留装置の概略構成図である。
図12】同蒸留装置の斜視図である。
図13】同蒸留装置の斜視図である。
図14】同蒸留装置の断面図である。
図15】同蒸留装置の断面図である。
図16】同蒸留装置の断面図である。
図17】従来技術による蒸留装置の断面図である。
図18】従来技術による蒸留装置の断面図である。
図19】従来技術による蒸留装置の断面図である。
図20】従来技術による蒸留装置における気相中の成分M5の濃度勾配を示す。
図21】第2実施形態による蒸留装置の断面図である。
図22】同蒸留装置の断面図である。
図23】同蒸留装置の断面図である。
図24】同蒸留装置における気相中の成分M5の濃度勾配を示す。
図25】第2実施形態の変形例による蒸留装置の斜視図である。
図26】第2実施形態の更なる変形例による蒸留装置の斜視図である。
図27】第2実施形態の変形例による蒸留装置の断面図である。
図28】第2実施形態の更なる変形例による蒸留装置の断面図である。
図29】第2実施形態による蒸留装置の案内蓋の形状を例示的に示す斜視図である。
図30】第2実施形態の変形例による蒸留装置の斜視図である。
図31】第2実施形態の変形例による蒸留装置の断面図である。
図32】第2実施形態の更なる変形例による蒸留装置の断面図である。
図33】第2実施形態の更なる変形例による蒸留装置の断面図である。
図34】第2実施形態の更なる変形例による蒸留装置の断面図である。
図35】第2実施形態の更なる変形例による蒸留装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、実施形態の説明では説明の便宜上、三次元直交座標、又は方向を示す用語を用いることがある。三次元直交座標のZ軸は重力の作用する方向に沿って延び、+Z方向は鉛直方向上側を指し、-Z方向は鉛直方向下側を指す。また、詳細は後述するが実施形態による蒸留装置は内部がほぼ平坦な仕切り板により仕切られている。±X方向は仕切り板の2つの主面がそれぞれ向いている方向を示し、一方の主面が向いている方向を+X方向、他方の主面が向いている方向を-X方向とする。Y軸は仕切り板の幅方向に延びる。Y軸が延びる方向の決定の仕方については特に明確な決まりはない。
【0009】
第1実施形態による蒸留装置は、複数の蒸留カラムを1つの容器内に配置した塔垂直分割型蒸留塔型(カラムインカラム型)の蒸留装置である。第1実施形態では、内部に仕切り板を備える蒸留装置において、蒸留装置を大型化せずに従来装置よりもさらに気液接触断面積を増やせる蒸留装置について説明する。
【0010】
塔垂直分割型蒸留塔は、1カ所の原料入口から容器内に投入された原液を複数の成分に分離させ、それぞれの成分を取り出せる構造を有する。
【0011】
図1は、蒸留装置の概略構成図である。図1に示すように、蒸留装置10は、少なくとも3つの蒸留カラムを備える。図示の例では、蒸留装置10は第1~第3蒸留カラムD1,D2,D3を備える。図1において、実線矢印は蒸留装置10内での液体の移動経路を示し、破線矢印は蒸留装置10内での気体の移動経路を示す。
【0012】
蒸留装置10は、Z軸に沿って延び、塔頂部及び塔底部が閉じられた円筒形状の蒸留塔12を有する。なお、蒸留塔12の延びる方向を軸方向と呼ぶことがある。従来用いられていた蒸留装置は3塔で構成されていたのに対して、蒸留装置10では3塔の機能を1つの充蒸留塔内に収容しており、いわゆる結合型蒸留塔を構成する。蒸留装置10の軸方向中間には第1蒸留カラムD1が配置され、蒸留装置10の塔頂付近には第2蒸留カラムD2が配置され、蒸留装置10の塔底付近には第3蒸留カラムD3が配置される。蒸留塔12の塔頂側には凝縮器(コンデンサー)14が接続され、塔底側には再沸器(リボイラー)16が接続される。蒸留装置10は、供給される原液から沸点の異なる成分M1、成分M2、成分M3に富む液体を分離して取り出すために用いられる。
【0013】
蒸留塔12の内部は、上方から順に第1セクションS1~第4セクションS4に分かれている。なお、蒸留塔内部のセクションの数は用途に応じて適宜選択可能である。各セクションS1~S4には、上昇する蒸気と下降する液体とを接触させることで物質移動を行うための気液接触装置としての充填物又はトレイが配置されている。トレイとしては、表面に無数の孔が形成され蒸留塔のXY平面の断面形状に即した形状を有するプレートを用いることができる。なおトレイの構造については後述する。充填物としては、例えば、板状体や網状体を波形等に加工し、蒸留塔のXY平面の断面形状に合わせてブロック状に成形された規則充填物、又はリング状等に加工された固形物を多数集合させた不規則充填物を用いることができる。
【0014】
図1に示すように、第2セクションS2及び第3セクションS3は、X軸に沿って並ぶ2つのチャンバに蒸留塔12を仕切る仕切り板18により仕切られている。第2セクションS2は、仕切り板18を挟んで隣接する第2aセクションS2aと第2bセクションS2bに分かれている。第3セクションS3は、仕切り板18を挟んで隣接する第3aセクションS3aと第3bセクションS3bに分かれている。
【0015】
仕切り板18のX軸に沿った位置は、蒸留塔12の水平断面中心を通る位置とすることが好ましい。なお、仕切り板18のX軸に沿った位置はこれに限定されず、原液中の成分の比率に応じて適宜X軸に沿ってずらしてもよい。
【0016】
図1に示すように、第2aセクションS2aと第3aセクションS3aとにより第1蒸留カラムD1が構成され、第1セクションS1と第2bセクションS2bとにより第2蒸留カラムD2が構成され、第3bセクションS3bと第4セクションS4とにより第3蒸留カラムD3が構成される。各蒸留カラムにおける上部のセクションが低沸点成分の濃度を高めるための濃縮部として機能し、下部のセクションが高沸点成分の濃度を高めるための回収部として機能する。
【0017】
蒸留塔12には、原液を蒸留塔12内に供給するフィードノズル20、及び分離された成分(本実施形態では成分M2に富む液体)を塔外に取り出すサイドカットノズル22が設けられている。また、蒸留塔12の頂部には、塔頂蒸気出口部24と還流液入口部26とが設けられている。塔頂蒸気出口部24と還流液入口部26は、蒸留塔12の外部に設けられた、気体(本実施形態では成分M1に富む気体)を冷却して液化させる凝縮器14に接続されている。凝縮器14は、蒸留塔12と一体に設けられてよい。また、蒸留塔12の底部には、塔底出口部28と塔底蒸気入口部30とが設けられている。塔底出口部28及び塔底蒸気入口部30は、蒸留塔12の外部に設けられた、液体(本実施形態では成分M3に富む液体)を加熱して蒸発させる再沸器16に接続されている。再沸器16は、蒸留塔12と一体に設けられてよい。
【0018】
仕切り板18は、蒸留塔12の内部を複数のセクションに仕切る。仕切り板18は蒸留塔12の内部空間内で部分的にZ軸に沿って延びる。仕切り板18の+Z側及び-Z側の端は蒸留塔12の内部空間内に位置しており、蒸留塔12内の液体又は気体は仕切り板18の端を回り込んで仕切り板18の一方の主面側から他方の主面側に移動できる。仕切り板18は±Y側の端部が蒸留塔12の周壁32の内面に固定されている。
【0019】
蒸留装置10は気液接触装置として充填物又はトレイを使用しているが、どのセクションにどの種類の気液接触装置を配置するかについては原液の種類に応じて適宜選択可能である。例えば、フィードノズル20よりも上側にある気液接触装置として充填物を用い、フィードノズル20よりも下側にある気液接触装置としてトレイを用いることができる。これにより、比較的洗浄がし易いトレイを、比較的汚れが発生し易い位置に配置できる。
【0020】
次に、トレイの構造について詳述する。図2は、蒸留装置の斜視図である。より具体的には図2は、蒸留装置10の周壁32の一部を取り除いた状態の第2bセクションS2bを示す。なお、以下のトレイの構造は、仕切り板18に面して設けられた気液接触装置に適用可能であり、第2bセクションS2b以外のセクションにも適用可能である。換言すれば、以下で説明するトレイの構造は、第2aセクションS2a、第3aセクションS3a、第2bセクションS2b、及び第3bセクションS3bの何れにも適用可能である。
【0021】
第2bセクションS2bは、液体と気体とを接触させるために用いられるトレイ40を備える。第2bセクションS2bに備えられるトレイ40の数は、1つであっても良いし複数であってもよい。トレイ40は、略半円形状の上面40u及び下面40lを備える薄い板で形成される。ここで略半円形状とは、円形を弦Chに沿って切断した形状をいう。したがって、略半円形状とは、弦Chが直径に相当する場合は半円形状を意味し、弦Chが直径に相当しない場合は弧Rと弦Chで囲まれる領域からなる形状を意味する。ここで、弦Chが直径に相当しない場合とは、弦Chが直径よりも+X側にある場合、及び弦Chが直径よりも-X側にある場合の何れの場合も含む。
【0022】
トレイ40は、弦ChがY軸に沿って延びるよう、かつ上面40u及び下面40lが仕切り板18の主面と直交してXY平面と平行になるよう配置される。またトレイ40の弦Chは、仕切り板18の主面に接触するように配置される。また、トレイ40の弧Rは、周壁32の内面と接触するように配置される。トレイ40は、Z軸に沿って見たときに仕切り板18と周壁32で囲まれており、±Z方向において実質的に空間を仕切る。
【0023】
トレイ40の上面40uは、+Z方向(上方)から流れてきた液体を受ける液受け部42と、液受け部42に隣接して配置され気体と液体とを気液接触させる気液接触部44と、気液接触させた液体を-Z方向(下方)に向けて流すための排液部46とで形成される。液体は、液受け部42によって受け止められ、トレイ40の上面に流れ、気液接触部44を通過して排液部46に流れる。
【0024】
液受け部42と排液部46は弦Chに沿って設けられる。より具体的には、トレイ40の上面40uをX軸に沿って(又は仕切り板18の主面と直交する線に沿って)二等分したときに一方の側(図示の上段のトレイの例では+Y方向側)に液受け部42が形成され、他方の側(図示の上段のトレイの例では-Y方向側)に排液部46が形成される。液受け部42は、弦Chから+X側に向けて所定幅だけ広がり、かつ仕切り板18の主面に沿ってY軸方向に延びる、略長方形状の領域である。排液部46は、弦Chから+X側に向けて所定幅だけ広がり、かつ仕切り板18の主面に沿ってY軸方向に延びる、略長方形状の開口である。換言すればトレイ40と仕切り板18との間に所定幅の開口が設けられており、この開口が排液部46となる。
【0025】
気液接触部44は、トレイ40の上面40uの大部分を占める略半円形状の領域である。気液接触部44には、トレイ40の上面40uから下面40lに貫通する複数の孔48が形成されている。孔48の大きさは、下面40lから上面40uに向けて流れる気体の圧力により、上面40uから下面40lに向けて液体が流れるのが抑制されるように設計される。
【0026】
トレイ40は、堰構造50を備えていてもよい。堰構造50は、気液接触部44と排液部46との間に設けられ、トレイ40の上面から+Z方向に立ち上がる壁により形成される。堰構造50を設けることにより、気液接触部44上の液深を保つことができる。堰構造50は、Y軸に沿って排液部46と同一の長さを有する一枚の壁であってもよいし、Y軸に沿って間欠的に隙間が形成された不連続な壁であってもよい。
【0027】
液受け部42と排液部46との間にはバッフルプレート52が設けられていることが好ましい。バッフルプレート52は、液受け部42に流れてきた液体が気液接触部44を通過する際の偏流を防止し、液受け部42の液体が気液接触部44を通過せずに排液部46に到達するのを防止できる。バッフルプレート52は、トレイ40の上面40uに設けられ、XZ平面と平行に仕切り板18の主面から+X方向に延びる板である。バッフルプレート52は、仕切り板18の主面からX軸に沿う方向において気液接触部44の中央付近まで延びていることが好ましい。
【0028】
バッフルプレート52のX軸に沿った長さを調整可能にしてもよい。この場合、バッフルプレート52の+X側先端に延長部54を設ける。延長部54は、ビス等の固定手段56を用いてバッフルプレート52の本体に対して任意の位置で固定可能とされる。延長部のX軸に沿った位置を調整し、その位置で延長部54をバッフルプレート52の本体に対して固定することで、バッフルプレート52の+X方向に向けた突出長さを調整できる。これによりバッフルプレート52と周壁32との間の流路幅を調整できる。
【0029】
気液接触装置は、さらにダウンカマープレート58を備える。ダウンカマープレート58は、上段のトレイ40から下段のトレイ40に向けて流れる液体のための流路60(以下、「ダウンカマー流路60」という)を定める。ダウンカマー流路60は、Z軸に沿って延び、上段のトレイ40の排液部46から下段のトレイ40の液受け部42近傍にかけてダウンカマープレート58と仕切り板18との間に形成される。ダウンカマープレート58は、トレイ40とはZ軸に沿って重複しない位置で、仕切り板18と平行に延びる。より具体的にはダウンカマープレート58は、Z軸に沿って隣接するトレイ40の間に配置される。ダウンカマープレート58の径方向外側の端は周壁32に固定され、径方向内側の端は仕切り板18の表面からX軸に沿って延びる垂直壁部62に固定される。したがってダウンカマー流路60は、XY平面において仕切り板18、周壁32、ダウンカマープレート58、及び垂直壁部62によって囲まれた閉断面として形成される。ダウンカマー流路60の+Z軸方向端は、トレイ40の堰構造50と連続しており、ダウンカマープレート58はトレイ40の弦Chに固定される。ダウンカマープレート58の-Z軸方向端は、下段のトレイ40の上面40uから所定距離だけ離れて配置され、トレイ40の液受け部42に向けて開口している。堰構造50を乗り越えて排液部46に入った液体は、ダウンカマー流路60に沿って下段のトレイ40に流れる。ダウンカマー流路60内では気液接触を行わせないことが好ましい。ここで、ダウンカマー流路60内では気液接触を行わせないとは、蒸留装置10の構造としてダウンカマー流路60内で積極的に気液接触を促す構成を有していないことを意味する。即ち、ダウンカマー流路60とトレイ40の間の空間とは連続している。従って、トレイ40の間の空間にある気体がダウンカマー流路60に一切流れ込まないようにすることは実質的に不可能である。よって、ダウンカマー流路60内で気液接触を行わせないとは、気液接触を完全に防止することを意味しているのではなく、気体を積極的にダウンカマー流路60に送り込まないことを意味している。これを実現するためには、例えばダウンカマー流路60内に気体が入り込まないように、ダウンカマー流路60の真下にある液受け部42は気体を通さない構造とすることが好ましい。
【0030】
トレイ40同士のZ軸方向に沿った間隔は原液の種類に応じて適宜変更可能である。一例として、X軸に沿って隣接する第2aセクションS2aのトレイと、第2bセクションS2bのトレイをZ軸に対して同一の高さに配置しても良いし、異なる高さに配置してもよい。
【0031】
図3及び図4は、蒸留装置の断面図である。より具体的には図3は、X軸に沿って隣接する第2aセクションS2aのトレイ40aと、第2bセクションS2bのトレイ40bをZ軸に対して同一の高さに配置した構造におけるXY平面に沿った断面図である。また図4は、図3に示すトレイの下段にあるトレイを示すXY平面に沿った断面図である。隣接するセクション同士でトレイの高さを同一にする場合、図3及び図4に示すように同一の高さにあるダウンカマー流路60a,60b同士がY軸に対してずれて配置されていることが好ましい。図示の例では、仕切り板18の一方の側にある第2aセクションS2aのトレイ40a及びダウンカマープレート58aと、仕切り板18の他方の側にある第2bセクションS2bのトレイ40b及びダウンカマープレート58bとが、XY平面において周壁32の中心に対して点対称に配置されている。このような配置により隣接するセクションにおけるダウンカマー流路60a,60b同士は、Y軸に沿って互いに隣接せず、ずれて配置される。また、Z軸に沿って隣接するトレイ40a,40bは、トレイ40a,40b同士がX軸に対して線対称に配置されている。従って、Z軸に沿って隣接するトレイは、液受け部42と排液部46の位置がY軸に対して逆になっている。
【0032】
図5及び図6は、蒸留装置の断面図である。より具体的には図5は、+X側から蒸留装置を見た縦断面図であり、図6は、-X側から蒸留装置を見た縦断面図である。ダウンカマー流路60a,60bの配置を分かり易くするために、図5及び図6では周壁32を省略している。これらの図から分かるも分かるように、ダウンカマー流路60a,60b同士は仕切り板18を介して隣接していない。換言すれば、ダウンカマー流路60a,60b同士は仕切り板18の面方向から見たときに重複しないように配置される。これによりダウンカマー流路60aを流れる液体と、ダウンカマー流路60bを流れる液体との間で熱交換が生じにくくなる。また、Z軸に沿って配列されたダウンカマー流路60a,60aに着目すると、ダウンカマー流路60a,60a同士はZ軸に沿っても隣接していない。ダウンカマー流路60a,60b同士が仕切り板18を介して隣接しないように配置することで、ダウンカマー流路60a,60bを流れる液体間での熱伝達を最小限に抑えられる。これと同時に、Z軸に沿って配列されたダウンカマー流路60a,60a同士をY軸方向にずらすことで、液体が流れる経路、即ち気液接触を起こせる経路を長くできる。
【0033】
次に、蒸留装置の作用について説明する。なお、以下の説明では、少なくとも仕切り板の+X軸側にある第2bセクションS2b及び第3bセクション3Sbが複数段のトレイによって構成されているものとする。
【0034】
フィードノズル20から原液が蒸留装置10に供給されると、成分M1及び成分M2に富む気体が上側に向けて流れ、成分M2及び成分M3に富む液体が下側に向けて流れる。第1セクションS1では、成分M1に富む気体と成分M2に富む液体が分離され、成分M2に富む液体が第2bセクションS2bに上側から流れ込む。第4セクションS4では、成分M2に富む気体と成分M3に富む液体とが分離され、成分M2に富む気体が第2bセクションS2b及び第3bセクション3Sbに向けて流れる。このとき成分M2に富む気体は、第2bセクションS2b及び第3bセクション3Sbの複数のトレイ40の孔48を通過して上側に流れる。
【0035】
液体が上側から流れ込むと、液体は最上段のトレイ40に供給される。最上段のトレイ40の上側にダウンカマープレート58が設けられている場合には、ダウンカマープレート58によって形成されるダウンカマー流路60を通して液体が最上段のトレイ40の液受け部42に供給される。トレイ40の上面に到達した液体は、バッフルプレート52を迂回するようにトレイの上面で周方向に流れる(図2及び図3の矢印A参照)。液体がトレイ40上の気液接触部44を流れる間、気液接触が行われる。トレイ40上に所定量以上の液体が存在する場合、液体は堰構造50を乗り越えてダウンカマー流路60に流れる。ダウンカマー流路60に流れた液体は、ダウンカマー流路60に沿って下側に流れる(図2及び図5の矢印B参照)。液体がダウンカマー流路60の下端に到達すると、液体は下段のトレイ40の液受け部42上に流れる。下段のトレイ40の液受け部42に到達した液体は、下段のトレイ40のバッフルプレート52を迂回するようにトレイ40の上面で周方向に流れる(図2及び図4の矢印C参照)。このとき液体が流れる方向(矢印C)は、上段のトレイ上で液体が流れた方向(矢印A)とは蒸留装置10の周方向逆向きとなる。
【0036】
このような蒸留装置10によれば、液体を軸方向に流してから方向転換をさせて周方向に流して気液接触を行わせられる。これにより、装置を大型化することなく液体が気体と接触する経路を長くできる。また、液受け部42と排液部46とをトレイ40の弦Chに沿って並べて配置することで、気液接触部44の面積を大きくできる。これによりトレイ40の表面における孔48の数や孔48がトレイ40の上面40uで占める面積を増やせる。
【0037】
次に、第1実施形態の変形例について説明する。
【0038】
図7は、変形例による蒸留装置の断面図である。より具体的には図7は、XZ平面における断面図である。図7に示すように蒸留装置100は、トレイ40の液受け部42と気液接触部44との間に整流部102を備える。整流部102は、液受け部42と気液接触部44の間に配置され、トレイ40の上面40uから上向きに立ち上がる整流板である。整流部102をなす整流板は、Y軸に沿って液受け部42の長さと同一の長さを有する1枚の壁である。整流部102を設けることにより、液受け部42から気液接触部44に液体が流れるときに上向きの流れを作り出せる。これにより、気液接触部44と液受け部42の境目近傍まで気液接触部の孔48を形成したとしても、気体の流れの抵抗による液体の流れの阻害を抑制できる。
【0039】
また、変形例による蒸留装置100は、排液部46と仕切り板18との間に配置されたデフレクター104を備える。デフレクター104は、排液部46からダウンカマー流路60の中間まで延びる板状部材である。デフレクター104の上端は、トレイ40から排液部46に液体が流れ込むZ軸方向における高さよりも高い位置に設けられている。デフレクター104の下端の位置は特に限定されず、ダウンカマー流路60の中間の位置にある。デフレクター104の両端(Y軸に沿った両端)は、それぞれ周壁32及び垂直壁部62に固定されている。デフレクター104のX軸方向の位置としては、ダウンカマー流路60の中央であることが好ましい。このようなデフレクター104を設けることにより、ダウンカマー流路60に入った液体が堰構造50の縁を乗り越えてからダウンカマー流路60内で飛散する距離を短くできる。これにより、ダウンカマー流路60内で気体と接触する距離を短くし、気液接触を抑制できる。
【0040】
図8は、更なる変形例による蒸留装置の断面図である。より具体的には図8は、XZ平面における断面図である。図8に示すように蒸留装置200は、気液接触部44における液受け部42との境界付近の孔48の出口に案内蓋202が形成されている。
【0041】
図9は、案内蓋の形状を例示的に示す斜視図である。図9(a)及び図9(b)に示すように案内蓋202は、気液接触部44に向けて開口しており、仕切り板18側が閉じられている。案内蓋202は、仕切り板18側から気液接触部44側に向けて高さが漸増する屋根形状を有していてもよい。また図9(c)に示すように案内蓋202は、トレイに部分的に切り込みを入れて自由端を有する舌部分204を形成し、舌部分204を持ち上げた形状としてもよい。何れの場合でも、案内蓋202は、+X方向かつ+Z方向に向けて延びる傾斜形状を有している。複数の孔48を気体が通過すると、気体はそのまま上昇せず、案内蓋202に沿って気液接触部44側に案内される。このような案内蓋202を設けることにより、気体がダウンカマー流路60に向かうのを抑制できる。これにより、孔48を気液接触部44と液受け部42の境界付近に形成でき、孔48の数を増やせる。
【0042】
図10は、更なる変形例による蒸留装置の断面図である。より具体的には図10は、XZ平面における断面図である。図10に示すように蒸留装置300は、ダウンカマー流路60内に液体を一時的に滞留させる滞留構造302を備える。滞留構造302は、ダウンカマープレート58の下端に設けられた蓋部材である。蓋部材には排出部としての複数の孔304が設けられており、ダウンカマー流路60内に一時的に液体を溜め、一定量の液体だけを孔304からトレイ40の液受け部42に流す。これにより、トレイ40の液受け部42に流す液体の量を均一にできる。
【0043】
また、滞留構造302と、上述した案内蓋202とを併用してもよい。この場合、液受け部42には、トレイの上面から下面に貫通する複数の孔306が形成されている。複数の孔306の開口上部には、下側から流れてきた気体を気液接触部44の方向に案内する案内蓋202が形成されている。このように滞留構造302と案内蓋202とを併用することで、液受け部42にも気体が通過する孔48を形成でき、孔48,306の数を増やせる。この場合、液受け部42に形成された孔306は補助貫通孔として機能する。孔306を通して液受け部42において気体を液体に当てることで、液受け部42にて液体を気液接触させられる。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
【0045】
図11は、第2実施形態による蒸留装置の概略構成図である。第2実施形態による蒸留装置は、濃縮部及び回収部が1つずつ塔内に設けられた、いわゆる単式蒸留装置に関する。
【0046】
蒸留装置400は、Z軸に沿って延び、塔頂部及び塔底部が閉じられた円筒形状の蒸留塔402を有する。なお、蒸留塔402の延びる方向を軸方向と称することもある。蒸留装置400の軸方向中間よりも塔頂側が濃縮部D4として機能し、塔底側が回収部D5として機能する。濃縮部D4と回収部D5が1つの蒸留カラムを構成する。蒸留塔402の塔頂側には凝縮器(コンデンサー)414が接続され、塔底側には再沸器(リボイラー)416が接続される。蒸留装置400は、供給される原液から沸点の異なる成分M4、成分M5に富む液体を分離して取り出すために用いられる。
【0047】
蒸留塔402の内部には、上昇する蒸気と下降する液体とを接触させることで物質移動を行うための気液接触装置としてのトレイ440が配置されている。トレイ440としては、表面に無数の孔が形成され蒸留塔のXY平面の断面形状に即した形状を有するプレートを用いることができる。なおトレイ440の詳細な構造については後述する。気液接触装置の一部として、プレートに替えて充填物を用いてもよい。充填物としては、例えば、板状体や網状体を波形等に加工し、蒸留塔のXY平面の断面形状に合わせてブロック状に成形された規則充填物、又はリング状等に加工された固形物を多数集合させた不規則充填物を用いることができる。
【0048】
蒸留塔402には、原液を蒸留塔402内に供給するフィードノズル420が設けられている。また、蒸留塔402の頂部には、塔頂蒸気出口部424と還流液入口部426とが設けられている。塔頂蒸気出口部424と還流液入口部426は、蒸留塔402の外部に設けられた、気体(本実施形態では成分M4に富む気体)を冷却して液化させる凝縮器414に接続されている。凝縮器414は、蒸留塔402と一体に設けられてよい。また、蒸留塔402の底部には、塔底出口部428と塔底蒸気入口部430とが設けられている。塔底出口部428及び塔底蒸気入口部430は、蒸留塔402の外部に設けられた、液体(本実施形態では成分M5に富む液体)を加熱して蒸発させる再沸器416に接続されている。再沸器416は、蒸留塔402と一体に設けられてもよい。
【0049】
充填物又はトレイのうち、どのセクションにどの種類の気液接触装置を配置するかについては原液の種類に応じて適宜選択可能である。例えば、フィードノズル420よりも上側にある濃縮部D4内の気液接触装置として充填物を用い、フィードノズル420よりも下側にある回収部D5内の気液接触装置としてトレイを用いることができる。これにより、比較的洗浄がし易いトレイを、比較的汚れが発生し易い位置に配置できる。
【0050】
次に、トレイの構造について詳述する。図12は、蒸留装置の斜視図である。より具体的には図12は、蒸留装置400の一部を取り除いた状態を示す。図12中の複数の矢印は液体が流れる経路を示す。
【0051】
図12に示すように、蒸留塔402内には、液体と気体とを接触させるために用いられるトレイ440が内蔵されている。トレイ440の数は、1つであっても良いし複数であってもよい。トレイ440は、略半円形状の上面440u及び下面440lを備える薄い板で形成される。
【0052】
トレイ440は、弦ChがY軸に沿って延びるよう、かつ上面440u及び下面440lがXY平面と平行になるよう配置される。図示の例では2つのトレイ440が、互いの弦Chが隣接するよう配置され、蒸留塔402内にはこれら2つのトレイ440が複数段形成されている。2枚のトレイ440をZ軸方向から見たときに2枚のトレイ440が略円形をなす。このとき、Y軸と平行に延びる弦Chの+X側に1枚のトレイ440が配置され、-X側に1枚のトレイ440が配置される。つまり、蒸留塔402をZ軸方向から見たときに、2つの弦Chの両側にそれぞれ複数のトレイ440の層が形成されている、とも言える。
【0053】
蒸留塔402内には、水平方向に隣接する2つのトレイ440の間、つまり2つのトレイ440の弦Chに沿った位置に仕切り板418が設けられる。仕切り板418は、弦Chから上向きに延び、水平方向に隣接する2つのトレイ440の間で液体が行き来するのを防ぐ。トレイ440の弧Rは、トレイ440の周囲に配置された蒸留塔402の周壁432の内面と接触するように配置される。トレイ440は、Z軸方向から見たときに仕切り板418と周壁432で囲まれており、±Z方向において実質的に蒸留塔402内の空間を仕切る。
【0054】
トレイ440の上面440uは、+Z方向(塔頂側)にある上段のトレイ440から流れてきた液体を受ける液受け部442と、液受け部442に隣接して配置され気体と液体とを気液接触させる気液接触部444と、気液接触させた液体を-Z方向(下方)にある下段のトレイ440に向けて流すための排液部446とで形成される。液体は、液受け部442によって受け止められ、気液接触部444を通過して排液部446に流れる。
【0055】
液受け部442と排液部446は弦Chに沿って設けられる。より具体的には、トレイ440の弦Chを二等分したときに一方の側(図示の+X側にある上段のトレイの例では+Y方向側)に液受け部442が形成され、他方の側(図示の+X側にある上段のトレイの例では-Y方向側)に排液部446が形成される。液受け部442は、弦Chから+X側に向けて所定幅だけ広がり、かつ仕切り板418の主面に沿ってY軸方向に延びる、略長方形状の領域である。排液部446は、弦Chから+X側に向けて所定幅だけ広がり、かつ仕切り板418の主面と平行に延びる、略長方形状の開口である。換言すればトレイ440と仕切り板418との間に所定幅の開口が設けられており、この開口が排液部446となる。
【0056】
気液接触部444は、トレイ440の上面440uの大部分を占める略半円形状の領域である。気液接触部444には、トレイ440の上面440uから下面440lに貫通する複数の孔448が形成されている。孔448の大きさは、下面440lから上面440uに向けて流れる気体の圧力により、上面440uから下面440lに向けて液体が流れないように決定される。
【0057】
トレイ440は、堰構造450を備えていてもよい。堰構造450は、気液接触部444と排液部446との間に設けられ、トレイ440の上面440uから+Z方向に立ち上がる壁により形成される。堰構造450を設けることにより、気液接触部444上の液深を保つことができる。堰構造450は、Y軸に沿って排液部446と同一の長さを有する一枚の壁であってもよいし、Y軸に沿って間欠的に隙間が形成された不連続な壁であってもよい。
【0058】
液受け部442と排液部446との間にはバッフルプレート452が設けられていることが好ましい。バッフルプレート452は、液受け部442に流れてきた液体が気液接触部444を通過する際に、予め決定された経路に従わずに流れるのを防止する。つまりバッフルプレート452は、液体のガイドとして機能する。バッフルプレート452は、トレイ440の上面440uに設けられ、仕切り板418の主面からXZ平面と平行に±X方向に延びる板である。バッフルプレート452は、仕切り板418の主面からX軸に沿う方向において気液接触部444の中央付近まで延びていることが好ましい。
【0059】
図13は、蒸留装置の斜視図である。図13に示すように、バッフルプレート452のX軸に沿った長さを調整可能にしてもよい。この場合、バッフルプレート452の+X側先端に延長部454を設ける。延長部454は、ビス等の固定手段456を用いてバッフルプレート452の本体に対してX軸に沿った任意の位置で固定可能とされる。延長部454の位置をバッフルプレート452に対して調整可能とすることで、バッフルプレート452の+X方向に向けた突出長さを調整できる。
【0060】
図12に戻り、蒸留装置400は、さらに複数のダウンカマープレート458を備える。ダウンカマープレート458は、上段のトレイ440から下段のトレイ440に向けて、且つ弦Chを挟んでX軸方向反対側に向けて液体を流す流路460(以下、「ダウンカマー流路460」という)を定める。ダウンカマープレート458は、対向する一対のプレート458A及びプレート458Bを有する。一対のプレート458A及びプレート458Bは、Y軸方向における一方の端が閉じられており、他方の端が周壁432に固定される。したがってダウンカマー流路460は、XY平面において周壁432、プレート458A、及びプレート458Bによって囲まれた閉断面として形成される。一対のプレート458A及びプレート458Bは、X軸方向に離れて配置される。ダウンカマー流路460は、一対のプレート458A及びプレート458Bの間に形成される。ダウンカマー流路460は、Z軸に対して傾斜している。仕切り板418の位置をX軸の原点と仮定して、ダウンカマープレート458により接続される2つのトレイ440のうち、上段のトレイ440が+X側にあり下段のトレイ440が-X側にある場合、一対のプレート458A及びプレート458Bの上側部分は+X側において塔底側に向けて延び、下側部分は-X側に向けて傾斜している。つまりダウンカマー流路460の入口は弦Chの+X側に形成され、出口は弦Chの-X側に形成される。反対にダウンカマープレート458により接続される2つのトレイ440のうち、上段のトレイ440が-X側にあり下段のトレイ440が+X側にある場合、一対のプレート458A及びプレート458Bの上側部分は-X側において塔底側に向けて延び、下側部分は+X側に向けて傾斜している。つまりダウンカマー流路460の入口は弦Chの-X側に形成され、出口は弦Chの+X側に形成される。
【0061】
1つの段は2つのトレイ440により構成されているため、上段のトレイ440から下段のトレイ440に向かうダウンカマープレート458及びダウンカマー流路460は各段の間に2つずつ設けられる。これら2つのダウンカマー流路460は、Y軸方向においては隣接して配置され、且つ蒸留塔402を側面から(Y軸に沿って)見たときに文字Xを描くよう交差している。このようなダウンカマー流路460の配置により、蒸留塔402内の空間を効率的に使用できる。
【0062】
ダウンカマー流路460の入口は排液部446と連続しており、ダウンカマー流路460の出口は、下段のトレイ440の液受け部442からZ軸方向に所定距離だけ離れた位置にある。排液部446に入った液体は、ダウンカマー流路460に沿って下段のトレイ440に流れる。ダウンカマー流路460内では気液接触を行わせないことが好ましい。これを実現するためには、例えばダウンカマー流路460内に気体が入り込まないように、ダウンカマー流路460の真下にある液受け部442は気体を通さない構造とすることが好ましい。
【0063】
図14及び図15は、蒸留装置の断面図である。具体的には図14は、XY平面に沿った断面図である。また図15は、図14に示すトレイの下段にあるトレイを示すXY平面に沿った断面図である。図16は、蒸留装置の断面図である。具体的には図16は、XZ平面に沿った断面図である。図16において上側に配置されたトレイ440は図14によって示され、下側に配置されたトレイ440は図15によって示されるものとする。以下、必要に応じて該当図面における右側にあるトレイに関する説明については「トレイ440R」と称し、左側にあるトレイに関する説明については「トレイ440L」と称することがある。
【0064】
図14乃至図16に示すように、隣接する2つのトレイ440R,440Lは、蒸留塔402の中心軸周りに180度回転させたような位置関係を有する。したがって2つのトレイ440のうちダウンカマー流路460の入口及び出口の位置も180度回転させた位置関係を有する。図14乃至図16に示すように、上段の右側のトレイ440Rの排液部446から一方のダウンカマー流路460に入った液体は、下段の左側のトレイ440Lの液受け部442に供給される。また、上段のトレイ440Lの排液部446から他方のダウンカマー流路460に入った液体は、下段のトレイ440Rの液受け部442に供給される。
【0065】
以下、図11及び図14乃至図16を参照しながら蒸留装置400の作用について説明する。
【0066】
図11を参照して、フィードノズル420から原液が蒸留装置400に供給されると、成分M4に富む気体が上側に向けて流れ、成分M5に富む液体が下側に向けて流れる。成分M4に富む気体はトレイ440の孔448を通過しながら塔頂部に到達する。気体の一部は塔頂蒸気出口部424から回収され、残りは凝縮器414にて液化されて蒸留塔402内に戻される。蒸留塔402に戻された液体は、最上段のトレイ440のうち、+X側又は-X側のトレイの何れかに供給される。液体は、塔頂部から塔底部に至る2つの流路のうちの一方を通って塔底部に向けて流れる。
【0067】
フィードノズル420から供給された原液のうち成分M5に富む液体は、2つの流路のいずれかの中間から流路に供給され塔底部に流れる。成分M5に富む液体の一部は、塔底部の塔底出口部428から回収され、残りの液体は再沸器416にて気化されて蒸留塔402内に戻される。再沸器416で発生した気体は、トレイ440の孔448を通過しながら塔頂部に向けて上昇する。
【0068】
図14乃至図16を参照して、登頂部から塔底部に向けて流れる液体は、2つの流路に沿って矢印D又は矢印Eに示すように流れる。一方の流路を通る液体は、矢印Dにより示すように、上段のトレイ440Rにてバッフルプレート452の先端側を通ってトレイ440Rの周方向に流れ、ダウンカマー流路460を通って下段のトレイ440Lに供給される。他方の流路を通る液体は、矢印Eにより示すように、上段のトレイ440Lにてバッフルプレート452の先端側を通ってトレイ440Lの周方向に流れ、ダウンカマー流路460を通って下段のトレイ440Rに供給される。双方の流路において液体は、トレイ440の気液接触部444にて塔底側から上昇してくる気体と接触する。各段にて同様の処理を繰り返し行うことで取り出される成分の純度が高くなり、蒸留塔402内より純度の高い成分M4及び成分M5を取り出せる。
【0069】
図17乃至図19は、比較例による蒸留装置の断面図である。具体的には図17は、従来技術による蒸留装置を、図16と同一の断面で示す。図18及び図19はそれぞれ、図14及び図15と同一の断面で示す。
【0070】
図17乃至図19に示すように、従来技術による蒸留装置1000は、円形のトレイ1002の一方の端に液受け部1004を設け反対の端に排液部1006を設けていた。このような蒸留装置1000を用いた場合、液体は矢印F及び矢印Gに示す方向に流れる。矢印F及び矢印Gは、トレイ1002の一方の端からトレイ1002の直径に沿って他方の端に向けて延びる。つまり従来技術による蒸留装置1000では、1つのトレイ1002上でトレイ1002の直径L1よりも短い距離L2に渡り気液接触を行っていた。距離L2は、液受け部1004のトレイ中心側の端部から液受け部1004の中心側の端部までの距離に相当する。径の小さい蒸留装置では距離L2は、直径の60%程度である(つまりL2=0.6L1)。
【0071】
図20は、従来技術による蒸留装置における気相中の成分M5の濃度勾配を示す。同図では、図17乃至図19におけるトレイ1002上の各点P1~P4における濃度勾配を示す。図17乃至図20に示すように、点P2と点P3はZ軸に沿って同一直線上にあるため上段のトレイ1002の排液部1006付近の点P2における濃度勾配と、下段のトレイ1002の液受け部1004付近の点P3における濃度勾配は同一である。一般的に気液接触による気相-液相間の物質移動量は、気相中の成分濃度差の影響を受けることが知られている。点P2及び点P3においては勾配の差が少ないため、特に点P3の下流側においては物質移動量が少ないものと考えられる。
【0072】
第2実施形態による蒸留装置400は、従来技術による蒸留装置1000と比較して気液接触を行える距離を長くし、且つ物質移動を促進できる。以下、この点について説明する。
【0073】
図21乃至図23は、実施形態による蒸留装置の断面図である。図21乃至図23は、それぞれ図17乃至図19と同一の断面を示す。また図24は、実施形態による蒸留装置における気相中の成分M5の濃度を示し、図20に相当する図である。
【0074】
図21乃至図23に示すように、実施形態による蒸留装置400は、各トレイ上において大凡、直径L1/2の円の半周分の距離L3にわたり気液接触を行える。つまり距離L3は、L1π/4(≒0.8L1)となる。このように、周方向に液体を流す構造を採用することで各トレイ上において気液接触を行える距離を長くできる。
【0075】
また、従来技術による蒸留装置1000は1段のトレイ上で距離L2(=0.6L1)にわたってか気液接触を行えない。これに対して実施形態による蒸留装置は1段に2枚のトレイ440が備えられているため、実質的に距離L3の2.5倍(=1.6L1)にわたり気液接触を行える。つまり実施形態による蒸留装置は、従来技術と比較して処理量が大幅に増加していることが分かる。
【0076】
また図24では、図21乃至図23における各点P5~P8における成分M5の濃度勾配を示す。図22の右側のトレイ440から図23の左側のトレイ440に向かう流路に着目すると、上段のトレイ440の排液部446付近の点P6における濃度勾配と、下段のトレイ440の液受け部442付近の点P7における濃度勾配は異なる。この濃度勾配の差により、液体が段を移動した直後にも気相-液相間で物質移動を促せる。
【0077】
このような蒸留装置400によれば、液体を軸方向に流してから方向転換をさせて周方向に流して気液接触を行わせられる。これにより、装置を大型化することなく液体が気体と接触する経路を長くできる。また、液受け部442と排液部446とをトレイ440の弦Chに沿って並べて配置することで、気液接触部444の面積を大きくできる。これによりトレイ440の表面における孔448の数や孔448がトレイ440の上面440uで占める面積を増やせ、蒸留装置400全体の処理量を増加させられる。この傾向は、特に蒸留装置400の径が小さい場合に顕著に表れる。つまり、蒸留装置400の周壁432内部にはトレイ440の他に様々な構成部品が収納されるが、構成部品の大きさは蒸留装置400の径に関わらず略同一である。したがって、径が小さい蒸留装置400においては周壁432の内部空間において構成部品が占める容積が大きくなる。構成部品の占める容積が大きくなると、孔448の数(孔448の実際の数ではなく、処理に寄与する孔448の数)が減少する。蒸留装置400のように気液接触部444の面積を大きくして処理に寄与する孔448の数を増やすことで、蒸留装置400全体の処理量を増加させられる。
【0078】
また単式蒸留装置においては、塔底部付近において蒸気負荷が低くなる傾向がある。この傾向は特に径が小さい蒸留装置において強く表れる。第2実施形態による蒸留装置400では、気液接触を行える距離を長くできるため、蒸気負荷が比較的低い傾向にある塔底部においても安定して気液接触を行える。
【0079】
次に、第2実施形態の変形例について説明する。
【0080】
図25は、変形例による蒸留装置の斜視図である。図25に示すように蒸留装置500は、トレイ440の液受け部442と気液接触部444との間に整流部502を備える。整流部502は、液受け部442と気液接触部444の間に配置され、トレイ440の上面440uから上向きに立ち上がる整流板である。整流部502をなす整流板は、Y軸に沿って液受け部442の長さと同一の長さを有する1枚の壁である。整流部502を設けることにより、液受け部442から気液接触部444に液体が流れるときに上向きの流れを作り出せる。これにより、気液接触部444と液受け部442の境目近傍まで気液接触部の孔448を形成したとしても、気体の流れの抵抗による液体の流れの阻害を抑制できる。
【0081】
図26は、更なる変形例による蒸留装置の斜視図である。また、図26に示すようにY軸に沿って整流部502に間欠的な切込みを入れてもよい。この場合、整流部502は、液体の上向きの流れを作り出すとともに、流れをY軸方向に分散させる分散構造としても機能する。
【0082】
図27は、変形例による蒸留装置の断面図である。変形例による蒸留装置550は、プレート458Aとプレート458Bとの間に配置されたデフレクター554を備える。デフレクター554は、排液部446からダウンカマー流路460の中間まで延びる板状部材である。デフレクター554の上端は、トレイ440から排液部446に液体が流れ込むZ軸方向における高さよりも高い位置に設けられている。デフレクター554の下端の位置は特に限定されず、ダウンカマー流路460の中間の位置であればどこでもよい。デフレクター504の両端(Y軸に沿った両端)は、それぞれ周壁432及びバッフルプレート452(図12参照)に固定されている。デフレクター554のX軸方向の位置としては、ダウンカマー流路460のX軸方向中央であることが好ましい。このようなデフレクター504を設けることにより、ダウンカマー流路460に入った液体が堰構造450の縁を乗り越えてからダウンカマー流路460内で飛散する距離を短くできる。これにより、ダウンカマー流路460内で液体が気体と接触する距離を短くできる。
【0083】
図28は、更なる変形例による蒸留装置の断面図である。より具体的には図28は、XZ平面における断面図である。図28に示すように蒸留装置600は、気液接触部444における液受け部442との境界付近の孔448の出口に案内蓋602を備える。案内蓋602の下側に形成された孔448は、液受け部442から流れて来た液体を拡散させる拡散用貫通孔としても機能する。つまり気体が孔448を貫通して案内蓋602の下面に当たることで液受け部442から液体の流れ方向下流側に向けた気体の流れを作り出す。これにより、液体を拡散させて下流側に向けて流せる。
【0084】
図29は、案内蓋の形状を例示的に示す斜視図である。図29(a)及び図29(b)に示すように案内蓋602は、気液接触部444に向けて開口しており、反対側が閉じられている。案内蓋602は、気液接触部444側に向けて高さが漸増する屋根形状を有していてもよい。また図29(c)に示すように案内蓋602は、トレイに部分的に切り込みを入れて自由端を有する舌部分604を形成し、舌部分604を持ち上げた形状としてもよい。何れの場合でも、案内蓋602は、+X方向かつ+Z方向に向けて伸びる傾斜形状を有している。複数の孔448を気体が通過すると、気体はそのまま上昇せず、案内蓋602に沿って気液接触部444側に案内される。このような案内蓋602を設けることにより、気体がダウンカマー流路460に向かわないようにすることができる。これにより、孔448を気液接触部444と液受け部442の境界付近に形成でき、孔448の数を増やせる。
【0085】
図30は、更なる変形例による蒸留装置の斜視図であり、図31は同蒸留装置の断面図である。より具体的には図31は、XZ平面における断面図である。図30及び図31に示すように蒸留装置700は、ダウンカマー流路460内に液体を一時的に滞留させる滞留構造702を備える。滞留構造702は、ダウンカマープレート458の下端に設けられた蓋部材である。滞留構造702には複数の孔704(排出部に相当)が設けられている。滞留構造702により、ダウンカマー流路460内に一時的に液体を溜め、一定量の液体だけをトレイ440の液受け部442に流せる。これにより、トレイ440の液受け部442に流す液体の量を均一にできる。
【0086】
また、図31に示すように滞留構造702と、上述した案内蓋602とを併用してもよい。この場合、液受け部442には、トレイ440の上面から下面に貫通する複数の孔706が形成される。複数の孔706の開口上部には、下側から流れてきた気体を気液接触部444の方向に案内する案内蓋602が形成されている。このように滞留構造702と案内蓋602とを併用することで、液受け部442にも気体が通過する孔706を形成でき、トレイ440を貫通する孔の数を増やせる。この場合、案内蓋602の下にある孔706は、滞留構造702の孔704から排出された液体を拡散させる排出液拡散用貫通孔としても機能する。また、案内蓋602は、滞留構造702の孔704から排出された液体を拡散させる拡散構造としても機能する。この構成により、液体が案内蓋602の上面に当たることで液体が液受け部442内で拡散して下流側に向けて流れる。
【0087】
図32及び図33は、更なる変形例による蒸留装置の断面図である。図32は、XY平面に沿った断面図を示し、図33はXZ平面に沿った断面図を示す。図32及び図33に示すように、蒸留塔402内を上面視したときにフィードノズル420が液受け部442の真上に位置するようフィードノズル420を配置してもよい。蒸留塔402内で液体及び気体が循環している間もフィードノズル420からは原液が追加され続けるため、フィードノズル420は処理液追加部に相当する。この例ではフィードノズル420は、塔底側且つ仕切り板418の側に向けて原液を排出する複数の排出口を有し、液受け部442の方向に向けて原液を供給する。この構成により、原液をY軸に沿って均一に供給できる。
【0088】
図34及び図35は、更なる変形例による蒸留装置の断面図である。図34はXZ平面に沿った断面図を示す。図34に示すように、フィードノズル420をダウンカマープレート458近傍に配置してもよい。より具体的にはフィードノズル420は、一対のプレート458A及びプレート458Bのうち、液体の流れる方向下流側にあるプレート458Bに向けて原液を供給するよう配置される。フィードノズル420は、高さ方向において上段のトレイ440と下段のトレイ440の中間に配置されることが好ましい。図示の例では、フィードノズル420はプレート458Bの斜面に向けて原液を供給するよう配置されている。プレート458Bの鉛直な面に向けて原液を供給するようフィードノズル420を配置してもよい。このような構成により、原液が液体の流れに混ざる前に原液を一度プレート458Bの表面に当てられる。これにより、原液がプレート458Bの表面に沿って一様に分散し、原液をY軸に沿って均一に供給できる。
【0089】
本発明は上述の実施形態又はその変形例に限定されるものではなく、各構成は発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、蒸留装置の分野において産業上利用性を有する。
【符号の説明】
【0091】
10 蒸留装置、 18 板、 32 周壁、 40,40a,40b トレイ、 40l 下面、 40u 上面、 42 部、 44 気液接触部、 46 排液部、 48 孔、 52 バッフルプレート、 58,58a,58b ダウンカマープレート、 60 ダウンカマー流路、 60 流路、 60a,60b ダウンカマー流路、 100 蒸留装置、 102 整流部、 104 デフレクター、 200 蒸留装置、 300 蒸留装置、 302 滞留構造、 304,306 孔、 400 蒸留装置、 418 板、 432 周壁、 440 トレイ、 440 気液接触装置、 440L,440R トレイ、 440l 下面、 440u 上面、 442 部、 444 気液接触部、 446 排液部、 448 孔、 452 バッフルプレート、 458 ダウンカマープレート、 458A,458B プレート、 460 ダウンカマー流路、 460 流路、 500 蒸留装置、 502 整流部、 504 デフレクター、 550 蒸留装置、 554 デフレクター、 600 蒸留装置、 700 蒸留装置、 702 滞留構造
図1
図2
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