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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】癌治療
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/574 20060101AFI20250106BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250106BHJP
   A61K 36/185 20060101ALI20250106BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
G01N33/574 A
A61P35/00
A61K36/185
G01N33/68
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023101771
(22)【出願日】2023-06-21
(62)【分割の表示】P 2020526491の分割
【原出願日】2018-11-14
(65)【公開番号】P2023123633
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】17201699.0
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519353064
【氏名又は名称】エルディーエヌ ファーマ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー,ワイ
【審査官】海野 佳子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-530247(JP,A)
【文献】特表2017-519006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌を有する対象の、第二治療段階におけるカンナビノイドを用いた治療に対する適合性を決定するための方法であって、前記対象は、第一治療段階において治療的有効量のナルトレキソン;6-β-ナルトレキソール、2-ヒドロキシ-3-メトキシ-6β-ナルトレキソール、および2-ヒドロキシ-3 メトキシ-ナルトレキソンからなる群より選択されるナルトレキソンの代謝物;または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体;が投与されており、前記方法が、
i.回復段階後または回復段階中に前記対象から得た試料をCB2に特異的なプローブに接触させる工程と、
ii.前記試料内のCB2の濃度を決定する工程と、
iii.前記試料内のCB2の濃度を、前記第一治療段階前に前記対象から得た試料から決定されたCB2の濃度と比較する工程と、
を含み、CB2濃度が第一治療段階後に少なくとも2倍に増加した場合に前記対象が前記第二治療段階に適合している、方法。
【請求項2】
前記試料が腫瘍生検試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対象が乳癌を有する、請求項1または2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌の治療に使用するための薬物投与レジメンおよび薬物の組み合わせに関する。
【背景技術】
【0002】
カンナビノイド類はアサ属(Cannabis)の植物中に豊富に産生されるフェノール化合物の一種である。各種カンナビノイド化合物がヒトにおいて向精神効果を示すことが長い間知られており、娯楽用途で、そのような使用が多くの管轄区域(jurisdictions)において違法であるにも関わらず、広く使用されている。
【0003】
しかし、近年の研究によって、一部のカンナビノイド類は炎症性疾患、神経変性および精神障害、慢性痛、不安、ならびにPTSD等の広範な病態に対して治療上有用であることが示されている。カンナビノイド類は現在、癌治療と関連した消耗、嘔吐、および吐き気と戦うために使用されているが、一部のカンナビノイド化合物が癌の根底にある病理を治療するのに有効な可能性があることを示唆する証拠がある。現在入手できる証拠によると、それら化合物は癌細胞の移動、付着、および血管新生を妨げることによってそれを行う。
【0004】
内因性のカンナビノイド媒介シグナル伝達系は哺乳類で機能するが、各種証拠を勘案すると他の多くの脊椎動物でも機能すると思われる。ヒトにおいては2種類のカンナビノイド受容体が同定されており、CB1およびCB2と名付けられている。両者はGタンパク質共役受容体スーパーファミリーの一部である。
【0005】
現在までの薬理学的証拠によると、CB1の活性化はカンナビノイド摂取による向精神効果の大部分に関与しているのに対し、治療効果の大部分はCB2によって媒介される。従って、理想的な治療用分子はCB1よりも優先的にCB2を活性化し、望ましくない向精神効果を軽減するものである。アサ属抽出物の成分であるカンナビジオール(CBD)はこのような結合プロファイルを有するカンナビノイドであり、近年大きな関心を持たれてきたが、その作用メカニズムの全容は未だ解明されていない。
【0006】
しかし一般に、天然のカンナビノイド類は一方または他方の受容体に対して高い特異性を示す傾向が見られず、新規に開発された合成カンナビノイド類、例えばJWH-133およびSR141716(Cridge & Rosengren 2013)がより特異的な結合を示すものとして利用可能である。これらの化合物は、in vitroでも、および各種の腫瘍移植マウスモデルにおいても、腫瘍の成長および癌細胞の生存能力を阻害することが示されている。
【0007】
特定のリガンドに応答する、あるシグナル伝達経路の受容体の発現量または下流効果が、一見したところ別のシグナル伝達経路のシグナルのアウトプットの変化によって改変される場合がある。このようなクロスモジュレーション(cross-modulation)は、例えば、成長ホルモンおよびインシュリン受容体の活性化の後に続くシグナル伝達経路間で示されている。
【発明の概要】
【0008】
本願発明者らは、カンナビノイド類による癌細胞の増殖阻害を、低用量ナルトレキソン(LDN)またはナルトレキソンの代謝物である6-β-ナルトレキソール(6BN)との併用治療によって、より効果的に引き起こすことができることを発見した。また、本願
発明者らは、このような治療の有効性が、この2つの薬剤を投与する順序に驚くほど依存することを発見した。最も効果的なレジメンは、LDNまたは6BNによる治療段階の後にカンナビノイドによる治療段階を行うことである。
【0009】
また、本願発明者らは、LDNまたは6BNによる治療が癌細胞におけるCB2受容体の量を有意に増加させ、それによってカンナビノイドがより効果的になるという、これまでに知られていなかった事実を発見した。
【0010】
本発明の第一の側面により、対象内における癌の治療に用いるための、ナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体、を含む医薬組成物が提供され、治療的有効量の該ナルトレキソン、その代謝物、または類似体が第一治療段階において前記対象に投与され、該第一治療段階の後、第二治療段階で治療的有効量のカンナビノイドが該対象に投与される。
【0011】
本発明の第二の側面により、対象内における癌の治療に用いるための、カンナビノイドを含む医薬組成物が提供され、該対象は治療的有効量のナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体を投与される第一治療段階を経ることを特徴とし、該第一治療段階の後、治療的有効量の前記カンナビノイドが前記対象に投与される。
【0012】
本発明の第三の側面により、対象内における癌の治療に用いるための、ナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体;ならびに、カンナビノイド;を含む製剤が提供され、前記ナルトレキソン、その代謝物、または類似体は第一治療段階における投与のために治療的有効量で提供され、前記カンナビノイドは該第一治療段階に続く第二治療段階における投与のために治療的有効量で提供される。
【0013】
本発明の第四の側面により、癌を有する対象の、第二治療段階におけるカンナビノイドを用いた治療に対する適合性を決定するための方法が提供され、前記対象は上記に定義されるように第一治療段階を経たことによって特徴づけられ、前記方法は、
i.回復段階後または回復段階中に前記対象から得た試料をCB2に特異的なプローブに接触させる工程と、
ii.前記試料内のCB2の濃度を決定する工程と、
iii.前記試料内のCB2の濃度を、前記第一治療段階前に前記対象から得た試料から決定されたCB2の濃度と比較する工程と、
を含み、CB2濃度が第一治療段階後に少なくとも2倍に増加した場合に前記対象は前記第二治療段階に適合している。
【0014】
本発明の第五の側面により、対象内の癌の治療のための薬物の製造における、ナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体の使用が提供され、前記薬物は併用治療レジメンの第一治療段階において対象に投与され、該治療レジメンは該第一治療段階と、その後の第二治療段階とを含み、前記対象は該第二治療段階においてカンナビノイドを投与される。
【0015】
本発明の第六の側面により、対象内の癌の治療のための薬物の製造における、カンナビノイドの使用が提供され、前記薬物は併用治療レジメンの第二治療段階において投与され、該治療レジメンは第一治療段階と、その後の該第二治療段階とを含み、前記対象は該第一治療段階においてナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体を投与される。
【0016】
本発明の第七の側面により、第一の薬物の製造におけるナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体の使用、ならびに、第二の薬物の製造におけるカンナビノイドの使用が提供され、両薬物は癌の治療用であり、前記第一および第二の薬物は癌を有する対象に、併用治療レジメンにおいて投与され、該治療レジメンは第一治療段階とその後の第二治療段階とを含み、前記第一の薬物は前記対象に第一治療段階で投与され、前記第二の薬物は前記対象に第二治療段階で投与される。
【0017】
本発明の第八の側面により、対象における癌の治療のための方法が提供され、該方法は、第一治療段階において対象に治療的有効量のナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体を投与し、その後、第二治療段階において前記対象に治療的有効量のカンナビノイドを投与することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、MCF7乳癌細胞株の培養物に対して10nMのナルトレキソン(LDN)、1μMの6-β-ナルトレキソール(6-1)、または10μMの6-β-ナルトレキソール(6-2)を用いた2日間の処理の効果を示す。Bcl2関連死促進因子(Bcl2-associated death promoter)(BAD)、p21タンパク質、オピオイド受容体κ1(OPRK1)およびμ1(OPRM1)、ならびにカンナビノイド受容体CBR1(CB1)およびCBR2(CB2)の量を、GAPDHをローディングコントロールとして用いたウェスタンブロッティング(左)によって可視化し、GAPDHに対する相対的な濃度の分析によって定量した(右)。
図2図2は、MCF7細胞の増殖および生存率に対する各種2段階処理の効果を示す。各処理は4日間継続し、そこでは第一の薬剤(UN=対照、LDN=10nMの低用量ナルトレキソン、CBD=カンナビジオール、6BN=6-β-ナルトレキソール)を用いた処理を2日間行った後、さらに名称の2番目に記された薬剤の導入を2日間行った。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、対象における癌を治療するための特定の治療レジメンを提供するものであり、低用量ナルトレキソン(LDN)、ナルトレキソンの代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体、の投与後にカンナビノイドが投与される。
【0020】
LDNと、その後にカンナビノイドを段階投与することで、それらを別々または同時に投与するよりも、また、カンナビノイドの次にLDNを段階投与するよりも、効果的に癌細胞増殖が阻害されることが本願発明者らによって見いだされた。
【0021】
また、LDNを用いた処理後にMCF7細胞においてCB2受容体の量が有意に増加したことが示された。理論に拘束されるものではないが、この、CBD等のカンナビノイドの治療標的であるCB2の増加は、CBDを用いた治療の有効性の向上に貢献する好都合な要因である。
【0022】
当業者は、前記治療薬の段階投与を上述のように行うことができる。次の定義の参照により、本発明をさらに理解することが可能である。
【0023】
本明細書で用いられる「ナルトレキソン」の語は、化合物である17-シクロプロピルメチル-4.5α-エポキシ-3,14-ジヒドロキシモルヒナン-6-オン(IUPAC名(4R,4aS,7aR,12bS)-3-(シクロプロピルメチル)-4a,9-ジヒドロキシ-2,4,5,6,7a,13-ヘキサヒドロ-1H-4,12-メタノベンゾフロ[3,2-e]イソキノリン-7-オン)およびその薬理学的に許容される塩、溶媒和物、水和物、ラセミ体、立体異性体、クラスレート、多形体、およびプロドラッグのことを表す。本発明によるその類似体の使用も想定される。適した類似体の例として、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンが挙げられる。
【0024】
前記ナルトレキソンは典型的にはその塩酸塩の形態である。
【0025】
「低用量ナルトレキソン」(LDN)とは、0.5mg/kg未満、好ましくは0.2mg/kg未満、より好ましくは0.01mg/kg~0.08mg/kg、さらに好ましくは0.03mg/kg~0.06mg/kg、最も好ましくは0.04mg/kg~0.05mg/kgの「低」用量で投与されるナルトレキソンのことを表す。典型的には、低用量は患者あたり総量にして3mg/日までである。
【0026】
ナルトレキソンの代謝物の例としては、6-β-ナルトレキソール、2-ヒドロキシ-3-メトキシ-6β-ナルトレキソール、および2-ヒドロキシ-3 メトキシ-ナルトレキソンが挙げられる。
【0027】
ナルトレキソンの好ましい代謝物は6-β-ナルトレキソール(6BN)であり、本明細書においては化合物であるN-シクロプロピルメチル-7,8-ジヒドロ-14-ヒドロキシノルイソモルフィン(IUPAC名(4R,4aS,7R,7aR,12bS)-3-(シクロプロピルメチル)-1,2,4,5,6,7,7a,13-オクタヒドロ-4,12-メタノベンゾフロ[3,2-e]イソキノリン-4a,7,9-トリオール)およびその薬理学的に許容される塩、溶媒和物、水和物、ラセミ体、立体異性体、クラスレート、多形体、およびプロドラッグのことを表す。
【0028】
前記6BNまたは類似体等も「低用量」で投与してよい。この文脈において、「低用量」とは、ナルトレキソンに対する上記概略と同様であり得る。
【0029】
カンナビノイド類は、動物において合成される内在性カンナビノイドに加え、アサ属の植物によって豊富に生成されるものも含んだ化合物の種類であることが、当業者によって理解される。CB受容体に対して活性のある合成化合物も想定される。本明細書で用いられるこの用語は任意のカンナビノイドのことを表しうるが、好ましくは、カンナビジオール、カンナビジオール酸、カンナビノール、カンナビゲロール、カンナビバリン、テトラヒドロカンナビバリン、カンナビジバリン、カンナビクロメン、アラキドノイルエタノールアミン、2-アラキドノイルグリセロール、2-アラキドノイルグリセリルエーテル、N-アラキドノイルドーパミン、ビロダミン、ドロナビノール、ナビロン、リモナバン、R-(+)-Met-アナンダミド、WIN-55,212-2、HU-210、JWH-133、SR141716、SR144528、もしくはそれらの組み合わせ、または同等の効果をもたらすその薬理学的に許容される塩、溶媒和物、水和物、ラセミ体、立体異性体、クラスレート、多形体、プロドラッグ、および類似体を含むリストより選択される。
【0030】
ある実施形態において、前記薬剤が6-β-ナルトレキソールである場合、6-β-ナルトレキソールは、6-β-ナルトレキソールの血漿濃度を少なくとも0.34ng/ml、好ましくは少なくとも3.4ng/ml、より好ましくは少なくとも34ng/ml、または最も好ましくは少なくとも340ng/mlに増加させるのに有効な量で投与される。ある実施形態において6-β-ナルトレキソールは、6-β-ナルトレキソールの血漿濃度を0.3ng/ml~3400ng/mlの範囲内、好ましくは34ng/ml~3400ng/mlの範囲内、より好ましくは340ng/ml~3400ng/mlの範囲内に増加させるのに有効な量で投与される。このような量を達成するのに有効な量は、当業者に公知の従来の方法を任意の数使用して決定することができる。例えば当業者は、ある量の6-β-ナルトレキソールを投与した後の試料内の6-β-ナルトレキソール濃度の増加を決定するために、対象から得た血漿試料に対して質量分析を行うことができる。有効量は、血漿濃度の所望の増加をもたらすように決定される量である。典型的には、ナルトレキソールは、患者あたり1日あたり3mgまでの量で投与される。
【0031】
前記カンナビノイドは、具体的なカンナビノイドおよび患者の詳細に基づき、従来の量で投与してよい。ある実施形態において、前記カンナビノイドは、1日あたり10mg~1000mg、好ましくは200~800mg、より好ましくは300~500mgの投与量で投与される。
【0032】
本明細書で用いられる「製剤」という語は、同時または非同時に使用することを意図した1または複数種の組成物の形態の、物質または物質の集合体のことを表しうる。
【0033】
投与の方法はいずれの治療薬についても限定されないが、本発明の各種実施形態においては、LDNおよびカンナビノイドは、経口、口腔、舌下、経鼻、経肺、静脈内、直腸、局所、および経皮経路で投与される。LDNは好ましくは経口投与され、カンナビノイドは好ましくは舌下投与される。
【0034】
想定される治療レジメンは「第一治療段階」および「第二治療段階」を含む。第一治療段階においては、治療的有効量のLDN、その代謝物、またはいずれかの類似体が投与される。第二治療段階では、有効量の1または複数種のカンナビノイド類が投与される。
【0035】
第二治療段階は第一治療段階の開始から1~7日が経過した後で開始することが好ましく、より好ましくは1~4日、最も好ましくは1~2日が経過した後であり、ここで「日」は連続した24時間の期間のことである。
【0036】
本発明のさらに好ましい実施形態においては、第一治療段階の終わりと第二治療段階の開始との間に「回復段階」が存在する。回復段階において、LDNまたはカンナビノイドは投与されない。一実施形態において、回復段階は少なくとも2日間、好ましくは1週間以内、最も好ましくは2日間の期間を有する。
【0037】
本明細書で用いられる「治療」(“treating” and “treatment” and “to treat”)という語は、診断された病状または疾患の進行を治癒、遅延、および/または停止させる治療手段、ならびに、標的となる病状または疾患の発症を予防および/または遅延させる予防または防止手段、の両者を表す。従って、治療を要する対象としては、すでに疾患を有する対象、疾患を有しやすい傾向にある対象、および、疾患を予防すべき対象が含まれる。一部の例においては、対象が次のうち1つまたは複数を示す場合に、該対象の腫瘍/癌の「治療」が本発明に従って成功したこととなる:癌細胞の数が減少すること、または癌細胞が全く存在しないこと;腫瘍サイズが減少すること;周囲臓器への癌細胞浸潤、例えば軟組織や骨への癌の拡散が阻害されるか、または起こらないこと;腫瘍転移が阻害されるか、または起こらないこと;腫瘍成長が阻害されるか、または起こらないこと;罹患率および死亡率が減少すること;腫瘍の腫瘍原性、腫瘍形成頻度、または腫瘍形成能が低下すること;腫瘍内の癌幹細胞の数または頻度が減少すること;腫瘍形成細胞が非腫瘍形成細胞に分化すること;または複数の効果の組み合わせ。
【0038】
本明細書で用いられる「対象」という語は、癌のための治療を受けるべきヒト、非ヒト霊長類、ウマ、イヌ、ネコ、げっ歯類、および他の脊椎動物を含むがそれらに限定されない任意の動物のことを表す。「対象」および「患者」という語は本明細書で互換的に用いられる。
【0039】
本明細書で用いられる「腫瘍/癌」という語は、細胞の過剰な成長、増殖、および/または生存の結果生ずる任意の組織塊のことを表し、良性(非癌性)または悪性(癌性)のいずれも含み、前癌病変も含む。
【0040】
本発明で治療できる癌の種類は何ら限定されないが、例えば、癌腫、肉腫、腺癌、黒色腫、神経(芽細胞腫、膠腫)、中皮腫、および、網内系、リンパ系、または造血系の新生物疾患(骨髄腫、リンパ腫、または白血病)を含む。具体的な実施形態においては、前記腫瘍は肺腺癌、肺癌、びまん性または間質性胃癌、結腸腺癌、前立腺腺癌、食道癌、乳癌、膵臓腺癌、卵巣腺癌、副腎腺癌、および、子宮内膜または子宮腺癌を含みうるが、前記癌の種類は好ましくは乳癌である。
【0041】
好ましい一実施形態において、治療される癌は脳、乳、結腸、肺、前立腺、および膵臓癌、ならびに白血病から選択される。治療される癌は好ましくは乳癌である。
【0042】
「乳癌」の定義は医学において周知である。当業者は、乳癌が男性または女性の乳房組織の任意の悪性腫瘍、例えば癌腫または肉腫のことを指すということを認識している。乳癌の具体的な形態としては、非浸潤性乳管癌(DCIS)、非浸潤性小葉癌(LCIS)、または粘液性癌が含まれる。乳癌は、浸潤性乳管癌(IDC)、小葉新生物、または浸潤性小葉癌(ILC)のことも表す。
【0043】
本明細書で用いられる「癌細胞」という語は、腫瘍または癌に由来する細胞または不死化細胞株のことを表す。
【0044】
本発明の一側面においては、癌を有し、LDNですでに治療された対象の、カンナビノイドを用いた治療に対する適合性を決定するための方法が提供される。この側面においては、試料を対象から取得し、CB2特異的プローブと接触させる。それによってこの試料内のCB2濃度を決定し、第一治療段階前に作成した基準測定値と比較する。
【0045】
本明細書で用いられる「適合性」という語は、検査によって不適合とみなされた対象と比較して、上記で定義される治療の成功の確率が高い性質のことを表す。本発明の一側面で想定される方法により検査を受ける対象中のサブセットは、第二治療段階に対して不適合とみなされる。本発明のどの部分も決してこのような対象への使用を禁じるものではない。前記適合性を決定する方法は、当業者が公知の他の検査も併用し、直感と判断を用いた上で考慮することを意図したものである。
【0046】
ある実施形態においては、前記方法に用いるために対象から得る生体「試料」は、血液、血漿、血清、リンパ液、組織、または組織試料由来の細胞である。しかし好ましくは、前記試料は対象から得られた腫瘍生検試料である。
【0047】
本明細書で用いられる「プローブ」は、対象から得られた試料と接触した際、何らかの方法で試料中のCB2濃度の測定が可能となる任意の成分のことである。一実施形態において、このプローブは、分光光度的に、および当業者に公知の方法で検量することによって分析することのできる、より純粋なCB2溶液を提供することに使用される抗体または他のCB2結合分子であり、これによってもとの試料内のCB2の濃度を決定することが
できる。
【0048】
他の側面においては、「併用治療レジメン」の一部として投与される薬物の製造における、ナルトレキソン、その代謝物、または、メチルナルトレキソン、ナロキソン、ナルメフェン、およびナロルフィンからなる群より選択される類似体;ならびに、カンナビノイド;の使用が提供され、前記「併用治療レジメン」はここで、上記で定義される第一治療段階、および好ましくは回復段階、および第二治療段階、からなるレジメンのことを表す。
【0049】
以下、本発明を次の非限定的な実施例を参照しながら説明する。
【実施例
【0050】
実施例1
例証のための非限定的な実験の1つをMCF7細胞の培養物に対して行った。簡単に述べると、10nMのLDN、または1μMもしくは10μMの6BN、のいずれかをin
vitroで培養物に2日間投与し、その後、BAD、p21、オピオイド受容体κおよびμ、CB1、CB2、ならびにGAPDH(ローディングコントロールとして)の発現量を、ウェスタンブロッティング、およびその後のバンド密度測定による定量によって分析した。
【0051】
詳細に述べると、MCF7細胞を6穴プレートに1×105/ウェルの密度で播種し、一晩付着させた。ナルトレキソン(10nM)または6-β-ナルトレキソール(1μMまたは10μM)を細胞に加え、その後、細胞を回収してウェスタンブロット分析を行った。一次プローブとして、BAD、p21、OPRK1、OPRK2、CBR-1、およびCBR-2に対して生成された特異的抗体を用いた。BADはBcl2関連死促進因子(Bcl2-associate death promoter)である。これはアポトーシス促進性タンパク質であり、癌細胞で上方制御されると各種療法によって細胞が殺される傾向が高まる。抗GAPDHはローディングコントロールとして用いた。すべての抗体は1:1000希釈で使用し、その後、適したHRP結合二次抗体も1:1000の希釈で使用した。SuperSignal chemiluminescent detection systemを使用してバンドを可視化し、Adobe Photoshop CS3, v10.0を使用してバンドの濃度測定を行い、ローディングコントロールに対して標準化した。
【0052】
3種すべての処理において、CB2およびBADの量が薬剤非投与の対照と比較して上昇した。CB2については、この上昇は10μMの6BNの投与で最も大きかった。図1を参照のこと。
【0053】
実施例2
例証のための非限定的な別の実験をMCF7細胞の培養物に対して行った。簡単に述べると、LDNまたは6BNで培養物を2日間処理し、その後、カンナビノイドをさらに2日間投与した。細胞数および生存率を4日目に評価した。各治療薬の投与の順序を逆転させ、実験を繰り返した。
【0054】
詳細に述べると、MCF7細胞を6穴プレートに1.5×104/ウェルの密度で播種し、付着させた。その後、ナルトレキソン(10nM)、6-β-ナルトレキソール(10μM)、またはカンナビジオール(10μM)とともに細胞を培養した。48時間後に薬剤含有培地を除去し、細胞を薬剤不含培地で穏やかにリンスした。その後、グラフで示すようにナルトレキソン(10nM)、6-β-ナルトレキソール(10μM)、またはカンナビジオール(10μM)のいずれかを加えた新鮮な培地を細胞に加えた。さらに4
8時間後、細胞数および生存率を評価した。評価はトリパンブルーダイエクスクルージョン(trypan blue dye exclusion)によって識別した生細胞および死細胞のパーセンテージによって行った。その後、データを統合して全体的な効果に対する順序の影響を比較した。
【0055】
図2で明らかなように、LDNまたは6BNをカンナビノイドよりも先に用いたスケジュールでは、癌の増殖阻害に対してより高い効果が見られた。
【0056】
文献
Cridge, B. & Rosengren, R (2013) Critical appraisal of the potential use of cannabinoids in cancer management. Cancer Management and Research 2013:5 301-313
図1
図2