(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0585 20100101AFI20250106BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20250106BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20250106BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20250106BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20250106BHJP
H01M 50/46 20210101ALI20250106BHJP
H01M 50/449 20210101ALI20250106BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20250106BHJP
H01M 50/491 20210101ALI20250106BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20250106BHJP
H01M 50/457 20210101ALN20250106BHJP
【FI】
H01M10/0585
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/131
H01M50/434
H01M50/46
H01M50/449
H01M50/489
H01M50/491
H01M50/443 M
H01M50/457
(21)【出願番号】P 2023510240
(86)(22)【出願日】2021-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2021046837
(87)【国際公開番号】W WO2022209049
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2021058569
(32)【優先日】2021-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】水上 俊介
(72)【発明者】
【氏名】由良 幸信
(72)【発明者】
【氏名】嶋岡 健
(72)【発明者】
【氏名】加藤 拓未
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕己
(72)【発明者】
【氏名】高松 愛子
(72)【発明者】
【氏名】大石 憲吾
【審査官】前田 寛之
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-225281(JP,A)
【文献】特開2004-207253(JP,A)
【文献】国際公開第2019/221146(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/063747(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/00-10/39
H01M 4/00- 4/62
H01M50/40-50/497
H01G11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コバルト酸リチウムを含む焼結体からなる正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極との間に介在するマグネシアを含む焼結体からなるセパレータと、
を備え、
前記正極と前記セパレータとの間に、Co及びMgを含む酸化物
で構成される中間層をさらに備える、
リチウム二次電池。
【請求項2】
前記セパレータは、第1主面と、厚み方向において前記第1主面とは反対側に位置する第2主面とを含む板状のセパレータであり、
前記正極と、前記中間層と、前記セパレータとは一体に形成された焼結板である、
請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記中間層の厚みが1μm以上50μm以下である、請求項1または請求項2に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記中間層の気孔率が、15%以上50%以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記中間層を構成する前記酸化物の平均粒子径は、前記酸化物が連続して存在する長さの平均値を平均粒子径とするとき、1μm以上10μm以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記中間層に存在するMgとCoの元素量の比率Mg/Coが、前記セパレータに接する側から前記正極に接する側に向かって減少する、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記中間層が第1部分と第2部分とを有し、前記第1部分の気孔率と前記第2部分の気孔率は互いに相違する、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム二次電池に関する。本出願は、2021年3月30日出願の日本国特許出願2021-58569号に基づく優先権を主張し、前記日本国特許出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池において、リチウム複合酸化物の焼結体で構成される正極層と、チタン含有焼結体で構成される負極層と、正極層と負極層との間に介在されるセラミックセパレータと、を備えるものが公知である。例えば特許文献1は、正極層、セラミックセパレータおよび負極層が互いに結合した一体焼結板で構成され、電解液が含浸されたリチウム二次電池を開示している。特許文献1に開示されたリチウム二次電池は、セラミックセパレータがMgOおよびガラスで構成される。また、セラミックセパレータに含まれるガラス粒子は、負極層とセパレータとの界面において特定の配向を有する。
【0003】
また、特許文献2は、正極層、セラミックセパレータおよび負極層が互いに結合した一体焼結板で構成され、電解質が含浸されたリチウム二次電池を開示している。特許文献2に開示されたリチウム二次電池は、負極層を構成するチタン含有焼結体が特定の組成を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2019/221144号公報
【文献】特許第6643528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池が使用される機器類の発展に従って、高速で充放電を繰り返す場合にも放電容量が維持される、耐久性に優れたリチウム二次電池が望まれている。
【0006】
そこで、高速で充放電を繰り返す場合にも放電容量が維持される、耐久性に優れたリチウム二次電池を提供することを、本開示に係る発明の目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に従ったリチウム二次電池は、コバルト酸リチウムを含む焼結体からなる正極と、負極と、前記正極及び前記負極との間に介在するマグネシアを含む焼結体からなるセパレータと、を備える。さらに、前記リチウム二次電池は、前記正極と前記セパレータとの間に、Co及びMgを含む酸化物を含む中間層を備える。
【発明の効果】
【0008】
上記リチウム二次電池によれば、高速で充放電を繰り返す場合にも放電容量が維持される、耐久性に優れたリチウム二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示に従うリチウム二次電池の構造を示す概略断面図である。
【
図2】
図2は、本開示に従うリチウム二次電池の正極とセパレータ、中間層のSEM写真画像である。
【
図3】
図3は、
図2に示されたマーキングポイント4~7の各点におけるEDS分析結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、本開示に従うリチウム二次電池の正極とセパレータ、中間層のSEM写真画像である。
【
図5】
図5は、
図4における中間層部分の白黒二値化画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。本開示のリチウム二次電池は、コバルト酸リチウムを含む焼結体からなる正極と、負極と、前記正極及び前記負極との間に介在するマグネシアを含む焼結体からなるセパレータと、を備える。前記リチウム二次電池は、さらに、前記正極と前記セパレータとの間に、Co及びMgを含む酸化物を含む中間層を備える。
【0011】
従来、リチウム二次電池において、充放電の繰り返しに伴って充放電特性が低下する現象が公知である。また、高速で充放電を繰り返す場合にこの現象が顕著になることも公知である。そこで発明者らは、高速で充放電を繰り返す場合にも放電容量が維持される、耐久性に優れたリチウム二次電池を提供するために検討を重ねた。発明者らは、正極層とセラミックセパレータと負極層とが互いに結合した一体焼結板タイプのリチウム二次電池に着目して検討を進めた。そして、リチウム複合体酸化物を含有する正極と、マグネシアを含有するセパレータとが一体焼成された焼結体において、長期にわたって繰り返し充放電が行われた場合、正極とセパレータとの接合界面において、界面破壊が生じうることを見出した。
【0012】
正極とセパレータとの接合界面が破壊されると、正極、セパレータ、負極の対向位置にずれが生じる可能性がある。対向位置にずれが生じると、正極と負極との間での直接的な電子の授受が生じ、微小短絡電流が流れる可能性がある。正極と負極との短絡は、放電容量が著しく損なわれる原因となる。
【0013】
発明者らによって、正極とセパレータとの界面において破壊が生じる一因は、充放電に伴って正極に体積変化が発生する一方で、セパレータには体積変化が発生しないことであることが見出された。そして、検討の結果、コバルト酸リチウムを含む正極層とマグネシアを含むセパレータとの間に、特定の組成を有する中間層を設けることによって、充放電特性の低下が抑制されることが見出された。
【0014】
特定の理論に拘束されるものではないが、本開示のリチウム二次電池は、コバルト酸リチウムを含む正極層とマグネシアを含むセパレータとの間に、コバルト(Co)及びマグネシウム(Mg)を含む酸化物を含む中間層を含むことによって、正極とセパレータとの界面の破壊が抑制されると考えられている。このことによって、高速で充放電を繰り返した際の放電容量の低下が抑制され、高速で充放電を繰り返す場合にも放電容量が維持される、耐久性に優れたリチウム二次電池が得られると考えられている。
【0015】
上記リチウム二次電池において、セパレータは、第1主面と、厚み方向において前記第1主面とは反対側に位置する第2主面とを含む板状のセパレータであり、前記正極と、前記中間層と、前記セパレータとは一体に形成された焼結板であるものとできる。かかる形態とすることによって、正極とセパレータの一体性を向上させ、小型でかつエネルギー密度の高いリチウム二次電池を提供できる。
【0016】
上記リチウム二次電池において、中間層の厚みは1μm以上50μm以下であってよい。中間層の厚みがこの範囲であるとき、特にサイクル特性が良好なリチウム二次電池が得られる。言い換えると、繰り返しの充放電を行う場合の放電性能の劣化を抑制する効果が大きい。中間層の厚みが1μm以上であれば、中間層が存在することによる効果がより明確となる。また、中間層の厚みが50μm以下であれば、中間層によってリチウムイオンの拡散が阻害される程度が充分に低く、サイクル特性を向上させることができると考えられる。
【0017】
上記リチウム二次電池において、前記中間層の気孔率は15%以上50%以下であるものとできる。中間層の気孔率がこの数値範囲内であることによって、気孔内に容易に隙間なく電解質を満たすことが可能となる。これにより中間層が充放電時のLiの正負極間の移動を著しく阻害することなく、より高速での充放電が可能となる。
【0018】
上記リチウム二次電池において、中間層を構成する平均粒子径は1μm以上10μm以下であるものとできる。ここで、平均粒子径は、中間層を構成する酸化物が連続して存在する長さの平均値である。中間層が粒子の集合によって形成される形態であり、さらに、粒子の平均粒子径がこの数値範囲内であることによって、粒子間の焼結強度が向上し、中間層内での凝集破壊が生じ難くなり、充放電特性を維持する効果が一層向上する。
【0019】
上記リチウム二次電池において、中間層に存在するMgとCoの元素量の比率Mg/Coが、前記セパレータに接する側から前記正極に接する側に向かって減少するものとできる。中間層において、マグネシアを含むセパレータに近い側では相対的にMgの含有比率が高く、コバルトを含む正極に近い側では相対的にCoの含有比率の高いものとすることによって、中間層とセパレータの連続性、中間層と正極の連続性が一層向上する。このため、界面破壊が生じ難くなり、充放電特性を維持する効果が一層向上する。
【0020】
上記リチウム二次電池において、中間層が第1部分と第2部分とを有し、前記第1部分の気孔率と前記第2部分の気孔率は互いに相違するものとできる。言い換えれば、中間層は、互いに気孔率の異なる第1部分と第2部分とを有するものとできる。気孔率の異なる部分を有することによって、正極層の膨張収縮によるひずみの伝搬を一層抑制することができ、中間層とセパレータ、中間層と正極の連続性が一層向上し、界面破壊が生じ難くなり、充放電特性を維持する効果が一層向上する。
【0021】
[実施形態の具体例]
次に、本開示のリチウム二次電池の具体的な実施形態を、図面を参照しつつ説明する。以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0022】
(実施の形態1)
(リチウム二次電池)
図1は、本開示に従う一実施態様であるリチウム二次電池の構造を示す概略断面図である。
図1を参照して、リチウム二次電池10は、正極層12と、負極層16と、セパレータ20と、中間層15と、電解液22と、外装体24とを備える。正極層12は、コバルト酸リチウムを含む焼結体で構成される。負極層16は、例えばチタン含有焼結体で構成される。セパレータ20は、セラミック製であり、正極層12と負極層16との間に介在される。正極層12とセパレータ20との間に、中間層15が存在する。電解液22は、正極層12、負極層16、中間層15及びセパレータ20に含浸される。
【0023】
外装体24は密閉空間を備えており、この密閉空間内に正極層12、中間層15、負極層16、セパレータ20及び電解液22が収容される。正極層12、中間層15、セパレータ20及び負極層16は、全体として1つの一体焼結体板を形成している。すなわち、正極層12、中間層15、セパレータ20及び負極層16が互いに結合している。なお、本明細書において、「1つの一体焼成板を形成している」とは、正極層12、中間層15、セパレータ20及び負極層16の4層が、接着剤等の他の結合手法に頼ることなく互いに接続し、結合されていることを意味する。また、正極層12、中間層15およびセパレータ20が一体焼結板を形成しており、負極層16は当該一体焼成板とは別に形成された焼結体であってもよい。
【0024】
外装体24はリチウム二次電池10のタイプに応じて適宜選択すればよい。例えば、リチウム二次電池が
図1に示されるようなコイン形電池の形態の場合、外装体24は、典型的には、正極缶24a、負極缶24b及びガスケット24cを備え、正極缶24a及び負極缶24bがガスケット24cを介してかしめられて密閉空間を形成している。正極缶24a及び負極缶24bはステンレス鋼等の金属製であることができ、特に限定されない。ガスケット24cはポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、PFA樹脂等の絶縁樹脂製の環状部材であることができ、特に限定されない。
【0025】
図1に示されるリチウム二次電池10はコイン形電池の形態であるが、本開示に従うリチウム二次電池の形態はこれに制限されない。例えば、チップ型二次電池、パウチ型二次電池を含む薄型二次電池等の他の形態であってもよい。リチウム二次電池がカードに内蔵可能なチップ電池である場合、外装体が樹脂基材であり、電池要素(すなわち正極層12、負極層16、セラミックセパレータ20及び電解液22)は、樹脂基材内に埋設されるのが好ましい。例えば、リチウム二次電池がパウチ型二次電池である場合、電池要素が1対の樹脂フィルムに挟み込まれたものであってよい。一対の樹脂フィルムは、互いに接着剤で貼り合わされたものであってよい。また、一対の樹脂フィルムは、加熱プレスで樹脂フィルム同士が熱融着されていてもよい。
【0026】
図1を参照して、リチウム二次電池10は、正極集電体14および負極集電体18を備える。正極集電体14および負極集電体18は、特に限定されないが、好ましくは銅箔やアルミニウム箔等の金属箔である。正極集電体14は、正極層12と外装体24(例えば正極缶24a)との間に配置されるのが好ましい。負極集電体18は、負極層16と外装体24(例えば負極缶24b)との間に配置されるのが好ましい。また、正極層12と正極集電体14との間には、接触抵抗低減の観点から正極側カーボン層13が設けられるのが好ましい。同様に、負極層16と負極集電体18との間には接触抵抗低減の観点から負極側カーボン層17が設けられるのが好ましい。正極側カーボン層13及び負極側カーボン層17は、いずれも導電性カーボンで構成されるのが好ましく、例えば導電性カーボンペーストをスクリーン印刷等により塗布することにより形成すればよい。
【0027】
(正極層)
正極層12は、コバルト酸リチウムを含む板状の焼結体で構成される。正極層12はバインダーや導電助剤を含まないものとできる。コバルト酸リチウムとして、具体的には例えば、LiCoO2(以下、LCOと略称することがある)が挙げられる。板状に形成されるLCO焼結体としては、例えば特許第5587052号公報、国際公開第2017/146088号に開示されるものを用いることができる。正極層12は、コバルト酸リチウムで構成される複数の一次粒子を含み、複数の一次粒子が正極層の層面に対して0°超30°以下の平均配向角度で配向している、配向正極層であることが好ましい。このような配向正極層の構造、組成、特定方法は、例えば特許文献1(国際公開第2019/221144号公報)に開示されるものが挙げられる。
【0028】
一次粒子を構成するコバルト酸リチウムとして、LCOのほかに、例えば、LixNiCoO2(ニッケル・コバルト酸リチウム)、LixCoNiMnO2(コバルト・ニッケル・マンガン酸リチウム)、LixCoMnO2(コバルト・マンガン酸リチウム)等が挙げられる。また、コバルト酸リチウムとともに、その他のリチウム複合酸化物を含んでもよい。リチウム複合酸化物としては例えば、LixMO2(式中、0.05<x<1.10であり、Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、Mは典型的にはCo、Ni及びMnの1種以上を含む)で表される酸化物が挙げられる。
【0029】
正極層12を構成する複数の一次粒子の平均粒径は、5μm以上であることが好ましい。具体的には、平均配向角度の算出に用いる一次粒子の平均粒径が、5μm以上であることが好ましく、より好ましくは7μm以上、さらに好ましくは12μm以上である。
【0030】
正極層12は気孔を含んでいてもよい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、正極層として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。正極層12における気孔率は、20~60%であるのが好ましく、より好ましくは25~55%、さらに好ましくは30~50%、特に好ましくは30~45%である。焼結体の気孔率は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0031】
正極層12の平均気孔径は0.1~10.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.2~5.0μm、さらに好ましくは0.25~3.0μmである。上記範囲内であると、大きな気孔の局所における応力集中の発生を抑制して、焼結体内における応力が均一に開放されやすくなる。また、気孔による電解液の内部浸透によるリチウムイオン伝導性の向上をより効果的に実現することができる。
【0032】
正極層12の厚さは60~600μmであるのが好ましく、より好ましくは60~500μm、さらに好ましくは70~400μmである。このような範囲内であると、単位面積当りの活物質容量を高めてリチウム二次電池10のエネルギー密度を向上するとともに、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に抵抗値の上昇)を抑制できる。
【0033】
(セパレータ)
セパレータ20は、第1主面と、厚み方向において前記第1主面とは反対側に位置する第2主面とを含む板状のセパレータである。セパレータ20の第1主面には、負極層16が接して配置されている。セパレータ20の第2主面側には、中間層15が配置されており、セパレータ20と中間層15とは一体に焼結されて連続している。セパレータ20は、セラミック製の微多孔膜である。セパレータ20は、耐熱性に優れるとともに、正極層12および中間層15と一緒に全体として1つの一体焼結体板として製造できる。一体焼結板において、さらに負極層16も一体とされていてもよい。
【0034】
セパレータ20は、マグネシア(MgO)を含む。具体的には例えば、マグネシア(MgO)及びガラスで構成されるものとできる。セパレータ20において、MgO及びガラスは、焼結によって互いに結合された粒子形態で存在する。セパレータ20に含まれるセラミックは、MgOおよびガラスのほか、Al2O3、ZrO2、SiC、Si3N4、AlN等を含んでもよい。
【0035】
セパレータ20に含まれるガラスは、SiO2を好ましくは25重量%以上、より好ましくは30~95重量%、さらに好ましくは40~90重量%、特に好ましくは50~80重量%含む。セパレータ20におけるガラスの含有量は、セパレータ20の全体重量に対して、好ましくは3~70重量%であり、より好ましくは5~50重量%、さらに好ましくは10~40重量%、特に好ましくは15~30重量%である。この範囲内であるとき、高い歩留まりと優れた充放電サイクル特性との両立を効果的に実現できる。セパレータ20へのガラス成分の添加は、セパレータの原料粉末にガラスフリットを添加することにより行われるのが好ましい。ガラスフリットは、SiO2以外の成分として、Al2O3、B2O3及びBaOのいずれか一つ以上を含むのが好ましい。
【0036】
セパレータ20の厚さは、5~50μmであるのが好ましく、より好ましくは5~40μm、さらに好ましくは5~35μm、特に好ましくは8~30μmである。セパレータ20の気孔率は30~85%が好ましく、より好ましくは40~80%である。
【0037】
(中間層)
中間層15は、正極層12とセパレータ20との間に形成される層である。中間層15の第1の主面側には正極層12が、第2の主面側にはセパレータ20が、それぞれ一体に焼結されている。中間層15と、その両側に存在する正極層12およびセパレータ20とは、主に組成の違いによって区別されうる。一体に焼結された正極層12、中間層15およびセパレータ20の複合体において中間層15の位置を特定する方法は、実施例に詳述される。
【0038】
中間層15は、コバルト(Co)及びマグネシウム(Mg)を含む酸化物を含む。コバルトおよびマグネシウムを含む酸化物としては例えば、LCOとMgOが3:1~5:1の割合で混合された組成物が挙げられる。コバルトを含む酸化物としては、LCOに限定されず、例えばCoO、Co3O4、Co2O3、CoFe2O4、CoMoO4、CoTiO3、CoWO4等が挙げられる。Mgを含む酸化物としては、MgOに限定されず、例えばMgAl2O4、MgFe2O4、MgMoO4、MgTiO3、MgWO4、MgSiO3等が挙げられる。また、コバルトおよびマグネシウムを含む酸化物は、コバルトとマグネシウムとが固溶状態で存在する酸化物(Cox,Mgy)O(式中、x+y=1)や(Cox,Mgy)3O4(式中、x+y=1)であってもよい。また、これらの酸化物の混合物であってもよい。
【0039】
中間層15の厚さは、特に制限されないが、好ましくは0.5~70μmであり、より好ましくは1~50μmである。中間層15の厚さが1μm以上であれば、充放電を繰り返した場合であっても、正極12とセパレータ20との間の界面破壊を防止する効果が得られると考えられている。また、中間層15の厚さが50μm以下であれば、正極12と負極16との距離が離れすぎることがなく、充放電の際にリチウムイオンの拡散が阻害される程度が充分に低く、サイクル特性を向上させることができると考えられている。
【0040】
中間層15は、複数の(すなわち多数の)一次粒子が結合した構造を有している。これらの一次粒子がコバルト(Co)及びマグネシウム(Mg)を含む酸化物で構成されていることが好ましい。中間層15を構成する複数の一次粒子の平均粒子径である一次粒径は、20μm以下が好ましく、より好ましくは0.5~15μm、さらに好ましくは1~10μmである。これらの範囲内であるとき、粒子間の焼結強度が向上し、中間層内での凝集破壊が生じ難くなり、充放電特性を維持する効果が一層向上する。平均粒子径は、中間層を構成する酸化物が連続して存在する長さの平均値であり、具体的な測定方法は実施例に詳述される。
【0041】
中間層15は、気孔を含んでいることが好ましい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、正極層12と一体に電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。中間層15の気孔率は5~60%が好ましく、より好ましくは10~55%、さらに好ましくは15~50%である。また、中間層15の平均気孔径は0.05~20μmであってよく、好ましくは0.1~15μm、より好ましくは0.15~10μmである。
【0042】
中間層15は、その厚み方向における全域において均一の組成であってもよく、厚み方向に組成に変化があってもよい。具体的には例えば、中間層の厚み方向において、MgとCoの元素量の比率(例えばMg/Co)が変化してもよい。具体的には例えば、中間層15において、セパレータ20に接する側から正極12に接する側に向かってMg/Co減少することが好ましい。言い換えると、中間層15におけるセパレータ20に近い側では、正極12に近い側よりもMgの含有比率が高いことが好ましい。中間層15における元素の含有比率を測定する方法は、実施例に詳述される。
【0043】
中間層15は、単一の部分から構成されていてもよく、2以上の部分を含んで構成されていてもよい。具体的には、第1部分および第2部分である2部分を含んでもよく、第1部分、第2部分および第3部分である3部分を含んでもよい。2以上の部分を含む場合、各部分同士は、互いに異なる組成、物性および/または構造を有してよい。例えば、中間層15における第1部分と第2部分において、第1部分と第2部分は、互いに気孔率が異なっていてもよい。言い換えると、中間層15は、気孔率が異なる2以上の部分を含んでもよい。例えば、第1部分の気孔率が5~20%であり、第2部分の気孔率が20~60%であるものとできる。この場合、第1部分は、セパレータ20に接する界面付近又は正極層12に接する界面付近に設け、第2部分は、セパレータ20又は正極層12に接しない内部に設ける構成とすることが良い。また、例えば、中間層15は第1部分、第2部分および第3部分の3部分からなるものとできる。この場合、好ましくは例えば、正極12に近い第1部分およびセパレータ20に近い第3部分の気孔率が相対的に低く、中間に位置する第2部分の気孔率が相対的に高い構成としてもよい。このような構成にすることで、正極層12の膨張収縮によるひずみの伝搬を一層抑制することができ、中間層15とセパレータ20、中間層20と正極層12の連続性が一層向上し、界面破壊が生じ難くなり、充放電特性を維持する効果が一層向上する。
【0044】
正極層12およびセパレータ20と一体的に焼成される中間体15は、例えば、正極グリーンシートとセパレータグリーンシートとの間に、中間層グリーンシートを挟んで焼成することによって得られる。また、正極グリーンシートとセパレータグリーンシートの焼成において、特定の焼成条件とすることによって、中間層を生成させることもできる。これらの方法は、実施例において詳述される。
【0045】
(負極層)
負極層16は、例えば、チタン含有組成物を含む板状の焼結体で構成される。負極層16は、バインダーや導電助剤を含まないものとできる。チタン含有焼結体は、チタン酸リチウムLi4Ti5O12(以下、LTO)又はニオブチタン複合酸化物Nb2TiO7を含むのが好ましく、より好ましくはLTOを含む。なお、LTOは典型的にはスピネル型構造を有するものとして知られているが、充放電時には他の構造も採りうる。例えば、LTOは充放電時にLi4Ti5O12(スピネル構造)とLi7Ti5O12(岩塩構造)の二相共存にて反応が進行する。したがって、LTOはスピネル構造に限定されるものではない。LTOはその一部が他の元素で置換されてもよい。他の元素の例としては、Nb、Ta、W、Al、Mg等が挙げられる。LTO焼結体は、例えば、特開2015-185337号公報に記載される方法に従って製造することができる。
【0046】
負極層16は、複数の(すなわち多数の)一次粒子が結合した構造を有している。これらの一次粒子がLTO又はNb2TiO7で構成されていることが好ましい。負極層16は、正極12、中間層15およびセパレータ20とともに一体焼結体として構成されていてもよい。また、負極層16は、正極12、中間層15およびセパレータ20の一体焼結体とは別の焼結体として構成され、リチウム二次電池1において組み合わせられていてもよい。
【0047】
負極層16の厚さは、70~800μmが好ましく、より好ましくは70~700μmが好ましく、さらに好ましくは85~600μm、特に好ましくは95~500μmである。負極層16を構成する複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径は、1.2μm以下が好ましく、より好ましくは0.02~1.2μm、さらに好ましくは0.05~0.7μmである。
【0048】
負極層16は気孔を含んでいるのが好ましい。焼結体が気孔、特に開気孔を含むことで、負極層として電池に組み込まれた場合に、電解液を焼結体の内部に浸透させることができ、その結果、リチウムイオン伝導性を向上することができる。負極層16の気孔率は20~60%が好ましく、より好ましくは30~55%、さらに好ましくは35~50%である。負極層16の平均気孔径は0.08~5.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.1~3.0μm、さらに好ましく0.12~1.5μmである。
【0049】
負極層16は、セラミック焼結体で構成されるものに限定されず、いわゆる塗工電極であってもよい。例えば、負極層16は、LTOやグラファイト等の活物質と、PVDF等のバインダーとの混合物を含むカーボン塗工膜であってもよい。
【0050】
(電解液)
電解液22は特に限定されず、リチウム二次電池における電解液として公知の電解液が用いられうる。例えば、溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピレンカーボネート(PC)およびγ-ブチロラクトン(GBL)から選択される1種または2種以上の組み合わせを用いることができる。溶媒に溶解される電解質として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)、ホウフッ化リチウム(LiBF4)等のリチウム塩化合物が用いられ得る。電解液22は添加剤としてビニレンカーボネート(VC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、及びリチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート(LiDFOB)から選択される少なくとも1種をさらに含むものであってもよい。
【0051】
電解液22における電解質の濃度は、0.5~2mol/Lであるのが好ましく、より好ましくは0.6~1.9mol/L、さらに好ましくは0.7~1.7mol/L、特に好ましくは0.8~1.5mol/Lである。
【0052】
また、電解質として、電解液22以外に、固体電解質やポリマー電解質を用いることができる。その場合には、電解液22の場合と同様、少なくともセパレータ20の気孔内部に電解質が含浸されていることが好ましい。含浸方法は特に限定されないが、例として、電解質を溶融してセパレータ20の気孔内に浸入させる方法、電解質の圧粉体をセパレータ20に押し当てる方法等が挙げられる。
【0053】
[実施例]
以下、実施例および比較例を示して本開示のリチウム二次電池をより詳しく説明する。
[実施例1]
以下の1~3に記載の方法に従ってリチウム二次電池を作製した。得られたリチウム二次電池について、4、5に記載の方法によって、評価を行った。
【0054】
1.セパレータ一体正極の作製
1a.LCOグリーンシート(正極グリーンシート)の作製
まず、Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo3O4粉末(正同化学工業株式会社製)とLi2CO3粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合後、780℃で5時間保持し、得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が0.4μmとなるように粉砕して、LCO板状粒子からなる粉末を得た。得られたLCO粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)10重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LCOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCOグリーンシートを形成した。LCOグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが200μmになるようにした。
【0055】
1b.MgOグリーンシート(セパレータグリーンシート)の作製
炭酸マグネシウム粉末(神島化学工業株式会社製)を900℃で5時間熱処理してMgO粉末を得た。得られたMgO粉末とガラスフリット(日本フリット株式会社製、CK0199)を重量比4:1で混合した。得られた混合粉末(体積基準D50粒径0.4μm)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、スラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、MgOグリーンシートを形成した。MgOグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが10μmになるようにした。
【0056】
1c.LCO-MgO混合グリーンシート(中間層グリーンシート)の作製
まず、Li/Coのモル比が1.01となるように秤量されたCo3O4粉末(正同化学工業株式会社製)とLi2CO3粉末(本荘ケミカル株式会社製)を混合後、780℃で5時間保持し、得られた粉末をポットミルにて体積基準D50が7μmとなるように粉砕してLCO板状粒子からなる粉末を得た。
次いで、炭酸マグネシウム粉末(神島化学工業株式会社製)を900℃で5時間熱処理してMgO粉末を得た。
得られたLCO粉末とMgO粉末を重量比4:1で混合した。得られた混合粉末100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、スラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LCO-MgO混合グリーンシートを形成した。LCO-MgO混合グリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが15μmになるようにした。
【0057】
1d.セパレータ一体正極板の作製(グリーンシートの積層、圧着及び焼成)
正極グリーンシート、中間層グリーンシート及びセパレータグリーンシートを順に積み重ね、得られた積層体をCIP(冷間等方圧加圧法)により200kgf/cm2でプレスしてグリーンシート同士を圧着した。こうして圧着された積層体を打ち抜き型で直径10mmの円板状に打ち抜いた。得られた円板状積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで800℃まで昇温して10分間保持する焼成を行い、その後冷却した。こうして、正極層(LCO焼結体層)、中間層及びセパレータ層(MgOセパレータ層)の3層を含むセパレータ一体正極板を得た。
【0058】
1e.導電性カーボンペーストによる正極集電体の接着
アセチレンブラックとポリアミドイミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを導電性接着剤として調製した。次いで、正極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(すなわち導電性カーボンペーストで塗布された領域)内に収まるように、セパレータ一体正極板を、正極面が接着されるように載置し、60℃で30分間真空乾燥させることで、セパレータ一体正極板と正極集電体とが正極側カーボン層を介して接着されたセパレータ一体正極を作製した。なお、正極側カーボン層の厚さは10μmとした。
【0059】
2.負極の作製
2a.LTOグリーンシート(負極グリーンシート)の作製
まず、LTO粉末(体積基準D50粒径0.06μm、シグマアルドリッチジャパン合同会社製)100重量部と、分散媒(トルエン:イソプロパノール=1:1)100重量部と、バインダー(ポリビニルブチラール:品番BM-2、積水化学工業株式会社製)20重量部と、可塑剤(DOP:Di(2-ethylhexyl)phthalate、黒金化成株式会社製)4重量部と、分散剤(製品名レオドールSP-O30、花王株式会社製)2重量部とを混合した。得られた負極原料混合物を減圧下で撹拌して脱泡するとともに、粘度を4000cPに調整することによって、LTOスラリーを調製した。粘度は、ブルックフィールド社製LVT型粘度計で測定した。こうして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によって、PETフィルム上にシート状に成形することによって、LTOグリーンシートを形成した。LTOグリーンシートの厚さは、焼成後の厚さが275μmになるようにした。
【0060】
2b.負極板の作製(LTOグリーンシートの焼成)
LTOグリーンシートを打ち抜き型で直径9.8mmの円板状に打ち抜いた。得られた円板状積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで800℃まで昇温して10分間保持する焼成を行い、その後冷却した。こうして、負極板を得た。
【0061】
2c.導電性カーボンペーストによる負極集電体の接着
アセチレンブラックとポリアミドイミドを質量比で3:1となるように秤量し、溶剤としての適宜量のNMP(N-メチル-2-ピロリドン)とともに混合して、導電性カーボンペーストを導電性接着剤として調製した。次いで、負極集電体としてのアルミニウム箔上に導電性カーボンペーストをスクリーン印刷した。未乾燥の印刷パターン(すなわち導電性カーボンペーストで塗布された領域)内に収まるように、負極板を載置し、60℃で30分間真空乾燥させることで、負極板と負極集電体とが負極側カーボン層を介して接着された負極を作製した。なお、負極側カーボン層の厚さは10μmとした。
【0062】
3.リチウム二次電池の作製
電池ケースを構成することになる正極缶と負極缶との間に、正極缶から負極缶に向かって、正極集電体、正極側カーボン層、セパレータ一体正極板、負極板、負極側カーボン層、並びに負極集電体がこの順に積層されるように収容し、電解液を充填した後に、ガスケットを介して正極缶と負極缶をかしめることによって封止した。こうして、直径12mm、厚さ1.0mmのコインセル形のリチウム二次電池を作製した。このとき、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)及びγ-ブチロラクトン(GBL)を1:3の体積比で混合した有機溶媒に、LiBF4を1.5mol/Lの濃度となるように溶解させた液を用いた。
【0063】
4.中間層の評価
4a.セパレータ一体正極板の組成分析および中間層厚みの測定
セパレータ一体正極板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた断面をSEM観察(日本電子製、JSM-IT-500)した。さらに、得られたSEM像について、セパレータ層/中間層/正極層の積層面に対する垂線上を、セパレータから正極に向かって、EDSにて点分析を実施し、CoとMgの含有元素比率を得た。中間層のSEM像を、EDSにて点分析を実施した際に、Mg/Co<1となった最初の点を中間層のセパレータ側の端部(中間層の始点)とし、Mg/Co<0.01となった最初の点(すなわちCo量に対してMg量が1%未満となる点)を中間層の正極側の端部(中間層の終点)とし、この二点間の距離を中間層厚みとした。
【0064】
4b.セパレータ一体正極の中間層気孔率の測定
セパレータ一体正極板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた断面をSEM観察(日本電子製、JSM-IT-500)した。さらに、得られたSEM像の中間層を構成する部分について、焼結体部と気孔部の境界が損なわれないように、画像解析ソフト「Image J」を用いて二値化処理を施し、焼結体部を白、気孔部を黒とした。得られた二値化像における白部分と黒部分の面積を求め、「黒部分の合計面積/(白部分の合計面積+黒部分の合計面積)×100」の値を算出し、気孔率とした。SEM像を[
図4]に、二値化像を[
図5]にそれぞれ示す。
【0065】
4c.セパレータ一体正極の中間層を構成する粒子径の測定
セパレータ一体正極板をクロスセクションポリッシャ(CP)(日本電子株式会社製、IB-15000CP)により研磨し、得られた断面をSEM観察(日本電子製、JSM-IT-500)した。さらに、得られたSEM像の中間層を構成する部分について、積層面に対する垂線を任意に5本ひき、この垂線上に中間層を構成する酸化物が連続して存在する長さを測長した。こうして得られた連続長さの平均値を平均粒子径とした。
【0066】
5.サイクル特性評価
5a.電池の初期容量評価
得られた電池を用いて、25℃の環境下で電池容量を確認した。充電は0.2Cで定電流充電し、電圧が2.7Vに達するまで行った。放電は0.2Cで定電流放電し、電圧が1.5Vに達するまで行った。こうして得られた放電容量を初期容量とした。
【0067】
5b.高速充放電サイクル試験
次いで、高速充放電サイクル試験を実施した。充放電サイクル試験は25℃の環境下で、充放電を1000回繰り返すことにより行った。充電は、2.7Vで定電圧充電し、電流値が0.2Cに達するまで行った。放電は、1Cで定電流放電し、電圧が1.5Vに達するまで行った。
【0068】
5c.1000サイクル後容量維持率評価
1000サイクル充放電を繰り返した電池について、25℃の環境下で電池容量を確認した。充電は0.2Cで定電流充電し、電圧が2.7Vに達するまで行った。放電は0.2Cで定電流放電し、電圧が1.5Vに達するまで行った。こうして得られた放電容量を1000サイクル後容量とした。また、この値を初期容量で除し、100を乗じることにより、1000サイクル後容量維持率(%)とした。
【0069】
[実施例2]
LCO-MgO混合グリーンシート(中間層グリーンシート)を作製する際に、MgO粉末と混合するLCO粉末の粒子の体積基準D50を0.5μmとし、バインダー量を10重量部としたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0070】
[実施例3]
LCO-MgO混合グリーンシート(中間層グリーンシート)を作製する際に、MgO粉末と混合するLCO粉末の粒子の体積基準D50を4μmとし、バインダー量を8重量部としたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0071】
[実施例4]
LCO-MgO混合グリーンシート(中間層グリーンシート)は作製せず、積層体は、正極グリーンシートとセパレータグリーンシートのみを積み重ね、圧着した。次いで、この圧着した積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで950℃まで昇温して20時間保持する焼成を行い、その後冷却した。こうして、正極層(LCO焼結体層)、中間層及びセパレータ層(MgOセパレータ層)の3層を含むセパレータ一体正極板を得た。これら以外は実施例1と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0072】
実施例4で得られたセパレータ一体正極板のSEM像を[
図2]に示す。また、[
図2]のSEM像中にマークされた中間層(ポイント4~7)の各点におけるEDS分析結果を[
図3]に示す。[
図3]に示されるとおり、四角形のラベルで示されたCoの含有割合は、中間層においてセパレータ側(ポイント4)から正極層側(ポイント7)に向かって増加し、正極層ではCoが100%に近くなった。ひし形のラベルで示されたMgの含有割合は、中間層においてセパレータ側から正極層側にかけて単調減少した。Mg/Coの比率は、中間層においてセパレータ側(ポイント4)から正極層側(ポイント7)にかけて単調
減少した。
【0073】
[実施例5]
圧着した積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで950℃まで昇温して30分間保持する焼成を行ったこと以外は実施例4と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0074】
[実施例6]
LCO-MgO混合グリーンシート(中間層グリーンシート)を作製する際に、MgO粉末と混合するLCO粉末の粒子の体積基準D50を10μmとし、バインダー量を30重量部とし、グリーンシートの厚さを、焼成後の厚さが50μmになるようにしたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0075】
[実施例7]
圧着した積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで950℃まで昇温して5分間保持する焼成を行ったこと以外は実施例4と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0076】
[実施例8]
LCO-MgO混合グリーンシート(中間層グリーンシート)を作製する際に、グリーンシートの厚さを、焼成後の厚さが70μmになるようにしたこと以外は実施例6と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0077】
[実施例9]
MgO粉末と混合するLCO粉末の粒子の体積基準D50を0.5μmとし、バインダー量を8重量部とし、グリーンシートの厚さを、焼成後の厚さが5μmになるようにしたものをLCO-MgO混合グリーンシート1(中間層グリーンシート1)とし、混合するLCOの粒子の体積基準D50を7μmとし、バインダー量を20重量部とし、グリーンシートの厚さを、焼成後の厚さが10μmになるようにしたものをLCO-MgO混合グリーンシート2(中間層グリーンシート2)とし、正極グリーンシート、中間層グリーンシート1、中間層グリーンシート2、及びセパレータグリーンシートを順に積み重ねたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0078】
[実施例10]
MgO粉末と混合するLCO粉末の粒子の体積基準D50を0.5μmとし、バインダー量を8重量部とし、グリーンシートの厚さを、焼成後の厚さが5μmになるようにしたものをLCO-MgO混合グリーンシート1(中間層グリーンシート1)とし、混合するLCOの粒子の体積基準D50を7μmとし、バインダー量を20重量部とし、グリーンシートの厚さを、焼成後の厚さが5μmになるようにしたものをLCO-MgO混合グリーンシート2(中間層グリーンシート2)とし、正極グリーンシート、中間層グリーンシート2、中間層グリーンシート1、中間層グリーンシート2及びセパレータグリーンシートを順に積み重ねたこと以外は実施例1と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製し、各種評価を行った。
【0079】
[比較例1]
圧着した積層体を600℃で5時間脱脂した後、1000℃/hで800℃まで昇温して10分間保持する焼成を行ったこと以外は実施例4と同様にして、セパレータ一体正極、負極及びリチウム二次電池を作製した。また、SEM像をEDXにて分析することにより、Co及びMgを含む混合酸化物層からなる中間体が存在しないことを確認し、サイクル特性評価を実施した。
【0080】
実施例1~10および比較例1のリチウム二次電池の評価結果を[表1]に示す。
【0081】
【0082】
表1に示されるとおり、正極とセパレータとの間に中間層を有する実施例1~10では、1000サイクル後の容量維持率が79%~95%であった。すなわち、多数回の充放電を繰り返す場合にも放電容量が維持される、耐久性に優れたリチウム二次電池が得られた。一方、中間層が存在しない比較例1では1000サイクル後の容量維持率が71%となり実施例に及ばない結果となった。また、中間層の厚みが1μm以上50μm以下であるリチウム二次電池(実施例1~5、9,10)では、1000サイクル後の容量維持率が84%~95%となり、サイクル特性がより良好であった。
【0083】
また、実施例1~10の中でも、中間層の気孔率が15%以上50%以下である実施例1,2は、気孔内に容易に隙間なく電解質を満たすことが可能で、これにより中間層が充放電時のLiの正負極間の移動を著しく阻害することなく、より高速での充放電が可能となるという効果があった。
また、実施例1~10の中でも、中間層を構成する平均粒子径が1μm以上10μm以下である実施例1,3,4,9,10は、1000サイクル後の容量維持率がいずれも90%以上であり、特に優れたサイクル特性を示した。
さらに、中間層に存在するMgの元素量の比率が、セパレータに接する側から正極に接する側に向かって減少する実施例4は、1000サイクル後の容量維持率が94%であり、特に優れたサイクル特性を示した。
さらに、気孔率の異なる2層の中間層が形成された実施例9、同じく3層の中間層が形成された実施例10は、1000サイクル後の容量維持率がそれぞれ95%、94%であり、特に優れたサイクル特性を示した。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本開示の範囲は上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって規定され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
10 リチウム二次電池、12 正極層、13 正極側カーボン層、14 正極集電体、15 中間層、16 負極層、17 負極側カーボン層、18 負極集電体、20 セパレータ、22 電解液、24 外装体、24a 正極缶、24b 負極缶、24c ガスケット。