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特許7612887二層型磁石埋込式回転子、二層型磁石埋込式回転電機および二層型磁石埋込式回転子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】二層型磁石埋込式回転子、二層型磁石埋込式回転電機および二層型磁石埋込式回転子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 1/276 20220101AFI20250106BHJP
【FI】
H02K1/276
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023550634
(86)(22)【出願日】2022-11-04
(86)【国際出願番号】 JP2022041177
(87)【国際公開番号】W WO2024095452
(87)【国際公開日】2024-05-10
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 大介
【審査官】若林 治男
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-073417(JP,A)
【文献】特開2012-075256(JP,A)
【文献】特許第6848135(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/276
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸方向に延びたロータシャフトと、
前記ロータシャフトに取り付けられて、それぞれの磁極において、径方向の外側において互いに対を成すように形成された第1の外側収納孔および第2の外側収納孔と、前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔よりも径方向の内側において互いに対を成すように形成された第1の内側収納孔および第2の内側収納孔とを有する回転子鉄心と、
前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔のそれぞれに収納された第1の外側磁石および第2の外側磁石と、
前記第1の内側収納孔および前記第2の内側収納孔のそれぞれに収納された第1の内側磁石および第2の内側磁石と、
を具備する二層型磁石埋込式回転子であって、
前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔は、前記回転子鉄心の外周の外側と連通せず、
前記第1の内側収納孔および前記第2の内側収納孔は、前記回転子鉄心の外周の外側と連通する開口部が形成されており、
前記第1の内側収納孔の第1の内側収納孔径方向外側壁と前記第2の内側収納孔の第2の内側収納孔径方向外側壁とが径方向の外側に向かって開く内側開角度の値は、所定の値以上であり、かつ、前記第1の外側収納孔の第1の外側収納孔径方向外側壁と前記第2の外側収納孔の第2の外側収納孔径方向外側壁とが径方向の外側に向かって開く外側開角度の値に10度を加えた値以下である、
ことを特徴とする二層型磁石埋込式回転子。
【請求項2】
前記外側開角度は100度以上かつ130度以下であって、
前記内側開角度の前記所定の値は96度である、
ことを特徴とする請求項1に記載の二層型磁石埋込式回転子。
【請求項3】
前記外側開角度は100度以上かつ140度以下であって、
前記内側開角度の前記所定の値は前記外側開角度の値から10度を減じた値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の二層型磁石埋込式回転子。
【請求項4】
前記外側開角度は100度以上かつ140度以下であって、
前記内側開角度の前記所定の値は、前記外側開角度の値に0.393を乗じた後に51.0を加えた値である、
ことを特徴とする請求項1に記載の二層型磁石埋込式回転子。
【請求項5】
前記第1の外側収納孔と前記第2の外側収納孔とを周方向に隔てるブリッジ部は、1本であり、
前記第1の内側収納孔と前記第2の内側収納孔とを周方向に隔てるブリッジ部は、2本である、
ことを特徴とする請求項1に記載の二層型磁石埋込式回転子。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の二層型磁石埋込式回転子と、
前記回転子鉄心の径方向外側に配された円筒形上の固定子鉄心と前記固定子鉄心に巻回された固定子巻線とを有する固定子と、
前記ロータシャフトの前記回転軸方向の両側を回転可能に支持する2つの軸受と、
前記2つの軸受のそれぞれを静止支持する2つの軸受ブラケットと、
前記固定子の径方向外側を覆うように配されて前記2つの軸受ブラケットを支持するフレームと、
を備えることを特徴とする磁石埋込式回転電機。
【請求項7】
ロータシャフトと、前記ロータシャフトに取り付けられてそれぞれの磁極において、径方向の外側において互いに対を成すように形成されそれぞれ径方向外側に開口が形成されていない第1の外側収納孔および第2の外側収納孔と、前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔よりも径方向の内側において互いに対を成すように形成されそれぞれ径方向外側に開口が形成された第1の内側収納孔および第2の内側収納孔とを有する回転子鉄心と、前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔のそれぞれに収納された第1の外側磁石および第2の外側磁石と、前記第1の内側収納孔および前記第2の内側収納孔のそれぞれに収納された第1の内側磁石および第2の内側磁石と、を具備する二層型磁石埋込式回転子の製造方法であって、
前記二層型磁石埋込式回転子の基本仕様を決定するステップと、
前記基本仕様に基づいて前記ロータシャフトを製作するステップと、
前記基本仕様に基づいて前記第1の外側磁石、前記第2の外側磁石、前記第1の内側磁石および前記第2の内側磁石のそれぞれの永久磁石仕様を決定するステップと、
前記第1の外側収納孔、前記第2の外側収納孔、前記第1の内側収納孔および前記第2の内側収納孔のそれぞれの収納孔基準形状を決定するステップと、
前記第1の外側収納孔の第1の外側収納孔径方向外側壁と前記第2の外側収納孔の第2の外側収納孔径方向外側壁とが径方向の外側に向かって開く外側開角度の値を決定するステップと、
前記外側開角度の値から、前記第1の内側収納孔の第1の内側収納孔径方向外側壁と前記第2の内側収納孔の第2の内側収納孔径方向外側壁とが径方向の外側に向かって開く内側開角度について、前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔の径方向外側に開口が形成されている比較対象例に対して応力低減の上で有効となる前記内側開角度を導出するステップと、
前記永久磁石仕様に基づいて、前記第1の外側磁石、前記第2の外側磁石、前記第1の内側磁石および前記第2の内側磁石を製作するステップと、
前記収納孔基準形状、前記外側開角度および前記内側開角度に基づいて複数の電磁鋼板を製作するステップと、
前記複数の電磁鋼板を積層構造に組み立てるステップと、
前記ロータシャフト、前記積層構造、および前記第1の外側磁石、前記第2の外側磁石、前記第1の内側磁石および前記第2の内側磁石を組み立てるステップと、
を有することを特徴とする二層型磁石埋込式回転子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二層型磁石埋込式回転子、二層型磁石埋込式回転電機および二層型磁石埋込式回転子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子の内部に永久磁石が埋め込まれているIPM(Interior Permanent Magnet)型の回転電機において、漏れ磁束を減らすため、外周側のブリッジが接続されておらず、回転子鉄心の外側に開口している形状が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-014322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
回転子の各極に、周方向に対となって配されている2つの磁石が、径方向に2層配置されている構成において、両層の外周側のブリッジを開口すると、高回転で発生する遠心応力により、層間の鉄部の機械強度を超えて変形しやすく、破断の原因となる。ここで、対となっている2つの磁石が、当該磁極の中心であるd軸に関して互いに対象となっている配置(V字配置)を有する例も多く存在する。
【0005】
変形を抑制するためには、層間の磁石の距離を離し、周方向中央のブリッジを太くする必要がある。これには、例えば、2層目の対となっている磁石の開角度を小さく、鋭角にすることが考えられる。しかし、この方法では、2層目の磁石の内側の端部がより径方向の内側に位置することになる。この結果、トルク特性への影響が少ない内径側の鉄心の肉抜きを行えず、回転子の軽量化が困難となる。
【0006】
また、対となっている磁石配置が2層の場合の回転子において、2層のアウターブリッジをそれぞれカット・抜き落とした場合、回転子に発生する遠心応力が強度基準値を超える部分が生ずる。遠心応力を基準値以下に抑えるため、2層目の対となっている2つの磁石の径方向外側についての開角度を小さくする形状があるが、2層目の開角度を小さくしすぎると、中速ないし高速領域でのトルクが低下する。
【0007】
本発明の目的は、各磁極において対となる2つの磁石が2層配置されている構成において、トルク性能と強度確保の両立を可能とする二層型磁石埋込式回転子および二層型磁石埋込式回転電機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子は、回転軸方向に延びたロータシャフトと、前記ロータシャフトに取り付けられて、それぞれの磁極において、径方向の外側において互いに対を成すように形成された第1の外側収納孔および第2の外側収納孔と、前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔よりも径方向の内側において互いに対を成すように形成された第1の内側収納孔および第2の内側収納孔とを有する回転子鉄心と、前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔のそれぞれに収納された第1の外側磁石および第2の外側磁石と、前記第1の内側収納孔および前記第2の内側収納孔のそれぞれに収納された第1の内側磁石および第2の内側磁石と、を具備する二層型磁石埋込式回転子であって、前記第1の外側収納孔および前記第2の外側収納孔は、前記回転子鉄心の外周の外側と連通せず、前記第1の内側収納孔および前記第2の内側収納孔は、前記回転子鉄心の外周の外側と連通する開口部が形成されており、前記第1の内側収納孔の第1の内側収納孔径方向外側壁と前記第2の内側収納孔の第2の内側収納孔径方向外側壁とが径方向の外側に向かって開く内側開角度の値は、所定の値以上であり、かつ、前記第1の外側収納孔の第1の外側収納孔径方向外側壁と前記第2の外側収納孔の第2の外側収納孔径方向外側壁とが径方向の外側に向かって開く外側開角度の値に10度を加えた値以下である、
ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転電機の構成例を示す縦断面図である。
図2】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子の構成例を示す部分横断面図である。
図3】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子の製造方法の手順を示すフロー図である。
図4】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子との比較のためのベースとなる例を示す部分横断面図である。
図5】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子を示す部分横断面図である。
図6】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子の効果を説明するための比較例としての2層カットの場合のトルクと応力を示すグラフである。
図7】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子の効果を説明するための実施形態に係る1層カットの場合のトルクと応力を示すグラフである。
図8】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第1のグラフである。
図9】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第2のグラフである。
図10】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第3のグラフである。
図11】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第4のグラフである。
図12】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第5のグラフである。
図13】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における開き角度および角度差に関する傾向を示すグラフである。
図14】実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における外側開き角度に対する有効な内側開き角度の範囲を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るおよび二層型磁石埋込式回転子、二層型磁石埋込式回転電機および二層型磁石埋込式回転子の製造方法について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0011】
図1は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転電機1の構成例を示す縦断面図である。
【0012】
二層型磁石埋込式回転電機1は、二層型磁石埋込式回転子100、固定子10、2つの軸受20、2つの軸受ブラケット30、およびフレーム40を有する。
【0013】
二層型磁石埋込式回転子100は、回転軸の方向に延びたロータシャフト110、ロータシャフト110の径方向の外側に取り付けられた回転子鉄心120、および回転子鉄心120内に埋め込まれた永久磁石130を有する。図1では、永久磁石130のうち第1の外側磁石131および第1の内側磁石133を示しているが、詳細は、後に図2を引用しながら説明する。
【0014】
固定子10は、回転子鉄心120の径方向外側に配された円筒状の固定子鉄心11、および、固定子鉄心11に巻回された固定子巻線12を有する。
【0015】
2つの軸受20は、ロータシャフト110を回転可能に支持する。2つの軸受ブラケット30のそれぞれは、2つの軸受20のそれぞれを静止支持する。フレーム40は、筒状であり、固定子10を収納し、両端が2つの軸受ブラケット30のそれぞれに接続され、これらを支持する。
【0016】
図2は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100の構成例を示す部分横断面図である。二層型磁石埋込式回転子100は、偶数の磁極139を有し、互いに極性が反対の磁極すなわち磁力線の方向が反対となる磁極139が、周方向に互いに隣接するように交互に配置されている。図2は、これらのうちの一つの磁極139を示している。
【0017】
ここで、説明の便宜上、方向を定義する。ロータシャフト110の軸芯CLの延びる方向に平行な方向、すなわち図2に垂直な方向(図2の紙面の前後方向)を軸方向という。ロータシャフト110の軸芯CLから離れる方向を径方向という。また、二層型磁石埋込式回転子100が回転する方向を周方向という。
【0018】
本実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100は、それぞれの磁極139において、第1の外側磁石131、第2の外側磁石132、第1の内側磁石133、および第2の内側磁石134を有する。
【0019】
第1層をなす第1の外側磁石131および第2の外側磁石132は、周方向に間隔を置いて並んで配列され、周方向の中央について互いに対向する位置にある。また、第2層をなす第1の内側磁石133および第2の内側磁石134も同様に、周方向に間隔を置いて並んで配列され、周方向の中央について互いに対向する位置にある。第2層をなす第1の内側磁石133および第2の内側磁石134はそれぞれ、第1層をなす第1の外側磁石131および第2の外側磁石132の径方向の内側に配されている。
【0020】
なお、図2では、軸方向に垂直な断面においての磁極139の中心軸(d軸)に関して、第1の外側磁石131と第2の外側磁石132が互いに対称であり、第1の内側磁石133と第2の内側磁石134とが互いに対称である場合、すなわちいわゆるV字配置の場合を例にとって示しているが、これに限定されない、すなわち、第1の外側磁石131と第2の外側磁石132は、互いに大きさが異なってもよいし、方向が互いに対称ではなくともよい。同様に、第1の内側磁石133と第2の内側磁石134は、互いに大きさが異なってもよいし、方向が互いに対称ではなくともよい。
【0021】
回転子鉄心120には、複数の収納孔が形成されている。すなわち、第1層の第1の外側磁石131および第2の外側磁石132、第2層の第1の内側磁石133および第2の内側磁石134をそれぞれ収納するための第1の外側収納孔121、第2の外側収納孔122、第1の内側収納孔124、および第2の内側収納孔125が形成されている。第1の外側収納孔121、第2の外側収納孔122、第1の内側収納孔124、および第2の内側収納孔125は、磁気抵抗の大きな領域でありそれぞれ、フラックスバリアとして機能する。
【0022】
回転子鉄心120は、軸方向に積層された複数の電磁鋼板120aを有する。回転子鉄心120に形成される各収納孔、回転子鉄心120の形状等は、電磁鋼板120aが積層されることによってその断面が電磁鋼板120aにおける形状に形成される。
【0023】
第1の外側収納孔121および第2の外側収納孔122は、径方向の内側において、1つの外側センターブリッジ123を挟んで互いに隣接している。また、第1の外側収納孔121および第2の外側収納孔122のそれぞれの径方向外側部分は、回転子鉄心120の径方向外側に連通せず、それぞれのアウターブリッジが存在する。
【0024】
第1の内側収納孔124および第2の内側収納孔125は、径方向の内側において、2つの内側センターブリッジ126を挟んで互いに隣接している。また、第1の内側収納孔124および第2の内側収納孔125のそれぞれの径方向外側部分は、回転子鉄心120の径方向外側に連通している。すなわち、それぞれのアウターブリッジは存在しない。
【0025】
ここで、第1の外側収納孔121の第1の外側収納孔径方向外側壁121aと、第2の外側収納孔122の第2の外側収納孔径方向外側壁122aとがなす角度、すなわち、これらが径方向外側に向かって開く角度を外側開角度Θaと呼ぶ。同様に、第1の内側収納孔124の第1の内側収納孔径方向外側壁124aと、第2の内側収納孔125の第2の内側収納孔径方向外側壁125aとがなす角度、すなわち、これらが径方向外側に向かって開く角度を内側開角度Θbと呼ぶ。
【0026】
図3は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100の製造方法の手順を示すフロー図である。
【0027】
二層型磁石埋込式回転子100の製造方法は、製作条件決定ステップS10と製作ステップS20を有する。
【0028】
まず、製作条件決定ステップS10について説明する。製作条件決定ステップS10としては、まず、二層型磁石埋込式回転子100の全体仕様を決定する(ステップS11)。この段階で、ロータシャフト110の形状、寸法およびロータシャフト110に取り付けられる回転子鉄心120等とロータシャフト110との取り合い形状、寸法が決定される。
【0029】
次に、永久磁石130、回転子鉄心120の仕様を決定する(ステップS12)。ステップS12の詳細な手順は以下の通りである。
【0030】
まず、永久磁石130の仕様を決定する(ステップS12a)。具体的には、外側の層に配される第1の外側磁石131および第2の外側磁石132、内側の層に配される第1の内側磁石133および第2の内側磁石134のそれぞれの材料、形状、寸法等の仕様を決定する。
【0031】
次に、決定された形状、寸法の永久磁石130に基づいて、従来の方式により、収納孔の形状を決定する(ステップS12b)。すなわち、永久磁石130のそれぞれの形状、寸法に基づいて、各収納孔、すなわち、第1の外側収納孔121、第2の外側収納孔122、第1の内側収納孔124、および第2の内側収納孔125の形状、寸法を決定する。
【0032】
次に、外側開角度Θaの基準値を決定する(ステップS12c)。すなわち、第1の外側収納孔121の第1の外側収納孔径方向外側壁121aと、第2の外側収納孔122の第2の外側収納孔径方向外側壁122aとのなす角度である外側開角度Θaの値を基準値として決定する。ここで、第1の外側収納孔121と第2の外側収納孔122とが同一形状であれば、当該磁極139の中心軸(d軸)について対称となるように配置する。以下、これを基準形状とする。
【0033】
次に、外側開角度Θaの範囲を決定する(ステップS12d)。外側開角度Θaの値の範囲は、外側開角度Θaの基準値を含んだ範囲とする。なお、範囲は、実現可能と考えられる範囲あるいは実現したい範囲に設定することが好ましいが、その外側を含めた傾向を把握するために、範囲をさらに広く設定してもよい。
【0034】
次に、開角度差ΔΘおよび内側開角度Θbの範囲を決定する(ステップS12e)。すなわち、外側開角度Θaの範囲に基づいて、開角度差ΔΘを変化させ、トルクと、遠心力に起因する内側センターブリッジ126における引張り応力(以下、「応力」)を算出し、適切な外側開角度Θaの範囲、開角度差ΔΘおよび内側開角度Θbの範囲を決定する。この結果、回転子鉄心120の形状が決定される。ここで、開角度差ΔΘは、外側開角度Θaから内側開角度Θbを減じた値である。
【0035】
次に、製作ステップS20について説明する。製作ステップS20は、製作条件決定ステップS10の進展に伴って、順次進められる。
【0036】
まず、製作条件決定ステップS10において基本仕様の決定ステップS11がなされた後に、ロータシャフト110の製作を行う(ステップS21)。
【0037】
次に、製作条件決定ステップS10において永久磁石の仕様決定ステップS12aがなされた後に、永久磁石130の製作(ステップS22)のうちの材料確保を行う(ステップS22a)。なお、この段階で永久磁石130の形状がフィックスし変更がない場合は、後述する永久磁石加工ステップS22bをこの時点で行ってもよい。あるいは、納期的にも永久磁石130の材料手配の期間に問題がない場合などで、製作条件決定ステップS10の終了までに永久磁石130の形状の最終調整を行う場合には、このステップS22aと永久磁石加工ステップS22bを併せて、製作条件決定ステップS10の終了までの適切な時期に行うことでもよい。以下では、予め永久磁石130の材料を確保し、かつ、製作条件決定ステップS10の終了後に永久磁石加工ステップS22bを行う場合を例にとって示している。すなわち、製作条件決定ステップS10の終了までに外側開角度Θaさらには内側開角度Θbの決定結果に基づいて永久磁石130の形状の最終調整を行う場合を示している。
【0038】
次に、製作条件決定ステップS10において開角度差ΔΘおよび内側開角度Θbの範囲の決定ステップS12eまでがなされた後に、永久磁石130の製作(ステップS22)のうちの永久磁石加工(ステップS22b)を行う。なお、前述の様に、ステップS22aの材料確保を含めて永久磁石130の製作(ステップS22)を行うことでもよい。
【0039】
また、ステップS12eまでがなされた後に、打ち抜き等によって電磁鋼板120aの製作を行う(ステップS23)。次に、製作された電磁鋼板120aを軸方向に積層し、積層構造の回転子鉄心120を組み立てる(ステップS24)。
【0040】
ステップS21、ステップS22、およびステップS24を終了したら、これらを組み立てる(ステップS25)。すなわち、ロータシャフト110に回転子鉄心120を取り付け、回転子鉄心120の各収納孔に永久磁石130を収納する。次に、ステップS25で組み立てたものに、その他の付属部材を取り付ける(ステップS26)。これにより、二層型磁石埋込式回転子100の組み立てが終了する。次に、二層型磁石埋込式回転子100の組み立て後の検査を行う(ステップS27)。
【0041】
次に、製作条件決定ステップS10中の主要なステップについて、実施例を用いて説明する。
【0042】
図4は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100との比較のためのベースとなる例、すなわち基準例200を示す部分横断面図である。
【0043】
この基準例は、第1の外側収納孔121、第2の外側収納孔122、第1の内側収納孔124、および第2の内側収納孔125の形状、寸法はステップS12bによって、また、外側開角度ΘaはステップS12cの結果得られたものである。基準例200においては、開角度差ΔΘ0(=Θa-Θb0)は、たとえば10度など、任意の値に設定してよい。
【0044】
図5は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100を示す部分横断面図である。
【0045】
破線は、基準例200の場合の内側収納孔を示す。実線は、二層型磁石埋込式回転子100を決定するステップS12dにおける外側開角度Θaの範囲の決定、およびステップS12eにおける開角度差ΔΘおよび内側開角度Θbの範囲の決定のための対象モデルを示す。
【0046】
ステップS12dにおける外側開角度Θaの範囲の決定に関しては、以下の例では、100度~140度としている。
【0047】
ステップS12eにおける開角度差ΔΘの決定、すなわち内側開角度Θbの決定においては、第1の内側磁石133の径方向最外部が第1の内側収納孔径方向外側壁124aと接する点P1の位置を固定して第1の内側収納孔径方向外側壁124aの傾きを変更する。同様に、第2の内側磁石134の径方向最外部が第2の内側収納孔径方向外側壁125aと接する点P2の位置を固定して第2の内側収納孔径方向外側壁125aの傾きを変更する。この際、第1の内側磁石133および第2の内側磁石134の長さは変わらないものとしている。
【0048】
なお、この内側開角度Θbの変更方法は、磁極139(図1)同士の周方向の間隔を確保するためである。したがって、これは一例であり、これに限定されない。たとえば、開口部124c、125cの先端部を固定してもよい。あるいは、固定する箇所を、開口部チップ127a、開口部チップ127b、あるいは磁石保持突起127cの一部の箇所としてもよい。また、第1の内側磁石133および第2の内側磁石134の長さを調整してもよい。
【0049】
以下に、開角度差ΔΘおよび内側開角度Θbの範囲の決定ステップS12eにおける評価結果を示す。
【0050】
図6は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100の効果を説明するための比較例としての2層カットの場合のトルクと応力を示すグラフである。
【0051】
ここで、2層カットの場合とは、内側収納孔の径方向外側にアウターブリッジがなく内側収納孔が回転子鉄心120の外周面の外側に連通しているのみならず、さらに、外側収納孔の径方向外側にアウターブリッジがなく内側収納孔が回転子鉄心120の外周面の外側に連通している場合を言うものとする。
【0052】
図6の横軸は、ケースであり、内側開角度Θbを、外側開角度Θaより小さいが外側開角度に近づけて広くした場合と、それより狭めた場合の、それぞれ内側収納孔の径方向内側に、軽量化のための肉抜が無い場合と有る場合とを示す。縦軸は、第1軸がトルクであり、第2軸が応力である。また、各棒は、薄い表示から濃い表示に向かって、低速時の最大トルク、中速時の最大トルク、および高速時の最大トルクである。また、それぞれの右端のまだらの色抜きの棒は、応力を示す。また、応力については、応力基準に対する相対値である。
【0053】
「角度広」で示す内側開角度Θbを広くした場合は、肉抜の有無の影響はほとんど無い。また、内側開角度Θbを広くした場合は、応力は、応力基準値の約1.9倍となっており、構造的に成立していない。
【0054】
「角度狭」で示す内側開角度Θbを狭くした場合は、肉抜の有無に関わらず応力は減少する。すなわち肉抜なしのケースでは応力基準値の0.98倍まで減少している。一方、肉抜ありのケースでは応力基準値の1.03倍までしか減少せず構造的に成立していない。
【0055】
また、内側開角度Θbを狭くした場合、肉抜なしのケースでは、低速時の最大トルクは微増するが、中速時および高速時の最大トルクはそれぞれ2%程度および4%程度低下する。また、肉抜ありのケースでは、低速時、中速時および高速時の最大トルクがさらに低下する。
【0056】
このように、比較例としての2層カットの場合は、応力を基準値以下に抑えるため内側の開角度を狭くすると、特に、中速域および高速域でのトルクが低下する。また、軽量化のために永久磁石よりも内径側に肉抜きを施そうとすると、開角度が広い場合にはトルクへの影響が出ない形状の肉抜き穴を、開角度が狭いものに適用するとトルクが低下する。このため、軽量化しづらいという問題がある。
【0057】
図7は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100の効果を説明するための実施形態に係る1層カットの場合のトルクと応力を示すグラフである。ここで、1層カットの場合とは、内側収納孔の径方向外側にアウターブリッジがなく内側収納孔が回転子鉄心120の外周面の外側に連通しているのみで、外側収納孔の径方向外側にはアウターブリッジがある場合を言うものとする。
【0058】
図7の横軸および縦軸は、図6と同様である。また、各棒についても図6と同様である。
【0059】
図7において、「角度狭」で示す内側開角度Θbを狭くした場合とは、図6の「角度狭」で示すケースと、外側収納孔の径方向外側にはアウターブリッジがあるという条件のみが異なるケースである。この場合も、図6において「角度狭」で示す内側開角度Θbを狭くした場合と同様の傾向を有する。
【0060】
すなわち、1層カットで「角度狭」で示す場合においては、肉抜なしのケースでは、応力基準値未満となるが、肉抜ありのケースでは応力基準値を満たさない。また、肉抜なしのケースでは、中速時および高速時の最大トルクは低速時の最大トルクに比べて低下している。また、肉抜ありのケースでは、低速時、中速時の最大トルクがさらに低下する。このように、応力を基準値以下に抑えるため、内側の開角度を狭くすると、特に、中速域および高速域でのトルクが低下する。
【0061】
一方、1層カットで「角度広」で示す内側開角度Θbを広くしたケースでは、図7に示すように、肉抜の有無に関わらず、中速域および高速域での最大トルクが低速域の最大トルクと同程度以上に増大する点では、2層カットの場合と同様である。一方、応力については、1層カットの場合は2層カットの場合とは異なり、「角度広」で示す内側開角度Θbを広くしたケースでも、応力は増大せず、肉抜の有無に関わらず、応力が応力基準値を満たすという結果が得られる。
【0062】
また、内側開角度Θbを広くとることにより、内側センターブリッジ126の径方向内側の空間が広がる(図5参照)。この結果、軽量化のための肉抜の形成が容易となる。
【0063】
以上が、本実施刑態において、回転子鉄心120を2層カットではなく1層カットとした根拠であり、この結果は、収納孔の基準形状の決定ステップS12bに反映されている。
【0064】
なお、この内側開角度Θbの減少方法は、前述のように、磁極139(図1)同士の周方向の間隔を確保するためである。したがって、これは一例であり、これに限定されない。たとえば、開口部124c、125cの先端部を固定してもよい。あるいは、固定する箇所を、開口部チップ127a、開口部チップ127b、あるいは磁石保持突起127cの一部の箇所としてもよい。また、第1の内側磁石133および第2の内側磁石134の長さを調整してもよい。
【0065】
次に、開角度差ΔΘおよび内側開角度Θbの範囲の決定ステップS12eにおける評価結果を示す。
【0066】
図8は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第1のグラフである。横軸は、開角度差ΔΘすなわち外側開角度Θaから内側開角度Θbを減じた値である。縦軸は、発生応力すなわち遠心力に起因する内側センターブリッジ126に発生する応力(引張応力)である。図9および図10についても同様である。
【0067】
図8は、外側開角度Θaが100度の場合の例である。図8に示すように、開角度差ΔΘの値すなわち正の絶対値が大きい領域(図8の右側)では、1層カットの場合と2層カットの場合の発生応力は同程度あるいは1層カットの場合がわずかに大きい。開角度差ΔΘの値が小さくなる、すなわち内側開角度Θbの値が大きくなるにつれて、2層カットの場合は応力が増大するのに対して、1層カットの場合は応力が徐々に減少する。
【0068】
開角度差ΔΘの値の減少方向に見て、1層カットの場合は応力の傾向が、2層カットの場合の応力の傾向と分岐する開角度差ΔΘの値である分岐開角度差ΔΘbはグラフ上で10.4度程度である。すなわち、開角度差ΔΘの値が約10度以下においては、1層カットの方が2層カットの場合より発生応力が小さく、1層カットの効果が生じている。言い換えれば、内側開角度Θbの値を(Θa-ΔΘ)すなわち90(=100-10)度より大きくしていくと、1層カットの効果が生ずる。
【0069】
図9は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第2のグラフである。
【0070】
図9は、外側開角度Θaが112度の場合の例である。この場合の分岐開角度差ΔΘbはグラフ上で17度程度である。すなわち、開角度差ΔΘの値が約17度以下においては、1層カットの方が2層カットの場合より発生応力が小さく、1層カットの効果が生じている。言い換えれば、内側開角度Θbの値を、95(=112-17)度より大きくしていくと、1層カットの効果が生ずる。
【0071】
図10は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第3のグラフである。
【0072】
図10は、外側開角度Θaが120度の場合の例である。この場合の分岐開角度差ΔΘbはグラフ上で29度程度である。すなわち、開角度差ΔΘの値が約29度以下においては、1層カットの方が2層カットの場合より発生応力が小さく、1層カットの効果が生じている。言い換えれば、内側開角度Θbの値を、91(=120-29)度より大きくしていくと、1層カットの効果が生ずる。
【0073】
図11は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における開き角度の角度差の発生応力に与える影響を示す第4のグラフである。
【0074】
図11は、外側開角度Θaが130度の場合の例である。この場合の分岐開角度差ΔΘbはグラフ上で36度程度である。すなわち、開角度差ΔΘの値が約36度以下においては、1層カットの方が2層カットの場合より発生応力が小さく、1層カットの効果が生じている。言い換えれば、内側開角度Θbの値を、94(=130-36)度より大きくしていくと、1層カットの効果が生ずる。
【0075】
図12は、外側開角度Θaが140度の場合の例である。この場合の分岐開角度差ΔΘbはグラフ上で34度程度である。すなわち、開角度差ΔΘの値が約34度以下においては、1層カットの方が2層カットの場合より発生応力が小さく、1層カットの効果が生じている。言い換えれば、内側開角度Θbの値を、106(=140-34)度より大きくしていくと、1層カットの効果が生ずる。
【0076】
図13は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子100における開き角度および角度差に関する傾向を示すグラフであり、図8ないし図12に示した結果をまとめたものである。横軸は外側開角度Θa(度)、縦軸の第1軸は開角度差ΔΘ(度)、第2軸は内側開角度(度)である。実線で示しているのが分岐開角度差ΔΘb、破線で示しているのが分岐内側開角度Θbbである。すなわち、内側開角度Θbが図13に示す分岐時内側開角度Θbbより大きければ、1層カットの方が2層カットの場合より発生応力が小さく、1層カットの効果が生ずる。
【0077】
図14は、実施形態に係る二層型磁石埋込式回転子における外側開き角度に対する有効な内側開き角度の範囲を示すグラフである。横軸は、外側開角度Θa(度)、縦軸は、内側開角度Θb(度)である。
【0078】
まず、有効な内側開角度Θbの範囲の上限値Θbmaxについて述べる。図8ないし図12から明らかなように、開角度差ΔΘがマイナス側に絶対値が大きくなるほど、1層カットの方が2層カットの場合より発生応力が小さくなる程度が単調に増加している。いま、図8ないし図12に示す横軸の最小値である開角度差ΔΘがマイナス10度の場合、内側開角度Θbの上限値は(外側開角度Θaプラス10度)となる。たとえば、外側開角度Θaが100度の場合には内側開角度Θbの上限値は110度、外側開角度Θaが140度の場合には内側開角度Θbの上限値は150度となる。
【0079】
なお、内側開角度Θbが外側開角度Θaプラス10度よりさらに大きくなると、第1の外側磁石131および第2の外側磁石132と、第1の内側磁石133および第2の内側磁石134との間の鉄の量の差が減少し、リラクタンストルクが低下するため、マイナスの効果を生ずる。したがって、内側開角度Θbが外側開角度Θaプラス10度となるようなΘbmaxを上側境界線として、図14において太線で示している。
【0080】
次に、図13で示した分岐開角度Θbbを、図14においては下側限界線Xとして太線で示している。
【0081】
上述のように、外側開角度Θaの領域として100度から140度までの角度範囲を選択すると、この外側開角度Θaの領域においては、内側開角度Θbが、下側限界線Xとしての太線で示す分岐開角度Θbbよりも大きく、かつ、上側境界線としての太線で示すΘmaxの直線の値以下の領域が、1層カットの効果が生ずる有効領域である。
【0082】
ここで、下側の境界として、図14に示すような折れ線状の下側限界線Xを使用することは実用的ではないので、直線状の境界線を用いることが有効である。そのような観点から、新たな下側境界線を設定し、その下側境界線の値以上かつ上述の上側境界線(Θbmaxによる)の値以下の領域を、1層カットの効果が生ずる有効領域とする。このような新たな下側境界線として、図14に直線A、直線Bおよび直線Cを示す。
【0083】
直線Aは、一定値を有する直線である。図13で示すように、外側開角度Θaが、100度から130度の範囲では、分岐内側開角度Θbbは、90~95度である。したがって、外側開角度Θaを100度から130度の範囲とし、下側限界線Xを共通して96度(>95)とする。
【0084】
直線Bは、Θb=Θa-10(度)の直線である。Θaが100度におけるΘbbは89.6度であり、直線Aの値は90度である。したがって、直線Aは、図14において下側限界線Xよりも上方にある。この場合は、内側開角度Θbが、外側開角度Θa±10度であり、内側開角度Θbが、外側開角度Θaの近傍の範囲であるとの規定の仕方となる。
【0085】
直線Cは、下側限界線Xを包絡する直線を上方に移動した直線である。具体的には、図14においては、外側開角度Θaが112度のときの下側限界線Xの値と外側開角度Θaが140度のときの下側限界線Xの値を結んだ直線(Θb=0.393・Θa+51.0)に余裕を持たせるように、上方に移動し、たとえば、次の式(1)で与えるものである。
Θb=0.393Θa・x+52.0 …(1)
【0086】
以上のように、各磁極において対となる2つの磁石が2層配置されている構成を有する二層型磁石埋込式回転子100において、内側の層の収納孔のみ開口部124c、125cを設ける1層カットとして、外側開角度Θaの範囲を決定し、開角度差ΔΘおよび内側開角度Θbの範囲を決定していくことにより、トルク性能および構造強度確保のいずれも確保できる二層型磁石埋込式回転子を製作することができる。
【0087】
なお、以上は、一例を示したものであり、永久磁石の収納孔の形状、寸法、位置、磁極139の周方向の幅などの条件は、適切に選定して、上述の手順に従って決定していけばよい。
【0088】
以上、説明した実施形態によれば、各磁極において対となる2つの磁石が2層配置されている構成において、1層カットとすることにより、トルク性能と強度確保を両立することができる。
【0089】
[その他の実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。また、各実施形態の特徴を組み合わせてもよい。さらに、実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0090】
1…二層型磁石埋込式回転電機、10…固定子、11…固定子鉄心、12…固定子巻線、20…軸受、30…軸受ブラケット、40…フレーム、100…二層型磁石埋込式回転子、110…ロータシャフト、120…回転子鉄心、120a…電磁鋼板、121…第1の外側収納孔、121a…第1の外側収納孔径方向外側壁、121b…第1の外側収納孔周方向内側壁、122…第2の外側収納孔、122a…第2の外側収納孔径方向外側壁、122b…第1の外側収納孔周方向内側壁、123…外側センターブリッジ、124…第1の内側収納孔、124a…第1の内側収納孔径方向外側壁、124b…第1の内側収納孔周方向内側壁、124c…開口部、125…第2の内側収納孔、125a…第2の内側収納孔径方向外側壁、125b…第1の内側収納孔周方向内側壁、125c…開口部、126…内側センターブリッジ、127a、127b…開口部チップ、127c…磁石保持突起、130…永久磁石、131…第1の外側磁石、132…第2の外側磁石、133…第1の内側磁石、134…第2の内側磁石、139…磁極、200…基準例
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14