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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】アデノ随伴ウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/864 20060101AFI20250106BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20250106BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20250106BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250106BHJP
   C12N 15/35 20060101ALN20250106BHJP
   A61K 38/16 20060101ALN20250106BHJP
【FI】
C12N15/864 100Z
A61K35/76 ZNA
A61K48/00
A61P25/00
A61P27/02
A61P1/16
C12N15/35
A61K38/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023109822
(22)【出願日】2023-07-04
(62)【分割の表示】P 2021086867の分割
【原出願日】2015-02-17
(65)【公開番号】P2023126885
(43)【公開日】2023-09-12
【審査請求日】2023-07-19
(31)【優先権主張番号】61/940,639
(32)【優先日】2014-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】1403684.2
(32)【優先日】2014-03-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】500532757
【氏名又は名称】キングス カレッジ ロンドン
【氏名又は名称原語表記】KINGS COLLEGE LONDON
(73)【特許権者】
【識別番号】516244914
【氏名又は名称】アイカーン スクール オブ メディシン アト マウント サイナイ
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ マイケル リンデン
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-535339(JP,A)
【文献】国際公開第2013/173512(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/158879(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(a)配列番号11の配列を含む野生型AAV3Bキャプシドタンパク質と比べて、AAV3Bキャプシドタンパク質配列中の312位にアミノ酸置換を含む、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質、および
(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸
を含
前記アミノ酸置換が、S312Nであり、
前記バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質が、配列番号11に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、
前記野生型AAV3Bキャプシドタンパク質を含む、対応するAAVベクターと比較して、組織の形質導入の増加を示す、前記組換えAAVベクター。
【請求項2】
バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質が、配列番号11に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項1に記載の組換えAAVベクター。
【請求項3】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(a)配列番号12の定義に従う野生型AAV-LK03キャプシドタンパク質配列と比べて、312位にアミノ酸置換を含む、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質、および
(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸
を含
前記アミノ酸置換が、S312Nであり、
前記バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質が、配列番号12に対して少なくとも90%の配列同一性を有する配列を含み、
前記野生型AAV-LK03キャプシドタンパク質を含む、対応するAAVベクターと比較して、組織の形質導入の増加を示す、前記組換えAAVベクター。
【請求項4】
バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質が、配列番号12に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、請求項3に記載の組換えAAVベクター。
【請求項5】
(a)請求項1~4のいずれかに記載の組換えAAVベクター、および
(b)薬学的に許容できる賦形剤
を含む医薬組成物。
【請求項6】
対象中の障害の治療における使用のための、請求項1~5のいずれかに記載の組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
【請求項7】
障害が神経学的障害、眼障害または肝臓障害であり、任意に、前記神経学的障害が神経変性疾患であり、および/または、前記眼障害が緑内障、網膜色素変性症、黄斑変性、網膜分離症もしくは糖尿病性網膜症である、請求項6に記載の使用のための、組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えウイルスベクターの分野に関する。特に、本発明は、治療用遺伝子をin vivoにおいて送達するのに適切な組換えウイルスベクターに関する。
【背景技術】
【0002】
今日に至るまで、アデノ随伴ウイルスは、治療用遺伝子の送達のための最も有望なベクターの1つであり続けている。相当数の前臨床試験および臨床試験により、このアプローチが、販売承認を得ることができる遺伝子ベースの薬物の開発に適切であることがしっかり確立されている。
【0003】
1980年代に遺伝子療法のためのベクターとしてAAV2の開発が始まって以来、多様な適用例および標的組織のためのこのプラットフォームの最適化において、大きな進展が見られている。そうした開発の中でも、最も重大な点は恐らく多種多様な血清型が発見されたこととであり、それらのうちの10~12種の血清型について現在広く探索が行われている。これら種々の血清型の最も顕著な特徴のなかでも、それらのそれぞれに相対的な組織指向性、場合によっては神経細胞の逆行輸送が可能であることが挙げられる。これらの血清型のうち、AAV1~10が、前臨床および臨床の目的で広く使用されている。
【0004】
患者中の特異的な組織および細胞のサブタイプの標的化および脱標的化を可能にするプロセスが関与する、より新しいプラットフォームが開発されている。これらのアプローチの中核技術は、現存するAAVバリアント(血清型)の試行錯誤による評価、およびランダムに導入が生じたAAVキャプシド突然変異体のin vivoにおける選択に基づく。これら2つの有望なアプローチは共に、異なる形質導入の挙動を有する可能性のある、数百個ではないとしても、数十個のベクターをもたらす。
【0005】
AAVの血清型の最も興味深い態様は、それらにより、動物モデルおよびヒト中での特定の組織の効率的な形質導入が可能になることである。現時点では、組織指向性についての、根底にある機構の包括的な分子レベルの理解はまだ提示されておらず、したがって、各血清型が利用することが可能な、組織に特異的な受容体が、種々の血清型による効率的な形質導入における中心的役割を果たすと一般に推測されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、in vivoにおける導入遺伝子の発現および組織特異性に関して改善された特性を有する追加のAAVベクターが依然として必要である。特に、そのようなベクターには、ヒト中で種々の標的組織に遺伝子を送達するのに大幅に増強された利益をもたらす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一態様では、本発明は、(a)野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の457、492、499および533位に存在する少なくとも4つのアミノ酸置換を含む、バリアントAAV2キャプシドタンパク質、ならびに(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供する。
【0008】
一実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号2の配列、またはその配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態で
は、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号1の配列を含む。
【0009】
一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:M457、A492、D499およびY533を含む。好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:Q457M、S492A、E499DおよびF533Yを含む。
【0010】
一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162および205位に1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む。好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:I125、A151、S162およびS205の1つまたは複数を含む。別の好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、V151A、A162SおよびT205Sを含む。
【0011】
一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の585および588位に1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む。好ましくは、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:S585およびT588の1つまたは複数を含む。より好ましくは、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:R585SおよびR588Tを含む。
【0012】
一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の546、548および593位に1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む。好ましくは、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:D546、G548およびS593の1つまたは複数を含む。より好ましくは、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:G546D、E548GおよびA593Sを含む。
【0013】
一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、残基N312を含み、すなわち、その残基は、野生型AAV2キャプシドタンパク質中の312位に存在する。この実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、野生型AAV2キャプシドタンパク質配列と比較して、312位において突然変異していない。
【0014】
別の態様では、本発明は、(a)野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、AAV8キャプシドタンパク質配列中の315位にアミノ酸置換を含むバリアントAAV8キャプシドタンパク質、および(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供する。
【0015】
一実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号6に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号6の配列を含む。
【0016】
一実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、アミノ酸置換S315Nを含む。好ましくは、AAV8キャプシドタンパク質配列が、125、151、163、206、460、495、502、5
36、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に存在する1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。
【0017】
好ましい実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:(a)V125I、Q151A、K163S、A206S、T460M、T495A、N502D、F536Y、N549D、A551G、Q588Sおよび/もしくはG596S、ならびに/または(b)T591Rを含む。
【0018】
別の態様では、本発明は、(a)野生型AAV3Bキャプシドタンパク質と比べて、AAV3Bキャプシドタンパク質配列中の312位にアミノ酸置換を含む、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質、および(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供する。
【0019】
一実施形態では、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質が、配列番号11に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号11の配列を含む。
【0020】
一実施形態では、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質が、野生型AAV3Bキャプシドタンパク質と比べて、アミノ酸置換S312Nを含む。
【0021】
別の態様では、本発明は、(a)配列番号12の定義に従うAAV-LK03キャプシドタンパク質配列と比べて、312位にアミノ酸置換を含む、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質、および(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供する。
【0022】
一実施形態では、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質が、配列番号12に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。
【0023】
別の態様では、本発明は、(a)野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/または593位の1つまたは複数に対応する位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、バリアントAAVキャプシドタンパク質、ならびに(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸を含む、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを提供する。
【0024】
一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/もしくは593位の1つもしくは複数において、または代替のAAVキャプシドタンパク質配列中の1つもしくは複数の対応する位置に存在する。
【0025】
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV2キャプシドタンパク質を含む。別の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号2の配列、もしくはその配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV2に由来する。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号1の配列を含む。
【0026】
一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:I125、A151、S162、S205、S312、M457、A492、D
499、Y533、D546、G548、S585、T588および/またはS593を含む。好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、V151A、A162S、T205S、N312S、Q457M、S492A、E499D、F533Y、G546D、E548G、R585S、R588Tおよび/またはA593Sを含む。
【0027】
さらなる実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、AAV1、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9またはAAV10に由来する。
【0028】
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV1キャプシドタンパク質を含む。別の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号3に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV1に由来する。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号3の配列を含む。
【0029】
一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV1キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、313、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数に存在する。好ましい実施形態では、バリアントAAV1キャプシドタンパク質が、野生型AAV1キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、T162S、N313S、N458M、K493A、N500D、F534Y、S547Dおよび/またはG594Sを含む。代替の実施形態では、バリアントAAV1キャプシドタンパク質が、野生型AAV1キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:S205T、G549E、S586Rおよび/またはT589Rを含む。
【0030】
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV5キャプシドタンパク質を含む。別の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号4に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV5に由来する。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号4の配列を含む。
【0031】
一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV5キャプシドタンパク質配列中の124、150、153、195、303、444、479、486、520、533、537、575、578および/または583位の1つまたは複数に存在する。好ましい実施形態では、バリアントAAV5キャプシドタンパク質が、野生型AAV5キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V124I、K150A、K153S、A195S、R303S、T444M、S479A、V486D、T520Y、P533Dおよび/またはG583Sを含む。代替の実施形態では、バリアントAAV5キャプシドタンパク質が、野生型AAV5キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:G537E、S575Rおよび/またはT578Rを含む。
【0032】
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV6キャプシドタンパク質を含む。別の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号5に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV6に由来する。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号5の配列を含む。
【0033】
一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV6キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、313、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数に存在する。好ましい実施形態では、バリアントAAV6キャプシドタンパク質が、野生型AAV6キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、T162S、N313S、N458M、K493A、N500D、F534Y、S547Dおよび/またはG594Sを含む。代替の実施形態では、バリアントAAV6キャプシドタンパク質が、野生型AAV6キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:S205T、G549E、S586Rおよび/またはT589Rを含む。
【0034】
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV8キャプシドタンパク質を含む。別の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号6に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV8に由来する。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号6の配列を含む。
【0035】
一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV8キャプシドタンパク質配列中の125、151、163、206、315、460、495、502、536、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に存在する。好ましい実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、K163S、A206S、T460M、T495A、N502D、F536Y、N549D、A551G、Q588Sおよび/またはG596Sを含む。代替の実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:S315Nおよび/またはT591Rを含む。
【0036】
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV9キャプシドタンパク質を含む。別の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号7に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV9に由来する。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号7の配列を含む。
【0037】
一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV9キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、314、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数に存在する。好ましい実施形態では、バリアントAAV9キャプシドタンパク質が、野生型AAV9キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:L125I、Q151A、N314S、Q458M、V493A、E500D、F534Y、G547D、A589Tおよび/またはG594Sを含む。代替の実施形態では、バリアントAAV9キャプシドタンパク質が、野生型AAV9キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:S162A、S205T、G549Eおよび/またはS586Rを含む。
【0038】
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV10キャプシドタンパク質を含む。別の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号8に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV10に由来する。別の実施形態では、野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号8の配列を含む。
【0039】
一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV10キャプシドタンパク質配列中の125、151、163、206、315、460、495、502、536、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に存在する。好ましい実施形態では、バリアントAAV10キャプシドタンパク質が、野生型AAV10キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、K163S、A206S、N315S、T460M、L495A、N502D、F536Y、G549D、Q588S、A591Tおよび/またはG596Sを含む。代替の実施形態では、バリアントAAV10キャプシドタンパク質が、野生型AAV10キャプシドタンパク質と比べて、以下のアミノ酸置換:G551Eを含む。
【0040】
一実施形態では、組換えAAVベクターが、対応する野生型AAVキャプシドタンパク質を含むAAVベクターと比較して、神経細胞組織または網膜組織の形質導入の増加を示す。
【0041】
別の実施形態では、組換えAAVベクターが、対応する野生型AAVキャプシドタンパク質と比較して、肝臓組織の形質導入の増加を示す。
【0042】
一実施形態では、遺伝子産物が、干渉RNAまたはアプタマーを含む。別の実施形態では、遺伝子産物がポリペプチドを含む。好ましくは、遺伝子産物が、神経保護ポリペプチド、抗血管新生ポリペプチド、または神経細胞もしくは網膜細胞の機能を増強するポリペプチドを含む。好ましい実施形態では、遺伝子産物が、グリア由来の神経栄養因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、脳由来の神経栄養因子、ロドプシン、レチノスキシン、RPE65、またはペリフェリンを含む。
【0043】
別の態様では、本発明は、(a)上記の定義に従う組換えAAVベクター、および(b)薬学的に許容できる賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0044】
別の態様では、本発明は、遺伝子産物を対象中の組織に送達するための方法であって、上記の定義に従う組換えAAVベクターまたは医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。
【0045】
いくつかの実施形態では、組織が、血液、骨髄、筋肉組織、神経細胞組織、網膜組織、膵臓組織、肝臓組織、腎臓組織、肺組織、腸組織または心臓組織から選択される。好ましくは、組織が、神経細胞組織、網膜組織または肝臓組織である。
【0046】
別の態様では、本発明は、対象中の障害を治療するための方法であって、上記の定義に従う組換えAAVベクターまたは医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法を提供する。いくつかの実施形態では、障害が、神経学的障害、眼障害または肝臓障害である。
【0047】
別の態様では、本発明は、対象中の障害を治療する際に使用するための、上記の定義に従う組換えAAVベクターまたは医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、障害が、神経学的障害、眼障害または肝臓障害である。好ましくは、神経学的障害が神経変性疾患である。代替の実施形態では、眼障害が、緑内障、網膜色素変性症、黄斑変性、網膜分離症または糖尿病性網膜症である。
【0048】
別の態様では、本発明は、単離バリアントAAVキャプシドタンパク質であって、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/もしくは593位の1つもしくは複数において、または代替の
AAVキャプシドタンパク質配列中の1つもしくは複数の対応する位置に存在する少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、単離バリアントAAVキャプシドタンパク質を提供する。
【0049】
別の態様では、本発明は、上記の定義に従うバリアントAAVキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸を提供する。
【0050】
別の態様では、本発明は、上記の定義に従う核酸を含む単離宿主細胞を提供する。
すなわち、本発明は以下に関する。
(1)
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(a)野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の457、492、499および533位に存在する少なくとも4つのアミノ酸置換を含む、バリアントAAV2キャプシドタンパク質、ならびに
(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸
を含む、組換えAAVベクター。
(2)
(i)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号2の配列、もしくはその配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、かつ/または(ii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号1の配列を含む、上記(1)に記載の組換えAAVベクター。
(3)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:M457、A492、D499およびY533を含む、上記(1)または(2)に記載の組換えAAVベクター。
(4)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:Q457M、S492A、E499DおよびF533Yを含む、上記(2)または(3)に記載の組換えAAVベクター。
(5)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162および205位に1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む、上記(1)から(4)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(6)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:I125、A151、S162およびS205の1つまたは複数を含む、上記(5)に記載の組換えAAVベクター。
(7)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、V151A、A162SおよびT205Sを含む、上記(5)または(6)に記載の組換えAAVベクター。
(8)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の585および588位に1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む、上記(1)から(7)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(9)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:S585およびT588の1つまたは複数を含む、上記(8)に記載の組換えAAVベクター。
(10)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:R585SおよびR588Tを含む、上記(8)または(9)に記載の組換えAAVベクター。
(11)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の546、548および593位に1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む、上記(1)から(10)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(12)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:D546、G548およびS593の1つまたは複数を含む、上記(11)に記載の組換えAAVベクター。
(13)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:G546D、E548GおよびA593Sを含む、上記(11)または(12)に記載の組換えAAVベクター。
(14)
バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、残基N312を含む、上記(1)から(13)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(15)
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(a)野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、AAV8キャプシドタンパク質配列中の315位にアミノ酸置換を含む、バリアントAAV8キャプシドタンパク質、および
(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸
を含む、組換えAAVベクター。
(16)
(i)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号6に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、かつ/または(ii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号6の配列を含む、上記(15)に記載の組換えAAVベクター。
(17)
バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、アミノ酸置換S315Nを含む、上記(15)または(16)に記載の組換えAAVベクター。
(18)
AAV8キャプシドタンパク質配列中の125、151、163、206、460、495、502、536、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に存在する1つまたは複数のアミノ酸置換をさらに含む、上記(15)から(17)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(19)
バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:
(a)V125I、Q151A、K163S、A206S、T460M、T495A、N502D、F536Y、N549D、A551G、Q588Sおよび/もしくはG596S;ならびに/または
(b)T591R
を含む、上記(18)に記載の組換えAAVベクター。
(20)
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(a)野生型AAV3Bキャプシドタンパク質と比べて、AAV3Bキャプシドタンパク質配列中の312位にアミノ酸置換を含む、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質、および
(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸
を含む、組換えAAVベクター。
(21)
(i)バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質が、配列番号11に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、かつ/または(ii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号11の配列を含む、上記(20)に記載の組換えAAVベクター。
(22)
バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質が、野生型AAV3Bキャプシドタンパク質と比べて、アミノ酸置換S312Nを含む、上記(20)または(21)に記載の組換えAAVベクター。
(23)
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(a)配列番号12の定義に従うAAV-LK03キャプシドタンパク質配列と比べて、312位にアミノ酸置換を含む、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質、および
(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸
を含む、組換えAAVベクター。
(24)
バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質が、配列番号12に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含む、上記(23)に記載の組換えAAVベクター。
(25)
組換えAAVベクターが、対応する野生型AAVキャプシドタンパク質を含むAAVベクターと比較して、神経細胞組織または網膜組織の形質導入の増加を示す、上記(1)から(14)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(26)
組換えAAVベクターが、対応する野生型AAVキャプシドタンパク質と比較して、肝臓組織の形質導入の増加を示す、上記(15)から(24)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(27)
遺伝子産物が、干渉RNAまたはアプタマーを含む、上記(1)から(26)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(28)
遺伝子産物がポリペプチドを含む、上記(1)から(27)のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
(29)
遺伝子産物が、神経保護ポリペプチド、抗血管新生ポリペプチド、または神経細胞もしくは網膜細胞の機能を増強するポリペプチドを含む、上記(28)に記載の組換えAAVベクター。
(30)
遺伝子産物が、グリア由来の神経栄養因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、脳由来の神経栄養因子、ロドプシン、レチノスキシン、RPE65、またはペリフェリンを含む、上記(29)に記載の組換えAAVベクター。
(31)
(a)上記(1)から(30)のいずれかに記載の組換えAAVベクター、および
(b)薬学的に許容できる賦形剤
を含む医薬組成物。
(32)
遺伝子産物を対象中の組織に送達するための方法であって、上記(1)から(31)のいずれかに記載の組換えAAVベクターまたは医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法。
(33)
組織が、血液、骨髄、筋肉組織、神経細胞組織、網膜組織、膵臓組織、肝臓組織、腎臓組織、肺組織、腸組織または心臓組織から選択される、上記(32)に記載の方法。
(34)
組織が、神経細胞組織、網膜組織または肝臓組織である、上記(33)に記載の方法。(35)
対象中の障害を治療するための方法であって、上記(1)から(31)のいずれかに記載の組換えAAVベクターまたは医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法。
(36)
対象中の障害を治療する際に使用するための、上記(1)から(31)のいずれかに記載の組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
(37)
障害が、神経学的障害、眼障害または肝臓障害である、上記(35)または(36)に記載の使用するための方法、組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
(38)
神経学的障害が、神経変性疾患である、上記(37)に記載の使用するための方法、組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
(39)
眼障害が、緑内障、網膜色素変性症、黄斑変性、網膜分離症または糖尿病性網膜症である、上記(37)に記載の使用するための方法、組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】野生型アデノ随伴ウイルス2キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号1;NCBI参照配列:NC_001401)を示す図である。残基:V125、V151、A162、T205、N312、Q457、S492、E499、F533、G546、E548、R585、R588およびA593が強調されている。
図2】真性型アデノ随伴ウイルス2(ttAAV2)キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。残基:I125、A151、S162、S205、S312、M457、A492、D499、Y533、D546、G548、S585、T588、S593が、野生型AAV2のVP1(配列番号1)と比較して異なり、強調されている。
図3】野生型アデノ随伴ウイルス1キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号3;NCBI参照配列:NC_002077)を示す図である。強調されている残基:S205(ttAAV2(配列番号2)中のS205と整列される)-G549(ttAAV2中のG548と整列される)-S586(ttAAV2中のS585と整列される)-T589(ttAAV2中のT588と整列される)。
図4】野生型アデノ随伴ウイルス5キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号4;NCBI参照配列:AF085716)を示す図である。強調されている残基:G537(ttAAV2中のG548と整列される)-S575(ttAAV2中のS585と整列される)-T578(ttAAV2中のT588と整列される)。
図5】野生型アデノ随伴ウイルス6キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号5;NCBI参照配列:AF028704)を示す図である。強調されている残基:S205(ttAAV2中のS205と整列される)-G549(ttAAV2中のG548と整列される)-S586(ttAAV2中のS585と整列される)-T589(ttAAV2中のT588と整列される)。
図6】野生型アデノ随伴ウイルス8キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号6;NCBI参照配列:NC_006261)を示す図である。強調されている残基:S315(ttAAV2中のS312と整列される)-T591(ttAAV2中のT588と整列される)。
図7】野生型アデノ随伴ウイルス9キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号7;NCBI参照配列:AY530579)を示す図である。強調されている残基:S162(ttAAV2中のS162と整列される)-S205(ttAAV2中のS205と整列される)-G549(ttAAV2中のG548と整列される)-S586(ttAAV2中のS585と整列される)。
図8】野生型アデノ随伴ウイルス10キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列(配列番号8)を示す図である。強調されている残基:G551(ttAAV2中のG548と整列される)。
図9】AAVキャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列の整列を示す図である。
図10】AAV2ベクターを生成するために使用したプラスミドは、パッケージングプラスミドpDGであったことを示す図である。上:野生型AAV2遺伝子を有するpDG。下:真性型AAV2遺伝子を有するpDG-ttAAV2;585および588位における、ヘパランに結合するドメイン中の2つの主要な突然変異が強調されている。MMTV:AAV repの発現を推進するプロモーター;E2a、E4ORF6およびVAは、アデノウイルスのヘルパー因子を発現する遺伝子である。
図11A】in vivoにおける注射についての、rAAV2真性型(TT)および野生型(WT)のウイルスタイターの定量化を示す図である。SDS-PAGEにより分離したタンパク質のKrypton染色を、赤外蛍光スキャナー(Odyssey Imaging systems)を使用してスキャンした図である。10μlのAAV2ウイルス粒子および62.5ng~500ngのBSAを、SDSを含有する12%の分離ゲル上で分離し、Krypton Protein Stainを用いて染色した。画像を、グレースケールに変換した。キャプシド遺伝子のタンパク質:VP1、VP2、VP3を、左に記入してある。
図11B】in vivoにおける注射についての、rAAV2真性型(TT)および野生型(WT)のウイルスタイターの定量化を示す図である。qPCRから得られたタイター(ベクターのゲノム[vg/ml])、およびSDS-PAGEから得られたタイター(キャプシドのタイター[キャプシド/ml])を示す表である。
図12A】GFP特異的抗体を用いて染色したラット脳の切片の代表的な例を示す図である。ベクターを、矢印が示すように、線条体内に注射した。
図12B】黒質中への注射の代表的な例を示す図である。
図13A】ttAAV2およびwtAAV2を使用する眼のGFP形質導入を示す図である。ttAAV2ベクター(上)およびwtAAV2ベクター(下)を投与した後の横断面における網膜を示す。
図13B】ttAAV2およびwtAAV2を使用する眼のGFP形質導入を示す図である。図A中の破線で示すボックスの拡大図である。
図14】新生仔中にベクターを注射した後の、マウス脳の形質導入を示す図である。i.v.:静脈内ベクター投与;i.c.:頭蓋内注射;AAV-2:wtAAV2;AAV-TT:ttAAV2。
図15】AAV2キャプシドを三次元で示す図である。強調されている残基は、ttAAV2粒子と野生型粒子との間のアミノ酸変化に対応し、それらの位置に応じて色分けされている。
図16】AAV2キャプシド上の3回フォールドされたスパイクを示す図である。強調されている残基は、真性型粒子と野生型粒子との間のアミノ酸変化に対応する。ヘパリン結合性部位の残基が、緑色で強調されている。
図17】AAV2キャプシドの内側を示す図である。薄青色で強調されている残基は、キャプシドの内側上に位置するttAAV2中の単一のアミノ酸変化に対応する。
図18】AAV2キャプシド上の3回フォールドされたスパイクを示す図である。ベージュ色で強調されている残基は、真性型ベクター中の2つのアミノ酸変化に対応し、これらのアミノ酸変化は、空間的に近く、AAVキャプシド上の3回フォールドされた近接する2つのピークの間の溝中に位置する。
図19】AAV2キャプシド上の3回フォールドされたスパイクを示す図である。茶色で強調されている残基は、真性型ベクター中の単一の孤立したアミノ酸変化(S593)に対応し、このアミノ酸変化は、3回フォールドされた近接するピークの間の溝中に位置する。
図20】AAV2キャプシド上の3回フォールドされたスパイクを示す図である。ピンク色で強調されている4つのアミノ酸が、受容体結合に関与し、3回フォールドされたスパイク上で密接な位置関係にある。
図21】AAV2に由来するVP1キャプシド単量体(薄青色)とAAV1に由来するVP1単量体(橙色)との間の整列を三次元で示す図である。図の中央左にある強調されている残基は、AAV1中のG549(橙色の球体)およびAAV2中のE548(青緑色の球体)に対応する。図の右上にある強調されている残基は、AAV1中のS586およびT589(橙色の球体)ならびにAAV2中のR585およびR588(青緑色の球体)に対応する。
図22】AAV2に由来するVP1キャプシド単量体(薄青色)とAAV5に由来するVP1単量体(紫色)との間の整列を三次元で示す図である。図の中央にある強調されている残基は、AAV5中のG537(紫色の球体)およびAAV2中のE548(青緑色の球体)に対応する。図の右上にある強調されている残基は、AAV5中のS575およびT578(紫色の球体)ならびにAAV2中のR585およびR588(青緑色の球体)に対応する。
図23】AAV2に由来するVP1キャプシド単量体(薄青色)とAAV6に由来するVP1単量体(黄色)との間の整列を三次元で示す図である。図の下方にある強調されている残基は、AAV6中のG549(橙色の球体)およびAAV2中のE548(青緑色の球体)に対応する。図の右上にある強調されている残基は、AAV6中のS586およびT589(橙色の球体)ならびにAAV2中のR585およびR588(青緑色の球体)に対応する。
図24】AAV2に由来するVP1キャプシド単量体(薄青色)とAAV8に由来するVP1単量体(ピンク色)との間の整列を三次元で示す図である。図の左上にある強調されている残基は、AAV8中のS315(赤色の球体)およびAAV2中のN312(青緑色の球体)に対応する。図の右下にある強調されている残基は、AAV8中のT591(赤色の球体)およびAAV2中のR588(青緑色の球体)に対応する。
図25】AAV2に由来するVP1キャプシド単量体(薄青色)とAAV9に由来するVP1単量体(緑色)との間の整列を三次元で示す図である。図の中央にある強調されている残基は、AAV9中のG549(黄色の球体)およびAAV2中のE548(青緑色の球体)に対応する。図の左下にある強調されている残基は、AAV9中のS586(黄色の球体)およびAAV2中のR585(青緑色の球体)に対応する。
図26A】ラット脳中の線条体への注射の後の、束傍核中のrAAV2TTおよびWT発現の分析を示す図である。ラット脳の切片の代表的な画像であり、左に吻側面を、右に尾側面を示す。線条体中の注射部位を示す;図26BおよびCにおいて観察される視床下部中の投影領域を示す(束傍核:pf)。
図26B】ラット脳中の線条体への注射の後の、束傍核中のrAAV2TT発現およびWT発現の分析を示す図である。rAAV2WTの線条体への注射の後に束傍核(pf)中で検出されたGFP発現の高倍率の画像である。
図26C】ラット脳中の線条体への注射の後の、束傍核中のrAAV2TT発現およびWT発現の分析を示す図である。TTの線条体への注射の後に束傍核(pf)中で検出されたGFP発現の高倍率の画像である。
図27】rAAV2TTおよびWTの、新生仔マウス中への頭蓋内注射の概観を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片の代表的な例を示す。5×1010vgのrAAV2TT(上)またはrAAV2WT(中央)を、新生仔マウス脳の側脳室中に注射した。新生仔マウスから得られた、注射されていない脳を、同時に染色し、陰性対照として示す(NT、形質導入なし)。
図28】rAAV2TTまたはWTの頭蓋内注射の後の、新生仔マウス脳の切片の高倍率の写真を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片を示す。5×1010vgのrAAV2TT(左のパネル)またはrAAV2WT(右のパネル)を、新生仔マウス脳の側脳室中に注射した。S1BF:バレル野一次体性感覚皮質。
図29】rAAV2TTおよびWTの新生仔マウス中への全身注射の後の、脳の形質導入の概観を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片の代表的な例を示す。2×1011vgのrAAV2TT(上)またはrAAV2WT(下)を、新生仔マウスの頚静脈中に注射した。
図30】rAAV2TTまたはWTの全身注射の後の、新生仔マウス脳の切片の高倍率の写真を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片を示す。2×1011vgのrAAV2TT(左のパネル)またはrAAV2WT(右のパネル)を、新生仔マウスの頚静脈中に注射した。S1BF:バレル野一次体性感覚皮質。
図31】rAAV2TTまたはWTの全身注射の後の、新生仔マウス組織切片の高倍率の写真を示す図である。2×1011vgのrAAV2TTまたはrAAV2WTを、新生仔マウスの頚静脈中に注射した。注射されていないマウス臓器を、陰性対照として使用した。
図32】rAAV2TT、WTおよびHBnullの線条体への注射の後の、成体ラット脳の切片の高倍率の画像を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色したラット脳の切片の代表的な例を示す。3.5×10vgのrAAV2WT(左)、TT(右)またはAAV2-HBnull(中央)を、成体ラット脳の線条体中に注射し、代表的な写真を、視床または黒質(SN)中で撮影した。
図33】新生仔マウス中で、種々のTT突然変異体と比較した完全なAAV-TTの頭蓋内注射の概観を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片の代表的な例を示す。5×1010vgのrAAV2TT、TT-S312N、TT-S593AまたはTT-D546G/G548E(TT-DG)を、新生仔マウス脳の側脳室中に注射した。新生仔マウスから得られた、注射されていない脳を、同時に染色し、陰性対照(NT)として示す。
図34】種々のTT突然変異ベクターの頭蓋内注射の後の、新生仔マウス脳の切片の高倍率の写真を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片を示す。5×1010vgのベクターを、新生仔マウス脳の側脳室中に注射した。TT-DG:TT-D546G/G548E。
図35】TT-S312N突然変異体および10個の突然変異を含有する最終となる可能性があるTTベクターと比較した、完全なAAV-TTの新生仔マウスの頭蓋内注射の概観を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片の代表的な例を示す。5×1009vgのrAAV2TT、TT-S312N、TTまたはTT-S312N-D546G/G548E-S593A(TT-S312N-DG-S593A)を、新生仔マウス脳の側脳室中に注射した。新生仔マウスから得られた、注射されていない脳を、同時に染色し、陰性対照(NT)として示す。
図36】種々のTT突然変異ベクターの頭蓋内注射の後の、新生仔マウス脳の切片の高倍率の写真を示す図である。GFP特異的抗体を用いて染色した新生仔脳の切片を示す。5×1009vgのベクターを、新生仔マウス脳の側脳室中に注射した。
図37】完全なAAV-TT、TT-S312N突然変異体またはTT-S312N-DG-S593Aを注射した新生仔マウス脳中のGFPタンパク質のELISA定量化を示す図である。5×1009vgのベクターを、新生仔マウス脳の側脳室中に注射し、収集した脳全体から、タンパク質の全量を抽出した。GFP特異的抗体を使用して、各脳試料中のGFPの発現を検出し、標準GFPタンパク質を、定量化のために使用した。1つの条件当たり、N=5匹の動物。エラーバーは、平均±SEMを示す。
図38】AAV3BのVP1キャプシドタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。強調されている残基は、AAV-tt中の残基と、対応する位置において同一である残基を示す。312位における内部セリン残基に下線を付す。
図39】AAV-LK03のVP1キャプシドタンパク質のアミノ酸配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
一態様では、本発明は、組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターに関する。rAAVベクターは典型的には、野生型AAVキャプシドタンパク質と比較して異なるバリアントキャプシドタンパク質を含む。好都合なことに、バリアントキャプシドタンパク質は、脳および/または眼中のベクターの感染性を増強させることができ、遺伝子療法による治療剤をこれらの組織内へ送達するのに、ベクターを特に適切なものにする。
【0053】
組換えAAVベクター
本開示は、組換えアデノ随伴ウイルス(rAAV)ベクターを提供する。「AAV」は、アデノ随伴ウイルスを示す略語であり、ウイルス自体またはその誘導体を指すために使用することができる。この用語は、全てのサブタイプ、ならびに天然に存在する形態および組換え形態の両方を、別段の必要性がある場合以外は網羅する。略語「rAAV」は、組換えアデノ随伴ウイルスを指し、組換えアデノ随伴ウイルスはまた、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)とも呼ばれる。用語「AAV」は、例えば、AAV1型(AAV-1)、AAV2型(AAV-2)、AAV3型(AAV-3)、AAV4型(AAV-4)、AAV5型(AAV-5)、AAV6型(AAV-6)、AAV7型(AAV-7)、AAV8型(AAV-8)、AAV9型(AAV-9)、AAV10型(AAVrh10を含めた、AAV-10)、AAV12型(AAV-12)、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、霊長類AAV、非霊長類AAVおよびヒツジAAVを含む。「霊長類AAV」は、霊長類に感染するAAVを指し、「非霊長類AAV」は、非霊長類哺乳動物に感染するAAVを指し、「ウシAAV」は、ウシ科哺乳動物に感染するAAVを指す、等である。
【0054】
種々の血清型のAAVのゲノム配列、ならびにネイティブの末端リピート(TR)、Repタンパク質およびキャプシドサブユニットの配列が、当技術分野で公知である。そのような配列を、文献、または公共データベース、例として、GenBankに見出すことができる。例えば、GenBank受託番号:NC-002077(AAV-1)、AF063497(AAV-1)、NC-001401(AAV-2)、AF043303(AAV-2)、NC-001729(AAV-3)、NC-001829(AAV-4)、U89790(AAV-4)、NC-006152(AAV-5)、AF513851(AAV-7)、AF513852(AAV-8)、およびNC-006261(AAV-8)を参照されたい;これらの開示は、参照により本明細書に組み込まれている。また、例えば、Srivistavaら(1983)J.Virology、45:555;Chioriniら(1998)J.Virology、71:6823;Chioriniら(1999)J.Virology、73:1309;Bantel-Schaalら(1999)J.Virology、73:939;Xiaoら(1999)J.Virology、73:3994;Muramatsuら(1996)Virology、221:208;Shadeら(1986)J.Virol.、58:921;Gaoら(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA、99:11854;Morisら(2004)Virology、33:375~383;国際特許公開WO00/28061、WO99/61601、WO98/11244;および米国特許第6,156,303号も参照されたい。
【0055】
「rAAVベクター」は、本明細書で使用する場合、AAV起源ではないポリヌクレオチド(すなわち、AAVにとって異種のポリヌクレオチド)の配列、典型的には、細胞に遺伝子の形質転換を行うための、目的の配列を含むAAVベクターを指す。いくつかの実施形態では、異種ポリヌクレオチドには、少なくとも1つ、時には、2つのAAVの逆位末端配列(ITR)が隣接し得る。rAAVベクターという用語は、rAAVベクター粒子およびrAAVベクタープラスミドの両方を包含する。rAAVベクターは、一本鎖(ssAAV)または自己相補的(scAAV)のいずれかであり得る。
【0056】
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」または「rAAVベクター粒子」は、少なくとも1つのAAVキャプシドタンパク質(典型的には、野生型AAVのキャプシドタンパク質の全て)およびキャプシドで包まれたポリヌクレオチドrAAVベクターで構成されるウイルス粒子を指す。粒子が、異種ポリヌクレオチド(すなわち、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド、例として、哺乳動物細胞に送達しようとする導入遺伝子)を含む場合には、この粒子は、典型的には「rAAVベクター粒子」、または単に「rAAVベクター」と呼ばれる。したがって、rAAV粒子の生成は必然的に、rAAVベクターの生成を含み、したがって、ベクターは、rAAV粒子の内部に含有される。
【0057】
「組換え」は、本明細書で使用する場合、ベクター、ポリヌクレオチド、ポリペプチドまたは細胞が、クローニング、制限もしくはライゲーションのステップ(例えば、その中に含まれるポリヌクレオチドもしくはポリペプチドに関係するステップ)、および/または自然界において見出される産物とは明確に異なる構築物をもたらすその他の手順を種々に組み合わせて得られる産物であることを意味する。組換えウイルスまたは組換えベクターは、組換えポリヌクレオチドを含むウイルス粒子である。これらの用語はそれぞれ、元々のポリヌクレオチド構築物の複製物および元々のウイルス構築物の子孫の複製物を含む。
【0058】
バリアントAAVキャプシドタンパク質
本明細書に記載するrAAVベクターは、バリアントAAVキャプシドタンパク質を含む。「バリアント」により、AAVキャプシドタンパク質が、同じ血清型の対応する野生型AAVキャプシドタンパク質と異なることを意味する。例えば、バリアントAAVキャプシドタンパク質は、対応する野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数のアミノ酸置換を含むことができる。この文脈では、「対応する」は、同じ血清型のキャプシドタンパク質を指し、換言すると、バリアントAAV1キャプシドタンパク質は、対応する野生型AAV1キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数のアミノ酸置換を含むこと、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、対応する野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数のアミノ酸置換を含むこと等を指す。
【0059】
バリアントAAVキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、例えば、1~50、1~30、1~20または1~15個のアミノ酸置換を含むことができる。好ましくは、バリアントAAVキャプシドタンパク質は、対応する野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14個のアミノ酸置換を含む。好ましい実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質は、野生型キャプシドタンパク質に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または少なくとも99%の配列同一性を保持する。
【0060】
本発明の実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質は、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、5
88および/または593位の1つまたは複数に対応する位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。この文脈では、「対応する」は、AAV2キャプシドタンパク質中の上記の位置の1つに対応する、任意のAAVキャプシドタンパク質配列中(例えば、AAV2タンパク質配列またはAAV2以外のキャプシドタンパク質配列中)の位置を指す。一実施形態では、少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/もしくは593位の1つもしくは複数において、または代替のAAVキャプシドタンパク質配列中の1つもしくは複数の対応する位置に存在する。
【0061】
一般に、AAVキャプシドタンパク質は、VP1、VP2およびVP3を含む。好ましい実施形態では、キャプシドタンパク質は、AAVキャプシドタンパク質VP1を含む。
【0062】
核酸配列およびアミノ酸配列、ならびに配列同一性
用語「ポリヌクレオチド」は、デオキシリボヌクレオチドもしくはリボヌクレオチド、またはそれらの類似体を含めた、任意の長さの、ヌクレオチドの重合体の形態を指す。ポリヌクレオチドは、改変ヌクレオチド、例として、メチル化ヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含むことができ、ヌクレオチド以外の構成成分を介在させることができる。ヌクレオチド構造への改変は、存在させる場合には、重合体の集合の前または後にもたらすことができる。ポリヌクレオチドという用語は、本明細書で使用する場合、二本鎖および一本鎖の分子を交換可能に指す。別段の特定または必要性がない限り、本明細書に記載する本発明のいずれの実施形態においても、ポリヌクレオチドは、二本鎖形態も、二本鎖形態を構成することが公知であるまたは予測される2つの相補的な一本鎖形態のそれぞれも包含する。
【0063】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書では交換可能に使用して、任意の長さの、アミノ酸の重合体を指す。この用語はまた、改変されているアミノ酸の重合体も包含する;改変には、例えば、ジスルフィド結合の形成、グリコシル化、脂質付加、リン酸化、または標識構成成分とのコンジュゲーションがある。ポリペプチド、例として、抗血管新生ポリペプチド、神経保護ポリペプチド等は、遺伝子産物の哺乳動物の対象への送達およびそのための組成物の文脈で論述する場合には、それぞれの未変化ポリペプチド、または未変化タンパク質の所望の生化学的機能を保持する、その任意の断片もしくは遺伝子工学的に作製した誘導体を指す。同様に、遺伝子産物を哺乳動物の対象に送達する際に使用するための抗血管新生ポリペプチドをコードする核酸、神経保護ポリペプチドをコードする核酸、およびその他のそのような核酸(これらを、レシピエント細胞に送達しようとする「導入遺伝子」と呼ぶことができる)について言及する場合にも、所望の生化学的機能を保有する未変化ポリペプチドまたは任意の断片もしくは遺伝子工学的に作製する誘導体をコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0064】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドは、別のポリヌクレオチドまたはポリペプチドに対して特定のパーセントの「配列同一性」を有し、このことは、整列させて、2つの配列を比較する場合に、塩基またはアミノ酸がそうしたパーセントで同じであることを意味する。配列類似性を、いくつかの異なる様式で決定することができる。配列同一性を決定するために、world wide web上のncbi.nlm.nih.gov/BLAST/において利用可能なBLASTを含めた、方法およびコンピュータプログラムを使用して、配列を整列させることができる。別の整列アルゴリズムが、Genetics
Computing Group(GCG)(Madison、Wisconsin、米国)のパッケージ中で利用可能なFASTAであり、GCGは、Oxford Molecular Group,Inc.の完全子会社である。整列のためのその他の技法が、Methods in Enzymology、vol.266:Computer
Methods for Macromolecular Sequence Analysis(1996)Doolittle編、Academic Press,Inc.(Harcourt Brace&Co.、San Diego、California、USAの一事業部)に記載されている。特に興味深いのが、配列中のギャップを許容する整列プログラムである。Smith-Watermanは、配列を整列させる際にギャップを許容するアルゴリズムの1つのタイプである。Meth.Mol.Biol.、70:173~187(1997)を参照されたい。また、NeedlemanおよびWunschの整列方法を使用するGAPプログラムを利用しても、配列を整列させることができる。J.Mol.Biol.、48:443~453(1970)を参照されたい。
【0065】
興味深いのが、SmithおよびWatermanの局地的相同性アルゴリズム(Advances in Applied Mathematics 2:482~489(1981))を使用して、配列同一性を決定するBestFitプログラムである。ギャップ生成ペナルティーは、一般に1~5、通常2~4の範囲に及び、多くの実施形態では3である。ギャップ伸長ペナルティーは、一般に約0.01~0.20の範囲に及び、多くの場合は0.10である。このプログラムは、インプットして比較しようとする配列により決定されるデフォルトパラメータを有する。好ましくは、プログラムにより決定されるデフォルトパラメータを使用して、配列同一性を決定する。このプログラムもまた、Genetics Computing Group(GCG)(Madison、Wisconsin、米国)のパッケージから利用可能である。
【0066】
興味深い別のプログラムが、FastDBアルゴリズムである。FastDBは、Current Methods in Sequence Comparison and
Analysis、Macromolecule Sequencing and Synthesis,Selected Methods and Applications、127~149頁、1988、Alan R.Liss,Inc.に記載されている。FastDBにより、以下のパラメータ:
ミスマッチペナルティー:1.00、
ギャップペナルティー:1.00、
ギャップサイズペナルティー:0.33、および
連結ペナルティー:30.0
に基づいて、パーセント配列同一性を計算する。
【0067】
バリアントAAV2キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV2キャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/または593位の1つまたは複数において少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0068】
野生型AAV2キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図1(配列番号1)に示す。また、野生型AAV2キャプシドタンパク質配列は、データベースの受託番号:NC-001401;UniProt P03135;NCBI参照配列:YP_680426.1;GenBankk:AAC03780.1からも入手可能である。
【0069】
好ましくは、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号1に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号2の配列、またはその配列に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも9
0%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%もしくは少なくとも99%の配列同一性を有する配列を含む。
【0070】
一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:I125、A151、S162、S205、S312、M457、A492、D499、Y533、D546、G548、S585、T588および/またはS593を含む。好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、V151A、A162S、T205S、N312S、Q457M、S492A、E499D、F533Y、G546D、E548G、R585S、R588Tおよび/またはA593Sを含む。
【0071】
AAV2キャプシドタンパク質中の突然変異の組合せ
バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、上記のアミノ酸置換の任意の組合せを含むことができる。したがって、特定の実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、上記のリストから選択された1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13または14個のアミノ酸置換を含む。一実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、上記に開示した14個のアミノ酸置換の全てを含み、例えば、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、配列番号2の配列(すなわち、本明細書でttAAV2またはAAV2-TTと呼ぶ配列)を含む。
【0072】
さらなる実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、上記の14個の突然変異のサブセットを含むことができる。理論により拘束されるわけではないが、個々の実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、下記の機能別の群に分けられる以下の残基を含むことができる:
1)S585および/またはT588;これらの残基は、ヘパリン結合の減少、およびヘパラン硫酸プロテオグリカンに富む脳組織中のウイルスの伝播の増加と関連がある場合がある;
2)S312;この内部セリン残基は、キャプシド-DNA間の相互作用において役割を果たす場合がある;
3)D546および/またはG548;これらの残基は、抗体を中和する相互作用に関与し、したがって、in vivoにおける形質導入の特性に寄与する場合がある;
4)S593;この残基は、3回フォールドされた近接するスパイクの間の溝中に位置する;
5)M457、A492、D499および/またはY533;これら4つのアミノ酸は、受容体結合に関与する場合があり、3回フォールドされたスパイク上で密接な位置関係にある;
6)I125、A151、S162および/またはS205;これらの残基は、PLA2活性および/または侵入するウイルスの輸送と関連がある場合がある。
【0073】
本明細書ではまた、さらなるAAVの血清型中の対応する位置において、上記の残基に対応する突然変異が存在する場合には、そうした突然変異を含む、対応するサブグループも企図することを理解されたい(下記を参照されたい)。
【0074】
好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、受容体結合と関連がある場合がある、上記で言及した位置における4つの突然変異、すなわち、残基:457、492、499および533、またはそれ以上の突然変異を含む。したがって、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、以下の残基:M457、A492、D499およびY533を含むことが特に好ましい。
【0075】
いくつかの好ましい実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、312位において突然変異しておらず、例えば、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、(野生型AAV2キャプシドタンパク質中に存在する)残基N312を含む。したがって、いくつかの実施形態では、バリアントAAV2キャプシドタンパク質は、上記で言及した特定の突然変異の1~13個を含むことができるが、突然変異N312Sは含まない。
【0076】
その他の血清型に由来するバリアントAAVキャプシドタンパク質
さらなる実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質が、代替のAAVの血清型、すなわち、AAV2以外のAAVの血清型に由来する。例えば、バリアントAAVキャプシドタンパク質は、AAV1、AAV3B、AAV-LK03、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9またはAAV10(例えば、AAVrh10)のキャプシドタンパク質に由来し得る。
【0077】
これらの実施形態では、バリアントAAVキャプシドタンパク質は、AAV2に関して上記に記載した位置に対応する1つまたは複数の位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。換言すると、バリアントAAVキャプシドタンパク質は、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/または593位に対応する、代替(すなわち、AAV2以外)のAAVキャプシドタンパク質配列中の位置に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。
【0078】
種々のAAVの血清型のキャプシドタンパク質のアミノ酸配列の比較に基づいて、AAV2キャプシドタンパク質中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/または593位に対応する、代替のAAVの血清型に由来するキャプシドタンパク質中の位置を同定する方法は、当業者には理解されるものと予想される。特に、当技術分野で公知であり、本明細書に記載する配列の整列により、そのような位置を容易に同定することができる。例えば、1つのそのような配列の整列を、図9に提供する。
【0079】
この文脈で特に妥当なのは、AAV2キャプシドタンパク質中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/または593位に三次元空間において対応する、代替のAAVキャプシドタンパク質配列中の位置である。タンパク質構造の三次元におけるモデル化および整列のための方法は当技術分野で周知であり、それらを使用して、そのような対応する位置を、AAV2以外のキャプシドタンパク質配列中で同定することができる。AAV2キャプシドタンパク質配列の、代替のAAVの血清型(例えば、AAV1、AAV5、AAV6、AAV8およびAAV9)のキャプシドタンパク質配列との例示的な3Dにおける整列を、図21~25に示し、下記に論述する。当業者であれば、さらなる血清型、例えば、AAV2、AAV3、AAV7、AAV10およびAAV12に由来するキャプシドタンパク質との類似の3Dにおける整列を行い、AAV2中の上記で定義した位置に対応する、そのような配列中の位置を同定することができる。
【0080】
バリアントAAV1キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV1キャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV1キャプシドタンパク質は、AAV1キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、313、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数において少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。AAV1キャプシドタンパク質VP1中のこれらの位置は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する。
【0081】
野生型AAV1キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図3(配列番号3)に示す。また、野生型AAV1キャプシドタンパク質の配列は、データベースの受託番号:NC-002077からも入手可能である。好ましくは、バリアントAAV1キャプシドタンパク質は、配列番号3に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0082】
野生型AAV1キャプシドタンパク質VP1は、以下の残基を、野生型AAV2(配列番号1)中には存在しないが、上記に開示したバリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)中に存在するアミノ酸残基に対応する位置:S205(ttAAV2中のS205と整列される);G549(ttAAV2中のG548と整列される);S586(ttAAV2中のS585と整列される);およびT589(ttAAV2中のT588と整列される)においてすでに含有する。したがって、好ましい実施形態では、バリアントAAV1キャプシドタンパク質が、野生型AAV1キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、T162S、N313S、N458M、K493A、N500D、F534Y、S547Dおよび/またはG594Sを含む。典型的には、そのようなバリアントAAV1キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、バリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)と共有し得、例えば、野生型AAV1キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を増加させることができる。
【0083】
代替の実施形態では、バリアントAAV1キャプシドタンパク質は、ttAAV2中に存在する突然変異を野生型AAV2配列に戻す復帰に対応する、1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。例えば、バリアントAAV1キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の以下の置換:S205T、G549E、S586Rおよび/またはT589Rを含むことができる。典型的には、そのようなバリアントAAV1キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、野生型AAV2キャプシドタンパク質(配列番号1)と共有し得、例えば、野生型AAV1キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を低下させることができる。
【0084】
バリアントAAV5キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV5キャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV5キャプシドタンパク質は、AAV5キャプシドタンパク質配列中の124、150、153、195、303、444、479、486、520、533、537、575、578および/または583位の1つまたは複数に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。AAV5キャプシドタンパク質VP1中のこれらの位置は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する。
【0085】
野生型AAV5キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図4(配列番号4)に示す。また、野生型AAV5キャプシドタンパク質の配列は、データベースの受託番号:AF085716からも入手可能である。好ましくは、バリアントAAV5キャプシドタンパク質は、配列番号4に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0086】
野生型AAV5キャプシドタンパク質VP1は、以下の残基を、野生型AAV2(配列番号1)中には存在しないが、上記に開示したバリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)中に存在するアミノ酸残基に対応する位置:G537(t
tAAV2中のG548と整列される);S575(ttAAV2中のS585と整列される);T578(ttAAV2中のT588と整列される)においてすでに含有する。したがって、好ましい実施形態では、バリアントAAV5キャプシドタンパク質が、野生型AAV5キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V124I、K150A、K153S、A195S、R303S、T444M、S479A、V486D、T520Y、P533Dおよび/またはG583Sを含む。典型的には、そのようなバリアントAAV5キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、バリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)と共有し得、例えば、野生型AAV5キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を増加させることができる。
【0087】
代替の実施形態では、バリアントAAV5キャプシドタンパク質は、ttAAV2中に存在する突然変異を野生型AAV2配列に戻す復帰に対応する、1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。例えば、バリアントAAV5キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の以下の置換:G537E、S575Rおよび/またはT578Rを含むことができる。典型的には、そのようなバリアントAAV5キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、野生型AAV2キャプシドタンパク質(配列番号1)と共有し得、例えば、野生型AAV5キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を低下させることができる。
【0088】
バリアントAAV6キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV6キャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV6キャプシドタンパク質は、AAV6キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、313、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。AAV6キャプシドタンパク質VP1中のこれらの位置は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する。
【0089】
野生型AAV6キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図5(配列番号5)に示す。また、野生型AAV6キャプシドタンパク質の配列は、データベースの受託番号:AF028704からも入手可能である。好ましくは、バリアントAAV6キャプシドタンパク質は、配列番号5に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0090】
野生型AAV6キャプシドタンパク質VP1は、以下の残基を、野生型AAV2(配列番号1)中には存在しないが、上記に開示したバリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)中に存在するアミノ酸残基に対応する位置:S205(ttAAV2中のS205と整列される);G549(ttAAV2中のG548と整列される);S586(ttAAV2中のS585と整列される);T589(ttAAV2中のT588と整列される)においてすでに含有する。したがって、好ましい実施形態では、バリアントAAV6キャプシドタンパク質が、野生型AAV6キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、T162S、N313S、N458M、K493A、N500D、F534Y、S547Dおよび/またはG594Sを含む。典型的には、そのようなバリアントAAV6キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、バリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)と共有し得、例えば、野生型AAV6キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を増加させることができる。
【0091】
代替の実施形態では、バリアントAAV6キャプシドタンパク質は、ttAAV2中に存在する突然変異を野生型AAV2配列に戻す復帰に対応する、1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。例えば、バリアントAAV6キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の以下の置換:S205T、G549E、S586Rおよび/またはT589Rを含むことができる。典型的には、そのようなバリアントAAV6キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、野生型AAV2キャプシドタンパク質(配列番号1)と共有し得、例えば、野生型AAV6キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を低下させることができる。
【0092】
バリアントAAV8キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV8キャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質は、AAV8キャプシドタンパク質配列中の125、151、163、206、315、460、495、502、536、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。AAV8キャプシドタンパク質VP1中のこれらの位置は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する。
【0093】
野生型AAV8キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図6(配列番号6)に示す。また、野生型AAV8キャプシドタンパク質の配列は、データベースの受託番号:NC_006261からも入手可能である。好ましくは、バリアントAAV8キャプシドタンパク質は、配列番号6に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0094】
野生型AAV8キャプシドタンパク質VP1は、以下の残基を、野生型AAV2(配列番号1)中には存在しないが、上記に開示したバリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)中に存在するアミノ酸残基に対応する位置:S315(ttAAV2中のS312と整列される);T591(ttAAV2中のT588と整列される)においてすでに含有する。したがって、好ましい実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、K163S、A206S、T460M、T495A、N502D、F536Y、N549D、A551G、Q588Sおよび/またはG596Sを含む。典型的には、そのようなバリアントAAV8キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、バリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)と共有し得、例えば、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を増加させることができる。
【0095】
代替の実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質は、ttAAV2中に存在する突然変異を野生型AAV2配列に戻す復帰に対応する、1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。例えば、バリアントAAV8キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の以下の置換:S315Nおよび/またはT591Rを含むことができる。典型的には、そのようなバリアントAAV8キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、野生型AAV2キャプシドタンパク質(配列番号1)と共有し得、例えば、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を低下させることができる。
【0096】
一実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、AAV8キャプシドタンパク質配列中の315位にアミノ酸置換を含む。例えば、バリアントAAV8キャプシドタンパク質は、残基N315を含むこ
とができる。したがって、一実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質は、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、アミノ酸置換S315Nを含む。
【0097】
バリアントAAV9キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV9キャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV9キャプシドタンパク質は、AAV9キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、314、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。AAV9キャプシドタンパク質VP1中のこれらの位置は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する。
【0098】
野生型AAV9キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図7(配列番号7)に示す。また、野生型AAV9キャプシドタンパク質の配列は、データベースの受託番号:AY530579からも入手可能である。好ましくは、バリアントAAV9キャプシドタンパク質は、配列番号7に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0099】
野生型AAV9キャプシドタンパク質VP1は、以下の残基を、野生型AAV2(配列番号1)中には存在しないが、上記に開示したバリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)中に存在するアミノ酸残基に対応する位置:S162(ttAAV2中のS162と整列される);S205(ttAAV2中のS205と整列される);G549(ttAAV2中のG548と整列される);S586(ttAAV2中のS585と整列される)においてすでに含有する。したがって、好ましい実施形態では、バリアントAAV9キャプシドタンパク質が、野生型AAV9キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:L125I、Q151A、N314S、Q458M、V493A、E500D、F534Y、G547D、A589Tおよび/またはG594Sを含む。典型的には、そのようなバリアントAAV9キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、バリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)と共有し得、例えば、野生型AAV9キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を増加させることができる。
【0100】
代替の実施形態では、バリアントAAV9キャプシドタンパク質は、ttAAV2中に存在する突然変異を野生型AAV2配列に戻す復帰に対応する、1つまたは複数のアミノ酸置換を含む。例えば、バリアントAAV9キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の以下の置換:S162A、S205T、G549Eおよび/またはS586Rを含むことができる。典型的には、そのようなバリアントAAV9キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、野生型AAV2キャプシドタンパク質(配列番号1)と共有し得、例えば、野生型AAV9キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を低下させることができる。
【0101】
バリアントAAV10キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV10キャプシドタンパク質を含む。本明細書で使用する場合、「AAV10」には、AAVrh10が含まれる。この実施形態では、バリアントAAV10(例えば、AAVrh10)キャプシドタンパク質は、AAV10キャプシドタンパク質配列中の125、151、163、206、315、460、495、502、536、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に少なくとも1つのアミノ酸置換を含む。AAV10キャプシドタンパク質VP1中のこれらの位置は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する。
【0102】
野生型AAV10キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図8(配列番号8)に示す。好ましくは、バリアントAAV10キャプシドタンパク質は、配列番号8に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0103】
野生型AAV10キャプシドタンパク質VP1は、以下の残基を、野生型AAV2(配列番号1)中には存在しないが、上記に開示したバリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)中に存在するアミノ酸残基に対応する位置:G551(ttAAV2中のG548と整列される)においてすでに含有する。したがって、好ましい実施形態では、バリアントAAV10キャプシドタンパク質が、野生型AAV10キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、Q151A、K163S、A206S、N315S、T460M、L495A、N502D、F536Y、G549D、Q588S、A591Tおよび/またはG596Sを含む。典型的には、そのようなバリアントAAV10キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、バリアントAAV2キャプシドタンパク質(配列番号2、ttAAV2)と共有し得、例えば、野生型AAV10キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を増加させることができる。
【0104】
代替の実施形態では、バリアントAAV10キャプシドタンパク質が、ttAAV2中に存在する突然変異を野生型AAV2配列に戻す復帰に対応するアミノ酸置換を含む。例えば、バリアントAAV10キャプシドタンパク質は、以下の置換:G551Eを含むことができる。典型的には、そのようなバリアントAAV10キャプシドタンパク質は、1つまたは複数の機能特性を、野生型AAV2キャプシドタンパク質(配列番号1)と共有し得、例えば、野生型AAV10キャプシドタンパク質と比較して、神経細胞組織または網膜組織の感染性および/または形質導入を低下させることができる。
【0105】
バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質は、野生型AAV3Bキャプシドタンパク質と比べて、312位にアミノ酸置換を含むことができる。例えば、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質は、残基N312を含むことができる。したがって、一実施形態では、バリアントAAV8キャプシドタンパク質は、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、アミノ酸置換S312Nを含む。さらなる実施形態では、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する位置に1つまたは複数の追加の突然変異を含むことができる。
【0106】
野生型AAV3Bキャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図38(配列番号11)に示す。また、野生型AAV3Bキャプシドタンパク質配列は、NCBIデータベースの受託番号:AF028705からも入手可能である。好ましくは、バリアントAAV3Bキャプシドタンパク質は、配列番号11に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0107】
バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質
一実施形態では、ベクターが、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質を含む。この実施形態では、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質は、配列番号12の定義に従うAAV-LK03キャプシドタンパク質配列と比べて、312位にアミノ酸置換を含むことができる。例えば、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク
質は、残基N312を含むことができる。したがって、一実施形態では、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質は、配列番号12の定義に従うAAV-LK03キャプシドタンパク質配列と比べて、アミノ酸置換S312Nを含む。さらなる実施形態では、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質は、AAV2に関して上記に開示した位置に対応する位置に1つまたは複数の追加の突然変異を含むことができる。
【0108】
野生型AAV-LK03キャプシドタンパク質VP1の配列は、公知であり、図39(配列番号12)に示す。また、AAV-LK03キャプシドタンパク質配列は、WO2013/029030に、その中では配列番号31として開示されている。好ましくは、バリアントAAV-LK03キャプシドタンパク質は、配列番号12に対して、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を有する。
【0109】
遺伝子産物
一実施形態では、rAAVは、遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸をさらに含む。「遺伝子」は、転写および翻訳された後に特定のタンパク質をコードすることが可能である、少なくとも1つのオープンリーディングフレームを含有するポリヌクレオチドを指す。「遺伝子産物」は、特定の遺伝子の発現の結果得られる分子である。遺伝子産物として、例えば、ポリペプチド、アプタマー、干渉RNA、mRNA等が挙げられる。
【0110】
「異種」は、実体の遺伝子型が比較の対象である、その実体の残りの部分の遺伝子型とは明確に異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子工学的技法により、異なる種に由来するプラスミドまたはベクター内へ導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである。ネイティブのコード配列から取り出されたプロモーターであって、こうしたプロモーターとの連結が天然には見出されないコード配列に作動可能に連結されているプロモーターは、異種プロモーターである。したがって、例えば、異種の遺伝子産物をコードする異種核酸を含むrAAVは、天然に存在する野生型AAV中には通例含まれない核酸を含むrAAVであり、コードされる異種の遺伝子産物は、天然に存在する野生型AAVにより通例コードされない遺伝子産物である。
【0111】
いくつかの実施形態では、遺伝子産物は、干渉RNAである。いくつかの実施形態では、遺伝子産物は、アプタマーである。いくつかの実施形態では、遺伝子産物は、ポリペプチドである。
【0112】
干渉RNA
遺伝子産物が干渉RNA(RNAi)である場合、適切なRNAiには、細胞中のアポトーシス因子または血管新生因子のレベルを減少させるRNAiが含まれる。例えば、RNAiは、細胞中のアポトーシスを誘発または促進する遺伝子産物のレベルを低下させるshRNAまたはsiRNAであり得る。本明細書では、遺伝子産物がアポトーシスを誘発または促進する遺伝子を、「アポトーシス促進性の遺伝子」と呼び、それらの遺伝子の産物(mRNA;タンパク質)を、「アポトーシス促進性の遺伝子産物」と呼ぶ。アポトーシス促進性の遺伝子産物として、例えば、Bax、Bid、BakおよびBad遺伝子産物が挙げられる。例えば、米国特許第7,846,730号を参照されたい。
【0113】
また、干渉RNAは、血管新生性の産物に対するものであってもよく、例えば、VEGF(例えば、Cand5;例えば、米国特許公開第2011/0143400号;米国特許公開第2008/0188437号;およびReichら(2003)Mol.Vis.、9:210を参照されたい)、VEGFR1(例えば、Sirna-027;例えば、Kaiserら(2010)Am.J.Ophthalmol.、150:33;およ
びShenら(2006)Gene Ther.、13:225を参照されたい)、またはVEGFR2(Kouら(2005)Biochem.、44:15064)が挙げられる。また、米国特許第6,649,596号、第6,399,586号、第5,661,135号、第5,639,872号および第5,639,736号;ならびに米国特許第7,947,659号および第7,919,473号も参照されたい。
【0114】
「低分子干渉RNA(small interfering RNAもしくはshort interfering RNA)」、またはsiRNAは、目的の遺伝子(「標的遺伝子」)に向けて放たれるRNA二重鎖のヌクレオチドである。「RNA二重鎖」は、RNA分子の2つの領域の間の相補的な対形成により形成される構造を指す。siRNAの二重鎖の部分のヌクレオチド配列が、標的とする遺伝子のヌクレオチド配列に対して相補性を示すことから、siRNAは、遺伝子に向けて「放たれる」。いくつかの実施形態では、siRNAの二重鎖の長さは、30ヌクレオチド未満である。いくつかの実施形態では、二重鎖は、29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19、18、17、16、15、14、13、12、11または10ヌクレオチド長であり得る。いくつかの実施形態では、二重鎖の長さは、19~25ヌクレオチド長である。siRNAのRNA二重鎖の部分は、ヘアピン構造の一部であり得る。二重鎖の部分に加えて、ヘアピン構造は、二重鎖を形成する2つの配列の間に位置するループ部分を含有することができる。ループの長さは変化し得る。いくつかの実施形態では、ループは、5、6、7、8、9、10、11、12または13ヌクレオチド長である。また、ヘアピン構造は、3’または5’のオーバーハング部分も含有することができる。いくつかの実施形態では、オーバーハングは、0、1、2、3、4または5ヌクレオチド長の3’または5’のオーバーハングである。
【0115】
「低分子ヘアピン型RNA」またはshRNAは、干渉RNA、例として、siRNAを発現するように作製することができるポリヌクレオチド構築物である。
【0116】
アプタマー
遺伝子産物がアプタマーである場合、例示的な、目的のアプタマーとして、血管内皮増殖因子(VEGF)に対するアプタマーが挙げられる。例えば、Ngら(2006)Nat.Rev.Drug Discovery、5:123;およびLeeら(2005)Proc.Natl.Acad.Sci.USA、102:18902を参照されたい。また、PDGFに特異的なアプタマー、例えば、E10030も、使用するのに適している;例えば、NiおよびHui(2009)Ophthalmologica、223:401;ならびにAkiyamaら(2006)J.Cell Physiol.、207:407)を参照されたい。
【0117】
ポリペプチド
一実施形態では、遺伝子産物は、治療用タンパク質である。「治療用」のペプチドまたはタンパク質は、細胞または対象中のタンパク質の不在または不足の結果生じる症状を軽減するまたは低下させることができるペプチドまたはタンパク質である。代わって、「治療用」のペプチドまたはタンパク質は、これ以外の利益、例えば、抗変性効果を対象に付与するものである。
【0118】
遺伝子産物がポリペプチドである場合、ポリペプチドは一般に、細胞、例えば、神経細胞組織、網膜組織または肝臓組織中に存在する細胞、例えば、肝細胞、ニューロン、グリア細胞、桿体光受容器細胞もしくは錐体光受容器細胞、網膜神経節細胞、ミューラー細胞、双極細胞、アマクリン細胞、水平細胞、または網膜色素上皮細胞の機能を増強するポリペプチドである。
【0119】
例示的なポリペプチドとして、神経保護ポリペプチド(例えば、GDNF、CNTF、NT4、NGFおよびNTN);抗血管新生ポリペプチド(例えば、可溶性血管内皮増殖因子(VEGF)受容体;VEGF結合性抗体;VEGF結合性抗体断片(例えば、単鎖抗VEGF抗体);エンドスタチン;タムスタチン;アンジオスタチン;可溶性Fitポリペプチド(Laiら(2005)Mol.Ther.12:659);可溶性Fitポリペプチドを含むFc融合タンパク質(例えば、Pechanら(2009)Gene Ther.16:10を参照されたい);色素上皮由来因子(PEDF);可溶性Tie-2受容体等;メタロプロテイナーゼ-3組織阻害物質(TIMP-3);光応答性オプシン、例えば、ロドプシン;抗アポトーシス性ポリペプチド(例えば、Bcl-2、Bcl-Xl);等が挙げられる。適切なポリペプチドには、これらに限定されないが、グリア由来の神経栄養因子(GDNF);線維芽細胞増殖因子2;ニュールツリン(NTN);毛様体神経栄養因子(CNTF);神経増殖因子(NGF);ニューロトロフィン-4(NT4);脳由来の神経栄養因子(BDNF);上皮増殖因子;ロドプシン;アポトーシスのX連鎖性阻害物質;およびソニックヘッジホッグが含まれる。適切なポリペプチドが、例えば、WO2012/145601に開示されている。
【0120】
遺伝子を肝臓に送達するための例示的なポリペプチドとして、例えば、PBGD(ポルフォビリノーゲンデアミナーゼ)、IDUA(イズロニダーゼ)、Fah(フマリルアセト酢酸ヒドロラーゼ)、A1AT(アルファ(1)-アンチトリプシン)、1A1(hUGT1A1)(ウリジン二リン酸グルクロニルトランスフェラーゼ)、HCCS1(肝細胞癌抑制因子1)、CD(シトシンデアミナーゼ)、SOCS3(サイトカインシグナル伝達抑制因子3)、TNF(腫瘍壊死因子)、チミジンキナーゼ、IL-24(インターロイキン-24)、IL-12(インターロイキン-12)、およびTRAIL(腫瘍壊死因子関連アポトーシス誘発リガンド)が挙げられる。
【0121】
調節配列
いくつかの実施形態では、目的の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を、構成性プロモーターに作動可能に連結する。その他の実施形態では、目的の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を、誘導性プロモーターに作動可能に連結する。場合によっては、目的の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を、組織に特異的または細胞型に特異的な調節エレメントに作動可能に連結する。
【0122】
例えば、場合によっては、目的の遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を、肝細胞に特異的、ニューロンに特異的または光受容器に特異的な調節エレメント(例えば、光受容器に特異的なプロモーター)、例えば、ニューロンまたは光受容器細胞中で作動可能に連結している遺伝子を選択的に発現させる調節エレメントに作動可能に連結する。適切な、光受容器に特異的な調節エレメントとして、例えば、ロドプシンのプロモーター;ロドプシンキナーゼのプロモーター(Youngら(2003)Ophthalmol.Vis.Sci.、44:4076);ベータホスホジエステラーゼ遺伝子のプロモーター(Nicoudら(2007)J.Gene Med.、9:1015);網膜色素変性症遺伝子のプロモーター(Nicoudら(2007)前掲);光受容器間レチノイド結合タンパク質(IRBP)遺伝子のエンハンサー(Nicoudら(2007)前掲);IRBP遺伝子のプロモーター(Yokoyamaら(1992)Exp Eye Res.、55:225)が挙げられる。適切な、神経細胞に特異的なプロモーターとして、とりわけ、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーター、Andersenら、Cell.Mol.Neurobiol.、13:503~15(1993);神経細繊維軽鎖遺伝子のプロモーター、Piccioliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88:561 1~5(1991);およびニューロン特異的vgf遺伝子のプロモーター、Piccioliら、Neuron、15:373~84(1995)が挙げられる。適切な、肝細胞に特異的なプロモーターとして、アルブミンのプロモー
ター(Heardら、Mol Cell Biol、1987;7:2425)、またはアルファ1-アンチトリプシンのプロモーター(Hafenrichterら、Blood、1994;84、3394~404)が挙げられる。
【0123】
「調節エレメント」または「調節配列」は、ポリヌクレオチドの複製、2倍化、転写、スプライシング、翻訳または分解を含めた、ポリヌクレオチドの機能の調節に寄与する、分子の相互作用に関わるヌクレオチド配列である。この調節は、プロセスの頻度、スピードまたは特異性に影響を及ぼすことができ、本質的に増強性または阻害性であり得る。当技術分野で公知の調節エレメントとして、例えば、転写調節配列、例として、プロモーターおよびエンハンサーが挙げられる。プロモーターは、特定の条件下で、RNAポリメラーゼに結合し、プロモーターから下流(3’方向)に通常位置するコード領域の転写を開始することが可能なDNA領域である。
【0124】
「作動可能に連結する(operatively linkedまたはoperably linked)」は、遺伝子エレメントを、それらが予想される様式で作動することができるように関係付けて並置させることを指す。例えば、プロモーターがコード配列の転写の開始を支援するならば、プロモーターは、コード領域に作動可能に連結されている。こうした機能的な関係が保たれる限り、プロモーターとコード領域との間に残基が介在してもよい。
【0125】
用語「プロモーター」は、本明細書で使用する場合、組換え産物をコードするDNA配列に隣接して位置するDNA配列を指すことができる。プロモーターは、好ましくは、隣接するDNA配列に作動可能に連結する。プロモーターは典型的には、DNA配列から発現する組換え産物の量を、プロモーターが存在しない場合に発現する組換え産物の量と比較して、増加させる。1つの生物に由来するプロモーターを利用して、別の生物を起源とするDNA配列からの組換え産物の発現を増強させることができる。例えば、脊椎動物のプロモーターを、脊椎動物中でクラゲGFPを発現させるために使用することができる。さらに、1つのプロモーターエレメントが、並行につなげた複数のDNA配列に発現させる組換え産物の量を増加させることもできる。したがって、1つのプロモーターエレメントが、1つまたは複数の組換え産物の発現を増強させることができる。複数のプロモーターエレメントが、当業者には周知である。
【0126】
用語「エンハンサー」は、本明細書で使用する場合、組換え産物をコードするDNA配列に隣接して位置するDNA配列を指すことができる。エンハンサーエレメントは、典型的には、プロモーターエレメントの上流に位置するか、またはコードDNA配列(例えば、1つもしくは複数の組換え産物に転写もしくは翻訳されるDNA配列)の下流もしくは内部に位置する場合がある。したがって、エンハンサーエレメントは、組換え産物をコードするDNA配列から100塩基対、200塩基対または300塩基対以上上流または下流に位置し得る。エンハンサーエレメントは、DNA配列から発現する組換え産物の量を、プロモーターエレメントがもたらす発現の増加に加えて、さらに増加させることができる。当業者であれば、複数のエンハンサーエレメントを容易に利用することができる。
【0127】
医薬組成物
本開示は、a)上記に記載したrAAVベクター、およびb)薬学的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤または緩衝剤を含む医薬組成物を提供する。いくつかの実施形態では、薬学的に許容できる担体、希釈剤、賦形剤または緩衝剤は、ヒトにおいて使用するのに適切である。
【0128】
そのような賦形剤、担体、希釈剤および緩衝剤は、過度の毒性を示すことなく投与することができる任意の医薬品を含む。薬学的に許容できる賦形剤として、これらに限定され
ないが、液体、例として、水、生理食塩水、グリセロールおよびエタノールが挙げられる。
【0129】
賦形剤中に、薬学的に許容できる塩、例えば、鉱物酸の塩、例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩等;および有機酸の塩、例として、酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩等を含めることができる。さらに、補助物質、例として、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質等も、そのようなビヒクル中に存在し得る。多種多様な薬学的に許容できる賦形剤が、当技術分野で公知であり、本明細書で詳細に論述する必要はない。例えば、A.Gennaro(2000)「Remington:The Science and Practice of Pharmacy」、第20版、Lippincott,Williams,&Wilkins;Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems(1999)H.C.Anselら編、第7版、Lippincott,Williams,&Wilkins;およびHandbook of Pharmaceutical Excipients(2000)A.H.Kibbeら編、第3版、Amer.Pharmaceutical Assoc.を含めた、多様な刊行物に、薬学的に許容できる賦形剤は十分に記載されている。
【0130】
特定の実施形態では、本発明は、上記に記載したrAAVベクターを、薬学的に許容できる担体またはその他の薬用物質、医薬品、担体、アジュバント、希釈剤等中に含む医薬組成物を提供する。注射用では、担体は典型的には液体である。その他の投与方法の場合には、担体は、固体、または液体、例として、無菌の、発熱性物質を含有しない水、もしくは無菌の、発熱性物質を含有しないリン酸緩衝溶液のいずれであってもよい。吸入投与の場合には、担体は、呼吸に適しており、好ましくは、固体または液体の粒子の形態をとる。注射剤の媒体として、注射用液剤のために通常用いる添加剤、例として、安定化剤、塩を含有する水、もしくは生理食塩水、および/または緩衝液を使用するのが好ましい。
【0131】
「薬学的に許容できる」により、生物学的にかつその他の面で望ましい物質を意味し、例えば、そうした物質は、いずれの望ましくない生物学的作用も引き起こすことなく、対象に投与することができる。したがって、そのような医薬組成物は、例えば、ex vivoにおける細胞のトランスフェクションにおいて、またはウイルス粒子もしくは細胞を対象に直接投与する際に使用することができる。
【0132】
遺伝子産物を組織または細胞(例えば、肝臓、神経または網膜の組織または細胞)に送達する方法、および治療方法
本発明の方法は、異種核酸配列を、宿主の組織または分裂細胞および非分裂細胞の両方を含めた細胞内に送達するための手段を提供する。加えて、本発明のベクターおよびその他の試薬、方法ならびに医薬製剤は、治療方法としてまたはそれ以外の目的で、タンパク質またはペプチドを、それを必要とする対象に投与する方法においても有用である。したがって、この様式では、タンパク質またはペプチドを、対象中でin vivoで生成させることができる。対象には、タンパク質もしくはペプチドの欠損があるという理由で、または対象中でのタンパク質もしくはペプチドの生成により、治療方法としてもしくはそれ以外の目的で、何らかの治療効果をもたらすことができるという理由で、対象が、タンパク質またはペプチドを必要とする場合があり、これらについて、下記にさらに説明する。
【0133】
本明細書で使用する場合、用語「治療(treatment)」、「治療する(treating)」等は、所望の薬理学的および/生理学的効果を得ることを指す。効果は、疾患もしくはその症状を完全もしくは部分的に予防するという意味で予防的である場合があり、かつ/または疾患および/もしくはその疾患に起因する有害作用の部分的もしくは
完全な治癒という意味で治療的である場合がある。「治療」は、本明細書で使用する場合、哺乳動物、特に、ヒト中の疾患の治療をいずれも網羅し、(a)疾患を有するとはまだ診断されていないが、疾患の素因がある恐れがあるまたは疾患が発症するリスクがある恐れがある対象中で疾患が発症するのを予防すること、(b)疾患を阻害する、すなわち、その進行を停止させること、および(c)疾患を緩和させる、すなわち、疾患を後退させることを含む。
【0134】
一般に、本発明を利用し、生物学的作用を有する任意の外来核酸を送達して、任意の臓器、組織または細胞中の遺伝子発現に関連する任意の障害と関連がある症状、とりわけ、例えば、肝臓、脳または眼と関連がある症状を治療または改善することができる。例示的な疾患状態として、これらに限定されないが、リソソーム貯蔵疾患、急性間欠性ポルフィリン症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損、アルファ(1)-アンチトリプシン欠損、急性肝不全、ポンペ病、チロシン血症、クリグラー-ナジャー症候群、肝炎、硬変、肝細胞癌、AIDS、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん、ならびにその他の神経学的障害、癌(例えば、脳腫瘍)、網膜変性疾患およびその他の眼疾患が挙げられる。
【0135】
遺伝子移入は、疾患状態について理解し、それに対する療法を提供するのに有用である可能性がかなり高い。欠陥遺伝子が、公知であり、クローニングされているいくつかの遺伝性疾患がある。場合によっては、これらクローニングされている遺伝子の機能が公知である。一般に、上記の疾患状態は、2つのクラスに分類される:一般に劣性に遺伝する、酵素が通常欠損する状態、および優性に遺伝する、調節タンパク質または構造タンパク質が少なくとも一時的に関与する不均衡な状態。欠損状態の疾患の場合、遺伝子移入を使用して、正常遺伝子を罹患組織内に提供し、補充療法を行うこと、および疾患についての動物モデルを、アンチセンス突然変異を使用して作り出すことができると予想される。不均衡な疾患状態の場合、遺伝子移入を使用して、モデル系において疾患状態を作り出すことができ、次いで、これを使用して、疾患状態の是正を試みることができると予想される。したがって、本発明の方法により、遺伝性疾患の治療が可能になる。本明細書で使用する場合、疾患を引き起こすまたは疾患をより重度にする欠損または不均衡を部分的または全体的に矯正することによって、疾患状態を治療する。また、核酸配列の部位に特異的な組込みを使用して、突然変異を引き起こすこと、または欠陥を矯正することも可能である。
【0136】
一態様では、本発明は、遺伝子産物を、対象中の組織または細胞(例えば、肝臓、神経または網膜の組織または細胞)に送達する方法であって、上記に記載したrAAVベクターを対象に投与するステップを含む方法を提供する。遺伝子産物は、例えば、上記に記載した、ポリペプチドもしくは干渉RNA(例えば、shRNA、siRNA等)、またはアプタマーであり得る。細胞は、例えば、血液細胞、幹細胞、骨髄(例えば、造血)細胞、肝細胞、癌性細胞、血管細胞、膵臓細胞、神経細胞、グリア細胞、眼もしくは網膜の細胞、上皮もしくは内皮の細胞、樹状細胞、線維芽細胞、肺細胞、筋肉細胞、心臓細胞、腸細胞、または腎臓細胞である場合がある。同様に、組織も、例えば、血液、骨髄、筋肉組織(例えば、骨格筋、心筋、もしくは血管平滑筋を含めた平滑筋)、中枢もしくは末梢の神経系組織(例えば、脳、神経細胞組織もしくは網膜組織)、膵臓組織、肝臓組織、腎臓組織、肺組織、腸組織、または心臓組織から選択することができる。
【0137】
遺伝子産物を網膜細胞に送達すれば、網膜疾患の治療を行うことができる。網膜細胞は、光受容器、網膜神経節細胞、ミューラー細胞、双極細胞、アマクリン細胞、水平細胞または網膜色素上皮細胞であり得る。場合によっては、網膜細胞は、光受容器細胞、例えば、桿体細胞または錐体細胞である。同様に、遺伝子産物を神経の組織または細胞に送達すれば、神経学的障害の治療も行うことができる。遺伝子産物を、神経細胞組織中に存在する種々の細胞型、例えば、ニューロンまたはグリア細胞(例えば、アストロサイト、オリ
ゴデンドロサイト等)に送達することができる。遺伝子産物を肝臓に送達すれば、肝臓障害の治療を行うことができる。遺伝子産物を、例えば、肝細胞に送達することができる。
【0138】
本開示は、疾患(例えば、肝臓疾患、神経学的疾患または眼疾患)を治療する方法であって、それを必要とする個体に、有効量の上記に記載したrAAVベクターを投与するステップを含む方法を提供する。主題のrAAVベクターを、頭蓋内注射、脳内注射、硝子体内注射、網膜注射、網膜下注射による眼内注射、静脈内注射、または任意のその他の好都合な投与の様式もしくは経路により投与することができる。
【0139】
さらなる例示的な投与の様式として、経口投与、直腸投与、経粘膜投与、局所投与、経皮投与、吸入投与、非経口(例えば、静脈内、皮下、皮内、筋肉内および関節内)投与等、ならびに組織または臓器へ直接注射すること、代わって、くも膜下腔内注射、直接的な筋肉内注射、脳室内注射、静脈内注射、腹腔内注射、鼻腔内注射または眼内注射が挙げられる。注射剤を、従来の剤型に、液状の溶液もしくは懸濁液、注射に先立って溶液となすもしくは液体中に懸濁させるのに適切な固体の剤型、または乳剤のいずれかとして調製することができる。代わって、ウイルスを、全身性ではなく局所性に、例えば、デポーまたは持続放出性に形成して投与することもできる。
【0140】
組換えウイルスベクターは、好ましくは、対象の細胞(例えば、肝臓、神経または網膜の細胞)中での異種核酸配列の感染(または形質導入)および発現をもたらすのに十分な量で、対象に投与する。好ましくは、標的細胞は、肝細胞、(中枢および末梢の神経系の細胞、特に、脳細胞を含めた)神経細胞、または網膜細胞である。場合によっては、網膜細胞は、光受容器細胞(例えば、桿体および/または錐体)である。その他の事例では、網膜細胞は、RGC細胞である。その他の事例では、網膜細胞は、RPE細胞である。その他の事例では、網膜細胞は、アマクリン細胞、双極細胞および水平細胞を含むことができる。
【0141】
好ましくは、ベクターを、治療有効量で投与する。「治療的有効」量は、本明細書で使用する場合、疾患状態と関連がある症状の少なくとも1つを軽減(例えば、緩和、減少、低下)させるのに十分な量である。換言すると、「治療的有効」量は、対象の状態の何らか改善をもたらすのに十分な量である。「治療有効量」は、比較的広い範囲に及び、実験および/または臨床治験により決定することができる。例えば、in vivoにおける注射の場合、治療有効用量はおよそ、約10~約1015個のrAAVウイルス粒子、例えば、約10~1012個のrAAVウイルス粒子である。in vitroにおける形質導入の場合、rAAVウイルス粒子の、細胞に送達するのに有効な量はおよそ、約10~約1013個のrAAVウイルス粒子である。当業者であれば、用量応答曲線を確立する日常的な試行により、その他の有効投与量を容易に確立することができる。
【0142】
いくつかの実施形態では、例えば、毎日、週1回、月1回、年1回等、種々の長さの間隔を置いて、2回以上の投与(例えば、2、3または4回以上の投与)を行って、所望のレベルの遺伝子発現を得ることができる。
【0143】
治療することができる神経学的疾患には、精神病を含めた、脳またはCNSと関連がある任意の疾患が含まれる。脳の疾患は、2つの一般的なカテゴリー:(a)病理学的なプロセス、例として、感染、外傷および新生物、ならびに(b)ミエリンの疾患およびニューロンの変性を含む、神経系に特有の疾患に分類される。いずれのカテゴリーに属する疾患も、治療することができる。例えば、神経学的疾患は、神経変性疾患、例として、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症および小脳変性;統合失調症;てんかん;虚血に関連する疾患および脳卒中;脱髄疾患、例として、多発性硬化症、静脈周囲脳炎、アリールスルファターゼAの欠損に起因する異染色性
白質ジストロフィー、ガラクトセレブロシドベータ-ガラクトシダーゼの欠損に起因するクラッベ病、副腎白質ジストロフィーおよび副腎脊髄ニューロパチー等の白質ジストロフィー;ウイルス感染後疾患、例として、進行性多巣性白質脳症、急性播種性脳脊髄炎、急性壊死性出血性白質脳炎;ミトコンドリア脳筋症;神経学的な癌、例として、神経膠腫、髄膜腫、神経鞘腫、下垂体腺腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、血管腫、類表皮、肉腫を含めた、原発性脳腫瘍、およびその他の腫瘍源からの頭蓋内転移;神経学的感染、または神経学的な炎症性の状態から選択することができる。
【0144】
主題の方法を使用して治療することができる眼疾患として、これらに限定されないが、急性黄斑神経網膜症;ベーチェット病;脈絡膜血管新生;糖尿病性ブドウ膜炎;ヒストプラスマ症;黄斑変性、例として、急性黄斑変性、非滲出型加齢黄斑変性および滲出型加齢黄斑変性;浮腫、例として、黄斑浮腫、嚢胞状黄斑浮腫および糖尿病性黄斑浮腫;多巣性脈絡膜炎;眼の後側の部位または場所に影響を及ぼす眼の外傷;眼腫瘍;網膜障害、例として、網膜中心静脈閉塞、(増殖性糖尿病性網膜症を含めた)糖尿病性網膜症、増殖性硝子体網膜症(PVR)、網膜の動脈閉塞性疾患、網膜剥離、ブドウ膜網膜疾患;交感神経性眼炎;フォークト-小柳-原田(VKH)症候群;ブドウ膜浸出;眼のレーザー治療またはその影響により引き起こされた眼の後側の状態;光線力学的療法またはその影響により引き起こされた眼の後側の状態;光凝固、放射線網膜症;網膜上膜障害;網膜静脈分枝閉塞;前部虚血性視神経症;網膜症以外の糖尿病性網膜機能不全;網膜分離症;網膜色素変性症;緑内障;アッシャー症候群、錐体桿体ジストロフィー;シュタルガルト病(黄色斑眼底);遺伝性黄斑変性;脈絡網膜変性;レーバー先天黒内障;先天性停止夜盲症;脈絡膜欠如;バルデ-ビードル症候群;黄斑毛細血管拡張;レーバー遺伝性視神経萎縮症;未熟児網膜症;ならびに1色覚、1型2色覚、2型2色覚および3型2色覚を含めた、色覚障害が挙げられる。
【0145】
治療することができる肝臓疾患として、例えば、リソソーム貯蔵疾患、例えば、急性間欠性ポルフィリン症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損、ウィルソン病、ムコ多糖症(例えば、I型MPSもしくはVI型MPS)、スライ症候群、ポンペ病、チロシン血症、アルファ(1)-アンチトリプシン欠損、クリグラー-ナジャー症候群;A型肝炎、B型肝炎もしくはC型肝炎;肝硬変;肝臓癌、例えば、肝細胞癌;または急性肝不全が挙げられる。
【0146】
本発明は、獣医学的適用例および医学的適用例の両方において有用である。適切な対象には、鳥類および哺乳動物の両方が含まれるが、哺乳動物が好ましい。用語「鳥類」には、本明細書で使用する場合、これらに限定されないが、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウおよびキジが含まれる。用語「哺乳動物」には、本明細書で使用する場合、これらに限定されないが、ヒト、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギ等が含まれる。ヒト対象が、最も好ましい。ヒト対象には、胎児、新生児、乳児、青少年および成人の対象が含まれる。
【0147】
組織(例えば、肝臓組織、神経細胞組織または網膜組織)の形質導入
いくつかの実施形態では、本明細書に開示するrAAVベクターは、例えば、野生型AAVキャプシドタンパク質を含む、対応する(同じ血清型に由来する)AAVベクターと比較すると、組織(例えば、肝臓組織、神経細胞組織および/または網膜組織)の形質導入の増加を示す。例えば、rAAVベクターは、対応する野生型AAVキャプシドタンパク質を含むAAVウイルス粒子による感染性と比較すると、感染性の少なくとも10%、50%、100%、500%または1000%の増加を示すことができる。
【0148】
さらなる実施形態では、本明細書に開示するrAAVベクターは、組織(例えば、肝臓組織、神経細胞組織または網膜組織)に選択的または特異的に感染することができ、例え
ば、その他の細胞型と比較すると、肝細胞、神経細胞または網膜細胞の形質導入の増加を示す。例えば、rAAVベクターは、別の細胞型(例えば、肝臓以外、神経以外および/または網膜以外の細胞)と比較すると、特定の細胞型(例えば、肝細胞、神経細胞または網膜細胞)の感染性の少なくとも10%、50%、100%、500%または1000%の増加を示すことができる。例えば、rAAVベクターは、肝臓、脳および/または眼以外の細胞と比較すると、肝細胞、ニューロンおよび/または光受容器細胞に選択的に感染することができる。
【0149】
組換えAAVベクターが、神経細胞組織または網膜組織の形質導入の増加を示す場合、例えば、ベクターを使用して、神経学的障害または眼障害を治療するとき、ベクターは、好ましくは、バリアントAAV2キャプシドタンパク質を含む。
【0150】
組換えAAVベクターが、肝臓組織の形質導入の増加を示す場合、例えば、ベクターを使用して、肝臓障害を治療するとき、ベクターは、好ましくは、バリアントAAV3B、バリアントAAV-LK03またはバリアントAAV8のキャプシドタンパク質を含む。
【0151】
核酸および宿主細胞
本開示は、上記に記載したバリアントアデノ随伴ウイルス(AAV)キャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸を提供する。単離核酸を、AAVベクター、例えば、組換えAAVベクター中に含めることができる。
【0152】
そのようなバリアントAAVキャプシドタンパク質コード配列を含む組換えAAVベクターを使用して、組換えAAVウイルス粒子(すなわち、組換えAAVベクター粒子)を生成することができる。したがって、本開示は、適切な細胞中に導入された場合、組換えAAVウイルス粒子の生成を行うことができる組換えAAVベクターを提供する。
【0153】
本発明は、主題の核酸を含む、宿主細胞、例えば、単離(遺伝子改変)宿主細胞をさらに提供する。主題の宿主細胞は、単離細胞、例えば、in vitroで培養した細胞であり得る。下記に記載するように、主題の宿主細胞は、主題のrAAVウイルス粒子を生成するのに有用である。主題の宿主細胞を使用して、主題のrAAVウイルス粒子を生成する場合、この宿主細胞は、「パッケージング細胞」と呼ばれる。いくつかの実施形態では、主題の宿主細胞は、主題の核酸を用いて、安定に遺伝子改変が行われている。その他の実施形態では、主題の宿主細胞は、主題の核酸を用いて、一過性に遺伝子改変が行われている。
【0154】
これらに限定されないが、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、リポソーム媒介型トランスフェクション等を含めた、確立されている技法を使用して、主題の核酸を、宿主細胞内に安定または一過性に導入する。安定な形質転換のために、主題の核酸は一般に、選択マーカー、例えば、いくつかの周知の選択マーカーのいずれか、例として、ネオマイシン抵抗性マーカー等をさらに含む。
【0155】
主題の核酸を多様な細胞のいずれか、例えば、哺乳動物細胞内に導入することによって、主題の宿主細胞を生成する;哺乳動物細胞として、例えば、マウス細胞および霊長類細胞(例えば、ヒト細胞)が挙げられる。適切な哺乳動物細胞には、これらに限定されないが、初代細胞および細胞株が含まれ、適切な細胞株として、これらに限定されないが、293細胞、COS細胞、HeLa細胞、ベロ細胞、3T3マウス線維芽細胞、C3H10T1/2線維芽細胞、CHO細胞等が挙げられる。適切な宿主細胞の非限定的な例として、例えば、HeLa細胞(例えば、American Type Culture Collection(ATCC)番号:CCL-2)、CHO細胞(例えば、ATCC番号:CRL9618、CCL61、CRL9096)、293細胞(例えば、ATCC番号
:CRL-1573)、ベロ細胞、NIH3T3細胞(例えば、ATCC番号:CRL-1658)、Huh-7細胞、BHK細胞(例えば、ATCC番号:CCL10)、PC12細胞(ATCC番号:CRL1721)、COS細胞、COS-7細胞(ATCC番号:CRL1651)、RATI細胞、マウスL細胞(ATCC番号:CCLI.3)、ヒト胚性腎臓(HEK)細胞(ATCC番号:CRL1573)、HLHepG2細胞等が挙げられる。また、バキュロウイルスを使用して、AAVを生成する昆虫細胞、例として、Sf9細胞に感染させて、主題の宿主細胞を作製することもできる(例えば、米国特許第7,271,002号;米国特許出願12/297,958を参照されたい)。
【0156】
いくつかの実施形態では、主題の遺伝子改変宿主細胞は、上記に記載した、バリアントAAVキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸に加えて、1つまたは複数のAAV repタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む核酸も含む。その他の実施形態では、主題の宿主細胞は、rAAVベクターをさらに含む。主題の宿主細胞を使用して、rAAVウイルス粒子を生成することができる。rAAVウイルス粒子を生成する方法は、例えば、米国特許公開第2005/0053922号、および米国特許公開第2009/0202490号に記載されている。
【0157】
本明細書で使用する場合、「パッケージング」は、AAV粒子の集合およびキャプシド化が生じる一連の細胞内事象を指す。AAV「rep」遺伝子およびAAV「cap」遺伝子は、アデノ随伴ウイルスの複製タンパク質およびキャプシド形成タンパク質をコードするポリヌクレオチド配列を指す。本明細書では、AAV repおよびAAV capを、AAVの「パッケージング遺伝子」と呼ぶ。集合関連タンパク質(AAP)は、cap遺伝子内のオープンリーディングフレームの産物であり、また、パッケージングに必要な場合もある。
【0158】
AAVのための「ヘルパーウイルス」は、AAV(例えば、野生型AAV)が、哺乳動物細胞により複製およびパッケージングされるのを可能にするウイルスを指す。多様な、AAVのためのそのようなヘルパーウイルスが、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、およびワクシニア等のポックスウイルスを含めて、当技術分野で公知である。アデノウイルスは、いくつかの異なるサブグループを包含するが、サブグループCのアデノウイルス5型が、最も一般的に使用されている。ヒト、非ヒト哺乳動物および鳥類を起源とする多数のアデノウイルスが、公知であり、ATCC等の受託機関から入手可能である。ヘルペスの科のウイルスとして、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)およびエプスタイン-バーウイルス(EBV)、ならびにサイトメガロウイルス(CMV)および仮性狂犬病ウイルス(PRV)が挙げられ、これらもまた、ATCC等の受託機関から入手可能である。
【0159】
「ヘルパーウイルスの機能」は、(本明細書に記載する複製およびパッケージングに必要なその他の機能と共同して)AAVの複製およびパッケージングを可能にする、ヘルパーウイルスのゲノム中にコードされている機能を指す。本明細書に記載するように、ヘルパーウイルスを提供すること、または例えば、必要な機能をコードするポリヌクレオチド配列をプロデューサー細胞にトランスに提供することを含めて、いくつかの方法で、「ヘルパーウイルスの機能」を提供することができる。例えば、1つまたは複数のアデノウイルスのタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドまたはその他の発現ベクターを、プロデューサー細胞内に、rAAVベクターと共にトランスフェクトする。
【0160】
「感染性」のウイルスまたはウイルス粒子は、能力を有するように集合させたウイルスキャプシドを含み、ある細胞内へのポリヌクレオチド構成成分の送達が可能であるウイルスまたはウイルス粒子であり、この細胞に対して、そのウイルスの種は指向性がある。この用語は、ウイルスの何らかの複製能力を必ずしも暗示しない。感染性ウイルス粒子を計
数するためのアッセイが、本開示の他の箇所に記載されており、当技術分野にも記載されている。ウイルスの感染性を、全ウイルス粒子に対する感染性ウイルス粒子の比として表すことができる。全ウイルス粒子に対する感染性ウイルス粒子の比を決定する方法は、当技術分野で公知である。例えば、Graingerら(2005)Mol.Ther.、11:S337(TCID50の感染性タイターのアッセイの記載);およびZolotukhinら(1999)Gene Ther.、6:973を参照されたい。
【0161】
「複製可能な」ウイルス(例えば、複製可能なAAV)は、感染性であり、また、感染細胞中(すなわち、ヘルパーウイルスまたはヘルパーウイルスの機能の存在下)で複製されることも可能である、表現型が野生型のウイルスを指す。AAVの場合、複製能には一般に、機能性の、AAVのパッケージング遺伝子の存在が必要である。一般に、本明細書に記載するrAAVベクターは、1つまたは複数のAAVパッケージング遺伝子の欠如に起因して、哺乳動物細胞(とりわけ、ヒト細胞)中では複製可能ではない。典型的には、AAVのパッケージング遺伝子と侵入するrAAVベクターとの組換えにより、複製可能なAAVが生成される可能性を最小限に留めるために、そのようなrAAVベクターは、いずれかのAAVパッケージング遺伝子配列を欠く。多くの実施形態では、本明細書に記載するrAAVベクター調製物は、いずれかの複製可能なAAV(rcAAV、また、RCAとも呼ぶ)を含有するにしても、わずかしか含有しない調製物である(例えば、10個のrAAV粒子当たり約1個未満のrcAAV、10個のrAAV粒子当たり約1個未満のrcAAV、10個のrAAV粒子当たり約1個未満のrcAAV、1012個のrAAV粒子当たり約1個未満のrcAAV、またはrcAAVを含有しない)。
【0162】
「単離された」核酸、ベクター、ウイルス、ウイルス粒子、宿主細胞またはその他の物質は、物質の調製物であって、その物質または類似の物質が天然に存在するかまたは最初に調製されたときにも存在する可能性があるその他の成分の少なくとも一部を除いた物質の調製物を指す。したがって、例えば、精製の技法を使用して、供給源の混合物から物質を濃縮することによって、単離物質を調製することができる。濃縮は、溶液の容量当たりの重量等の絶対値として測定してもよく、または第2の、供給源の混合物中に存在する干渉する可能性がある物質に対する相対値として測定してもよい。本開示の実施形態の濃縮の程度の増加により、単離の程度がますます高まる。単離された核酸、ベクター、ウイルス、宿主細胞またはその他の物質を、いくつかの実施形態では、例えば、約80%~約90%の純度、少なくとも約90%の純度、少なくとも約95%の純度、少なくとも約98%の純度、または少なくとも約99%以上の純度で精製する。
【0163】
別段の定義がない限り、本明細書で使用する全ての科学技術用語は、本発明が属する技術に関わる当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本明細書に記載するものに類似するまたはそれらと均等である任意の方法および材料もまた、本発明の実行または試験において使用することができるが、好ましい方法および物質が、ここに記載されている。方法および/または材料を開示し、記載するために、本明細書で言及する全ての刊行物が、参照により本明細書に組み込まれており、そうした方法および/または材料と関連する刊行物が引用されている。
【0164】
明示するために、別個の実施形態の文脈で記載されている本発明の特定の特徴はまた、組み合わせて、単一の実施形態としても提供することができることが理解される。反対に、簡潔に記載するために、単一の実施形態の文脈で記載されている本発明の種々の特徴もまた、別個にまたはそれらの一部を任意に適切に組み合わせて提供することができる。本発明に関する実施形態の全ての組合せが、本発明により具体的に包含され、あたかもありとあらゆる組合せが個々かつ明確に開示されているかのごとく、本明細書に開示されている。さらに、種々の実施形態およびそれらの要素の部分的な組合せの全てもまた、本発明により具体的に包含され、あたかもありとあらゆるそのような部分的な組合せが個々かつ
明確に本明細書に開示されているかのごとく、本明細書に開示されている。
【0165】
以下の実施例を提供して、本発明の特定の実施形態を例証する。いかなる場合であっても、実施例には本発明を制限する意図はない。
【実施例
【0166】
(実施例1)
本実施例では、発明者らは、(真性型という意味で)ttAAV2と名付けた、新規のAAV2ベクターを設計し、構築した。さらに、ttAAV2が、組織培養適応(野生型)AAV2と比較して、異なる挙動を示すかどうかを評価するために、新規のベクターを、いくつかの動物(ラット、マウスおよび新生仔マウス)モデル中で試験した。ttAAV2は、遺伝子送達について、AAV2を上回る利点を有し、脳組織または眼組織の、異種配列によるin vivo形質導入に特に有用であることを、発明者らは実証した。
【0167】
方法
1.クローニング
wtAAV2のキャプシド遺伝子を、我々のプロデューサープラスミドpDGから得た(図10)。このプラスミドは、wtAAV2のrep遺伝子およびcap遺伝子を含有する。キャプシド遺伝子のサブ断片(それぞれ、pDGヌクレオチドA:3257~3759、B:4025~4555、C:4797~5287およびD:5149~5425)を、pBS内にサブクローニングし、続いて、突然変異誘発を行った。4つの突然変異を、部位特異的変異誘発により、断片A内に導入し、その結果、アミノ酸(AA)変化:V125I、V151A、A162SおよびT205Sをコードする構築物を得た。断片Bを、単一のAA変化:N312Sをコードするように突然変異させた。断片Cを、AA交換:Q457M、S492A、E499D、F533Y、G546D、E548G、R585S、R588TおよびA593Sをコードするように突然変異させた。良好な突然変異誘発を確認して、断片A~Cを、pDG内に再クローニングし、その結果、ttAAV2キャプシドで包まれる組換えウイルスの生成を支援するプロデューサープラスミド(pDG-ttAAV2)を得た。
【0168】
2.ttAAV2-GFPウイルスベクターの生成、精製およびタイターの決定
ベクターの生成を、rAAVプラスミドのpDGとのコトランスフェクションを利用する標準的なプロトコールに従って確立した;pDGにより、Adのヘルパー機能ならびにAAVのrep遺伝子およびcap遺伝子の両方が提供される。多様なrAAVプラスミドを使用して、組換えプラスミドを生成した。
【0169】
pTR-UF11(CAG-GFP)を、rAAVプラスミドとして使用した。1つのセルファクトリー(CF10)当たり、8×10個の293細胞を播種した。14~18時間後、細胞を、pDGまたはpDG-rrAAV2、およびprAAV(例えば、pTR-UF11)で、CaPO共沈殿法を使用してトランスフェクトした。72時間後、細胞を、収集し、溶解用緩衝液(20mMのTris-HCl、pH8、150mMのNaCl、0.5%のデオキシコール酸)中に再懸濁した。細胞のペレットを、4サイクルの凍結および解凍により溶解させて、ウイルスを放出させ、各サイクルが、-80℃の30分間、それに続く、37℃の30分間からなった。最後の解凍の後、溶解液を、ベンゾナーゼを50U/mlの濃度で用いて処理し、37℃で30分間インキュベートした。組換えウイルスを、自然落下式カラムを使用して精製した。
【0170】
精製。最初のステップとして、未精製の溶解液を、4000gにおける15分間の遠心分離により清澄化し、これに、あらかじめ形成したイオジキサノールの段階的勾配を適用した。次いで、ウイルス画分を、収集し、乳酸リンゲル液中で再緩衝し、Amicon遠
心分離用フィルターを使用して濃縮した。
【0171】
続いて、SDSポリアクリルアミド電気泳動により、ウイルス調製物の純度を評価し、リアルタイムPCR法を使用して、タイターを決定した。未精製の抽出物は、4.5×1012個の粒子を含有し、収集したウイルス画分は、1.5×1012個の粒子を含有した。この時点で、この精製方法により、未精製の抽出物中に存在するウイルスの約33%を回収した。
【0172】
3.rAAVベクターの生成および精製(代替方法)
上記の2の時点における代替の実施形態では、rAAV2ベクターを、以下に従って生成する。rAAV2ウイルス粒子を生成するために、1つのセルファクトリー(CF10)当たり、5×10個の293T細胞を播種した。14~18時間後、細胞を、GFP含有ベクターPD10-pST2-CMV-GFP、およびpDGまたはpDGキャプシド突然変異体(pDG-ttAAV2)のいずれかで二重にトランスフェクトして、それぞれ、AAV2-CMV-GFPの野生型または真性型のベクターを生成した。二重のトランスフェクションは、Polysciences製のPEI-maxを1mgのDNA当たり3.5mlのPEIの比で使用して実現した。72時間の37℃におけるインキュベーションの後に、培地および細胞を4℃において2200rpmで10分間遠心分離することによって、細胞を収集した。上清を、取り出し、さらなる処理のために残し、細胞のペレットを、溶解用緩衝液(0.15MのNaCl、50mMのトリス-HCl[pH8.8])中に再懸濁した。
【0173】
次いで、細胞のペレットを、4サイクルの凍結および解凍により溶解させて、ウイルスを放出させ、各サイクルが、-80℃の30分間、それに続く、37℃の30分間からなった。最後の解凍の後、溶解液を、ベンゾナーゼを150U/mlの濃度で用いて処理し、37°で30分間インキュベートした。次いで、溶解液を2000rpmで20分間スピンして、溶解液を清澄化した。上清を、0.22μmのセルロースアセテート製フィルターを使用してろ過し、組換えAAV2ウイルス調製物を、AKTApurifierクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare)およびAVBセファロース親和性カラム(bfr.A:PBS、pH8;bfr B:0.5Mのグリシン、pH2.7)を使用するFPLCにより精製した。収集した画分を、PBSに対して一晩透析し、次いで、ウイルス調製物のタイターを、SDSポリアクリルアミド電気泳動およびリアルタイムPCR法により決定した。
【0174】
結果
ttAAV2のin vivoにおける形質導入および伝播
ttAAV2ベクターを、in vivoにおいて、そのような状況における改変ウイルスの生理活性を評価するために試験した。いくつかのin vivoモデル内への注射のために、AAV2-CMV-GFP WTウイルスおよびAAV2-CMV-GFP TTウイルスの試料を調製した。このためには、in vivoではベクターのわずかな容量しか注射することができないので、ウイルスを濃縮した。次いで、qPCRおよびSDS-PAGEを行って、濃縮したベクターの新たなタイターを評価した(図11)。
【0175】
qPCRおよびタンパク質ゲル分析の後、以下の新たなタイター:AAV2-CMV-GFP TT:1.33×1012個のウイルスゲノム/ml、およびAAV2-CMV-GFP WT:1.25×1012個のウイルスゲノム/mlを得た。キャプシドのタイターは、以下の通りであった:AAV2-CMV-GFP TT:8.89×1012個のキャプシド/ml、およびAAV2-CMV-GFP WT:7.83×1012個のキャプシド/ml。タイターは、ゲノムのコピー数とキャプシドのコピー数の間で異なり、また同時に、SDS-PAGEからは、組換えAAVベクターを生成する間に通例生
成する、空のキャプシドがあることも示され、したがって、キャプシドのタイターは、qPCRから得られるウイルスゲノムのタイターよりも高い。
【0176】
ラット脳中への形質導入
rAAV2のTTウイルスおよびWTウイルスを、野生型ラットの黒質または線条体中に注射し、1つの条件当たり、3匹のラットに、1回の注射当たり、2×10vgまたは3.5×10vgの用量で注射した。28日後に、脳を解体し、組織切片を調製して、免疫蛍光法による分析を行った。一次データを、図12および図26に示す。
【0177】
rAAV2のTTウイルスおよびWTウイルスの両方により、効率は異なるが、それぞれの注射部位から、神経細胞およびグリア細胞に形質導入することが可能であった。比較すると、TTベクターは、WTベクターよりも、脳組織に効率的に形質導入し、注射部位からの伝播が向上していることが観察された。さらに、rAAV2TTの線条体への注射の後に、視床下部の1つの領域である束傍核中に形質導入ニューロンが存在することも観察された。このことは、TTベクターが、注射部位で形質導入された細胞体から、能動輸送により、ニューロンの突起に沿って視床下部へ移動することが可能であったことを示しており、逆行輸送についての強力な能力が明らかになった。この逆行輸送の能力は、組織培養適応WT rAAV2ベクターにおいては失われている;その理由は、形質導入細胞を、同じ領域中に観察することができなかったからである(図26を参照されたい)。
【0178】
総合すると、ラット脳中では、これらの結果は、タイターを一致させたwtAAV2と比較して、ttAAV2による伝播および形質導入効率が顕著に増加したことを示している。さらに、AAV2TTは、非常に良好な逆行輸送の能力についての証拠も提示しており、この能力は、AAV2WTウイルス中では失われている。
【0179】
マウス眼モデル中への形質導入
ラット脳試験のために使用したのと同じバッチから得られたttAAV2およびwt-AAV2を、成体マウスの眼内に、1眼当たり2×10vgの用量で注射した。動物間の変動を回避するために、各マウスの一方の眼には、rAAV2TTを注射し、反対側の眼には、rAAV2WTを注射した。眼内注射の3つの異なる経路:前房内、硝子体内および網膜下を分析した。6週間後に、動物を収集し、GFPの発現を免疫蛍光法により評価した。結果を図13に示す。総合すると、これらのデータは、(良好なRPE65臨床治験において使用された)wtAAV2と比較する場合、網膜下注射の後のttAAV2による光受容器細胞の形質導入が、形質導入された光受容器細胞のレベルおよび数の両方に関して著しく増強されることを示している。
【0180】
新生仔マウスモデル中への形質導入
要約すると、ttAAV2GFPベクターおよびwtAAV2GFPベクターの両方を、マウス新生仔中に注射した。2つの注射経路:静脈内注射および頭蓋内注射を試験した。4週間後、動物を屠殺し、全てのマウスから全ての組織を収集した。脳を、収集してから、蛍光顕微鏡上での臓器の直接的な蛍光により可視化して、脳を分析した。結果を図14に示す。下記に、頭蓋内注射および全身注射の結果を、より詳細に論述する。
【0181】
頭蓋内注射
いずれかのベクターの5×1010vgを、P1新生仔の側脳室中に注射した。注射の4週間後に、動物を屠殺し、脳を、解体し、切片化し、抗GFP抗体を使用して染色した。結果を図27に示す。
【0182】
成体ラット脳において観察されたのと同様に、これらのデータは、AAV2TTが、頭蓋内注射の後に、AAV2WTベクターと比較して、マウス脳組織の形質導入の増強およ
びより高い伝播を示すことを示している。染色切片をより高い倍率で観察すると、両方のベクターの間の形質導入効率の差がさらに明らかになった:TTベクターは、形質導入された細胞の数および発現レベルの両方に関してより良好に機能した。AAV2TTおよびAAV2WTは、それぞれが神経細胞およびグリア細胞の形質導入を示し、同じ細胞型親和性を有するようであり、このことは、観察された差が、細胞型特異性の差ではなく、効率の差であることを示唆している(図28)。総合すると、これらのデータは、ttAAV2が、i.c.注射の後に、wtAAV2に基づくベクターと比較して、マウス脳組織の形質導入の大幅な増強を示すことを示している。さらに、いくつかの証拠から、ttAAV2ベクターを使用する場合には、脳室の壁を構成する脳室上皮細胞の層の形質導入が生じることも示唆されている。この現象は、wtAAV2ベクターでは認められない。
【0183】
全身注射
いずれかのベクターの2×1011vgを、P1新生仔中の頚静脈内に注射した。注射の4週間後に、動物を屠殺し、種々の臓器(脳、肝臓、心臓、筋肉、肺、脾臓および腎臓)を、収集し、GFPの形質導入について、抗GFP抗体を使用する免疫組織化学的検査により評価した。脳の染色の結果を図29に示し、高倍率の写真を図30に示す。
【0184】
AAV2TTの全身注射の後のCNS中の良好な導入遺伝子の発現が観察された。AAV2WTベクターは、比較すると、わずか数個の形質導入ニューロンが観察されたに過ぎず、その機能は劣っていた。
【0185】
AAV2TTベクターの全体的な体内分布を評価するために、全身注射の後に種々の組織中で得られた形質導入のレベルを評価した。収集した臓器を、固定し、パラフィン包埋し、切片化し、GFPの発現について染色した(図31)。
【0186】
これらのデータは、AAV-TTベクターが、その他の臓器に対しては強力な親和性を有さないようであるが、代わりに、主として神経細胞組織に対しては特異性を示すことを示している。この観察結果から、AAVの静脈内注射が神経細胞の遺伝学的障害の治療に有益であることが証明され得ると予想される。というのは、ベクターが、この注射経路を介して、非標的末梢臓器ではなく、主として脳のみに形質導入をもたらすことが確保されるからである。
【0187】
総合すると、我々のin vivoにおけるデータからは、ttAAV2が、眼組織および脳組織中では並外れた形質導入特性を有し、ほとんどもっぱら神経細胞組織に対して特異性を示すことが示唆される。
【0188】
(実施例2)
追加の検討事項
理論により拘束されるわけではないが、ttAAV2中に存在する突然変異は、wtAAV2と比較して、以下の機能別の群を含むと考えられる:
1)AAV2キャプシドの3回フォールドされたスパイク上に位置するヘパリン結合性の残基(S585およびT588);これらの残基は、wtAAV2キャプシドのヘパリン結合に関与すると考えられる。ttAAV2中では、これらが交換されており、この交換により、ヘパラン硫酸プロテオグリカンに富む脳組織中のウイルスの伝播が支援されることが推測される。
2)キャプシドの内側上に位置するttAAV2中の単一のアミノ酸変化(S312);この内部セリン残基は、キャプシド-DNA間の相互作用において役割を果たす場合があり、それにより、ウイルスの安定性、ゲノムのパッケージングまたは感染時のゲノムの放出のいずれかに寄与する可能性があると予想される。
3)AAVキャプシド構造上の3回フォールドされた近接するスパイクの間の溝中に位置
する2つの空間的に近いアミノ酸(D546およびG548);これらの残基は、抗体を中和する相互作用に関与し、したがって、in vivoにおける形質導入特性に寄与する場合があると予想される。
4)3回フォールドされた近接するスパイクの間の溝中に位置する単一の孤立したアミノ酸変化(S593);
5)受容体結合に関与すると考えられ、3回フォールドされたスパイク上で密接な位置関係にある4つのアミノ酸(M457、A492、D499およびY533);
6)VP1/VP2の一次配列中に存在する4つの残りのアミノ酸変化(I125、A151、S162およびS205);これらの残基は、VP3の一部ではないキャプシド領域の内部にある。ウイルスのキャプシドの内部の、VP1/VP2に特異的な領域は、侵入するウイルスの輸送に関与する場合があると予想されるPLA2活性を含有することが公知である。この領域の変化が、ウイルスの感染性に影響を及ぼすことが示されている。
【0189】
AAV2キャプシドタンパク質中のこれらの突然変異の三次元の位置は、公知であり、図15~20に示す。対応する位置を、その他の血清型に由来するAAVキャプシドタンパク質中で同定することができる(下記を参照されたい)。ttAAV2、および改善されたttAAV2の表現型に関与する個々のアミノ酸変化の役割をさらに特徴付ける目的で、個々の選ばれたアミノ酸(または、例えば、上記で論述した1~6の群に基づく一連のアミノ酸)を、野生型AAV2キャプシド中のそれらの対応する配列に逆戻りさせるために、ttAAV2キャプシドを突然変異させることができる。次いで、それぞれの突然変異ベクターを、上記の実施例に記載した方法を使用して分析することができる。
【0190】
例えば、GFPを発現する、種々の突然変異したベクターを、動物モデル中での、CD1新生仔マウス中への頭蓋内(IC)注射による第1のスクリーニングに供することができる。次いで、注射した脳中の、それぞれの突然変異ベクターから得られるGFPのシグナルを、蛍光顕微鏡法により観察し、GFPを発現する元々のwtAAV2ベクターおよびttAAV2ベクターから得られるシグナルと比較する。新たな表現型(すなわち、ttAAV2に特異的な、強力なGFPの発現の、特定のアミノ酸の基を突然変異させた場合の無効化)を同定したら、次いでさらに、注射した脳を切片化し、免疫組織化学的検査により分析する。
【0191】
平行して、これらの選択した突然変異ベクターを、成体ラットの頭蓋内注射による第2のスクリーニングに供する。加えて、ベクターの体内分布を評価するために、関連の突然変異の組合せも、新生仔マウス内への静脈内(IV)注射により分析する。次いで、選択された臓器(心臓、肺、肝臓、脾臓、腎臓、筋肉)を処理して、免疫組織化学的検査およびGFPの発現の評価を行う。
【0192】
TTに特異的なそれぞれの残基の、ベクターの効率および体内分布に対する寄与の分析
AAV2TTをさらに特徴付け、改善されたTTの表現型に関与するアミノ酸変化を特定する目的で、選ばれたアミノ酸を、野生型AAV2キャプシド中のそれらの対応する配列に逆戻りさせるために、AAV2TTキャプシドを、段階的に突然変異させた。この戦略により、我々は、14個のアミノ酸の突然変異のそれぞれの、AAV2TTの表現型に対する寄与をより具体的に識別し、必要な突然変異のみを含有する最低限の真性型ベクターを定義することができた。
【0193】
上記で論述したように、TTに特異的な14個の残基を、AAVキャプシド上のそれらの位置と、形質導入プロファイルに関連してそれらが寄与する可能性とに基づき群に分けた。TTに特異的ないくつかの残基の、WT等価物への復帰が表現型の喪失と関連があるかどうかを観察し、それにより、TTの14個の残基のうちの重要なアミノ酸変化を同定するために、新生仔マウス脳または成体ラット脳中への頭蓋内注射により、種々のAAV
-TTの突然変異をスクリーニングした。
【0194】
ヘパリン結合性部位(HBS)
残基:585および588は、AAV2WTキャプシドのヘパリン結合に関与することが示されている。AAV-TT中では、これらが交換されており、この交換により、ヘパラン硫酸プロテオグリカンに富む脳組織中のウイルスの伝播が支援されることが推測された。これら2つの残基は、AAV2キャプシド構造の3回フォールドされた近接するスパイク上に存在する(図16を参照されたい)。
【0195】
WTキャプシド上にR585SおよびR588Tの変化を工学的に作製すること(AAV2-HBnull)、すなわち、残基を突然変異させて、真性型等価物を得ることによって、AAV2WTのヘパリン結合能力を無効にした。AAV-TTは単に、ヘパリン結合性部位を有さない、より広く伝播することが可能であるAAV2ではなく、しかし、その他の12個のアミノ酸変化のいくつかもまた、AAV-TTの形質導入プロファイルの改善において役割を果たすことを確認するために、この第1の分析を実施した。
【0196】
成体ラット中への頭蓋内注射
タイターをマッチさせたAAV2-TTベクター、AAV2-WTベクターおよびAAV2-HBnullベクターを、野生型ラットの黒質または線条体中に、1回の注射当たり3.5×10vgの用量で注射した。28日後に、脳を解体し、組織切片を調製して、GFPの発現の免疫組織化学的検査による分析を行った(図32)。
【0197】
AAV-TTウイルスの線条体への注射の後に、視床および黒質中の強力なGFPの発現が観察され、ベクターの強力な逆行輸送の能力が明らかになった。一方、AAV2-HBnullおよびAAV2WTは、AAV-TTよりも、存在するにしても、はるかに低い逆行輸送を示した;というのは、線条体への注射の後、これらの領域中では、非常にわずかな細胞体にしか形質導入が生じなかったからである。この観察結果から、AAV2-HBnullはAAV-TTとは異なること、およびAAV2キャプシド上にヘパリン結合能力が存在しないことによって脳中での真性型ベクターの良好な伝播がもたらされることが示された。しかし、このことは、AAV-TTの改善された形質導入プロファイルを説明するには十分でない。
【0198】
残基:S312、D546-G548、およびS593
S312残基は、TTに特異的な変化であり、この変化だけが、AAV2キャプシドの内側上に位置する。この内部残基は、キャプシド-DNA間の相互作用において役割を果たす場合があり、それにより、ウイルスの安定性、ゲノムのパッケージングまたは感染時のゲノムの放出のいずれかに寄与する可能性があると予想されることが想定された。
【0199】
546および548位におけるD残基およびG残基はそれぞれ、近接する3回フォールドされたピークの間の溝中に位置する。
【0200】
単一の孤立したセリンであるS593は、3回フォールドされた近接するスパイクの間の溝中に存在する。
【0201】
これらTTに特異的な残基の、AAV2キャプシドの三次元構造上の位置を、図17~19に示す。我々は、これらの残基の位置の構造中の突出度があまり高くないことを考慮して、これらの残基は、ttAAV2の形質導入の表現型に寄与し得ないと仮定した。
【0202】
新生仔マウスの頭蓋内注射
突然変異S312Nを、AAV2-TTキャプシドに工学的に作製して、TT-S31
2N突然変異体を作り出した。突然変異D546GおよびG548Eを、AAV2-TTキャプシドに工学的に作製して、AAV-TT-DG突然変異体を生成した。突然変異S593Aを、AAV2-TTキャプシドに工学的に作製して、AAV-TT-S593A突然変異体を作り出した。
【0203】
これらの選ばれたTTアミノ酸を、野生型AAV2キャプシド中のそれらの対応する配列に復帰させることによって、これらの残基の、改善されたAAV-TTの表現型に対する寄与を決定することを狙った。
【0204】
それぞれの突然変異ベクターの5×1010vgを、P1新生仔の側脳室中に注射した。注射の4週間後に、動物を屠殺し、脳を、解体し、切片化し、抗GFP抗体を使用して染色した。結果を図33に示す。
【0205】
興味深いことに、これらのデータは、AAV TT-S312Nが、完全なAAV2TTベクターと比較して、マウス脳組織の形質導入の増強を示すことを示唆している。他方、アミノ酸変化S593AおよびD546E/G548Dは、TTの表現型に影響を及ぼさないようであった;というのは、類似の形質導入プロファイルを、脳全体を通して観察し得たからである。染色切片をより高い倍率で観察すると、形質導入効率の差が、さらに明らかになった(図34)。
【0206】
高倍率の写真からは、AAV TT-S312が、14個のアミノ酸変化を有する元々のAAV-TTよりも高い効率で、神経細胞組織に形質導入するようであることを観察することができた。特に、TT-S312Nベクターの注射の後に、脳の頭側(皮質、線条体、海馬)において、形質導入された細胞のレベルおよび数の両方に関して、より強力な、導入遺伝子の発現を認めることができた。この注射部位が標的であることに関連する困難に起因して、注射した新生仔脳に高い変動性が生じるにもかかわらず、この観察結果は、分析した動物の全てにおいて確認された。他方、復帰させたS593AおよびD546E/G548Dの、TTベクターによる形質導入の表現型に及ぼす影響は多くはないようであった。
【0207】
(実施例3)
実施例2の突然変異の組合せを用いて得られた結果から選択される、AAV2真性型キャプシド上におけるアミノ酸突然変異の標的
我々は、完全なAAV TTキャプシド上のアミノ酸の基の突然変異から得られた結果に基づいて、突然変異S312Nが、TTの表現型にとって有益であり、脳中へのその形質導入効率をさらに増加させるようであると決定することができた。さらに、復帰させたS593AおよびD546G/G548Eが、神経細胞のAAV-TTの表現型には影響を及ぼさないようであることも観察された。したがって、我々は、TTに特異的な残基:S593、D546およびG548を真性型キャプシド配列から排除し、代わりに、これらの位置におけるAAV2WTの残基を残して、10個のアミノ酸変化のみを有する最終的なTTベクターを得ることができると仮定した。
【0208】
これらの仮定を確認するために、TT-S312N-D546G-G548D-S593Aベクターを工学的に作製し、その形質導入効率を、新生仔マウス脳への注射により試験した。最後に行った新生仔頭蓋内注射は、GFP発現の検出シグナルを飽和させてしまうようであったことから、我々はまた、この「最終決定前の」TTと平行して、TTベクターおよびTT-S312Nベクターも、前回使用した用量の1/10の用量を使用して注射することを決めた。このより低い用量を使用することによって、形質導入された脳中のGFPの染色レベルが飽和に達するのを回避すること、および異なる突然変異体間で形質導入効率を比較するのが困難になるのを回避することを狙った。
【0209】
それぞれの突然変異ベクターの5×1009vgを、P1新生仔の側脳室中に注射した。注射の4週間後に、動物を屠殺し、脳を、解体し、切片化し、抗GFP抗体を使用して染色した。結果を図35に示す。
【0210】
以前にも観察されたように、これらのデータも、AAV TT-S312Nが、完全なAAV2TTベクターと比較して、マウス脳組織の形質導入の増強を示すことを示唆している。他方、最低限のTT-S312N-D546G/G548E-S593Aベクターは、これもまたS312N内部突然変異を含有するにもかかわらず、形質導入のこうしたより高いレベルには達しないようであった。このことから、アミノ酸変化のうちの1つまたは複数が、TTの表現型において何らかの役割を果たすことが示唆される。これらの残基を復帰させてAAV2WT等価物に戻すことによって、増加した形質導入能力の一部が失われた。染色切片をより高い倍率で観察すると、これらの観察結果が確認された(図36)。
【0211】
我々は、注射した脳中に得られるGFP発現の総量を、全脳からのタンパク質抽出物に対する酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)により定量化することによって、これらのベクターのそれぞれによって得られる形質導入効率をさらに検討することを決めた。手短に述べると、5×1009vgのベクターを注射した4週間後に、動物を屠殺し、脳全体を収集し、溶解させ、脳タンパク質の全量を抽出した。次いで、GFPタンパク質標準物質を使用して、注射したそれぞれの脳中に発現したGFPタンパク質の量を定量化することができた(図37)。
【0212】
TT-S312N内部突然変異体は、完全なTTベクターよりも高い効率で、マウス脳に形質導入することを確認することができた;というのは、TT-S312Nが、全ての注射した脳において全般的に、より高いGFPの発現をもたらしたからである。他方、最低限のTTベクターであるTT-S312N-D546G/G548E-S593Aは、より低いレベルの形質導入をもたらすようであった:このグラフ上では、脳1つ当たりのGFPの発現量の平均はより高いようであるが、このことは、1つの脳において測定されたGFPの極値に起因した;これは、この状態についての高いエラーバーにより示されている。この最低限のTTベクターに関しては、動物間の変動性が非常に高く、5匹の動物のうち1匹だけが、TT-S312Nにより形質導入された動物よりも良好な機能を示した。この高い変動性に起因して、我々は、この暫定的な最低限のTTベクターの検討には慎重になった;とりわけ、免疫組織化学的検査による分析からもまた、TT-S312Nバリアントが、TT-S312N-DG-S593Aよりも良好に機能することが示されたからである。
【0213】
したがって、TT-S312Nバリアントが、最も好ましいAAV TTベクターとして選択され、これは、野生型AAV2と比較すると、以下の13個のアミノ酸の突然変異:V125I、V151A、A162S、T205S、Q457M、S492A、E499D、F533Y、G546D、E548G、R585S、R588TおよびA593Sで構成される。
【0214】
上記の試験から、TT-S312Nが最も好ましいAAV-TTベクターであることが示唆されるが、これらの試験は、いくつかのTTに特異的な残基が個々に、機能を有し、寄与することを示している。特に、キャプシドの3回フォールドされたスパイク上で密接な位置関係にある4つのアミノ酸は、受容体結合に関与する可能性が高い。いくつかの実施形態では、これらの残基を、AAV-TT中で復帰させて、AAV2WTの対応する残基に戻す。例えば、突然変異M457Q、A492S、D499EおよびY533Fを、AAV-TTキャプシド上で工学的に作製し、これらの残基の役割を示すために、この突
然変異したベクターを、これまでの記載に従って分析することができる。さらなる実施形態では、ウイルスの輸送に関与する可能性が高い、VP1/VP2の一次配列中に存在する4つのアミノ酸を、AAV-TT中で復帰させて、AAV2WTの対応する残基(I125V、A151V、S162A、S205T)に戻し、同様に分析することができる。
【0215】
(実施例4)
その他の血清型におけるバリアントAAVベクターの構築
また、AAV2以外のその他の血清型の状況における、ttAAV2に特異的なアミノ酸変化の機能も決定することができる。
【0216】
主要なアデノ随伴ウイルス(AAV)、すなわち、AAV1、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9およびAAVrh10のキャプシドのアミノ酸配列を、例えば、図9に示すように、ttAAV2に由来する配列と整列させることができる。これにより、どのttAAV2に特異的なアミノ酸が、その他の血清型中で同じ位置においてすでに存在するかを同定するのが可能になる。次いで、種々の血清型中の関連する残基を、wtAAV2中の対応する残基に突然変異させる。これらの変化は、それぞれの血清型の効率および体内分布について、ttAAV2に特異的な残基の重要性を示す。
【0217】
上記で論述したように、次いで、GFPを発現する、種々の突然変異したベクターを、CD1新生仔マウス中への頭蓋内(IC)注射による第1のスクリーニングに供する。次いで、注射した脳中で得られるGFPのシグナルを、適切なGFP発現血清型対照から得られるシグナルと比較する。同定したアミノ酸をそれらの対応するAAV2残基に突然変異させた場合のGFPの発現の減少または増加により、これらの特定の位置におけるこれらの特定の残基の重要性が示される。適切な場合には、次いでさらに、注射した脳を、切片化し、免疫組織化学的検査により分析する。加えて、ベクターの体内分布を評価し、それを元々の突然変異していない対応物と比較するために、選ばれた突然変異血清型に対しては、新生仔マウス内への静脈内(IV)注射による分析も行う。
【0218】
さらなる実施形態では、ttAAV2中で同定した、関連するアミノ酸を、主要な突然変異として、その他の主たる血清型中に、関連する位置に挿入する。ttAAV2に特異的な残基をその他のAAVのサブタイプ中に挿入することによって、各血清型の形質導入および体内分布のプロファイルを改善することが可能になる。
【0219】
(実施例5)
その他のAAVの血清型中で保存されているttAAV2に特異的な残基の、対応するAAV2残基への改変
最初に、現存するアデノ随伴血清型のキャプシドのアミノ酸配列を、ttAAV2に由来する配列と比較分析することにより、その他の血清型中で保存されているttAAV2に特異的な残基を同定することができた(図9を参照されたい)。これらの残基は、S162、S205、S312、G548、S585およびT588からなる。AAV2以外の血清型のそれぞれが、これらの残基のうちの1つ、またはいくつかからなる組合せを、その配列中の対応するアミノ酸の位置に含有する。
【0220】
特定の実施形態では、種々の血清型中のこれらの残基のそれぞれを、対応する、野生型AAV2のアミノ酸に変換し、これらの新たな突然変異体の形質導入効率を試験する。
【0221】
1)AAV1血清型の改変
AAV1は、残基:S205、G549、S586およびT589を含有し、これらは、ttAAV2中では、以下の残基:S205、G548、S585およびT588に対応する。AAV1に由来するVP1単量体を、AAV2に由来するVP1と三次元で整列
させると、wtAAV2中の対応する残基、すなわち、T205、E548、R585およびR588が、3D構造上の完全に一致する位置にあることを確認することができた(図21)。したがって、我々は、AAV1中のttAAV2に特異的な残基のそれぞれを、対応する野生型AAV2対応物に変換しても、タンパク質の三次元構造には影響が及ばないことは意義深いと結論付けた。特定の実施形態では、以下の突然変異:S205T、G549E、S586R、T589Rを、AAV1のキャプシド配列中に作製する。
【0222】
2)AAV5血清型の改変
AAV5は、残基:G537、S575およびT578を含有し、これらは、ttAAV2中では、以下の残基:G548、S585およびT588に対応する。AAV2中の残基:R585およびR588は、3D構造上でAAV5中のS575およびT578と一致する位置にある。三次元構造によると、AAV2中の残基E548は、AAV5中の残基G537と完全には一致しなかった(図22)が、それでも我々は、両方の残基が空間的に比較的近いので、研究にそれを含めることを決めた。したがって、特定の実施形態では、以下の突然変異:G537E、S575R、T578Rを、AAV5のキャプシド配列中に作製する。
【0223】
3)AAV6血清型の改変
AAV6は、残基:S205、G549、S586およびT589を含有し、これらは、ttAAV2中では、以下の残基:S205、G548、S585およびT588に対応する。wtAAV2中の対応する残基、すなわち、T205、E548、R585およびR588は、VP1の3D構造上の完全に一致する位置にある(図23)。したがって、特定の実施形態では、以下の突然変異:S205T、G549E、S586R、T589Rを、AAV6のキャプシド配列中に作製する。
【0224】
4)AAV8血清型の改変
AAV8は、残基:S315およびT591を含有し、これらは、ttAAV2中では、以下の残基:S312およびT588に対応する。wtAAV2中の対応する残基、すなわち、N312およびR588は、VP1の3D構造上の完全に一致する位置にある(図24)。したがって、特定の実施形態では、以下の突然変異:S315N、T591Rを、AAV8のキャプシド配列中に作製する。
【0225】
一実施形態では、TT AAV2中のS312Nの突然変異がもたらす形質導入効率の改善を、アミノ酸変化S315Nを適用することによって、AAV8血清型に移入することができる。
【0226】
AAV8のキャプシド配列を、部位特異的変異誘発により突然変異させ、それにより、AAV8-S315Nベクタープラスミドを作り出した。このプラスミドを使用して、ITR含有CMV-GFP導入遺伝子を発現する組換えAAV8-S315Nベクターを、293T細胞の二重トランスフェクションにより生成した。次いで、ベクターを、細胞溶解液および収集した培養物の上清から、AVBセファロース樹脂を使用するFPLC親和性クロマトグラフィーにより精製した。キャプシドのタイターおよびベクターのゲノムのタイターをそれぞれ、SDS-PAGEおよびqPCRにより評価した。
【0227】
GFPを発現する、突然変異AAV8-S315Nベクターを、CD1新生仔マウス中への全身注射によりスクリーニングする。タイターをマッチさせたAAV8ベクターを、対照として使用する。次いで、2×1011vgの頚静脈内注射の後に種々の臓器中に得られるGFPの発現を、主として、AAV8がある程度強力な形質導入効率をすでに示している肝臓に焦点を当てて分析する。
【0228】
5)AAV9血清型の改変
AAV9は、残基:S162、S205、G549およびS586を含有し、これらは、ttAAV2中では、以下の残基:S162、S205、G548およびS585に対応する。AAV2中の対応する残基、すなわち、A162、T205、E548およびR585、は、VP1の3D構造上の完全に一致する位置にある(図25)。したがって、特定の実施形態では、以下の突然変異:S162A、S205T、G549EおよびS586Rを、AAV8のキャプシド配列中に作製する。
【0229】
6)AAVrh10血清型の改変
AAVrh10は、残基G551を含有し、これは、ttAAV2ではG548に対応する。この残基および位置が種々の血清型の間で保存されているように見える状況を考慮すると、AAVrh10中のG551は、三次元的にはwtAAV2中のE548と整列されることが推測される。したがって、一実施形態では、以下の突然変異:G551Eを、AAVrh10のキャプシド配列中に作製する。
【0230】
7)AAV3B血清型およびAAV-LK03血清型の改変
AAV8血清型と同様に、AAV3B血清型もまた、キャプシドタンパク質VP1の配列を、AAV-TTに由来する配列と整列させると、内部セリンを312位に含有することが観察された(図38のAAV3Bキャプシドの配列を参照されたい)。
【0231】
新たに記載されているLK03AAVベクターは、M.A.KayがDNAシャフリングにより工学的に作製した、5つの異なる親AAVキャプシドから構成されるキメラのキャプシドであり、これもまた、残基S312をキャプシドの内側に含有する(Lisowskiら、Selection and evaluation of clinically relevant AAV variants in a xenograft
liver model、Nature、506、382~386(2014)を参照されたい)。AAV-LK03のキャプシドの配列は、WO2013/029030に開示されており、図39に示す。
【0232】
したがって、さらなる実施形態では、AAV3BベクターおよびAAV-LK03ベクターを、両方のベクター中にアミノ酸変化S312Nを適用することによって突然変異させる。これらの新たな突然変異体およびそれらの対応するAAVの対照の血清型もまた、新生仔マウス中への頚静脈内注射により試験する。次いで、種々の収集臓器中で得られるGFPの発現を分析する。
【0233】
(実施例6)
AAVの血清型間で移入可能であるttAAV2に特異的なアミノ酸の同定
さらなる実施形態では、ttAAV2の特徴付けの間に同定した主要なアミノ酸を、その他の主たる血清型中に、関連する位置に挿入する。次いで、新たに工学的に作製したベクターを、突然変異していない適切な血清型を対照として使用して試験する。これにより、血清型とは独立に、個々のアミノ酸の、AAVキャプシド上の特定の位置における重要性についての妥当性が確認される。
【0234】
1)残基:S585、T588、S312、D546、G548およびS593
AAV1、AAV5およびAAV6は、ttAAV2中のG548、S585およびT588に対応する同じアミノ酸残基を、それらのキャプシドタンパク質配列中の位置に天然に含有する。したがって、さらなる実施形態では、ttAAV2中に存在するその他の残基:S312、D546およびS593を含めるために、これらの血清型中のキャプシドタンパク質を、一致する位置において突然変異させる。同様に、AAV8は、ttAAV2中のものと同じアミノ酸残基をすでに含有し、これらの位置は、ttAAV2中では
S312およびT588に対応する;AAV8もさらに突然変異させて、ttAAV2中のS585、D546、G548およびS593に対応する残基を含有させる。AAV9は、ttAAV2中のG548およびS585に対応する残基をすでに含有する;AAV9を突然変異させて、ttAAV2中のT588、S312、D546およびS593に対応する残基を含める。最後に、AAV10は、G548に対応する残基をすでに含有する;AAV10もさらに改変してまた、S585、T588、S312、G548およびS593に対応する残基を含有させる。
【0235】
2)残基:I125、A151、S162、S205、M457、A492、D499およびY533
AAV1およびAAV6は、残基S205をすでに天然に含有する。したがって、さらなる実施形態では、これらの血清型を、ttAAV2中の残基:I125、A151、S162、M457、A492、D499およびY533に対応する位置において突然変異させる。同様に、AAV9は、残基:S162およびS205をすでに含有する;AAV9もさらに突然変異させて、ttAAV2中のI125、A151、M457、A492、D499およびY533に対応する残基を含有させる。最後に、AAV5、AAV8およびAAV10を改変して、ttAAV2中のI125、A151、S162、S205、M457、A492、D499およびY533に対応する残基をもたせる。
【0236】
ttAAV2中に存在する突然変異の位置、およびその他のAAVの血清型の野生型キャプシドタンパク質VP1の配列中に存在する対応する残基を、下記の表1に示す。一般に、これらの血清型について表1に示す残基のうちのいずれかを突然変異させることによって、AAV2以外のバリアントのベクターを構築することができる。斜体で示す残基は、ttAAV2中に、対応する位置にすでに存在する残基である。好ましい実施形態では、AAV2以外の血清型を、斜体でない字体で示す1つまたは複数の残基において突然変異させる。このようにして、ttAAV2が示す好都合な特性を、代替のAAVの血清型中に移入することができる
【0237】
【表1】
【0238】
本発明のさらなる実施形態
本発明はまた、以下に要約する項に定義する追加の態様にも関する。
1.組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターであって、
(a)野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/または593位の1つまたは複数に対応する位置に存在する少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、バリアントAAVキャプシドタンパク質;ならびに
(b)遺伝子産物をコードするヌクレオチド配列を含む異種核酸
を含む、組換えAAVベクター。
2.(i)バリアントAAV2キャプシドタンパク質を含み、(ii)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号2の配列、もしくはその配列に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、(iii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV2に由来し、かつ/または(iv)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号1の配列を含む、第1項に記載の組換えAAVベクター。
3.バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、1つまたは複数の以下の残基:I125、A151、S162、S205、S312、M457、A492、D499、Y53
3、D546、G548、S585、T588および/またはS593を含む、第2項に記載の組換えAAVベクター。
4.バリアントAAV2キャプシドタンパク質が、野生型AAV2キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:V125I、V151A、A162S、T205S、N312S、Q457M、S492A、E499D、F533Y、G546D、E548G、R585S、R588Tおよび/またはA593Sを含む、第2項または第3項に記載の組換えAAVベクター。
5.バリアントAAVキャプシドタンパク質が、AAV1、AAV5、AAV6、AAV8、AAV9またはAAV10に由来する、第1項から第3項のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
6.(i)バリアントAAV1キャプシドタンパク質を含み、(ii)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号3に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、(iii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV1に由来し、かつ/または(iv)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号3の配列を含み、
少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV1キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、313、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数に存在する、第5項に記載の組換えAAVベクター。
7.バリアントAAV1キャプシドタンパク質が、野生型AAV1キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:
(a)V125I、Q151A、T162S、N313S、N458M、K493A、N500D、F534Y、S547Dおよび/もしくはG594S、ならびに/または
(b)S205T、G549E、S586Rおよび/もしくはT589R
を含む、第6項に記載の組換えAAVベクター。
8.(i)バリアントAAV5キャプシドタンパク質を含み、(ii)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号4に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、(iii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV5に由来し、かつ/または(iv)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号4の配列を含み、
少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV5キャプシドタンパク質配列中の124、150、153、195、303、444、479、486、520、533、537、575、578および/または583位の1つまたは複数に存在する、第5項に記載の組換えAAVベクター。
9.バリアントAAV5キャプシドタンパク質が、野生型AAV5キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:
(a)V124I、K150A、K153S、A195S、R303S、T444M、S479A、V486D、T520Y、P533Dおよび/もしくはG583S、ならびに/または
(b)G537E、S575Rおよび/もしくはT578R
を含む、第8項に記載の組換えAAVベクター。
10.(i)バリアントAAV6キャプシドタンパク質を含み、(ii)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号5に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、(iii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV6に由来し、かつ/または(iv)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号5の配列を含み、
少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV6キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、313、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位置の1つまたは複数に存在する、第5項に記載の組換えAAVベクター。
11.バリアントAAV6キャプシドタンパク質が、野生型AAV6キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:
(a)V125I、Q151A、T162S、N313S、N458M、K493A、
N500D、F534Y、S547Dおよび/もしくはG594S、ならびに/または
(b)S205T、G549E、S586Rおよび/もしくはT589R
を含む、第10項に記載の組換えAAVベクター。
12.(i)バリアントAAV8キャプシドタンパク質を含み、(ii)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号6に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、(iii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV8に由来し、かつ/または(iv)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号6の配列を含み、
少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV8キャプシドタンパク質配列中の125、151、163、206、315、460、495、502、536、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に存在する、第5項に記載の組換えAAVベクター。
13.バリアントAAV8キャプシドタンパク質が、野生型AAV8キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:
(a)V125I、Q151A、K163S、A206S、T460M、T495A、N502D、F536Y、N549D、A551G、Q588Sおよび/もしくはG596S、ならびに/または
(b)S315Nおよび/もしくはT591R
を含む、 第12項に記載の組換えAAVベクター。
14.(i)バリアントAAV9キャプシドタンパク質を含み、(ii)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号7に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、(iii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAV9に由来し、かつ/または(iv)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号7の配列を含み、
少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV9キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、314、458、493、500、534、547、549、586、589および/または594位の1つまたは複数に存在する、第5項に記載の組換えAAVベクター。
15.バリアントAAV9キャプシドタンパク質が、野生型AAV9キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:
(a)L125I、Q151A、N314S、Q458M、V493A、E500D、F534Y、G547D、A589Tおよび/もしくはG594S、ならびに/または
(b)S162A、S205T、G549Eおよび/もしくはS586R
を含む、第14項に記載の組換えAAVベクター。
16.(i)バリアントAAVrh10キャプシドタンパク質を含み、(ii)バリアントAAVキャプシドタンパク質が、配列番号8に対して少なくとも95%の配列同一性を有する配列を含み、(iii)野生型AAVキャプシドタンパク質が、AAVrh10に由来し、かつ/または(iv)野生型AAVキャプシドタンパク質が、配列番号8の配列を含み、
少なくとも1つのアミノ酸置換が、AAV10キャプシドタンパク質配列中の125、151、163、206、315、460、495、502、536、549、551、588、591および/または596位の1つまたは複数に存在する、第5項に記載の組換えAAVベクター。
17.バリアントAAVrh10キャプシドタンパク質が、野生型AAVrh10キャプシドタンパク質と比べて、1つまたは複数の以下のアミノ酸置換:
(a)V125I、Q151A、K163S、A206S、N315S、T460M、L495A、N502D、F536Y、G549D、Q588S、A591Tおよび/もしくはG596S、ならびに/または
(b)G551E
を含む、第16項に記載の組換えAAVベクター。
18.対応する野生型AAVキャプシドタンパク質を含むAAVベクターと比較して、神経細胞組織または網膜組織の形質導入の増加を示す、第1項から第17項のいずれかに記
載の組換えAAVベクター。
19.遺伝子産物が、干渉RNAまたはアプタマーを含む、第1項から第18項のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
20.遺伝子産物がポリペプチドを含む、第1項から第18項のいずれかに記載の組換えAAVベクター。
21.遺伝子産物が、神経保護ポリペプチド、抗血管新生ポリペプチド、または神経細胞もしくは網膜細胞の機能を増強するポリペプチドを含む、第20項に記載の組換えAAVベクター。
22.遺伝子産物が、グリア由来の神経栄養因子、線維芽細胞増殖因子、神経増殖因子、脳由来の神経栄養因子、ロドプシン、レチノスキシン、RPE65、またはペリフェリンを含む、第21項に記載の組換えAAVベクター。
23.(a)第1項から第22項のいずれかに記載の組換えAAVベクター、および
(b)薬学的に許容できる賦形剤
を含む医薬組成物。
24.遺伝子産物を対象中の神経細胞組織または網膜組織に送達するための方法であって、第1項から第23項のいずれかに記載の組換えAAVベクターまたは医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法。
25.神経学的障害または眼障害を治療するための方法であって、第1項から第24項のいずれかに記載の組換えAAVベクターまたは医薬組成物を対象に投与するステップを含む方法。
26.神経学的障害または眼障害を治療する際に使用するための、第1項から第23項のいずれかに記載の組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
27.神経学的障害が、神経変性疾患である、第24項から第26項のいずれかに従って使用するための方法、組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
28.眼障害が、緑内障、網膜色素変性症、黄斑変性、網膜分離症または糖尿病性網膜症である、第24項から第26項のいずれかに従って使用するための方法、組換えAAVベクターまたは医薬組成物。
29.単離バリアントAAVキャプシドタンパク質であって、野生型AAVキャプシドタンパク質と比べて、AAV2キャプシドタンパク質配列中の125、151、162、205、312、457、492、499、533、546、548、585、588および/もしくは593位の1つもしくは複数において、または代替のAAVキャプシドタンパク質配列中の1つもしくは複数の対応する位置に存在する少なくとも1つのアミノ酸置換を含む、単離バリアントAAVキャプシドタンパク質。
30.第29項の定義に従うバリアントAAVキャプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む単離核酸。
31.第30項の定義に従う核酸を含む単離宿主細胞。
【配列表フリーテキスト】
【0239】
配列番号1は、野生型アデノ随伴ウイルス2キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図1を参照されたい)。
配列番号2は、真性型アデノ随伴ウイルス2(ttAAV2)キャプシドタンパク質のアミノ酸配列である(図2を参照されたい)。
配列番号3は、野生型アデノ随伴ウイルス1キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図3を参照されたい)。
配列番号4は、野生型アデノ随伴ウイルス5キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図4を参照されたい)。
配列番号5は、野生型アデノ随伴ウイルス6キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図5を参照されたい)。
配列番号6は、野生型アデノ随伴ウイルス8キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図6を参照されたい)。
配列番号7は、野生型アデノ随伴ウイルス9キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図7を参照されたい)。
配列番号8は、野生型アデノ随伴ウイルス10Upennキャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図8を参照されたい)。
配列番号9は、野生型アデノ随伴ウイルス10japaneseキャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図9を参照されたい)。
配列番号10は、図9に示す、アデノ随伴ウイルスについてのコンセンサスアミノ酸配列である。
配列番号11は、野生型アデノ随伴ウイルス3Bキャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図38を参照されたい)。
配列番号12は、アデノ随伴ウイルスLK-03キャプシドタンパク質VP1のアミノ酸配列である(図39を参照されたい)。
図1
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図9-1】
図9-2】
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図39-1】
図39-2】
【配列表】
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