(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】接着剤組成物および物品
(51)【国際特許分類】
C09J 4/00 20060101AFI20250106BHJP
C09J 4/02 20060101ALI20250106BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20250106BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20250106BHJP
C09J 121/00 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
C09J4/00
C09J4/02
C09J7/35
C09J11/06
C09J121/00
(21)【出願番号】P 2023511373
(86)(22)【出願日】2022-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2022015420
(87)【国際公開番号】W WO2022210703
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2021059636
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 伸也
(72)【発明者】
【氏名】栗村 啓之
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/020877(WO,A1)
【文献】特開2020-033395(JP,A)
【文献】国際公開第2005/121266(WO,A1)
【文献】特開2016-155892(JP,A)
【文献】特開2013-112715(JP,A)
【文献】特開2012-102224(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100832(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170955(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/139152(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 4/00
4/02
7/35
11/06
121/00
C08F 285/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーと、
エラストマーと、
重合開始剤と、を含有する接着剤組成物であって、
前記重合性モノマーの少なくとも一部は、極性官能基と炭素-炭素二重結合とを有する高極性モノマーであり、
前記極性官能基は、カルボキシ基、ヒドロキシ基またはリン酸基であり、
前記エラストマーの含有量が前記重合性モノマー100質量部に対して30質量部以上であり、
前記接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を動的粘弾性測定することで求められるガラス転移温度が70℃以上であ
り、
当該接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた、JIS K 7161-2付属書A記載の1BA型ダンベル試験片の、JIS K 7162に準じて引張速度10mm/minで測定される破断伸びが、23℃で30%以上であり、80℃で30%以上であり、
当該接着剤組成物を23℃で24時間硬化して得られた硬化物を、動的粘弾性測定装置を用いて周波数1Hz、測定温度範囲0℃から250℃、昇温速度5℃/min、引っ張りモードで測定したときの、80℃における貯蔵弾性率をE'
80
としたとき、
E'
80
が100MPa以上である接着剤組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の接着剤組成物であって、
当該接着剤組成物を23℃で24時間硬化して得られた硬化物を、動的粘弾性測定装置を用いて周波数1Hz、測定温度範囲0℃から250℃、昇温速度5℃/min、引っ張りモードで測定したときの、23℃における貯蔵弾性率をE'
23とし、80℃における貯蔵弾性率をE'
80としたとき、
E'
80/E'
23が0.2以上である接着剤組成物。
【請求項3】
炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーと、
エラストマーと、
重合開始剤と、を含有する接着剤組成物であって、
前記重合性モノマーの少なくとも一部は、極性官能基と炭素-炭素二重結合とを有する高極性モノマーであり、
前記極性官能基は、カルボキシ基、ヒドロキシ基またはリン酸基であり、
前記エラストマーの含有量が前記重合性モノマー100質量部に対して30質量部以上であり、
前記接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を動的粘弾性測定することで求められるガラス転移温度が70℃以上であ
り、
当該接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた、JIS K 7161-2付属書A記載の1BA型ダンベル試験片の、JIS K 7162に準じて引張速度10mm/minで測定される破断伸びが、23℃で30%以上であり、80℃で30%以上であり、
当該接着剤組成物を23℃で24時間硬化して得られた硬化物を、動的粘弾性測定装置を用いて周波数1Hz、測定温度範囲0℃から250℃、昇温速度5℃/min、引っ張りモードで測定したときの、23℃における貯蔵弾性率をE'
23
とし、80℃における貯蔵弾性率をE'
80
としたとき、
E'
80
/E'
23
が0.2以上である接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1
~3のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
以下[作成条件]のようにして得た試験片を、23℃下、引張速度10mm/minで引張せん断接着試験することで得られる引張せん断接着強度をF
23とし、
以下[作成条件]のようにして得た試験片を、120℃下、引張速度10mm/minで引張せん断接着試験することで得られる引張せん断接着強度をF
120としたとき、
F
120が8MPa以上であり、
F
120/F
23が0.5以上である接着剤組成物。
[作成条件]
(1)冷間圧延鋼板の片面に当該接着剤組成物を塗布して厚み0.1mmの膜を形成する。
(2)前記膜の表面に別の冷間圧延鋼板を重ねて、室温で24時間硬化させて前記膜を硬化させることで試験片を得る。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
当該接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を、動的粘弾性測定装置を用いて、周波数1Hz、測定温度範囲0℃から250℃、昇温速度5℃/min、引っ張りモードで測定することで得られる損失正接(tanδ)-温度曲線において、
前記温度曲線のピークトップ温度が140℃以上であり、
前記温度曲線の半値全幅が50℃以上100℃以下である接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記エラストマーがソフトセグメントユニットを有する接着剤組成物。
【請求項7】
請求項
6に記載の接着剤組成物であって、
前記ソフトセグメントユニットが、ジエン構造、エチレン構造、プロピレン構造、イソプレン構造、ウレタン構造、エチレングリコール構造、プロピレングリコール構造、シリコーン構造およびクロロプレン構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかである接着剤組成物。
【請求項8】
請求項
6または
7に記載の接着剤組成物であって、
前記エラストマー中の前記ソフトセグメントユニットの含有量が、接着剤組成物の全体中、15質量%以上50質量%以下である接着剤組成物。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記エラストマーが、メチル(メタ)アクリレート・ブタジエン・スチレンゴム、および、メチル(メタ)アクリレート・ブタジエン・(メタ)アクリロニトリル・スチレンゴムからなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む接着剤組成物。
【請求項10】
請求項1~
9のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記極性官能基の含有率が、接着剤組成物の全体中、0.002mol/g以上である接着剤組成物。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記極性官能基がカルボキシ基を含む接着剤組成物。
【請求項12】
請求項1~
11のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記重合性モノマーが、(メタ)アクリル酸、無水(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水フマル酸、無水マレイン酸、ならびに、これらのダイマーおよびトリマーからなる群より選ばれる少なくとも1以上を含む接着剤組成物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記重合性モノマーが、以下一般式(I)で表されるモノマーを含む接着剤組成物。
CH
2=CHR
1-COO-R
2 (I)
一般式(I)中、
R
1は水素原子またはメチル基であり、
R
2は環状炭化水素骨格を含む基である。
【請求項14】
請求項
13に記載の接着剤組成物であって、
R
2は多環の環状炭化水素骨格を含む基である接着剤組成物。
【請求項15】
請求項1~
14のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
さらに、安定ラジカルを有する安定ラジカル型化合物を含む接着剤組成物。
【請求項16】
請求項
15に記載の接着剤組成物であって、
前記安定ラジカルがニトロキシドラジカルである接着剤組成物。
【請求項17】
請求項
15または
16に記載の接着剤組成物であって、
前記安定ラジカル型化合物が、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルおよび4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルからなる群より選択される少なくとも一種を含む接着剤組成物。
【請求項18】
請求項
15~
17のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
前記安定ラジカル型化合物の含有量が、前記重合性モノマー100質量部に対して、0.001質量部以上0.5質量部以下である接着剤組成物。
【請求項19】
請求項1~
18のいずれか1項に記載の接着剤組成物であって、
さらに還元剤を含む接着剤組成物。
【請求項20】
請求項
19に記載の接着剤組成物であって、
当該接着剤組成物は、第一剤と第二剤とからなり、使用直前に混合して用いる2剤型の接着剤組成物であり、
前記第一剤が前記重合開始剤を含み、前記第二剤が前記還元剤を含む接着剤組成物。
【請求項21】
請求項1~
20のいずれか1項に記載の接着剤組成物の硬化物を含む物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物および物品に関する。より具体的には、接着剤組成物と、その接着剤組成物の硬化物を備える物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車メーカーは二酸化炭素排出量を削減するため、車両の軽量化についての検討を進めている。この検討の中で、鉄以外の様々な軽量化素材を接着剤により接着することが検討されている。
【0003】
自動車の製造に適用することが意図された接着剤として、例えば、以下の特許文献1および2に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、自動車の製造に用いられる接着剤としての利用を意図した、以下(A)~(D)を含有する組成物が記載されている。
(A)数平均分子量が5000以上のウレタン(メタ)アクリレートを、(A)と(B)の合計100質量部に対して40~75質量部
(B-1)ウレタン結合を有さない(メタ)アクリレートおよび(B-2)(メタ)アクリル酸を(A)と(B)の合計100質量部に対して15~25質量部を含有する(B)(メタ)アクリル化合物
(C)重合開始剤
(D)還元剤
【0005】
特許文献2には、フリーラジカル開始剤を含む第1剤と、還元剤を含む第2剤とからなる2液型接着剤が記載されている。この2液型接着剤は、メチルメタクリレートである第1モノマーと、メタクリル酸、芳香族ポリオール又はその誘導体の多官能(メタ)アクリル酸付加物、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される第2モノマーとを含む。この2液型接着剤の硬化物の重ね合わせ剪断強度は、25℃で20MPa以上、120℃で7MPa以上であり、25℃でのT型剥離試験による接着力は、2kN/m以上であり、ガラス転移温度は130℃以上である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2020/100832号
【文献】特開2016-155892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車の製造おいては、通常、電着塗装後の乾燥炉での加熱処理などの高温処理が行われる。よって、自動車の製造に用いられる接着剤には耐熱性が求められる。
また、接着剤をエンジンルームなどの高温にさらされる部位に使用する際には、当然、接着剤に高い耐熱性が求められる。
【0008】
本発明者らは、今回、耐熱性が良好であり、自動車の製造に好ましく用いられる接着剤組成物を提供することを目的の1つとして、検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
【0010】
本発明によれば、
炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーと、
エラストマーと、
重合開始剤と、を含有する接着剤組成物であって、
前記重合性モノマーの少なくとも一部は、極性官能基と炭素-炭素二重結合とを有する高極性モノマーであり、
前記エラストマーの含有量が前記重合性モノマー100質量部に対して30質量部以上であり、
前記接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を動的粘弾性測定することで求められるガラス転移温度が70℃以上である接着剤組成物
が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、
上記の接着剤組成物の硬化物を含む物品
が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐熱性が良好であり、例えば自動車の製造に好ましく用いられる接着剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0014】
本明細書中、数値範囲の説明における「X~Y」との表記は、特に断らない限り、X以上Y以下のことを表す。例えば、「1~5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書中、接着剤が第1剤と第2剤の2剤型である場合、各成分の使用量は、第1剤と第2剤の合計に対する量を表すことが好ましい。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」などの類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
【0015】
<接着剤組成物>
本実施形態の接着剤組成物は、炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーと、エラストマーと、重合開始剤と、を含有する。炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーとしては、炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーが好ましい。炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーの少なくとも一部は、極性官能基と炭素-炭素二重結合とを有する高極性モノマーである。
本実施形態の接着剤組成物において、エラストマーの含有量は、重合性モノマー100質量部に対して30質量部以上である。
また、本実施形態の接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を、動的粘弾性測定することで求められるガラス転移温度は、70℃以上、好ましくは70℃以上220℃以下、より好ましくは140℃以上220℃以下である。
【0016】
本実施形態の接着剤組成物は、高極性モノマー中の極性官能基の極性に起因して、基材と強く相互作用すると考えられる。このことが、良好な耐熱性、例えばヒートサイクル試験を経ても剥離が抑えられることにつながっていると推測される。
また、本実施形態の接着剤組成物は、エラストマーの含有量が比較的多いことにより、高温に晒されても過度な硬化が抑えられて「伸びやすさ」が維持されると考えられる。伸びやすさが維持されることにより、加熱や冷却による応力が緩和されやすくなり、接着剤の硬化物の耐熱性が高まると考えられる。
さらに、本実施形態の接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を動的粘弾性測定することで求められるガラス転移温度が70℃以上である、つまり、硬化物のガラス転移温度が比較的高いことも、良好な耐熱性に寄与していると考えられる。
【0017】
本実施形態の接着剤組成物の製造方法の詳細は後述するが、ここでも簡単に述べておく。
本実施形態の接着剤組成物の製造にあたっては、性能や諸物性の向上のため、以下で説明する各成分を単に混合するのではなく、各成分の混合の順序、混合方法などを適切に調整することが好ましい。例えば、後掲の実施例で示すように、まず、エラストマーと重合性モノマーの一部とを十分均一に混合して混合物とし、その後、その混合物に他の成分を添加して攪拌することが好ましい。こうすることで、エラストマーと重合性モノマーとの望ましくない分離が抑えられ、より良好な特性の接着剤組成物を製造することができると考えられる。
また、本実施形態の接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を動的粘弾性測定することで求められるガラス転移温度を70℃以上とするためには、例えば後述の一般式(I)で説明しているような、環状炭化水素骨格を含むモノマーを適量用いることが好ましい。
【0018】
以下、本実施形態の接着剤組成物が含むことができる成分、本実施形態の接着剤組成物の物性などについて説明を続ける。
【0019】
(炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマー)
本実施形態の接着剤組成物は、炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマー、好ましくは重合性炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーを含む。重合性炭素-炭素二重結合としては、(メタ)アクリロイル基が有する重合性炭素-炭素二重結合を好ましく挙げることができる。換言すると、重合性モノマーは、好ましくは、(メタ)アクリロイル基を有する。
重合性モノマーの少なくとも一部は、極性官能基と炭素-炭素二重結合とを有する重合性モノマー(高極性モノマー)である。また、重合性モノマーは、それ以外のモノマー、例えば後掲する単官能モノマーや多官能モノマーを含むことが好ましい。
以下、各モノマーについて説明する。
【0020】
・極性官能基と炭素-炭素二重結合とを有する重合性モノマー(高極性モノマー)
本実施形態の接着剤組成物は、極性官能基と炭素-炭素二重結合とを有する重合性モノマーを含む。本明細書では、この重合性モノマーを「高極性モノマー」とも表記する。高極性モノマーは、単官能(1のみの重合性炭素-炭素二重結合を有する)でも、多官能(複数の重合性炭素-炭素二重結合を有する)でもよいが、極性基の被着体との相互作用のしやすさの観点で、好ましくは前者である。
【0021】
高極性モノマーが有する極性官能基は、自動車製造で用いられる部材との相互作用などの点で、好ましくはカルボキシ基、ヒドロキシ基またはリン酸基、より好ましくはカルボキシ基またはリン酸基、さらに好ましくはカルボキシ基である。
【0022】
重合性モノマーは、高極性モノマーとして、好ましくは、(メタ)アクリル酸、無水(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸、無水フマル酸、無水マレイン酸、ならびに、これらのダイマーおよびトリマーからなる群より選ばれる少なくとも1以上を含む。
その他、高極性モノマーとしては、リン酸基および(メタ)アクリロイル基を有する化合物、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートなども挙げられる。
【0023】
・1のみの炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマー(単官能モノマー)
本実施形態の接着剤組成物は、重合性モノマーとして、1のみの炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマー(単官能モノマー)を含むことが好ましい。
ちなみに、極性基を有する単官能モノマーは、本明細書においては、上記の高極性モノマーに分類される。
【0024】
重合性モノマーは、単官能モノマーとして、以下一般式(I)で表されるモノマーを含むことが好ましい。
CH2=CHR1-COO-R2 (I)
一般式(I)中、
R1は水素原子またはメチル基であり、
R2は環状炭化水素骨格を含む基であり、好ましくは多環の環状炭化水素骨格を含む基である。R2が含む環状炭化水素骨格は、好ましくは芳香環を含まない脂環式骨格である。
【0025】
一般式(I)で表されるモノマーとしては、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ノルボルネン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なかでも、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレートが好ましい。
重合性モノマーが環状炭化水素骨格を含むモノマーを含むことにより、接着剤組成物の硬化物のガラス転移温度を70℃以上に設計しやすい。
【0026】
また、単官能モノマーとしては、直鎖または分岐アルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。具体的には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸イソヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリルなどを挙げることができる。
【0027】
・2以上の炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマー(多官能モノマー)
本実施形態の接着剤組成物は、重合性モノマーとして、2以上の炭素-炭素二重結とを有する重合性モノマー(多官能モノマー)を含むことが好ましい。硬化後の良好な伸びなどの観点から、多官能モノマーは、典型的には2~6官能、好ましくは2~4官能、より好ましくは2~3官能、さらに好ましくは2官能である。
ちなみに、極性基を有する多官能モノマーは、本明細書においては、上記の高極性モノマーに分類される。
【0028】
多官能モノマーとしては、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-シクロヘキサンジ(メタ)アクリレートなどの脂環式構造を有する多官能(メタ)アクリレートや、エチレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート(EO化BPAジ(メタ)アクリレート)、エチレンオキシド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド付加ビスフェノールFジ(メタ)アクリレートなどの芳香族環構造を有する多官能(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどの脂肪族分岐構造を有する多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0029】
重合性モノマーの量は、接着剤組成物の不揮発成分全体中、例えば40質量%以上80質量%以下、好ましくは50質量%以上70質量%以下である。
複数種の重合性モノマーを併用する場合、重合性モノマー全体を100質量部としたときの各重合性モノマーの比率は以下の通りである。比率を適切に調整することにより、硬化性や、硬化物の伸びなどを一層向上させることができる場合がある。
・高極性モノマー:好ましくは10質量部以上40質量部以下、より好ましくは15質量部以上30質量部以下
・単官能モノマー:好ましくは10質量部以上50質量部以下、より好ましくは20質量部以上40質量部以下
・多官能モノマー:好ましくは5質量部以上30質量部以下、より好ましくは5質量部以上20質量部以下
【0030】
また、単官能モノマーの全量中、一般式(I)で表されるモノマー(環状炭化水素骨格を含む)の比率は、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。単官能モノマーの全量中、一般式(I)で表されるモノマー(環状炭化水素骨格を含む)の比率は、好ましくは100質量%以下である。
【0031】
ちなみに、被着体とのより良好な接着性や、高温での接着強度維持の観点で、接着剤組成物の全体における、高極性モノマーが含む極性官能基の量は、好ましくは0.002mol/g以上、より好ましくは0.002mol/g以上0.05mol/g以下、さらに好ましくは0.0025mol/g以上0.04mol/g以下である。
【0032】
(エラストマー)
本実施形態の接着剤組成物は、エラストマーを含む。
【0033】
エラストマーは、好ましくはソフトセグメントユニットを有する。ソフトセグメントユニットは、具体的には、ジエン構造、エチレン構造、プロピレン構造、イソプレン構造、ウレタン構造、エチレングリコール構造、プロピレングリコール構造、シリコーン構造およびクロロプレン構造からなる群より選ばれる少なくともいずれかである。中でも、ブタジエン構造などのジエン構造が好ましい。
エラストマーは、ソフトセグメントユニット以外に、ハードセグメントを有してもよい。「ソフトセグメント」は、ゴム弾性を示す柔軟性部分を表す。「ハードセグメント」は、塑性変形を防止する架橋ゴムの架橋点の役目を果たす分子拘束部分を表す。
【0034】
エラストマー中のソフトセグメントユニットの含有量は、接着剤組成物の全体中、好ましくは15質量%以上50質量%以下、より好ましくは25質量%以上50質量%以下である。
【0035】
エラストマーは、メチル(メタ)アクリレート・ブタジエン・スチレンゴム、および、メチル(メタ)アクリレート・ブタジエン・(メタ)アクリロニトリル・スチレンゴムからなる群より選ばれる少なくともいずれかを含むことが好ましい。
また、エラストマーとしては、(メタ)アクリロニトリルブタジエンゴムなどを挙げることもできる。
また、エラストマーとしては、ウレタンオリゴマーを挙げることもできる。
【0036】
本実施形態の接着剤組成物は、1のみのエラストマーを含んでもよいし、2以上のエラストマーを含んでもよい。例えば、上記のメチル(メタ)アクリレート・ブタジエン・スチレンゴム、および、メチル(メタ)アクリレート・ブタジエン・(メタ)アクリロニトリル・スチレンゴムからなる群より選ばれる少なくともいずれかと、(メタ)アクリロニトリルブタジエンゴムとを併用してもよい。併用する場合、併用比率は、質量比で、例えば、前者:後者=1:9~9:1、好ましくは、前者:後者=2:8~8:2である。
エラストマーの量は、重合性モノマー100質量部に対して30質量部以上、好ましくは30質量部以上60質量部以下、より好ましくは35質量部以上45質量部以下である。
【0037】
(重合開始剤)
本実施形態の接着剤組成物は、重合開始剤を含む。重合開始剤により重合性モノマーの炭素-炭素二重結合が重合され、物品の接着が可能となる。
【0038】
重合開始剤としては、熱ラジカル重合開始剤が好ましい。熱ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物を好ましく挙げることができる。有機過酸化物としては、クメンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンジハイドロパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ターシャリーブチルパーオキシベンゾエートなどが挙げられる。これらの中では、安定性の点で、クメンハイドロパーオキサイドが好ましい。
ちなみに、重合開始剤と、後述の還元剤とを併用することで、硬化性を一層高めたり、室温硬化を実現できたりする。
【0039】
重合開始剤の量は、重合性モノマー100質量部に対して0.1質量部以上20質量部以下が好ましく、0.4質量部以上10質量部以下がより好ましい。適度に多い量の重合開始剤を用いることで、硬化速度を十分に早くすることができる。一方、重合開始剤の量が多すぎないことにより、十分な貯蔵安定性を得ることができる。
【0040】
(還元剤)
本実施形態の接着剤組成物は、1または2以上の還元剤を含むことが好ましい。重合開始剤と還元剤とを併用することで、硬化性を一層高めたり、室温硬化を実現できたりする。つまり、重合開始剤と還元剤との併用により、接着剤組成物を「23℃で」24時間硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度を70℃以上としやすい。
還元剤は、重合開始剤と反応してラジカルを発生させる公知の還元剤であればよい。還元剤としては、第3級アミン、チオ尿素誘導体、遷移金属塩からなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、遷移金属塩がより好ましい。遷移金属塩としては、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅およびバナジルアセチルアセトナートなどが挙げられる。遷移金属塩の中では、バナジルアセチルアセトナートが好ましい。
【0041】
還元剤を用いる場合、その使用量は、重合性モノマー100質量部に対して0.01質量部以上10質量部以下が好ましく、0.1質量部以上5質量部以下がより好ましい。0.01質量部以上用いることで硬化速度が十分に速くなり、10質量部以下とすることで貯蔵安定性が良好となる。
【0042】
(パラフィン)
本実施形態の接着剤組成物は、パラフィンを含んでもよい。具体的には、空気に接している部分の硬化を迅速にするために各種パラフィン類を使用することができる。パラフィンとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、カルナバろう、蜜ろう、ラノリン、鯨ろう、セレシンおよびカンデリラろう、などが挙げられる。
【0043】
本実施形態の接着剤組成物がパラフィンを含む場合、1のみのパラフィンを含んでもよいし、2以上のパラフィンを含んでもよい。
本実施形態の接着剤組成物がパラフィンを含む場合、その量は、重合性モノマー100質量部に対して、0.01質量部以上3質量部以下が好ましく、0.5質量部以上2質量部以下がより好ましい。ある程度多くの量のパラフィンを用いることで、硬化迅速化の効果を十分に得ることができる。一方、パラフィンの量が多すぎないことにより、十分な接着性を得つつ、硬化迅速化の効果を得ることができる。
【0044】
(その他成分)
本実施形態の硬化性組成物は、上記以外の任意成分を含んでもよいし、含まなくてもよい。
一例として、本実施形態の硬化性組成物は、使用時の膜厚調整のため、スペーサー(粒子)などを含んでもよい。スペーサーは、典型的にはポリオレフィンなどの樹脂製の球状粒子である。
【0045】
別の例として、本実施形態の接着剤組成物は、貯蔵安定性の向上(保管時の変質を抑制)するため、各種の安定剤を含んでもよい。安定剤の種類としては、(i)フェノール系酸化防止剤として知られている化合物、例えば2,2'-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)など、(ii)キノン系化合物、例えばp-ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテルなど、(iii)重合禁止剤として知られている化合物、例えばフェノチアジンなどのアミン系重合禁止剤、クエン酸など、(iv)安定ラジカルを有する安定ラジカル型化合物など、を挙げることができる。中でも接着剤としての性能(引っ張りせん断接着強度や貯蔵弾性率)を損なわず貯蔵安定性を向上させるという点で安定ラジカル型化合物を用いることが望ましい。
【0046】
安定ラジカル型化合物としてはニトロキシドラジカルが好ましい。安定ラジカル型化合物として具体的には、1-オキシル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル、4-メタクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルなどを挙げることができる。安定型ラジカル化合物を用いる場合、これらから1種以上を用いることが好ましい。
【0047】
安定剤として安定ラジカル型化合物を用いる場合、安定ラジカル型化合物の含有量としては、接着剤としての性能を損なわず貯蔵安定性を向上させるという点で、重合性モノマー100質量部に対して、例えば0.001質量部以上1質量部以下、好ましくは0.001質量部以上0.5質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上0.3質量部以下、さらに好ましくは0.02質量部以上0.1質量部以下である。
【0048】
安定ラジカル型化合物などの安定剤を用いる場合、安定剤の含有量、特に安定ラジカル型化合物以外の安定剤の含有量としては、接着剤としての性能を損なわず貯蔵安定性を向上させるという点で、重合性モノマー100質量部に対して、例えば0.001質量部以上1質量部以下、好ましくは0.001質量部以上0.5質量部以下、より好ましくは0.01質量部以上0.3質量部以下、さらに好ましくは0.02質量部以上0.1質量部以下である。
【0049】
(一剤型/二剤型)
本実施形態の接着剤組成物は、いわゆる一剤型であってもよいし、二剤型(別々の容器に充填された2の剤を、使用直前に混合して用いる形態)であってもよい。
二剤型の場合、好ましくは、重合開始剤が第一剤に、還元剤が第二剤に、それぞれ含まれる。ただし、第3級アミンは第一剤に含まれることが好ましく、チオ尿素誘導体や遷移金属塩は第二剤に含まれることが好ましい。
ちなみに、本実施形態の接着剤組成物が二剤型である場合、第一剤と第二剤とを混合した後の接着剤組成物が、上述の各成分の好適含有量の範囲で各成分を含むように、第一剤および第二剤中の各成分の量を調整することが好ましい。また、本明細書で記載している接着剤組成物の各種特性は、第一剤と第二剤とを混合した後の接着剤組成物に関する。
【0050】
(接着剤組成物の特性)
接着剤組成物の成分を調整することだけでなく、接着剤組成物の特性(物性)を調整することによっても、接着剤組成物の性能を高めうる。これらの特性(物性)は、上記の素材を適切に選択することに加え、後掲の適切な製造方法を採用することで調整可能である。
【0051】
本実施形態の接着剤組成物を、23℃で24時間硬化させて得られた、JIS K 7161-2付属書A記載の1BA型ダンベル試験片の、JIS K 7162に準じて引張速度10mm/minで測定される破断伸びは、23℃では、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上100%以下であり、80℃では、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上100%以下である。
接着剤組成物の硬化物の破断伸びが適度に大きいことは、ヒートサイクル試験などで発生する応力を、接着剤組成物の硬化物がよく緩和することを意味すると考えられる。特に、熱膨張率が異なる異種部材同士を接着することも多い自動車分野では、接着剤組成物の硬化物の破断伸びが適度に大きいことにより、効果的な応力緩和がなされると考えられる。
また、23℃(室温付近)での破断伸びが適度に大きいことに加え、80℃での破断伸びが比較的大きいことは、本実施形態の接着剤組成物を自動車の製造に好ましく用いられることを表しているといえる。
【0052】
本実施形態の接着剤組成物を用いて、以下[作成条件]のようにして得た試験片を、23℃下、引張速度10mm/minで引張せん断接着試験することで得られる引張せん断接着強度をF23とする。また、本実施形態の接着剤組成物を用いて、以下[作成条件]のようにして得た試験片を、120℃下、引張速度10mm/minで引張せん断接着試験することで得られる引張せん断接着強度をF120とする。このとき、F120は好ましくは8MPa以上、より好ましくは10MPa以上30MPa以下、さらに好ましくは12MPa以上30MPa以下である。また、F120/F23は好ましくは0.5以上、より好ましくは0.6以上1以下、さらに好ましくは0.7以上1以下である。
【0053】
120℃という高温での接着強度が8MPa以上となるように接着剤組成物を設計することで、自動車分野への適用の際に想定される高温での剥離が抑えられると考えられる。
また、F120/F23が0.5以上である、つまり、室温付近と高温での接着強度の変化が比較的小さくなるように接着剤組成物を設計することで、例えばヒートサイクル試験の結果をより良化できると考えられる。
【0054】
本実施形態の接着剤組成物を23℃で24時間硬化して得られた硬化物を、動的粘弾性測定装置を用いて周波数1Hz、測定温度範囲0℃から250℃、昇温速度5℃/min、引っ張りモードで測定したときの、80℃における貯蔵弾性率をE'80としたとき、E'80は、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上500MPa以下、さらに好ましくは200MPa以上500MPa以下である。
また、本実施形態の接着剤組成物を23℃で24時間硬化して得られた硬化物を、動的粘弾性測定装置を用いて周波数1Hz、測定温度範囲0℃から250℃、昇温速度5℃/min、引っ張りモードで測定したときの、23℃における貯蔵弾性率をE'23とし、80℃における貯蔵弾性率をE'80とする。このとき、E'80/E'23は、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上1以下、さらに好ましくは0.4以上1以下である。
E'80が100MPa以上である、かつ/または、E'80/E'23が0.2以上である、つまり、硬化物の貯蔵弾性率が高温でも適度に大きくなるように接着剤組成物を設計することより、高温においても接着力の低下につながりうる硬化物の軟化が抑えられると考えられる。そして、例えばヒートサイクル試験の結果をより良好とできると考えられる。
【0055】
本実施形態の接着剤組成物を23℃で24時間硬化させて得られた硬化物を、動的粘弾性測定装置を用いて、周波数1Hz、測定温度範囲0℃から250℃、昇温速度5℃/min、引っ張りモードで測定することで損失正接(tanδ)-温度曲線を得る。この温度曲線のピークトップ温度は、好ましくは100℃以上220℃以下、より好ましくは140℃以上220℃以下である。また、この温度曲線の半値全幅は、好ましくは40℃以上120℃以下、より好ましくは50℃以上100℃以下である。半値全幅とは、極大値の両側で極大値の半分の値が示す位置の間の距離をいう。
【0056】
tanδは、大雑把には、測定対象物の「粘り強さ」を表す指標である。tanδのグラフのピークトップ温度が140℃以上220℃以下であり、かつ、半値全幅が50℃以上100℃以下であるということは、本実施形態の接着剤組成物の硬化物は、自動車用途で想定される温度領域において様々な「粘り強さ」を併せ持ち、異種材料の接着に好ましく使用可能なことを意味すると解釈可能である。
【0057】
本実施形態の接着剤組成物の粘度は、塗布性などに応じて適宜設定すればよい。
例えば、B型粘度計(ローターNo.7)を用い、25℃で、回転数20rpmまたは2rpmで測定される接着剤組成物の粘度は、典型的には50,000mPa・s以上100,000mPa・s以下である。
【0058】
<物品/適用用途など>
本実施形態の接着剤組成物を物品に塗布して硬化させるなどすることで、接着剤組成物の硬化物を含む物品が得られる。
本実施形態の接着剤組成物は、好ましくは加熱をせずとも(室温で)硬化して、物品を接着することができる(特に、重合開始剤と還元剤とを含む場合)。もちろん、物品の接着に際して加熱を行うことは排除されない。
【0059】
既に述べたように、本実施形態の接着剤組成物は、優れた耐熱性などの観点で、自動車の製造に好ましく用いられる。また、自動車メーカーは、鉄以外の様々な軽量化素材(非鉄金属、強化樹脂など)を接着剤により接着することを検討しているところ、本実施形態の接着剤組成物は、これら素材の接着にも好ましく適用される。
【0060】
本明細書では、主として、炭素-炭素二重結合を有する重合性モノマーと、エラストマーと、重合開始剤とを含有し、エラストマーの含有量や硬化物のガラス転移温度を規定した「接着剤組成物」について説明した。しかし、本明細書で説明した接着剤組成物は、接着以外の分野、例えば被覆材や注入剤としても使用可能である。換言すると、本明細書で説明した接着剤組成物は、用途が限定されない組成物、硬化性組成物、樹脂組成物として使用することもできる。
【0061】
<接着剤組成物の製造方法>
本実施形態の接着剤組成物の製造にあたっては、上述の各成分を単に混合するのではなく、各成分の混合の順序、混合方法などを適切に調整することが好ましい。
接着剤組成物の製造にあたっては、特に、エラストマーと重合性モノマーとが十分に混合することが好ましい。このため、後掲の実施例で示すように、(i)まず、エラストマーの少なくとも一部と重合性モノマーの少なくとも一部とを、50~80℃下で十分均一に混合して混合物とし、(ii)その後、その混合物に他の成分を添加して攪拌することが好ましい。こうすることで、エラストマーと重合性モノマーとが十分均一に混じり合うと考えられる。このようにして製造された接着剤組成物は、他の製造方法によって得られた接着剤組成物と比較して、例えば、上述した接着剤組成物の特性(破断伸び、引張せん断接着強度、貯蔵弾性率、損失正接など)を満たしやすい傾向がある。
【0062】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良などは本発明に含まれる。
【実施例】
【0063】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0064】
<原料>
以下の表1に示す原料を準備した。
【0065】
【0066】
<接着剤組成物の製造>
[実施例1 A剤(第1剤)]
攪拌装置を備え、温度調節が可能な容器を用いて、以下手順で製造した。各原料の添加量は、後掲の表2に記載の通りとした。
【0067】
(1)計量、仕込み
容器内に、FA-513M、CIT、P-56を投入後、70℃をターゲットとして昇温を開始した。CITが溶解し、内温が60℃から70℃であることを確認した。その後、N250SLを添加した。その後、1時間溶解・分散を行った。そして、目視でP-56およびCITの溶け残りが無いことを確認した。
(2)計量、仕込み
上記(1)で得られた混合物を冷却し、50℃以下でMiramer M2101、AMを投入した。また、40℃以下でBL-20を2回に分け添加した。その後、内温30℃で一晩攪拌した。そして、目視でBL-20の凝集物やN250SLの溶け残りが無いことを確認した。
(3)計量、仕込み
上記(2)で得られた混合物に、1300X33VTBNX LCを添加後、2時間攪拌・分散した。この際の内温は30℃とした。そして、混合ムラが無いことを確認した。
(4)真空脱泡
上記(3)で得られた混合物を、0.08MPa/30分の条件で脱泡処理した。
(5)計量、仕込み
上記(4)の処理後の混合物に、In-DとPBQとを投入後、30分撹拌した。この際の内温は30℃とした。そして、混合ムラが無いことを確認した。
(6)計量、仕込み
上記(5)で得られた混合物に、PH-80を投入後、30分以上撹拌した。この際の内温は30℃とした。そして、混合ムラが無いことを確認した。
(7)真空脱泡
上記(6)で得られた混合物を、0.08MPa/10分の条件で脱泡処理した。
【0068】
上記(7)の処理後の混合物の粘度を、B型粘度計(ローターNo.7)を用い、25℃で、20rpmで測定した。粘度は50,000mPa・s以上100,000mPa・s以下の範囲内に収まっていた。
そして、得られた混合物を、40メッシュのフィルターに通した。
以上により、実施例1 A剤を得た。
【0069】
[実施例1 B剤(第2剤)]
攪拌装置を備え、温度調節が可能な容器を用いて、以下手順で製造した。各原料の添加量は、後掲の表2に記載の通りとした。
(1)計量、仕込み
容器内に、FA-513M、CIT、P-56を投入後、70℃をターゲットとして昇温を開始した。CITが溶解し、内温が60℃から70℃であることを確認した後、N250SLを添加した。そして、1時間溶解・分散を行った。そして、目視でP-56およびCITの溶け残りが無いことを確認した。
(2)計量、仕込み
上記(1)で得られた混合物を冷却し、50℃以下でMiramer M2101、AMを投入した。また、40℃以下でBL-20を2回に分け添加した。その後、内温30℃で一晩攪拌した。そして、目視でBL-20の凝集物やN250SLの溶け残りが無いことを確認した。
(3)計量、仕込み
上記(2)で得られた混合物に、1300X33VTBNXを添加後、2時間攪拌・分散した。この際の内温は30℃とした。そして、混合ムラが無いことを確認した。
(4)真空脱泡
上記(3)で得られた混合物を、0.08MPa/30分の条件で脱泡処理した。
(5)計量、仕込み
上記(4)の処理後の混合物に、SIPOMER PAM 4000を投入後、30分以上撹拌した。この際の内温は30℃とした。
(6)計量、仕込み
上記(5)で得られた混合物に、PSNとIn-Mとを投入後、30分以上撹拌した。この際の内温は30℃とした。そして、混合ムラが無いことを確認した。
(7)計量、仕込み
上記(6)で得られた混合物に、VO(AA)2を投入後、30分以上撹拌した。この際の内温は30℃とした。そして、混合ムラが無いことを確認した。
(8)真空脱泡
上記(7)で得られた混合物を、0.08MPa/10分の条件で脱泡処理した。
【0070】
上記(8)の処理後の混合物の粘度を、B型粘度計(ローターNo.7)を用い、25℃で、20rpmで測定した。粘度は50,000mPa・s以上100,000mPa・s以下の範囲内に収まっていた。
そして、得られた混合物を、40メッシュのフィルターに通した。
以上により、実施例1 B剤を得た。
【0071】
【0072】
[実施例2以降]
実施例2以降の接着剤組成物も、使用原料およびその使用量を一部変えた以外は、実施例1と同様、まずエラストマーと重合性モノマーとを十分均一に混合し、その後、他の成分を加え、必要に応じて脱泡処理などすることで製造した。
実施例2以降の接着剤組成物の組成は、後掲の表3のとおりである。実施例2以降の接着剤組成物も、実施例1と同様に、A剤(第1剤)およびB剤(第2剤)からなる二剤型で製造した。この際、A剤およびB剤中の各素材の量については、実施例1に倣い、A剤とB剤で等量とするか、もしくは、A剤のみまたはB剤のみに添加した。ただし、表には二剤混合後の組成を示した。なお、エラストマー、重合性モノマーおよび安定ラジカル型化合物以外の使用成分およびそれらの量は、実施例1と同様のため、明記しなかった。
【0073】
後掲の表3に記載の成分において、表1に記載されていないものや表1に記載されているものの一部に関する情報を、以下に追加で記載しておく。
・BL-20:ソフトセグメントユニットの含有率46質量%
・ウレタンオリゴマー:アルケマ社製 CN9004 ポリエーテル型の二官能性脂肪族ウレタンアクリレート、ソフトセグメントユニットの含有率88質量%
・1300X33VTBNX LC:メタクリレート官能性ブタジエン-アクリロニトリル液体ゴム、ソフトセグメントユニットの含有率82質量%
・N250SL:ソフトセグメントユニットの含有率81質量%
・DCPD型メタクリレート:ジシクロペンタニルメタクリレート
・EO化BPAジメタクリレート:Miramer M2101、以下構造
【0074】
【0075】
・メタクリル酸:極性官能基含有率0.012mol/g
・ヒドロキシプロピルメタクリレート:極性官能基含有率0.007mol/g
・SIPOMER PAM 4000:2-ヒドロキシエチルメタクリレートのリン酸エステル、極性官能基含有率0.006mol/g
【0076】
<測定、評価>
以下の各測定・評価は、全て、各3回行い、得られた3つの数値を平均したものを結果として採用した。
【0077】
[動的粘弾性測定]
まず、動的粘弾性測定用の、接着剤組成物の硬化物(試験片)を作製した。具体的には以下(1)~(3)のようにして試験片を作成した。
(1)まず、PETフィルム上に5×40mmの穴をあけた0.5mm厚のシリコーンシートをのせた。この穴のある部分に硬化性組成物を塗布して塗布膜を形成した。
(2)上記塗布膜の上から、別のPETフィルムを張り合わせた。そして、1cm厚のガラス板で両面を挟み、重りを乗せて圧締した。この状態で、温度23℃、相対湿度50RH%の室内にて24時間養生した。その後、圧締を解除し、PETフィルムを剥がした。このようにしてシート状硬化物を得た。ちなみに、シリコーンシートの厚みにより、膜厚はほぼ500μmに調整された。
(3)上記のシート状硬化物を切断して、寸法0.5×5×40mmの短冊状の試験片を得た。
【0078】
得られた試験片の動的粘弾性特性を、動的粘弾性測定装置(DMS7100、SII社製)を使用して、周波数:1.0Hz、モード:引張モード、測定温度範囲:0℃から250℃、昇温速度:5℃/minの条件で測定し、データを取得した。得られたデータに基づき、温度-損失正接(tanδ)のグラフの半値全幅、損失正接(tanδ)のピークトップ温度(tanδピーク値、すなわちガラス転移温度)、23℃又は80℃の貯蔵弾性率(E'23およびE'80)を求めた。
【0079】
[引張せん断接着試験(SPCC-SPCC)]
JIS K 6850に準拠して評価した。具体的には、一枚の試験片(25mm×100mm×1.6mmtの冷間圧延鋼板(SPCC)、アセトン脱脂処理を実施)の片面に接着剤組成物(二剤型のものは二剤混合後のもの)を塗布して膜を形成し、膜の表面に、もう一方の試験片(25mm×100mm×1.6mmtのSPCC)を直ちに重ね合わせて貼り合わせた。その後、室温(23℃)で24時間養生した。このようにして引張せん断接着強度測定用試料を得た。ちなみに、組成物に含まれるポリエチレンフィラー(膜厚調整用のスペーサー)の作用により、接着剤組成物の膜厚はほぼ100μm(=0.1mm)に調整された。
上記試料を用いて、温度23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度10mm/分で、Instron社製万能試験機Model 5569を用いて引張せん断接着試験を行い、引張せん断接着強度F23を測定した。
また、引張せん断接着試験の際の温度を23℃から120℃に変更した以外は同様の引張せん断接着試験を行い、引張せん断接着強度F120を測定した。
【0080】
[引張せん断接着試験(CFRP-SPCC)]
接着剤組成物を塗布する試験片を、SPCCではなく繊維強化プラスチック、具体的にはエポキシCFRP(25mm×100mm×2.0mmt、前処理:#320サンディング後、IPA脱脂)に変えた以外は、上記[引張せん断接着試験(SPCC-SPCC)]と同様にして、引張せん断接着強度測定用試料を得た。
温度23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度10mm/分で、Instron社製万能試験機Model 5569を用いて引張せん断接着試験を行い、引張せん断接着強度F23'を測定した。
また、引張せん断接着試験の際の温度を23℃から120℃に変更した以外は同様の引張せん断接着試験を行い、引張せん断接着強度F120'を測定した。
【0081】
[ヒートサイクル試験]
上記[引張せん断接着試験(CFRP-SPCC)]と同様の試料、つまり、エポキシCFRPとSPCCとが接着した試料を、「-40℃で1.5h冷却、その後90℃で4h加熱」のサイクルを1サイクルとして4サイクルのヒートサイクル試験を行った。
上記[引張せん断接着試験(SPCC-SPCC)]に記載のようにして、ヒートサイクル試験前の試料の引張せん断接着強度F0と、ヒートサイクル試験後の引張せん断接着強度F1とを測定した。そして、F1/F0により、ヒートサイクルによる接着力の変化を評価した。ヒートサイクル試験では、昇温速度2℃/分、降温速度2℃/分に設定した。
【0082】
[貯蔵安定性試験]
各実施例および比較例の接着剤組成物のA剤およびB剤について、製造直後の粘度(接着剤初期粘度)を測定した。
また、A剤については、60℃で3日間経時させた後の粘度も測定した。そして、経時によるA剤の粘度上昇率を算出した。
全ての粘度測定は、B型粘度計(ローターNo.7)を用い、25℃、20rpmで行った。
[破断伸び]
JIS K 7161-2およびJIS K 7162による試験方法に準拠した。23℃、相対湿度50%の環境下で24時間養生して得られた、JIS K 7161-2付属書A記載の1BA型ダンベル形状の試験片の硬化体を用い、23℃の雰囲気下で引張速度10mm/分の条件で測定した。引張試験機は、「INSTRON5967」(インストロン社製)を使用し、破断伸び率を測定した。
また、高温下での評価として、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間養生した試料を、80℃の高温槽SPHH-201(エスペック社製、登録商標)で30分加温したのち80℃雰囲気下で同様に評価した。
【0083】
接着剤組成物の組成(一部成分のみ)と、測定・評価結果とをまとめて表3に示す。
表3において、接着剤組成物の各成分の量の単位は質量部である。
表3において、組成物全体中の、高極性モノマーが含む極性官能基の量は、カルボキシ基、ヒドロキシ基、およびリン酸基を極性官能基として、各原料の分子量および極性官能基数、接着剤中の配合比率などに基づき算出した。
表3において、組成物全体中の、エラストマー中のソフトセグメントユニットの量は、MMA-BD-AN-ST共重合体中のブタジエンユニット、NBR中のブタジエンユニット、および、ウレタンアクリレート中のポリエーテルポリオールをソフトセグメントとして、それぞれの原材料中の含有量と接着剤中の配合比率から算出した。
表2と表3の相関は、例えば以下である。表3の実施例1において、第1剤と第2剤の合計100質量部に対するBL-20の含有量は、表2のA剤5質量部+表2のB剤5質量部=10質量部である。表3の実施例1において、第1剤と第2剤の合計100質量部に対するTEMPOの含有量は、表2のA剤0.01質量部+表2のB剤0質量部=0.01質量部である。
【0084】
【0085】
実施例1~8の接着剤組成物(エラストマーの含有量が比較的多く、かつ、硬化物のガラス転移温度が比較的大きい)は、F120、F120/F23、F'120、F'120/F'23などの値や、ヒートサイクル試験の結果などから、耐熱性が良好であり、自動車の製造に好ましく用いられることが理解される。
また、実施例1~8の接着剤組成物の貯蔵安定性は良好であった。
【0086】
一方、比較例の接着剤組成物は、例えば以下のような点で実施例に劣っていた。
・比較例1:おそらくエラストマー量が少なかったために、破断伸びの評価結果は実施例よりも悪く、ヒートサイクル試験の結果も実施例より悪かった。
・比較例2:おそらく硬化物のガラス転移温度の設計が低かったために、F120、F120/F23、F'120、F'120/F'23などの値は実施例よりも悪く、また、ヒートサイクル試験の結果も実施例より悪かった。
【0087】
この出願は、2021年3月31日に出願された日本出願特願2021-059636号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。