(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-12-27
(45)【発行日】2025-01-14
(54)【発明の名称】磁気センサおよび磁気測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 33/09 20060101AFI20250106BHJP
G01R 33/02 20060101ALI20250106BHJP
H10N 50/80 20230101ALI20250106BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20250106BHJP
H10D 48/40 20250101ALI20250106BHJP
【FI】
G01R33/09
G01R33/02 V
H10N50/80 Z
H10N50/10 U
H01L29/82 Z
(21)【出願番号】P 2024145161
(22)【出願日】2024-08-27
(62)【分割の表示】P 2024052742の分割
【原出願日】2024-03-28
【審査請求日】2024-10-31
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(74)【代理人】
【識別番号】100108006
【氏名又は名称】松下 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】梅津 英治
(72)【発明者】
【氏名】菊地 冠汰
【審査官】永井 皓喜
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-143919(JP,A)
【文献】特開2002-204002(JP,A)
【文献】特開2000-113415(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0002035(US,A1)
【文献】特開2019-144222(JP,A)
【文献】特開2002-299723(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
H10N 50/10
G11B 5/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、
前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、
前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、
前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、
を有する可変磁界検知部を備え、
前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記第1状態または前記第2状態における前記磁気状態可変部材の磁化は、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合の影響を受けることを特徴とする磁気センサ。
【請求項2】
前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とに基づいて、前記測定磁界を算出する磁界算出部をさらに備える、請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
前記第2状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ2は、
前記第1状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ1よりも高く、かつ
前記第1磁性体と前記磁気検知素子との間に位置する第1物質の前記第1方向の透磁率μ0よりも高い、
請求項2に記載の磁気センサ。
【請求項4】
前記可変磁界検知部は、前記磁気検知素子と前記磁気状態可変部材との間に非磁性部材を有し、前記磁気検知素子の感磁部は、前記磁気状態可変部材に対して磁気的に非結合である、請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項5】
前記磁気検知素子の感磁部は、前記磁気状態可変部材と磁気的に結合している、請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項6】
前記磁気検知素子と前記磁気状態可変部材とは、前記第1方向に直交する第2方向に並ぶ、請求項3に記載の磁気センサ。
【請求項7】
前記磁気状態可変部材は、前記磁気検知素子の検知中心よりも、前記第1方向で前記第1磁性体に近位な部分を有する、請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項8】
前記磁気状態可変部材の前記第1方向の中央と、前記磁気検知素子の検知中心とは、前記第1方向において等しい位置にある、請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項9】
前記磁気状態可変部材の前記第1方向の長さは、前記磁気検知素子の前記第1方向の長さよりも長い、請求項8に記載の磁気センサ。
【請求項10】
前記第1磁性体は、前記第1方向の長さが、前記第2方向の長さよりも長い、請求項6に記載の磁気センサ。
【請求項11】
前記可変磁界検知部は、前記第1端部から見て、前記磁気検知素子よりも前記第1方向で遠位な第2磁性体をさらに備える、請求項1に記載の磁気センサ。
【請求項12】
前記磁気状態可変部材は、前記第2状態において、前記第1磁性体および前記第2磁性体と磁気的に結合するように配置される、請求項11に記載の磁気センサ。
【請求項13】
第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、
前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、
前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、
前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、
を有する可変磁界検知部を備え、
前記第2状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ2は、
前記第1状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ1よりも高く、かつ
前記第1磁性体と前記磁気検知素子との間に位置する第1物質の前記第1方向の透磁率μ0よりも高く、
前記磁気状態変調部材と前記磁気状態可変部材とは前記第1方向に直交する第2方向に積層された磁気制御体を構成し、前記磁気制御体と前記磁気検知素子とは前記第2方向に並んで配置され、
前記磁気状態変調部材は、通電時に前記磁気状態可変部材にスピン軌道トルクを付与するスピントルク生成部を有し、
通電時の前記磁気状態可変部材の磁気状態は、前記スピントルク生成部からの前記スピン軌道トルクに基づき、非通電時の磁気状態と相違することを特徴とする磁気センサ。
【請求項14】
前記可変磁界検知部は、前記磁気状態変調部材が非通電状態であるときに、前記磁気状態可変部材を、前記測定磁界によって磁化が回転しない程度に前記第2方向に沿って磁化するバイアス磁界源を有し、
前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、
前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁界により磁化が前記第1面の面内方向に回転可能な程度に、前記電流が流れる向きと反対向きに磁化する、請求項13に記載の磁気センサ。
【請求項15】
前記第2状態において、前記磁気状態変調部材に流れる前記電流は、前記第1面の面内方向で前記第1方向に直交する第3方向に沿う、請求項14に記載の磁気センサ。
【請求項16】
前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合が、前記バイアス磁界源となる、請求項14に記載の磁気センサ。
【請求項17】
前記バイアス磁界源は、通電により誘導磁界を生じるコイルと、永久磁石との少なくとも1つを含む、請求項14に記載の磁気センサ。
【請求項18】
前記バイアス磁界源は前記磁気制御体に積層される、請求項17に記載の磁気センサ。
【請求項19】
前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第1方向に沿う電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記第1状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に磁化され、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第2状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により回転しにくく、
前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第1状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向を向きやすい、請求項13に記載の磁気センサ。
【請求項20】
前記可変磁界検知部は、前記磁気状態可変部材にバイアス磁界を付与するバイアス磁界源を有し、前記第2状態において前記磁気状態可変部材が受ける前記バイアス磁界は、前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に沿い、前記測定磁界に基づく磁束により前記磁気状態可変部材の磁化が回転可能な程度である、請求項19に記載の磁気センサ。
【請求項21】
前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合が、前記バイアス磁界源となる、請求項20に記載の磁気センサ。
【請求項22】
前記バイアス磁界源は、通電により誘導磁界を生じるコイルと、永久磁石との少なくとも1つを含む、請求項20に記載の磁気センサ。
【請求項23】
前記バイアス磁界源は前記磁気制御体に積層される、請求項22に記載の磁気センサ。
【請求項24】
前記バイアス磁界は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に沿う、請求項20に記載の磁気センサ。
【請求項25】
前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第1方向に沿う電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記第1状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向および前記第2方向に磁化され、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第2状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により回転しにくく、
前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第1状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向を向きやすい、請求項13に記載の磁気センサ。
【請求項26】
前記可変磁界検知部は、前記磁気状態可変部材にバイアス磁界を付与するバイアス磁界源を有し、前記第2状態において前記磁気状態可変部材が受ける前記バイアス磁界は、前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に沿い、前記測定磁界に基づく磁束により前記磁気状態可変部材の磁化が回転可能な程度である、請求項25に記載の磁気センサ。
【請求項27】
前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合が、前記バイアス磁界源となる、請求項26に記載の磁気センサ。
【請求項28】
前記バイアス磁界源は、通電により誘導磁界を生じるコイルと、永久磁石との少なくとも1つを含む、請求項26に記載の磁気センサ。
【請求項29】
前記バイアス磁界源は前記磁気制御体に積層される、請求項28に記載の磁気センサ。
【請求項30】
前記バイアス磁界は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に沿う、請求項26に記載の磁気センサ。
【請求項31】
第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、
前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、
前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、
前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、
を有する可変磁界検知部、および
前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とから、前記測定磁界を算出する磁界算出部
を備える磁気センサを用いた磁気測定方法であって、
前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第1状態として前記第1出力を得る第1測定ステップと、
前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第2状態として前記第2出力を得る第2測定ステップと、
前記磁界算出部において前記第1出力と前記第2出力とから前記測定磁界を算出する磁界算出ステップと、
を備え、
前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記第1状態または前記第2状態における前記磁気状態可変部材の磁化は、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合の影響を受けることを特徴とする磁気測定方法。
【請求項32】
第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、
前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、
前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、
前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、
を有する可変磁界検知部、および
前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とから、前記測定磁界を算出する磁界算出部
を備える磁気センサを用いた磁気測定方法であって、
前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第1状態として前記第1出力を得る第1測定ステップと、
前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第2状態として前記第2出力を得る第2測定ステップと、
前記磁界算出部において前記第1出力と前記第2出力とから前記測定磁界を算出する磁界算出ステップと、
を備え、
前記第2状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ2は、
前記第1状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ1よりも高く、かつ
前記第1磁性体と前記磁気検知素子との間に位置する第1物質の前記第1方向の透磁率μ0よりも高く、
前記磁気状態変調部材と前記磁気状態可変部材とは前記第1方向に直交する第2方向に積層された磁気制御体を構成し、前記磁気制御体と前記磁気検知素子とは前記第2方向に並んで配置され、
前記磁気状態変調部材は、通電時に前記磁気状態可変部材にスピン軌道トルクを付与するスピントルク生成部を有し、
通電時の前記磁気状態可変部材の磁気状態は、前記スピントルク生成部からの前記スピン軌道トルクに基づき、非通電時の磁気状態と相違することを特徴とする磁気測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサおよび磁気測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁界を検出、測定する磁気センサとして、GMR(巨大磁気抵抗)効果やTMR(トンネル磁気抵抗)効果を用いた磁気抵抗効果素子を備えたものがある。これら磁気センサにおける磁気抵抗効果素子は、固定磁性層と、非磁性中間層と、フリー磁性層とがこの順に積層された構成を備えている。磁気抵抗効果素子では、測定対象の外部磁界が加わるとフリー磁性層の磁化方向が変化し、フリー磁性層の磁化方向と固定磁性層の磁化方向とのなす角に応じた抵抗変化が起こる。磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサは、磁気抵抗効果素子の抵抗変化を用いて、磁界を検出することができる。
【0003】
磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサには、フィルターでは除去することができない1/fノイズがある。1/fノイズは周波数に反比例し、低周波数になるほど大きくなるため、高精度の計測を行う際に阻害要因となる可能性がある。このため、1/fノイズを除去するために種々の方法が用いられている。
【0004】
特許文献1には、偶関数型の磁気センサにおいて、ある方向(+X方向)にバイアス磁界を印加したときの出力と、その反対方向(-X方向)にバイアス磁界を印加したときの出力との差分を取ることにより1/fノイズを除去する磁気センサが開示されている。
【0005】
特許文献2には、半導体サンプルのホール起電力を測定する際に、電極とサンプルとの間に発生するショットキーバリアによるノイズを除去するために、電圧差Vmの周波数帯域を低周波側にシフトさせて、1/fノイズの影響を大きく受けている電圧差Vmの周波数帯域を除去する測定装置が開示されている。
【0006】
特許文献3には、2つのサンプリングホールドを切り替えることで第1の電流、第2の電流の各々でブリッジ信号をサンプリングし、サンプリングした第1および第2のブリッジ信号の差から、磁場の値を判定する磁場感知デバイスが開示されている。
【0007】
特許文献4には、出力信号の1/fノイズを除去するために変調器でセンサ信号の正負を切り替えて変調した信号の差分を取るセンサ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2018-115972号公報
【文献】特開2020-148727号公報
【文献】特表2012-518788号公報
【文献】特表2009-544004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサには、低周波数領域における1/fノイズが磁気センサの検出精度を低下させるという問題があり、この問題を解決するために、従来、様々な装置や方法が提案されている。本発明は、従来とは異なる構成により1/fノイズを除去して、小さな磁界を高精度で測定することができる、磁気抵抗効果素子を備えた磁気センサおよび磁気測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、一態様において、第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、を有する可変磁界検知部を備えることを特徴とする磁気センサである。
【0011】
かかる磁気センサでは、磁気状態可変部材が異なる状態にあるときの磁界検知部からの2つの出力を用いることにより、測定対象となる外部磁界である測定磁界を測定したときに、1/fノイズが除去された信号を得ることができる。
【0012】
上記の磁気センサは、前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とに基づいて、前記測定磁界を算出する磁界算出部をさらに備えてもよい。磁界算出部において1/fノイズが除去された信号を算出することができる。
【0013】
上記の磁気センサにおいて、前記第2状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ2は、前記第1状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ1よりも高く、かつ前記第1磁性体と前記磁気検知素子との間に位置する第1物質の前記第1方向の透磁率μ0よりも高くてもよい。
【0014】
このように、第2状態において磁気状態可変部材の実効的な透磁率が周囲の透磁率よりも高いことにより、測定磁界に基づく磁束、すなわち、測定磁界の磁束および第1磁性体が測定磁界を受けて磁化してなる磁束が、磁気状態可変部材に集中しやすくなる。このため、磁気状態可変部材が第2状態にあるときの磁気検知素子の感磁部に到達する磁束の密度と、磁気状態可変部材が第1状態にあるときの磁気検知素子の感磁部に到達する磁束の密度とが相違しやすい。
【0015】
上記の磁気センサの一実施形態(第1実施形態)において、前記可変磁界検知部は、前記磁気検知素子と前記磁気状態可変部材との間に非磁性部材を有し、前記磁気検知素子の感磁部は、前記磁気状態可変部材に対して磁気的に非結合であってもよい。
【0016】
磁気検知素子の感磁部と磁気状態可変部材とが磁気的に非結合である場合には、磁気状態可変部材が測定磁界に基づく磁束を集磁しやすくなる第2状態において、磁気検知素子の感磁部には測定磁界に基づく磁束が到達しにくくなる。
【0017】
上記の磁気センサの他の一実施形態(第2実施形態)において、前記磁気検知素子の感磁部は、前記磁気状態可変部材と磁気的に結合していてもよい。
【0018】
磁気検知素子の感磁部と磁気状態可変部材とが磁気的に結合している場合には、磁気状態可変部材が測定磁界に基づく磁束を集磁しやすくなる第2状態において、磁気検知素子の感磁部にも測定磁界に基づく磁束が到達しやすくなる。
【0019】
上記の磁気センサにおける磁気検知素子と磁気状態可変部材において、前記磁気検知素子と前記磁気状態可変部材とは、前記第1方向に直交する第2方向に並んでいてもよい。この場合において、前記磁気状態可変部材は、前記磁気検知素子の検知中心よりも、前記第1方向で前記第1磁性体に近位な部分を有してもよい。また、前記磁気状態可変部材の前記第1方向の中央と、前記磁気検知素子の検知中心とは、前記第1方向において等しい位置にあってもよく、さらに、前記磁気状態可変部材の前記第1方向の長さは、前記磁気検知素子の前記第1方向の長さよりも長くてもよい。前記第1磁性体は、前記第1方向の長さが、前記第2方向の長さよりも長くてもよい。
【0020】
上記の磁気センサの可変磁界検知部は、前記第1端部から見て、前記磁気検知素子よりも前記第1方向で遠位な第2磁性体をさらに備えてもよい。
【0021】
第1方向で第1磁性体と第2磁性体との間に磁気検知素子が位置することにより、測定磁界に基づく磁束を効率的に磁気検知素子に到達させることができる。
【0022】
この場合において、前記磁気状態可変部材は、前記第2状態において、前記第1磁性体および前記第2磁性体と磁気的に結合するように配置されていてもよい。このとき、測定磁界は、第1磁性体と磁気状態可変部材と第2磁性体とからなり磁気的に結合された部分を優先的に通るため、磁気状態可変部材が第1磁性体または第2磁性体と磁気的に結合していないときとの対比で、磁気検知素子の感磁部に到達する磁束密度の差を大きくすることができる。
【0023】
上記の第1実施形態の磁気センサまたは第2実施形態の磁気センサにおいて、前記磁気状態変調部材と前記磁気状態可変部材とは前記第1方向に直交する第2方向に積層された磁気制御体を構成し、前記磁気制御体と前記磁気検知素子とは前記第2方向に並んで配置されていてもよい。この場合において、前記磁気状態変調部材は、通電時に前記磁気状態可変部材にスピン軌道トルクを付与するスピントルク生成部を有し、通電時の前記磁気状態可変部材の磁気状態は、前記スピントルク生成部からの前記スピン軌道トルクに基づき、非通電時の磁気状態と相違していてもよい。
【0024】
スピン軌道トルクを用いて磁気状態可変部材の磁気状態を変更することにより、第1状態と第2状態との磁気状態の相違の程度を大きくしたり、状態間の切替を容易にしたりすることが実現される。
【0025】
上記のスピン軌道トルクを用いる場合の一具体例(タイプA)において、前記可変磁界検知部は、前記磁気状態変調部材が非通電状態であるときに、前記磁気状態可変部材を、前記測定磁界によって磁化が回転しない程度に前記第2方向に沿って磁化するバイアス磁界源を有していてもよい。この場合において、前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁界により磁化が前記第1面の面内方向に回転可能な程度に、前記電流が流れる向きと反対向きに磁化してもよい。
【0026】
第1状態では、磁気状態可変部材はバイアス磁界により磁化の向きが固定されるため、測定磁界に基づく磁界は、磁気状態可変部材に集中しにくい。これに対し、第2状態では、磁気状態可変部材は測定磁界に基づく磁束により磁化するため、測定磁界に基づく磁束は磁化状態可変部材に集中する。それゆえ、磁気状態可変部材の周囲に位置する磁気検知素子に到達する磁束密度は、第1状態と第2状態とで相違する。
【0027】
この場合において、前記第2状態において、前記磁気状態変調部材に流れる前記電流は、前記第1面の面内方向で前記第1方向に直交する第3方向に沿ってもよい。このとき、ヒステリシスが低減されることがある。
【0028】
タイプAの具体例において、バイアス磁界源の形態は限定されない。前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合が、前記バイアス磁界源となってもよい。あるいは、前記バイアス磁界源は、通電により誘導磁界を生じるコイルと、永久磁石との少なくとも1つを含んでいてもよく、このとき、前記バイアス磁界源は前記磁気制御体に積層されてもよい。
【0029】
上記のスピン軌道トルクを用いる場合の他の一具体例(タイプB)では、前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第1方向に沿う電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記第1状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に磁化され、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第2状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により回転しにくく、前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第1状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向を向きやすくてもよい。
【0030】
第1状態では、磁気状態可変部材はスピン軌道トルクに基づき磁化の向きが固定されるため、測定磁界に基づく磁界は、磁気状態可変部材に集中しにくい。これに対し、第2状態では、磁気状態可変部材は測定磁界に基づく磁束により磁化するため、測定磁界に基づく磁束は磁化状態可変部材に集中する。それゆえ、磁気状態可変部材の周囲に位置する磁気検知素子に到達する磁束密度は、第1状態と第2状態とで相違する。
【0031】
タイプBの具体例において、前記可変磁界検知部は、前記磁気状態可変部材にバイアス磁界を付与するバイアス磁界源を有してもよい。バイアス磁界源は、タイプAの具体例と同様に様々な形態を取りうる。この場合において、前記第2状態において前記磁気状態可変部材が受ける前記バイアス磁界は、前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に沿い、前記測定磁界に基づく磁束により前記磁気状態可変部材の磁化が回転可能な程度であればよい。
【0032】
第2状態においてバイアス磁界が磁気状態可変部材に印加されることにより、ヒステリシスが低減される。
【0033】
前記バイアス磁界は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に沿うことにより、ヒステリシスの低減がより安定的に実現される。
【0034】
上記のスピン軌道トルクを用いる場合の別の一具体例(タイプC)では、前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第1方向に沿う電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記第1状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向および前記第2方向に磁化され、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第2状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により回転しにくく、前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第1状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向を向きやすくてもよい。
【0035】
第1状態では、磁気状態可変部材はスピン軌道トルクに基づき磁化の向きが固定されるため、測定磁界に基づく磁界は、磁気状態可変部材に集中しにくい。これに対し、第2状態では、磁気状態可変部材は測定磁界に基づく磁束により磁化するため、測定磁界に基づく磁束は磁化状態可変部材に集中する。それゆえ、磁気状態可変部材の周囲に位置する磁気検知素子に到達する磁束密度は、第1状態と第2状態とで相違する。
【0036】
タイプCの具体例において、前記可変磁界検知部は、前記磁気状態可変部材にバイアス磁界を付与するバイアス磁界源を有してもよい。この場合におけるバイアス磁界源の形態はタイプAの具体例と同様である。また、バイアス磁界の印加方向やその強さについては、タイプBの具体例と同様であり、具体的には、前記バイアス磁界は、前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に沿い、前記測定磁界に基づく磁束により前記磁気状態可変部材の磁化が回転可能な程度であってもよいし、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に沿っていてもよい。
【0037】
本発明は、他の一態様において、第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、を有する可変磁界検知部、および前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とから、前記測定磁界を算出する磁界算出部を備える磁気センサを用いた磁気測定方法である。かかる磁気測定方法は、前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第1状態として前記第1出力を得る第1測定ステップと、前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第2状態として前記第2出力を得る第2測定ステップと、前記磁界算出部において前記第1出力と前記第2出力とから前記測定磁界を算出する磁界算出ステップと、を備える。
【0038】
第1測定ステップにおいて取得した第1出力と、第2測定ステップにおいて取得した第2出力とに基づいて、磁界算出ステップにおいて測定磁界を算出することにより、磁気抵抗効果素子の1/fノイズが除去された測定磁界が得られる。例えば、磁界算出ステップにおいて第1出力と第2出力との差分を用いることにより、第1出力から1/fノイズを取り除くことができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、測定磁界から1/fノイズを除去できるため、小さな磁界を高精度で測定可能な、磁気分解能が高い磁気センサおよび磁気測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の一実施形態に係る磁気センサのブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る磁気センサが備える磁界検知部の説明図である。
【
図3A】本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)を説明する図である。
【
図3B】本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)を説明する図である。
【
図4】本発明の第1実施形態に係る磁気センサを用いた磁気測定方法を説明するフローチャートである。
【
図5】本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の好適例の説明図である。
【
図6】本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の好適例の他の例の説明図である。
【
図7】本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の好適例の別の例の説明図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の変形例の説明図である。
【
図9】本発明の第2実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)を説明する図である。
【
図10】本発明の第2実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)の好適例を説明する図である。
【
図11A】可変磁界検知部がタイプA、かつ第1実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に非結合)の構成を有する実施例(実施例1-1)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図11B】実施例1-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図12A】実施例1-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図12B】実施例1-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図13A】可変磁界検知部がタイプA、かつ第2実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に結合)の構成を有する実施例(実施例1-2)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図13B】実施例1-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図14A】実施例1-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図14B】実施例1-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図15A】可変磁界検知部がタイプB、かつ第1実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に非結合)の構成を有する実施例(実施例2-1)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図15B】可変磁界検知部実施例2-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図16A】実施例2-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図16B】実施例2-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図17A】可変磁界検知部がタイプB、かつ第2実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に結合)の構成を有する実施例(実施例2-2)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図17B】実施例2-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図18A】実施例2-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図18B】実施例2-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図19A】可変磁界検知部がタイプC、かつ第1実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に非結合)の構成を有する実施例(実施例3-1)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図19B】実施例3-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図20A】実施例3-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図20B】実施例3-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図21A】可変磁界検知部がタイプC、かつ第2実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に結合)の構成を有する実施例(実施例3-2)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図21B】実施例3-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図22A】実施例3-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
【
図22B】実施例3-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【
図23】可変磁界検知部実施例2-1の変形例に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。各図面において同じ部材には同じ番号を付して、説明を省略する。各部材の位置関係を示すために、適宜、各図に基準座標を示す。
【0042】
図1は、本発明の一実施形態に係る磁気センサのブロック図である。
図2は、本発明の一実施形態に係る磁気センサが備える磁界検知部の説明図である。本実施形態の磁気センサ1は、磁界検知部2、制御用電源3、磁界算出部4およびアンプ5、アナログ-デジタル変換回路(A/D変換回路6)および制御部7を備えている。制御部7は、磁気センサ1を構成する各部を制御するものであり、CPU(中央演算処理装置)やプログラム等として構成される。
【0043】
磁界検知部2は、測定対象としての外部磁界を検知するものである。
図2に示されるように、X方向に沿う磁界を測定する磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dにより構成されたフルブリッジ回路15などにより磁界検知部2が構成される。本実施形態では、磁界検知部2は、磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dのそれぞれに対応して、可変磁界検知部100a、100b、100cおよび100dを有する。制御用電源3は、制御部7からの制御信号に基づき、各部に所定の電流を印加したり所定の電圧を印加したりする。
【0044】
磁界算出部4は、磁界検知部2の出力に基づいて測定対象となる外部磁界(測定磁界H)を算出するものであり、例えば、CDS(Correlated Double Sampling)回路などで構成される。磁界算出部4は、後述する磁気状態可変部材40の磁気状態が第1状態にあるときの可変磁界検知部100a、100b、100cおよび100dからの第1の出力と、磁気状態可変部材40の磁気状態が第2状態にあるときの可変磁界検知部100a、100b、100cおよび100dからの第2の出力とに基づいて、測定磁界Hを算出する。例えば、第1の出力に基づく信号と第2の出力に基づく信号との差を求めることにより、第1の出力から1/fノイズを取り除くことができる。
【0045】
磁気センサ1では、磁界算出部4が測定磁界Hを算出した後、算出した測定磁界Hに対応する信号をアンプ5で増幅した後に、A/D変換回路6によりデジタルデータに変換する。
【0046】
本発明の一実施形態に係る磁気センサ1の磁界検知部2が備える4つの磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dは、同一基板(1チップ)上に設けられていてもよい。本実施形態では、4つの磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dは図示しない同一基板上に設けられており、
図2は、磁気センサ1の磁界検知部2を、基板の法線方向で基板の積層面(おもて面)側から見た図である。すなわち、
図2において、Z1側が基板のおもて面側であり、Z2側が基板の裏面側である。なお、Z方向は磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dの積層方向に沿う。
【0047】
磁界検知部2は、電源給電点である電源端子Vddとグランド端子GNDとの間に、いずれもY方向に延在する磁気検知素子10aおよび磁気検知素子10bとが直列に接続されてなる第1ハーフブリッジ回路と、いずれもY方向に延在する磁気検知素子10cおよび磁気検知素子10dとが直列に接続されてなる第2ハーフブリッジ回路とが、並列に接続されたフルブリッジ回路15を有する。
【0048】
第1ハーフブリッジ回路は、磁気検知素子10aと磁気検知素子10bとの間に、出力端子V1を備えている。また、第2ハーフブリッジ回路は、磁気検知素子10cと磁気検知素子10dとの間に、出力端子V2を備えている。これらの2つの出力端子V1、V2から出力の電位差(第1ハーフブリッジ回路の中点電位Va-第2ハーフブリッジ回路の中点電位Vb)により、測定磁界Hとして外部から印加された外部磁場の大きさを定量的に測定できる。なお、本実施形態では、出力端子V1からの中点電位Vaを含む第1信号および出力端子V2からの中点電位Vbを含む第2信号が磁界検知部2から出力され、磁界算出部4が行う処理は、これらの第1信号および第2信号を入力として、中点電位差の算出を行うことを含む。
【0049】
第1ハーフブリッジ回路を形成している一対の磁気検知素子10a、10bでは、固定磁性層11(
図3A参照。)の磁化11mは、
図2において白抜き矢印で示されるように、この順にX2向きおよびX1向きである。また、第2ハーフブリッジ回路を形成している一対の磁気検知素子10c、10dでは、
図2において白抜き矢印で示されるように、固定磁性層11の磁化11mは、この順にX1向きおよびX2向きである。
【0050】
第1ハーフブリッジ回路と第2ハーフブリッジ回路とでは、電源端子Vdd側の磁気検知素子10bと磁気検知素子10dとの固定磁性層11の磁化11mが反対向き(反平行)である。また、グランド端子GND側の磁気検知素子10aと磁気検知素子10cとの固定磁性層11の磁化11mが反対向き(反平行)である。したがって、磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dの感度軸方向はX方向であり、本明細書において「第1方向」ともいう。また、Z方向を「第2方向」ともいい、Y方向を「第3方向」ともいう。
【0051】
そして、4つの磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dは、測定磁界Hが印加されていない状態における、フリー磁性層13(
図3A参照。)の磁化13mの向きが等しく、
図2において黒矢印で示されるように、Y方向Y2向き(以下、「Y2向き」と略記する。他の方向の向きについても同様とする。)に沿っている。測定磁界Hが印加されていない状態におけるフリー磁性層13の磁化13mの向きを揃える方法は限定されない。外部からバイアス磁界を印加してもよいし、フリー磁性層13と相互作用する反強磁性層との交換結合を用いてもよい。
【0052】
上述した構成により、X方向の測定磁界Hの大きさの変化に伴い、第1ハーフブリッジ回路からの出力端子V1と第2ハーフブリッジ回路からの出力端子V2とでは、出力が逆方向に変化する。このため、2つの出力端子V1、V2の電位差として、大きな出力が得られる。したがって、磁気センサ1は測定磁界Hを高精度で検知することができる。なお、フルブリッジ回路15に代えて、第1ハーフブリッジ回路または第2ハーフブリッジ回路を用いることもできるし、磁気検知素子10aを単独で用いることもできる。
【0053】
図2に示されるように、本実施形態に係る磁気センサ1は、磁気検知素子10a、10b、10c、10dのそれぞれに対応して、周囲の磁気的環境を変化させて測定磁界Hを測定する可変磁界検知部100a、100b、100c、100dを備える。以下、可変磁界検知部100aを具体例として説明する。
【0054】
(第1実施形態)
図3Aは、本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)を説明する図である。可変磁界検知部100aは、第1方向に沿う測定磁界Hにより磁化する第1磁性体31および第2磁性体32と、第1方向で第1磁性体31と第2磁性体32との間に位置する磁気検知素子10aと、磁気状態が変化可能な磁気状態可変部材40と、磁気状態可変部材40の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材20と、を備える。本明細書において、磁気状態可変部材40などの磁性部材について用いられる「磁化」なる用語が意味する概念は、強磁性体の磁化とは異なる物理現象(例えば、反強磁性体のトポロジカル的性質に基づき生じる仮想磁場)に基づき部材の内部に磁界が生じることも含む。
【0055】
第1磁性体31および第2磁性体32は、第1方向に沿う測定磁界Hにより第1方向に磁化することができる限り、いかなる材料から構成されていてもよい。具体例として、CoFe合金、NiFe合金(ニッケル・鉄合金)などの磁性材料が挙げられる。第1磁性体31および第2磁性体32は、第1方向の測定磁界Hを集め磁化する集磁体(ヨーク)として機能する。
図3Aに示されるように、測定磁界Hが第1方向の一方側の向き、具体的にはX1向きの場合には、測定磁界Hは第1磁性体31により集磁されて第1磁性体31を磁化するため、第1磁性体31には測定磁界Hよりも高い密度の磁束(以下、「測定磁束Φ」ともいう。)が生成し、この測定磁束Φは、第1磁性体31の第1の向き側(X1側)の端部である第1端部311から第1の向きに放出される。第1磁性体31および第2磁性体32の周囲に位置する第1物質から構成される絶縁体50の透磁率μ0は、第1磁性体31および第2磁性体32の透磁率よりも十分に低いので、第1端部311から第1の向きに放出された測定磁束Φは、第1物質内で第2方向および第3方向にも拡散するが、第2磁性体32のX2側の端部へと収束する。
【0056】
磁気検知素子10aは、第1磁性体31の第1の向き側(X1側)の端部である第1端部311よりも第1の向きに位置し、第1方向に沿う感度軸を有する。磁気検知素子10aの具体例として、巨大磁気抵抗効果素子(GMR)やトンネル磁気抵抗効果(TMR)素子などの磁気抵抗効果素子、ホール素子などが例示される。
図3Aには、巨大磁気抵抗効果(GMR)素子を磁気検知素子10aの具体例として示している。磁気検知素子10aは第1磁性体31および第2磁性体32の間に位置する。換言すれば、第2磁性体32は、第1磁性体31の第1端部311から見て、磁気検知素子10aよりも第1方向(X方向)で遠位に設けられる。第1磁性体31および第2磁性体32は、第1方向(X方向)の測定磁界Hを集磁し、第1磁性体31と第2磁性体32との間の磁束密度を高めるため、磁気検知素子10aは第1磁性体31および第2磁性体32が設けられていない場合よりも磁気分解能が高い。
【0057】
巨大磁気抵抗効果素子からなる磁気検知素子10aは、固定磁性層11と、フリー磁性層13と、固定磁性層11とフリー磁性層13との間に形成された中間層12とを有する。固定磁性層11は、例えば、CoFe合金(コバルト・鉄合金)などの磁性材料を用いて構成される。中間層12は、例えば、Cuなどの非磁性材料を用いて構成される。フリー磁性層13は、例えば、CoFe合金、NiFe合金(ニッケル・鉄合金)などの軟磁性材料を用いて構成され、単層構造、積層構造、積層フェリ構造などとして形成される。なお、磁気検知素子10aがトンネル磁気抵抗効果素子からなる場合には、中間層12は、MgO、Al2O3、酸化チタンなどにより構成される絶縁障壁層である。
【0058】
磁気検知素子10aの抵抗値は、磁化11mの向きが固定された固定磁性層11と、外部磁場により磁化13mの向きや大きさが変わる感磁部であるフリー磁性層13との磁化の向きの相対関係によって変化する。磁気センサ1の可変磁界検知部100aは、磁気検知素子10aの抵抗値の変化に基づいて、外部磁場の向きと強さとを測定することができる。本実施形態では、フリー磁性層13は磁気検知素子10aのZ2側に位置し、磁気検知素子10aの検知中心10Pはフリー磁性層13の中心に位置する。
【0059】
磁気状態可変部材40は、実効的な透磁率と磁化40mの向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る部材であって、磁気状態変調部材20によって磁気状態が制御される。磁気状態可変部材40は、第1磁性体31の第1端部311よりも第1の向き側(X1側)に位置し、
図3Aに示される例では、第1方向で、第1磁性体31と第2磁性体32との間に位置する。
【0060】
なお、反強磁性体からなる磁気状態可変部材40の比透磁率は1程度またはそれ以下であるが、前述のように磁気状態可変部材40の内部には外部磁界よりも高い磁界が発生する場合がある。この場合には、磁気状態可変部材40は外部磁界をその内部に集める集磁現象が生じるものの、反強磁性体としての性質から、磁気状態可変部材40の内部に生じた磁界が磁気状態可変部材40と磁気的に結合されていない部材に漏れ出すことはない。そこで、本明細書では、磁気状態可変部材40の「実効的な透磁率」を、所定方向の外部磁界を受けたときの集磁機能に基づき評価する。例えば、磁気状態可変部材40の周囲の比透磁率が1である場合において、磁気状態可変部材40が、第1方向に沿う成分を有する外部磁界を受けたときにさらに外部磁界を集める機能を有する場合には、磁気状態可変部材40の第1方向の実効的な比透磁率は1を超えると判断する。したがって、上記のように磁気状態可変部材40が第1方向の実効的な比透磁率が1を超える場合には、磁気状態可変部材40の集磁機能により、その周囲の磁束密度は低下することになる。
【0061】
一具体例において、磁気状態可変部材40は、第2状態の第1方向(X方向)の実効的な透磁率μ2が、第1状態の第1方向(X方向)の実効的な透磁率μ1よりも高い。また、第2状態の第1方向(X方向)の実効的な透磁率μ2は、第1磁性体31と磁気検知素子10aとの間に位置する第1物質の第1方向(X方向)の透磁率μ0よりも高い。本実施形態では、第1物質として、絶縁体50が位置している。
【0062】
第1実施形態では、磁気状態可変部材40と磁気状態変調部材20とは第2方向(Z方向)に積層されて磁気制御体60を構成し、磁気制御体60と磁気検知素子10aとの間には非磁性部材41が設けられ、非磁性部材41により、磁気制御体60の磁気状態可変部材40と磁気検知素子10aのフリー磁性層13とは磁気的に非結合となっている。
【0063】
(第1状態)
図3Aに示されるように、測定磁界Hはヨークとして機能する第1磁性体31に集磁され、この磁界によって第1磁性体31は磁化され、第1磁性体31の第1端部311から測定磁束Φが放出される。第1状態では、磁気状態可変部材40のX方向の実効的な透磁率μ1は、絶縁体50の透磁率μ0と大差ない。このため、測定磁束Φは、第1磁性体31の第1端部311から、X1向きの成分を有しつつ第2方向(Z方向)および第3方向(Y方向)の成分を有するように拡散して放出される。その後、第1磁性体31と第2磁性体32との間で、第2方向および第3方向の成分が小さくなるように収束して、第1磁性体31よりもX1側に位置する第2磁性体32に至る。こうして拡散および収束する測定磁束Φの一部が磁気検知素子10aのフリー磁性層13に到達し、磁気検知素子10aより測定される。
【0064】
(第2状態)
図3Bは本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)を説明する図である。第2状態では、磁気状態可変部材40のX方向の実効的な透磁率μ2は、絶縁体50の透磁率μ0よりも高い。このため、第1端部311から放出される測定磁束Φは、磁気状態可変部材40を優先的に通る。この測定磁束Φの磁気状態可変部材40への集中により、フリー磁性層13に到達する測定磁束Φの密度は、第1状態との対比で低下し、磁気状態可変部材40の近傍に位置する磁気検知素子10aでは、測定磁束Φの測定感度が低下する。したがって、第2状態における可変磁界検知部からの第2出力は、第1状態における第1出力との対比で、ノイズ信号の強度は等しいが、測定磁束Φに基づく信号強度が低下する。なお、
図3Bには磁気状態可変部材40は反強磁性体からなる場合が示されている。このため、第1磁性体31から磁気状態可変部材40に入った測定磁束Φは、磁気状態可変部材40から漏れ出すことはない。磁気状態可変部材40が強磁性体からなる場合には、磁気状態可変部材40のX1側の端部が測定磁束Φに基づく磁束は、第2磁性体32を通り、第2磁性体32のX1側から放出される。
【0065】
図4は、本発明の第1実施形態に係る磁気センサを用いた磁気測定方法を説明するフローチャートである。
図4に示されるように、まず、第1測定ステップとして、制御部7から出力された制御信号により、制御用電源3から、磁界検知部2が備える可変磁界検知部100a~100dのそれぞれが有する磁気状態可変部材40の磁気状態を第1状態とするための信号が出力され、磁気状態可変部材40を第1状態として磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dにより測定を行い、可変磁界検知部100a、100b、100c、100dのそれぞれから第1出力を得る。これらの信号により、磁界検知部2から第1信号(出力端子V1からの中点電位Vaを含む信号)および第2信号(出力端子V2からの中点電位Vbを含む信号)が出力される(ステップS101)。磁界検知部2から出力されたこれらの2つの信号は、磁界算出部4に入力され、それらの信号のまま、あるいは2つの信号の差である中点電位差の信号として、磁界算出部4または図示しないメモリに格納される。
【0066】
次に、第2測定ステップとして、制御部7から出力された制御信号により、制御用電源3から、磁界検知部2が備える可変磁界検知部100a、100b、100c、100dのそれぞれが有する磁気状態可変部材40の磁気状態を第2状態とするための信号が出力され、磁気状態可変部材40を第2状態にして磁気検知素子10a、10b、10cおよび10dにより測定を行い、可変磁界検知部100a、100b、100c、100dのそれぞれから第2出力を得る。これらの信号により、磁界検知部2から第1信号および第2信号が出力される(ステップS102)。ステップS101およびステップS102の測定時間は、いずれも1秒間よりも十分に短い時間(例えば0.3秒間)であり、ステップS101およびステップS102に要する時間も1秒間よりも十分に短い(例えば0.7秒間)。このため、ステップS101とステップS102とは、1/fノイズが実質的に等しい環境で行われ、第1出力に含まれる1/fノイズと、第2出力に含まれる1/fノイズとは、実質的に等しい。磁界検知部2から出力された2つの信号は、磁界算出部4に入力され、それらの信号のまま、あるいは2つの信号の差である中点電位差の信号として、磁界算出部4または図示しないメモリに格納される。
【0067】
続いて、磁界算出部4は、ステップS101およびステップS102により磁界算出部4または図示しないメモリに格納された、第1出力に基づく信号(第1状態の中点電位差を含む信号)と第2出力に基づく信号(第2状態の中点電位差を含む信号)との差を求める処理を、磁界算出ステップとして行う(ステップS103)。なお、磁界算出部4または図示しないメモリに格納された信号が、中点電位差を求める前の第1信号および第2信号である場合には、磁界算出部4は、第1状態の第1信号と第2信号との差を求める処理を行って第1状態の中点電位差を含む信号を得るとともに、第2状態の第1信号と第2信号との差を求める処理を行って第2状態の中点電位差を含む信号を得て、さらにこれらの2つの中点電位差を含む信号の差分を求める処理を、磁界算出ステップとして行う。磁界算出部4が上記の処理を実行することより、1/fノイズが適切に除去された測定信号が得られる。この測定信号を、アンプ5で増幅し、A/D変換回路6にてデジタル信号に変換する。それゆえ、本実施形態に係る磁気センサ1を用いた磁気測定方法により得られる測定信号は、1/fノイズが適切に除去されているため、第1出力に基づく信号(第1状態の中点電位差を含む信号)や第2出力に基づく信号(第2状態の中点電位差を含む信号)よりも、測定磁束Φに基づく信号の分解能(磁気分解能)が高い。
【0068】
なお、本実施形態では、磁界検知部2がフルブリッジ回路15を有するため、磁界算出部4において差を求める処理の対象となる信号は、第1出力に基づく第1状態の中点電位差の信号および第2出力に基づく第2状態の中点電位差の信号であるが、磁界算出部4の処理対象となる信号は、磁界検知部2からの出力信号に応じて適宜設定される。例えば、磁界検知部2が可変磁界検知部100aを1つのみ有する場合には、磁界算出部4では、可変磁界検知部100aからの第1信号と第2信号との差が求められることになる。
【0069】
(配置関係)
磁気検知素子10aと磁気状態可変部材40との配置関係は、第1出力に含まれる測定磁束Φに基づく信号と第2出力に含まれる測定磁束Φに基づく信号との相違の程度が大きくなるように設定されることが好ましい。
【0070】
この観点から、磁気検知素子10aと磁気状態可変部材40とは、第1方向(X方向)に直交する第2方向(Z方向)に並んでいてもよい。この配置関係を有する場合には、磁気状態可変部材40の磁気状態の変化が磁気検知素子10aの検知中心10Pに到達する測定磁束Φの強さの変化として現れやすい。
【0071】
磁気状態可変部材40は、磁気検知素子10aの検知中心10Pよりも、第1方向(X方向)で第1磁性体31に近位な部分を有することが好ましい。この配置関係を有する場合には、第2状態において、第1端部311から放出された測定磁束Φは、第1方向で相対的に近位な磁気状態可変部材40に到達しやすいため、第2状態にある磁気状態可変部材40への磁束の集中が効率的に行われる。この観点から、磁気状態可変部材40の第1方向の長さは、磁気検知素子10aの第1方向(X方向)の長さよりも長いことが好ましい。
【0072】
磁気状態可変部材40の第1方向(X方向)の中央と、磁気検知素子10aの検知中心10Pとは、第1方向(X方向)において等しい位置にあることが好ましい。この配置関係を有する場合には、第1状態にある磁気状態可変部材40が磁気検知素子10aに及ぼしうる第1方向(X方向)の磁束と、第2状態にある磁気状態可変部材40が磁気検知素子10aに及ぼしうる第1方向の磁束とが等しくなりやすい。このため、第1出力に含まれるノイズ信号と第2出力に含まれるノイズ信号との相関が高くなり、磁界算出部4において得られた測定信号におけるノイズ除去効率が高くなることが期待される。なお、測定信号におけるノイズ除去効率を安定的に高める観点および磁気状態可変部材40の動作安定性を高める観点から、磁気状態可変部材40の中央と、磁気状態変調部材20の中央とは、第1方向(X方向)において等しいことが好ましい場合がある。
【0073】
磁気状態可変部材40の第1方向(X方向)の長さは、磁気検知素子10aの第1方向(X方向)の長さよりも長いことが好ましい。この配置関係を有する場合には、磁気状態可変部材40のX2側の一部は、第1方向(X方向)において、第1端部311と磁気検知素子10aとの間に位置するため、磁気検知素子10aに到達する磁束密度は、磁気状態可変部材40の磁気状態の影響を受けやすい。
【0074】
磁気検知素子10aに到達する磁束密度が磁気状態可変部材40の磁気状態の影響を受けやすくなることをより安定的に実現する観点から、磁気状態可変部材40は、第2状態において、第1磁性体31と第2磁性体32とが磁気的に結合するように配置されていることが好ましい。
図5は、本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の好適例の説明図である。
図5に示される例では、第2方向(Z方向)から見て、磁気状態可変部材40は、第2状態において、第1磁性体31および第2磁性体32と磁気的に結合するように配置されている。具体的には、磁気状態可変部材40は、第1磁性体31と重なる部分および第2磁性体32と重なる部分を有している。このため、
図5に示されるように、第1磁性体31が磁化して生じた測定磁束Φは、磁気状態可変部材40と第1磁性体31との磁気的結合部から、ほぼ直接的に第2状態にある磁気状態可変部材40に流れ込み、磁気状態可変部材40と第1磁性体31との磁気的結合部から、ほぼ直接的に第2磁性体32へと流れ出る。このため、測定磁束Φは磁気検知素子10aに到達する成分を実施的に有さず、磁気検知素子10aではノイズ信号のみが測定されやすくなる。
【0075】
図6は、本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の好適例の他の例の説明図である。
図6に示される構成では、
図5に示される構成との対比で、磁気検知素子10aの構成要素の配置がZ方向において逆転している。すなわち、
図5では、磁気検知素子10aのフリー磁性層13は磁気制御体60に近位な側(Z2側)に位置するが、
図6では、磁気検知素子10aの固定磁性層11が磁気制御体60に近位な側(Z2側)に位置する。このため、
図6に示される構成では、
図5に示される構成よりも、磁気検知素子10aの検知中心10Pが、第1磁性体31や第2磁性体32の第2方向(Z方向)の中心に近い。それゆえ、第1状態において磁気検知素子10aの検知中心10Pに到達する測定磁束Φは、X1向きの成分の強度が相対的に高くなることが期待される。
【0076】
図7は、本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の好適例の別の例の説明図である。
図7に示される構成では、
図5に示される構成との対比で、磁気検知素子10aと磁気制御体60との第2方向(Z方向)の配置関係が逆転している。すなわち、
図5では、磁気検知素子10aは磁気制御体60よりもZ1側に位置するが、
図7では、磁気検知素子10aは磁気制御体60よりもZ2側に位置する。このため、
図7に示される構成では、
図5に示される構成よりも、磁気検知素子10aの検知中心10Pが、第1磁性体31や第2磁性体32の第2方向(Z方向)の中心から遠い。それゆえ、第2状態において、磁気検知素子10aの検知中心10Pに到達する測定磁束Φの強度が特に低くなることが期待される。また、第1端部311から見て、磁気検知素子10aは磁気制御体60の陰に位置することから、測定磁束Φの一部が第1端部311から絶縁体50に放出されたとしても、磁気制御体60が磁気的遮蔽となるため、その磁束は磁気検知素子10aには到達しにくくなる。それゆえ、第2状態において、磁気検知素子10aではノイズ信号のみが測定されやすくなる。
【0077】
図8は、本発明の第1実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部の変形例の説明図である。測定磁界Hの向きが一方に限定される場合には、第1磁性体31と第2磁性体32との一方を省略することができる。例えば、測定磁界Hの向きが第1の向きのみである場合には、
図8に示されるように、第2磁性体32を省略しても、第2状態において測定磁束Φが磁気検知素子10aの検知中心10Pに到達しにくくなるようにすることが安定的に実現される。なお、
図8には磁気状態可変部材40が反強磁性体からなる場合が示されている。
【0078】
なお、測定磁界Hが第1方向(X方向)の磁界である場合には、第1磁性体31の第1方向(X方向)の長さは、第2方向(Z方向)の長さよりも長いことが好ましい。長さの関係が逆(第1方向の長さ<第2方向の長さ)の場合には、第2方向(Z方向)の磁界を検出する可能性が高くなる。
【0079】
(第2実施形態)
図9は、本発明の第2実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)を説明する図である。第2実施形態では、第1実施形態との対比で、非磁性部材41は設けられておらず、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とは磁気的に結合している。このため、第2実施形態では、第2状態において、磁気状態可変部材40は、実質的にフリー磁性層13として機能する。このため、第2状態では、磁気検知素子10aの検出感度は磁気状態可変部材40の磁気的状態の影響を直接的に受ける。
【0080】
例えば、第2状態において磁気状態可変部材40の第1方向の実効的な透磁率μ2は周囲の絶縁体50の透磁率μ0よりも高くなるため、
図9に示されるように、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に優先的に集中する。この場合には、磁気状態可変部材40において磁化してX1向きに進む測定磁束Φの一部は、磁気状態可変部材40と磁気的に結合するフリー磁性層13も通り、その向きはX1向きの成分を有する。それゆえ、第2実施形態では、第1状態よりも第2状態において、フリー磁性層13に到達する測定磁束Φの強度が高くなる場合がある。
【0081】
これに対し、第1状態では、磁気状態可変部材40の第1方向の実効的な透磁率μ1は周囲の絶縁体50の透磁率μ0と同等であるから、磁気状態可変部材40による測定磁束Φの集磁の程度は第2状態よりも低い。このため、測定磁束Φが磁気状態可変部材40と磁気的に結合するフリー磁性層13に到達したとしても、その磁束密度は第2状態の場合よりも低くなる。
【0082】
このように、第2実施形態では、測定磁束Φは、第1状態よりも第2状態において、フリー磁性層13に到達しやすくなる。したがって、第2実施形態では、第2状態において得られた第2出力から第1状態において得られた第1出力を差し引くことによって、ノイズ信号が除去された測定信号を得ることができる。
【0083】
第2実施形態では、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とは磁気的に結合するため、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とが共通の材料から構成され、1つの部材(可変フリー磁性層)が磁気状態可変部材40の機能とフリー磁性層13の機能とを果たしていてもよい。この場合には、可変フリー磁性層のZ1側を向く表面の一部に中間層12および固定磁性層11が積層されて、磁気抵抗効果素子の構造を有する磁気検知素子10aが構成されていてもよい。なお、可変フリー磁性層は、磁気状態可変部材40を構成する材料と同様の材料から構成することができる。したがって、可変フリー磁性層についての「磁化」なる用語が意味する概念は、強磁性体の磁化よりも広く、例えば反強磁性体のトポロジカル的性質に基づく仮想磁場を含む。
【0084】
図10は、本発明の第2実施形態に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)の好適例を説明する図である。
図10に示される例では、
図5に示される例と同様に、第2状態において、磁気状態可変部材40は第1磁性体31および第2磁性体32と磁気的に結合する。このため、第2状態では、フリー磁性層13が第1磁性体31および第2磁性体32と磁気的に結合することになる。それゆえ、第2状態では、測定磁束Φは特に効率的にフリー磁性層13に到達する。
【0085】
本発明の実施形態に係る磁気センサ1の可変磁界検知部100aでは、磁気状態可変部材40の第1方向の実効的な透磁率が相対的に低い第1状態と相対的に高い第2状態とにおいて、フリー磁性層13に到達する測定磁束Φの密度が相違する。フリー磁性層13に到達する測定磁束Φが相対的に高くなる状態が第1状態であるか第2状態であるかは、具体的な構成によって決定される。
【0086】
以下、磁気状態変調部材20に通電することにより磁気状態可変部材40に対してスピン軌道トルクを付与して磁気状態可変部材40を所定の方向に磁化する構成を共通として、磁気状態変調部材20に第3方向(Y方向)に沿って通電し磁気状態変調部材20を第3方向(Y方向)に磁化する構成(タイプA)、磁気状態変調部材20に第1方向(X方向)に沿って通電し磁気状態変調部材20を第3方向(Y方向)に磁化する構成(タイプB)、磁気状態変調部材20に第3方向(Y方向)に沿って通電し磁気状態変調部材20を第2方向(Z方向)に磁化する構成(タイプC)を具体例として、可変磁界検知部100aの詳細動作を説明する。
【0087】
(実施例1-1)
図11Aは、可変磁界検知部がタイプA、かつ第1実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に非結合)の構成を有する実施例(実施例1-1)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図11Bは、実施例1-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
図11Aおよび
図11Bに示される可変磁界検知部100aでは、第1磁性体31および第2磁性体32ならびに絶縁体50は表示を省略している(以下同様)。
【0088】
実施例1-1において、磁気状態変調部材20は、磁気状態変調部材20に対してXY面内方向に通電することにより、スピンホール効果やラシュバ・エーデルシュタイン効果などが発現し、磁気状態可変部材40に対してスピン軌道トルクを付与するスピントルク生成部を有する。磁気状態変調部材20は膜状体であって、その全体がスピントルク生成部から構成されていてもよい。
図11Aに示される構成では、磁気状態変調部材20はスピントルク生成部から構成される。スピントルク生成部を構成する材料として、常磁性の遷移金属の中でも高比重のHf、Ta、W、Pt、Irなどの重金属(5d遷移金属);BiSb、BiSe、Bi
2Se
3、Bi
2Te
3などのトポロジカル絶縁体、Mn
3X(X=Sn、Ge、Ga、Rh、Pt、Ir)、Mn
1-xTr
xγ相(gamma-phase)(Tr=Ni,Fe、Cu、Ru、Pd、Ir、Rh、Pd、Pt)などの反強磁性体;LuPtSb、LuPdBi、LuPtBi、ScPtBi、YAuPb、LaPtBi、CePtBi、ThPtPb、およびLaAuPb等やこれらの混晶からなるハーフホイスラー合金トポロジカル半金属が例示される。スピントルク生成部は、単相膜から構成されていてもよいし、積層膜から構成されていてもよい。積層膜である場合には、隣り合う膜の間に境界領域が生成していてもよい。
【0089】
磁気状態可変部材40は、磁気状態変調部材20からのスピン軌道トルクを受けて、磁気状態可変部材40の磁化40mが回転可能な材料から構成される。そのような材料として、CoFe合金、NiFe合金(ニッケル・鉄合金)などの軟磁性材料;Mn3X(X=Sn、Ge、Ga、Rh、Pt、Ir)などの反強磁性体が例示される。磁気状態可変部材40は、単相膜から構成されていてもよいし、積層膜から構成されていてもよい。積層膜である場合には、隣り合う膜の間に境界領域が生成していてもよい。
【0090】
非磁性部材41は、有機系材料から構成されていてもよいし、無機系材料から構成されていてもよい。無機系材料の場合には、Cu、Ruなどの導電性材料から構成されていてもよいし、酸化物、窒化物などの絶縁性材料から構成されていてもよい。非磁性部材41は絶縁体50と一体であってもよい。
【0091】
本例に係る可変磁界検知部100aでは、磁気状態変調部材20は反強磁性体からなる反強磁性部を有し、一具体例として、磁気状態変調部材20は全体が反強磁性部からなる。このため、磁気状態変調部材20が非通電状態にある第1状態において、磁気状態可変部材40の磁化40mは、磁気状態変調部材20(反強磁性部)との交換結合20afによりZ1向きとなっている。Z方向は厚さが小さいため磁化40mの回転が生じにくい。このため、磁気状態可変部材40の磁化40mは実質的にZ1向きが固定され、測定磁界Hの印加方向であるX方向の実効的な透磁率が低い。それゆえ、X方向については、磁気状態可変部材40の実効的な透磁率μ1は周囲の絶縁体50と透磁率μ0の差がほぼない。
【0092】
この状態で測定磁界Hが印加されると、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に集中しない。このため、
図11Bに示されるように、測定磁束Φのうち相当量の磁束がフリー磁性層13に到達し、この到達した磁束を磁気検知素子10aは測定する。
【0093】
図12Aは、実施例1-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図12Bは、実施例1-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【0094】
第2状態では、磁気状態変調部材20に、Y方向、具体的にはY1向きに電流20cを流して通電状態とする。これにより、スピンホール効果などにより、磁気状態変調部材20のZ1側にはX方向の一方に偏在したスピンが蓄積され、磁気状態可変部材40に注入される。蓄積したスピンの角運動量が直に受け渡されることで磁気状態可変部材40の磁化40mにトルクが働き、すなわちスピン軌道トルクが生じて、磁化40mはY2向きとなる。
【0095】
このとき、磁気状態可変部材40の磁化40mは、磁気状態可変部材40の厚さ方向に直交するXY面(第1面)の面内方向を向くため、磁化40mは、測定磁束ΦによりXY面内で回転可能である。すなわち、磁気状態可変部材40は、第2状態において、X方向の実効的な透磁率μ2が第1状態のX方向の実効的な透磁率μ1よりも高くなる(μ2>μ1)。
【0096】
この状態で測定磁界Hが印加されると、
図12Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mは測定磁束Φに沿うように回転してX1向きとなり、これにより磁気状態可変部材40に集磁機能が生じて、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に集中する。こうして、磁気状態変調部材20が非通電状態のときにはフリー磁性層13に到達していた測定磁束Φは、磁気状態変調部材20に電流20cを印加することにより、磁気状態可変部材40に集中する。それゆえ、第2状態では、第1状態よりも、測定磁束Φは磁気検知素子10aに到達しにくくなる。
【0097】
このように、実施例1-1では、第1状態では第2状態よりも、測定磁束Φが磁気検知素子10aに到達しやすいため、磁界算出部4において第1出力から第2出力を差し引くことにより、1/fノイズが適切に除去された測定信号を得ることができる。
【0098】
(実施例1-2)
図13Aは、可変磁界検知部がタイプA、かつ第2実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に結合)の構成を有する実施例(実施例1-2)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図13Bは、実施例1-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
図14Aは、実施例1-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図14Bは、実施例1-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【0099】
実施例1-2に係る可変磁界検知部100aは、実施例1-1に係る可変磁界検知部100aとの対比で、非磁性部材41を有しない点で相違し、その他の構成は共通する。このため、実施例1-2に係る可変磁界検知部100aでは、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とが磁気的に結合している。それゆえ、
図13Aに示されるように、磁気状態変調部材20に電流が印加されていない非通電状態である第1状態では、磁気状態変調部材20における反強磁性体からなる部分と磁気状態可変部材40との交換結合20afにより、磁気状態可変部材40の磁化40mと、磁気状態可変部材40と磁気的に結合したフリー磁性層13の磁化13mとはZ1向きとなる。
【0100】
フリー磁性層13はZ方向の厚さが小さいため、磁化13mは回転しにくい。このため、磁気状態可変部材40の磁化40mおよびフリー磁性層13の磁化13mは、実質的にZ1向きに固定される。すなわち、磁気状態可変部材40およびフリー磁性層13のX方向の実効的な透磁率は、周囲の絶縁体50の透磁率μ0と差がほぼない。
【0101】
この状態で測定磁束Φを受けても、
図13Bに示されるように、フリー磁性層13の磁化13mは感度軸方向であるX方向に沿うように回転しにくいため、測定磁束Φは磁気検知素子10aによって測定されにくい。
【0102】
一方、磁気状態変調部材20にY1向きの電流20cを流す通電時の状態である第2状態では、実施例1-1の場合と同様に磁気状態変調部材20から磁気状態可変部材40へのスピン注入が行われることなどにより、磁気状態可変部材40にスピン軌道トルクが生じて、
図14Aに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mはY2向きに揃う。磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とは磁気的に結合しているため、フリー磁性層13の磁化13mもY2向きに揃う。
【0103】
これらの磁化40mおよび磁化13mの向きは、磁気状態可変部材40およびフリー磁性層13の厚さに直交するXY面内方向であるから、磁気状態可変部材40の磁化40mの方向およびフリー磁性層13の磁化13mの方向は、いずれも測定磁束ΦによりXY面内で回転可能である。すなわち、磁気状態可変部材40およびフリー磁性層13はX方向の実効的な透磁率が高い状態となる。
【0104】
この状態で測定磁界Hが印加されると、
図14Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mは測定磁束Φに沿うように回転してX1向きとなり、これにより磁気状態可変部材40に集磁機能が生じて、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に集中する。ここで、磁気状態可変部材40はフリー磁性層13と磁気的に結合するため、磁気状態可変部材40の磁化40mの影響を受けて、第1状態(
図13B)よりも高い密度を有するX1向きの磁束がフリー磁性層13に到達する。
【0105】
このように、実施例1-2の第2状態では、測定磁界Hが印加されたときに、フリー磁性層13が第1状態よりもX1向きに強く磁化されるため、磁気検知素子10aの測定磁界Hの測定感度は第2状態の方が相対的に高くなる。それゆえ、磁界算出部4において第2出力から第1出力を差し引くことにより、1/fノイズが適切に除去された測定信号を得ることができる。
【0106】
なお、実施例1-1および実施例1-2では、第1状態において、磁気状態可変部材40の磁化40mは、磁気状態変調部材20との交換結合20afがバイアス磁界源となってZ1向きであるが、第1状態において磁気状態可変部材40の磁化40mを所定の向きに揃えるバイアス磁界源はこれに限定されない。磁気状態可変部材40の磁化40mは、通電コイルからの誘導磁界や永久磁石からの磁界をバイアス磁界としてZ方向を向いてもよい。そのような場合でも、第2状態では磁気状態変調部材20への電流印加に基づいて、磁気状態可変部材40の磁化40mがY方向を向けばよい。第1信号に含まれるノイズ成分と第2信号に含まれるノイズ成分との相関を高める観点からは、第1状態と第2状態とでバイアス磁界源からのバイアス磁界に差がないことが好ましい場合がある。
【0107】
(実施例2-1)
図15Aは、可変磁界検知部がタイプB、かつ第1実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に非結合)の構成を有する実施例(実施例2-1)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図15Bは、実施例2-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
図16Aは、実施例2-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図16Bは、実施例2-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【0108】
実施例2-1に係る可変磁界検知部100aは、実施例1-1に係る可変磁界検知部100aと同様に、非磁性部材41を有し、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とが磁気的に結合していない。
【0109】
第1状態では、磁気状態変調部材20にX方向、具体的にはX1向きの電流20cを流して通電状態とする。電流印加によって、磁気状態変調部材20から磁気状態可変部材40へのスピン注入が行われることなどにより、実施例1-1と同様に磁気状態可変部材40にスピン軌道トルクが生じて、
図15Aに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mはY2向きに強く揃う。なお、実施例2-1に係る可変磁界検知部100aでは、永久磁石などからなるバイアス磁界源21が磁気状態変調部材20に対してZ2側に積層されているが、磁気状態可変部材40の磁化40mの向きに与える影響は、バイアス磁界源21に基づき生じる磁界21mよりも、磁気状態変調部材20に基づくスピン起動トルクのほうが優勢となるように、バイアス磁界源21に基づき生じる磁界21mと磁気状態変調部材20に基づき生成するスピン起動トルクとは設定される。
【0110】
このため、測定磁束Φが磁気状態可変部材40に印加されても、
図15Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mはX方向に沿うように回転しにくい。すなわち、磁気状態可変部材40はX方向の実効的な透磁率μ1が低く、周囲の絶縁体50の透磁率μ0と同等となる。それゆえ、磁気状態可変部材40は、磁気検知素子10aのフリー磁性層13に到達する測定磁束Φに影響を与えにくく、磁気検知素子10aでは、磁気状態可変部材40が存在しない(絶縁体50に置換された)場合と同様の磁気的環境で、測定磁束Φの測定が行われる。
【0111】
一方、第2状態では、磁気状態変調部材20への電流20cの印加を停止して非通電状態とする。これにより、
図16Aに示されるように、磁気状態変調部材20による磁気状態可変部材40の磁化40mの向きの制御は行われなくなる。このため、バイアス磁界源21に基づき生じる磁界21mにより、磁気状態可変部材40の磁化40mはY2向きに揃えられているが、その程度は第1状態よりも弱い。このため、第2状態における磁気状態可変部材40のX方向の実効的な透磁率μ2は、周囲の絶縁体50の透磁率μ0よりも高くなる。
【0112】
この状態で測定磁界Hが印加されると、
図16Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mは測定磁束Φに沿うように回転してX1向きとなり、これにより磁気状態可変部材40に集磁機能が生じて、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に集中する。その結果、磁気検知素子10aのフリー磁性層13に到達する測定磁束Φの密度が低下し、第1状態に比べて、可変磁界検知部100aにおける測定磁界Hの測定感度は低下する。
【0113】
このように、実施例2-1では、第1状態では第2状態よりも、測定磁束Φが磁気検知素子10aに到達しやすくなるため、磁界算出部4において第1出力から第2出力を差し引くことにより、1/fノイズが適切に除去された測定信号を得ることができる。
【0114】
(実施例2-2)
【0115】
図17Aは、可変磁界検知部がタイプB、かつ第2実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に結合)の構成を有する実施例(実施例2-2)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図17Bは、実施例2-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
図18Aは、実施例2-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図18Bは、実施例2-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【0116】
実施例2-2に係る可変磁界検知部100aは、実施例2-1に係る可変磁界検知部100aとの対比で、非磁性部材41を有しない点で相違し、その他の構成は共通する。このため、実施例2-2に係る可変磁界検知部100aでは、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とが磁気的に結合している。それゆえ、
図17Aに示されるように、磁気状態変調部材20にX1向きに電流20cが流れる通電状態である第1状態では、磁気状態可変部材40にスピン軌道トルクが生じて磁気状態可変部材40の磁化40mがY2向きに強く揃うとともに、磁気状態可変部材40と磁気的に結合しているフリー磁性層13においても、磁化13mがY2向きに強く揃う。
【0117】
このため、測定磁束Φが磁気状態可変部材40に印加されても、
図17Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mはX方向に沿うように回転しにくい。すなわち、磁気状態可変部材40はX方向の実効的な透磁率μ1が低く、周囲の絶縁体50の透磁率μ0と同等となる。そして、実施例2-2では磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とは磁気的に結合しているため、フリー磁性層13もX方向の実効的な透磁率が低い。それゆえ、フリー磁性層13は、測定磁束Φを受けてもX1向きに磁化しにくく、可変磁界検知部100aにおける測定磁界Hの測定感度が低下した状態となる。
【0118】
一方、第2状態では、磁気状態変調部材20への電流20cの印加を停止して非通電状態とする。これにより、
図18Aに示されるように、磁気状態変調部材20による磁気状態可変部材40の磁化40mの向きの制御は行われなくなる。実施例2-2では、永久磁石などからなるバイアス磁界源21が磁気状態変調部材20に対してZ2側に積層されているため、バイアス磁界源21に基づき生じる磁界21mにより、磁気状態可変部材40の磁化40mはY2向きに揃えられているが、その程度は第1状態よりも弱い。このため、磁気状態可変部材40およびこれに磁気的に結合するフリー磁性層13の、第2状態におけるX方向の実効的な透磁率は、周囲の絶縁体50の透磁率μ0よりも高くなる。
【0119】
この状態で測定磁界Hが印加されると、
図18Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mは測定磁束Φに沿うように回転してX1向きとなり、これにより磁気状態可変部材40に集磁機能が生じて、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に集中する。ここで、磁気状態可変部材40はフリー磁性層13と磁気的に結合するため、磁気状態可変部材40の磁化40mの影響を受けて、第1状態(
図17B)よりも高い密度を有するX1向きの磁束がフリー磁性層13に到達する。
【0120】
このように、実施例2-2の第2状態では、測定磁界Hが印加されたときに、フリー磁性層13が第1状態よりもX1向きに強く磁化されるため、磁気検知素子10aの測定磁界Hの測定感度は第2状態の方が相対的に高くなる。それゆえ、磁界算出部4において第2出力から第1出力を差し引くことにより、1/fノイズが適切に除去された測定信号を得ることができる。
【0121】
なお、上記のタイプBの構成を備える実施例(実施例2-1、実施例2-2)ではバイアス磁界源21は永久磁石であったが、これに限定されない。バイアス磁界は交換結合に基づく磁界や通電コイルからの誘導磁界であってもよく、これらの磁界を与える部材がバイアス磁界源21となりうる。また、第1状態において磁気状態変調部材20に対してX1向きに通電したが、X2向きであってもよい。これにより磁気状態可変部材40の磁化40mはY1向きとなるが、この場合も、磁化40mは、X1向きの成分が大きい測定磁束Φを受けても回転しにくい。
【0122】
第2状態において磁気状態可変部材40に印加されるバイアス磁界は、Y2向きであったが、これに限定されない。磁気状態可変部材40が測定磁束Φにより磁化されやすい方向に磁化されていればよく、この観点からは、バイアス磁界の向きはXY面の面内方向にあることが好ましい場合がある。測定磁束ΦはX1向きの成分が最大であるから、ヒステリシスを低減する観点から、バイアス磁界はX方向に沿う、すなわち、X1向きまたはX2向きであることが好ましい場合がある。
【0123】
(実施例3-1)
図19Aは、可変磁界検知部がタイプC、かつ第1実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に非結合)の構成を有する実施例(実施例3-1)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図19Bは、実施例3-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
図20Aは、実施例3-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図20Bは、実施例3-1に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【0124】
実施例3-1に係る可変磁界検知部100aは、実施例1-1に係る可変磁界検知部100aと同様に、非磁性部材41を有し、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とが磁気的に結合していない。
【0125】
第1状態では、磁気状態変調部材20にY方向、具体的にはY1向きの電流20cを流して通電状態とする。電流印加によって、磁気状態変調部材20から磁気状態可変部材40へのスピン注入が行われることなどにより、実施例1-1と同様に磁気状態可変部材40にスピン軌道トルクが生じて、
図19Aに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mはZ1向きに強く揃う。
【0126】
このように磁気状態可変部材40が厚さ方向(Z方向)に揃うと、その磁化40mは容易には変化しない。このため、測定磁束Φが磁気状態可変部材40に印加されても、
図19Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mはX方向に沿うように回転しにくい。すなわち、磁気状態可変部材40はX方向の実効的な透磁率μ1が低く、周囲の絶縁体50の透磁率μ0と同等となる。それゆえ、磁気状態可変部材40は、磁気検知素子10aのフリー磁性層13に到達する測定磁束Φに影響を与えにくく、磁気検知素子10aでは、磁気状態可変部材40が存在しない(絶縁体50に置換された)場合と同様の磁気的環境で、測定磁束Φの測定が行われる。
【0127】
一方、第2状態では、磁気状態変調部材20への電流20cの印加を停止して非通電状態とする。これにより、
図20Aに示されるように、磁気状態変調部材20による磁気状態可変部材40の磁化40mの向きの制御は行われなくなる。実施例3-1では、磁気状態変調部材20が反強磁性体からなる。この磁気状態変調部材20の交換結合20afがバイアス磁界源として機能し、磁気状態可変部材40はY2向きに比較的弱く磁化する。このため、第2状態における磁気状態可変部材40は第1状態よりも容易にX方向に磁化可能であり、磁気状態可変部材40のX方向の実効的な透磁率μ2は、周囲の絶縁体50の透磁率μ0よりも高くなる。
【0128】
この状態で測定磁界Hが印加されると、
図20Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mは測定磁束Φに沿うように回転してX1向きとなり、これにより磁気状態可変部材40に集磁機能が生じて、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に集中する。その結果、磁気検知素子10aのフリー磁性層13に到達する測定磁束Φの密度が低下し、第1状態に比べて、可変磁界検知部100aにおける測定磁界Hの測定感度は低下する。
【0129】
このように、実施例3-1では、第1状態は第2状態よりも、測定磁束Φが磁気検知素子10aに到達しやすくなるため、磁界算出部4において第1出力から第2出力を差し引くことにより、1/fノイズが適切に除去された測定信号を得ることができる。
【0130】
(実施例3-2)
図21Aは、可変磁界検知部がタイプC、かつ第2実施形態(磁気状態可変部材40と磁気検知素子の感磁部とが磁気的に結合)の構成を有する実施例(実施例3-2)に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図21Bは、実施例3-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
図22Aは、実施例3-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加される前の状態を説明する図である。
図22Bは、実施例3-2に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第2状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【0131】
実施例3-2に係る可変磁界検知部100aは、実施例3-1に係る可変磁界検知部100aとの対比で、非磁性部材41を有しない点で相違し、その他の構成は共通する。このため、実施例3-2に係る可変磁界検知部100aでは、磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とが磁気的に結合している。それゆえ、
図21Aに示されるように、磁気状態変調部材20にX1向きの電流20cが流れる通電状態である第1状態では、磁気状態可変部材40にスピン軌道トルクが生じて磁気状態可変部材40の磁化40mがZ1向きに揃うとともに、磁気状態可変部材40と磁気的に結合しているフリー磁性層13においても、磁化13mがZ1向きに強く揃う。
【0132】
このため、測定磁束Φが磁気状態可変部材40に印加されても、
図21Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mはX方向に沿うように回転しにくい。すなわち、磁気状態可変部材40はX方向の実効的な透磁率μ1が低く、周囲の絶縁体50の透磁率μ0と同等となる。そして、実施例3-2では磁気状態可変部材40とフリー磁性層13とは磁気的に結合しているため、フリー磁性層13もX方向の実効的な透磁率が低い。それゆえ、フリー磁性層13は、測定磁束Φを受けてもX1向きに磁化しにくく、可変磁界検知部100aにおける測定磁界Hの測定感度が低下した状態となる。
【0133】
一方、第2状態では、磁気状態変調部材20への電流20cの印加を停止して非通電状態とする。これにより、
図22Aに示されるように、磁気状態変調部材20による磁気状態可変部材40の磁化40mの向きの制御は行われなくなる。実施例3-2では、磁気状態変調部材20が反強磁性体からなる部分を有し、この反強磁性体と磁気状態可変部材40との交換結合20afにより、磁気状態可変部材40の磁化40mはY2向きとなるが、磁化の程度は比較的弱い。そして、この磁気状態可変部材40の磁化に基づき、磁気状態可変部材40に磁気的に結合するフリー磁性層13の磁化13mもY2向きとなり、その磁化の程度は磁気状態可変部材40の磁化40mと同様に、比較的弱い。このため、第2状態における磁気状態可変部材40およびフリー磁性層13は、第1状態よりも容易にX方向に磁化可能である。すなわち、磁気状態可変部材40のX方向の実効的な透磁率μ2は、周囲の絶縁体50の透磁率μ0よりも高くなる。
【0134】
この状態で測定磁界Hが印加されると、
図22Bに示されるように、磁気状態可変部材40の磁化40mは測定磁束Φに沿うように回転してX1向きとなり、これにより磁気状態可変部材40に集磁機能が生じて、測定磁束Φは磁気状態可変部材40に集中する。ここで、フリー磁性層13は磁気状態可変部材40と磁気的に結合するため、磁気状態可変部材40の磁化40mの影響を受けて、第1状態(
図21B)よりも高い密度を有するX1向きの磁束がフリー磁性層13に到達する。
【0135】
このように、実施例3-2の第2状態では、測定磁界Hが印加されたときに、フリー磁性層13が第1状態よりもX1向きに強く磁化されるため、磁気検知素子10aの測定磁界Hの測定感度は第2状態の方が相対的に高くなる。それゆえ、磁界算出部4において第2出力から第1出力を差し引くことにより、1/fノイズが適切に除去された測定信号を得ることができる。
【0136】
なお、上記のタイプCの構成を備える実施例(実施例3-1、実施例3-2)では交換結合20afがバイアス磁界源となってバイアス磁界を付与したが、これに限定されない。バイアス磁界は永久磁石からの磁界や通電コイルからの誘導磁界であってもよく、これらの磁界を与える部材がバイアス磁界源21となりうる。また、第1状態において磁気状態変調部材20に対してY2向きに通電したが、Y1向きであってもよい。これにより磁気状態可変部材40の磁化40mはZ2向きとなるが、この場合も、磁化40mは、X1向きの成分が大きい測定磁束Φを受けても回転しにくい。
【0137】
第2状態において磁気状態可変部材40に印加されるバイアス磁界は、Y2向きであったが、これに限定されない。バイアス磁界により所定の向きに設定された磁気状態可変部材40の磁化40mが、磁気状態可変部材40が測定磁束Φを受けたときに、測定磁束Φの向きに沿うように回転しやすい方向であればよい。この観点からは、バイアス磁界はXY面の面内方向であることが好ましい場合がある。測定磁束ΦはX1向きの成分の向きが最大であるから、ヒステリシスを低減する観点から、バイアス磁界はX方向に沿う、すなわち、X1向きまたはX2向きであることが好ましい場合がある。
【0138】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0139】
上記の説明では、磁気制御体60における磁気状態可変部材40と磁気状態変調部材20との積層方向と、磁気検知素子10aと磁気制御体60との並び方向はいずれも第2方向であったが、これに限定されない。例えば磁気状態可変部材40と磁気状態変調部材20とは第1方向または第3方向に積層されていてもよい。また、磁気制御体60における磁気状態可変部材40と磁気状態変調部材20との境界はXY面に平行な平面であったが、これに限定されない。境界が作る面は、XY面に対して傾く部分を有していてもよい。そのような場合の具体例として、境界が平面であるがXY面に対して傾いている構成、境界が曲面である構成、境界が屈曲部を有している構成、境界が積層方向から見てパターンを形成している構成などが挙げられる。また、磁気状態変調部材20に電流を印加するための配線は、磁器検知素子の電気特性を測定するための配線の一部と共用されてもよく、そのようにすることによって回路全体の簡素化が実現される。
【0140】
さらに、上記の説明では、磁気状態変調部材20からのスピン軌道トルクにより磁気状態可変部材40の磁化40mが回転するが、これに限定されず、スピン移行トルクにより磁気状態可変部材40の磁化40mが回転してもよく、スピン軌道トルクとスピン移行トルクとの双方が磁気状態可変部材40の磁化40mの回転に寄与していてもよい。
【0141】
特に、磁気制御体60が、
図23に示されるように、磁気状態可変部材40の機能と磁気状態変調部材20の機能とを兼ね備える通電磁気状態可変部材601を有する場合には、通電磁気状態可変部材601に通電して電流601cを流すことによりスピン軌道トルクとスピン移行トルクとの双方が寄与して、通電磁気状態可変部材601の磁化601mが回転することがある。なお、
図23は、
図15Bに示される可変磁界検知部実施例2-1の変形例であり、変形例に係る磁気センサが備える可変磁界検知部(磁気状態可変部材の磁気状態は第1状態)に測定磁界が印加された状態を説明する図である。
【0142】
本発明は次の態様を含む。
(1)第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、を有する可変磁界検知部を備え、前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記第1状態または前記第2状態における前記磁気状態可変部材の磁化は、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合の影響を受けることを特徴とする磁気センサ。
(2)前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とに基づいて、前記測定磁界を算出する磁界算出部をさらに備える、上記(1)に記載の磁気センサ。
(3)前記第2状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ2は、前記第1状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ1よりも高く、かつ前記第1磁性体と前記磁気検知素子との間に位置する第1物質の前記第1方向の透磁率μ0よりも高い、上記(2)に記載の磁気センサ。
(4)前記可変磁界検知部は、前記磁気検知素子と前記磁気状態可変部材との間に非磁性部材を有し、前記磁気検知素子の感磁部は、前記磁気状態可変部材に対して磁気的に非結合である、上記(3)に記載の磁気センサ。
(5)前記磁気検知素子の感磁部は、前記磁気状態可変部材と磁気的に結合している、上記(3)に記載の磁気センサ。
(6)前記磁気検知素子と前記磁気状態可変部材とは、前記第1方向に直交する第2方向に並ぶ、上記(3)に記載の磁気センサ。
(7)前記磁気状態可変部材は、前記磁気検知素子の検知中心よりも、前記第1方向で前記第1磁性体に近位な部分を有する、上記(6)に記載の磁気センサ。
(8)前記磁気状態可変部材の前記第1方向の中央と、前記磁気検知素子の検知中心とは、前記第1方向において等しい位置にある、上記(6)に記載の磁気センサ。
(9)前記磁気状態可変部材の前記第1方向の長さは、前記磁気検知素子の前記第1方向の長さよりも長い、上記(8)に記載の磁気センサ。
(10)前記第1磁性体は、前記第1方向の長さが、前記第2方向の長さよりも長い、上記(6)に記載の磁気センサ。
(11)前記可変磁界検知部は、前記第1端部から見て、前記磁気検知素子よりも前記第1方向で遠位な第2磁性体をさらに備える、上記(1)に記載の磁気センサ。
(12)前記磁気状態可変部材は、前記第2状態において、前記第1磁性体および前記第2磁性体と磁気的に結合するように配置される、上記(11)に記載の磁気センサ。
(13)第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、を有する可変磁界検知部を備え、前記第2状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ2は、前記第1状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ1よりも高く、かつ前記第1磁性体と前記磁気検知素子との間に位置する第1物質の前記第1方向の透磁率μ0よりも高く、前記磁気状態変調部材と前記磁気状態可変部材とは前記第1方向に直交する第2方向に積層された磁気制御体を構成し、前記磁気制御体と前記磁気検知素子とは前記第2方向に並んで配置され、前記磁気状態変調部材は、通電時に前記磁気状態可変部材にスピン軌道トルクを付与するスピントルク生成部を有し、通電時の前記磁気状態可変部材の磁気状態は、前記スピントルク生成部からの前記スピン軌道トルクに基づき、非通電時の磁気状態と相違することを特徴とする磁気センサ。
(14)前記可変磁界検知部は、前記磁気状態変調部材が非通電状態であるときに、前記磁気状態可変部材を、前記測定磁界によって磁化が回転しない程度に前記第2方向に沿って磁化するバイアス磁界源を有し、前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁界により磁化が前記第1面の面内方向に回転可能な程度に、前記電流が流れる向きと反対向きに磁化する、上記(13)に記載の磁気センサ。
(15)前記第2状態において、前記磁気状態変調部材に流れる前記電流は、前記第1面の面内方向で前記第1方向に直交する第3方向に沿う、上記(14)に記載の磁気センサ。
(16)前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合が、前記バイアス磁界源となる、上記(14)に記載の磁気センサ。
(17)前記バイアス磁界源は、通電により誘導磁界を生じるコイルと、永久磁石との少なくとも1つを含む、上記(14)に記載の磁気センサ。
(18)前記バイアス磁界源は前記磁気制御体に積層される、上記(17)に記載の磁気センサ。
(19)前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第1方向に沿う電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記第1状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に磁化され、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第2状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により回転しにくく、前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第1状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向を向きやすい、上記(13)に記載の磁気センサ。
(20)前記可変磁界検知部は、前記磁気状態可変部材にバイアス磁界を付与するバイアス磁界源を有し、前記第2状態において前記磁気状態可変部材が受ける前記バイアス磁界は、前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に沿い、前記測定磁界に基づく磁束により前記磁気状態可変部材の磁化が回転可能な程度である、上記(19)に記載の磁気センサ。
(21)前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合が、前記バイアス磁界源となる、上記(20)に記載の磁気センサ。
(22)前記バイアス磁界源は、通電により誘導磁界を生じるコイルと、永久磁石との少なくとも1つを含む、上記(20)に記載の磁気センサ。
(23)前記バイアス磁界源は前記磁気制御体に積層される、上記(22)に記載の磁気センサ。
(24)前記バイアス磁界は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に沿う、上記(20)に記載の磁気センサ。
(25)前記磁気状態変調部材が通電状態であって前記第1方向に沿う電流が流れるときに、前記磁気状態可変部材は前記第1状態であり、前記第1状態において、前記磁気状態可変部材は、前記スピン軌道トルクを受けて、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向および前記第2方向に磁化され、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第2状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により回転しにくく、前記磁気状態変調部材が非通電状態のときに前記磁気状態可変部材は前記第2状態であり、前記第2状態において、前記磁気状態可変部材の磁化は、前記第1状態よりも、前記測定磁界に基づく磁束により前記第1方向を向きやすい、上記(13)に記載の磁気センサ。
(26)前記可変磁界検知部は、前記磁気状態可変部材にバイアス磁界を付与するバイアス磁界源を有し、前記第2状態において前記磁気状態可変部材が受ける前記バイアス磁界は、前記第2方向に沿う法線を有する第1面の面内方向に沿い、前記測定磁界に基づく磁束により前記磁気状態可変部材の磁化が回転可能な程度である、上記(25)に記載の磁気センサ。
(27)前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合が、前記バイアス磁界源となる、上記(26)に記載の磁気センサ。
(28)前記バイアス磁界源は、通電により誘導磁界を生じるコイルと、永久磁石との少なくとも1つを含む、上記(26)に記載の磁気センサ。
(29)前記バイアス磁界源は前記磁気制御体に積層される、上記(28)に記載の磁気センサ。
(30)前記バイアス磁界は、前記第1方向および前記第2方向に直交する第3方向に沿う、上記(26)に記載の磁気センサ。
(31)第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、を有する可変磁界検知部、および前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とから、前記測定磁界を算出する磁界算出部を備える磁気センサを用いた磁気測定方法であって、前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第1状態として前記第1出力を得る第1測定ステップと、前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第2状態として前記第2出力を得る第2測定ステップと、前記磁界算出部において前記第1出力と前記第2出力とから前記測定磁界を算出する磁界算出ステップと、を備え、前記磁気状態変調部材は反強磁性からなる反強磁性部を有し、前記第1状態または前記第2状態における前記磁気状態可変部材の磁化は、前記反強磁性部と前記磁気状態可変部材との交換結合の影響を受けることを特徴とする磁気測定方法。
(32)第1方向の測定磁界により磁化する第1磁性体と、前記第1磁性体の前記第1方向の一方側の端部である第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、前記第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子と、前記第1磁性体の前記第1端部よりも前記第1方向の前記一方側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材と、前記磁気状態可変部材の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材と、を有する可変磁界検知部、および前記磁気状態可変部材が前記第1状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第1出力と、前記磁気状態可変部材が前記第2状態にあるときの前記可変磁界検知部からの第2出力とから、前記測定磁界を算出する磁界算出部を備える磁気センサを用いた磁気測定方法であって、前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第1状態として前記第1出力を得る第1測定ステップと、前記測定磁界が印加されているときにおいて、前記磁気状態可変部材を前記第2状態として前記第2出力を得る第2測定ステップと、前記磁界算出部において前記第1出力と前記第2出力とから前記測定磁界を算出する磁界算出ステップと、を備え、前記第2状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ2は、前記第1状態にある前記磁気状態可変部材の前記第1方向の実効的な透磁率μ1よりも高く、かつ前記第1磁性体と前記磁気検知素子との間に位置する第1物質の前記第1方向の透磁率μ0よりも高く、前記磁気状態変調部材と前記磁気状態可変部材とは前記第1方向に直交する第2方向に積層された磁気制御体を構成し、前記磁気制御体と前記磁気検知素子とは前記第2方向に並んで配置され、前記磁気状態変調部材は、通電時に前記磁気状態可変部材にスピン軌道トルクを付与するスピントルク生成部を有し、通電時の前記磁気状態可変部材の磁気状態は、前記スピントルク生成部からの前記スピン軌道トルクに基づき、非通電時の磁気状態と相違することを特徴とする磁気測定方法。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明は、外部磁場を高感度で検出することができる、磁気分解能が高い磁気センサおよび磁気測定方法として有用である。
【符号の説明】
【0144】
1 :磁気センサ
2 :磁界検知部
3 :制御用電源
4 :磁界算出部
5 :アンプ
6 :A/D変換回路
7 :制御部
10P :検知中心
10a、10b、10c、10d :磁気検知素子
11 :固定磁性層
11m、13m、40m、601m :磁化
12 :中間層
13 :フリー磁性層
15 :フルブリッジ回路
20 :磁気状態変調部材
20af :交換結合
20c、601c :電流
21 :バイアス磁界源
21m :磁界
31 :第1磁性体
32 :第2磁性体
40 :磁気状態可変部材
41 :非磁性部材
50 :絶縁体
60 :磁気制御体
601 :通電磁気状態可変部材
100a、100b、100c、100d :可変磁界検知部
311 :第1端部
GND :グランド端子
H :測定磁界
V1、V2 :出力端子
Vdd :電源端子
Φ :測定磁束
【要約】
【課題】小さな磁界を高精度で測定することができる、磁気センサおよび磁気測定方法の提供を目的とする。
【解決手段】第1方向(X方向)の測定磁界により磁化する第1磁性体31と、第1磁性体31の第1方向の一方側(X1側)の端部である第1端部311よりもX1側に位置し、第1方向に沿う感度軸を有する磁気検知素子10aと、第1磁性体31の第1端部311よりもX1側に位置し、実効的な透磁率と磁化の向きとの少なくとも1つを含む磁気状態が相違する第1状態と第2状態とを取り得る磁気状態可変部材40と、磁気状態可変部材40の磁気状態を変化させる磁気状態変調部材20と、を有する可変磁界検知部100aを備え、磁気状態変調部材20は反強磁性からなる反強磁性部を有し、第1状態または第2状態における磁気状態可変部材40の磁化は、反強磁性部と磁気状態可変部材40との交換結合の影響を受ける磁気センサ1。
【選択図】
図1