(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】作業機械の性能を評価するためのシステム及び方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20250106BHJP
【FI】
F02D45/00 364A
(21)【出願番号】P 2023124672
(22)【出願日】2023-07-31
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】弁理士法人新樹グローバル・アイピー
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 遼二
(72)【発明者】
【氏名】蓼沼 周
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-296331(JP,A)
【文献】特開2008-038721(JP,A)
【文献】特開平08-254256(JP,A)
【文献】特開2008-128082(JP,A)
【文献】特開2017-002803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを含む作業機械の性能を評価するためのシステムであって、
前記エンジンの目標出力トルクを取得する目標トルク取得部と、
前記エンジンの実出力トルクを取得する実トルク取得部と、
前記エンジンの目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータの第1変化量を取得し、前記第1変化量に基づいて、前記実出力トルクを補正するトルク補正部と、
前記目標出力トルクと、補正された前記実出力トルクとの比を、前記性能を評価するためのトルク比として算出するトルク比算出部と、
を備えるシステム。
【請求項2】
前記第1補正パラメータは、前記目標出力トルクである、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第1変化量は、前記目標出力トルクの時間微分値である、
請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記作業機械は、前記エンジンに接続されたトルクコンバータを含み、
前記実トルク取得部は、前記トルクコンバータの入力回転速度、及び/又は、出力回転速度に基づいて算出した前記トルクコンバータへの入力トルクを、前記実出力トルクとして取得する、
請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記実トルク取得部は、
前記トルクコンバータの前記入力回転速度と前記出力回転速度との比である速度比を取得し、
前記速度比に基づいて、前記トルクコンバータのプライマリトルク係数を算出し、
前記プライマリトルク係数に基づいて、前記トルクコンバータへの入力トルクを算出する、
請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記トルク補正部は、前記トルクコンバータの稼働状態を示す第2補正パラメータの第2変化量を取得し、前記第2変化量に基づいて、前記実出力トルクを補正する、
請求項4に記載のシステム。
【請求項7】
前記第2補正パラメータは、前記トルクコンバータの前記入力回転速度、又は、前記出力回転速度である、
請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記第2変化量は、前記トルクコンバータの前記入力回転速度、又は、前記出力回転速度の時間微分値である、
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
所定条件を満たす場合に取得された前記トルク比を選別するフィルタリング部をさらに備え、
前記所定条件は、前記エンジンの目標出力トルクが所定範囲内であることを含む、
請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
所定条件を満たす場合に取得された前記トルク比を選別するフィルタリング部をさらに備え、
前記所定条件は、前記トルクコンバータの前記入力回転速度と前記出力回転速度との比である速度比が所定範囲内であることを含む、
請求項4に記載のシステム。
【請求項11】
前記トルク比を時系列的に記録することで、前記性能を評価するためのデータを生成する判定データ生成部をさらに備える、
請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
エンジンと、前記エンジンに接続されたトルクコンバータとを含む作業機械の性能を評価するためのシステムであって、
前記エンジンの目標出力トルクを取得する目標トルク取得部と、
前記トルクコンバータへの入力トルクを前記エンジンの実出力トルクとして取得する実トルク取得部と、
前記トルクコンバータの稼働状態を示す所定の補正パラメータの変化量を取得し、前記変化量に基づいて、前記実出力トルクを補正するトルク補正部と、
前記目標出力トルクと、補正された前記実出力トルクとの比を、前記性能を評価するためのトルク比として算出するトルク比算出部と、
を備えるシステム。
【請求項13】
前記実トルク取得部は、前記トルクコンバータの入力回転速度、及び/又は、出力回転速度に基づいて、前記トルクコンバータへの入力トルクを算出する、
請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
前記実トルク取得部は、
前記トルクコンバータの前記入力回転速度と前記出力回転速度との比である速度比を取得し、
前記速度比に基づいて、前記トルクコンバータのプライマリトルク係数を算出し、
前記プライマリトルク係数に基づいて、前記トルクコンバータへの入力トルクを算出する、
請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記所定の補正パラメータは、前記トルクコンバータの入力回転速度、又は、出力回転速度である、
請求項12に記載のシステム。
【請求項16】
前記変化量は、前記トルクコンバータの前記入力回転速度、又は、前記出力回転速度の時間微分値である、
請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
前記トルク比を時系列的に記録することで、前記性能を評価するためのデータを生成する判定データ生成部をさらに備える、
請求項12に記載のシステム。
【請求項18】
エンジンを含む作業機械の性能を評価するための方法であって、
前記エンジンの目標出力トルクを取得することと、
前記エンジンの実出力トルクを取得することと、
前記エンジンの目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータの第1変化量を取得し、前記第1変化量に基づいて、前記実出力トルクを補正することと、
前記目標出力トルクと、補正された前記実出力トルクとの比を、前記性能を評価するためのトルク比として算出すること、
を備える方法。
【請求項19】
エンジンと、前記エンジンに接続されたトルクコンバータとを含む作業機械の性能を評価するための方法であって、
前記エンジンの目標出力トルクを取得することと、
前記トルクコンバータへの入力トルクを、前記エンジンの実出力トルクとして取得することと、
前記トルクコンバータの稼働状態を示す所定の補正パラメータの変化量を取得し、前記変化量に基づいて、前記実出力トルクを補正することと、
前記目標出力トルクと、補正された前記実出力トルクとの比を、前記性能を評価するためのトルク比として算出すること、
を備える方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、作業機械の性能を評価するためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンのトルク比に基づいて、エンジンの性能を評価するための方法が知られている。エンジンのトルク比は、エンジンの目標出力トルクと実出力トルクの比である。トルク比は、エンジンの目標出力トルクに対する実出力トルクの乖離の大きさを示す。そのため、トルク比によって、エンジンの性能を評価することができる。
【0003】
エンジンの性能を適正に評価するためには、トルク比を精度よく算出することが求められる。そのため、所定条件が満たされている場合に取得されたデータに基づいて、トルク比を算出することが行われている。例えば、特許文献1の車両の異常判定装置では、エンジンの燃料の圧力が一定に保持されている場合に取得されたデータに基づいて、エンジンの実出力トルクが算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した車両の異常判定装置では、車両が安定した状態で取得されたデータにより、エンジンの実出力トルクが算出される。それにより、トルク比を精度よく算出することができる。また、所定条件をより厳しくすることにより、トルク比の算出の精度をさらに向上させることができる。
【0006】
しかし、鉱山などの作業現場で使用される作業機械では、上述した車両と比べて、安定した状態でトルク比を算出できる場合が少ない。そのため、所定条件を厳しくすることによりトルク比の算出の精度を向上させようとすると、性能の評価に使用できるデータが少なくなってしまう。そのため、性能の評価の精度を向上させることは容易ではない。本開示の目的は、作業機械においてトルク比を精度よく算出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様に係るシステムは、作業機械の性能を評価するためのシステムである。作業機械は、エンジンを含む。第1の態様に係るシステムは、目標トルク取得部と、実トルク取得部と、トルク補正部と、トルク比算出部とを備える。目標トルク取得部は、エンジンの目標出力トルクを取得する。実トルク取得部は、エンジンの実出力トルクを取得する。トルク補正部は、エンジンの目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータの第1変化量を取得する。トルク補正部は、第1変化量に基づいて、実出力トルクを補正する。トルク比算出部は、目標出力トルクと、補正された実出力トルクとの比を、性能を評価するためのトルク比として算出する。
【0008】
本態様に係るシステムでは、第1変化量に基づいて、実出力トルクが補正される。第1変化量は、エンジンの目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータの変化量を示す。そのため、エンジンの稼働状態の変化を考慮して、実出力トルクが補正される。それにより、作業機械において、トルク比を精度よく算出することができる。
【0009】
本開示の第2の態様に係るシステムは、作業機械の性能を評価するためのシステムである。作業機械は、エンジンと、エンジンに接続されたトルクコンバータとを含む。第2の態様に係るシステムは、目標トルク取得部と、実トルク取得部と、トルク補正部と、トルク比算出部とを備える。目標トルク取得部は、エンジンの目標出力トルクを取得する。実トルク取得部は、トルクコンバータへの入力トルクを、エンジンの実出力トルクとして取得する。トルク補正部は、トルクコンバータの稼働状態を示す所定の補正パラメータの変化量を取得する。トルク補正部は、変化量に基づいて、実出力トルクを補正する。トルク比算出部は、目標出力トルクと、補正された実出力トルクとの比を、性能を評価するためのトルク比として算出する。
【0010】
本態様に係るシステムでは、所定の補正パラメータの変化量に基づいて、実出力トルクが補正される。所定の補正パラメータは、トルクコンバータの稼働状態を示す。そのため、トルクコンバータの稼働状態の変化を考慮して、実出力トルクが補正される。それにより、作業機械において、トルク比を精度よく算出することができる。
【0011】
本開示の第3の態様に係る方法は、作業機械の性能を評価するための方法である。作業機械は、エンジンを含む。第3の態様に係る方法は、エンジンの目標出力トルクを取得することと、エンジンの実出力トルクを取得することと、エンジンの目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータの第1変化量を取得し、第1変化量に基づいて、実出力トルクを補正することと、目標出力トルクと補正された実出力トルクとの比を、性能を評価するためのトルク比として算出すること、を備える。
【0012】
本態様に係る方法では、第1変化量に基づいて、実出力トルクが補正される。第1変化量は、エンジンの目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータの変化量を示す。そのため、エンジンの稼働状態の変化を考慮して、実出力トルクが補正される。それにより、作業機械において、トルク比を精度よく算出することができる。
【0013】
本開示の第4の態様に係る方法は、作業機械の性能を評価するための方法である。作業機械は、エンジンと、エンジンに接続されたトルクコンバータとを含む。第4の態様に係る方法は、エンジンの目標出力トルクを取得することと、トルクコンバータへの入力トルクを、エンジンの実出力トルクとして取得することと、トルクコンバータの稼働状態を示す所定の補正パラメータの変化量を取得し、変化量に基づいて、実出力トルクを補正することと、目標出力トルクと補正された実出力トルクとの比を、性能を評価するためのトルク比として算出すること、を備える。
【0014】
本態様に係るシステムでは、所定の補正パラメータの変化量に基づいて、実出力トルクが補正される。所定の補正パラメータは、トルクコンバータの稼働状態を示す。そのため、トルクコンバータの稼働状態の変化を考慮して、実出力トルクが補正される。それにより、作業機械において、トルク比を精度よく算出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、作業機械においてトルク比を精度よく算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】作業機械、及び、作業機械の性能を評価するためのシステムの構成を示すブロック図である。
【
図5】性能を評価するための判定データを生成する処理を示すフローチャートである。
【
図6】プライマリトルク係数データの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、実施形態について説明する。
図1は、実施形態に係る作業機械1の斜視図である。本実施形態に係る作業機械1は、ダンプトラックである。
図1に示すように、作業機械1は、車体2と走行装置3とを備える。車体2は、荷台6と運転室7とを含む。走行装置3は、車体2に取り付けられている。走行装置3は、走行輪4,5を含む。
【0018】
図2は、作業機械1、及び、作業機械1の性能を評価するためのシステムの構成を示すブロック図である。
図2に示すように、作業機械1は、エンジン11と、PTO(パワーテイクオフ)12と、トルクコンバータ13と、トランスミッション14とを備える。エンジン11は、例えばディーゼルエンジンである。エンジン11には、燃料噴射装置15が接続されている。燃料噴射装置15は、エンジン11内に燃料を噴射する。エンジン11には、冷却管16を介して、ラジエータ17が接続されている。ラジエータ17は、エンジン11の冷却液を冷却する。
【0019】
トルクコンバータ13は、PTO12を介して、エンジン11に接続されている。トルクコンバータ13は、エンジン11からの駆動力をトランスミッション14に伝達する。トルクコンバータ13には、ロックアップクラッチ18が接続されている。ロックアップクラッチ18は、係合状態と非係合状態とに切り替えられる。ロックアップクラッチ18は、係合状態で、トルクコンバータ13の入力側と出力側とを直結する。
【0020】
トランスミッション14は、トルクコンバータ13に接続されている。トランスミッション14は、トルクコンバータ13からの駆動力を走行装置3に伝達する。それにより、走行装置3が駆動されることで、作業機械1が走行する。トランスミッション14は、複数の変速ギアと、前進ギアと、後進ギアと、クラッチとを含む。クラッチは、各ギアの係合を切り替える。トランスミッション14は、複数の変速ギアの係合を切り替えることで、複数の速度段に切り替え可能である。トランスミッション14は、例えば3速以上の速度段に切り換え可能である。
【0021】
作業機械1は、油圧ポンプ19とアクチュエータ20とを含む。油圧ポンプ19は、PTO12を介して、エンジン11に接続されている。油圧ポンプ19は、エンジン11によって駆動されることで、作動油を吐出する。アクチュエータ20は、油圧ポンプ19からの作動油によって駆動される。アクチュエータ20は、例えば、走行輪4を操舵するためのステアリングアクチュエータを含む。なお、
図2においては、1つの油圧ポンプ19のみが図示されているが、作業機械1は複数の油圧ポンプを備えてもよい。
図2においては、1つのアクチュエータ20のみが図示されているが、作業機械1は複数のアクチュエータを備えてもよい。
【0022】
作業機械1は、アクセル操作装置21と、FR操作装置22と、ステアリング操作装置23とを備える。アクセル操作装置21は、作業機械1の車速を調整するために、オペレータによって操作可能である。アクセル操作装置21は、例えばアクセルペダルを含む。或いは、アクセル操作装置21は、レバー、或いはスイッチを含んでもよい。アクセル操作装置21は、アクセル操作装置21への操作を示すアクセル操作信号を出力する。
【0023】
FR操作装置22は、作業機械1の前進と後進とを切り替えるために、オペレータによって操作可能である。FR操作装置22は、例えばFRレバーを含む。或いは、FR操作装置22は、スイッチを含んでもよい。FR操作装置22は、FR操作装置22への操作を示すFR操作信号を出力する。
【0024】
ステアリング操作装置23は、作業機械1を操舵するために、オペレータによって操作可能である。ステアリング操作装置23は、例えば、ステアリングホイールを含む。或いは、ステアリング操作装置23は、レバー、或いはスイッチを含んでもよい。ステアリング操作装置23は、ステアリング操作装置23への操作を示すステアリング操作信号を出力する。
【0025】
作業機械1は、エンジン回転速度センサ24と出力回転速度センサ25とを含む。エンジン回転速度センサ24は、エンジン回転速度を検出する。出力回転速度センサ25は、トランスミッション14の出力回転速度を検出する。
【0026】
作業機械1は、冷却温度センサ26を含む。冷却温度センサ26は、エンジン11の冷却液の温度を検出する。作業機械1は、ステアリング角度センサ27を含む。ステアリング角度センサ27は、走行輪4のステアリング角度を検出する。
【0027】
作業機械1は、コントローラ30を備える。コントローラ30は、作業機械1を制御する。コントローラ30は、記憶装置31とプロセッサ32とを含む。記憶装置31は、例えばRAM及びROMなどのメモリを含む。記憶装置31は、HDD、或いはSSDなどのストレージを含んでもよい。記憶装置31は、作業機械1を制御するためのプログラム及びデータを記憶している。プロセッサ32は、例えばCPUである。プロセッサ32は、プログラム及びデータに従い、作業機械1を制御するための処理を実行する。
【0028】
コントローラ30は、エンジン回転速度センサ24から、エンジン回転速度を取得する。コントローラ30は、出力回転速度センサ25から、トランスミッション14の出力回転速度を取得する。コントローラ30は、冷却温度センサ26から、エンジン11の冷却液の温度を取得する。コントローラ30は、ステアリング角度センサ27から、走行輪4のステアリング角度を取得する。
【0029】
コントローラ30は、アクセル操作装置21から、アクセル操作信号を受信する。コントローラ30は、アクセル操作信号に応じて、エンジン11の目標回転速度を決定する。コントローラ30は、アクセル操作信号に応じて、燃料噴射装置15からの燃料噴射量を制御する。なお、燃料噴射装置15からの燃料噴射量は、コントローラ30によらずに、アクセル操作装置21の操作に応じて、直接的に制御されてもよい。
【0030】
コントローラ30は、FR操作装置22から、FR操作信号を受信する。コントローラ30は、FR操作信号に応じて、トランスミッション14の前進と後進とを切り替える。なお、トランスミッション14の前進と後進とは、コントローラ30によらずに、FR操作装置22の操作に応じて、直接的に切り替えられてもよい。
【0031】
コントローラ30は、車速、或いは、エンジン回転速度に応じて、トランスミッション14の速度段を切り替える。コントローラ30は、例えばトランスミッション14の出力回転速度から車速を算出する。コントローラ30は、車速、或いは、エンジン回転速度に応じて、ロックアップクラッチ18の係合と非係合とを切り替える。
【0032】
コントローラ30は、ステアリング操作装置23から、ステアリング操作信号を受信する。コントローラ30は、ステアリング操作信号に応じて、走行輪4のステアリング角度を変更するように、アクチュエータ20を制御する。なお、アクチュエータ20は、コントローラ30によらずに、ステアリング操作装置23の操作に応じて、直接的に制御されてもよい。
【0033】
作業機械1は、通信装置33を備える。通信装置33は、コントローラ30と通信可能に接続されている。通信装置33は、無線通信により、作業機械1の外部のサーバ40と通信を行う。サーバ40は、作業機械1の状態を示す機械データにより、作業機械1の状態を遠隔から監視する。
【0034】
サーバ40は、記憶装置41とプロセッサ42とを含む。記憶装置41は、例えばRAM及びROMなどのメモリを含む。記憶装置41は、HDD、或いはSSDなどのストレージを含んでもよい。記憶装置41は、作業機械1の状態を監視するためのプログラム及びデータを記憶している。プロセッサ42は、例えばCPUである。プロセッサ42は、プログラム及びデータに従い、作業機械1の状態を監視するための処理を実行する。
【0035】
作業機械1のコントローラ30は、通信装置33を介して、機械データをサーバ40に送信する。
図3は、機械データの構成を示す表である。
図3に示すように、機械データは、トランスミッション14の出力回転速度と、トランスミッション14の速度段と、ロックアップのオン/オフと、エンジン回転速度と、エンジン11の目標出力トルクと、ステアリング角度と、稼働時間と、エンジン11の冷却液の温度とを含む。
【0036】
ロックアップのオンは、ロックアップクラッチ18が係合状態であることを意味する。ロックアップのオフは、ロックアップクラッチ18が非係合状態であることを意味する。エンジン11の目標出力トルクは、エンジン11の回転速度と燃料噴射量とに基づいて、算出される。稼働時間は、例えばエンジン11が駆動されている間の時間の積算値である。コントローラ30は、稼働時間をカウントして記録する。
【0037】
作業機械1は、上述したデータを所定のサンプリング周期ごとにサンプリングして、機械データとして、記憶装置31に記憶する。作業機械1は、蓄積した機械データを、所定の送信タイミングで、サーバ40に送信する。例えば、作業機械1は、無線LANなどの通信可能エリア内に入ったときに、蓄積した機械データを、サーバ40に送信する。サーバ40は、受信した機械データに基づいて、作業機械1の性能を評価するための判定データを生成する。以下、性能を評価するための判定データを生成するためのサーバ40による処理について説明する。
【0038】
図4は、サーバ40の構成を示すブロック図である。
図4に示すように、サーバ40は、機械データ受信部51と、目標トルク取得部52と、実トルク取得部53と、トルク補正部54と、トルク比算出部55と、フィルタリング部56と、判定データ生成部57と、判定データ出力部58とを含む。機械データ受信部51と、目標トルク取得部52と、実トルク取得部53と、トルク補正部54と、トルク比算出部55と、フィルタリング部56と、判定データ生成部57と、判定データ出力部58とは、サーバ40のプロセッサ42によって実現される。
【0039】
図5は、性能を評価するための判定データを生成する処理を示すフローチャートである。
図5に示すように、ステップS101で、機械データ受信部51は、機械データを受信する。機械データ受信部51は、作業機械1のコントローラ30から、上述した機械データを受信する。ステップS102で、目標トルク取得部52は、エンジン11の目標出力トルクを取得する。目標トルク取得部52は、作業機械1のコントローラ30から受信した機械データから、エンジン11の目標出力トルクを取得する。
【0040】
ステップS103で、実トルク取得部53は、エンジン11の実出力トルクを取得する。ここで、エンジン11の実出力トルクは、エンジン11の全ての実出力トルクのうち、トルクコンバータ13に供給される分を意味する。なお、エンジン11の実出力トルクの一部(以下、PTO伝達トルクと呼ぶ)は、PTO12を介して、油圧ポンプ19に供給される。実トルク取得部53は、トルクコンバータ13への入力トルクを、実出力トルクとして取得する。詳細には、実トルク取得部53は、トルクコンバータ13の速度比に基づいて、トルクコンバータ13のプライマリトルク係数を算出する。実トルク取得部53は、プライマリトルク係数とトルクコンバータ13の入力回転速度とに基づいて、トルクコンバータ13への入力トルクを算出する。
【0041】
プライマリトルク係数は、トルクコンバータ13の特性を示すものである。トルクコンバータ13のプライマリトルク係数と、トルクコンバータ13への入力トルクとの関係は、以下の式(1)で示される。Tpは、プライマリトルク係数である。Ttciは、トルクコンバータ13への入力トルクである。Tiは、トルクコンバータ13の入力回転速度である。
上記の式(1)から、トルクコンバータ13への入力トルクTtciは、以下の式(2)で表される。なお、Neは、エンジン回転速度であり、トルクコンバータ13の入力回転速度Tiに相当する。実トルク取得部53は、式(2)により、プライマリトルク係数Tpとエンジン回転速度Neとに基づいて、トルクコンバータ13への入力トルクTtciを算出する。
実トルク取得部53は、
図6に示すプライマリトルク係数データを参照して、トルクコンバータ13の速度比に基づいて、プライマリトルク係数Tpを算出する。プライマリトルク係数データは、トルクコンバータ13のプライマリトルク係数と、トルクコンバータ13の速度比との関係を示す。プライマリトルク係数データは、シミュレーション、或いはベンチ試験等によって予め求められて、記憶装置41に保存されている。
【0042】
トルクコンバータ13の速度比は、トルクコンバータ13の入力回転速度と出力回転速度との比である。実トルク取得部53は、上述した機械データから、トルクコンバータ13の入力回転速度と出力回転速度とを取得して、速度比を算出する。詳細には、実トルク取得部53は、エンジン回転速度を、トルクコンバータ13の入力回転速度として取得する。実トルク取得部53は、トランスミッション14の出力回転速度と、トランスミッション14の速度段とに基づいて、トルクコンバータ13の出力回転速度を算出する。或いは、実トルク取得部53は、トルクコンバータ13の出力回転速度を機械データとして直接的に取得してもよい。
【0043】
ステップS104で、トルク補正部54は、ステップS103で取得されたエンジン11の実出力トルクを補正する。トルク補正部54は、以下の式(3)により、実出力トルクを補正する。Tcicorrは、補正された実出力トルクである。Teは、エンジン11の目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータである。本実施形態では、Teは、エンジン11の目標出力トルクである。Ntmは、トルクコンバータ13の稼働状態を示す第2補正パラメータである。本実施形態では、Ntmは、トルクコンバータ13の出力回転速度である。
トルク補正部54は、第1変化量と第2変化量とに基づいて、実出力トルクTpを補正する。第1変化量は、第1補正パラメータの経時的な変化量を示す。第2変化量は、第2補正パラメータの経時的な変化量を示す。式(3)に示すように、本実施形態では、第1変化量は、目標出力トルクTeの時間微分値である。第2変化量は、トルクコンバータ13の出力回転速度Ntmの時間微分値である。
【0044】
なお、トルク補正部54は、機械データから、エンジン11の目標出力トルクTeとトルクコンバータ13の出力回転速度Ntmを取得する。αとβは、所定の係数である。αとβは、シミュレーション、或いはベンチ試験等によって予め求められて、記憶装置41に保存されている。或いは、αとβは、実際の作業機械1の稼働実績から推定されてもよい。
【0045】
ステップS105で、トルク比算出部55は、トルク比を算出する。トルク比算出部55は、以下の式(4)により、トルク比を算出する。すなわち、トルク比算出部55は、目標出力トルクTeと補正された実出力トルクTcicorrとの比を、エンジン11、或いはトルクコンバータ13の性能を評価するためのトルク比Rtとして算出する。γは、所定の係数である。γは、PTO伝達トルクを考慮して定められる。γは、シミュレーション、或いはベンチ試験等によって予め求められて、記憶装置41に保存されている。或いは、γは、実際の作業機械1の稼働実績から推定されてもよい。
ステップS106で、フィルタリング部56は、ステップS105で算出されたトルク比のフィルタリングを行う。フィルタリング部56は、所定条件を満たす場合に取得されたトルク比を選別する。所定条件は、以下の第1~第9条件を含む。
【0046】
第1条件は、トランスミッション14の速度段が所定の速度段であることである。例えば、フィルタリング部56は、トランスミッション14の速度段が、前進1速、前進2速、或いは後進1速である場合に、第1条件が満たされていると判定する。第2条件は、トランスミッション14の速度段が変更されていないことである。第3条件は、ロックアップがオフであることである。第4条件は、エンジン回転速度が、所定の下限値以上であることである。第5条件は、エンジン11の目標出力トルクが、所定範囲内であることである。第6条件は、トルクコンバータ13の速度比が、所定範囲内であることである。第7条件は、ステアリング角度が、所定範囲内であることである。第8条件は、ステアリング角度の変化が、所定範囲内であることである。第9条件は、エンジン11の冷却液の温度が、所定の下限値以上であることである。
【0047】
フィルタリング部56は、上述した機械データにより、第1~第9条件が満たされているかを判定する。フィルタリング部56は、第1~第9条件の全てを満たすトルク比を選別する。フィルタリング部56は、第1~第9条件の少なくとも1つを満たさないトルク比を除外する。
【0048】
ステップS107で、判定データ生成部57は、判定データを生成する。判定データ生成部57は、ステップS106で選別されたトルク比を時系列的に記録することで、性能を評価するための判定データを生成する。例えば、判定データ生成部57は、所定の稼働時間ごとのトルク比の平均値を算出し、トルク比の平均値の時系列データを、判定データとして生成する。
【0049】
ステップS108で、判定データ出力部58は、判定データを出力する。例えば、判定データ出力部58は、作業機械1の使用者のコンピュータに、判定データを送信する。或いは、判定データ出力部58は、作業機械1の管理用のアプリケーションによって、判定データをディスプレイに表示させてもよい。
【0050】
なお、サーバ40は、判定データに基づいて、エンジン11、或いはトルクコンバータ13の性能を評価してもよい。判定データ出力部58は、判定データに基づいて判定されたエンジン11、或いはトルクコンバータ13の性能の評価結果を、作業機械1の使用者のコンピュータに送信してもよい。例えば、サーバ40は、判定データにおいてトルク比が急低下している場合に、エンジン11、或いはトルクコンバータ13に突発的な性能の低下が発生していると判定してもよい。サーバ40は、判定データにおいてトルク比が所定の閾値以下となっている場合に、エンジン11、或いはトルクコンバータ13に経年劣化による性能の低下が発生していると判定してもよい。
【0051】
以上説明した本実施形態に係る作業機械1の性能を評価するためのシステムでは、エンジン11の目標出力トルクの時間微分値と、トルクコンバータ13の出力回転速度の時間微分値とに基づいて、エンジン11の実出力トルクが補正される。そのため、作業機械1への負荷の変動、或いはアクセル操作装置21の操作に応じたエンジン11の稼働状態の変化とトルクコンバータ13の稼働状態の変化とを考慮して、実出力トルクが補正される。それにより、作業機械1において、トルク比を精度よく算出することができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0053】
作業機械1は、ダンプトラックに限らず、ブルドーザ、ショベル、ホイールローダ、或いはグレーダなどの他の機械であってもよい。ダンプトラックは、リジッドダンプトラックに限らず、アーティキュレートダンプトラックであってもよい。走行装置3は、走行輪4に限らず、履帯を含んでもよい。作業機械1は、複数のコントローラを備えてもよい。上述した作業機械1のコントローラ30による制御は、複数のコントローラに分散して実行されてもよい。
【0054】
作業機械1は、遠隔から操作可能であってもよい。その場合、アクセル操作装置21と、FR操作装置22と、ステアリング操作装置23とは、作業機械1の外部に配置されてもよい。作業機械1は、自律走行可能であってもよい。その場合、アクセル操作信号、FR操作信号、及びステアリング操作信号は、コントローラ30によって自動的に生成されてもよい。
【0055】
上述した判定データを生成するための処理は、作業機械1のコントローラ30によって実行されてもよい。或いは、上述した判定データを生成するための処理は、作業機械1のコントローラ30とサーバ40とに分散して実行されてもよい。エンジン11、或いはトルクコンバータ13の性能の評価は、作業機械1のコントローラ30によって実行されてもよい。コントローラ30は、エンジン11、或いはトルクコンバータ13の性能の評価を、作業機械1のディスプレイに表示させてもよい。
【0056】
判定データを生成するための処理は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、第1補正パラメータは、エンジン11の目標出力トルクに限らない。第1補正パラメータは、燃料噴射量、瞬時燃料消費量、アクセル操作装置21の操作量、或いはスロットル開度であってもよい。第2補正パラメータは、トルクコンバータ13の出力回転速度に限らない。例えば、第2補正パラメータは、トルクコンバータ13の入力回転速度であってもよい。第1変化量と第2変化量とは、微分値に限らず、変更されてもよい。例えば、第1変化量と第2変化量とは、所定の単位時間当たりの変化量であってもよい。
【0057】
トルクコンバータ13への入力トルクは、プライマリトルク係数に限らず、他の方法によって推定されてもよい。例えば、トルクコンバータ13への入力トルクは、トルクコンバータ13の入力回転速度と出力回転速度とに基づいて、数式、テーブル、マップ等の手段によって、推定されてもよい。
【0058】
トルク比をフィルタリングするための所定条件は、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。上述した第1~第9条件の一部が省略、或いは変更されてもよい。例えば、所定条件は、作動油温によるフィルタリングの条件を含んでもよい。機械データは、上記の実施形態のものに限らず、変更されてもよい。例えば、作業機械1がトルクコンバータ13の出力回転速度を検出するセンサを備える場合には、機械データは、検出されたトルクコンバータ13の出力回転速度を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本開示によれば、作業機械において、トルク比を精度よく算出することができる。
【符号の説明】
【0060】
1:作業機械
11:エンジン
13:トルクコンバータ
52:目標トルク取得部
53:実トルク取得部
54:トルク補正部
55:トルク比算出部
56:フィルタリング部
57:判定データ生成部
【要約】
【課題】作業機械において、トルク比を精度よく算出する。
【解決手段】システムは、作業機械の性能を評価するためのシステムであって、目標トルク取得部と、実トルク取得部と、トルク補正部と、トルク比算出部とを備える。目標トルク取得部は、エンジンの目標出力トルクを取得する。実トルク取得部は、エンジンの実出力トルクを取得する。トルク補正部は、エンジンの目標出力トルクを変化させる第1補正パラメータの第1変化量を取得する。トルク補正部は、第1変化量に基づいて、取得された実出力トルクを補正する。トルク比算出部は、目標出力トルクと補正された実出力トルクとの比を、エンジンの性能を評価するためのトルク比として算出する。
【選択図】
図5