(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】海洋性DNAポリメラーゼI
(51)【国際特許分類】
C12N 9/12 20060101AFI20250106BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20250106BHJP
C12Q 1/6844 20180101ALI20250106BHJP
C12N 15/54 20060101ALI20250106BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20250106BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20250106BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20250106BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20250106BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20250106BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
C12N9/12 ZNA
C12Q1/48 Z
C12Q1/6844 Z
C12N15/54
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12N1/19
C12N1/15
C12N5/10
C12P21/02 C
(21)【出願番号】P 2022520140
(86)(22)【出願日】2020-10-01
(86)【国際出願番号】 EP2020077534
(87)【国際公開番号】W WO2021064108
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-08-02
(32)【優先日】2019-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518338943
【氏名又は名称】ウニベルシテテット イ トロムソ-ノルゲス アークティスク ウニベルシテット
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【氏名又は名称】本田 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100152489
【氏名又は名称】中村 美樹
(72)【発明者】
【氏名】ラーセン、アトレ ノラルフ
(72)【発明者】
【氏名】ピョートロフスキー、イヴォンネ
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】取扱説明書 phi29 DNA ポリメラーゼ セット,関東化学株式会社,2014年,pp.1-2
【文献】A0A2G2J1S6・A0A2G2J1S6_9PROT,UniProt,2018年,pp.1-4,https://www.uniprot.org/uniprotkb/A0A2G2J1S6/entry [検索日:2024/07/04]
【文献】A0A2D8ZQ76・A0A2D8ZQ76_9PROT,UniProt,2018年,pp.1-4,https://www.uniprot.org/uniprotkb/A0A2D8ZQ76/entry [検索日:2024/07/04]
【文献】A0A2D7XRX0・A0A2D7XRX0_9PROT,UniProt,2018年,pp.1-4,https://www.uniprot.org/uniprotkb/A0A2D7XRX0/entry [検索日:2024/07/04]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 9/12
C12Q 1/48
C12N 1/21
C12Q 1/6844
C12N 1/19
C12N 1/15
C12N 5/10
C12P 21/02
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントであって、前記DNAポリメラーゼは、鎖置換活性及び3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を示し、前記DNAポリメラーゼは
、30℃
~45℃の範囲の温度で不可逆的に不活性化されるものであ
り、前記DNAポリメラーゼは配列番号1のアミノ酸配列又はその酵素的に活性なフラグメントのアミノ酸配列を含む、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント。
【請求項2】
単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントであって、前記DNAポリメラーゼは、配列番号1
又は2のアミノ酸配列を含むか、又は配列番号1
又は2と配列の全長にわたって少なくとも
90%の配列同一性であるアミノ酸配列を含む、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント。
【請求項3】
前記アミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸番号に従う番号付けでアミノ酸431~447位及び519~523位に対応するアミノ酸領域の少なくとも1つに少なくとも1つの突然変異を含み、前記DNAポリメラーゼは鎖置換活性を持たない、請求項
2に記載の単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント。
【請求項4】
449位、450位、451位、及び521位のアミノ酸が、
【表1】
からなる群から選択され、ただし、449
位、450
位、451
位、及び521
位のアミノ酸は、同時にそれぞれSer、Ala、Phe、及びArgではない、請求項
3に記載の単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント。
【請求項5】
前記DNAポリメラーゼは、以下のアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼIの群から選択され:
・450位のアミノ酸がAspである、
・449位及び451位のアミノ酸がAlaである、
・449位及び450位のアミノ酸がそれぞれAla及びAspである、
・450位及び451位のアミノ酸がそれぞれAsp及びAlaである、
・449位、450位、及び451位のアミノ酸がそれぞれAla、Asp、及びAlaである、
・配列番号8の521位のアミノ酸がAlaである、ここで、番号付けは配列番号1のアミノ酸の番号に従うものである、かつ
・前記DNAポリメラーゼIのいずれ
も鎖置換活性を持たない、
請求項
4に記載の単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント。
【請求項6】
前記DNAポリメラーゼは、配列番号3、4、5、6、7及び8からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又は配列番号3、4、5、6、7、及び8のそれぞれと配列の全長にわたって少なくとも
90%の配列同一性であるアミノ酸配列を含み、ただし
・配列番号3の450位のアミノ酸はAspであり、
・配列番号4の449位及び451位のアミノ酸はAlaであり、
・配列番号5の449位及び450位のアミノ酸はそれぞれAla及びAspであり、
・配列番号6の450位及び451位のアミノ酸はそれぞれAsp及びAlaであり、
・配列番号7の449位、450位及び451位のアミノ酸は、それぞれAla、Asp及びAlaであり、
・配列番号8の521位のアミノ酸はAlaである、
請求項
5に記載の単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント。
【請求項7】
前記DNAポリメラーゼは、5’-3’エキソヌクレアーゼ活性を欠くラージフラグメントDNAポリメラーゼIである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリメラーゼ。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント及びバッファーを含む組成物。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子、ならびに前記核酸分子によってコードされるタンパク質配列の転写及び翻訳に必要な調節配列を含む発現ベクター。
【請求項11】
請求項10に記載の1つ以上の発現ベクター、又は請求項
9に記載の1つ以上の核酸分子を含む宿主細胞。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを調製する方法であって:
a)請求項
10に記載の1つ以上の組換え発現ベクター、又は請求項
9に記載の1つ以上の核酸分子を含む宿主細胞を、コードされたDNAポリメラーゼの発現に適した条件下で培養するステップ;及び
b)宿主細胞から、あるいは培地又は上清から、DNAポリメラーゼを単離又は取得するステップ
を含む方法。
【請求項13】
核酸増幅プロセス、配列決定反応、組換えクローニングプロセス又はマルチプルDNAアセンブリプロセスにおける請求項1~
7のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントの使用。
【請求項14】
2つ以上の二本鎖(ds)DNA分子をアセンブリする方法であって:
(a)アセンブリされる2つ以上のdsDNA分子を提供するステップであって、前記dsDNA分子は一本鎖(ss)DNAオーバーハングを含み、前記2つ以上のdsDNA分子の前記オーバーハングを含む末端は配列同一性の領域を共有するステップ;
(b)(a)のDNA分子を、前記DNA分子がオーバーハング部分を介してアニーリングする条件下でインキュベートするステップ;
(c)アニーリングされた分子を、請求項1~
7のいずれか一項に記載の熱不安定性DNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントと接触させるステップであって、この接触により、DNAポリメラーゼは、ステップ(b)で形成されたDNA分子のアニーリング後に残っているギャップを埋め、ここで、前記DNAポリメラーゼは、低下、減弱、又は不活性化した鎖置換活性を有するステップ
を含む方法。
【請求項15】
ステップ(a)の2つ以上のDNA分子のオーバーハングが、3’-5’エキソヌクレアー
ゼを使用して提供される、請求項
14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを使用するヌクレオチド重合の方法であって:
(a)請求項1~
7のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント、テンプレート核酸分子、テンプレート核酸分子の一部にアニーリングすることができるオリゴヌクレオチドプライマー、及び1つ以上のヌクレオチド種を含む反応混合物を提供するステップ;及び
(b)オリゴヌクレオチドプライマーがテンプレート核酸分子にアニーリングし、前記DNAポリメラーゼが、1つ以上のヌクレオチドを重合することによってオリゴヌクレオチドプライマーを伸長させる条件下で、前記反応混合物をインキュベートするステップ
を含む方法。
【請求項17】
請求項1~
7のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを使用して核酸を増幅する方法であって:
(a)請求項1~
7のいずれか一項に記載のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント、テンプレート核酸分子、テンプレート核酸分子の一部にアニーリングすることができるオリゴヌクレオチドプライマー、及びヌクレオチドを含む反応混合物を提供するステップ;
(b)オリゴヌクレオチドプライマーがテンプレート核酸分子にアニーリングし、前記DNAポリメラーゼが、1つ以上のヌクレオチドを重合して前記オリゴヌクレオチドプライマーを伸長させることによりポリヌクレオチドを生成する条件下で、前記反応混合物をインキュベートするステップ
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAポリメラーゼに関する。特に、本発明は、海洋起源の熱不安定性DNAポリメラーゼに関する。さらに、本発明は、実質的に鎖置換活性のない熱不安定性DNAポリメラーゼを提供する。本発明はさらに、様々な分子生物学的プロセスにおける前記DNAポリメラーゼの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
合成生物学は急速に進化している分野であり、将来のバイオエコノミー及びバイオエネルギーの課題に対する可能な解決策として期待されている。合成生物学の究極のビジョンは、細胞が有用な役割を予測どおりに果たすことができるようにする、新しい生物学的操作システムを創出することである。合成生物学のパイプラインの重要なステップの1つは、DNAフラグメントをより大きな機能的構築物にアセンブリすることであり、多くの場合、多数のアセンブリが含まれる。
【0003】
しかし、現在障壁になっているのは、時間のかかる手動処理ステップなしで多数のDNAアセンブリを行うためのしっかりした室温法がないことである。したがって、現在のハードルを回避できる新しいDNAアセンブリ法が強く望まれている。
【0004】
ゲノムDNAの複製は、モノデオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTP)からのポリデオキシリボヌクレオチドの合成を触媒する、DNAポリメラーゼの主要な機能である。
【0005】
インビトロでは、DNAポリメラーゼの特性は、様々なDNA増幅プロセス、DNAアセンブリプロセス、及び、目的のDNA鎖テンプレートを読み取り、テンプレートにマッチする2つの新しいDNA鎖を作成するDNA分子の合成などのDNA合成で使用される。
【0006】
様々な種類のポリメラーゼが発見されている。例えば、大腸菌(E.coli)やその他の原核細胞では、既知のDNAポリメラーゼは一般にDNAポリメラーゼI~Vと呼ばれている。これら様々なグループは、複製の忠実度、熱安定性、伸長速度、校正活性及び効率が異なる。いくつかのDNAポリメラーゼはかなり単純で、他のDNAポリメラーゼはより複雑である。例えば、大腸菌ポリメラーゼIIIは20個の異なるペプチドサブユニットからなる。DNAポリメラーゼはモノヌクレオチドから新規に合成を開始できないため、インビトロでのDNA複製プロセスで使用する場合、dNTPに加えて、鎖成長の開始点として使用できる3’末端ヒドロキシル基を持つプライマー(初期オリゴヌクレオチド)が必要である。プライマーは、フリー3’-OH基を有する短い又は長いDNA又はRNAのフラグメントとすることができ、テンプレートの相補的領域へのアニーリングによってDNAポリメラーゼに二本鎖構造を提供する。選択されたDNAポリメラーゼはテンプレートに沿って作用し、プライマーを5’→3’方向に延長する。
【0007】
DNA鎖の極性のため、DNA分子の2つの鎖の複製は双方向であり、テンプレートの複製の方向に応じて、「リーディング」鎖と「ラギング」鎖の2つの異なる産物がもたらされる。リーディング鎖は単一の連続鎖として合成されるが、ラギング鎖は最初に岡崎フラグメントと呼ばれる小さなオリゴヌクレオチドとして合成され、次にライゲーションされて連続鎖を形成する。インビボでは、低分子RNA分子は、リーディング鎖と、特にラギング鎖の両方の合成において天然のプライマーとして機能する。
【0008】
DNAポリメラーゼIIIは、リーディング鎖と、ラギング鎖上の岡崎フラグメントとを連続的に合成し、合成されたフラグメント間にギャップを残し、ギャップはその後DNAポリメラーゼIで埋められることはよく知られている。
【0009】
DNA合成活性に加えて、DNAポリメラーゼは、3’-5’エキソヌクレアーゼ活性や鎖置換活性などの他の酵素活性も発揮し得る。DNAポリメラーゼの鎖置換活性の役割は、ライゲーションの前にイニシエーターRNA又はプライマーを除去することである。インビボでは、いくつかのDNAポリメラーゼの3’-5’エキソヌクレアーゼ活性は、遺伝的安定性にとって重要であり、DNAポリメラーゼのエラーを修正する。例えば、生成されるDNA分子において生じた塩基対のミスマッチは、その後、DNAポリメラーゼのエキソヌクレアーゼ機能によって修正される。
【0010】
非特許文献1及び非特許文献2は、鎖置換活性が変化した変異型DNAポリメラーゼを開示している。
ミスマッチ塩基対を置換及び修正するには、DNAポリメラーゼの校正活性が、誤って導入されたdNTPを除去できなければならず、したがってヌクレアーゼ活性は、DNA分子のリン酸骨格のホスホジエステル結合の切断に関与する。ミスマッチdNTPを除去し、ひいてはDNAを分解する機能は、インビトロ分子生物学において様々な方法で利用される。配列特異的DNA増幅は、親子鑑定、法医学的調査、診断など、分子生物学で多くの用途がある。広く使用されているDNAポリメラーゼの多くは、少なくとも70℃などの高温で安定しているため、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)やサーモサイクルDNAシーケンシングなどのDNA検出及び分析方法での使用が可能である。このようなプロセスに適用可能なDNAポリメラーゼは、一般に耐熱性DNAポリメラーゼと呼ばれている。
【0011】
PCRは、テンプレートDNAを変性させ、プライマーをアニーリングし、様々な温度条件に耐える耐熱性DNAポリメラーゼを使用してプライマーを伸長するという熱サイクルに基づいており、増幅によって目的のDNAの量を指数関数的に増加させる。他の増幅方法は等温、すなわち、一定の温度で実施される。今日、様々な等温DNA増幅法が存在する。例えば、ストランド変位増幅(例えば、非特許文献3参照)及びループ媒介増幅(LAMP)(例えば、非特許文献4参照)。ストランド変位増幅に有用なDNAポリメラーゼとしては、ThermoFisher Scientificが提供するEquiPhi29TM DNAポリメラーゼなどが市販されている。
【0012】
DNAポリメラーゼは、Gibsonらによって非特許文献5に記載されたギブソン・アセンブリ(商標)法などのDNAアセンブリプロセスでも使用される。これは、核酸分子のシングルステップ等温式アセンブリを可能にする。ただし、この方法では、プロセスを50℃で実施する必要がある。
【0013】
しかし、現在の障壁は、時間のかかる手動処理ステップなしでマルチプルDNAアセンブリを行うためのしっかりした室温法がないことである。例えば、DNAアセンブリ法でPCR生成物を使用する場合、マルチプルDNAアセンブリプロセスで使用する前に、生成物を精製する(クリーンアップ手順を行う)必要がある。数回のアセンブリが必要な場合にも、精製ステップが必要である。したがって、現在のハードルを回避できる新しいDNAアセンブリ法が強く望まれている。
【0014】
海洋起源の様々な酵素が知られている。例えば、特許文献1は、室温を超える温度を含む幅広い温度で活性である、サイクロバシラス(Psychrobacillus)種から単離された海洋起源の耐熱性DNAポリメラーゼを開示している。
【0015】
特許文献2は、一本鎖DNAを分解することができる、冷水環境に由来する熱不安定性エキソヌクレアーゼを開示しており、これは65℃未満の温度にさらされると15~20分以内に不活性化される可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】国際公開第2017/162765号
【文献】国際公開第2016/026574号
【非特許文献】
【0017】
【文献】Piotrowski,Y.et al.,Molecular and Cell biology,2019,第1~11頁
【文献】Singh,K.et al.,J.of Biological Chemistry,2007,vol.282,no.14,第10594-10604頁
【文献】Walker GT.Empirical aspects of strand displacement amplification.PCR Methods Appl.1993;3:1-6
【文献】Notomi T,Okayama H,Masubuchi H,Yonekawa T,Watanabe K,Amino N,et al.Loop-mediated isothermal amplification of DNA.Nucleic Acids Res.2000;28:E63
【文献】Nature Methods,2009,vol.6,pp.343-345
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明者らは、スバールバル諸島周辺の海洋北極圏で収集された海洋環境サンプルのメタゲノム解析によって、DNAポリメラーゼIを同定した。他の既知のDNAポリメラーゼとは異なり、本発明の単離されたDNAポリメラーゼは本質的に熱に不安定である。このことは、酵素を様々なDNA増幅プロセス及びDNAアセンブリプロセスなどの分子生物学プロセスにおいて特に有用にする。例えば、本発明のDNAポリメラーゼは、25℃を超える温度、例えば約30℃を超える温度で迅速かつ不可逆的に不活性化され、その結果、本発明のDNAポリメラーゼの対象となる生成物をさらに取り扱う前に不活性化ステップを必要としない。
【0019】
さらに、本発明者らは、本DNAポリメラーゼが、大腸菌由来の中温性クレノウ酵素やバシラス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)由来の好熱性Bstポリメラーゼなどの市販のDNAポリメラーゼと比較して、非常に強力なポリメラーゼ活性を発揮することを示した。
【0020】
本DNAポリメラーゼの強力なポリメラーゼ活性と温度不安定性の特性により、室温で実行でき、不活性化ステップの必要性を回避する、幅広いDNA増幅プロセスに非常に有用なDNAポリメラーゼになる。
【0021】
本DNAポリメラーゼは、さらに3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を発揮し、複製されたDNA分子の校正を行う。
本DNAポリメラーゼは、さらに鎖置換活性を有し、ストランド変位増幅プロセスにとって魅力的なポリメラーゼとなっている。
【0022】
本発明者らはまた、DNAポリメラーゼの鎖置換活性が十分に弱められているか又は存在しない、本発明のDNAポリメラーゼの改変された変異体を合成した。
鎖置換活性が弱められているか又は欠如している本発明の改変されたDNAポリメラーゼは、例えば、一本鎖5’オーバーハングを有する2つ以上の二本鎖核酸分子がアセンブリされる組換えクローニングプロセスにおいて特に有用である。特に、鎖置換活性が弱められているか又は欠如している改変DNAポリメラーゼは、マルチプルDNAアセンブリ法で有用であり、その熱不安定性により、室温での作業が可能になる。本DNAポリメラーゼのさらなる利点は、以下にさらに示されるように、DNA増幅又はDNAアセンブリプロセスで使用される場合、不活性化ステップとみなされるものが必要ないことである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
第1の態様によれば、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが提供され、前記DNAポリメラーゼは、鎖置換活性、3’-5’エキソヌクレアーゼ活性を示し、前記DNAポリメラーゼは、25℃を超える温度で、より好ましくは約30℃を超える温度で不可逆的に不活性化される。
【0024】
この態様の一実施形態によれば、鎖置換活性を低下、減弱、又は不活性化させたDNAポリメラーゼが提供される。
本発明の第2の態様によれば、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが提供され、前記DNAポリメラーゼは、配列番号1のアミノ酸配列を含むか、又は配列番号1と配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性であるアミノ酸配列を含む。
【0025】
本発明の第3の態様によれば、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが提供され、前記DNAポリメラーゼは、配列番号2のアミノ酸配列を含むか、又は配列番号2と配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性であるアミノ酸配列を含む。
【0026】
上記の態様による、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、配列番号1又は配列番号2と配列の全長にわたって少なくとも70%同一の、例えば、配列番号1又は配列番号2と配列の全長にわたって少なくとも80%の配列同一性、例えば、配列番号1又は配列番号2と配列の全長にわたって少なくとも90%の配列同一性であるアミノ酸配列を含み得る。
【0027】
第4の態様によれば、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが提供され、前記アミノ酸配列は、配列番号2のアミノ酸番号に従う番号付けでアミノ酸431~447位及び519~523位に対応するアミノ酸領域の少なくとも1つに少なくとも1つの突然変異を含み、前記DNAポリメラーゼは、鎖置換活性を持たない。例えば、前記DNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、配列番号1及び配列番号2に示されるアミノ酸配列のS449、A450、F451、及び/又はR521に対応するアミノ酸位置に少なくとも1つの突然変異を含む。
【0028】
第5の態様によれば、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが提供され、前記DNAポリメラーゼは、配列番号1及び配列番号2に示されるアミノ酸配列のS449、A450、F451、及び/又はR521に対応するアミノ酸位置に少なくとも1つの突然変異を含み、前記少なくとも1つの突然変異は、以下に置換することである:
・S449に対応する位置の疎水性側鎖を有するアミノ酸、
・A450に対応する位置の負に帯電した側鎖を有するアミノ酸、
・F451に対応する位置の疎水性側鎖を有するアミノ酸、及び/又は
・R521に対応する位置の疎水性側鎖を有するアミノ酸。
【0029】
例えば、前記単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、上記の態様の一実施形態によれば、アミノ酸配列を含み、ここで、配列番号1又は配列番号2の番号付けに従う449位のアミノ酸は、Ser、Ala、Gly、Val、Leu、Ileからなる群から選択される。
【0030】
さらに、前記単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、上記の態様の一実施形態によれば、アミノ酸配列を含み得、ここで、配列番号1又は配列番号2の番号付けに従う450位のアミノ酸は、Ala、Gly、Val、Leu、Ile、Asp、Glu、Asn、Glnからなる群から選択される。
【0031】
さらに、前記単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、上記の態様の一実施形態によれば、アミノ酸配列を含み得、ここで、配列番号1又は配列番号2の番号付けに従う451位のアミノ酸は、Phe、Ala、Gly、Val、Leu、Ileからなる群から選択される。
【0032】
さらに、前記単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、上記の態様の一実施形態によれば、アミノ酸配列を含み得、ここで、配列番号1又は配列番号2の番号付けに従う521位のアミノ酸は、Arg、Ala、Gly、Val、Leu、Ileからなる群から選択される。
【0033】
さらに、前記単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、上記の態様の一実施形態によれば、アミノ酸配列を含み得、ここで、449位、450位、451位及び521位のアミノ酸は、
【0034】
【0035】
からなる群から選択され、ただし、449位(S449)、450位(A450)、451位(F451)、及び521位(R521)のアミノ酸は、同時にそれぞれSer、Ala、Phe、及びArgではない。
【0036】
さらに、前記単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、上記の態様の一実施形態によれば、アミノ酸配列を含み得、449位、450位、451位及び521位のアミノ酸は、
【0037】
【0038】
からなる群から選択され、ただし、449位(S449)、450位(A450)、451位(F451)、及び521位(R521)のアミノ酸は、同時にそれぞれSer、Ala、Phe、及びArgではない。前述の態様のいずれかによる一実施形態では、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントは、以下のアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼの群から選択される:
・450位のアミノ酸がAspである、
・449位及び451位のアミノ酸がAlaである、
・449位及び450位のアミノ酸がそれぞれAla及びAspである、
・450位及び451位のアミノ酸がそれぞれAsp及びAlaである、
・449位、450位、及び451位のアミノ酸がそれぞれAla、Asp、及びAlaである、
・配列番号8の521位のアミノ酸がAlaである。ここで、番号付けは配列番号1のアミノ酸の番号に従うものであり、前記DNAポリメラーゼのいずれも鎖鎖置換活性を持たない。
【0039】
第6の態様によれば、単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが提供され、前記DNAポリメラーゼは、配列番号3、4、5、6、7及び8からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又は配列番号3、4、5、6、7、及び8のそれぞれと配列の全長にわたって少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも97%、例えば少なくとも98%又は99%の配列同一性であるアミノ酸配列を含み、ただし
・配列番号3の450位のアミノ酸はAspであり、
・配列番号4の449位及び451位のアミノ酸はAlaであり、
・配列番号5の449位及び450位のアミノ酸はそれぞれAla及びAspであり、
・配列番号6の450位及び451位のアミノ酸はそれぞれAsp及びAlaであり、
・配列番号7の449位、450位及び451位のアミノ酸は、それぞれAla、Asp及びAlaであり、
・配列番号8の521位のアミノ酸はAlaである。
【0040】
本発明はまた、上記の態様のいずれかに従って、DNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを提供し、ここで、酵素は、25℃を超える温度で、例えば30℃を超える温度で不可逆的に不活性化される。
【0041】
第7の態様によれば、前述の態様のいずれかによる単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントとバッファーとを含む組成物が提供される。
上記の態様のいずれかの実施形態によれば、DNAポリメラーゼは、N末端の5’-3’-エキソヌクレアーゼドメインを欠くラージフラグメントDNAポリメラーゼIである。
【0042】
配列番号1及び配列番号2は、N末端の5’-3’-エキソヌクレアーゼドメインを欠くラージフラグメントDNAポリメラーゼ配列の例である。
第9の態様によれば、上記の態様のいずれかによる単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子が提供される。上記の態様による一実施形態では、核酸分子は、配列番号9の核酸配列を含むか、又は配列番号9と配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性を有する核酸分子を含む。
【0043】
上記の態様による一実施形態では、核酸分子は、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列をコードする核酸分子を含むか、又は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8のそれぞれと配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸分子を含む。
【0044】
第10の態様によれば、上記の態様による単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子、ならびに前記核酸分子によってコードされるタンパク質配列の転写及び翻訳に必要な調節配列を含む発現ベクターが提供される。
【0045】
前記発現ベクターは、例えば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列をコードする核酸配列を含み得るか、又は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8のそれぞれと配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸分子を含む。
【0046】
第11の態様によれば、上記の1つ以上の発現ベクター、又は本発明のDNAポリメラーゼをコードする上記の1つ以上の核酸分子を含む宿主細胞が提供される。
第12の態様によれば、以下のステップを含む、本発明によるDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを調製するための方法:
a)第10の態様による1つ以上の組換え発現ベクター、又は第9の態様による1つ以上の核酸分子を含む宿主細胞を、コードされたDNAポリメラーゼの発現に適した条件下で培養するステップ;
b)宿主細胞から、あるいは培地又は上清から、ラージフラグメントDNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼを単離又は取得するステップ。
【0047】
第13の態様によれば、本発明はさらに、核酸増幅プロセス、配列決定反応、組換えクローニングプロセス又はマルチプルDNAアセンブリプロセスにおける本発明のラージフラグメントDNAポリメラーゼ又は酵素的に活性なフラグメントなどのDNAポリメラーゼの使用に関する。
【0048】
この態様の一実施形態によれば、本発明のDNAポリメラーゼは、ストランド変位増幅において使用される。
さらに、第14の態様によれば、2つ以上の二本鎖(ds)DNA分子をアセンブリするための方法が提供され、前記プロセスは以下のステップを含む:
(a)アセンブリされる2つ以上のdsDNA分子を提供するステップであって、dsDNA分子は一本鎖(ss)DNAオーバーハングを含み、2つ以上のdsDNA分子の前記オーバーハングを含む末端は配列同一性の領域を共有するステップ;
(b)(a)のDNA分子を、前記DNA分子がオーバーハング部分を介してアニーリングする条件下でインキュベートするステップ;
(c)アニーリングされた分子を、ラージフラグメントDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントなどの、態様1~6のいずれかによる熱不安定性DNAポリメラーゼと接触させるステップであって、この接触により、DNAポリメラーゼは、ステップ(b)で形成されたDNA分子のアニーリング後に残っているギャップを埋め、ここで、前記DNAポリメラーゼは、鎖置換活性が低下、減弱、又は不活性化しているステップ。
【0049】
上記の方法のステップ(a)~(c)は、一定の温度で実施することができる。一実施形態によれば、前記プロセスは、20℃~25℃の範囲内の温度で実施される。
別の実施形態によれば、ステップ(c)のアセンブリされたDNA分子は、増殖のために適切な宿主細胞にさらに移される。
【0050】
第15の態様によれば、上記の方法のステップ(a)の2つ以上のDNA分子のオーバーハングが、3’-5’エキソヌクレアーゼ、好ましくは熱不安定性エキソヌクレアーゼを使用して提供される方法が提供される。
【0051】
第16の態様によれば、本発明のラージフラグメントDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントなどのDNAポリメラーゼを使用するヌクレオチド重合の方法が提供され、前記方法は以下のステップを含む:
(a)本発明のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント、テンプレート核酸分子、テンプレート核酸分子の一部にアニーリングすることができるオリゴヌクレオチドプライマー、及び1つ以上のヌクレオチド種を含む反応混合物を提供するステップ;及び
(b)オリゴヌクレオチドプライマーがテンプレート核酸分子にアニーリングし、前記DNAポリメラーゼが、1つ以上のヌクレオチドを重合することによって前記オリゴヌクレオチドプライマーを伸長させる条件下で、前記反応混合物をインキュベートするステップ。
【0052】
第17の態様によれば、ラージフラグメントDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントなどのDNAポリメラーゼを使用して核酸を増幅する方法が提供され、前記方法は、以下のステップを含む:
(a)態様1~6のいずれかによるDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメント、テンプレート核酸分子、テンプレート核酸の一部にアニーリングすることができるオリゴヌクレオチドプライマー、及びヌクレオチドを含む反応混合物を提供するステップ;
(b)オリゴヌクレオチドプライマーがテンプレート核酸分子にアニーリングし、前記DNAポリメラーゼが、1つ以上のヌクレオチドを重合して前記オリゴヌクレオチドプライマーを伸長させることによりポリヌクレオチドを生成する条件下で、前記反応混合物をインキュベートするステップ。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】本発明のDNAポリメラーゼと相同なポリメラーゼであるクレノウフラグメント(PDBコード:1D8Y)を表し、3つの連続するアミノ酸残基S449、A450、及びF451を含む矢印で識別されるαヘリックスを示している。また、残基R521、C末端及びN末端の位置も示す。
【
図2】本発明のDNAポリメラーゼのDNA及びアミノ酸配列を示す。
【
図3】大腸菌由来のクレノウ酵素及び好熱性バシラス・ステアロサーモフィラス(Bst)ポリメラーゼのポリメラーゼ活性と比較した、本ラージフラグメントDNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性を示す。
【
図4】様々な温度で酵素をインキュベートした後、25℃で本野生型ラージフラグメントDNAポリメラーゼの残存活性を測定した実験結果を示す。
【
図5】野生型(wt)DNAポリメラーゼ、A450D変異体(SDF)、S449A+F451A変異体(AAA)、S449A+A450D変異体(ADF)、A450D+F451A変異体(SDA)、S449A+A450D+F451A変異体(ADA)、及びR521A変異体で表される、25℃での本発明のラージフラグメントDNAポリメラーゼのポリメラーゼ活性の比較を示す。
【
図6】野生型(wt)DNAポリメラーゼ、A450D変異体(SDF)、S449A+F451A変異体(AAA)、S449A+A450D変異体(ADF)、A450D+F451A変異体(SDA)、S449A+A450D+F451A変異体(ADA)、及びR521A変異体で表される、25℃での本発明のラージフラグメントDNAポリメラーゼの鎖置換活性の比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明の詳細な説明
本発明者らは、言及したように、海洋起源の新規なDNAポリメラーゼであって、前記DNAポリメラーゼ及びその変異体を多くの分子生物学プロセスにおいて有用にする有利な特性を有するDNAポリメラーゼを同定した。特に、酵素は、室温で行われるプロセスで使用され得る点、及びそれが25℃を超える温度、例えば30℃を超える温度で容易に不活性化される点で有利である。
【0055】
本明細書で特に定義されない限り、使用されるすべての技術的及び科学的用語は、遺伝学、生化学、及び分子生物学の分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。
【0056】
適切な方法及び材料が本明細書に記載されているが、本明細書に記載されているものと類似又は同等のすべての方法及び材料を、本発明の実施又は試験に使用することができる。本明細書で言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、それらの全体が参照により組み込まれる。矛盾がある場合は、定義を含め、本明細書が優先される。
【0057】
数値限定又は数値範囲が記載されている場合、その境界値も含まれる。また、数値限定又は数値範囲内のすべての値及び部分範囲は、明示的記載の如く特定的に含まれる。
以下に示すように、本発明のDNAポリメラーゼは、アセンブリ対象の核酸分子に5’-3’オーバーハングを提供するために、例えば、完全配列核酸分子を提供し、前記分子をベクターと結合するために使用することができる。したがって、DNAポリメラーゼを使用して、1つ以上の対象核酸分子を担体又は発現ベクター中にアセンブリすることができ、ここで、所望の核酸分子及びベクターは、相補的な5’-3’オーバーハングを有する。
【0058】
すなわち、共に5’-3’のオーバーハングを有する1つ以上の対象二本鎖核酸分子と選択されたベクターとが接触すると、例えばそれらが約10~40塩基対の長さの場合、本発明のDNAポリメラーゼは、対象の配列をアセンブリするために必要な数のヌクレオチドを埋める。DNAポリメラーゼは熱に不安定であるため、DNAポリメラーゼは短時間で不活性化されるが、例えば対象の核酸分子をアセンブリするには十分な時間活性である。
【0059】
例えば、本発明のDNAポリメラーゼは、25℃で経時的に不活性になり得るが、少なくとも60分間はその活性を維持することが示されており、例えばマルチプルDNAアセンブリ方法で使用する場合に、さらなるプロセスステップに影響を及ぼさない。一実施形態によれば、マルチプルDNAアセンブリ方法で使用される場合、アニーリングされたDNA分子は、5~45分の範囲、例えば10~30分の範囲、例えば15~20分の範囲の期間、鎖置換活性を低下、減弱、又は不活性化させたDNAポリメラーゼと接触させられる。
【0060】
本発明の酵素は、室温で行われる様々なプロセスで使用することができる。「室温」という用語は、当技術分野で認識されている用語であり、18℃~25℃の範囲内の温度を含む。
【0061】
別の態様によれば、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を含むか、又は、配列番号1と配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性であるアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが提供される。
【0062】
DNAポリメラーゼの「酵素的に活性なフラグメント」という表現は、ポリメラーゼの活性が維持されている、すなわち、配列番号1~8に示されるアミノ酸配列を有するが、配列番号1~8に示される配列と比較して1つ以上のアミノ酸が除去されているDNAポリメラーゼと比較して同じ又は少なくとも同様の活性を有するDNAポリメラーゼを意味すると理解されるべきである。当業者は、例えばアミノ酸配列のC末端又はN末端にある1つ以上のアミノ酸が、そのタンパク質の活性に影響を与えることなく除去され得ることを認識するであろう。
【0063】
本発明のDNAポリメラーゼは、既知のDNAポリメラーゼと比較して優れたポリメラーゼ効率を発揮する。
図3に示すように、本DNAポリメラーゼは、大腸菌由来のクレノウ酵素や好熱性バシラス・ステアロサーモフィラス(Bst)ポリメラーゼのポリメラーゼ活性と比較して改善されたポリメラーゼ活性を示す。当業者はさらに、Summerer,Methods Mol.Biol.,2008,429,225-235に開示されているようなリアルタイムモレキュラービーコンアッセイ、又は、下記の実験部に示すようなその変法を使用して、ポリメラーゼ活性を測定できることを認識するであろう。
【0064】
第2の態様によれば、DNAポリメラーゼは、実質的に鎖転位活性なしで提供され、前記DNAポリメラーゼは、実質的に鎖転位活性がなく、さらに、25℃を超える温度、例えば約30℃を超える温度で不可逆的に不活性化される。この点に関して、
図4を参照すると、本発明の改変DNAポリメラーゼは、野生型DNAポリメラーゼと比較して低下した鎖置換活性を有することが示されている。当業者は、鎖置換活性が、Piotrowski et al.,2019,BMC Mol Cell Biol,20(31)(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6688381/)に記載されている鎖置換活性アッセイなどの周知の方法を使用して測定できることを認識するであろう。
【0065】
「実質的に鎖置換活性がない」という表現は、配列番号2のアミノ酸配列を有する野生型DNAポリメラーゼと比較して、DNAポリメラーゼの置換活性が減弱されているか、又は存在しないことを意味すると理解されるべきである。例えば、当業者は、配列番号3~8のアミノ酸配列を有するDNAポリメラーゼの程度まで低下した鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼは、減弱された鎖置換活性を有する、すなわち、実質的に鎖置換活性がないことを認識するであろう。
【0066】
さらに別の態様によれば、本発明は、配列番号1のアミノ酸配列又は配列番号1と配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性であるアミノ酸配列を含む、単離されたラージフラグメントDNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを提供する。
【0067】
さらに別の態様によれば、本発明は、配列番号2のアミノ酸配列又は配列番号2と配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性であるアミノ酸配列を含む、単離されたラージフラグメントDNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを提供する。
【0068】
上記のように、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸を含み、配列番号2のアミノ酸番号に従う番号付けでアミノ酸431~447位及び519~523位に対応する領域に少なくとも1つの突然変異を含むDNAポリメラーゼが提供され、前記DNAポリメラーゼは鎖置換活性を持たない。431~447位のアミノ酸は、本発明の同定された海洋DNAポリメラーゼの鎖置換活性に関与すると考えられる3つのらせんを構成している。一実施形態によれば、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸を含み、配列番号2のアミノ酸番号に従う番号付けでアミノ酸位置G447~L453及び位置G519~A523に対応する領域に、少なくとも1つの突然変異を含むDNAポリメラーゼが提供される。
【0069】
特に、突然変異が449位、450位、451位及び/又は521位に導入されたDNAポリメラーゼが提供される。
本発明は、とりわけ、449位のセリンがアラニンに置換されているか、450位のアラニンがアスパラギンに置換されているか、451位のフェニルアラニンがアラニンに置換されているか、又は521位のアルギニンがアラニンに置換されている例を提供する。
【0070】
当業者は、アミノ酸が側鎖の化学的特性に依存してグループ化されることを認識するであろう。アミノ酸は一般に、疎水性又は親水性として、及び/又は極性又は非極性側鎖を有するものとして分類される。あるアミノ酸を、同じ生化学的特性を有する別のアミノ酸に置換することは、一般に保存的置換として知られている。当業者は、保存的置換がタンパク質のアミノ酸配列に、例えば本発明による酵素に、前記酵素の活性を変化させることなく導入され得ることを認識するであろう。したがって、そのような改変は生物学的に同等の生成物を構成すると予想される。
【0071】
アミノ酸の保存的置換には、以下のグループ内のアミノ酸の間で行われる置換が含まれる:
・Val、Ile、Leu、Met(疎水性側鎖を持つアミノ酸)
・Phe、Tyr、Trp(疎水性側鎖を持つアミノ酸)
・Arg、His、Lys(正に帯電した側鎖を持つアミノ酸)
・Ala、Gly(小さい側鎖を持つアミノ酸)
・Ser、Thr(非荷電側鎖を持つアミノ酸)
・Asn、Gln(非荷電側鎖を持つアミノ酸)
・Asp、Glu(負に帯電した側鎖を持つアミノ酸)
総じて、保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸置換が行われるタンパク質の相対的な電荷又はサイズの特性を変更しないアミノ酸置換を指し、したがって、タンパク質の三次元構造を変更することはめったにない。そのため、生物学的活性もあまり変化しない。
【0072】
よって、当業者は、配列番号1又は配列番号2のアミノ酸配列を含む単離されたラージフラグメントDNAポリメラーゼなどのDNAポリメラーゼであって、449位のアミノ酸が、Ser、Ala、Gly、Val、Leu、Ileからなる群から選択され、かつ/又は、450位のアミノ酸が、Ala、Gly、Val、Leu、Ile、Asp、Glu、Asn、Glnからなる群から選択され、かつ/又は、451位のアミノ酸が、Phe、Ala、Gly、Val、Leu、Ileからなる群から選択され、かつ/又は、521位のアミノ酸が、Arg、Ala、Gly、Val、Leu、Ileから選択され、ただし、449位(S449)、450位(A450)、451位(F451)、及び521位(R521)は、それぞれSer、Ala、Phe、及びArgではないDNAポリメラーゼが、配列番号3~8のDNAポリメラーゼと同じ又はほぼ同じポリメラーゼ活性及び鎖置換活性を有し得ることを認識するであろう。
【0073】
また、当業者は、DNAポリメラーゼの活性を変えることなく、1つ以上のアミノ酸が欠失、挿入、又は付加され得ることを理解するであろう。
したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲に開示されるDNAポリメラーゼを包含し、上記のような改変(アミノ酸の置換、欠失、挿入及び付加)は、そのポリメラーゼの活性を、すなわち、ポリメラーゼ活性及び鎖置換活性に関して本質的に変えることなく導入され得ることが理解される。
【0074】
また、当業者は、ラージフラグメントDNAポリメラーゼIが、インタクトなDNAポリメラーゼIの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を欠くが、5’→3’DNAポリメラーゼ活性及び3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を示すDNAポリメラーゼ酵素であることを理解するであろう。よく知られているラージフラグメントDNAポリメラーゼIの例は、クレノウフラグメントである。
【0075】
さらに別の態様によれば、本発明は、配列番号3、4、5、6、7、及び8からなる群から選択されるアミノ酸配列を含むか、又は配列番号3、4、5、6、7、及び8のそれぞれと配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性であるアミノ酸配列を含む、DNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを提供する。
【0076】
別の態様によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列と配列の全長にわたって少なくとも60%、例えば少なくとも70%、例えば少なくとも75%、例えば少なくとも80%、例えば少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも97%、例えば少なくとも98%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むDNAポリメラーゼが提供される。
【0077】
さらに、本発明はまた、本発明による単離されたDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子を提供する。一態様によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列をコードする核酸分子を含むか、又は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8のそれぞれと配列の全長にわたって少なくとも60%の配列同一性であるアミノ酸配列を含む核酸分子が提供される。
【0078】
さらに別の態様によれば、配列番号9に示される配列、又は配列番号9と配列の全長にわたって少なくとも80%の配列同一性、例えば、配列番号9と配列の全長にわたって少なくとも85%、例えば少なくとも90%、例えば少なくとも95%、例えば少なくとも97%、例えば少なくとも98%、例えば少なくとも99%の配列同一性である核酸分子を含む核酸分子が提供される。
【0079】
また、当業者は、1つ以上のアミノ酸が、本発明の酵素の活性を変更することなく、欠失、挿入、又は付加され得ることを理解するであろう。
したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲に開示されるDNAポリメラーゼを包含し、上記のような改変(アミノ酸の置換、欠失、挿入及び付加)は、その酵素の活性を本質的に変えることなく導入され得ることが理解される。
【0080】
本明細書で使用される場合、タンパク質及び核酸分子又はそのフラグメントの両方に関して、「配列同一性」に言及する場合、第2の配列に対して少なくともx%の同一性を有する配列は、x%が、第1及び第2の両方の配列がグローバルアラインメントを介して最適にアラインメントされている場合に、マッチさせた第2の配列のアミノ酸と同一である第1の配列におけるアミノ酸の、第2のアミノ酸配列の全長に対する数を表すことを意味する。xが最大のとき、両方の配列は最適にアラインメントされている。アラインメント及び同一性のパーセンテージの決定は、手動又は自動で行うことができる。本明細書で配列同一性に言及するときはいつでも、比較は、配列番号1~配列番号9それぞれに示される配列全体で行われることが理解されるべきである。
【0081】
当業者は、アミノ酸配列同一性パーセントを決定する目的でのアラインメントが、当分野の技術範囲内の様々な方法で、例えば、ClustalOmega(Sievers F,Higgins DG(2018)Protein Sci 27:135-145)、Clustal W(Thomson et al.,1994,Nucleic Acid Res.,22,pp4673-4680)、Protein BLAST(国立生物工学情報センター(NCBI)、米国)又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの商業的に利用可能なソフトウェアといった、公に利用可能なコンピュータソフトウェアを用いて達成できることを認識するであろう。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、アラインメントを測定するための適切なパラメータを決定することができる。NCBI BLASTは、アミノ酸配列の同一性を決定するために使用されるソフトウェアの別の例である(MacWilliam et al.,Nucleic Acids Res.2013年7月;41(Web Server Issue):W597-W600)。
【0082】
当業者は、核酸分子にアミノ酸配列を変更しない改変、例えば、置換の影響を受けるトリプレットが依然として同じアミノ酸をコードするようなヌクレオチドの置換を導入することができることを認識するであろう。例えば、アミノ酸のイソロイシンは、トリプレット(DNAコドン)ATT、ATC、及びATAによってコードされる。つまり、イソロイシントリプレットATTの3番目のヌクレオチドをTからC又はAに置換しても、結果として生じるアミノ酸配列は変更されない。そのようなヌクレオチド改変は、核酸配列を宿主細胞によって好ましく使用されるコドンに適合させることで、酵素の発現を増強するために、当業者に周知の技術(例えば、部位特異的変異導入)によって導入され得る。
【0083】
さらに、単離及び精製を容易にするポリペプチドをコードする核酸分子を、得られるDNAポリメラーゼの活性に影響を与えることなく、本発明のヌクレオチド配列に加えることができる。
【0084】
また、宿主細胞からの所望の酵素の分泌を提供するシグナルペプチドをコードする核酸分子もまた、本発明の核酸配列に連結され得る。
本発明はさらに、本発明のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを含む組成物を提供する。本発明の酵素を含む組成物は、酵素の最適化された活性のためのバッファーを含み得る。当業者は、本発明の酵素を含む組成物に使用されるバッファーが、選択される酵素及び酵素が使用されるプロセスによって異なり、最適化され得ることを認識するであろう。本発明の酵素は、当業者に周知のクローニングプロセス、DNAアセンブリプロセス、及びDNA増幅プロセスなどの分子生物学プロセスで一般的に使用される条件内、すなわち、例えば塩の種類及び濃度、pH条件などに関して上記条件内に保持される。例えば、約8.0を超えるpH、例えば、8.0~9.0の範囲内のpHを有するトリス緩衝液などの、トリス緩衝液などの周知のバッファーを使用することができる。一態様によれば、組成物のpHは8.5~9.0の範囲内である。
【0085】
さらに、当業者は、塩の種類及びその濃度が可変であることを認識するであろう。一態様によれば、組成物は、NaCl及びKClからなる群から選択される1つ以上の塩を含む。本組成物の別の態様によれば、NaCl及びKC1を含む。さらに別の態様によれば、組成物は、約50mM以上のNaCl及び約50mM以上のKClを含む。
【0086】
本発明のDNAポリメラーゼの調製
本発明のDNAポリメラーゼ及びその酵素的に活性なフラグメント又はそれらをコードする核酸分子は、それらの自然環境から精製又は単離されるか、又は当業者に周知の組換えDNA手順によって生成される。
【0087】
本発明によるDNAポリメラーゼをコードする、又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子は、当業者に周知の方法、又は当業者に周知の商業的供給者、例えば、Genscript、Thermo Fisher Scientificなどによって合成され得る。
【0088】
当業者は、一般に利用可能な遺伝子工学技術及び組換えDNA発現システムを使用する様々な宿主細胞システムにおける異種発現による組換えタンパク質の調製のための単離又は精製された核酸分子の発現のための様々な利用可能なバイオテクノロジー技術をよく知っており、精通している。例えば、“Recombinant Gene Expression Protocols,in Methods in Molecular Biology,1997,Ed.Rocky S Tuan,Human Press(ISSN 1064-3745)又はSambrook et al.,Molecular Cloning:A laboratory Manual(third edition),2001,CSHL Press,(ISBN 978-087969577-4)参照。例えば、本発明による酵素をコードする、又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子は、適切な宿主細胞において所望のタンパク質をコードする核酸配列を発現させるために特別に適合されたすべての必要な転写及び翻訳調節配列を含む適切な発現ベクターに挿入され得る。適切な発現ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス、又は人工酵母染色体(YAC)である。
【0089】
例えば、本発明によるDNAポリメラーゼを調製するために発現及び使用されるDNA分子は、目的の配列の増殖又は本発明のDNAポリメラーゼをコードする配列の発現に使用されるベクターに挿入され得る。FastCloningは、この目的に適用できる方法の一例である。
【0090】
本発明の一態様によれば、本発明によるDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントをコードする核酸分子を含む発現ベクターなどのベクターが提供される。
さらなる態様によれば、配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8からなる群から選択されるアミノ酸配列、又は配列番号1、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6、配列番号7、及び配列番号8の配列の全長にわたって少なくとも約60%、例えば少なくとも、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列をコードする核酸分子を含む発現ベクターなどのベクターが提供される。
【0091】
さらに別の態様によれば、配列番号9、又は配列番号9と配列の全長にわたって少なくとも80%の配列同一性である核酸分子、又は配列番号9の配列の全長にわたって80%の配列同一性、例えば、配列番号9の配列の全長にわたって少なくとも85%、90%、95%、96%、97%、98%、又は99%の配列同一性を有する配列を含むベクターが提供される。
【0092】
当業者は、本発明によるDNAポリメラーゼが、本発明によるDNAポリメラーゼをコードする核酸分子を含む発現ベクターを使用して調製され得、前記分子が、対象とする宿主細胞に適合されたプロモーターに作動可能に連結されることを認識するであろう。
【0093】
当業者はさらに、本明細書で使用される「プロモーター」が、特定の遺伝子の転写を制御及び開始するDNAコード配列の上流(5’プライム)のDNAの領域を指すことを認識するであろう。プロモーターは、RNAポリメラーゼや他のタンパク質の認識及び結合を制御して、転写を開始する。「作動可能に連結された」とは、プロモーターと第2の配列との間の機能的連結を指し、ここで、プロモーター配列は、第2の配列に対応するDNA配列の転写を開始及び媒介する。通常、作動可能に連結されているとは、連結されている核酸配列が隣接していることを意味する。例えば、細菌宿主細胞における組換えタンパク質の発現に適合されたベクターは、T7プロモーターなどの細菌発現系に適用可能なプロモーターを含み得る。
【0094】
本発明によるベクターは、当業者に周知の標準的なプラスミド単離技術を使用して、例えば、Qiagen(商標)又はQIAGEN(商標)Plasmid Plus MaxiキットのQIAprep(商標)Spin Miniprepキットを使用して単離することができる。
【0095】
様々な市販の宿主細胞又はウイルスを使用することができる。例えば、大腸菌、BL21細胞又はRosetta2(DE3)細胞(Novagen)などの細菌宿主細胞を使用することができる。発現ベクターの形質転換は、当業者に周知の方法によって、例えば、化学的コンピテントセルを使用して実施することができる。
【0096】
適切な培地で宿主細胞を培養すると、宿主細胞内の発現ベクターによってコードされた本発明のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントが生成され、得られたDNAポリメラーゼは、当業者に周知の方法によって収集及び精製され得る。
【0097】
発現ベクターはさらに、発現された酵素を培地に分泌するためのシグナル配列を含み得る。
上に概説したように、本発明のDNAポリメラーゼは、組換えDNA技術を使用して合成することができる。あるいは、本発明のDNAポリメラーゼは、無細胞発現系を使用して調製されるか、又は化学ペプチド合成法を使用して、例えば、アミノ酸の所望の配列に従って、あるアミノ酸のカルボキシル基を別のアミノ酸のアミノ基に段階的に縮合反応させることにより製造され得る。
【0098】
一態様によれば、本発明のDNAポリメラーゼ又はその酵素的に活性なフラグメントを調製するためのプロセスが提供され、これは、(i)コードされたDNAポリメラーゼの発現に適した本発明の1つ以上の発現ベクターを含む宿主細胞を培養するステップ;及び任意選択で(ii)宿主細胞又は培地(上清)からDNAポリメラーゼを単離又は取得するステップを含む。
【0099】
当業者は、宿主細胞又は培地から組換え発現タンパク質を単離し、任意選択で精製するために様々な方法が利用可能であることを認識するであろう。得られた発現DNAポリメラーゼを発酵ブロスから単離及び精製するために、大きな粒子及びバイオマスを除去するために、1つ以上の前処理又は清澄化ステップが通常は最初に使用される。適用可能な前処理ステップの非限定的な例は、例えば、逆浸透、遠心分離、ろ過方法及びダイアフィルトレーション、又はそれらの組み合わせである。次に、得られた酵素は、通常、当業者に周知の様々なクロマトグラフィー法のうちの1つ以上によって、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、混合モードクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー又は他のクロマトグラフィー技術、又はそれらの組み合わせによって精製される。
【0100】
例えば、適切な宿主細胞によって発現される酵素は、例えばMabSeclest(商標)SuRe(商標)培地及びFPLCクロマトグラフィーシステム(例えば、5mmUVフローセルを取り付けたBioRad NGC Discover(商標)10Proシステム)に搭載したHiTrapMabSeclest(商標)SuRe(商標)カラムを使用するアフィニティークロマトグラフィー方法を用いて精製され得る。精製しようとする酵素を含むサンプルをロードした後、カラムは通常、1つ以上の適用可能な洗浄バッファーで1回以上洗浄され、その後、タンパク質は適切な溶出バッファーを使用して溶出される。得られた酵素は、上記のクロマトグラフィー法の1つ以上を使用してさらに精製されてもよい。
【0101】
本発明のDNAポリメラーゼの使用
本酵素は、DNAポリメラーゼが利用される任意の分子生物学プロセスで使用することができる。特に、DNAポリメラーゼは、DNA増幅法及びDNAアセンブリプロセス、特にマルチプルDNAアセンブリプロセスで使用され得る。DNAポリメラーゼは、室温で行われる分子生物学のプロセスで使用するのに特に有利である。さらに、本発明のDNAポリメラーゼはまた、不活性化ステップを回避することが好ましい分子生物学プロセスにおいても有用である。
【0102】
核酸分子をアセンブリするために、相同組換え技術に基づく様々な方法が知られている。本DNAポリメラーゼは、相同組換えに基づく核酸分子のアセンブリ方法、及び多数の核酸分子のアセンブリに適合した方法において特に有用である。例えば、本発明のDNAポリメラーゼは、欧州特許第1915446号明細書に開示されているようなDNAアセンブリプロセス、又は欧州特許第1929012号明細書に開示されているようなインビトロ組換え法において使用され得る。
【0103】
複数のDNA分子を所望の順序でアセンブリするために、アセンブリされる末端は配列同一性を共有する必要があり、これにより、エキソヌクレアーゼ消化ステップで生じるそれぞれのオーバーハングがアニーリング(ハイブリダイズ)することを確実にする。オーバーハングの長さは、好ましくは、一本鎖オーバーハングのハイブリダイゼーションを可能にするために、配列同一性の共有領域の相補的オーバーハングに特異的にハイブリダイズするのに十分な長さである。複数のdsDNA分子のアニーリングの原理の説明としては、SLIC:a method for sequence and ligation independent cloning by Li and Elledge,2012,Gene Synthesis,pp51-59の第54頁の
図2を参照されたい。
【0104】
本発明のDNAポリメラーゼは、重合プロセスを室温で実施できるため、特に適している。さらに、本発明のDNAポリメラーゼは熱に不安定であり、約25℃を超える温度で不活性化されるので、面倒な不活性化ステップを使用することなく、重合プロセスを容易に停止することができる。本DNAポリメラーゼが3’-5’エキソヌクレアーゼの形で校正活性を発揮するという事実は、それを高忠実度の増幅プロセスに適用可能にする。
【0105】
鎖置換活性が減弱されている、又は欠如している本発明のDNAポリメラーゼは、マルチプルDNAアセンブリプロセスにおいて特に有用である。
さらに、本発明のDNAポリメラーゼは、5’-3’エキソヌクレアーゼドメインを欠くラージフラグメントDNAポリメラーゼであり、鎖置換活性が減弱されているか又は欠如していることも、マルチプルDNAアセンブリプロセスにおいて特に有用である。
【0106】
実施例
実施例1:部位特異的変異導入によるDNAポリメラーゼ(MG pol I)の同定及びその改変
スバールバル諸島周辺の北極圏で提供されたサンプルに由来するメタゲノムライブラリーを解析したところ、配列番号2によるポリメラーゼをコードするDNA配列が同定された。
【0107】
同定されたDNAポリメラーゼ(配列番号9)のラージフラグメントをコードするコドン最適化遺伝子を含むベクターpET151/D-TOPO(商標)を、Thermo Fisher ScientificのInvitrogen GeneArt Gene Synthesisサービスから購入した。
【0108】
同定された酵素の鎖置換活性が野生型酵素と比較して低下、減弱、又は不活性化された改変酵素を提供するために、QuikChangeII部位特異的変異導入キット(Agilent Technologies)を使用して様々な変異を配列番号9に導入した。導入された改変を配列解析によって確認した。
【0109】
実施例2:本発明の組換えDNAポリメラーゼI(MG Pol I)の調製
MG Pol Iラージフラグメントとその変異体の組換えタンパク質産生を、Rosetta2(DE3)細胞(Novagen)で行った。細胞をTerrific Broth培地/アンピシリン(100μg/ml)で増殖させ、0.1mM IPTGの添加によりOD600nm1.0で遺伝子発現を誘導した。タンパク質産生は15℃で一晩行った。タンパク質精製のために、1/2リットル培養のペレットを50mM HEPES pH7.5(25℃)、500mM NaCl、5%グリセロール、1mM DTT、pH7.5、0.15mg/mlリゾチーム、1プロテアーゼインヒビタータブレット(Complete(商標)、Mini、EDTAフリープロテアーゼインヒビターカクテル、Roche)に再懸濁し、氷上で30分間インキュベートした。細胞破壊を、SonicsのVCX750を使用した超音波処理によって行った(パルス1.0/1.0、15分、振幅25%)。最初のステップでは、遠心分離(48384g、45分、4℃)及びろ過(Φ0.45μm)後に存在するHis6タグ付きタンパク質の可溶性部分を、固定化Ni2+アフィニティークロマトグラフィーによって精製した。50mM HEPES、500mM NaCl、35mMイミダゾール、5%グリセロール、1mM DTT、pH7.5で洗浄した後、タンパク質を250mMのイミダゾール濃度で溶出し、さらに脱塩カラムを使用して、50mM HEPES、500mM NaCl、10mM MgCl2、5%グリセロール、pH7.5に移した。第2のステップは、TEVプロテアーゼによるタグの切断であり、50mMトリスpH8.0、0.5mM EDTA、及び1mM DTT中で4℃で一晩行った。His6タグ及びHis6タグ付きTEVプロテアーゼからタンパク質を分離するために、50mM HEPES、500mM NaCl、5%グリセロール、1mM DTT、pH7.5を適用することにより、第3のステップで第2のNi2+アフィニティークロマトグラフィーを行った。最終的なタンパク質溶液を濃縮し、活性アッセイのために-20℃で50%グリセロールとともに保存した。
【0110】
実施例3:本酵素のポリメラーゼ活性の測定。
本酵素のポリメラーゼ活性を測定し、また前記新規酵素を既知のDNAポリメラーゼと比較するために、モレキュラービーコンプローブ(Summerer,Methods Mol.Biol.,2008,429,225-235から改変したもの)を使用した。モレキュラービーコンテンプレートは、GCリッチな8マーのステム領域(配列は斜体で示されている)及び43マーのエクステンションによって連結された23マーのループで構成されている。ループが形成されるため、フルオロフォアのDabcylとFAMは近接し、クエンチされる。モレキュラービーコンテンプレートにアニーリングされたプライマーがDNAポリメラーゼIによって伸長されると、ステムが開かれ、2つのフルオロフォアの距離の増加がFAM蛍光の回復(励起485nm、発光518nm)によって測定される。
【0111】
【0112】
モレキュラービーコン基質は、20μlの10μMモレキュラービーコンテンプレートと15μMプライマーを10mMトリス-HClpH8.0、100mM NaCl中95℃で5分間インキュベートすることによって生成された。次に、反応物を室温で2時間冷却させた。基質溶液は、10μMの最終濃度で-20℃で保存された。
【0113】
50μlの反応物は200nMの基質と200μMのdNTP(等モル量のdATP、dGTP、dCTP、及びdTTP)で構成されていた。反応物はさらに、50mMトリス-HClpH8.5中の5mM MgCl2、100mM KC1、1mM DTT、0.2mg/ml BSA、及び2%グリセロールを含んでいた。活性アッセイは、黒色の96ウェル蛍光アッセイプレート(Corning)で25℃で実施した。反応は、タンパク質溶液、すなわち、MG pol I及びそのバリアントの添加によって開始した。FAM蛍光の増加は、485nmで励起し、518nmでの発光により、適切な時間間隔で相対蛍光単位として測定された。測定は、SpectraMax(商標)Geminiマイクロプレートリーダー(Molecular Devices)で行った。
【0114】
結果を
図3に示し、本発明の酵素が高いDNAポリメラーゼ活性を有することを示している。
実施例4:鎖置換活性アッセイ
このアッセイは、クエンチされたレポーター鎖の置換時に測定される蛍光シグナルの増加に基づいている。これは、DNAポリメラーゼの鎖置換活性によってのみ達成可能である。
【0115】
鎖置換活性アッセイの基質は、19オリゴヌクレオチドの「コールド」プライマーと、3’末端がTAMRAフルオロフォア[TAMRA]で標識された20オリゴヌクレオチドからなるレポーター鎖で構成されている。テンプレート鎖は40オリゴヌクレオチドで構成されており、5’末端がブラックホールクエンチャー2(BHQ2)で標識されている。プライマーはテンプレート鎖にアニーリングされ、テンプレート鎖の20位に1ヌクレオチドのギャップを残す。さらに、ラベルが近接しているため、フルオロフォアTAMRAはBHQ2によってクエンチされる。DNAポリメラーゼIの鎖置換活性により、TAMRA標識オリゴヌクレオチドはテンプレート鎖から置換される。結果として、フルオロフォアとクエンチャーはもはや近接しておらず、TAMRA蛍光の増加を測定することができる(励起525nm、発光598nm)。
【0116】
【0117】
本発明のDNAポリメラーゼ及びその変異体のmRFU/分/μgとして表される鎖置換活性を、上記の鎖置換活性アッセイを使用して分析した。
鎖置換活性アッセイの基質は、20μlの10μM「コールド」プライマー、10μMレポーター鎖、及び10μMテンプレート鎖を10mMトリス-HClpH8.0、100mM NaCl中で95℃で5分間インキュベートすることによって生成された。次に、反応物を室温で2時間冷却した。基質溶液は、10μMの最終濃度で-20℃で保存された。
【0118】
50μlの反応物は、200nMの基質と200μMのdNTP(等モル量のdATP、dGTP、dCTP、及びdTTP)で構成されていた。反応物はさらに、50mMトリス-HCl pH8.5中5mM MgCl2、100mM KCl、1mM DTT、0.2mg/ml BSA及び2%グリセロールを含んでいた。活性アッセイは、黒色の96ウェル蛍光アッセイプレート(Corning)で25℃で実施した。反応は、タンパク質溶液、すなわち、MG pol I及びそのバリアントの添加によって開始された。TAMRA蛍光の増加は、525nmで励起し、598nmで発光を記録することにより、適切な時間間隔で相対蛍光単位として測定された。測定はSpectraMax(商標)M2eMicroplate Reader(Molecular Devices)で行った。
【0119】
【0120】
【配列表】