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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】加工工具の補正算出方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 25/06 20060101AFI20250106BHJP
   B23Q 17/22 20060101ALI20250106BHJP
【FI】
B23B25/06
B23Q17/22 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2024021621
(22)【出願日】2024-02-16
(62)【分割の表示】P 2020109354の分割
【原出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2024050924
(43)【公開日】2024-04-10
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591014835
【氏名又は名称】高松機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092727
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 忠昭
(74)【代理人】
【識別番号】100146891
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】沢山 一也
(72)【発明者】
【氏名】中村 武尊
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-054930(JP,A)
【文献】実開平06-003551(JP,U)
【文献】特開平09-108995(JP,A)
【文献】国際公開第2017/126044(WO,A1)
【文献】特開平05-050361(JP,A)
【文献】特表2009-519137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 25/06
B23Q 17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブ測定装置の装置本体部を工作機械のチャック手段にチャック保持し、前記チャック手段の全周を周方向に等角度間隔でもって回動させた3つ以上の角度位置にて前記工作機械の加工工具を前記プローブ測定装置のプローブ部に接触させて計測を行い、前記3つ以上の角度位置における前記プローブ測定装置の測定値の平均値を算出し、算出した前記平均値に基づいて前記加工工具の補正値を演算することを特徴とする加工工具の補正算出方法。
【請求項2】
前記チャック手段の全周を周方向に90度間隔でもって回動させた4つの角度位置にて前記工作機械の前記加工工具を前記プローブ測定装置の前記プローブ部に接触させて計測を行うことを特徴とする請求項記載の加工工具の補正算出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作装置に取り付けた加工工具の工具刃先の位置を補正するための加工工具の補正算出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加工工具の工具刃先の位置を補正するためのツールプリセッタとして種々のものが提案され、その代表的なものとして株式会社メトロールから販売されているCNC旋盤用ツールプリセッタが知られている(非特許文献1参照)。このCNC旋盤用ツールプリセッタ(例えば、Hシリーズ)は、立方体形状のセッタ本体を備え、このセッタ本体の4側面に測定部が設けられ、各測定部に測定接触部が設けられている。このツールプリセッタを使用する場合、工作機械(例えば、CNC旋盤)の旋盤本体に支持アームが取り付けられ、この支持アームの先端部にツールプリセッタが取り付けられる。
【0003】
工作機械に取り付けられた加工工具の工具刃先のZ軸方向(主軸の軸線方向)の位置を補正するときには、この加工工具をZ軸方向に移動させてその工具刃先をツールプリセッタの第1所定測定部(Z軸方向の測定部)の測定接触部に接触させ、工作機械のZ軸方向の送り量とツールプリセッタの測定値との差を演算し、この演算値が工作機械に取り付けた加工工具のZ軸方向の補正値となる。また、この加工工具の工具刃先のX軸方向(又はY軸方向)、即ち主軸の軸線に対して垂直な前後方向(又は主軸の軸線に対して垂直な上下方向)の位置を補正するときには、この加工工具をX軸方向(又はY軸方向)に移動させてその工具刃先をツールプリセッタの第2所定測定部、即ちX軸方向(又はY軸方向)の測定部の測定接触部に接触させ、工作機械のX軸方向(又はY軸方向)の送り量とツールプリセッタの測定値との差を演算し、この演算値が工作機械に取り付けた加工工具のX軸方向(又はY軸方向)の補正値となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】株式会社メトロールのウェブページの製品ラインナップのCNC旋盤用ツールプリセッタ(https://www.metrol.co.jp/products/tool-setter_h/)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したツールプリセッタでは、工作機械に取り付けた支持アームにセッタ本体を取り付ける構成であるために、工作機械の種類、機種などによっては、加工工具の移動経路内に支持アーム及び/又はツールプリセッタの一部が位置して干渉し、このような加工工具と加工物との位置関係では測定することができないという問題がある。また、このように支持アームに取り付ける構成では、機械的経時変化が発生するとともに、ツールプリセッタを取り付ける支持アームが経時的に変位するという問題がある。また、着脱式のツールプリセッタでは、その取付けにバラツキが発生し、正確に加工工具をセットすることができないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、工作機械の機械的経時変化の影響を少なく抑えて工具刃先の位置を補正することができる加工工具の補正算出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の加工工具の補正算出方法は、プローブ測定装置の装置本体部を工作機械のチャック手段にチャック保持し、前記チャック手段の全周を周方向に等角度間隔でもって回動させた3つ以上の角度位置にて前記工作機械の加工工具を前記プローブ測定装置のプローブ部に接触させて計測を行い、前記3つ以上の角度位置における前記プローブ測定装置の測定値の平均値を算出し、算出した前記平均値に基づいて前記加工工具の補正値を演算することを特徴とする。
【0008】
このような加工工具の補正算出方法では、チャック手段の全周を周方向に90度間隔でもって回動させた4つの角度位置にて工作機械の加工工具をプローブ測定装置のプローブ部に接触させて計測するのが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加工工具の補正算出方法によれば、プローブ測定装置の装置本体部を工作機械のチャック手段にチャック保持して用い、チャック手段の全周を周方向に等角度間隔でもって回動させた3つ以上の角度位置にて工作機械の加工工具をプローブ測定装置のプローブ部に接触させて計測を行い、3つ以上の角度位置におけるプローブ測定装置の測定値の平均値を算出し、かかる平均値に基づいて加工工具の補正値を演算しているので、その補正値は主軸及びチャック手段を含む工作機械の機械的経時変位量を含むものとなり、しかもプローブ測定装置の取付けの際のバラツキもなくなり、これにより、高精度に加工工具の工具刃先の位置を補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明に従う加工工具の補正算出方法を実施するためのツールプリセッタの一実施形態を示す斜視図。
図2図1のツールプリセッタを工作機械のチャック手段に保持した状態を断面で示す断面図。
図3図2におけるIII-III線による端面図。
図4図1のツールプリセッタを用いて加工工具のX軸方向(外径加工)の補正を行うときの状態を示す簡略断面図。
図5】加工工具がX軸方向(外径加工)に移動してツールプリセッタの接触部材に接触して揺動した状態を示す断面図。
図6図1のツールプリセッタを用いて加工工具のZ軸方向の補正を行うときの状態を示す簡略断面図。
図7】加工工具がZ軸方向に移動してツールプリセッタの接触部材に接触して揺動した状態を示す断面図。
図8図1のツールプリセッタを用いて加工工具のX軸方向(内径加工)の補正を行うときの状態を示す簡略断面図。
図9】加工工具がX軸方向(内径加工)に移動してツールプリセッタの接触部材に接触して揺動した状態を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照して、本発明に従う加工工具の補正算出方法を実施するためのツールプリセッタの一実施形態について説明する。図1及び図2において、図示のツールプリセッタ2は、プローブ測定装置4と、このプローブ測定装置4に取り付けられた支持部材6と、この支持部材6に揺動自在に支持された接触部材8とを備えている。プローブ測定装置4は、外形が円筒形状の装置本体部10と、この装置本体部10から延びるプローブ部12とを備え、このプローブ部12は、後の記載から理解される如く、任意の方向に揺動自在に装着されている。
【0012】
この装置本体部10内には、図示していないが、接触信号を生成する接触信号生成回路、生成された接触信号を送信する送信回路などが内蔵されている。このプローブ部12の一端部(先端部)には先端接触部14が設けられ、この先端接触部14に接触してプローブ部12が揺動すると、接触信号が生成され、生成された接触信号が送信される。
【0013】
支持部材6は、中空空間16を有する支持本体18を備え、この支持本体18の軸方向一端側(先端側)に先端壁20が設けられ、この先端壁20に支持受部22が設けられ、この支持受部22の内周面は球状に形成されている。また、この支持本体18の他端側8(基端側)に基端壁24が設けられ、この基端壁24がプローブ測定装置4の装置本体部10に取り付けられている。この支持部材6の基端壁24の中央部には貫通開口26が設けられ、プローブ測定装置4のプローブ部12の先端側は、この基端壁24の貫通開口26を通して支持部材6の中空空間16に延びている。
【0014】
また、接触部材8は円筒棒状であり、その軸方向中間部に球状部32が設けられ、この球状部32が支持部材6の支持受部22に任意の方向に揺動自在に支持されている。この接触部材8の一端側(先端側)は支持部材6の先端から外方に突出しており、この突出端部に測定接触部34が設けられている。この測定接触部34はリング状に形成され、その先端面に円形状凹部36が設けられている。
【0015】
更に、この接触部材8の他端側(基部側)はプローブ測定装置4に向けて延び、その基端部37に基端から軸方向に延びる収容凹部38が設けられ、この収容凹部38にプローブ測定装置4のプローブ部12の先端部(先端接触部14を含む部位)が挿入されている。尚、この実施形態では、プローブ部12の先端接触部14以外の部位が接触部材8の収容凹部38(具体的には、その内周面)に接触するのを防止するために、収容凹部38の開口部が拡径されている。
【0016】
この実施形態では、接触部材8は、その中間部の球状部32の中心を支点としてその一端側(先端側)の重量とその他端側(基端側)の重量とがほぼ均等にバランスするように構成されている。従って、図2から理解される如く、この球状部32を支点として接触部材8がスムースに且つ安定して揺動し、加工工具44が(44a~44c)(例えば、切削加工工具)が接触部材8に接触したことを正確に検知することができる。
【0017】
この実施形態では、支持部材6の内側の中空空間16に接触部材8の他端側(基部側)が同心状に位置するように、次のように構成されている。図3をも参照して、支持部材の支持本体18の内周面にリング状の外側永久磁石40が装着され、この外側永久磁石40に対して径方向に対向して、接触部材8の基端部37(他端部)の外周面にリング状の内側永久磁石42が装着されている。そして、これら永久磁石40,42については、図3に示すように、外側永久磁石40の内周部と内側永久磁石42の外周部とは、同じ磁極(例えばN極)で径方向に対向するように構成されている。
【0018】
具体的に説明すると、外側永久磁石40は径方向に着磁され、その径方向内周部における周方向に実質上等間隔を置いた4つの部位(即ち、90度間隔の4つの部位)が、例えば図3に示すようにN極に着磁され、また内側永久磁石42も径方向に着磁され、その径方向外周部における周方向に実質上等間隔を置いた4つの部位(即ち、90度間隔の4つの部位)が、例えば図3に示すようにN極に着磁され、このように構成することによって、外側永久磁石40の内周部のN極と内側永久磁石42の外周部のN極とが径方向に対向する。従って、外側永久磁石40の内周部及び内側永久磁石42の外周部の実質上全周にわたって磁気的反発作用が生じ、この磁気的反発作用によって、接触部材8に加工工具44が作用しないときには、図2及び図3に示すように、支持部材6の支持本体18の径方向内側に接触部材8の他端側(基部側)が同心状に保持される。
【0019】
尚、この実施形態では、周方向の4つの部位を着磁しているが、着磁する部位の数は適宜の数でよく、例えば周方向に実質上等間隔の6つ、又は8つの部位を着磁するようにしてもよい。
【0020】
このツールプリセッタ2は、例えば、工作機械の一例としてのCNC旋盤のチャック手段46に取り付けられる。チャック手段46として例えば4爪チャックを用いた場合、チャック手段46は周方向に間隔をおいて配設された4つのチャック爪部材48(図2において、それらの2つのみを示す)を備え、これら4つのチャック爪部材48間にツールプリセッタ2の装置本体部10がチャック保持される。また、図示していないが、チャック手段として例えば3爪チャックを用いたものにも用いることができ、この場合、チャック手段は周方向に間隔をおいて配設された3つのチャック爪部材を備え、これら3つのチャック爪部材間にツールプリセッタ2の装置本体部10がチャック保持される。
【0021】
このツールプリセッタ2による加工工具44(44a~44c)の位置補正は、例えば次のようにして行われる。例えば、加工物の外径加工を行う場合などにおいて、工作機械62のX軸方向における加工工具の位置補正を行うときには、図2に示すように、ツールプリセッタ2(具体的には、プローブ測定装置4の装置本体部10)を工作機械62(例えば、CNC旋盤)のチャック手段46に取り付ける。そして、加工工具44aによる外径加工の際のX軸方向の位置補正については、図2図4及び図5に示すようにして行われる。
【0022】
加工工具44aを図2に一点鎖線44aで示すように接触部材8の測定接触部34の径方向(X軸方向)外側に位置付け、この位置から工具取付テーブル64をX軸方向(図4参照)に移動させて加工工具44aの工具刃先50aを測定接触部34の外周面に接触させる。工具刃先50aが矢印66で示す方向に移動して測定接触部34に接触すると、図5に示すように、この接触部材8は、その測定接触部34が球状部32を支点として下方に移動して図5において時計方向に幾分回動し、これによって、その基端部37が図5において上方に移動する。
【0023】
かくすると、接触部材8の基端部37の収容凹部38(この収容凹部38を規定する内周面)がプローブ測定装置4のプローブ部12の先端接触部14に接触し、加工工具44aの移動接触が接触部材8を介してプローブ測定装置4のプローブ部12に伝達され、このプローブ測定装置4のプローブ部12への接触位置を正確に測定することができ、この接触位置がプローブ測定装置4のX軸方向の測定値となる。
【0024】
加工工具44aのX軸方向の位置補正については、この実施形態では、チャック手段46を周方向に90度間隔で回動した4つの角度位置において、上述したと同様にして加工工具44aによる接触部材8の測定接触部34への接触位置をプローブ測定装置4でもって計測する。そして、これら4つの角度位置におけるプローブ測定装置4の測定値を演算して平均値を算出し、算出した平均測定値がプローブ測定装置4による測定値となり、この平均測定値を用いて従来と同様にして加工工具44aの補正値(X軸方向)を演算し、加工物を実際に加工する際には、加工工具44aのX軸方向の位置をこの補正値でもって補正するようになる。
【0025】
加工工具44aのこの補正値(X軸方向)は、ツールプリセッタ2を工作機械62のチャック手段46に保持した状態においてチャック手段46の周方向の4つの角度位置の測定値の平均値を用いて算出しているので、主軸(図示せず)及びチャック手段46を含む工作機械62の機械的経時変位量も考慮したものとなっており、それ故に、このような補正値を用いることにより、外径加工する際に加工工具44aの工具刃先50aの位置を高精度に補正することができる。
【0026】
また、加工物の端面加工を行う場合などにおいて、工作機械62のZ軸方向における加工工具44の位置補正を行うときには、図2に示すように、ツールプリセッタ2を工作機械62(例えば、CNC旋盤)のチャック手段46に取り付ける。そして、加工工具44による例えば端面加工の際のZ軸方向の位置補正については、図2図6及び図7に示すようにして行われる。
【0027】
加工工具44を図2に一点鎖線44bで示すように接触部材8の測定接触部34のZ軸方向外側に位置付け、この位置から工具取付テーブル64をZ軸方向(図6参照)に移動させて加工工具44bの工具刃先50bを測定接触部34の先端面に接触させる。工具刃先50bが矢印72で示す方向に移動して測定接触部34に接触すると、図7に示すように、この接触部材8は、その測定接触部34が球状部32を支点として上方に移動して図7において反時計方向に幾分回動し、これによって、その基端部37が図7において下方に移動する。
【0028】
かくすると、接触部材8の基端部37の収容凹部38がプローブ測定装置4のプローブ部12の先端接触部14に接触し、加工工具44bの移動接触が接触部材8を介してプローブ測定装置4のプローブ部12に伝達され、この接触位置がプローブ測定装置4のZ軸方向の測定値となる。
【0029】
加工工具44bのZ軸方向の位置補正については、X軸方向のときと同様に、チャック手段46を周方向に90度間隔で回動した4つの角度位置において、上述した同様にして加工工具44bによる接触部材8の測定接触部34への接触位置をプローブ測定装置4でもって計測する。そして、これら4つの角度位置におけるプローブ測定装置4の測定値を演算して平均値を算出し、算出した平均測定値がプローブ測定装置4によるZ軸方向の測定値となり、この平均測定値を用いて従来と同様にして加工工具44bの補正値(Z軸方向)を演算し、加工物を実際に例えば端面加工する際には、加工工具44aのZ軸方向の位置をこの補正値でもって補正するようになる。
【0030】
加工工具44bのこの補正値(Z軸方向)は、ツールプリセッタ2を工作機械62のチャック手段46に保持した状態においてチャック手段46の周方向の4つの角度位置の測定値の平均値を用いて算出しているので、主軸(図示せず)及びチャック手段46を含む工作機械62の機械的経時変位量も考慮したものとなり、例えば端面加工する際に、加工工具44bの工具刃先50bの位置を高精度に補正することができる。
【0031】
また、加工物の内径加工を行う場合などにおいて、工作機械62のX軸方向における加工工具44の位置補正を行うときには、図2に示すように、ツールプリセッタ2を工作機械62(例えば、CNC旋盤)のチャック手段46に取り付ける。そして、加工工具44による例えば内径加工の際のX軸方向の位置補正については、図2図8及び図9に示すようにして行われる。
【0032】
加工工具44(この場合、外径用加工工具ではなく、内径用加工工具を用いるが、理解を容易にするために、同じ参照番号「44」又は「44c」を使用している)を図2に一点鎖線44cで示すように接触部材8の測定接触部34のZ軸方向内側(リング状の測定接触部34の内側)に位置付け、この位置から工具取付テーブル64をX軸方向(図8参照)に移動させて加工工具44cの工具刃先50cを測定接触部34の内周面に接触させる。工具刃先50cが矢印82で示す方向に移動して測定接触部34の円形状凹部36の内周面に接触すると、図9に示すように、この接触部材8は、その測定接触部34が球状部32を支点として上方に移動して図9において反時計方向に幾分回動し、これによって、その基端部37が図9において下方に移動する。
【0033】
かくすると、上述のZ軸方向の移動のときと同様に、接触部材8の基端部37の収容凹部38がプローブ測定装置4のプローブ部12の先端接触部14に接触し、加工工具44bの移動接触が接触部材8を介してプローブ測定装置4のプローブ部12に伝達され、この接触位置がプローブ測定装置4のX軸方向の測定値となる。
【0034】
加工工具44bのX軸方向(内径加工)の位置補正については、X軸方向(外径加工)のときと同様に、チャック手段46を周方向に90度間隔で回動した4つの角度位置においてプローブ測定装置4でもって計測し、4つの角度位置におけるプローブ測定装置4の測定値の平均値を算出し、算出した平均測定値がプローブ測定装置4によるX軸方向(内径加工)の測定値となる。そして、この平均測定値を用いて従来と同様にして加工工具44cの補正値(X軸方向)を演算し、加工物を実際に内径加工する際には、加工工具44cのX軸方向の位置をこの補正値でもって補正するようになる。この補正値は、軸(図示せず)及びチャック手段46を含む工作機械62の機械的経時変位量も考慮したものとなり、例えば内径加工する際に加工工具44bの工具刃先50bの位置を高精度に補正することができる。
【0035】
以上、本発明に従う加工工具の補正算出方法について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の修正乃至変更が可能である。
【0036】
例えば、上述した実施形態では、接触部材8の測定接触部34をリング状に形成しているが、このような形状に限定されず、例えば中実円筒状に形成するようにしてもよく、中実円筒状の接触部材を用いた場合、外径加工の位置補正及び端面加工の位置補正に適用することができる。
【0037】
また、例えば、上述した実施形態では、支持部材6側の永久磁石40と接触部材8の永久磁石42との磁気的反発作用を利用して同心状に保持しているが、このような構成に代えて、機械的保持構造(例えば、複数のスプリングを利用した保持構造)により同心状に保持するようにしてもよい。
【0038】
また、例えば、上述した実施形態では、チャック手段46の周方向の4個所(周方向に間隔をおいた4つの角度位置においてプローブ測定装置4で測定しているが、このような数に限定されず、4個所よりも少ない例えば3個所でもよく、或いは4個所よりも多い例えば6個所又は8個所などでもよい。
【0039】
また、上述した実施形態では、図1図9に示すツールプリセッタ2を用いて加工工具の補正算出方法について説明したが、この補正算出方法は、このツールプリセッタ2とは異なる形態のものを用いたときも適用することができる。
【0040】
更に、この加工工具の補正算出方法については、ツールプリセッタ2に代えて、このツールプリセッタ2に用いたプローブ測定装置4を用いても適用することができる。この場合、プローブ測定装置4の装置本体部10を工作機械のチャック手段46にチャック保持し、このチャック手段46を周方向に回動させた複数の角度位置にて工作機械の加工工具44をプローブ測定装置4のプローブ部12に接触させるようにしても、上述したと同様に、このプローブ測定装置4の複数の測定値を用いて加工工具44の補正値を演算するこができる。
【符号の説明】
【0041】
2 ツールプリセッタ
4 プローブ測定装置
6 支持部材
8 接触部材
10 装置本体部
12 プローブ部
14 先端接触部
32 球状部
34 測定接触部
40 外側永久磁石
42 内側永久磁石
44,44a,44b,44c 加工工具
46 チャック手段
50a,50b,50c 工具刃先
62 工作機械

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9